腹膜透析と腎移植1

透析に入られている患者さまは今のところお一人ですが、今後、懸念される患者さまもおいでです。その患者さまから“腹膜透析”のお話を伺いました。正直、全く認識がなかったため、「こんな大事なことも知らないのでは話にならない」と痛感しました。

また、“腎移植”をされた患者さまも来院されており、腎移植についても知らないといけないと思い、この2つについて学べる本を探しました。それが、今回の『よくわかる 最新医学 透析療法 腹膜透析・血液透析・腎移植』でした。今まで、腎臓に関する本はそれなりに読んできているのですが、新たな発見も多く、大変勉強になりました。

透析療法
透析療法

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

目次

はじめに

序章 透析療法と腎移植

●腎臓のはたらきがわるくなったときに行う透析療法ってどんな治療法?

●腎移植には生体腎移植と献腎移植がありごく普通の生活を送れることがメリットです

●透析療法や腎移植が必要になるのはどんな人? どのくらい腎臓のはたらきが低下したら行うの?

コラム 透析療法と腎移植の歴史

第1章 腎臓ってどんな臓器?―腎臓の構造とはたらき

●腎臓は腰よりも少し上のところに左右1個ずつあり形はそら豆に似ています

●体の水分(体液)や食塩の量を一定に保ち老廃物を尿として体外に捨てることが主な仕事で

●腎臓で尿をつくっているのは「ネフロン」です ネフロンにある糸球体で血液をろ過しています

●尿細管と集合管では、再吸収と分泌というしくみで体液量と食塩量を調整しています

●体液量と食塩量を感知するセンサーは遠位尿細管にあります

●腎臓は血圧を調節することで体液と血液中の食塩濃度を保っています

●糸球体のフィルターで老廃物を除去 血液をきれいな状態に保っています

●赤血球を増やすホルモンを分泌し 骨を丈夫にするビタミンをつくっています

●腎臓は酸・アルカリバランスを調整し 血液を弱アルカリ性に保っています

●食塩のとりすぎと肥満が腎臓を傷つけ 腎機能を低下させます

コラム 加齢と腎機能

第2章 腎臓の病気の基礎知識

●糖尿病、腎炎、高血圧が原因で 腎障害と腎機能低下をきたすCKDとは

●腎代替療法導入の原因疾患 ①糖尿病腎症 高血糖の影響で糸球体がダメージを受けます

●腎代替療法導入の原因疾患 ②慢性糸球体腎炎 腎機能がかなり低下してから気づくこともあります

●腎代替療法導入の原因疾患 ③腎硬化症 高血圧が原因で起こる腎臓の動脈硬化です

●慢性腎不全の治療 ①保存期腎不全 原因疾患の治療、食事法、薬物療法が3本柱

●慢性腎不全の治療 ②末期腎不全 腎機能低下が止まらず 腎代替療法が必要になります

コラム 透析療法と心のケア

第3章 腎臓病の検査と診

●たんぱく尿の程度を調べる尿検査は治療の効果を判断するためにも必須です

●血液中の老廃物の量を検査 貧血など合併症も血液検査で判断します

●腎機能検査は、糸球体のろ過能力を調べるものと尿細管の能力を調べるものがあります

●腎臓の萎縮、結石、尿路異常を調べる画像検査、慢性糸球体腎炎の治療法を決める腎生検など

●CKDで腎機能が低下することによりさまざまな合併症が出現します

コラム 高齢者の腹膜透析

第4章 透析療法の実際を知ろう―腹膜透析と血液透析

PD

●腹膜透析(PD)は、「拡散」と「浸透」により 老廃物や余分な体液を取り除きます

●透析液の(注液と排液)はおなかに挿入した腹膜カテーテルで行います

●バッグ交換を行うCAPDと夜間に機械で行うAPDがあります

●腹膜カテーテルをおなかに入れる手術は腹膜透析導入入院で行います

●残っている腎機能を良好に保つための考え方「腹膜透析(PD)ファースト」とは

●腹膜透析をトラブルなく続けるためには 体液管理と感染予防がとくに大切です

●腹膜透析の合併症としては心血管合併症と感染の予防が大切です

●腹膜透析と血液透析を併用する方法は腹膜の劣化を抑える効果が期待できます

HD

●血液透析(HD)は「ダイアライザ」で血液を浄化する透析方法です

●血液透析は1回4~5時間の透析を週3回通院して行うのが標準的です

●「ドライウェイト」を基準に除水量を調節 食事制限が良好な体液管理につながります

●血液透析の人に特有の合併症について理解しておきましょう

●食事療法は食塩制限とたんぱく質・エネルギーの適切な摂取が基本です

●良質なたんぱく質とエネルギーの適切な摂取でやせすぎや全身の衰弱を防ぎましょう

●心身が衰えるフレイルを有酸素運動で予防し「最大酸素摂取量」を増やしましょう

コラム 透析療法の人に必要な薬

第5章 腎移植は末期腎不全治療の第一選択

●末期腎不全を根本的に治す腎移植は提供された腎臓をおなかに移植します

●腎移植の件数は徐々に増加し先行的腎移植も増えています

●腎移植までの準備期間にメリットとデメリットを理解しましょう

●腎移植後は合併症の予防が大切です 免疫抑制薬は生涯飲み続けます

●移植した腎臓を長持ちさせ健康に長生きするためには自己管理が必須です

コラム 腎移植後に飲む免疫抑制薬

第6章 自分に合う治療法を選び、自分らしく生きる

●どんな生活をしたいかで最適な治療法は変わります 準備期間に「腎不全ライフ」について考えましょう

●最適な治療法を選ぶためには 医療者との「意思決定の共有」が必要です

●慢性腎不全は「チーム医療」が大切 さまざまな職種が患者さんを支えます

●透析療法、腎移植の患者さんは医療費の助成を受けられます

●災害時の備えはしっかりと病院は透析メーカーとの連絡手段も明確に

コラム 高齢者のエンド・オブ・ライフ・ケア

序章 透析療法と腎移植

腎臓のはたらきがわるくなったときに行う透析療法ってどんな治療法?

・透析療法は、「腹膜透析」と「血液透析」の2つがある

腹膜透析は自分の腹膜を使う。腹膜は胃や腸、肝臓などの内臓の表面を広く覆っており、毛細血管が豊富である。そのため、腹膜の中に透析液を入れておくと、血液中の余分な、水分や食塩、老廃物が透析液中に移動していく。数時間したら汚れた透析液を捨て、新しい透析液に交換する。これを繰り返すことで連続的に透析を行うことができる。

・腹膜透析は自宅で行なえるため、自分の生活パターンに合わせて透析できることが大きなメリットである。

・現在、日本では約33万人が透析を行っており、腹膜透析は2.7%である。

血液透析と腹膜透析の違い
血液透析と腹膜透析の違い

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

腎移植には生体腎移植と献腎移植があり、ごく普通の生活を送れることがメリットです

・腎移植のメリットは、末期腎不全の状態から保存期腎不全の状態までに回復させられることである。

・腎移植には「生体腎移植」と「献腎移植」がある。

「生体腎移植」は夫婦間を含む親族から腎臓提供をうけるもの。一方、「献腎移植」は亡くなった人から提供してもらうもの。

-献腎移植は日本臓器移植ネットワーク(JOTNW)に登録し、腎臓の提供者があらわれたときに、登録者の中から基準に従って候補者が選ばれるものである。

-腎移植後は拒絶反応を防ぐために免疫抑制薬を飲み続けなければならないこと。免疫抑制の影響で感染症に罹りやすくなる等の短所はあるが、末期腎不全の第一選択とされている。

腎移植とは
腎移植とは

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

コラム 透析療法と腎移植の歴史

・透析療法は1920年代に始まった。

・自動腹膜透析は1960年代前半に登場し、持続携帯式腹膜透析(CAPD)は1978年に考案された。

日本に持続携帯式腹膜透析(CAPD)が導入されたのは1980年、健康保険の適用は1984年だった。

・日本で血液透析が行えるようになったのは1967年。

日本で最初に腎移植が行われたのは1956年。腎移植が末期腎不全治療の選択肢となったのは、1981年にシクロスポリンという免疫抑制薬が使えるようになってからである。

第1章 腎臓ってどんな臓器?―腎臓の構造とはたらき

体の水分(体液)や食塩の量を一定に保ち老廃物を尿として体外に捨てることが主な仕事です

・『糸球体は、1つの腎臓に約100万個あります。健康な腎臓の場合、その全部がいつも働いているわけではなく、一部は休み、余力を備えています。そのために、片方の腎臓を失ったときには、残った腎臓の休んでいた糸球体がはたらくようになり、純分に役割を果たせるのです。』

食塩のとりすぎと肥満が腎臓を傷つけ 腎機能を低下させます

・肥満は食塩に対する感受性を高めるため、高血圧を促進させるおそれがある。

・アンジオテンシノーゲンは血圧上昇の原因となるアンジオテンシンの元になる物質である。このアンジオテンシノーゲンは肝臓だけでなく、内臓脂肪の脂肪細胞からも多く分泌されるため、肥満は血圧上昇につながる。

コラム 加齢と腎機能

腎臓は40歳代前半で重さ・大きさは最大になり、その後は少しずつ萎縮していく。萎縮の原因は腎臓に血液を送り込む動脈が加齢とともに狭くなるためである。

・海外の研究では、40歳を超えると毎年1ml/分/1.73㎡ずつ低下するとされているが、日本人の場合は、機能低下は欧米人の3分の1程度と考えられている。

糸球体のろ過能力の低下は個人差があり、30歳代から低下が始まる人もいれば、40歳を過ぎても変わらない人もいる。また、糸球体だけでなく尿細管の機能も低下していく。

第2章 腎臓の病気の基礎知識

糖尿病、腎炎、高血圧が原因で 腎障害と腎機能低下をきたすCKDとは

・CKD(慢性腎臓病)は糖尿病や高血圧などの生活習慣病が関わっていることが多く、腎臓の生活習慣病ともいわれる。

CKDの原因
CKDの原因

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

腎代替療法導入の原因疾患 ①糖尿病腎症 高血糖の影響で糸球体がダメージを受けます

・日本では約334,500人(2017年末)が透析療法を受けているが、最も多いのが糖尿病腎症である。

高血糖の状態が長く続くと、糸球体の血管周囲の総合組織であるメサンギウムという細胞が増加し、これが糸球体を破壊してろ過機能を低下させる。また、たんぱく質のろ過を防ぐための機能が壊れることで、粒子の小さいたんぱく質であるアルブミンが漏れ出し(アルブミン尿)、進行するとたんぱく尿となる。

たんぱく尿まで進むと、たんぱく質自体が腎臓を傷つけるという悪循環が始まり、血圧もさらに上昇し、加速度的に腎症が進行していく。

高血糖が続くと糸球体が破壊される
高血糖が続くと糸球体が破壊される

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

腎代替療法導入の原因疾患 ②慢性糸球体腎炎 腎機能がかなり低下してから気づくこともあります

・慢性糸球体腎炎の原因は様々である。膠原病に続いて発症したり、急性糸球体腎炎が治らないまま、慢性糸球体腎炎になる場合もあるが、多くは異常な免疫反応によって発症する。

・IgA腎症は異物が体内に侵入したときに増えるIgA(免疫グロブリンA)というたんぱく質が、糸球体にくっつくことで起こる炎症が原因です。

腎代替療法導入の原因疾患 ③腎硬化症 高血圧が原因で起こる腎臓の動脈硬化です

動脈硬化により腎臓への血流が慢性的に低下すると、腎臓は萎縮し腎硬化症となる。さらに進行すると腎臓全体が萎縮し、慢性腎不全が重症化する。

・腎硬化症は透析療法を受けている原因疾患の第3位である。

・腎硬化症ではたんぱく尿や血尿はごくわずかのため発見が難しい。治療で最も大切なのは高血圧の改善である。

第3章 腎臓病の検査と診断

たんぱく尿の程度を調べる尿検査は治療の効果を判断するためにも必須です

・糖尿病や高血圧の人は、腎障害の初期から、アルブミンというたんぱく質の主成分が尿に混ざるため尿アルブミンを検査する。

血液中の老廃物の量を検査 貧血など合併症も血液検査で判断します

・腎機能低下の指標となる老廃物には、クレアチニン、尿素窒素、尿酸がある。

-クレアチニン:筋肉で作られるクレアチンの最終代謝物(老廃物)。大半が体外に捨てられる。筋肉量が多い人は高くなる傾向がある。腎機能低下により徐々に高くなる。

-尿素窒素:食物中のたんぱく質の最終代謝物。約50%は尿細管で再吸収され、残りが捨てられる。腎機能低下により徐々に高くなる。

-尿酸:核酸が分解されるときにできるプリン体の最終代謝物。糸球体で90~98%がろ過された後、尿細管で再吸収される。捨てられるのは10%ほどである。尿酸値が上がるのは腎機能がかなり低下してからである。

・腎機能が低下すると、エリスロポエチン(赤血球をつくるホルモン)の分泌量が減り、腎性貧血になる。赤血球数、ヘモグロビン(血色素)濃度、ヘマトクリット値(血液に占める赤血球の割合)が貧血の程度を判断する重要な検査項目である。

・ナトリウムやカリウムなどの電解質、カルシウムやリンといったミネラルなども腎機能低下によりこれらのバランスがくずれ、高カリウム血症などを発症するため注意を要する。この他、高血糖、脂質異常症に関する項目も調べる。

腎障害・腎機能低下を調べる血液検査
腎障害・腎機能低下を調べる血液検査

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

CKDで腎機能が低下することによりさまざまな合併症が出現します

・合併症は6つに大別される。予防と早期発見が大切

①尿を濃縮する能力が低下し、多尿や夜間尿がみられる。

②老廃物が体内にたまり、高窒素血症になって食欲不振や吐き気があらわれる。

③体液が増えてむくんだり、カリウム排泄が悪くなって高カリウム血症になる。

④体液が酸性に傾く。

⑤貧血になる。

⑥ビタミンDの活性化ができなくなり、カルシウムとリンのバランスが崩れて骨がもろくなる。

CKDの合併症
CKDの合併症

著者:石橋由孝

発行:2020年1月

出版:主婦の友社

コラム 高齢者の腹膜透析

体に負担の少ない腹膜透析が合っていることも、家族がサポートできないときは訪問看護の利用を

『高齢の患者さんの場合、腹膜透析と血液透析のどちらかを選ぶかは、家族にとって悩ましい問題でしょう。腹膜透析は、自分でバッグ交換や出口部ケアを行うため、視力や指先の感覚などが衰えた高齢者には難しいことや、高齢者は日中通院する時間があるという理由で、血液透析が選択されることも多いようです。しかし、高齢者にも「腹膜透析(PD)ファースト」の考え方があてはまります。

腹膜透析は、毎日連続的に行うゆるやかな透析なので、体への負担が比較的軽く、循環などの機能が低下した高齢者の体にやさしいことが理由のひとつです。

また、腹膜透析は残存腎機能を保ちやすいため、最後まで腹膜透析を続けられる可能性が十分にあります。

家族が同居しているけれども仕事などでサポートできない、あるいはひとり暮らしという場合は、訪問看護ステーションの助けを借りることができます。たとえば、朝のバッグ交換は家族が仕事に出かける前に行い、日中は訪問看護師が1~2回訪問して交換。夜間は、自動腹膜透析(APD)を行うようにすれば、無理なく腹膜透析を導入できます。ひとり暮らしの場合は、朝と夜も訪問看護ステーションの助けを借りることになります。

相談先は、現在通院している病院の患者相談窓口、あるいは地域包括支援センターです。地域包括支援センターとは、介護・医療・福祉などの多方面から高齢者と家族を支える総合相談窓口で、地域住民なら誰でも利用できます。市区町村村役場の高齢者福祉窓口で、市区町村役場の高齢者福祉窓口に問い合わせると、最寄りの地域包括支援センターを案内してもらえます。

腹膜透析と血液透析を併用する「PD+HD併用療法」を選択し、血液透析の翌日は透析をお休みするという方法も考えられます。

高齢者の透析療法こそ、腹膜透析と血液透析のメリット・デメリットを十分に考えて選びましょう。