動機づけと集中力

サッカーに限りませんが、試合開始早々の失点や、前後半の終了間際の失点、あるいは0対1から1対1に追いついた直後の失点など、点数が入りにくいサッカーでは、ことさらこのような場面での失点は試合を分けることになります。

我が母校の悪い癖は、比較的このような失点が多いことです。どうしたらこのような失点を減らすことができるのか。今回の『勝利へのメンタル・トレーニング』という本を拝読させて頂き、特に重要なことはコーチング(動機づけ)と集中力ではないかと思いました。

この本は1992年が初版なので、30年以上前の本になりますが、基本的なこと、基礎的なことはそれ程変わらないのではないかと思い購入しました。特に集中力はスポーツだけでなく、すべてにおいて重要なものであり、今までに考えたこともないような事を考えることができ、とても有意義だったなと思います。

著者:江川玟成

初版発行:1992年7月

出版:チクマ秀版社

ブログは、動機づけと集中力に関する件を取り上げています。

目次

第一章 スポーツにおける技術向上の条件

1 スポーツにまつわる誤解

2 技術向上の基本原則

第二章 試合に勝つための条件

1 勝敗を決めるものは

2 試合に勝つための事前準備

3 大会当日に配慮すべきことがら

第三章 監督・コーチの役割

1 スポーツ指導の方法原理

2 選手にやる気をおこさせるには

3 大会前および大会当日の監督・コーチの役割

第四章 競技中の心と技の工夫

1 競技中の心のもち方

2 競技中の技はここを!

第五章 集中力を高めるには

1 集中の心理

2 集中力アップの工夫と方法

第六章 あがりの防止対策・克服法

1 なぜ“あがる”のか

2 日ごろの工夫による防止対策

3 自律訓練法

第七章 イメージ・トレーニング

1 イメージ・トレーニングの方法

2 イメージ・トレーニングの効果

敗因診断表

性格の自己チェック尺度

メンタル・トレーニング・チェックリスト

第三章 

2.選手にやる気を起こさせるには

1)動機づけの方法

外発的動機づけ

-ほめる・認める、叱る、激励する、競争場面を設定する、慰めるなど。

内発的動機づけ

-目的意識をもたせる、課題意識をもたせる、問題意識・危機感をもたせる、感謝や恩返しの気持ちをもたせる、プライドをもたせる、責任感をもたせる、反省させる、創意工夫の態度をみにつけさせる、ライバルをもたせるなど。

自己動機づけ

-自分で自覚してやる気を燃やすよう工夫する。指導者は部員・選手に対してこの点についても指導・助言をする必要がある。

2)目的意識

細かな目標設定

-年間目標⇒月間目標⇒週間目標のように、自らが立てた目標を達成するという習慣を身につける。

年間目標は抱負というかたちで各個人がミーティング内で一言ずつ発表するという方法もある。

月間目標は各部員に紙に書いて提出させるという方法も有効である。

-週間目標や日々の目標は、一人ひとりが問題意識を高めて心掛けることが重要である。

チーム目標

指導者を中心にメンバー全員で話し合って決めるという方法も良い。これは部員自身の目標設定を考える上でチーム目標とのつながりを意識することができるからである。

方向目標と到達目標

-方向目標は、「今よりも、もっと~になりたい」とか「これまでよりも、もっと~をできるようにしよう」といったものである。

-到達目標は、特定の具体的な目標である。たとえば、「1試合に10本以上のシュートをする」、「サッカーゴール内のシュート比率50%以上を目指す」、「ペナルティエリア内でシュートをうたせない」などが考えられる。

-一般的には到達目標の方が、概して、練習意欲を高めやすい。

-これらの目標設定には高からず低からずということが重要であり、指導者の助言が求められる

目標の効果

-練習意欲が高まる。

-練習が楽しくなり、きつい練習にも耐えられるようになる。

スポーツを通じての目標設定の体験は、課題改善や問題解決に対する取り組み姿勢の育成にもつながる。

3)ライバルの存在

-競争心という人間心理を利用した動機づけには、よきライバルの存在が考えられる。同じチーム内に限らず他のチームの同じポジションの優秀な選手がライバルとなることもある。

-ライバルは個人だけでなく、チームやクラブとしてのライバルも重要である。切磋琢磨するライバルは成長の礎となり、また目標をもつということにも通じる。

4)問題意識と危機感

-部員・選手の中には問題意識や危機感をもつ者もいるが、特に年齢が低ければ低いほど、全員がもっているということはない。このような状況では、指導者の意図的な働きかけが求められるが以下のようなアプローチがある。

A. 練習方法、練習態度、試合内容などを反省する。

B. ミーティングを開催し、みんなで自由に話し合う。

C. 一人ひとりレポートを書かせ提出させる。

5)指導者として

●話し合いの場での助言や示唆は、部員・選手同士の話し合いの様子をよく観察した上で、特にうまく進んでいない状況で、分かりやすく、納得できるように指導してあげることが求められる。

レポートを書かせる場合は、必ずコメントを書いて返すようにする

●ほめ方、𠮟り方は非常に難しいが、効果的に伝えることができれば大きなきっかけになる。大切なことはよく観察すること、客観的であること、相手の気持ちを尊重することである。

指導者自身の人間性が原点ともいえる。親切で責任感が強く、一生懸命で人間味があるという人柄であれば、ほとんどの部員・選手は指導者の人間性に共感し、信じてついてくるものである。

第五章 集中力を高めるには

1 集中力の心理

1)集中力とはなにか

●「集中力」とは、ある一定時間、ある特定のことがらに注意や意欲をかたむけ、それに向かって一生懸命に頑張り通して、効率を高め、好成績をだす精神的な機能ないし能力という意味である。つまり、集中力は「意欲の強さと持続性」、「注意集中の強さと持続性」と捉えることができる

●意欲が弱いのは論外であるが、意欲が強すぎるのも問題である。急ぎすぎたり、慌てたり、いらついたりと感情的になる傾向がみられ、緊張が高まり冷静さも失いやすくなる。また、自分の能力を過信してしまうこともある。

意欲と緊張は強すぎず、弱すぎずということが望ましい態度であり、全体に注意を向けながら、特定のことに意識を向ける。求めれるのは平常心である。

「平常心」は心が偏らないように真ん中に置いて、心を静かにゆるがせて、そのゆるぎが一瞬たりとも留まることのない、常に流動自在な心の状態は、また望ましい注意配分の状態であるといえる

●集中力が高いとは、適度の意欲と偏らずにバランスのとれた注意集中とが、目的に応じて一定時間持続できることを指す。一方、集中力が低いとは、意欲が空回りしたり、意欲が弱すぎたり、注意が偏ったり、散漫になったりすることを指す。

●集中力が高い時は、目的にかなった以下のような望ましい動作・反応ができるようになる。

反応潜時の短縮:合図に対してすばやくスタートできる。「~しよう」と思ってすばやく動作を起こせるなど。

反応速度の増加:目的動作を短い時間で遂行できるなど。

反応量の増大:飛距離がのびる、より高く飛べる、より重いものを挙げることができるなど。

誤反応の抑制:凡ミスをしない、大事な場面や困難な場面でもミスをしない。

2)集中力発揮の妨害要因

●集中力は個人差がある。しかし集中力発揮は身体的・心理的・環境的要因の三種類の要因によって左右される。

身体的要因:体の不調、病気、睡眠不足、疲労、ケガ、薬物摂取、空腹・満腹、尿意・便意など。

心理的要因:気がかりなこと・悩み事がある、勝敗を意識しすぎる、慎重になりすぎる、責任感が強すぎる、油断・安心する、慌てる、焦る、ミスを気にする、予期不安(「負けるのではないか」などと心配になる)、気後れ、気力負け、気合不足など。

環境的要因:グラウンドの状態がよくない、騒音、観客の声援、光線が強すぎる・薄暗い、風が強い、高温多湿、大観衆、不慣れな場所など。

2 集中力アップの工夫と方法

1)集中力アップは日常生活から

●集中力の養成・アップは日常生活からである。常日頃からの心がけが大切である。

●第一に、日頃、何かやろうと思ったら、できるだけ速やかに実行に移るよう心掛けることである。

●第二に、日頃から気がかりになっていることは、できるだけ速やかに解決しておくことである。「そのうち、なんとかなるだろう」などと甘く考えてはいけない。ルーズな対応は集中力の養成にはマイナスである。

●第三に、常日頃、自分の感情・気持ちを、自分でコントロールするよう心掛けることである。日頃養ったセルフ・コントロールの能力は、試合の場面にも生かされ集中力の発揮に役立つ。

●第四に、勉強、仕事、囲碁・将棋などでの精神集中や粘りの体験は、試合や競技にも役に立つと考えられる。

2)練習を通して集中力を養う

●日頃の練習は技術向上だけでなく、集中力アップにも役立つものでなくてはならない。第一に練習と試合を区別しないことで大切である。つまり、常に試合を想定して練習に取り組むことが集中力アップやプレッシャーの克服にもつながる

●第二の方法は、「ピークパフォーマンス法」と言われているものである。これは練習や試合で経験した高度の集中力発揮の体験を覚えておくよう心掛けることである。その時に、どのような心構えや工夫をしたのかが重要である。

●第三に、大会前に試合に向けての意欲と勝利への執念を徐々に高めるようにもっていく。

●第四に、焦りや不安、あがりなどの問題をチーム内でよく話合って準備しておくことも必要である。

3)心理学的な集中力アップ法

●これまで、スポーツ心理学において、数多くの集中力トレーニング法が開発されてきた。

リラクゼーション:身体的・精神的にリラックスした状態を作り出すことにより、必要なことがらに精神を集中する余裕を生みだす。

作業法:グリッドエクササイズ(格子のなかに書かれた二桁の数字を捜し出す)、ゆっくりとしたバランス運動、振子のテストなど、非常に努力や注意力を要する作業を訓練して、自分の意図することに注意を持続させる能力を高めることを狙っている。

呼吸法:禅やヨガなどの呼吸法を修得させ、呼吸に注意を集中させることを通して、外部刺激や雑念に妨げられない態度をつくっていく。

バイオフィードバック法:バイオフィードバック(生体情報を本人に知らせる手法)により、精神が特定の対象に集中しているときの心身の状態の特徴をとらえさせる。これにより、いつでもその状態を自分で作り出せるようになることを、狙っている。

凝視法:何か特定の物体を長時間注視しつづけさせることにより、注意の持続力を高めることを狙っている。

妨害法:さまざまな妨害刺激のもとで作業をさせることにより、注意の持続力を高める。

自己分析法:練習や試合でどのようなかたちで注意がそれやすいか、集中力をダウンさせてしまうのかを、自己分析させ、自分の注意行動パターンの特徴を把握させるとともに、それに対する対策を考えさせる。

キーワード法:注意を向けるべき刺激・対象・動き・心構えなどを示す言葉を、あらかじめキーワードとしてきめておき(「平常心でのぞむ!」「勝ちを急ぐな!」など)、練習中に注意が逸れそうになったり、精神的な乱れがでそうになったときに、そのキーワードを頭の中で、1、2度唱えるようにする。この反復練習により、試合・競技中にも同じようにやれば、キーワードに誘導されて望ましい精神状態が維持され、思う通りのプレーができるようになる。

イメージ・トレーニング:大会当日に会場に着くまでの間にやるべきことがら、会場に着いてからやるべきことがらなどを、あらかじめイメージ・トレーニングによりリハーサルしておく、こうして、実際にそれらの各場面に自然に適応できるようになる、つまり集中力がかき乱されずにすむ。

ピークパフォーマンス法:自己最高の成績をあげたときの自分の精神状態や実際のプレー・演技のやり方を思い出したり、イメージ化したりすることにより、実際にもそのような望ましい心身の状態、つまり高度に集中力が発揮される状態を作り出せるようにしておく。

達観法:試合に対して不安を抱いたり、勝敗のことを考えすぎたりしても、何の役にもたたないばかりか、かえってマイナスになることを理解させ、いわゆる開き直りの心境を切り開かせる。これにより、集中力が発揮されやすくなる。

アファメーション:アファメーション、つまり自己肯定により、不安を取り去って自信を回復することにより、集中力発揮を狙っている。

肯定的思考法:ものごとを悲観的にではなく、良い方向へと楽観的に考える習慣を作っていくことにより、いたずらに心配したり、迷ったりするのを防ぐ。その結果集中力が発揮されることになる。

過重学習法:さまざまな困難な競技場面を想定した練習を十二分に積むことにより、いざという時に戸惑わないようにしておく。いわば、臨機応変の対処ができるよう、いろんな場面での対応を反復練習しておく。