動作法について

「動作法」は1960年代後半に、成瀬悟策先生によって提唱された一つの心理療法および心理学理論です。その後、自閉症・多動症児に効果があることが、筑波大学の今野義孝先生と大野清志先生によって確かめられました。
リハビリテーションが身体の可動域や筋肉の強さなどの生理的側面に重きを置いているのとは対象的に、心理的側面について焦点をあてたものとなっています。

日本リハビリティション心理学会
日本リハビリティション心理学会

成瀬悟策先生が名誉理事長。

『日本リハビリテイション心理学会はリハビリテイション心理学及びこれに基づく学術の発展をはかり、文化の向上に寄与するとともに、併せて会員相互の親睦をはかることを目的とした全国的な学術団体です。』

心理的側面とはどのようなものか、どのように行うのか等を知るため、「絵でわかる動作法」と「動作法ハンドブック」という2冊の本を読んでみました。

私自身、まだまだ消化しきれていない段階ではありますが、まずはこの2冊の内容から理解や認識すべきと思った事柄を列挙してみました。
※「動作法ハンドブック」と明記されているもの以外は、「絵でわかる動作法」からの引用です。

「障害者のための絵でわかる動作法 はじめの一歩」
「障害者のための絵でわかる動作法 はじめの一歩」
「動作法ハンドブック基礎編」
「動作法ハンドブック基礎編」

・動作という言葉は日常でも使いますが、動作法においては特別に定義された言葉です。

「身体運動」は文字どおり身体が動くことです。身体としての骨格や筋肉があり、それを動かす神経があり、その神経に命令を伝える大脳があります。こうした、生理的に身体が動くことを指して「身体運動」と呼んでいます。

一方、「動作」は、身体運動をコントロールしている主体の活動です。自分で、動かそうと「意図」して、意図どおりになるように「努力」するという心理的なプロセスがあって、その結果として身体運動が生起する時に「動作」といいます。 (動作=意図→努力→身体運動)


・動作の基本 「動作法ハンドブック」
 ・意図

  ・人が自分の体をどのように動かそうとするかという、動きについて計画する段階
 ・努力

  ・意図を実現するため、自分の体に注意を向け、意図した動きに必要な体の諸条件を整えたり、操作したりする感じも出さなければならない。それを出すための主体的な自己活動
 ・身体運動

  ・この段階で発生する心的なエネルギーが、生理学的な段階の活動を刺激して生起する。

 

・動作不自由 「動作法ハンドブック」
 ・脳性マヒの子供の不自由は、動作学的な研究の結果、脳の神経学的な障害に基づいた、中枢
性の運動機能障害であるという理解の仕方では不十分であることが分かってきました。むしろ、人が、自分の身体運動を操作する、主体的な自己の活動が十分に行われていないために、発達の経過で、不自由な動かし方を学習したためであると考えた方が適切なのです。運動の発達が遅れて、Gパターンと呼ばれる、乳幼児の固い姿勢を自分の力で乗り越えられないのも、これに関係があります。このように、人の主体的な活動である動作の問題が非常に大きいことから、脳性マによる不自由は、単なる肢体不自由と区別して、動作の不自由と言った方が適切です。同じような動作不自由をもっている者には、知恵遅れの子供、自閉や多動の子供などがいます。動作不自由は、自己活動が不十分なために発生します。


動作法が対象としているのは心理的な活動です。身体をどのように動かしたらよいかという「身体の動かし方」と、それをどのように実行するかという「意図」と「努力」の仕方が動作法の対象です。


・医療においては、脳性マヒの肢体不自由に対して、生理学の観点から運動機能の改善をはかるリハビリテーションが行われています。

動作法も、脳性マヒ児の身体の動きを改善するので、医学的なリハビリテーションと同様に身体を訓練するものと誤解される場合がみられます。実際に、動作法の様子を外から見ていると、腕や脚などの身体を動かしています。けれども、動作法では、身体がどれだけ曲がったり伸びたりしたかという、力の強さや動いた量を問題としているわけではありません。動作法が肢体不自由の子供だけでなく、自閉症や多動の子供、あるいは神経症などにも効果があるのは、人間の「意図」や「努力」という活動を対象として扱っているからなのです。


・人は、動作という心理的プロセスを様々な形で感じます。その中で、人が確かに自分で身体を動かしているという実感を「主動感」と呼んでいます。動作法は、この主動感を大切にしています。

一方、自分以外の力によって身体を動かされているという他動的な実感のことを「被動感」と呼びます。また、自分の身体が勝手に動いてしまうという実感のことを「自動感」といいます。


・「緊張」というのは、人が身体のある部分をある方向に動かしていった時に、生理学的に異常がなければ動く範囲にもかかわらず、抵抗感を感じて動かしにくくなることです。指導者が相手の身体をある方向に動かしていくと抵抗感を感じる時、その部位のその方向に緊張があるといいます。抵抗感が強いほど緊張も強いといいます。この緊張は、楽に身体を動かすことを妨げる要素となります。骨や筋肉に生理学的な変化がないのであれば、本人が何らかの形で力を入れているものと考えられます。そして、実際に動作法によって入れている力を緩める練習をすると、緊張が少なくなります。


・行動変容をねらう訓練のコツ 「動作法ハンドブック」
 ・安心感を与える手の当て方をする
  ・まず、子供は自分の体に触れられることに対して大きな不安を感じている。
   ・不安を感じない程度の力を使う。
   ・手のひら全体を使う感じ。
 ・体の感じを子供と共有する
  ・子供が感じているだろう感覚を、施術者も同じように感覚を感じるようにする。
 ・言葉かけを大切にする
  ・子供の気持ちをリラックスさせ、その気にさせる。
  ・施術者も言葉かけと施術を重ねることで良いリズムで楽しく取り組むことが大事です。
 ・主体的な取り組みを大切にする   
  ・子供は気が散って、集中できないことが多い。特自閉や多動の子供たちは、訓練を自分が
主体的に行っているという実感を欠いています。したがって、子供が自分の体の感じに気づき、自分で体を緩めたり動かしているという感じをつかめるようにする主体的な動きを行わせる必要があります。
  ・まず、優しく、ゆっくりと何をどうしようとしているのかを部位に軽く触れながら
「こういう動きをするよ。」と説明する。
  ・どこがどう感じているかを聞きながらゆっくり進め、自分で緩む感じや動く感じを認知
する
   ・さらに、自分自身が主体的に動かす感じをつかめるように、動かしている方向、スピー
ド、可動域などを細かく伝えながら、二人三脚で理解するという課題に取り組んでいく。


・動作法は「立位・歩行」、「書字」、「発声・発語」の3つの基本動作に分類しています。

・動作法は、特定の訓練姿勢で行います。これを課題動作(モデルパターン)といいます。その訓練姿勢で行うことは「緊張の緩め方」と「単位動作(身体の動かし方)」です。そして、動作の要素として、部位、方向。強さ(速さ)があげられます。

・課題動作(モデルパターン)
 1.立位・歩行動作 
   ・あぐら座動作 
   ・膝立ち動作(片膝立ち動作)
   ・立位動作
   ・歩行動作
 2.書字動作
   ・腕動作(腕上げ動作と肘曲げ動作)
   ・手動作(手のひらと指の動作)
   ・作業動作(字を書く、道具を使う動作)
 3.発声・発語動作
   ・呼吸動作  
   ・口動作(あご動作、口唇動作、舌動作)
   ・発声動作
   ・食べる動作


補助はしっかり強く補助するところから、次第に弱く少なくして、自分でコントロールできるようにしていきます。そのためには、「はなすよ!はなすよ!」と声をかけて、相手が自分で努力する心構えをつくります。

 
訓練の終わり方では、「できた!」という形で終わることが大切です。そのためには、計画段階で、どの段階で、どの課題を最後に持ってくるか、それを何回やって終わるか考えておくことが必要です。「あと、もう1回」と欲を出すと、えてして最後の訓練がうまくいかなかったりするので、回数を決めてできたら終わりにすることが重要です。


・動作のコミュニケーション
 ・動作法は子供の「意図」や「努力」あるいは「身体の動かし方」という心理的活動を対象と
しています。そこで指導者が子供に伝えていることは、身体を動かす「力」を加えているというよりも「情報」を伝えているのです。その意味で、動作法は子供と身体を間に挟んでコミュニケーションしているという側面を持っています


訓練に誘うにあたっては、指導者は穏やかな心でのぞみ、こどもの反応や感情を感じ取れることが大切です。そのためには、うまくやろう、早く訓練しようと気負わないことです。子供の動きや活動に沿いながらペースを合わせます。そして、子供が訓練に取り組めるタイミングを待つことが大切です。


・動作法の初心者は訓練姿勢を決めるところで苦労している。どんな訓練をするか、そのための訓練姿勢がどうかを、言葉だけでなく、指導者がその姿勢を実演してみせたりすることも大切。そこで子供が感じる困難点や感情を補助している指導者の身体を通して感じ取ることが必要です。そのためには、指導者自身が安定した姿勢を取り、無理なく安全に、子供の姿勢を援助できるようにしなければなりません。また、あせって訓練姿勢を取らず、子供のペースを確かめながら、訓練姿勢を少しずつ整える援助をしていきます。強い補助が必要な場合には、子供と指導者の身体をより近づけます。

付記

12月23日のブログ「発達障害」の中で、感覚統合療法の体験談として、『大丈夫! すくすくのびたよ自閉っ子』という本をご紹介していました。

下記は、感覚統合療法を分かりやすく説明されていた箇所です。また、実践内容については、目次の内容を一部抜粋させて頂きました。

「大丈夫! すくすくのびたよ自閉っ子」
「大丈夫! すくすくのびたよ自閉っ子」

脳への刺激
支援センターからいただいた個別支援計画を見ると、桃子の重点取り組み事項は、「前庭系・固有系をしっかり入れていく」となっている。何のことだかさっぱりわからない。

先生からのお話によると、桃子は、「感覚統合療法を必要とする子ども」なのだそうだ。感覚には、次の三つがあるらしい。
一つ目は、前庭覚である。これに何らかの問題があると、揺れ動く遊具や高いところを非常に怖がったり、誰かに動かされると恐れや不安、苦痛などを感じたりするようだ。いくら回転しても目が回らない、高いところや不安定なところを好む、などの特徴もあるらしい。公園の遊具なども三つ年下の妹は平気で登っているのに、桃子は怖がってできないものがある。桃子は怖がりだなあと思っていたが、原因は前庭覚なのか。また、桃子が椅子に持続して座っていられないのもこのためか。
二つ目は、固有覚である。これに問題があると、すぐ疲れてしまったり、力加減のコントロールが難しかったりするらしい。物をどのように操作してよいかわからず、衣服の着脱がうまくできないこともあるようだ。桃子が不器用なのは、この固有覚のせいなのか。
三つ目は、触覚である。べたべたした感覚が苦手だったり、手をつなぐ、抱きしめられたりするのが苦手だったり、裸足で園庭を歩けなかったりするらしい。散髪や爪きり、耳かきを極端に嫌がる子どももいるようである。以前、桃子はスライムが苦手で、触るのを嫌がっていたが、この触覚に問題があったせいか。そういえば、爪きりも苦手であった。
「もし、感覚統合がうまく働かないと、感覚が洪水のように入ってきたり、逆に必要な情報が入ってこなくなったりして、脳が混乱している状態になるのです」と、先生はおっしゃった。
我が家は旅行好きだ。旅行中、桃子は楽しそうにしているが、帰宅後、彼女は決まってパニックを起こす。これも、感覚統合と関係があるのだろうか。旅行中、いろいろなものを見聞きして、脳が混乱状態になっているのか。
桃子はパニックで済んでいるが、同じ障がいのお友だちの中には、旅行後や何か行事があるたびに、熱を出す、倒れる、など体を壊してしまうお子さんもいると聞く。
療育で桃子がしているのは、「感覚運動遊び」である。先ほどの前庭覚、固有覚、触覚を刺激する遊具で遊ぶのだ。ブランコのようなもの、はしご、ボールプールまどで、ただ楽しく遊んでいるだけのように見えるが、これが感覚統合療法らしい。脳へ刺激を与えているのだ。
桃子が感覚統合療法を始めて、もう二年以上たつ。結果が目に見えて出てきているのは、この本を読んでいただければよくわかっていただけると思う。


以下は目次からの抜粋になります
一人でできたほうがいいぞ 身辺自立へのスモールステップ
・ボタン編(2歳8か月~3歳9か月)
・服たたみ編(3歳0か月~5歳2か月)
・歯磨き編(0歳~4歳0か月)
・トイレ編(2歳8か月~4歳5か月)
子どもには、遊びだって大切!「遊べるようになる」までの道
・じゃんけん編(2歳11か月~5歳1か月)
・鉛筆・お絵描き編(2歳8か月~5歳2か月)
・三輪車編(2歳8か月~4歳4か月)
・ハサミ編(2歳8か月~4歳5か月)
きちんと食べよう!お食事タイムが楽しくなってきた
・偏食編(2歳10か月~4歳10か月)
・箸編(2歳8か月~4歳5か月)
・おやつ編(3歳4か月~3歳8か月)
友だちできるかな?(2歳11か月~5歳2か月)
パニック・こだわり これぞ自閉っ子!という場面で工夫したこと
・こだわり編
・パニック編
・クリスマスツリー大作戦(3歳2か月~4歳2か月)
・男性恐怖症(1歳~4歳10か月)
変化が苦手な自閉っ子 でも少しずつ世界を広げてみた
・病院編(3歳1か月~4歳9か月)
・クラス替え編(3歳0か月~4歳6か月)