頭鍼・頭皮鍼の効果を考える

前々回のブログは脳性まひ児のリハビリテーションを手技の視点でまとめたものでしたが、現在、この手技に加え鍼(シール型の円皮鍼を含む)による施術も行っています。また、この中には頭部に刺す頭皮鍼も含まれています。

3歳、4歳といった幼児は頭部に刺鍼する際、じっとしていないという難しさがあります。また、拒否されないために通常では用いない細い鍼(02番[0.12mm]、もしくは03番[0.10mm])を使っているため、刺鍼はさらに難しくなっています。その結果、狙ったポイントから微妙にずれてしまうことがほとんどで、その場合の鍼の効果はどうなのだろうという思いをもっていました。これが、今回このテーマを取り上げた理由です。

なお、拒否が強まると、“泣く”という事態になるのが普通ですが、『脳性麻痺と機能訓練』の著者である松尾先生は“愛護的訓練の重要性”の中で以下のようなお話をされています。私も、”泣く=拒否⇒心・脳‐筋肉への効果はあまり期待できないだろう”という認識です。 

『機能訓練は徹底して愛護的に進められるべきである。これは泣くことによって起こる動きは、早い動きの緊張状態であり、訓練の効果を否定するものだからである。随意的かつ抗重力的な動きとは、泣くといった不快な状態では引き起こすことはできない、柔らかいゆっくりした動き(単関節)であり、快適な状態で初めて活性化できるものである。』

 

頭鍼・頭皮鍼について2017年3月に“YNSA(山元式新頭鍼療法)”というタイトルのブログをアップしていますが、独学のYNSAを施術に使っていたのはその時の患者さまだけです。

また、頭部への刺鍼は、代々木の研修時代に全身調整穴の一つとして教わった懸顱(ケンロ)または懸釐(ケンリ)という経穴(ツボ)を使っています。さらに頭頂付近にある百会(ヒャクエ)や、懸顱(ケンロ)の背側にある卒谷(ソッコク)などもたまに使うことはありますが、頭皮鍼として頭部に集中して刺鍼するような施術は行っておりません。

これも、頭鍼・頭皮鍼の効果を考えてみたいと思った理由です。 

図の中央、上から懸顱(ケンロ)と懸釐(ケンリ)の経穴(ツボ)が並んでいます。なお、この図は経穴と動脈の位置関係を表したもので、懸顱と懸釐はいずれも浅側頭動脈の近位にあります。また、図は添付していませんが、顔面神経が近くを走行しており、三叉神経第三枝(下顎神経)の分布域の中にあります。

画像出典:「経穴マップ」

こちらは“YNSA(山元式新頭鍼療法)”でもご紹介した淺野先生の著書です。こちらに頭鍼の効果に関する記述がありますので、まずはそれをご紹介させて頂きます。

『頭鍼によって大脳皮質の血流が活発化する作用原理だが、鍼には留鍼しておくと、毛細血管を広げる作用があることは確認されている。頭皮には、びっしりと毛細血管が張り巡らされて頭髪を栄養している。だから頭鍼や項鍼して頭皮の血流を活発にすると、まばらだった頭髪が生えてくる。頭蓋骨には細かな穴がたくさんあって、頭皮と頭蓋骨内部を連絡している。頭皮の毛細血管が拡張すれば、当然にして繋がっている頭蓋内側の血管も拡張し、血流が活発化するはずだ。血管ならば1カ所が拡張すれば、それと繋がる部分も拡張する。だから「頭皮へ刺鍼すると、頭皮の血管が拡張するために、その頭蓋骨内部の血流も活発化する」と考えたほうが合理的だ。』

このように、ここで指摘されていることは血液に関するものでした。血流の改善は自律神経の改善とともに科学的に明らかにされた鍼の大きな効果です。 

こちらは、東京都鍼灸師会のホームページからダウンロードできる『科学も認める はりのチカラ』という冊子です。この中に血流や自律神経に関する効果についての解説があります。

 

一方、『経穴マップ』という本には「中国の古典説」というものが紹介されています。左下の“頭鍼療法の理論(説)”がその内容です。鍼灸や漢方の専門家でないと理解不能な内容と思いますが、ひとことで言えば、”血気は脳に集まる。故に重要である”ということだと思います。また、右下の“頭鍼療法”には概要や歴史が簡潔に紹介されています。  


なお、今回は「中国の古典説」ではなく、現代医学の視点から「血流の改善」という効果に着目して考察を進めます。

最初に頭の外側にある血管、外頚動脈について調べてみました。

執筆:佐々木真理、升森義昭

監修:窪田 惺

出版:メディカ出版

初版発行:2008年10月

画像出典:「脳の神経・血管解剖」

外頚動脈は総頚動脈から内頚動脈とともに分岐し、顎・顔面領域、頭皮、硬膜などを広く栄養します。

顎動脈

・中硬膜動脈:棘孔を通って頭蓋内に入り、硬膜を広く養う。

・下歯槽動脈

・深側頭動脈

・蝶口蓋動脈

・下行口蓋動脈

・眼窩下動脈

・etc

上甲状腺動脈:甲状腺を養う。

舌動脈:舌を養う。

顔面動脈:顔面を養う。

上行咽頭動脈:咽頭を養うほかに、下位脳神経や頚静脈孔・大孔周囲の硬膜を栄養する神経硬膜動脈幹を分岐する。

後頭動脈:後頭部の頭皮を養うほかに、硬膜枝(小脳鎌動脈)分岐する。

後耳介動脈

浅側頭動脈:頭皮を広く栄養する。

側副血行路外頚動脈の枝の多くは相互に吻合しています。また、内頚動脈や椎骨動脈とも多数の吻合を持っています。これらは内頚動脈や椎骨動脈の閉塞などの際に側副血行路として重要な役割を果たします。

これを見ると、頭蓋骨の外側を流れる血液は頭皮だけでなく、様々な組織を養っていることが理解できます。さらに、内頚動脈や椎骨動脈とも多数の吻合をもっているということですので、脳の内部にも波及しているということになります。淺野先生は著書(“頭皮鍼治療のすべて”)の中で『血管ならば1カ所が拡張すれば、それと繋がる部分も拡張する。』とお話されていますので、その意味でも脳全体の血流に関わっていると考えられます。

続いては、明治国際医療大学さまのホームページからです。内容は一部抜粋です。詳しくはホームページでご確認ください。なお、MRI(磁気共鳴コンピュータ断層撮影装置)では血流動態が把握できます。

『脳神経外科学ユニット樋口敏宏教授は本学附属病院で外来診療も行う脳神経外科医。現代医学のドクターが鍼灸治療の科学的解明という研究をリードするのも明治国際医療大学ならでは。』 

【研究報告】“鍼灸が「なぜ効くのか」をMRIによって明らかに

ここでは、次のようなことが書かれています。

研究のベースとなるデータ収の方法は、鍼を身体いずれかの経穴に打ち、その時の脳をMRIで“輪切り状態”で撮影していくというもの。その反応は脳幹に近い二次感覚野(センサリーフィールド)に多くあらわれており、これによって「経穴への刺激とは、実は脳への刺激である」という、鍼治療の基礎領域が科学的に立されつつあります。また、経穴によっては痛みのコントロールに関連するといわれている視床下部が反応していることも明らかになりました。 

『経穴を鍼刺激した脳(ヒト)の活動/MRIを使った脳機能磁気共鳴画像では、鍼灸が中枢神経に与える効果を安全に測定することができます。』

ご参考fMRIとは東北福祉大学さまのサイトより

『普通のMRIは病院で使われているように、脳の構造を非侵襲的に測る最も優れた方法として知られています。fMRIはMRIのもたらす構造情報の上に、脳の機能活動がどの部位で起きたかを画像化するものです(左図)。在来、脳の神経活動で起きる電気磁気現象をMRIで直接検出するのが大変難しく、脳機能をMRIで測ることは不可能とされてきました。ところが、MRIの信号には小さいながら、脳の生理現象の変化と共に変わる成分があり、それが脳機能活動と関連した信号変化として捉えられることが示されました(小川 他、1990、1992年)。これがfMRIの始まりでBOLD法と名づけられています』

ここで注目すべき点は、脳の血流動態の変化は頭部に限らず、体表への刺鍼でも脳に影響を及ぼすことができるという点です。

下記は明治国際医療大学さまとは無関係の資料ですが、題名は“経穴部位の刺激と脳の反応部位のまとめ”と書かれています。なお、下部に経穴(ツボ)が明記されていますが、これらの中には頭部の経穴は一つも入っていません。 

下肢の経穴:KI3、KI7、LR2、LR3、SP6、SP9、GB37、ST36、ST40、ST44、BL62

上肢の経穴:LI2、LI4、PC6、PC7

画像出典:「鍼灸臨床最新科学」

うつ病に関しても、脳の血流が関係しています。

以下は過去ブログ“うつ病治療(TMS)”からの抜粋です。

『うつ病の人では、この前頭前野のDLPFCの活動が落ちていることがわかっています。もし、うつ病特有の意欲や注意力の低下の向上、認知機能の障害を改善したかったら、DLPFCの活動を増大させればよいのです。脳の血流を調べて、その血流量が増大していれば、そうした意欲や認知などの症状が改善していると考えられます。  


画像出展:NHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」

※画像はブログ“思考の部屋”さまから拝借しました。

著者:永野剛造

出版:三和書籍

初版発行:2014年6月

中国の事例になりますが、“48例の後遺症への効果の検討”についての紹介がされています。また、この症例報告はネット上にもありました。下記をクリックするとサイトに移動します。

朱氏頭皮鍼の脳血管障害による片麻痺に対する効果

ここでお伝えしたかったのは、以下の内容です。

『朱氏頭皮針療法実施における中国と日本の違いですが、中国では早期より積極的に頭皮針治療を行うため、その効果もよく出ています。日本では、朱氏頭皮針での治療をするにしても、病院を退院した慢性期の患者さんばかりです。

それも週1回か2回の通院治療が限度となっています。このような状況のもと、日本において頭皮針治療がいかに効くかということを実証するのは簡単ではありません。朱明清医師の実績にいかに近づけるのかが今後の大きな課題です。

朱氏頭皮針は、「導引、吐納」を行うことを重視していますが、「導引」とは運動、あんま、体育を総称するもので、「吐納」は呼吸で濁気を吐き出し、清気を吸うことです。

朱氏頭皮針は鍼を刺して運動療法を併用することで、理学療法も同時に行うところに特徴があります。したがってより治療効果を上げるには理学療法士との協力体制をつくることが重要です。

中医師(中国の伝統医学である中医学を実践する医師)が一般的な医療行為の中で鍼治療を行う中国と異なり、一部の例外を除き(日本でも鍼治療を行う医師の方がいます)、鍼灸師が鍼治療を行う日本では、開始時期や頻度の問題は極めて難しいと思います。一方、鍼治療と理学療法を総合的に取り組んでいくということは、この問題に比べれば可能性は大きいと思います。

ブログの冒頭に「(刺鍼点が)微妙にずれる」ことに対する懸念をお伝えしているのですが、著者の永野先生が行っている治療(頭のツボ)を拝見すると、頭部中央前方に“基本となるツボ”があります。これは偶然にも私が行っている「百会⇒前頭葉」の刺鍼エリアに近いものでした。

また、血流の改善という視点に立てば、刺鍼ポイントが狙ったところからずれても、効果は期待できるだろうということが分かりました。


なお、永野先生の永野医院は渋谷区幡ヶ谷にあります。

『「頭皮針」聞きなれない言葉なので簡単に説明しましょう。

一般に体にうつ針を「体針」と言います。一方、局所を使って治療する方法を「微針法」と言い、例えば、耳を使う「耳針法」は有名です。このほかにも、頭、足の裏、手のひら、目の近辺などの局所は全身を反映するといわれます。この頭のツボ刺激する方法を「頭皮針」と言います。ですから、「頭皮針」とは局所を刺激して病気を治す「微針法」の一つといえます。

我々が取り入れている「頭皮針」は閻(エン)先生が開発した脱毛症の針と、朱先生が開発した「中枢神経障害」に対する針で、治療の方法は全く異なりますがどちらも体針を併用いたします。 この二つの「頭皮針治療」は非常に効果が高く、何回かテレビにも取り上げられました。