Part4 心房期外収縮
25 変行伝導は大事か?
□期外収縮は心臓のどこからでも生じるので、心房期外収縮(PAC)と接合部期外収縮を厳密に区別できない。そこで、ひとまとめにして上室性期外収縮(SVPC)と呼ぶこともある。
□PACに機能的な脚ブロックが生じるとQRS幅が拡大して、心室期外収縮(PVC)と間違いやすくなる。PACの変更伝導は右脚ブロックが多い。
26 治療するかどうか、誰が決めるか
Key Point
1)心房期外収縮(PAC)の薬物治療の適応は患者が決める。
27 使いたい抗不整脈薬と、使ってもいい抗不整脈薬
Key Point
1)心房期外収縮(PAC)にどの抗不整脈薬が有効なのか、確立されたエビデンスはない。
□心房期外収縮(PAC)の治療に選択しやすい経口薬剤は、
●ピルジカイニド(サンリズム):お勧め度4。『「とりあえずコレで」と使われる。』
●アプリンジン(アスペノン):お勧め度4。『おとなしい感じがある。』
□使いなれていたり、心エコーなどで心機能を含めた評価が十分に行われていたら使用できるし、効果も期待できるのは、
●ジソピラミド(リスモダン):お勧め度2。『知名度高いので。』
●シベンゾリン(シベノール):お勧め度2。『使用経験があるのなら。』
●ピルメノール(ピメノール):お勧め度2。『PACに試したことはないが、たぶん効く。』
●フレカイニド(タンボコール):お勧め度3。『著効することあるが、ちょっと大物すぎる。』
□使ってもよいが、それほど効果はないのが、
●ベラパミル(ワソラン):お勧め度2。『心房細動と似たようなPAC頻発ならレートコントロールとして使う状況はある。』
□有効であっても使わないのは、
●ソタロール(ソタコール):お勧め度1。『さすがにはばかる。』
●アミオダロン(アンカロン):お勧め度1。『大砲は使えません。』
Part5 心室期外収縮(PVC)
33 心室期外収縮(PVC)が“治療対象でない”とはどういう意味か?
Key Point
1)PVCそのものを治療対象として捉えるのではなく、「PVCの波形から心筋障害や病的再分極異常を察する」と考える。
34 頻発する心室期外収縮(PVC)は心不全を招くか?
□心筋障害とは何かというと、多くは加齢に伴う心室筋の変性。もちろん陳旧性心筋梗塞、拡張型心筋症、高血圧性心筋肥大なども背景になる。
39 Case:流出路起源の心室期外収縮(PVC)
□2~3日の服用で薬物の効果を評価できる。有効でない薬剤なら1週間を超えて服用させる意味はない。
40 連発の多い心室期外収縮(PVC)
□β遮断薬やベラパミルが適応となる。約半数、あるいはそれ以上の有効性が期待される。
Part6 発作性上室頻拍(PSVT)
42 頻拍の呼び方
□心房粗動、心房頻拍、発作性上室頻拍の定義は曖昧さが残り、同じ不整脈でも人によって呼び方が異なることがある。
43 発作性上室頻拍(PSVT)は2種類と割り切る
Key Point
1)PSVT(発作性上室頻拍)のメカニズムとして、AVRT(房室性回帰性頻拍)とAVNRT(房室結節エントリー性頻拍)の2つを理解する。
Part7 心房粗動
56 通常型と非通常型
□心房粗動は規則正しい鋸歯状の心房波がみられるものをいう。粗動波ともいう。
□心房細動と心房粗動ともに認めれることは稀でなく、区別が難しい場合も多い。心房細粗動という用語もある。
□上室性の不整脈としてはありふれたもので、器質的心疾患がなくても発生する。加齢や器質的心疾患により頻度は高くなる。
57 抗不整脈薬で心房粗動を治療できるか?
Key Point
1)心房粗動の薬物治療で最も大事なことは、抗不整脈薬の有用性が低いこと。
□慢性期の心房粗動の治療には高周波によるカテーテルアブレーションが有効。
□急性期でも慢性期でも、無理に洞調律化を狙わないことが心房粗動の薬物治療の原則。とりあえずレートコントロール[リズムは心房細動のままで、心拍数を薬剤でコントロールする]さえできれば、長期にわたって大丈夫。
58 ダメモトで抗不整脈薬による洞調律化を狙いたいとき
□心房粗動に気の利いた薬物治療がないというのは大事な知識。しいて言えば、Ⅲ群薬のニフェカラントが検討に値する。
Part8 心房細動
59 忘れられていた肺静脈
□以前は、心房細動(AF)の一部のみが肺静脈起源と思われていたが、器質的心疾患の有無によらず発作性心房細動(PAF)の94%において肺静脈が関与しているという報告もある。
Key Point
1)発作性心房細動はしばしば肺静脈の反復性興奮による。
アブレーションによる肺静脈隔離
□肺静脈は左房開口部から1cm内外に心筋組織を有している。肺静脈と左房との電気的連絡は開口部の全周に及ぶのではなく、数本の線維を経由する。肺静脈の電気的隔離とは、この肺静脈と左房との連絡を断ち切って、肺静脈における反復性興奮が心房へと伝わらないようにすることである。
□カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離は、左房と肺静脈をつなぐ筋線維を高周波通電により念入りに遮断する手技として始まった。しかし、複数の肺静脈が頻拍起源となることや、上下の肺静脈の間にも電気的な連絡があることがわかってきた。これらの知見と手技的な簡便さもあって、最近は左房の広範な線状焼灼により遠巻きに肺静脈開口部を隔離する方法を選択する施設が多い。
持続性心房細動と肺静脈との関係は、
□肺静脈以外にも上大静脈や心房のどこかが高頻度の興奮を生じて心房細動を引き起こすことがある。肺静脈とそれ以外の組織の両方にフォーカスが存在することもある。
60 AFはAFを招く(AF begets AF)
□AF begets AFとは、「心房細動の発生それ自体が次の心房細動出現を促進する」という意味。
Key Point
1)心房細動が持続あるいは頻発するとき、速やかに対処しないとこじれやすい。長期に続いた心房細動は左房の拡大や組織学的な変性を招く。こうした変化は同時に心房細動をいっそう治療抵抗性とする。
61 基礎疾患のある発作性心房細動(PAF)
□心房細動(AF)は器質的心疾患のない患者にもしばしば出現するが、原因があれば根本から対処する。以下は関連の強さ。
●弁膜症:『心雑音がなくても弁膜症はある。』
●心不全:『心房細動と心不全、どちらが先か簡単にはわからない。』
●洞不全症候群[心臓のペースメーカーの異常で心拍数が低下する病気]:『ありふれている。』
●甲状腺機能亢進症:『わかっているのに見落とす』
●肥大心筋症:『1/4に心房細動ありとか。』
●高血圧心疾患:『これがクセモノ。底に流れている。』
●肺高血圧:『それほど経験はない。』
●虚血性心疾患/急性心筋梗塞
●心膜炎
□多くの抗不整脈薬は陰性変力作用を有するので、心エコーによる心機能の評価なしの投薬には限界がある。心房細動を見たら心エコーは必須。
□急性期を過ぎれば、心筋梗塞では、アミオダロンなど一部の抗不整脈薬を除き、抗不整脈薬の予後改善効果は大きな期待ができないばかりか、ときに予後を悪化させる。急性心筋梗塞による入院後にアミオダロンを処方された患者と無投薬の症例では、短期的も長期的には予後の差は認められていない。
62 急性心筋梗塞と心房細動
□心筋梗塞では心不全が先行している心房細動が多い。
65 なぜ抗凝固療法?
□血栓塞栓症の予防は心房細動の治療において大きな位置を占める。血栓は冠動脈のような高圧系では血小板血栓、心房のような低圧系ではフィブリン血栓になる。
□冠動脈内での血栓形成には血管内皮の損傷からvon Willebrand因子の関与する血小板の血管との相互作用を経て、血小板血栓が作られる。
□減速の低下した心房細動の心房では凝固系の活性化が進み、トロンビンの形成からフィブリン形成という一連のカスケードが促進される。
Key Point
1)冠動脈疾患⇒高圧系の血栓(血小板血栓)⇒抗血小板薬
2)心房細動の血栓⇒低圧系の血栓(フィブリン血栓)⇒抗凝固療法(ワーファリン)
□左房の中でも左心耳は、一種の憩室として血液のうっ滞がはなはだしい。拡大した左房では、ことに流速の低下や乱流がからんで血栓が形成されやすい。また、左心耳の内側膜は凹凸が多く、袋状の構造もあった血栓形成には都合が良い。
□フィブリン血栓には凝固因子Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹは還元型ビタミンKによって活性化される。ワーファリンはビタミンKの還元型への移行を司る還元酵素を阻害し、フィブリン血栓の形成を抑制する。
新しいトロンビン阻害薬
□トロンビン阻害薬という薬剤(ダビガトラン)はワーファリンに代わる新たな抗凝固療法の薬として期待されている。
※ご参考:”似て非なる抗凝固薬 直接トロンビン阻害剤の特徴”
75 顕性WPW症候群(偽性心室頻拍)の心房細動
□WPW症候群[ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群:心房と心室の間に電気刺激を伝える余分な伝導路(副伝導路)が生まれつきあることで発生する病気]では、若年でも心房細動が出現しやすい。1/3という数値も報告されている。
□WPW症候群に合併した心房細動は偽性心室頻拍と呼ばれ、心房の興奮が副伝導路を介して心室に伝わり心室細胞を起こすこともあるため注意が必要。
Part9 wide QRS tachycardia
91 器質的心疾患を背景にしたVT
□VT(心室頻拍)の基質となる心疾患は、おおむね陳旧性心筋梗塞である。
□陳旧性心筋梗塞(OMI)の心室頻拍は突然死を生じるが、薬物治療には限界があり、ICD(植込み型除細動器)の出番が多い。
□これまでの大規模臨床試験や周囲の専門家からの示唆に基づいたルールは、
●Ⅰa群薬とⅠc群薬は予後を悪化させる。ことに心機能障害や虚血性心疾患を有する患者では断定的である。
●Ⅰb群薬については知見が乏しい。しかし、陳旧性心筋梗塞の患者に不整脈薬の有無を考慮せずにメキシチールを投与した研究では、心室性期外収縮(PVC)数は減少傾向を示したものの、死亡率は高めになっていた。
●慢性期は原則としてアミオダロンで治療する。
●β遮断薬やレニン-アンジオテンシン系に作用する薬剤を併用している方が予後が良い。禁忌でなければ使う。
92 経口アミオダロンを陳旧性心筋梗塞や不整脈原性右室心筋症のVT/VFに使う
□アミオダロンは基本的に不整脈薬専門医によって処方される。適応を判断することが難しい。
□アミオダロンの副作用[吐き気、肺機能障害、甲状腺機能異常、角膜色素沈着、視覚障害など]は、多めに投与すればしばしば出現する。
□甲状腺と肺への副作用を考慮して、アミオダロンを使用する前に甲状腺ホルモンと一酸化炭素拡散能(DLco)を測定する。肺の間質性変化はCTで確認する。
□アミオダロンは効果が出てくるまで時間がかかる。
□アミオダロンにはβ遮断薬作用があるが、心不全があればカルベジロールの併用が行われる可能性が高い。
□抗不整脈薬の効果は確実性が低いため、ICD装着したうえで作動頻度を下げるためにアミオダロンを併用する。
Part11 洞不全症候群
99 徐脈と頻脈のウラに薬あり
□徐脈や頻脈は薬剤によって起こることも稀ではない。気管支拡張薬などの交感神経活動を刺激するものは分かりやすいが、閉塞性動脈硬化症や脳梗塞などの治療薬のシロスタゾール(プレタール)でも洞頻脈を生じる。
□抗うつ薬による頻脈も多い。
□薬剤性徐脈
●β遮断薬やベラパミルの投与量、服用のあやまり、患者自身の刺激伝導系の障害や薬物代謝機能の低下による徐脈。
●徐脈を生じるリスクのある薬剤であることを認識せず、徐脈基質を有する患者に投与された場合。
□日常臨床では、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ジルチアゼムとベラパミル)、ジギタリスによる徐脈が多い。これらの薬剤を併用したときには、その頻度も高くなる。