宮市選手の怪我について(足関節捻挫)

先月(ドイツ時間6月28日)、宮市選手が所属しているドイツ・ブンデスリーガ2部のザンクト・パウリは、宮市選手が紅白戦で右膝前十字靭帯断裂の大怪我を負ったことを発表しました。
圧倒的なスピードを武器に、高校卒業後ヨーロッパサッカーに挑戦。大きな魅力と可能性をもった宮市選手の負傷は大変残念なニュースでした。
私も「慢性怪我病」に悩まされたサッカー人として、どういうことになっているのか、今までの経緯などを知りたくなり、ネット検索で宮市選手の怪我の履歴を調べてみました。

 

2011年11月 左足首捻挫
2012年4月 右肩負傷
2012年11月 右足首靭帯損傷
2013年3月 右足首靭帯損傷
2014年3月 左ハムストリング損傷
2015年7月 アキレス腱痛
2015年7月 左膝前十字靭帯断裂
2016年9月 右脚肉離れ
2017年6月 右膝前十字靭帯断裂

 

大雑把に言うと、「足首捻挫→肉離れ→膝の靭帯」という経緯ですが、私の場合も同じようなパターンでした。もっとも、ボールを蹴るスポーツであるサッカーにおいて、擦り傷や打撲を除くと足首の捻挫が多いのは十分に予想されるものです。一つ気になるのは、多くのサッカー選手は足首捻挫を楽観的に捉えてはいないだろうかという懸念です。

高校生の私は、「捻挫なんてたいした怪我ではない」とまじめに考えず、酷いときは全く伸縮性のない幅広のガムテープを持ち出し、足首をガチガチに固定して試合に出たこともありました。自分の体を大切にしない愚かな行為で体は悲鳴をあげていたと思います。

このように足首の捻挫は無理すればプレーできてしまうところに大きな問題点があります。
宮市選手などの一流アスリートの中にも、厳しい競争に直面している状況などから、受傷後の適切なケアが十分ではない選手も多いのではないかと想像します。
そこで、「適切のケア」とはどういうものなのか、今更ですが、謙虚な気持ちで「足関節捻挫」を理解し、どのような対応を取るのが良いのか調べてみました。
今回、勉強の材料とさせて頂いたのは「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」という本です。ブログは主に第2章(足関節捻挫)の「足関節内反捻挫の病態と予後」から、そして、サッカーに関する内容を中心に取り上げています。

 

監修:福林徹、蒲田和芳

出版社:ナップ 

この本は文献を調査分析した内容となっています。文献検索はPubMedを用い、「epidemiology(疫学)」「ankle(足首)」「sprain(捻挫)」などの用語と各種スポーツ名を組み合わせて検索した結果、1,831件が抽出され、29文献が第2章で選択、参考とされました。

その、第2章の概要説明は次のような書き出しになっています。
『足関節捻挫はスポーツ外傷のなかでも発生頻度が高い疾患である。しかしながら治療が十分でなかったり、機能低下を残したままスポーツ活動に復帰する例が多く、再受傷の頻度が高い。この理由としては、ある程度の期間休んでいると疼痛が軽減することや代償的な動きにより日常生活やスポーツ活動ができてしまうことなどから、機能改善のためのリハビリテーションが十分に行われないことがあげられる。そして機能低下が残存した状態で競技復帰した選手は後遺症に悩まされる可能性が高い。』

これは、40年前とほぼいっしょ。やはり、選手側の実状は変わっていませんでした。


上の2枚の絵は、捻挫の受傷例を紹介しています。

いずれも、「足関節捻挫予防プログラム」からの出展です。

 

 

左は「外反」と「内反」を紹介した写真です。

足首の捻挫としては圧倒的に内反の捻挫が多くなっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

出版会社:日本医事新報社

 

足関節捻挫の疫学
1.サッカーに見られる特徴
・文献では、足関節外傷の発生率は11~31%であり、そのうち足関節捻挫は60~70%です。他のスポーツと比べると外反捻挫(三角靭帯、前脛骨腓靭帯)の発生率の高さが特徴です(17.7%=14.3+3.4)。これはインサイドキックをやシュートブロックの際にボールが足尖付近に当たることでの受傷やボールを蹴る際、軸足に対して外側からのタックルなどでの受傷が多いためと考えられます。

 

画像出展:「足関節捻挫予防プログラム」

出版会社:ナップ

 

 

 

 

 

 

前距腓靭帯は、下の左図(外側面)、三角靭帯は、右図(内側面)に出ています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 画像出展:「人体の正常構造と機能」

・文献の中に内側縦アーチの高さと捻挫の発生率の関係を報告したものがありました。
自分自身の話になりますが、私は偏平足です。ということは代表的な「ローアーチ」に分類されます。下段のグラフは「イスラエルにおける女性国境警察学校の訓練期間における足関節捻挫」の調査でサッカーとは無関係ですが、この調査データを見ると、初回捻挫でも「正常」の倍以上の発生率となっており、「再発捻挫」は数倍の発生率になっています。つまり、ローアーチでは慢性捻挫への移行リスクが非常に高いということがわかります。
つまり、偏平足の選手は正常の足の選手に比べ、例えば、予防のためのテーピングや、練習後のケアなどに時間をかけ、人一倍、足関節捻挫、特に再発捻挫に注意しなければならないということが分かります。


上左図は、内側縦アーチ(土踏まず側で衝撃吸収)・外側縦アーチ(バランス保持)と横アーチの図です。出展は「人体の正常構造と機能」からです。 

 

 

左図は「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」からの出展です。ローアーチの受傷が圧倒的に多くなっています。

・下のグラフはサッカーの試合時間と足関節捻挫の発生率のグラフです。勝敗を左右する前後半の終盤の攻防、特に後半は負けているチームは、疲れたディフェンス陣を切り裂くような俊敏なフォワードを投入してきます。こうなると、疲労のピークの中で体を張ったぎりぎりのプレーが求められますので、捻挫に限りませんが怪我の確率は高まります。
対策は鍛えることです。120分走りきる走力や止まれる体をつくることです。そして、怪我への意識を高め、必要十分なケアを日々心がけることだと思います。

 

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

2.損傷部位
・急性足関節内反捻挫の調査では、損傷部位が多岐に渡っていることが明らかになっています。
 ・足関節・足部の骨折
 ・骨軟骨損傷
 ・靭帯損傷
 ・腱損傷
 ・神経損傷

 画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

・MRIによる急性内反捻挫の損傷部位の調査では、次のように報告がありました。
 ・外側の軟部組織
  ・96%…前距腓靭帯
  ・80%…踵腓靭帯
  ・27%…短腓骨筋
  ・13%…長腓骨筋
 ・内側の軟部組織
  ・53%後脛骨筋 
  ・13%…長母指屈筋
  ・ 7%…長指屈筋
  ・ 6%…三角靭帯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

このMRIによる調査で注目したいのは、内反捻挫でも内側に損傷が発生することで、特に後脛骨筋が50%超えているというところです
後脛骨筋については、過去のブログ(後脛骨筋腱機能不全症)で紹介させて頂いているのですが、ここでは「トリガーポイントマニュアル(トリガーポイントの原点ともいうべき書。著者はJanet G.TravellとDavid G.Simons)」から後脛骨筋のトリガーポイントをご紹介します。この本には各筋肉毎にキャッチフレーズのような見出しがついているのですが、後脛骨筋は「ランナーの強敵(邦題)」となっていました。
慢性捻挫でアキレス腱から内果付近に疼痛があって、この絵の「✖印」付近に棒状の硬結があり、押すと、思わず「ウッ」となる強い痛みがある場合は、後脛骨筋のトリガーポイントが原因になっている可能性が考えられます。

3.重症度分類
・グレードⅠ…靭帯の損傷がなくストレッチされた状態でわずかな腫れと圧痛があり、わずかな機能低下があるかないか、構造的な関節の不安定性がない状態
・グレードⅡ…中等度の疼痛と靭帯の部分損傷があり、損傷部位付近の圧痛と腫脹があり、可動域制限と軽度から中等度の関節不安定性を有する状態
・グレードⅢ…靭帯の完全損傷で、強い腫脹、出血、圧痛、機能低下、異常運動と関節不安定性がある状態

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徒手検査では完全断裂のケースを除いて正確性に課題があります。正確な損傷部位の診断にはMRIによる画像診断が必須です。

画像出展:「整形外科徒手検査法」

4.腫脹
・腫脹は足関節の内反捻挫に起こる代表的な徴候の一つです。
・MRIを用いた観察した報告では、足関節捻挫直後に腫脹が認められた例は108例中23例(21.3%)です。腫脹は捻挫直後から徐々に減少しましたが、7週以上経過しても数は0にはならず、直後に腫脹した患者の約半数に腫脹が残存していました。
 
5.可動域制限
・足関節捻挫では可動域制限が多くみられます。捻挫後の背屈制限を捻挫3日後と10日後に計測し、比較した調査では差は見られなかったとする報告がありました。

 

6.神経筋機能低下
・急性内反捻挫において96%に損傷がみられる前距腓靭帯には低閾値で反応が速いタイプⅡと、高閾値で反応が遅いタイプⅢの固有受容器があります。その多くは靭帯の付着部に多いのですが、この付着部は損傷部位となることが多いため、靭帯損傷に伴い固有受容器による機能が低下すると考えられています。

 

 

 

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

・足関節捻挫受傷後の浅・深腓骨神経の伝導速度を測定した報告では、受傷後4~8日で浅・深腓骨神経の伝導速度が低下し、5週後に差はなくなりました。また、重症度別に受傷2週間後の腓骨神経・脛骨神経の伝導速度の低下の有無を調べた報告によると、グレードⅡでは腓骨神経で17%、脛骨神経で10%、グレードⅢでは腓骨神経で86%、脛骨神経で83%の患者において伝導速度の低下が観察されました。

上左図は総腓骨神経(深腓骨神経・浅腓骨神経)が、左図には脛骨神経が出ています。

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

6.荷重制限(跛行[歩行制限])
・足関節捻挫では荷重制限はよくみられる症状です。報告の中には、可動域制限が大きいほど患側の歩幅、片脚支持時間が減少し、反対に健側の立脚時の時間が増加したというものがありました。

 

足関節内反捻挫の予後
1.スポーツ復帰
・復帰時期は組織の治癒過程を考慮すべきです。
 ・前距腓靭帯の治癒過程
   1~3週…血管増殖、線維芽細胞増殖、コラーゲン形成
   3週後~…コラーゲンの成熟
   4~8週…コラーゲンの成熟が継続 →この頃から復帰が可能になると考えられている。

       目安は受傷後7週間。
・スポーツ復帰に要する日数
 ・グレードⅠ…8日
 ・グレードⅡ…15日

 

2.後遺症
足関節捻挫の後遺症に苦しむ患者は多く、復帰後6週の時点で復帰選手の55%に後遺症がみられ、6ヵ月後でも40%に後遺症が残ったという報告もあります。
・急性期の圧痛の部位と7年後の圧痛の部位の変化に関する別の報告では、急性期に前距腓靭帯に圧痛があったケースでは、その32%が同部位に、23%が足関節前外側に、16%が内果に、29%が前足部の靭帯に圧痛が存在するとしています。

 

3.再受傷
・グレードⅡ、グレードⅢの捻挫の発生率は、足関節捻挫の既往のあるものに高いという報告があります。
年間3回以上の捻挫を慢性的な足関節捻挫とし、その発生率について7年間の追跡調査を実施したところ、慢性的な足関節捻挫に移行した患者は全体の11%でした。
 
4.まとめ
・足関節内反捻挫は損傷部位が多岐に及び、症状が持続し、後遺症や再発のリスクの高い損傷です。
・足関節内反捻挫の画像診断は有用です。
・足関節内反捻挫の予後は重症度のほか、足関節の機能や荷重能力などを組み合わせることで予測しやすくなります。

 

できることなら
・足関節内反捻挫を受傷してしまったら、それが「グレードⅠ」と思えば8日間、「グレードⅡ」と思えば15日間、「グレードⅢ」なら15日間以上、この期間は通常の練習を休み、サッカーシューズは履かず、サッカーコートには足を踏み入れず、もくもくとケアとリハビリに集中する。これを守り実践する。
そして、チームスタッフだけでなく、選手一人一人も自分の体のケアを優先するという習慣を身につけること。

これができるならば、と思うのですが。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この図に出ている「バランスボード(アンクルディスク)」は、固有受容覚が関係している神経筋機能を改善するものとして評価されています。

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

Big News!(2018年9月21日ドイツ)宮市 亮 選手復活!

宮市亮が復帰戦で自ら祝砲! 2年4カ月ぶりのゴールに雄叫び

宮市選手の不屈の精神に感動します。心から応援します。

画像出展:「SoccerKING」