筋衛星細胞

松坂投手やベッカム選手の驚異的な怪我の回復の話は覚えていました。それが、マイクロカレント療法によるものであることは、高林孝光先生の『慢性腰痛は3日で治る』という著書で知りました。

高林先生は柔道整復師でもあり、鍼灸師でもありますが、同時に多くの新しい電気治療を組み合わせた治療に取り組まれています。その中核の一つが、マイクロカレント療法になると思います。

この療法の特徴は、微弱な電流を発生させる機器を用い、損傷個所の治癒を促進させます。これは細胞組織の再生スピードを高めることで実現させるものですが、主な対象はコラーゲン組織になるため美容目的での利用も注目されています。

著者:高林孝光

発行:2011年2月

出版:幻冬舎

 

微弱な電流がなぜ効果を発揮するのか?」 

調べてみると、最も重要なキーワードは筋衛星細胞であることが分かりました。今回のブログはネット上の情報を元に、”筋衛星細胞”がどんなものであるか、その概要を理解することです。

参考にさせて頂いたのは以下の3つです。

1.「早く治ってパワーもアップ!? 注目のちょこっと電流」NHKクローズアップ現代 2019年3月

2.「栄養素ビタミンB6の筋衛星細胞を制御する新たな機能性を発見」広島大学 2022年1月

3.「持久力トレーニングが衛星細胞発現に影響に関する研究」順天堂大学 2008年(PDF1-2/6)

 注)上記3ですが、5月6日に確認したところ削除されていたので、保存していたPDF資料を添付させて頂きます。

ダウンロード
持久力トレーニングが筋衛星細胞発現に及ぼす影響に関する研究.pdf
PDFファイル 357.7 KB

1.「早く治ってパワーもアップ!? 注目のちょこっと電流」

『感じられないほど微弱な電流が、治療やスポーツの世界を一変させようとしている。腕や足などに流すと、筋肉の疲労回復が早まり、肉離れやねんざなどのケガがより早く治ることが明らかになりつつある。』 

画像出展:「NHKクローズアップ現代」

桐生選手は「マイクロカレント」と呼ばれる、体にほとんど感じない微弱な電流を使う方法で、体のケアをされています。

 

画像出展:「NHKクローズアップ現代」

聖マリアンナ医科大学 スポーツ医学 藤谷博人教授はアメリカンフットボール日本代表のチームドクターを務められています。

「マイクロカレントをやった方が、何でこんなに(治療が)早いのかなと、本当に驚いた。一般の、今までの知識とは違う。非常に価値があると思った。」

 

1)なぜ、マイクロカレントはケガの回復を早めるのか

●ダメージを受けたマウスの足の筋肉に微弱な電流を流し、回復の過程を詳しく調べた結果、筋肉の修復を促進する、ある細胞に大きな変化が見られた。それは筋肉細胞の隙間にあるピンク色の点、筋衛星細胞である。

画像出展:「NHKクローズアップ現代」

 

筋衛星細胞の数は、微弱な電流を流すことにより2倍近くも増加。これが、ケガの回復を早めたと考えられる。

画像出展:「NHKクローズアップ現代」

 

2)マイクロカレントの特徴

●マイクロカレントは流れている電流が微弱な電流であること。

●今までの電気治療器が筋肉の収縮と伸展を繰り返して血流と痛みを改善するが、マイクロカレントは電流が流れている部分の細胞に直接刺激を加えることで、効果を発揮する。ただし、そのメカニズムもまだ研究途上の段階で不明なことが多い。

3)微弱電流が注目されている理由

●微弱電流の研究そのものが注目され始めたのは、ここ10年だが、さまざまな臨床的な効果の報告が出てきている。また、メカニズムについても、一部それを裏付けるようなデータが出てきつつある。その結果、一般の方からも注目されるようになってきた。

●米国などでは、痛みに対する医薬品の乱用が社会問題化しており、薬品に替わるもう手段として注目されている。

●微弱電流に関しては、脳への応用、脳からの電気を強化できる可能性があると期待されている。

2.「栄養素ビタミンB6の筋衛星細胞を制御する新たな機能性を発見」 

本研究成果のポイント

•骨格筋再生において中心的な役割を担う筋衛星細胞に対するビタミンB6の新たな役割を発見した。

ビタミンB6欠乏下では、骨格筋内の筋衛星細胞の数が減少する。

•ビタミンB6は筋衛星細胞の増殖能および自己複製能の維持に必要である。

研究成果の内容

【背景】

筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞です。通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在していますが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られています。しかし、筋衛星細胞の数および機能は加齢とともに減少し、しだいに筋量・筋力の維持が困難な状態へと陥ってしまいます。この加齢性の筋量・筋力低下は「サルコペニア」とよばれ、高齢者における転倒、寝たきりのリスクを上昇させるため、筋再生能力を維持・向上させることが健康的な生活において重要だと考えられています。近年の研究では、欧州諸国と日本のサルコペニア患者において、ビタミンB6の摂取量および血中濃度が低いことが報告され、ビタミンB6の摂取不足とサルコペニアには関係性があることが示唆されました。そこで本研究では、ビタミンB6とサルコペニアの関係性を明らかにするため、ビタミンB6がもつ筋再生能力への効果を、筋衛星細胞への影響を評価することで検証しました。

【本研究成果のポイント】

『ビタミンB6の摂取量による筋衛星細胞の変化を検証するため、ビタミンB6低濃度食または高濃度食を摂取させたマウスの骨格筋から単離した単一筋線維を培養し、単離後0、24、48、72時間後の筋線維上に存在する筋衛星細胞の状態を免疫蛍光染色によって観察しましたFig.1A-C

正常な状態では、衛星細胞は静止状態にあり、Pax7を発現していますFig. 1A

傷害や疾患により活性化されると、静止衛星細胞は細胞周期に入り、Pax7とMyoDを発現した状態で増殖を繰り返し、細胞集団を形成していきますFig.1B, C

その後、活性化した筋衛星細胞は、筋組織を修復するために筋細胞へと分化するものと、細胞数の維持のために静止型状態に戻る(自己複製する)ものに分かれると考えられていますFig.1D 

画像出展:「NHKクローズアップ現代」

 

本研究では、ビタミンB6低濃度食のマウスから単離した筋線維において、静止型筋衛星細胞数、活性化後の増殖数、および自己複製細胞数が有意に低下していることが明らかになりました。さらに、ビタミンB6不含培地で筋線維を培養することで、これらの細胞数がより減少することも明らかにしました。これらの結果から、ビタミンB6の欠乏下では、筋衛星細胞数が減少し、さらにその増殖能および自己複製能が阻害されることが示され、ビタミンB6の欠乏が筋再生能力を低下させる可能性が示唆されました(Fig1.D)。』 

3.「持久力トレーニングが衛星細胞発現に影響に関する研究」 

こちらの論文は2008年なので、順番としては1番古いものになります。

また、「1.緒言」の冒頭には以下のような記述があります。

筋衛星細胞は、筋線維の形質膜と基底膜の間に位置している単核の細胞であり、新たな筋核を生み出すための源であることが知られている。それゆえ、筋衛星細胞は、骨格筋の成長や修復のために必須な細胞であると考えられ、これまでに多くの先行研究において、筋力トレーニングにより筋衛星細胞数が増加することが明らかにされてきた。また、近年では、持久的トレーニングによっても筋衛星細胞数の増加が得られる可能性が示唆されている。』

結論は次のようになっています。

1)持久的トレーニングよる筋衛星細胞数の増加は、運動の強度が重要な要因であるが、低強度・長時間のトレーニングにも筋衛星細胞数の増加が期待される。

2)持久的トレーニングによる筋衛星細胞数の増加はType Ⅱ線維に出現し、その後の筋力トレーニングによる筋肥大の応答性を高めるために貢献する。

ご参考:筋線維のTypeについて

画像出展:「筋線維のタイプを知る!「第1話:白い筋肉、赤い筋肉?

TypeⅡはⅡb(速筋)とⅡa(中間筋)に分類されます。

 

まとめ

●筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞である。

●筋衛星細胞は、筋線維の形質膜と基底膜の間に位置している単核の細胞である。

●通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在しているが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られている。

●筋衛星細胞の数は、微弱な電流を流すことにより2倍近くも増加した。

●微弱電流に関しては、脳への応用、脳からの電気を強化できる可能性があると期待されている。

●ビタミンB6の欠乏下では、筋衛星細胞数が減少し、その増殖能および自己複製能が阻害されることが示された。

ご参考

追加で調べていて、筋衛星細胞は筋幹細胞、骨格筋幹細胞、筋組織幹細胞とも呼ばれていることが分かりました。用語を広げて検索してみるといくつか興味深い情報がありましたのでお伝えします。

1.疲労しにくい筋肉(抗疲労性筋線維)の形成の仕組みを発見” PDF5枚

2.”骨格筋幹細胞と筋肉の再生

3.”損傷した筋肉が筋幹細胞を活性化させることを発見

4.”なくならないのは技がある!(世界の幹細胞関連論文紹介より)