クレメジン®(慢性腎臓病の薬)2

出版:フジメディカル出版

発行:2013年4月

特集 見逃されてきたウレミックトキシン[尿毒症毒素]を再考する

―ウレミックトキシンは、心腎症候群のリスクファクターか

1.“ウレミックトキシンとは” 名古屋大学大学院医学系研究科 尿毒症病態代謝学 丹羽利充

2.“インドキシル硫酸の動脈硬化に及ぼす影響” 東京医科歯科大学大学院 先進倫理医科学 伊藤俊輔、吉田雅幸

3.“インドキシル硫酸による酸素代謝異常への影響” 東京大学大学院医学系研究科 鵜沢 智、大瀬貴元、南学正臣

4.“球形吸着炭:クレメジン®は心血管疾患を制御できるか” 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 器官病態修復医学(循環器内科学) 山口浩司、佐田政隆

今回のブログは、慢性腎臓病に深く関わるインドキシル硫酸の理解を深めるために、上記の4つの寄稿の中から、ブログに残しておきたいと思う個所を抜き出すということをしました。

注)結果的に”2”は入っていません。

1.“ウレミックトキシンとは” 

インドキシル硫酸の代謝

経口的に摂取した蛋白質が大腸内で加水分解され生成したトリプトファンが、大腸菌などによりインドールに代謝される。インドールは腸管から吸収され肝臓で酸化、硫酸抱合されインドキシル硫酸となって血中に放出される。正常では血中のインドキシル硫酸は腎臓から尿中に排泄されるが、腎不全ではインドキシル硫酸のクリアランスが低下し血清インドキシル硫酸濃度は著明に増加する。血中では約95%がアルブミンと結合しており血液透析によって除去されにくく、血液透析による減少率は約30%と低い、経口球形吸着炭(AST-120;クレメジン®)はインドキシル硫酸の前駆体であるインドールを腸内で吸着することにより、血清インドキシル硫酸濃度を低下させる(図1)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

インドキシル硫酸によるCKD進行

腎不全ラットにインドキシル硫酸、インドールを投与すると腎不全がより進行することから、インドキシル硫酸は腎不全の進行を促進するウレミックトキシンである。インドキシル硫酸はトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β1、メタロプロテアーゼ組織インヒビター(TIMP)-1、プロα1(Ⅰ)コラーゲンの発現を増加させ腎臓の間質線維化や糸球体硬化をきたす。また、有機アニオントランスポーター(OAT1、OAT3)を介して近位尿細管細胞に蓄積し、活性酸素種(ROS)の産生と抗酸化系の障害により尿細管細胞障害をきたし、間質の線維化を促進する(図2)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

さらに近位尿細管細胞において、ROS[活性酸素種]の誘導、NF-kB[炎症反応急性期の調節因子]の活性化、p53[がん抑制遺伝子]の発現を介して細胞化と線維化の促進、細胞増殖の抑制をきたし腎不全の進展を促進する(図3)。

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また、尿細管細胞の上皮‐間葉形質転換(EMT)をきたし腎線維化を促進し、尿細管細胞による単球走化誘導蛋白(MCP-1)発現を促進、近位尿細管細胞においてSTAT3[がん遺伝子]のリン酸化を介してMCP-1、TGF-β1、平滑筋アクチン(SMA)の発現、NF-kBの活性化、細胞老化を促進する。さらに腎臓におけるKlotho[抗老化遺伝子]の発現を減少させ、細胞老化を促進する。その機序としてインドキシル硫酸は、近位尿細管細胞においてROS産生とNF-kBの活性化によりKlothoの発現を低下させる。

3.“インドキシル硫酸による酸素代謝異常への影響”

低酸素が尿細管間質障害をもたらす

近年、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)へのfinal common pathwayは尿細管間質領域の低酸素であることが広く知られるようになっている。

尿細管間質領域の低酸素は酸素の供給不足と需要過多の二つの大きな要因による。まずこの領域は、糸球体輸出細動脈の下流の尿細管周囲毛細血管(peritubular capillary)から酸素供給を受けるが、毛細血管の前後に動静脈シャントが存在するために、健常状態でも酸素分圧が低い。加えて、腎臓では酸素需要がもともと非常に高いため、需要と供給のアンバランスが生じやすく、腎臓は低酸素にさらされやすい(図1)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

すると腎機能の低下により酸素供給が低下し、さらにアンバランスが進む。尿細管周囲毛細血管網の減少、間質線維化による酸素拡散障害[酸素が血液中に拡散する過程で何らかの障害が生じる状態]、糸球体硬化による血流低下、レニン・アンジオテンシン系活性化などがその原因として報告されている。

尿細管間質領域の低酸素は、尿細管細胞の脱分化[既に分化した細胞が未分化の状態に変化すること]や線維芽細胞の活性化を引き起こし、さらに線維化を進行させることが報告されている。こうして尿細管間質領域の低酸素と線維化はvicious cycle[悪循環]を形成し、腎機能は増悪する。

インドキシル硫酸は酸素代謝異常から尿細管間質障害をもたらす

尿毒素が尿細管間質障害をもたらすメカニズムには不明な点が多いが、その機序の一つとして尿細管細胞における酸素代謝[代謝とは化学反応の二つ側面。一つは体内での物質の変化。もう一つはエネルギー発生と呼吸]が注目されるようになってきている。

前述のように低酸素による酸素代謝異常は、酸素供給不足と酸素消費量の増大という原因に大別される。図2に示すように酸素供給不足の原因としてはエリスロポエチン(EPO)産生抑制、酸素需要を増大させるものとして酸化ストレス、酸素消費量増大などのメカニズムが報告されている。また、酸化ストレスからの小胞体ストレスの誘導も最近報告されている。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

■ご参考:“「腎臓が寿命を決める」とは”(過去ブログ)

ほぼ中段にある「EPOによる赤血球の増産」では、エリスロポエチン(EPO)の作用をスライドショーでご紹介しています。

1)インドキシル硫酸は酸化ストレスを介して尿細管の酸素消費量を増加させる

Palmらは、我々の研究室との共同研究により、インドキシル硫酸が酸素消費を増大させ尿細管間質障害を引き起こすことを示した。

ヒトおよびラットの尿細管細胞にインドキシル硫酸を投与すると、ベースラインと比べて有意に酸素消費量が増加したが、NADPHオキシダーゼ[活性酸素の産生に関わる酵素]を阻害すると酸素消費量は上昇せず、Na+-K+-ATPアーゼ[ナトリウム-カリウムポンプ]を阻害しても同様の結果であった。したがって、インドキシル硫酸は、Na+-K+-ATPアーゼおよびNADPHオキシダーゼによる酸化ストレスを介して尿細管細胞での酸素消費を増大させることが明らかとなった。

次に、5/6腎摘ラットを用いた実験では、偽手術群に比べ血清インドキシル硫酸濃度が有意に増加し球形吸着炭で改善していた。酸化ストレスマーカーのニトロチロシンの組織染色や低酸素マーカーのピモニダゾール染色もインドキシル硫酸濃度と同様の推移を示した(図3)。このことより、インドキシル硫酸はin vitroでもin vivoでも尿細管細胞で酸素消費量を増加させ、低酸素から尿細管間質障害をもたらしたと言えた。 

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2)インドキシル硫酸はEPO産生を抑制し酸素供給を低下させる

我々の研究室のChiangらは、インドキシル硫酸がHIF(hypoxia-inducible transcription factor)[低酸素誘導因子:細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されてくるタンパク質]依存的にEPO産生を抑制することを示した。

ヒト肝細胞癌細胞であるHepG2に低酸素を誘導するとEPOのmRNA発現が上昇しHIF-αが細胞質内から核内に移行するが、インドキシル硫酸を加えると核内移行が有意に抑制され、転写活性も同様に抑制された。

ラットにHIFを安定させる塩化コバルトを投与するとEPOのmRNA発現、血清濃度が上昇するが、インドール投与により血清インドキシル硫酸濃度が上昇すると両者とも有意に低下した。

したがって、インドキシル硫酸はHIF-αの核内移行を抑制することでEPOの発現を抑制し、酸素の供給不足をもたらすことが示された。なお、末期腎不全患者の腎性貧血では硫酸が関与している可能性も示唆される。

3)インドキシル硫酸は酸化ストレスから小胞体ストレスを惹起する

我々の研究室のKawakamiらは、インドキシル硫酸が小胞体ストレスマーカーのCHOP(C/EBP homologous protein)の発現を上昇させることを示した。

ヒト尿細管上皮細胞であるHK-2にインドキシル硫酸を加えたところ、濃度依存的にCHOPの発現が上昇していた。5/6腎摘ラットを用いた実験では、偽手術群に比べ有意にCHOP発現が上昇し、5/6腎摘+球形吸着炭群では有意に発現が低下した(図4)。 

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

また、HK-2にインドキシル硫酸を加えるとCHOP発現が有意に上昇するが、そこにN-アセチルシステインを投与するとCHOP発現は有意に低下した。

したがって、インドキシル硫酸は酸化ストレス[酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用]を介して小胞体ストレス[変性タンパク質が蓄積することによって引き起こされる現象]を引き起こす。これは短期的には酸化ストレスに対する応答と考えられるが、長期的には細胞障害をもたらすと考えられている。

まとめ

インドキシル硫酸は、尿細管細胞において酸素消費を増大させること、EPO産生抑制から酸素供給を低下させること、酸化ストレスを介して小胞体ストレスを誘導することなどがわかってきており、インドキシル硫酸による酸素代謝異常が尿細管間質障害をもたらすメカニズムの一つとして重要であることが明らかになってきた。しかし、尿毒素が尿細管間質障害をもたらすメカニズムはまだ不明なことが多く、今後の研究の発展が期待される領域である。

4.“球形吸着炭:クレメジン®は心血管疾患を制御できるか”

はじめに

腎臓障害に伴う心臓障害の発生、いわゆる心腎連関が大きな関心を集めているなかで、慢性腎不全で蓄積する尿毒症毒素(uremic toxin)の存在が注目されている。血管内皮障害や酸化ストレスを介した臓器障害の原因と考えられているインドキシル硫酸(IS終末糖化産物(AGEs)[タンパク質と糖が加熱されてできた物質。強い毒性を持ち老化を進める]非対称ジメチルアルギニン(ADMA)[一酸化窒素生成酵素の内因性阻害物質]の存在が重要と考えられており、そのなかでも血中IS濃度を低下させる球形吸着炭(AST-120;クレメジン®)は、尿毒症症状の軽減や透析導入の遅延が期待できる治療薬として発売された。近年、心血管疾患の抑制にも有効であることを示唆するデータが報告され、腎臓だけでなく心血管に対する作用も注目されている。本稿ではuremic toxinと動脈硬化の関連性、球形吸着炭の作用および動脈硬化に対する球形吸着炭の効果について概説する。

■ご参考:“「閃く経絡」(心と腎)”(過去ブログ)

西洋医学の心臓と腎臓、東洋医学の心と腎について書いています。