脳性まひの治療アイデア1

“動くことができる患者さま”に適切な施術を行うため、まずは正しく知る必要があることを痛感し、ここまで3冊の本で学んできました。

脳性まひ児の発達支援」は2011年発行ですが、「小児の理学療法」は2002年、「脳性麻痺と機能訓練」も2002年(初版は1995年)とやや古い本であることが気になっていました。そこで、もう少し新しい本はないかと思い、見つけた本が今回のものです。初版は2010年ですが第2版は2014年です。最新とはいえませんが、本のタイトルが気に入り購入しました。

正常発達 脳性まひの治療アイディア
正常発達 脳性まひの治療アイディア

著者:Jung Sun Hong 監訳:紀伊克昌 訳:金子断行

出版:三輪書店

初版発行:2010年4月

第2版発行:2014年10月

ブログは4つに分けています。今回の“1”は目次の黒太字の部分をご紹介しています。また、黒細字は“2”、“3”、”4”でご紹介する項目であり、それ以外の灰色はブログ対象外ということになります。

目次

A 姿勢コントロール

Ⅰ.定義

1.ヒトの動き

2.コア筋と頚部筋群

3.全体パターン

1)子宮内の屈曲姿勢

2)ランドー反応

3)高這い歩きとハイ・ガード歩行(両上肢を挙上させた歩行)

4.足部の動き

B 正常発達

Ⅰ.胎児期のステージ

1.子宮内での屈曲姿勢

2.屈曲姿勢の発達

1)全体パターン

2)頭部と体幹の連結

3)屈曲方向の動き

4)口腔運動、眼球運動、呼吸パターンの発達

5)伸展活動との釣り合い

6)情緒の安定・心理的安定

7)自己鎮静

Ⅱ.第1ステージ

1.生理的屈曲

2.子宮内と出生後の環境の相違

1)重力

2)子宮内と異なる感覚入力

3)身体図式

4)支持基底面の獲得

5)中枢神経システムの発達

6)食事

7)昼と夜

8)未成熟で反射的な動き

(1)探索反射

(2)嘔吐反射

(3)吸啜・嚥下反射

(4)咬反射

(5)頚部の立ち直り

(6)モロー反射

(7)初期起立、初期歩行

3.視覚の発達

1)単眼視

2)両眼視

4.感覚受容器の発達

Ⅲ.第2ステージ

1.対称的運動の発達

1)背臥位

2)腹臥位

3)体重移動

4)飛行機姿勢とずり這い

5)上肢支持による座位

2.伸展と内転の発達(ランドー反応)

1)背臥位

2)腹臥位

3)四つ這い位

4)寝返り

5)座位

Ⅳ.第3ステージ

1)背臥位

2)腹臥位

3)ピボット

4)四つ這い

5)両膝立ちと片膝立ち

Ⅴ.第4ステージ

1)座位

2)長座位

3)階段昇り

4)高這い、高這い歩行

5)スクワット

6)立位

7)よちよち歩き

8)歩行

C 痙直型両まひの治療

Ⅰ.痙直型両まひ児の臨床像

1.症例検討

1)症例1

(1)臨床像

(2)治療のアイデア

(3)治療の準備

2)症例2

(1)臨床像

(2)治療のアイデア

(3)治療の準備

3)症例3

(1)臨床像

(2)治療のアイデア

(3)治療の準備

2.治療アイデアの紹介

1)骨盤の運動性

(1)背臥位

2)脊柱の運動性

(1)側臥位

(2)横座り

(3)足関節とつま先の運動性

3.体幹近位部の筋群の育成

Ⅱ.治療の考え方

1.早期治療

1)胎児と母親の関係

2)屈曲姿勢

3)NICUでの治療

4)タオルを使った早期治療

2.頭部コントロールと上肢の治療

1)頸部の動的安定性の治療

(1)背臥位での治療

(2)側臥位での治療

2)上肢の治療

3)頭部と体幹の連結に対する治療

(1)側臥位での治療

(2)座位での治療

3.良好な座位への促通

4.座位での体幹活動

1)体重移動による体幹筋群の活性化

2)体幹回旋と体幹筋の活動

3)体幹屈曲と体幹筋の活動

5.足部の活性化

6.体幹近位部の動的安定性の活性化

1)下肢の伸展と脊柱の下部体幹の治療

2)下肢を交差させた膝立て背臥位

3)側臥位での治療

4)一側下肢からの寝返りの促通

7.座位からの立ち上がり

1)正常運動の考え方

2)治療のアイデア

8.痙直型両まひ児の立位と歩行

1)一人で立位がとれない痙直型両まひ児

(1)臨床像

(2)治療アイデア

2)立位や歩行ができる痙直型両まひ児

(1)臨床像

(2)治療アイデア

9.下肢の選択的な運動

D 痙直型四肢まひの治療

1.覚醒レベルの明瞭化

2.前庭動眼反射

3.運動パターン

4.呼吸パターンの改善

E アテトーゼの治療

1.知的レベルの高いアテトーゼ児

2.知的レベルの低いアテトーゼ児

F 付録

運動の質の評価

まずは、著者が書かれた“第2版の序文”を全文ご紹介させて頂きます。なお、それ以降は箇条書きに短縮したものと、文章をそのまま抜き出したものが混在しています。

第2版の序文

『脳性まひの治療で最も大切にしたいことは、正常運動と正常発達を基礎においた個々の治療プログラムを立案するためのバラエティーに富んだ運動の評価である。

脳性まひの子どもたちの運動は変化していくため、われわれは正常な感覚・認知・認識と関連している正常運動を理解しなければならない。

1970~1980年代には、脳性まひの子どもたちは、頭から足まで強い過緊張を呈し、緊張パターンの中で動いていた。そして、彼らは空間で動くことが難しく、同じパターンを繰り返しながら動くため、拘縮や変形を強めていった。その時代、セラピストは運動パターンを変化させ、過緊張を緩和させるために頭部をコントロールすることに専念していた。また、生存機能である呼吸、摂食、睡眠にも焦点をあてていた。

現在、脳性まひ児の約50~60%は未成熟で生まれ、過去の脳性まひ児とは異なった臨床像を呈している。過去の子どもたちの臨床像と比較すると、現在の子どもたちの中には、頭部コントロールの能力を有し、話ができ、食べることができ、一人で歩け、呼吸などに多くの問題を持ち合わせていない子どももいる。しかし彼らの多くは、まだ頭部のコントロールが不十分なため、姿勢コントロールの軸ができず、上肢の随意運動が上手ではない。

また、彼らは近位部の動的安定性の欠如、両下肢の過緊張により、下肢の活動が難しい。頸部と体幹の動的安定性の欠如は、特に筋の未発達が原因で起こり、座位や歩行時に姿勢が動揺する。筋の未発達は姿勢コントロールの問題を引き起こしてしまう。

主要な問題は全身の連結不足と不良なアライメントである。これはオリエンテーション、筋のアライメント、関節を変化させ、二次的に拘縮や変形にいたらしめる。

このような不適切で重大な問題、つまり筋の未成熟と感覚運動能力の乏しさは、明らかに脳の損傷がすべての原因ではない。つまり、母親の子宮内での在胎週数が短いことが、屈曲運動の機会を少なくし、このような問題を助長させる。

未成熟児は、下肢の過緊張はそれほど強くはないか、もしくはまだ過緊張が現れてきていない。そして、全身の連結不足、筋の未発達の問題も同時に存在する。この理由は、子宮内での運動感覚の発達が十分になされていないためである。しかも、側脳室周囲の損傷は、感覚、認知、さらに下肢の過緊張の問題を引き起こす。これらの問題は、未成熟児の発達を停滞させてしまう要因である。

最後に、未成熟児の治療においてセラピストは、どこが正常とは違うのかを評価し、愛護的に治療を進めなければならない。そして新しい経験をつくり、発達上の差を埋めていく、セラピストが新しい機能的運動を創造し、運動に変化を与えれば、緊張は減弱し、それに比例して正常な動きを獲得していくであろう。

2011年1月 Jung Sun Hong,PT,MPH

A 姿勢コントロール

Ⅰ.定義

1.ヒトの動き

●抗重力活動には筋骨格システムの発達、および良好な正中軸を伴った頭部から足先までの連結が必要とされる。

●中枢神経系は、目的動作のために目的を遂行する身体部位だけに信号を送るのではなく、同時にその他の身体各部にも信号を送り自動的に働かせる。

2.コア筋と頚部筋群

●頸部筋群とコア筋と呼ばれる体幹筋群は正中軸をつくる重要な要素である。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

コア筋は、常に共同し協調して活動する。これにより、身体が動くための基盤となる脊柱と股関節の安定的な構造がつくられる。

コア筋には、骨盤底筋群、腹横筋、多裂筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、脊柱起立筋(特に胸最長筋)、横隔膜、広背筋、大殿筋、僧帽筋といった筋肉が含まれる。特に腹壁を四方向から覆う、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋の4つの筋肉は、胸郭と骨盤の間に安定性を与える最も重要な筋群であり、体幹の屈曲・側屈・回旋時に骨盤を安定させる。

3.全体パターン

●姿勢コントロールは神経ネットワークシステムの構築と、全身の筋群の連結により発達する。

神経ネットワークシステムは、感覚情報を集約して運動のパターンと出力を調整し、姿勢と動作を環境に適応させる。

運動の反復は、神経ネットワークシステムの結合を強くする。全体パターンの反復は身体各部位の連結を強くし、結果的に運動のコントロールを円滑にする。

1)子宮内の屈曲姿勢

●子宮内での生理的屈曲により、全体パターンでの屈曲の要素が発達し、特に頭部と体幹の連結が発達する。

2)ランドー反応

●生後5~6カ月では床の上での腹臥位で全身の強い伸展パターンがみられる。この運動は、中枢部の発達と頸部から足先までの連結に必要不可欠である。この強い伸展パターンは、抗重力姿勢のための筋群の協調性を向上させ、立位や歩行にとって重要な準備となる。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

3)高這い歩きとハイ・ガード歩行(両上肢を挙上させた歩行)

●高這い歩きとハイ・ガード歩行は、正しい立位と歩行を獲得するための強い抗重力運動である。これらの運動は全身を連結させる全体パターンであり、水平面から垂直方向へと運動が質的に変化し、広く安定した支持基底面から狭くて不安定な支持基底面へと変化する過程である。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

●不十分な姿勢コントロール、運動軸の未獲得、頸部と足先までの連結不足、中枢部の不安定があっても、両まひ児は動くことができるが、体幹と下肢の過緊張は増強するため、骨盤と下肢を正中線上で動かすことは難しく、体幹の動揺を強めてしまう。

4.足部の動き

●足部は立位や歩行のために、強固な支持基底面を安定的に提供しなくてはならない。同時に質量中心を中央に維持させるため、ダイナミックに、重心の変化に対応しなくてはならない。

足部の背屈は、下肢の動きの中でも非常に重要な役割をもち、下肢筋群の選択的運動の発達に寄与する。特にブリッジにおいて、足部を背屈して殿部を床から持ち上げると、股関節内転筋に影響されることなく、殿筋群、大腿四頭筋、ハムストリングスが協調的に働く。ところが、足関節の底屈位で床を蹴ると、下肢の伸展筋や内転筋の活動が優位になる。 

画像出典:「Tarzan:“衰えやすい背面の筋肉を強化! 自宅で出来るブリッジトレーニング”

 『弱体化しやすいカラダの背面を鍛えるときに効果的なのが、「ブリッジ」。後ろ側の筋肉を連動させて、機能的なカラダになるだけでなく、姿勢がよくなり見栄えの面でも恩恵を受けることができる。6つのレベルのブリッジを実践して、鍛えづらいお尻、背中、太ももの後ろ側を自宅でトレーニングしよう!』

●乳児の立ち始めは、下肢のすべての筋群を同時活動(特に内転筋)させて下肢の伸展を強める。しかし、ダイナミックで安定性のある足部の背屈位で立てるようになると、下肢筋群は選択的に働くようになり、股関節内転筋の過剰活動は弱められる。

●足部とつま先のダイナミックな動きは、立位バランスを維持させる。さらに、歩く時には下肢の選択的な振り出しに寄与する。

両まひ児の治療において足部のダイナミックな運動は、全身が連結する動きを引き出し、また立位や歩行において下肢の選択的な伸展を促通する。そのため、セラピストは足部の活性化を常に考えなければならない。