双極性障害3

著者:加藤忠史

発行:2019年6月

出版:ちくま新書

目次は”双極性障害1”を参照ください。

2 ECT(電気けいれん療法)

うつ病に対する治療法の中で効果は高く、即効性もあるため抗うつ薬の効果が乏しい難治性のうつ病に対して広く行われている。

現在は麻酔科医による全身麻酔と呼吸循環管理のもと、痙攣を起こさないようにして行う、修正ECTが行われている。

・即効性があるため、自殺念慮が強い場合には是非試みるべき治療といえる。

・妄想、焦燥、昏迷などの強い重症のうつ状態なども修正ECTを検討すべきである。

・通常は週2、3回で6~12回程度繰り返すのを1クールとする。効果は直後、もしくは2、3回施行後から現れる。麻酔を行うためリスクもあり、自殺念慮、重症、難治性に対して行うものである。

ECTの作用のメカニズムはよく分かっていない。

双極性障害ではうつ状態で行うと躁転することがあり、慎重な判断を要する。また、何クールまで問題ないのかといった基準はないのでこの点も注意を要する。

3 反復性経頭蓋磁気刺激療法(γTMS)

・左前頭部にコイルを当てて、磁場を与えることで脳の中に電流を起こさせて刺激する治療法である。

・双極性障害のうつ状態に対しての有効性は明確になっていない。

先進医療.netより

『2019年3月、双極性障害のうつ状態に対する新たな治療法として、「薬物療法に反応しない双極性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」が先進医療として指定され、臨床研究が始まりました。rTMSの仕組みや長所、先進医療の流れなどについて、国立精神・神経医療研究センター病院 精神科医長の野田隆政先生に伺いました。』

・ 双極性障害の治療には主に薬が使われるが、患者さんによって効く薬や効果が異なる。自分に合った薬が見つからず、長期にわたって苦しむ患者さんも多い。

・ rTMSは、磁気や電気などの刺激によって神経の働きを調節する「ニューロモデュレーション」という治療法の一つ。磁気の刺激により、脳の神経の働きを調節することで、双極性障害のうつ状態の改善が期待される。

・ 双極性障害のうつ状態に対するrTMSは、先進医療Bの制度の下、2019年11月27日現在、全国3施設で実施されている。薬が効かない患者さんに対する新たな選択肢として期待される。

4 ケタミン

・現在臨床試験が行われており、数年以内には利用できるようになる可能性がある。

・これまでの抗うつ薬は治療効果が現れるまで1、2週間、治療期間が数カ月と長い時間がかかるが、この薬は1、2時間で効果が現れ、それが1週間程度持続するという、全く異なった効き方をする治療薬として注目されている。

ケタミンの即効性抗うつ作用に関わる新しいメカニズムを解明!

金沢大学医薬保健研究域薬学系の出山諭司准教授、金田勝幸教授、大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学の近藤誠教授らの共同研究グループは、ケタミンの即効性抗うつ作用に関わる新しいメカニズムを解明しました。

うつ病の患者数は世界で約2.8億人と言われ、深刻な社会経済的損失をもたらします。しかし、現在うつ病の治療に用いられる抗うつ薬は、効果発現が遅く、3分の1以上の患者は治療抵抗性であることが問題となっています。2000年代の臨床研究により、全身麻酔薬として古くから用いられているケタミンが、麻酔用量よりも低用量で治療抵抗性うつ病患者に対して即効性の抗うつ作用をもたらすことが明らかとなり、大きな注目を集めています。ケタミンには依存性や精神症状(幻覚、妄想など)といった重大な副作用があるため、ケタミン自体の臨床応用には大きな問題が伴います。そこで、不明な点が多いケタミンの作用メカニズムの解明により、有効性が高く、かつ副作用の小さい治療薬の開発につなげることが期待されます。

5 心理教育

双極性障害は心の病ではない

双極性障害の柱は薬物療法と精神療法である。

精神療法というと精神分析やカウンセリングが思い浮かぶが、双極性障害は心の病ではない。

身体の病気でも、精神療法は必要

・双極性障害は脳や遺伝子などの疾病であるが、発症はストレスが原因となることが多く、発症後も慢性的なストレスは双極性障害にとって好ましいものでない。

・精神療法は心理教育とよばれている。

心理教育とは

・病気について勉強していただきながら、患者さんの心に起きるその病気に対する反応も十分に把握し、理解しながら進めていくということである。

・双極性障害の精神療法において、最も重要なことは心理教育である。基本は患者さんと医師一対一での心理教育である。それに加えて、ご家族とともに病気について学んでいただく家族心理療法も大切である。さらに夫婦や集団療法的な取り組みも有効である。

心理教育ではまず病気の性質を理解し、次に薬の作用と副作用、そして双極性障害の再発の兆候に気づけるようになることが重要である。

ストレスの対処法

心理教育にはストレスに対する対処法もある。ストレスは再発のきっかけとなったり、躁やうつを繰り返す不安定な症状を引き起こしたりする。

認知行動療法

生活の中で起きる事態を見直して、ストレスを減らしていく方法をまとめたものが認知行動療法であり、双極性障害に対しての有効性が認められている。

・うつになり、嫌な考えばかりが頭に浮かぶような状態を「否定的自動思考」とよぶ。この「否定的自動思考」を抑えることは容易ではないが、出てきた気持ちが「否定的自動思考」であると認識して、別の合理的な考え方に切り替えていくことは、練習によってある程度はできる。

対人関係療法(IPT)

・外来で行う個人精神療法である。

・特定の理論にはこだわらず、よく効くと言われている常識的な治療をまとめたものである。

・IPTの治療目標は、認知を変えることではなく対人関係のパターンを変えることである。

IPTの対象は双極Ⅱ型障害のような軽症なものに限る。中等症以上は薬物療法が中心となり精神療法は補助的なものになる。

・対人関係の中では、特に三つのパターンに注目している。①「重要な人物の死」、②「役割をめぐる不一致」、③「役割の変化」である。3番目の役割の変化とは、例えば、昇進や結婚などによってうつ状態を発症することが多いということである。

対人関係-社会リズム療法(IPSRT)

・双極性障害のために開発されたのが、対人関係-社会リズム療法(IPSRT)である。

・双極性障害では徹夜が躁転のきっかけになる。対人関係-社会リズム療法では、起床時間、入眠時間、出勤などの時間の目標を決めて、毎日、これらの時間を記録につけ生活のリズムを守るようにする。

画像出展:「双極性障害」

五分診療の中の精神療法

・症状の落ち着いた双極性障害の患者さんの外来診療は、短い方では5分~10分である。この診察を1、2カ月に1回程受けてもらい、その中で薬の副作用の有無を確認し、定期的に採血してリチウムの血中濃度を調べてて適正になるように調整する。

・短い時間の精神療法が意味あるものにするには、早い段階にどれだけしっかりと病気を受け入れ、その対処法の理解を進められるかどうかにかかっている。

第六章 双極性障害とつき合うために

再発する人としない人の違い

このように双極性障害の患者さんには、すっかり薬が効いて、本人も病気をコントロールしようという意識が高く、十年、二十年と一回も再発せず、薬さえ飲んでいればまったく問題なく社会生活を送ることができている方もいらっしゃいます。

一方で、病気のために仕事や家族を失い、思うような人生を送れていない患者さんもいらっしゃいます。そのような両極端な違いは何なのでしょうか。

まずは、病気の初期に、どれだけしっかり予防の対策を立て、実践したかどうかです。

そしてもうひとつの違いは、薬がどの程度効くかです。

残念なことに、きちんと薬を服用しているにもかかわらず薬が十分に効かないという患者さんもいらっしゃいます。ですから、再発を繰り返している人に、簡単に「双極性障害はコントロールできるはずなのに、薬をちゃんと飲んでいないのではないか」などと思わないでいただきたいと思います。

医師はひとつの薬、リチウムだけで効果がなければ、ラモトリギンとかオランザピンなど、さまざまな薬を併用して、何とか予防をはかります。それでも軽いうつや躁が出てしまうこともあるのです。

このような場合には、うつになったら何らかの薬を増やし、軽躁になったら少し抗精神病薬を増やしたりと、その都度対処しながら治療を進めていきます。

リチウムやラモトリギンやバルプロ酸などである程度まで病状が落ち着いている患者さんの場合、それほど激しい躁状態にはいかないことが多く、躁状態になっても何とか患者さん本人も治療しようという気持ちになってくれて、入院するには至らないですむという場合も多くあります。

しかしながら、薬を服用していることによって、症状が軽くすんではいるけれども、現在存在する薬すべて使っても、やはり再発を予防するのが難しいという患者さんがいらっしゃるのも事実です。

今我々にできることは、病気がわかったらごく早いうちから、きっちりと予防対策を進めること、薬が効きにくい人には効かない人なりに、薬の組み合わせや投与量の工夫で症状を最小限に抑え、再発を予防するということです。

現在ある薬は必ずしも完璧ではありません。双極性障害の基本的な薬であるリチウムは、非常に副作用が強く、飲みにくい薬であることは、すでに述べました。手の震えなど、人によっては大変気になるところでしょう。

そのために服用をやめてしまい、また再発してしまう方が少なくありません。現在ある薬の副作用を少なくすること、今の薬が効かない患者さんのための新しい薬を開発すること、そして病気の原因究明、そういった研究は、絶対に必要だと思っています。

病気のコントロールには、まず病気を受け入れることが必要

双極性障害の治療において最も重要なのは躁の治療でもうつの治療でもありません。むしろ症状がおさまった時、再発予防薬がきちんとなされるかどうかが、間違いなくその人の一生を左右します。

最初に述べたように、双極性障害は、以前は非常に軽く見られてきました。医師から見れば、躁になって入院して来ても、うつになって入院して来ても、患者さんはとりあえず、その状態が治って退院していきます。

そして治って退院するときには、最初の症状はもうすっかり治っています。そういったことで医師の個として双極性障害は治る病気だという意識が強かったのです。

これはこれで事実であり、統合失調症のように、陰性症状とよばれる症状が長く続く病気と違い、双極性障害は、一旦治ると何の症状もなくなるのが特徴です。患者さんは治ったと感じて安心するし、ご家族も、また医者ですらほっとしてしまうわけです。

ところがその一旦治った病気が、ほとんど再発します。またそれを繰り返すことによって本来は能力を持っている人が、その能力を発揮する場所を奪われてしまいます。会社を辞めざるを得なくなったり、家族と別れてしまったりします。そういう意味では大変恐ろしい病気でもあるわけです。

昔の医師も、おそらく退院する時には「この病気は再発しますから、ずっと薬を飲んでくださいね」と言っていたと思います。ところが実際は、そのくらいのことでは、多くの患者さんは薬を飲みません。

たとえば病院に行って「皮膚炎の薬です。これを朝夕一週間塗って下さいね」と皮膚科の先生に言われたとします。「はい。そうします」と答えて帰って来ても、症状がなくなってきたら薬を塗るのを忘れてしまうという経験はないでしょうか。

双極性障害の患者さんの場合も同じです。症状が治まったら薬を飲まなくなるということは、誰にでも非常によくあることなのです。

しかしその結果、結局患者さんは再発してしまいます。そしてこれまで繰り返し述べたように、双極性障害は、再発することによって、人生そのものが大きな影響を受けてしまう病気なのです。

病気との取り組みいかんで、病前と変わらない生活が送れる人から、仕事も家族も失ったという人まで、非常に幅広い、さまざまな結果が返ってきます。

より良い結果を得るためには、双極性障害とは大変な病気である、ただし十分にコントロールすれば恐れるに足らない病気でもあるということを知り、前向きに再発予防に取り組むことが何よりも重要なのです。

感想

「双極性障害」の患者さまにとって、医師による診察と適切かつ慎重な薬物療法や、精神療法との組み合わせが極めて重要であることを学びました。

鍼灸師ができることはお話を伺うこと、そしてうつ病と双極性障害(躁うつ病)は異なる病気で、薬も療法も異なるということをお伝えすることだと思いました。