メタボや美容への関心から、「脂肪を筋肉に変えるような器械(例えばSIXPAD)」はダイエットに有効なのか?」というご質問を頂くことがあります。私の場合、ダイエットという事ではなかったのですが、左膝の手術後、大腿四頭筋の一つである内側広筋の筋力が右足に比べ細く、筋力を付けることが難しい状態になっています。たまにサッカーをすることを考えると、怪我の予防のためにも筋を太く、筋力アップさせたいという気持ちはありましたので、この機会に調べてみることにしました。
電気刺激によって筋肉を鍛える器械のことを、一般的にEMS(Electrical Muscle
Stimulation)、あるいは、EMS運動法と呼んでいます。これをキーワードにネットで調べたところ、2000年9月に発行された「何をやってもとれなかった体脂肪がとれる!! ~寝ながらできるEMS運動法~」という本を見つけました。
ネットショップで格安だったこともあり、迷わず購入しました。内容は筋肉が強く(太く)なる理由や、EMSのメカニズムなども説明されており、私が知りたい内容は十分に含まれていました。
今回のブログでは、EMS運動法は何に有効で、利用にあたりどんな事に注意する必要があるのか等についてご紹介したいと思います。
ご注意頂きたいのは、16年以上前の本のため内容は最新ではないという点です。
この本で紹介されている製品は、現在の製品機能とは違っていると思います。なお、ここで紹介されているのは、ツウィンバード社の製品です。
このブログに登場している画像は、「体脂肪がとれる‼」(健友館)からのものです。
EMS運動法とは
・外からの電流刺激で他動的に筋肉を動かし、脂肪を燃やし筋肉を強化する。
・医療機関での活用が最初。医療機関向けは大型で300万円以上していた。
・電流を流している筋肉に対してのみ、レジスタンストレーニング(筋の収縮と弛緩を繰り返す)がなされる。
歴史
・1960年代にヨーロッパで開発された手法
・1972年のミュンヘンオリンピックで、旧ソ連の選手が筋肉増強に効果を出して世界の注目を浴びた。
使い方 注)この本に出てくる器械はツウィンビート社のものです。
・対象の筋肉に対して、1日1回30分前後の電気を流すことが基本。
・10種類のプログラムの中から選択する。
脳からの命令に代わる電気信号
・歩いたり、走ったり、あるいは筋トレするといった意識的に運動させる命令は、大脳がコントロ
ールしていますが、その命令に電気信号はとって代わることができます。これにより、脳を他の
ことに使ったり、あるいは休ませている状態で、筋肉に負荷を掛けることにより、鍛えることが
できます。
脳を介さないので、使用に際しては十分な注意が必要です。
普通の運動とEMS運動法との違い
自発的運動の利点
・1つの運動でたくさんの筋肉を動かすことができる。
EMS運動の利点
・特定の筋肉を早く強く大きくすることができる(脂肪を早く取る)。
・脳が関与する必要がないので、本人の意志に関係なく筋肉を運動させることができる。
・脳卒中などで運動神経を動かす司令が出せない状態でも、電気を流すことによって骨格筋を動かすことができる。これにより筋肉の衰えを防ぐためのリハビリをすることができる。
EMS運動法の特徴
・EMS運動では自発運動による筋力の約1.5倍の運動を引き出すことができます。これは脳が筋肉を痛めることがないように力を制限させているからです。これは車の速度制限をしている「リミッター」を外した状態と同じです。
※下の右のグラフは電圧と筋力の関係を表しています。脳がコントロールする最大筋力は約30Vになりますが、EMS運動療法では軽くオーバーさせることができます。これは、いわゆる「火事場のバカ力」を自由に発揮させることができるということを意味しますので、すごい効果であると同時に筋肉を傷める恐れがあります。
EMS運動法の注意点(個人的な意見、感想です)
・筋肉を保護するリミッターがなく、かつ厳しいトレーニングに負けない強い意志もいらず、筋肉を収縮させ、鍛え続けられるということは、強い負荷を長い時間行うことは絶対にやってはいけません。
・例えば、傷害によって周りの筋肉に比べ劣っている筋肉に対し、EMS運動療法を使ってリハビリすることは有効であると思いますが、健康な状態、それなりに筋肉のバランスが取れている状況で、一部の筋肉だけを強くしたときに、良くも悪くも筋肉群のバランスは崩れることになるため、何か不都合なことが起きる可能性はあるかもしれません。
・EMS運動療法は特定の筋肉を強くするのが目的で、結果的に脂肪が減るということだと思います。また、筋肉は代謝を高める効果がありますが、脂肪より重たいという面もあるため、体重が顕著に減っていくというのは難しいように思います。
筋が強くなる(太くなる)メカニズム
・筋肉に強い負荷をかけると、筋肉線維は損傷を受け炎症を起こします。この損傷が回復する時に、成長ホルモンとタンパク質によって、より強い、より太い筋肉が作られます。筋肉の炎症は、ひどい場合は痛みとなって現れます。激しい運動をした翌日、筋肉痛を起こすのは、この炎症の激しさを表しています。翌日筋肉痛を起こすぐらいの運動強度が回復期により強い筋肉を作ります。
いずれにしても筋肉が強くなるのは、この回復期です。この回復期は、スポーツ選手を除いて、一般の人の場合、48時間(2日間)から72時間(3日間)といわれています。この48時間後あるいは72時間後の回復完了時に筋肉が強くなります。その回復完了時に間をあけずにすぐ次の運動をやることが大切です。つまり、2日に1度とか3日に1度という規則正しい運動が大切ということです。
・筋原線維のアクチンとミオシンというタンパク質は分解と合成を繰り返し、ほぼ一定数を保っていますが、年齢とともに合成能力より分解のスピードが早くなるため、筋原線維は徐々に細くなっていきます。これが老化現象です。タンパク質の合成を促進するものとして、成長ホルモンや男性ホルモンなどの成長因子も必要ですが、絶対条件ではありまん。絶対に必要なのは運動です。
・筋線維は増加することが明らかになりました。これは細胞分裂という方法ではなく、生まれながらの筋細胞のうち、予備的な役割を果たすために残っている細胞がトレーニングによって目を覚まし、1本の筋線維として成長していくという形をとりますが、この予備的筋線維も運動しなければ成長はしません。
禁忌事項
1.急性(疼痛性)疾患
2.悪性腫瘍組織のある人
3.心臓に障害のある人
4.妊産婦
5.生理時の腹部
6.熱の高い人(38℃以上の人)
7.伝染性疾患の人
8.適用部位の皮膚に損傷・炎症、その他の異常のある人
9.心電計の装着医用電子機器を使用している人(体に金属片を入れている人も不可)
10.知覚障害のある人
11.紫斑症の方や内出血しやすい人
12.骨粗鬆症が著しく進み骨折しやすい人
13.その他医師の治療を受けている人や特に体に異常を感じている人
上記の「禁忌」のうち3と9について、最新の器械についても変わっていないか、ツウィンバードと東レの2社に問い合わせてみましたが、両社の回答ともほぼ同じで、上記の内容通りでした。(実はこの2点がクリアできれば、試してみたいと思ったのですがあきらめました)
付記1:「レジスタンストレーニングは脂肪を減らすか?」
これは筋肉の第一人者である石井直方先生の著書「究極のトレーニング」の中に書かれているものです。EMS運動療法はレジスタンストレーニングそのものですので、この内容は当てはまります。
『季節の節目になると必ず、私のところには雑誌やテレビ番組の取材がやってきます。話は決まって「ダイエット」。春には「夏に向けて今年こそダイエット!」、秋には「冬太りしないためのダイエット!」などなど。それが毎年繰り返されるのですが、「ダイエット」という見出しがつけば必ず売れるという方程式があるのだそうです。
2~3年前、取材におとずれた3社すべてが、「レジスタンストレーニングが脂肪を落とすのに効果的なのはなぜか?」という質問を用意してきました。この質問に完璧に答えるのはむずかしいのですが、近年、これに関連した興味深い研究が急展開しています。
筋と安静時代謝
脂肪をエネルギー源として代謝するためには、有酸素性代謝系によって酸化しなくてはなりません。これには酸素が必要ですので、運動で脂肪を落とそうとすると、必然的にエアロビック運動がよいということになります。
一方、私たちは一日中トレーニングをしているわけではありませんので、普通に生活しているときになるべく多くの脂肪を代謝し、多くのエネルギーを消費することもまた重要になります。これには基礎代謝や安静時代謝を高める必要があります。これらの代謝は主に、体温を維持するための熱生産によるエネルギー消費です。
身体の中の主な熱源は肝臓と筋ですので、筋量が多く、かつ熱の発散のよい人は、安静時での代謝量が多く、脂肪がつきにくいことになります。実際、安静時代謝が平均で5~10%ほど上昇します。したがって、体脂肪を減らすにはレジスタンストレーニングも必要といえます。』
付記2:「脳卒中治療ガイドライン2015」
「脳卒中ガイドライン2015」の中でTENS(経皮的電気刺激:transcutaneous electrical nerve stimulation)に関しては、記述されていることを知りました。ということは、EMSについても何か書かれているのではないかと考え、図書館から借りて中身を確認してみました。
EMSはありませんでしたが、FES(機能的電気刺激:functional electrical Stimulation)は出ていました。このFESと「筋肉に対する電気刺激」という内容を含んだ箇所が以下になります。
歩行障害に対するリハビリテーション
・慢性期の脳卒中、下垂足がある患者に前脛骨筋へのFESを行うと歩行が改善する。
・急性期の患者でも通常の理学療法にFESを加えることで足背屈力や歩行の改善に効果があり自宅退院率が改善した。
上肢機能障害に対するリハビリテーション
・麻痺側手関節の自動伸展運動がみられる程度の中等度の麻痺例では、運動にトリガーされる電気刺激により、特に手関節伸展筋の筋力増強、上肢の運動障害の改善が見られる。
・随意運動介助型電気刺激と手関節装具を併用し1日8時間の日常生活での使用を促すことで長期、持続的に上肢機能障害が改善している。
痙縮に対するリハビリテーション
・随意運動介助型電気刺激と手関節装具を1日8時間装着し、3週間の麻痺肢の積極使用を促す治療
(HANDS療法)では上肢機能とともに臨床的にも電気生理学的にも上肢痙縮の改善を認めたと報告されている
・歩行パターンを模した30Hz、20~30mAでの下肢筋群の電気刺激は、下肢痙縮と歩行能力を改善する。