デンマークのスマートシティ1

“コロナ worldmeter”というブログをアップしています。約100年ぶりのパンデミックとして世界中に広がった新型コロナ(COVID-19)の感染状況を約2年8ヵ月に渡って記録をつけていました。「worldmeter」はその情報源です。

そして、そのレビューを書こうと思って気づいたのが、デンマークの圧倒的な情報管理力です。日本に比べれるとはるかに小さな国ではありますが、これは、よほどITが進んでいるのだろうと思いました。「一体どんなことをしているのだろうか?」と思い、見つけた本が今回の『デンマークのスマートシティ データを活用した人間中心の都市づくりでした。

また、偶然ですが、背中を後押しするようなこともありました。それは『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯という本の中に書かれた、チボリ(Tivoli Gardens)というデンマークの首都、コペンハーゲンにある1843年に設立された歴史的な公園(遊園地)です。

画像出展:「北欧フィーカ

 

ウォルト・ディズニーは“未来都市”(EPCOT:Experimental Prototype Community of Tomorrow)”という将来構想を創造し、世界中をまわって数多くの公園を視察しましたが、最も強く感銘を受けたのがこのチボリ公園でした。もしかしたら、1966年に他界したウォルト・ディズニーが描いていた“未来都市(EPCOT)”とは、デンマークのスマートシティのようなものだったのかも知れません。

そして、デンマークを調べていて大変驚いたことがありました。それは2023年の世界経済競争力ランキング(World Economic Competitiveness Ranking)第1位がデンマークだったということです。ちなみ日本は35位です。なお、世界経済競争力ランキングについては以下のサイトをご覧ください。

日本の競争力は「過去最低」の世界35位。「世界競争力ランキング2023」衝撃の結果

著者:中島健祐

発行:2019年12月

出版:学芸出版社

デンマーク、そして首都コペンハーゲンの都市開発は圧巻です。まさに“未来都市”のようです。

また、一つの国をここまで真剣に理解しようとしたのは初めてだったので、とても新鮮で貴重は時間となりました。お伝えしたいと思うことは山盛りで、ブログを5つに分けました。

ご参考)著者である中島先生のプレゼンテーション資料を見つけました。20枚に凝縮された内容で、全体像をご理解頂くことができます。

デジタル先進国デンマークで展開される人間中心主義のスマートシティと社会実装

はじめに

1章 格差が少ない社会のデザイン

1.格差を生まない北欧型社会システム

2.税金が高くても満足度の高い社会を実現

3.共生と共創の精神

4.課題解決力を伸ばす教育

5.働きやすい環境

6.格差がないからこそ起こること

2章 サステイナブルな都市デザイン

1.2050年に再生可能エネルギー100%の社会を実現

2.サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進

3.世界有数の自転車都市

4.複合的な価値を生むパブリックデザイン

3章 市民がつくるオープンガバナンス

1.市民が積極的に政治に参加する北欧型民主主義

2.市民生活に溶け込む電子政府

3.高度なサービスを実現するオープンガバメント

4.サムソン島の住民によるガバナンス

4章 クリエイティブ産業のエコシステム

1.デンマーク企業の特徴

2.世界で活躍するクリエイティブなグローバル企業

3.デジタル成長戦略と連携して進展するIT産業

4.スタートアップ企業と支援体制

5.新北欧料理とノマノミクス

5章 デンマークのスマートシティ

1.デンマークのスマートシティの特徴

2.コペンハーゲンのスマートシティ

3.オーフスのスマートシティ

4.オーデンセのスマートシティ

6章 イノベーションを創出するフレームワーク

1.オープンイノベーションが進展する背景

2.トリプルヘリックス(次世代型産官学連携)

3.IPD(知的公共需要)

4.社会課題を解決するイノベーションラボ

5.イノベーションにおけるデザインの戦略的利用

6.社会システムを変えるデザイン

7章 デンマーク×日本でつくる新しい社会システム

1.日本から学んでいたデンマーク

2.デンマークと連携する日本の自治体

3.北欧型システムをローカライズする

4.新たな社会システムの構築

おわりに

1.格差を生まない北欧型社会システム

フラットな社会

デンマークの社内はオープンフラットである。デンマークで暮らしていて学歴、所属組織の社会的地位、保有している国家資格などが問われることはまずない。大切なのは、個人としてどのような考えを持ち、価値を提供できるかということである。

・年齢も関係ない。デンマーク語には日本語の敬語や丁寧語に相当する言葉もあまりない。

・自分が疑問に思ったことは相手が大臣や大手企業の社長であっても、気兼ねなく質問して議論を交わすのが普通である。

・『ある日本の大手企業の現地社長も、似たような経験を語ってくれた。彼は日本企業で長く勤務した後、デンマークの会社の社長となり、多くの従業員を雇用していたが、どの従業員も彼に友達感覚で接してくるそうだ。朝、工場労働者と会うと、背中をバンと叩かれ、ファーストネームで呼ばれながら「元気にやっているかい?」と言われ、企業文化の違いに戸惑ったらしい。日本では常に役員室にいて、外出の際は黒塗りの専用車で送迎され、いつもお付きの社員がサポートする体制で仕事をしていたため、デンマークのフラットすぎる社会に馴染むのが大変だったようだ。』

デンマーク社会を支えた哲学

・デンマークの社会制度は1890年代から120年以上かけて試行錯誤しながらつくられた。

・社会保障制度をつくる基礎となったデンマーク人の精神性、価値観は、デンマークの歴史が深く関わっている。

デンマーク人の価値観に大きな影響を与えたのは、デンマークの近代精神および教育の父と呼ばれ、現在も運営されている「フォルケホイスコーレ」(国民高等学校、全寮制の教育機関)の理念を提唱した牧師であり詩人、哲学者であったニコライ・F・S・グルントヴィ(1783-1872)である。

・グルントヴィの理念は、現在のデンマーク社会に次のような影響を与えている。

国民すべてが平等な生活を送ることに価値をおく=格差の少ない北欧型社会システム

知識ではなく対話を重視=コンセンサス型社会システム

死の学校から生のための学校=知識から知恵や問題解決能力を習得する教育

・1890年からの社会福祉政策は計画的ではなく、少しずつ進められた。デンマークではドイツ型の賃金労働者だけを対象にするのではなく農民も含めたすべての国民を対象とした社会保障制度を目指すことになった。そして、特に社会的弱者である病人、障がい者、十分な教育を受けられなかった人々も対象とした。

・20世紀になると、様々な改革が行われ、1933年には社会制度改革が実施された。

・当時の社会大臣は福祉事業の主流であった失業対策、自助努力、救済事業に対し、市民の社会的権利である福祉原則を提示し、市民の最低保証生活水準を保障することは国家の義務であるとした。デンマークの福祉国家としての普遍的理念はこれにより確立された。

・1960年代以降、日本と同様に高度経済成長期を迎え、労働者不足の問題が女性の社会進出を後押しした。その結果、これまで家庭で行われてきた育児、高齢者の介護が難しくなり、より充実した社会福祉が発展することになった。

・社会福祉の発展においても、その根底にはニコライ・F・S・グルントヴィの思想が育んだデンマーク人の精神性、価値観があった。

女性の社会進出

・デンマークにおける女性の社会進出は、前述の通り、1960年代の経済成長による労働力不足が深く関係している。

・1965年に設立された社会制度改革委員会では、女性や障がい者が柔軟に職に就けるような制度改革を行い、出産休暇、職場に復帰する権利、保育所の整備などが行われ、女性が働きながら子育てを行える社会的環境が整備された。その結果、1980年代以降、女性の就業率は70%を超えている。ただし、エネルギー産業、製造業、鉱業などはまだ男性が中心である。その一方で、企業の主要幹部には多くの女性が登用されており、女性の大臣も珍しくはない。

※この「女性の社会進出」に書かれていることは、少子化や育児・子育ての問題がやっと注目されてきた、ここ数年の日本に似ていると思いました。もし、デンマークがここに書かれている対策を実施していたとすれば、少子化について、日本ほどには問題になっていないのではないかと思われます。

そこで、探してみると“人口ピラミッド”の動画が同条件でアップされていました。これは「世界人口推計2019年版」(国連)に基づき、1950年から2100年までの人口の推移を動画にしたもので、大変興味深いものです。そして、その対照的な結果に、驚きを通り越して恐怖すら感じます。

デンマーク王国の人口ピラミッド(1950-2100) / 単位(Unit): 千人 / 2019年推計” (Youtube)

日本の人口ピラミッド(1950-2100) / 単位(Unit): 千人 / 2019年推計” (Youtube)

医師と患者が対等に治療に当たるデジタルヘルス

・デンマークの医療制度は社会保障制度を代表するサービスであり、医療費は税金で賄われ、原則無料となっている。

・デンマークの医療システム(ヘルスケアシステム)は世界的にもトップレベルで、特に医療格差がない国としても知られている。しかし、高齢化による医療労働者の不足が深刻化している。

・政府は対策として、デジタル技術を利用すること(デジタルヘルス)で、効率化による資源の最適化を模索している。

・デンマークでは1968年に導入されたCPRナンバー(国民識別番号)に加え、電子政府の基盤でもある医療ポータル(sundhed.dk)の普及がデジタルヘルスを後押ししている。

sundhed.dkにアクセスすると、自分の医療情報、例えば、過去の治療情報、入通院履歴、投薬情報などを確認でき、それをかかりつけ医や病院の医師とも共有できる。

この医療システムの重要なところは、デジタル化により効率性と利便性を実現しているだけではなく、医療従事者と患者の関係を対等にするというコンセプトが含まれていることである。デンマークではこれを市民と患者のエンパワーメント(権限付与)と表現している。

・デジタルヘルスには、医師と協働するために必要な知識の習得を支援するという側面もある。

高齢者福祉の三原則

・高齢者福祉も社会保障国家としての柱である。

高齢者福祉の三原則によりサービスに一貫性がある。三原則は1982年に設定された。

・三原則は、①継続性の原則②自己決定の原則③残存能力の活用、である。

継続性の原則とは、可能な限り、健康な時のスタイルを維持し、基本は自宅で暮らし続けるようにすることである。このため、やむおえず福祉施設に入居する場合でも、自宅で使っていた家具などを持ち込むことができる。

自己決定の原則は、たとえ介護が必要な状態になっても、自分の人生に関することは自分で決定することである。それを家族や介護スタッフは尊重しなければならない。これはデンマーク人の自立とも関係しており、大原則の一つである。

残存能力の活用は、体が不自由になったとしても、まだ健常な機能がある場合は、補助器具などを利用して自力で対応することである。

・この三原則は、サービスを提供する行政サイドにとっても、無駄な支出をしないサービスの水準を維持するために重要なものとなっている。

・デンマークの国民年金制度は共生の理念に基づいた所得の再分配システムが機能しており、高額所得者や資産家は年金が減額される。しかし、不満を持つものはあまりいない。資産があり、自活できる高齢者は自力で対応し、余力のない高齢者により多く分配することで、老後でも貧富の差を最小化しようとの考えが根底にある。

障がい者福祉

・デンマークの障がい福祉制度は現在の形になるまで150年以上かかっている。また、現在の制度は1959年の知的障がい者福祉法の制定が関係している。

・『障がい者が一般市民と同じように働き生活することには厳しさも伴う。たとえば、以前ある自治体でITシステム構築を担当する、下半身が不自由なソフトウェア開発者と知りあった。彼は車椅子を利用し、自力で車を運転して職場まで通勤していた。ところが1年後、財政削減の関係で彼は解雇されてしまっていた。このようにデンマークでは、ノーマライゼーションとは差別をなくし、障がいがある人も、障がいがない人と同じように生活できることを保障する一方で、知的障がい者でない限り、一般人と同じ条件で処遇させることを意味している。

ヤンテの掟とフラットな社会

・デンマークの人は謙虚な姿勢をもつ人が多い。世代にもよるし、一概には言えないが「ヤンテの掟」が影響しているかもしれない。「ヤンテの掟」とは成功者に対しての戒めである。これは1933年に作家のアクセル・サンダムーサが書いた小説の中に出てくる架空の村の10カ条の掟である。

※ご参考:“【ヤンテの掟】北欧社会の平等性に通じる、デンマークの小説を元にした戒律

2.税金が高くても満足度の高い社会を実現

高福祉社会を支える税負担

・国民の対GDPに対する税負担率を見ると、デンマークは第3位(2019年)と高い。また消費税も25%と高い。しかし、多くのデンマーク人は高額な税金を納得して収めている。その理由は、政治を信頼し、自分たちが収めている税金が正しく使われており、国の発展や不幸な人たちの支援に当てられることは義務であると、国民に認識されているからである。

国民は税金を徴収されているというより、信頼関係に基づいた投資であると考えていることも大きな理由である。投資なので、将来の生活に還元されると確信している。

・デンマークの民主主義の水準は高く、政治におけるクリーン度は高い。世界180カ国を対象にした腐敗認識指数2022年で、デンマークは1位(日本は18位)である。つまり、国民が選挙で選んだ議員を信頼しており、議員が汚職などに手を染めることは極めて少ないので、安心して税金の再分配を任せているということである。なお、こうした政治に信頼を置く国民性は教育制度にも関係している。

”税金が高い国ランキング発表 日本は世界で2番目”

世界で最も税金が高い国はどこでしょうか。

海外ニュースサイトに掲載された高税率国ランキングが話題を呼んでいます。同サイトは独自に調査した世界各国の法人税、給与税、個人所得税、消費税を基準にランキングを作成し、公表。日本は2位に位置付けられました。

このサイトによると、デンマークと日本の各税の税率は以下のようになっています。北欧諸国と言えば、「福祉は充実しているが税金が非常に高い」というイメージでしたが、国レベルでは「違うようだ」と思いました。

消費税で公平性を担保しつつ、障がい者や高齢者などには徹底した福祉・公共サービスといった、セーフティーネットを充実させて支援していくという仕組みのように思います。

注)この記事がいつ書かれたものか分かりませんが、日本の税率については、それぞれ右側に分かる範囲で追記しておきました。デンマークで給与税が低いのは、一生懸命働いて得た対価に税金をかけたくないということなのでしょうか。

情報が古いため、日本のランクについては疑問がありますが、消費税だけでなく国レベルで税金を考えるべきだと思いました。(少ない多い

【デンマーク】

法人税23.5%

個人税46.03〜61.03%

給与税8%

消費税25%

【日本】

法人税38.01%(平成30年度:法人実効税率 29.74%)

個人税15〜50%(令和5年度:5~55%)

給与税25.63%(5~45%)

消費税8%(10%)

公共サービス

市民が高い税金の負担に納得していることは、実際に提供されるサービスを見れば理解できる。

◇妊娠と出産

・デンマークでは特に出産や子育てのサービスにかなり力を入れている。

資源が少ないデンマークでは人材が一番重要であり、次の100年を支える人を育てることは社会の義務であるとの考えが浸透している。

出産までの医師、助産婦による相談、検診はすべて無料である。ただし、デンマークでは出産は病気とは扱われないので、初産は1泊の入院だが、経験のある妊婦は数時間で退院する。

◇育児

・デンマークでは出産後32週間の育休を終えると職場に戻るのが一般的である。そのため、子供のための保育サービスを利用することになる。6カ月~3歳児までは乳幼児託児所や保育ママ(家庭内保育)を利用する。

・保育ママは市から認定された保育士が各家庭で4~5人の子供を預かる制度で、自治体にとっては保育施設の新設や維持費用がかからないこと、また子供の両親にとっても家庭的な雰囲気の中で保育してもらえるため、デンマークでは主流となっている。

保育ママは職業としても成立するだけの収入体系となっている。例えば5人の子供を預かった場合、保護者からの利用料と自治体からの助成金を合わせて年収600万円くらいになるとされ、保育ママのなり手が不足することはない。

3歳~6歳の子供は保育園に預ける。デンマークでは自治体が希望する子供をすべて保育園に入園させる義務がある。コペンハーゲンなどの都心では順番待ちの保育園もあるが、施設さえ選ばなければ確実に入園させることができる。

保育料は自治体により異なるが、一般的に保育料の約30%を保護者が負担する。しかし、保護者の年収が低い場合は保護者の負担が実質ゼロになり、高い高額所得者は保育料を全額負担しなくてはならない。

・デンマークでは年収が低くても、高額所得者とまったく同じ育児サービスを受けられるようになっており、格差を少なくする社会のしくみは人生のスタート時から保障されている。

◇学校教育

・格差がないという点で世界に誇るシステムになっている。

教育は初頭/中等学校教育(1~10年)、高等学校教育、大学教育、大学院教育と、授業料は公立の場合はすべて無料となっている。

憲法に、教育義務の年齢にある子供は公立学校で教育を無料で受けることができる権利を有していると記されている。

・障がい者に対する特別支援教育も充実している。しかし、特別支援学校は設置数が限られているので、通学の問題が発生する。これに対し、自治体は自家用車の利用にかかる燃料費やタクシーの利用料金を支援する体制がとられている。

大学では勉強に集中するために奨学支援金10万円程度が毎月支給される(学生のおかれた条件や物価により変動する)。加えて低金利のローンを活用することで、家庭の経済力と関係なく大学教育を受けることができる。

・デンマークの大学は入学するより卒業する方がはるかに大変で、一般的に大学生は週に50時間程度は勉強すると言われている。

経済的な理由で勉学の道が閉ざされることなく、経済格差が教育格差を生まないしくみが構築されている。