今回は“痙直型両まひの治療 Ⅱ.治療の考え方” からで中項目は全部で9つあります。取り上げたのは“5.足部の活性化”、“6.体幹近位部の動的安定性の活性化”、“8.痙直型両まひ児の立位と歩行”、“9.下肢の選択的な運動”の4つですが、今回のブログでは“8.痙直型両まひ児の立位と歩行”、“9.下肢の選択的な運動”について書いています。文章は箇条書きにしたものと、そのまま抜き出したものが混在しています。
なお、取り上げなかった5つは次の通りです。“1.早期治療”“2.頭部コントロールと上肢の治療”“3.良好な座位への促通”“4.座位での体幹活動”“7.座位からの立ち上がり”
8.痙直型両まひ児の立位と歩行
●立位では二足に荷重しながら頭部からつま先までの良好な軸を保持することが要求される。
●立位では上肢をリーチする時に左右一側への体重移動が求められる。
●歩行には、下肢を前方に振り出す際の重心移動の持続と身体の体軸内回旋のために、一側下肢による短時間の安定性支持が必要とされる。
●両まひ児は、身体を左右に振りながら無造作に歩くが、その子どもが立位を動かずに保持できるならば、正しい立位姿勢への適応能力を持ち合わせている。
●子ども自身で立つことができない場合は、はじめに立位のアライメントを整える治療をしなければならない。
●立位には多くの有益な点があり、立てる立てないに関係なく、セラピストは両まひ児の治療姿勢には立位を用いる。これは立位が他の姿勢と比べ、身体の垂直方向へのオリエンテーションと安定性を学習させやすく、二足への荷重経験もできる。また、立位はよりより歩行の発達の手助けにもなる。
●セラピストは正常発達においてどのように立位と歩行が獲得されるかを考える。立位・歩行のために、頭部からつま先までの運動連結を伴った正しい軸の発達が必要である。さらに、全身の各々の筋が最適な活動を行うためには、良好なアライメントの発達が必須である。特に足部のアライメントは重要で、立位・歩行バランスを足部とつま先で効率よく調整している。
●手の支持と視覚の発達も重要な要素である。両者が協調的に機能することで、安全で安定性のある立位を保持することができる(図C-102)。
●両まひ児の立位と歩行には2種類の大きな臨床像がある。1つは、上肢と手の支持が足りずに一人で立つことができないグループ。もう1つは、骨盤・体幹・頸部はゆれているが両下肢を正中位になんとかとどめて立つこと、歩くことができるグループである。
●立つこと、歩くことができるグループは、非対称が強く、身体各部が正中線から逸脱している。セラピストはこれらの臨床像を一つずつ解決していく。良い立位と歩行を獲得させるために、頸部と中枢部の動的安定性の活性化、足関節の背屈とつま先の動き、下肢の選択的な運動がとても重要である。
●子どもが足関節底屈位や固い足部で立位をとっていれば、たとえ短下肢装具を用いても、下肢は棒のように固くなり、強い内転と内旋を伴う伸展位となる。したがって、セラピストは足関節とつま先に運動性を十分に引き出し、動きを活性化させなければならない。
1)一人で立位がとれない痙直型両まひ児
(1)臨床像
●立つために必要な要素は、頸部と中枢部の動的安定性、上肢の自由な運動性、下肢と足部の良好なアライメント、下肢のオリエンテーションである。
●大切にしたいのは、歩行器やバーにつかまり、一人で活動的に立つことを励ますことである(図C-103)。
●頸部の動的安定性の欠如は、肩甲骨と上肢運動を含む肩甲帯の発達を妨げる。そして、上肢の外側空間への伸展が未経験となる。さらに両眼が正しく位置されないことで視覚の問題が生じ、やがて視知覚認知障害をきたす。この問題には前庭系システムが関与している。また、他の原因として、体幹の動的安定性の乏しさや過緊張による骨盤の強い傾斜は、下肢の非対称をまねく。これらの問題は複合的に絡み、立位バランスを維持する時に体幹と頭部の過伸展が助長される。
(2)治療アイデア
a)良好な立位を獲得するためには、はじめに軟部組織を柔軟にして運動性を十分に引き出す。次に、脊柱と骨盤の分節的な運動性を得て身体を良好なアライメントへ整える。また、足関節は少なくとも0°以上の背屈を引き出すことで、下肢の選択的運動を獲得させやすい。
b)立つ時に上肢を伸ばしてもバーをつかめない場合には、セラピストは、はじめに上肢と手の支持を治療する。
c)体幹近位部の動的安定性を背臥位・側臥位・座位で活性化し、頭部からつま先までの運動連結を獲得させる。
●歩行器による立位で、セラピストは骨盤の回旋を促す。はじめに骨盤を前方に回旋させ、次に骨盤を中間位に戻すことを求める(図C-106)。
徐々に骨盤に抵抗を与え運動方向を誘導していく。これを繰り返すことで、骨盤の動きを促通する。同時に骨盤の正中の位置も教えていく(図C-107)。
両側の骨盤を同じように治療し、立位における動的安定性を発達させる。これはコア筋の育成の治療でもある。
d)上肢や手による支持が難しい時は、治療台やテーブルを使って腹部に支持を与える。そして、足部に体重を荷重する学習をさせ、身体の正中位を教えていく(図C-108)。
e)足部が不安定な時は、治療時に短下肢装具を用いてよいアライメントに導く。足部の変形は下肢と骨盤に悪影響を及ぼすため、短下肢装具によるアライメントの修正は体幹や下肢を伸展方向へ伸ばす「きっかけ」を与える。同時に良好な支持基底面をつくることができる(図C-109)。
さらに、足部の運動は下肢の運動を促すため、短下肢装具で立位をとっている時もセラピストは常に足部とつま先の動きは考えておく。
2)立位や歩行ができる痙直型両まひ児
(1)臨床像
●立位、歩行ができる両まひ児は多い。
a)立位・歩行はできるものの、足部のダイナミックな運動の欠如とコア筋の弱化のために腰椎前弯と頭部は過伸展を呈してしまう(図C-110)。
b)立位・歩行はできるが、頸部と体幹の動的安定性の乏しさや下肢の過緊張のために頸部・体幹・骨盤は正中線から逸脱してしまう(図C-111)。
c)過緊張の左右差により骨盤が非対称なまま立位や歩行を行うと、下肢の不良なアライメントを悪化させる。過緊張は、一側骨盤を後退させ、股関節を内転・内旋させる。その結果、大腿骨と脛骨を内側に引き込み、足部のアライメントを不良にする(図C-112)。
●両まひ児の立位では、下肢筋群の力の方向性が、内へ向いている(図C-113)。この力の方向性の変化は、足部の底屈と不安定性を生じさせる。また、正常な膝のロックをも困難にする。正常では膝関節を伸展する時、最後の20°で脛骨の回旋を伴うが、大腿骨と脛骨のアライメントが不良であれば、これが生じない。したがって、下肢のアライメントが不良な両まひ児では、膝関節を完全に伸展することができない。
●両まひ児が歩く時は、過緊張と中枢部の動的安定性の欠如により、体重負荷側の骨盤は後退し、膝関節は過伸展となる。そして、足関節とつま先を内側に向けて体重は足底の内側部のみで支える。これは足関節とつま先のアライメントを不良にさせる。そして、足関節やつま先の運動性を低下させ、中足骨の自由な動きを制限する。これらのすべては立位バランスに悪影響を及ぼす。特につま先の運動性の不良は、立位・歩行バランスに対して大きな問題となる。
(2)治療アイデア
●セラピストは、全身の運動連結があるアライメントの良い立位・歩行を目指していく。もし、これが実現できないと股関節は内転・内旋、骨盤は非対称、足部は不安定となるであろう。足部が底屈で不動となる場合、セラピストは足部の運動性とダイナミックな活動性を引き下げていく。強い底屈は常に股関節を内転・内旋させ、下肢の選択的な運動を消失させてしまうからである。
a)良い立位と歩行を目的に、セラピストは軟部組織を柔軟にさせ、脊柱・骨盤・下肢、特に足部のアライメントを修正していく。
●足関節周囲と股関節・骨盤周囲の筋群の運動性を引き出し、足部と骨盤が連結する運動の獲得が重要である。
●過緊張の分布、体幹の動的安定性の低下のため、股関節は強く内転・内旋し、骨盤はどちらか一方に後退する。これは、大殿筋、大腿四頭筋、ハムストリングスを短くさせ、筋の収縮の方向性も変えてしまう。
●筋の短縮や股関節の拘縮は、股関節の動きを制限し、両下肢の運動範囲を狭めてしまう。さらに、常に両下肢を同時に動かしてしまう。このような場合、セラピストが一側の下肢を屈曲した際、他側の下肢も同様に屈曲されることが観察される。これは「分離運動の乏しさ」と呼ばれる。
●膝関節の伸展の促通が難しい場合は、股関節と脛骨が変異している場合がある。このような状態では、大殿筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋、足部内在筋を正常に収縮させる感覚経験ができない。そのため股関節の位置を変えつつ骨盤のアライメントを修正し、各筋群が各々の役割を果たすことができるように働かせる。特に大殿筋は股関節を伸展で安定させるため、骨盤と股関節を安定させる働きをもつ。この安定は、大腿四頭筋の活動性を促すため、膝関節が伸展しやすくなる。そのため、セラピストが膝関節の伸展を得たければ骨盤と下肢のアライメントを良好にさせた後、膝関節の運動性を引き出しながら伸展を促通する。
●セラピストは、立位で膝関節の伸展ができない両まひ児に対して膝周囲だけではなく、下肢と骨盤のアライメントを詳細に評価する必要がある(図C-114)。
・セラピストは一方の下肢を安定させ、他方の股関節に運動性を与える。大転子を指で持ち、大腿骨を持ち上げつつゆっくりと外旋方向に動かす。これを繰り返し、骨盤を正しい位置に修正する(図C-115)。
・そして、膝関節を屈曲させ、内側ハムストリングスの長さを引き出す。同時に大腿骨頭を回旋させ、股関節周囲筋群を緩めていく(図C-116)。
●次に重要な大殿筋を活性化するためには、子どもに股関節を伸ばすように求める。もしくは、大殿筋に直接圧刺激を加える。大殿筋は股関節伸展に重要な筋であるため、活性化できると矢状面での骨盤の安定性が得られる。さらに膝関節の伸展も得られる(図C-117)。
・セラピストは下肢の選択的運動を促通するために両下肢にモビライゼーションを行う。
※メモ1
モビライゼーションに関しては、ネット上にあった“徒手的理学療法 診療ガイドライン”に次のような解説が出ていました。(クリック頂くとPDF[66枚]がロードされます)
『関節に対する手技である関節モビライゼーションは、制限された関節の副運動または関節の遊び(joint play)を徒手によって他動的に正常位置へ戻すことであり、比較的大きい振幅(large amplitude)を低速度(low velocity)で動かすこととした。』
『軟部組織モビライゼーションについては、主に筋や結合組織に対するマッサージやストレッチング等とした。』
『神経系のモビライゼーションについてはneurodynamics 手技(NDT)などがあるが、これは前述の組織内での神経系組織の過緊張や滑りの低下を改善する手技と定義した。』
・そして両下肢の左右の分離運動を促通するために、一側の下肢を伸展で保持し、他側の下肢を屈曲させ、いろいろな方向へ動きを与える(図C-118)。
・さらに、下肢を伸ばし骨盤に安定性を与え、子どもへどのように膝を伸ばすかを教える。その時、大腿四頭筋の収縮を確認する(図C-119)。
・この運動を繰り返し、子ども自身で膝が伸びる感覚を身体図式として認識させる。これは立位の準備になる。
※メモ2
“身体図式”を調べたところ次のような「脳科学辞典」には次のような解説が出ていました。
『じぶんが今椅子に座っていること、また、右足を左足の上に組んでいることをひとは観察によることなく直接知っている。あるいは、暗闇であってもじぶんが蚊に刺されれば、即座にその身体箇所に手のひらを持っていくことができる。このような場面で働いている身体に関わる潜在的な知覚の枠組みのことを、身体図式という』
『身体図式(body schema)という術語は、心理学、神経科学、哲学、ロボティクスで広く用いられ、心や意識の身体性、感覚運動統合を論じる上で重要な概念である。』
『意識下で作動する身体図式は、身体イメージとは区別される (body image)。身体イメージとは、「私は、身長170cmで、瘦せ型である。大きな耳を持っている。」というような顕在的な自己身体に関する知識を指す。』
・最後にセラピストは骨盤を持ち上げるように求める(ブリッジ運動)。両足で床を押して骨盤後傾させながら骨盤を上げるように指導する。この時、腰椎過伸展に注意を払う。また、足関節部の背屈が十分に出現していることを確認する。この運動で、内転筋が過剰に働くことのない、大殿筋と大腿四頭筋の選択的活動を促通する(図C-120)。
●両まひ児が下肢を伸ばし始める時、股関節内転・内旋および足関節底屈が起こる。そのため、足関節背屈を伴う下肢伸展の練習がとても重要となる。それには、大腿四頭筋と大殿筋の協調的な活動、下肢の選択的な運動、骨盤の正中位保持が必要である。
・以上の治療の後に、セラピストは歩行器を使って子どもを立たせ、その中で膝の伸展を促す。
b)子どもは立位で膝関節を完全伸展することはできない。これは非対称的な骨盤と足部の固さが、大殿筋と大腿四頭筋の協調的活動を阻害しているためである。治療開始時に、まず足部とつま先のモビライゼーションを行う。骨盤の正しいアライメントと中枢部の動的安定性を得るためには、足部とつま先の動きが必要である。セラピストが短下肢装具を使って立たせた時も、同様につま先の動きは必ず促通する。さらに、内反・底屈した足部では支持基底面を安定させることは難しい。よって、足部はバランスをとるためには欠かせない。なお、前述したように足部とつま先の活動は、座位姿勢で獲得させやすい。セラピストは歩行器で子どもを立たせ、はじめに体幹と骨盤の軸を正中位で保てるように調整していく。そして、セラピストは片足を持って骨盤から真直ぐ下ろし、膝関節の完全伸展を促す。反対側の下肢も完全伸展するように求める。次にセラピストは手を離して、子ども自身で両膝を完全伸展位で保持するように求める(図C-121)
c)歩いている時、身体の連結および頸部と中枢部の動的安定性の乏しさが明らかとなる。これは歩行中、正中線上に頸部と体幹が保持できないことで観察できる。つまり、頸部と体幹は主に荷重側に屈曲しながら動揺して歩く(図C-122)。
さらに、中枢部の動的安定性の乏しさは、両下肢のリズミカルな振り出しを阻害する。つまり、身体を前方へ倒れこむようにして歩く時は、中枢部の動的安定性の代わりに頸部・上肢・体幹を過伸展することで、歩行バランスの「釣り合い」をとるため、母趾と足底内側に過剰に荷重されるので、蹴り出しが困難となる(図C-123)。
このような場合、セラピストは体幹をキーポイントにして足部から頭部までのアライメントを前額面で同一線上にになるようにハンドリングにより整える。その後、子どもに足を伸ばすように求める(図C-124)。
その他の特徴的な立位・歩行パターンは、頭部・体幹・下肢が屈曲を示すクラウチング(かがみこみ)姿勢である。この場合、セラピストは姿勢制御歩行器(PCW:posture control walker)を用いて、体幹を治療する。これで、前頭面上での良いアライメントを誘導できる。またその際、骨盤と体幹は同一線上にさせると、下肢の良好な伸展が得やすくなる(図C-125)。
d)頚部の側屈を伴い歩く時は、体幹は捻れるか、もしくは側方に傾く(図C-126a)。
または、頸部の過伸展がみられる(図C-126b)。
その際、セラピストは頸部を安定させ、身体の正中線に運動軸をつくり、その軸を中心にして体幹の回旋を促通する(図C-127)。
そして、体幹を回旋させながら骨盤も回旋させて下肢のステッピングを促通する(図C-128)。
e)頭部を運動の要として発達させるためには、セラピストは対象物の方向へ向かって頸部を回旋させて伸展させる(図C-129)。
さらに、対象物を両眼でみるように求める。対象物への両眼視は重要であり、正中線が軸となる頭部コントロールの促通となる(図C-130)。
その他の治療として、セラピストが体幹を把持し、体幹の一側を伸展・回旋させながら対象物を両眼でみるように求める(図C-131)。
さらに、立位姿勢で子どもに右側もしくは左側の対象物をみるように求める。この方法でセラピストは、側方への重心移動を導くことができる。この時、セラピストは頭部・体幹・骨盤が適切に回旋しているか、荷重側の頭部・体幹が伸展しているか、前方の下肢のステッピングが促通されているかを確認する(図C-132)。
f)体幹の過伸展で歩いている場合、胸骨を手で軽く支え、下方へ圧を与えて安定を促しながらセラピストの足で子どもの骨盤を軽く押して正中位に整える(図C-133)。
そして、セラピストは体幹の屈曲方向の動きを活性化させる。また、(図C-100)などの治療を行う。
9.下肢の選択的な運動
正常発達では中枢部の動的安定性が働くと、体幹と骨盤の連結が生じる。さらに中枢部の動的安定性は両下肢を中間位とさせ、股関節・膝関節・足関節の選択的な運動を可能にさせる。両まひ児では、中枢部の動的安定性の不足と足部の運動の乏しさにより、下肢の各関節に選択的運動性が足りない。そのため、両下肢は、股関節の外転を伴った屈曲、足関節の底屈を伴った膝関節屈曲のように、共同的に動いてしまう。さらに、両まひ児は中間位で下肢を選択的に動かすことができない(図C-134)。
セラピストが側臥位で下側の下肢を伸展で保持し、上側の下肢を屈曲させ、両まひ児自身に上側下肢の伸展を求めると、伸展することはできるが、屈曲することができない。これが選択的な運動の欠如である(図C-135)。
さらに側臥位でセラピストが上側の下肢を股関節を90°屈曲させて膝関節の屈曲を求めると、子どもは膝関節を屈曲することはできるが、次に膝関節の伸展を求めると伸展することはできない(図C-136)。
セラピストは、このようなパターンを破壊し、歩行のための選択的な運動を学習させる必要がある。もちろん最も要求される活動は、中枢部の動的安定性と足部の自由な運動性である。各々の子どもの治療プログラムの作成において、セラピストはすべての治療アイデアを統合して考えていかなければならない。
付記:マッサージの効果
脳性まひ児への施術について勉強していますが、ここであらためてマッサージの効果を確認したいと思い、過去のブログを見返しました。ブログは2016年2月にアップした“小児障害マッサージ”で、芹澤勝助先生の著書「マッサージ・指圧法の実際」から引用です。

『マッサージの効果も、指圧の効果も、ともに皮膚の上から加える [触圧](ふれる、おす) 作用で、直接には循環系に働き、間接には神経反射により神経、筋肉系に影響を与える施術である。
ところで、触圧感覚とはどういう感覚なのかというと、この感覚は、皮膚や筋膜、筋肉、腱、関節などに機械的なエネルギーをあたえたとき、つまり、さわったり、なでたり、こすったり、もんだり、おしたり、ふるわせたり、たたいたり、ひっぱったりしたときに起こる感覚のすべてをいうのであり、このうち筋肉や筋膜、腱や関節に起こる触圧感覚を深部感覚といっている。 -中略-
いま皮膚が、なでられ、おされ、ひっぱられると、この条件変化により、それぞれに対応する受容器が変形を起こし、受容器が興奮する。この興奮は受容器に入り込んでいる知覚神経線維により、脊髄神経節を介して脊髄に入る。 -中略-
要約すると、皮膚刺激→触圧→触圧の受容器→知覚神経→脊髄(上行する線維、下行する線維、自律神経「交感神経」に連絡する線維、脊髄のそれぞれの高さでの反射弓をつくる線維)→延髄→大脳(間脳の視床→皮質)を伝導路とすることとなり、皮膚感覚のすべては、一応間脳の視床に集まり、大脳皮質に達するのである。
マッサージや指圧による治療効果として現れる生体反応の多くは、触圧による機械的な作用もさることながら、神経反射によって起こるものであろう。生体における一連の反射作用は、神経の末梢で起こる軸索反射と、求心性伝導路の脊髄レベルで起こる反射(脊髄反射)とがあり、さらにもっと高位の中枢(間脳の視床と、自律神経の高位中枢である視床下部との間に起こる)の複雑な関連機転によって起こるものとがある。特に中枢神経系の機能の主なもの反射機能であり、脳脊髄神経系の反射と自律神経系の反射である。
神経痛の「いたみ」や「しびれ」、運動神経系の痙攣などにマッサージや指圧が効く理由の主なものは、脳脊髄神経系の反射機転を介するものであろうし、循環系や広汎な内臓系のいろいろの症状や不定愁訴の症状群(たとえば頭痛、めまい、耳鳴り、不眠、肩こり、便秘など)に効く理由は自律神経反射が主役を演じているのであろう。しかし人間の体は有機統一体なのであるから、お互いに絡み合いの機転であろうが、その間には、おのずから主役的あるいは脇役的に働く機転があるはずです。』
また、「マッサージの科学的に証明された効果」とタイピングし検索したところ、厚生労働省の“「統合医療」情報発信サイト”に掲載されている記事が出てきました。なお、情報の発信元は日本ではなく、米国のNIH(National Center for Complementary and Integrative Health)です。かなり細かく説明されています。