今回も前回に続き、NHKスペシャル「人体」取材班編集による、「神秘の巨大ネットワーク 人体4」からになります。「第7集 “健康長寿” 究極の挑戦」の概要を紹介している文章には、次のようなことが書かれています。
『これらの病気[がん・心臓病・脳卒中]に立ち向かうために、いま、全く新しい治療戦略が開発されようとしている。カギを握るのは、人体の中で臓器同士や細胞同士が繰り広げている会話、いわば人体の「情報ネットワーク」という視点である。“健康寿命”をかなえるための究極の挑戦がいま、始まっている。』
日本人の三大疾病とされる、「がん」「心臓病」「脳卒中」に対し、“エクソソーム”は「がん」と「心臓病」の治療にも関わっているようです(前者は“エクソソームを標的としたがん治療”、後者は“エクソソームから心筋細胞を再生”というタイトルで紹介されています)
“エクソソーム”という言葉は知っていましたが、重要性はもちろん、どんなものかも理解できていませんでした。そこで、がんとエクソソームの関係性を勉強しながら、エクソソームのことも知ろうと思いました。
編集:NHKスペシャル「人体」取材班
出版:東京書籍(株)
発行:2018年8月
目次
第6集 “生命誕生”見えた!母と子ミクロの会話
Part1 新たな命が発信する最初のメッセージ
●新たな命が始まる瞬間を追う
●まず迎える、着床という妊娠の最難関門
●子から母への最初のメッセージ
●妊娠検査にも利用されるhCG
Part2 人体をつくる驚異の仕組み
●“ドミノ式全自動プログラム”
●万能細胞が開いた神秘の扉
●最初に生まれる臓器は、心臓
●心臓の次は、肝臓
●さまざまなメッセージが連鎖して作用する
●ぐんぐん成長する赤ちゃん
※万能細胞が切り拓く新しい世界
Part3 胎盤の中で繰り広げられる母と子のやりとり
●10か月で驚きの成長を遂げる赤ちゃん
●母と子をつなぐ命綱
●胎盤の中で繰り広げられる驚異の共同作業
●1つ1つのメッセージを専用装置でやりとり
●そして、誕生
※もう1つの生命誕生物語
Part4 生命誕生の解明が医療の未来を切り拓く
●原因不明の難病に苦しむ女の子
●肝臓移植の代わりになる再生医療
●何になるべきかを知っていた細胞
●生命誕生に学ぶ未来の医療
●“ミクロの会話”がもたらす希望の光
※臓器づくりに欠かせない細胞同士の会話
第7集 “健康長寿” 究極の挑戦
Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ
●日本人の死因第1位のがん
●何度取り除いても発症するがん
●映像が捉えたがん細胞の増殖
●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み
●特殊なメッセージ物質、エクソソーム
●それはメッセージの宝箱だった
●宝箱を悪用するがん細胞
●免疫細胞も手なずけるがん細胞
●エクソソームががんの転移のカギを握る
●転移のための環境を整えるがん細胞
●体内のエクソソームは100兆個以上
Part2 「がん」との戦いの最前線
●がん治療の新時代
●13種類のがんの早期診断を目指す
●運動ががん治療につながる
●エクソソームを標的としたがん治療
●光と免疫でがんを攻撃
●牛乳からがんの治療薬も……?
Part3 不可能に挑む! 次世代の心臓再生医療
●いったん傷ついた心臓はもとに戻らない
●心臓の中のメッセージ物質
●エクソソームから心筋細胞を再生
●メッセージ物質を使った治療のメリット
●iPS細胞を使った心臓の再生医療
Part4 神秘の巨大ネットワーク
●人体の解明へさらなる挑戦は続く
●臓器同士をつなぐ情報ネットワーク
●全身の免疫力を司る腸
●骨が若さを生み出す
●幹細胞から骨をつくり「健康寿命」を延ばす
●人体探求の“たすきリレー”は次世代へ
特集:人体ART
第7集 “健康長寿” 究極の挑戦
Part1 「がん」が送り出す恐ろしいメッセージ
●がん細胞が血管を引き寄せる仕組み
・がん細胞も正常な細胞と同じように、血管新生を引き起こすために様々なメッセージ物質を利用しているが、VEGF(血管内皮増殖因子)もその一つで、VEGFは細胞や組織に酸素が足りなくなると増加し、血管を作る細胞に働きかけて血管新生を促す。
・がん細胞は大量のVEGFを放出し、それを受け取った血管はがん細胞に向けて新たな血管を伸ばし始める。その血管から栄養を得て、がん細胞は増殖する。
●特殊なメッセージ物質、エクソソーム
画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」
『皮膚のがん細胞の電子顕微鏡写真。表面から次々と白い光が放たれる。その光の中にがん細胞のメッセージ物質が潜んでいる』
画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」
『この白く輝く光が、がん細胞から放たれのメッセージカプセル「エクソソーム」』
画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」
『電子顕微鏡が捉えたエクソソーム。大きさはおよそ1万分の1mm』
・『エクソソームは1980年代に発見された構造体で、当時は細胞にとって不要な“ゴミ箱”のような存在だと考えられた。いまのように詳しい解析手法がなく、調べても老廃物しか見つからなかったからだ。そのため、長い間、あまり注目されることがなかったのだが、2007年になって状況が一変した。内包しているのはRNAという遺伝物質だと分かったからだ。研究は一気に進むようになり、いまでは、さまざまな細胞がエクソソームを細胞外に放出していること、放出されたエクソソームが血液、唾液、尿、羊水などを介して体内を巡り、離れた細胞や組織に情報を伝令していることなどが分かっている。
さらに驚くべきことに、がん細胞もまた情報のやりとりにエクソソームを使っていることが分かってきた。「エクソソームはまだ十分に解明されているとはいえず、謎も多く残されています。近い将来、エクソソームによってこれまでの常識を覆すような組織や臓器同士の会話が明らかになるでしょう」。ぺへテル博士[がん細胞から放出されたエクソソームの撮影に世界で初めて成功した]映像はそう語る。』
●それはメッセージの宝箱だった
・エクソソーム内にはマイクロRNAが含まれている。マイクロとはmRNA(メッセンジャーRNA)が1000塩基を超えるのに対し、マイクロRNAの塩基は約22塩基と約1/50と非常に短いためである。マイクロRNAが発見されたのは1993年、そして2007年にはマイクロRNAはエクソソームに包まれて細胞外へ放出されることが明らかになった。細胞外に出たマイクロRNAはエクソソームというカプセルに内包された状態で血流などに乗り、遠く離れた組織や臓器に運ばれ、そこでの遺伝子の働き方を調節する役割を担っていることが分かった。
・エクソソームの中のマイクロRNAは、受け取る細胞を根幹から変えることができる。
●宝箱を悪用するがん細胞
・エクソソームと病気との関連は特に注目されている。細胞は常にエクソソームを分泌しているが、病気になるとその分泌量や種類が変化することが分かっている。このエクソソームの特徴は病気の診断や治療に活かせるかもしれない。
・『がん細胞は、エクソソーム内に特定のマイクロRNAを詰め込み、メッセージ物質として血管へと送り出す。血管に到達したエクソソームは、血管を構成する血管内皮細胞の中へと潜り込み、カプセル内のマイクロRNAを放出する。そのマイクロRNAには「もっと栄養が欲しい」という、がん細胞からのメッセージが込められている。するとメッセージを受け取った血管内皮細胞は、正常な細胞からのメッセージと勘違いして、がん細胞に向かって新たな血管を伸ばし始めるというのだ。なお、VEGFとエクソソームのどちらがより大きな役割を果たすのか、といったことはいまも解明が進められている。』
●免疫細胞も手なずけるがん細胞
・がん細胞は敵であるはずの免疫細胞を味方にする術を持っている。
・『がん細胞が攻撃しようと迫ってくる免疫細胞に対し、がん細胞はエクソソームの中にメッセージを詰め込んで送り届ける。そのメッセージは、いわば「攻撃するのをやめて」というもの。すると、免疫細胞はがん細胞を味方だと勘違いして瞬く間にてなずけられ、攻撃をやめてしまうというのだ。がん細胞は、私たちの体内にある大切なネットワークを知り尽くし、そのシステムを乗っ取るかのようにして、増殖を繰り返していると考えられる。』
画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」
『がん細胞に近づいた免疫細胞(上)は、がん細胞に食らいつき、攻撃物質(赤色)を発射して退治しようとする(下)』
画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」
『がん細胞からのメッセージ物質によって、”ある働きかけ”を受けた免疫細胞は、がん細胞を味方だと勘違いして攻撃をやめてしまう。このとき、がん細胞が駆使しているのがエクソソームだ』
●エクソソームががんの転移のカギを握る
・がんの最も恐ろしい特徴である「転移」の過程でも、がん細胞が巧みにエクソソームを操っていることが分かってきた。
●転移のための環境を整えるがん細胞
・がんは自分の分身としてエクソソームの分泌し、目的の臓器に先遣隊として送り届け、転移のための環境を整える。
・エクソソームには体のバリア機能を破壊し、破綻させるという機能があると考えられる。
・エクソソームの表面には、届け先を特定する“荷札”のようなものがつけられていて、目的とする特定の細胞に取り込まれる仕組みがあるらしい。
・脳には血液脳関門という強固なバリアがあるが、エクソソームがどのようにして突破するのかという疑問も少しずつ分かってきている。
●体内のエクソソームは100兆個以上
・人体の全ての細胞はエクソソームを出しており、血液などのさまざまな体液中でその存在が確認されている。
・血液中の100兆個以上のエクソソームが流れていると推定されている。
・エクソソームは受精や発生においても重要な役割を担っていることが分かってきた。
・受精時の卵子はエクソソームを膜の表面上に放出することで、膜を保護するとともに精子が侵入する際に精子の膜と融合しやすくするという役割を果たしている。
・母乳にもエクソソームが含まれていることが分かっている。こうしたエクソソーム内に含まれるマイクロRNAには、病原体などの異物を攻撃する免疫細胞を活性化し、未成熟な乳児の免疫力を高めていると考えられている。
・近年、腸と腸内細菌もエクソソームを用いてメッセージをやりとりしていることが分かってきた。
・『内包するマイクロRNAを臨機応変に変えることで、生命を維持するための多様な情報のやりとりを可能にし、人体という巨大な情報ネットワークを形づくるために働くエクソソーム。いま、世界中の研究者が、エクソソームの情報を解き明かすことで病気の診断や治療に生かそうと努力を重ねている。』
画像出展:「神秘の巨大ネットワーク 人体4」
『がんがどのように増殖し、さまざまな臓器に転移していくのかはまだ完全には解明されていない。しかし、エクソソームなどのメッセージ物質の解明によって、新たなメカニズムが見出されつつある。』
ご参考:エクソソームに関するサイト
”エクソソームは細胞からのメッセージ!?”
”エクソソームとmiRNA(マイクロRNA)”
”「細胞間のメッセンジャー!エクソソームって何だ?」”
こちらは動画です。