顎関節症

顎関節症は線維筋痛症と同じように以前から気になっていました。それは、不定愁訴を追っていくと顎関節症は一つの可能性として、よく登場してくるためです。また、何となくモヤモヤした印象を持っていたのですが、考えてみると、それは歯科医なのか整形外科医なのかどちらが診る疾患なのかよく分からないというのが理由だったように思います。

検索してみると、顎関節症の書籍は思ったほど多くなく、選んだのは『噛み締めの謎を解く!』という本でした。これはタイトルに付随して、“歯科医が解明した姿勢の歪み・発症のメカニズム”という見出しが気になったためです。

なお、今回は顎関節症の概要や現状を把握すること、鍼灸治療に反映できるものを見つけることが目標です。

ブログは目次の中の黒字の項目をご紹介していますが、「はじめに」は冒頭のみです。内容は要点と感じた個所の要約と、そのまま抜き出した引用(『』で括っています)とが混在しています。 

著者:尾﨑 勇
噛み締めの謎を解く!

著者:尾﨑勇

出版:現代書林

発行:2017年5月

 

はじめに

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第1項 あなたの噛み締め度チェック

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

①正しい姿勢とはどのような姿勢? 良い噛み合わせとは?

②姿勢を保つ反射の働き

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

④“あご”が小さくなると頭の位置がずれる?

⑤押し上げ回転と押し下げ回転

⑥7つの姿勢分類と噛み締め型

⑦身体を正面から見た時の姿勢の歪みについて

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

③なぜ口が開かない? 目安は40ミリ

④開口時に起こる関節音(クリック音)

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

●顎関節が痛い

●あごにひっかかり感がある

●噛むと歯が痛い

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

●「緊張性頭痛」の治療方針

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

●“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

●細い眼、眼が乾く、三白眼、左右の眼の大きさの違い

②耳の症状

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

●舌のもつれ・発音障害

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

④鼻の症状

●蓄膿症との関係

⑤首のコリ・首が回らない

●首が回らない症状

⑥指先のちりちり感

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

⑧腕が上がりにくく、肩に痛みが起こる(四十肩・五十肩)

⑨自律神経失調症ほか

⑩睡眠時無呼吸症候群と噛み締め

●睡眠時の無呼吸と噛み締めのメカニズム

●無呼吸を招きやすい仰向け寝

●横向き寝で気道を確保する

●呼吸がしやすいうつ伏せ寝

第4項 クリニックでの実際の症例

①症例1 顔が下を向いてしまった男子中学生の患者さん

②症例2 顔が左右非対称だった30代女性の患者さん

第3章 自宅で症状の改善を図るために

第1項 自分の身体の現状をチェック…触診とあごの位置

第2項 マッサージとストレッチを行う

①立っている姿勢で首のストレッチ

②寝転がって肩と骨盤の高さを整える

③日常の生活習慣を変えていく

④片頭痛と緊張性頭痛の対処法

⑤顎関節症・口周辺の対処法

第3項 具体的な運動療法と訓練

①骨盤を押し下げ回転にする運動療法

②股関節、膝、足の不調の対処法

●足のマメ、足の裏の痛み

③舌の訓練

おわりに 

はじめに

あごの関節が痛くて口が開かない、顎関節にひっかかり感があり口が開けにくい、口を開けたり閉じたりすると「カックン」または「ポン」と音がする、下あごを自由に動かすことができない、噛みにくい、噛む筋肉が痛い……。

このような症状を顎関節症と言います。顎関節症はいつも強く噛み締めている状態、慢性的な「噛み締め」が原因で起こります。しかしなぜ「噛み締め」が起きるのか、本人も知らず知らずに「噛み締め」を続けてしまう状態がどのようなメカニズムで起きるのか、実は歯科界の最大の謎となっています。そして「噛み締め」が原因で顎関節症を患った患者さんの多くが、首や肩に頑固なコリなどの症状を訴え、「頭痛がする」、「手足がしびれる」、「精神的な落ち込みがひどい」などの全身的な症状を訴えます。

これまでの長年の治療で、「噛み合わせ」の治療を終えて顎関節の痛みが消え、口が正常に開くようになると、患者さんが訴えていた首のコリも消え、慢性的に感じていた苦痛に改善がみられることがわかってきました。こうした経験から噛み合わせが身体全体に及ぼす影響を無視できないと考え、「噛み締め」がなぜ起こるのか、そのメカニズムを解き明かす研究に20年以上取り組んできました。』

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

②姿勢を保つ反射の働き

・重い指令塔を身体のてっぺんに載せて2本足で立つというとても不安定な構造であるが、視覚や聴覚、あちこちの関節に加わる力や反射などさまざまな感覚や機能をフル稼働させてバランスをとり姿勢を保持している。

・「反射」は姿勢を維持するために特に重要な役割を担う。頭が傾いた時、頭を支える首の筋肉が緊張したり弛緩したりして、頭の傾きを修整する。

・反射は複数あるが、とくに「姿勢反射」は、噛み合わせと深く関連している。身体が揺らぎながら良い姿勢を維持できるエリアを青くし、これを超えてバランスを崩したり倒れたりするエリアを赤く塗ると図3のようなイメージになる。

・『青ゾーンでは、頭は傾くことなく平衡を保ちながら身体が揺らいでいます。そしてこの範囲で身体が揺らぐときは、上下の歯は接触することなく安静位空隙が保たれていると考えます。安静位空隙とは車のハンドルの遊びのようなものです。この“遊びの空間”が確保されているために、上あごから筋肉という紐で吊るされたような構造の下あごも、身体の揺れに合わせて一緒にブランコのように揺れることができます。下あごは身体の動きを感知するセンサーの役割を果たし、姿勢を制御しているというのが、本書の核心になります。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

 

反射
反射

画像出展:「柔整ホットニュース

上から2段目の、”延髄・橋に関する反射”の右カッコ内に書かれた“緊張性迷路反射”は、耳石器官が関り頭部を調整します。一方、“緊張性頚反射”は頚部の伸張度に応じて四肢の緊張を変化させるもので、非対称性と対称性に分けられますが、いずれも生後4週間から8週間に最も顕著に見られ、原始反射と呼ばれています。

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

あごの痛みを訴えて診察に来る患者さんは、ほとんど身体に歪みがあって姿勢が崩れています。そして首や肩、腰などに痛みを抱えています。患者さんの姿勢は、いったいいつ、どのようにして崩れてしまうのでしょうか?

その発端は、私は“口元”にあると考えています。口を開けたり閉じたり、話したり、食べ物を飲み込んだりする一連の動きは絶妙なタイミングで調和しています。ちょっとでもずれるとしゃべっているときにつばが飛び散りやすかったり、食べ物が口からこぼれやすかったり、頬っぺたや唇の裏側を噛んでしまい、その傷がもとで口内炎になったりします。そして口周辺と身体の筋肉はつながっているため、患者さんの口元で始まった歪みが、筋肉を伝わって全身に波及していくことがわかってきました。

●口元に起きた異常が全身に波及する流れ

1.食べものの咀嚼や飲み込み、話をしたり息をしたりするときに使う噛む筋肉、舌の筋肉、喉の筋肉などは、口やあご周辺で独立しているのではなく、それぞれが連携し調和しながら動き、首や肩、胸の筋肉とつながり、全身の動きとつながっている。

2.口やあごなど口元に異常が起きると、食べ物を飲み込んだり、話をしたり、とくに呼吸する機能に支障が出る。

3.生命の維持に重要な呼吸機能を守るため、司令塔(=頭部)は台車(=首から下の身体)に、「口とつながっている筋肉に力を入れて引っ張ったり、伸ばしたりして、呼吸が楽にできるようにしろ!」と命令する。あごや頭部の位置をずらしながら、呼吸が楽になる姿勢を見つけると、たとえ頭の位置が身体の重心からずれていたとしても、その状態をキープ7するよう命令する。このため口元や首周辺の筋肉は、常に力が入った状態で固定化する。(図7)  

呼吸が楽な姿勢を見つけ、維持する。
呼吸が楽な姿勢を見つけ、維持する。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

4.口元や首の筋肉が常に緊張・収縮すると、その筋肉につながっている胸、背中の筋肉、それにつながっている腰、臀部の筋肉へと緊張が全身に伝わっていく。身体の筋肉の力が抜けていて、筋肉が緊張と弛緩を繰り返しながら頭が落ちないようにバランスをとる正常な姿勢から、常に筋肉がこわばっている状態に身体が変化し、身体のゆらぎが失われて姿勢が固定化する。

5.筋肉の緊張が定常化した箇所で、コリや痛みが発生する。こうして口元の異常が全身のコリや痛みなどの不定愁訴につながっていく。 

『このような流れで口元の異常が全身に及んでいます。逆にこうした流れで生じた頭痛や肩こりなどの不定愁訴は、口元の異常を治せば解消するというのが私の治療方針になります。』

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

顎関節症は原因の究明も治療法も確立しておらず、顎関節症の治療を行っても健康保険の対象となる部分は少ない。そのため収入につながらない。これが立ち遅れている一因でもある。

・顎の関節が痛い、口が開かない、口の開け閉めで音がする、顎や舌が動かしづらい、顎に引っ掛かり感がある、これらは顎関節症の症状である。これらの原因は主に「噛み締め」状態が長期間、絶え間なく続くためである。

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

男女の身体の使い方の違いに原因があると考えている。

・特にスカートやハイヒールをはいた時など、多くの女性は綺麗な姿勢を意識するため、骨盤は強い押し上げ回転となる。一方、女性はあごの発育が小さく口の中が狭いため、気道を広げるために頭は押し下げ回転傾向にある。つまり、骨盤と頭の回転はいつも逆向きとなり、腰椎や頚椎に歪みを発生させる。そして、それが「噛み締め⇒顎関節症」につながる。 

腰椎や頚椎の歪みの原因
腰椎や頚椎の歪みの原因

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

左は、顎は押し下げ傾向にあるにもかかわらず、意図的に骨盤を押し上げるケース。右は、骨盤が押し下げ傾向にあるにもかかわらず、噛み締めのために顎を引いているケース。これらの無理な姿勢が繰り返されて、腰椎や頚椎に歪み(赤曲線)がうまれていく。

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

・傾いた頭は姿勢反射によって平衡状態に戻されるが、気道確保などの理由で姿勢反射が働かず、首が曲がったままの状態が続くと、首にスイッチがある頸反射が働き続け、顔を上げ下げする筋肉が収縮する。また、首の筋肉に連動して噛む筋肉が緊張し続け、本人が気づかないうちに「噛み締め」がおきる。 

●顎関節が痛い

・低い冠やブリッジ、低い義歯の装着、奥歯を抜いたままの放置などによって、奥歯の高さが低くなると、噛み締めの力は、本来は受け止めるべき奥歯ではなく、下あごの顎関節頭と関節円板で受けとることになる。顎関節頭は円板の後方にずれ落ち、噛み締める力は顎関節頭から直接、鰐関節窩に伝わり、圧迫し、傷つけ、噛むたびに顎関節が痛む。 

顎関節の構造です。この画像は大阪市にある「MDC(モリサキデンタルクリニック)」さまから拝借しました。

 

●あごにひっかかり感がある

・口を開ける時に感じる“あごの引っかかり感”は、顎関節頭が関節円板の後方に滑り落ちている状態で起きる。大きく口を開ける時に顎関節頭は前方に滑走するが、関節円板が移動を妨げると、“あごがひっかかるような”感じを覚える。

口を開け閉めした時の様子です。この画像は函館市の「みはら歯科矯正クリニック」さまから拝借しました。

 

 

●噛むと歯が痛い

・しっかりと嚙合わせる事ができないと訴える人は、上下の歯を接触させながら前後左右に下顎をスライドできない。正しい噛み合わせは、上下の歯列に噛む力が均等に伝わる。噛み締めの圧力が偏り続けると圧力よって歯槽骨と歯の間にある歯根膜を圧迫して炎症を起こし痛みがおこる。この状態を早期接触による咬合痛という。

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

・歯ぎしりは大学や研究機関においても未だに、原因が突き止められていない。

・身体の歪みが解消されない状態が続くと、身体に起こった筋肉の緊張状態を解放するため、無意識に左右の噛む筋肉を交互に緊張させていると考えている。

・歯ぎしりは通常は60~80㎏の噛み締めの力が、ライオンや虎と同じ200~250㎏に及ぶ人もいる。

・歯ぎしりが続くと咬耗や歯周病の進行を止めることは難しい。

・歯ぎしりは蓄積したストレスを発散させ、全身の硬直状態を緩和する行為かもしれない。しかし、度が過ぎた噛み締めや歯ぎしりは治療が必要になる。

・噛み締めや歯ぎしりは、全身の筋肉の緊張と密接に関係している。口元の噛み合わせの治療だけでは改善が望めない場合、運動療法によって身体が硬直しないよう、正しい身体の使い方を身につける必要がある。

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

・噛み締めは、どちらか片方に偏っている人がほとんどである。そして、来院される患者さんの9割ほどは左である。なお、原因は諸説あり明確なことは分からない。

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

噛み合わせの歪みは必ず首に伝わり、その痛みが首から上に向かう場合は頭痛など頭部を中心とした痛み(不定愁訴)を引き起こす。一方、首から下に向かう場合は、肩、背中、腰などを中心とした痛みを引き起こす。

・顎関節症で、慢性的な頭痛をもっている患者さんはほとんど成人だったが、最近では小学生など年齢や性別に関わらず、頭痛に悩む患者さんが増えてきた。

・日本人の3人に1人が慢性的な反復性頭痛をもち、寝込んでしまうほどの痛みを経験した人が34%、国民の約1割は頭痛により日常生活に支障があるという報告もある。

・慢性頭痛は緊張性頭痛と片頭痛が代表的。前者は人口の約8%、後者は約20~30%といわれている。

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

・「緊張性頭痛」は、奥歯の噛み合わせの高さが十分ではなく、気道を確保するために頭を押し下げ回転がかかる傾向の強い人が、職場のストレスなどで身体中の筋肉を緊張させた時に、とくに強い筋力を持つ背中の筋肉が収縮して骨盤を押し上げ回転させてしまうことで、引き起こされていると考えている。

・頭と骨盤が逆向きに回転し、腰椎や頚椎に生じた歪みが発端となって全身に起きる不定愁訴のうちの一つの症状ととらえている。

腰椎、頸椎の歪みと緊張性頭痛
腰椎、頸椎の歪みと緊張性頭痛

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

緊張性頭痛に関して、特に左のケースが重要なようです。

画像出展:「Therapist Circle

“背中の筋肉”は脊柱起立筋群と呼ばれており、姿勢を維持する“抗重力筋”に該当します。

 抗重力筋には筋紡錘が多いためにうっ血しやすい

抗重力筋には筋紡錘(筋肉の長さを認識するための受容器[センサー])が多いという特徴があります。こちらの記事は「インナーマッスル腹筋でシェイプアップ!!」さまのものです。

筋紡錘と交感神経
筋紡錘と交感神経

画像出展:「鍼灸は効くのか、なぜ効くのかの10講」(全日本鍼灸学会)(PDF4枚)

筋紡錘には交感神経が入ってきているため、ストレスに反応しやすく血管を収縮、血流を悪化させ筋肉を硬くします。

 

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

・片頭痛は片側あるいは両方のこめかみから眼のあたりにかけて、脈を打つように「ズキン、ズキン」と痛むのが特徴である。痛みは4時間~72時間ほど続く。女性は男性の約3倍、比較的若い層(10~40代)に起こる。

・片頭痛は血管性頭痛とも呼ばれ、脳や頭の血管が収縮していた状態から急激に拡張したりする時に、心臓の拍動と同じリズムで痛みが起きる。

“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

・噛み締めと鱗状縫合の働きが密接にかかわっていると考えている。ストレスの多い生活によって強い噛み締め状態が長時間続き、噛む筋肉が収縮して硬直している状態が長く続くと、鱗状縫合は閉じたままの状態が続く。ストレスから解放されると、全身の筋肉が弛緩して噛み締めや食いしばりからも解放され、噛み締めによって長期間閉じていた側頭部にある鱗状縫合が突然開き、鱗状縫合に接していた血管の周囲は急激に減圧となって、血管が膨らんだり周囲にひっぱられ、血管を取り巻く神経は引きちぎられて傷つき、拍動を伴った激しい頭痛が発現する。

・『ストレスから開放されたことでセロトニンの消失による血管の膨張と、噛み締めの解消による鱗状縫合の弛緩という、身体の中でただ一ヵ所、2つの膨張要素が重なって三叉神経の損傷が起きるため、こめかみにだけ痛みが出現するというのが私の考えです。この考えについては、今後、脳外科や整形外科、耳鼻科の先生たちとともに検証を進めていきたいと考えています。

まだ私の研究が初期のころ、スプリント装置の装着や、冠を被せる噛み合わせの治療を施して急に「噛み締め」を解放させたときに、患者さんに激しい片頭痛が起きて治療を中断する事が何度もありました。』

鱗状縫合は側頭部中央付近の側頭骨と頭頂骨の間にある縫合です。この画像は兵庫県西宮市の「まつうら歯科クリニック」さまから拝借しました。

 

 

こちらの図は「三叉神経痛.Com」さまから拝借しました。

 

 

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

・片頭痛とともに眼の奥に激しい痛みを感じることがある。眼窩の骨は下あごの外側にある咬筋と側頭筋、そして下あごの内側にある翼突筋と結びついている。翼突筋は下あごを前方に押し出す働きがあり、左側に「噛み締め」がある時は、左の咬筋と側頭筋が収縮して下あごを左奥に引っ張り、下あごは左側に移動する。一方、右側の翼突筋も収縮し、足場としている眼の裏側にある骨を歪ませる。そのために左に噛み締めがある人は、右の眼の奥に痛みが起こると考えられる。

こちらの図は「PROTECT GUM」さまから拝借しました。

②耳の症状

・耳の痛みや難聴等の耳の症状は、噛み締めにより、顎関節頭が額関節窩後壁を直接圧迫し、薄い骨で隔てた外耳道を圧迫するために起こる。

・応急措置としては硬直した噛む筋肉をマッサージするのが効果的だが、本格的な治療は噛み合わせを支える奥歯の高さを回復させる歯科治療が必要になる。

・耳鳴りに関しては、顎関節治療によって消えた患者さんもいれば、続いている患者さんもあり、顎関節症との関係ははっきりしていない。

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

・顎関節症は「身体と噛み合わせの役割」をよく理解していないと、治すのは容易ではなく、かえって症状を悪化させてしまう場合もある。

・特に問題が多いのは、顎が小さい患者さんの歯並びを矯正する時に、歯が並ぶスペースをつくるために、噛み合わせにとって最も重要な小臼歯を抜歯(便宜抜歯)することである。

●舌のもつれ・発音障害

・低い噛み合わせを急に高くすると、口の中が広がることにより、舌の位置が定まらず発音や嚥下機能に障害が起きたり、さまざまな違和感があらわれたりすることがある。

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

・噛み締め状態が続くと、筋肉の硬直のために血流が悪化し、唾液腺の働きが弱まり口の中が乾き、唾液による自浄作用の低下により細菌が滞り、口臭などの原因にもなる。また、血流の問題は舌痛や舌のしびれを起こすこともある。

舌に歯の圧痕がつく症状は慢性的な「噛み締め」によるものである。 

顎関節症:舌の外側に歯の圧痕
顎関節症:舌の外側に歯の圧痕

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

顎関節症が疑われる時に、舌の外側に歯の圧痕を確認することは良い方法だと思います。

④鼻の症状

・アレルギー性鼻炎などの耳鼻科的疾患がないにもかかわらず、鼻で息がしにくいと感じる状態は、口の中に舌が収まるスペースが不足しているために舌が喉に落ち込んで、軟口蓋が押し上げられている状態が考えられる。

⑤首のコリ・首が回らない

・噛む筋肉と首の筋肉は連動している。「片寄った噛み癖」、「片寄った噛み締め」がある人は、首の動きが悪い、首こりがある、疲れてくると首が痛い、首をマッサージすると激しい痛みがあるなど、首を中心とした症状を訴える。このような患者さんは、首の後方、第1~第3頸椎周囲がほとんど硬直している。強く押すと神経に触ったかのような激しい痛みを訴える。そしてこの痛みは、噛み合わせの治療を施すと消える。

⑥指先のちりちり感

・指先がチリチリと痺れ、フライパンなどがしっかりもてない症状は、頸椎5、6、7番目の後方から腕の指に神経が出ているが、この部位の筋肉が長期に渡って硬直し、血流が悪くなって疲労性老廃物が蓄積した状態になると、指先にしびれたような感覚が起こる。

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

・噛む筋肉の収縮により、左肩が上がり[左側を強く噛み続けると]、相対的に右肩が下がる。左肩は背中側に引っ張られ、右肩は下がりながら身体の前側に引っ張られ、左右の肩の高さに違いが生まれる。さらに骨盤は左側が下がり、右骨盤は上がって右膝は伸びてロック状態になる。

噛み締めによる肩、骨盤の歪み
噛み締めによる肩、骨盤の歪み

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

上記で紹介されているケースは左の図のAEになります。

⑨自律神経失調症ほか

・噛み締めがあり身体の筋肉が収縮し続けているような人は、筋肉の緊張状態が続き、交感神経が優位に働いて身体を休める事ができなくなる。

・頸反射は睡眠中であっても身体の筋肉を収縮させているために交感神経を興奮させ、なかなか寝つかれない身体の状況を作り、眠りを浅くし、睡眠不足のために疲れが溜まり常にイライラする。

・首には自律神経が通っており、首の筋肉が緊張し続ける事で正常な自律神経の働きを乱す可能性も考えられる。

・頸反射によって首の筋肉の収縮が後頭部周囲の頸椎に集中すると、頸椎に沿うようにして脳に血液を送っている椎骨動脈が圧迫される。脳に血液を送らなければならない時、高血圧を引き起こす可能性が考えられる。

まとめ(鍼灸治療で考えること)

1.顎関節症は長期に渡る過度なストレスが関係している。

2.鍼灸治療の対象は筋肉と自律神経系である。

●筋肉を緩める

・局所…側頭筋、咬筋、外側翼突筋

・全身…後頚部、腰背部、腹部(腸腰筋など)

●自律神経系を調整する

・本治…脈診から判断したツボおよび“全身調整穴”による施術

・特効穴…内ネーブル4点(長野式で用いられているツボ。お臍の際に4ヵ所雀啄+置鍼。花粉症で使われる)※ブログ”花粉症と自律神経”の最後の付記に説明があります。

付記:日本顎関節学会(さいたま市)

色々検索しているときに、「日本顎関節学会」という学会を見つけました。

このサイトには“専門医・指導医一覧”というページがあります。埼玉県は専門医がさいたま市に一つ、指導医が春日部市に一つありました。

さいたま市の場所は北区宮原町です。

専門医は部長の鈴木茂先生になります。