経筋療法

この本は多分専門学校時代に購入したものだと思います。ちょっと思っていた内容と違っていたこともあり、放置状態となっていました。 

出版:創風社

初版発行:2003年12月

著者:富田満夫

1960年長崎大学医学部卒。整形外科専攻、国公立病院、岡山協立病院を経て、1972年大浦診療所勤務。医学博士、労働衛生コンサルタント

当院の施術は古典と言われる「経絡治療」であり、“本治・標治”という二本立てになっています。簡単にご説明すれば、“本治”とは患者さまの病状に即した基本穴を用い、自然治癒力を高めることを目的とします。一方の“標治”とは患者さまが抱える痛みや凝りなど困っている症状に着目します。

現在行っている標治の基本は、触診で硬結などの普通でない箇所、生きたツボ(ツボは本来、体調不良のときに出るものと考えています)を探し、鍼をすることです。腱や靭帯、関節包など軟部組織全体が対象ですが、刺鍼ポイントは筋腱移行部を含めた筋肉および筋膜が大多数になります。

筋肉に鍼を刺すと細胞レベルの修復作業である、副交感神経が優位になり血行が改善されるという効果が期待されます。これは鍼を刺すという物理刺激による直接的な効果といえます。この効果に着目するならば、特に“筋肉”の働きや特徴を知ることが重要になってきます。これについては解剖学からのアプローチが一般的ですが、“関連痛”を考えるならば筋肉にできたトリガーポイント(重要な硬結)に対する理解も有効です。整理すると、現在行っている標治のキーワードは“筋肉/筋膜/トリガーポイントに対する物理的刺激”ということになります。

今回のテーマである“経筋”もやはり“筋”が主役です。しかしながら、これは東洋医学(経絡治療)に含まれるものです。つまり、経絡治療においても筋肉を特別な存在として眺めているということになります。

標治には”阿是穴”(「あー、そこそこ」というツボ)もありです。効果が期待できるものは積極的に取り入れます。このように経筋を学び、必要に応じ施術に取り入れることは、“標治の引き出しを増やす”という価値があると思います。 

なお、ブログは施術頻度の高い腰下肢に絞っており、上肢については触れておりません。

こちらは、古典の重鎮である本間祥白先生による経絡図です。経絡をイメージして頂くために載せました。

最初に、なぜ医師である富田先生が『経筋療法』という本を手掛けられたのかについてご紹介したいと思います。

これは“はじめに”に書かれたものの一部です。

『著者が無床診療所に整形外科医として勤務して、最も困ったことは慢性の運動器の疼痛、すなわち腰痛、肩こり、関節痛の患者が多く、少しも治ってくれないことであった。

そのうちになぜか患者が増え始め、馴れぬ管理業務と過労で持病の腰痛も悪化し、ほとんど燃え尽きる寸前となってしまった。

「このままでは倒れてしまう、なんとか腰痛だけでもなおしたい」と思うにまかせぬ身体を持て余していた。たまたま拾い読みしていた「医道の日本」誌に、仙台の橋本敬三先生が行っている現在の「操体法」「経筋療法」(間中善雄)として紹介していた。

直感的にここに真実を感じて、患者が少ない正月明けに休みをいただいて橋本先生の診療所(温古堂)にお邪魔することになった。

日本操体学会さまのサイトです。

操体法の世界を支えているのは、治療だけではないもっと広い思想です。 

レトロな感じ、ホンワカした感じのDVDです。裏表紙にしたのは、拡大いただくと橋本先生のプロフィールやDVDの内容が確認できるためです。

著者:橋本敬三

出版:農山漁文化協会

発行:1977年6月

”操体療法の基本型”はⅧまであります。

画像出展:「万病を治せる妙療法」


私は「人間は動く建物である」と考えています。簡単な三角屋根の家の四隅の柱を四本の足として、棟木を背骨と考え、これに首と尾をつければ動物であり、さらに後足で立ち上がったかたちが人間です。ただの建物であれば動きませんが、この建物は動きまわると考えてください。動くからこそ、からだを操って健康を守ろうという理由も出てくるわけです。建物に構造上のくるいがあっては健康はまっとうされない。そればかりでなく、動き方にも故障があってはならない。構造にも動き方にもちゃんと自然の法則はあるのです。これが人体の基礎構造です。』

画像出展:「万病を治せる妙療法」

当時はまだ患者も少なく、多くは農村の人たちであった。

暇なときは畳みの間の診察室の火鉢を囲んでお茶を飲み、菓子を頬張りながら東洋医学の話に聴き入った。議論するだけの予備知識もなく、先生の飄々とした話ぶりではあるが壮大な内容に圧倒されるだけであった。たまに患者が来るとしばらく一緒に菓子をつまみ、世間話をしておられる。患者とともにゆったりと流れる時間をうらやましく眺めていると、やおら「はじめるか」と立ち上がり患者をベッドに寝かせた。

真冬で着膨れしている東北農民の背中を上から「痛いのはここか?」と押さえただけで、患者は跳ね上がった。とんでもないところにきたものである。

先生は患者の訴えには必ず根拠があり、他動的に患者を動かすと、訴えに一致して脊椎や関節の運動障害を認めることを実例でもって示された。またこの症状を改善するには、疼痛や運動制限のない方向に運動をさせて抵抗を加え脱力させる。すると面白いように症状がとれていくのを目の当たりした。

時には足指に力を入れさせて、身体全体が動くことを示し、末梢からの運動でも全身へ影響があることを、患者の動きで示された。患者の足指1本に力を入れさせ、脱力するだけで遠隔部位の痛みをとる神技のような手技を見せられたのである。

西洋医学の中央集権的(?)な発想しか持たなかった著者は、末梢から中枢へ、左から右へあるいは斜めにと自由な発想の東洋医学にはまだついていけなかった。

先生の著書や論文をいただいて帰り、早速患者に応用したが、中には気持ち良くて術後電車の中で眠ってしまい、終点まで行った人もいた。

そのうちに多忙のため針灸師にこの技術を伝えて行ってもらい、このためいつのまにか日常診療の中ではほとんど用いられなくなってしまった。

しかし橋本先生の妙技の記憶は鮮やかであり、このような安全で効果的な方法についての解明や開発は常に意識の底にあった。

日常診療上は最も多い難治性の中高年女性の腰痛、肩こりの対応に苦慮して、試行錯誤を繰り返した結果、これらの愁訴は一定の法則性を持っていることがわかった。

しかも他覚的にも脊椎、股関節、膝関節の運動制限、下肢とくに母趾の筋力低下など明らかな運動器の症状を有しており、いわゆる「不定愁訴」ではない。

簡単な運動療法や前陰である婦人科的治療がきわめて有効であることがわかり、筋骨格器系と生殖器系との関連を示すこれらの事実をまとめて出版し、軽視されやすい「不定愁訴」に対する理解を求めた。

この本のことで間違いないと思います。中高年女性の腰痛は、確かに治りづらいという印象を持っていたこともあり、“日本の古本屋”で見つけたこの本を思わず買ってしまいました。

 

このとりくみの中で経絡との関連を想定して、ほとんど記憶にとどめていなかった「霊枢」(経脈・経筋篇)再読して驚いた。そこには著者が調査した症状と基本的に同じ症状が記載されているではないか。まさに「前陰は宗筋のあつまるところ」(素問)である。著者が20年間苦心して調査した結論は、すでに2000年前に古人の知るところであったのである。

経筋を再検討してみると、その症状は文字どおりの筋の痙攣、緊張、弛緩、こわばりなどの筋活動すなわち運動器との関連が大きいことがわかる。

数少ない経筋を利用した治療に関する文献を見ても、経穴または燔鍼[焼き鍼]などによる鍼治療であり。「操体法」のような筋活動を利用して改善を図る治療法は見られない。したがって、運動器疾患として再度整形外科の立場から挑戦することにした。

経筋には難解な陰陽五行説の影響があまりないこと、五臓六腑との関連が少ないことなど、著者のような東洋医学の素養に乏しい医者にとって好都合であったことも事実である。

このことは東洋医学になじみがない医療関係者、いや患者自身にもとりくめる可能性を持っている。

そのうち症状のある部位を通る経筋の末梢の指に、「操体法」の手技を行っても、症状が改善することがわかった。橋本先生の妙技が曲りなりにも再現できたのである。

とりわけ肩こり、頭痛、腰痛、下肢症状など、難治性の全身症状を持った中高年女性の症状が、指一本の治療で瞬時に症状が消失、軽快していく事実に、あらためて古人や先輩への畏敬と感謝の念にあふれるのであった。 ~』 

こちらは操体法を紹介する写真です。

画像出展:「経筋療法」

“経絡”の全体像です。よく出てくるのは上段左の“十二経脈”と呼ばれるものですが、経脈には他に“奇経八脈”という8つの脈があります。この中では体幹前面中央(正中)の“任脈”と体幹後面および頭部中央(正中)の“督脈”の2つの脈は“十二経脈”と同様によく使われる一般的な経脈です。

また、経脈とは縦の流れになります。横の流れは経脈の下に書かれている絡脈です。つまり“経絡”とは縦の経脈+横の絡脈によって体全体を網羅します。

図の右半分にあるのが”経筋”ですが、よく見ると“十二経脈”を補完する位置づけになっています(“十二経脈”から破線でつながる)。こちらも“十二経筋”以外に“経別”と“皮部”というものがあります。

画像出展:「経筋療法」

“十二経脈”と“十二経筋”の1番の違いは臓腑へのつながりの有り無しだと思います。有るのが経脈であり、無いのが経筋になります。

思うに古人においても、内臓主導の病と筋骨格系の病(症状)の両面から診ていたと想像します。そして、施術においては経筋という尺度を必要に応じて取り入れていたのではないでしょうか。

以降、6つの足の経筋をご紹介します。最初は経筋の流れです。続いて、経筋内の関節と運動方向です。これにより経筋の走行と働きがイメージできると思います。なお、掲載されている画像は全て「経筋療法」からです。

各関節の運動方向(足関節の底屈/背屈など)については以下のイラストでご確認ください。

 

 イラストは全て「改訂版ボディ・ナビゲーション」からになります。



1.足の太陽経筋

足(第五趾外側爪甲部)⇒下腿後面⇒膝窩⇒大腿後面⇒臀部⇒背中⇒頚⇒頭⇒顔(鼻)

[別行]肩⇒胸⇒首⇒顔(目)


膀胱経筋の関節と運動方向

①足趾関節:伸展(第5趾

②足関節:底屈・外反

③膝関節:屈曲

④股関節:伸展・内転・外旋

2.足の少陽経筋

足(第四趾爪甲部)⇒下腿外側⇒膝外側⇒大腿外側⇒側腹部⇒腋前方⇒側頚⇒側頭⇒顔(下顎→頬→目)

[別行]膝外側⇒大腿前面外方膝蓋骨

[別行]大腿外側⇒臀部(仙骨)

  


胆経筋の関節と運動方向

①足趾関節:伸展(第4趾

②足関節:底屈・外反

③膝関節:屈曲(伸展)

④股関節:伸展・外転・内旋

3.足の陽明経筋

足(第二趾外側爪甲根部)⇒下腿前外側⇒膝蓋骨外縁⇒大腿外側⇒臀部(大転子付近)⇒脇⇒脊柱(内部を通過)

[別行]足背⇒下腿前面(脛骨)⇒膝蓋骨内縁⇒大腿前面(伏兎穴)⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])⇒腹⇒鎖骨上窩⇒首⇒頬⇒鼻⇒目

  

  


胃経筋の関節と運動方向

①足趾関節:伸展(第3趾

②足関節:背屈・内反

③膝関節:伸展

④股関節:屈曲・内転・外旋

4.足の太陰経筋

足(第一趾内側爪甲根部)⇒下腿内側⇒膝内側(脛骨関節顆)大腿内側⇒大腿上部⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])⇒臍⇒腹中⇒胸中

[別行]腹中⇒脊柱


脾経筋の関節と運動方向

①足趾関節:伸展(第1趾

②足関節:底屈・内反

③膝関節:伸展

④股関節:屈曲・内転・外旋

5.足の少陰経筋

足(第五趾下面)⇒下腿内側(太陰経筋に並行[後方])⇒膝内側⇒大腿内側⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])⇒脊柱⇒後頭骨

 


腎経筋の関節と運動方向

①足趾関節:屈曲(第5趾

②足関節:底屈・内反

③膝関節:屈曲

④股関節:伸展(屈曲)・内転・外旋

6.足の厥陰経筋

足(第一趾中央甲根部)⇒下腿内側(太陰経筋に並行[前方])⇒膝内側⇒大腿内側⇒陰器(前陰[宗筋が集まる所])

 


肝経筋の関節と運動方向

①足趾関節:伸展(第1趾

②足関節:底屈(背屈)・内反

③膝関節:屈曲

④股関節:屈曲・内転・外旋

末梢における経筋の診断

富田先生は経筋の診断について次のような見解をお持ちです。

『すべての経筋をテストするのは煩雑であるため、著者は以下のように簡略化して行うことも多い。

橋本先生から末梢の関節の重要性について教えられ、指関節(特にMCP関節[中手指節間関節])が伸展・屈曲に際して動診上も所見があることに気づいた。したがって各経筋が起点を持つ指のMCP関節を他動的に屈伸して、その抵抗と自覚症状を検索する。他動運動の方向により動筋パターンまたは拮抗筋パターンを決定する。

注)写真は“拮抗筋パターン”です。

『背臥位で四肢を伸展・軽度外転位で全身の脱力を指示する。母指側から小指側へ順に指をかえて、他動的に軽く母指または示・中指で負荷をかけてテストを行う。両側同時に同時の負荷をかけ左右差を診る。緊張した経筋の抵抗の左右差を見るのであり、軽い負荷から徐々に増加して行う。前述のように下肢の影響が大きいため下肢から行う。

動筋パターンのテストではこの逆の他動運動でテストを行う。』 

下部のコメントの最後に「下肢は腹臥位の方が容易である」と書かれています。これは四肢を診る場合はまとめて診られる“背臥位”、下肢だけなら“腹臥位”が良いという意味だと思います。

画像出展:「経筋療法」

経筋と髄節性神経支配

髄節性神経支配には、皮膚分節(デルマトーム)、筋分節(ミオトーム)、骨分節(スクレロトーム)の3つがあり、それぞれ脊髄の髄節から伸びる末梢神経との関係を示します。一般的には皮膚感覚や筋力(MMT:徒手筋力検査)の状態から神経学的な責任神経根を特定するという目的で利用されます。

本書の中では次のような説明がされています。

『Foerster, Keeganらの髄節性神経支配(皮膚分節)を見ても、ともに経脈、経筋のような体幹と四肢の間に連続性を持たない。

しかしながら四肢の筋・骨格の髄節性神経支配(筋分節・骨分節)によれば、Inmanらが述べているように、体幹から末梢にかけて連続性を認めることができる(図6-4)。

したがって、今後の経絡治療の参考になることを願って検討を行った。 

前面、後面とも左から”皮膚節”、”筋肉節”、”骨格節”になっています。

画像出展:「経筋療法」

『各経絡の経穴と関連する筋を列挙して、それぞれの髄節性神経支配を図示し、共通する髄節を検討した。』(ここでは、下肢の”表6-14-1”のみになります)

『下肢の方が共通する率が高く、膀胱経(S1)/胆経(S1)/胃経(L4)/腎経(S1):100%、 肝経(L4):75%、 脾経(S1):60%であった。』

 


富田先生の見解は次のようなものです。

『重要な下肢筋(特に陽経)の髄節性神経支配において共通する率が高い事実は、PNF[固有受容性神経筋促通法]における最適パターンと経筋の運動方向の一致率が下肢の経筋において高かったこととあわせて今後解明するべき興味ある課題と考える。』

この表をざっと見ると、L4にもS1にも関係しない筋は、腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)のみであることが分かります。これは、L4とS1に対して施術を行うと腰下肢の筋群に幅広く影響を与える可能性があるという意味です。なお、腸腰筋L2・L3になります。

脊髄は頸髄(C1~C8)、胸髄(T1~T12)、腰髄(L1~L5)、仙髄(S1~S5)の計30の髄節から成っています。 

『脊髄とは、延髄から体の下に向かって伸びている細長い円柱状の神経・神経線維の集合で、脳と身体の運動神経や感覚神経などを結ぶ役割を担っています。脊髄から出た神経は、脊椎の孔(椎間孔)から体のさまざまな部位に派生しています。また、脳と脊髄を合わせて中枢神経系といわれています。』

画像出展:「Medical Note

こちらは腰神経叢および仙骨神経叢の図です。腰神経叢はT12(第12胸椎)~L4(第4腰椎)、仙骨神経叢はL4~S4(第4仙髄)に渡って末梢神経が下肢に向かいます。

最も太い坐骨神経(脛骨神経+総腓骨神経)はL4~S3から末梢神経が出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」