日本流サッカー

昨夜は同点を狙った積極的な戦いをして欲しかったという思いから、喜び半分という気分でした。しかし、一夜明け16強のトーナメント表に日本があるのを見ると、予選突破の喜びがジワジワと迫ってきます。

そして、あの采配も物凄い決断だと気がつきます。同点を狙う積極策は点が取れれば英雄です。たとえ点が取れなかったとしても、その批判は限定的だと思います。一方、今回の策はセネガルが残り時間で同点弾を決めていれば、恐ろしいまでの批判に晒させることになったはずです。現実問題、成功しましたが厳しい批判も出ています。それでもこの作戦を選択したのは約10分間という残された時間において、日本が得点する確率と失点のリスク、そしてセネガルがコロンビアから得点する可能性を、純粋に分析、比較検討し最も予選突破の確率が高いもの、しかしながら、うまくいって当り前、できることなら選択したくないものを批判覚悟の上、勇気と信念をもって選択したという決断でした。そして、予選突破の目標はクリアされ、不調だった川島選手が復活し、多くの選手がピッチに立ち、主力選手の温存もでき、選手とスタッフが1枚岩になったという成果は、次のチャレンジにとって良い準備につながったことは間違いありません。

いよいよ次はベルギーとの大一番。ポーランド戦のモヤモヤを引きずらず、エネルギーに変えることができれば、日本の底力が爆発しW杯8強という快挙も夢物語ではないと思います。(今回のブログは「西野ジャパン」の続編です)

ロフスト・アリーナ
ロフスト・アリーナ

『スタジアムは町の風光明媚の地、ロシア最大級の川であるドン川沿いに位置する。スタジアムの北スタンドは一部オープン式で、そこから観客は川と町の美しい景色を鑑賞できる。』

画像出展:「ロフスト・アリーナ

今回のワールドカップの成果は、停滞気味の日本サッカーが直面していた危機感と、前回のブラジル大会の悔しさが強烈な原動力になっていると思います。そして、予選3試合を観て感じるのは日本サッカーが新たな段階に足を踏み入れようとしているという感触です。その感触とは日本流サッカー、日本型サッカーの胎動です。

そのサッカーの特長を「サッカー・インテリジェンス」と呼びたいと思います。その中核にくるのは日本人のDNAと思える【勤勉さ】、【和を尊ぶ心】、【素直な心】の3つです。その周辺にはメンタリティとして[リスペクトと勇気]、[闘志と冷静さ]、[分析力と修正力]、[責任感と助け合い]、そして[勝利のための自己主張]の5つを配置したいと思います。そして、最後の実行力として[圧倒的走力と俊敏性]、[強靭な体幹]、[正確に止める技術」、[正確に蹴る技術]を置きたいと思います。

サッカー・インテリジェンス
サッカー・インテリジェンス

自己主張はチームにとって難しい部分ではありますが、建設的な自己主張は絶対に必要です。自己主張が乏しいチームは強くなるチャンスを放棄しているようなものだと思います。

大西イズム

「縦の明治」、「横の早稲田」はラグビーの戦法を端的に語る言葉です。この早稲田の戦法は大西鐵之祐先生が編み出されました。当時、大学生だった私は大西先生の「コーチング論」の授業の中で、指導者が絶対に持っていなければならないものとして、「どのように勝利するかを選手に明確に伝え、選手がその方法を100%信じ、100%の能力を試合の中で発揮することだ。」と教わりました。今の時代で考えれば、その勝利する方法は一方通行ではなく、指導者と選手によってより良いものに築き上げるというものなのかも知れません。

そして、この指導者像に加え、大西イズムともいうべきスポーツと平和の関係性を考えることは、日本サッカーにとっても貴重な提言ではないかと思います。

著者:大西鉄之祐
「闘争の倫理」

出版:二玄社

この本の「あとがき」は次のような内容です。

『大学体育に関与してから三十七年、大学スポーツに関係して五十二年。私はその人生の大部分を早稲田の杜で生かされてきた。そしてスポーツとラグビーの研究に専念させてもらったのである。有難いことであった。ラグビーについては十数冊の著書によって自分の研究を発表して、いささかわが国のラグビー界に寄与したと考えているが、スポーツについては未だ著書を出していない。ここ数年来今回絶大な協力を頂いた伴一憲、大竹正次、栄隆男の三先生から、何回となく研究をまとめて出すよう要請されたが、不勉強で実現出来なかった。昨年心臓の大病で入院、九死に一生を得て現在自宅療養中である。三先生から今度大学を去る機会に発表しないともう機会がないと言われ、それではと決心した時は療養中で書くことが出来ない。仕方なく話を録音して原稿におこす方法となったため、こうした変わった編集の本となってしまったのである。

さてこの本はいままで個々に研究されて来たスポーツに対する研究が、将来どうしたらスポーツを通じての教育によって平和な社会の建設に貢献し得るかということを中心として書かれている。

今年は敗戦から四十一年、戦死した戦友の霊に感謝の念を捧げると共に、戦争に参加したものとして、現在の平和が永久に続くよう懸命の努力を払わなければならないと決意している。それではスポーツ指導者としてこの平和の維持に貢献するためにはどうした方策があるだろうか。

歴史上最も永い平和の期間を持っているのは封建社会である。何故だろう。それは文武の教育が徹底していたからだと思われる。宗教による平和の教育と武術を通じての闘争の倫理の教育がうまく調和して平和の維持が出来たのではないか。従って武の教育は闘争の倫理を体得させるのが目的であって、その流れをくむスポーツを通じての教育も、ゲームによる闘争の倫理を教えるのが目的であって、体力や健康の養成はその付随物に過ぎない。スポーツにおけるゲームを通じての、勝敗における闘争の倫理の教育こそ、今後の青少年の教育に最も必要なものであり、そうした闘争の倫理を体得した青少年が団結して社会の基礎集団としてのスポーツ集団を結成して社会的勢力をつくり、もし戦力を準備し或いは戦争に導かんとする政治家その他に対して断乎として闘いこれ等を落して行く覚悟をつくらなければならない。こうしたスポーツを通じての国際交流と闘争の倫理の教育を行うことこそ、平和を維持するスポーツ指導者の方策ではないか。こうした趣旨によって本書はまとめられている。 ~以下省略  1986年9月』

ブログでは「勝つチームを作るために」の中からご紹介させて頂きます。

勝つチームを作るために

◆理論指導における指導理念について

『ティーチング(理論指導)とコーチング(技術指導)の併用が重要なことを強調してきたが、理論指導の場合もその大部分は戦法、技術、練習等についての指導計画の解説に向けられて、肝腎の指導理念については簡単に終わってしまうことが多い。しかし教えられるメンバーが指導理念に全面的に共鳴し、信頼したものでない限り、戦法や技術論は枝葉末節になってしまう。そこで理論指導を利用して行った指導理念について説明しておこう。』

大西先生はチームワークについて次のようにお話されています

『相当練習したのに試合に勝てない現実にぶつかる。勝負を行うプレイヤーは皆個性を持った人間であるということである。これらのプレイヤーの人間関係が一つに統合されていないと絶対に勝てないということを悟る。チームワークとはチーム全員が或る目標に向って必ずやりとげるという共通の精神をもつことであり、唯観念的に持つというだけでなく、その意味を認識し理解し、しかも心から共鳴して信奉し、自分から積極的に協同行動を行うまでに昂揚されたものを持つ時チームワークは完成する。又チームは各プレイヤーに共通の精神を持って協働行動をとることを自然のうちに強要する。人間の精神というものは、各人がこうした共通の精神と目標を持った協働行動に自ら参加し活動するときに成長するものなのである。』

◆理論の注入と知性的行動

『最近のスポーツは国際的に、目的を達成するためにはどんな方法と手段を選ぶべきかという研究が始まってきた。ラグビーにおける各種プレイはトライをとるための技術であり、チーム戦術もまたトライをとるための技術である。そしてこれらの技術はその根底に裏づけとなる理論をもっている。理論的に研究された技術がこの理論指導で教えられ、練習によって実験され、反省し吟味し再組織されて、熟練的技術として戦法的に練習され、反省、吟味、再組織をくりかえしながら進歩して行く。こうしたスポーツへの理論の注入こそ、現代スポーツの特徴であり、現代ラグビーもこうした過程をたどって、勝利を目的として真剣に練習されているのである。

こうした戦法、技術、練習への科学的理論の注入は、とかく若いプレイヤーの陥りやすい衝動的なプレイを知性的プレイへと導く第一歩であり、スポーツこそ知性的行動だということを認識させ青少年達を向上と進歩へと導いて行く。人間が衝動的行動から知性的行動へ進んで行く最も確実な方法は、ある目的を設定しその目的を達成するために、各種の情報を収集して理論を構成し、それを実験して反省し吟味し再組織した理論を繰りかえして実験してゆく過程である。ここにラグビーを行う教育的な価値の一つを見出すのである。ラグビーをやる楽しさの一つは、ただラグビーが面白いからだけでなく、自分が考えた理論的技術が練習によって熟練的技術に向上し、それがゲームにおいて有効に実証されるという研究努力の累積による完成の楽しみなのである。』

大西先生が語っていた「不良少年たちであっても、スポーツに真剣に取り組み、勝利の喜びを知り、さらに周りからの評価を受けることで、本来の少年の姿を取り戻すものだ。」という内容は、強く印象に残った先生のお話の一つでした。

日本 vs スコットランド
日本 vs スコットランド

この写真はラグビーワールドカップ、決勝トーナメントを賭けたスコットランドとの一戦です(2019.10.13)。そしてこのトライは、芸術的なオフロードパスが選手から選手に受け継がれ生まれた最高のシーンです。大西先生は【接近・展開・連続】を提唱されましたが、このプレーはそれを進化させた究極のトライだったと思います。

画像出典:「新潟日報スポーツモア

展開・接近・連続」について詳しく知りたいと思い、大西先生の『ラグビー 荒ぶる魂(岩波新書、1988年11月発行)』を拝読しました。幸い、私が知りたかったことは「Ⅲ 国際的なチームをつくる(オール・ジャパンのチームづくり)」と「Ⅵ これからのラグビー(何をなすべきか)」の二つの章に書かれていました。

「ラグビー荒ぶる魂」より
昭和57年 菅平

画像出典:「ラグビー 荒ぶる魂」

オール・ジャパンのチームづくり

『従来のオール・ジャパンの選手は、いろいろなチームからセレクションしてきました。だから、早稲田の者は早稲田の者、明治の者は明治の者、みんな考え方が違う。どうしても一本にならない。一つのチームとしてやる場合には、かえってコンビがうまくいかなくて負ける。単独チームのほうが強い。単独チームのようにするには、戦法、やり方、戦い方を統一しなければいけないということを感じて、僕はその戦い方を、「展開・接近・連続」という言葉で簡単にあらわして、それを彼らに説明したのです。

日本のチームはどうも外国の模倣が多い。しかし、どこのチームでもその国の土壌の上に成り立った戦い方を考えていくのだ。よそのものをもってきて日本でやっても、それは借りものだから勝てない。そこで日本選手の特質というものをしっかり考えろと教えました。いままでのように体のでかい外人とフォワードでもみあっているようなことでは体力のロスである。だから、スクラムから早く球を出して、展開をなるべく早くして、その展開の中で相手と接近をして、その接近する間に相手を抜くということを考えた。要するに相手は長い槍でくる、こちらは短い短刀で戦うのだから、短刀で戦うには接近戦を挑まなければだめだ。日本人は接近戦は得意だ。接近をする間に相手を抜くということを考える、そのことが重要なのです。

もう一つはマラソンが強いことからも、日本のラガーマンは、長い距離を走ることを練習して耐久力、持久力をつけることはできると思う。その持久力を利用して、走って走って走りまくって、次から次へ連続プレーをやって相手をへばらす。そして相手の弱点を突いていく。これが「展開・接近・連続」という戦法の中心となる考え方なのです。』

何をなすべきか

 展開・接近・連続戦法をもう一度熟読玩味してほしい。それを盲信せよということではない。この理論の欠点は球の奪取がぬけているということである。球の奪取のために、そして「展開・接近・連続」の完成のために、過去の全日本の選手がどうやったかを考えてほしい。身体の小さい日本人が外人と対戦する時にふさわしい戦術はそんなにない。チームで組織的に定めて集中的にやらなければ到底かなわないのである。個々に勝手に努力しても無理である。連続プレーを休まずおこなうことが大事である。

追記

夢は一歩届きませんでした。残念な思いを引きずっていた時に嬉しいGood Newsが明るい気持ちにさせてくれました。

タイで行方不明になっていた、サッカー少年12人とコーチ1人の生存が9日ぶりに確認されたとのことです。

画像出展:「AFPBB News

付記

以前からキーホルダーくらいあった方がよいな。という思いもあり、Fanaticsというネットショップで見つけたロシアワールドカップグッズ2点をほぼ衝動買いしてしまいました。