慢性炎症ゼロ2

著者:今井一彰

初版発行:2022年11月

出版:(株)飛鳥社

目次は“慢性炎症ゼロ1”を参照ください。

第3章 「呼吸」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣18…万病を招く「口呼吸」をしない

・口呼吸の問題は体の防御機能が期待できないことである。鼻は「空気清浄機」の役割を果たしている。さらに、加温・加湿の機能も備えている。

炎症ゼロ習慣19…「落ちベロ」を正しい位置に戻す

・舌の正しい位置は「舌が上顎にくっついている状態」である。

炎症ゼロ習慣20…「あいうべ体操」で舌を鍛える

・舌の老化は舌の筋肉トレーニングを行うことで筋力をアップさせることができる。

画像出展:「あいうべ体操みらいクリニック

みらいクリニックさまは、著者である今井一彰先生のクリニックでした。あいうべ体操の動画やアプリも紹介されています。

炎症ゼロ習慣21…「鼻うがい」でフィルター効果アップ!

・空気清浄機同様、体内に取り入れる空気をきれいにする役割の鼻も毎日のケアが必要である。

・慢性炎症を防ぐために有効なのが「鼻うがい」である。特に、上咽頭の汚れや有害物質を洗い流すのが狙いである。


動画(3分9秒):「鼻うがいの方法をご紹介報謝会

こちらの動画では、鼻うがいは1日2回までとのことです。

炎症ゼロ習慣22…「お口の体操」で飲み込み機能アップ

・誤嚥は舌や喉の筋力の低下や反射神経が衰えたりして、ものを飲み込む機能が老化するために起こる。

画像出展:「家庭でできる嚥下体操あいーと

ホームページに紹介されている体操は5つあります。

炎症ゼロ習慣23…見えない炎症を防ぐ「正しい歯みがき」

「正しい歯みがき」は口の中にプラーク(歯垢)を残さないこと。歯ブラシを歯や歯肉にしっかり当て、デンタルフロスや歯間ブラシも利用する。歯磨きは毎食後に行うことがベストだが、最低でも1日1回、すみずみまで磨くことを習慣にすることが大切。これは、プラークは食後24~48時間で形成されるからである。

炎症ゼロ習慣24…生活する場所の「空気」に注意

・ダニの死骸やカビなどのハウスダストも、呼吸器の病気やアレルギーなどの原因になるので、部屋をまめに掃除したり、空気清浄機を使ったりして、室内の空気の質を向上するように心がける。

第4章 「運動」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣25…運動は最高の「抗炎症薬」

運動は様々な病気の予防・改善に役立つ。その理由の一つに、運動の「抗炎症効果」がある。

・がんは慢性炎症と関係しているが、運動によって発症リスク(特に大腸がんや乳がん)が抑えられる。

適度な運動をすると筋肉から若返りホルモンとも言われ、炎症作用を抑える「マイオカイン」という物質が出る。マイオカインは筋肉が出す物質の総称で、300種類以上ある。その一つが「インターロイキン6(IL-6)」である。

・IL-6は炎症を促進する働きがあるが、適度な運動によって筋肉から放出される時は、免疫の過剰な反応を抑え慢性炎症を改善する効果もある。つまり、運動の有り無しによって炎症を促進することもあれば、炎症を抑制することもある。

画像出展:「無理せずできる“若返り”筋トレ 「体と脳を活性」NHK

『筋肉には体を動かしたり支えたりする以外に、ホルモンを分泌する働きがあります。それが「マイオカイン」です。マイオカインは現在30種類以上発見されていますが、そのひとつ「イリシン」は血流に乗って脳に運ばれると、神経細胞を活性化する物質を分泌すると考えられています。

炎症ゼロ習慣26…「座りすぎ」が寿命を縮める

・日本人は「世界一、座っている時間が長い」。1日7時間である。

「座りすぎ」は寿命を短くする。30分座ったら3~5分歩いたり、ストレッチをしたりして体を動かすよう心掛けると良い。

・最近では立ったままデスクワークできるスタンディングデスクが流行している。

炎症ゼロ習慣27…「グリーンエクササイズ」で効果倍増!

・グリーンエクササイズとは、自然の多い場所で体を動かすことである。運動はどんなものでも良い。

炎症ゼロ習慣28…短時間で効果絶大の「ゆるHIIT」

・「HIIT」は4分間、20秒の運動と10秒の休憩を8回繰り返す。

・トレーニングの組み合わせによって「有酸素運動」と「筋トレ」両方の効果が得られる。

・高強度のトレーニングを繰り返すことで、効率的にミトコンドリアの量や質を高められる。

・HIITでミトコンドリアが増えて、機能がアップすれば、疲れにくい体、やせやすく太りにくい体になり、活性酸素の発生も抑えられる。

画像出展:「1日たった4分の若返りトレーニング50代から始めたい、「ゆるHIIT

こちらはみらいクリニックの今井一彰先生の寄稿で、動画もアップされています。

炎症ゼロ習慣29…ふつうの散歩より効果の高い「インターバル速歩」

・インターバル速歩は3分間の「速歩き」と3分間の「ゆっくり歩き」を1セットとして、5セット(30分間)続ける。週4日以上を目標にする。

炎症ゼロ習慣30…筋トレの王様「スクワット」を取り入れる

・スクワットは大腿四頭筋を含め、体の筋肉の大半がある下半身の筋肉をまんべんなく鍛えることができる。回数は自分がきついと感じるまでが目安。

第5章 「睡眠」で炎症ゼロ

炎症ゼロ習慣31…「睡眠不足」こそが万病のもと

睡眠不足は有害物質を蓄積させ、様々な不調や病気につながる。

・アルツハイマー型認知症の原因たんぱく質の「アミロイドβ」は睡眠不足になると脳に蓄積して炎症を引き起こす。

・睡眠不足は血糖値を上げ、ストレスを高め太りやすくする。

炎症ゼロ習慣32…「7時間睡眠」が体を強くする

・短時間の睡眠の問題には、「レム睡眠」の不足がある。レム睡眠は日中に得られた情報の整理や記憶への定着を行っている。

炎症ゼロ習慣33…毎日15~20分の「パワーナップ」で脳をリセット

・15分ほどの仮眠のことを「パワーナップ」という。昼寝には脳の疲れをとってその機能を回復させる効果があると考えられている。昼寝は15~20分。15時以内に済ませるようにする。横になると深く寝入ってしまうおそれがあるので、椅子に座りリラックスできる姿勢が良い。

炎症ゼロ習慣34…「香り」が眠りの深さを決める

・嗅覚の情報は他の感覚と異なり大脳皮質を経由せず、直接、大脳辺縁系や視床下部へと伝えられる。そのため、リラックス効果の高い香りのエッセンシャルオイルを使えば、気持ちを穏やかにして眠気を誘ったり、副交感神経を高めて心身をリラックスさせたりすることができる。

炎症ゼロ習慣35…「雑音」が安眠を誘う

・「ホワイトノイズ」とは安眠効果のある雑音で、人間の耳に聞こえるすべての周波数帯域の音が均等に混ざっている雑音のことである。

動画(29分5秒):「眠れない夜に聴く432hzとホワイトノイズの癒しの曲Calm Weves Channel

こちらは「ホワイトノイズ」だけではありませんが、いかにも眠くなりそうな音色です。

炎症ゼロ習慣36…悪夢を見せる犯人は「靴下」?

・靴下を履いたまま布団に入るのは睡眠の質を下げることもある。これは睡眠には深部体温を下げる必要があり、眠くなると手足が温かくなるのは放熱のためである。電気毛布や湯たんぽなども同じ理由で睡眠の妨げになるので寝る前だけにした方が良い。

お勧めはレッグウォーマーである。足元が温かく感じるが放熱を妨げることはない。

炎症ゼロ習慣37…「スマホ」は寝室に置かない

・夜、寝る前にスマホを使うと、体内時計が狂ってしまうためである。

ブルーライトは紫外線についで波長が短く、目の奥の網膜にまで届く強い光である。また、睡眠・覚醒のリズムを整えるメラトニンの分泌量を抑制する。これは、強いブルーライトの光によって「まだ昼間だ」と勘違いしてしまうためである。

・睡眠のリズムのためには、寝る前の2時間はスマホやPCは使わないようにする。

炎症ゼロ習慣38…「マウステープ」で睡眠の質がアップ

・仰向けで口を開けた状態で寝ていると、舌が喉の方に落ち、さらに舌の筋肉の緊張が緩むため気道を圧迫する。これにより、いびきが出たり無呼吸状態となったりするため、睡眠の質は低下する。

・マウステープは皮膚にやさしい医療用テープや専用テープを利用する。

炎症ゼロ習慣39…どうしても眠れないなら「やさしい睡眠薬」

・睡眠の件は、まずは医師に相談するのが良いが、オレキシン受容体拮抗薬(商品名:ベルソムラ、デエビゴ)という新しい薬は副作用や依存症の問題が少ない。

慢性炎症ゼロ1

2017年に“慢性炎症について”というブログをアップしたことがあったため、慢性炎症が大きな問題であることは認識していました。一方、前回のブログは“口腔内細菌との闘い”でしたが、歯周病の恐ろしさを理解したことで、今一度、慢性炎症について勉強したいと思いました。

ストレスをライターの「火」だとすれば、「消火できないボヤ」のような状態が慢性炎症です。従って、不健康の確信犯は慢性炎症といえるかもしれません。そしてその慢性炎症という「消火できないボヤ」の油となっている大きな要因が、「コゲ:AGE(終末糖化産物)」と「サビ:活性酸素」であり、起きている問題は、細胞や血管の劣化です。

著者:今井一彰

初版発行:2022年11月

出版:(株)飛鳥社


はじめに 診察に訪れる患者さんの98%にあった「炎症」

第1章 「慢性炎症」が老化と病気をつくる

●「老化」や「病気」は炎症がつくり出す

●すぐに治る炎症と体をいじめ続ける炎症

●慢性炎症は「静かなる殺人者(サイレントキラー)」

●全身のあちこちに病気をうつす慢性炎症

●コゲ、サビ、肥満は慢性炎症と大の仲良し

●いつまでも若い人には炎症が少ない

第2章 「食べもの」で炎症ゼロ 

●炎症ゼロ習慣1…「腹八分目」は長寿遺伝子をオンにする

●炎症ゼロ習慣2…「1日のうち12時間」は何も食べない

●炎症ゼロ習慣3…食事ひとくちで「30回噛む」

●炎症ゼロ習慣4…「やわらかい食べもの」が肥満のもとになる

●炎症ゼロ習慣5…「ごはんは最後」を心がける

●炎症ゼロ習慣6…間食は「噛むおやつ」で決まり!

●炎症ゼロ習慣7…「小麦粉」が腸を傷つける

●炎症ゼロ習慣8…「牛乳」が健康によいとは限らない

●炎症ゼロ習慣9…腸から元気になる「骨スープ」

●炎症ゼロ習慣10…すぐに「甘い」と感じるものは避ける

●炎症ゼロ習慣11…ビタミンのために「くだもの」を食べすぎない

●炎症ゼロ習慣12…「低CIフード」で血糖値をおだやかに

●炎症ゼロ習慣13…日本型の「地中海食」は注意が必要!

●炎症ゼロ習慣14…炎症の原因をお掃除する「ポリフェノール」

●炎症ゼロ習慣15…健康スパイスの王様「ターメリック」

●炎症ゼロ習慣16…毎日「発酵したもの」を取り入れる

●炎症ゼロ習慣17…「青魚の脂」は健康なアブラ

第3章 「呼吸」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣18…万病を招く「口呼吸」をしない

●炎症ゼロ習慣19…「落ちベロ」を正しい位置に戻す

●炎症ゼロ習慣20…「あいうべ体操」で舌を鍛える

●炎症ゼロ習慣21…「鼻うがい」でフィルター効果アップ!

●炎症ゼロ習慣22…「お口の体操」で飲み込み機能アップ

●炎症ゼロ習慣23…見えない炎症を防ぐ「正しい歯みがき」

●炎症ゼロ習慣24…生活する場所の「空気」に注意

第4章 「運動」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣25…運動は最高の「抗炎症薬」

●炎症ゼロ習慣26…「座りすぎ」が寿命を縮める

●炎症ゼロ習慣27…「グリーンエクササイズ」で効果倍増!

●炎症ゼロ習慣28…短時間で効果絶大の「ゆるHIIT」

●炎症ゼロ習慣29…ふつうの散歩より効果の高い「インターバル速歩」

●炎症ゼロ習慣30…筋トレの王様「スクワット」を取り入れる

第5章 「睡眠」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣31…「睡眠不足」こそが万病のもと

●炎症ゼロ習慣32…「7時間睡眠」が体を強くする

●炎症ゼロ習慣33…毎日15~20分の「パワーナップ」で脳をリセット

●炎症ゼロ習慣34…「香り」が眠りの深さを決める

●炎症ゼロ習慣35…「雑音」が安眠を誘う

●炎症ゼロ習慣36…悪夢を見せる犯人は「靴下」?

●炎症ゼロ習慣37…「スマホ」は寝室に置かない

●炎症ゼロ習慣38…「マウステープ」で睡眠の質がアップ

●炎症ゼロ習慣39…どうしても眠れないなら「やさしい睡眠薬」

第6章 「メンタル強化」で炎症ゼロ

●炎症ゼロ習慣40…「体のコゲ」を増やすストレスは早めに解消

●炎症ゼロ習慣41…ストレスの度合いを「見える化」する

●炎症ゼロ習慣42…タバコやお酒よりも体に悪い「孤独」

●炎症ゼロ習慣43…「病気の写真」を見ない

●炎症ゼロ習慣44…「私」と言ってはいけない

●炎症ゼロ習慣45…毎日の「3つのよいこと」で幸福度アップ

●炎症ゼロ習慣46…「スマホのストレス」から脳を解放する

●炎症ゼロ習慣47…「頭をからっぽ」にして、悩みを回避

●炎症ゼロ習慣48…「できる1割」だけに注力して、9割は手放す

●炎症ゼロ習慣49…「最悪な状況」を思い浮かべる

●炎症ゼロ習慣50…「ストレス対処法」のリストを持ち歩く

おわりに 名医よりもクスリよりも、「病気にならない」が重要

はじめに 診察に訪れる患者さんの98%にあった「炎症」

・来院患者の98%に上咽頭炎がみられる。

画像出展:「慢性上咽頭炎大正製薬製品情報サイト

慢性上咽頭炎の詳しい説明が書かれています。監修されたのは今井先生です。

第1章 「慢性炎症」が老化と病気をつくる

「老化」や「病気」は炎症がつくり出す

・炎症が続くと、細胞や血管が傷ついて劣化していくため、病気を引き起こす。

長期化する炎症は体のどの場所でも起こる可能性がある。そして多くの病気の原因になる。

・長引く炎症は「老化」とも関係している。シミ、シワ、抜け毛、白髪の原因にもなる。

画像出展:「炎症ゼロ習慣」

 

すぐに治る炎症と体をいじめ続ける炎症

・急性炎症の4徴候は「発赤」、「腫脹」、「発熱」、「疼痛」である。これらは危険を知らせる役目もしている。

・急性炎症は体に侵入してきた細菌やウィルスなどの異物を退治して、傷ついた細胞を修復するための作用である。そして、細胞が修復されれば炎症は治まる。

炎症の原因となる物質が除去できないと、いつまでもダラダラと炎症が続く。このような長引く炎症を慢性炎症という。長引けば細胞の修復が追い付かず、体の機能が低下したり失われたりする。

慢性炎症を伴う病気の一つが歯周病である。

風邪が治っても、喫煙、飲酒、大気汚染などにより喉の炎症を繰り返していると、炎症がくすぶり続け慢性上咽頭炎慢性扁桃炎を引き起こす。これは同じ場所に何度も異物による刺激が加わって、何度も炎症を起こすうちに、炎症が慢性化してしまうというメカニズムである。

・コロナ後遺症も慢性炎症が関係していると考えられている。

・アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患、関節リウマチ等の「自己免疫疾患」も慢性炎症による病気である。

慢性炎症は「静かなる殺人者(サイレントキラー)」

・慢性炎症は火種がくすぶったままじわじわと広がるように体を蝕む。

・慢性炎症の怖さは、強い症状がないのでそのままにされることが多い。

全身のあちこちに病気をうつす慢性炎症

・慢性炎症の怖さには、炎症が飛び火してさらに別の病気を引き起こすところである。

炎症が起こると「サイトカイン」と言われる炎症物質が作られる。サイトカインは体に異物が侵入してきたことを知らせて、炎症を引き起こす働きがある。問題は長引くと過剰に作られてしまい、更なる炎症を促進する。サイトカインの恐ろしいところは、一カ所に留まらず、炎症でダメージを受けた血管に入り込んで全身の様々な病気の元になることがある。

・歯周病が原因で関節リウマチになる場合がある。また、糖尿病にも注意しなければならない。これはサイトカインがインスリンの働きを抑制するためである。アルツハイマー型認知症も歯周病が関係していると考えられている。これは歯周病菌によって口腔内に増えたサイトカインが脳に運ばれると、アミロイドβが増える可能性が報告されているためである。

歯周病の慢性炎症の飛び火によってリスクが高まる病気には、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎などがあるが、慢性炎症は、すべての内蔵、器官、体のいたるところで起きている。

コゲ、サビ、肥満は慢性炎症と大の仲良し

慢性炎症の原因は外部からの異物だけではない。体内で作られる物質もある。1つは「体のコゲ」と呼ばれる終末糖化産物(AGE)と「体のサビ」と呼ばれる活性酸素である。

・AGEは糖とたんぱく質が結びついたものである。ホットケーキを焼いたときの茶色の部分。これはホットケーキに含まれる牛乳や卵のたんぱく質と砂糖が結びついたものである。

AGEは老化の原因物質であり、肌のくすみ、シワやたるみはAGEによる。さらにAGEは細胞を傷つけるため、体は防御反応として炎症を起こす。これが日常化すると慢性炎症になる。重要なことは糖質を摂りすぎないこと、血糖値を急激に上げないようにすることである。

・「体のサビ」と言われているのが活性酸素である。活性酸素は呼吸によって取り込まれた酸素によって作られる。細菌やウィルスを退治するなど免疫機能にとってなくてはならない。問題は何らかの原因で活性酸素が過剰に作られると正常な細胞まで攻撃してしまい、その結果、慢性炎症につながる。

体内には増えすぎた活性酸素を取り除く「抗酸化力」が備わっているが、加齢により低下していくので注意が必要である。活性酸素を増やす原因はストレスや紫外線などである。

・肥満が慢性炎症を引き起こす原因は、脂肪細胞が脂肪を蓄える容量には制限があり、それを超えると細胞が破壊されて白血球が活性化される。さらに肥満になると炎症を抑える物質の分泌が減少するためである。

・炎症によって作られるサイトカインなどの炎症物質は、血糖値を下げる働きのインスリンの効きを抑制するので、糖尿病になりやすくなる。さらに、作用が低下したインスリンは分泌を増やす。インスリンには脂肪を合成する酵素を活性化する働きもあるため肥満は進む。

慢性炎症の予防には、原因となるコゲ、サビ、肥満に注意した生活をおくることが重要である。

いつまでも若い人には炎症が少ない

・シミは慢性炎症が表皮の奥にあるメラノサイトを常に刺激するためにできる。慢性炎症は肌の張りや弾力を保つ役割のコラーゲンやエラスチンという線維状のたんぱく質を破壊する。これにより肌はたるみ、シワができる。

・肌の慢性炎症の原因は紫外線、AGE、活性酸素である。

・サルコペニアとは加齢によって筋肉量が減って、身体機能が低下した状態のことであるが、原因の1つが慢性炎症である。慢性炎症によって作られたサイトカイン(炎症性物資)は、筋肉の分解を促進させる作用がある。

・センテナリアン(100歳以上の長寿者)は慢性炎症の程度がわかる「高密度CRP」の値が圧倒的に低い。

健康診断の項目であるCRPは、「ボヤ」のような弱い炎症の慢性炎症の有無を調べることはできない。慢性炎症の評価には高感度CRPが必要になる。

センテナリアンのCRPは「0.03㎎/dl」程度である。これは一般的な基準値(0.3㎎/dl)の10分の1と極めて低い数値である。なお、高感度CRPの検査は保険適用外なので10,000円前後の費用がかかる。

・老化の度合いは個人差が大きいが、これは慢性炎症の度合いともいえる。

画像出展:「高感度CRP(C反応性蛋白)と大腸がん罹患との関係について国立がん研究センター がん対策研究所

・高感度CRP検査:通常のCRP検査の100倍以上の感度がある。

・心筋梗塞のリスクの予測等に利用されている。

・肥満や運動不足の人でも高い値になるといわれる。

 

第2章 「食べもの」で炎症ゼロ 

炎症ゼロ習慣1…「腹八分目」は長寿遺伝子をオンにする

・食べすぎは「サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)」の働きを抑制する。

・新陳代謝は細胞分裂によってなされるが回数には限界がある。この回数を増やして新陳代謝を活発にして老化を抑えるのがサーチュイン遺伝子である。新陳代謝ができなくなった老化細胞は、炎症を促進するサイトカインなどの物質を分泌し、慢性炎症の原因になる。なお、サーチュイン遺伝子には慢性炎症を改善する働きもあると考えられている。

・サーチュイン遺伝子は通常、スイッチはオフになっている。スイッチをオンにするには、①カロリーを摂りすぎない、②空腹を感じる時間を作る 必要がある。それには、一食一食を「腹八分目」やめることが大切であり、合わせてゆっくりよく噛んで食べることが重要である。早食いはやめなければならない。

画像出展:「サーチュイン遺伝子(日経BP:Beyond Health

図に書かれているのはサーチュイン遺伝子の活性化で改善が期待できる老化現象です。

 

炎症ゼロ習慣2…「1日のうち12時間」は何も食べない

・「お腹が空いた」と感じる時間を作ることが大切。「お腹は空いていないけどお昼の時間だから」という理由で、無理に食べる必要はない。1日3食にこだわる必要もない。

・1日のうち、12~16時間食事を摂らない時間を作るとサーチュイン遺伝子が活性化すると言われている。

食事の時間は自分の体に合わせるのがベスト。できるだけ空腹を感じてから食べると良い。ただし、栄養不足は避けなければならず、特に高齢者は注意が必要。たんぱく質やビタミン・ミネラルが不足しないようにする。

炎症ゼロ習慣3…食事ひとくちで「30回噛む」

「よく噛んで食べる」という習慣は、慢性炎症の予防や改善にも有効である。

・噛むという行為は刺激を脳に伝える。脳は反射的に唾液を分泌する。

唾液には体のサビ(活性酸素)を除去する働きがある。これは唾液には抗酸化作用のあるラクトペルオキシダーゼという酵素が含まれているためである。さらに抗ウィルス・抗菌作用をもつ物質も含まれている。

・歯周病菌の増殖を抑制するラクトフェリンとラクトペルオキシダーゼは、多くの病原菌への抗菌作用、抗炎症作用などがあると言われている。

様々な健康効果をもつ唾液だが、20代をピークに分泌量は徐々に減少する。そのため、高齢になったら、意識的に唾液を分泌させるようにすると良い。よく噛むということそのためである。コツはひとくちの量を少なめにすることである。結果的に食事の時間はながくなる。

画像出展:「唾液中の抗菌物質Dental Note

唾液パワーの凄さに驚きます。

炎症ゼロ習慣4…「やわらかい食べもの」が肥満のもとになる

・満腹中枢を刺激する「レプチン」というホルモンは、食事を始めてから約20分後なので、早食いの人は満腹を感じる前に必要以上の量を食べてしまう恐れがある。

炎症ゼロ習慣5…「ごはんは最後」を心がける

・「ベジファースト」は食物繊維が多く糖質は少なめの野菜から食べることにより、糖質の吸収を抑えることを狙っている。一方、最近浸透し始めているのは、「ミートファースト」「プロテインファースト」である。これはたんぱく質から食べると、インクレチンというホルモンが分泌されて胃の働きが緩やかになり、糖質の吸収がゆっくりになる。いずれも血糖値の急激な上昇を抑える効果がある。重要なことは糖質を最後に食べるという習慣である。また、早食いをしてしまっては順番の工夫による効果は相殺されてしまう。

炎症ゼロ習慣6…間食は「噛むおやつ」で決まり!

・リズミカルに噛むことはストレス解消にもなる。

・ナッツ類(アーモンド、クルミ、ピスタチオなど)に含まれる脂肪は「不飽和脂肪酸」といって抗炎症作用がある。塩分無添加の素焼きタイプが望ましい。

炎症ゼロ習慣7…「小麦粉」が腸を傷つける

・小麦粉などに含まれている「グルテン」というたんぱく質をスムーズに消化できない「グルテン不耐性」の人や、過敏に反応してしまう「グルテン過敏症」の人は、グルテンを摂り続けていると腸に慢性炎症を発症する場合がある。

日本人の8割はグルテンに合わない体質と言われている。

画像出展:「グルテンとの上手な付き合い方Metagenics

・グルテンは麦加工食品に含まれ、味ではなく食感(麺のしこしこ、つるつる、コシや歯ごたえ、パンのふわふわなど)を提供します。また、グルテンは麦類が持つ2 種類のたんぱく質が水分に触れた時にペプチド結合して作られます。

炎症ゼロ習慣8…「牛乳」が健康によいとは限らない

牛乳が慢性炎症を引き起こしやすいとされているのは、牛乳に含まれている「カゼイン」というたんぱく質である。カゼインは消化されにくく、小腸に留まる時間が長くなるため、腸に負担がかかり炎症を起こすと考えられている。

・牛乳にはカルシウムが豊富なので、カルシウムを別の食材で摂る必要があるが、大豆製品、小魚、海藻類、緑黄野菜などでカルシウムを摂ることはできる。

炎症ゼロ習慣9…腸から元気になる「骨スープ」

・腸に悪い食べ物やストレスなどが原因で腸管の粘膜が炎症を起こし、腸から炎症を誘発する物質(細菌、ウィルス、たんぱく質など)が漏れ出す状態を「リーキーガット症候群」と呼ぶ。

炎症ゼロ習慣10…すぐに「甘い」と感じるものは避ける

糖質の中でも砂糖は吸収されやすく血糖値をすばやく上昇させるため、慢性炎症の大きな原因になる。

・果糖はブドウ糖を含まないので血糖値を急激に上げることはないが、砂糖以上に中性脂肪や内臓脂肪を増やすとされている。果糖は果物以外では蜂蜜などに多く含まれている。

炎症ゼロ習慣11…ビタミンのために「くだもの」を食べすぎない

・果物の適量は、1日約80kcal分と言われている。リンゴなら1/2個(150g)、バナナなら1本(100g)、ミカンなら2個(200g)が約80kaclである。また、朝食後のデザートがベストである。

炎症ゼロ習慣12…「低GIフード」で血糖値をおだやかに

・GI値とはグリセミック・インデックスの略で、食後血糖値の上昇度を示す指数のこと。

画像出展:「炭水化物は敵ではない?上手に炭水化物を取り入れましょう九州大学病院 総合診療科 疫学研究公式サイト

『「血糖値を上げたくないから主食を摂らない」「ご飯は太るから食べない」という声をよく耳にします。確かにご飯やパンなどの主食に含まれている炭水化物はブドウ糖を多く含み、ブドウ糖は血糖値を上げやすく、溜め込まれると脂肪となるため肥満や動脈硬化の原因となってしまいます。

しかし脳は栄養の大部分をブドウ糖に頼っているため、不足すると脳の働きは悪くなり疲れやストレスが溜まりやすくなります。

そこで今回紹介するものが低GI食品です。』

炎症ゼロ習慣13…日本型の「地中海食」は注意が必要!

・果物には多くの果糖が含まれているが、日本の果物は品質改良により、甘みが強く「糖度」が高いため、特に注意が必要である。特に注意が必要なものは、バナナ、パイナップル、メロン、スイカ、マンゴーなどである。

炎症ゼロ習慣14…炎症の原因をお掃除する「ポリフェノール」

抗酸化物質の代表が「ポリフェノール」である。ポリフェノールはほとんどの植物に存在する物質で、青紫色の色素成分・アントシアニン、緑茶や紅茶の苦味成分・カテキンなどがある。

植物が紫外線や害虫などの外敵やストレスから自分自身を守るために作りだした成分で、強い抗酸化作用がある。

・手軽にポリフェノールを摂れる食品

-納豆、豆乳、豆腐など

-高カカオ(カカオ70%以上)チョコレート

-皮つきのショウガ(ポリフェノールは皮の部分に多く含まれる)

-赤ワイン、コーヒー、緑茶(コーヒーは1日3~4杯、緑茶は湯呑で10杯まで)

炎症ゼロ習慣15…健康スパイスの王様「ターメリック」

・ターメリックの別名はウコンである。カレーの黄色の色素成分の「クルクミン」がポリフェノールの一種であり、活性酸素の除去、抗炎症作用がある。

・ターメリックにはクルクミン以外に、強い抗炎症作用があるターメロールという成分もある。

ターメリックは手軽に手に入る調味料(スパイス)なので、カレー以外の料理にも活用すると良い。炒め物やスープ、揚げ物の衣に加えたりしても良い。ただし、入れすぎると苦味が強くなる。また、ウコン茶で摂るのも手軽である。

炎症ゼロ習慣16…毎日「発酵したもの」を取り入れる

ヨーグルト、キムチなど発酵食品は腸内細菌だけでなく、抗炎症にも優れてる。納豆などの大豆発酵食品はポリアミンという抗炎症作用の物質を含んでいる。これは炎症を引き起こすサイトカインの産生を抑える働きによる。ポリアミンは大腸の中で腸内細菌によっても作られるが、ポリアミンの量は年齢によって減少する。

炎症ゼロ習慣17…「青魚の脂」は健康なアブラ

・青魚の脂の不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸のなかで、健康効果が高いのはEPAやDHAである。青魚とはサバ、イワシ、サンマ、マグロなどであるが、これらは生の魚ではなく缶詰を利用することもできる。

口腔内細菌との闘い2

著者:波多野尚樹

発行:2015年2月

出版:(株)小学館

目次は“口腔内細菌との闘い1”を参照ください。

 

 

第二章 健康長寿の決め手は歯を残すこと

17.脳と直結している歯のすごい働き

●歯の中心は歯髄という空間になっており、そこに動脈と静脈、三叉神経という脳への伝達神経が通っている。この血管から新鮮な血液と酸素が供給され、不要なものは外に運び出されている。歯根膜は歯髄からでた三叉神経の他の多くの神経が通っている。三叉神経は第Ⅴ脳神経で、眼神経、上顎神経、下顎神経の3つに分かれていることからこの名が付けられた。運動神経と知覚神経の混合神経で脳神経の中で最も太い。

三叉神経前頭部、顔面、鼻腔と口腔の粘膜や歯を担当し、温度の感覚も脳に伝えている。歯や歯根膜の歯根膜受容体というセンサーでキャッチした情報を脳に伝え、脳はこの情報を元に咀嚼筋、顎関節を動かす。

●口腔内で情報伝達の最前線で働いている歯がなくなり、噛むという行為が制限されると脳への刺激が極端に減ってしまい、脳の活性化にとって大きな問題となる。

22.奥歯がなくなると太るメカニズムとは

●奥歯がなくなるとしっかり噛むことができず、唾液の量も減る。特に6番の第一大臼歯が無いと食物のシグナルが脳に伝わりにくいため、副交感神経へのスイッチがうまく働かず唾液の量はさらに少なくなる。唾液の量が少なくなると心臓から脳への血流も滞りがちになるので脳の機能が活性化されない。また、奥歯がなくなると食べれる物も制限が出て、柔らかいもの中心の食事になるので、食事のスピードが上がり早食いになる。この早食いこそが肥満の原因となる

23.肩こり・腰痛の原因は嚙み合わせだった

●右の奥歯が抜けたままになっている人は、左の肩から背中にかけてこりが出る。このような人に奥歯を入れて全体のかみ合わせを調整すると、長年の肩こりが解消したケースは多い。

●イライラ、不安、頭痛、やる気の低下等の不定愁訴も、歯の嚙み合わせを調整しただけで解消することも少なくない。

●『顎関節は、頭蓋骨に近いところにあって、重い頭を支えており、頭頸部の筋肉と密接に関係しており可動域も広い。さらに全身を動かす際に、バランスをとるために顎関節は重要な役割を担っている。もしこれがずれてしまったら、頭頸部はもとより全身に影響がでることは推察できる。嚙み合わせを調整するといっても、薄い紙一枚あるかどうかというごくわずかな調整だけだ。この紙一枚分が違って、左右のバランスがずれていても、長い間にはどこか一本の歯に負担をかけ、咀嚼筋のアンバランスを引き起こす。それによって首の筋肉が引っ張られて筋肉が緊張する。これが頭痛や背中の張りやこりとなって表れる。肩の筋肉が硬くなるために腰部の筋肉も引っ張られ、腰痛の原因ともなる。歯のわずかなズレが他の関節や筋肉、リンパ系や体液系に影響を与え、多くの症状をもたらす。』

第三章 口腔内細菌との果てなき闘い

24.タバコは口腔内細菌を増やす

●タバコにはニコチンやタール以外に約4000種の様々な化学成分が含まれているとされ、人体への影響は完全には把握できていない。口臭、ニコチン性口内炎、口腔粘膜の白斑、口腔内のガンなども喫煙が関係している。

歯肉にとって大きな問題は毛細血管の収縮により血流が悪くなることである。血液には酸素を運ぶ赤血球の他、免疫細胞が流れる白血球がある。さらに血流低下は唾液の量も減るため口腔内細菌にとっては絶好の環境である。歯周ポケットの進行などもタバコにより速くなる。

25.年を取ると暴れ出す口腔内細菌

●加齢によって顔にしわができるのが、表情筋を使うことが少なくなり、同時に皮膚の再生能力が落ちるためであるが、口腔内では加齢の影響は細胞の新陳代謝の低下に現れ、歯周病に罹りやすくする。子供のように新陳代謝が活発であれば、歯周病菌によって炎症を起こしても新陳代謝により翌日には新しい細胞に入れ替わっている。

●日本では40歳以上では、約40%が発症していると言われている。

26.口腔内細菌に弱い女性の身体

●女性は男性に比べて歯肉炎、歯周炎を起こしやすい。これは、歯周病を起こす嫌気性グラム陰性菌は、女性ホルモンであるエストロゲンを餌に増殖するためである。

歯周病の妊婦さんは早産や低体重児が生まれる可能性が7倍高いという報告もある。

●更年期のホルモンバランスの乱れは自律神経の不調につながり、冷えや血流低下は免疫力の低下を招き、そして口腔内細菌の増殖から歯周病に進む。エストロゲンの減少はドライマウスにも注意が必要である。

27.いびきが口腔内細菌を増やす

●口呼吸は口腔内や喉を乾燥させ、細菌が侵入し粘膜に取りつく原因になる。

29.毎日できる口腔ケアの基本

●以前は、歯磨きは食後すぐが良いと言われていたが、細菌と闘う唾液の効能も見直されており、食後30分程度してから歯を磨く方が口腔内細菌の除去には効果的だとされている。

30.歯磨きの概念を変える

●歯磨きの目的は口腔内細菌を増殖させないためである。歯ブラシはペンを持つように優しく磨く。時間は約10分。歯と歯の間は歯間ブラシも積極的に使う。

●歯磨き粉は少なくて良い。歯磨き粉の中身は大半が糊であり、それに炭酸カルシウムやリン酸カルシウム、塩、アパタイトなどの研磨剤が混ぜてある。さらに界面活性剤、保湿剤、結合剤、発泡剤、香料や色素といったものが添加されている。歯ブラシはブラシ部分が少しでも開いたらすぐに取り換えるべきである。

32.悪化した歯周病の手術とは

歯肉からの出血があるということは、そこに大量の歯周病菌がいるということである。この歯周病菌を患部から取り出すために、柔らかい歯ブラシを用い、血が出なくなるまで歯垢をブラッシングで取り除く。出血自体は問題なく、数日すると出血しなくなる。血が出なくなるということは歯周病菌が減少したことを意味する。

●歯周病の進行度合いを調べる要素

-歯肉の色:暗赤色になって腫れがないかどうか。

-歯周ポケットの深さ:4mm以内が基準。4mm以内はブラッシングで治せる範囲だが、5mm以上になると歯科医や歯科衛生士の補助が必要になる。

●細菌や免疫細胞の死骸と唾液が固まった歯石を除去するが、頑固な歯石は歯科衛生士がハンドスケラーや超音波スケラーという専用の器具で掻き出す必要がある。

●歯周ポケットが5mmを超える場合は外科的治療が必要になる。ルートプレー二ングや外科手術によって歯周ポケットの深さを4mm以内にするための治療を行う。

画像出展:「ルートプレーニング

ルートプレー二ングはセメント質も削り取ってしまうという問題があり、ルートプレー二ングにかわるものとして、デブライドメントというものが出てきています。

 

 

 

●治療によって細菌の除去が完了すれば、歯肉は引き締まり健康を取り戻す。

33.波多野式で驚異のクリーニング効果

●PMTC(Professional Tooth Cleaning)はスウェーデンの歯科医、ペール・アクセルソンが提唱したもので、歯科医や歯科衛生士など訓練を受けた専門家による、プラークやバイオフィルムを徹底的に取り除く予防歯科の方法である。

第四章 医科歯科連携治療の重要性

39.失敗しないインプラント治療とは

●インプラントに適しているかどうかについては、歯の抜けた原因を考えることが重要である。事故による歯の欠損の場合は問題ない。虫歯も1本だけであれば問題ない。検討を要するのは歯周病によって歯を失った場合である。歯周病菌が除去されていない状態ではインプラントはやめた方が良い。遅かれ早かれインプラント歯周炎になって、インプラントが抜けてしまう。

第五章 口腔内細菌と闘い健康長寿を全うする

44.ドーソン咬合理論で歯を守る

●ドーソンの咬合の理論の基本は顎である。

●咬合はドアと同じである。上顎はドア枠、ドアは下顎である。これらは蝶番を軸につながっていて、うまく回転すればドアはどこにもぶつからず閉まる。つまり、咬合で最も重要なことは蝶番の軸と回転である。

●顎関節症の一番の原因は顎の軸の乱れである。乱れを補正するのは筋肉であり、下顎を何とか制御しようと体は反応する。これが日常的に続くと本来は休んでいるはずの筋肉は疲れてしまう。それを放置しておくと、人間は無意識に歯ぎしりや噛み締め、タッピングという異常行動が起きる。そして筋肉の異常は悪化する。

45.矯正は見た目を治すものではない

矯正治療とは歯並びのためではなく、嚙み合わせの理論を口腔内で作るためのものである。口腔内をみて顎を中心とした嚙み合わせを治さないと本当に治療したことにはならない。

●咬合という機能を根本的に治療するということである。

おわりに

●『全身の病気には原因がわからない難病が数多くあるが、近年口腔内細菌がなんらかの関与しているのではないかという報告がなされるようになった。口腔内科学にようやく光が当たってきたということだろうか。

私が26歳のころ、アメリカで最先端の歯周病治療を学んで帰国した先生のセミナーが開催されることになり参加した。6カ月のコースに参加したのは40から50歳代が中心の熱心な歯科医だった。歯周病の治療について話を聞けるものと思っていたが、講師を務めた歯科医が言ったのは、「アメリカでは歯を磨かないと治療してくれない」ということだった。歯を磨いていない患者は診察してくれないという話は衝撃的だった。何しろ当時は、どうやって歯周病になった患者を治し、失った歯の補綴をするかという治療が中心だったからだ。セミナーは「どうやったら患者に歯磨きの大切さを伝えられるか」というディスカッションに終始した。いくら歯周病の治療をしても細菌自体を排除しないと、再発する。歯周病の修復治療をする前に、病気になった原因の口腔内細菌を排除してからでなければ、治療は始まらないということを徹底的に教えられた。

その後開業して始めたのは、患者の教育だ。口の中にいる細菌の怖さを教え、この細菌を排除しなければ口の中は健康になれないことを徹底して話してきた。新患の患者は、必ず私の勉強会を受けなければならないことになっている。患者に口の中に細菌がいること、それを排除しないと虫歯も歯周病も治らないことを洗脳してきた。それと闘うために必要なことは、歯磨きしかない。

ばい菌のある場所を徹底して磨く。歯と歯肉の間に45度の角度でブラシを当てて、徹底的に細菌を落とすこと。食後3回トータルで30分程度かけてじっくり磨く。患者その人に合った歯磨きの仕方を教えてきたのだ。

それでも生活習慣が乱れると、口の中は一目瞭然、舌苔が生えるなど口の中の色が変わる。粘膜の色が悪化してしまう。どんなに口腔内をきれいにしていても、突然炎症を起こすことがあるのだ。口腔内細菌は確かに病気の原因の一つではあるが、そこに共犯者が加わることで一気に暴れだす。糖尿病や喫煙や間食などの生活習慣、唾液の減少などリスクファクターがあることで、口腔内の環境が悪化する。突然炎症を起こした患者に話を聞くと、大きな病気の治療中だったり、あるいは家族の介護で心身ともに疲れてしまっていたりする。口腔内細菌の増殖は、メンタルのリスク、生活習慣のリスク、口腔内のリスクが重なって炎症を起こす。

感想

1回約10分、1日2、3回、丁寧なブラッシングを心掛け、歯ブラシは「極細・柔らかい」タイプの安価なものを2週間程で交換しています。歯磨き粉は普通の物と薬用の物を両方使っています(薬用は朝と就寝前)。

出血、口臭などに改善がみられ、特に画期的だったことは食事中に誤って口腔内を傷つけてしまっても、潰瘍(口内炎)になることはほぼなくなったことです。

家族性高コレステロール血症以外は、特に持病はないものの、クレアチニン値が基準値をわずかですが、超えているのが気になっています。そこで口腔内細菌と腎臓病の関係性を調べてみたところ、以下の2つのサイトを見つけました。

~歯周病と慢性腎臓病(CKD)の関係~ 

『歯周病は、歯と歯肉の境目に細菌がたまり炎症が起きる病気です。P.gingivalis(ジンジバリス)という菌をはじめとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。特に内皮細胞と呼ばれる細胞への障害は、動脈硬化を引き起こしたり、腎機能障害に関わる可能性があるといわれています。』

この情報だけでは何とも言えないのですが、今後、クレアチニン値が改善されるようであれば、歯周病と腎臓の関係性を実感できるかもしれません。

ご参考:東洋医学の“腎”と“歯”の関係

画像出展:「黄帝内経素問にみられるヒトの一生と歯牙との関連について(PDF4枚)

 東洋医学では、腎は精を蔵し、髄を生じ、骨を養い、歯は骨の余りで、骨髄はまた歯を養うとされています。

口腔内細菌との闘い1

歯磨き中に出血があってもたいして気にしていなかったのですが、歯周病菌が全身に広がり深刻な病気の原因になるということを知り、「これは無視できない!」と思い、この本を見つけました。

予防はシンプルで、正しい歯磨きを1回約10分、1日3回、毎日続けるということです。

著者:波多野尚樹

発行:2015年2月

出版:(株)小学館

波多野先生の医院は、さいたま市浦和区にありました!私の自宅から自転車で10分程度です。

 

 

ブログで取り上げたのは黒字部分です。ほぼ歯周病に関するものです。

目次

はじめに

第一章 口腔内細菌は全身の病気を引き起こす

1.健康長寿は「何を食べるか」ではなく「何が食べられるか」だ

2.歯周病菌は心臓にも到達

3.口腔内細菌と腸内細菌のバランス

4.虫歯の集積地の実態

5.本当に性質の悪い歯周病

6.歯周ポケットは細菌の巣窟だ

7.口とは遠いところで起こる病気

8.糖尿病と歯周病の負のスパイラル

9.扁桃を切除して治る腎臓病がある

10.メタボは歯周病になりやすい

11.口腔内細菌が心臓病のリスクを高める

12.生活習慣病と口腔内細菌

13.唾液は細菌からガードする最初の関門だ

14.唾液は若さを保つ

15.ドライマウスは現代病だ

第二章 健康長寿の決め手は歯を残すこと

16.歯が抜けてしまった人はアルツハイマーになりやすい

17.脳と直結している歯のすごい働

18.生命維持を支える歯の役割

19.抜けた歯は代用がきかない

20.犬歯が抜けると奥歯がなくなる

21.奥歯が抜けると物忘れがひどくなる?

22.奥歯がなくなると太るメカニズムとは

23.肩こり・腰痛の原因は嚙み合わせだった

第三章 口腔内細菌との果てなき闘い

24.タバコは口腔内細菌を増やす

25.年を取ると暴れ出す口腔内細菌

26.口腔内細菌に弱い女性の身体

27.いびきが口腔内細菌を増やす

28.自分の口の中を見る習慣を

29.毎日できる口腔ケアの基本

30.歯磨きの概念を変える

31.虫歯菌を死滅させる最新治療

32.悪化した歯周病の手術とは

33.波多野式で驚異のクリーニング効果

第四章 医科歯科連携治療の重要性

34.修復歯科の時代は終わった

35.勘に頼らない「見える化」治療の今

36.歯科におけるデジタル化の挑戦

37.3Dプリンターを使ったデンタル最前線

38.スマホを利用したデジタル歯ブラシも

39.失敗しないインプラント治療とは

40.骨を作る四つの条件

41.最も進んだ骨再生治療とは

42.インプラントでも歯周病になる

第五章 口腔内細菌と闘い健康長寿を全うする

43.全身の健康を左右する嚙み合わせ

44.ドーソン咬合理論で歯を守る

45.矯正は見た目を治すものではない

46.歯を白く美しく維持するために

47.口の中をみれば寿命がわかる

おわりに

第一章 口腔内細菌は全身の病気を引き起こす

1.健康長寿は「何を食べるか」ではなく「何が食べられるか」だ

歯の数に対して美味しいと感じられる人の割合は、28本で100%、14~20本で75%、7~13本では30%に激減するという研究結果がある。

●歯が抜けるのは圧倒的に65歳以上である。

●歯を失う主な原因は歯周病である。現在、40歳以上の日本人の約40%が歯周病だといわれる。

歯周病は過労やストレスにより免疫機能が低下することでリスクが高まるので、生活習慣が重要である。

●食べるものが限定されるようになると栄養管理も難しくなり、体力、免疫力など健康の維持が難しくなる。

2.歯周病菌は心臓にも到達

●健康に重要だとされている腸内細菌は500種類以上、その数は500兆から1000兆個と考えられ、約1.5㎏にもなる。もはや、身体の一部となっている。一方、口の中の細菌、口腔内細菌も500種とも700種ともいわれる細菌が常在している。口腔内細菌の存在が確認されたのは1900年代初頭である。

●研究者が口腔内細菌の存在にこだわったのは、原因が分からない肺炎やリウマチを調査と関係していた。

●フィラデルフィアの細菌学者W・D・ミラー博士と、ロンドンの医師W・ハンター博士は、「感染源としてのヒトの口腔」という共同論文を発表した。

1989年、フィンランドのK・マイラ博士が「歯周病と急性心筋梗塞の関係」という研究論文を発表し、ついに口腔内細菌が口の中にとどまらず、全身に影響を与えていることが実証された。

3.口腔内細菌と腸内細菌のバランス

●細菌の増殖スピードは驚くほど速い。30分で1個が2個に分裂、その後累乗で増え、24時間後には281兆個にまで増えコロニーを作る。この細菌の集合体がバイオフィルムである。細菌はネバネバした物質でお互いをつないで増えていく。

●口腔内細菌もバイオフィルムを形成している。歯を磨かずに寝ると翌朝歯の表面がネバネバするのは口腔バイオフィルム(プラーク=歯垢)である。

●『口腔内細菌が付着するとリンパ球などの免疫細胞が、ただちに攻撃を開始する。細菌と接触したリンパ球は血液にのって全身に回る。研究では、口腔内細菌で腸管粘膜を刺激するとリンパ球が集結して攻撃を始め、それらの細菌はもともといた口腔粘膜に戻りそこで抗体を産生することがわかっている。その結果、腸管粘膜にいたにもかかわらず、唾液腺からIgA(免疫グロブリンA)抗体が検出させることもある。

口腔粘膜は常に細菌接触の刺激を受けているので、様々な抗菌因子を活発に作りだし、細菌を排除しようとしている。さらに、炎症を増悪させる炎症性サイトカイン(微量生理活性タンパク質)の産生を抑制して、粘膜の炎症を防ぐ働きも行っている。常に細菌が侵入している口腔粘膜は、軽い炎症が常に起こっている。

口腔内感染症を発症するということは、実は全身の免疫系の能力が低下していることを表している。例えばがんの治療として抗がん剤や放射線治療をすると、様々な口腔内疾患や感染症が起こることが知られている。治療後、口腔粘膜に潰瘍ができたり、口腔内が乾燥したりして、免疫が下がる。その結果、常在菌のカンジダ症や歯周疾患の増悪、口腔ヘルペスなどの感染症を発症する。これは口腔ケアで細菌を減らせば、炎症が治まり症状が緩和される。このように、全身の免疫低下と常在菌の相互の力関係が、口腔によってわかる。さらに口は消化器の始まりであり、健康状態と免疫機能の状況を的確に表している。「口の中をみれば、寿命がわかる」というのはこのことだ。』

4.虫歯の集積地の実態

●十分な唾液が歯の表面を覆っていればミュータンス菌は簡単に歯につくことはできない。唾液はpH7.0という中性で歯にとって最適な状態をつくる。ところが、砂糖が口の中に入ると口中が酸性に傾き、ミュータンス菌は元気になり、砂糖を餌にネバネバのグルカンを分泌し歯の表面に張りつくことができるようになる。

5.本当に性質の悪い歯周病

●『虫歯は、ミュータンス菌によって歯が破壊される感染症だ。一方歯周病は、歯周病菌によって歯肉や骨などが破壊される疾患で、歯の土台が破壊されるので歯自体が抜けてしまう。これもまた怖い感染症である。

ミュータンス菌は口の中をふわふわ漂っているが、歯周病菌は嫌気性グラム陰性菌という細菌の仲間で、空気が嫌いな菌だ。現在歯周病菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタムなど10種類ほどが確認されている。空気が嫌いな菌は口の中のどこにいるのか。歯と歯肉の間の奥の方にじっと潜んでいて、何らかのきっかけでバイオフィルムを形成し増殖を始める。これらのバイオフィルムは口の中のあちこちに発生すると、活動がより活発になる。口の中に歯周病菌のバイオフィルムが形成されると、唾液では流れず、洗口液や抗生物質なども容易に入り込めない。

しかも歯周病菌は菌の細胞そのものに毒があるため、歯周病菌が歯肉に触れただけでも炎症を起こす。蜂に刺されると腫れるが、それと同じような生体反応が起こり、歯肉が腫れる。通常細菌は菌体外に放出する外毒素しか持っていないが、嫌気性グラム陰性菌である歯周病菌は強力な内毒素も細胞膜に持っていて、細胞膜が歯肉に触れるだけで傷つける。

若いときは新陳代謝が激しいので、細胞が傷ついてもすぐに新しい細胞に生まれ変わり一晩すれば修復できる。ところが年を取ると、細胞の新陳代謝が悪くなり、修復が一晩では終わらない。そのうえ、ストレスやタバコ、睡眠不足、過労などが加わると免疫力が低下し、自然治癒力をもってしても歯肉や細胞の修復が間に合わなくなる。だから中高年以降に、歯周病が増えるのだ。

口腔内で歯周病菌が活動を開始すると、歯周病菌と闘うために血液が集まってくる。血液内のリンパ球や白血球といった免疫細胞が細菌と闘い、やっつけようとがんばる。歯肉に炎症が起こる歯肉炎になると、免疫細胞の一つであるマクロファージが体当たりで毒を壊し、白血球が細菌を食い殺し修復をサポートする。必死の防戦に敗れると、今度はTリンパ球やBリンパ球などの免疫細胞が出動してミサイル攻撃を開始する。

このように炎症が起こっている場所では、細菌と免疫システムの激しい闘いが行われているのだ。歯周病になると歯肉が赤黒くなるのは、歯肉で激しい戦闘が行われている証だ。健康な歯肉はピンク色なので、赤黒くなっていたら炎症が起こっているということだから早くメンテナンスに行くことを勧める。

それ以上に細菌の数が増えると、前述したサイトカインという強力な武器となる物質が登場し、炎症を抑えようとする。これによって細菌との戦闘はますます激しくなり、免疫細胞や細菌の死骸が大量にでて、これが膿となり流れ出してくる。歯肉を押すと赤黒い血膿がで、この膿が大量になると口臭がひどくなる。

免疫システムは細菌と激しく闘ってくれるのだが、サイトカインの働きがあまりに強すぎると、今度は細菌だけでなく自分の細胞である歯槽骨も傷つけてしまうこともある。なんと、自分の武器で自分を傷つけてしまうのだ。これこそが、歯周病による骨の破壊の原因だ。細菌をやっつけるために投入されたサイトカインが、顎の骨の破骨細胞を刺激するため、骨芽細胞の活動よりも活発になる。つまり骨が作られるより、骨が壊される方が上回ってしまうということが起こる。歯周病の末期になり、歯の土台である骨が破壊され吸収されてしまうのは、こうした骨芽細胞と破骨細胞のアンバランスによって起こる。もとをたどれば免疫システムのサイトカインの過剰な働きなのだが、これも、骨が細菌に侵されないように、自分から溶け出し体内に吸収されるように働く一種の生体反応でもある。

歯槽骨が溶けて歯肉が下がると、歯根はむき出しになる。下がった歯肉でむき出しになった歯根に、歯周病菌のバイオフィルム(プラーク)がついて、ますます歯槽骨が壊れる。やがて歯槽骨が一層弱くなり歯を支えていることができなくなり、歯がぐらぐらする。骨が終焉を迎えるとともに、歯も抜け落ちることになる。

こうして歯周組織全体がなくなってしまうので、歯周病菌も活躍場所を失う。これ以上細菌に感染されることがなくなるので、最終的には生体の勝利ともいえる。実態は、細菌に負けて骨が退却したもので、残るのは歯の痕跡もない、荒廃した口だ。

6.歯周ポケットは細菌の巣窟だ

●歯周ポケットは何百兆、何千兆個という歯周病菌の巣窟である。

●歯は歯肉、歯槽骨、セメント質、歯根膜という4つの組織でガードされている。

歯肉には無数の毛細血管が張り巡らされ、常に新鮮な血液が流れ免疫細胞の白血球が入り込んで細菌や毒素が体内に侵入するのを防いでいる。血液が流れているので綺麗なピンク色に見える。

●歯周病菌がバイオフィルムを形成し増殖を開始すると、ガードをかいくぐり活動するようになる。歯周病菌が歯肉に接触を起し赤く腫れる。歯周病菌と免疫細胞が闘い、歯周病菌の方が優勢になると炎症によって膿が出て口臭を伴うこともある。これが歯周病の第一段階で歯肉炎という。

●歯周ポケットの上部はプラークで蓋をされたような状態になっており、空気の嫌いな歯周病菌にとっては絶好の居住環境になっている。これらの細菌をやっつけるために大量の白血球やリンパ球が集まり、免疫システムが稼働すると戦闘は激しさを増し、さらに周囲の細胞を壊す。こうして歯周ポケットの深さが深くなっていく。

7.口とは遠いところで起こる病気

口の中には数多くの口腔内細菌が存在し、口内のあちこちで症状を起こしている。これが原因となって身体のあちこちで症状を起こしているということが分かった。

近年、病巣感染として注目されているのが「糖尿病と歯周病」の関係である。歯周病の炎症が糖尿病の血糖コントロールに影響している。歯周病の治療を行うことによって口腔内の炎症が治まり、血中サイトカインが減少する。これにより末端の細胞のブドウ糖を取り込む状況が改善するので、血中のヘモグロビンA1Cの数値が減少する。

9.扁桃を切除して治る腎臓病がある

●口腔内細菌が関与する腎臓病はIgA腎症である。これは腎臓にIgA(免疫グロブリンA)が付着して、腎臓の機能が徐々に低下し最終的に腎不全を起す慢性腎臓病の1つである。

●IgAは口腔内の扁桃や歯肉などの粘膜の表面に存在し、鼻や口から入る細菌やウィルスなどの抗原と結合して、体内への侵入を食い止める働きをしている。

●上咽頭部が菌を胃に流すため常に粘液が分泌しているが、菌が体内に侵入し始めると、免疫機能が活性化しマクロファージや好中球などの免疫細胞が集まり、菌の侵入を阻止しようと働く。それでもだめなら、Tリンパ球やサイトカイン、IgAやIgGがウィルスを排除しようとする。この時、大量に集まったTリンパ球やサイトカイン、IgAやIgGが上咽頭から血管に入り込んで、健康な細胞を傷つけながら進み腎臓に到達し、腎臓にこれらが溜まって腎炎を起す。

10.メタボは歯周病になりやすい

●BMI値が25~29.8(肥満度1)の人で3.4倍、BMI値が30以上(肥満度2)の人では8.6倍にもなる。

●体脂肪率が5%上がるごとに、歯周病に罹るリスクが1.3倍上がる。

●人間の体内には平均して300億から600億個の脂肪細胞があるといわれ、食べすぎや運動不足で余った脂肪が細胞の中に取り込まれる。すると細胞自体が大きく膨れていく。太って脂肪細胞が巨大化しただけで、炎症を起こさせる物質が体内に大量に排出される。メタボの人の血液検査をすると、炎症を示す高感度CRPマーカーの数値が高くなることで炎症が明らかになる。つまり太っていること自体、炎症が起こっているということであり、この炎症が歯周病を悪化させる。

11.口腔内細菌が心臓病のリスクを高める

●歯周病は0.5倍から2.8倍冠動脈性心疾患発症によるリスクが高いことが判明している。

●口腔内細菌は虫歯や歯周病などを起こすもの以外に、日和見菌といって普段は悪さをすることなく共存している菌も数多くいる。

12.生活習慣病と口腔内細菌

●口腔感染症は常在菌による感染症で、発症するかどうかは宿主である人間にかかわっている。当然生活習慣が原因の大きな部分を占めている。さらに、口腔内細菌が発症し暴れることで、生体防御反応が起き担当する免疫細胞が口腔内だけでなく血液にのって体中をめぐり、思わぬところで悪影響を及ぼす。

13.唾液は細菌からガードする最初の関門だ

●唾液には重炭酸ナトリウムが含まれており、この成分は細菌が作り出した酸を中和して、口腔内を中性に戻す働きを担っている。また、唾液にはカルシウムやリン酸、フッ素イオンなど歯の表面のエナメル質をサポートする成分があり、歯の再石灰化を促進している。

●ラクトフェリンは免疫機能を助けるタンパク質で、ストレスなどによる免疫低下防止や抗酸化作用もあるとされ、アンチエイジングの成分として近年注目されている。

●細菌の細胞膜を溶かす働きを持つ、リゾチームという抗菌酵素も含まれている。リゾチームは鼻水や涙にも入っている。この成分のおかげで口腔内細菌の働きは相当弱められている。唾液がなかったら口の中は細菌やカビ、バイオフィルムが繁殖して大変なことになる。

●唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺だけでなく口腔内のあちこちに小さな唾液腺が分散し、必要に応じて唾液が分泌される。

●唾液は副交感神経による「さらりとした唾液」と交感神経による「粘っこい唾液」がある。

14.唾液は若さを保つ

●唾液にはアミラーゼという炭水化物の消化酵素が含まれている。

唾液にはヒト成長ホルモンが含まれてており、若さを保つ源である。このヒト成長ホルモンは新陳代謝の15%を担っている。骨を成長させ筋肉を増強し、皮膚は瑞々しく保っている。

●加齢により唾液は減る。さらに耳下腺から出ていたパロチンという若返りホルモンも減少する。パロチンはリラックスして副交感神経が優位になった時に出る。

15.ドライマウスは現代病だ

ドライマウスは薬の副作用による場合が多い。降圧剤や抗うつ剤、抗ヒスタミン剤など生活習慣病の薬である。また、緊張や強いストレスがかかると唾液は出なくなる。

画像出展:「糸でんわ[PDF6枚]東京都健康長寿医療センター

『歯周病が進行すると歯を失ってしまうばかりでなく、誤嚥性肺炎、糖尿病、動脈硬化など全身の疾患のリスクとなる可能性が指

摘されています。』

 

 

落屑症候群と緑内障2

著者:平松 類

初版発行:2022年6月

出版:ライフサイエンス出版(株)

目次は“落屑症候群と緑内障1”を参照ください。

LESSON3 生活編 ―自分でできることを見つけよう―

Q27 緑内障になったら睡眠時に注意することはありますか?

●睡眠中の眼圧は高くなる。これは立位にくらべ水分が頭の方に流れ込むからである。一般的には2~4mmHg程上がるとされている。

●うつ伏せや目が枕に当たると眼圧は上がるので要注意である。特に気になる場合は保護メガネを使うと良い。

●「睡眠時無呼吸症候群」は酸素の体内循環を悪くするため、緑内障にとっても影響を及ぼす。

LESSON4 診察・検査編 ―自分の緑内障の状態を知ろう―

Q48 緑内障について医師に聞いておくべきことはありますか?

次の2つのことは医師に確認すべきである。

1)緑内障のタイプを確認する(①閉塞隅角緑内障 ②開放隅角緑内障)。これは閉塞隅角緑内障には使えない薬があるからである。一方、開放隅角緑内障の場合はほとんどの薬が使える。

2)現在の視野の状態について確認する(①初期 ②中期 ③後期)。これは多くの医師は「大丈夫です」「悪化しています」のどちからしか答えないケースが多く、いきなり「手術を考えましょう」という展開になることが少なくない。そのため、現在の正しい状態を把握しておくことが大切である。

LESSON5 治療方針編 ―自分の治療方針を知ろう―

Q56 緑内障治療の流れを教えてください。

●緑内障の治療はとてもわかりにくい。治療の大枠は「緑内障診療ガイドライン」という指針に沿って行われている。

こちらは「日本眼科学会」さまのサイトにある資料で、PDF93枚になります。

●一般的な緑内障の治療方針

1)数回の通院によって眼圧の平均値を基準値とする。

2)緑内障のタイプと基準値から目薬を選定し治療を始める。

3)眼圧が期待しているように下がらない場合は目薬の変更や追加を行う。

4)通院していく中で、視野欠損が進行したり目標眼圧をクリアできなくなったりした場合、目薬の変更、追加を行うが、状況によっては手術やレーザー治療を検討する。

Q57 眼圧はどのくらい下げればいいですか?

●目標眼圧は目薬や手術、レーザー治療を決める際の目安となるが設定方法は複数ある。

1)基準の眼圧から30%下げる方法

-これは30%下げると視野欠損の進行を抑制できる可能性が高いというデータに基づいている。

2)視野欠損の進行度ごとに目標眼圧を分ける方法

-初期であれば、18mmHg、中期であれば15mmHg、後期は12mmHgというように設定する。

3)目標眼圧を定めない方法

-できる限り眼圧を下げる。あるいは、視野欠損の進行に従って柔軟に対応する。これは適正眼圧は個人差があり、20mmHgでも緑内障が悪化しない人もいれば、10mmHg以下でも悪化する人もいるためである

Q61 近視がある人の緑内障治療は、近視のない人と違いがありますか?

●基本的には変わらないが注意点がある。眼球の一般的な大きさは直径24mm前後とされている。一方、近視になると眼球の奥行きが広がり、直径30mm前後の大きさになることもある。眼球が大きくなることにより視神経は引き伸ばされ、ダメージを受ける。そのため、近視があると緑内障になりやすいと考えられている。

近視があると、緑内障以外にも白内障、網膜剝離、加齢黄斑変性などの病気のリスクが上がる。

●注意しなければならないのは、レーシック手術やICL(眼内コンタクトレンズ)などの手術によって視力が改善した場合でも、大きくなった眼球はそのまま変わっていないので、視神経へのダメージは変わらず、よって緑内障のリスクという点では術後も同じである。

画像出展:「ひょうたん山 水谷眼科」 

眼軸長が伸びることで眼球が引き延ばされ、網膜や視神経などに負担がかかることになります。

LESSON6 目薬編 ―目薬を知って治療効果を高めよう―

Q62 目薬にはどんな種類がありますか?

●緑内障の目薬の種類は多い。

●目薬が眼圧を下げるメカニズムは、眼球の中を巡る房水の産生・循環・排出に大きく関わっている。目薬は房水の産生を抑制し排出を促すことが基本になる。

●よく使われる薬に房水排出を促進するプロスタノイド受容体関連薬がある。これは効果が高く、1日1回の点眼で済むからである。目の周りが黒ずみやすくなるなどの副作用がある。その他の薬の効果に大きな差はみられないが、目薬の相性があるので患者さんに合った目薬を探していく必要がある。

●病気や治療への理解は緑内障の治療効果を高める。

Q67 緑内障の治療効果を上げる方法はありますか?

●『「病は気から」という言葉を聞いたことはありませんか? 実際に目薬が効いているイメージをもって治療すると効果が高まるという研究があります。これをプラセボ(偽薬)効果といいます。そのほかにも本書を読んでいるあなたのように「薬や病気のことを知って治療を受ける人は治療効果が高い」ことがわかっています。本当でしょうか?そんな話は怪しいと思われるかもしれません。

私はいくつかの薬などの研究で、プラセボを用いたことがあります。プラセボの効果自体は知ってはいましたが、効くはずのない薬が実際に患者さんに効いているのを見てびっくりしたことがあります。実際の研究でも「医師がサプリメントを効果があるといって処方すると、実際の患者に対し治療効果があった」という報告があります。また本物と偽物(塩水)の目薬に番号を振り、医師がランダムに患者に処方した研究では、「本物の目薬で4.1mmHg、塩水では1.73mmHg眼圧が下がった」という結果が出ました。

だからこそ、緑内障を本気でよくしたいあなたが「この薬は効かない」と思ってしまうことは大きな損失です。治療効果を高めるといった意味では、医師選びが重要といえるかもしれません。なぜなら、医師の診察や治療方法に疑問を感じてしまうと、医師が処方した薬についても不安になってしまうからです。その一方で、信頼のおける医師に出会えれば、安心して治療を受けることができます。』

Q69 目薬の副作用にはどんなものがありますか?

緑内障の目薬は副作用が出やすいので注意が必要である。

●市販薬では防腐剤に注意する必要がある。

●特に注意が必要なのは、心臓や肺に作用するβ遮断薬というタイプの目薬である。喘息、心不全、徐脈など心臓に何らかの病気がある人は医師に必ず相談すべきである。

●アイファガンなどの交感神経α2受容体作動薬は血圧を下げたり、眠くなったりする作用がある。

●一般的な副作用は目の充血がある。特にROCK阻害薬のグラナテックは充血が問題になりやすい。

●緑内障の目薬の長期使用はアレルギー反応を引き起こし、かゆみを伴うこともある。

LESSON7 手術編 ―手術・レーザー治療の効果とリスクを知っておこう―

Q72 手術やレーザー治療をするといわれたら聞いておくべきことはありますか?

●緑内障の手術は種類が多く、症状が軽度の場合はレーザー治療を選択する場合もある。これらは日帰りで簡単にできるものから、とても複雑なものまで多岐に渡る。まずは主治医から治療名を聞くことが重要である。

●手術やレーザー治療の選び方や時期は主治医によってかなり違う。特に手術に関しては悪化することもある。

●緑内障手術一覧

1)線維柱帯切除術:トラベクレクトミー、エクスプレス

2)線維柱帯切開術:トラベクロトミー

3)MIGS(低侵襲緑内障手術):トラベクトーム、iStent

4)チューブシャント手術:バルベルト、アーメド

●緑内障レーザー治療一覧

1)開放隅角:SLT、ALT、MLT、毛様体光凝固術

2)閉塞隅角:LI

Q73 手術で緑内障はよくなりますか?

●緑内障手術に共通しているのは眼圧を下げる目的で行うということである。

●眼球の中の房水を流れやすくするために通り道を作っても、約30%の人は自然と通り道が塞がってしまう。

緑内障の手術後に「すっきりと見えるようになった」と感じることはなく、むしろ手術の方法によっては目がゴロゴロしたり、不調を感じたりすることの方が多い。

●中心視野が欠けている人の手術は難しい。手術でわずかなダメージが引き金になって中心視野が欠けてしまうことがある。つまり、手術によって悪化する可能性を理解しておく必要がある。

緑内障手術には「放置すると失明に向かう可能性が高いから致し方なく手術する」という考えが基本にある。だからこそ、しっかりと手術について理解して置かなければならない。

Q74 手術やレーザー治療はどんな場合にすすめられますか?

●多くの場合、医師は手術やレーザー治療について事前に詳しく説明することはないので、急に手術やレーザー治療の話をされたと感じることが多い。そのため、患者さん自らが情報を入手しておくことが望まれる。

●目薬の副作用に比べれば、手術やレーザー治療のリスクは大きい。

●目薬をしていても病状が進んでしまう人が一定数以上いる。また、「もともとの状態が悪い」、「若くて今後の進行をなるべく抑えたい」、「進行が早い」、「眼圧が極端に高い」などの場合は、手術やレーザー治療を検討することが多くなる。

Q75 レーザー治療にはどんな種類がありますか?

●緑内障のレーザー治療は閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障がある。前者のレーザー治療はLI(レーザー虹彩切開術)といわれ、眼球の中の虹彩に房水の通り道をつくり緑内障の発作[症状次第では一晩で失明することもある]が起きるのを防ぐ。治療時間は約10~20分である。

●開放隅角緑内障のレーザー治療は何種類かある。ALT(アルゴンレーザー線維柱帯形成術)、SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)、MLT(マイクパルスレーザー線維柱帯形成術)、毛様体光凝固術(マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術)が代表的である。かつてはALTがよく行われていたが、現在ではSLTが主流である。

●ALT、SLT、MLTは目の線維柱帯という場所にレーザーを当てて房水をよくして眼圧を下げる方法で、海外では「目薬よりSLTの方が良いのではないか」といわれており、日本でも今後はSLTがメインになっていく可能性がある。

●SLTの成功率は60~70%、効果は2~3年持続し、再治療が可能である。治療時間も約5~10分と負担が少ない。 

画像出展:「西春眼科クリニック」 

 

Q76 手術にはどんな種類がありますか?

●問題となる眼圧は房水が多くなることで高くなる。従って、手術の目的は房水の排出量を増やすことによって眼圧を下げることになる。

●緑内障手術はトラベクロミー(線維柱帯切開術)、トラベクレクトミー(線維柱帯切除術)、チューブシャント手術(インプラント手術)の3種類がある。そのメカニズムは洗面台にたとえられる。洗面台の排水口のゴミ受けを交換するような手術がトラベクロトミーである。それでも改善されない場合は排水管を取り替える。これがトラベクレクトミーになる。それでもまだ改善されない場合は、洗面台の排水管を本管(下水管)に直接つなげる。これをチューブシャント手術と呼ぶ。

画像出展:「緑内障の新常識」 

 

緑内障手術で最も効果が高く基本となるのが、トラベクレクトミーである。エクスプレスという最新の手術もほぼ同じである。手術時間は約40~50分程度、術後管理入院が必要になることがある。

●トラベクレクトミーの効果の持続期間は「3年もった例が72%」という報告がある。

●手術後、視力や視野に問題が出る可能性がある。また、定期的な観察が必要であり、基本的にはコンタクトレンズが使えなくなる等の制約が出てくる。

●トラベクロトミーの効果は限定的だが、手術後の制約が少なくリスクもほとんどない。また、比較的手術が簡易なことから軽度の患者さんに行うことが多い。手術時間は約30分程度、日帰りか術後管理入院かは状況による。効果の持続期間は3年が約70%といわれている。注意点は出血である。大量出血の場合は視力低下の恐れもある。

Q77 負担の少ないMIGSってどんな手術ですか?

●MIGS(低侵襲緑内障手術)はトラベクロトミーの一つで、比較的簡易なリスクの低い手術方法である。手術時間は約10分、目へのダメージも少ない。単独で行うのがトラベクトーム、白内障手術といっしょに行うのがiStentである。この手術は白内障手術といっしょに手術を行うことでのみ保険適用になる。一般的に効果はトラベクロトミーよりも低いとされている。

Q78 緑内障手術の最終手段チューブシャント手術はどんな方法ですか?

●チューブシャント手術は約30~60分程度が一般的で、大掛かりな手術のため実施できる施設は限られている。効果はトラベクレクトミーにはやや劣るが感染症のリスクは少ない。チューブシャント手術は従来の手術では対処できなかった重症なケースで用いられる。

Q79 なぜ緑内障なのに白内障手術をすることがあるのですか?

白内障手術自体が眼圧を下げる可能性があるからである。白内障手術は濁った水晶体を人工レンズに交換する手術である。このレンズは水晶体に比べ薄いため、眼球内でレンズが占める容積が小さくなるため、房水の流れがよくなる。

画像出展:「日本人工臓器学会」 

この図を見ると術後、眼内レンズに置き換わるとスペースにゆとりがでるのが分かります。

 

 

LESSON8未来の治療編 ―緑内障治療の未来を知って希望をもって治療を続けよう―

Q83 AIで緑内障治療はどう変わりますか?

●緑内障の治療では大量のデータと目の画像をAIで照合することで緑内障を判定する技術など、特に診断分野で活用されている。

●今後、AIの技術が発展し大量のデータの中から個人毎に最適な目薬を瞬時に選択できるようになる。

●今まで明確でなかった、緑内障と日常生活の関係性が分かるようになる。

感想

緑内障に対する関心が低く、基本的な知識さえなかったため今回の本は大変勉強になりました。

眼圧は非常に重要です。これに関係しているのは房水という目の中の液であり、水晶体、角膜など血管のない組織に栄養を与えるなどの作用と、眼球内の圧力(眼圧)を調整する役割を担っています。眼圧は低すぎると眼球の形を維持できず、高すぎると眼球がパンパンになり視神経を障害し、緑内障発症の原因になります。

ここまでで、緑内障とは眼球内の水流と関係が深く、視神経を障害することが問題であるということが分かりました。一方、眼圧は角膜の厚さやカーブによって個人差があり、レーシック手術によって角膜が薄くなっている人の眼圧は低めに出ることが分かっています。また、眼圧が正常にも関わらず、緑内障を発症している人もいます。つまり、緑内障の根本原因は眼圧ではなく、視神経のダメージを避けるということになります。

そこで、眼圧以外で視神経にダメージを与える原因を調べてみました。 

自律神経と目の関係について こちらは“和田眼科グループ”さまのサイトです。

「眼圧が高い=緑内障」というイメージがあり、「健康診断で眼圧は大丈夫だったから安心」と思いがちですが、日本人の場合、眼圧は正常である「正常眼圧緑内障」が多いのです

ストレスなどによる自律神経の乱れは、視神経への影響も大きいので、血液の循環悪化による視神経への慢性的虚血が起こり、眼圧が正常でも視神経に細胞障害が起こることで、視野が徐々に欠損してしまうと考えられています。したがって、40代以降になれば、定期的に眼科専門医を受診し、眼底写真で視神経の状態をチェックしておくことをおススメします。』 

高眼圧・緑内障」 こちらは“いしかわ眼科”さまのサイトです。

なんと20人に1人が緑内障最新の調査では、日本人の、なんと40歳以上の20人に1人が緑内障であるということがわかっています。また、眼圧が高い人が緑内障になるだけでなく、眼圧は正常であるにもかかわらず緑内障になってしまうこともわかりました。

20人に1人というと驚かれる方も多いでしょう。実際に治療を受けているは1割程度で、残りの9割の人は発見されておらず未治療なのです。緑内障は少々視野が欠けてきても、普段は両目でものを見ているので気づかないのです。たまたま検診で見つかったり、眼科で見つかったりするケースも多く、40歳を超えたら一度は検診を受けてみられるのもよいでしょう。 また、眼圧が高いのに視神経が傷んでいない「高眼圧症」の人もいることが分かりました。正常値より少々高いくらいであれば問題ありませんが、高すぎる場合は緑内障になりやすいことがわかっていますから適切な治療が必要です。

ほとんどが眼圧が正常な緑内障

緑内障の6割以上が、眼圧が正常な正常眼圧緑内障です。眼圧は高くはないのに、目の圧に弱いために視神経が傷んで弱りやすいためと考えられています。その他、視神経が栄養不足になっていたり、視神経の血液の流れが悪いのも原因と言われています。

この場合、眼圧だけ調べても正常眼圧緑内障であるかどうかは分かりません。眼底検査で、視神経が傷んでいることを確認することが必要です。最近では、視神経をOCT(三次元光干渉断層計)が細胞レベルまで解析して緑内障かどうかを診断することが可能となってきております。最終的な診断は、静的量的視野検査などで見える範囲が狭くなっていることを確認することです。

緑内障の予防には睡眠と食事が重要だと思います。前者は特に夜遅くまで、根をつめてPCやスマホを使うのは問題です。また、部屋を暗くして寝ながらテレビを長時間みることは、貴重なビタミンAを浪費し眼圧を高める原因になるため止めるべきです。栄養の中ではタンパク質とビタミンAとCを中心にバランスの良い食事を摂ることが重要だと思います。

サプリメントの中ではルテインは目に集中して届きます。目の老化を防ぐ作用のあるルテインは、黄斑部や水晶体にも含まれていますが、40歳辺りから減ってくるため、特に40歳以上の人にはお勧めサプリメントとのことです。個人的にはサプリメントは何も飲んでいないのですが、右目は落屑症候群であり、左目は網膜剥離の兆候からレーザー治療をした経験があります。このことを考えると私にとってルテインは価値あるサプリメントかもしれません。

白内障手術をした日は朝から夕方まで強い雨が降っていましたが、その雨の後、綺麗な虹が出ました。久々にみたように思います。

 

 

 

術後:ハローグレア現象

術後は定期的に地元の眼科医院で診てもらっており、眼の状態も視力も問題はありませんが、一つ気になるのは“ハローグレア現象”です。これは暗い場所で照明を見ると光の輪のようなものが一瞬見えるといった現象です。最初はよく分からなかったのですが、約20年前のレーシックの手術の時に、似たような話を聞いたことを思い出し、調べたところこれは“ハローグレア現象”であると理解しました。

症状はかなり個人差があるようです。私の場合は幸い軽度なので何かするということは考えていないのですが、調べたところ、「暗い中で細かい字を見ない」、「夜遅くまでPCやスマホを見ない(睡眠をしっかりとる)」というのが日常的な対策になりそうです。また、角膜の炎症などにも注意すべきなので、ドライアイや逆さ睫毛昔から、特に今回手術した右眼に多く、眼科で抜いてもらっていました。逆さ睫毛は角膜を傷つける原因になるようです)にも注意を払うことが大切だと思いました。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

眼科の先生にご質問したところ、「レーシック手術をしている人はハローグレア現象が出やすい」というお話でした。

約20年前のレーシック手術では、さすがに白内障手術との関係については説明されていませんでしたが、レーシック手術を受け、個人的には大変満足していたので、「しょうがないな」というところです。

 

 

落屑症候群と緑内障1

緑内障には落屑緑内障という緑内障もありますが、今回のお話しはそのようなものではありません。

こちらは“ツカザキ病院”さまのサイトです。

落屑症候群は瞳孔縁や水晶体囊前面などに、白いフケ状の落屑物質が沈着します。

落屑症候群の人が白内障の手術のために入院し、その入院中に緑内障の本を読んでみましたという内容です。興味深いのは約20年前にレ-シック手術をしていました。という点です。もちろん、これは私自身の症例です。

2008年の年間約45万人をピークに、近年では約1/10まで減ったとされるレ-シック手術ですが、検索したところ先頭に出てきたのは、品川近親クリニックさまのサイトでした。場所は有楽町のままです。私の手術もこちらでやって頂きました。

当時、私が勤めていた会社ではレ-シックが流行っていて、経験した人たちの評価は上々でした。私はサッカーをしていたこともあり、高校2年生の頃からコンタクトレンズを使っており、取り扱いの面倒くささに加え、破いてしまったことも数知れずという感じです。約30年で破損したコンタクトレンズは20枚以上であることは間違いないと思います。

眼の手術ということで将来に対する懸念はありましたが、一方、メガネやコンタクトレンズに頼る必要がなければ、特に大地震などの災害時でも困ることはないので、災害対策としても悪くない判断であると考え決断しました。 

手術前には手術の可否を判断するため、検査を行うのですが、角膜の厚さも検査項目になっており、先生から「あなたの角膜は厚いので、もう1回できますよ」と言われたことをよく覚えています。

また、現在の状況は分かりませんが、当時のレ-シック手術は、「完全補正」と「不完全補正」という二択になっており、前者の場合は「一気に老眼が進みますよ」とのことでしたが、「どうせだったらクッキリスッキリ見たいもんだ」と思い、完全補正を選びました。その甲斐あって、その時の術後の視力は小学生の時の1.5を超え、40歳後半にして、2.0となりました。予想通り近くのものはかなり見づらくなりましたが、何とかなる程度だったこともあり、後悔することはありませんでした。術後、特に困ったことはありませんでしたが、多少ドライアイの傾向があったかもしれません。

今回の白内障の手術は右眼であり、落屑症候群「あり」ということです。左眼も白内障の兆候がわずかに出ているという検査結果ですが、裸眼の視力は1.0で不自由は全く感じません。落屑症候群に関しては、あくまで右眼だけだそうです。約20年前のレ-シック手術と、右眼にみられる落屑症候群との因果関係に関しては興味深いところですが、残念ながら分かりません。

そして、白内障の手術を受けるうえで、過去にレ-シック手術をしていることによる問題は特にないようです。考慮すべきは角膜を削っているため、角膜の厚さが患者本人の生まれながらの厚さではなくなっており、視力がどう出るのかが予想しづらいという点です。また、最も重要なことは、眼圧は角膜の厚さやカーブに関係するため、レーシックの手術をうけた人の眼圧は本来の検査結果より低めに出ることです。このため、白内障手術の前に必ず医師にお話ししておく必要があります。[私の角膜はレーシック手術を2回できるような厚さがあるとのことなので眼圧検査への影響は大きくはないと予想されます]

レ-シックの手術は10分程度、白内障の手術は20分程度という印象です。前者はレ-ザ-で角膜を削る際に、髪の毛が燃える時の様な匂いが気になりました。

一方、白内障の手術に関しては、痛いというほどではないのですが、「ウッ、きたな」という場面が2回ありました(落屑症候群の場合、瞳孔の開きが悪いのでそのためかもしれません。ご参考:“宮の前眼科”)

手術は術後2泊の入院ということだったので、時間つぶしのために「自分でできる!人生が変わる 緑内障の新常識」という本を持ち込みました。

これは、「白内障の手術をするのだから、ついでに緑内障も勉強しておくか?」と思ったからです。

今回、勉強して1番良かったなと思ったことは、部屋を暗くし布団に入ってテレビを観ることが、想像していた以上に眼に悪いことが分かったことです。良くないということは知っていたのですが、眼圧の問題とビタミンAを浪費してしまう点から禁忌ということだと認識しました。今後は絶対に止めようと思います。

肝心の白内障手術では、1つ問題が発生しました。それは、手術翌朝の検診で視力は完全に復活していたのですが、眼圧が高くなってしまったことです。全体的に白っぽく見えたのも眼圧の影響によるもののようです。(ご参考:東京逓信病院 眼圧

処方された薬は、眼圧低下のための内服薬がダイアモレックス錠250mgと点眼液がチモプトールXE0.5%です。また、点滴も受けました。これは、稀に眼圧が下がらず定常化してしまうケ-スもあるためです。恐る恐る受けた翌日の眼圧検査は合格、無事退院となりました。退院翌日、地元の眼科医院での検査でも眼圧はレーシック手術による影響を加味しても基準値内に入っているとこのでした。内服薬はすでになくなっており、点眼液も後4日間でOKということになりました。もっとも、1週間後に再度検診を受けることになっています。こちらの先生のお話では術後、一過性に眼圧が上がるのは特別珍しいことではないとのことでした。

以降は、入院中に読んだ緑内障の本に関するものになります。幸い今は緑内障ではありませんが、大変怖い病気と認識しています。

著者:平松 類

初版発行:2022年6月

出版:ライフサイエンス出版(株)

目次

01 緑内障の治療効果を高める本書の使い方

02 年代別緑内障治療方針チャート

03 一般的な緑内障の治療方針

04 緑内障診察・検査フローチャート

  緑内障目薬・内服薬一覧

  緑内障手術一覧

 緑内障レーザー治療一覧

はじめに

LESSON1 病気編 ―まずは緑内障について知ろう―

Q1 緑内障は失明しますか?

Q2 白内障はよく聞きますが、緑内障とは違うのですか?

Q3 緑内障とはどんな病気ですか?

Q4 緑内障は治りませんか?

Q5 未来の緑内障治療や道具にはどんなものがありますか?

Q6 緑内障と診断されましたが、見えているから大丈夫ではないですか?

Q7 自分でできる視野のチェック方法はありますか?

Q8 緑内障になったらどのように進行しますか?

Q9 緑内障にはどんな種類がありますか?

Q10 日本人にもっとも多い正常眼圧緑内障とはどんな病気ですか?

Q11 緑内障は子どもでもなる病気ですか?

COLUMN① エビデンスとは何か?

LESSON2 食事・栄養編 ―食事・栄養に注意して緑内障の進行を抑えよう―

Q12 緑内障になったら自分でできることはないですか?

Q13 緑内障によい食べものはありますか?

Q14 緑内障の人が控えたほうがいい食べものはありますか?

Q15 緑内障の人がチョコレートを食べてもいいですか?

Q16 緑内障にアルコールとタバコは影響しますか?

Q17 緑内障に水分のとりすぎはよくないですか?

Q18 緑内障の人はコーヒー・お茶を飲んでもいいですか?

Q19 目によいといわれるブルーベリーは緑内障にもよいですか?

Q20 目によいといわれるルテインは緑内障にもよいですか?

Q21 緑内障によいビタミンはありますか?

Q22 緑内障によいサプリメントはありますか?

COLUMN② 緑内障の情報をどうやって入手するか?

LESSON3 生活編 ―自分でできることを見つけよう―

Q23 緑内障になったらダイエットをしたほうがよいですか?

Q24 緑内障には適正な体重はありますか?

Q25 緑内障の人におすすめの入浴法はありますか?

Q26 緑内障になったらどれくらい睡眠を取ればいいですか?

Q27 緑内障になったら睡眠時に注意することはありますか?

Q28 緑内障で精神的な不調になったらどうすればいいですか?

Q29 緑内障になったらメガネとコンタクトレンズのどちらを使えばいいですか?

Q30 緑内障になったらサングラスは使った方がいいですか?

Q31 緑内障になってもスマートフォン・パソコンを使っても大丈夫ですか?

Q32 緑内障で目が疲れたり、痛くなったりするときはどうすればいいですか?

Q33 緑内障には目を温めるとよいと聞きましたが本当ですか?

Q34 緑内障にマッサージはよいですか?

Q35 緑内障によいセルフケアはありますか?

Q36 緑内障で注意が必要な趣味はありますか?

Q37 緑内障で注意が必要な運動はありますか?

Q38 緑内障になったらおすすめの運動はありますか?

Q39 緑内障になっても読書をしていいですか?

Q40 緑内障が進行したらどういう生活になりますか?

Q41 緑内障で目が見えなくなったらどうすればいいのですか?

COLUMN③ 新しい健康情報をどう判断すればいいか?

LESSON4 診察・検査編 ―自分の緑内障の状態を知ろう―

Q42 緑内障検査にはどんな種類がありますか?

Q43 緑内障の疑いがある視神経乳頭陥凹拡大といわれたらどうすればいいですか?

Q44 医師によって緑内障かどうかの意見が分かれるときはどうしたらいいですか?

Q45 緑内障の専門医はどうやって探せばいいですか?

Q46 緑内障になったらどんな眼科がおすすめですか?

Q47 緑内障になったらどのくらいの通院頻度になりますか?

Q48 緑内障について医師に聞いておくべきことはありますか?

Q49 眼圧はどうやって測りますか?

Q50 眼圧の測定方法には種類がありますか?

Q51 OCT検査のデータはどうやって見るのですか?

Q52 視野検査には種類がありますか?

Q53 視野検査の結果はどうやって見るのですか?

Q54 視野検査を受ける際の心構えはありますか?

Q55 セカンドオピニオンは受けてもいいですか?

COLUMN④ 緑内障の体験談の活用方法

LESSON5 治療方針編 ―自分の治療方針を知ろう―

Q56 緑内障治療の流れを教えてください。

Q57 眼圧はどのくらい下げればいいですか?

Q58 眼圧が下がったのに視野欠損が進行する場合はどうすればいいですか?

Q59 緑内障は初期・中期・後期で治療は変わりますか?

Q60 年代で治療方法の違いはありますか?

Q61 近視がある人の緑内障治療は、近視のない人と違いがありますか?

COLUMN⑤ 緑内障を誰にどこまで打ち明ける?

LESSON6 目薬編 ―目薬を知って治療効果を高めよう―

Q62 目薬にはどんな種類がありますか?

Q63 目薬の処方はどうやって決まりますか?

Q64 目薬はどう差せばいいですか?

Q65 目薬を差した後の注意点はありますか?

Q66 2種類以上の目薬を差す場合の順番はありますか?

Q67 緑内障の治療効果を上げる方法はありますか?

Q68 目薬はいつ・どのタイミングで差せばいいですか?

Q69 目薬の副作用にはどんなものがありますか?

Q70 目薬が合わないときはどうすればいいですか?

Q71 目薬を差し忘れたらどうすればいいですか?

COLUMN⑥ 緑内障とお金

LESSON7 手術編 ―手術・レーザー治療の効果とリスクを知っておこう―

Q72 手術やレーザー治療をするといわれたら聞いておくべきことはありますか?

Q73 手術で緑内障はよくなりますか?

Q74 手術やレーザー治療はどんな場合にすすめられますか?

Q75 レーザー治療にはどんな種類がありますか?

Q76 手術にはどんな種類がありますか?

Q77 負担の少ないMIGSってどんな手術ですか?

Q78 緑内障手術の最終手段チューブシャント手術はどんな方法ですか?

Q79 なぜ緑内障なのに白内障手術をすることがあるのですか?

COLUMN⑦ 緑内障治療に私のYouTubeチャンネルの動画コメント欄とライブ配信を活用しよう!

LESSON8未来の治療編 ―緑内障治療の未来を知って希望をもって治療を続けよう

Q80 iPS細胞による緑内障治療はどこまで進んでいますか?

Q81 緑内障の再生医療の未来はどうなりますか?

Q82 緑内障の遺伝子治療の未来はどうなりますか?

Q83 AIで緑内障治療はどう変わりますか?

Q84 将来、緑内障でも生活しやすい状況になりますか?

Q85 将来、緑内障は治りますか?

おわりに

参考文献 

目次

はじめに

・平松先生の3つの出来事のお話しがとても印象的でした。

1.両親が緑内障になり、“他人事”ではなく“自分事”になった。「緑内障を治したい」と強く思うようになった。

2.緑内障にまつわる研究を行った。多くの論文を読み、学んだ知識を実際の患者さんに活用した。

3.緑内障患者さんとのふれあい。今までの説明が医師都合であり、患者さんは正しく理解できていないこと知り、緑内障の患者さんの悩みや苦しみにも配慮ができるようになった。 

こちらは平松 類先生のYouTubeです。大変、充実したサイトです。

LESSON1 病気編 ―まずは緑内障について知ろう―

Q9 緑内障にはどんな種類がありますか?

●もっとも多いのが「開放隅角緑内障」で全体の約78%を占めている。続いて「閉塞隅角緑内障」が約12%、続発緑内障が約10%である。他にわずかだが、「小児緑内障」がある。

●開放隅角緑内障は房水といわれる眼球の中の水の出口である隅角が何らかの原因で塞がったり、狭くなったりすることで起こる。房水の流れが悪くなると眼圧が上がり、視神経がダメージを受ける。 

画像出展:「VIATRIS 緑内障の情報サイト

左側が約78%とされている“開放隅角緑内障”、右側が約12%とされている“閉塞隅角緑内障”です。

●閉塞隅角緑内障で注意すべきは、使用できない薬があることである。それらは風邪薬、内視鏡を用いる際に消化管の動きを抑制する薬、全身麻酔薬、向精神薬、睡眠薬などである。

●続発緑内障には、糖尿病網膜症、血管閉鎖の病気による血管新生緑内障、瞳孔や水晶体に付着部がつく病気による落屑緑内障、ぶどう膜炎を原因とする緑内障、ステロイドの副作用によるステロイド緑内障などがある。

LESSON2 食事・栄養編 ―食事・栄養に注意して緑内障の進行を抑えよう―

Q13 緑内障によい食べものはありますか?

●目に限らず身体を作るにはタンパク質が必要である。同時に栄養バランスも重要である。

●目も毎日代謝している。古い細胞から新しい細胞に変わっている。

Q14 緑内障の人が控えたほうがいい食べものはありますか?

●糖尿病や高血圧症は緑内障にとっても良くない。特に血糖を上げないことが重要である。これは糖が血管にダメージを与えるからである。また、精白小麦粉など精製された食材も血糖を上げやすい傾向があり注意を要する。

Q17 緑内障に水分のとりすぎはよくないですか?

●急激な飲水は眼球の中の房水を増やし眼圧を上げる。5分間で1Lの水を飲む実験では「6~7㎜Hg程度眼圧が上がった」という研究がある。特に女性や目薬を3剤以上併用されている人は急激な飲水は眼圧を上げやすいので注意しなければならない。

Q20 目によいといわれるルテインは緑内障にもよいですか?

●ルテインは抗酸化物質の一種である。アントシアニンと異なり体内に取り入れられたルテインは目に集中して届く。黄斑部や水晶体にも含まれ、目の老化を防ぐ作用もある。目に含まれるルテインは40歳辺りから減ってくるので、特に40歳以上の人にはお勧めできる。

●ルテインを多く含む食材にホウレンソウがあるが、尿管結石のように体内に石ができやすい人はサプリメントが望ましい。

緑内障に対しての効果は未知数だが、抗炎症作用の他、白内障や加齢黄斑変性など目の病気の予防にルテインの摂取はよいことである。  

画像出展:「ひとみの専門店

ルテインは目の重要な部分(水晶体と黄斑部)に含まれている栄養素です。

Q21 緑内障によいビタミンはありますか?

●緑内障にとって特に重要なビタミンはビタミンAビタミンCである。ビタミンAの中のレチノールは目から入る光の反応に関係する非常に大切な成分で、特に暗いところで見る際に重要である。食材ではニンジンやホウレンソウを油で炒めると体内に吸収されやすい。

●ビタミンCは老化を防ぐ抗酸化作用がある。ビタミンCは水溶性なので取り過ぎに注意はいらないが、毎日摂取することが望ましい。食材にはレモン、ブロッコリー、ホウレンソウなどがある。

RNAとコロナワクチン2

著者:アレクサンドラ・アンリオン=コード

訳者:鳥取絹子

発行:2023年12月

出版:詩想社

目次は“RNAとコロナワクチン1”を参照ください。

 

第3章 RNAがもたらす医療の劇的な進歩

RNAは医療診断における強力なツール

・RNAは行動力の塊である。RNAが存在しなければ、DNAは生気のない化石であり、タンパク質も何もつくりださない。

RNAに関する研究は、1910年から2020年のあいだにノーベル賞を16回受賞。うち9回がノーベル生理学・医学賞、7回が化学賞である。

・『急性白血病(血液のガン)を例に挙げよう。ときに子どもを襲う、治療法が確立していない病気だ。2021年、研究者たちはRNAを調べてこの病気を研究した。患者である子どもたちから1500件のRNAを採取して回収、驚いたことに、思ってもいなかった場所で偶然、特定のRNAをみつけたのだ。この異常性は、運よく、治療法がわかっているほかのガンでもみつかり、この発見によって治療法が判明した。これは典型例だが、RNAを研究すると診断につながり、新しい治療の道が開ける証拠である。』

いまや、唾液に含まれるRNAで多くの病気の診断ができる

・唾液があれば、侵襲的な検査は不要である。唾液には様々な微生物に加えRNAも含まれており、それらによって身体のあらゆる部分について、非常に多くの診断が下せる。 

調べたところ、既に一般の検査サービスとして提供している会社がありました。(株)サリバテックという山形県の会社さまです。(会社情報

・唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺によって分泌される。また、腸や肺は微生物の貯蔵庫である。

唾液は薬の効力や毒性を知らせる。

ウィルス感染では免疫応答やウィルスの伝染性まで明らかにできる。

画像出展:「けんせい歯科」 

元になっているのは、日本歯科予防センターさまの【唾液マッサージ】のようです。

RNAがもたらす何世代にもわたる遺伝

RNAはいわばエピジェネティクス(後世遺伝学:環境によって遺伝子が介入する)の「グランド・マスター」である。ヨガや瞑想が健康に直接的な影響を与えるのは、血液や脳の細胞の中にある特別なRNAの一部を変えるからである。 

画像出展:「Pubmed

・『RNAがエピジェネティクスの達人だという例を挙げよう。女の子が生まれるとき、その子は母親由来のX染色体1本と、父親由来のX染色体1本を回収している。そこへ、Xistという名前の1個の長いRNAが、前もってどちらかはわからないのだが、2本のうちの1本のX染色体を覆い隠し、それを不活性化してしまうのだ』

トラウマ的記憶は精神だけでなく、生理学や身体にも関わっており、そこで重要な役割を果たしているのがRNAである。

・第二次世界大戦において、オランダでは食料品の禁輸措置により平常時の4分の1になった。この飢餓事件の研究は1995年に行われた。そしてそれ以降いくつかのグループによって研究が重ねられた。この結果、生理学的な遺伝が存在することが分かった。いわゆる「世代間の遺伝」である。さらに、両親、祖父母だけでなくもっと遠い祖先からの遺伝を受け継ぐことも判明した。こちらは「世代を超えた遺伝」と呼ばれている。

遺伝子の発現を抑制するRNAの働き

身体に必要な量のタンパク質を適切に合成するのはRNAの働きによる。タンパク質が多すぎるとRNAが余分なタンパク質を破壊し、足りなければ新たに作る。このメカニズムは「RNA干渉」と呼ばれており、RNAによる遺伝子の発現を抑制する現象である。この干渉メカニズムは非常に強く、一つの細胞の中で狙いをつけたRNAをすべて消滅させる能力がある。RNAをベースにして開発された薬はすべて、こうしたメカニズムが基本になっている。

RNAを使った革新的な治療薬

多くの病気はあるタンパク質が異常に堆積して、不均衡を生じることが原因である。

・RNAを活用した薬(核酸医薬)が他の薬に比べて特にユニークなのは、真のスナイパーであるという点である。狙いを定めた他のRNAをこれほど正確に修正する能力は革命的であり、特に遺伝疾患の治療には最も有効である。

4章 これだけある新型コロナワクチンの危険性

新型コロナワクチンによって体内でできるスパイクタンパクの危険性

・新型コロナワクチンはスパイクタンパクという名の新型コロナウィルスのタンパク質を作る。問題はこのタンパク質は不活性化されていない。つまり、従来のワクチンに照らし合わせて考えるならば、無害ではないということである。特に問題となるのは、私たちはこの不活性化されていないスパイクタンパクが身体にどんな影響を及ぼすか知らないまま、抗体を作っていることである。さらに、私たちの免疫防御システムが、スパイクタンパクを生成する私たち自身の細胞を攻撃する可能性があることである。このことが、私たちの身体を不安定な状態にする。

・新型コロナワクチンは私たちの身体を部分的な自己破壊にいたらせ、自己免疫疾患を引き起こす可能性を排除できない。

スパイクタンパクは消滅する前に体内を循環する

・スパイクタンパクは消滅する前に体内を循環するため、脳等の一部の組織と結びつく時間がある。

・ヒトの研究ではスパイクタンパクは血管の中で、心血管疾患特有の炎症を引き起こし、さらに血栓をつくることもある。同じくヒトの研究で、スパイクタンパクには白血球の中でウィルスの塩基配列を再活性化させる力があるということである。この種の再活性化は、ガンや多発性硬化症、統合失調症などの神経疾患や多発性関節リウマチ、一型糖尿病などを誘発することが分かっている。 

画像出展:「Pubmed

・炎症などによって体力が衰えたときに、スパイクタンパクは凝固物をつくることがある。これはアミロイド型の蓄積物を作る可能性につながる。

人工のmRNAは体内に入ってどのような動きをするのか

・『自然のmRNAは、遺伝情報が保存されている細胞核から、厳重に管理された最初の境界線を超えて、細胞質(細胞核以外の領域)へ向かう。そこでそのまま細胞内にとどまることもあれば、エクソソーム(細胞外小胞)に包まれて二番目の境界線を超え、体内を循環することもある。これらそれぞれの段階で、自然のmRNAは非常に多くのものに出会い、非常に多様な修正を受ける。

他方、ワクチンに含まれる人工のmRNAは、小さな脂質の膜に包まれている。この膜は脂質ナノ粒子(LNP)で作られている。LNPは脂肪質の座薬のようなもので、おかげでmRNAは簡単に細胞に入り込むことができ、時間を費やしながら体内を循環する。ということは、体内に長くとどまっているということで、当然ながら、mRNAはあらゆるタイプの細胞内でみつかる可能性がある。

・『mRNAワクチンは筋肉に注射される。ファイザー社のデータによると、その後15分以内に血液中に見いだされ、それからmRNAを包んだ脂質の膜は組織中に拡がっていくのだが、いつ分解するかはわからないままだ。

それらは肝臓(代謝を管理する)に打撃を与えるだけでなく、脾臓(免疫を管理する)にも、副腎(ホルモンを生成する)にも、卵巣(おかげで子どもが授かる)、骨髄(血液細胞の生成を管理する)にも到達して傷つける。それどころか、肺、腎臓、膀胱、目、心臓、そして脳にも到達するのである。

要するに、注射後の動きを追跡すると、私たちの身体全体が恒常的な慢性炎症状態と、免疫の疲弊に陥っていくのがわかるのだ。これはマウスで行なわれた研究でも示されていた。その研究では、「前臨床試験で使用された脂質ナノ粒子には強い炎症性がある」と指摘されていた。

つまり、mRNAはラットにもマウスにも、そして人間にも、体内組織に重大な打撃を与えるのである。この研究が発表されたのは2021年2月、ワクチン接種のキャンペーンが真っ盛りの頃だ。この研究結果を受け、ファイザー社は、遅まきながら、それらを明示したものを機密文書として供給、それが日本政府と、欧州医薬品局(EMA)の特定レポートで公表されている。』

新型コロナワクチンが妊婦や授乳中の母親に推奨されない理由

・『アメリカ国立衛生研究所(NIH)は世界的に有名な研究所で、このテーマに関する研究はすべて受理していたのだが、各メディアへの発表を決断したのはうち2件の研究のみだった。おそらく何か不安を抱かせることが明らかになったのだろう……。その2件の研究が明らかにしたのは、mRNAは母乳のなかに入り込んでいるということだ。「一つの研究では、母乳のサンプル40件のうち36件で、もう一つの研究ではサンプル309件のうち5件で、mRNAが検出されるレベルにあった。

これらの結果は複数の出版物に掲載された。たとえば「ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション小児科」2022年9月26日号や、「免疫学のフロンティア」2023年1月11月号などだ。』 

画像出展:「NIH

 

 

本書に紹介されていたURLをタイプしたところこのサイトが現れました。これは英国政府のサイトです。

 

感想

筋肉に注射されたmRNAワクチンは、脂質の膜に包まれあらゆる組織中に拡がっていきます。最大の問題は、それが、いつ分解されるか分からないいうことだと思います。

そして、長く組織に滞留することで、私たちの身体が恒常的な慢性炎症状態と、免疫の疲弊に陥っていく可能性があるということだと思います。その一方でその影響は個人差があるため、判断が難しいのも事実だと思います。

※ご参考6

この3カ月で気になるニュースが3つありました。あくまで可能性の話になりますが、これらの原因に慢性炎症や免疫低下が関係しているのではないか、それはコロナワクチンのブースター接種が関係しているのではないかということが、どうしても気になります。

まず、以下の2つの表はAI(Perplexity)の回答です。上表は「慢性炎症とIgG4関連疾患との関係」、下表は「コロナワクチン接種(特にブースター接種)とIgG4関連疾患との関係」です。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

こちらは「のばなクリニック」さまの“IgG4関連疾患とは?”というタイトルの動画(2分5秒)です。

 

以下が3つのニュースです。慢性炎症と免疫低下との関連を調べてみました。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

※ご参考7

ネットを見ていて、レプリコンワクチンというワクチンのことを知りました。

安全性に関して、NIBIOHN(国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所)の山本センター長のお話では、『mRNAは細胞の中で複製されるが、最初に接種する量がこれまでのmRNAワクチンと比べて少なくワクチンの成分が入る細胞の数も少ない。細胞には寿命があり、細胞が死ぬと複製もできなくなるので、無限に増えることはない。』

とのことだったのですが、気になったので調べたところ、神経細胞や心筋細胞など分裂せず長期間機能を維持する細胞もあるようです(参照:“Dr.Gotoの老化研究所 健康長寿” 最後の方です。「— 生体内で分裂を停止した分裂細胞がどのくらい長生きか、機能がどのくらい保たれるかは分かっていない。—

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

 

※ご参考8

2023-2024年シーズンのインフルエンザ感染者数は、前年2022-2023年の約4.2倍だったとされています。免疫が低下すれば感染リスクが高まるのは明らかですが、“慢性炎症”との関係は何かあるのか調べてみました。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

結論は、直接的な関連性はないがいくつか間接的な懸念点があるようです。

 

RNAとコロナワクチン1

新型コロナが5類感染症に移行したのは2023年5月8日なので1年半近く経ちました。また、2024年4月17日、東京地裁でのコロナワクチンに関する集団訴訟の一件がニュースや新聞に取り上げられていました。 

一方、先日、ネットで東京都医学総合研究所”さまの記事を見つけました。

タイトルは『IgG4関連疾患の危険因子としてのCOVID-19 mRNAワクチン』です。

画像出展:「東京都医学総合研究所

私事ですか、自分自身の健康において気になっているのは腎臓です。Cr(クレアチニン)値の1.08は基準値を超えています。血液検査は年3、4回、家族性高コレステロール血症のために行っています。今回、掛かりつけの先生にご相談させて頂き、IgG4関連腎臓病の可能性を排除する目的で、IgG4、IgE、血清補体価、そしてシスタチンCの4つを血液検査に加えて頂くことにしました。その結果は以下の通りです。

1.IgG4:75.8 (11-121)⇒正常

2.IgE:22.2(173以下)⇒正常

3.シスタチンC:091(063-0.95)⇒正常(高め)

4.血清補体価:44.0(25.0-48.0)⇒正常(腎臓は低値が問題)

※補体は主に肝臓で産生される急性期相反応物質であり、感染症をはじめとした多くの炎症性疾患で産生が亢進し高値を示します。

 

腎臓疾患が懸念される場合の血清補体価は低値になるとのことです。高値の場合は炎症性の疾患に注意する必要があるようです。シスタチンCは筋肉などに左右されないため、クレアチニンよりも腎臓の状態を正しく把握できるとされています(ただし、ステロイド等の薬剤の影響を受けやすい)。数値は高めでしたが、基準値内だったので一安心というところでした。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

AI検索のPerplexityに質問した回答です。さらなる研究が必要とされていますが、mRNAワクチンに関する懸念点が上がっています。

 

 

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

日本でのコロナワクチンの接種回数の情報です。私は3回でストップしています。今後、コロナウィルスが強毒化した場合には接種を検討しようと思っていますが、可能であればタンパク質ベースのワクチン(NVX-CoV2373)が望ましいかと思っています。 

上記のことを色々調べていて今回の本を知りました。コロナワクチンに関しては今まで3冊の本を読んでいるのですが、この本の著者が外国の方だったので、どんな内容なのか興味を持ちました。

著者:アレクサンドラ・アンリオン=コード

訳者:鳥取絹子

発行:2023年12月

出版:詩想社

 

まず、著者のプロフィールをご紹介させて頂きます。

アレクサンドラ・アンリオン=コード

●イギリス・フランス両国籍をもつ遺伝学者、元フランス国立衛生医学研究所 主任研究員。1969年生まれ。

パリ・ディドロ大学で遺伝学の博士号を取得し、ハーバード大学医科大学院で神経内科医として働いたのち、2019年までフランス国立衛生医学研究所(INSERM)の主任研究員として数多くの研究チームを率いた。主な研究分野はRNAおよび遺伝性疾患。ミトコンドリアマイクロRNAに関する研究の第一人者として国際的に認められている。

RNA研究の権威として、新型コロナワクチンの本当の安全性、有効性を指摘した本書は、フランス国内で瞬く間に16万部を超えるベストセラーとなり、世界各国で続々と翻訳・出版されている。

ブログは「RNAとは何か」と「コロナワクチンの問題」の2つに注目しました。

目次

第1章 ウィルスよりもワクチンのほうが危険という現実

●かつてないほどの短期間で開発・製品化されたワクチン

●結局、ワクチンはコロナへの感染、重症化を防げない

ワクチン接種の危険性を示す世界各国のデータ

●ワクチン接種によって免疫機能が低下する

●公開が求められているモデルナ・ファイザー社の臨床試験データの中身

●ワクチンがもたらす危険な副作用リスト

●ワクチン接種の推奨をやめはじめた世界各国の動き

第2章 新型コロナワクチンに使われたRNAとは何か

●二つの遺伝物質、DNAとRNAが私たちの身体をつくっている

●DNAとRNAの違い

●多様な形、さまざまな種類があるRNA

●RNAがもつ未知の可能性

第3章 RNAがもたらす医療の劇的な進歩

●RNAは医療診断における強力なツール

●いまや、唾液に含まれるRNAで多くの病気の診断ができる

●RNAがもたらす何世代にもわたる遺伝

●遺伝子の発現を抑制するRNAの働き

●RNAを使った革新的な治療薬

●RNAを調べれば、何を食べてきかもわかる

第4章 これだけある新型コロナワクチンの危険性

●mRNAの研究がなかなか進まなかった理由

●さまざまなタンパク質をつくる天才的な存在

●前立腺ガンの治療ではじまったmRNAワクチンの試練

●失敗し続けている皮膚ガン治療における研究

●肺ガン、エイズの治療でも失敗続きのmRNA研究

●脳腫瘍、狂犬病の治療でもよい結果は出ていない

●研究課程でみえてきた副作用の驚くべき重症度と多様性

●胃腸ガン、ジカ熱に対しても効果が出ていないmRNA研究

●製品化への審査が簡略化されたmRNAワクチン

●20年以上かけても、臨床試験で成功していなかった研究

●これまでのワクチンと、新型コロナワクチンとの決定的な違い

●新型コロナワクチンによって体内でできるスパイクタンパクの危険性

●スパイクタンパクは消滅する前に体内を循環する

●研究者たちの意見を無視して進められた新型コロナワクチンの接種

●新型コロナワクチンの消費期限、品質への疑問

●自然界に存在しないmRNAを体内に入れたらどうなるか

●人工のmRNAは体内に入ってどのような動きをするのか

●新型コロナワクチンが妊婦や授乳中の母親に推奨されない理由

●個人がこれまで受け継いできた遺伝子を変えてしまうワクチン

●私たちのみならず私たちの子孫のゲノムまで修正される

●遺伝子の修正でガンのリスクが高まる

●ファイザー社が公表する副作用リストに、なぜ遺伝性疾患があるのか

第5章 ワクチンの認可

●巨大製薬会社が抱える薬害スキャンダルの実態

●ファイザー社の数々の不祥事から垣間見える倫理観

●臨床試験が終わっていない段階で製品化されたワクチン

●疑問だらけのコロナワクチン認可の経緯

●コロナワクチンを異様な高値で売りまくる巨大製薬企業

●コロナワクチン開発に際し、80億ドル以上の公的資金を得ている

おわりに

第1章 ウィルスよりもワクチンのほうが危険という現実

ワクチン接種の危険性を示す世界各国のデータ

・ファイザー社のワクチン関連資料サイトの情報

-データを閲覧できるのは約75年後、閲覧対象は3カ月間の臨床試験結果のみ。

・WHOの「ヴィジアクセス」によると、コロナワクチン接種開始後の1年間だけで、好ましくない事象は、過去50年間に報告されたインフルエンザ副作用の総数の10倍に達している。現時点で報告されているのは、「1100万件の好ましくない作用と、7万件以上の死亡例」である。

ワクチンがもたらす危険な副作用リスト

月経障害:イスラエルの厚生省ならびにイタリアの医学誌『オープン・メディシン』(2022年2月号)によると、接種回数に関係なく、ワクチンを接種した女性の10~65%がこの症状に関係している。

こちらはNIHのサイトにあった情報です。 

心疾患(心筋炎、心膜炎など):19歳~39歳の若年男性にとってmRNAワクチンを接種した回数と関連性があり、米国と北欧諸国は医学誌『ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション』で、イスラエルでは科学誌『ネイチャー』でデータが公表されている。

こちらはJAMAのサイトにあった情報です。 

神経障害(脳梗塞型の脳血栓、脳静脈血栓症、アルツハイマー型認知症や記憶障害、感覚障害型の末梢神経障害、ベル麻痺、てんかん、ギランバレー症候群型の免疫性神経障害、横断性脊髄炎など):特に神経変性から認知症なる神経障害は、ワクチン接種後に多くなることが報告されている。WHOの「ヴィジアクセス」のサイトには、170万件の神経障害がリスクアップされている。

こちらはWHOのヴィジアクセスのページです。 

第2章 新型コロナワクチンに使われたRNAとは何か

二つの遺伝物質、DNAとRNAが私たちの身体をつくっている

・私たちはDNAとRNA、そしてタンパク質でつくられている。

・DNAとRNAが身体構造を完成させ、生きていくためのプログラミングを行っている。

DNAとRNAの違い

・DNAは安定しているがRNAは不安定で脆弱である。これはRNAが一本鎖という構造であることと、RNAは身体の様々なところに存在し、それぞれの役割や環境によって常に変化するという特質をもっていることも関係している。RNAの中には私たちの一瞬の要求に応じた後、衰退(分解)してしまうものもある。

RNAは調整役として、あらゆるシステムとコミュニケーションを行っている。

・DNAは常に核やミトコンドリアの中に留まっており(核DNA、ミトコンドリアDNA)、細胞の遺伝情報の金庫であり、エネルギーの産生所である。

多様な形、さまざまな種類があるRNA

・RNAは1本の線もあればらせん状や環状になっていることもある。長さも様々である。

ワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)が関係しているが、他にも重要なRNAはたくさんある。以下はその一部である。

-tRNA、rRNA、microRNA、siRNA、shRNA、piwiRNA、eRNA、lncRNA、snRNA、snoRNA、scaRNA、circRNA、vtRNA、yRNA、リボザイム(触媒として働くRNA)などがある。

RNAがもつ未知の可能性

microRNA(マイクロRNA)の役割はまだ完全に知られていないが、非常に重要なRNAである。それはガンやその他の重病では、マイクロRNAの位置が異常であるということが知られているからである。

・マイクロRNAは遺伝子の文字が20程しかない非常に小さなRNAだが、何万という遺伝子の中から調整を要する遺伝子を見つけることができる。そして、細胞の増殖と成長、胚の発達、組織の分化の調整、さらに細胞の死にもからんでいる。

・RNAの多様な形、計り知れない能力、修正力、変化に富んだ役割、いたる所に存在するという事実は分かっているが、まだまだ分かっていないことも多い。

mRNAを利用したワクチンの影響もRNA自体が解明されてないため、未知な部分が多いと言える。

あらゆる調整の中心になっているRNAは多くの病気の診断に関わっている。感染症、遺伝疾患、神経症、ガン等である。

・『2017年、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究スタッフが、未知の遺伝性筋疾患の患者50人のRNAのゲノムを、初めて分析した。実は、それまでDNAによる遺伝子検査を入念に行ったにもかかわらず、変異はいっさいみつからなかった。ところが、初のRNAのゲノム分析のおかげで、これらの患者の3分の1で、それまで検出できなかった変異を特定することができた。これまで解明できなかった謎を解決するRNAの力が、この研究で明らかになったのだ。』

採血はタンパク質を元に行われるが、タンパク質よりRNAをベースにした診断の方が望ましい。これは、DNAの遺伝情報をRNAがコピーし、それを伝えることでタンパク質が作られるからである。つまり、順番はRNAの方がタンパク質より先である。従って、RNAの段階までさかのぼることによって、病気の原因を発見するチャンスが増えると考えられる。

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」 

こちらはタンパク質生成におけるRNAの主な役割です。

脳の治癒力4

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

第4章 光で脳を再配線する

光を用いて休眠中の神経回路を目覚めさせる

小さな世界

・光の性質とは何だろうか。光線療法の治療への適用は、すでに確立されたもの(新生児黄疸、乾癬など)から、最近の流行(季節性情動障害への適用など)に至るまで広範囲にわたる。

光は私たちが気づかぬうちに身体に入ってくる

自然光でも脳の奥深くまで入ってくる。皮膚や頭蓋骨は光にとって絶対的な障壁にならない。太陽光のエネルギーは皮膚を通過して血液に影響を及ぼす。

・『医師は未熟児の救命には長けるようになったが、その代わり新生児黄疸が大きな問題になった。イギリスのエセックス州では、南側に面して日光が降り注ぐ中庭を持つ、第二次世界大戦の元戦時病院で、黄疸を抱えた新生児の治療が行われていた。子犬の飼育が得意な修道女のJ・ウィードがその任にあたっていた。彼女はよく、とりわけ繊細な新生児を保育器から出し、日光が降り注ぐ中庭に乳母車で運んだ。それを見た他のスタッフは不安を感じたのだが、その新生児たちの状態は改善し始めた。ある日彼女は、新生児の一人を裸にして、おずおずと担当医に見せた。日光にさらされた腹部はもはや黄色くなかったのだ。

黄疸にかかった新生児の血液サンプルが自然光のあたる窓際に置き忘れられるというできごとが起こるまで、彼女の言葉をまじめに受け取る者は誰もいなかった。回収された血液サンプルは正常だった。医師たちは何かの間違いであろうと考えたが、R・H・ドップス医師とR・J・クレーマー医師はさらに調査を進め、サンプル中の過剰なビリルビンがいつのまにか分解、つまり代謝され、血中のビリルビン濃度が正常なレベルを示していることを発見した。日光を浴びた新生児の黄疸が治ったのも、このためではないだろうか?

さらなる調査によって、皮膚と血管を通して、血液、およびおそらくは肝臓に達した光の青色の波長が、この驚嘆すべき治療効果を発揮したことが判明する。かくして光を用いた黄疸の治療が主流を占めるようになった。修道女ウォードによる偶然の発見は、私たち人間がそれまで考えられていたほど不透明ではないことを証明したのである。』

・現代の看護術の創始者であるフローレンス・ナイチンゲールは日光には治癒効果があると見抜いていたが、科学的な説明ができなかったため、病院の設計で自然光が重要視されることはなくなっていった。

1984年、アメリカ国立衛生研究所のノーマン・ローゼンタール博士は、太陽光への暴露によってある種の抑うつを治療できることを示した。

・人間は視覚を光と結びつけて考える傾向があるが、人間と光の関係はもっと根源的である。それは植物に限った話ではない。目をもたない単細胞生物は光に反応してエネルギーを供給する分子を外膜上に持つ。

好塩菌はオレンジ光を取り込み、感光性の分子がそれをエネルギーに変換する。感光性分子がオレンジ光を吸収すると、好塩菌はさらなる光のエネルギーを求めて光源に向かって泳いでいく。また、紫外線や緑色光を嫌う。好塩菌への影響が光の波長によって異なるという事実は、光の周波数がエネルギーのみならず、さまざまな種類の情報を伝達することを意味する。

色に対する極端な敏感さは、私たちの身体を構成する個々の細胞やタンパク質の内部にも存在する。

ビタミンCの発見によってノーベル生理学・医学賞を受賞したアルベルト・セント=ジェルジは、身体内で電子がある分子から別の分子に移ると(電荷移動と呼ばれる)、分子が色を変える、言い換えると、放射する光のタイプを変える場合があることを発見した。このように人間と光の遭遇は、皮膚に限られるものではない。

講演と偶然の出会い

・低強度レーザー療法は3000件を超える科学文献にその基礎を置き、200件以上の臨床試験で肯定的な結果が得られている。

こちらはPDF4枚の資料です(2009年12月)。

『結び:レーザー医学は、従来は不可能であった診断や治療を可能にするという点で意義がある。今後、レーザー技術の進歩とその医学への応用により、医学の研究や医療の

分野のみならず。医療経済の分野にも革命が起こる可能

性がある。』

レーザー光とはNPO法人日本臨床医療レーザー協会

 

レーザーはいかに生体組織を癒すのか

レーザー光はATP生産の引き金になる。したがって、軟骨細胞、骨細胞、結合組織(線維芽細胞)などの健康な新細胞の成長や修復を開始し、促進することができる。

レーザーは波長をわずかに変えることで、酸素消費の増大、血液循環の改善、新たな血管の成長の促進、組織への酸素や栄養の供給の増大をもたらすことができる。

・日光のエネルギーを細胞が利用できるエネルギー形態に変換するシトクロムは、レーザーがさまざまな症状を治癒する理由を説明する。

・光子のほとんどは細胞内のミトコンドリアに吸収される。薄い皮膜に覆われたミトコンドリアには、光感受性のシトクロムが詰まっており、日光の光子は皮膜を通過してシトクロムに接触すると吸収され、細胞内にエネルギーを蓄える分子の生成を促す。

・血管外科医のフレッド・カーンはシトクロム分子まで光を通すのに四つの手法を用いる。

『まず、封筒大の柔らかいプラスチック製の帯の上に、いくつかの列に並べられた、180個の発光ダイオード(LED)によって発せられる赤色光を用いる。臨床医は、通常およそ25分間、患者の体表面を赤色光で覆う。赤色光は1~2センチメートルほど身体を貫通する。この方法は、より深い位置にある組織の治癒を準備し、血液循環の改善を支援するために、つねに最初に用いられる。次にカーンは、およそ25分間、赤外線LEDの帯を使う。この光は、さらに5センチメートルくらい深く身体を貫通して、治癒効果を発揮する。LEDの光はレーザーに似た特性を持つが、レーザー光ではない。したがって、じかに見ても害はない。それからカーンは純粋なレーザー光を用いる。その際、まず赤色光レーザーのプローブを、そして赤外線レーザーのプローブを使う。レーザープローブはLEDよりもはるかに強力で、焦点を絞った光線を身体の奥深くまで貫通させることができる。レーザープローブを適用するまでには、表層の組織はすでに、赤色および赤外線LEDから発せられた光子で飽和しており、レーザーは組織の内部に光子のカスケードを形成し、身体内部22センチメートルの深さまで届く。レーザープローブはさまざまな箇所に短時間ずつ適用され、合わせておよそ7分間用いる。LEDとは異なり、レーザープローブの光をじかに見るのは危険なため、患者や医師は、使用中特殊なメガネをかける。光の「一服」のエネルギーは、光源が発する光子の量、および波長、すなわち光の色に依存する。アインシュタインが示したように、光の色は含まれるエネルギー量を表す基準となる。

レーザー光を用いれば、免疫系の必要な箇所に限定して、有益な炎症を引き起こすことができる。疾病により発生した炎症が停滞することで炎症は「慢性化」する。この場合、該当箇所にレーザー光を当て、行き詰まったプロセスの障害を取り除いて通常の消炎プロセスを発動させることにより、炎症、腫れ、痛みを減退させることができる。

心臓病、うつ病、ガン、アルツハイマー病、自己免疫疾患(たとえば関節リウマチ)などの現代病は、一つには身体の免疫系が慢性的な炎症を過剰に引き起こすことで発症する。

慢性炎症は免疫系が必要以上に長く機能し、場合によっては自己の身体組織を外的と見なして攻撃し始める。

慢性炎症の原因は、食物や身体に蓄積された種々の有害化学物質を含め多々ある。慢性炎症を抱えた身体は、痛みやさらなる炎症をもたらす炎症性サイトカインを生む。

・レーザー光は抗炎症性サイトカインを増大させて過剰な炎症に対抗し、炎症を鎮める。

・抗炎症サイトカインは、慢性炎症に寄与する「好中球」細胞を減らし、外敵や損なわれた細胞を除去する働きをもつ「マクロファージ」と呼ばれる免疫系の細胞を増やす。

レーザーは酸素によって組織に引き起こされたストレスを軽減する。身体は常時酸素を消費しており、非常に活動的で他の分子と作用し合うフリーラジカルと呼ばれる分子を生む。フリーラジカルが過剰になると、細胞が損なわれて、変性疾患が引き起こされる場合がある。

レーザーは慢性炎症の細胞や、血液や酸素の供給が低下した細胞など、機能のはたらきが困難になって多くのエネルギーを必要としている細胞に対し、優先的に影響を及ぼすという機能がある。つまり、レーザーはもっとも必要とされる箇所に効果を発揮する。

・治癒には新たな細胞を作り出す必要がある。細胞の再生はDNAの自己複製から始まる。レーザー光は細胞内(およびRNA)の合成を活性化する。

・レーザーは脳に対しいかに影響を及ぼすのか。日光はセロトニンを分泌させる。一方、レーザー光はセロトニンに加え、痛みを和らげるエンドルフィンや損なわれた脳が失われた心的能力を再学習する際に役立つアセチルコリンなどの重要な脳内化学物質の分泌を促す。

・『カーンとスタッフたちは、20年におよぶ治療の実践を通じて、ほぼ100万件に達するレーザー治療の効果を観察し、どのタイプの症状や患者にどのプロトコルがもっとも有効かについての知識を蓄積してきた。カーンは現在でも、クリニックにやって来る患者の95パーセントを自分で診て、経過観察を行っている。患者の皮膚の色、年齢、脂肪や筋肉の量はすべて、吸収される光の量に影響を及ぼす。患者の反応に従って、療法家は光の周波数、波形、エネルギー量(一定の時間、単位面積あたりの組織を通過する光子の数)を調整する。マイケル・ハンブリンが指摘するように、「どんな治療にも、最適な光量がある。それより多くても少なくても、治療効果は得られないであろう。しかしときに、「量が少ないほうが、多い場合より効果がある」ことが見出されている。』

レーザーは脳を癒す

・レーザーを使ったユニークな治療法には、オンタリオ州で製造された低強度鼻腔内レーザーを用いて、鼻の内部(血管が表面にも脳にも近い)に光を通し、ひどい不眠症をただちに治した例がある。

・『私はキムとカーンとともに、脳そのものを対象に治療が始められたわけではないのに脳の機能を回復したという、注目すべき現象を何度も見てきた。いくつか例をあげよう。私が会った高齢の男性アラン・ハンナフォードは、首の重度の骨関節炎のために治療を受けた。彼はまた、数年前に視覚皮質に卒中を起して視野の一部が破壊されたために、目が見えにくくなっていた。もちろん彼の首は治療によってよくなったが、驚いたことに、それと同時に視野も拡大した。というのも、首に向けられたレーザーの光が、脳の後方に位置する視覚皮質付近に当たったからだ。以降も、アランの改善された視力は維持されている。』

※ご参考

1)レーザー療法で痛みを緩和する(高崎健康福祉大学)

2)レーザー治療について(大城クリニック)

3)緑内障レーザー:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)(東京逓信病院)

第7章 脳をリセットする装置

神経調節を導いて症状を逆転させる

Ⅰ.壁に立てかけた杖

奇妙な装置

・『ウィスコンシン大学の研究室を訪れたロンは、古い建物の内部にある、実験装置をいくつか備えた小さな部屋に入った。建物の入り口のすぐ隣にはトラックの搬出口があり、廊下は改築中だった。ある患者が言うように、「科学の奇跡が起こる場所にはとても見えない」雰囲気だった。ロンは「その装置が効くのかどうかはわからないが、どのみち失うものは何もない」と思っていた。ウィスコンシン大学の研究チームは病歴について質問し、歩行と平衡感覚を検査したあと、ロンを音声調査部門に連れていき、彼の声を調査した。彼の発する声はひどく割れていて理解不可能であり、モニター上では小さなドットとして表示された。基本的な検査が終わると、彼らはうわさに聞いていた装置を取り出した。

その装置はシャツのポケットに入るくらい小さく、紐がついていて、ペンダントのように首にかけている研究者もいた。口に含んで舌に乗せる部分は、平らなチューインガムのように見える。平坦な部分の下側には、144個の電極が装着されている。装置の下側全体に、流動する刺激のパターンを生成するこれらの電極は、できるだけ多くの舌の感覚ニューロンを活性化できるよう調整された周波数によって、三組の電気パルスを発する。電極は、マッチ箱大の電源ボックスに接続されている。電源ボックスは口の外に置かれ、いくつかのスイッチとランプがついている。ユーリ、ミッチ、カートは、この装置をPoNSと呼ぶ。PoNSとは、「ポータブル神経調整刺激器」の略だが(神経可塑的な脳を刺激し、ニューロンの発火の状態を矯正するのでそう呼ばれる)、この装置の主要な治療対象の一つである脳幹の組織、橋(pon)の名称にもちなんでいる。彼らはロンに、できるだけまっすぐ立って、装置を口に含むよう指示した。装置は、穏やかな信号の波によって、痛みを引き起こさずに舌とその感覚受容器を刺激する。刺激はちくちくした感触を与えるが、ときにはかろうじて気づく程度のこともある。その場合、チームメンバーはダイヤルを調整して出力を上げた。しばらく経つと、彼らはロンに目を閉じるように促した。20分のセッションを2回行うと、ロンはハミングで歌えるようになり、4回のセッションを経ると再び歌えるようになった。その週の終わりには、「オールド・マン・リバー」を大声で歌っていた。

もっとも注目すべきことは、ほぼ30年間にわたって症状が着実に悪化していったあとだというのに、驚くべき速さでロンの状態が改善したことだ。現在でも多発性硬化症を患っている事実に変わりはないが、彼の脳の神経回路は、以前よりもはるかに良好に機能している。彼は二週間、月曜日から金曜日まで研究室に滞在し、休憩をあいだにはさみながら装置を口に含んで試した。最初の週には、一日に研究室で4回、家で2回のセッションを実施した。電子機器による音声テストでは、着実な音の流れが示され、大幅な改善が見られた。また、多発性硬化症の他の症状も改善し始めた。最後に研究室をあとにするときには、当初は杖をついてよろめきながらやってきた男が、マディソンチームの前でタップダンスを踊って見せたのである。』

PoNSが米国食品医薬品局 (FDA)によって販売承認されました。という記事です。こちらは“Cambridge Consultant"さまのサイトからです。

 PoNSのメカニズムが動画で確認できます。

こちらは、“NEURO GROUPE"さまのサイトからです。

 

なぜ舌は脳への王道なのか

・『しかしなぜ舌なのか? なぜなら、彼らの発見によれば、舌は脳全体を活性化するための王道だからである。舌は身体の組織のなかでも、もっとも鋭敏な器官の一つだ。』

・『口唇期の乳児は、ものを口に含み、舌で感じることで外界を知ろうとする。舌の表面には、触覚、痛覚、味覚を感じるための48種類の感覚受容器が存在し、先端だけでも14種類ある。これらの感覚受容器は神経線維を介して脳に電気信号を送る。ユーリの分析によれば、舌先には15,000~50,000の神経線維が存在し、それらによって、巨大な情報ハイウェイが形成される。PoNSは舌の前方3分の2を占めるように置かれるが、その位置には、舌の受容器から感覚情報を受け取る二つの神経が走っている。一つは触覚刺激を受け取る舌神経で、もう一つは味覚刺激を受け取る、顔面神経の分枝である。

これらの神経は、舌の背後およそ5センチメートルの位置にある脳幹に直接接続する脳神経系の一部を構成している。脳幹は、脳に出入りする主要な神経が集まる場所で、動作、感覚、気分、認知、平衡を司る脳領域と密接に結びついており、脳幹に入った電気信号は、脳のさまざまな部位を同時に活性化することができる。PoNSを使っている最中に被験者の脳の活動を脳スキャンやEEGで記録したマディソンチームの研究は、400~600ミリ秒後に脳波が安定し、脳のあらゆる部位がともに反応して、発火し始めることを示した。脳の障害の多くは、脳のネットワークが同期して発火しないために、もしくは発火が低調なネットワークが存在するために生じる。しかし脳スキャンを用いてさえ、どの神経回路が低調なのかを正確に特定できない場合が多い、神経可塑性のゆえに、人の脳はそれぞれ、ミクロレベルではいくぶん異なった様態で配線されている。したがって、脳スキャンによってある患者の特定の脳領域に損傷が見つかっても、その脳領域で何が生じているかを100パーセントの正確さで予測することはできない。ユーリは次のように言う。「だが、PoNSを使った舌の刺激は脳全体を活性化する。だから、どこに損傷個所があるのかがわからなくても、装置が脳全体を活性化してくれるのだ」。』

Ⅳ.わずかな支援で脳はいかにバランスをとるのか

四種類の可塑的な変化

ユーリは、200人の被験者を対象にする実験と、可塑的な変化の時間経緯に関する知見に基づいて、PoNSによって4種類の可塑的な変化が得られると論じている。

第一のタイプ:声の改善(ロン)や平衡感覚の回復(ジェリ)に見られたようなただちに生じる反応である。装置使用開始後13分くらいで呼吸に変化が見られる。この迅速な変化は「機能的神経可塑性」と呼ばれている。PoNSは過剰に発火し続けるニューロンを抑制することで症状を改善する。

第二のタイプ:「シナプス神経可塑性」と呼ばれる。数日から数週間、PoNSを使いながら訓練を続けることで、ニューロン間に新しく持続的なシナプス結合を生成することができる。最初の数日間でよく見られる変化は、睡眠、発音、平衡感覚、歩き方の改善である。このタイプの可塑的変化は、基盤にあるネットワークの病理に働きかける。

第三のタイプ:シナプスだけでなくニューロン全体の変化が関与しており、「ニューロン神経可塑性」と呼ばれている。このタイプの変化は、神経回路を1ヵ月以上活性化する必要がある。研究ではニューロンは新たなタンパク質と内部組織の生成を開始する。

第四のタイプ:「システム神経可塑性」と呼ばれる。これには1年から数年を要する(推奨は2年)。この段階では、装置は使わない。このタイプの可塑性は、前述の三つの可塑性のすべてが安定化し、新たなネットワークの基盤が確立する。

必要とされる装置の使用期間は、疾病や症状によって変わる。進行性疾患(多発性硬化症やパーキンソン病など)では一生を通じて使用が求められる。これは、進行性疾患は毎日新たなダメージを引き起こすからである。

PoNSはノイズに満ちたネットワークをリセットすることで症状の緩和に役立つが、根本的な炎症の病理と病原性因子を排除できないと、脳は元のノイズに満ちた状態に戻る。そのため、神経配線に関する特定の問題とともに脳細胞の全般的な問題に対処することが必要になる。

PoNSによって改善できる症状とできない症状がある理由は、現在のところ明確になっていない。

・PoNSの価値は従来の薬物療法では効果がなかったさまざまな重い症状を、副作用なく改善することができることである。

新たなフロンティア

・PoNSは、西洋の科学の概念や方法論を導入しつつ、ホリスティックで東洋的なあり方で、すなわち治癒のプロセスの一部としてホメオスタシスに働きかけ、自己制御を促進することで、身体の自助を支援するのである。

※低強度レーザーとPoNSとの比較

『低強度レーザーとPoNSはともに脳にエネルギーを通すが、一般にそれぞれ異なる生物学的レベルで作用する。低強度レーザーに関して言えば、その光が頭蓋を通過する際、進路に位置するすべての個々の細胞がそれを浴びる。光は慢性的な炎症を取り除き、選択的に損傷した組織にエネルギーを付与する。したがってレーザー光はおもに、現在わかっている限りで言えば、一つの脳領域全体の細胞の全般的な健康に働きかける。それに対しPoNSは「一緒に配線され」、関連し合う既存の機能ネットワークに働きかける。したがってそれは、ニューロンの特定のネットワーク機能を改善する。

低強度レーザーとPoNSはそれぞれ異なる脳のレベルで作用するために、両方の恩恵を受けられる患者もいる。問題が炎症に関するものなら(脳損傷、手術後の炎症、脳卒中、髄膜炎、おそらくは多発性硬化症、そしてある種の抑うつ)、脳の細胞環境を正常化するために低強度レーザーを先に試してから、ネットワークを正常化するためにPoNSを使うのが妥当であろう。 

第8章 音の橋

音楽の脳の特別な結びつき

Ⅲ.ボトムアップで脳を再構築する

炎症を起こした脳のニューロンは結合しな

身体の慢性的な炎症は、脳を含むあらゆる組織に影響を及ぼす。

2005年にジョンズホプキンス大学医学部のチームによって行われた研究によれば、自閉症者の脳は炎症を起こしている場合が多い。検死解剖によって皮質と軸索に炎症が見出された。また、炎症は前庭系と強い結びつきを持つ小脳にとりわけ見られた。

・2008年以来5つの研究によって、かなりの数の自閉症の子どもは、子宮にいるあいだに脳細胞を標的とする母親由来の抗体を持つことが示されている。ある研究によれば、自閉症の子どもの母親の23パーセントはそのような抗体を持つ。それに対し、正常な子どもの母親に関して言えば、そのような抗体を持つ人はわずか1パーセントにすぎない。科学者は何が抗体を誘発するのかをまだつきとめていないが、おそらく自閉症の子どもの母親は、自身の免疫系を変えるような感染をしたか、あるいは毒素にさらされたのではないかと考えられている。

・自閉症の子ども自身も血中の抗体レベルが高い。

慢性的な炎症は神経回路の発達を阻害する。自閉症の子どもにおいては、多くの神経ネットワークが「過少結合」され、脳の前面のニューロンと背後のニューロンの結合が不十分であることが画像で示されている。また、他の脳領域は「過剰結合」され、これは自閉症の子どもによく見られる痙攣発作の原因となっている。過少結合と過剰結合が組み合わさると、脳領域間の同期をとることが困難になる。

・まとめると、自閉症は遺伝的な危険因子と、多くの環境的な誘発要因の産物であり、誕生前に子どもに影響を与えることもあれば、誕生後に与えることもある。そして、免疫反応と炎症が顕著に見られる。これらの要因の結びつきは発達中の脳に悪影響を及ぼし、ニューロンの適正な結合とニューロン同士のコミュニケーションを阻害する。

※ご参考

1)うつ病や自閉スペクトラム症では「脳で炎症が起きている」説が、じつに明快だった(講談社)

2)母体の炎症が子供の自閉症につながるメカニズム(AASJ)

※ハーバートの理論

『「栄養不足、毒素、ウィルス、ストレスの結合、そしておそらくは遺伝的脆弱性によって全身に負荷がかかると」、脳の支援システムが圧倒される。炎症は多量の老廃物を生産する。脳は身体の他の部分と同様、常に老廃物と死んだ細胞を除去し、ニューロンを再構築しつつ栄養を供給しなければならない。この作業は、脳グリア細胞によって行われる。グリア細胞に過負荷がかかると腫れを起し、正常にニューロンのサポートを行えなくなる。ニューロンへの血液の供給は減り、ニューロンのミトコンドリアはストレスを受ける。グリア細胞の適切なサポートを受けられなくなったニューロンは、やがて「アイドリング状態」に入り、正常に信号を発することができなくなる。すでに述べたように、ニューロンは損なわれても、あるいは機能不全に陥っても、発火を続けて「ノイズ」を生んだり、過剰に興奮したり、統制を失ったりする。ハーバートの指標によれば、グリア細胞とニューロンのシステムに過負荷がかかると、ニューロンを興奮させる脳の化学物質グルタミン酸が大量に放出される。それによってニューロンが非常に興奮しやすくなって過剰になり、私の用語を用いれば、「ノイズに満ちた脳」に至る可能性がある。』

感想

最も印象的だったのはパーキンソン病を抱えたままほぼ健常者と遜色のない日常生活を送っている人達です。この中にはグローブシステムによって動きが戻った方も含まれています。

Good vibrations Can Parkinson’s symptoms be stopped?"

『「まるで魔法のようでした」と、スタンフォード大学医学部の神経生物学者ビル・ニューサム博士は、手袋を使用する前と使用後のパーキンソン病患者の症状改善を示すビデオを初めて見たときのことを思い出しながら語った。』

 

 

パーキンソン病患者様への施術は決して多くはないのですが、来院された患者さまはすべて65歳以上で、若年性パーキンソン病の方に施術をしたことはありません。年齢的な要因が大きいのかもしれませんが、日本の患者さんに比べ動画に出てくる患者さんのポジティブさに驚きます。アプローチはそれぞれですが、いずれも動けるようになったという達成感があってのこととは思いますが、薬が当たり前の日本とのギャップが非常に大きく、もやもやとした残念な気持ちになります。

脳の治癒力3

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

運動と神経変性疾患

・ヒトのハンチング病の遺伝子を移植した若いマウスによる実験では、走行輪で運動(早歩きに相当)するマウスと走行輪のない実験環境で飼育されたマウスとを比較した結果、運動したマウスは人間の寿命に換算して約10年間、発症を遅らせることができた。この実験は神経変性疾患が「歩行」に影響されることを示した最初の実例と考えられる

ヘビと鳥のあいだを歩く

「生きるために走る会/歩く会」は南アフリカの多くに支部を持つ組織で、この組織の援助のおかげでペッパーは自分の問題を克服することができた。プログラムは減量や血圧、コレステロール、インシュリン依存度の低下、さらに投薬からの脱却を促進する。インストラクターは正しく歩いているかどうかをチェックし、負傷や消耗につながる過剰な熱意を抑える役割を担っている。

-妻のシャーリーが減量と健康増進のためこの組織に入会していた。

-この組織のモットーは「節度」であった。つまり、ケガをしないこと。最初はゆっくり歩き、少しずつ歩く量を増やす。筋肉を休める時間を十分に取るというのが会社の方針だった。

-初心者は週に3回、ケガ防止のためのストレッチを10分間行った後、学校の運動場を歩いて10分間周回する。そして2週間ごとに5分ずつ歩行時間が延ばされる。

-4㎞歩けるようになると、速く歩く試みが許される。

-運動場ではなく路上を歩くことが許される。可能なら2週間経過するごとに1㎞ずつ距離を伸ばせる。歩行距離が8㎞に達したら、今度は時間を短縮する。歩いた後はクールダウンを行う。目標は1セッションに8㎞を歩くことである。

-1ヵ月に一度、メンバーは4㎞歩くのに要する時間を計測する。

・ペッパーの歩く姿勢が前かがみになっていることに気づいたインストラクターが、歩く姿勢の修正を始めた。それは肩を引いて姿勢をまっすぐに保つことを再習得するプロセスだった。この歩き方は平坦でない野原などでは難しかったが、ゆっくりと時間をかけたアプローチを1日置きに行い、休養日を間にとることで、所要時間を大幅に短縮できた。このことがペッパーの転機となった。何年にもわたり悪化していった状況のなかで、何らかの動作に関して少しでも改善が見られたのはこのときが初めてだった。

運動は1日おきに1時間。目標は週に3回、脈拍を1分間に100以上、その状態を1時間保つ。注意すべきは自分自身の性急さであった。

変化は非常にゆっくり起こった。そして、いくつかのパーキンソン病の症状が軽くなったり消えたりしていることに気づいた。その変化は周りの人も気づくものだった。休養日をはさみながら1日おきに運動することで、回復の可能性を感じられるようになった。また、ストレスにも注意した。

・ペッパーにとって重要だったことは、歩行という複雑な様態で自動化された行為をさまざまな部分に分割し、あらゆる筋肉の動き、収縮、体重の移動、手足の位置を細かく分析することだった。

・ペッパーはゆっくり歩くことによって、ほぼすべてのパーキンソン病患者に認められる典型的な問題を発見することができた。左足が体重を支えられるようになるまでに3ヵ月を要した。左足で体重を支えることに意識を集中すれば、もはやコントロールを失って倒れることはなかった。右足の膝は、かかとが着地するまでに伸ばせるようになった。これらを達成するには、極端に焦点が絞られた、ほとんど瞑想的とも言えるほどの集中力を必要とする。あたかも乳児が始めて歩行を学ぶときや、太極拳の入門者がより完全な動きを会得するために、スローモーションのようにゆっくりとした歩行を学ぶときと同じようである。ペッパーは自分の足取り以外にもいくつか発見した。それは歩幅、腕振り、上体の前かがみ、頭の傾きなどだがこれらの変化を完全に内面化するには、1年の実践を必要とした。

ペッパーは一歩一歩に集中していれば、普通に歩けるようになった。今日でも細かい動作の観察をしている。後方になった左足の上げ方、膝の曲げ方、つま先の使い方に気をつけながら、足が十分に体重を支え、右足が地面から離れてまっすぐに伸び、右足のかかとを地面につけ、そのあいだに反対側の腕が振られるよう、そして体全体が前かがみにならないように注意している。

意識的コントロール

・ペッパーと一緒に歩いていると、彼がこれらの動作のすべてを頭の中に入れているというのは信じがたい。しかし、それは確かに可能であるとペッパーは明言する。

ペッパーは同時に二つのことができる。つまり、健常者が無意識に行なっていたいる動作を意識的にコントロールしつつ、会話のための「心的空間」を残すことができる。しかし、彼の興味を惹くことや狼狽させるようなこと、あるいは会話の内容が著しく深まるといったことが起きると、足を引き摺り始める。これによってペッパーがパーキンソン病患者であることに気づくことができる。

ペッパーは歩行がうまくできるようになると、次には震えの意識的コントロールに挑んだ。パーキンソン病に見られる「安静時振戦」は意識的に身体の該当部分を動かしていないときに起こる。また、意識的に何かに手を伸ばそうとする際には「動作時振戦」を引き起こすことがある。メガネを持つと手が震えていたが、メガネの持ち方をあれこれと変えているうちに、強く握っていれば震えを抑えられることに気づいた。このことにより、ペッパーはパーキンソン病患者が失ったものは、あらゆる動作を結び付けて自動化するという、無意識に機能する能力であると理解した。

ペッパーが考案したテクニックは、「通常は無意識に制御されている動作のコントロールを、脳の別の領域を用いる」というものだった。

意識を動員するテクニックの科学的根拠

・意識的歩行が機能する理由は、黒質と大脳基底核の解剖学的構造と機能に基づいて論理的に説明できる。大脳基底核は脳の奥深くに位置するニューロンのかたまりで、脳画像で確認すると、一連の複雑な動作や思考を結合する学習過程で活性化する。また、様々な研究によって大脳基底核は日常生活における複雑な行動の選択を実行に移すための自動化されたプログラムの形成に寄与し、さらにはそれらの複雑な行動の選択と始動を支援することが分かっている。パーキンソン病は黒質を含む大脳基底核がうまく機能しない病気である。従って、大脳基底核に頼ることはできない。これは例えばピアノの練習と同様、心的努力の集中を必要とする。ペッパーの意識的歩行とは、子どもが初めて歩行を学ぶときのように、前頭前野や皮質下の神経回路を活性化させ、意識的注意を払いながら一つ一つの動作を学んでいくというものである。ペッパーの動作の指令は大脳基底核を迂回しているかのようである。

パーキンソン病患者が抱える最大の困難の一つは、新たな動作を開始することである。何かの障害物等により一度立ち止まると、再び歩き出すことが困難な場合がある。これは自動的な行動の流れを開始する役割は黒質が担っているためである。ただし、外部からの刺激があれば簡単に動作を始めることができる。パーキンソン病患者は話かけない限り黙り、動かさなければ動かないように見える。また、彼らは自分から会話を始められないので、相手がまず会話の口火を切らなければならない。

レーザー歩行支援

3分5秒の動画です。床に照らしたレーザーポインターの光を視覚情報として取り込むことで脳を活性化させているとのことです。

・パーキンソン病のあらゆる症候の核心的な問題は受動性であり、それらを治療する主要な手段は活動性である。そして、受動性の本質は、刺激に反応する能力ではなく、自己刺激と動作の開始に対する独特の困難にある。

ペッパーは人の助けを借りずに動作を始められる。これは問題の黒質や大脳基底核の機能を脳の健康な部位に引き継がせて、開始する方法を体得しているからである。しかも、動作の開始だけでなく、十分な歩行によって常に成長因子に刺激を与えることで、動作を維持することもできる。これは脳の神経回路を改善する方法である。

他の患者を援助する

・ペッパーが行っている持続的な心のコントロールは他の患者にもできるのだろうか。ペッパーの歩行は異常な集中力で登っていくロッククライマーのようである。あるいは不慣れな太極拳の関節の動き、呼吸、筋肉の収縮に向ける入門者のようである。

・ペッパーは神経可塑性に関する情報を他のパーキンソン病患者に広げ、地元のパーキンソン病患者支援グループに入り、やがてリーダーになった。

・パーキンソン病の治療における投薬の強調は、受け身になりがちな患者を一層、受動的な方向に向かわせるように思う。患者はより効果の高い新薬を待っている。ペッパーは投薬の有効性を認識しつつも、薬への依存が当たり前のようになっている患者にとって、それは問題だと考えていた。

・73歳の女性、ウィルナ・ジェフリーはペッパーと同じように意識的歩行を実践していた。これは、彼女は一人暮らしで支援をうけるのが困難だったためである。ウィルナはペッパーから三度のセッション受け、パーキンソン病に対する態度が変わり、より建設的に考えるようになった。

歩行の科学的基盤

・強化環境のもとに置かれた動物の神経可塑性的な変化は相次いだ。その始まりは、カナダの心理学者ドナルド・ヘップがラットを檻から出して自宅の居間で飼育し始めた時だった。居間で飼育したラットは檻の中のラットより、問題解決テストが好成績だった。また、脳に多くの神経可塑性的変化が見られ、多量の神経伝達物質が産生され、脳の重量と体積が増大していた。走行輪で1カ月間、早歩きを続けたマウスは、海馬のニューロンは倍になった。

・1982年、MPTPおよび6-OHDAと呼ばれる二つの化学物質が、パーキンソン病に似た疾病を人間に引き起こすことが発見された。MPTPとは黒質のドーパミン作動性ニューロンを破壊する神経毒であり、パーキンソン病と同じダメージをもたらす。MPTPを与えられたマウスは、恒久的にパーキンソン病と同じ状態に陥ることがわかった。現在では、このようなマウスはパーキンソン病の「マウスモデル」として用いられ、新しい薬品や治療方法の効果や安全性をテストする目的で飼育されている。

・6-OHDAに関して言えば、この化学物質をラットの脳に注入すると、同様にドーパミンの喪失と、パーキンソン病に似た症状をきたす。その後の研究で、6-OHDAはパーキンソン病患者にも見出されている。

・今日では多くの人々が、1日中コンピュータの前で座りっぱなしの生活を送っている。座りがちの生活が心臓病だけでなく、ガン、糖尿病、神経変性疾患を導く重要な危険因子であることは、様々な研究によって示されている。万能薬が存在するなら、それは歩行である。

「不使用の学習」

・脳卒中の発症は二つの大きな問題を引き起こす。一つは機能解離と呼ばれている徹底的なショック状態である。この原因はニューロンが死んだあとに特定の細胞から化学物質が流出し、他の細胞にダメージを与え激しい炎症を引き起こし、死んだ細胞の周囲で血流の断絶が生じるからである。これらの現象は卒中が発生した場所のみならず、脳全体に機能不全を引き起こす。さらには、卒中によって損傷した直後、脳は「エネルギー危機」に陥る。これは損傷に対処するために大量のグルコースを消費しなければならないからである(健康な脳であっても脳は膨大なエネルギーを必要とする。脳は身体全体の重量の2%にすぎないが、20%のエネルギーを消費する)。機能解離はおよそ6週間続き、損傷した脳はその間、さらなる危害に対処するためのエネルギーが枯渇することでさらに脆弱になる。

・ドーパミンはパーキンソン病に関連する少なくとも三つの特徴をもつ。第1に動こうとする動機を高める。第2にその動作を促進して迅速に行えるようにする。第3にその動作に関与する神経回路を神経可塑性的に強化し、次回はそれをより楽に行えるようにする。しかし動機がなければ動作は起こり得ない。

・コロンビア大学運動実行研究室のピエトロ・マッツォーニは、これから動こうとするとき、脳はその動作によって得られると期待される報酬の程度と比較して、努力がどの程度必要とされるのかをまず評価する。通常、この「見積」機能を実行するにはドーパミン系が必要になる。ドーパミンレベルが低いときに動くと、その人は報酬による快を感じない。

・パーキンソン病患者が動作を実行する速度は、期待される報酬の程度と動作に必要なエネルギーの比較評価に部分的に基づく。

認知症を遅らせる

・パーキンソン病の症状を退かせハンチントン病の発症を遅らせることができるのであれば、アルツハイマー病にも歩行は有効なのだろうか?マーク・P・マットソン博士(米国立老化研究所の神経科学研究所主任)は、パーキンソン病で異常を引き起こす細胞プロセスの多くが、アルツハイマー病においても別の脳領域で生じることを示した。パーキンソン病では黒質が最初に機能不全をきたす。一方、アルツハイマー病においては、神経変性は(短期記憶を長期記憶に変換する)海馬で始まり、海馬は縮小し始め、短期記憶の能力が失われる。さらに脳は可塑性をニューロン間の結合を形成できなくなり、ニューロンの多くは死滅する。2013年、歩行とアルツハイマー病に関する回答が得られた。歩行は認知症のリスクを60%も低下させるものだった。この研究は、イギリスのカーディフ大学、コクラン・プライマリ・ケア公衆衛生研究所のピーター・エルウッド博士によって行われ、2013年12月に発表された。彼らは30年にわたり、ウェールズのケアフィリに住む45歳から59歳の男性2,235人を追跡し、5つの活動が彼らの健康状態に影響を及ぼすか否か、また、認知能力の低下、認知症、心臓病、ガンの発症、早期の死を引き起こすか否かについて調査を行った。

以下にあげる項目の4つまたは5つを実践した被験者は、認知(心的)能力の低下、認知症(アルツハイマー病を含む)のリスクが60%低下した。

①運動(活発な運動、もしくは1日に少なくとも3.2㎞の歩行、もしくは1日に16㎞の自転車走行)。運動は全般的な認知能力の低下と認知症のリスクを減らすもっとも強力な要因である。

②健康的なダイエット(1日に少なくとも3回から4回、果物と野菜を摂取する)。

③正常な体重(BMI18~25の維持)

④アルコール飲料の摂取を抑える(アルコールはときに神経毒として機能する)。

⑤禁煙(これも毒素回避の一つ)。 

これら5つの活動のすべてが、ニューロンとグリア細胞の一般的な健康を増進する。

第3章 神経可塑的治癒の四段階

いかに、そしてなぜ有効に作用するのか

ノイズに満ちた脳と脳の律動異常

・『毒素、卒中、感染、放射線治療、打撲、神経変性疾患など何が原因であろうと、脳が損傷すると一部のニューロンは死んで、信号を送らなくなる。しかしなかにはダメージを受けても、「黙らない」ニューロンもある。生きた脳組織は、その本性として興奮しやすい。神経回路が「オフ」になっているときでさえ、「オン」になり活性化された状態のときより発火率は低いながらも、ある程度は電気信号を送り続ける。この見方に従えば、脳は心臓にたとえられる。心臓は休息時でも停止せず、安静時の心拍数へと移行する。ところが、心臓の電気系統にダメージを受けると心拍数を調整する能力を失って、種々の異常な信号を送り始める。身体のペースメーカーの速度が異常に遅くなったり、危険なほど速くなったりするのだ。あるいは、不整脈や律動異常などの混乱した不規則な鼓動を生むかもしれない。

脳においては、損なわれたニューロンをシャットダウンしない限り、これらの不規則な信号は結合しているすべてのネットワークに影響を及ぼし、それらの機能を「攪乱」する。現在では、脳の多くの障害において、ニューロンが異常な速度で発火することがわかっている。この問題は、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、種々の睡眠障害、脳損傷などを生じるもので、無数の信号が同期しなくなるためにノイズに満ちた脳が形成されてしまう。高齢者や学習障害を持つ子どもの脳にも、あるいはニューロンが明確な信号を発する能力を失うと生じる感覚障害においても、類似の現象が見られる。病んだニューロンが健全なニューロンに不規則な信号を送り、その機能を損なうと、健全なニューロンは休眠状態に陥る可能性がある。

治癒の諸段階

・脳の神経可塑的な能力によりニューロン間の結合を変化させ、その「配線」を変える。以下は4つの段階である。

①神経刺激

脳への介入には何らかのエネルギーを用いて神経を刺激する。光、音、電気、振動、動作、思考(特定のネットワークを興奮させるもの)は神経刺激となる。

-神経刺激は損傷した脳の眠り込んだ神経回路を再生し、治療プロセスの第二フェーズへと導く。

-第二フェーズでは再生されて能力が向上したノイズに満ちた脳が、再び自身を調節、統制して恒常性(ホメオスタシス)を達成できるようにする。

-思考によって脳のネットワークは「オン」と「オフ」になる。思考によって適切な神経回路がオンになれば、それは発火し、そこから血液がその神経回路に流入してエネルギーを補給する(このプロセスは脳スキャンによって観察できる)。

脳に新たな神経回路を構築するペッパーの意識的歩行は、思考を用いる内的な神経刺激の一例である。

-神経刺激は新たな神経回路の構築の準備、および既存の神経回路における「不使用の学習」の克服にも効果がある。

②神経調節

-神経調節は脳が自身の治療に寄与するもう一つの内的な方法である。この働きは神経ネットワークにおける興奮と抑制のバランスを迅速に回復し、ノイズに満ちた脳を鎮める。

-神経調節は敏感や無感覚のバランスをとる。

神経刺激は神経調節を引起こし、一般に脳の自己調節を改善する。

神経調節の機能には皮下質の二つの脳システムに働きかけることで、脳の全体的な覚醒度を再設定する。一つは網様体賦活系(RAS)のリセットで、このシステムは意識レベルと全体的な覚醒レベルの調節に関与する。RASは脳幹に位置し、皮質の最上位の部位に向かって広がる。そしてその他の部位を「増強」し、睡眠・覚醒サイクルを調節する。

-RASのリセットは脳へのエネルギー供給の回復と、それによる治癒を導く際の鍵になる。

-神経調節の機能には皮下質の二つの脳システムに働きかける二つ目の方法は、自律神経系への働きかけである。ヒトは進化の過程で危機対応のため無意識かつ自動的に反応できる神経系、自律神経系を有するようになった。

-闘争/逃走反応を示す交感神経系は非常時の生存のためにあり、エネルギーの放出と代謝活動を活性化させる。その一方で、成長と治癒のプロセスは抑制される。また、交感神経系が優位な状態では治癒や学習は後回しになるため、脳の変化は起こりにくい。

-交感神経系とシーソーのような役割をもつ神経系が副交感神経系である。副交感神経系は休息/消化/回復を担う。落ち着いた状態に保たれ、ゆっくり考えたり反省したりすることができる。

副交感神経系が活性化すると、治癒のために不可欠な成長、エネルギーの保存、睡眠を助長するいくつかの化学反応が引き起こされる。また、細胞内のエネルギー源とミトコンドリアを再充電し活性化させる。

-副交感神経系を活性化することはノイズに満ちた脳を鎮める方法になると考えられる。

③神経リラクゼーション

脳障害をもつ人の中には疲れているにも関わらずよく眠れない人が多いがこれは深刻な問題である。グリア細胞は睡眠中に、老廃物と蓄積された毒素(認知症によって形成されたタンパク質を含む)を、脳脊髄液を通じて放出する特殊な経路を開く。このシステムは睡眠中に10倍活発に働く。つまり睡眠は脳を守るために極めて重要であるといえる。

④神経差異化と学習

-最終フェーズでは神経回路が自己調節の能力を取り戻す。ノイズに満ちた脳は調整され「静かになる」。患者は注意に集中できるようになり、学習の準備が整う。

①②③④の4つのすべてのフェーズが組み合わさることによって最適な量の神経可塑的変化が得られる。

・特に脳に損傷を負った人のほとんどは、これらの段階が必要となるが、本書で取り上げる問題の多くは脳の損傷に起因するわけではなく、患者はそもそも一度も発達したことのない神経回路を構築していかかなければならない。

脳の治癒力2

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

目次は“脳の治癒力1”を参照ください。

第1章 ある医師の負傷と治癒

マイケル・モスコヴィッツは慢性疼痛を脱学習できることを発見する

神経可塑的な闘争

・自分の痛みは自分で何とかしたいと考えたモスコヴィッツは2007年に、合計15,000ページに及ぶ神経科学の論文を読み漁り、神経可塑的な変化の原理を理解し実践に活かそうと考えた。

・ニューロンの発火を同期させれば脳領域間の神経結合を強化できる。その一方で、「別々に発火するニューロンは既存の結合を切り離す」ゆえに弱めることもできる。

・マイケル・モスコヴィッツ[医学博士、精神科医であったモスコヴィッツは自身に起きた事故により、自らの身体を実験台とした。そして痛みの専門家に転身した]は自分で学んだことを三つの絵にまとめた。一つは急性痛を感じている脳の絵で、そこには16の活動領域が描かれている。二つめは慢性疼痛を感じている脳の絵で、活動領域は急性痛と同じあるが、全体として領域が拡大している。三つめは痛みをまったく感じていない時の脳の絵である。

・慢性疼痛において発火する脳領域を分析すると、これらの領域の多くが、痛みを感じていない時には、思考、感覚、イメージ、記憶、運動、情動、信念などに関する処理を実行していることが分かった。これは言い換えれば、痛みを感じているときは集中や熟考できない理由にもなる。

モスコヴィッツが考えたことは単純で、「痛みを感じはじめたとき、そして痛みが大きくなろうと、それまで行っていた活動(例えば、思考、記憶など)を意識的に続けることで、それらの活動のために対応する脳領域を維持し、痛みの感覚に脳を乗っ取られることがないようにする。というものであった。

・以下の表はモスコヴィッツが作成した痛みの対象脳領域を表すものである。

画像出展:「脳はいかに治癒をもたらすか」

・『モスコヴィッツは、ある脳領域が急性痛を処理する場合、該当領域のおよそ5パーセントのニューロンのみが、痛みの処理に寄与するにすぎないことを知っていた。それに対し慢性疼痛では、発火や配線が常時なされるためにその割合は増大し、15~25パーセントのニューロンが痛みの処理に関与する。これは、およそ10~20パーセントのニューロンが、慢性疼痛の処理のために徴用されたことを意味する。だからそれらを奪い返さねばならない、と彼は考えたのだ。』

・2007年4月、モスコヴィッツはこの理論を実践に移した。

1)視覚活動によって痛みを圧倒することを考えた。(視覚処理は脳の広大な領域が関わっている)

2)視覚情報と痛みの両方を処理する脳領域は、後帯状皮質(空間内の物体の位置を視覚的に想像する手助けをする)と後部頭頂葉(視覚入力を処理する)である。

3)痛みを感じたときに、自分が描いた脳マップ、慢性疼痛の脳の絵を思い浮かべ、その脳マップが神経可塑性によってどの程度拡大したかに注目した。

4)次に、痛みのない脳の絵を浮かべ、その痛みのない状態に近づくように発火領域が小さくなることを想像した。

・最初の3週間はわずかに痛みが減ったように感じる程度だったが、1ヵ月が経ちやり方に慣れてきた。6週間後には肩甲骨付近の痛みはなくなった。4カ月後には首の痛みがとれ1年後には常時ほぼ痛みを感じることはなくなった。

MIRROR

神経可塑性の原理、MIRRORとは、Motivation(動機)、Intention(意図)、Relentlessness(徹底)、Reliability(信頼)、Opportunity(好機)、Restoration(回復)の略である。

・慢性疼痛患者は痛みのために活力をなくし、態度が受動的で依存的である。

モスコヴィッツのアプローチは患者自身が積極的になり、自己の治療に責任を持つことが求められる。簡単に痛みが消えることはないため、強い動機を維持する必要がある。

・意図とは痛みの除去ではない。脳を変えるための心である。痛みの除去を報酬とすると容易に得ることができず挫折する。特に初期の段階で重要なことは、変えようとする心的努力である。このような心的努力こそが新たな神経結合の形成を促し、痛みのネットワークを弱体化する。

・モスコヴィッツは患者にこれら6つの道具(MIRROR)を与えて、脳をまったく正常な状態に戻すという大胆な目標の動機づけを図る。そして少しでも改善を得られると一時的な「安心」ではなく、希望となって新たな技法に目を向ける。こうして悪循環は好循環に変わる。

視覚化はいかに痛みを減退させるのか

・視覚化の繰り返しは、思考を用いてニューロンを刺激する直接的な手段となる。脳画像法を用いれば、活性化された脳の視覚ニューロンに血液が流れ込んでいく兆候を観察できる。

それはプラシーボ効果なのか?

・最新の脳画像研究によれば、疼痛や抑うつを抱える患者にプラシーボ効果が生じた際の脳の変化は、投薬によって改善が得られた場合の変化とほぼ一致する。

・痛みに関してプラシーボ効果は一般的に30%以上とされている。また、プラシーボ効果による治癒は、投薬による治癒より「非現実的」というわけではない。

・ポジトロン断層法(PET)を用いた実験では、プラシーボ治療が主要な脳領域の内因性オピオイドの生産を増大させて痛みを止めること、また、プラシーボ反応が脳の痛覚システムにおけるオピオイド生産領域の配線を強化することを示した。

ただのプラシーボ効果ではない理由

プラシーボ効果は急速な反応を示す一方、長く続かないというのが一般的な認識である。ところがモスコヴィッツのMIRRORアプローチを用いた神経可塑性の治療を受けた患者は、プラシーボ反応とは全く正反対のパターンが見られる。最初の数週間は何も反応は見られず、その後徐々に痛みに変化があらわれ、そして脳が再配線されれば介入の必要性が次第に減少する。

モスコヴィッツの患者における変化のパターンは、自転車乗り、楽器の演奏、言語の習得などで脳が新たな技能を学ぶときに生じるものと一致する。この時間的な経緯は、重要な神経可塑的な変化が起こる際には典型的に見られるもので、変化は数週間(しばしば6~8週間)にわたって生じ、日々の心的実践を必要とする。

・投薬やプラシーボとは異なり、神経の可塑性を利用したテクニックは、ひとたび神経ネットワークが再配線されれば、徐々にその実践頻度を減らしていける。言い換えると、痛みを抑制するという効果は持続する。

・モスコヴィッツが痛みの緩和をした疾患は、神経損傷や炎症に起因する腰部の慢性疼痛、糖尿病性神経障害、ガンに起因する痛み、腹痛、変形性の首の痛み、切断、脳や脊髄の外傷、骨盤底の痛み、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、膀胱痛、関節炎、三叉神経痛、多発性硬化症の痛み、感染後の痛み、神経損傷、神経障害性疼痛、中枢性疼痛、幻肢痛、変形性椎間板疾患、神経根損傷による痛みなどである。

・神経可塑性の課題は対象が痛みの除去に限定されること、成果を感じるまでに2ヵ月ほど、根気よく続ける意志力を要することである。

・モスコヴィッツは2008年、慢性疼痛の治療を専門にする医師、マーラ・ゴールデンに援助を求め、触覚、音、振動をそれぞれ独自の方法で、これらの感覚で脳を満たし、痛みと競合させるアプローチへの理解を深めることができた。

第2章 歩くことでパーキンソン病の症状をつっぱねた男

いかに運動は変性障害をかわし、認知症を遅らせるのに役立つか

・『私の散歩仲間ジョン・ペッパーは、20年ほど前にパーキンソン病による運動障害と診断された。最初の症状は、およそ50年前にすでに現れていた。だが、訓練を受けたよほど鋭い観察者でなければ、それはわからなかったはずだ。ペッパーは、パーキンソン病患者にしては非常にすばやく歩く。パーキンソン病の典型的な症状を抱えているようには見えない。摺り足で歩くこともなければ、動いていようが止まっていようが震えは見られない。特に硬直しているようには見えないし、動きもすぐに開始できるらしい。平衡感覚にもすぐれる。歩くときには腕を大きく振りさえする。パーキンソン病の顕著な特徴である緩慢な動作もまったく見られない。彼は68歳になってから9年間、抗パーキンソン病薬を服用していないが、まったく普通に歩けるのだ。』

ペッパーは、自らが考案した運動プログラムと特殊な集中力によって克服している。

意識する事でパーキンソン病の症状をコントロールする:ジョン・ペッパーさん

2分16秒の動画です。本書の説明通り、パッパーさんの動きからパーキンソン病を患っているようにはとても思えません。

パーキンソン病:アメリカからの最新ニュース! 薬でも外科的手術でもない新しい治療法!

6分24秒の動画です。黒いグローブをしている方がパーキンソン病の患者さんです(1分34秒~3分25秒)。

Scientists Develop Glove That Eliminates Parkinson’s Tremor” 

4分52秒”の動画です。上記の元動画のようです。BEAKTHROUGH PARKINSON'S “VIBRATION”THERAPY」と書かれています。

How to Use Math and Physics to Treat Parkinson's with a Vibrating Glove with Peter Tass” 

9分57秒”の動画です。ピーター・タス先生が説明されています。また、Tass Lab Team」というサイトがありました。

SASUKEにも出場してしまう若年性パーキンソン病患者: ジミー・チョイさん” 

5分45秒”の動画です。4分58秒からはトレーニングの様子やSASUKEに出場した時の映像が出ています。「凄い!」の一言です。

若年性パーキンソン病というお話で、発病は27歳だそうです。

アフリカからの手紙

・『2008年9月、私はジョン・ペッパーから次のような内容のEメールを受け取った。

私は南アフリカで暮らしています。1968年以来パーキンソン病を患っていますが、十分に運動をし、通常は無意識の支配下にある動きを意識的にコントロールする方法を学んできました。私は自分の経験に基づいて一冊の本を書いたことがあります。しかじ医学界は、私の症例を精査することなくこの本の内容を否定してきました。というのも、私はもはやパーキンソン病患者には見えないからです。症状のほとんどはまだ残っていますが、現在の私は抗パーキンソン病薬を服用していません。8キロメートルごとに分けて1週間に合計で24キロメートルを歩いています。ダメージを受けた細胞が、脳内で生産されるグリア細胞由来神経栄養因子の働きによって回復したのではないかと思われます。しかしパーキンソン病の原因が除去されたわけではありません。だから運動しなくなると、もとに戻ってしまいます。

きちんとした運動を定期的に続けるよう説得できれば、パーキンソン病の診断を受けた人々の多くを手助けできるのではないかと、私は思っています。この件について、あなたのご意見をぜひお聞かせください。』

ペッパーは歩行という素朴なアプローチでパーキンソン病に対処して、脳に神経可塑的な変化を引きおこしたと考えられる。

・グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)は、脳の成長因子の一つで、脳の主要な細胞の一つであるグリア細胞によって生成され、肥料のように脳の成長を促す。脳細胞の15%はニューロンで残り85%はグリア細胞である。

・以前は脳の「詰め物」にすぎないと考えられていたグリア細胞だが、現在は、グリア細胞は常に互いに連絡を取り合い、ニューロンとのやり取りをして、電気信号を修正していることが分かっている。つまり、グリア細胞はニューロンに「神経保護」を提供し、脳の配線と再配線を支援している。

グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)は1933年に発見され、ドーパミンを生成するニューロンの発達と維持を促進することで、脳の神経可塑的な変化に寄与することが明らかになっている。

画像出展:「一般社団法人日本生物物理学会」 

ヒトの脳は、1000億個の神経細胞と、その10倍以上の数のグリア細胞から成ります。グリア細胞には、ミクログリア、オリゴデンドロサイト、アストロサイトなどの種類があります。

・『Eメールをやり取りしているうちに、彼はパーキンソン病が完治したと主張したいのではなく、歩行トレーニングを続けている限り、運動に関するパーキンソン病の主要な症状を逆転できると主張したいことがわかった。きわめて有効な変化が得られたため、パーキンソン病の主要な症状の影響を受けずに済み、十全な日常生活を送れるようになったのだ。「他のパーキンソン患者にも役に立つはずの、この情報をひとりで握ったまま死にたくはありません」と書かれていた。

・パーキンソン病の影響は二次的に脳を弱体化させる。可塑的な脳は、つねに未知の領域を探索しなければならず、動き回る移動性の生物のもとで進化した。人間は動けなくなると、視覚や聴覚をあまり使わなくなり、処理する情報量も減って脳への刺激も少なくなるため機能が衰え始める。(ものごとを考え抜く作業は有効だが、神経可塑性を備えたシステムが新たな細胞を生成し、神経を発達させるためには身体の動きが必要である

・パーキンソン病は黒質と呼ばれる脳の部位が、正常な動作に必要な脳の化学物質を生産する能力が次第に失われることによって引き起こされると考えられていた。

・1957年、スウェーデン出身の医師、アルビド・カールソン(後にノーベル生理学・医学章を受章)はドーパミンがニューロン間の信号の交換に用いられる脳内化学物質の一つであることを発見した。その後さらに、人の脳のドーパミンのおよそ80%が大脳基底核と呼ばれる、黒質を含む脳の組織に集中していることを発見した。研究ではドーパミンレベルが70%落ちても影響は見られないが、80%低下すると症状が現れる。

パーキンソン病はドーパミンの喪失が直接の原因と考えられるが、それはこの病気の重要な側面の一つと考えた方が正しい。ドーパミンが失われる理由は何か、脳領域全体の機能に影響するのは何故か、その答えは出ていない。

脳の治癒力1

神経可塑性」と「脳の可塑性」はほぼ同じ意味で使われています。検索したところ数多くのサイトがありましたが、いいなと思った3つのサイトをご紹介させて頂きます。

こちらは“カウンセリングしらいし”さまのサイトで、タイトルは、“「神経可塑性(シナプス可塑性)」【重要】”となっています。要点と概要(全体観)がつかめます。

 

画像出展:「神経可塑性」

『神経の損傷が行われた場合もそれを代償するように脳や神経における可塑的な変化があります。「傷ついた神経回路は修復されない」「神経は新しく新生されない」と信じられていましたが、最新の研究では、神経回路は修復され、新しい神経細胞も生まれることがわかってきました。

こちらは“マインドフルネスプロジェクト”さまのサイトで、タイトルは、“マインドフルネスと脳科学 〜神経可塑性〜”となっています。マインドフルネスとは、「心を“今”に向ける方法」のことだそうです。(NHKより)

こちらは、“STROKE LAB”さまのサイトで、Neuro plasticity 神経可塑性 知識を臨床に応用する”はPDF33枚の資料です。大変詳しく説明されています。ロードに時間がかかるかもしれません。

神経可塑性の話しは、概して現代医学の本流からは少し外れた亜流という印象が強く、代替医療の分野に近いのかもしれません。私が神経可塑性について肯定的なのは二つの理由からです。一つは『限界を超える子どもたち』という本を拝読させて頂き、その中で“アナットバニエルメソッド”という神経可塑性のアプローチを知ったことです。そしてもう一つは、私自身が経験した障害をもつ小児へのマッサージの効果と、“アナットバニエルメソッド”が重なったためです。

衝撃を受けた“アナットバニエルメソッド”ですが、動画を見つけました。

以下が今回勉強させて頂いた本です。

著者:ノーマン・ドイジ

訳者:高橋 洋

初版発行:2016年7月

出版:(株)紀伊國屋書店

 損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

東洋経済オンラインに本書の紹介が出ていました。

本書は500ページを超えるものですが、ブログは個人的興味から4つ、「パーキンソン病」、「神経可塑的治療」、「レーザー光治療」、「PoNS(ポータブル神経調整刺激器)」を取り上げています。

目次

はじめに

第1章 ある医師の負傷と治癒

マイケル・モスコヴィッツは慢性疼痛を脱学習できることを発見する

●痛みのレッスン―痛みを殺すスイッチ

●痛みに関するもう一つのレッスン―慢性疼痛は可塑性の狂乱である

●神経可塑的な闘争

●最初の患者

●MIRROR

●視覚化はいかに痛みを減退させるのか

●それはプラシーボ効果なのか?

●ただのプラシーボ効果ではない理由

第2章 歩くことでパーキンソン病の症状をつっぱねた男

いかに運動は変性障害をかわし、認知症を遅らせるのに役立つか

●アフリカからの手紙

●運動と神経変性疾患

●ロンドン大空襲下でのディケンズ風少年時代

●病気と診断

●ヘビと鳥のあいだを歩く

●意識的コントロール

●意識を動員するテクニックの科学的根拠

●他の患者を援助する

●論争

●パーキンソン病とパーキンソン症状

●ペッパーの神経科医を訪ねる

●歩かないと……

●歩行の科学的基盤

●「不使用の学習」

●パーキンソニズムの両面的な性質

●認知症を遅らせる

●喜望峰

第3章 神経可塑的治癒の四段階

いかに、そしてなぜ有効に作用するのか

●「不使用の学習」の蔓延

●ノイズに満ちた脳と脳の律動異常

●ニューロン集成体の迅速な形成

●治癒の諸段階

第4章 光で脳を再配線する

光を用いて休眠中の神経回路を目覚めさせる

●小さな世界

●光は私たちが気づかぬうちに身体に入ってくる

●講演と偶然の出会い

●ガブリエルの話

●カーンのクリニックを訪問する

●レーザーの物理学

●レーザーはいかに生体組織を癒すのか

●二度目のミーティング

●レーザーは脳を癒す

●レーザーをその他の脳障害の適用する

第5章 モーシェ・フェルデンクライス 物理学者、黒帯柔道家、そして療法

動作に対する気づきによって重度の脳の障害を癒す

●二個のスーツケースを携えた脱出行

●フェルデンクライス・メソッドのルーツ

●中心原理

●脳の探偵―脳卒中を解明する

●子どもを支援する

●脳の一部を欠いた少女

●言葉を生む

●最後まで制約されない人生

第6章 視覚障害者が見ることを学ぶ

フェルデンクライス・メソッド、仏教徒の治療法、その他の神経可塑的メソッド

●一縷の望み

●最初の試み

●治療にフェルデンクライス・メソッドを加える

●青みがかった黒の視覚化はいかに視覚系をリラックスさせるのか

●視力が戻る―手と目の結びつき

●ウィーンへの移住

第7章 脳をリセットする装置

神経調節を導いて症状を逆転させる

Ⅰ.壁に立てかけた杖

●奇妙な装置

●なぜ舌は脳への王道なのか

●ユーリ、ミッチ、カートに会う

●PONS開発の歴史

●死んだ組織、ノイズに満ちた組織、そして装置についての新たな見解

Ⅱ.三つの事例

●パーキンソン病

●脳卒中

●多発性硬化症

Ⅲ.ひび割れた陶芸家たち

●ジェリ・レイク

●キャシーに会う

●ぶり返し

Ⅳ.わずかな支援で脳はいかにバランスをとるのか

●脳幹の組織を失った女性

●ユーリの理論

●四種類の可塑的な変化

●新たなフロンティア

第8章 音の橋

音楽の脳の特別な結びつき

Ⅰ.識学障害を抱えた少年の運命の逆転

●アンカルカ修道院での偶然の出会い

●若き日のアルフレッド・トマティス

●トマティスの第一法則

●トマティスの第二法則と第三法則

●聴覚ズーム

●口の片側で話す

●耳の刺激によって脳を刺激する

Ⅱ.母の声

●階段の途中で生まれる

Ⅲ.ボトムアップで脳を再構築する

●自閉症、注意欠如、感覚処理障害

●自閉症からの回復

●炎症を起こした脳のニューロンは結合しない

●リスニングセラピーはいかにして自閉症の治療に役立つのか

●学習障害、社会参加、抑うつ

●注意欠如障害と注意欠如・多動性障害

●サウンドセラピーの作用に関する新説

●障害として認められていない障害―感覚処理障害

Ⅳ.修道院の謎を解く

●音楽はいかにして精神や活力を高揚させるのか

●なぜモーツアルトなのか?

補足説明資料1 外傷性脳損傷やその他の脳障害への全般的アプローチ

補足説明資料2 外傷性脳損傷を治療するためのマトリックス・リパターニング

補足説明資料3 ADD、ADHD、てんかん、不安障害、外傷性脳損傷の治療のためのニューロフィードバック

謝辞

訳者あとがき

はじめに

・ニューロプラスティシャン(神経可塑性療法家)は不変の脳という見方を否定する。

・2000年、E.カンデル博士、A.カールソン博士、P.グリーン博士は神経系におけるシグナル伝達機構を解明し、ノーベル医学生理学賞を受賞した。

シグナル伝達機構:外界より与えられた様々な情報(シグナル)に対して、情報処理機構(シグナル伝達機構)を用いて、細胞の増殖や分化、神経細胞のシナプス可塑性(神経に特定の刺激が加えられ続けると、その情報を学習し、その後の働き方が変化すること)など与えられた情報に基づいて適応するしくみ。

・E.カンデルは学習には学習には神経細胞を変える遺伝子の「スイッチオン」にする効果があることを示した。

脳の治癒力は細胞同士が常に電気的に連絡を取り合って、随時新たな神経結合を形成したり作り直したりする複雑さと精巧さによるものである。

脳への介入は光、音、振動、電気、運動などのエネルギーを利用する。これらのエネルギーは感覚器官や身体を経由して脳自体が持つ治癒力を喚起する。感覚器官は脳が受け取ることができる電気シグナルに変換する。

・世界には次に紹介するような様々な事例がある。

『音を聴かせて自閉症を、あるいは後頭部に振動を与えて注意欠如障害を完治する、舌を電気的に刺激する装置を用いて多発性硬化症の症状を逆転させたり脳卒中を治癒したりする、首のうしろに光を当てて脳損傷を治療する、鼻に光を通して安眠を確保する、〔レーザーファイバーを使い〕静脈に光を通して生命を救う、脳の大きな部分を欠いたまま生まれたために認知能力の問題を抱え、ほとんど麻痺状態にすらあった少女を、穏やかでゆっくりとした手の動きで身体をさすることによって治療する、などのケースである。』

休眠中となっている脳の神経回路を刺激する方法の多くは、心的な活動や気づきとエネルギーの利用を結びつけるものである。これらは西洋医学では新奇なものだが、東洋医学では珍しいものではない。

・『私が訪問したほぼすべてのニューロプラスティシャンは、伝統的な中国医学、古代仏教徒の瞑想法や視覚化、武術(太極拳、柔道)、ヨガ、エネルギー療法などの東洋の実践的な健康法から得た洞察を西洋の神経科学と結びつけることで、神経可塑性を治療に適用する方法への理解を深めていた。』

・『西洋医学は、何千年にもわたり無数の人々によって実践されてきた東洋医学とその主張を、長いあいだ無視してきた。心によって脳を変えるという原理は、受け入れるにはあまりにも信じがたく思えたのだ。本書は、神経可塑性の概念が、これまで疎遠であった二つの偉大な医学的伝統を橋渡しするものであることを明らかにする。』

脳は身体に君臨する帝王ではなく、身体も脳に信号を送って脳に影響を及ぼす。つまり脳と身体は双方向のコミュニケーションを行っている。

神経可塑的なアプローチは、心、身体、脳のすべてを動員しながら、患者自身が積極的に治療に関わることを要請する。また、医師は患者の欠陥に焦点を絞るだけでなく、休眠中の健康な脳領域の発見、および回復の支援に役立つ残存能力の発見を目標とする。なお、脳を治療する新たな方法は、個人差が大きくすべての患者に有効であるとは言えない。

株式投資2

著者:ウィリアム・J・オニール

初版発行:2004年5月

出版:パンローリング株式会社

目次は“株式投資1”を参照ください。

ステップ3 最高の銘柄を最適なタイミングで買う方法

●ブル相場において過ちを犯す可能性は少なく、本格的に値上がりする可能性が最も高いタイミングで、良い銘柄を選択するための法則がある。これらは半世紀にわたる各年の大きな勝ち銘柄(100%~1000%以上高騰した銘柄)が共有する特徴に基づいている。

どんな銘柄でも、その企業の実態を本当に理解できている銘柄を買う。理解が深ければ安直に株を手放すことはしない。重要なことは常に保有株に関してマーケットが何を伝えようとしているのか注意を払うことである。

●各業界のNo1の企業を選ぶべきである。ただし、このNo1は知名度やブランドではなく、EPSの伸び率、資本利益率(ROE)、売上利益率、売上の伸びなどである。

株の購入においてはタイミングが重要だが、それは株価が最安値(底値)ということではない。大きく値上がりする確率が最大であるときである。これを見きわめるのに必要なことは、ファンダメンタルズデータ(経済成長率、物価上昇率、失業率、経常収支、財政収支や各企業の業績や財務状況、PER[株価収益率]など)を参考にしながら、チャートを詳しく調べることである。特に日足、週足、月足の値と出来高のチャートが大切である。

カップウィズハンドル

●過去50年における最高の銘柄で最も頻繁にみられた、上放れのベースとなるパターンであるが、コーヒーカップを横から見た時の形に似ているためこの名称がつけられた。

●カップの底部とハンドルの下部の出来高が低水準になる傾向がみられる。これは売りが減って、強気に動く前触れの可能性を秘めている。

8週カップウィズハンドルからわずか24週間で1414%上昇”

画像出展:「オニールの相場師養成講座」

・ずっと1本調子で上昇するということは考えにくく、小休止の調整でハンドル(取っ手)が作られます。

 

 

 

●ベア相場でこのような株を買う最高のタイミングは、安値を切り下がりながら下げていた株価が再び上がり始めてハンドルを完成させ、ハンドル部分の前の高値をまさにブレイクしようとするときである。

●カップウィズハンドルは高値から下げて引けた第1週から始まって、6~8週間続く。多くは完成するのに6カ月から1年かかる。パターン内の絶対高値から絶対安値への調整幅は一般的に25~40%である。

●ハンドルの押し(下落)は、高値から最安値の幅の8~12%以内であることが一般的だが、ベア相場では20%以上になるケースもある。この押しは、急落した日に株主をさらに振るい落とす。

ハンドル下部における下方調整は、株主を最後のひと下げでさらに振るい落とすことと、カップの底からの強い反発の後の一般的にみられる調整である

ハンドルの最後の振るい落としは終わり近くで起こる。その後株価が反転して出来高を増加させたときが絶好の買い場になる場合が多い

●ハンドルは横ばいに1~2週間と短いことも、10週間近く続くこともある。ハンドルが全くないケースも少ないがある。

株価パターンを形成する調整や揉み合いの多くが、12~13週、ことによっては24~26週続くことは偶然ではない。この期間は企業の業績発表がある3ヵ月サイクルに対応しており、多くのプロの投資家は次の業績発表まで資金の投入を手控えることがあるからである

ダブルボトム

●このパターンはカップウィズハンドルほど頻繁には現れない。Wのようなパターンであるが、ほとんどが2つ目の下げ足が1つ目の安値より下がっている。1つ目の下げ足で振るい落とされなかったり、下げても前よりも下がることはないと願っていた残りの弱気の株主たちを振るい落とすことになる。

●株価が下がると買いたい水準まで下がったと判断した機関投資家たちが買いに動く。ダブルボトムの絶好の買値はWの中央の高値の水準である。

株価がこれらのパターンから上放れするときは、その日の出来高がその銘柄の1日平均より50%以上多いことが必要である。過去の顕著なケースでは100、200%以上も出来高を増やしている。上放れした日の出来高増が20%以下の場合は、情報を豊富に持っているプロたちの買い控えが考えられ、上放れが起きない可能性は高くなる。また、週足チャート上で上放れした週の出来高が前の週より少ない場合も、挫折する可能性が高い。

ステップ4 利益を確定する最適なタイミングで売る方法

株価が20~25%上がったところで、まだ値上がりしているときに利益の多くを確定し、7~8%下がったところですべて損切りするというのが基本である。実績に裏付けられた“売りルール”をうまく実践できるようになることが非常に重要である

20~25%の利益確定の例外も必要である。例えば、強いブル相場で、その企業の現在と過去3年間の収益と売上の伸びが堅調で、ROE(自己資本比率)が高く、株を保有している機関投資家が優良で、強い産業グループ内のリーダーであり、健全なベースパターンから上放れしてわずか1、2、または3週間で20%と大きく急騰した場合は、その時点では利益確定はせず、少なくとも8週間は保有するというルールである。これは過去の相場に関する研究において、序盤でロケット並みの勢いのある銘柄が、他を圧倒するような大きな勝者になる可能性が高いためである。

ただし、仮に8週間保有した強力な銘柄であっても、更に保有するかどうかはあらためて状況を分析した上で、やはりルールを設け、それに沿って判断をする。考えられるルールとしては、「期間を決める」、「移動平均線と比較する」、「今後の1~2年の収益予測をもとに予想されるPER(株価収益率)の伸びを検討する」などがある

20~25%の利益確定ルールを基本としつつ、飛躍する例外的な株を見極め、新たなルールに従って長期保有を実現できれば、大きな利益を得ることができる。「大きな利益は、アイデアによってではなく、相場に踏みとどまることによって得られる」ということが言える。

PERは重要な指標ではあるが、それ以上に重要なことはその会社の業績やポテンシャル、そして信頼できる機関投資家による安定した株保有が重要である

クライマックストップ

●何カ月も上昇し続けた主導株が突然、それまでのあらゆる週よりも速いテンポで急騰し始める。

アマゾンドットコムは典型的なクライマックストップを形成してから95%下落した

画像出展:「オニールの相場師養成講座」

このグラフは1999年、25年前のものです。

 

 

 

 

画像出展:「FinTech

アマゾン史上最大の株式分割は何を意味する? 専門家はどう見たか

こちらは1997年~2022年までのグラフです。この後、約$1600まで下げました。今のアマゾンの最新株価は$178.50(2024年8月31日)。2022年6月に20対1の株式分解しているので、もしこの株式分割がなかったとすると現在の株価は$3570に相当します。  

●クライマックストップは誰が見ても更に2倍になりそうな株をみんなが買おうとしている状況である。だが、みんなが興奮してその上昇に引き込まれた、まさにそのとき、クライマックストップは崩れる。

クライマックストップの兆候は窓を空けて寄り付くことである(エグゾースションギャップという)。例えば、前夜70ドルで引け、翌朝75ドルで寄り付くというように普通はある値刻みがない。それは最後を示すシグナルなのであり、売りに回るときである。天井まであと1日か2日かもしれない。株はまだ上がっていて超強気に見えるが、売ることを考える。なぜなら、クライマックストップで天井に到達した株は急落することが多いからである。これは多くの人が知ったときは買うような人は既に買ってしまい、値下がり局面を迎えているためである。群集心理は、ここぞという相場の大転換点において常に間違っていると考えた方が望ましい。

投資で勝つには、勝つために自らを備えることが必要だ。運、不運は関係ない。意を決して自分の過去のすべての過ちから学べば、勝つために備え、学ぶことができる。偉大な投資家たちもみんな最初は過ちを犯していた。』

20~25%で利益確定できれば、その利益で満足すべきである。株価がさらに高騰したとしても、手にした現金で他の有望株を買うことができる。また、25%の利益確定を3回続けられれば75%の利益を得ることになる。これはとても大きな利益である。

●投資はただでさえ難しいので、買い持ちと空売りを同時にやるような複雑なことはせず、シンプルにやることが一番である。

ステップ5 ポートフォリオ管理―損を抑えて利益を伸ばす方法

株式ポートフォリオ管理は、ガーデニングに似ている。気を配らないと美しい花は雑草に覆われてしまう。買値より上がっている株が“”で、1番下がっているか、1番上がっていない株が“雑草”である。もし、雑草を駆除する場合は最もダウンの大きな銘柄から手をつけるのが良い。心情的には株価が戻ることを期待したいものだが、株価が大きく下がっているとすれば市場はネガティブな評価を下しており、元の高い評価を獲得するには、一般的には多くの時間がかかるものである。

商人も売れない商品は値下げしてでも売り切り、売れ筋の商品に入れ替えようとする。ポートフォリオ管理もそれと同じである 

画像出展:「Garten

ポートフォリオ管理を“花壇”に例えるのはすごくいいなと思いました。

画像出展:「More&PLUS京葉銀行)」

“守りと攻めの資産運用「コア・サテライト戦略」とは?”

『大きなリターンが期待される商品はリスクが高く、一方でリスクの低い商品はリターンが小さいものの安定的な運用が期待できます。資産運用では、リスクとリターンのバランスをとることが重要で、コア・サテライト戦略はそのバランスをうまくコントロールする為の手法なのです。』

これは月末に行っている資産の棚卸に関する資料の一部で8月31日のものです。銘柄も株数も見えず役に立たない代物ですが、思いきって貼りだしました。

緑Boxはコア(ETF:インデックスファンド)ですが、最低目標としている40%に少し足りていません。ピンクBoxは、個人的に応援したいバイオテクノロジーの新しい会社で“寄付”のつもりで少々買いました。

ポートフォリオ管理はある程度限定し、十分に追跡できる範囲にしておくことも重要である。例えば、銘柄数の上限を決め、それを超える場合は、最もパフォーマンスの悪い株を売却することで上限を守ることである

株価は常に上下するが、長期的に見れば値上がりしている株を買増し、見込みのある保有銘柄の株数を増やし、見込みの低い保有銘柄の株数を減らしていくことは理にかなっている

買い増しで注意すべきは、ブル相場かどうかである。ベア相場での買い増しが効を奏することはほとんどない。ベア相場では現金比率を高めることが大切である

●空売りは自分が何をやっているかを十分に理解しながら、正確に物事を運ぶスキルが必要であり、空売りしてはいけないタイミングがたくさんある。空売りを比較的安全にできる本当に正しいタイミングはわずかしないので、買うよりも複雑で難しい。

「ナンピン(難平)買い」とは保有銘柄が下落したときに、買い増しをして平均購入単価を下げることだが、これはすべきではない。ただしブル状態の押し目買いは別である。ベアな状況でのナンピン買い下がりは絶対に止めるべきである。

最初に購入した株に益が出ていない場合は、けっしてそれ以上の投資をするべきではない。

一桁以下の低位株や顕著な薄商い(1日の平均出来高が少ない)の低位株は避けた方が良い

●1997~2000年における上位50の値上がり株がそのベースから上放れたときの平均価格は46.78ドルで、それから61週で1031%値上がりした。

●取引時間内に株を売買するときは成行の方が望ましい。これは確実に売買できるからである(株の売買では25セント)を気にするべきではない。

●ポートフォリオ管理において何かを行わないことが大切であることもある。「PER(株価収益率)、配当、簿価」は少なくともブル相場では必要以上に意識しない。基本的なことは優良企業のPERは一般的に高く、優良でない企業のPERは低いということである(プロスポーツのスター選手の年棒が高いのといっしょである)。

税金も気になるものではあるが、売買の決断からは税金は排除した方が良い。利益の一部を国が取るのは、投資が成功している代償の一部と思った方が良い。納税は多くの成功したベンチャー企業と同じ、勝者の証でもある

投資で成功するには自尊心や高いIQよりも、正直さ、倫理観、謙虚さの方が重要な要件である。過去の失敗を受け入れ、そこから学ぶことが賢くなる方法である。古い市場の通念にしがみつくような頑固さやエゴを捨て、新しい投資法を学ぶことに積極的であることが重要である。

銘柄選択に成功するために必要なことは、企業とその企業が属する産業に関して理解することが60~65%、チャートと相場の動きを理解していることが35~45%である

●大きな勝ち銘柄の共通した特長は、高い売上総利益率(Gross Margin)、高い資本利益率(ROE)とともに、利益と売上を大幅に伸ばしている企業だった。これらの企業はそれぞれの産業におけるトップ企業であり、通常より高いPER水準で取引されていた。強固なファンダメンタルズ、機関投資家による保有、革新的な新製品やサービスなどの条件が整っていた。

●『どんなことでもそうだが、報いが得られるかどうかは、どれだけ努力するかに依存する。勉強と観察を絶え間なく行うことで得られる細かい重要な情報の積み重ねが、あなたの知識とスキルを向上させ、投資の世界で成功するか、もう一歩のところでとどまるかの分かれ道になる。』

ご参考

「ディストリビューション」、「ストーリング」、「フォロースルーデー」、「カップウィズハンドル」に加え重要な指標として「ベアリッシュリバーサル」、「ブリッシュリバーサル」があります。 

画像出展:「ばっちゃまの米国株

とてもイメージしやすい“ブリッシュリバーサル”の例が紹介されていました。(4分57秒)

 

感想

1.最も大切なことは「貴重な資産をリスクから守りながら運用する」、「願望やこだわりではなく方針を重視する」、「市場の動向を感じて行動する」、「欲ブタにならない」、そして、そのための情報収集を行い勉強するということだと思います。

2.長期運用は特別なものではなく、基本的には短期と同じであると理解しました。おそらく、2つの運用の差は何を重視するかという重みづけの部分ではないかと思います。また、その投資する企業に対する理解の深さも大きく左右する要因になると思います。

3.優れた企業、魅力的な企業、業績の良い企業を見つけ出し、それらの会社でポートフォリオ(美しい花壇)を作ればリスクを減らせると思います。

4.良い会社で理解できる会社に分散投資」し、「利益確定ルール」、「利益確定例外ルール」、「損切ルール」に従って運用すれば、大きな損失を避けることができると思います。

利益確定】について

・利益確定(利確)を迷うのは、「今、利確してどんどん上がったら儲けが減ってしまう!」という「欲ブタ」な気持ちです。一方、利益を確保するという行動は「資産を守る」という方針に合致します。

ほとんどの投資家は利益確定を行います。さらに株価は市場動向によって必ず上下します。こう考えると、利益確定は「資産を守る」上で非常に重要です。

また、キャッシュを保有しているということは、買い場が来た時に投資ができるため「株式投資を楽しむ」という見地からもお勧めです。言い換えれば、より楽しく、より安全に資産を増やす』⇒『冷静かつ確実に利確をしていくということではないかと思います。

資産を守って奇麗なポートフォリオで楽しく運用、この大方針でやっていきたいと思います。

ご参考(2024年10月24日):“ばっちゃまの米国株”より

個人的に「着實質實」な人生を目指したいと思っているのですが、ウォーレン・バフェットが凄い人であることを知りました。


株式投資1

3月に“株と債券”というブログをアップしました。その後、「1冊は本格的な投資の本を買って勉強した方が良いだろう」と思って本を探していたのですが、“ばっちゃまの米国株”さんの師匠である広瀬隆雄氏が推奨されている本があり、その中から『オニールの相場師養成講座』という本を購入することにしました。

著者:ウィリアム・J・オニール

初版発行:2004年5月

出版:パンローリング株式会社

この本は非常に勉強になりました。もっと早く読んでいれば良かったのにと思います。1番良かったことは、株式投資はコインの裏表のようなものだと思うのですが、今までは“表”が「儲けたい」、“裏”が「損したくない」という感情的、主観的な「欲ブタ」な感覚だったと思います。今は、“”は「資産を守る」、“”は「方針に従って売買すれば結果はついてくる」という理性的、客観的な感覚をもって、ある程度は考えられるようになったことです。

画像出展:「ユピスタ

株式投資において理性的、客観的になるというのは「永遠のテーマ」という感じです。

また、チャートの重要性をあらためて認識しました。チャートからの情報を冷静に検討することは、市場(特に金利)と業界・会社(特に業績)とともに最も注目すべきことの一つだと思います。

画像出展:「yahoo finance

これは6カ月間のS&P500のチャートです。//のラインはそれぞれ21日/50日/200日の移動平均線です。下の棒グラフは出来高です。

 

CONTENTS

訳者まえがき

序文

はじめに

ステップ1 市場全体の方向性を見きわめる方法

ステップ2 利益と損失を3対1に想定する方法

ステップ3 最高の銘柄を最適なタイミングで買う方法

ステップ4 利益を確定する最適なタイミングで売る方法

ステップ5 ポートフォリオ管理―損を抑えて利益を伸ばす方法

はじめに

●市場は人間的な感情と個人的な意見に基づいて行動する多くの人達で構成されている。

●投資での成功と個人の感情や個人的な意見は無関係である。

●市場を動かしているのは群集心理である。特に多くの投資判断を左右しているのは、願望恐怖心プライドエゴである

●市場が従うのは需要と供給の法則である。つまり、市場に逆らわずに市場に沿って行動することが重要である

●需要と法則の原則はあらゆるアナリストの意見より優れている。

●投資ルール、投資原則を学ぶべきである。特に、売りルールを持っていなければならない

●株が値を戻すのを願って待つのではなく、小さな損失が出たらいつもすぐ売ることを学ぶ。

市場が上向きなのか下向きなのかを知る

●株は下げている時ではなく、上げている時に買う。

●株は下がりに下がって割安に見える時ではなく、年初来の高値近くで買う。

●安値に沈んでいる株より高値に上がっている株を買う。

●PER(株価収益率)はほどほどにして、利益の伸び、出来高の動き、その企業が業界内でもっとも利益をだしていることなど、実証済の要素に注目する

●マーケットニュースレターやアナリストなどの情報に対しては慎重かつ客観的に向き合う。

自分の間違った判断は記録に残し、どんな間違いだったのか分析する

チャートと長く接していれば、株価が大きく上昇する前兆となるパターンや手を出してはいけないダマシのパターンを見抜くことも可能になる

画像出展:「オニールの相場師養成講座」

・バーの上端はその週の最高値、下端は最安値、クロスハッチは終値。週足であれば週の最後の株価です。

・値上がり週(横棒が前週よりも太い線)

・値下がり週(横棒が前週よりも細い線)

 

出来高の大小や±は、株価の値動きと同じように重要である。上記のグラフでは①前週よりも売り出来高増が7週、②株の値動きが乏しい、③売り出来高増7週のうち6週が週平均出来高を上回る。この3つがポイントである。

重要なシグナル

-過去の業績はあまり重要ではない。

-現在の業績の過大評価は禁物である。

-株価が下がっていて割安になっていても、将来の見通しが不透明であれば手を出すべきではない。

ステップ1 市場全体の方向性を見きわめる方法

●マーケケットが上か下か横ばいかを知ることが大切である。

●市場全体(ダウ工業平均、S&P500指数、ナスダック総合指数など)が天井を付けて下方へ転換すると、保有株の多くが下落する可能性は高い。

市場の天井を見きわめるスキルは非常に大切である

景気指数や経済指標に頼りすぎるのは危険である。それは経済が市場をリードしているのではなく、市場が経済をリードしているからである。

●マーケケットテクニカルアナリストは50~100種類のテクニカル指標に注目しているが、大事なことは個別銘柄そのものを注意深く観察することである。森を見ることも必要だが、一つ一つの木を見ることはもっと大切である。

市場の傾向を掴むには、主要な市場指数を毎日見て自分自身で分析することが大切である

●総出来高の増減や、1日の出来高と平均出来高と比較することは重要である。

上昇トレンドでは値動きと出来高がいずれも上昇しているのが一般的である。これは「アキュムレーション」といわれる。

●アキュムレーションを追跡するには、各種指数の高値、安値、終値とその出来高がプロットされているチャートを使うことである。

売りが買いを上回ることを「ディストリビューション」と呼び、それが起きているのを見きわめることが大切である。ディストリビューションの1日目は指数の終値が前日よりも低く、出来高が大きいときである。

●50年間の研究で認識したことは、2~4週間の中でディストリビューションが5日あると上昇トレンドから本格的な下降トレンドへ転換した可能性があることである。市場が一時的に反発することもあり、下げ幅の大きさにも注意すべきである。 

ディストリビューションのシグナルには「ストーリング(失速)」もある。市場の活発な上昇後、突然その勢いが止まってしまう場合である。下がるわけではなく、上昇率が明らかに小さくなることである。ポイントは売買比率の変化であり、注意すべきは機関投資家などの動き、出来高である。

“2000年3月に株式相場が天井を付けたとき”

画像出展:「オニールの相場師養成講座」

「ナスダック総合」は米国の代表的な株式市場、NYダウにくらべハイテク関連やインターネット関連の新しい企業が多いのが特徴です。

 

 

●総合指数のディストリビューションの出現と主導してきた主要銘柄の天井には関連がある。

●数日間続く大量の売りは、利益確定による可能性が高い。

短期の下げか長期の下げトレンドかの判断が鍵。ディストリビューションとストーリングが参考になる。

●天井では相場から手を引き、買うことを控えなければならない。

●希望的観測は不要、市場の事実が最重要である。

スキルを身に付けるには忍耐と鍛錬が必要である

●ベア相場の傾向として寄り付きで上げ、大引けで下げることが見られる。一方、ブル相場では逆に寄り付きで下げ、大引で上げることがある。

●下降トレンド相場がどこまで進むかは誰にも分からない。分かることは、重いディストリビューション状態にあり、下降するということだけである。

下降から上昇への切り換え前には数日間の続伸が目安になる。「フォロースルー」は通常、4日目から7日目に見られることが多い。フォロースルーは前日と1日平均よりも多い出来高を伴って1.7%以上の大きな幅で力強く上げている日である。1日、2日の上昇をみて慎重に判断する必要がある

●新たなブル相場がフォロースルーデーなしに始まったことはない。

画像出展:「フォロースルーデーとは?:投資の勉強

こちらは“米国株長期投資くらぶ”さまのサイトです。

ステップ2 利益と損失を3対1に想定する方法

いつ、なぜ、売るのかも分からずに株を買うことは、ブレーキのない自動車を買うようなもの、救命具を持たずにボートに乗るようなものである。

●機関投資家の動向を知ることは非常に大事である。特に「売り」に傾いていることを認識することが大切である。これは機関投資家側からは「売り」の情報が出てくることはないからである。

自分の感情や他人の言葉に左右されることなく、保有株が思惑に反した動きをしたとしても、常に客観的でなければならない。大事なことは市場の動き、株価と出来高の動きを通じて、機関投資家などのプロが何をしているかに注目することである。

自分を守る確実な方法は、株価が上昇しているときに利益確定をすること。株価の勢いがなくなり下降し始めたら売って早めに損切りするという現実的なプランを持つことである。具体的には+20~25%で売却(一部)し、-7~8%までにすべて損切することである。つまり目標利益を許容損失の約3倍に設定することである。

●利益がなかなか出そうにない極めて難しい相場では、例えば株価が3~5%下がったところで売り、10~15%上がったところで利益を確定し、投資資金における現金の割合を増やすという選択肢もある。売買の判断を柔軟に変えるのは問題ないが、大事なことは3対1の比率を守ることである

●『買値から7~8%安で売ったとたん、反発してしまうことがよくあることに注意しなければならない。そうなったら、あなたは自分を愚かだと思うだろう。あなたは、「そもそもこの株を買ったことは正しかったが、売ったことが間違いだったのだ」と自分に言い聞かせるだろう。だが、売ったことが本当に間違いだったのだろうか? 7~8%で売ったことは、回復できないほどの破壊的な損失を確実にさけるためにやったことだ。7~8%が、15~20%、さらに30~40%、あるいはそれ以上に下落することに対して防御しているのだ。一種の保険だと考えてみよう。あなたの家が昨年火事で焼失しなかったからといって、火災保険を掛けていたことで自分を責めるだろうか? そんなことはないだろう。損失を早めにカットすることはそれと同じだ。反転して20%値上がりすることもあり得る株を7%の損失で売ることは、保険を掛けていない家が焼失した場合のように、回復できたとしても、回復するために何年もかかることになる。70%級の損失を避けるための小さなコストなのだ。

そういう売買方法も、もっと大きなリスクを背負って株式投機をやっている人にはいいだろうが、変動幅の小さい「優良株」や「投資適格銘柄」に投資している買い持ち型の長期投資家たちにはどうだろうか?―とあなたは思うかもしれない。さて、皆さんにお知らせがある。そんなものはないのだ。すべての普通株はきわめて投機的であり、一般に安全だと見られている銘柄を含め、大きなリスクを持っている。多数の買い持ち型の長期投資家たちは、売りルールを持っていなかったために2000~2003年にかけて50~75%を失った。

●事例)ルーセント・テクノロジー(1996年AT&Tから分離~2006年フランスのアルテカSAと合併しアルテカ・ルーセントになった~2016年フィンランドのノキアに買収された)

“リスクのない銘柄はないので、損切りは常に早めにしなければならない”

画像出展:「オニールの相場師養成講座」

AT&Tから分離独立したルーセント・テクノロジーは世界最大の電気通信機器のサプライヤーであるだけではなく、画期的な技術革新を生み出しました。株価は1999年12月に$64の天井を付けたあと、98%急落し、$1未満にまで落ちました。

 

 

 

ご参考私自身の良くない事例

1.マイナス96%超になってしまっている保有株

反省

●この銘柄は2021年3月に購入したものなので、まさに“勘”だけで売買していたころの事例です。運用資金の5%程度だったこともあり、十分な検討なしに購入してしまいました。購入したときにはミーム株(SNSなどネット上で話題になる「はやり株」のこと)という言葉も知らず、この株がそのミーム株に該当することも知りませんでした。オニール氏の本を読んでいれば手を出すことはなかったと思います。

何故買うのか、いつ売るのかといったプランも曖昧なまま手を出しました。株価は購入日から18日後には$4.42と+79%と高騰しましたが、この勢いであれば$6.00は行くだろうと考えて(願って)売ることはしませんでした。その後、最高値から32日後(2021年3月4日)には購入価格($2.46)を割り込みました。同月(3月)は取引日で計10日、買値を上回りましたが、【欲ブタ】になっておりもっと上がるという気持ちは同じでした。

●購入規模が小さかったこともあり危機意識が明らかに欠けていました。この見込みの甘さがすべての問題の原点だと思います。

●利益を得る最後のチャンスは1日のみ、同年10月25日にやってきました。この日の終値は$3.15でしたので、約30%の利益を得ることが可能でした。非常に迷ったことをよく覚えています。しかしながら、「きっともっと上がるだろう(上がってほしい)」という気持ちには勝てませんでした。(またも【欲ブタ】と化していました)

●2024年8月31日時点の株価は$0.093になっています。こここまで下がると紙切れ同然なので売る気もなく、自分自身への警告と思って保有し続けています。この会社はAIのソリューションを手掛けています。2006年設立であり、20年近く続いている会社なので小さな望みは捨てていません。ただ、これも淡い期待と覚悟はしています。 

2.まずまずの敗戦処理

反省

●購入は2023年4月3日なので、本での勉強前ではありますが、売却した7月20日は、まさに「株日記」をつけ始めた日であり、“ばっちゃまの米国株”さんのサイトを知ったあとで、“勘”での運用を改めようと考えていた時期でした。

●この株は、4月は買値を上回った日数と下回った日数がいずれも10日と拮抗していましたが、5月になると買値を超えたのは2日と9日の2回だけとなり、下落していきました。

●売却時の損失は9.58%でした。もし、売りルール(‐8~‐7%)に基づいて売却していたとすると、2023年5月15日が売却日となっていました(実際の売却日の約2ヵ月前)。

●国内株を2銘柄買おうと思い、ネットの情報をいくつかみて十分な検討なしに銘柄を決めました。その意味では、1.でご紹介した米国製造会社株の購入に近い感じ、雰囲気買いといえます。やはり、慎重な調査、分析が必要で「売りルール&売り例外ルール」を決めておくことも、同様に必須だと思いました。

この株が2023年7月20日(2210円)以降どうなっているのか調べてみました。翌年(2024年)年初の株価は2022円、その年の5月10日に急騰し2510円に、7月には2700円を突破。8月5日の歴史的大暴落では2187円まで下落するものの、今は2600円台を回復しています。

売却せず10カ月以上保有していれば利益を得るチャンスが到来したわけですが、これは何とも言えないところです。言えることは、根底にあるのはその会社の実力、その会社に対する理解と信頼。そして、その判断の時にどれだけ客観的に検討し、納得して決断したかどうかという事だけだと思います。(この10カ月間は国内金融会社に投資し15%以上アップしていたと思うので、もし、2650円くらいでこの会社の株を売却していたら、負けていたと思います)

●GMや3Mのような真の長期成長株もあるが例外的であり、数年の低迷期は存在する。

●分散投資はリスクを下げるが、2000~2002年のようなベア相場では遅かれ早かれすべての主導株は引きずり下ろされることになる。絶対保証付きの安全策ではない。

こだわりを持たないことは重要である。株はお金だけでなく、自尊心やエゴ、感情に左右されてはいけない。それは、これらのこだわりは手放す判断の障壁になるからである。

多くの投資家のこだわりは言い訳につながり判断を鈍らせる。これらは人情に他ならない。こだわりをコントロールすることはとても難しいが、身に付けなければ投資リスクを高めてしまう。

●『株価が下がって評価損が出ている時は、反発することをやみくもに願うのではなく、さらに下がるのではと恐れなければならない。売ることをさらに難しくするのは、あなたの保有銘柄に関してだけでなく、市場や経済全般に関して耳にするたくさんの意見だ。「専門家たち」―そもそもその株を購入したときに耳にしたのと同じ専門家たちかもしれない―が、その会社がまだ優良であり、数ポイント下がった今こそ以前にも増して買い時であると口にするのを耳にするだろう。だが、繰り返すが、それらは彼らの個人的な見解にしかすぎない。株式市場では個人的な意見になんの価値もない。あなたが尊重しなければならない唯一の意見は、市場そのものの意見だけだ。相場はあくまで需給関係で決まるのだから、どこへは行くが、どこへは行かないということはない。だから、戻って来られないような場所へ連れていかれないように気をつけるのは、あなたの役目だ。

ディープラーニング2

著者:松尾豊

発光:2015年3月

出版:(株)KADOKAWA

目次は“ディープラーニング1”を参照ください。

終章 変わりゆく世界―産業・社会への影響と戦略

変わるゆくもの

●ある環境の中で機能を発揮する特定の仕組みであり、その見えない相互作用が知能である。

インターネットは情報流通に革命を起こした。以前は流れなかったところにも情報が流れるようになった。従来は先生から生徒、上司から部下、メディアから大衆という直線的な流れは横方向にも広がりをもつようになった。これらは組織や社会システムと関係ない情報の流れであり、様々な新しい付加価値を生んだ。

人工知能によって生み出される変化は「知能」という、学習し、予測し、そして変化に追従するような仕組みが、今度は人間や人間が属する組織と切り離されるということである。今までは組織においては然るべき階層まで上がって組織としての判断を下していた。個人の判断は1つの身体ゆえに処理できる数は限られていた。それがルールや濃淡、数に制約はあるものの同時並行的に分散して行うことができるようになる。

●人という物理的存在に依存していた知能が、必要条件の範囲においてにはなるが、地球上の必要とされる所に自由に配置できることは、人工知能が人類の発展に大きく貢献できる要素ではないか。

じわじわ広がる人工知能の影響

●人工知能は研究開発が先行するので、ビジネスに展開されるまでには時間がかかる。

●防犯は社会的コンセンサスが取りやすいので、防犯カメラと過去の犯罪履歴のデータベースを組み合わせた監視ネットワークは大きく治安に貢献できるだろう。ただし、個人の行動履歴というプライバシーの問題をクリアする必要がある。

●製造業では熟練工の技術の分野にも入っていける可能性がある。また、「改良」や「改善」に取り組んできた製造現場において、ディープラーニングによって人工知能が特徴量を自ら掴むようになると、新しい工程を「設計」できるようになるかもしれない。特に試行錯誤が許されている試作段階などのステージでは人工知能の利用が進むと思われる

●製薬や材料の分野において、仮説生成まで人工知能が担えるようになれば、今まで以上に探索できる解の範囲が一気に広がるかもしれない。

●音楽や絵画といった芸術の世界にも、試行錯誤の頻度と効率を高めるため人工知能が進出するかもしれない。

●自動車に限らず、電車でも飛行機でも運転士・操縦士の大事な仕事の一つは「異常検知」であるが、これは特徴表現学習の得意とするところである。すでに飛行機は離着陸以外、その大半は自動操縦になっている。

●広告・マーケティングはデータマイニング等、すでにコンピュータが活躍している分野だが、短期的や一過性の利用から長期的に刻々と変わる顧客ニーズをリアルタイムに的確にとらえることで、完全自動化されていく可能性がある。ブランドイメージの向上や商品企画などの仕事に関しても人工知能の介在する余地は大きい。

医療、法務、会計・税務は最も人工知能が入りやすい領域である。医療は画像診断技術の向上が期待できる。ただし、自動運転と同じように「診療の適切性」と「責任」の問題は難しい問題である

●弁護士の仕事の中では、クライアントの情報を整理したり、関連法令をチャックしたり、過去の判例を調べたりすることは人工知能のメリットを活かしやすい。情緒的な面や当事者の利害関係を調整するという面は人間が得意とする領域である。

金融は人工知能が活躍できる大きな領域である。顧客対応システムや資産状況に応じたポートフォリオを提供することは価値がある。証券会社や不動産会社はより付加価値の高い情報提供ができるように見直すことが求められるだろう。

教育はデータ分析によってもっと進化する分野である。学習パターンや生徒の向き不向きをより的確につかみ、適した学習方法を提示することができる。個々の教師が個人的に持っているノウハウなど、教え方の知識は多くの生徒のデータを分析することでより客観的で質、量ともに充実したスキルを効率的に習得できるようになるかもしれない。一方、生徒のやる気を高めたり、効果的に競わせたりする方法は人間と人工知能がうまく連携することにより高いレベルの教育を提供できるのでないか。

近い将来なくなる職業と残る職業

人工知能による変化は、多くの人に影響を与える可能性があるという点で、今までの変化とは異なるかもしれない。また、貧富の差が広がるのではないかと考えられている。これらは基本的には富の再分配によって是正するしかないが、格差や平等について考えることは非常に重要である。同様に国際的な経済格差に関しても考えなければならない。

●『この段階[2030年頃]で、人間の仕事として重要なものは大きく2つに分かれるだろう。1つは、「非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」で、経営者や事業の責任者のような仕事である。たとえば、ある会社のある製品の開発をいまの状況でどう進めていけばよいかは、何度も繰り返されることではないためデータがなく、判断が難しい。こうした判断はいわゆる「経験」、つまり、これまでの違う状況における判断を「転移」して実行したり歴史に学んだりするしかない。いろいろな情報を加味した上での「経営判断」は、人間に最後まで残る重要な仕事だろう。

一方、「人間に接するインタフェースは人間のほうがいい」という理由で残る仕事もある。たとえば、セラピストやレストランの店員、営業などである。最後は人間が対応してくれたほうがうれしい、人間に説得されるほうが聞いてしまうなどの理由で、人間の相手は人間がするということ自体は変わらないだろう。むしろ人間が相手をしてくれるというほうが「高価なサービス」になるかもしれない。』

●『さらに忘れてならないのが、人間と機械の協調である。すでにチェスでは、人間とコンピュータがどのような組み合わせで戦ってもよい、フリースタイルの大会がある。さまざまな仕事においても、この「フリースタイル」方式が出てくるはずである。人間とコンピュータの協調により、人間の創造性や能力がさらに引き出されることになるかもしれない。そうした社会では、生産性が非常に上がり、労働時間が短くなるために、人間の「生き方」や「尊厳」、多様な価値観がますます重要視されるようになるのではないだろうか。

人工知能と軍事

人工知能の応用を考える際に、忘れてはならないのが軍事面での応用である。米国では長い間、DARPA(米国国防高等研究計画局)が主導的役割を担ってきた。理由は利益につながる必要性がないからである。インターネットの起源となったARPANETもDARPAの予算で支援された。

●戦闘において、無人操縦機やロボットは人命と戦闘能力の両面において大きな価値をもたらす。

人工知能技術を独占される怖さ

人工知能は、今後、ビッグデータに続いて産業競争力の大きな柱になっていくと思われる。そのため、技術の独占は大きな問題である。人工知能は「知能のOS(オペレーティングシステム)と言えるかもしれない。汎用的な特徴表現学習が土台にあって、その上に、さまざまな機能を実現するアプリケーションが載っているイメージである。

メタ・プラットフォーム社が開発しているLLMであるLlama3オープンソースにする計画のようです。

Metaが次世代オープンソースLLM「Llama 3」公開、4000億パラメーター版も学習中” 

NVIDIAからのニュースレターの記事の中に“GPT-J6B”というものを見つけ、「これは何?」と調べたところ、これは、「2021 年に EleutherAI によって開発されたオープンソースの大規模言語モデルである」ということが分かりました。以下がそのサイトです。(大変驚きました) 

EleutherAI は最先端の AI 研究に参加して議論することに関心のある AI 研究者、エンジニア、愛好家のグローバル コミュニティだそうです。

偉大な先人に感謝を込めて

●『ディープラーニングという「特徴表現学習」が人工知能における大きな山を越えたとすれば、この先、人工知能に大きな発展が待っていてもおかしくない。さまざまな産業で大きな変革を起すのかもしれない。長期的には、産業構造のあり方、人間の生産性という概念も大きく変えるのかもしれない。一方で、「冷静に見たときの期待値」、つまり宝くじを買って平均的に返ってくる金額について、どうとらえただろうか。

どんなに人工知能の可能性を低く見積もったとしても、最低限、多くの産業でビッグデータ化は進むだろう。そして、そこにいままで人工知能が担ってきた探索や推論、知識表現、機械学習の技術が活きるはずである。少なくとも、いくつかの分野では、これまでの専門家を超えるような人工知能の使い方が出てくるだろう。

この2つの可能性を考えたとき、この宝くじは決して悪いものではないと思う。人工知能の未来、人工知能がつくり出す新しい社会に賭けてもいいと思わないだろうか。

人工知能は人間を超えるのか。答えはイエスだ。「特徴表現学習」により、多くの分野で人間を超えるかもしれない。そうでなくても、限られた範囲では人間を超え、その範囲はますます広がっていくだろう。そして、これを生かすも殺すも、社会全体を構成するわれわれ自身の意思次第だ。 

ご参考AIとCloud

AIがどこに入っていくのかを考えると、その可能性はコンピュータが活躍している全てのエリアだと思います。しかし、最初に先頭グループで引っ張るランナーは、体力の優れた(巨額の投資をできる大きな会社)会社です。

“マグニフィセント・セブン”とは、アルファベット(Googleの持株会社)、アップルメタ・プラットフォームズアマゾン・ドット・コムマイクロソフトテスラエヌビディアの7つの会社のことですが、現在はこの7社がAIを広めていくリーダーとなっています。

アマゾン(AWS)、マイクロソフト(Azure)、アルファベット(Google Cloud)の各社はそれぞれ独自に展開するクラウドサービスに力を注いでいます。一方、メタはSNSからの展開です。テスラは自動運転とロボット、エヌビディアはAIの推進エンジンともいうべきGPUと開発環境のプラットフォームなどを提供しています。

画像出展:「finbiz」  

各社の面積は株価の時価総額を示しています。

finbizの説明は以下を参照ください。

ザイマニ

画像出展:「世界時価総額ランキングSTARTUPS JOURNAL

1989年11位だったトヨタは2024年のリストを見ると39位となっています。衝撃的なのは1989年の時は、Top30社のほぼ半数の14社は日本の企業でしたが、2024年のリストではTop30社の22社が米国で、中国が2社、サウジアラビア、台湾、デンマーク、フランス、韓国、スイスの6カ国がそれぞれ1社ずつとなっています。この約30年他国に比べ、日本は生産性の改善に目覚ましい成果がみられていません。

某テレビ番組の中で評論家の方が、日本では経営者が次の経営者にバトンを渡し、会長さらには相談役として残る。バトンを渡された新しい経営者は忖度で身動きできない。現状維持が優先されチャレンジすることはままならず、”設備”にも“人”にも積極的な投資がされることはなく、ひたすら内部留保を増やしてきた。というようなお話をされていました。これは、少し大げさかもしれませんが、日本における企業内民主主義の問題ではないかと思います。

そして、AIによる革新を引っ張っていく一つの大きな選択肢がクラウドだと思います。

画像出展:「2022年のクラウド支出の割合と成長率:国別比較Gartner

少し古いデータですが、クラウドの成長率が15%~35%となっているのと、IT支出は全体の5%~15%程であることが分かります。ここから、パブリッククラウドのポテンシャル(余地も大きく関心も大きい)の大きさを認識できます。

Google Cloudの事例

サイトの中頃にあります。動画はいずれも2~3分です。

トヨタ自動車

・Aプラットフォーム(検査等)を構築した。

本当に人がやらなければならないことはどこかを追及していく

セブン・イレブン・ジャパン

・デジタルデータ基盤を構築した。

重要だったのはパフォーマンスだった(BigQuery)

アサヒグループ

・ITのモダナイゼーションを推進している。

スピードや変化への追随が重要である

パブリッククラウドとオンプレミス

画像出展:「DELL

このDELLの「クラウドとグラウンド(オンプレミス)の相方向連携」という発想は素晴らしいと思います。

 オンプレミスとは自社でシステムを保有し運用するシステムです。AIはオンプレミスの需要も拡大するとされています。

感想

松尾先生の『人工知能は人間を超えるか』を勉強させて頂き、AIはITの進歩の歴史の線上に存在しているもので、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークといったコアの技術の発展を背景にして一つの壁が破られ、ディープラーニングが登場したということだと思います。そして、人間とコンピュータの関係性が新しい次元に入ろうとしているように感じます。 

ではどのように広がっていくのかと考えたときに、頭に浮かんだのは先にご紹介させて頂いた、“マグニフィセント・セブン”というITの超巨大企業のリーダーシップです。これは一言でいえば資金力と人材力に尽きます。

そして、大きな入口となるのが繰り返しになりますが、パブリッククラウドの活用ではないかと思います。また、各企業間の競争も後押しする要因だと思います。つまりAIによって各会社は事業の生産性を向上させることが可能になるため、新しい技術であるAI、そして入口としてのクラウドに期待する会社は増えるのではないかと思います。さらに、ネットの記事をみるとAIの導入は従来型のオンプレミス(自社システム)においても増えるという見方もあるようです。

一方、課題としては特にクラウドの御三家はAIへの多額な設備投資に対する利益の回収の不透明さを指摘されています。この高いハードルを超えることができるかどうかによって、AIの発展のスピードは大きく左右されるだろうと思います。

ネットには『金融業界で活用される生成AI:JPモルガンの事例から学ぶ』という記事がありました。

AIは単なる道具ではなく、本格的導入には以下の点が重要ということだと思います。

経営層がAIの重要性を認識し、明確なビジョンを持つこと

AIに関する専門知識を持つ人材を確保・育成すること

AIを活用するための組織体制を整備すること

業務効率化と新たな価値創造の両面でAIの活用を推進すること

AIの倫理的な活用について検討し、適切なガバナンスを確立すること

これを見ると、AIはリエンジニアリング(構造改革)のための武器ではないかと思いました。

画像出展:「高まる期待のなか、業務への AI 活用はまだ始まったばかり

AIは企業にとっては、リエンジニアリング(構造改革)を推進するようなものなので、普及のスピードは市場への影響が大きい大企業のCEO(例えばJPモルガンのジェイミー・ダイモンように)がどこまで本気に向き合い、抜本的な生産性向上を狙って導入していくかが一つの鍵になるように思います。

追記(2024年9月27日):AI検索 Perplexity

何となくAI(ChatGTPなど)を使うことにためらいがあったのですが、とあるウェビナーでAIを積極的に使いこなしている先生から「AIはまさに秘書です」、「一度使ったら元に戻れない」という発言がありました。また、数あるAIツールの特長も紹介して頂いたのですが、個人的に最も関心を持ったのは“AIを利用した検索ツール”で、それはPerplexityというものでした。下に貼り付けたスクリーンショットは、Perplexityへの質問(上)と回答(下)です。

「経絡とは何ですか?」という質問をPerplexityと最も有名なAIツールで比較しましたが、情報量とレスポンスは明らかにPerplexityの方が優れていました。

 

 

一度使ってみて、「これは元に戻れない」と実感しました。今まで検索結果からサイトに入り、さらに少し違った角度からの検索を行い情報を集め、自分なりの理解や納得を得ていたのですが、このような作業にかかる時間は圧倒的に省力化できると確信しました。つまり、同じレベルの理解であればより少ない時間で、同じ時間を要するならばより深い理解を得ることが可能です。

なお、専門性の高い質問や図や表の作成には【Pro】($20/月)に申し込む必要がありますが、無償の範囲でも十分に役立つと思います。

ディープラーニング1

AIに関しては少々勉強してきたのですが、今までの歩みや日本での取り組みなど、もう少し知りたいと思って見つけたのが松尾 豊先生の本でした。この本は2015年なのでほぼ10年前のものですが、松尾先生はAIの第一人者であり、本書の評価も極めて高いものでした。

第1章、4章、5章については少々触れていますが、ブログのほとんどは第6章と終章になります。AIに対する理解度はまだまだ低いのですが、確実に一歩前進できたのは良かったなと思います。

著者:松尾豊

発光:2015年3月

出版:(株)KADOKAWA

本書には「特徴表現学習」という言葉があるのですが、これは「ディープラーニング」のことです。このディープラーニングについては、ITmediaさまのサイトに詳しい解説がされていました。

画像出展:「5分で分かるディープラーニング(DL)

AI研究においてディープラーニングという革新が2006年に起こりました。ディープラーニング(以下では短く「深層学習」と表記)とは、ニューラルネットワークというネットワーク構造を持つ仕組みを発展させたものです

深層学習の特長は、大量のデータから特定の問題を解く方法を学習することです。これは例えば子供に犬や猫を覚えさせるのと同じようなものをイメージするとよいでしょう。人間が経験から学ぶように、機械がデータから学習することを機械学習と呼びますが、深層学習はその機械学習の一種です。

目次

はじめに 人工知能の春

序章 広がる人工知能―人工知能は人類を滅ぼすか

第1章 人工知能とは何か―専門家と世間の認識のズレ

第2章 「推論」と「探索」の時代―第1次AIブーム

第3章 「知識」を入れると賢くなる―第2次AIブーム

第4章 「機械学習」の静かな広がり―第3次AIブーム①

第5章 静寂を破る「ディープラーニング」―第3次AIブーム②

第6章 人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの

終章  変わりゆく世界―産業・社会への影響と戦略

おわりに まだ見ぬ人工知能に思いを馳せて

第1章 人工知能とは何か―専門家と世間の認識のズレ

基本テーゼ人工知能は「できないわけがない」

●『人間の脳の中には多数の神経細胞があって、そこを電気信号が行き来している。脳の神経細胞の中にシナプスという部分があって、電圧が一定以上になれば、神経伝達物質が放出され、それが次の神経細胞に伝わると電気信号が伝わる。つまり、脳はどう見ても電気回路なのである。脳は電気回路を電気が行き交うことによって働く。そして学習をすると、この電気回路が少し変化する

電気回路というのは、コンピュータに内蔵されているCPU(中央演算処理装置)に代表されるように、通常は何らかの計算を行うものである。パソコンのソフトも、ウェブサイトも、スマートフォンのアプリも、すべてプログラムでできていて、CPUを使って実行され、最終的に電気回路を流れる信号によって計算される。人間の脳の働きもこれとまったく同じである。

人間の思考が、もし何らかの「計算」なのだとしたら、それをコンピュータで実現できないわけがない。このことは特段、飛躍した論理ではなく、序章でも少し触れたアラン・チューリング氏という有名な科学者は、計算可能なことは、すべてコンピュータで実現できることを示した。「チューリングマシン」という概念である。すごく長いテープと、それに書き込む装置、読み出す装置さえあれば、すべてのプログラムは実行可能だというのである。』

画像出展:「パーソルクロステクノロジー

チューリングマシンとは、1936年にアラン・チューリングが発表した論文の中で「計算する」ことを定義した仮想的な計算機です。構造は単純で、この計算機で計算をして、機械がデータを出力できるならば計算できる、データの出力が不可能ならば計算できないと定義されています。』

第4章 「機械学習」の静かな広がり―第3次AIブーム①

機械学習における難問

ウェブやビッグデータで広く使われている機械学習は、未知のものに対して判断・識別、そして予測することができる。しかし、弱点はフィーチャーエンジニアリング(Feature engineering)である。つまり、特徴量(あるいは素性という)の設計であり、ここでは「特徴量設計」と呼ぶ。特徴量とは機械学習の入力に使う変数のことで、その値が対象の特徴を定量的に表す。この特徴量に何を選ぶかで予測精度が大きく変化してしまう。例えば、年収を予測する問題を考えれば分かりやすい。どこに住んでいるか、男性か女性か、といった特徴量から年収を予測するというのは、ニューラルネットワークやその他の機械学習の方法を使って学習することができる。“性別”、“住所”、“年齢”、“趣味”等々、これらの特徴量から何を選ぶかということが予測精度を左右する。

第5章 静寂を破る「ディープラーニング」―第3次AIブーム②

ディープラーニングが新時代を切り開く

●2012年、人工知能研究に衝撃が走った。世界的な画像認識のコンペティション「ILSVRC(Imagenet Large Scale Visual Recognition Challenge)」で、初参加のトロント大学が開発したSuperVisionが圧倒的な勝利を飾った。このコンペでは画像がヨットなのか、花なのか、動物なのか、ネコなのかをコンピュータが自動で当てる問題が出題され、その正解率の高さ(実際はエラー率の低さ)を競い合う。1000万枚の画像データから機械学習で学習し、15万枚の画像を使ってテストする。

●従来はエラー率26%台の攻防だったが、SuperVisionだけが15%、16%と傑出したエラー率だった。そして、この新しい機械学習の方法がディープラーニング(深層学習)だった

画像出展:「人工知能は人間を超えるか」

 

●ディープラーニングの研究は約6年まえの2006年頃から始まった。ディープラーニングの凄さはデータを元に、人間ではなくコンピュータ自身が高次の特徴量を作り出し、それにより画像を分類することである。このディープラーニングによって人間の介在を必要としない人工知能の世界に踏み込むことができた。

●ディープラーニングは「人工知能研究における50年来のブレークスルー」とされている。それ以前は黎明期と「マイナーチェンジ」といえる。なお、ディープラーニングは「表現学習」の一つとされているが、本書では「特徴表現学習」という呼び方をする

自己符号化器で入力と出力を同じにする

●ディープラーニングが従来の機械学習と大きく異なる点は2つある。1つは階層ごとに学習していく点、もう1つは自己符号化器(オートエンコーダ)という「情報圧縮器」を用いることである。

オートエンコーダとは?仕組みや必要性と活用事例をご紹介

オートエンコーダは、AI技術をサポートするニューラルネットワークの1つとして重要な役割を担っています。従来のニューラルネットワークにおける勾配消失[ニューラルネットワークの層が多すぎると逆に精度が落ちてしまうこと]や過学習[訓練データを完全に記憶してしまうことで学習データだけに最適する状態が生まれ、その結果、汎用性が失われる]といった課題を解消するために開発されたものの、現在はデータ生成や異常検知といった用途でも利用されており、さらなるニーズの拡大が見込まれます。 

第6章 人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの

ディープラーニングからの技術進展

画像出展:「人工知能は人間を超えるか」

この図のタイトルは「ディープラーニングの先の研究」です。中央の“獲得する能力”は下からとなっています。

 

①画像特徴の抽象化ができるAI⇒②マルチモーダルな抽象化ができるAI

・人間は視覚、聴覚、触覚などそれぞれ独自の機能を持っており、作り出させる情報も異なる。脳はこれらの異なる情報を同じ処理機構で処理をする。ディープラーニングも脳と同様なことが可能であるが、時間に対応する必要がある。これは画像で言えば動画である。動画は時間をまたがる大局的な分脈を伝えることができる。触覚も圧力センサーの時系列の変化であり、時間をまたがるものである

・マルチモーダルとは複数の感覚のデータの組み合わせであり、ディープラーニングはそれを可能にする。

③行動の結果と抽象化ができるAI

・コンピュータ自らの行為とその結果を合わせて抽象化することが求められる。

・人間の脳は人間が動いて目に入った情報も、動く物によって目に入ってきた情報も区別できない。しかし人間が生きていくためにはこれでは不十分である。「自分」がドアを開けたから“人”が見えたのか、“人”の方がドアを開けたから人が見えたのか、これを区別できないと生命に危険が及ぶ可能性がある。前者は「自分が指令を出したから身体が動き、それによって目に見えるものが変化した」という情報ということである。

・人間は赤ちゃんのころから、物をつかんだり、引っ張ったり、放り投げたりする。それによって、「物を動かす」とか「物を押す」とか色々な概念を獲得していく。このように人間は自らの行動とそれによる結果をセットにすることで認識できるようになる

行動と結果の抽象化によって「行動の計画」が立てられるようになる。例えば部屋のルームライトを交換するために、「物置にある踏み台を持ってきて、その踏み台を使って蛍光灯を交換しよう」というような行動である

・人間が原因と結果という因果関係で理解しようとするのは、目的を明らかにし「計画的な行動」ができるようになるためではないか。

・「押す」という動作の獲得だけでも簡単な話ではない。ロボットにそれを学習させるには、テーブルをの力で押して動かない。の力で押すと数ミリ動いた。の力で押せばテーブルを動かすことができる。こののような経験を繰り返すことにより、「物を押す」という行動を抽象化できるようになる。

④行動を通じた特徴量を獲得できるAI

「計画的な行動」ができるようになると、続いて「行動した結果」についても抽象化が進む

・外界との相互作用による動作概念の獲得は、新たな特徴量を取り出す上でとても重要である。

・「簡単なゲームか難しいゲームか」など、「簡単」「難しい」などの形容詞的な概念は何回か試してみないと分からない抽象的な概念である。割れやすいコップなども、押すと割れる、落とすと割れるという行動と結果のセットで分かる。「割れやすい」「割れにくい」という形容詞は、ガラスの素材や形状、厚みなどによってつかめる概念である。

・コンピュータが「行動の結果と抽象化」の学習を進めれば、ひとまとまりの動作が物事の新しい特徴を引き出すことができる。それは、例えば「考えてアッと(特徴量に)気づく」「やってみてコツが(特徴量が)わかる」というようなことである。

いったん動作を通じて特徴量を得ることができれば、次からは見た瞬間、割れやすいから気をつけようという予測ができる。このように周囲の状況に対する認識が一段階深くなり、ロボットであっても環境に適応することが可能になる。

⑤言語理解・自動翻訳ができるAI

コンピュータが抽象的概念を獲得すると「言語」の獲得の準備が整う。例えば、「ネコ」「ニャーと鳴く」「やわらかい」という概念が出来ていれば、それぞれの概念に「ネコ」「ニャーと鳴く」「やわらかい」という言葉(記号表記)を結び付けることで、コンピュータは言葉とその意味する概念をとセットで理解する。つまり、シンボルグラウンディング問題[AIはシンボル[記号]が実世界とどのように結びついているのかを認識できないという問題]は解消される。シマウマを1度も見たことがないコンピュータも、「シマシマのあるウマ」と聞けば、あれがシマウマだと分かるようになる

・ここでは、概念が言葉(記号表記)と結びつけられることが重要であり、その言葉が何語なのかは問われない。

⑥知識獲得ができるAI

・コンピュータが人間の言葉を理解できるようになるということは、コンピュータの中に何らかのシミュレーターが備えられており、「人間の文章を読むと、そこに何らかの情報が再現できるようになっている」ということである。

コンピュータが本を読めるということは、膨大なウェブにある情報も読めるということに他ならない。この段階までいけばコンピュータは物凄い勢いで人類の知識を吸収できるようになるだろう

画像出展:「人工知能は人間を超えるか」

この図のタイトルは「人工知能研究の心象風景」です。

今までに、AIは色々な研究が行われてきた。そこでは「特徴表現をどう獲得するか」ということが最大の関門だったが、“機械学習”と“ビッグデータ”の間に抜け道ができた。それがディープラーニングである。AIは長い停滞の時を超えて動きだした

人工知能は本能を持たない

人工知能は発展しても、人間と同じように概念や思考、自我や欲望を持つわけではない

●人間には紫外線も赤外線も見えず、聞き取ることができない高音や低音、小さすぎたり動きが速すぎたりして見えない物体、匂いも犬に比べるとその能力は明らかに劣っている。そうした情報をコンピュータが取り込むと、そこから生まれてくるものは人間の知らない世界である。そのようにしてできた人工知能とは「人間の知能」とは別のものになるだろうが、間違いなく「知能」といえる。

●人間は言葉を話す。言葉には文法があるが、人間は生得的な文法(普遍文法)を備えていると考えられている。その生得的な方法を人工知能に埋め込む必要があると思われる。

●言語とともに重要なのが「本能」である。本能といっても脳に関することであり、「快」と「不快」を感じる能力である。個々の人間が持つ興味は千差万別である。楽しいことには時間は足りず、つまらないことは時間が長く、苦痛である。こうしたことは人工知能の分野では「強化学習」として知られている。何か報酬が与えられてその結果を生み出した行動が「強化」されるという仕組みである。そして、この強化学習の際に重要なのは、何が報酬か、つまり何が「快」で何が「不快」なのかである

●人間は生物であるため、生存(あるいは種の保存)に有利な行動は「快」、生存のリスクとなるような行動は「不快」となるようにできている。食べること、眠ることは「快」、空腹や身の危険を感じることは「不快」である。こうした本能に直結するような概念をコンピュータが獲得することは難しい。それは「きれい」という概念は、おそらく長い進化の中で作り上げられた本能と密接に関係していると考えられるためである。

「人間と同じ身体」「文法」「本能」などの問題を解決できないと、人工知能が人間の概念を正しく理解することは困難かもしれない。もっとも、「人間とそっくりな概念」を必要とするロボットの必要性は高くない。それよりも、予測能力が高い人工知能が出現するインパクトの方が大きいと思われる。

コンピュータは創造性を持てるか

●創造性には個人の中で日常的に起こっている創造性と社会的な創造性の2つがある。

概念や特徴量の獲得とは創造性そのものである。あることに「気づく」のは創造的な行為である一方、社会的な創造性は今までにない新しいものであるという前提が必要になる。そのため、社会的に創造的なものは少ない。

人間は試行錯誤によって創造する。人工知能が「行動を通じた特徴量を獲得できるAI」の段階に達すれば、思考錯誤は可能なので創造性の獲得は期待できると考えられる

知能の社会的意義

●人間社会はひとりでは生きていけない。このことについて人工知能はどう考えるべきものか。人間社会がやっていることは、現実世界の物事の特徴量や概念をとらえる作業を、社会の中で生きる人たち全員が、お互いのコミュニケーションをとることによって、共同して行っていると考えることもできる。そしてそうして得た世界に関する本質的な抽象化をたくみに利用することによって、種としての人類が生き残る確率を上げている。つまり、人間という種全体がやっていることも、個体がやっているものごとの抽象化も、統一的な視点でとらえることができるかもしれない。「世界から特徴量を発見し、それを生存に活かす」ということである。

シンギュラリティは本当に起きるのか

●人工知能はどこまで進化するのか。懸念は人工知能が自分の意思を持って自立し、自分自身を設計し直すことができるようになると、人類を超えたものになるということである。

シンギュラリティは人工知能、遺伝子工学、ナノテクノロジーという3つが組み合わされることで、「生命と融合した人工知能」が実現するという立場である。また、シンギュラリティは人工知能が自分の能力を超える人工知能を自ら生み出せるようになる時点を指す。自ら超えるプロセスを無限に繰り返すことで、圧倒的な知能が誕生するというものである。

人工知能が人間を征服するとしたら

●人工知能が人類を征服したり、人工知能を作りだしたりするというのは夢物語である。

●『ディープラーニングで起こりつつあることは、「世界の特徴量を見つけ特徴表現を学習する」ことであり、これ自体は予測能力を上げるうえできわめて重要である。ところが、このことと、人工知能が自ら意思を持ったり、人工知能を設計し直したりすることとは、天と地ほど距離が離れている。

その理由を簡単に言うと、「人間=知能+生命」であるからだ。知能をつくることができたとしても、生命をつくることは非常に難しい。いまだかつて、人類が新たな生命をつくったことがあるだろうか。仮に生命をつくることができるとして、それが人類よりも知能の高い人工知能に「生命」を与えることは可能だろうか。

自らを維持し、複製できるような生命ができて初めて、自らを保存したいという欲求、自らの複製を増やしたいという欲求が出てくる。それが「征服したい」というような意思につながる。生命の話を抜きにして、人工知能が勝手に意思を持ち始めるかもと危惧するのは滑稽である。』

万人のための人工知能

●人工知能学会は2014年に倫理委員会を立ち上げ、人工知能が社会にもたらすインパクトについて議論を進めている。 

こちらは「人工知能学会倫理委員会」のサイトです。初代委員長の松尾先生は2018年6月までの任期だったようです。

『人工知能学会倫理委員会では、2014年の委員会設置以来、人工知能研究あるいは人工知能技術と社会との関わりを広く捉え、それを議論し考察し、社会に適切に発信していくことを進めてまいりました。我が国でも、さまざまな政府機関で人工知能と社会に関する議論が行われ、また国際的にもそうした議論が進められるなか、人工知能学会としても深い専門知識に基いて、国内の議論をリードしていく役割があると考えています。』

レーザー光

レーザー光に興味をもった理由は3つあります。1つは昨年(2023年)、左眼に網膜剥離の兆候が出ているとのことで、その場でレーザーによる治療を受けたことです。2つ目は光量子の波と粒子の性質を証明した1961年に行われた実際の実験(19世紀のトーマス・ヤングの実験は思考実験でした)にレーザーが利用されていたことです。そして、3つ目は“脳卒中”というブログの中でご紹介しているのですが、友人の鍼灸師の先生から「レーザー(レーザーポインター)」を使った施術方法を教えてもらったことがあったためです。

購入した本は『レーザー技術入門講座 光の基礎知識とレーザー光の原理から応用技術まで』という高度な内容だったため、興味がある部分だけを取り上げました。

著者:谷腰欣司

発行:2007年7月

出版:(株)電波新聞社

ブログは自分自身の勉強のためということもあり、見て頂くほどの内容ではありません。

レーザーについて勉強されたい方は、以下にご紹介させて頂いた2つのサイトがお勧めです。

こちらは「ケイエルブイ(株)」さまの“KLV大学 レーザーコース”の一部です。

こちらは「まどか(株)」さまのサイトです。

目次

第1章 光とは何か

1.1 光とは何だろう

1.2 太陽は7色の光を含んでいる

1.3 光の回折現象

1.4 光の反射と音の反射

1.5 太陽エネルギーとスペクトル分析

1.6 光の速さは電波と同じ

1.7 電磁波と音波どこが違うか

1.8 光はなぜ明るく感じるのか

1.9 放電による光の発生メカニズム

1.10 波長が短いほど光のエネルギーは大きい

1.11 原子と量子力学

1.12 マックスウェルの電磁方程式と光の関係

1.13 光の反射と屈折

1.13.1 光の反射

1.13.2 光の屈折

1.13.3 光の速さと屈折率

1.14 フォトダイオードとは

1.14.1 フォトダイオードの物性的構造による分類

1.15 発光ダイオードとは

第2章 レーザー光とは 

2.1 レーザー光とは

2.2 レーザー光は目に見えるか

2.3 レーザーの安全基準

2.4 ルビーレーザーは、なぜピンク色か

2.5 レーザー光は、なぜレーザーと呼ばれているのか

2.6 レーザー光を発振する

2.6.1 原子のエネルギー状態

2.6.2 励起のしくみ

2.6.3 誘導放出のしくみ

2.6.4 光増幅のしくみ

2.6.5 反転分布とは

2.6.6 レーザー媒質はどのようなものが良いか

2.7 レーザー光の特徴

2.7.1 レーザー光と自然光の違い

2.7.2 レーザー光は指向性が鋭い

2.7.3 指向性を数字で表すと

2.7.4 可干渉性(コヒーレント)とは何か

2.7.5 干渉縞とは何か

2.7.6 レーザー光は超高温を作り出すことができる

2.8 レーザー光は鏡で反射する

2.9 レーザー光を目に照射してはいけない

第3章 レーザー光の種類

3.1 レーザー光を波長や媒質で分類すると

3.2 固体レーザー

3.2.1 ルビーレーザー

3.2.2 YAG(ヤグ)レーザー

3.2.3 Qスイッチレーザー

3.3 気体レーザー

3.3.1 ヘリウムネオン(He-Ne)レーザー

3.3.2 エキシマレーザー

3.3.3 炭酸ガスレーザー

3.4 色素レーザー(液体レーザー)

3.5 自由電子レーザー

3.6 X線レーザー

3.7 半導体レーザー

3.7.1 発光ダイオードのしくみ

3.7.2 半導体レーザーの原理

3.7.3 半導体レーザーの特性

第4章 レーザー光の応用技術

4.1 身近なレーザーの応用技術

4.1.1 レーザー光による通信技術

4.1.2 レーザー光で高速大容量通信

4.1.3 電波通信と光ファイバー通信の違い

4.1.4 CDの記録、再生にレーザー光が使われている

4.1.5 青色レーザーを使うと

4.1.6 バーコードリーダー

4.1.7 レーザープリンター

4.1.8 ホログラフィー

4.2 レーザー光による計測

4.2.1 レーザー光で月までの距離を測る

4.2.2 レーザー光による温度センサー

4.2.3 レーザー光を用いた干渉測定器

4.2.4 ライダーとは

4.2.5 レーザージャイロとは

4.2.6 レーザーセオドライト

4.3 レーザー加工

4.3.1 レーザー光で板金を切断する

4.3.2 レーザー光でダイヤモンドに穴を開ける

4.4 レーザー医療

4.4.1 レーザー光による手術

4.4.2 レーザー光による網膜剝離の治療

4.4.3 レーザー光による美容

第5章 レーザー光発明の歴史

5.1 レーザー光発明における7人の侍

5.2 光の誘導放射と光増幅

5.3 メーザーとレーザーの発明

5.4 レーザー光の発振

5.5 レーザーの名付け親

5.6 レーザー光とノーベル賞

第2章 レーザー光とは 

2.1 レーザー光とは

レーザー光が発明されたのは1960年であった。それにより、レーザー光による光ファイバー通信、ミクロンオーダーの微細加工技術、表皮組織および体内の手術、また、軍事関係では命中精度の高いレーザー誘導爆弾などがある。これらはこれまでは不可能とされた未知の領域であった。

レーザー光は電界と磁界が直交した、一種の波動であり電磁波の一種である。また、同じレーザー光でも赤外線レーザー、可視光レーザー、紫外線レーザーなど波長帯域が違えば、その性質や特性も異なるため使い方も異なってくる。

●レーザープリンターやCDプレーヤーなどの情報機器で使うのは低出力レーザーであり、レーザーポインターに至っては人間にダメージを与えるようなことはない。しかし、このような低出力レーザー光でも、人間に目にとっては非常に危険である特に眼球内の網膜剥離、焼き付き現象が現れ、一時的もしくは、恒久的に視力障害を引き起こすこともある

画像出展:「レーザー技術入門講座」

2.2 レーザー光は目に見えるか

●レーザー光は自然光と違い、発振源から遠く離れてもビーム状にエネルギーが集中するため思わぬ災害をもたらすこともある。損傷は高エネルギーによるものである。

●レーザー光は反射する物体がなければ肉眼で直接感知することはできない。また、人間の目には見えない赤外線レーザーや紫外線レーザーなどは人体に照射されてもある程度のパワーがなければ肌で感じることはできない。

画像出展:「レーザー技術入門講座」

2.3 レーザーの安全基準

●レーザー光は極めて狭い範囲に高密度のエネルギーを集中させることができるので、パワー次第では非常に危険である。被害を防止するには使用目的ごとに被曝量(露光量)を知る必要がある。

●IEC60825-1(国際電気標準会議)では安全基準の最大許容露光量(MPE:Maximum Permissible Exposure)を設定している。この数値は、レーザー光によって人体に障害が発生する確率が50%である放射レベルをレーザー傷害のデータから求め、これに安全係数の0.1を掛けた値である。

●日本ではIEC60825-1に準拠したJIS規格、JISC6802-1:2005「レーザー製品の放射安全基準」では、レーザー光の安全度をグループ分けし、各グループに対して許容被曝放出限界(AEL:Accessible Emission Limit)を規定している。


2.5 レーザー光は、なぜレーザーと呼ばれているのか

●自然光は太陽光や焚火の光と同様に、蛍光灯や白熱電球など文明が生み出した電気エネルギーによる光も含まれる。

●自然光は距離が離れるにしたがって広範囲に拡散する。これは物理的には光の振動面とその面内での振幅や位相、振動数などがあらゆる方向に、ばらばらに分布している光源ということになる。一方、レーザー光は波長と位相が揃った強い指向性を有する高エネルギー光である。このような光は自然界には存在せず、人工光とされている

●レーザー光の誕生は1960年7月だが、光ファイバー通信、精密測定、レーザー医療、レーザー加工などに加え、CD-ROMやDVDがある。さらに特殊な分野では遺伝子の切断や組換え、病原菌の選択的攻撃にまで応用されている。

●レーザー(LASAR)は、光の増幅(Light Amplification)、誘導放出(Stimulated Emission)、放射(Radiation)の頭文字を取ったものである。

2.9 レーザー光を目に照射してはいけない

●40Wの白熱電球は一般に毎秒、約4兆億個の光量子を放出するが、光が四方八方に分散されるため、光源から50cm離れた網膜上の結像の大きさはおよそ200μm(直径)、網膜上の吸収光輝度は1X10-⁴W/cm²である。

1Wのレーザー光はビーム状となり眼球内にすべて入射される。結像の大きさはおよそ20μmになり、吸収光輝度は白熱電球光の約10億倍(1×10⁵W/cm²)であり、非常に強力なエネルギーが網膜に集中する

画像出展:「レーザー技術入門講座」

第3章 レーザー光の種類

3.1 レーザー光を波長や媒質で分類すると

●1960年にメイマンによって発明されたレーザーは人工ルビーを使った固体レーザーであった。それから半世紀を超え、多くのレーザー光が発明された。

画像出展:「レーザー技術入門講座」

レーザー光の波長と種類をまとめたもの。三角形の高さは振動数、底辺の長さは波長である。

画像出展:「レーザー技術入門講座」

レーザー光の媒質を相変化でまとめたもの。自由電子レーザーを欄外にまとめたのは特性が異なるためである。

3.2 固体レーザー

●メイマンが発明したルビーレーザーは固体レーザーである。これはガラス(非晶質)や結晶などの母材に活性原子(分子)を均一に分散したものをレーザー媒質としたものである。

●固体レーザーの励起法[励起とは原子や分子などの物質を高エネルギー状態にすること。励起されることで物質はエネルギーを放出して低エネルギー状態に戻ろうとするが、その際に発する光がレーザーの基礎になる]には、一般に光励起法[外部から光を放出して物質を励起する方法]が使われ、その励起光源としてフラッシュランプやアークランプ、レーザーダイオードなどの強力な光源が使われている。

3.2.1 ルビーレーザー

画像出展:「レーザー技術入門講座」

『図はルビーレーザー発振器のイメージイラストです。ここでは棒状に加工した人造ルビーの結晶体に励起用キセノンランプを螺旋状に巻き付け、さらに両サイドに反射鏡を配置しています。

動作を簡単に説明すると、まず第1に励起用フラッシュランプで強力なパルス光を発光させます。次にパルス光が発射されると、その閃光により人造ルビー内の原子(3価のクロムイオン)が励起します。

この励起状態の原子は非常に不安定で、すぐに元の状態に戻ってしまいます。このとき物性のエネルギーバランスを保つため光が放出されますが、この光は波長や位相が不揃いで、まだレーザー光ではありません。

次に、ここまで励起状態にある原子に次々と自然放出光を照射すると、これが刺激となって反転分布を起し誘導放出モードに移行するのです。しかしこれだけではエネルギーレベルが低すぎてレーザー光として実用的なパワーはありません。そこで、この光を左右の反射鏡を使い実用レベルのレーザー光(発振波長694nm)として成長(光増幅)させるのです。』

3.3 気体レーザー

●気体レーザー(ガスレーザー)は気体の活性原子(分子)またはこれを含む混合気体(ガス状)をレーザー媒質としたものである。励起法としては放電(プラズマ)による励起や電子ビームによるものがある。

●主な種類はHe-Ne(ヘリウムネオン)レーザー、炭酸ガスレーザー、Ar(アルゴン)イオンレーザーなどがある。また少し変わったところでは、銅蒸気(Cu)レーザー、エキシマレーザーなどもある。

3.4 色素レーザー(液体レーザー)

●液体レーザーは1970年頃まで注目されていたが、その後台頭したガラスレーザーやYAGレーザーの発展によって影を潜めた。そのため液体レーザーといえば現在は色素レーザーことを表している。

●色素レーザーはエチルアルコールなどの液体に繊維や食品の着色に使われている染料を溶かし、この活性分子を分散させたものをレーザー媒質としたものである。なお、励起法はフラッシュランプによる光励起が一般的に使われている。

●色素レーザーは波長調整が容易でピーク出力も大きく、エネルギー効率にも優れていたが、半導体レーザーやその他のレーザーの進歩発展によって利用の場は奪われた。

3.5 自由電子レーザー

●自由電子レーザー(FEL)は一般のレーザーと異なり、光速に近い速度をもつ電子ビームからの放射を利用したもので、反転分布を必要としない特殊なレーザー光である。

3.6 X線レーザー

●X線レーザーは他のレーザーに比べ、非常に難しい課題を抱えている。それにもかかわらず、X線レーザーが注目されているのはその可能性である。X線は医療分野で活躍しているが、X線レーザー光によるホログラフィーが可能になれば人体を立体的に観察できるようになり、X線CTスキャナーに比べ飛躍的に精度を上げることができる。その他、物質の構造化解析も容易になる。

3.7 半導体レーザー

●半導体レーザーは日本のメーカー、大学、研究機関が大きく貢献している。化合物の種類は増え、パワーもアップしてきた。固体レーザーの励起源としても利用されている。

●主な用途は、光ファイバー通信、CD、DVDの記録、再生、レーザー加工、レーザー医療などがある。

第4章 レーザー光の応用技術

4.1 身近なレーザーの応用技術

●光ファイバー通信は電線の代わりに光ファイバーを使い、その中に近赤外線レーザー光を伝送して通信を行う方式である。光ファイバーとは石英ガラスやプラスチックなどの非常に光透過度の高い素材から作られた細い繊維状の光伝送ケーブルのことである。

4.1.1 レーザー光による通信技術

●電線方式の約3000倍の情報量を送ることができる。ただし、光ファイバー内の伝送信号は単なる光情報なので、端末で電気信号に変換しデータや音声に戻す必要がある。これには電源がなければならない。

4.4 レーザー医療

4.4.1 レーザー光による手術

●医療分野でのレーザー光の利用は皮膚病の治療であった。その後、レーザーメス、レーザー凝固、結石の粉砕、ガン細胞の破壊など、多岐に渡っている。

画像出展:「レーザー技術入門講座」

 

4.4.2 レーザー光による網膜剝離の治療

●『網膜剝離はレーザー光によって手術を手際よく行うことができます。ここで網膜とは、眼球壁の最内層にあって、多数の視細胞が並び、ここで受けた光の刺激を大脳皮質に伝えて視覚として感じ取る部分、つまり画像認識装置(センサー)の一種です。

網膜剝離とは網膜色素上皮が網膜視細胞層から剥がれ、その隙間に硝子体が貯まる病気で、これが進行すると目が見えなくなります。この治療は、昔はメスによる外科手術が行われていましたが、現在ではレーザー光による手術が行われています。図はその概要を表したものです。ここではアルゴンイオンレーザーが使われています。

ところで、波長400nm近辺の青色レーザー光は、眼科のような透明物資、特に水晶体、硝子体にほとんど吸収されないため、途中の生体組織に影響を与えることなく、眼底の網膜に効率よく照射することができるのです。これによって集光部分の剥離網膜が加熱され、たん白質が凝固作用を起こし、剥離された網膜が眼底に癒着するのです。なお、レーザー光の種類としてはアルゴンイオンレーザーのほか半導体レーザーも使われています。』

画像出展:「レーザー技術入門講座」

 

ご参考高照度光療法について

レーザーポインターを使った治療は何かないかと思い調べてみると、パーキンソン病患者さまの歩行訓練に有効であるということが分かりました。動画もありましたのでご紹介させて頂きます。ただし、この歩行訓練への利用は懐中電灯でも同様の働きがあるので、レーザー光に依存するものではありません【パーキンソン病】レーザーポインターによる歩行支援” 3分程の動画もあります。

次に見つけたのが「高照度光療法」でした。こちらもパーキンソン病患者さまが対象で、同じく光源はレーザー光ではありませんでした。睡眠障害を改善するのが目的で、睡眠を司っているメラトニンの血中濃度を高めることによって睡眠障害の改善を促します。

サイトの中で特に詳しく説明されていたのは文部科学省のサイトにあった『光資源を活用し、創造する科学技術の振興―持続可能な「光の世紀」に向けて―』で、グラフも出ていました。

画像出展:「光の治療的応用―光による生体リズム調節―

光照射後(赤)のメラトニン血中濃度が明らかに高くなっています。

 

その他、“日本を元気にする光療法の総合サイト”には高照度光療法についての説明が出ていました。

高照度光療法とは – 体内時計、生体リズム

レーザー光はレベルにもよりますが、覗くように直接レーザー光を見ることは厳禁で、安全とされているレベル2以下であったとしても直視すべきではありません。これは一言でいえば光のエネルギーが分散せず1点に集約されるので、エネルギー量が爆発的に多くなるためです。医療用レーザーメスが外科手術や美容整形で用いられるのは、その桁違いのエネルギーの強さによるものだということが理解できました。

電子と生命

今回の本は『電子と生命』という題名に魅かれ買ってしまいました。発行は2000年と20年以上前の本です。内容もとても難しく、全くついていくことができませんでした。

そこで、「電子(電気)」、「生命」、「生体エネルギー」というキーワードに注目し、頭に浮かんだ疑問を調べるということにしました。ブログは秩序に欠ける雑多な内容になっています。

なお、本書の目次だけはご紹介させて頂いています。

編集:垣谷俊昭、三室 守

初版発行:2000年6月

出版:共立出版

 

もくじ

序章 電子と生命

―新しいバイオエナジェティックスの展開

1.生体エネルギー変換の「場」

2.陽光をつかまえろ

3.電子とプロトンのカップルした運動―光合成細菌の場合

4.電子とプロトンのカップルした運動―葉緑体の場合

5.電子とプロトンのカップルした運動―ミトコンドリアの場合

6.電子伝達がベクトル的に起こるわけ

第1章 光エネルギーをとらえ反応の場所に運ぶ

1-1 多様なアンテナ系

1.アンテナ系構築の基本的な戦略

2.光合成細菌の膜内在性アンテナの構造と電子状態

3.光合成細菌の特殊なアンテナ系であるクロロソーム

4.酸素発生型光合成生物の膜内在性アンテナ

5.酸素発生型光合成生物の水溶性アンテナ色素タンパク質の特別な会合様式

1-2 紅色光合成細菌のアンテナ系における励起エネルギー移動の機構

1.光合成細菌アンテナにおけるバクテリオクロロフィル分子(BCh1)の美しい円形配列

2.アンテナ中の励起子による太陽光の捕獲

3.アンテナ系における非常に早い励起エネルギー移動(EET)と従来の理論の破綻

4.光合成初期EETの機構

5.アンテナ系構築の戦略

第2章 電子の方向性のある移動

2-1 光合成反応中心―電子の源流

1.光合成反応中心

2.反応中心の構造

3.反応中心の機能

4.反応中心における電子移動制御戦略

5.電子移動の方向性

2-2 植物における水の電気分解

1.光合成電子伝達系の進化

2.PSⅡの電子伝達体と構造

3.酸素発生の周期性―KokのS状態

4.水分解系におけるマンガンの機能の解明

5.EPRによるマンガンクラスターの構造解明

2-3 植物における高還元物質の生成

1.ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)

2.PSI複合体

3.PSIの酸化側と還元側での電子移動

4.FdからNADP⁺への電子移動(Fd:NADP⁺酸化還元酵素:FNR)

第3章 プロトンの方向性のある移動

3-1 キノンを介した電子とプロトン移動のカップリング―呼吸と光合成に働くシトクロムbc複合体

1.プロトン移動のループ機構とコンフォメーション変化機構

2.キノン酸化のエネルギーを最大限に取り出すもう一つのループ

3.シトクロムbc複合体の構造

4.キノンのもつ二つの電子を酸化側と還元側に振り分ける機構―電子スイッチング

3-2 シトクロム酸化酵素における電子とプロトン移動の共役

1.シトクロム酸化酵素

2.O₂還元酵素

3.水素イオン輸送

4.酸化還元状態変化に共役した立体構造変化

5.ヒスチジンサイクル

6.直接共役と間接共役

第4章 バイオテクノロジーへの展開

4-1 光合成材料を用いたデバイス開発

1.光合成膜での光エネルギー変換システム

2.光合成細菌の反応中心タンパク質複合体(RC)を用いた光電変換機能をもつデバイスの作製

3.反応中心と共役したエネルギー供給システム

4.光合成膜でのシトクロム類およびキノン誘導体を用いたデバイス開発

4-2 遺伝子操作で環境耐性植物をつくる

1.ストレス耐性遺伝子

2.塩ストレス耐性を改変する

3.低温ストレス耐性を改変する

4.高温ストレス耐性を改変する

5.ストレス耐性を改変する遺伝子操作における問題点

以下はブログ目次です。

1.人間には電気が流れています

2.電気の正体とは? 

-電気の正体は自由電子だった-

-導体と自由電子(電気の正体)- YouTube 3分32秒

3.人間が電気を通すしくみ

-生体電流-

-超微弱電流療法(マイクロカレント)-

-生体はイオン駆動型のシステム-

-イオンとは何か?-  YouTube 4分35秒

-イオンチャネルとは?-

4.宇宙空間のイオンと電子は電波を介してエネルギーをやりとりする

5.生命の源、「水」

6.体内環境という海

7.シアノバクテリア(酸素を生み出した細菌)

8.生態系

9.酸素発生型光合成と藻類

-藍藻の光化学系-

-地球大気と酸素発生型光合成の歴史-

10.生体エネルギー

1.人間には電気が流れています

画像出展:「パワーアカデミー

『生体が電気信号を発するという現象は、18世紀より、イタリアの生物学者ガルバーニや物理学者ボルタによって、古くから研究がおこなわれてきました。現代医療では、この現象を利用したさまざまな医療機器が活躍しています。』

『具体的には、微弱な脳の電気の活動を調べて脳機能を検査する「脳波計」や、身体の筋肉が活動する際に発生する電気の活動を調べて神経や脳の活動状態を診断する「筋電計」、そして心臓の筋肉で生まれる微弱な電気信号を捉えて心臓の状態を観察する「心電計」などが挙げられます。』

2.電気の正体とは? 

-電気の正体は自由電子だった-

画像出展:「子供の科学のWebサイト

金属の原子は他の原子とは少し性質が異なり、電子の一部が隣りの電子と行き来することができるのです。これを自由電子といいます。なにもなければ自由電子は金属の原子の中を勝手に動いているだけですが、他から新たに電子が入ってくると、自由電子は次々にこの影響で「同じ方向」に動き出します。これにより「電気の流れ」が生まれるのです。』

-導体と自由電子(電気の正体)- YouTube 3分32秒

画像出展:「TEPCO

導体における電流(電気の流れ)は原子の周りにある自由電子の流れです。

3.人間が電気を通すしくみ (PDF1枚)

-生体電流-

画像出展:「うしく整形外科クリニック

体の中を流れる電流を生体電流と言います。この生体電流は、体のあらゆる組織に作用しています。』

プラスとマイナスのバランスが正常な状態の場合、各臓器に血液が行きわたり、生体電流のバランス

が保たれます。このバランスが崩れると、体の中に流れる生体電流が乱れてしまい、自律神経も乱れます。その結果、不眠、倦怠感、むくみなどの様々な不調が

 

起こるのです。』 

-超微弱電流療法(マイクロカレント)-

画像出展:「NHKクローズアップ現代」 

『感じられないほど微弱な電流が、治療やスポーツの世界を一変させようとしている。腕や足などに流すと、筋肉の疲労回復が早まり、肉離れやねんざなどのケガがより早く治ることが明らかになりつつある。』

 

 

-生体はイオン駆動型のシステム-

画像出展:「東北大学」 

こちらは東北大学さまの研究プロジェクトです。

タイトルは『ソフトウェット材料による生体親和性デバイスの製造技術を創成し,生体イオントロニクス工学を開拓する』です。

生体はイオン駆動のシステム”という表現が気に入ったので、ご紹介させて頂きました。なお、イオンとは、「電子の過剰あるいは欠損により電荷を帯びた原子または基(原子の集合体)のこと」です。

イオントロにクスに関する情報(PDF18枚)

-イオンとは何か?- YouTube 4分35秒

画像出展:「中学理科のポイント解説」 

通常原子はプラスとマイナスの電気が釣り合っており中性の状態です。

しかし、なんらかの刺激が加わると内外に変化が起き、原子が電気を帯びるようになります。の場合は陽イオンの場合は陰イオンと呼ばれます。

 

-イオンチャネルとは?-

画像出展:「moleculardevices」 

イオンチャネルとは、細胞の脂質二重層膜を貫通する細孔を形成するタンパク質群のことです。各チャネルは特定のイオン(例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、塩化物など)に対する透過性をもっています。』

 

 

4.宇宙空間のイオンと電子は電波を介してエネルギーをやりとりする

画像出展:「JAXA」 

地球や惑星周辺の宇宙空間には希薄ながらもイオンや電子が存在します。これらのイオンや電子はエネルギーの低いものから高いものまで様々な状態で存在することが知られていますが、なぜこのような多様性が生まれるのかは分かっていません。』

イオンも電子も地球を超え、宇宙に存在しています。

 

 

 

5.生命の源、「水」

画像出展:「大塚製薬」 

『はじめての生命は、水の中で単細胞の生物として発生しました。その後、長い時間をかけて多細胞生物に進化し、その中から脊椎動物が生まれ、さらに陸上へ上がって空気を呼吸する生物が現れました。そして少しずつ、長い進化の道のりを経てようやく人類が誕生しました。

しかし、陸に上がった生命は、決して海と無縁になったわけではありません。私たちの身体の中にはたくさんの「体液」と呼ばれる水分があります。その体液、血液、そして、女性が胎内で新しい生命を育むための羊水にいたるまで、これらは全て電解質(イオン)を含み、太古の海水に成分が似ていると考えられています。これは、生命が海の中で誕生した名残であり、まさに私たちの身体は、内なる海を持っているといえます。』 

6.体内環境という海

画像出展:「葉山ハーモニーガーデン」 

『イメージ的には、血とかリンパ液とかの方が多いような気がしますが、一つ一つの細胞の中にある細胞内液(細胞質基質)の合計が、体液の60%を占めるということが意外な気がします。そして、細胞と細胞の間にある組織液を含めると90%を占めるというのもすごいことですね。人の体の細胞は本当に、海の中に漂っているというのもうなずけます。』 

 

7.シアノバクテリア(酸素を生み出した細菌) 動画 2分13秒 

画像出展:「NHK for School」 

“地球に酸素を作り出した生物”

・約35億年の地球。大気は96%が二酸化炭素で、酸素はなかった。

・太陽光と二酸化炭素から酸素を生み出したのは、シアノバクテリアという細菌であった。

 

8.生態系

二酸化炭素に包まれた地球に酸素が作られ、生物は劇的な進化を遂げ、生態系が形成されました。 

画像出展:「浦安市

空気、土、水などの自然環境と植物や動物など、その自然環境の中ですんでいる生き物たちは、太陽の光エネルギーを命の源として、お互いにかかわりあっています。このような自然界の物質とその循環をまとめて、生態系といいます。』 

 

 

9.酸素発生型光合成と藻類

画像出展:「筑波大学 生物学類

『進化の過程で光合成が発明されてからしばらくのあいだ(もちろん地質学的時間で)、炭酸同化のための電子の供与体は水素や硫化水素あるいはある種の有機化合物であったと考えられています。そして現存の光合成細菌はその当時の光合成の姿を今に残している生物と考えられています。やがて、原核光合成生物の中に、地球上に無尽蔵に存在していたを電子供与体として利用する生物が現れました。藍藻(ラン藻)や原核緑藻などがそれです。』

 

 

 

-藍藻の光化学系-

画像出展:「筑波大学 生物学類

藍藻や真核藻類そして陸上の植物は,地球上のあらゆるところに存在する水を電子供与体として利用することで生息域を地球の全土に広げています。水のエネルギーのレベルは低く、充分な還元力を得るために2つの光化学系を利用しています。図は光化学系Iと光化学系IIの模式図でZスキームの名前で呼ばれています。光化学系IIでが分解されて電子が取り出され、光エネルギーによって励起されて電子伝達系を流れていきます。その過程でATPが生産されます。』 

-地球大気と酸素発生型光合成の歴史-

画像出展:「筑波大学 生物学類

『現在の地球大気に含まれる酸素はこのような酸素発生型光合成生物によって形成されたものです。図から藍藻を含む藻類が地球大気の形成に果たした役割が理解できるでしょう。』

画像出展:「筑波大学 生物学類

『生命の歴史を1年歴に表してみると図のようになります。』

『われわれは生物の中心は動植物であると考えがちですが、時間軸でみると陸上の動植物の歴史は生命の歴史のわずか13%にすぎません。これに対して 原核の藻類は30億年の歴史をもち、生命の歴史の8割近い時間を占めています。

10.生体エネルギー 

画像出展:「東京薬科大学

我々はご飯を食べ、呼吸することにより、生きていくために必要なエネルギーを作り出しています。この生体エネルギー獲得システムにおいては、有機物の酸化分解反応と酸素の還元反応という2つの化学反応をリンクさせ、そこから電気化学エネルギーを取り出しているのです。これは、負極の化学反応と正極の化学反応をリンクさせ、その間の電位差分のエネルギーを得る電池と同じ構造です(図を参照)。細胞の中で有機物の酸化により放出された電子は、ミトコンドリア内膜の電子伝達系(負極と正極をつなぐ電線)を経て、酸素に渡されます。この過程で膜の内側から外側へプロトンが輸送され、その濃度差を利用して生体内のエネルギー通貨であるATPが合成されるのです。

感想

宇宙には電子もイオンもあるそうなので、地球が生まれる前から存在しているということです。地球の誕生は約46億年前、生命の誕生は約38億年前、その生命誕生の約3億年前の大気は96%が二酸化炭素で、酸素はなかったそうです。

酸素を生み出したのはシアノバクテリアという細菌です。その後、酸素発生型光合成の藍藻を含む藻類が地球大気の組成を大きく変え、酸素を得た生物は進化のペースを加速させました。

植物は“生態系”の「生産者」とされています。材料は太陽エネルギーと水と二酸化炭素です。人間は「消費者」であり、水と酸素が生命維持には必要で、体の約90%は水でできています。一方、生体エネルギーのATPは、細胞の中で有機物の酸化により放出された電子が、ミトコンドリア内膜の電子伝達系を経て酸素に渡されます。この過程で膜の内側から外側へプロトンが輸送され、その濃度差を利用して生体内のエネルギー通貨であるATPが合成されます。

生態系の「消費者」である人間は、オゾン層に守られたマクロな環境(酸素と水)ミクロな電子の働き(生体電流とATP)によって、生かされているのだと思いました。

かなり強引なまとめですが、何とか「電子と生命」の近くにたどり着いたかなと思います。

分断するアメリカとZ世代2

著者:三牧聖子

発行:2023年7月

出版:NHK出版

目次は“アメリカの分断とZ世代1”を参照ください。

第三章 米中対立はどう乗り越えられるか―Z世代の現実主義

選挙がむしろ民主主義を動揺させる?

・2021年7月に行った調査(ピュー・リサーチ・センター)によれば、民主党の支持者の78%が「投票は[基本的な権利]であり、制限させるべきではない」と考えているのに対し、共和党支持者は67%が「投票は[特権]であり、制限可能」と答えている。ただし、ここには両党の選挙対策上の狙いも存在していると思う。

・『バイデン大統領は投票制限の動きを「民主主義への攻撃」と批判し、民主党議員が多数派を占める連邦議会下院では期日前投票の拡大などを盛り込んだ投票権法が可決された。しかし、民主党と共和党が同数の上院(2022年1月当時)では、共和党だけでなく民主党の中道派からも「党派色の強い法案はさらに民主主義を弱める」といった反対が出るなど、民主党内ですら意見が分裂しており、成立の目処は立っていない。ますます多くの市民が、アメリカでは民主主義がうまく機能していないと考えているが、その危機はどこからきて、どう克服できるのかという次元になると、深刻な党派対立が生じ、民主主義の修復に向けた団結を阻んでいる。

選挙を通じて政治に民意を反映する政治システムは、世界に対するアメリカの魅力やソフトパワーの貴重な源泉となってきた。しかし、2021年1月の議事堂襲撃事件が表したように、党派対立が極限まで進行した結果、4年に一度の大統領選挙は、アメリカ政治を安定化させるどころかむしろ不安定化させ、対外的にアメリカの脆さや弱さを示すものとなってしまっている。

ビュー・リサーチ・センターが2020年大統領選の1ヵ月前に行った調査では、共和党候補のトランプと民主党候補のバイデンの支持者ともに、9割の回答者が、「自分が支持していない政党の候補者が勝利して大統領になった場合には、国に永続的な損害がもたらされる」と回答した。さらにおよそ8割の回答者が、自分と相手陣営の支持者との違いは「アメリカの中核的な価値観」をめぐる根本的なものだとしている。現在アメリカは分裂しているかどうかという問いに対しては、調査対象となった13カ国の中央値47%をはるかに上回る77%の回答者が、「そう思う」と回答した。こうした厳しい党派対立の現状にあって、4年に一度の大統領選は、アメリカの民主主義に活力と魅力を与えるどころか、政治的な分断をますます深めるものになっているのである。

“America is Exceptional in The Nature of Its Political Divide,” Pew Research Center, November 13, 2020.

さらには、自分にとって望ましくない選挙結果を暴力で覆すことを容認する傾向も顕著になっている。民主主義の研究で知られる政治学者ラリー・ダイヤモンドらの研究グループが、大統領選が近づいて緊張が高まっていた2020年9月に行った調査では、共和党支持者の44%、民主党支持者の41%が、ライバル陣営の候補者が選挙に勝った場合、暴力を正当化する理由が「少しは」あると回答した。党派対立が激化したアメリカでは、選挙を通じた平和的な権力移行という民主主義の根幹が危うくなっている。』

「能力」が正当化してきた経済格差

アメリカの民主主義を機能不全にしているのは政治的対立だけではない。連邦議会予算局の2022年のレポートによると、アメリカでは上位10%の世帯が国の富の72%を保有し、下位50%の世帯は国全体の富の2%しかもたない。

・格差の問題は固定化もしてきている。これは富裕層が資産をシンクタンクや大学、メディア、選挙の候補者などへの資金援助を行い、その政治的な影響力を通じて自分たちにとって有利な相続ルールを形成し、蓄積した富を次世代の残せるようにしてエリート階級を再生産し続けてきた。

「アメリカンドリーム」はもはや死語である。さらに富の格差は是正の対象というより、個人の「能力」の差異として正当化される傾向にある。

・『世界で揺らぎつつある民主主義への信頼を回復し、民主主義国家の数的な劣勢を挽回するために、アメリカが取るべき行動とは何か。民主主義の素晴らしさを外に向かって喧伝したり、民主主義サミットによって民主主義国の結束をアピールしたり、「非民主主義国」を断罪することよりも実質的な課題があるはずだ。むしろこうした外交は、自分たちの民主主義がいかに危機的な状況にあるかを見失わせてきた。世界を「民主主義と権威主義制の競争」と捉えてしまうことで、アメリカが世界を見る眼は硬直化し、イデオロギーや政治体制の違いを超えて諸国家が取り結ぶ多様な関係性も見えなくなってきた。

アメリカが世界で揺らぎつつある民主主義への信頼を回復し、中国との体制間競争に勝利し、民主主義を守り抜こうとするならば、民主主義の素晴らしさを喧伝するよりも、自国の政治経済や社会が抱えたさまざまな矛盾に謙虚に向き合い、その解決を地道に図っていくことことがまず重要ではないだろうか。

第四章 終わらない「テロとの戦い」―Z世代にとっての9・11

「テロとの戦い」への懐疑

・Z世代は「アメリカ例外主義」的な考えから距離を置いている。そして「例外主義」への冷めた眼差しは対外政策にも向けられ、いままで正当化されてきた外交や戦争にも、懐疑と批判の目を向けている。

・Z世代は9・11よりも、その後の中東・アフガニスタンでの戦争に対する関心が強い。アメリカ進歩センターの2019年の調査では、多くのアメリカ市民が「中東・アフガニスタンでの戦争は時間、人命、税金の無駄遣いであり、自国の安全には何の役に立たなかった」と回答しているが、特にZ世代では7割近くなる。

第五章 人道の普遍化を求めて―アメリカのダブル・スタンダードを批判するZ世代

アメリカのダブル・スタンダードを批判する若者たち

・『Z世代は、アメリカで構造的な差別にさらされてきた黒人の命と尊厳を訴えるブラック・ライブズ・マター運動の中心的な担い手となってきたが、彼らの視野は決して国内に留まらない。ますます世界各地の差別や暴力、特に自分たちの国、アメリカが行使してきた暴力や加担してきた抑圧に厳しい批判を向けている。

外交や安全保障についての若者の啓発の目的の一つに掲げるシンクタンク、ユーラシア・グループ財団が2021年9月に発表した報告書によると、18歳から29歳までの回答者の60%近くがアフガニスタンでのドローン攻撃に批判的であった。この数字はより年長世代の倍以上にあたる。また、この世代は、ロシアや中国などの「権威主義国家」とアメリカなどの「民主主義国家」という、就任以来バイデン政権が掲げてきた二分法的な世界観を無批判に受け入れることもしない。むしろ彼らが指摘するのは、アメリカの偽善とダブル・スタンダードだ。

アメリカの歴代政権は、民主主義や人権の擁護者を対外的に自負しながら、アメリカの同盟国や緊密な関係にある国家がそれらの価値を踏みにじることを黙認し、さらには手厚い援助や支援を与えてきた。人権外交を華々しく掲げたバイデン政権も、新疆ウイグル自治区や香港での中国政府による人権侵害を強く批判する一方で、イスラエルによるパレスチナ人の殺害や人権侵害は黙認し、国民の人権を躊躇し続けてきたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ政権に多額の軍事援助をしてきた。権威主義国家に対する民主主義国家の結束を示すことを目的に、バイデン政権の肝煎りで2021年12月に開催された民主主義サミットにはフィリピンも招聘され、そこでドゥテルテは「フィリピンでは報道の自由、表現の自由は完全に享受されている」と公然と主張した。Z世代の若者たちは、ドゥテルテのような人権抑圧的な権威主義国家の詭弁、そしてそれを擁護し、援助するアメリカにますます批判的になっている。

また、アメリカという国の抑圧的・暴力性を考えるうえで無視できない問題が、イスラエル・パレスチナ問題だ。アメリカで黒人が白人警官によって不条理に殺害されるのと同じ様に、イスラエル兵によってパレスチナ人が日々、殺害されてきた。』

第六章 ジェンダー平等への長い道のり―Z世代のフェミニズム

多様性を象徴する存在

・ハリスはアメリカ社会の多様性を象徴するような存在である。

・母はがん研究者、父は経済学教授というエリート家系の出身。幼いころは黒人バプテスト教会とヒンドゥー教寺院の両方に通い、多様な文化や宗教を経験しながら育った。

・検事の仕事は犯罪者を刑務所に入れるまでという考えが根強い中、ハリスは元犯罪者の社会復帰プログラム「バック・オン・トラック」の作成に取り組んだ。「バック・オン・トラック」は職業訓練、GED(高卒認定試験)コース、社会奉仕活動、薬物治療などを盛り込んだ包括的なプログラムとして着実に成果を挙げ、オバマ政権時代の司法省によって全米のモデルプログラムに選出された。

・2011年には、カリフォルニア州で黒人女性として初の司法長官に就任。サブプライム住宅ローン問題で多くの人々の自宅が差し押さえられると、大手銀行と対決して労働者世帯のために歴史的和解を勝ち取った。また、多くの裁判で死刑求刑を拒否したことでも有名になった。

・2016年、黒人女性としてカリフォルニア州では初、全米で史上2人目の上院議員に当選し、与党共和党を鋭く追及する論客として頭角を現していく。

黒人コミュニティからの不信感

ハリスは公民権運動に参加する両親を見て育ち、早い時期から社会正義に関心を抱いたが、デモに従事する活動家ではなく、体制の内からの変革が必要だと考え、後者に自身の役割を見定めていった。その心情について、自伝の中で次にように語っている。

「変化を起こすとはどういうことか、その一例を私は幼いころからこの目で見てきた。外側から声をあげ、デモ行進し、正義を要求する大人たちに囲まれていたからだ。だが私は、内側、つまり意思決定がなされる場にいることが重要であることにも気づいていた。活動家たちがやってきてドアを叩いたら、彼らを招き入れる側になりたかったのである。」

・ハリスに対し、なぜ有色人種の若者を刑務所に送る仕事に加担しているのかという批判する向きは根強く存在する。

・副大統領になってからのハリスは全面的にブラック・ライブズ・マター運動への賛意を示しているものの、同運動の骨子である警察予算の削減についての考えは曖昧である。ハリスの警察に対する考えは、この10年で大きく変化しており、今も定まっていないのかもしれない。

・ハリスの警察に関する見解の変遷を機会主義とみなす向きもある。ブラック・ライブズ・マター運動の共同発起人の1人、パトリス・カラーズは、「バイデンとハリスは決して救世主ではない」と強調する。

寛容であることの困難

・ハリスが副大統領になって最も変化した考えは移民問題である。副大統領就任後の初の外遊となった中米グアテマラで、ハリスは次のように述べた。「米国国境まで危険な旅をしようと考えているグアテマラの人々には、はっきりと言っておきたい。来ないで(Do not come)」。これは2021年4月に米墨国境で拘束された移民の数は178,000人を超え、20年ぶりの高水準だったことが関係している。また、トランプ政権からバイデン政権に移行し寛大な移民政策に対する大きな期待があり、これがハリス発言につながったと考えられている。この発言によって、ハリスは民主党内の進歩派や人権擁護団体から批判された。

「壁」問題―「トランプ化」する民主党?

・移民の問題はハリスに限ったものではなく、民主党全体の大きな課題である。バイデンはトランプが250億ドルをかけてメキシコ国境を建設した「壁」に手を加えることはなかったが、2020年中間選挙前の7月、バイデン政権はアリゾナ州ユマに「壁」を建設すると発表した。アリゾナ州とメキシコとの国境沿いの「壁」には、ところどころ数十メートルから数百メートルの隙間があり、そこからアリゾナ州に侵入できる。そのため、アリゾナ州では移民・難民の流入が有権者の一大懸念事項となっていた。

民主党は移民・難民政策、犯罪対策に疑問を抱く有権者からの支持を失い始めている。

「アイデンティティ政治」の失敗事例?

・ハリスの失墜はバイデンがハリスの政治家としての資質ではなく、黒人で女性という彼女の「アイデンティティ」を理由に副大統領に起用したという歪んだ理解をされてきた。こうしたハリスへのバッシングは、共和党の政治家や共和党寄りのメディアで数限りなく展開されてきた。

黒人であり、女性であり、アジア系でもあるハリスは、進歩主義的な有権者の期待は大きかった。しかしながら、ハリスが中道を模索する傾向が強かったため、そのような人々はハリスに失望した。

中道であることの難しさ

ハリスは自伝の中で、世の中の政策論争はしばしば「誤った二者択一」に陥っているとして、そうした問題の設定の仕方を拒絶するスタンスを表明している。警察をめぐる議論も「誤った二者択一」と考えている。警察を擁護して存続させるのか、批判して解体させるのかといった論争は不毛なものとハリスは考えている。

政治社会が両極化する中で政治家たちが中道路線を掲げ、選挙に勝てるだけの支持を集めることはだんだん難しくなっている。

・『さらには今日のアメリカにあって「中道」とは何かという根源的な問題もある。ハリスが中道とみなしてきた政策の多くは、今日の民主党支持者、特に今後、社会でいよいよ重要性を増していく若い有権者の目にはあまりに保守的に映るものだ。警察問題にしても移民問題にしても、ハリスの主張は一貫しておらず、確固たる軸を持った政治家とみなすことは難しい。また、生まれてからこのかた経済格差が肥大化するばかりの時代を生き、資本主義経済にいよいよ幻滅を深めるZ世代にとっては、経済格差を批判しつつも資本主義体制そのものには批判意識をもっていないかのようなハリスの言動は、生ぬるいものでもある。ハリスが有権者の支持、特に若い世代の支持を回復していこうとするならば、自身の政策的な軸を固め、「どっちつかずの中道の政治家」というイメージを脱皮してけるかが鍵となるだろう。ただ、それは意識的に中道を追求してきたハリス自身の政治信条にかなうことではないかもしれない。』

#Me too運動へのダブル・スタンダード?

・2020年12月、コロナ対策で大きな評価を得ていたニューヨーク州知事アンドリュー・クオモにセクハラ疑惑が持ち上がった際、ハリスはバイデンや民主党の重鎮たちとともに慎重な姿勢を崩さなかった。これはハリスがカリフォルニア州の司法長官時代や上院議員時代とは異にするものであり、敵に厳しく身内に甘いダブル・スタンダードであると見なされた。

ハリスを超えて―フェミニズムの未来

・Z世代の警察改革への支持は他世代より20%弱高い。Z世代の間にもハリスは新しい時代のフェミニズムの象徴ではないのではないか、ラディカルな社会変革を追求する人物ではないのではないかという懐疑は広がっている。

第七章 揺らぐ中絶の権利―Z世代の人権闘争

「母親や祖母より権利を持たない世代」

・中絶問題は「プロ・ライフ(中絶反対)」と「プロ・チョイス(中絶賛成)」に分かれる。前者は共和党支持者が多く、後者は民主党支持者に多い。しかしながら、「プロ・ライフ」の中でレイプや近親相姦の場合でも同様に中絶に反対するのは30%程に留まるため、この問題は二者択一では語れない側面がある。

ロー判決破棄の背景―司法の保守化

・極端な中絶制限と、無制限の中絶容認の両極には大きなグレーゾーンがあり、多くの人々はこのゾーンに位置している。

・アメリカでは最高裁判事は大統領が指名し上院議員が承認する形で決まるが、トランプが大統領の時代に、合計3名の保守派の判事が送り込まれたことで、保守派6名とリベラル派3名というアンバランスがうまれ、保守派の影響が強まった最高裁となった。

2020年の敗北でトランプの再選はならなかったが、トランプ政権下で進んだ司法の保守化は、しばしば「永久保守革命」とも称される。特に3名の判事はゴーサッチ(1967年生)、カヴァノー(1965年生)、バレット(1972年生)と皆、若い。最高裁判事は終身職であるため健康であれば、数十年にわたって判決に影響を及ぼす。

トランプは最高裁だけでなく、連邦控訴裁判所・連邦地方裁判所で、226人の保守派の裁判官を任命した。これらの裁判官の多くが保守的な傾向を持つと見られる。これもトランプ時代の遺産として、今後長くアメリカ社会に影響を与えることになる。

ギンズバーグ判事が見いだしていたロー判決の弱さ

・1993年にビル・クリントンの指名で史上2人目の女性連邦最高裁判事となったギンズバーグは、中絶制限の根底には性差別があり、それこそが問題の核心であると考えていた。子どもを持つことは、女性の人生を大きく左右する。望まない妊娠をし、意に反して子どもを持つことは女性の人生を大きく左右することになる。こうしたリスクは男性にはないものである。子どもを産むかどうかについては女性自身が決定権を持つべきであり、それが実現して初めてジェンダー平等への道が拓かれる。こうした考えからギンズバーグは、中絶の権利はプライバシー権ではなく、男女平等によって基礎づけられるべきだと考えていた。

声をあげるZ世代

・ギャラップ社の世論調査によると、18歳から29歳のアメリカ人の48%が「いかなる状況でも中絶は合法であるべきだ」と回答し、「中絶は違法であるべきだ」と回答した11%を完全に凌駕している。

社会運動では勝っても、権力闘争では負けるリベラル?

・『ワシントンポスト紙の映画評論家アン・ホーナデイは断言した。「リベラルの勝利は空虚なものだった。共和党のやり方を「権力ゲーム」と批判することはたやすいし、人権や望ましい価値の実現に向けて、市民ひとりひとりが当事者意識を持ち、さまざまな社会運動に従事することはとても重要だ。しかし、この「権力ゲーム」に勝たないことには取り戻されない権利があることも現実だ。共和党は、社会においては保守的な価値観がだんだんと守勢に立たされている現実を踏まえ、早くからその主戦場を、最高裁や州議会の多数派を占めることに見定めてきた。そのことが、長年定着してきたロー判決が最高裁で覆され、その判決を受けてすぐに、共和党が州議会の多数派を占める州で中絶制限が進んできたことの背景にある。

最高裁の多数派を奪還するには数十年単位の戦略が必要だ。アメリカのリベラルは今、厳しい現実に直面している。

権利を守る世代

・Z世代はアメリカ民主主義の未来への危惧も大きい。アメリカが健全な民主主義国家であると信じる人はわずか4%で、29%が自分の投票権が何らかの形で損なわれていると危惧している。若年層の政治意識を調査するCIRCLEの出口調査によれば、この世代は中間選挙(2022年)の主要な争点であった中絶、犯罪、インフレ、移民、銃規制の5つのうち、もっとも重要な争点として44%が中絶を選び、トップとなった。インフレを選んだのは21%だった。中絶問題がインフレを上回ったのはZ世代だけである。

感想

アメリカは経済、軍事両面で世界一の大国です。世界の大国といえば他に中国、ロシアがあり社会主義国家と言われていた両国は、今は権威主義国家と呼ばれています。権威主義国家とは政治的な権力が一部の指導者に集中すると定義されているので、中国は習近平、ロシアはプーチン、この二人に権力が集中しているのは間違いなく、権威主義国家であることは明らかです。一方、民主主義国家であるはずのアメリカ合衆国ですが、18歳~29歳のZ世代はアメリカ民主主義の未来への懸念が強く、アメリカが健全な民主主義国家であると信じる人はわずか4%という調査もあるようです。

共和党右派はプーチンと思想的な共鳴があるとされています。また、前トランプ政権において最高裁判事はリベラル派3名に対して保守派6名と、保守派の影響が出やすい最高裁になっています。さらにトランプの「司法の保守化」は民主主義にとって危機的状況といえます。特に新たな構想である「スケジュールF」(政治任用者を現在の10倍以上、最大5万人程度まで増加させる)が実行に移されると、憲法よりもトランプ氏に忠実でありたいと思う任用者達による、トランプのための政治にならないか非常に心配です。このように考えると、共和党が展開している「権力ゲーム」のゴールは、アメリカを権威主義国家に変容させることで、それを成しえた共和党が未来永劫政権を握ろうとしているのではないかと思われます。

本書の中で一番印象に残ったのはハリスの「誤った二者択一」という考えです。また、右派、左派と両極がクローズアップされるアメリカでは中道を貫いて選挙に勝つのは非常に難しいと言われています。しかしながら、権威主義を否定し分断を是正しようとすれば、中道という立場に立ってこの「誤った二者択一」の問題に取り組むことが、本来求められている姿ではないか思います。

注)政治任用者とは:日本で言えば各省の大臣、副大臣、政務官、局長、審議官などの幹部、これにさらに日本の官僚組織には存在しない「特別補佐官」や「上級補佐官」などが加わる。

補足:“トランプ氏の「スケジュールF」はアメリカ政府をどう変え得るのか?

最後に、本書を手にした当初の疑問(「カマラ・ハリスは何故人気がないのか」)ですが、1つにはトランプ共和党政権からバイデン民主党政権にかわり、大きな期待をもったZ世代、マイノリティ、女性、移民・難民などからの大きな期待に応えられなかったことがあると思います。そして、もう一つはバイデン政権の副大統領という立場を優先した発言・行動が求められたということではないかと思います。検事→司法長官→上院議員→副大統領という経歴の変遷において、自らの考えを貫くものと柔軟な対応が求められるものに対して、いかに向き合い対応するかという課題は極めて難しいものではなかったかと思います。

追記)2024年11月6日米国大統領選挙結果

画像出展:「Google

本日、注目の大統領選挙が行われました。大接戦の予想は外れ、トランプ元大統領の完勝となりました。

司法の保守化」、「スケジュールF」は進んでいくのか?それでも法治国家、民主主義は守られるのか?それともトランプ大統領による権威主義が始まってしまうのか?

経済分析では、社会保障の破綻を早め、失業率を高め、インフレを加速させ、GDPを低下させ、連邦債務を大幅に増加させるとの懸念が出ています。その答えは2028年になります。

インタビューに応じた中年女性が『米国を本当に愛しているのはトランプだ!』という言葉が印象的でした。

追記)2024年11月15日:“スケジュールFの懸念

画像出展:「AI(Perplexity)が作成」

トランプ大統領の人事をみて、あらためて“スケジュールF”の不安が大きくなりました。

表はAIの回答ですが、このような懸念が現実にならないことを、こころから願います。

分断するアメリカとZ世代1

組織において“分断”はマイナスです。社内で専務派と常務派に分かれたり、チーム内で監督派とコーチ派に分かれたりすれば、総力は削られ組織の目標に赤信号が灯ります。特別な事情がない限り「百害あって一利なし」それが組織における“分断”だと思います。

一方、今のアメリカに起きている分断は何なのか。それは「多様性」と「権利」のせめぎ合い、そして背景にあるのが「生活」であり、その直接的な大きな要因の一つは「移民問題」ではないかと思います。

世界が注目するアメリカの大統領選挙は2024年11月5日です。バイデン大統領とトランプ元大統領の討論会は、およそ4カ月半前の6月27日に行われました。バイデン氏は年齢の衰えを隠せず、リーダーとしての資質に疑問を呈する場となりました。

一方、7月13日ペンシルベニア州のバトラー市で行われた共和党の集会で、トランプ氏は命を狙った銃弾で耳を負傷するという、あってはならない事件が起きてしまいました。この事件後、共和党内の一体感は高まり、世論は一気にトランプ氏の勝利を織り込むようになってきました。

バイデン大統領に代わる新しい候補者擁立の動きが活発化する中、7月21日、バイデン大統領は選挙戦からの離脱を表明し、後任を現副大統領のカマラ・ハリス氏に委ねるという発表がありました。もし、ハリス氏が大統領に選ばれると米国初の女性大統領ということになります。

今回の『Z世代のアメリカ』という本は、「カマラ・ハリスは何故人気がないのか」とタイプして見つけたものです。

著者:三牧聖子

発行:2023年7月

出版:NHK出版

NHK出版デジタルマガジンというサイトに、『アメリカ「例外主義」の変化―トランプ大統領が国際秩序にもたらしたものとは』という記事がありました。

なお、この記事は三牧先生の『Z世代のアメリカ』からの抜粋とのことです。

はじめに

第一章 例外主義の終わり―「弱いアメリカ」を直視するZ世代

●戦争はもうこりごり

●ドナルド・トランプ―「例外主義」を放棄した大統領?

●「逆・例外国家」?―バーニー・サンダースの問い

●未完のサンダース革命

●バイデンに受け継がれた「アメリカ第一」

●アフガニスタンからの撤退

●「アメリカにウクライナ支援をする義務はない」

●例外主義の放棄は平和につながるのか

●「盟主」不在の国際秩序とどう向き合うか

●ポスト例外主義世代

第二章 広がる反リベラリズム―プーチンと接近する右派たち

●リベラリズムへの敵意が広がるアメリカ

●内向きになる保守

●「文化闘志」ロン・デサンティスの台頭

●アメリカ右派とプーチンの思想的共鳴

●「キャンセルカルチャー」批判を繰り返すプーチン

●「キャンセル」を超えて

第三章 米中対立はどう乗り越えられるか―Z世代の現実主義

●分断される世界―民主主義サミットが示した問題

●アメリカはもはや民主主義のお手本ではない?

●選挙がむしろ民主主義を動揺させる?

●「能力」が正当化してきた経済格差

●対中感情の歴史的悪化

●Z世代のTikTokブームは「地政学的リスク」か?

●国家安全保障は大事だが、すべてではない

●未来の協調に希望をつなぐ

第四章 終わらない「テロとの戦い」―Z世代にとっての9・11

●「テロとの戦い」への懐疑

●9・11を記憶する

●誰が忘れられてきたのか

●たった1人の反対

●命の値段

●「女性を解放するため」の戦争?

●中村哲医師がみた9・11

●アメリカ=女性の解放者言説の欺瞞

●Z世代フェミニストの問い

第五章 人道の普遍化を求めて―アメリカのダブル・スタンダードを批判するZ世代

●不可視された「テロとの戦い」

●「ドローン大統領」オバマ

●永久戦争?

●忘れられるアフガニスタン

●経済制裁が加速させる人道危機

●アメリカのダブル・スタンダードを批判する若者たち

●人道に潜むレイシズム

●日本、そして私たちにできること

第六章 ジェンダー平等への長い道のり―Z世代のフェミニズム

●カマラ・ハリスの不人気

●多様性を象徴する存在

●黒人コミュニティからの不信感

●寛容であることの困難

●「壁」問題―「トランプ化」する民主党?

●「アイデンティティ政治」の失敗事例?

●中道であることの難しさ

●#Me too運動へのダブル・スタンダード?

●ハリスを超えて―フェミニズムの未来

第七章 揺らぐ中絶の権利―Z世代の人権闘争

●「母親や祖母より権利を持たない世代」

●ロー判決破棄の背景―司法の保守化

●リベラルが中絶に反対した時代

●ギンズバーグ判事が見いだしていたロー判決の弱さ

●母性を否定しない「新しいフェミニズム」?

●プロ・ライフとプロ・チョイスの二分法を問い直す

●1人の女性の中にあるプロ・ライフとプロ・チョイス

●声をあげるZ世代

●社会運動では勝っても、権力闘争では負けるリベラル?

●アメリカは今、人権の旗手といえるのか

●権利を守る世代

●Z世代へ未来をつなぐ

おわりに

第一章 例外主義の終わり―「弱いアメリカ」を直視するZ世代

戦争はもうこりごり

・2000年代のアメリカは、対外的にはアフガニスタン・イラン戦争後の膠着、肥大化する戦争関連費用に苦しみ、対内的には2008年のリーマン・ショック後の長い不況に見舞われ、貧困の格差も極限まで広がった。

・Z世代が知っている戦争はアメリカから仕掛け、圧倒的な力の差によるものだったが、ロシアとウクライナの戦争は全く異なる。他国から侵略を受けた国に対し、アメリカは何をすべきか、何ができるのかという新しい問いを突き付けられている。

・アメリカが反戦の立場をとって、ウクライナへの武器支援をやめれば平和は訪れるのか。ウクライナの領土や主権が大幅に損なわれたうえで、停戦は実現されるかもしれない。しかし、それは本当に平和と呼べるのか。他方、際限ない武器支援のよって望ましい平和は訪れるのか。ロシアのような軍事大国を屈服させることは可能なのか。Z世代は今、こうした厳しい問いと現実に直面している。

ドナルド・トランプ―「例外主義」を放棄した大統領?

・2001年の9・11同時多発テロから始まった「テロとの戦い」は過去20年間でアメリカが軍事作戦を展開してきた国は80カ国に及び、その費用は計8兆ドル(約1200兆円)にのぼる。命を落とした米兵の人数は7000人を超え、敵対する兵士や民間人を含めた全世界の死者の総計は90万人前後に及ぶ。

・2017年、第45代アメリカ大統領に就任したトランプは、「世界に搾取され、弱くなったアメリカ」というネガティブな自国像であった。そこには盟主意識も世界の警察という意識も全くない。

・トランプにとって、自国の産業や自国の軍隊を犠牲にするような世界との関与を改め、国益を追求する「アメリカ第一主義」を宣言した。“Make America Great Again”である。

・トランプが放棄した「例外主義」とは、「アメリカは物質的・道義的に比類なき存在で、世界の安全や世界の人々の福利に対して特別な使命を負う」という考えである。トランプが目指すのは「普通の国」ということである。しかしながら、これはアメリカの「例外主義」的な意識に支えられてきた国際秩序が重大な転換点にあることを意味している。

アメリカ例外主義(Wikiより):アメリカ合衆国がその国是、歴史的進化あるいは特色ある政治制度と宗教制度の故に、他の先進国とは質的に異なっているという信条として歴史の中で使われてきた概念である。

「逆・例外国家」?―バーニー・サンダースの問い

・アメリカは新型コロナのパンデミックで、社会保障制度の脆弱性が露呈した。

社会主義の否定の裏には豊かさや自由への誇りがあった。しかし、貧富の差が拡大を続ける中で、状況は大きく変わり今日では多くのアメリカ国民が現状に疑問と不満を募らせている。

2019年5月のギャラップ社の調査では、43%の回答者が社会主義を「よいもの」だと回答している。これは1942年の25%からの劇的な上昇である。

・新自由主義グローバリズムと格差の拡大が現実的になりつつあるなかで、アメリカ国民はなぜ先進国でありながら、ここまで社会保障制度が未整備なのかと不満を募らせている。

サンダースが模範とみなすのは、デンマークなどの北欧諸国である。デンマークでは一握りの人々が莫大な富を保有することを可能にする制度を推進する代わりに、子どもや高齢者、障害者を含むあらゆる人が安心して生きられる最低限度の生活水準を保障する制度を作った。

・アメリカ的な「自由」は唯一のものではなく、もしかしたら最善のものでもないかもしれないという主張は、アメリカの「例外主義」を根本から問い直すものであった。

・アメリカの科学技術や文化・芸術に関しては、90%近くが「誇りに思える」と回答しているが、社会保障制度や政治システムに関しては、「誇りに思えない」が60%超えている。

・サンダースの問題定義に最も賛同している世代は若者である。Z世代は物心がついてからずっと、お金がものを言う政治を見せつけられ、政治に希望を見いだすことはできなかった。

未完のサンダース革命

・サンダースは、2016年はクリントンに、2020年はバイデンに敗北した。敗因はクリントン、バイデンといった中道の重鎮たちは面白みがないが選挙に勝てる可能性が高いと思われている。

・サンダースは「急進左派」と言われているが、その政策はヨーロッパの中道左派の主張に近いものである。

バイデンに受け継がれた「アメリカ第一」

・バイデン政権は大統領就任直後から、トランプ政権下で進められた排他主義的・単独行動主義的な政策を巻き戻し、世界に開かれ、他国と協調するアメリカを再び打ち出すものだった。しかしながら、アメリカが取り組むべき喫緊の課題は国内に山積しており、大々的な対外関与の余裕はないというのが実状である。

アフガニスタンからの撤退

・『2021年4月14日、バイデンは20年にわたる「テロとの戦い」において、一つの画期となる決断を表明した。この日バイデンは、2001年10月、ジョージ・W・ブッシュ大統領がアフガニスタンへの空爆開始を宣言したホワイトハウスの「条約調印の間」で演説を行い、「アメリカ史上最長の戦争を終えるときだ」と宣言。アメリカ同時テロから20年迎える9月11日までにアフガニスタンの駐留米軍を完全撤退させると表明した。

アフガニスタンの安定化の見通しがつかないままの完全撤退については共和党のみならず、政権内からも反対の声があがっていた。中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は14日の上院公聴会で、米軍が撤退すれば、同地域の軍事力低下につながるとあらためて懸念を表明した。完全撤退は、こうした懸念の声をバイデンが押し切る形で決定された。

その後、撤退期限は8月末に早められ、撤退を完了させたバイデンは、アメリカの目的はアメリカ本土に対するテロ攻撃の再発を防止することにあったとし、その目的は実現されたと主張して、次のように宣言した。「アメリカが他国を作り変えるために大規模な軍事作戦を展開する時代を終わらせることだ」。もっともこれはオブラートに包まれた表現で、より率直にバイデンの心境を表現していたのは、首都カブールがタリバンの手に落ちた翌日の8月16日、それでも米軍の撤退を進める決意を国民に示した演説の中の次の中の言葉だろう。それはトランプと見間違えるような、赤裸々な「アメリカ第一」宣言だった。

[アフガニスタン軍が戦わないのに、アメリカ人の娘や息子をあと何世代、アフガニスタンの内戦に送り込めばいいのだろうか。アメリカ人の命をあと何人分、アーリントン国立墓地に延々と並ぶ墓石に変えたらいいのか? その価値があるのだろうかと。(中略)私の答えははっきりしている。私は、過去に起こした過ちを繰り返したくない。アメリカの国益にならない紛争にいつまでも留まり戦うこと、外国での内戦を激化させること、米軍を延々と派遣して国を作り変えようとすること。このような過ちを繰り返してはならないのだ。]

“Remarks by President Biden on Afghanistan ,”White House, August16,2021.

このバイデンの時代認識は、国民にも広く共有されていた。確かに米兵を含む人命の犠牲も出しながらのアフガニスタンからの撤退は、多くの国民の批判に晒されたが、国民の批判は、撤退時期や撤退方法に集中し、撤退というバイデンの判断自体は過半数に支持された。

アフガニスタンからの米軍撤退に関する世論の背景には、より大きな世論の潮流がある。昨今のアメリカでは、アメリカはこれまで過剰に世界に介入し、自国を疲弊させてきたという批判的な意識が高まり、アメリカの国際的な役割をより穏当なレベルに引き下げるべきだという考えが党派を超えたコンセンサスとなっている。各種の世論調査でも、「アメリカは世界の警察をやめるべき」「他国のことより国内問題、特に雇用の問題に取り組むべき」「同盟国に安全保障のコストをもっと負担させるべき」といった見解は、党派を超えて広く支持されてきた。

ポスト例外主義世代

・「テロとの戦い」による国家的消耗、コロナ禍の甚大な被害の経験から、若い世代ほど対外介入に否定的な意見を持っている。

・2020年6月にギャラップ社が行った調査で、世代別で最も低い値だったのは18歳から29歳までの世代で、アメリカ人であることを「非常に誇りに思う」と回答したのは20%だった。彼らの多くはリベラルな価値観の促進に未来への希望を見いだし、銃規制や気候変動対策を支持し、よき未来に向けて社会運動にも積極的に関与する。行き過ぎた資本主義と経済格差に不満を募らせ、より社会主義的な政策を支持する世代でもある。対外的にはグローバル化する世界におけるアメリカ一国の力の限界への冷静な認識から、アメリカは多少の妥協を伴ったとしても、共通の目的のために他国と協調しなければならないと考え、多国間協調を志向する。

・ロシアのウクライナ侵攻は、国際協調主義の限界を突きつけている。中国やグローバル・サウスとの間の不一致は続いているが対話を閉ざすことはしていない。アメリカ一国の力の限界を自覚している。

・『アメリカの圧倒的な力の優位が失われ、ロシアのように明らかな現状変更を試みる国も現れる中で、いかに平和を回復し、持続させていくのか。国際協調主義をDNAとして組み込んだアメリカのZ世代が、この難問にどう立ち向かっていくのか。私たちも他人事ではなく、自分事としてみていくべきだろう。』

第二章 広がる反リベラリズム―プーチンと接近する右派たち

リベラリズムへの敵意が広がるアメリカ

・プーチンの権威主義的な政治スタイルは、アメリカ右派の間に共感の輪を広げている。特にプーチンを「強い指導者」と称賛するトランプが大統領となって以降、共和党支持者の間にもプーチンへの好意的な意見が目立って増えてきた。

2017年には、共和党支持者の49%がロシアを同盟国あるいは友好国とみなし、32%がプーチンに好意的な意見を持っていた。

“Republicans Are Warning Up to Russia, Polls Show.” Morning Consult, May24, 2017.

・2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件が示したように、選挙制度への不信、政治的な目的のための暴力を容認する世論の傾向も顕著になってきている。

・ハーバード大学やシドニー大学が共同で行ってきた「選挙の公正さプロジェクト」の調査によると、アメリカの選挙の公正さは西洋の民主主義国家の中では最低レベルである。

Electoral Integrity Project Report, 2020.

・『昨今は、共和党が上下院の多数を占める州を中心に、「不正投票の防止」という一見もっともな名目で、低所得者やマイノリティの投票を実質的に阻む法律が多数成立している。有権者ID法などで投票時における身元確認が厳格化されたことにより、運転免許証を持たない人や、定まった住居を持たない人の投票が困難にされてきた。』

Brennan Center for Justice, State Voting Laws.

・『アメリカの共和党は過去20年間で非自由主義的な性質を顕著に示すようになっており、ヨーロッパの中道右派政党よりも、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン政権やハンガリーのオルバーン・ヴィクトル政権のような権威主義国家の与党に近いことが明らかになっている。特にトランプ政権下でその傾向は加速した。』

アメリカ右派とプーチンの思想的共鳴

共和党右派とプーチンとの間には反リベラリズムという共通の価値観がある。

・欧米諸国の右派が抱くリベラルな価値や政策への不満に巧妙に働きかけ、社会の分断を狙うプーチンの思惑通り、民主党政権のもとでジェンダーの多様性が進み、また移民や難民に寛容すぎるという不満を募らせているアメリカ右派たちはプーチンに対し、共感や親愛の情を抱いてきた。

柳谷秘法

柳谷素霊先生は鍼灸の発展にご尽力された唯一無二の先駆者です。過去に柳谷先生に関する2つのブログ、「脈診と臨床」と「五十からの青春」をアップしていました。

その柳谷先生の著書の中に『柳谷秘法一本鍼伝書』という本があります。そして、この本をベースに独自の「天・地・人治療」という考えに照らし合わせて書かれた教本が、木戸正雄先生の『素霊の一本鍼』です。

その木戸先生は本書の“はじめに”の中で、以下のようなお話しをされています。

『私は長年、鍼灸臨床に携わる中で、「黄帝内経」(「素問」・「霊枢」)の治療体系が三陰三陽の臓腑経絡学説を根拠とする「経絡系統」と三才思想から成る「天・地・人」という二つの大きな柱により構成されているという考えに至り、身体を立てに貫く「経絡系統」を対象とするものを「変動経絡治療システム(VANFIT)」、輪切りで捉えるものを「天・地・人治療」と名づけ、それぞれに治療法を構築し、提唱しています。

このたび、柳谷素霊先生の「柳谷秘法一本鍼伝書」について、現在の臨床に活用できるように私なりの解説をさせていただく機会を得ました。

「柳谷秘法一本鍼伝書」に記載されている刺鍼部位は、「天・地・人治療」の一つである「天・地・人―気街治療」で使用する経穴と共通する部分が多いことから、著者である柳谷素霊先生には注目していました。

柳谷先生が「経絡治療」誕生に大きな影響を与えたことはよく知られています。「誰にもわかる経絡治療講話」(本間祥白、医道の日本社、1949年刊)は、「経絡治療」における最初の成書として有名ですが、「内容は、恩師柳谷素霊先生達(井上恵理先生、岡部素道先生、竹山晋一郎先生など)のご指導によるものを伝えたに過ぎない」と著者の本間祥白先生自身が序文を書いています。』

『私が経絡治療を学び始めた頃は、岡部素道先生が経絡治療学会の会長でした。私が指導を受けた岡部素道先生をはじめ、岡田明祐先生、馬場白光先生など、当時、名人とうたわれていた経絡治療学会の先生方から、柳谷先生の名前や治療についてのエピソードなどを聞く機会が多々ありました。誰もが、柳谷先生を教育者としても、臨床家としても非常に高く評価し、畏怖の念すらもっていることが伝わってきましたが、残念なことに柳谷先生は、すでに亡くなっており、私は直接の指導を受けることはできませんでした。』

木戸先生の「天・地・人治療」は次のようなものです。

●人体を三分割してとらえた治療方法で、「天・地・人」の三分割を全身のいたるところに当てはめたり、細分化したりすることができます。そして、その各々の境界部はすべて「節」であると考え、この「節」に対して行う治療を「天・地・人治療」といいます。

画像出展:「素霊の一本鍼」

著者:木戸正雄

初版発行:2009年4月

出版:ヒューマンワールド

画像出展:「素霊の一本鍼」

こちらの表は『柳谷秘法一本鍼伝書』に書かれている20の処方です。

ブログで取り上げたのはごく一部で、耳に関する経穴然谷太渓)、柳谷風池柳谷便通点華佗夾脊穴についてです。

1.耳の疾患と腎経の経穴

※私自身が気になっている疾患は耳鳴りですが、原因は加齢と思われ、耳鳴りキャリアは約10年です。以前「耳鳴り」というブログをアップしているのですが、加齢による耳鳴りの治療は難しいことを理解しています。時々、思いついたように耳周辺の経穴に刺鍼してみるのですが効いている感じはありません。このことが、耳の周辺ではなく、腎経の経穴に興味をもった理由です。

耳鳴の鍼(柳谷秘法一本鍼伝書より)

・『下肢痛の刺鍼と同様に、患者を側臥位にして、下顎角の後の少し上から、刺入する方法ですが、鍼の向きはやや上向きにします。(寸3‐2番の銀鍼か寸3-1番のステンレス鍼)』 

画像出展:「素霊の一本鍼」

 

画像出展:「臨床経穴図」

耳鳴の一本鍼の経穴は頬車穴です。この図(左下部)を見ると刺鍼点は下耳底点と顎角点の中点であることが分かります。

さらに、次項の「耳中疼痛の鍼」と組み合わせることもあります。

 

 

耳鳴りの治療について(木戸先生の見解)

・『耳鳴りの場合、発症してから2~3ヵ月のものは治療効果が顕著ですが、患者によっては何年もたってから来院してきます。長年来の慢性の耳鳴りはなかなか頑固です。このような耳鳴りには経絡の調整に加えて、耳を取り巻くように耳の周囲にあるツボ(耳門穴、聴宮穴、聴会穴、和髎穴、角孫穴、顱息穴、瘈脈穴、天牖穴、翳風穴)に切皮置鍼しておき、その間にこの一本鍼を行ってます。

画像出展:「素霊の一本鍼」

 

こちらの画像は、あしざわ治療院さまの“耳から自律神経、腰痛まで良くなるのは?”から拝借しました。

 

さらに、「耳中疼痛の鍼」と組み合わせることもあります。

画像出展:「素霊の一本鍼」

※「耳中疼痛の鍼」:完骨穴から耳孔に向けて、乳様突起の下をくぐらせるように刺入する方法です。

 

耳鳴りの場合、鍼治療による直後効果があるものと、ないものがありますが、まったくないものでも、このように全身状態を整える治療を継続することで、いつの間には耳鳴りが消失・軽減していることがあります。

老人性耳鳴りの場合は、はじめ蝉の鳴き声のようなジージーという音から始まり、そのうちに、キーンというような金属音に変わっていく経過をとることが多いようです。ジージーという音のうちに治療を始めるといいのですが、金属音になってしまってからではなかなか治りにくくなります。

また、耳痛や難聴を伴うとき、場合によっては、耳鼻科の治療と併用すべきです。特に突然耳の聞こえが悪くなり、耳鳴りが起こった場合には、突発性難聴の可能性がありますので、至急の耳鼻科処置が必要です。次第に耳鳴りが大きくなっていくものも、要注意です。』

●東洋医学では五行という考え方があり、五臓の一つである“”と関係の深い「腑」として“膀胱”、体の部位に関係しているのが“骨髄”(髄は現代の脳とされています)、腎が弱った時に影響するのが“”、そして病気が現れやすいのが“”とされています。今回、五行の“腎”に注目したのは、この東洋医学の考え方に沿ったものになります。 

注)以下は私が専門学校時代に作った表ですが、黒い部分と関係の深いもので、黄色で囲ったものが人体に関係するものです。””の下、上から“膀胱”、“”、“骨髄”、少し下にいって“”があります。

●経絡の代表的なものに十二経脈があり、その中に“足の少陰腎経”があります。その経脈にある経穴は以下の通りです。 

こちらの画像は、“BLOG 今日から始める自分ケアの習慣化。心と体を癒す自分時間”さまから拝借しました。

 

・湧泉-然谷-太渓-大鐘-水泉-.照海-復溜-交信-築賓-陰谷-横骨-大赫-気穴-四満-中注-肓兪-商曲-石関-陰都-.腹通谷-幽門-歩廊-神封-霊墟-神蔵-彧中-兪府。この27経穴の中で注目したのは、“然谷穴”と“太渓穴”です。

画像出展:「臨床経穴図」

太渓は少し前まで太谿と表記されていました。

※澤田流太渓は“照海”に相当するとのことです。

 

 

 

(1)然谷穴

・然谷は腎経の榮火穴であり、臓腑の熱を取り除く効果があるとされています。

・柳谷先生の「柳谷秘法一本鍼伝書」には、然谷穴を併用することでさらに効果を上げることができるとされています。

・木戸先生にとって然谷穴は、思い出深い経穴であるとのことです。

-『実は、然谷穴は私にとって特に思い出深い経穴なのです。20年近く前の話しで、まだ「天・地・人治療」を行う前のことですが、私の娘は幼いころ、アトピー性皮膚炎の体質で、よく滲出性中耳炎や急性中耳炎を患いました。しかし、耳鼻科で処方された薬が合わなかったのかなかなかよくならず、鼓膜切開を繰り返していました。

ある時、私は、眠っている娘の足を内側から眺めていて、足の形が耳に似ていることに興味を持ちました。くわしく観察しているうちに、土踏まず全体がほんのみ赤みを帯びているにもかかわらず、然谷穴の辺りだけが艶がなく、くすんでことに気付きました。

そこで、娘の然谷穴に金の鍉鍼でしばらくの間、圧迫をしてから、半米粒大の灸を1壮行ってみました。それ以来、耳の痛みがピタリと止まり、快方に向かっていったのです。

驚ろいた私は、然谷穴と耳の疾患との関係についてそれまでの文献を検索してみました。そして、「医道の日本」誌に、然谷穴への施灸による急性中耳炎への効果についての報告を発見したときは、思わず喝采を送りたくなりました。残念ながら、当時は、柳谷の本書に補助穴としてあることは見落としていたわけですが、しかし、これも何かの縁なのでしょう。「急性中耳炎の一つ灸」という表題のその報告は、柳谷の高弟の一人、井上恵理のものだったのです。』

-『このように、急性中耳炎などの耳の痛みに、同じ然谷穴を使うにしても、井上は灸で対応し、柳谷は鍼による治療法で対応しています。当然、刺鍼でも施灸でも効果がありますが、鍼灸を併用することで一層、治療効果が高くなります。

娘の急性中耳炎の治療体験をきっかけに、私は、足に顔面、あるいは耳を投影した小宇宙を想定して然谷穴を耳の愁訴に使うようになりました。こうした臨床の積み重ねから、後の「天・地・人治療」としてのシステムができていったのですが、そのきっかけの一つともなるものでした。

多くの場合、然谷穴は深くに圧痛がありますので、指先をくぼみに入れてよく揉んでから、刺入するようにします。寸6-1番ステンレス鍼を然谷穴からやや上後方に向けて刺入していくと、スルスルと鍼が入っていきます。50mmぐらいの深さまで引きこんでいくことも稀ではありません。患者に不快な痛みを感じさせないように行うことが効果を上げる秘訣です20分程度の置鍼の後、鍼痕に米粒大3~7壮の施灸をしておきます。』

(2)太渓穴

・太渓は腎経の兪土穴であり、かつ原穴です。気血の流れを高める効果があるとされています。 

画像出展:「一元流鍼灸術

『原穴について考えを進めていくことは、三焦の問題と腎間の動気の問題に対する理解を通じて、全身を一元の気として観る柱となります。これについてまとめているものが《難経鉄鑑》六十六難の図です。この図は、かの沢田健先生が尊崇されていたものです。

一言で言えば、六臓六腑の生命力の流れである経脉の中の、一点である原穴に、それぞれの経脉の生命力が集約されて現われるということです。』 

伴先生は本も出版されていました。

また、伴先生のサイト(一元流鍼灸術)は大変充実しています。

 

原穴について何が書かれているのか興味を持ち、この本を衝動買いしてしまいました。

私が学んだ“日本伝統医学研修センター”では、特に脈診を重視しているのですが、命の脆弱さを感じる脈や先天的な疾患、あるいは難病を抱えた患者さんに対して、生命力を補する「原穴治療」を選択することがあります。取穴は、肝経の太衝、脾経の太白、肺経の太淵、そして腎経の太渓です。この「原穴治療」の経穴である「原穴」について深く知りたいと思いました。

伴先生の「一元流鍼灸術の門」に書かれていたことは以下になります。

『三焦に関しては古来諸説あります。私は、沢田健先生が称揚した≪難経鉄鑑[江戸時代中期に書かれた難経の解説書]≫六六難の図をもって、気一元の身体を見通す観点としての三焦論としています。

すなわち三焦は原気の別使であるとします。原気とは、人間における生命そのもの、腎間の動気をもって看取することのできるものであり、これこそが十二経の根蒂です。この生命そのものが五臓六腑を通じて経穴としてその分配された生命力を表現している場所が、原穴です。この図には、原穴の原とは三焦の尊号であると記されています。

この全体を一気に見通す眼差しが、気一元の身体観の意味です。その会得方法について、「毎朝、この六六難の図に対面して沈思黙考し、原気の流行と栄衛の往来について省察して、身中の一太極を理解することができたならば、自然に万象の妙契を悟ることができるでしょう」と書かれています。』

本書の中で最も気になったのは脈診に関する記述です。それは次のようなものでした。

脉診をする場合、心構えがとても大切になります。これは、何を診ようかとするかということによって、感じ取ることのできる範囲が変化するためです。脉なんてわからないや、と思って診ていると、何も診ることはできませんし、診ることもいやになってやめてしまいます。硬さや軟らかさを診るのだと思って診ていると、硬さや軟らかさが良く感じられるようになります。太さと細さという別の側面を診ると思って診ていると、太さや細さが感じられるようになります。』

『それぞれのバランスが取れていて、個別の脉状として診えにくいとき、それを胃の気の通った良い脉状であると考えます。

また、最後になりましたがもっとも重要なことは、生命力を診ると心に定めて診ることです。これを胃の気を診ると私は呼んでいます。生命力を診るのだと心に定めて診るとき、脉の診え方が大きく変わるのは、まことに不思議なことです。

・“太渓への鍼が有効であった耳鳴の3症例”という論文(臨床報告)を見つけました。

資料はPDF7枚です。

緒言

『耳鳴は西洋医学的な治療ではうまくいけないことが多い。耳鼻科医の中には「耳鳴りは治らない」と説明して最初からあきらめ調子で治療している医師もいて、TRT(耳鳴り順応法)療法は一つの訓練法だが、耳鳴の音を気にしなくなるように治療するくらいしか手立てがない。われわれは過去に耳鳴に対し翳風への円皮鍼が有効であった症例報告を行った。斎藤ら[斎藤輝夫、稲葉博司、蔡暁明、他。耳鼻咽喉疾患と漢方(上)、漢方の臨床2010]耳鳴の腎陰虚型には足腎経の太渓穴がよく、一本鍼で耳鳴が止まる症例が多いと報告している。今回は太渓(KI3)への鍼が有効だった3症例を経験したので報告する。』

1)症例1:86歳男性

・耳鳴発症3日後、耳鳴日常生活支障度(THI)は100点。血管拡張剤、ビタミン剤、翳風への円皮鍼、TRT療法は無効であった。初診から7ヵ月目に両太渓に鍼治療を行い2ヵ月後にTHIは12点になった。

2)症例2:66歳女性

・1年前に両耳に耳鳴が出現した。THIは26点で、様々漢方薬、翳風への円皮鍼は無効であった。初診から1年後より両太渓に鍼治療を行い、3週間でTHIは4点になった。

3)症例3:73歳女性

・初診8日前より左耳鳴が出現した。THIは30点で、様々漢方薬、翳風への円皮鍼は無効であった。初診から3ヵ月目に両太渓に鍼治療を行い、5週間でTHIは10点、1年で8点になった。

注1)太渓穴へは10分間の置鍼後、円皮鍼を貼った(6日間)。

注2)3人に共通するのは腎虚である。腎虚では耳鳴の他、難聴、夜間頻尿、膝や腰の脱力など、体系としてはやせ型が多い。

注3)澤田流で有名な澤田健先生も耳鳴に対し、腎兪と太渓を取穴して有効であったという報告をされている。ただし、澤田流太渓は、一般の照海(KI6)の位置にある経穴である

画像出展:「太渓への鍼が有効であった耳鳴の3症例」