3章 コロナワクチン=「遺伝子ワクチン」の正体とは何なのか?
●セントラルドグマとmRNA
・コロナウィルスはRNAウィルスである。自身のRNAを複製するためにDNAは必要なく、RNAからRNAを作る。これは分子生物学の基本概念であるセントラルドグマ(遺伝情報は、「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達されるというルール)の例外である。
・コロナワクチンのMIT総説論文
-2021年5月発表。査読済論文
-「病気よりも悪い?COVID-19に対するmRNAワクチンがもたらしうる予期せぬ結果を検証する」
-「RNAの選択と修飾における留意点」
※Worse Than the Disease? Reviewing Some Possible Unintended Consequences of the mRNA Vaccines Against COVID-19, Stephanie Seneff, Greg Nigh, International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Research 2021,
・mRNAは生体内ですぐに分解されるため不安定である。
・免疫は外部から侵入した感染体を識別して攻撃するため、RNAを体内に導入しようとしてもすぐに分解される。
・RNAワクチンの登場は、RNAの不安定さを技術的に克服したために可能になった。その技術とはRNAワクチンを脂質ナノ粒子で保護することである。しかしながら、どの位の期間生体内で残るのかは分かっていない。
●mRNAと遺伝暗号(コドン)
・RNAワクチンはmRNAと類似した構造を持つが、RNA分解耐性を上げ、タンパク翻訳効率を上げているため通常のmRNAよりもはるかに大量のスパイクタンパクを生産する。
●なぜワクチンに使われる遺伝子の毒性をなくさなかったのか?
・コロナウィルス、コロナワクチンに共通する毒性はスパイクタンパクによるものだが、その毒性にはいくつか要因がある。主なものはACE2に結合することによって、血管内皮細胞を含むACE2発現細胞を障害することである。他には、スパイクタンパクの棘、フリン切断部位、プリオン様モチーフなどがある。
・『なぜ世界中の健康な人間に打たせる為に作ったワクチンの毒性をなくす努力をしなかったのか。そのデザインは偶然なのか、失敗なのか、無知なのか、やはり疑問が残ります。』
4章 スパイクタンパクの危険性
●どうしてコロナワクチンで血栓が出来るのか
・コロナウィルスは神経症状(頭痛、吐き気、めまい)を起こすが、同様のことがコロナワクチンの副反応としても報告されている。ACE2は前頭葉皮質のさまざまな血管にも発現しており、スパイクタンパクが血液脳関門を超えられることを考えると、コロナワクチンの遺伝子から作られたスパイクタンパクが、脳内皮細胞に炎症を引き起こしている可能性がある。
・『整理すると、コロナウィルスは血栓を起こし、肺や心臓、脳にも障害を起こすにはウィルスは必要ではなくて、スパイクタンパク単独でも同様の障害を起こしてしまうということが分かってきました。ウィルスが犯人だと思っていたら、実はワクチンにも使われるスパイクタンパクが犯人だったということです。』
●スパイクタンパクの毒性―スパイクタンパクはACE2の抑制を介して血管内皮機能を損なう
・『Circulation Research』に掲載されていた論文
・「SARS-CoV-2 スパイクタンパクは、ACE2の抑制を介して内皮機能を損なう」
※SARS-CoV-2 Spike Protein Impairs Endothelial Function via Downregulation of ACE2, Lei et al, Circ Res. 2021,
●スパイクタンパクの全身の血管への毒性
・『コロナウィルスとコロナワクチンのスパイクタンパクは血管に対し同様の毒性を持ちますが、毒性の強さが同じとは限りません。量の問題です。コロナウィルスに感染した際、まずは最初に自然免疫系が対処します。そしてそこで対処しきれなかった場合、つまりコロナウィルスが免疫系に抵抗し増殖し始めた場合には、免疫系の精鋭部隊である獲得免疫が出動し始めます。コロナウィルスが体内で増殖する場合、体に備わっている免疫系が抵抗するため、ADEが起こったりしない限りは、感染してすぐに身体中に爆発的に増えるような事態は起きないのです。
それに対し、コロナワクチンは接種後に細胞内でスパイクタンパク生産を開始し、量はいきなり最大量に達します。そしてシュードウリジン修飾されたmRNAワクチンは分解されにくく、長い間スパイクタンパクを生産し続けます。そしてその場合のスパイクタンパクの生産量はワクチンの方がずっと多いことが想定されるのです。このことが血管への毒性の高さに関係しているのではないでしょうか。』
・ACE2受容体が精巣のライディッヒ細胞に高発現していることから、ワクチンによって内因性に生成されたスパイクタンパクは、男性の精巣にも悪影響を及ぼす可能性がある。
・複数の研究により、コロナウィルスのスパイクタンパクがACE2受容体を介して精巣の細胞にアクセスし、男性の生殖を阻害することが明らかになっている。
・『血管は全身を巡っており、生殖器官にも存在します。ACE2受容体が精巣にも高発現していることから、ワクチンによるスパイクタンパクは精巣にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、脂質ナノ粒子は卵巣にも分布することが報告されており、卵巣を障害するかもしれません。このようにスパイクタンパクが卵巣、精巣の血管を障害することで不妊に繋がる可能性も出てきます。』
●スパイクタンパクは血流を循環するか
・ワクチンの副反応である血栓症の原因を作っているのは血流中のスパイクタンパクの可能性が高いが、それぞれの形態の毒性の違いは不明である。また、個人差があるということは、スパイクタンパクが更に長期間にわたって血流を循環する可能性もあるということである。
●コロナワクチンと不妊
・コロナワクチンが妊娠に影響を与える可能性、リスク要因。
①筋肉に注入されたコロナワクチンの脂質ナノ粒子は接種部位に留まらず、全身を巡回し、特に卵巣に蓄積することが報告されている。スパイクタンパクが卵巣で発現すれば、ワクチンに選択されて作られた抗スパイクタンパクは卵巣を標的にして攻撃し始めると考えられる。
②コロナウィルスのスパイクタンパクは細胞表面のACE2を標的にして細胞に感染する。その後、ACE2の発現を低下させるが、これがミトコンドリアの機能不全に繋がり、細胞の損傷、組織の炎症に繋がるのではないかと考えられている。ウィルスがなくてもスパイクタンパク単独でも同様の障害を起こすことができる。
”コロナワクチンで血栓が出来る理由”(荒川先生のブログより)
ACE2を発現している細胞、組織はコロナウィルスのスパイクタンパクの標的になる。ACE2は広範囲な細胞で発現し、卵巣、精巣、子宮内膜、胎盤などの生殖器官でも発現している。つまり、スパイクタンパク自身が卵巣、精巣、子宮内膜、胎盤の炎症や損傷を起こす可能性がある。
③胎盤は細胞融合により形成される。細胞融合に必要なシンシチン(内在性レトロウィルスのenvという遺伝子で作られたタンパク質)スパイクタンパクと同じくフソゲン(fusogen:融合活性を持つ物質)で、スパイクタンパクと構造が類似している。可能性は大きくないが、スパイクタンパクに対する抗体がシンシチンを攻撃すれば、胎盤をきたしそれは流産につながる。
④ACE2は酵素でもあり、ACE2によって産生されるAng-(1-7)ペプチドが卵胞の発育、ステロイド産生、卵子の成熟、排卵などの卵巣の生理機能を調節することが知られている。
以上のことから、スパイクタンパクによるACE2の酵素活性阻害自体が不妊に繋がる可能性は否定できない。
・『コロナワクチンには複数の異なった機構で生殖系を阻害、または攻撃、損害する可能性があるわけです。むしろ効率的に不妊を起こしかねません。現在日本でも12歳以上へと接種年齢の引き下げが始まっていますが、将来妊娠出産を控えている世代にこういったリスクを負わせる必要性は私には感じられません。』
5章 コロナワクチンは免疫不全の原因となる
●ワクチンと抗体依存性感染増強(ADE)
・抗体はウィルスに利用される場合がある。抗体依存性感染増強(ADE)とは、ウィルス粒子と不適切な抗体とが結合することにより、炎症や免疫病変が促進される現象である。
・ADEには少なくとも2種類のメカニズムがある。一つは抗体を介してマクロファージに感染する機構。もう一つの機構は抗体と複合体を作ったウィルスが免疫系を刺激し、炎症を暴走させる仕組み(サイトカインストーム)である。いずれの場合も抗体の存在がウィルスの感染を誘導し、免疫系の症状を暴走させる。
・SARS(重症急性呼吸器症候群)の原因ウィルスもコロナウィルスで、正式名称はSARS-CoV-1である。新型コロナウィルスの正式名称はSARS-CoV-2。コロナウィルス自体はありふれたウィルスで風邪の10~15%の原因を占めている。
・『SARSの流行時にもコロナウィルスに対するワクチンを作ろうとする研究があったのですが、動物実験での結果は散々でした。このため、コロナウィルスワクチンを接種するのは危険ではないかと言われてきました。』
●なぜワクチン接種が自己免疫疾患に繋がり得るのか
・『COVID-19が陽性であっても、その多くは症状がない。無症状のPCR陽性例の数は研究によって大きく異なり、最低で1.6%、最高で56.5%となっている。COVID-19に感受性の低い人は、おそらく非常に強い自然免疫系を持っている。健康な粘膜バリアの好中球とマクロファージは、ウィルスを速やかに排除し、多くの場合、適応システムによる抗体の産生を必要としない。しかしこのワクチンは、自然の粘膜バリアを越えて注射することと、RNAを含むナノ粒子として人工的に構成することで、意図的に粘膜免疫システムを完全に回避している。カーセッティ(2020)の論文で述べられているように、自然免疫反応が強い人は、ほとんどの場合、無症状で感染するか、軽度のCOVID-19疾患を呈するだけである。しかし、そもそも必要のないワクチンに反応して抗体が過剰に産生された結果、前述のように慢性的な自己免疫疾患に陥る可能性がある。』
・『コロナウィルス感染とワクチン接種の双方とも自己免疫疾患の発症に繋がる可能性はありますが、どちらの方がリスクがより高いでしょうか。コロナウィルスに自然感染して無症状または軽症で治癒する場合、対処するのはまず第一に自然免疫です。自然免疫は抗体を用いる獲得免疫とは別系統です。そして獲得免疫は抗原と出会う場によっても対処法を変えます。呼吸器感染症の最前線に当たる獲得免疫は粘膜免疫です。粘膜免疫で主に誘導される抗体はIgAのクラスですが、これは粘膜免疫担当の抗体で、全身を循環するIgGクラスの抗体とは別のクラスです。こういった意味でも、無症状や軽症の場合の自然感染ではワクチン接種と比較すると自己免疫疾患に繋がることは限定的でしょう。
また、コロナウィルスに自然感染した場合には、ウィルスは免疫系の抵抗を受けながら増殖します。無症状のPCR陽性者や軽症者ではスパイクタンパクの曝露量は限られるので、大きく曝露されるのは重症者の場合と考えられます。それに対しコロナワクチンは接種後に細胞内でスパイクタンパク生産を開始しますので、量はいきなり最大量に達します。シュードウリジン修飾されたmRNAワクチンは分解されにくく、長い間スパイクタンパクを生産します。スパイクタンパクへの曝露量はワクチンの方がずっと多いでしょう。つまり、ワクチン接種者はもれなく大量のスパイクタンパクに曝露されます。一方、コロナ感染の場合大量のスパイクタンパクに曝露される確率は、コロナ感染確率×感染してから重症化する確率となり、ワクチン程ではないということです。』
●スパイクタンパクはDNA修復、V(D)J組換えを阻害する
・DNA修復機構が働かないと、変異は固定され癌の原因になる。また、DNA修復機構は免疫系の遺伝子組換えにも必須である。よってスパイクタンパクがDNA修復を阻害するならば、コロナワクチン接種が癌や免疫不全に繋がる懸念が出てくる。
●コロナワクチンと癌
・『コロナワクチンの副反応にリンパ節の腫脹が知られています。リンパ節は局所的な免疫応答の場です。抗体を産生するために一時的にリンパ節が腫れることはよくありますが、リンパ節の腫瘍が疑われる場合もあります。コロナワクチンの別の副反応として、ワクチン接種後の最初の数日間にリンパ球の減少が見られることがあり、免疫の低下に繋がります。この2つの副反応は一見反対に見えますが、個人差もあるでしょうし、タイミングの違いもあるでしょう。また、免疫不全になるにはリンパ球全体の細胞数の減少が必要でもなく、免疫を構成する特定の細胞種がワクチン接種を繰り返すことにより減少しているのかもしれません。
今回のケースではコロナワクチンが直接活性化する細胞に起源をもつ癌細胞がワクチン接種によって急激な増殖を開始したと考えられます。しかし、そうした特殊なケース以外にも、コロナワクチンには癌の進行をもたらす複数の作用機序があります。免疫低下は感染症を招きますし、癌の悪性化に繋がる可能性もあります。スパイクタンパクはBRCA1、53BPIなどの癌抑制遺伝子の働きを抑えることが報告されており、これらのタンパクの機能低下はDNA修復の機能不全に繋がり、癌細胞の発生や悪性化の両方に繋がります。
癌は増殖制御の仕組みを受けつけずに勝手に増殖を行うようになった細胞集団であり、いったん増殖した癌細胞は免疫系で対処することは難しいのです。すでに癌を患っている人はコロナワクチンによる癌の悪性化を警戒する必要があるでしょう。』
感想
友人から、「2度目、3度目の接種では40度近い発熱がありとても辛かったが、実際にコロナに感染したときは37度台だった」との話を聞きました。
これは何故だろう? ワクチンのおかげと言えるのだろうか? しかし、副反応が40度近いというのは明らかに異常なことではないか。と思っていました。
これは、荒川先生が指摘されている、感染では粘膜バリアともいえる自然免疫系が必死に戦うためウィルス側も思ったように動き回れない(曝露できない)のに比べ、ワクチン接種ではノーガードでスパイクタンパクを曝露するため、体への侵襲が大きくその結果、修復作業の第1段階でもある“炎症”が強く、広く出るのだろうと思いました。
やはり、コロナワクチン、未知のmRNAワクチンの隠された脅威が存在するのは間違いないと思います。
コロナ後遺症だけでなく、ワクチン後遺症というものが問題になっていることを耳にしました。調べてみると週刊新潮など多くの週刊誌などが報じていることも分かりました。
下記は天王寺こいでクリニック 小出誠司先生のブログですが、その数は想像以上でした。
一方、「抗原原罪」という耳慣れない言葉が気になり、検索したところ今回の荒川 央先生の『コロナワクチンが危険な理由 免疫学者の警告』という著書を見つけました。
荒川 央先生は分子生物学者であり、また免疫学者です。コロナワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)を利用した全く新しいメカニズムのワクチンであることが、不安の大きな要因の一つとなっていますので、荒川先生の見解は非常に重要ではないかと思い拝読させて頂きました。
なお、ブログは目次より前に、「あとがき」の冒頭と最後の部分をご紹介しています。これは、ここに荒川先生の思い―『自分の命を守りたい人、大切な誰かを守りたい人に、微力ながらも力を貸すことができないかと考えたためです』―が凝縮されていると感じたためです。
『私[荒川先生]がコロナワクチンに関するブログを立ち上げたのは2021年6月8日。目的は1つ。コロナワクチンの危険性を日本の方々に伝えるためです。内容は生命科学の視点から客観的な事実に焦点を絞るように努めました。
私が主に伝えたかったコロナワクチンの危険性の多くは遺伝子ワクチンの作用機序とスパイクタンパクの持つ毒性から予測されるものです。血栓による血管障害とそれに伴う複数の臓器の障害、自己免疫疾患、癌などです。ブログ内では紹介していますが、今回の書籍化にあたってページの都合で触れられなかったのがプリオンによる神経変性病、シェディング[伝搬]などです。心筋炎、脳梗塞、自己免疫疾患、癌、神経変性病などは加齢によってもリスクが高まる疾患です。こうした疾患がコロナワクチンの作用機序から予測され、実際に後遺症として報告されています。私はコロナワクチンによる隠れた副作用は文字通りの「老化」ではないかと思っています。老化によってより深刻な被害を受けるのは高齢者です。高齢者で老化が加速すればそれはすなわち死にも直結します。けれどもコロナワクチン接種後に高齢者が亡くなっても、因果関係は不明で老衰や寿命として処理される場合がほとんどです。例えば10代の人の内臓年齢が20代になり、30代の人の内臓年齢が40代になっても問題は直ちに目には見えず、若い方は多少老化が進行しても元々の若さや生命力のために自分でも気が付かない場合が多いでしょう。しかし、将来的にどれだけの健康被害を生み、健康寿命をどれほど縮めることになるのかは現時点では分かりません。』
『ブログの執筆は、私にとっては一人で静かに始めた戦争でした。記事を書き続けるうちにたくさんの人と繋がりが生まれ、皆それぞれの立場で戦っているのだと気付きました。コロナ騒動は情報戦でもあります。そして、これは不思議な戦争です。老若男女関係なく、気付いた人が立ち上がり、情報を共有し、手の届く範囲で他者を助けようとしています。日本でも、そして海外でもこの危機に気付いた人が大切な人達を守るために危機を伝えてきました。私のブログもその局地戦の記録でもあります。そのためにも書籍化にあたり日付を残すこととしました。どの時点でどれだけの危険性が判明し、警鐘されていたか、その時点でマスメディアや医療関係者、公的機関、政府の行動はどうだったか。コロナワクチン薬害に対する訴訟もこれから相次ぐと思いますので、そうした情報も後に大事な情報になってくるかと考えます。』
目次
はじめに―分子生物学者、免疫学者として、コロナワクチンについて考えること
本書の要点―コロナワクチンが危険な理由
1章 もう一度、ワクチンの「常識」について考えてみる
●コロナワクチン接種についてのいくつかの誤解
●嘘と統計:数学のトリック
●ワクチン有効率95%は本当か?
●コロナウィルスが存在している根拠を政府や研究機関はもっていない―ウィルスの単離からこの問題を考える
2章 もう一度、感染症対策について考えてみる
●「パンデミック」の謎
●PCR検査について
●無症状のPCR陽性者からの感染は0だった
●コロナウィルスは昔から居た
●スペイン風邪とファウチ博士の論文
3章 コロナワクチン=「遺伝子ワクチン」の正体とは何なのか?
●コロナワクチンはコロナウィルスよりも悪い?
●前例のないワクチン
●遺伝子ワクチンというもの
●遺伝子ワクチンによる自己免疫「抗体依存性自己攻撃」
●セントラルドグマとmRNA
●mRNAと遺伝暗号(コドン)
●mRNAワクチンはすぐに分解されるのか?
●なぜワクチンに使われる遺伝子の毒性をなくさなかったのか?
●ブレーキのないRNAワクチン
4章 スパイクタンパクの危険性
●どうしてコロナワクチンで血栓が出来るのか
●スパイクタンパクの毒性―スパイクタンパクはACE2の抑制を介して血管内皮機能を損なう
●スパイクタンパクの全身の血管への毒性
●スパイクタンパクは血流を循環するか
●ワクチン接種者のスパイクタンパクはエクソソーム上で4ヶ月以上血中を循環する
●コロナワクチンと不妊
5章 コロナワクチンは免疫不全の原因となる
●ワクチンと抗体依存性感染増強(ADE)
●猫とネズミ
●初の病理解剖から分かったこと
●なぜワクチン接種が自己免疫疾患に繋がり得るのか
●コロナワクチンと帯状疱疹
●スパイクタンパクはDNA修復、V(D)J組換えを阻害する
●コロナワクチンと癌
おわりに
●オミクロン変異考察
●コロナワクチンをめぐるイタリアの状況について
●コロナワクチンと治療法―生データが必要だ、今すぐ
あとがき
はじめに―分子生物学者、免疫学者として、コロナワクチンについて考えること
・荒川先生のご専門は、分子生物学(遺伝子の生物学)と免疫学である。
・バイオテクノロジー、ゲノム編集、ウィルス学、細胞生物学などは専門の範囲に入る。
・『端的に言って、私はコロナワクチンは危険なものだと考えています。仕事の関係で接種しないといけないような状況の方もおられるかもしれません。ご家族やご本人で進んで接種した方もおられるかもしれません。でも今後は出来れば接種しない方が良いし、接種するにしても回数が少ない方が良いと思うのです。』
・「遺伝子治療の治験」だとすれば、リスクより利益が上回るので理解できるが、健康な多くの人に試すのは適切ではない。
・コロナワクチンの危険性を伝えるためのブログを荒川先生が立ち上げたのは2021年6月8日。
・『ブログでの発信を開始した頃と、ワクチン接種が相当進んだ現在とは状況は変わってきています。ワクチン接種の副作用や死者の実態が次第に明らかになってきているのに加えて、ブースター接種をこのまま受けていいのかという不安や疑問はより高まっています。とりわけ、子供への接種が行われようとしているとき、これを食い止めるためにも私のブログを書籍化する意味があると花伝社様からお話しをいただきました。将来、大規模の集団訴訟も起こされるものと予想され、こうした訴訟の理論的根拠ともなりたいと願います。
私のブログ及びこの一冊の本は、分子生物学者、免疫学者としての私なりの小さなレジスタンスです。 (2022年2月13日、ミラノ)』
本書の要点―コロナワクチンが危険な理由
1)遺伝子ワクチンである
・コロナウィルスのスパイクタンパク遺伝子をワクチンとして使っている。
・遺伝子ワクチンは研究途上の実験段階で、人間用に大規模な接種が行われるのは初めてである。
・問題は遺伝子ワクチンがこれまでのワクチンと異なり、遺伝子が細胞内でどれだけの期間残るのか予測できないことである。場合によっては染色体DNAに組み込まれ、スパイクタンパクを一生体内で作り続けることになる可能性もある。
2)自己免疫の仕組みを利用している
・『「通常のワクチン」では抗体を作らせる為にウィルスそのものまたは一部分をワクチンとして使います。そういったワクチンはワクチン接種後に体内に抗体ができた場合、それ以降攻撃されるのはウィルスだけで終わります。
「遺伝子ワクチン」はワクチンを接種した人間の細胞内でウィルスの遺伝子を発現させます。ワクチン接種以降は自分の細胞がウィルスの一部を細胞表面に保有することになります。体内の抗体が攻撃するのはウィルスだけではなく自分の細胞もです(抗体依存性自己攻撃、Antibody-dependent auto-attack[ADAA])。』
・遺伝子ワクチンであるコロナワクチンは筋肉に注射されるが、筋肉に留まるとはいえない。
・『ファイザーの内部文書によると、筋肉注射された脂質ナノ粒子は全身に運ばれ、最も蓄積する部位は肝臓、脾臓、卵巣、副腎です。卵巣は妊娠に、脾臓、副腎は免疫に重要です。他にも血管内壁、神経、肺、心臓、脳などに運ばれることも予想されます。そうした場合、免疫が攻撃するのは卵巣、脾臓、副腎、血管、神経、肺、心臓、脳です。それはつまり自己免疫病と同じです。』
3)コロナワクチンは開発国でも治験が済んでおらず、自己責任となる
"米FDAとCDC、mRNA型2価ワクチンの対象年齢を生後6カ月以上に引き下げ"
JETROでは「ビジネス短信」として情報発信されていました。以下は、”米FDA”に関する情報です。接種対象や回数(ブースター接種)は制限付きになっていると思います。
4)コロナウィルスは免疫を利用して感染できるので、ワクチンが効くとは限らない
・コロナウィルスのスパイクタンパクは人間の細胞表面の受容体ACE2(アンジオテンシン変換酵素-2)に結合し体内に侵入する。
・コロナウィルスはマクロファージなどの食細胞に耐性があり、細胞内で増殖したり、サイトカイン放出を促進したり、細胞を不活性化したりして免疫系をハイジャックする。
画像出展:「東京都健康安全研究センター」
サイトには、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で撮影した写真が8枚出ています。
5)スパイクタンパクに毒性がある
・コロナウィルスは血栓を起こし、肺や心臓、脳にも障害を起こすことがある。
・血栓を起こすにはウィルスは必要ではなく、コロナウィルスのスパイクタンパク単独でも障害を起こす。
・血管は全身の臓器と繋がっているので、あらゆる臓器に被害が及ぶ可能性がある。また、全身をめぐる毛細血管は血栓によって損傷をうけやすい。
・マウスの実験では、スパイクタンパクは脳血液関門を越えることが確認されている。
6)不妊、流産を起こす可能性がある
・脂質ナノ粒子が最も蓄積する場所の1つが卵巣である。卵巣に運ばれたワクチンがスパイクタンパクを発現すると、卵巣が免疫系の攻撃対象になる。
・スパイクタンパクが結合する受容体ACE2は、精子の運動性や卵の成熟に働くホルモンを作るため、スパイクタンパクによりACE2が阻害されると不妊症につながる可能性がある。
7)ワクチン接種者は被害者となるだけでなく加害者となる可能性もある
・ワクチン接種者はスパイクタンパクを体外に分泌し、副作用を他者に起こさせる可能性が指摘されている。
・本当に怖いのは長期的な副作用で、これから長い時間かけて出てくるかもしれない。
1章 もう一度、ワクチンの「常識」について考えてみる
●コロナワクチン接種についてのいくつかの誤解
・誤解:副反応が出るのはワクチンが効いている証拠! 副反応が強いのは若くて元気な証拠!
・解説:『ワクチン接種直後の短期的な副反応である発熱や体調不良は、体の一部がワクチンの副反応(副作用)によって損傷されているのでしょう。そして2度目のワクチン接種後の副反応がより重いのは、最初のワクチン接種で作られた抗体がワクチンを受け取った細胞を攻撃した結果の強い自己免疫応答でしょう。これは良いことでも喜ばしいことでもありません。自己免疫での損傷は一時的な場合もあれば、不可逆的で取り返しのつかない場合もあります。』
●嘘と統計:数学のトリック
・19世紀のイギリスの首相ベンジャミン・ディズレーリの言葉に、『世の中には3種類の嘘がある:嘘、大嘘、そして統計だ』(There are three kinds of lies: lies, damned lies, and statistics)。
・例:ファイザーのRNAワクチンの有効度(Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine, N Engl J Med. 2020 Dec, Fernando P Polack et al.)
-2回のワクチン接種したグループ21,720人のうち新型コロナ感染者は8人。新型コロナ非感染者の割合は(21720-8)÷21720=0.9996=99.96%
-プラセボ(偽薬)を接種したグループ21,720人のうち新型コロナ感染者は162人。新型コロナ非感染者の割合は(21720-162)÷21720=0.9925=99.25%
⇒考え方A
感染者が162人から8人に減った!感染者の減少率は、(162-8)÷162=0.95=95%。つまり、ワクチン有効率は95%! これは素晴らしいワクチンだ!
⇒考え方B
ワクチンを接種しなくてもコロナ非感染者は99.25%。ワクチンを打ったところで感染しない確率が0.71% (99.96%-99.25%) 上がるだけか。未知のワクチンなんて打つ必要はないじゃないか。
※減少率95%は100人中95人に効くという意味ではない。99.25%の人はワクチンを打っても打たなくても変わらなかった(感染しなかった)ということである。
・『このように、同じ結果でも見せ方によって印象は大きく変わるのです。もともと感染者も人口比で見ると大したことはありません。ワクチンが必要かどうか、発表されているワクチン有効率だけで判断されませんように。』
松坂投手やベッカム選手の驚異的な怪我の回復の話は覚えていました。それが、マイクロカレント療法によるものであることは、高林孝光先生の『慢性腰痛は3日で治る』という著書で知りました。
高林先生は柔道整復師でもあり、鍼灸師でもありますが、同時に多くの新しい電気治療を組み合わせた治療に取り組まれています。その中核の一つが、マイクロカレント療法になると思います。
この療法の特徴は、微弱な電流を発生させる機器を用い、損傷個所の治癒を促進させます。これは細胞組織の再生スピードを高めることで実現させるものですが、主な対象はコラーゲン組織になるため美容目的での利用も注目されています。
「微弱な電流がなぜ効果を発揮するのか?」
調べてみると、最も重要なキーワードは”筋衛星細胞”であることが分かりました。今回のブログはネット上の情報を元に、”筋衛星細胞”がどんなものであるか、その概要を理解することです。
参考にさせて頂いたのは以下の3つです。
1.「早く治ってパワーもアップ!? 注目のちょこっと電流」NHKクローズアップ現代 2019年3月
2.「栄養素ビタミンB6の筋衛星細胞を制御する新たな機能性を発見」広島大学 2022年1月
3.「持久力トレーニングが衛星細胞発現に影響に関する研究」順天堂大学 2008年(PDF1-2/6)
注)上記3ですが、5月6日に確認したところ削除されていたので、保存していたPDF資料を添付させて頂きます。
1.「早く治ってパワーもアップ!? 注目のちょこっと電流」
『感じられないほど微弱な電流が、治療やスポーツの世界を一変させようとしている。腕や足などに流すと、筋肉の疲労回復が早まり、肉離れやねんざなどのケガがより早く治ることが明らかになりつつある。』
画像出展:「NHKクローズアップ現代」
聖マリアンナ医科大学 スポーツ医学 藤谷博人教授はアメリカンフットボール日本代表のチームドクターを務められています。
「マイクロカレントをやった方が、何でこんなに(治療が)早いのかなと、本当に驚いた。一般の、今までの知識とは違う。非常に価値があると思った。」
1)なぜ、マイクロカレントはケガの回復を早めるのか
●ダメージを受けたマウスの足の筋肉に微弱な電流を流し、回復の過程を詳しく調べた結果、筋肉の修復を促進する、ある細胞に大きな変化が見られた。それは筋肉細胞の隙間にあるピンク色の点、筋衛星細胞である。
●筋衛星細胞の数は、微弱な電流を流すことにより2倍近くも増加。これが、ケガの回復を早めたと考えられる。
2)マイクロカレントの特徴
●マイクロカレントは流れている電流が微弱な電流であること。
●今までの電気治療器が筋肉の収縮と伸展を繰り返して血流と痛みを改善するが、マイクロカレントは電流が流れている部分の細胞に直接刺激を加えることで、効果を発揮する。ただし、そのメカニズムもまだ研究途上の段階で不明なことが多い。
3)微弱電流が注目されている理由
●微弱電流の研究そのものが注目され始めたのは、ここ10年だが、さまざまな臨床的な効果の報告が出てきている。また、メカニズムについても、一部それを裏付けるようなデータが出てきつつある。その結果、一般の方からも注目されるようになってきた。
●米国などでは、痛みに対する医薬品の乱用が社会問題化しており、薬品に替わるもう手段として注目されている。
●微弱電流に関しては、脳への応用、脳からの電気を強化できる可能性があると期待されている。
2.「栄養素ビタミンB6の筋衛星細胞を制御する新たな機能性を発見」
本研究成果のポイント
•骨格筋再生において中心的な役割を担う筋衛星細胞に対するビタミンB6の新たな役割を発見した。
•ビタミンB6欠乏下では、骨格筋内の筋衛星細胞の数が減少する。
•ビタミンB6は筋衛星細胞の増殖能および自己複製能の維持に必要である。
研究成果の内容
【背景】
『筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞です。通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在していますが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られています。しかし、筋衛星細胞の数および機能は加齢とともに減少し、しだいに筋量・筋力の維持が困難な状態へと陥ってしまいます。この加齢性の筋量・筋力低下は「サルコペニア」とよばれ、高齢者における転倒、寝たきりのリスクを上昇させるため、筋再生能力を維持・向上させることが健康的な生活において重要だと考えられています。近年の研究では、欧州諸国と日本のサルコペニア患者において、ビタミンB6の摂取量および血中濃度が低いことが報告され、ビタミンB6の摂取不足とサルコペニアには関係性があることが示唆されました。そこで本研究では、ビタミンB6とサルコペニアの関係性を明らかにするため、ビタミンB6がもつ筋再生能力への効果を、筋衛星細胞への影響を評価することで検証しました。 』
【本研究成果のポイント】
『ビタミンB6の摂取量による筋衛星細胞の変化を検証するため、ビタミンB6低濃度食または高濃度食を摂取させたマウスの骨格筋から単離した単一筋線維を培養し、単離後0、24、48、72時間後の筋線維上に存在する筋衛星細胞の状態を免疫蛍光染色によって観察しました(Fig.1A-C)。
正常な状態では、衛星細胞は静止状態にあり、Pax7を発現しています(Fig. 1A)。
傷害や疾患により活性化されると、静止衛星細胞は細胞周期に入り、Pax7とMyoDを発現した状態で増殖を繰り返し、細胞集団を形成していきます(Fig.1B, C)。
その後、活性化した筋衛星細胞は、筋組織を修復するために筋細胞へと分化するものと、細胞数の維持のために静止型状態に戻る(自己複製する)ものに分かれると考えられています(Fig.1D)。
本研究では、ビタミンB6低濃度食のマウスから単離した筋線維において、静止型筋衛星細胞数、活性化後の増殖数、および自己複製細胞数が有意に低下していることが明らかになりました。さらに、ビタミンB6不含培地で筋線維を培養することで、これらの細胞数がより減少することも明らかにしました。これらの結果から、ビタミンB6の欠乏下では、筋衛星細胞数が減少し、さらにその増殖能および自己複製能が阻害されることが示され、ビタミンB6の欠乏が筋再生能力を低下させる可能性が示唆されました(Fig1.D)。』
3.「持久力トレーニングが衛星細胞発現に影響に関する研究」
こちらの論文は2008年なので、順番としては1番古いものになります。
また、「1.緒言」の冒頭には以下のような記述があります。
『筋衛星細胞は、筋線維の形質膜と基底膜の間に位置している単核の細胞であり、新たな筋核を生み出すための源であることが知られている。それゆえ、筋衛星細胞は、骨格筋の成長や修復のために必須な細胞であると考えられ、これまでに多くの先行研究において、筋力トレーニングにより筋衛星細胞数が増加することが明らかにされてきた。また、近年では、持久的トレーニングによっても筋衛星細胞数の増加が得られる可能性が示唆されている。』
結論は次のようになっています。
1)持久的トレーニングよる筋衛星細胞数の増加は、運動の強度が重要な要因であるが、低強度・長時間のトレーニングにも筋衛星細胞数の増加が期待される。
2)持久的トレーニングによる筋衛星細胞数の増加はType Ⅱ線維に出現し、その後の筋力トレーニングによる筋肥大の応答性を高めるために貢献する。
ご参考:筋線維のTypeについて
まとめ
●筋衛星細胞は、筋再生において重要な役割を担っていると考えられている骨格筋を形成する幹細胞である。
●筋衛星細胞は、筋線維の形質膜と基底膜の間に位置している単核の細胞である。
●通常、筋衛星細胞は静止型とよばれる状態で筋線維の表面上に存在しているが、筋肉の損傷等に応じて活性化し、増殖、分化、融合を通して筋組織を修復する機能を発揮することが知られている。
●筋衛星細胞の数は、微弱な電流を流すことにより2倍近くも増加した。
●微弱電流に関しては、脳への応用、脳からの電気を強化できる可能性があると期待されている。
●ビタミンB6の欠乏下では、筋衛星細胞数が減少し、その増殖能および自己複製能が阻害されることが示された。
ご参考
追加で調べていて、筋衛星細胞は筋幹細胞、骨格筋幹細胞、筋組織幹細胞とも呼ばれていることが分かりました。用語を広げて検索してみるといくつか興味深い情報がありましたのでお伝えします。
1.“疲労しにくい筋肉(抗疲労性筋線維)の形成の仕組みを発見” PDF5枚
2.”骨格筋幹細胞と筋肉の再生”
4.”なくならないのは技がある!”(世界の幹細胞関連論文紹介より)
第15章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part2
1.アレルギー疾患
①アナフィラキシーショック
強く感作された状態で大量の抗原がもう一度入ってくると、それにより免疫反応が起こること。抗原は蜂の毒や薬物などがある。アナフィラキシーショックの免疫反応はリンパ球と副交感神経刺激が反応の主体である。副交感神経は血圧を下げることがショックの引き金を引く。
③食物アレルギー
食物には抗原性の強いものがたくさんある。大事なことは消化管の防御システムがしっかり働くようになるまで、離乳食を続けるということである。半年以上、なるべく1ヵ月でも2ヵ月でも遅くすることである。
④花粉症、蕁麻疹
蕁麻疹は精神的なストレスが引き金になることが多い。
⑧乳児アトピー
乳児アトピーは離乳食以前に全身が真っ赤に腫れ上がる。主な原因は抗原性の高い3大抗原(卵、牛乳、小麦)、卵は卵白アルブミン、牛乳はカゼイン、小麦はグルテンである。母親がこれらの抗原を含む食品(例えば、ケーキやアイスクリームなど)をたくさん摂ると、身体で処理できないで母乳に入り、乳児が乳児アトピーになるおそれがある。もし、1ヵ月、2ヵ月の赤ちゃんが乳児アレルギーを起こしたら、母親は食生活を見直さなければならない。
画像出展:「免疫学講義」
『アレルゲンにはIgE抗体がつきます。こういうimmune complexに次に関与するものは補体と肥満細胞です。肥満細胞からは、ヒスタミン、セロトニン、アセチルコリン、ロイコトリエンが出ます。補体からはアナフィラトキシンが出ます。補体のアナフィラトキシンも、肥満細胞や好塩基球から出るものも、大きな目で見れば全部副交感神経反射で、血圧下降、分泌促進で鼻水が出たり、下痢したり、発疹、痒みなどの反応がでます。平滑筋の収縮や血管通過性亢進も副交感神経反射です。
副交感神経は夜の世界なので、布団に入って温まったときや真夜中に痒くなります。低気圧がきたりすると蕁麻疹が出ます。副交感神経反射は副交感神経が優位になると出ます。』
●鼻水、くしゃみ、発疹、腫れ、喘鳴発作などは、すべてアレルゲンを洗い流す作用である。対症療法でなかなか患者さんを治せないのは、炎症を止めてしまうと根本治療にならないためである。激しい下痢が起こったら入ってきた異種タンパクを洗い流して外に出して助かるための反応、寄生虫が入って来て下痢したら、寄生虫を排除しようとする治るための反応と考えなければならない。抗ヒスタミン剤や抗ロイコトリエン剤は根本治癒にはつながらない。
●リンパ球は出生後出てきて、1、2ヵ月から一気に増え4歳位でピークになる。その後ゆっくり減って、18-25歳で顆粒球と交差しその後は顆粒球との差が開いていく。アレルギーはリンパ球が多い時期に好発するため、高校生を過ぎた頃からアレルギーは自然に消失していく。
●ステロイド剤を多用していると、ステロイドはコレステロール骨格で組織に沈着するので、沈着したステロイドがまた刺激となって、アトピー性皮膚炎を悪化させる。このような人はリンパ球が減る時期になっても治らないことが多い。
2.顆粒球増多と組織破壊の病気
①突発性難聴[内耳](idiopathic sudden sensorineural, sudden deafness)
●激しい夫婦喧嘩をしていて、突然耳が聞こえなくなることもある[突発性難聴:一般的に50歳代を中心に30歳~60歳に多く、特に男女差はない。原因不明とされている]。増加した顆粒球が内耳を破壊することで発症する。常在菌があるところが最も顆粒球を刺激するが、非常に強いストレスに晒されると常在菌の場所に関わらず組織破壊の病気がおこる。[『安保徹の原著論文を読む』には、ストレス→交感神経刺激→顆粒球増多→粘膜破壊の連鎖とされている]
②メニエール病[三半規管](Meniere disease)
●内耳がダメージを受けると突発性難聴、三半規管がダメージを受けるとメニエール病になる。
③歯周病(periodontitis)
●一般的に歯科医はストレプトコッカス・ミュータンスの感染症と言われているが、常在菌が原因で、増えた顆粒球が口の常在菌と反応して炎症を起こす。[補足:ストレプトコッカス・ミュータンスは虫歯の原因菌とされているようです]
④食道炎(esophagitis)
●食道炎のほとんどは胃液が逆流しておこる逆流性食道炎と言われているが、胃を全摘した人でも食道炎になる。食道炎も顆粒球による粘膜破壊である。
⑤びらん性胃炎(erosive gastritis)→胃潰瘍(gastric ulcer)
●マウスの拘束実験では、12時間拘束でびらん性の胃炎を発症し、24時間拘束で胃潰瘍になった。これは顆粒球が粘膜全体に炎症を起こし、症状が進んで胃潰瘍になったということである。
⑦クローン病(Crohn’s disease)
●小腸での組織破壊だが、クローン病の患者さんは末梢血に顆粒球、特に好中球が非常に増えている。
⑧潰瘍性大腸炎(ulcerous colitis)
●潰瘍性大腸炎は大腸がダメージを受ける。
⑩子宮内膜症(endometriosis)
●子宮内膜症はストレスで分泌現象が抑制されて起こる。
⑪不妊症(infertilitas)
[子宮内膜症(endometriosis)、卵管炎(salpingitis)、卵巣嚢腫(ovarian cyst)]
●この3つは不妊症の原因になる。不妊症の共通点は「冷え」である。「冷え」の主な原因は交感神経緊張で血管収縮による血流障害である。
⑭膀胱炎(cystitis)
●一般的に膀胱炎の原因は細菌感染と言われているが、膀胱にある常在菌と増えてきた顆粒球との反応である。
⑮骨髄炎(myelitis)
●顆粒球を作る場所で自壊作用を起こし、骨髄の中に膿ができる。
⑯間質性肺炎(interstitial pneumonia)
●一般的には原因不明とされているが、この病気は血流障害と顆粒球増多である。
第16章 移植免疫
1.移植(transplantation)と拒絶(rejection)
●拒絶は移植された人の免疫(リンパ球)が移植片を異物と見なしてしまうからである。
2.MHC
●MHCは主要組織適合抗原と言われ、移植のためのタンパク質という印象があるが、本来はT細胞がT細胞レセプター抗原を認識するときの抗原分子である。
4.純系
●遺伝子が全く同じであれば拒絶は起きない。これを同系移植というがヒトでは一卵性双生児同士で行う移植である。自分の皮膚を自分に移植する自家移植でも拒絶は起きない。
●マウス同士の移植は同種移植であるが、遺伝型が異なるため拒絶が起こる。種が異なる移植は異種移植だが、同種移植同様、拒絶反応が起きる。なお、同種移植、異種移植においては、免疫反応だけでなく、凝固系、補体系なども加わって拒絶される。
5.拒絶の速さ
●超急性拒絶は移植翌日に起こるような反応である。異種移植や同種移植でも起こる場合がある。
●一般的な同種移植の拒絶は急性拒絶とされ、T細胞やB細胞がクローン拡大に1週間程かかるので、代替1週間後に拒絶反応が起こる。
●急性拒絶はステロイドや免疫抑制剤を使って抑えることができる。
●慢性拒絶は1ヵ月前後で出てくる反応で、T細胞やB細胞だけでなく、胸腺外分化T細胞や自己抗体を産生するB細胞(B-1)の活性化を伴って起こる。
7.移植のしやすさ―MHCの発現量
●赤血球のMHCはnagativeマイナスなので血液型を合わせれば移植ができる(輸血)。角膜のMHCもほぼマイナスなので移植ができる。
●MHCの発現量が弱いのは肝臓、腸、肺、心臓である。腎臓の発現量はかなり強いため、腎臓移植は肝臓移植に比べ、免疫抑制剤を使う量が多くなる。皮膚はほぼ移植はできない。
9.骨髄移植(bone marrow transplantation)
●再生不良性貧血や慢性・急性白血病で抗ガン剤や放射線治療を受けると、骨髄機能抑制されてしまうため骨髄移植が必要になる。骨髄移植では細胞、骨髄の中にリンパ球があるため、移植片がhostを攻撃する。これをGVH反応といい、これによって起こる病気をGVH病という。
10.GVH病(GVHD:graft-versus-host disease)
●ヒトでは骨髄移植は、抗ガン剤や放射線照射によって骨髄を弱らせガン細胞を除いてから行う。
12.新生児免疫寛容(neonatal tolerance)
●新生児は生まれたときにはリンパ球はない。最初の3日から1週間で新生児顆粒球増多症が起き、その後リンパ球が増えはじめる。そのときに自己抗原を学ぶ。
13.拒絶に関与するほかの白血球
●急性拒絶の場合は、T細胞とB細胞が原因である。
●慢性拒絶の場合は、extrathymicT細胞と自己抗体産生するB-1細胞が原因で、これにマクロファージや顆粒球が加わる。
●急性拒絶は外来抗原向けのシステムが作動して一気に拒絶するが、慢性拒絶では自己応答性のものが反応して色々な細胞を巻き添えにしてゆっくり炎症が起こる。
15.免疫抑制剤(immunosuppressant)
●親と子の移植でも全部は合っていないので免疫抑制剤を使って移植する。特に腎臓移植ではMHCの発現が強いため、免疫抑制剤の作用は強い、一方、腎移植では生着している期間は平均8年と言われている。
17.輸血によって生着率上昇
●移植するdonorの血液をあらかじめrecipientに輸血しておくと生着率が上昇する。これがblocking antibodyである。
第17章 免疫不全症
1.先天性免疫不全症(primary immunodeficiency)
●先天性免疫不全症は生まれて3ヵ月や半年後に気づくことが多い。これは新生児が母親の母乳から抗体をもらい、また、胎生期には胎盤を経由してIgG抗体が入ってくるが、少しずつ減っていくためである。通常は自前の免疫系が対応するが、先天性免疫不全症では対応できない。
②胸腺無形成症(thymic aplasia)
●胸腺がなくてT細胞ができないことを胸腺無形成症という。
③重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
●重症複合免疫不全症はT細胞もB細胞もできない。
2.重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
①X-scid(伴性劣性遺伝) X連鎖重症複合免疫不全症
●重症複合免疫不全症は遺伝子異常が原因である。
第18章 腫瘍免疫学
1.免疫系の二層構造
●『私たちの免疫系は二層構造になっています。生物が上陸する前の消化管中心の免疫系から、生物が上陸した後には、えらから胸腺ができ、造血が前腎から骨髄に移りました。したがって、リンパ球を作る場所は、古い時代の場所と新しい場所の2種類あるのです。
新しい免疫系ができた後、古い免疫系がすべて失われたというわけではありません。細々ながら続いています。胸腺や骨髄のような新しい免疫系はT細胞やB細胞を作りますが、加齢とともに骨髄や胸腺も脂肪化して、その作る勢いは失われていきます。その代わりに、生物が上陸する前の胸腺外分化T細胞や自己抗体産生B細胞の世界が拡大していきます。
二層構造のうち古い免疫系では、胸腺外分化T細胞は自己応答性があり、古いB細胞であるB-1細胞は自己抗体を産生します。よって、基本的に古い免疫系は、自分の身体にできた異常細胞を排除するという仕組みで存在したのです。
しかし、生物には上陸すると外界の異物に曝される機会が多くなり、進化によって出現した胸腺と骨髄を使ったT細胞、B細胞が新しく生まれました。これらの自己応答性のクローンをnegative selectionで取り除くので、クローンの構成が外来抗原向けになっています。ですから、活発な活動により入ってくる外来抗原を処理するためにはプラスになっても、内部監視の力はないのです。
私たちがだんだん年を取ってガンができるような年齢になると、二層構造のうち古い方が次第に活性化していきます。古い免疫系は腫瘍の排除や、あるいは増え続ける正常細胞の分裂の速さの調節もしています。このような二層構造で免疫系は成り立っています。』
2.ガン細胞を排除している証拠
●免疫系がガン細胞を排除している証拠
-AIDS:HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染するとCD4が減少し、(CD8も後で減る)リンパ球数が減少して免疫抑制になる。そして、カポジ肉腫が発生する。
-マラリア感染:マラリアに感染すると免疫抑制が起こり、バーキットリンパ腫という形でガンができやすくなる。
-移植:免疫抑制剤を使用するが、ガンの頻度が高くなる。
-先天性免疫不全症:子供のうちに亡くなることも多く、生き残った場合も発ガンする場合が多い。
3.腫瘍抗原
●腫瘍化するとMHCは下がるか、なくなることが多い。特に増殖の速い腫瘍の場合は、MHCを失う傾向が強くなる。このようなMHCがないガン細胞をNK細胞は攻撃する。
5.腫瘍ができるための条件
●腫瘍ができるための必要条件でよく知られているのが、遺伝子の多段階変異である。初めは正常の分裂細胞、次に良性の腫瘍、それから形質が残ったままの腫瘍、そしてMHCを失った悪性腫瘍と段階を経て増殖の勢いを増していく。
●発ガン物質(carcinogen)として有名なタバコだが、喫煙者は減り続けているにも関わらず、肺ガン患者は増え続けている事実を考えると発ガン物質の関与に疑問を持たざるを得ない。
●ストレスの共通点には低体温がある。そして、低体温は血管収縮による血流障害や低酸素状態を引き起こす。このとき、副腎髄質からアドレナリンが出て高血糖になる。これらの条件はガンが育つ最適の条件である。
下の2つの図は「肺がんを学ぶ」から拝借しました。なお、こちらは罹患ではなく、死亡率になります。赤線が肺がんです。
画像出展:「最新たばこ情報」
成人喫煙率(厚生労働省国民健康・栄養調査)
安保先生のご指摘通り、肺がん患者は増え続け、喫煙者は減っているという現実を考えると、喫煙が害であり影響しているのは間違いないと思いますが、別の要因の方が大きいと考えざるを得ないと思います。
6.ストレス反応の意義
●『私たちはストレスがかかったとき、無酸素で瞬発力のあるエネルギーを産生します[解糖系]。危機を乗り越えるためには酸素は要らないので低体温、低酸素です。このとき糖をたくさん使うので高血糖という条件になります。ですから、私たちがつらいめにあったとき低体温になったり血糖が上昇して糖尿病状態になったりするのは、危機を乗り越えるためなのです。
ストレスで起こる低体温、低酸素、高血糖は、短いスパンでは、瞬発力を得て危機を乗り越えられるためプラスに働きますが、長くストレス状態が続くと解糖系の方にシフトしてしまい、適応反応として細胞分裂が始まります。ミトコンドリアの働きには細胞分裂の抑制力もあり、低体温になるとミトコンドリアが働けなくなるので分裂正常細胞の中から適応でガン化した分裂が起こるのです。
ですから、ガンの問題はcarcinogenによる遺伝子の多段階変異というよりも、このような解糖系優位の状態に引きずり込まれて分裂の細胞(ガン細胞)になったということです。多段階変異は低体温に適応するための現象として捉えればよいのです。』
8.ガン患者の免疫状態
●低体温のためリンパ球の働きが低下している。
●交感神経緊張によって、副交感神経支配のリンパ球は減少している。
●NK細胞は交感神経刺激で数は増加するが機能は低下する。特にパーフォリンのようなキラー分子は副交感神経で分泌が促進されるので、交感神経優位な環境では低下する。
9.キラー分子群
●多少ストレスがあってガン細胞ができても、簡単にガンにならないのは、リンパ球のキラー分子群が働いて増殖を防いでいるからである。代表的なキラー分子群にはパーフォリン、Fas ligand、TNFαがある。これらは体温が37℃以上であるというのが条件である[ガン細胞は毎日5000個程できていると言われています]。
12.ガンの免疫療法
●ガンの免疫療法とは、解糖系の働きに偏った内部環境をミトコンドリア系に有利な働きに戻して分裂抑制遺伝子の出番を作るということである。
あとがき
『現代医療は、多くの病気を原因不明として対症療法を行う流れが拡大しています。しかし、多くの病気はストレスを受けて免疫抑制状態になって発症しています。原因は不明ではないのです。ストレスで生じる「低体温、低酸素、高血糖」は短いスパンではエネルギー生成のうちの「解糖系」を刺激して瞬発力を得て危機を乗り越えるための力になっています。しかし、長期間このような状態が続くと、エネルギー生成のうちの「ミトコンドリア系」を抑制してエネルギー不足に陥ります。これがストレスで起こる慢性病の発症のメカニズムです。そして、いずれガンを引き起こす原因につながっていきます。
ストレスをもっとも早く感知するのは私たちの免疫系です。末梢血のリンパ球比率やリンパ球総数は敏感に私たちのストレスに反応しています。この反応には自律神経系と副腎皮質ホルモン系が関与しています。臨床では血液検査を行い、いつでもリンパ球比率を知れる状況にあるのですが、ストレスとリンパ球の減少の相関をほとんど教育の場で学ぶことがないので、血液検査のデータが活用されていないのが現状です。末梢血のリンパ球比率は35-41%が正常値で、ここから減少しても増加しても病気になってしまいます。
顆粒球過剰(リンパ球減少)は組織破壊の病気と結びつきます。逆に、リンパ球過剰はアレルギー疾患や過敏症の病気と結びついていきます。本講義録で学んだ知識があれば、多くの病気の発症メカニズムを知ることができます。対症療法を延々と続ける必要もなくなるのです。
消炎鎮痛剤の害やそのほかの薬剤の副作用なども、この本で学べたと思います。患者に良かれと思って続けている薬剤の投与の中にも多くの危険が潜んでいるのです。特に、自己免疫疾患の治療においては、本書の知識が役立つでしょう。そして、私たち生命体が持つ偉大な自然治癒力を引き出すことのできる新しい医学や医療が進展していくことでしょう。』
感想
白血球(顆粒球とリンパ球)と自律神経、副腎皮質ホルモン系、そしてからだを守る新旧免疫系の二層構造、これらは特に重要だと思います。
一方、健康を考える上で重要とされているものに糖化と酸化があり、例えば、AGE(終末糖化産物)は大量の活性酸素を産み出すと言われています。
何が言いたいかというと、顆粒球が攻撃に使う武器は“活性酸素”であるという点です。からだの中をパトロールし健康を守ってくれている免疫が、一転、暴走してしまうとからだを破壊するモンスターになってしまう恐れがあるということです。そして、その暴走の原因、引き金はまさに“ストレス”だと思います。
私は安保先生がご指摘になられているように、ガンの原因は発ガン物質よりも、ストレスによる免疫の暴走の方が大きいのではないかと思います。
ご参考:運動は免疫能を高めるか? 「メカニズムをさぐる III 好中球」
『ヒトの好中球は白血球の中でも顆粒球に分類され、その大半を占めている(正常値40~70%)。好中球の主な役割は生体防御機能であり、体内に侵入してきた病原微生物を中心とする異物を貪食し自らが発生させた活性酸素によってそれを殺菌する。しかしながら活性酸素は非常に酸化力が強いため異物の排除に有効な反面、正常な組織にも障害を与えることや過酸化脂質の生成を促し動脈硬化をはじめとして種々の疾病の原因にもなるというマイナスの側面ももっている。ここでは運動が好中球機能に及ぼす影響を中心に論を進めていく。』
第12章 膠原病 part2
1.進化した免疫系の抑制
●自己免疫疾患は線維芽細胞や線維芽細胞が作る細胞外マトリックスのコラーゲンで炎症が起こるので、膠原病、結合組織病といわれる。
●関節リウマチ(RA)で炎症が繰り返しおき、徐々に関節が動かなくなっていくが、これはストレスやウィルス感染が原因であることが多い。特に紫外線、寒さ、重力がストレスになる。重力のストレスとは長時間労働や夜更かしすることである。
●関節滑膜について注意しなければならないのは、SLEの血管炎もRAの腫脹も、炎症を起こしてつらいのは治るためのステップでもあるという点である。
●『私たちは火傷をしても腫れて治ります。大怪我をしても腫れて治り、しもやけになっても腫れて治ります。ですから炎症は、自己免疫反応が起こっているのと同時に、治るステップも起こっていると考えなければなりません。あまり対症療法をするとかえって病気は悪化するので注意が必要です。』
●『RAは特に関節に水が溜まって腫れ上がるので、注射器で水を引き抜きます。それをガラスに塗沫してギムザ染色すると95%が顆粒球で、残りの5%くらいのリンパ球は胸腺外分化T細胞とB-1細胞です。T細胞・B細胞が減少しているのです。自己免疫疾患は、免疫異常とか活性化とかいわれますが、本当はすべての自己免疫疾患は免疫抑制状態なのです。自己免疫疾患は進化した免疫系が抑制されて、古い免疫系や貪食系の顆粒球に活性が移ったという病態なのです。』
2.中枢神経系の自己免疫疾患
●多発性硬化症はミエリン鞘にあるMAGが抗原になって脱髄が起こり、神経の伝達が障害されて視力低下や末梢神経麻痺が起こる。
●重症筋無力症はアセチルコリンレセプターに対する自己抗体が原因である。筋肉の緊張は神経末端から出るアセチルコリンで起こるので、アセチルコリンレセプターが抗原になると筋緊張が持続して起こらなくなる。
3.内分泌器腺の自己免疫疾患
●橋本氏病は、甲状腺細胞のミクロゾームに対する自己抗体が出て、甲状腺が機能低下する疾患である。
●バセドウ氏病は、サイロキシン刺激ホルモン(TSH)のレセプターに対して自己抗体ができる。
●アジソン病は副腎に対する自己抗体(自己応答性リンパ球)が原因である。副腎皮質ホルモンの分泌が抑制されるためストレス対応や活力に影響が出て、すごい虚脱感に襲われる。
●Ⅰ型糖尿病(別名:インシュリン依存型糖尿病)は自己応答性リンパ球が問題となる。夜更かしや家庭内トラブルなどのストレスに加え、ウィルス感染も関わっている。ストレスにより副交感神経支配のリンパ球が減るので、これら2つが重なって起こることが多い。
4.消化管・肝の自己免疫疾患
●Iupoid肝炎はヒストン、核、ミクロゾームが自己抗原となる。
●萎縮性胃炎と悪性貧血の原因はVB12結合タンパクに対する自己抗体ができてVB12を吸収できなくなると、赤血球溶血が起きて貧血になる。胃は心因性のストレスが原因である。
●潰瘍性大腸炎はストレスによる大腸粘膜破壊が起こる病気である。クローン病はストレスによる小腸マクロファージの肉芽腫形成で、顆粒球の活性化が問題になる疾患である。自己免疫疾患とはいえないのは、自己抗体が見つからないことも多く、男女差がないのも自己免疫疾患の特徴とは異なる。
6.心臓の自己免疫疾患
●リウマチ熱は、心筋抗原とA型溶血性連鎖球菌の表膜の抗原が交叉しておこる。
7.眼の自己免疫疾患
●交感性眼炎はブドウ膜に対する自己抗体である。
●水晶体過敏性眼球炎は水晶体に対する自己抗体である。
8.皮膚の自己免疫疾患
●皮膚硬化症は皮膚の基底膜に対する自己抗体である。
●ベーチェット病は口の粘膜に対する自己抗体である。
9.Chronic GVH病
●急性GVH(移植片対宿主)病が、進化したT、B細胞で強く起こる。一方、慢性GVH病は、1月、半年、1年と免疫抑制剤でT、B細胞の機能を落としたあとで、徐々にでてくるが、このとき自己抗体が出現する。胸腺外分化T細胞や自己抗体のB-1細胞が関与している。
1.ストレスと生体反応
●『私たちはなぜ病気になるのでしょうか。それは強いストレスを受けるからです。多くの病気はストレスを受けるからです。多くの病気はストレスから始まっています。
それでは、具体的にどういうストレスで病気になっているかを挙げると、まず悩むことです。考えたり悩んだりすることは人間の特徴です。それから、人間は立って歩けるようになったので、やはり重力に逆らうストレスがあります。長時間立ち仕事をしたり夜更かししたりすると、重力の負担がかかって身体を壊します。あとはもともと身近なもの、温度や空気も病気の原因になります。あまりにも空気が少ないと、酸素不足で病気になります。そういうふうに、私たちの暮らしの身近なものの中にストレスはたくさんあるのです。』
●ストレスを受けると交感神経反射が必ずおこるということではなく、副交感神経反射が起こり絶望や脱力感により血圧が下がって失神することもある。
●怒りやすい人は交感神経反射が起きやすく、いつもおとなしく物静かな人は、副交感神経反射が起きやすい傾向がみられる。
●普通のストレスにはほとんどの場合、交感神経で反応する。自律神経だけでなく下垂体-副腎系が働くこともある。下垂体からは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、副腎からは糖質コルチコイドが分泌される。さらに白血球の反応(マクロファージの活性化や、サイトカインが出て戦う準備ができるなど)も起こる。
2.急性症状
●交感神経緊張の場合、頻脈・血圧上昇・血糖上昇、体温上昇がみられるが、急性症状が非常に強くなると血管収縮が強くなり、ついには体温が下がっていく。
3.急性症状が出る仕組み
●強いストレスを受けた人は体温が低下し血糖が上昇する。糖尿病は糖質の摂りすぎだけではなく、ストレスによる血糖上昇、特に交感神経のαアドレナリン刺激には強い血糖上昇作用があるため、長時間労働は糖尿病の原因になる。運動や食事制限だけでなく、交感神経緊張で血糖値が上昇するということにも注意する必要がある。
●糖質コルチコイドには体温低下と血糖上昇作用がある。
●ストレスによりマクロファージはサイトカインのTNFαを出す。TNFαはインスリンレセプターをブロックするため、血糖値は上昇する。
4.急性症状はストレスに立ち向かう反応
●野生の動物にとってのストレスは戦ったり、逃げたりすることである。血管が収縮し血流が悪くなるということは、血管が傷ついても出血を最小限に食い止めることができるということである。
●血糖が上昇するのは、解糖系を働かせるためである。解糖系で得たエネルギーは瞬発力と細胞分裂に使われる。なお、ミトコンドリアの内呼吸で得たエネルギーは持続的働きのために使われている。
5.交感神経と顆粒球の運動
●顆粒球は膜上にアドレナリン受容体を持ち。交感神経緊張で数が増加する。
●大量に顆粒球が増えると、歯周病、食道炎、びらん性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、痔、突発性難聴、メニエール病、女性の場合は子宮内膜症、卵管炎、卵巣嚢腫などの組織破壊の病気が起こる。これらは交感神経と顆粒球の連動で起こっている。
6.慢性症状
●ストレスが続いたときの慢性症状は、体温低下による代謝障害である。一時的には戦うための準備であるが、体温低下が続くと代謝障害、特にミトコンドリアでのエネルギー産生低下、タンパク合成の低下、疲れやすさなどやつれの症状が出てくる。
●ストレスの慢性状態では皮膚が弱くなり障害を受け、皮膚の病気が出現する。皮膚の病気は原因不明とされることが多いが、本当の原因は低温低下による代謝障害、エネルギー産生低下、タンパク合成の低下である。
7.ストレスの要因
●人間の特徴である考える力は、悩みというストレスの原因になる。また、同じく人間の特徴である二足歩行も重力のストレスを大きく受けることとなった。特に立ち仕事や働きすぎ、夜更かしは病気の原因になりやすい。
●人間に限らない一般的な要因の1番目は温度である。低温は凍傷や冷房病、高温は熱中症である。
●2番目は大気中の酸素である。薄くなると高山病、濃度が高いのは潜水病である。
●3番目は水である。少ないと脱水だが、脱水で病気になる人は多い。水の飲みすぎは体を冷やす。
8.ミトコンドリアへの負担
●ミトコンドリアの多い細胞は、脳、心臓、筋肉である。ミトコンドリアの機能低下は低体温と低酸素によって起こる。
9.ミトコンドリアとステロイドレセプター
●『ミトコンドリアの中にはステロイドホルモンに対するレセプターがあって、糖質コルチコイドが直接入っていってミトコンドリアの機能を抑制する。それにより、ステロイド治療をするとミトコンドリアの機能が抑制されてエネルギーを作ることができなくなり、消炎作用が現れる。長くステロイドを使っていると低体温、寿命短縮が起こる。』
10.ストレスと免疫抑制
●ストレスで胸腺萎縮やリンパ球のアポトーシスが起こり、T細胞とB細胞の分化や成熟抑制も起こる。一方、胸腺外分化細胞とB-1細胞は活性化し、自己抗体産生が出現する。
11.解糖系でエネルギーを作る細胞(ミトコンドリアの少ない細胞)
●ガン細胞は解糖系優位で、ミトコンドリアが少なく低酸素で分裂する。つまり、ガンは低体温になって低酸素に適応した病気と考えられる。
15.生体の治癒反応
●『私たちは風邪をひいても、やけどをしても、怪我をしても発熱します。心筋梗塞を起こした後も発熱し、潰瘍性大腸炎になっても、クローン病になっても、ガンになっても発熱します。結局、発熱は低体温と低酸素からの脱却で、代謝を亢進させて病気から治るための反応なのです。こういうことが分からないと、消炎鎮痛剤、ステロイド、あるいは免疫抑制剤を使って炎症を止めてしまいます。すると病気から逃れられなくなります。このとき、炎症に関与する物質がプロスタグランジン、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン、ブラジキニンである。』
16.副交感神経優位(楽をして生きる)でも病気
●『多くの人はストレスで糖質コルチコイド、TNFαなどが出て、たいていは交感神経緊張になり、血圧が上がったり血糖が上がったりするのですが、中には副交感神経側に偏る人もいます。副交感神経優位でも能力低下によって病気になります。能力低下には、リンパ球が増える過敏症、アレルギーがあります。ストレスにも過敏になり、ときには敗北します。私たちはスポーツをしたり身体を鍛えますが、能力を高めるにはやはり身体を使ったり頭を使わないといけません。こういう努力をほとんどしない人が副交感神経側に偏って能力低下で病気になります。ですから、無理しても病気、あまり楽をしても病気になるということです。』
第14章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part1
1.白血球の自律神経支配
●病気は人間の能力を超えるような過酷な環境に曝されたり、あるいは過酷な生き方をしたりした結果ではないか。
●過酷な生き方と免疫システムをつなぐのが自律神経であり、自律神経によって内部環境も免疫系もうまく動くことができる。しかし、過酷な生き方は自律神経のこうした働きを狂わせてしまう。
●交感神経が活発に働く日中、副交感神経が優位になる夜間、昼夜の交互のリズムがうまくいっている場合は、病気になることはないが、過酷な労働や家の中でゴロゴロした怠惰な生活は自律神経のバランスを乱し、健康を害していく。
●暑さや寒さ、重力も大きなストレスだが、不安やおびえ、恐怖などの深い悩みも大きなストレスとなって交感神経を緊張させる。
2.日内リズム、年内リズム
●顆粒球は朝方で60%程、昼にかけて5%位上昇し夜になると下がる。一方、リンパ球は朝方35%位あったのが、日中少しずつ少なくなって夜に上がるリズムがある。これを白血球の日内リズム、サーカディアンリズムという。
●リンパ球は夏に高く、冬に低くなる。春から夏、リンパ球が増える時期に花粉と出会い、リンパ球が少ない時期に風邪が流行しやすいのは私たちの免疫にも関係している。
4.消炎鎮痛剤
●消炎鎮痛剤(NSAIDs)はプロスタグランジンの産生阻害剤である。プロスタグランジンは血管拡張作用、発熱作用、痛み作用を有する副交感神経刺激物質である。プロスタグランジンを阻害することは交感神経を優位にさせる。
●『私たちは火傷したり怪我したりすると、血管拡張して腫れて、熱が出て、痛みます。これは身体が間違いを起こしているわけではなく、組織修復・代謝亢進のために血流増多しているのです。また代謝亢進させるには熱を上げる必要があるので、発熱します。痛み作用は同じ火傷を繰り返さないように危険を察知させます。痛みがなくなった人はストーブにやたら近づいて低温火傷したりしては大変です。だから痛みというものは悪者扱いばかりはできません。痛みがあるから危険な行為をさけられるのです。プロスタグランジンの産生阻害剤はこの3つの作用を止めて交感神経緊張という形にさせるのです。』
●『激しいスポーツをしている最中は無我夢中なので、交感神経優位で知覚が低下します。ところが、スポーツを終えて休んだり家に帰ってゆっくりすると、疲労した筋肉に血流を送って乳酸のような疲労物質を洗い流します。また多少起こった筋線維断裂を修復するために血流を増やすのです。ですから、とても激しい運動をした後、野良仕事が激しかった後、あるいは散歩が長かったときなど、筋疲労を起こした後や、休んだときに痛みが出るのです。これは大怪我や大火傷と同じように、痛みと腫れは筋疲労からの脱却反応と考えなければなりません。』
●『痛み止めを貼って熱心に冷やすと、このような作用も加わって、胃の障害や組織の障害になり、全身がやられるのでやつれます。ただ長く痛み止めの湿布薬を貼った人たちが急に止めると、それまで抑えられていた血流が一気に回復するので、2、3日はびっくりするくらい腰が痛くなったり膝が腫れたりして大変です。しかし、やはり最終的には痛み止めを脱却しないと腰痛や膝痛などから回復できません。』
5.生物学的二進法
●『私がなぜ、このような自律神経や白血球の自律神経支配を研究したかというと、学生の時にこのような考え方の基本を出していた斉藤章先生(元東北大学医学部講師)がいらしたからです。その理論とは生物学的二進法です。斉藤先生は戦前・戦中のまだ抗生物質がなかった時代に感染症内科をしていた先生でした。グラム陽性球菌に感染したときは、ほとんどが顆粒球になる一方、グラム陰性の桿菌に感染したときは、多少顆粒球が残っても、ほとんどがリンパ球であるという法則を見つけたのです。このように結核菌の感染、サルモネラとかリケッチア、ウィルス、異種タンパクというような刺激で、顆粒球とリンパ球の血液中の分布が変わることを斉藤先生は見つけました。』
●『斉藤先生の発見はこれだけではありません。顆粒球が増えるような状態の患者は頻脈と胃液の分泌低下、つまり交感神経刺激反応が起こり、逆にリンパ球が増えるような状態になった人は徐脈、胃液分泌上昇などが起こり、副交感神経優位状態であることを見つけたのです。ですから私たちは感染症にかかったときや、化膿が強くなったときなど、交感神経優位状態ではすごく脈が速くなって、熱はスパイク状に出ることがほとんどです。
ところが副交感神経優位状態のときは徐脈がきて、けだるくて熱は持続する熱になります。ちょうど風邪を引いたときにずっと高熱が続くような状態です。かつては、この熱を稽留熱や持続熱と、交感神経優位の熱を間歇熱と呼んでいました。このような状態が起こるのを見て、斉藤先生は生物学的二進法といったのです。こうした講義を私は東北大学で受けて、ずっと心に留めていたのです。教授なって自分の研究テーマを好きに決められるようになってから、アイソトープと蛍光抗体を使って、顆粒球にはアドレナリンレセプターがあって交感神経刺激で活性化すること、リンパ球にはアセチルコリンレセプターが発現していて副交感神経優位になると増殖することを研究しました。』
発見!
『長く痛み止めの湿布薬を貼った人たちが急に止めると、それまで抑えられていた血流が一気に回復するので、2、3日はびっくりするくらい腰が痛くなったり膝が腫れたりして大変です。』
今まで、70歳代の患者様さまお二人から施術後、痛みが非常に強くなったと教えて頂いたことがありました。特にお一人は何年も毎日湿布(消炎鎮痛剤)を貼っているというお話でした。
当時、この強い痛みの原因は習慣的に貼っている湿布によるものではないかと考え、いろいろ調べたのですが、結局その時はそのような情報に出会うことはできませんでした。
今回、安保先生の『免疫学講義』の14章に上記の記述を見つけ、「やっぱり!!」と思いました。つい、うれしくなってしまったのでアップしました。
第9章 サイトカインの働きと受容体
1.サイトカインの歴史
●T細胞を増殖させる因子をTCGF(IL-2)、B細胞の増殖因子をBCGF(IL-4)と呼ばれる、サイトカインである。サイトカインはホルモンより高分子タンパクである。寿命が短くすぐ壊れてしまう。T細胞の特定のものを増やすのではなく、全体を増やし特異性がない。
●T細胞の増殖因子として見つかったサイトカインは、NK細胞やB細胞を増やしたり、B細胞の分化を助けるなどいくつかの重なる機能を持っている。そして、このような性質をもつ因子をホルモンと対比させてサイトカインと命名した。
●サイトカインはリンパ球やマクロファージが出す。また、脳神経が使っている因子にも共通しているものがあるだけでなく、身体のいたるところで広く使われていることが分かった。
2.サイトカイン
①IL-1
●IL-1はマクロファージが出すリンパ球活性因子であり、炎症性サイトカイン(内因性発熱因子)である。インフルエンザに罹ると38℃、39℃の発熱があるが、これはリンパ球が働きやすい至適温度にするためにIL-1が発熱させているのである。
②IL-2(TCGF)
●T細胞やNK細胞の最大の増殖因子である。
③IL-3
●骨髄の幹細胞の増殖因子で、分化の最初の引き金をひく。T細胞、肥満細胞、マクロファージという各細胞から出て骨髄の分化を立ち上げ、初期分化を促す。
④IL-4、IL-5、IL-6
●これらのインターロイキンはB細胞の分化にかかわる。
⑤IL-7
●骨髄や胸腺のストローマ細胞(支持細胞)である。リンパ球分化を促す。
⑥IL-8
●顆粒球の走化性[微生物や白血球などの細胞が、栄養分や誘引物質のある方向へ移動したり、逆に嫌気物質から遠ざかる性質]を刺激する物質である。ケモカインとも呼ばれるがケモカインの分子量は他のインターロイキンと比べて小さい。
⑦IL-9
●IL-2やIL-4と類似している。T細胞やB細胞を増殖させる。
⑧IL-10
●抑制因子、リンパ球の増殖を弱め、過剰な免疫反応を止める。
⑨IL-12、IL-15、IL-18
●NK細胞やCTLの活性を刺激する。
⑩IFN(interferon:インターフェロン)
●複数の作用を有する。ウィルス増殖阻止因子、MHCの発現を促す、抗原提示能を上昇させる。
⑪TGFβ(transforming growth factor)、(tumor necrosis factor)
●TGFβは機能が多岐にわたり複雑である。免疫抑制の作用がある。
●TNFαはアポトーシスを誘導して、不要になったものやガン細胞を殺している。
⑫Fas ligand
●Fasについてアポトーシスを誘導する。
●NK細胞、extrathymicT細胞、CTLが相手を殺すときに使用される。
第10章 自然免疫
1.外界に接する場所の抵抗性
●自然免疫とは獲得免疫ではないものである。
●丈夫な皮膚(ケラチン)と汗は重要な抵抗力である。腸上皮の細胞は加水分解酵素やタンパク分解酵素を持っており、補体を作る力も持っている。
●皮膚や腸管は常在細菌がおり、常在細菌は病原細菌が入ってきたときに攻撃する。
●胃の壁細胞はpH1の塩酸を出しており、ほとんどの細菌はここで死滅する。
●消化管の絨毛や繊毛は異物を運動により排出する。
2.細胞の抵抗性
●感染が起こると発熱するが、一つは内因性の発熱因子によるものである。IL-1、IL-6、TNFα、プロスタグランジンなどである。一方、細菌自体が熱を上げる場合があるが、その代表がLPSで、外因性の発熱因子である。
3.補体
●抗体が進化する前からの腸上皮の抵抗因子で、複合タンパクからなり細菌などを溶解する。
4.補体の働き
●細菌や異種細胞の溶解である。膜に穴を開けて壊す。
●白血球の貪食能を上げるオプソニン化や、白血球自身を活性化させる働きを持っている。
●免疫複合体(抗原と抗体がくっついたもの)が消えるときに補体は使われる。
6.活性化の経路
●活性化の経路は3つある。古典経路、代替経路、レクチン経路である。
7.古典経路
●抗原抗体反応から始まる経路。古典経路で補体活性化するのは、IgM、IgG1、IgG3に限られている。
画像出展:「東邦大学 抗体と補体」
『古典経路は体内に侵入してきた細菌や細胞の膜抗原に抗体(IgGやIgM)が結合して免疫複合体を形成すると、補体第1成分(C1)がこの抗体と結合して、C1が活性化されます。活性化したC1は補体C4を活性化し、その後、補体(C2~C8)を次々に活性化します。その結果、最終的に膜上に補体第9成分(C9)の複合体を細胞壁(膜)に埋め込み、細菌や細胞に穴をあけます。』
8.代替経路
●抗体を使わない経路。細菌刺激で直接C3という補体を活性化する。
9.レクチン経路
●マメ科の植物タンパク質のレクチンは直接C3を活性化する。
10.補体の産生部位
●腸上皮細胞、肝細胞(腸上皮細胞から進化)で作られる。
●補体の1~9の一部はマクロファージで作られる。
●腸は多細胞生物が進化したもの、マクロファージは単細胞時代の生き残り、身体に危険なものが来たとき、新旧の細胞が共同作業で相手の細胞や細菌を溶解しようとすることが補体の働きである。
11.補体レセプター
●補体のレセプターは、構造の違いで1から4まであり。CR1-CR4といわれている。
●補体レセプターは色々な白血球にあるが、腎臓の糸球体基底膜にもある。免疫複合体(抗原と抗体がくっついたもの)と補体のコンプレックスができ、糸球体基底膜に沈着すると腎障害が起こる。
12.細胞膜上にある補体活性抑制因子
●補体が無秩序に動き出すと、白血球が勝手に活性化したり、腎の基底膜について危険なため、身体には補体を活性化させない補体活性抑制因子も存在している。これは細胞膜上にあり、自己の細胞が溶解されないように守るためのものである。
14.補体遺伝子の欠損
●化膿性感染症を繰り返したり、免疫複合体が血液中で増加するといった独特の異常が出てきたり、白血球の貪食能が低下したりといったことが出てくる。
第11章 膠原病 part1
1.自己の認識について
●『自己免疫疾患は多くの専門家がいうように「原因不明の難病」ではありません。リウマチやSLEなど自己免疫疾患は、数年前まではなぜ起こるか分からなかったのですが、リンパ球の研究などを通じて、自己免疫疾患が起こる理由がはっきり分かりました。』
3.自己免疫疾患の誘因
①MAG
●『それでは、どうしてリウマチやSLE、ベーチェット病、シェーグレン症候群、橋本氏病といった自己免疫疾患になるのでしょう。まず1つには、組織破壊が最初にあって、自己抗原が出てくるからです。その自己抗原とは対応するクローンがnegative selectionをすでに受けたような自己抗原ではなく、めったに身体の中に現れないような自己抗原です。これを隔離抗原といいます。私たちの自己の組織でも、いつもリンパ球の前にさらされている抗原ばかりではありません。普段リンパ球が届かないような場所にいるものもあります。
隔離した抗原とは、例えば、MAG(myelin-associated glycoprotein)です。有髄の神経にはミエリン鞘があります。ミエリン鞘を合成するタンパク質の中に、MAGがあるのですが、これは、普段鞘の中にあって抗原性を出してはいません。ところが神経組織が壊れると、こういうものが隔離された状態から出てくるのです。
こうしてできた自己抗体が引き起こす疾患が、多発性硬化症(multiple sclerosis)で、目が見えなくなったり末梢神経の麻痺が起こるような自己疾患を引き起こします。
こういう病気を引き起こす1番多い原因は、夜更かしです。夜更かししてパソコンを長く見る人は大変ストレスが強く、視神経のMAGに障害が起こったときなどに、壊れるのです。それが自己抗原になってリンパ球が攻撃を始めます。多発性硬化症の患者さんは30歳前後の女性が多いのですが、みんな夜更かししてパソコンの画面を眺めるというような独特のストレスを受けているのです。そして神経の組織が壊れたとき、自己免疫疾患になるのです。』
”隔離抗原”を詳しく知りたいと思い、検索したところ出てきたものです。
『私たちの免疫系は、生後まもなく構築されるわけですが、その過程で各器官が「自己」であることを免疫系にアピールすることで、寛容が誘導され、その器官は「異物」ではなく自らの免疫で攻撃しなくなることはご存知のとおりです。ところが、生体のなかには、バリアによって免疫系から認識されにくい器官があり、隔離抗原(sequestered antigen)と呼ばれています。』
②甲状腺細胞のミクロゾーム
●『私たちの甲状腺は甲状腺ホルモンを作っていますが、それを作りタンパク合成する場所にはミクロゾームを壊されると、甲状腺に対する自己抗体が出てきて、甲状腺が壊されます。これが橋本氏病です。
橋本氏病は甲状腺がやられるので、甲状腺ホルモン(サイロキシン)が低下していきます。甲状腺ホルモンは活力のホルモンなので、元気がなくなり、疲れやすくなってやる気が起こらないという独特の症状を出すのです。それでは、なぜ甲状腺のミクロゾームがやられるかというと、多くは長時間労働が原因です。橋本氏病は女性に多いのですが、橋本氏病になった女性のほとんどは、職場の仕事を家にまで持ち込んで夜更かしを何年も続けるなど、すごく無理をしています。
すると、甲状腺が甲状腺ホルモンを作り続け、疲弊したとき血流障害が起こり細胞が壊れ、普段隔離されていたミクロゾームがリンパ球にさらされて、クローンを刺激するのです。
現在、私の本以外の教科書を読むとみな、自己免疫疾患の原因は不明になっていますが、本当ははっきりしているのです。患者さんに無理しなかったかどうか、すぐ聞き出せます。あまりにも過酷な生き方をすると私たちの組織は壊れて、隔離された抗原が出てくるのです。』
③胃壁細胞
●『私たちの胃壁には、造血と関連する因子を出す胃壁細胞があります。胃壁細胞は心配事が多いと、血流障害や顆粒球の働きによって壊れます。私たちは心配事を抱えると、びらん性の胃炎など胃の調子が悪くなりますが、これは胃の粘膜の血流障害で胃壁が壊れるからです。そういうときに、普段上皮の下に隠れている胃壁細胞がリンパ球にさらされて、抗原になります。これがいわゆる悪性貧血(pernicious anemia)の原因になるのです。』
④核、ヒストン
●『隔離された抗原が出るのは細胞を構成する成分からです。なかでも多いのはやはり核やその成分からです。核にはDNAやDNAを折りたたんでいるヒストンタンパクなどがあります。
SLE(systemic lupus erythematosus:全身性エリテマトーデス[全身性紅斑性狼瘡])とは、抗核抗体を中心とした自己抗体ができて起こる疾患です。抗核抗体は、核が抗原となります。核の中でもDNAで、折りたたまれたらせん形が離れたシングルストランド(single strand)のDNAにも抗体ができることもありますし、からまったダブルストランド(double strand)のDNAが抗原になることもあります。
SLEが1番多いのは、色白の人が紫外線を浴びたときです。なぜ狼(lupus)のような紅斑と呼ばれるかというと、まるで口が広がったように、紫外線が1番当たる所がバタフライ様に紅くなるからです。SLEは白人に多いです。色が黒いとメラニン色素で紫外線をブロックできますが、色が白いと直接紫外線の作用で細胞や核が壊れるのです。そして隔離抗原がリンパ球にさらされます。
SLEは紫外線以外でも、風邪をこじらせると起こります。ウィルスも細胞を壊します。あとはやはり夜更かしが原因です。夜遅くまで起きていることは大変なストレスなので、細胞が壊れます。特に徹夜でアルバイトをすると、細胞が壊れて病気になりやすいのです。』
⑤目の水晶体、ブドウ膜
●『目の組織というのは、普段リンパ球にさらされていません。水晶体には血管が入っていかないからです。ブドウ膜もリンパ球にさらされないような形で抗原を保っています。どういう形で隔離抗原が出てくるかというと、ほとんどが外傷です。ボールがぶつかったりけがをしたりして目が大出血し、組織が損傷を起こすときに抗原がさらされます。やられた目が治っても、片方の目も見えなくなってくるというような炎症を起こすのです。片方の目をやられて両方の目がやられるということで、「交感性眼炎」といいます。』
⑥精子
●『そのほかで普段血流にさらされない場所というのは精子です。精子が壊れて血中に出ると隔離抗原が出ます。1番有名なのはおたふくかぜです。子供のときおたふくかぜにかかると、外分泌腺が腫れるだけで治りますが、大人がかかってこじらせると精巣炎が起こります。すると隔離抗原が精子から出て、無精子症になるのです。それからたまに外傷でも起こります。硬式野球をやっていて球を精巣に当てて何日も腫れ上がるような外傷を受けたとき、隔離抗原が精子から解放されて、残った精子に対して攻撃するので、無精子症になるのです。
このように、普段私たちの免疫系が働けないような自己認識がリンパ球に出合うようなことが起こると、自己免疫疾患になるのです。このときかかわるリンパ球はみな、胸腺外分化T細胞かB-1細胞です。』
⑦modified self
●『隔離された抗原で自己免疫疾患が発症すること以外で、もう1つ覚えておかなければならないものがmodified selfです。いわゆる自分の自己抗原が少し変性して抗原性を獲得するという形です。紫外線によってタンパク変性したり、薬物がキャリアタンパクに付着して変性します。いろいろな風邪薬で一気に自己免疫疾患が発症することがあります。
特にスティーブンス・ジョンソン症候群といって、風邪薬を飲んで全身の粘膜が腫れて失明したり、SLE様の症状を出したり、タンパク尿を出したりするという症状を発症します。
例えば私たちのタンパクでもっとも多いアルブミンの場合です。普段アルブミンはnegative selectionで反応するクローンはなくなっていますが、薬物が付いてmodifyされると修飾自己抗原になるのです。
薬物の中でもっとも多いのは風邪薬・消炎鎮痛剤(アスピリン)ですが、ペニシリンなどの抗生物質もタンパク質を変性させます。これはいろいろな血球の膜に付くこともあるので、血球が抗原になる疾患です。血球はもちろんnegative selectionされているのですが、薬物が付くために、血球が自己抗原になることもあります。
血球の中で修飾自己抗体がもっとも多く付着しやすいのが血小板です。そもそも血小板というのは、血管が出血した所に付着するための物質なので、いろいろなものに吸着する力をもっています。そうして発症する病気が、血小板減少性紫斑病です。血小板に対する自己抗体ができて、どんどん血小板が減っていきます。するとちょっとした打撲でも止血できなくなって腫れ上がり、そのあとが紫色になるのです。これは薬を飲んでもなりますが、長時間労働などでもなります。
私は将棋が好きなのでプロの棋士の名前を知っていますが、今から30年くらい前に山田道美九段は、大山名人に負けても負けても何度も挑戦権を獲得してがんばっていました。山田九段は打倒大山のために睡眠時間を削って将棋の勉強をして、1日何十局も過去の棋譜を調べたりして並べて、血小板減少性紫斑病にかかり34歳で死んでしまいました。ですから、あまり無理をするといけません。
自己免疫疾患は原因不明といわれていますが、このような考え方をすると謎が解けます。原因が分かれば原因を取り除けば治ります。原因不明としているため、対症療法の薬を飲んでもっと身体を痛めつけて、治らないということになっているのです。
それから、顆粒球が抗原になるのは顆粒球減少症です。細菌処理に大切な細胞である顆粒球がどんどん減ってしまいます。赤血球が抗原になる溶血性貧血は、薬物が原因であることが多いです。風邪をひいて風邪薬を飲んで、自己免疫性の溶血性貧血になることもあります。このように血球成分のうち血小板が変性して自己抗原になり、顆粒球の膜成分が変性して自己抗原になります。これらは過労か薬物が原因です。』
4.自己免疫疾患の分類
●SLEは全身性の自己免疫疾患であり、全身の血管炎である。
●血管内皮細胞はマクロファージが血球に分化して、その分化した血球を流すために自ら管になった。従って、血管内皮細胞はマクロファージと同じように貪食能があり、白血球の炎症とともに血管炎が起こる。
●SLEは核が抗原になるため、対象は全身の細胞になる。線維芽細胞や血管内皮細胞が攻撃されて戦い、炎症を起こす。
●ネフローゼは血管内皮細胞に負担がかかるような生き方をして、血管に隙間ができて、漏れることが原因である。
●関節リウマチ、橋本氏病、、無精子症は臓器特異的自己免疫疾患だが、それぞれ関節、甲状腺、精巣がやられる。
●複合型自己免疫疾患であるGoodpasture syndromeは腎臓と肺の基底膜が障害される。腎臓はエラから進化したため腎臓と肺の細胞はよく似ており、場所は離れているが腎臓と肺で自己免疫疾患になる。
5.自己障害のメカニズム
①自己抗体
●自己組織の障害のメカニズム
-B-1細胞が出す自己抗体が攻撃するパターンは、抗DNA抗体・抗ミトコンドリア抗体が直接組織や分子を攻撃して組織を破壊したり、機能をブロックする。
②補体の活性化
●抗原抗体反応ができて、順にFc部分が活性化すると、補体のC1から順に活性化が始まる。
※Fc領域:(fragment crystallizable region:フラグメント結晶化可能領域)は抗体の尾部にあたる領域で、Fc受容体と呼ばれる細胞表面の受容体や補体系のタンパク質と相互作用する。
画像出展:「抗体:ニュートリー(株)」
『抗体の基本構造は、2本の長いH鎖と2本の短いL鎖からなるY字型の構造である.そのなかで抗原の結合部位となるFabと、免疫細胞などと結合するFcに分けられる。抗体の実体は免疫グロブリンという糖タンパク質であり、Fab部位のアミノ酸配列の違いによって5つのクラス(IgM、IgD、IgG、IgE、IgA)がある。各クラスの抗体は、体内の異なった部位で多様な機能を発揮している。一方でFc部位は免疫細胞に発現するFc受容体と結合する。』
③マクロファージの活性化
●白血球の基本はマクロファージである。そして、マクロファージが活性化すると炎症を起こす。まず、炎症性サイトカインで発熱・腫れ・痛みが出てくる。IL-1・IL-6・TNFα・IFNγには、発熱作用・血管拡張作用・痛み作用がある。
●マクロファージが活性化しすぎると自分の血球を飲み込んでしまう(血球貪食症)。
④リンパ球の直接攻撃
●リンパ球(NK、CTL、胸腺外分化T細胞など)は、色々な細胞を直接攻撃して、肉芽腫形成することもある。
⑤免疫複合体(immune complex)
●腎臓の糸球体の基底膜に免疫複合体が沈着するのが糸球体腎炎である。また、RA(関節リウマチ)は腫れ、発熱、痛みがあり動かないでいると免疫複合体が沈着して関節が動かなくなる。このように免疫複合体は様々な病気に関与している。
⑥血管内皮細胞の炎症
●血管内皮細胞の炎症でも主体になるのはマクロファージである。
6.SLE
●SLEは20歳代の女性に多く、最初は風邪のような症状が出る。女性に多い理由の一つに過敏であることがあげられる。過敏かどうかはその人のリンパ球の数で決まる。特に妊娠適齢期の女性は1番リンパ球が多いため過敏になりやすい。
ケースも多く特に注意が必要な刺激が紫外線である。次に多いのがウィルス感染である。これはリンパ球が多いとEBウィルスやパラミクソウィルス、風邪ウィルスなどに感染によって血管炎をおこす。それ以外では夜更かしなどのストレス危険である。以上のように、SLEは過敏な人(リンパ球が多い人)が、紫外線、ウィルス、夜更かしなどのストレスを受けて発症するのである。SLEは全身にある抗原と反応するので、関節が腫れるRAや、唾液が出ないシェーグレン、糸球体腎炎などの自己免疫疾患が全身に出てくることが多いのである。
第2章 免疫学総論 part2
1.免疫で使われる分子群
●抗体はアミノ酸100個の塊(ドメイン構造と呼ばれる)が4個、5個つながった重鎖と、100個くらいのものが2個つながった軽鎖からできている。また、T細胞レセプターも、アミノ酸100個くらいの塊2個が対になっている。
●抗原と抗体とが1対1に対応していることから「鍵と鍵穴の関係」といわれている。
●免疫に関係する分子は、アミノ酸100個くらいのタンパク質である祖先遺伝子が染色体の中で、多様化したり、合体を繰り返して進化してきた。
●抗体はIg(immunoglobulin)となり、その仲間は免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリー(immunoglobulin gene superfamily)と呼ばれる。これは接着分子の基本構造から進化した。
●ヘルパーT細胞は、T細胞やB細胞の分化や活性化を助ける。傷害性T細胞は異物細胞を直接攻撃(傷害)するということに由来している。
●多細胞生物である私たちの身体は接着分子によってバラバラになることがない。タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)により接着分子は壊れるが膜は壊れない。
●各細胞はナトリウムを外に出して膜をプラスに荷電してエネルギーを作っている。この荷電により、細胞同士が反発し合う。赤血球が互いに反発し合うのは荷電によるエネルギーのおかげである。
●生活習慣の乱れから血液ドロドロになるのは、ナトリウムを出して膜電位を維持できなくなるためである。
●細胞と細胞は接着分子でくっついているが、そこに異物が入り込むと、フリーの白血球であるリンパ球がそれを攻撃して死滅させる。このように、接着分子と接着分子の間に入った異物を異常細胞と見なし、攻撃して速やかに排除して、再び確かな細胞だけで生き延びようとするのが免疫の始まりといえる。
●免疫は異物を認識するために始まったのではなく、細胞が自分同士を認識する中でその間に入り込んだ異物の違和感からその危険なものを攻撃する。つまり、免疫とは異物への攻撃であるため、ウィルスでもガン細胞でも攻撃し死滅させる。これが免疫の基本的なメカニズムである。
●外来抗原を認識するようになるのは、免疫の進化の後期からのことである。
●免疫の始まりは、一つは異物を食べて処理するマクロファージと顆粒球の流れであり、もう一つは接着分子を利用して侵入してきた異物に対して攻撃するリンパ球の流れである。免疫の原点は異常自己を見つけることから始まっている。
2.リンパ球の進化
●免疫細胞は進化しても、古い細胞がなくなることがない。現在のそれぞれの比率はT細胞(70%)、B細胞(15%)、胸腺外分化T細胞(10%)、NK細胞(5%)である。
●加齢ともに胸腺の退縮と骨髄の脂肪化のため、T細胞、B細胞は減少し、一方、腸管でつくられる胸腺外分化T細胞と肝臓でつくられるNK細胞が増える。
●リンパ球は生物が上陸する前から進化してきた。胸腺外分化T細胞やNK細胞は腸管粘膜でつくられた。胸腺の進化は上陸後であり、新しいT細胞やB細胞は上陸後からであるが、上陸により、植物のホコリや苔の死骸などあらたな異物と遭遇することで進化したと考えられる。なお、現在でも腸管や肝臓などには古いリンパ球であふれている。これらは自己応答性でウィルス感染自己細胞やガン化した自己細胞を異常自己として攻撃するシステムである。
4.マクロファージの働き
●いろいろな異物を食べる機能(貪食能)。
●健康でマクロファージの働きが強いと、免疫反応を誘発せずに貪食能によって全部処理をするため、風邪症状も出さない。
●リンパ球や顆粒球が上乗せされて自分が少数派になってからは、指令を出し顆粒球(細菌の侵入)やリンパ球(ウィルスの侵入)を誘導する。
●顆粒球やリンパ球誘導後、組織の修復を行う。マクロファージが破片も食べるので元の正常の組織にもどる。
●マクロファージは栄養が過剰になると栄養処理を行う。栄養処理とは脂肪細胞に引き渡したり、あまりに摂取する栄養が多いときは、動脈壁にはりついたりして、そのまま死滅する泡沫細胞になる。ただし、泡沫細胞の血管壁への沈着は動脈硬化を促進する。一方、飢餓状態ではマクロファージは自分を食べて生き延びようとする。
●マクロファージのあらゆる働きで、生き延びる戦略をとれるのはマクロファージが単細胞生物時代の生き残りだからである。
●過食は処理するマクロファージにも大きな負担となり、炎症と同じように炎症性物質である炎症性サイトカインを出す。ガンの末期や病気の末期に栄養を入れると患者さんが苦しんでしまうのは、過食に伴う炎症性サイトカインが原因である。
●風邪で高熱を出した時に食欲が落ちるのは、これはマクロファージが免疫系に専念するための身体の反応である。栄養処理にばかりマクロファージを使ったら病気の治りは遅くなる。
●『私たち人間は、死ぬとき食べるのを止めて死ぬと安らかに死ねます。昔から聖人といわれた多くの人は、死期を悟ったら数日食を絶って死んでいるのです。しかし今の医療はやたらと点滴したり、中心静脈栄養を入れたり、胃瘻を作ったりして管をつけています。ですから、すごく死の苦しみを味わって死んでいるのです。やはり私たちも病気になって食欲を失ったら、マクロファージが免疫系に専念するための栄養処理からの解放について考えないといけません。』
5.白血球の分布と自律神経
●末梢血では顆粒球が60%、リンパ球が35%、マクロファージが5%である。ただし、この比率には個人差がある。さらに、自律神経系の働きと連動している。顆粒球は膜状にアドレナリンレセプターがあり、交感神経が緊張すると分裂して数を増やす。リンパ球の方はアセチルコリンレセプターがあって、副交感神経が優位になると数が増える。
●交感神経緊張が続き、リンパ球が少なくなると免疫力が下がってくる。すると、常在するウィルスが暴れ出すが、帯状疱疹や単純ヘルペスなどは代表的なものである。
第3章 免疫担当細胞
1.マクロファージ
●自分と会う主要組織適合抗原(MHC:major histocompatibility complex)を探すには10万人必要とされている。
●樹状細胞はマクロファージが進化した細胞で、貪食能はなく、MHCが強く、Tリンパ球に抗原提示する働きが非常に強いという特徴を有する。細胞膜から樹状突起が出て、リンパ球を抱え込んで抗原提示する能力を増強する。
●虫歯ができて顎下リンパ節が腫れたり、水虫が化膿して鼠径リンパ節が腫れたりするときは、樹状細胞がリンパ球に抗原提示した反応が始まっている。
4.TCR(T cell receptor)の構造
●多くの免疫系は38度、39度の温度が反応のピークであり、病気になったときに熱が出るのは免疫反応を高めて早く病気を治そうとする反応である。しかしながら、体温が41度を超えると細胞内のミトコンドリアが活性酸素を出し、突然死の恐れが出てくる。その場合は速やかに身体を冷やして熱を下げなければならない。
●お風呂の限界は45度である。50度を超えるとタンパク凝固が始まる。
5.B細胞の種類
●B細胞は小さい細胞でほとんどが核である。通常は細胞には細胞質の中にミトコンドリアや粗面小胞体、ゴルジ体、細胞小器官が必要だが、B細胞は核だけで細胞質もほとんどない。
●T細胞もB細胞も、普段はほとんど休止しているため、1960年に入る前は「何も仕事をしていない珍しい細胞である」と考えられていた。いずれも抗原の刺激があると分裂を始める。分裂すると小型から中型、大型のリンパ球に変わる。
●B細胞の場合は、活性化リンパ球になると粗面小胞体でタンパク合成が起こり、抗体を外に分泌する。抗体を産生するようになったB細胞は形質細胞、あるいは抗体産生細胞、活性化B細胞と呼ばれる。
6.抗体の種類
●B細胞が産生する抗体には、IgM、IgG、IgA、IgEと、働きがはっきりしていないIgDという細胞がある。
●一次感染で最初に出てくるのは、IgMである。二次刺激でもIgMが多少でるが、IgGが出てくる。IgGは血清中で量が最大である。
●IgAは消化液や分泌液の中、いわゆる腸や涙、唾液に出てくる。
●IgEはアレルギーとして有名である。アトピー性皮膚炎、気管支喘息、あるいは寄生虫感染で増える。
●血清中、IgGに次いで多いのがIgA、次にIgMである。IgEは健康な人からはほとんど検出されず、アレルギーを持っている場合に検出される。
第4章 B細胞の分化と成熟
1.分化、成熟(differentiation, maturation)
●B細胞を作るのは骨髄の幹細胞である。
●ヘルパーT細胞がB細胞を分化させるのに、IL-4、IL-5、IL-6が必要である。ILはインターロイキンの省略で白血球の間を取り持つ高分子タンパクという意味である。ILはいずれも、B細胞の分化・分裂を促す。さらに、IL-4はIgEへ、IL-5はIgAへ、IL-6はIgGへの分化をそれぞれ促す。
①多発性骨髄腫
●多発性骨髄腫の場合は、形質細胞のレベルでガン化した病気である。
②B細胞型の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)
●悪性リンパ腫はB細胞のレベルでガン化する。
●リンパ球血症もあるが極めて少ないので、リンパ球、特にB系統の腫瘍化のほとんどは多発性骨髄腫と悪性リンパ腫である。
3.抗体の働き
①抗原の凝集
●B細胞の働きの一つは外来抗原の無害化である。
●自己抗体は身体に生じた異常自己を速やかに排除する機能がある。
●B細胞は、外来抗原向け抗体を作るものと自己抗体を産生するものに区別できる。
②補体とともに膜の溶解
●抗体のFc(fragment C)とC領域(constant region:定常域)に補体が結合し、細菌の膜や他人の赤血球膜、移植片細胞膜を溶解する。補体はC1からC9まであって、C1から順に活性化が始まる。
③ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)
●ADCC活性によって、CTL(cytotoxic Tcell:傷害性T細胞)と、NK細胞は、リンパ球でガン細胞を死滅させる。
●ADCC状態ができると、CTLからperforinというキラー分子が放出されてガン細胞の膜が傷害され壊される。
●NK細胞の攻撃、CTLの攻撃、この2つに抗体が加わって攻撃するという3つの方法でガン細胞を攻撃する。
●免疫を高めた患者がガンを自然退縮させた人は数百人規模で確認できている。
第5章 T細胞の種類 part1
1.T細胞の抗原レセプター(TCR)
●B細胞は抗体(Ig)を使って抗原認識をするが、T細胞はTCR(T cell receptor)を使うが、TCRは抗体と違って、単独で抗原を認識してはいない。
3.胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞
●胸腺内分化T細胞は胸腺で分化して、その後末梢へいく。末梢とはリンパ節、脾臓(白脾髄)、末梢血である。
●胸腺外分化T細胞は、腸管、肝臓、外分泌腺の周り、子宮内膜などにある。
第6章 T細胞の種類 part2
3.Tc細胞の働き
●分裂する前のリンパ球は小リンパ球である。トランスフォーメーションを起こしたリンパ球は細胞内小器官であるミトコンドリアやゴルジ体もできて、大リンパ球になる。
●大リンパ球は活性化リンパ球ともいわれ、CTL(細胞傷害性T細胞)になる。CTLはperforinキラー分子を作りだす。相手がガン細胞や移植した細胞に対しては膜に穴をあけて死滅させる。
●CTLはFas ligandという分子を作り、Fasという分子に働いて細胞内にアポトーシス(自分で死滅する)シグナルを入れる。
●CTLはガン細胞、ウィルス感染細胞、移植片細胞などの標的を、perforinやFas ligandを使って壊す。
4.Th細胞の働き T-B cell interaction
●ヘルパーT細胞は抗原刺激で小リンパ球が大型リンパ球になって、タンパク質を作る。ここで作られるのが、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10のサイトカインである。
●サイトカインは分子量が多い高分子だが、寿命は短く、血液の中で壊されたり、すぐに希釈されたりする。
5.リンパ球の抗原提示
●抗原提示を行っているのはマクロファージと樹状細胞である。このような抗原提示細胞がないとリンパ球の分裂は起こらない。
7.ガン化
●T細胞は抗原が来たときに反応して、刺激(MHC[主要組織適合抗原]+抗原)がなくなると自然に分裂は収まるが、ある時点で腫瘍化することがある。B細胞は悪性リンパ腫や多発性骨髄腫になることがあるように、T細胞も色々なステージで腫瘍化する。
●T細胞の腫瘍化には急性リンパ性白血病があるが、これはPreT細胞などの早い段階で腫瘍化する。一方、慢性リンパ性白血病はある程度成熟したT、B細胞の腫瘍化である。
●自己免疫疾患は胸腺外分化T細胞の異常な活性化で起こるので、肝臓、外分泌腺で起こる。自己免疫疾患には、ベーチェット病、シェーグレン症候群、SLE、関節リウマチなどだが、唯一胸腺と関係するのは重症筋無力症である。
●『不思議ですね。胸腺のリンパ球が増えるのに自己免疫疾患になります。私たちの筋肉は収縮するとき、神経末端から出るアセチルコリンを使って収縮します。それで、まぶたがあけられない、筋肉がなかなか収縮できないというMG(重症筋無力症)が起こるのです。こういう現象を知るには、普通のT細胞の分化だけではなくて、胸腺のmedulla(髄質)に八ッサル小体のような外胚葉の上皮によって育てられる古いリンパ球がある、ということを分からないと謎が解けなかったのです。これは私の研究室で見つけた現象です。』
●老化、ガン、マラリアといった、いろいろな自己抗体ができる世界が原因不明になっている。これは胸腺の分化の失敗ではなく、生物が上陸する前の古い免疫系のほとんどがストレスによって活性化している世界なのである。
●SLEでも、関節リウマチでも重症筋無力症でも、自己免疫疾患の患者さんから話を伺うと、発症前に非常に強いストレスを受けていたことがわかる。特に一番多いストレスは夜更かしである。
第7章 主要組織適合抗原 part1
4.分布
●MHC(主要組織適合抗原)のClassⅠは、全身のほとんどの細胞で発現している。
●MHCが発現していないのは赤血球である。血液型さえ合わせれば輸血できるのはMHCを発現していないためである。発現していないのは、赤血球が脱核してDNA→RNA、RNA→タンパク合成の機能をやめてしまったためである。したがって、幼若で骨髄でまだ核のある未熟な時期にはMHCは発現している。
●赤血球以外でMHCがないのは、胎児胎盤である。また、脳内のニューロンはMHC陰性である。脳はほとんど抗原提示能がないため脳では炎症がとても起こりにくい。ただし、脳神経の間に混じっているグリア細胞はMHC陽性のため、長い目で見れば拒絶されてしまう。
●MHC陽性には差がある。1番強いのは樹状細胞、他はマクロファージ、皮膚である。腎細胞はそれほど高くなく、さらに低いのは肝細胞である。腎移植、肝移植が可能なのはこのためである。
第8章 主要組織適合抗原 part2
3.Polymorphic MHCとmonomorphic MHC
●1990年代後半、個人間で多様化していないMHCが見つかった。それがmonomorphic MHCである。
●ヒトの場合、個人間で多様化のあるMHCがHLA-A、B、C、D、多様化のないMHCがHLA-E、F、Gである。
※HLA:『HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)は1954年、白血球の血液型として発見され、頭文字をとってこう呼ばれてきました。しかし、発見から半世紀以上を経て、HLAは白血球だけにあるのではなく、ほぼすべての細胞と体液に分布していて、組織適合性抗原(ヒトの免疫に関わる重要な分子)として働いていることが明らかになりました。』
●monomorphic MHCは、非常に特殊な場所に発現している。HLA-Eは腸上皮細胞、HLA-Fは肝細胞、HLA-Gは子宮内膜と胎盤の絨毛細胞である。腸にあるリンパ球も、腸から発生した肝臓に以前からあるリンパ球も、NK細胞や胸腺外分化T細胞などの古いリンパ球である。子宮や胎盤の間にも古いリンパ球がある。
●子宮の胎盤がなぜ拒絶されないかという疑問は、monomorphic MHCの理解によりこの謎の本質に迫れた。
●『子宮内膜の面と胎盤の接点は、HLA-Gをともに発現します。HLA-Gは個人間で多様化していないので、結局、父親からの遺伝子も母親からの遺伝子も同じタンパクを作ってアミノ酸配列が違わないのです。そしてHLA-A、B、C、D、はマイナスです。こういう仕組みがわかってきました。ここではNK細胞と胸腺外分化T細胞が働いています。NK細胞と胸腺外分化T細胞は自己応答性です。これらは膜上にアドレナリン受容体を持っていて、交感神経刺激(ストレスなど)で活性化されます。ですから、母親が忙しく仕事しすぎたり、悲しい出来事があってつらいめにあったり、あるいは、心臓や腎臓に持病があって交感神経がだんだんと刺激されたときなどに、流産が起こるのです。新しい免疫系は働きませんが、古い免疫系の活性化で流産が起こります。古い免疫系は自己応答性なので、子宮内膜と胎盤を攻撃するのです。すると胎盤が母親の子宮の内膜についていられなくなります。早期の流産も、後期の流産もこういうメカニズムで起こっています。』
4.HLAのタイプと疾患感受性
●HLAのタイプはバラバラだが、日本人、ヨーロッパ人というように集団や民族によって、多少特徴はある。
●『自己免疫疾患の原因は、ほとんどがストレスです。ストレスが直接組織を壊すか、あるいはストレスがかかって免疫が下がり、常在ウィルスが暴れて、感染症が起こります。風邪をひいて発症するか、その発症のときに特定のHLAが特定の自己抗体を作りやすくするのでしょう。』
●『特定のHLAはストレス、あるいはウィルスがはびこる組織が壊れるときに、特定のタイプの自己抗体が入りやすいのです。これらの病気が起こると、肺と腎臓と同時に、そのほかの臓器の基底膜にも自己抗体ができます。』
5.MHC以外の拒絶タンパク
●MHCのマッチングはヒトでは約10万人対1人のレベルである。
●MHCが100%マッチングさせても拒絶される現象がある。MHC以外のタンパク質で、拒絶の原因として考えられるのは、Mls(minor lymphocyte stimulatory)である。Mlsはレトロウィルスという、エイズやヒト成人T細胞白血病ウィルスなどのタンパク質である。これらが身体に住み着いてそこからできるタンパク質がいろいろな組織に入って、MHCのClassⅡに乗って拒絶タンパク質になっている。
6.その他
●認識する抗原は進化とともに変わる。免疫系の進化はMHCの進化とリンパ球の進化が並行して起こる。進化・上乗せされ、最終的にT細胞、B細胞になった。
●免疫が変遷を重ねて、進化していっても古いリンパ球も古いMHCも残っていて、あるステージがくると働くのである。そのステージとは、基本的には老化現象などと関係している。90歳を超えてくるとT細胞、B細胞はかなり減り、NKや胸腺外分化T細胞、自己抗体を産生するB細胞、血清中では自己抗体が非常に増える。
●進化で獲得した免疫は、若い年代、20代~30代でピークを迎え、その後はまた古い免疫が優勢になる。これが免疫の中で系統発生と個体発生進化が加齢で現れるということである。
安保徹先生の著書は何冊か拝読させて頂いていましたが、今回の『免疫学講義』はB5判で237ぺージという、詳細かつ高度な内容の本でした。
この本を読みたいと思ったのは、『コロナワクチン失敗の本質』という宮沢孝幸先生の著書に書かれていた、「液性免疫(抗体)に偏って考えるのはいかがなものか。免疫は自然免疫、細胞性免疫、液性免疫の総合力で考えるべきではないか」というご指摘が印象に残ったためです[ブログ:“コロナワクチンの疑問”]。
目次が大変長いということ、またブログ自身も5つに分けているということから、最初に「あとがき」をご紹介させて頂きます。
私が最も重要だと思ったことは、「ストレスと顆粒球、およびストレスとリンパ球の相関関係を理解する」ということでした。
『現代医療は、多くの病気を原因不明として対症療法を行う流れが拡大しています。しかし、多くの病気はストレスを受けて免疫抑制状態になって発症しています。原因は不明ではないのです。ストレスで生じる「低体温、低酸素、高血糖」は短いスパンではエネルギー生成のうちの「解糖系」を刺激して瞬発力を得て危機を乗り越えるための力になっています。しかし、長期間このような状態が続くと、エネルギー生成のうちの「ミトコンドリア系」を抑制してエネルギー不足に陥ります。これがストレスで起こる慢性病の発症のメカニズムです。そして、いずれガンを引き起こす原因につながっていきます。
ストレスをもっとも早く感知するのは私たちの免疫系です。末梢血のリンパ球比率やリンパ球総数は敏感に私たちのストレスに反応しています。この反応には自律神経系と副腎皮質ホルモン系が関与しています。臨床では血液検査を行い、いつでもリンパ球比率を知れる状況にあるのですが、ストレスとリンパ球の減少の相関をほとんど教育の場で学ぶことがないので、血液検査のデータが活用されていないのが現状です。末梢血のリンパ球比率は35-41%が正常値で、ここから減少しても増加しても病気になってしまいます。
顆粒球過剰(リンパ球減少)は組織破壊の病気と結びつきます。逆に、リンパ球過剰はアレルギー疾患や過敏症の病気と結びついていきます。本講義録で学んだ知識があれば、多くの病気の発症メカニズムを知ることができます。対症療法を延々と続ける必要もなくなるのです。
消炎鎮痛剤の害やそのほかの薬剤の副作用なども、この本で学べたと思います。患者に良かれと思って続けている薬剤の投与の中にも多くの危険が潜んでいるのです。特に、自己免疫疾患の治療においては、本書の知識が役立つでしょう。そして、私たち生命体が持つ偉大な自然治癒力を引き出すことのできる新しい医学や医療が進展していくことでしょう。』
ブログは目次の黒字部分について触れています。
目次
まえがき
第1章 免疫学総論 part1
1.免疫学の歴史
2.身体の防御システム
3.白血球の進化
4.リンパ球の性質
5.リンパ球の産生と分布
6.Tリンパ球とBリンパ球
7.主要組織適合抗原
8.免疫が関与する疾患
①感染症:ウィルス感染、一部細菌感染
②アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシー
③移植の拒絶
④自己免疫疾患(膠原病)
⑤加齢現象
⑥妊娠―つわり、流産
⑦ガン免疫
⑧先天性免疫不全症
第2章 免疫学総論 part2
1.免疫で使われる分子群
2.リンパ球の進化
3.胸腺の進化
4.マクロファージの働き
5.白血球の分布と自律神経
第3章 免疫担当細胞
1.マクロファージ
2.リンパ球サブセット
3.T細胞の種類
4.TCR(T cell receptor)の構造
5.B細胞の種類
6.抗体の種類
第4章 B細胞の分化と成熟
1.分化、成熟(differentiation, maturation)
①多発性骨髄腫
②B細胞型の悪性リンパ腫(malignant lymphoma)
2.B細胞の抗原認識受容体(Ig)の遺伝子
3.抗体の働き
①抗原の凝集
②補体とともに膜の溶解
③ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)
第5章 T細胞の種類 part1
1.T細胞の抗原レセプター(TCR)
2.TCRのシグナルを伝える分子
-CD3 complex
3.胸腺内分化T細胞と胸腺外分化T細胞
4.CD4⁺T細胞の認識
5.CD8⁺T細胞の認識
6.Th0、Th1、Th2細胞
7.T細胞の胸腺内分化
8.胸腺外の分化
第6章 T細胞の種類 part2
1.TCR遺伝子の再構成(rearrangement of TCR genes)
2.クローンの拡大
3.Tc細胞の働き
4.Th細胞の働き T-B cell interaction
5.リンパ球の抗原提示
6.胸腺外分子T細胞が働くとき
7.ガン化
第7章 主要組織適合抗原 part1
1.移植の拒絶抗原
2.抗原提示分子
3.構造
4.分布
5.ヒトとマウスMHC
6.MHCの遺伝子
7.TCRの認識
第8章 主要組織適合抗原 part2
1.リンパ球の抗原認識と分裂
2.抗原とMHCの結合
3.Polymorphic MHCとmonomorphic MHC
4.HLAのタイプと疾患感受性
5.MHC以外の拒絶タンパク
6.その他
第9章 サイトカインの働きと受容体
1.サイトカインの歴史
2.サイトカイン
①IL-1
②IL-2(TCGF)
③IL-3
④IL-4、IL-5、IL-6
⑤IL-7
⑥IL-8
⑦IL-9
⑧IL-10
⑨IL-12、IL-15、IL-18
⑩IFN(interferon:インターフェロン)
⑪TGFβ(transforming growth factor)、TNFα(tumor necrosis factor)
⑫Fas ligand
3.サイトカイン受容体
①γcを共有するサイトカイン受容体
②βcを共有するサイトカイン受容体
③gp130(glyoprotein130)を共有するサイトカイン受容体
4.ケモカイン(chemokine)と接着分子
5.細菌毒素LPS(lipopoly sacharide)
第10章 自然免疫
1.外界に接する場所の抵抗性
2.細胞の抵抗性
3.補体
4.補体の働き
5.補体のタンパク群
6.活性化の経路
7.古典経路
8.代替経路
9.レクチン経路
10.補体の産生部位
11.補体レセプター
12.細胞膜上にある補体活性抑制因子
13.遺伝子
14.補体遺伝子の欠損
第11章 膠原病 part1
1.自己の認識について
2.自己認識のステップ
3.自己免疫疾患の誘因
①MAG
②甲状腺細胞のミクロゾーム
③胃壁細胞
④核、ヒストン
⑤目の水晶体、ブドウ膜
⑥精子
⑦modified self
4.自己免疫疾患の分類
5.自己障害のメカニズム
①自己抗体
②補体の活性化
③マクロファージの活性化
④リンパ球の直接攻撃
⑤免疫複合体(immune complex)
⑥血管内皮細胞の炎症
6.SLE
第12章 膠原病 part2
1.進化した免疫系の抑制
2.中枢神経系の自己免疫疾患
3.内分泌器腺の自己免疫疾患
4.消化管・肝の自己免疫疾患
5.腎の自己免疫疾患
6.心臓の自己免疫疾患
7.眼の自己免疫疾患
8.皮膚の自己免疫疾患
9.Chronic GVH病
10.老化
11.動物モデルと自己免疫疾患
第13章 神経・内分泌・免疫
1.ストレスと生体反応
2.急性症状
3.急性症状が出る仕組み
4.急性症状はストレスに立ち向かう反応
5.交感神経と顆粒球の運動
6.慢性症状
7.ストレスの要因
8.ミトコンドリアへの負担
9.ミトコンドリアとステロイドレセプター
10.ストレスと免疫抑制
11.解糖系でエネルギーを作る細胞(ミトコンドリアの少ない細胞)
12.受精とは何か
13.ヒトの一生
14.調和の時代にストレスを受け続ける
15.生体の治癒反応
16.副交感神経優位(楽をして生きる)でも病気
第14章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part1
1.白血球の自律神経支配
2.日内リズム、年内リズム
3.新生児の顆粒球増多
4.消炎鎮痛剤
5.生物学的二進法
第15章 免疫系(防御系)と自律神経の関係 part2
1.アレルギー疾患
①アナフィラキシーショック
②アトピー性皮膚炎、気管支喘息、通年性鼻アレルギー
③食物アレルギー
④花粉症、蕁麻疹
⑤化学物質過敏症
⑥寄生虫感染
⑦寒冷アレルギー、薬物アレルギー、紫外線アレルギー、金属アレルギー
⑧乳児アトピー
2.顆粒球増多と組織破壊の病気
①突発性難聴[内耳](idiopathic sudden sensorineural, sudden deafness)
②メニエール病[三半規管](Meniere disease)
③歯周病(periodontitis)
④食道炎(esophagitis)
⑤びらん性胃炎(erosive gastritis)→胃潰瘍(gastric ulcer)
⑥十二指腸潰瘍(duodenal ulcer)
⑦クローン病(Crohn’s disease)
⑧潰瘍性大腸炎(ulcerous colitis)
⑨痔疾(hemorrhoid)
⑩子宮内膜症(endometriosis)
⑪不妊症(infertilitas)
[子宮内膜症(endometriosis)、卵管炎(salpingitis)、卵巣嚢腫(ovarian cyst)]
⑫膵炎[急性・慢性](pancreatitis[acute・chronic])
⑬腎炎・腎盂炎(nephritis・pyelitis)
⑭膀胱炎(cystitis)
⑮骨髄炎(myelitis)
⑯間質性肺炎(interstitial pneumonia)
第16章 移植免疫
1.移植(transplantation)と拒絶(rejection)
2.MHC
3.移植
4.純系
5.拒絶の速さ
6.純系と拒絶
7.移植のしやすさ―MHCの発現量
8.HLAタイピング
9.骨髄移植(bone marrow transplantation)
10.GVH病(GVHD:graft-versus-host disease)
11.反応するリンパ球
12.新生児免疫寛容(neonatal tolerance)
13.拒絶に関与するほかの白血球
14.non MHCによる拒絶
15.免疫抑制剤(immunosuppressant)
16.Hybrid resistance
17.輸血によって生着率上昇
第17章 免疫不全症
1.先天性免疫不全症(primary immunodeficiency)
①wide type(野生型)の血液像(FACSを用いたCD3、IL-2Rβ二重染色)
②胸腺無形成症(thymic aplasia)
③重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
2.重症複合免疫不全症(scid:severe combined immunodeficiency)
①X-scid(伴性劣性遺伝) X連鎖重症複合免疫不全症
②常染色体劣性遺伝型-scid
③scidマウス
④RAG-1/RAG-2ノックアウトマウス
3.胸腺無形成症(thymic aplasia)
4.無γグロブリン血症(agammagloblinemia:伴性劣性遺伝)
①Bruton X-kinked agammagloblinemia(XLA:X連鎖(ブルトン型) 無γグロブリン血症)
②IgA欠損症(selective IgA deficiency)
③X連鎖高IgM症候群(hyper IgM syndrome)
④ウイスコット-アルドリッチ症候群(WAS:Wiskott-Aldrich syndrome)
⑤毛細血管拡張性運動失調性(AT:ataxia telangiectasia)
⑥ディ・ジョルジ症候群(Di George症候群)
5.T細胞B細胞以外の異常症
①慢性肉芽腫(CGD:chronic granulomatous disease)
②Chediak-東症候群(CHS)
③beige mice(ベージュマウス)
6.後天的免疫不全症(acquired immunodeficiency)
7.免疫抑制剤(immunosuppressive drug)
8.抗ガン剤(anticancer drug)
9.ステロイドホルモン(SH:steroid hormone)
10.NSAIDs(nonsteroidal anti-inflamatory drugs)
11.常在菌による感染症
12.乳児一過性低ガンマグロブリン血症(transient hypogammaglobulinemia)
第18章 腫瘍免疫学
1.免疫系の二層構造
2.ガン細胞を排除している証拠
3.腫瘍抗原
4.エフェクター(攻撃)リンパ球
5.腫瘍ができるための条件
6.ストレス反応の意義
7.ガン細胞の特徴
8.ガン患者の免疫状態
9.キラー分子群
10.解糖系とミトコンドリア系
11.アポトーシスとその抑制
12.ガンの免疫療法
13.治療(自然退縮)の条件
14.そのほかの免疫療法について
15.結論
あとがき
まえがき
第1章 免疫学総論 part1
1.免疫学の歴史
●免疫の歴史はウィルスや細菌の概念ができる前、予防接種の考え方ができたのは、ペストが治まった後の18世紀後半で、イギリスで天然痘が大流行した時代である。
●1900年に近い時代に、ジェンナーからパスツール、コッホへと免疫の歴史は展開されていった。また、この頃から顕微鏡が使われるようになって、遊走細胞(マクロファージ)が体内に入ってきた細菌を貪食して、無毒化するという観察や考え方が出てきた。
●光学顕微鏡で見える細菌、光学顕微鏡でも見えないウィルスという2つの微生物による感染症があることが分かった。
●抗体に相当するものの存在の発見は、コッホの見つけた抗毒素がきっかけとなった。
2.身体の防御システム
●身体の防御システムとは抗体やマクロファージのことであるが、広くみれば白血球とつながっている。
●身体の特殊化した細胞には異物から守るちからはないので、白血球が防御細胞として身体を守っている。
●単細胞時代のアメーバの性質を残したマクロファージと白血球はつながっている。
3.白血球の進化
●脊椎動物になったあたりから白血球の進化が起こった。マクロファージから進化した顆粒球(顆粒がたくさんあるから顆粒球)である。
●顆粒球は細菌より小さいウィルスのような異物には対応できない。一方、同じくマクロファージから進化したリンパ球によって貪食される。
4.リンパ球の性質
●免疫記憶は身体に侵入してきた微生物(病原菌)の量や増殖に掛かっている。ワクチンのような微量では強い免疫はつくられない。
●抗体は分子量が10,000Da(ダルトン)以上の大きさであれば認識できる。※Daとは炭素12原子の質量の1/12相当の質量の単位
●分子量が小さい場合、身体のタンパク質に吸着することによって抗原になる場合がある。
●抗体と反応するものを抗原といい、ほとんどタンパク質である。また、ウィルスはDNA、RNAを有するが周りはタンパク質である。
●タンパク質はアミノ酸から作られるが糖と結びつくことも多く、糖タンパク質と呼ばれる。この糖タンパク質に対しても抗体は反応する。
●リンパ球は抗体をつくる一方、リンパ球は分裂するクローンによって拡大する。このリンパ球の分裂にかかる時間が潜伏期間である。
●潜伏期間の次に、抗原と抗体の免疫反応が始まり、発熱が起こる。
●発熱が起こる理由は、ウィルスと戦うための抗体を産生するには、代謝を亢進させる必要があるからである。
●WHOの統計に風邪をひいて治るまでに平均2.5日とされているが、風邪薬を飲むと4日に延びるとされているのは、薬が代謝の活性を落とすからである。
●発熱に関与する因子は、プロスタグランジンやインターロイキン1(IL-1)などがある。
●マクロファージや顆粒球は異物を食べる反応なので、潜伏期間は不要であり、傷口が化膿したり細菌が入ったりしたらすぐに反応が始まる。
5.リンパ球の産生と分布
●抗体を作るリンパ球は、中枢リンパ組織(胸腺と骨髄)で作られ末梢リンパ組織に分布している。
●胸腺はthymusなので、胸腺で作られるリンパ球はTリンパ球と呼ばれている。Tリンパ球、Bリンパ球は末梢血、リンパ節、脾臓に移動して働く。
●血液中のリンパ球は35%であり、60%は顆粒球、5%はマクロファージである。
●巡回していて何か抗原が入ってきたとき、リンパ球は血管から遊走して外に出て働く、あるいは抗体を作る。
●リンパ節は顎下リンパ節、鼠径リンパ節などがあり、T細胞とB細胞が存在している。脾臓では白脾髄にリンパ球、赤脾髄に赤血球が存在している。前者は血液中に入った抗原を処理し、後者は古くなった赤血球を壊す。
●リンパ節のリンパ球は抗原が組織に入ってきた時、リンパ液でとらえリンパ管で抗原を集めて、リンパ節に持ってきて戦う。
6.Tリンパ球とBリンパ球
●T細胞(Tリンパ球、Tcell)は、細胞自ら抗原と反応し、T細胞レセプターで抗原を捕える。このように細胞が自ら反応する仕組みなので細胞性免疫という。
画像出展:「日本がん免疫学会」
『からだを守る免疫細胞はさまざまな方法で異物や病原微生物、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞と戦います。
ここでは、その戦い方の一つである細胞免疫について解説します。細胞性免疫とは、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞を、抗体などを介さずに免疫細胞そのものが直接攻撃するタイプの免疫反応です。細胞性免疫の中心をになう免疫細胞はT細胞ですが、活躍するのはCD4ヘルパーT細胞とCD 8キラーT細胞です。
CD4ヘルパーT細胞は免疫の司令官とも言われ、様々な免疫細胞に、がん細胞やウイルス感染細胞に対する「攻撃始め」の指示を出します。CD4ヘルパーT細胞は主に2つの系統の戦い方を指示します。CD8キラーT細胞を始めナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージと呼ばれる異常細胞の直接攻撃を得意とする細胞を活性化し、細胞性免疫という戦い方を指揮するのが1型CD4ヘルパーT細胞であり、B細胞を刺激して抗体を産生させる液性免疫という戦い方を指揮するのが2型CD4ヘルパーT細胞です。主にこの2つの戦法を上手く組み合わせて効率よく異常細胞を排除することで、私達のからだは病原体の侵入やがんの発生から守られているのです。この免疫の司令官がいかに重要かということは、CD4ヘルパーT細胞が失われる病態で顕著に示されます。例えばHIV(エイズウイルス)はCD4ヘルパーT細胞に感染し、破壊することで全身の免疫不全を引き起こします。その結果、通常は致死的にならないような弱毒微生物のまん延を許し、患者を死に至らしめます。』
7.主要組織適合抗原
●ヒトの身体は同じようなタンパク質でできており、アミノ酸配列も同じである。しかしながら、移植によって拒絶反応が起きる。これは主要組織適合抗原(MHC)という物質によるものであり、この主要組織適合抗原は個人間でアミノ酸配列が異なる。また、主要組織適合抗原はT細胞の認識抗原である。
●抗体はB細胞から分泌されて、直接抗体の立体構造で抗原を認識するが、T細胞の場合は主要組織適合抗原と抗体がくっついた分子をT細胞レセプターがまとめて認識する。
●主要組織適合抗原は移植の拒絶抗原というより、組織細胞に入った抗原を捕まえるためのタンパク質と考えるのが正しい。
●ペストや天然痘が猛威をふるっても生き延びる人が必ずいるのは、リンパ球が認識する能力は個人ごとにアミノ酸配列が異なるため多様性がでるからである。抗原の認識の違いによってT細胞の働きが個人間で全く異なる。ある人は免疫が強く出る、ある人はほどほど、ある人は弱く出る。
●免疫は強いことがプラスになる場合がある一方、強すぎてアレルギーなどに苦しむ原因にもなる。
●主要組織適合抗原の多様化は、特に哺乳動物で進化した。恐竜は5000万年前絶滅したが、主に夜行性の食虫動物として生存していた哺乳類は小さくて弱いが、免疫システムに関しては爬虫類より進化し、多様性が高かった。
●移植に関しては邪魔者といえる、主要組織適合抗原は生き延びるための戦略であった。
8.免疫が関与する疾患
①感染症:ウィルス感染、一部細菌感染
●細菌類は主に顆粒球が攻撃して治癒させる。
●ウィルスと一部の細菌感染では、免疫が働く。
②アレルギー疾患:アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシー
●アナフィラキシーは薬物アレルギーにも見られるが、薬物(通常分子量200~400くらいの小さなものが多い)はアルブミンなどについて全体で抗原となってアナフィラキシーショックを引き起こす。
③移植の拒絶
●移植における拒絶は、主要組織適合抗原が個人間で多様化し、タンパク質が異なるために起こる。
④自己免疫疾患(膠原病)
●膠原病と言われているのは、コラーゲンなどの膠原線維が炎症に関わっているためである。
⑤加齢現象
●加齢減少も免疫と関係している。
●自己免疫疾患を起こす抗体を自己抗体といい、自分の核やDNA、RNA、ミトコンドリアなどに抗体ができるものである。高齢者では健康な人でも自己抗体が病気の人と同じくらいのレベルである。何故、高齢者が自己免疫疾患にならないかというと、高齢者では老化した異常細胞やガン化した異常細胞を排除することに自己抗体がプラスに働いているからである。つまり、ほどよく自己抗体が出た人が、病気にならず長生きするということである。
⑥妊娠―つわり、流産
●父親の遺伝子も受け継ぐ胎児は母親にとって異物になる。流産、つわりは免疫現象が関わっており、リンパ球や自己抗体が自らを攻撃する。しかし、拒絶に至らないのも免疫、古いタイプの免疫システムが関与しているからである。
⑦ガン免疫
●ガンにおいても免疫が働く。免疫抑制剤や免疫抑制作用のあるステロイドを長期間していると、発ガン率が高くなることでも免疫によるガン抑制効果はある。
⑧先天性免疫不全症
●先天性の免疫不全症の子供には、悪性腫瘍を合併することが多い。
2 fasciaの病態
③ ファシア疼痛症候群(FPS)の提唱
・ファシア疼痛症候群(fascia pain syndorome:FPS)とは、「fasciaの異常によって引き起こされる知覚症状、運動症状、および自律神経症状を呈する症候群」である。
・従来、筋膜の異常による痛みやしびれを引き起こすものは、筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome:MPS)と呼ばれてきたが、痛みの原因は筋膜に限らず、靭帯、支帯、腱膜、関節包などの線維性の結合組織を含む「fascia」にあることが分かり、MPSに代わる新しい概念としてFPSが提唱されている。
3 fasciaから再考する各種病態
④ 末梢神経の病態
●fasciaから再考する神経障害性疼痛
・圧迫や損傷などによる器質的な神経線維の異常(断裂や浮腫などによる電気活動の途絶)は、神経機能の低下(感覚神経:鈍麻、運動神経:筋力低下・麻痺、深部腱反射低下・振動覚低下、膀胱直腸障害)をきたす。この種の症状は、日内変動・週内変動などの症状変動はなく、24時間一定の強さであることが特徴である。
・ピリピリやビリビリなどの痛みや異常感覚・知覚過敏の症状は、神経周囲のfascia、神経上膜のfasciaの異常、さらには末梢神経内の線維fibrils(例:束間神経上膜、神経周膜)や動静脈を構成するfasciaからのシグナルを神経線維が受けて生じていると考えられる。
・末梢神経近傍のfascia異常による機能的な神経障害(末梢神経感作:持続的な侵害受容器への刺激による後根神経節)の場合でも、その「痛み」の原因は、末梢の侵害受容器に刺激を与えているfasciaの異常であることは稀ではない。
・神経障害性疼痛は、器質的神経障害と機能的神経障害の2つの分類も提唱されているが、両者とも末梢のfasciaの問題である可能性がある。
・末梢神経分布に合わない手指のしびれ感は、fasciaの異常による機能的神経障害性疼痛であることが多く、骨間膜や支帯など神経から少し離れたfasciaが影響していることも少なくない。
⑤ 血管の病態(冷え症を含む)
・アンギオソーム(angiosome)とは、体組織がどの源血管によって血液供給されているかを表した血流地図である。
・血管周囲のfasciaには自由神経終末が豊富に存在し、この部位のリリースは慢性痛や交感神経に関係する疼痛に効果的であると考えられる。また、リリース後に血流改善を自覚する患者が多い。
画像出展:「Doctorlib」
●血管外層とfasciaは連続する
・動脈は3層構造(血管内皮細胞:内側から内膜、中膜[平滑筋や弾性繊維]、外膜[膠原繊維])で構成される。
・末梢神経終末は動脈周囲結合組織から外層に広く分布し、一部は外膜を貫通して、外膜と中膜の間に網目状に広がる。
・大血管の周囲には交感神経幹が、末梢血管の周囲にも交感神経が分布している。
・動脈の外膜と末梢神経を含む周囲結合組織の境界は連続しており、分離は困難である。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
交感神経幹は左端の脊髄右隣にあり、頭側、頸部には上中下の各神経節があります。
なお赤は交感神経、青は副交感神経です。それぞれ実線は節前線維、破線は節後線維です。
●fasciaで考察する血管周囲のリリース
・血管周囲のfascia異常は交感神経を介する痛みの原因になると考えらえるが、さらに、平滑筋の収縮によって末梢血流を低下させている。
・交感神経の異常は長引く痛みやしびれ、冷えなどに影響を与える可能性が高い。
・血管周囲の異常なfasciaをリリースすることにより、交感神経や末梢神経への異常入力を改善すると考えられる。
●血管周囲のリリースは血流低下に伴うしびれや浮腫、末梢の冷えなどに有効な場合がある
・局所の慢性的な交感神経緊張は、体温の低下や身体の冷えなどの症状の原因になる。
・皮膚への鍼刺激は脊髄の軸索反射を介して、神経末梢からサブスタンスPなどの血管拡張物質が放出され、皮膚血管拡張による皮膚血流増加をもたらす。
・fasciaリリースは冷え性および冷え症の治療効果も確認されている。なお、病態としては以下の3つが考えらえる。
1)冷えに関する受容器(ポリモーダル受容器、温度受容器、広閾値機械受容器など)が何らかの原因により過敏となり、冷えという感覚刺激を中枢に伝えている。
2)動脈周囲のfasciaの異常信号が関与している。
3)熱産生能力の低下(偏った食生活、運動不足、不適切な靴・靴下・衣類などの生活要因)による影響。
・fasciaリリースの治療部位は、皮下組織や支帯などの浅い部位、動脈周囲になることが多い。
⑥ fasciaと自律神経症状
●自律神経症状とは
・自律神経症状があると、「自律神経失調症」と診断されることが多いが、全身性のものか局所性のものか等、慎重に評価する必要がある。
●fasciaと自律神経症状
・末梢からの神経刺激は、閾値を超える一定の刺激がない限り、脊髄、視床を通過して脳へ伝わらない。ただし、末梢に病態があって疼痛閾値が下がっていたり、全身の疼痛閾値を下げる病態がある場合は、弱い刺激であっても脳へ伝達される。
・頭頚部(発生学的には鰓弓由来の組織)に生じた発痛源(顎関節、歯科領域)は脊髄という関門は通らず、さまざまな症状をきたしやすい。
・血管周囲のfasciaと神経周囲のfasciaの双方が関わっていることは多い。
●自律神経の全体と局所のバランスの分析、および対応方法
・自律神経の不調は局所の交感神経緊張の過剰状態から始まる場合が多い。
・①に対する②の反応の例としては、注射の痛みに対する迷走神経反射(血圧低下、徐脈、嘔気、倦怠感)がある。
・損傷、外傷による症状が①の反応のみで軽快すれば、急性痛で終わる。しかし、①が持続する場合、全身の副交感神経緊張による様々な症状が出てくる傾向がある。
・自律神経症状を伴いやすい局所の筋膜性疼痛としては、頚長筋が有名である。
・①頚長筋の緊張(fascia異常)は、星状神経節などの局所の交感神経の過剰緊張を引き起こし、②の反応の常態化(起立性低血圧、頚動脈過敏症候群、ドライアイなどの乾燥症状)を引き起こす。
・②が継続していると、全身のバランスをとるために③の反応(動悸、頻脈、発汗、冷え性など)が生じやすくなる。この状態は全身の過度の交感神経緊張を意味する。
・緊張しきれなくなった副交感神経および交感神経は、最終的には「虚脱」し、あらゆる刺激に敏感な状態になると考えられる。
4 エコーガイド下fasciaリリースとは
②fasciaリリースの種類と適応
●筋膜 myofascia
・myofasciaは筋全体および筋線維を包む結合組織であり、筋外膜、筋周膜、筋内膜を合わせた総称である。
・実際に筋膜をリリースする場合は、これらのmyofasicそのものというより、筋間膜(筋またはそれに続く腱の外側の空間[皮下、筋外膜間、骨膜と筋膜の間、腱の周囲など])のリリースであり、主として筋外膜とそれに連続するdeep fasciaのリリースを意味する。この部分には多くの神経や血管が走行している。
●支帯 retinaculum
・支帯は四肢の関節付近に存在し、deep fasciaを補強する薄くて柔軟なfasciaである。多くのアトラス[図集]では独立した組織として描かれているが、実際はdeep fasciaが局所的に肥厚したものと推察されている。
・支帯は関節運動時に腱を関節に引き付けておくプリ―システムとして働くが、関節の構造的安定に対する寄与は大きくない。
・周囲の骨、筋、腱などに多くの線維的結合を有し、安定した位置を保つことと同時に、力のさまざまな方向への伝達を媒介する。
・固有感覚受容器に富み、固有感覚においても大きな役割をもつと考えられている。
・支帯のfasciaリリースによって、末梢の循環やしびれ、むくみ、支帯の下を走る筋群の滑動性などが改善することが多い。
・圧痛は検出できないことが多く、皮膚をつまんだ時の痛みが参考になる。
●靭帯 ligament
・靭帯の主成分はコラーゲンだが、エラスチン線維も豊富に含む強靭な密性結合組織であり、骨と骨を結び付けて関節を安定させる。
・fasciaリリースにおいては注入時の痛みも強く、抵抗も比較的強いため十分な配慮が必要である。
●腱 tendon
・腱は靭帯と比べるとエラスチン線維は非常に少ないが、靭帯同様、強靭な密性結合組織で筋と骨を結び付ける。
●腱鞘 tendon sheath
・腱鞘は細長い筒状組織で、指の屈筋腱のように細やかな機能に加えて、外力からの耐久性が必要とされる腱組織を包んでいる。
・腱鞘は2層構造になっていて、内側の滑液包、外側の線維性組織から構成される。
・一般的な腱鞘炎では腱鞘内に局所注射(ステロイド薬)を注入する場合が多いが、この腱鞘自体を同時にリリースすることが有効である。ばね指の場合は、掌側板も同時にリリースするとさらに有効である。
・腱鞘は両側にある固有掌側指動静脈・神経に注意する。
●関節包 articular capsule
・関節包は関節を包む結合組織で、外側は線維性の膜、内側は滑膜の二重構造になっている。
・膝関節包や肩関節包など部位によって構造と機能に違いがある。この違いを理解してリリースすることが重要である。
・重症の凍結肩(五十肩)に有効で、適切に行うと可動域が驚くほど改善する。
●脂肪体のfascia(fascia of fat pad)
・脂肪体には、神経血管の保護、周辺組織との滑動機能の維持などの他に、“痛覚センサー”としての機能が注目されている。
・解剖学的には脂肪体は、靭帯、腱にも匹敵する強固なものから、柔らかいクッションのようなものまであり、1つの脂肪体に混在している。ここに癒着が起こると、関節の可動域制限や疼痛が生じる。
●末梢神経のfascia(neural fascia)
・fasciaリリースの対象となる末梢神経を構成する線維性の組織には、傍神経鞘、神経上膜などの神経の外層部、多数の神経束を包む神経周膜、神経周膜と神経周膜の間にある束間神経上膜、および神経内膜がある。
●脳髄膜系のfascia(meningeal fascia)
・棘突起に沿った正中部の頑固な痛みの場合、脳髄膜系のfasciaとして特に、硬膜・黄色靭帯複合体の治療を検討する。しかし、この部位の治療は難易度、リスクともに高い。
●血管のfascia(vascular fascia):動脈 artery、静脈 vein
・動脈は内膜、中膜、外膜の3層構造であり、外膜と周囲のfasciaの境界は連続してはっきり区別できない。
・動脈リリースは、外膜および外膜に連続するfasciaのリリースである。血流の低下による末梢の冷え、しびれ、浮腫などに効果がある。
・血管周囲には交感神経が存在し、この部位のfasciaリリースは交感神経への異常入力を改善させる可能性がある。
●創部・瘢痕
・開腹術後、開胸術後、開頭術後、四肢の術後など、さまざまな外科領域の術後創部が適応となる。
・術後の瘢痕や周囲組織との癒着は、皮膚・皮下組織の可動性を低下させ、全身の可動域制限に影響していることも多い。
・長年原因が不明であった術後創部の癒着がfasciaリリースによって改善することも少なくない。
・瘢痕部のfasciaリリースで症状が改善しない場合は、近傍の末梢神経や血管周囲のfasciaリリースを追加することが多い。
6 治療部位・発痛源の評価
⑦多様な関連痛マップ(dermatome、myotome、fasciatome、angiosome、venosome、osteotome)
●デルマトーム dermatome
・各脊髄分節が支配する皮膚感覚領域の分布。
・深部腱反射や筋力評価とともに、脊髄疾患での病巣高位を判断するのに有用となる。
・デルマトームには様々な種類の報告があり、検証法も様々でその分布のバリエーションも多い。
●ミオトーム myotome
・各脊髄分節が支配する運動神経の分布。
・脊髄分節が支配する筋の筋力低下や筋委縮の有無から、脊髄疾患や神経根症状の病巣高位を診断するのに有用となる。
・神経根周囲のfasciaに異常が生じた場合、デルマトームの分布に沿った疼痛やしびれとともに、ミオトームの分布に沿った筋力低下や筋委縮が出現する場合もある。
●ファシアトーム fasciatome
・deep fasciaの感覚は各脊髄分節が支配しており、デルマトームにおける表在の皮膚感覚とは異なる分布を示しているというもの。
・ファシアトームでの神経支配分布は、四肢の分節間(上肢の場合、肩部-上腕-前腕-手部など)をつなぐfasciaの張力伝達と密接に関わり合うとされている。
●アンギオソーム angiosome
・体組織がどの源血管によって血液供給されているかを表した血流地図であり、形成外科医の皮形成術に用いられていたもの。
・アンギオソームは動脈の血流地図であり、以下が確認できる場合に対象血管を治療部位として選択する。
①従来の発痛源評価により普段の痛みが再現されない、または一定しない。
②アンギオソームの領域に一致した症状が認められる。
●ヴェノソーム venosome
・ヴェノソームは静脈の血流地図であり、以下が確認できる場合に対象血管とし選択する。
①従来の発痛源評価により普段の痛みが再現されない、または一定しない。
②ヴェノソームの領域に一致した症状が認められる。
③四肢末端の症状の場合には、近位に駆血帯を巻き症状に増減が認められる。
●オステオソーム osteotome
・各脊髄分節が支配する骨膜の感覚領域と固有神経支配領域の分布図であり、デルマトームにおける皮膚感覚の分布や、ファシアトームで提唱されたdeep fasciaの感覚分布とは異なる分布を示す。
・坐骨神経痛と診断される患者の多くで、殿部と下腿前外側の疼痛を主訴として訴える場合がある。この際、大腿部に疼痛がない場合も多く、デルマトームの分布とは感覚領域が一致しない。しかし、オステオソームに当てはめて考えると、殿部と下腿前外側の骨膜は第5腰髄神経根の支配領域として当てはまる。
そして、下の図にあるように、血管と神経の多くは一体的に存在していることが分かります(断面の赤点が動脈、青点が静脈です)。
一方、特に重要とされているツボ(経穴)の中には動脈近傍に存在するものが多くあります。同様にツボと神経の関係性も多く論じられてきました。
このように考えると、鍼とファシアの関係性を考える時、膜(筋膜や腱膜、関節包など)としてのファシアと、ファシアによって保護と方向性を与えられた神経、血管・リンパ管ということが、最も重要な関係性ではないかと思われます。
画像出展:「Nobelpharma」
『リンパ系はリンパ管、リンパ節などの組織で構成されており、リンパ管の内部には、リンパ液という液体が流れています。全身をめぐる血液の一部は、全身の細い血管(毛細血管)から染み出して体の隅々(末梢組織)まで酸素や栄養素を届けた後に、一部は再び血管に戻ります。戻らなかった水分(組織液)やさまざまな老廃物などは毛細リンパ管に入り、リンパ液となります。
毛細リンパ管は集まってリンパ管となり、最終的に静脈に流入します。これがリンパ管のネットワークです。きれいな血液を届ける血管を上水道に例えるなら、リンパ管は老廃物を集めて運ぶ下水道にあたる器官といえる存在です。またリンパ管の途中にあるリンパ節は浄水場のように、リンパ液を浄化するはたらきがあります。』
血管には栄養素と酸素、さらに様々な生理活性物質が流れており、東洋医学の“気・血”を連想させます。これはまさに生きるためのライフラインです。
神経は心身をコントロールしている”脳”に現状を伝え、そして脳から指示を受けるという情報のライフラインです。
鍼の刺激を物理的刺激と考えれば、ファシアへの機械的刺激や電気的刺激を通じて、この2つの極めて重要なライフラインを活性化することで心身に新風を送っているのではないかと思います。
この事を考えていて、専門学校時代にツボ(経穴)と動脈や神経についての資料を作ったことを思い出しました。懐かしいので添付させて頂きます。
2017年12月、ブログ”エコーガイド下fasciaリリース”の中で、『解剖・動作・エコーで導く Fasciaリリースの基本と臨床』という本を紹介させて頂いているのですが、この本の第2版である、『解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床 第2版』は、既に2017年3月に発行されていました。
その意味では既に5年以上経過してしまったわけですが、私にとって”ファシア”はまだまだ不勉強な部分が非常に多く、また、”腎・腎臓”と並び、最も興味深いテーマなので繰り返し学習しながら、徐々に理解度をアップできればいいなと思っています。
なお、ブログは目次の黒字部分になりますので、ごく一部ということになります。
目次
1 fascia(ファシア)とは
① fasciaの歴史・定義の変遷―実態・認識・言葉の狭間で
column 雲とfasciaの類似性
② fasciaは西洋医学と東洋医学の架け橋
③ fasciaの解剖生理
column Dr.Jean-Claude Guimberteau とfascia
2 fasciaの病態
① fasciaの疼痛学
column fasciaの発痛源は「神経」か?
② fasciaと画像評価
column エコー技術の発展とfasciaの病態解明
③ ファシア疼痛症候群(FPS)の提唱
④ fasciaの病態に関わる代表的な用語(癒着、柔軟性など)
⑤ 癒着のGrade分類
3 fasciaから再考する各種病態
① 診断とは何か? 病名と診断名の再考
column 不定愁訴とは? 原因不明とは?
② 関節の病態
column 病名の再区分―thumb pain syndrome
③炎症性疾患との関係
④ 末梢神経の病態
⑤ 血管の病態(冷え症を含む)
⑥ fasciaと自律神経症状
⑦ 局所と中枢の治療戦略
4 エコーガイド下fasciaリリースとは
① エコーガイド下fasciaリリースの技術開発、命名の歴史的経緯
② fasciaリリースの種類と適応
column 末梢神経リリース
③ エコーガイド下ハイドロリリースとは?
column ハイドロリリースという言葉が生まれた背景
④ hydrorelease と hydrodissection およびブロックの違い
5 fasciaリリース評価と治療概論
① さまざまなfasciaリリース(注射、鍼、徒手など)の方法とその組み合わせ方
column 針・鍼の先端の形状と組織侵襲性
column 鍼は本当に神経や血管を避けるのか?
column 注射療法+徒手療法(passive manipulation with hydrorelease)
② 注射手技と効果測定の全体像
③ 注射の治療効果判定
column リリースで悪化する場合(圧痛による治療部位選定のピットフォール)
6 治療部位・発痛源の評価
① fasciaリリースのための診察の流れ
column fascia治療に関する適切な用語は?
② 触診―触診方法のコツ
column 医師が鍼を使う意義
③ 触診―触診の学習方法
column エラストグラフィを活用したエコーガイド下触診教育
④ 動作分析と可動域評価
column pROMの全身評価の方法:real anatomy train
⑤ pROMとnerve tension test
column エコーを用いた坐骨神経の滑走評価nerve gliding test
⑥ fascia治療におけるエコーの活用法
⑦ 多様な関連痛マップ(dermatome、myotome、fasciatome、angiosome、venosome、osteotome)
7 エコーガイド下fasciaハイドロリリースの方法
① 穿刺および注射針の操作技術―注射針・シリンジ・薬液の選択
column fasciaハイドロリリースにおけるステロイド薬の適応
② fasciaハイドロリリースに伴う合併症
③ 安全で確実に注射するための工夫と学び方
④ 安全確実なfasciaハイドロリリースのための教え方(気胸を克服する)
8 エコーガイド下fasciaハイドロリリース(US-FHR)の実践
① エコーガイド下fasciaハイドロリリースの学習法
② エコーガイド下fasciaハイドロリリースの難易度一覧
A 頸部
① 頭半棘筋/大後頭筋/下頭斜筋(ランクA)
② 中斜角筋/後斜角筋/第1肋骨(ランクC)
③ 胸鎖乳突筋裏(C2~3レベル)(ランクB)
④ C8神経根周囲のfascia(ランクC)
⑤ 側頭筋/外側翼突筋(ランクC)
⑥ C1/2の黄色靭帯・背側硬膜複合体(ligamentum flavum/dura complex:LFD)
B 肩関節
① 肩峰下滑液包と三角筋滑液包(ランクA)
② 烏口上腕靭帯(ランクA)
③ 三角筋筋内腱(ランクA)
④ 小円筋/上腕三頭筋(長頭)/腋窩神経、下後方関節複合体(ランクC)
C 上肢帯
① 僧帽筋/棘上筋(ランクA)
② 棘下筋(横走線維/斜走線維)(ランクA)
③ 腋窩動脈周囲のfascia(腋窩鞘)(ランクC)
D 上肢
① 橈骨神経周囲のfascia(上腕遠位部)(ランクB)
② 尺骨神経周囲のfascia(Struthers腱弓)(ランクB)
③ オズボーンバンド(ランクB)
④ 長短橈側手根伸筋・総指伸筋/回外筋(ランクA)
⑤ 手関節部の伸筋支帯(ランクB)
⑥ 手関節部の屈筋支帯(ランクB)
⑦ 正中神経(束間神経上膜)(ランクC)
E 体幹
① 胸腰筋膜(ランクA)
② 腰部多裂筋(ランクA)
③ 腰椎横突起腹側(腰方形筋付着部)(ランクA)
④ 腰椎椎間関節包(ランクB)
⑤ 術後創部痛(ランクB)
F 下肢帯
① 中殿筋/小殿筋/腸骨(ランクA)および中殿筋/小殿筋/股関節包(ランクA)
1.中殿筋/小殿筋/腸骨
2.中殿筋/小殿筋/股関節包
② 梨状筋(ランクB)
③ S1後仙骨孔(ランクC)
④ 坐骨神経(ランクC)
G 下肢
① 鵞足/内側側副靭帯(ランクA)
② 伏在神経周囲のfascia(膝関節周囲)(ランクB)
③ 半腱様筋/半膜様筋(ランクA)
④ 膝窩動脈周囲のfascia(ランクC)
⑤ 総腓骨神経周囲のfascia(ランクB)
⑥ 足関節部の上肢筋支帯(ランクB)
⑦ 足根洞(ランクC)
9 症例提示―fasciaハイドロリリースの実践が進む分野
① 症例1 整形外科医の腰痛
② 症例2 若手女性の上肢痛の原因は「顎関節」
③ 症例3 歯科領域への応用(新しい非歯原性歯痛分類の提案)
column 顔面痛に対するfasciaハイドロリリース
④ 症例4 脳卒中後遺症ではなかった右上肢のしびれ感
column 神経疾患とファシア疼痛症候群(FPS)の合併
⑤ 症例5 創部痛(大動脈弁置換手術のための開胸術後)
column 腹壁ハイドロリリース
⑥ 症例6 スポーツ選手の筋腱断裂後疼痛
⑦ 症例7 左肘窩部の採血後疼痛
⑧ 症例8 交通事故後のむち打ち症(外傷性頸部症候群)
⑨ 症例9 前胸部不快感と過換気発作を繰り返す若年女性
⑩ 症例10 膠原病(炎症性疾患)に合併するファシア疼痛症候群(FPS)
column リンパ節炎後のリンパ節リリース
⑪ 症例11 脳出血後の頭痛・めまい(fasciaがつなぐ東洋医学と西洋医学)
10 悪化因子への対応―整形内科的生活指導
・生活指導の現状と課題
・運動器疼痛に対する整形内科的生活指導のプロセス
・事実の確認方法
・個人への介入方法
・集団への介入方法
11 fasciaに注視した手術―認識と手技の変遷
・創部と痛み・癒着の関係
・創部の治療
・手術手技とfascia
・手術領域において「膜」や「膜様構造」と認識されてきたfascia
・“膜”や“膜様構造”はfasciaの1つの表現形にすぎない
・fasciaに対する認識の転換―内視鏡による拡大近接画像が見せた「生きている立体的網目状構造」
・総論:fasciaを意識した手術手技(腹部・骨盤部を例に)
・各論:fasciaの認識と手術手技の関係(腹部・骨盤部を例に)
―fasciaを温存するか、しないか
・fasciaを意識した手術は合併症を減らす
・fasciaを意識した手術の未来
12 初学者のためのQ&A集
Q1 どのように診察を始めればよい?
Q2 結局、痛いところに注射すればよい?
Q3 リリースで悪化する病態はあるの?
Q4 注射実施時の感染予防対策は?
Q5 プローブの血液汚染はどうすればよい?
Q6 注射後は、注射した液体を手などで広げるの?
Q7 よくある治療中の患者の反応は?
Q8 注射後の重だるさや痛み(リバウンド)はあるの?
Q9 注射した液体はどれくらいで消えるの?
Q10 薬液注入量のだいたいの目安は?
Q11 針を骨に当てると骨表面上での合併症が起こる?
Q12 古いエコー機器ではこの治療はできないの?
Q13 治療に要する時間は、一人当たりおよそ何分くらい?
1 fascia(ファシア)とは
① fasciaの歴史・定義の変遷―実態・認識・言葉の狭間で
●結合組織という言葉の歴史と、その定義
・「その他」として分類されてきた結合組織は、単に構造を支持するだけの不活性組織と理解されてきた。
・近年、結合組織の活性機能が注目されている。以下はその例である。
-心外膜脂肪が放出するサイトカインの冠動脈硬化への影響。
-腸間膜が独立臓器として証明。
-間質が独立器官として再認識。
・結合組織の代表格である筋膜(myofascia)は「保持、パッケージ」などの構造の保持機能に加えて、「刺激への侵害受容や深部感覚の伝達」を行っていることが判明した。
・マクロの観点では、アナトミートレインのように全身が連続していることが、概念と肉眼解剖学による研究結果として報告された。
・ミクロの観点では、細胞外からの機械的刺激は細胞内まで伝達し、核の代謝に直接的な影響を与えている(機械的シグナル伝達)。これは、結合組織の細胞レベルの機能特性を示している。
●fasciaという言葉の歴史と、その定義
・日本では2019年4月、JNOS学術局の協議により、fasciaの定義を「ネットワーク機能を有する『目視可能な線維構成体』は肉眼解剖用語であるとした。
・一般向けの平易な説明として、2020年3月には、fasciaを「全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織、臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム」と表記した。
③ fasciaの解剖生理
●結合組織とfasciaの関係性
・結合組織は主要な4大組織(筋組織、神経組織、上皮組織、結合組織)の1つとされているが、身体の様々な組織に該当しない組織を集めたものともいわれている。
・広義の結合組織には血液や骨、軟骨なども含まれる。
・狭義の結合組織
-密性結合組織
-疎性結合組織
-膠様組織
-細網組織
-線維性結合組織(脂肪組織など)
●fasciaの生理学的見解
1)fascia systemとしての考え方
・fascia systemとは、fasciaの機能的側面を説明するものである。
・fascia systemは、身体に広がる柔軟でコラーゲンを含む、疎性および密性の線維性結合組織の三次元連続体で構成される。また、すべての臓器、筋肉、骨、神経線維を相互に貫通して取り囲み、身体に機能的な構造を与え、すべての身体システムが統合的に動作できる環境を提供している。
・fascia systemは皮下にある連続した結合組織の全身のネットワークであり、別々に働く個々の骨格筋が、fasciaでつながっていることにより、1つの動作が別領域の身体の部分に力や動きを伝達する。
2)fasciaと臓器の関係
・fasciaは、骨格系への支持機能だけではなく、内臓の機能がスムーズに働くことも助けている。
・fasciaは臓器間の境界として、臓器が潤滑に動けるために表面を覆い、臓器を結合し、正しい位置に固定する役割もある。
・fasciaは三次元的な構造と特異的な生理作用によって外力を吸収し、それをうまく分配することにより、繊細な組織や臓器への外傷を防ぐためにも重要であると考えられている。
3)fasciaと神経、血管の関係
・fasciaの中を走行する神経、血管、リンパ管などは、周りをfasciaで覆われることにより、保護と方向性が与えられている。
・fasciaは身体を区画に分けることによって体外からの病原菌を素早く拡散するのを防ぐ生体防御システムの役割も担っている。
・fasciaによる制御された構造により、マクロファージや樹状細胞などの免疫細胞は障害された組織に集積できる。
●fasciaの分子生物学的見解
・fasciaに存在する線維芽細胞は、細胞間のgap junctionを通じて情報をやりとりし、神経系のように身体全体で機械刺激感受性のシグナルを伝達しているということが報告されている。この張力の統合が身体各部位における姿勢や動きのセンサーとなり、かつフィードバック機構となり、各動作をスムーズに統合していると考えられる。
・fasciaが引き伸ばされると、線維芽細胞は形態を変化させ、fasciaにかかる張力を和らげている。
・fasciaに存在するこれらの線維芽細胞は、機能的にも代謝的にも異なる性質を持っている。
・線維芽細胞の多くは身体の浅層に位置し、深層では疎性結合組織に存在する。
・線維芽細胞に伝わる機械的な刺激は、その性質や方向性、刺激が継続する時間の変化などが、細胞には言語のように伝わり(機械的シグナル伝達)、細胞内にも様々な変化を引き起こす。
・身体は常に生理的な負荷や機械的な刺激を受けている。もし、外界からの刺激をシャットダウンすると骨格筋は良好な栄養状態下にあっても委縮が起こるとされている。一方、負荷がかかりすぎると肥大する。
・腱の損傷では細胞外マトリックスが損傷を受け、その構造に脆弱な部分が生じると組織の緊張が高まり、過度な力が周辺の線維芽細胞に働くことで組織の炎症や分解を引き起こし、細胞死も誘導するといわれている。
・線維芽細胞は細胞外マトリックスの分解、産生に直接関わることで、間接的にfasciaの連続性を保つために働き、その機能を決定している。
・生理的な張力が粘性や弾性のある細胞外マトリックスによって適度に伝わると、線維芽細胞の機能も保たれ、線維芽細胞が細胞外マトリックスを制御することで結果的にfasciaの連続性が機能し正常に働くことが可能になる。そのメカニズムは、線維芽細胞が分泌する酵素や成長ホルモンの働きによって、多くの細胞外マトリックスが産生され、必要に応じて分解されることにより、うまく調節されている。
・線維芽細胞によって産生される酵素は、分解機能をもつMMPs(マトリックスメタロプロテアーゼ)、そしてその分解能を抑制するMMPのインヒビターであるTIMPsなどがあり、この両者のバランスが組織修復の際には重要な鍵となる。
・線維芽細胞はMMPsやTIMPs以外に、TGF-β1(transforming gwowth factor β1)やFGF(fibroblast growth factor)といった細胞の代謝や増殖に重要なホルモンも分泌している。
・線維芽細胞は免疫反応においても重要な働きをしている。炎症反応に関わる多くのサイトカインやケモカインを産生し、炎症性の環境を数時間で作り出すことができる。
・線維芽細胞は炎症を促進し、ストレスにも対応するなどfasciaの連続性の維持にとても重要な役割を担っている。
第4章 社内規程の効力
・社内規程の効力は施行期日から生じる。
17 社内規程の効力はいつから生じるのか
1)施行という概念
・「施行」とは制定された規範の効力を一般的に発動し、作用させることである。
・特に「適用」とは極めて類似しているが、「適用」は個別具体の事象に対する効力の発動・作用であるという点が異なる。
2)施行期日に関する条文
(1)条文の表記
・施行期日を示す条文は、附則に置かれている。社内規程の場合、附則にこれ以外の条文を置くことはあまりない。
・施行期日が唯一の条文の場合、見出しも条名もなく、施行期日を定める文章だけが表記される。
(2)表記されている期日などの意味
・社内規程は、制定後に改定されることがある。例えば、改定があった場合、条文中の「この規則」とは制定当初の規則のことか、改定後の規則のことかに迷うことがある。これは、附則の条文が示している年月日は直近に改定された時の施行期日であるため、改定後の現在規則ということになる。
18 社内規程の効力は誰に対して生じるのか
・社内規程の効力は、会社とその構成員である役職員に対して生じる。つまり「適用」という語を使えば、社内規程は「会社とその構成員である役職員に適用される。」ということになる。
1)適用という概念
・「適用」とは、施行された規範の効力を個別具体の事象に対して発動し、作用させることである。
2)会社に適用されることの意味
・会社とは場所や社屋等ではなく、会社という属性を持つ法人に対する属人主義的な適用を意味する。
3)運用対象が限定的にみえる社内規程
(1)組織関係規程
・社内規程の中には、適用の対象が役職員の一部に限定されているかのようにみえるものがある。
4)適用対象に関する明文の規定
・全ての社内規程は、会社とその構成員である役職員に適用されるべきものであるが、規程等管理規程などに規定を置き、明文化しておくことも有益である。
19 社内規程の効力が否定される場合とは
1)効力が否定される場合
・社内規程の効力が否定される事態というのは、相異なる社内規程の条項が互いに抵触している場合、どちらかの効力が否定される事態のことである。特に新規の社内規程の制定や現行の社内規程の改定によって新設された条項は注意すべきである。
20 社内規程の効力は子会社にも及ぶのか
・子会社の経営を適切に管理することは、親会社の重要な経営課題である。会社法では、子会社について「会社が議決権の過半数を有する株式会社その他の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」であると定義している。
実践編
第1章 社内規程の運営
1 社内規程の整備・運用はどのように行うべきか
・社内規程の管理には、個々の社内規程の管理と社内規程の全体統括という二つの側面がある。
1)個別管理と全体統括の概念
2)担当者の具体像
・個別管理の担当者は個々の社内規程を所管する部門の担当者のことである。一方、全体統括の方は、法務部や総務部において社内法務を一元的に統括する者が担当者になる。
3)担当者の役割
(1)個別管理
①現行の運用
②制定・改定の要否の検討
③立案作業の遂行
(2)全体統括
①規程集の整備
・全ての規程を収録した規程集を作成し、保管する。規程集は、関係者が常時閲覧できるようにするとともに、規程の制定・改廃があった場合には、これを速やかに反映させる。
②立案時における案文の審査
③制定・改廃の社内通知
2 社内規程の実効的な運用のために必要なことは何か
・社内規程の実効的運用とは、社内に浸透し励行されていることをいう。
1)浸透の難易度による社内規程の分類
・浸透の問題は規程を立案したものと、適用の対象となる者との距離が重要である。
2)規程を浸透させる必要性
・規程立案担当者及び運用責任者には、適用対象者が規程の意義を十分に認識し、その内容を理解できるように工夫する必要がある。
3)浸透させる努力と工夫
・分かりやすい資料(Q&Aも有効)を用意し、説明会を必要に応じて開催するなどの高い意識が必要である。
3 社内規程の立案について心掛けるべきことは何か
・社内規程の立案は、適時適切に行うよう心掛けなければならない。
1)「適時」について
・社内規程を立案すべき時期は、個々の規程の性格によって様々である。
2)「適切」について
・立案が適切であるための要件は、①規程の内容が規範として妥当なものであること、②規程の表記が規範として的確であること、③立案から施行に至る過程で所要の手続きを履行すること、である。
(1)内容の妥当性
①規定する措置の内容が立案の目的に照らして合理的なものであるか。
②立案する規程のレベルが内容の重要性に見合ったものになっているか。
③立案の内容が上位の規程に反していないか。
(2)表記の的確性
①規程の全体が適切に構成されているか(条文の配列など)。
②各条文が適切に構成されているか(条項の区切り、号の活用など)。
③条項の引用表現に誤りはないか。
④条項中の用事と用語が法令のルールに準拠しているか。
(3)適正手続きの履行
①立案開始時に余裕を持った日程を立てているか。
②関係部門との調整を早期に開始しているか。
③統括管理者(法務部など)による十分な審査を受けているか。
④規程の浸透に配意しているか(前広な周知、趣旨の説明など)。
4 社内規程の審査について心掛けるべきことは何か
1)審査の観点
・社内審査の目的は、立案された規程が内容において妥当であり、かつ、表記において的確であるかどうかを吟味し、問題点が発見された場合にはこれを是正することである。
2)審査担当者の心掛け
・審査の事務において、問題点を適確に発見し、是正する役割を果たすためには、①知見の涵養、②審査時間の確保、③支援する姿勢、④審査項目の共有、が大切である。
5 内部統制システムの関係者は社内規程にどう向き合うべきか
・会社の役職員は様々な立場から内部統制システムに関係している。他方、社内規程は、内部統制システムを構築し、運用するための法的な基盤となっており、組織、業務、人事、コンプライアンスという各分野の社内規程が、それぞれ内部統制システムの構成要素に対して定められている。
1)内部統制システムの概念
・内部統制システムという概念は、会社法の定めに由来するものである。具体的には、「会社の業務の適正を確保するために必要な体制の整備」を意味する概念である。
2)内部統制システムの構成要素
①情報の保存及び管理に関する体制
②損失の危険の管理に関する体制
③取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
④監査役の監事が実効的に行われることを確保するための体制
第2章 立案の方式及び留意点
6 社内規程の制定、改定及び廃止はどのような方式で行なえばよいのか
・社内規程の制定、改定及び廃止を行う方式には、手続と様式の二つの側面がある。
1)手続き
・社内規程を制定、改定又は廃止するためには、各規程のレベルに応じて、決議又は決裁という手続を経る必要がある。規程のレベルというのは、社内規程全体の階層構造の中で個々の社内規程が位置している階層のことであり、上から順に規程、規則、細則、要領というレベルがある。
・社内規程の制定・改廃権者は各レベルに対応しており、規程は取締役会、規則は経営会議、細則は社長、要領は本部長とされており、会議での決裁や社長、本部長の決裁の手続きが必要になる。
2)様式
・様式は社内規程のレベルを問わず、制定、改定又は廃止のいずれかによって異なっている。
(1)制定
・新規に規程を制定する場合は、決議又は決裁を求める際に、制定の経緯や目的、規程案の骨子などを説明した後に、「次の規程を制定することとしたい。」と記載し、当該規程案を添付した書面を提出する。
(2)改定
・現行規程を改定する場合には、改定の経緯や趣旨を説明した文章に加えて、改定の具体的な内容を示すため、新旧対照表を作成して添付する必要がある。
(3)廃止
・社内規程を廃止する場合は、廃止の理由を説明するとともに、「○○規程を廃止することとしたい。」と記載した書面に廃止する規程を添付して、決議又は決裁を求める。
7 新規の規程を制定する場合、特に留意すべきことは何か
・立案上の留意点は、内容の妥当性、表記の的確性及び適正手続きの履行以外に、新規と改定にはそれぞれ固有の留意点がある。
・新規の規程を立案する場合には、①主管部門の適切な決定、②規程のレベルの適切な選択、③現行規程との関係に対する考慮の三点である。
1)主管部門の適切な決定
・立案の主管部門は、制定しようとする事項を担当している部門とするのが原則である。
2)規程のレベルの適切な選択
・規程集の最上位に来る「規程等管理規程」が作成されていれば、各レベルの規程で定めるべき事項の性質が規定されているので、その趣旨を踏まえ、制定する事項の内容とその重要度に応じた適切なレベルを選択しなければならない。これが新規制定の際に最も留意すべき点である。
・不適切なレベル選択は、「規程等管理規程」の趣旨に反するばかりでなく、社内のガバナンスを阻害することにもなるので、十分な注意が必要である。
3)現行規程との関係に対する考慮
・社内規程は規程事項の内容によって、組織、業務、人事、コンプライアンスという四つの分野に大別される。
・新規の規程といっても、現行の規程と全く無縁の存在ではなく、何らかの関係を持つ場合が少なくない。
・上位にある規程との関係だけでなく、同列の規程との関係にも留意する必要がある。
8 規程のレベル選択を間違いやすいのはなぜか
・規程等管理規程では、「重要な事項は上位の機関が決める」という思想に基づき、各レベルの規程に置いて規定すべき事項を次のように定めている。
・レベルの選択を間違えるというのは、上記のような対応関係を考慮せずに不適切なレベルの規程を選択してしまうことである。その中でも最も起こりやすい間違いは規程又は規則で規定すべき事項を細則又は要領で想定してしまうことである。このような間違いが起こる原因としては、次の三つが考えられる。
1)特定を定める規程のレベルに関する誤解
・一般的に、特例、特則は一般則と同じレベルでなければならない。この原理は法令も同様である。
2)規程の主管と規程のレベルとの混同
・レベルの選択は規程の内容とその重要度によって判断すべきである。その内容が各部門に関係し、全社的な統制の下で実施すべきものであれば、重要性を鑑みて、上位のレベルを選択するのが適切である。
3)手続きの簡便性に惹かれる担当者の心理
・規程のレベルが上がるほど関係者が多く、制定手続にも時間がかかるので、担当者は下位のレベルを選択しようとする意識が働き、規定事項の重要性を軽視したレベルの選択が行われやすくなる。
9 規程のレベル選択の間違いを是正する方法とは
・規定事項が全ての役職員に対して一定の義務を課し、又は一定の権利を与えるようなものであれば、規程又は規則というレベルを選択すべきであるが、立案担当者が何らかの事情により、要領という形式を選択し、施行してしまった場合には、早急に是正する必要がある。
1)レベルの是正が必要な理由
①規程等管理規程の趣旨に反する。
②社内統治(ガバナンス)の実効性が損なわれてしまう。
2)レベルの是正に必要な手続き
・規程の題名を変更することはできず、一旦「○○要領」を廃止し、同内容の「○○規程」を制定するという二つの手続きを踏む必要がある。
3)レベルの適正を確保する方策
・レベル選択の誤りの発見と是正には、法務に精通したものに検証を依頼する必要がある。
・レベルの選択の誤りを防止するには、法務担当者の研修や啓蒙活動の他、審査する体制の構築が求められる。
10 現行の規程を改定する場合、特に留意すべきことは何か
・改定には、字句の変更、条項の追加、条項の削除という三つの類型がある。
・主な留意点には、目的規定との関係、題名、章名等との関係、追加する条項の単位がある。
1)改定の三類型
2)目的規定との関係
・規程の第1条に目的規定がある。規程を改定する際には、改定した後の条項の内容と目的規定で定められている内容と整合していることを確認しなければならない。追加条項と整合するように現行規程の目的規定を改めるか、条項の追加ではなく、新規規程の制定という形式にする場合もある。
3)題名、章名等との関係
・目的の修正を要する追加改定を行う場合、題名が適切でなくなることもあるため相応しい題名に変更する。
・例えば、コンプライアンス組織規程に業務運営に関する条項を追加するような場合には、題名をコンプライアンス体制運営規程などと改正する必要がある。
4)追加する条項の単位
・条項の追加する際には、条として追加するか、項として追加するかを検討する必要がある。密接な関係にある場合は項として追加し、やや独立した関係にある場合は、別の条を建てて規定するのが適切である。
11 規程の立案に際して手続面で履行すべきことは何か
・規程の立案には幾つかの段階がある。
①立案の開始を決定した段階:全行程の想定
②案文を作成するまでの間:関係先との協議
③案文を作成した段階:審査部への持ち込み
④機関決定後、施行までの間:社内における周知
1)全行程の想定
・案文の作成から機関決定を経て施行に至るまで、どのような手続をどの時点で履行するかを検討し、全工程の予定を想定しておく。
2)関係先との協議
・必要に応じて関係先との協議は早めに進めた方が良い。
3)審査部への持ち込み
・立案者の案文の審査は余裕をもって依頼するよう心掛けたい。
4)社内における周知
・規程成立後、施行されるまでに社内への周知を迅速かつ十分に行うことが重要である。特に制定・改定の背景や趣旨を詳しく説明したり、特に関係が深い者を対象に説明会を開催するなど周知のための工夫や配慮が必要である。
第3章 規程全体の書き方
12 社内規程の構成は法律とどこが違うのか
・社内規程の構成というのは、社内規程の全体にどのような規程をどのような順序で配列するかという問題である。
1)共通点
①冒頭に題名を付ける。
②本則、附則の順に条文を規定する。
③本則には規程の目的に直結する本体的な事項を規定し、附則には付属的な事項を規定する。
④本則の条文が多数に及ぶ場合には、「章」、「節」などの区分を設ける。
⑤本則に章などの区分を設ける場合には、第1章は「総則」とし、目的、定義など、規程全体に関連する事項を規定する。
⑥附則の冒頭に、施行期日を定める規定を置く。
2)相違点
(1)罰則の有無
・罰則は法律にしか存在しない。
・社内規程の場合には、罰則という制裁がないので、就業規則の中に通常、「社内規程に違反する行為が懲戒処分の対象となる」旨を定める規定をおく。これが違反行為を抑止する役割を果たしている。
(2)制定権者を示す条文の有無
・本則の最後に必ず、制定・改廃権者が誰であるかを示す条文が置かれる。
13 社内規程の題名を付ける際に留意すべきことは何か
1)社内規程における題名の例
・社内規程の題名は、概ね簡潔である。
2)法律における題名の例
・法律の題名は、簡潔なものと長文のものがある。
3)「規程等管理規程」という題名について
・社内規程の階層や効力関係など、社内規程全般に及ぶ重要事項を定める通則法的な規程である。
14 社内規程の本則には条文をどのように配列すべきか
・社内規程に共通する基本原則
1)総則的な条文の配列順
・目的規定は、原則として、全ての規程の第1条として置かれる条文である。
2)実体的な条文の配列順
・条文の配列順序はケースバイケースであるが、その内容を性質別に分類できる場合には、その性質を手掛かりに配列する。
・行為の準則を定める規程であれば、規定対象の行為に関する条文を時系列で並べるのが適切である。
3)雑則的な条文の配列順
・雑則的な条文の中には、本則の最後の条として、各規程の改廃の権限・手続を定める条文である。
15 章の区分について留意すべきことは何か
1)章に区別すべき場合
・本則の条文が多数あり、条文の見出しを追うのも大変な場合には、章に区分した上で、目次を付すのが一般的である。
2)条文のグループ分け
・重要なことは同じ章には同質の条文だけを置く。
3)章名の付け方
・章名は内容を端的に表示したものでなければならない。
・章名は「組織」「運営」など、できるだけ簡潔な方が良い。
・雑則的な条文は、「雑則」「改廃」という章名が相応しく、「第○章 その他」のような章名は不適切である。
16 目次について留意すべきことは何か
・目次は題名と本則の間に置く。
1)目次を置くべき場合
・規程の本則が章に区分されている場合には、必ず目次を置くようにすべきである。
2)目次の体裁
・上記にあるように、各章の章名と、各章に属する条文の範囲を示す括弧書きを表記する。
3)目次のメンテナンス
・目次のある規程を改定する際には、改定による目次への影響に注意しなければならない。本則にある章名の変更や追加、削除を行う場合は、目次中の関係部分を全て改定しなければならない。
・条文の範囲が括弧書きで記載されているときは、改定後の本則の条名と整合するよう改定しなければならない。
17 社内規程の附則にはどのようなことを規定すればよいのか
・社内規程の附則は、通常、施行時期を規定する条文だけが記載されている。
1)「附則」という表記
・附則では、先ず、自らを「附則」と表記し、その後で次行から条文を書くことになっている。
2)制定・改定履歴の付記
・最終行に記載されている改定の年月日が、附則の条文に規定される施行時期となっている。
補足)“ひな型Rev1.0”のその後
”たたき台Rev0.1”を、何とか”ひな型Rev1.0”までブラッシュアップしましたが、その後、施行まで3つのアクションをとりました。
1.すでにお世話になっていた「埼玉県よろず支援拠点」の先生にご相談しご指摘を頂きました。
2.非営利型一般社団法人に精通されている、顧問税理士の先生にご確認頂きました。
3.浦和西高のOBでもある、顧問弁護士の先生に最終の確認をして頂きました。
以上、必要カ所の修正を行い、完成した正式版Rev1.0を一社UNSSの全メンバーに説明し、承認を受けめでたく施行となりました。(自分自身に「お疲れ様」といいたい)
『「埼玉県よろず支援拠点」は、経済産業省・中小企業庁が、全国47都道府県に設置する経営なんでも相談所です。
中小企業・小規模事業者、NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等の中小企業・小規模事業者に類する方の売上拡大、経営改善など経営上のあらゆるお悩みの相談に無料で対応します。』
今まで、「プロジェクト計画書」、「非営利型一般社団法人」、「定款作成物語」というブログをアップしてきました。これらは我が母校である、埼玉県立浦和西高校サッカー部OB会を法人化するために必要なことでした。
法人化により法人口座をもち、契約できるようになりました。そして、任意団体は法人格の団体となり、社会的信用は確実に高まりました。
何故、法人化したのか、これはサッカー部のOBが主体となって、寄付を募り、その資金で土のグラウンドを人工芝のグラウンドに替えるためです。募金の目標金額は5,500万円です。
なお、法人成立は2022年8月、社名は「一般社団法人UNSS」、UNSSは「浦和西高スポーツサポーターズクラブ」の略称です。
一社(一般社団法人)の立ち上げは完了しましたが、会社のルールブックである定款を補完するための「運営管理規程」の整備が残っていました。この難題は、定款作成を進めてきた私の仕事になりました。これには違和感はないものの、今まで経験したこともなく、「これは、まいったな。大ピンチ!」というところです。
とりあえず、『一般社団法人及び一般財団法人に関する法律』という法律をのぞいてみました。本則は全部で344条、一般財団法人の部分に加え、当面は不要と思われる条文もかなりありました。一方、ネットにあったさまざまな管理規程のサンプルを集めました。
この二つの方向から眺め、絞りに絞った条文を、誰がみても何とか意味が分かるような文章に修正しました。こうして、“雛形”とは言い難い、“たたき台rev0.1”は出来上がりました。
作ってはみたものの、運営管理規程策定のルールも作法もよく知らない者が作ったrev0.1のため、かなり怪しい出来上がりのような気がしました。
そこで、今更であり、順番は逆になりましたが、「やはり、少し勉強せねば」と考え、約160ページの『社内規程立案の手引き』という本を図書館から借りてきました。思いきって買ってしまいたかったのですが、定価2,400円の本は在庫がなく、中古本は5,000円以上と高額だったため、断念しました。
基礎編
第1章 社内規程の意義
1 社内規程とは何か
2 社内規程にはどのような種類があるのか
3 どの会社にも必要な社内規程とは
4 社内規程は誰のため、何のためにあるのか
5 社内規程は内部統制システムとどのような関係にあるのか
6 社内規程は法律とどのような関係にあるのか
第2章 社内規程の体系
7 社内規程の体系とは何か
8 社内規程の体系はどこで定められているのか
9 社内規程の体系はなぜ重要なのか
10 社内規程の体系が形骸化する事態とは
11 社内規程の体系と法体系の共通点と相違点は何か
第3章 社内規程の構造
12 社内規程の立案に当たって必要な構造的理解とは
13 社内規程は同列の社内規程とどのような関係にあるのか
14 社内規程は上下の社内規程とどのような関係にあるのか
15 個々の社内規程はどのように構成されているのか
16 社内規程の条文はどのように表記されているのか
第4章 社内規程の効力
17 社内規程の効力はいつから生じるのか
18 社内規程の効力は誰に対して生じるのか
19 社内規程の効力が否定される場合とは
20 社内規程の効力は子会社にも及ぶのかのか
実践編
第1章 社内規程の運営
1 社内規程の整備・運用はどのように行うべきか
2 社内規程の実効的な運用のために必要なことは何か
3 社内規程の立案について心掛けるべきことは何か
4 社内規程の審査について心掛けるべきことは何か
5 内部統制システムの関係者は社内規程にどう向き合うべきか
第2章 立案の方式及び留意点
6 社内規程の制定、改定及び廃止はどのような方式で行なえばよいのか
7 新規の規程を制定する場合、特に留意すべきことは何か
8 規程のレベル選択を間違いやすいのはなぜか
9 規程のレベル選択の間違いを是正する方法とは
10 現行の規程を改定する場合、特に留意すべきことは何か
11 規程の立案に際して手続面で履行すべきことは何か
第3章 規程全体の書き方
12 社内規程の構成は法律とどこが違うのか
13 社内規程の題名を付ける際に留意すべきことは何か
14 社内規程の本則には条文をどのように配列すべきか
15 章の区分について留意すべきことは何か
16 目次について留意すべきことは何か
17 社内規程の附則にはどのようなことを規定すればよいのか
第4章 条文の書き方
18 条文の書き方について一般的に留意すべきことは何か
19 条文に見出しを付ける際に留意すべきことは何か
20 枝番号の条文を置くことは許されるのか
21 条文に複数の項を置く場合に留意すべきことは何か
22 項中のただし書はどのように書けばよいのか
23 項中の後段にはどのようなものがあるのか
24 号の使用について留意すべきことは何か
25 表とはどのようなものか
26 別表とはどのようなものか
27 目的規定はどのように書けばよいのか
28 定義規定はどのように書けばよいのか
29 条項の引用はどのように書けばよいのか
30 他の条項にある事項を引用するときの書き方とは
31 条項の準用とは何か
32 条文を読みやすくするための工夫とは
第5章 用字
33 条文中の漢字の使用にはどのようなルールがあるのか
34 副詞や接続詞は漢字を使って書くのか
35 送り仮名の付け方にはどのようなルールがあるのか
36 句読点の使い方にはどのようなルールがあるのか
37 外来語を使うときに留意すべきことは何か
38 数字を使うときに留意すべきことは何か
39 括弧などの記号はどのようなときに使えばよいのか
第6章 用語
40 条文中の語句の使用について留意すべきことは何か
41 語句を並べるときはどのように表現するのか
42 「又は」「若しくは」は、どう使い分けるのか
43 「及び」「並びに」は、どう使い分けるのか
44 「その他」と「その他の」は、どう違うのか
45 「とする」は、どのような場合に使うのか
46 「による」は、どのような場合に使うのか
47 「ものとする」は、どのような場合に使うのか
48 「しなければならない」は、どのような場合に使うのか
49 「してはいけない」は、どのような場合に使うのか
50 「することはできない」は、どのような場合に使うのか
51 「することができる」は、どのような場合に使うのか
52 「要しない」「妨げない」は、どのような場合に使うのか
53 「置く」「行う」などで結語するのは、どのような場合か
54 「みなす」と「推定する」は、どう違うのか
55 「場合」「とき」は、どう使い分けるのか
56 「もの」には、どのような使い方があるのか
57 「含む」「除く」「限る」には、どのような使い方があるのか
58 「等」は、どのように使えばよいのか
59 「この」「その」「当該」は、どのように使えばよいのか
60 「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」は、どう違うのか
ブログは基礎編と実践編の第3章までです。
基礎編
第1章 社内規程の意義
1 社内規程とは何か
・「社内規程とは、社内で制定され、社内に適用される規定である。」
・個々の条項の定めを指すときは「規定」といい、一連の条項の総体としての定めを指すときは「規程」という。
1)制定と適用
・制定:権限のある機関が所定の手続きによって法令としての案文を確定し、これを法令として定立する行為。
・施行:制定された法令の規定の効力を一般的に発動し、作用させること。
・適用:施行された法令の規定の効力を個別具体の事象に対して発動し、作用させること。
2 社内規程にはどのような種類があるのか
1)分野別の種類
・定款と規程等管理規程は、会社経営や社内規程の全体をカバーする基本的な重要事項を規定するものであり、個別分野には限定されない「スーパー社内規程」なので、上記の分類表には入っていない。
2)階層別の種類
・定款-規程-規則-細則-要領
3 どの会社にも必要な社内規程とは
1)組織関係規定
・定款
・社内規程
2)人事関係規定
・人事関係の分野では、労働基準法の規定により、一定規模以上の会社は就業規則を作成しなければならないことになっている。
・労働法との関連では、育児・介護休業法や労働安全衛生法の規定を実施するため、社内の体制や手続を定める規定が必要となる。
3)コンプライアンス関係規定
・コンプライアンスの分野では、金融商品取引法や個人情報保護法などの規則法が定めている義務を社内で確実に履行するために、内部者取引防止規程、個人情報保護規程などの社内規程を制定することが必要になる。
4 社内規程は誰のため、何のためにあるのか
・社内規程は、会社と役職員のため、会社経営の適正を確保するためにある。
1)総体としての社内規程の意義
(1)社内規程は誰のためにあるのか
・社内規程は会社と役職員のためにある。
・「役職員のためにある」とは、会社の業務を担う役員と職員が社内規程によって責任と権能を与えられていることを意味する。
(2)社内規程は何のためにあるのか
・社内規程は、会社経営の適正を確保するためにある。
・「会社経営の適正」というのは、会社の経営が会社法、労働法、金融商品取引法などの関係法に従って適正に行われる。ということを意味している。
・会社が関係法の適正な履行を確保するためには、関係法の受け皿としての内規を制定し、法的基盤を構築する必要がある。社内規程は、そのような内規の役割を担っている。
2)個々の社内規程の意義
(1)組織関係規程
①取締役会規程と経営会議規程
・役員を適用対象とし、会の運営を適切に行うための準則、指針としての意義を持っている。
②組織規程
・会社全体と各組織の構成員を適用対象とし、会社業務の責任分担と効率的な業務運営の体制を確立する意義を持っている。
(2)人事関係規程
①就業規則と給与規則
②育児・介護休業規則
(3)業務関係規程:経理規程、情報システム管理規程、営業管理規程
(4)コンプライアンス関係規程
①内部者取引防止規程、会社情報開示規程、個人情報保護規程
②内部通報規程
5 社内規程は内部統制システムとどのような関係にあるのか
1)内部統制システムという概念
・内部統制システムという概念は、会社法の定めに由来するものである。
・「会社の業務の適正を確保するために必要な体制」
2)内部統制システムに関する法令の規定
・会社法では、内部統制システムについて、取締役会が自ら決定しなければならない事項であると定めている。
3)社内規程と内部統制システムとの関係
・会社はこのような法令の趣旨を踏まえ、組織、人事、業務、コンプライアンスの各分野で、適切な関係規程を制定し、運用することが求められる。会社の社内規程は、内部統制システムがどのように整備されているかという姿を映し出す鏡であるといっても過言ではない。
6 社内規程は法律とどのような関係にあるのか
1)法律の規定に由来する社内規程
(1)制定義務の履行
・社内規程の中には、法律によって制定が義務付けられているものがある。代表的なものは以下の通り。
-規程名:定款
-根拠条文:会社法第26条
(2)法定機関の設置
・組織関係規程の中には、法律が定める機関を設置するために必要なものがある。
(3)法制度の確実な履行
・人事やコンプライアンス関係規程の中には、法律が定める制度を確実に履行するために必要なものがある。代表的なものは以下の通り。
-制度名:個人情報保護制度
-根拠法:個人情報保護法
-規程名:個人情報保護規程
2)法律に準拠した表記
・社内規程は、成分の規範である点で法律と共通しているので、その表記も基本的には法律における表記のルールに準拠している。
(1)基本構造
①規程の全体は、題名、本則、附則という要素で構成する。
②本則には、総則的な条文、実体的な条文、雑則的な条文という順序で条文を配列する。
(2)条文表記
①各条文には、第1条から順次、「第○条」という条名を表記する。
②各条文には、冒頭に括弧書きで見出しを付ける。
③文章としての条文は、必要に応じて、「項」に分ける。
④条文の文章は、法令用語を適切に使って、規範らしく書く。
第2章 社内規程の体系
7 社内規程の体系とは何か
・社内規程は全体として統一的な秩序を保持するよう、上下の階層構造が設定され、上位の規程が下位の規程に優先するという原理が定められている。
1)上下の階層構造とは
(1)階層構造の全体像
・規程の名称:定款-規程-規則-細則-要領
(2)階層構造の基本思想
・「より重要な事項は、より権限の大きい機関が決定すべきである。」という思想に基づくものである。
2)上位規程優先の原理とは
・上位にある社内規程は常に下位の社内規程に優先する効力をもつよう定められている。
3)社内規程の秩序との関係
・社内規程の体系は、社内規程の秩序を保持する重要な仕組みとなっており、立案関係者に対する警告としての意義も持っている。
8 社内規程の体系はどこで定められているのか
・社内規程の体系は、「規程等管理規程」という題名の規程によって定められており、定款を除けば最も上位の階層に位置する。
1)「社内規程の体系」に直接関係する規定
(1)社内規程の種類
①定款
②規程
③規則
④細則
⑤要領
2)その他の規定
・規程等管理規程では、社内規程の管理運用に関し、法務を司る部署が規程集を整備する責任を負うとされている。
3)法体系を定める法令
・法令にも、憲法、法律、政令、省令という上下の階層構造と上位法令優先の原理を骨子とする法体系があるが、規程等管理規程に相当する法令は、今のところ存在しない。
9 社内規程の体系はなぜ重要なのか
1)社内規程の体系
・社内規程は上下の階層構造から成り立っており、下位の規程が上位の規程を覆すことは許されない。
2)企業経営の規律
・企業経営の規律には、経営に対する規律と経営における規律という二つの概念がある。
3)社内規程の体系の役割
(1)経営に対する規律との関係
・社内規程の体系が定款を最上位の規程としていることは、経営に対する規律を保証する役割を果たしている。
(2)経営における規律との関係
・社内規程の体系では取締役会を制定・改廃権者とする規程が定款の次に位置づけられていることが重要である。
・取締役会は次に掲げる株式会社の場合においては設置しなければならない。
-公開会社
-監査役会設置会社
-監査等委員会設置会社
-指名委員会等設置会社
10 社内規程の体系が形骸化する事態とは
・社内規程の全体を規律する「規程等管理規程」の下位になる個々の社内規程は、それぞれの規程事項を所管する各部局の担当者によって立案され、運用される仕組みになっている。このため担当者によって尊守する意識にばらつきがあるため、「社内規程の体系」が形骸化するリスクがある。
1)形骸化する事態
・形骸化とは、本来上位の規程が定めるべき事項を下位の規程が定め、これを事実上施行してしまうことである。
2)形骸化する原因
・担当部署以外からの是正する力が働かないと、形骸化するリスクは避けされない。
3)是正策
・上位の規程に対し、全てが規程に反している場合は廃止、一部の場合は当該条項を削除する。
4)予防策
・社内規程の立案に携わる者が日頃から社内規程の体系について十分に認識することができるように定期的に研修等を行う必要がある。
11 社内規程の体系と法体系の共通点と相違点は何か
・社内規程と法体系の共通点と相違点を理解しておくことは有用である。
1)共通点
(1)階層構造の存在
・個々の規範は全て階層構造に置かれている。
(2)上位規範優先の原理
・上位にある規範が常に下位の規範に優先する効力をもつ。
2)相違点
(1)体系を定めた包括的な規範
・社内規程の体系には定款に続く、規程管理規程があるが、法令には存在しない。
(2)下位の規範の独自性
・下位の規程は内容が上位の規程に反しない限り、上位の規程からの委任は必要とせず、制定することができる。一方、政令、省令(行政立法)は、法律を補完する必要がある場合のみ制定される。
(3)規範の効力を裁定する機関
・下位の法令の条項が上位の法令に違反した場合、裁判所が裁定するが、社内規程では裁定するような機関は存在しない。
第3章 社内規程の構造
12 社内規程の立案に当たって必要な構造的理解とは
1)社内規程には、社内規程全体の基調となる構造と、個々の社内規程の条文に関する構造がある。
(1)社内規程全体の基調となる構造(=マクロ的な構造)
①事項の分担を基調とした構造(=横の構造)
・社内規程は、組織、人事、業務、コンプライアンスの各分野における規程事項を互いに分類している。
②上下の序列を基調とした構造(=縦の構造)
・社内規程は、「重要なことは上位の機関が決める」という理念に基づき、階層構造を有する。
(2)個々の社内規程の条文に関する構造(=ミクロ的な構造)
①規程全体の条文配列に関する構造
・各規程は、題名、本則、附則という要素で構成され、本則には一定の順序で条文が配列される。
②各条文の表記に関する構造
・各条文は、見出し、条名、項などの要素で構成され、条項の文章は、法令用語を用いて、「条文らしく」表記される。
2)構造と立案の関係
・規程立案には次のような点を考慮する必要がある。
(1)規程を立案する場合、同じ分野にある現行社内規程と規定事項を適切に分担するには、新規制定、追加改定のうち、いずれの形式にすべきか。
(2)規程を新規に制定する場合、条文をどのように配列すべきか。
(3)規程を新規に制定する場合、条文をどのように配列すべきか。また、条文を追加する改定を行う場合、本則のどこに追加するのが適切か。
(4)条文を作成する場合、見出しの表現、条項の分け方、文章中の用語などをどのようにすれば「条文らしい」表記となるか。
13 社内規程は同列の社内規程とどのような関係にあるのか
1)組織関係の規程
・取締役会を掲げる株式会社においては、取締役会を制定権者とする同列の規程として、組織規程、職務権限規程、及び取締役会規程という規程がある。
2)人事関係の規則
・具体例として、就業規則、給与規則、退職手当規則などがある。これらは、いずれも経営会議が制定権者となっている同列の規程である。
14 社内規程は上下の社内規程とどのような関係にあるのか
・階層構造は「重要なことは上位の機関が決める」という思想に基づくものである。
1)組織関係規程
・会社にどのような組織を置き、職務権限をどのように配分するかということは、会社の基本的な経営体制に関わる最重要事項である。組織と職務権限はそれぞれが等しく重要と考えられるので、その基本を「組織規程」と「職務権限規程」で先ず定めることが必要になる。
2)人事関係規程
・従業員の就業条件に関する重要事項は、労働基準法に基づき就業規則で定めなければならない。
15 個々の社内規程はどのように構成されているのか
・個々の社内規程は、冒頭から末尾まで、題名、本則、附則などの要素で構成されている。このうち最も重要な要素は本則であり、条文を本則にどのように配列するかは、立案事務の基礎として重要である。
1)社内規程の構成要素
(1)題名
・「組織規則」、「就業規則」など。
(2)目次
・社内規程の本則が章に区分されている場合には、題名と本則の間に、章の名称を示す目次が置かれることがある。
(3)本則
・規程の本体となる部分。第1条には規程の目的が、最終条には規程の制定権者が示される。
(4)附則
・規程の本体付属する部分が「附則」として、本則の次に表示される。
・附則には、最終の改定が施行される年月日を示す条文が置かれる。
(5)履歴
・附則の次に、規程の制定と改定が施行された年月日が表示される。
(6)別表
・規程の中には、複雑な内容を分かりやすく示すために、本来は本則で規定すべき事項の一部分を末尾に別表として示すものがある。
2)本則への条文の配列
(1)条文全体の配列
・条文全体をその性格によって、総則的な条文、実体的な条文、雑則的な条文の三種類に分け、この順に配列する。
(2)総則的な条文の配列
・総則的な条文とは、規程全体に関わる事項を定める条文である。第1条は目的規定とし、以下、必要があれば定義規定などの条文を配列する。
(3)実体的な条文の配列
・実体的な条文とは、規程の中核となる具体的な事項を定める条文である。その配列順は、規定する事項の内容次第である。以下は一応の目安である。
①組織や権限を定める規程であれば重要性の順
②一連の手続きや業務処理を定める規程であれば行為の時系列順
(4)雑則的な条文の配列
・雑則的な条文とは、手続や細則などの事項を定める条文である。本則の最後には制定・改廃の権限と手続を定める条文を置き、他の雑則的な規定が必要であれば、その直前に配列する。
16 社内規程の条文はどのように表記されているのか
1)条文の構成要素
・見出しは第1行目に括弧書きである。
・条名は第2行目の冒頭に「第5条」という表記になる。
・この条文では二つあり、二番目の項の冒頭に「2」という項番号が付されている。
2)条文らしい表現
・条文は法令用語が適切に使われることによって、規範の内容が「条文らしく」なる。
・表現で最も重要なのは文章末尾の表現である。
・代表的な末尾の表現には次のようなものがある。
(1)「……とする。」
(2)「……による。」
(3)「……しなければならない。」「……することができる。」
透析に入られている患者さまは今のところお一人ですが、今後、懸念される患者さまもおいでです。その患者さまから“腹膜透析”のお話を伺いました。正直、全く認識がなかったため、「こんな大事なことも知らないのでは話にならない」と痛感しました。
また、“腎移植”をされた患者さまも来院されており、腎移植についても知らないといけないと思い、この2つについて学べる本を探しました。それが、今回の『よくわかる 最新医学 透析療法 腹膜透析・血液透析・腎移植』でした。今まで、腎臓に関する本はそれなりに読んできているのですが、新たな発見も多く、大変勉強になりました。
目次
はじめに
序章 透析療法と腎移植
●腎臓のはたらきがわるくなったときに行う透析療法ってどんな治療法?
●腎移植には生体腎移植と献腎移植がありごく普通の生活を送れることがメリットです
●透析療法や腎移植が必要になるのはどんな人? どのくらい腎臓のはたらきが低下したら行うの?
コラム 透析療法と腎移植の歴史
第1章 腎臓ってどんな臓器?―腎臓の構造とはたらき
●腎臓は腰よりも少し上のところに左右1個ずつあり形はそら豆に似ています
●体の水分(体液)や食塩の量を一定に保ち老廃物を尿として体外に捨てることが主な仕事です
●腎臓で尿をつくっているのは「ネフロン」です ネフロンにある糸球体で血液をろ過しています
●尿細管と集合管では、再吸収と分泌というしくみで体液量と食塩量を調整しています
●体液量と食塩量を感知するセンサーは遠位尿細管にあります
●腎臓は血圧を調節することで体液と血液中の食塩濃度を保っています
●糸球体のフィルターで老廃物を除去 血液をきれいな状態に保っています
●赤血球を増やすホルモンを分泌し 骨を丈夫にするビタミンをつくっています
●腎臓は酸・アルカリバランスを調整し 血液を弱アルカリ性に保っています
●食塩のとりすぎと肥満が腎臓を傷つけ 腎機能を低下させます
コラム 加齢と腎機能
第2章 腎臓の病気の基礎知識
●糖尿病、腎炎、高血圧が原因で 腎障害と腎機能低下をきたすCKDとは
●腎代替療法導入の原因疾患 ①糖尿病腎症 高血糖の影響で糸球体がダメージを受けます
●腎代替療法導入の原因疾患 ②慢性糸球体腎炎 腎機能がかなり低下してから気づくこともあります
●腎代替療法導入の原因疾患 ③腎硬化症 高血圧が原因で起こる腎臓の動脈硬化です
●慢性腎不全の治療 ①保存期腎不全 原因疾患の治療、食事法、薬物療法が3本柱
●慢性腎不全の治療 ②末期腎不全 腎機能低下が止まらず 腎代替療法が必要になります
コラム 透析療法と心のケア
第3章 腎臓病の検査と診断
●たんぱく尿の程度を調べる尿検査は治療の効果を判断するためにも必須です
●血液中の老廃物の量を検査 貧血など合併症も血液検査で判断します
●腎機能検査は、糸球体のろ過能力を調べるものと尿細管の能力を調べるものがあります
●腎臓の萎縮、結石、尿路異常を調べる画像検査、慢性糸球体腎炎の治療法を決める腎生検など
●CKDで腎機能が低下することによりさまざまな合併症が出現します
コラム 高齢者の腹膜透析
第4章 透析療法の実際を知ろう―腹膜透析と血液透析
PD
●腹膜透析(PD)は、「拡散」と「浸透」により 老廃物や余分な体液を取り除きます
●透析液の(注液と排液)はおなかに挿入した腹膜カテーテルで行います
●バッグ交換を行うCAPDと夜間に機械で行うAPDがあります
●腹膜カテーテルをおなかに入れる手術は腹膜透析導入入院で行います
●残っている腎機能を良好に保つための考え方「腹膜透析(PD)ファースト」とは
●腹膜透析をトラブルなく続けるためには 体液管理と感染予防がとくに大切です
●腹膜透析の合併症としては心血管合併症と感染の予防が大切です
●腹膜透析と血液透析を併用する方法は腹膜の劣化を抑える効果が期待できます
HD
●血液透析(HD)は「ダイアライザ」で血液を浄化する透析方法です
●血液透析は1回4~5時間の透析を週3回通院して行うのが標準的です
●「ドライウェイト」を基準に除水量を調節 食事制限が良好な体液管理につながります
●血液透析の人に特有の合併症について理解しておきましょう
●食事療法は食塩制限とたんぱく質・エネルギーの適切な摂取が基本です
●良質なたんぱく質とエネルギーの適切な摂取でやせすぎや全身の衰弱を防ぎましょう
●心身が衰えるフレイルを有酸素運動で予防し「最大酸素摂取量」を増やしましょう
コラム 透析療法の人に必要な薬
第5章 腎移植は末期腎不全治療の第一選択
●末期腎不全を根本的に治す腎移植は提供された腎臓をおなかに移植します
●腎移植の件数は徐々に増加し先行的腎移植も増えています
●腎移植までの準備期間にメリットとデメリットを理解しましょう
●腎移植後は合併症の予防が大切です 免疫抑制薬は生涯飲み続けます
●移植した腎臓を長持ちさせ健康に長生きするためには自己管理が必須です
コラム 腎移植後に飲む免疫抑制薬
第6章 自分に合う治療法を選び、自分らしく生きる
●どんな生活をしたいかで最適な治療法は変わります 準備期間に「腎不全ライフ」について考えましょう
●最適な治療法を選ぶためには 医療者との「意思決定の共有」が必要です
●慢性腎不全は「チーム医療」が大切 さまざまな職種が患者さんを支えます
●透析療法、腎移植の患者さんは医療費の助成を受けられます
●災害時の備えはしっかりと病院は透析メーカーとの連絡手段も明確に
コラム 高齢者のエンド・オブ・ライフ・ケア
序章 透析療法と腎移植
●腎臓のはたらきがわるくなったときに行う透析療法ってどんな治療法?
・透析療法は、「腹膜透析」と「血液透析」の2つがある
-腹膜透析は自分の腹膜を使う。腹膜は胃や腸、肝臓などの内臓の表面を広く覆っており、毛細血管が豊富である。そのため、腹膜の中に透析液を入れておくと、血液中の余分な、水分や食塩、老廃物が透析液中に移動していく。数時間したら汚れた透析液を捨て、新しい透析液に交換する。これを繰り返すことで連続的に透析を行うことができる。
・腹膜透析は自宅で行なえるため、自分の生活パターンに合わせて透析できることが大きなメリットである。
・現在、日本では約33万人が透析を行っており、腹膜透析は2.7%である。
●腎移植には生体腎移植と献腎移植があり、ごく普通の生活を送れることがメリットです
・腎移植のメリットは、末期腎不全の状態から保存期腎不全の状態までに回復させられることである。
・腎移植には「生体腎移植」と「献腎移植」がある。
-「生体腎移植」は夫婦間を含む親族から腎臓提供をうけるもの。一方、「献腎移植」は亡くなった人から提供してもらうもの。
-献腎移植は日本臓器移植ネットワーク(JOTNW)に登録し、腎臓の提供者があらわれたときに、登録者の中から基準に従って候補者が選ばれるものである。
-腎移植後は拒絶反応を防ぐために免疫抑制薬を飲み続けなければならないこと。免疫抑制の影響で感染症に罹りやすくなる等の短所はあるが、末期腎不全の第一選択とされている。
コラム 透析療法と腎移植の歴史
・透析療法は1920年代に始まった。
・自動腹膜透析は1960年代前半に登場し、持続携帯式腹膜透析(CAPD)は1978年に考案された。
・日本に持続携帯式腹膜透析(CAPD)が導入されたのは1980年、健康保険の適用は1984年だった。
・日本で血液透析が行えるようになったのは1967年。
・日本で最初に腎移植が行われたのは1956年。腎移植が末期腎不全治療の選択肢となったのは、1981年にシクロスポリンという免疫抑制薬が使えるようになってからである。
第1章 腎臓ってどんな臓器?―腎臓の構造とはたらき
●体の水分(体液)や食塩の量を一定に保ち老廃物を尿として体外に捨てることが主な仕事です
・『糸球体は、1つの腎臓に約100万個あります。健康な腎臓の場合、その全部がいつも働いているわけではなく、一部は休み、余力を備えています。そのために、片方の腎臓を失ったときには、残った腎臓の休んでいた糸球体がはたらくようになり、純分に役割を果たせるのです。』
●食塩のとりすぎと肥満が腎臓を傷つけ 腎機能を低下させます
・肥満は食塩に対する感受性を高めるため、高血圧を促進させるおそれがある。
・アンジオテンシノーゲンは血圧上昇の原因となるアンジオテンシンの元になる物質である。このアンジオテンシノーゲンは肝臓だけでなく、内臓脂肪の脂肪細胞からも多く分泌されるため、肥満は血圧上昇につながる。
コラム 加齢と腎機能
・腎臓は40歳代前半で重さ・大きさは最大になり、その後は少しずつ萎縮していく。萎縮の原因は腎臓に血液を送り込む動脈が加齢とともに狭くなるためである。
・海外の研究では、40歳を超えると毎年1ml/分/1.73㎡ずつ低下するとされているが、日本人の場合は、機能低下は欧米人の3分の1程度と考えられている。
・糸球体のろ過能力の低下は個人差があり、30歳代から低下が始まる人もいれば、40歳を過ぎても変わらない人もいる。また、糸球体だけでなく尿細管の機能も低下していく。
第2章 腎臓の病気の基礎知識
●糖尿病、腎炎、高血圧が原因で 腎障害と腎機能低下をきたすCKDとは
・CKD(慢性腎臓病)は糖尿病や高血圧などの生活習慣病が関わっていることが多く、腎臓の生活習慣病ともいわれる。
●腎代替療法導入の原因疾患 ①糖尿病腎症 高血糖の影響で糸球体がダメージを受けます
・日本では約334,500人(2017年末)が透析療法を受けているが、最も多いのが糖尿病腎症である。
・高血糖の状態が長く続くと、糸球体の血管周囲の総合組織であるメサンギウムという細胞が増加し、これが糸球体を破壊してろ過機能を低下させる。また、たんぱく質のろ過を防ぐための機能が壊れることで、粒子の小さいたんぱく質であるアルブミンが漏れ出し(アルブミン尿)、進行するとたんぱく尿となる。
・たんぱく尿まで進むと、たんぱく質自体が腎臓を傷つけるという悪循環が始まり、血圧もさらに上昇し、加速度的に腎症が進行していく。
●腎代替療法導入の原因疾患 ②慢性糸球体腎炎 腎機能がかなり低下してから気づくこともあります
・慢性糸球体腎炎の原因は様々である。膠原病に続いて発症したり、急性糸球体腎炎が治らないまま、慢性糸球体腎炎になる場合もあるが、多くは異常な免疫反応によって発症する。
・IgA腎症は異物が体内に侵入したときに増えるIgA(免疫グロブリンA)というたんぱく質が、糸球体にくっつくことで起こる炎症が原因です。
●腎代替療法導入の原因疾患 ③腎硬化症 高血圧が原因で起こる腎臓の動脈硬化です
・動脈硬化により腎臓への血流が慢性的に低下すると、腎臓は萎縮し腎硬化症となる。さらに進行すると腎臓全体が萎縮し、慢性腎不全が重症化する。
・腎硬化症は透析療法を受けている原因疾患の第3位である。
・腎硬化症ではたんぱく尿や血尿はごくわずかのため発見が難しい。治療で最も大切なのは高血圧の改善である。
第3章 腎臓病の検査と診断
●たんぱく尿の程度を調べる尿検査は治療の効果を判断するためにも必須です
・糖尿病や高血圧の人は、腎障害の初期から、アルブミンというたんぱく質の主成分が尿に混ざるため尿アルブミンを検査する。
●血液中の老廃物の量を検査 貧血など合併症も血液検査で判断します
・腎機能低下の指標となる老廃物には、クレアチニン、尿素窒素、尿酸がある。
-クレアチニン:筋肉で作られるクレアチンの最終代謝物(老廃物)。大半が体外に捨てられる。筋肉量が多い人は高くなる傾向がある。腎機能低下により徐々に高くなる。
-尿素窒素:食物中のたんぱく質の最終代謝物。約50%は尿細管で再吸収され、残りが捨てられる。腎機能低下により徐々に高くなる。
-尿酸:核酸が分解されるときにできるプリン体の最終代謝物。糸球体で90~98%がろ過された後、尿細管で再吸収される。捨てられるのは10%ほどである。尿酸値が上がるのは腎機能がかなり低下してからである。
・腎機能が低下すると、エリスロポエチン(赤血球をつくるホルモン)の分泌量が減り、腎性貧血になる。赤血球数、ヘモグロビン(血色素)濃度、ヘマトクリット値(血液に占める赤血球の割合)が貧血の程度を判断する重要な検査項目である。
・ナトリウムやカリウムなどの電解質、カルシウムやリンといったミネラルなども腎機能低下によりこれらのバランスがくずれ、高カリウム血症などを発症するため注意を要する。この他、高血糖、脂質異常症に関する項目も調べる。
●CKDで腎機能が低下することによりさまざまな合併症が出現します
・合併症は6つに大別される。予防と早期発見が大切
①尿を濃縮する能力が低下し、多尿や夜間尿がみられる。
②老廃物が体内にたまり、高窒素血症になって食欲不振や吐き気があらわれる。
③体液が増えてむくんだり、カリウム排泄が悪くなって高カリウム血症になる。
④体液が酸性に傾く。
⑤貧血になる。
⑥ビタミンDの活性化ができなくなり、カルシウムとリンのバランスが崩れて骨がもろくなる。
コラム 高齢者の腹膜透析
・体に負担の少ない腹膜透析が合っていることも、家族がサポートできないときは訪問看護の利用を
『高齢の患者さんの場合、腹膜透析と血液透析のどちらかを選ぶかは、家族にとって悩ましい問題でしょう。腹膜透析は、自分でバッグ交換や出口部ケアを行うため、視力や指先の感覚などが衰えた高齢者には難しいことや、高齢者は日中通院する時間があるという理由で、血液透析が選択されることも多いようです。しかし、高齢者にも「腹膜透析(PD)ファースト」の考え方があてはまります。
腹膜透析は、毎日連続的に行うゆるやかな透析なので、体への負担が比較的軽く、循環などの機能が低下した高齢者の体にやさしいことが理由のひとつです。
また、腹膜透析は残存腎機能を保ちやすいため、最後まで腹膜透析を続けられる可能性が十分にあります。
家族が同居しているけれども仕事などでサポートできない、あるいはひとり暮らしという場合は、訪問看護ステーションの助けを借りることができます。たとえば、朝のバッグ交換は家族が仕事に出かける前に行い、日中は訪問看護師が1~2回訪問して交換。夜間は、自動腹膜透析(APD)を行うようにすれば、無理なく腹膜透析を導入できます。ひとり暮らしの場合は、朝と夜も訪問看護ステーションの助けを借りることになります。
相談先は、現在通院している病院の患者相談窓口、あるいは地域包括支援センターです。地域包括支援センターとは、介護・医療・福祉などの多方面から高齢者と家族を支える総合相談窓口で、地域住民なら誰でも利用できます。市区町村村役場の高齢者福祉窓口で、市区町村役場の高齢者福祉窓口に問い合わせると、最寄りの地域包括支援センターを案内してもらえます。
腹膜透析と血液透析を併用する「PD+HD併用療法」を選択し、血液透析の翌日は透析をお休みするという方法も考えられます。
高齢者の透析療法こそ、腹膜透析と血液透析のメリット・デメリットを十分に考えて選びましょう。』
第五部 安らぎと結びつきを探求するさまざまな方法
第十三章 マッサージ
●マッサージ効果に関する研究の多くは解釈が難しい。何らかの意味で実験とは言い難い研究をすべてふるい落としたとしても、マッサージが人間の健康に効果があることを示す研究は十分に残る。
●マッサージには多くの種類がある。タクティール・マッサージ(スウェーデンで理論化された、認知症の症状緩和などを目的とするマッサージ)のように、皮膚に触るだけの施術法がある一方で、筋肉をしっかりもみほぐすマッサージや、手でそっと圧して筋肉の緊張をほぐすマッサージがある。これらの療法は、それぞれ異なる感覚神経を活性化するので、もたらされる結果もさまざまである。
●血圧低下、コルチゾール減少、不安軽減、学習効率上昇―こういった効果はどれも、動物実験でオキシトシン注射により得られる効果と似ている。オキシトシンの効果は繰り返し注射すると、強くなり、また長続きする。それと同じことがマッサージを繰り返し受けた場合にも当てはまると思われる。
『スウェーデン発祥のタクティールケアは、1960年未熟児ケアとして看護師らによって始まりました。マッサージではないため、押したり揉んだりはしません。
優しく包み込むように触れるだけです。誰もが簡単に行うことができ、活躍の場は様々。多くの人がストレスを抱えるこの時代に
必要なコミュニケーションツールです。』
[マッサージとスキンシップ]
●正しいマッサージを受けた赤ちゃんや、哺乳量が同じでもマッサージを受けなかった赤ちゃんより、体重が早く増える。また、コルチゾールの血中濃度も低下する。これはストレスが減っている証拠でもある。
※ご参考:ブログ“医療マッサージ研究1”
以前、小児障害児へのマッサージをやっていたときに書いたブログです。今更ですが、「やはり、マッサージによるものだったのだ」と思いました。
●興味深いのは、マッサージの効果が最も顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男子だった。
[医療施設でのマッサージ]
●病院では体に痛みのある患者に対し、施術しやすい、特殊なマッサージが試行されている。「タクティール・マッサージ」と呼ばれる。このマッサージは、他のマッサージ療法ほど圧を加えない。主に皮膚へタッチすることで効果を生むのだと考えられる。知名度は高くないが説得力のある、いくつかの研究論文によれば、タクティール・マッサージを受けている高齢者の患者は安眠しやすく、痛みを訴えることが少なく、服薬が少ない。混乱することが少なく、意識がはっきりしていて、社交的であることを示すデータもある。介護者との関係もよくなる。
●興味深いのは、マッサージの効果が最も顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男子だった。
[医療施設でのマッサージ]
●病院では体に痛みのある患者に対し、施術しやすい、特殊なマッサージが試行されている。「タクティール・マッサージ」と呼ばれる。このマッサージは、他のマッサージ療法ほど圧を加えない。主に皮膚へタッチすることで効果を生むのだと考えられる。知名度は高くないが説得力のある、いくつかの研究論文によれば、タクティール・マッサージを受けている高齢者の患者は安眠しやすく、痛みを訴えることが少なく、服薬が少ない。混乱することが少なく、意識がはっきりしていて、社交的であることを示すデータもある。介護者との関係もよくなる。
●『いくつかの研究によれば、マッサージを受けている人だけでなく、施術している人の体内でもオキシトシンが放出されているという。マッサージセラピストには、ストレスホルモン値低下や血圧低下など、オキシトシン値が高いことによる典型的な効果が見られる。こういう人たちは全般に、心身が健康だ。それはこの職業の本質にかかわっていることかもしれない。』
[抗ストレス]
マッサージの効果
1.大人がマッサージを受けると血圧、心拍数、ストレスホルモン値が低下する。これらの効果は健康を増進する。
2.子どもがマッサージを受けると、落ち着きが増し、対人的に成熟し、攻撃性が減る。体の不調を訴えることも少なくなる。
3.優しく包みこむようなタッチを受けると、早産児の体重増加のペースが速くなる。
第十四章 食べること―内側からのマッサージ
●ものを食べて満腹になるというのも、体の〈安らぎと結びつき〉システムを活性化させる方法のひとつである。体の内側は食べることによって刺激される。これは体の外側がタッチによって刺激されるのと同じである。
●消化器系と皮膚にはいくつか類似点がある。消化器系、皮膚、神経は細胞系譜をさかのぼると、いずれも外胚葉から作られる。両者は感覚神経からの情報を記録・伝達する方法が似ており、皮膚の内側への延長と言ってもいいくらである。
●消化器系は消化だけでなく、内分泌器官のひとつであり、消化や代謝、体内の細胞内貯蔵庫への栄養分の貯蔵を調節するいくつかのホルモンを分泌している。そして、これらのホルモンは脳に影響を及ぼす。
●消化器系にも多くの交感神経と副交感神経が存在しているが、最大の働きをするのは副交感性の迷走神経である。この神経は90%が感覚性の機能を持ち、体の内外から受けた信号を中枢神経系へ伝える。
[胃袋と脳の間]
●消化機能は自律的なものであるため、腸は意識からの指令がなくても働く。
●消化管ホルモンのコレシストキニン(CCK)は小腸上部から分泌されるが、特に高脂肪の食べ物がこの場所に到達すると特に出やすい。コレシストキニンは迷走神経を活性化し、さらに迷走神経はオキシトシンの放出を促す。従って、食事が高脂肪であればあるほど、食後の満腹感を感じやすく、眠くなりやすい。
第十六章 医薬品による安らぎと結びつき
[不安、抑うつなどの治療薬]
●セロトニン値の低さは、抑うつやある種の不安と関連している。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を不安症状やうつ症状のない人にSSRIを処方すると、より社交的になる可能性があるが、これはセロトニン値が上がるとオキシトシンの放出が起こるためである。
●うつ病患者のオキシトシン値は異常に低いという事実がある。
[オキシトシンを医薬品として使う際の障壁]
●オキシトシンは分娩の誘発や子宮出血の薬として使われている。
●オキシトシンは薬理学的な問題が多くある。一つは、オキシトシンは消化管の中でたちまち分解されてしまうため、経口投与では効果は得られない。明確な効果は注射である。
●オキシトシンは血中でもすぐに分解されてしまう。
●オキシトシンは脳に達することも困難である。これは脳の毛細血管の内壁の細胞が隙間なく並んだ、血液脳関門を形成しているからである。
●『オキシトシンを医薬品として有効活用する方法を開発するには、オキシトシンの分子をもっと扱いやすくしなければならない。そのための科学技術は既に存在するのだが、商業ベースではまだ採算がとれない。オキシトシンの個々の効果(ストレス軽減、疼痛緩和、鎮痛作用、治癒、成長の促進など)をもたらす、オキシトシンに似た薬を開発することも考えられる。オキシトシンのそれぞれの効果は、オキシトシン分子のそれぞれ異なる部位に結びついているらしいからだ。』
[ストレス症状の治療]
●『オキシトシン値は自然な方法でも上げることができるとはいえ、オキシトシンのプラスの効果をもっと利用するためには、オキシトシン分子が直接投与できる形になる日が来るのを待たなければならない。
今、それよりも重要なことは、自分の体内でオキシトシンを放出させるマッサージなどの技術を身につければ、オキシトシン値を十分に上げることができ、飲み薬や注射に頼らなくてもよいぐらいに、オキシトシンの健康増進効果を享受できるのではないかということだ。私たちは体の中にすばらしい癒し物質を持っている。それを利用するさまざまな方法を学びさえすればよいのだ。』
第十七章 体を動かすこととじっとしていること
●『私の考えでは、〈安らぎと結びつき〉システムを活性化する方法はたくさんあり、エクササイズはそのひとつにすぎない。このシステムは、皮膚や乳腺、消化管内壁、筋肉などからの刺激が神経を介して脳に伝わって作動する。どんな方法でこのシステムを作動させるかは、年齢層によって異なる傾向がある。若いうちはオキシトシンを出すのにエクササイズを使うことが多いが、年齢が上がるにつれて鍼やマッサージを選ぶようになる。私たちは絶えず周期環境の情報に合わせて、体内の生理学的状態を調節している。健康的な均衡を得るためには、「動」の刺激も「静」の刺激も必要だ。』
[すわったままのジョギング]
●ヨガの期限は紀元前2500年、インダス文明の頃からのようであるが、ヨガは長寿と健康増進のための技法を発達させてきた。ヨガの動きは、鼠径部や体の前面(腹側)といった身体の部位を刺激し、触覚刺激の受容体を経由して、迷走神経系を活性化する。
●瞑想の生理学的効果については、すでに詳しく研究されている。瞑想によって、酸素消費量の減少、脈拍と呼吸数の減少、筋肉の弛緩が生じる。発汗も減少するので、微電流を流した場合の皮膚の伝導率が下がる。このような効果はすべて、交感神経系の活動が低下したためと考えられる。また、脳波(EEG)を見ると、脳の活動パターンが変化することがわかる。特に顕著な変化はα波の持続時間が長くなることである。
●定期的に瞑想を行うと、高血圧症の人は血圧が下がり、心拍数の正常化が促進される。ストレスホルモン値が下がり、痛みの閾値が上がる。
●瞑想療法によって、アルコールやタバコなどの乱用癖を弱めたり、なくしたりすることができるという指摘もある。
第十八章 私たちの内なるエコロジー
●『現代のストレスに満ちたライフスタイルのせいで、身体的にも精神的にも極度の疲労に陥ったり、健康を害したりする人があまりにも多い。しかも、若い年齢でそうなる人が増えている。どの年齢層においても、病気の多くはつきつめればストレスが原因だ。私たちも私たちの住む社会も、変化を切実に求めている―そして、その変化は思いのほか身近にある。私たちは自分の中に、変化の鍵をもっている。そう、その鍵は、目立ちすぎる〈闘争か逃走か〉システムの陰に隠れていた、もうひとつの生物学的システムの働きを通して、〈安らぎと結びつき〉の状態を呼び起こす潜在的能力の中にある。』
訳者解説
●『〈安らぎと結びつき〉の鍵であるオキシトシンは、ホルモン(血流に乗って体内の器官へ運ばれ、そこで受容体と結合して作用する)としての働きと、神経伝達物質(神経細胞の軸索を通って神経端末へ運ばれ、シナプスを形成している別の神経細胞の表面にある受容体に結合する)としての働きのふたつを持っている。ホルモンとしてのオキシトシンには、分娩時に子宮の平滑筋を収縮させる作用があること、また、赤ちゃんが母親の乳房を吸啜する刺激により分泌されて、乳房から母乳を出す「射乳反社」を起こす働きがあることがよく知られている。神経伝達物質としては、様々な神経細胞に対して多彩な作用を及ぼすことがわかってきており、この多彩な作用がオキシトシンの特徴であるともいえる。その中でも最も興味深いのは、オキシトシンの作用の根幹をなすものが成長であるということだ。オキシトシンは成長の基である生殖に深く関わっており、排卵や射精を促し、分娩・授乳のためには必須の物質でもある。』
感想
『どの年齢層においても、病気の多くはつきつめればストレスが原因だ。』
まさに、この通りだと思います。今回、きっかけとなった不妊鍼灸も、スタート地点は、心身のストレスとどう向き合うかにかかっているように思います。
『私たちのすべての感覚は、まわりがどんな環境か判断することに、絶えず関与している。その環境が脅威や危険をはらんでいると感じたら、〈闘争か逃走か〉反応が引き起こされ、平和で楽しい環境だと感じたら、〈安らぎと結びつき〉反応が引き起こされる。』
後者の〈安らぎと結びつき〉の主役はオキシトシンです。その三大効果は、成長と治癒、社交的能力、抗ストレス効果とされています。
モべリ博士は『オキシトシンの効果は成長と生殖への要求を満たす助けになるものである。』、『私は生殖プロセス全体を、基本的なオキシトシン原理が複雑な形で表現されたものとみなしたい。』と主張されています。
生命誕生に、オキシトシンこそが主役なのではないかという予想は正しかったように思います。 そして、行動すべきは〈安らぎと結びつき〉を重視し、そのための時間を意識的に“つくり出す”ことではないでしょうか。
第八章 授乳―オキシトシンが主役
●オキシトシンは出産授乳ホルモンと呼ばれていた。
●授乳中、オキシトシンは胴体前面の血管を拡張させることで、母親の体表温度を高める。さらに、オキシトシンは育児に必要な世話と保護にも関係している。
[オキシトシンと母乳]
●オキシトシンは乳汁産生を促すホルモンのプロラクチンが下垂体前葉から分泌されるのを促す。乳汁産生はインスリンによっても促される。
●オキシトシンはインスリンの産生を増やす。また、オキシトシンは体の貯蔵所からの栄養の放出を促進するホルモンであるグルカゴンにも影響を与える。
●授乳するためには自分自身の貯えがなければならない。オキシトシンは食欲を増進させ、消化を促進し、体の貯蔵システムの効率を高めることなどによって、体が栄養物を貯えるのを助ける。
[オキシトシンと新生児]
●『今日では、分娩後すぐ、新生児を母親の胸の上に、肌と肌を触れ合わせて置くことが多い。好きなようにさせると、赤ちゃんは、誕生後1、2時間以内に自分で乳房に到達し、母乳を吸いはじめる。乳首を探しているとき、赤ちゃんは手で母親の乳房をマッサージすることになる。このとき母親の体内に、オキシトシンが拍動のようにくりかえし放出される。赤ちゃんがこのオキシトシンの分泌の波をつくりだしているように思われる。というのは、赤ちゃんの手によって乳房に加えられる刺激と、吸うこととが、オキシトシン分泌の波の数と強い(統計学的に有意な)相関係数を示しているからだ。それらの刺激は、乳が体外に噴き出すのを促進するだけでなく、母親の胸部の血管を拡張する。すでに見てきたように、それによって、母親は赤ちゃんにぬくもりを提供する。このときにフェロモン類が放出されて、母子双方に影響を与えている可能性もある。
肌と肌の触れ合いは赤ちゃんの側にも影響を及ぼす。赤ちゃんは落ち着き、母の胸に密着している限りは泣かない。手や足の血流量が増え、リラックスしていることがわかる(リラックスしている状態では、血管が拡張する)。母子の間に微妙な相互作用が交わされていることは、赤ちゃんの足の温度と、母の体温の両方が上がっていることからも明らかだ。母の体温が温かいほど、赤ちゃんの足も温かくなる。
新生児のオキシトシン放出については、まだ研究されていない。しかし、ストレスホルモンのコルチゾールの値が低いことから考えて、脳内のオキシトシンの値はおそらく高くなっているだろう。乳房に吸いつくことで、これらの効果も増強される。触覚以外の感覚(聴覚、嗅覚、視覚、とりわけ、一種の間接的な触れ合いであると考えられるアイコンタクト)も、出産直後の母子の間の精妙な相互作用に重要な役割を果たしている。』
[授乳のもたらす安らぎ]
●授乳とともに、血圧は下がり、ストレスホルモンのコルチゾールの血中濃度が減る。このことは、交感神経系と副腎の活動が低下していることを意味する。
●授乳中の動物の脳の活動を計測した結果、子どもに乳をやりながら、眠っている個体が多数あることが分かった。これは、しばしば人間の母親にも当てはまる。
●これらの行動ならびに生理学的状態の変化は、短時間で消失するものではなく、授乳期間全体にわたって続く。
●研究によると授乳中の女性で、行動の変化がもっとも大きかったグループの人たちは、オキシトシンの血中濃度のもっとも高かった人たちだった。一回の授乳中に起こるオキシトシン分泌の波の数が、乳汁の量だけでなく、母親の落ち着きの度合いとも関係している。
[吸うことと情緒的な絆の形成]
●吸うこと自体の効果は、早産児にも見られる。非常に弱くて、チューブで胃に乳を送らなくてはならない赤ちゃんたちも、小さなおしゃぶりをできるだけ吸わせるようにすると落ち着きが増し、体重の増加のペースが速くなる。
●赤ちゃんのおしゃぶりや指しゃぶりをやめさせるのは難しいことが多い。オキシトシンの分泌とそれによる絆の形成は、おそらく吸うという行為によって始まると思われる。身体的接触が外側の寄付を刺激するように、吸うという行為は口の内側を刺激することだからである。
[ほかの人たちと一緒にいること]
●オキシトシンは一般的に言って、授乳する女性の精神状態を二つの面で変える。授乳する女性は、落ち着きを増し、引きこもっていることを楽しむが、同時に、人と人との親しみのこもった触れ合いに対して心を開く。この二つの適応方法は、授乳期間中、非常に価値がある。進化という観点からも見ても重要な意味をもつと考えられる。
第四部 結びつき
第九章 オキシトシンと触覚刺激
●『人間でも動物でも、皮膚は絶え間なく外界から得た情報を神経系に伝えている。皮膚は、人間やほとんどの哺乳動物にとって最大の感覚器官であり、温かさや冷たさ、触感、痛みを感じ取る。それぞれの感覚は受容器で感知され、受容器につながっている感覚神経系がその刺激信号を中枢神経系へ伝える。
感覚器官としての皮膚の見事な働きのおかげで私たちは、自分にとって脅威であるものであれ、好ましいものであれ、周囲の世界からのメッセージを速やかに解釈することができるのだ。ようしゃなく殴られたのか、優しくなでられたのか、容易に区別できる。中枢神経系にどんな情報が送られるかによって、汗をかいたり、鳥肌が立ったりする。』
[触覚刺激の二つの作用]
●皮膚にはさまざまな受容器が存在している。痛みを感知する受容器や、ぬくもりを感知する受容器。軽く触られたのを感知する受容器もある。
●様々な感覚神経に与えた刺激によって、〈闘争か逃走か〉反応または〈安らぎと結びつき〉反応のどちらかが引き起こされる。これは、どちらのシステムも、ほぼ全身にくまなく存在する皮膚の感覚受容器を発端として作動しうるということ、そして、様々な種類の刺激が、生理学的状態にも行動にも、様々な効果を与えることを意味する。
●覚醒しているラットの腹を、ある特定の圧をかけて一定の間隔でなでてやると、痛みを感じにくくなり、びくびくしなくなった。1分間に40回のペースでなでるのを、5分間をわずかに下回る時間続けるのが、最大の効果をあげるとわかった。こうすると、ラットは落ち着き、動きが少なくなるとともに、他の個体に対する興味や関心が強まった。血圧は低下し、数時間下がったままだった。
[鍵となるのはオキシトシン]
●あるドイツ人の酪農家が、乳牛のためのボディブラッシング機を考案し、動物における触覚刺激刺激の劇的な効果を例証した。優しくなでなれているような心地良い感覚により、乳牛たちはリラックスして体調がよくなり、乳量が最大26%増えた。
●鎮痛剤を与えたラットの特定の神経を活性化したり、目覚めているラットの腹をなでたりするなどの方法で、鎮静作用のある種々の反復刺激を与えると、ラットの血中や脳内のオキシトシン値は決まって上昇した。
[触覚刺激と成長]
●快い触覚刺激がなぜ成長と結びつくのかについて考えられることは、下垂体から放出される成長ホルモンが増加するためである。これにもオキシトシンの関与が考えられる。
第十章 オキシトシンとほかの感覚刺激
●ラットによる研究結果の中に、オキシトシンの投与を受けていないラットにも程度の差はあれ、投与を受けたラットと同じような効果、落ち着きが増し、ストレスホルモン値が低下するなどを観察できる。これについては、匂いを通して伝達が行われ、オキシトシン・システムが活性化すると考えられている。
●匂いの中には気づかない匂いもある。これは鋤鼻器という特殊な古い嗅覚器官であり、フェロモン(空中を漂って個体から別の個体へと伝わる物質)を受け取る。フェロモンの効果に関与する神経は、大脳皮質や嗅球には直結しておらず、身体機能や情動の一部をつかさどる脳の比較的古い部分につながっている。そのため、人間は無意識のうちにフェロモンの影響を強く受けている可能性がある。
●私たちのすべての感覚は、まわりがどんな環境か判断することに、絶えず関与している。その環境が脅威や危険をはらんでいると感じたら、〈闘争か逃走か〉反応が引き起こされ、平和で楽しい環境だと感じたら、〈安らぎと結びつき〉反応が引き起こされる。
※フェロモン
フェロモンには何となく胡散臭い印象があったので調べてみました。
以下は東工大さんのニュースなので極めて信頼性の高い情報です。これにより、フェロモンの存在の有無を正しく認識することがでました。「やっぱり、あったんだ!」という感じです。
画像出展:「東工大ニュース」
東工大ニュースには以下の記事もありました。
『115種におよぶ生物種の全ゲノム配列を網羅的に解析して、ほぼ全ての脊椎動物が共有する極めて珍しいタイプのフェロモン受容体遺伝子を発見しました。
一般的に、フェロモンやその受容体は多様性が大きく、異なる種間での共通性は極めて低いことが知られています。しかし、今回新たに発見された遺伝子は、古代魚のポリプテルスからシーラカンス、そしてマウスなどの哺乳類におよぶ広範な脊椎動物で共通であるという驚くべき特徴を備えていました。』
第十一章 オキシトシンと性行動
●愛の効果には、事後に安らぎとくつろぎをもたらす力を含め、たくさんの健康増進効果がひととおり備わっているからである。この安らぎは、性行為につきものの触覚刺激や一体感とともに、オキシトシンの放出を増やす。そしてさらにこのオキシトシンが癒しや消化の促進など、さまざまな抗ストレス効果を生む。
●オキシトシンは人間の性行動に重要な役割を果たしている。ひとつには、濃密な触れ合いやキスの口唇刺激をともなうからであり、また、オルガスムスは大量のオキシトシンを血液中に放出させるからである。これは動物実験に加えヒトの研究の結果からも確認されている。
●オキシトシンは卵巣からの排卵を促し、卵が卵管を通って子宮へと運ばれるのを手伝い、また、精子の産生と移動を助ける。
[オルガスムスと絆]
●性交中は男女とも血中のオキシトシン濃度がぐんぐん上昇し、オルガスムスと同時に最高値に達するという。また、オキシトシンは男女の別を問わず、オルガスムスとかかわりのある筋肉の運動を刺激する。
●実験により、動物にオキシトシンを大量投与すると、眠ってしまうことがわかっている。少量投与の場合は不安が減り、落ち着きが増し、他の個体との接触に興味を示す。
●オキシトシンの効果は、その性的体験がどのような状況のもとにあったかに左右される。その状況が緊張や危険の要素が優位であれば、オキシトシンと拮抗的に働くバソプレシンの影響のためストレス反応が生じる。
●オキシトシンは性的関係による感情的絆を強める。それはカップルが互いにふさわしい相手だと確信できるほどに理解し合う前に、感情的絆だけが先行してしまうという危険をはらんでいると言える。
[セックスと健康]
●短期的に見ると、性的経験はストレスになる要素があるが、長期的には安定した性的関係は、カップルの双方の安心感を強め、不安を減少させる。オキシトシンの大量放出が繰り返されると、〈安らぎと結びつき〉システムにつきものの長期的効果が生まれる。栄養を蓄積し、癒しを速め、生きていくのに必要な力の回復を促進する、といったそれらの効果によって、性的活動は健康にとってプラスの影響を与える。
第十二章 オキシトシンと人間関係
●『好きな人のそばにいるのは、うれしいものだ。あなたが赤ちゃんだろうと大人だろうと変わりはない。好きな人と一緒にいて、触れ合うことができると、安心感がもて、緊張がとけて、気持ちが落ち着く。スキンシップが必要なのは、ママやパパに抱きしめてもらいたがる幼い子どもだけでない。大人もやはり、人間関係において愛されている感じがほしいときには、身体的に触れ合う必要がある。』
●愛情を感じ、安心感を覚えると気分がよいというだけの話ではなく、他の人のそばにいて、身体的な触れ合いをもつことが、私たちの健康に役立つような方法で、体内の生理学的プロセスを活性化させている。
[絆で結ばれた関係]
●多くの動物は互いに識別しあって親密さを深めるが、雄と雌が一生結びつくという意味での一夫一婦婚をする哺乳動物は、ほんのわずかである。すべての哺乳動物にとって大切なのはむしろ、母子間に相互的な強い絆を形成することである。種の存続は、母と子がお互いを識別し、結びつきを維持する能力にかかっている。
●『ヒツジの場合、出生後の一時間が母ヒツジと子ヒツジの絆を形成するのに、決定的な意味をもつ。この大事な時期に親子が引き離されると、絆を形成するのが難しくなり、しばしば、母ヒツジが子ヒツジを拒否する。そういう母ヒツジにオキシトシンを注射すると、その一時間が過ぎていても自分の子どもを受け入れるようになるだけでなく、ほかの雌の子どもも受け入れて、母子としての関係を築く。したがって、オキシトシンは母子間の絆形成に―とりわけ、出生直後の絆形成に、重要な役割を果たすと言えよう。』
[触覚刺激と感情的絆]
●オキシトシンの影響を受けると、他者との接触に積極的になると考えられる。そして、そのことがオキシトシンの分泌に拍車をかける。このようにして、人と人との感情的絆の形成に至るサイクルがつくられる。
[さまざまな人間関係におけるタッチ]
●親密な間柄でのタッチのタイプは、親子間、兄弟間、パートナー同士、友人同士など、どのような間柄かによって変わってくる。タッチや体の触れ合いがオキシトシンを放出させることを考えれば、相互的な快いタッチを交わせるふたりの人の関係は、感情的絆をつくるだけでなく、お互いの健康を増進し、オキシトシンによる抗ストレス効果を与え合っていると考えられる。
●生き延びるためには、他の個体と親密になる能力が、他の個体から身を守る能力と同じくらい重要である。
●ある実験によれば、図書館員に軽く手を触れられた借り手は、触れられなかった借り手よりも返却率が格段に高かったという。ちょっとした接触が、借り手に本を返す気にさせる感情的な結びつきをつくりだしたためである。
[心理的な触れ合い]
●人間同士の関係や出会いにおいて、身体的触れ合いがなくても心理的レベルでのタッチを経験することもある。温かく協力的な感じのすることもあれば、冷淡で厳しいと感じることもある。こちらの話を丁寧に聞いてくれる人に対しては、親しみのこもったタッチをしてもらった場合と同じく、信頼と結びつきの感情を抱きやすい。
[タッチの欠如]
●過度なストレスは交感神経の過活動につながり、健康に害を及ぼす。親しい人との別離は強いストレス効果を伴う。
●別離と病気には関連がある。例えば、配偶者を亡くして間もない人は、病気にかかるリスクが増すという統計がある。
●血圧上昇、心拍数増加、不整脈、血液凝固亢進傾向などのストレス関連症状は、心血管の疾患や脳血管障害を引き起こすおそれがある。
●個人的な結びつきを死別や生別によって失うことのストレスは、突然、タッチを喪失し、それによって、親密さや温もりが生む効果の多くをなくしてしまうことが一つの重要な要素であろう。健康に良い刺激がなくなると、病気になるリスクが高まる。
[他者との良好な関係が健康に与える好影響]
●良好な人間関係が長寿につながることを示す研究結果がいくつかある。特に男性は、心血管疾患の発生率が低かった。
●私たちに好影響を与える人間関係とは、必ずしも親密なものでなくても良い。グループ活動や地域活動に加わるだけでも健康に良い影響がある。
[場所との結びつき]
●年をとってから故郷に戻ってくる人は多い。故郷での暮らしは、他のどこよりも心が休まるのだろう。また、老齢のために長年住んだ故郷を離れなくなければならなくなった人は、それにより身体的にも精神的にも衰えがちであることはよく知られている。
第三部 オキシトシンの効果
第六章 オキシトシン注射の効果
●『オキシトシンは一生を通じて私たちとともにある。あなたが生まれたときに、お母さんの子宮から押し出されるのを手助けしてくれたのはオキシトシンだし、お母さんがあなたに授乳することができたのもオキシトシンのおかげだ。幼いころには、お母さんやお父さんが愛情をこめて触れてくれるのを喜んだだろう―それによって、あなたの体の中にオキシトシンが放出されたから。大人になってもからも、おいしいものを食べたり、マッサージを受けたり、恋人と親密に触れ合ったりしたときに、オキシトシンの効果を体験している。オキシトシンはこれらのすべての状況で―そしてもっともっとたくさんの状況で活躍している。』
●『本書で描かれているオキシトシンの効果の多くは、動物実験によって例証されている。研究者たちは動物の行動の変化だけでなく、さまざまな計測可能な生理学的変化も観察してきた。これらの効果のほとんどは、ヒトでも確認されている。』
[不安が減り、社交性や子育て行動が増強される]
●低い投与量のオキシトシンを注射されたラットは、臆病さが減り、好奇心が増す。安全な巣を離れて、未知の環境を探求する傾向が強くなる。オキシトシンには明らかな不安軽減効果がある。
●同性の一群のラットは、未知の環境を探索する傾向が強くなり、接触を恐れる程度が少なくなる。集団内での攻撃がはっきりと減り、友好的な交流が増える。
●オキシトシンは危険に対する感じ方を鈍らせ、恐れるべきものがあまりないという気持ちにさせて、勇気を涵養する。
●オキシトシンの影響を受ける行動のうち、とりわけインパクトの大きい例は、母子間の相互作用である。メスのラットにエストロゲンを投与し、さらにオキシトシンの注射をすると、出産したことのないメスでさえ母性行動を示す。
●オキシトシンは分娩時と授乳時に分泌が促進される。オキシトシンは子宮の収縮を促し、新生児が押し出されるのを助ける。そして、乳管の周りの筋肉を収縮させ、乳汁が押し出されるのを促進する。
[ソーシャル・メモリー(他社とのかかわりについての記憶)の増強]
●少量のオキシトシンが不安を減らし好奇心を増すが、大量のオキシトシンが注射された雌牛は全く異なる効果を示す。
●オキシトシンの効果は非常に広範囲にわたるが、その一つに痛みの軽減がある。
[学習能力の向上]
●オキシトシンの学習促進効果は鎮痛効果によるものと考えられる。これはストレス低減にも関係しているのではないか。
●オキシトシンは速やかに血液中からなくなるので、長期的効果はオキシトシンの直接的な影響であるとは考えられない。これはオキシトシンが他の神経伝達物質の働きに長期的な影響を与えるためではないか。
[血圧に対する効果]
●オキシトシンは心拍数や血圧を上昇させることもあれば、低下させることもある。ヒトにおいては後者の場合が多いようである。これらの効果は交感神経と副交感神経が直接的に、もしくはより高位の脳からの接続を通して影響されることによって生じる。
●オキシトシンの効果はメスにおいてより顕著に現れる。これはエストロゲンのためである。エストロゲンはメスの個体において、オキシトシンの影響を増強し、効果の持続時間を長くする。卵巣のないメスはオスと同等となる。
[体温の調整]
●オキシトシンのサーモスタットは温度を均一に保つのではなく、温かさを体のある部分から他の重要な部分に移動させるような働きをしていると考えられる。授乳中の母ラットの腹側の血管は、オキシトシンの効果によって拡張しているため、授乳中は子どもを温めてあげることができる。
[消化活動の調節]
●オキシトシンの消化活動に関する働きは興味深いものである。その個体が満腹であるか空腹であるかによって、オキシトシンの果たす役割は異なる。オキシトシンの作用の仕方は、一種の知恵が働いている。
●オキシトシンは長期的には食欲を増進させるが、メスにおいて、特に授乳期間中に顕著にみられる。
●オキシトシンによって消化プロセスの効率が良くなるのは、ひとつには、オキシトシンが胃液の分泌と、ガストリン、コレシストキニン、ソマトスタチン、インスリンなどの消化に関係するホルモンの分泌を促進するからである。なお、コレシストキニン、ソマトスタチン、インスリンは、体内における栄養の蓄積も促進する。
●胃に食べ物がある動物では消化と栄養の蓄積が活発になる。一方、空腹の動物では消化プロセスが抑制される。オキシトシンのこの二つの効果は、いずれもオキシトシンが副交感神経のうちの腸の機能を制御する部分(迷走神経)に影響を与えることによってもたらされる。
[体液量の制御]
●オキシトシンは、パートナーともいえるバソプレシンとともに、主として尿の形で水を排出するか、体液の貯留を促進するか、いずれかの方法で体液量を調節する。ただし、それぞれの働きは体液量の均衡維持に対して、正反対の効果をもたらす。
●オキシトシンは腎臓がナトリウムや水分を尿の形で排泄するのを促進する。一方、体液の保持する機能に関し、ホルモンであるバソプレシンや副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が増加すると、塩分を摂りたくなる。バソプレシンは尿を作る量を減らし体内の塩分と保持する。
●バソプレシンは血管を収縮させ、血圧をあげる。危険を感じる状況において、負傷によって血液その他の体液が失われる恐れがあるとき、ヒトは体液を保持しなければならない。バソプレシンとCRFはその目的のために作用する。
[成長と傷の治療]
●オキシトシンは傷ついた粘膜を治癒させ、再生させる。炎症を抑える作用もある。
[ほかのホルモンへの影響]
●オキシトシンは視床下部でつくられて、下垂体後葉に運ばれ、そこから、血液中に放出される。
●下垂体前葉からも数種類のホルモンは分泌されるが、視床下部でつくられた特別な制御物質が局所的循環システムを通して、下垂体前葉に運ばれ、そこでそれらのホルモンを血流に放出される。
●下垂体前葉につながる血管の中には、いくつかの神経からオキシトシンが放出される。オキシトシンは下垂体が、プロラクチン、成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)などを分析するのを促進する。これらのホルモンの値が増えると、様々な効果が生まれる。例えば、プロラクチンは授乳期間中のメスの動物や授乳中の女性の乳汁の産生を促し、成長ホルモンは体の成長を促す。
●体にもともと備わっている抑制と均衡のシステムは複雑である。オキシトシンは常に存在し、さまざまな仕方で作用する。オキシトシンを中心とするこの抑制と均衡のシステムはうまく連携がとれていて、オキシトシンの様々な効果は、見事なクモの巣をなす糸のように結びついている。
第七章 オキシトシンの木
●オキシトシンの効果は成長と生殖への要求を満たす助けになるものである。
[成長の原理]
●オキシトシンの様々な効果は、一本の大きな木の枝のようなものである。それぞれの枝は、オキシトシンに関係のあるひとつの基本的な原理、すなわち一本の幹から出ている。その基本的な原理(幹)とは成長の促進である。
●オキシトシンは食物を別の物質に変えることによって、成長を促進する。
[成長のプロセス]
●すべての成長に必要な基本的必要要件のひとつは、栄養を体の中に組み入れることである。オキシトシンは様々な仕方でこの要請に応える。消化効率を高め、栄養の蓄積を増強する消化管ホルモンの分泌を促進したり、下垂体から成長ホルモンが分泌されるのを直接的に促進したりする。
●『生まれたばかりのラットにオキシトシンを注射すると、通常より速く成長し、通常より大きな成獣になる。妊娠中のメスのラットにオキシトシンを注射すると、通常より大きな子を産む。おとなのメスのラットに、オキシトシン注射をすると、注射を受けていない比較対照群よりも体重が重くなる。
おそらくもっと間接的な仕方でも、成長が促進されているのだろう。というのは、オキシトシンを注射すると、傷の治るのが二倍も速くなる場合があるからだ。この治癒効果は、オキシトシンが細胞分裂を促進すること―すなわち、新しい細胞ができるのを加速することによるのかもしれない。オキシトシンは、また、「成長因子」―細胞が大きくなることと分裂することを促進する血液中の物質―の産生量を増やすように思われる。
オキシトシンが成長を促進するのであれば、生殖にかかわっているとしても何の不思議もない。オキシトシンは卵と精子の両方に見られる。オキシトシンは卵巣からの排卵や精巣での精子の産生を促進する。オキシトシン注射は、受胎しやすさを増し、受精後早期の細胞分裂を速め、胚の成長速度を増す。このように、人生のもっとも早い段階から、オキシトシンは私たちの道連れとなり、一生の間、離れない。
生き物が成長するためには、まず、栄養を貯えなくてはならない。細胞分裂の前には、必ず、細胞の大きさが増す。大きさが増すのは、栄養の蓄積によって起こる。まず、栄養を貯えないと、細胞は分裂できない。栄養を貯えられない細胞系は、ほどなく滅びてしまう。妊娠・出産も元のユニット(単位)が大きさを増し、それからふたつに分かれるものだから、巨大なスケールでの細胞分裂とみなすことができるだろう。私は生殖プロセス全体を、基本的なオキシトシン原理が複雑な形で表現されたものとみなしたい。それは、まず成長を促進し、それから、元の存在を分割することによってふたつの存在を生み出し、命を増やすことだからだ。』
[出すこと]
●オキシトシンの木の2本目の枝は、出す能力(“排出”)に関わるものである。[1本目の枝は“成長”]
●オキシトシンの効果で子宮や乳房の筋肉が協調して収縮することによって、子どもが娩出され、乳が排出される。
[社交性、好奇心、つがい]
●オキシトシンの木の3本目の枝は、社交性と好奇心による行動を促す力である。
●社交性と好奇心による行動とは、例えば、あえて他の個体に近づき、その相手と相互作用をもち、個体識別ができるようになり、その相手のそばにいることを選ぶといったことである。
●この枝は母性行動や社交的行動(他社への働きかけ)の形での個体間の相互作用に影響を及ぼす。
●人と人がお互い身近になると、感情的なつながりが両者の間に生まれる。この現象は性的関係、親子関係、友人関係などにもあてはまる。
●絆―つまり感情的な結びつきがある場合には、人のために尽くすことが、より容易になる。一般的に言って、性的関係であろうと、育て、育てられる関係であろうと、友達関係だろうと―いや、職業上の関係であってさえ、人間関係というものは、双方が相手に手を差し伸べ、親しみを抱くことができる場合にこそ、実り多く、長続きするものになる。
●オキシトシンの不安軽減効果も、おそらくはこの枝に属する。不安のレベルが低いことは見知らぬ相手に近づくのに必要な前提である。
[枝同志を結びつける]
●バソプレシンは防御・縄張り・攻撃などに特徴づけられる行動にかかっている。一方、オキシトシンは他者とのかかわりあい、人なつっこさ、好奇心によって特徴づけられる行動を生み出す。
●他者と接触すること自体が、オキシトシンの放出を促し、個体間に絆、あるいは愛着を引き起こす。これらは親と子の関、性的パートナーの間、重要な人間関係においても同様である。この種の行動のすべて、そしてその生理学的要素の一部がオキシトシンによって強化される。
●オキシトシンの二大効果―ひとつは成長と治癒、もうひとつは社交的能力―は、一見、別物のように見えるが、大きな視野で見れば二つの効果には関係があると思われる。子どもの成長には母親の献身的な育児が必要だが、母親は出産のあと、母親は他者との交わりに積極的で、育む気持ちが強まるだけでなく、子どもとの絆を形成しようと努める。
[短期的賦活作用]
●オキシトシンの枝には短期的効果に関わるものもある。オキシトシンを注射すると、一時的に血圧と心拍数が上昇し、ストレスホルモンの分泌が促される。これらの穏やかな賦活効果は成長を促進する効果を補う。例えば、他者との間の相互作用を自分の側から始める時、このような補いが必要になる。
●出産においては陣痛の間、赤ちゃんへの血液供給を十分に行うためには母親の血圧は上昇する必要がある。短期間に見られるストレス反応は、新しい未知な環境に対処する際にも役立つ。このような場でリラックスするのは危険なことである。
[長期的ストレス軽減作用]
●オキシトシンの二大効果(成長と治癒、社交的能力)に続く、大きな枝は、強力で長期期間持続する抗ストレス効果である。オキシトシンには血圧と心拍を下げ、ストレスホルモンの血中濃度を減らし、痛みに対する耐性を増し、学習を促進し、安らぎの感情を強める働きがある。ただし、この効果が現れるのは、普通、しばらく時間が経ってからである。しっかりと覚醒している時間の後でなければ、のんびりとくつろぐのは危険である。
●オキシトシンの長期的な効果は、ストレスとは正反対の生理学的状態をつくりだす。交感神経の活動が抑制され、その結果、血圧もストレスホルモンの血中濃度も低くなる。同時に副交感神経の一部が活性化して、心拍を遅くし、消化と栄養蓄積を促進する。これらの抗ストレス効果には多くの機能があるが、共通点は成長に必要な前提条件を整えることである。成長に関係する活動は―栄養蓄積、傷の治療など、そして生殖そのものも―個体が平静な状態のときに強化されるからである。
●重要なことは長期的な抗ストレス効果は、オキシトシンの直接的な作用によるものでない。それはオキシトシンが速やかに血液中から消えるからである。数日、あるいは数週間も長期的な効果が続くのは、オキシトシンが他の生理学的メカニズムを活性化するからだと思われる。
●オキシトシンの長期的効果を説明するメカニズムについて、研究によって部分的には明らかになっている。
-『神経伝達物質であるノルアドレナリンとアドレナリンは、脳のストレス対処システムの重要な構成要素である。ノルアドレナリンとアドレナリンは神経系の特別な受容体―とりわけ、αアドレノ受容体、βアドレノ受容体と呼ばれる受容体と結合して作用する。オキシトシン注射を繰り返すと、αアドレノ受容体の一タイプであるα2アドレノ受容体と呼ばれる受容体の活性が高まる。ノルアドレナリンがこの受容体と結合すると、それ以外のアドレノ受容体と結合したときの効果とは正反対の抗ストレス効果が生み出される。つまり、オキシトシン注射を繰り返した結果として、あたかも船長がエンジンを逆回転させるように指示したかのように、ノルアドレナリンの影響がおおむね、正反対に切り替わる。』
[ともにそよぐ枝]
●オキシトシンの木は1本の枝が目立って風に揺れることはあるだろうが、多くは数本の枝がそよいでいる。
●オキシトシンの効果を取り扱う研究は動物実験に基づいているが、私たちヒトにおいて安らぎと幸福感を生み出す状況の一部も、オキシトシンの放出と関係があると推測することができる。
●動物における研究はそれらの状況を特定するのに役立ち、そのような状況でのヒトのオキシトシン値が測定されてきた。例えば、授乳しているとき、食べているとき、セックスをしているとき、あるいはもっと広く、他の人と身体的に接触しているとき、オキシトシン値が上昇することがわかっている。
●授乳は多量のオキシトシンを放出させ、オキシトシンの木の数本の枝を揺らす活動である。母乳が排出されるときには、母親も子どものゆったりとくつろいでいる。それにくわえて、母子間の相互作用が強められ、両者ともに、消化と栄養蓄積のプロセスの効果が増す。
[成長と防御の必要性]
●本書で論じている二つの主要なシステム―〈安らぎと結びつき〉システムと〈闘争か逃走か〉システムは―は、個々の細胞のレベルでさえ見られるふたつの基本的な生理学的プロセスが、複雑な形で表れたものだと考えられる。
[修復し、バランスを取り戻す]
●シーソーのストレスの側にだけ、明らかに過重がかかっている状態は、〈安らぎと結びつき〉効果を活性化することで、バランスが取れる。自然は私たちに「どちらか」の問題ではないと、繰り返し教えてくれているかのようだ。
第一部 〈安らぎと結びつき〉システム
第一章 オキシトシン
●1906年、ヘンリー・デールは、脳にある下垂体の中に、出産の経過を加速する物質を発見し、「速い」と「陣痛」という意味のギリシャ語にちなんで、それをオキシトシンと名づけた。また、後に、オキシトシンが射乳を促すことも発見した。
●『私は本書で紹介する研究を始める前に、自分自身、妊娠・出産・授乳に関して行動のしかたや考え方が、がらっと変わるのを経験していた。私はオキシトシンについての科学文献の中に、その変化を説明するものを見つけた。また、私の調べた資料には、オキシトシンがさまざまな面で母子間の相互作用を増し、母子間の絆を形成することを立証する動物実験についての記述が含まれていた。私は考えた。オキシトシンは私たちヒトに対しても、生理学的影響や心理学的影響を与えているのではないだろうか―それらの動物実験が示しているような面でも、まだ知られていないほかの面でも。
大いに興味をそそられて、手にはいる限りのオキシトシンについての文献を読んだ。わかったことは、オキシトシンはホルモンとして、血流に乗って体内を巡り、さまざまな機能に影響を与えるだけでなく、神経伝達物質として脳のさまざまな領域につながる神経ネットワークを通して作用するということだった。このふたつの方法で、オキシトシンは、体のさまざまな重要な働きに影響を与えている。〈闘争か逃走か〉反応を引き起こすのと同じ神経系が、オキシトシンが関与した場合には、正反対の反応を引き起こす。』
●オキシトシンとバソプレシンは2つのアミノ酸が異なるだけであり、非常によく似ている。また、進化論的観点から見ると、オキシトシンとバソプレシンは非常に古くからある物質である。
●オキシトシンは哺乳類のすべての種に、化学的に見てまったく同じ形で存在する。
●ミミズにさえ、オキシトシン様の物質が見られ、その刺激で卵を産む。
●オキシトシンとバソプレシンがこれほど長い間、動物界に存在しているという事実は、このふたつの物質が非常に重要であり、不可欠な役割を担っていることを示している。
●オキシトシンは多くの連鎖反応による効果の発端となるが、その鎖の最後の輪であることはまれである。このことは非常に重要である。
●オキシトシンによって制御されるシステムにはフィードバックの仕組みがあるので、オキシトシン産生細胞は、神経信号を受け取ること、ならびに化学的変化を感知することによって、外部環境と情報を交換できる。これらの細胞には、体の外側の器官、内部の器官、感覚器から情報がもたらされるので、オキシトシンの分泌は容易に促進される。興味深いことに、考えや連想、記憶などによってさえ、オキシトシン・システムが活性化される。
第二章 私たちを取り囲む環境
●生態系とフィードバック・システムについての理解が深まるにつれ、すべての生物個体がそれを取り囲む環境と常に接触し、影響を受けつづけていることがわかってきた。食刺激、姿勢、周囲の温度、飢え、満腹状態など、無数の可変要素が常に与えている情報は意識されることなく、心身の機能に影響を及ぼしている。
●生物学的リズムは環境から独立しているというふうに考えられがちだが、実際は、その多くがもともと、外界との相互作用によって獲得されたものである。女性の月経周期が月の満ち欠けと一致しているのも、すべての人がほぼ同じ長さの一日の生体リズムをもっているのも偶然ではない。かつては月光や日光がそのような機能を直接に制御していたが、進化の過程で、これらのリズムが生物学的システムに組み込まれた。
●生物個体を丸ごととらえるホリスティックな見方が医療や医学研究に導入された結果、心と体が相互依存的に機能しているということは、事実として広く受け入れられている。
●現代西洋文化のストレスの量についての不満は非常にありふれていて、もはや耳にすることもまれなぐらいである。今日、成功へのプレッシャーは非常に大きい。何事もテンポが速く、情報があふれすぎているし、職を得るためには厳しい競争に勝たねばならない。視覚、嗅覚、そしてとりわけ聴覚への刺激の量はすさまじい。私たちの体内ストレスに関連した〈闘争か逃走か〉システムが、過剰に活性化されているのは疑う余地がない。
一方、安らぎ・くつろぎ・親密さを促進する状況は、私たちの社会ではまれになってきている。そういう状況が生ずる頻度が少ないほど、〈安らぎと結びつき〉にかかわる私たちの内なる生物学的システムが活性化される頻度も減る。
●触覚は、〈安らぎと結びつき〉システムへの強力な入力源である。何かを一緒にするとき、人と人との相互作用において、触覚、嗅覚その他の感覚が、自然にその役割を果たす。個人の独立性を増し、共同作業を減らす現代の風潮の結果として、このような感覚刺激が減っている。そして、この変化は〈安らぎと結びつき〉システムの活動を減らし、究極的には、私たちの健康をおびやかす。
●〈安らぎと結びつき〉反応は、病気を予防するためだけに必要なのではない。人生を楽しみ、好奇心を燃やし、楽天的で創造的であるためにも必要である。
●穏やかな環境や、温かい人間関係のもとで、集中や学習力が強まることは、実験でも証明されている。ストレスにさらされている子どもは、心が平穏で安心感をもっている子どもよりも学習に苦労する。
第三章 バランスが肝心
●身体的ならびに心理的ストレスにさらされると、私たちが過酷な状況に対処できるように、体は利用できるエネルギーのすべてを動員する。そして、私たちがその状況を改善し、ひと息入れることができるようになるまで、それを続ける。
●『〈闘争か逃走か〉反応と〈安らぎと結びつき〉の状態の両方が、人生にとって欠かせないものだということは、いくら強調しても強調しすぎることはない。ほかの動物とまったく同様に、私たちヒトも難題に対応して、何であれ、そのとき必要な行動をとれるように自分のもっているすべての力を動員する能力が必要だ。そして、その正反対のことも必要だ。体は食べ物を消化し、貯えを補充し、自らを癒やす必要がある。情報を取り入れ、感情表現し、心を開いて好奇心を満たし、ほかの人たちと触れ合う必要もある。大変な出来事があったり、困難が続いたりしたあとに回復できるのは、そういう能力のおかげである。
前述したように、〈闘争か逃走か〉反応と〈安らぎと結びつき〉反応は、シーソーゲームの両端のようにバランスをとりあって機能する。満ち足りた気分で食物を消化しているときに、動揺や怒りやストレスを感じることはまれだ。一心に何かしているときや怒っているとき、急いでいるときには、消化のペースがゆっくりになり、愛想が悪くなる。一方のメカニズムが他方を排除することはないが、一時的に一方が優勢になるのだ。
しかし、現代では、〈闘争か逃走か〉反応は、突然の身体的危険を避けるというよりも、環境から多少とも継続的に過剰な要求をされていて、それに反応するということが主である。今や〈闘争か逃走か〉反応は、体のもつすべての力を一時的に動員するということではなく、ほぼ休みなく続く生理学的状態となってしまった。いわゆる慢性的ストレスが問題なのだ。
本書では、安らぎと結びつきを特徴とするさまざまな場面でのオキシトシンの役割について、これまでの研究で明らかになったことを描きだす。この新しい知識が、どの程度、そしてどのように私たちの役に立つか―たとえば、ストレスのマイナス作用に対して身を守る方法を見つけるのに役立つかどうか―は、これから研究していかなくてはならない課題だ。』
第二部 脳と神経系におけるオキシトシンの役割
第五章 オキシトシンの働くしくみ
●ホルモンには2種類ある。
‐ステロイドホルモン:コレステロールに関連した脂質から成る。
‐ペプチドホルモン:いくつかのアミノ酸が結合した小さなタンパク質で、細胞そのものの中に入るのではなく、細胞膜の外側の表面にある受容体を活性化する。
●オキシトシンはペプチドホルモンである。
●オキシトシンは哺乳類のすべての種において同じ構造である。
●オキシトシンは視床下部の室傍核と視索上核で産生され、下垂体に神経線維が走っており、この下垂体から放出される。
●室傍核の細胞グループからは、他にも多くの神経線維が伸び、扇状に広がって脳のさまざまな部分と接続しており、オキシトシンは神経伝達物質としても作用する。
●視索上核と室傍核でオキシトシンを産生する細胞には2つのタイプがある。
‐大きな細胞から産生されたオキシトシンは下垂体に運ばれる。
‐小さな細胞から産生されたオキシトシンは軸索を通って、脳内の受容体に運ばれる。
●オキシトシンを産生する細胞には興味深い特徴がある。神経細胞は活性化するとき電流が流れる。オキシトシン産生細胞の集まっているところでは、細胞ごとにバラバラに電流が生じるのではなく、一斉に生じる。授乳時のように、強く刺激されると、これらの細胞の電気活動は協調する。
●オキシトシン産生細胞の間には別の種類の細胞が存在し、一種の絶縁体として働いているが、その絶縁が解除されることで、すべてのオキシトシン産生細胞が力を合わせて働きはじめる。授乳中の女性の血中オキシトシン濃度が劇的に上昇するのは、ひとつにはこのためである。
●オキシトシン産生細胞に起こる協調は、生理学的に独特のものである。
●オキシトシンの効果をより厳密に調べると、非常に興味深いことに細胞の協調であれ、効果の協調であれ個体同士の協調であれ、協調こそ、オキシトシンの存在を示す目印であり、体内の他の多くの物質と区別する特徴である。
●視床下部からの神経を介してオキシトシンの影響を受ける脳領域には、視床下部と脳幹に近い領域が含まれる。視床下部と脳幹は血圧、運動、感情の制御に関係している部位である。この視床下部からの神経は、脳と脊髄の中の自律神経系の活動や痛みの知覚を制御する部位とも接続している。
●視床下部からの神経が複雑に枝分かれしているおかげで、私たちの体は、オキシトシンをメッセンジャーとして用い、さまざまな生理的機能・活動を協調させることができる。
●現在発見されているオキシトシン受容体は一つであるが、特定されていない受容体があると考えられている。
●オキシトシンの産生に影響を与えるのは外界からの情報(例えば皮膚を介しての情報)と体内からの情報(例えば子宮や腸についての情報)を運ぶ神経。そして、嗅球や大脳皮質の様々な部位、脳幹のような古く機能的に下位にある部位からの神経もオキシトシンの分泌を増やしたり、減らしたりする。
●オキシトシンの産生細胞の分布や、血中オキシトシンの循環には雌雄両性においてさほど差はないが、状況により雌に対して強い効果をもたらすことが、動物実験で示されている。
●女性ホルモンのエストロゲンが、オキシトシンの産生を増やすことで、オキシトシン・システムを活性することもある。エストロゲンはαタイプとβタイプの2種類の受容体に作用するが、オキシトシンの放出に関係しているのはβタイプの受容体である。
●神経伝達物質の中でオキシトシンを促進させるのは、グルタミン酸、CCK(コレシストキニン)、VIP(血管作用性腸管ペプチド)。抑制するのはGABA(γ‐アミノ酪酸)、エンケファリン、β‐エンドルフィン、ジノルフィンがあ
●モノアミンと総称される化学物質には、セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン等があり、これらは神経伝達物質として働くが、セロトニンやドパミンはオキシトシンの放出を促進する。ノルアドレナリンはストレスホルモンの一つであり、通常は覚醒と攻撃について賦活的効果をもたらし、〈闘争か逃走か〉状態を促進するため、それ自体は脳内のオキシトシン効果の標的でもある。ところがその一方で、セロトニンやドパミン同様、ノルアドレナリンもオキシトシンの放出を促進する。
●オキシトシン自身には他のほとんどのホルモンに見られる、サーモスタットのような自分で自分の産生を止めるフィードバック・システムがない。
●『オキシトシンは、オキシトシン産生細胞のオキシトシン受容体を活性化することによって、一定のレベルまでオキシトシンの産生を促す。そして、新たに活性化された受容体は、細胞を刺激して、さらにオキシトシンをつくらせる。』
オキシトシンといえば、分娩や射乳に関するホルモンである。というのが学校で学んだことです。
2018年に拝読させて頂いた、山口 創先生の著書『人は皮膚から癒される』では、スキンシップケアの重要性とその陰に隠れ、多大な影響を及ぼしているとみられるオキシトシンの存在を知りました。(ブログは“スキンシップケア[C触覚線維]”)
一方、新たに不妊鍼灸をはじめたことで不妊に悩む患者さまとの接点が生まれ、このオキシトシンこそが、生命の誕生を総合的に支配している存在なのではないかと直感し、そして、今回の本を見つけてきました。初版発行は2008年と古いのですが、著名な先生の著書であることとオキシトシンだけに焦点を当てた内容は、200ページを超えるをものだったため全体像から枝葉まで知ることができるのではないかと思い購入しました。
オキシトシンは、血圧と水分調整にかかわるバゾプレシン(ADH)とともに下垂体後葉ホルモンであり、静脈から心臓に還流した後、全身に送られます。つまり、この2つのホルモンは、下垂体前葉ホルモンや視床下部ホルモン(下垂体前葉ホルモン分泌を促進または抑制を担う)とは明らかに異なる特徴を有しています。その意味でも特別の存在といっても良いのではないかと思います。
画像出展:「東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科」
右上部の【下垂体】の中の[後葉]の下に”オキシトシン”が書かれています。上にある”抗利尿ホルモン(ADH)”がバソプレシンになります。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
『下垂体後葉(神経性下垂体)には下下垂体動脈が分布し、後葉内で毛細血管網を形成する。視索上核や室傍核からの神経線維は漏斗茎を通って後葉に至り、毛細血管周囲に終末をつくる。神経終末から放出されたオキシトシンやバソプレシンは後葉の毛細血管内に入り、静脈から心臓へ還流したのち全身に送られる。』
※視床下部から下垂体後葉につながるピンクの管がオキシトシンとバソプレシンのルートです。
目次
はじめに―ないがしろにされてきた人生の一側面
第一部 〈安らぎと結びつき〉システム
第一章 オキシトシン
第二章 私たちを取り囲む環境
第三章 バランスが肝心
第二部 脳と神経系におけるオキシトシンの役割
第四章 体の制御中枢
第五章 オキシトシンの働くしくみ
第三部 オキシトシンの効果
第六章 オキシトシン注射の効果
第七章 オキシトシンの木
第八章 授乳―オキシトシンが主役
第四部 結びつき
第九章 オキシトシンと触覚刺激
第十章 オキシトシンとほかの感覚刺激
第十一章 オキシトシンと性行動
第十二章 オキシトシンと人間関係
第五部 安らぎと結びつきを探求するさまざまな方法
第十三章 マッサージ
第十四章 食べること―内側からのマッサージ
第十五章 タバコ、アルコール、その他の薬物
第十六章 医薬品による安らぎと結びつき
第十七章 体を動かすこととじっとしていること
第十八章 私たちの内なるエコロジー
本題に入る前に、ひとつご紹介したいサイトがあります。
これは、今回の本の初版が2008年であり、動物実験によるものが多いということから、「現在、オキシトシンに関する最新の研究成果はどうなっているんだろうか?」という疑問がありました。そこで、検索してみるととても興味深い、新しい記事(2022年8月26日)を見つけました。
これにより、オキシトシンが今も注目にあたいする物質であることを確信することができました。
『慶應義塾大学医学部薬理学教室の塗谷睦生准教授、横浜国立大学環境情報学府博士課程前期2年の中村花穂、慶應義塾大学医学部薬理学教室の唐澤啓子(研究当時)、同大学医学部薬理学教室の安井正人教授らの研究グループは、これまで直接見ることができず謎に包まれてきた、脳内のペプチド性ホルモンの一種であるオキシトシンを「見える化」するツールの開発と応用に成功しました。
オキシトシンは、分娩促進や授乳促進、母性行動などに関与し、母親が子を産み育てる上で重要なホルモンとして知られてきました。さらに近年、これらの効果に加え、日常生活の中で人間関係を築いていく社会的行動においても重要な役割を持つことが明らかにされ、ヒトを含む動物の精神を強力に調節する、脳内の神経伝達物質としての役割が注目を集めています。闘争欲や恐怖心を減少させ他人に対する信頼感を増加させる効果や、自閉スペクトラム症の中核症状である社交性を改善する効果から、一般的には「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」という名称でも親しまれ、とても注目されています。』
PDF資料(4枚):左をクリックするとダウンロードされます。
ブログは4章と15章以外、目次の中の黒字の個所です。また、長くなったので5つに分けました。
冒頭の「はじめに―ないがしろにされてきた人生の一側面」は10ページにわたって記述されているのですが、その内容に思わず惹きつけられました。全てではありませんが、3つに分け、かなりの部分をご紹介させて頂いています。
はじめに―ないがしろにされてきた人生の一側面
『私たちは日頃、善と悪、光と闇、男と女、太陽と月というふうに、両極端を頭においてものを考えることが多い。どうしてそうなのかはわからないが、二元論的考えに慣れっこになっていて、自分がそういうふうに考えていると意識することもないぐらいだ。とくに、科学の方法論は、そういう考え方によって形づくられてきた。とはいえ、学問分野の中には、両極のうちの片方だけが明確に表現される、あるいは両極の片方だけが私たちの好奇心をそそる、そういう分野もある。
生理学は医学の分野のひとつで、生きている動物がいかに機能するかを明らかにしようとするものだが、その中でも特に多くの力が注がれたのは、心身の激しい活動とストレスの生理学だった。それはたいていの場合、〈闘争か逃走か〉反応を調べることを通して研究された。このよく知られた反応において、私たちヒトやその他の哺乳類は、立ち向かうか、逃げ去るか、いずれにせよ、ストレスとなる状況に対処できるような体勢を整える。私たちは怒りや恐れを、ときにはその両方を感じる。血圧が上昇する。栄養蓄積を含めて、消化器系の働きがほぼ停止する。反応が速くなり、痛みに対しては鈍くなる。体じゅうのエネルギーのすべてが、(現実のものであれ、想像上のものであれ)直面する脅威に対して身を守ることに向けられる。ポパイがホウレンソウを食べて世界一強い男になるように、〈闘争か逃走か〉反応の影響下にあるヒトその他の哺乳類は、短時間、ふだん以上の力を発揮する。私たちの体が自家製の「滋養強壮ドリンク」を、ホルモンと神経伝達物質の形で提供してくれるおかげだ。
私が本書で描き出したいと思っている、これまであまり研究されてこなかった生理学的パターンは、〈闘争か逃走か〉反応の対極にあるものだ。ほかの哺乳類もそうだが、私たちは、危険に直面して臨戦態勢にはいる能力に加えて、人生の良きものを楽しみ、くつろぎ、他者と結びつき、自らを癒す能力をもっている。人生の出来事においてだけではなく、生化学システムにおいても、〈闘争か逃走か〉パターンの対極に位置するものがある。本書があつかうのは、シーソーの反対側の端にあるシステムだ。私たちの体は、安らぎと結びつきを得るためのシステムを備えているのである。
〈安らぎと結びつき〉システムに関わりが深いのは、恐怖ではなく信頼と好奇心であり、怒りではなく好意である。循環器系はペースを落とし、消化器系はフル回転する。心が静かで安らいでいるとき、私たちは防御をとく。感受性が豊かになり、開放的な気分で、自分の周囲の人たちに関心を抱く。私たちの体は「滋養強壮ドリンク」ではなく「癒しのネクター」を提供してくれる。その影響下で、私たちは自分のまわりの世界やそばにいる人々を肯定的なまなざしで見る。私たちは成長し、癒される。〈安らぎと結びつき〉反応もまた、ホルモンならびに神経伝達物質の作用だが、これらの基本的な生理学的作用がどのようにして〈安らぎと結びつき〉反応をもたらすのかについては、まだ十分な確認や研究がなされていない。
このシステムが顧みられないできたという事実から、科学研究の背後にどういう価値観があるのかがよくわかる。〈安らぎと結びつき〉システムの維持にとって、〈闘争か逃走か〉システムと同じくらい重要かつ複雑であるのに、研究される頻度は、〈闘争か逃走か〉システムのほうがはるかに高い。たとえば、自律神経系(神経系のうち不随意的な身体機能を調整する部分)をあつかった論文のうち、休息や成長に関与している副交感神経部分に関するものは10パーセントに過ぎず、残りの90パーセントは、〈闘争か逃走か〉反応において活性化する交感神経部分に関するものだ。ストレスや痛みをテーマとする学術会議はよく催されるが、安らぎ、休憩、幸福をテーマとする学術会議はほとんどない。』
『〈安らぎと結びつき〉システムが働くのは、体が休んでいるときが多い。静かな見かけの下で、ものすごい量の活動が起こっているが、それらの活動は運動や急激な力の発揮には向けられない。〈安らぎと結びつき〉システムは体が自らを癒やし、成長するのを助ける。このシステムは栄養をエネルギーに変え、あとで使うために貯えておく。体も心も安らいでいる。そういう状態のときには、私たちは自分の中の資源や創造性を、よりよく利用できるようになる。ストレスにさらされていないときの方が、学習能力や問題解決能力は高くなる。
〈闘争か逃走か〉システムの対極にある〈安らぎと結びつき〉システムの身体的・心理的働きについて理解を深めることが、このうえなく重要だと私は信じている。個々の状況のもとで個々の人々が最適な反応をするには、この二つのシステムの両方が必要だ。しかし、長期にわたるストレスが、さまざまな心理学的・身体的問題を引き起こすことは、今では広く知られている事実だ。長い目で見て健康であるためには、この二つのシステムのバランスがとれていなくてはならない。』
『私がこの路線を選んだのには、個人的な理由もあった。四人の子の母としての経験から興味深い疑問がわいたのだ。妊娠中、授乳中、そして子どもたちと密接に接触していた時期に私が経験したのは、人生のほかの課題に挑戦するときにいつも感じていたストレスとは正反対の状態だった。私は妊娠や授乳に関係する精神生理学的状態がもたらすものは、挑戦・競争・達成にかかわる精神生理学的状態がもたらすものとはまったく異なることを知った。今から二十年以上も前、私はこの人生経験を科学的に探求しようとする過程で、重要な生物学的マーカーの存在に気づいた―その生物学的マーカーこそ、本書の主題である。
広く世界を見渡すと、心が平らかで安らいでいることを評価し、望ましい在り方だと考える伝統のある地域も多い。中国、ヒンズー、その他の文化は、この状態に到達するのに役立つさまざまな技術を開発してきた。今では西洋でも、より質の高い生活、より大きな幸福への道を求めて、瞑想・ヨガ・太極拳などが熱心に実践されている。
ストレスが増えつづけ、人と人とがばらばらになっていく一方の現代生活の中で、安らぎと、結びつきの必要性がますます切実に感じられるようになった。安らぎと結びつきへの渇望は、あわただしいライフスタイルを問い直し、心の平安と気持ちのいい人間関係に至る道を、意識的に探求するという形で表れる。しかし、この渇望が十分意識されず、きちんと認識されていない場合も多く、人によってさまざまに異なる対応の中には、長い目で見ると不健全なものもある。
たとえば、たっぷり食べ物をとれば―とりわけ脂肪分に富む食べ物をとれば、心が安らぎ、よく眠れるようになる。だが、いつもこのようにして自分をなだめる習慣がつくと、不都合な結果が生じるのは明らかだ。酒も心に安らぎを与え、眠気を誘う。ストレスに満ちた一日のあとで、気持ちをほぐす手段として飲酒する人は多い。だが、これもまた、問題を生じかねない。ストレスや不安や抑うつに悩む人々が、医師に処方された薬を飲む場合も同様だ。直接的な依存性があるとは考えられていない最新の薬であっても、望ましくない副作用があることは大いに考えられる。
エクササイズによって、体重をコントロールする効果だけでなく、心の落ち着きや安らぎが得られると感じる人もある。鍼、指圧、マッサージ、各種のエナジー・トリートメント〔訳注 レイキ(霊気)など、気を用いる療法〕など、代替医療を定期的に受けることが、身体症状を軽くするだけでなく、安らぎを得るのにも役立っていると感じる人もいる。瞑想や祈りなどのスピリチャルな活動を実践することによって、心が静まり、リラックスできると感じる人も多い。
本書をお読みになれば、体と心を通して憩いと幸福へと至るさまざまな方法が、一見、まったく異なっているように見えても、実際には共通点をもっていることがおわかりになるだろう。それらの方法はすべて、私たちの体内の同じシステムを活性化することで目的を果たしているように思われる。そしてその手助けをしているのは、オキシトシンという非凡な生化学物質であるようだ。
本書で展開される分析は、私自身の、そしてほかの人たちの研究によって裏づけられている。この長い年月の間に、〈安らぎと結びつき〉システムの生理学的プロセスに同じような関心をもち、この研究が健康と幸福にとって大きな意味をもつという共通の確信を抱く仲間がふえ、ネットワークが形成された。このネットワークを構成しているのは、研究者仲間や院生だけではない。関心をもつ一般の人もたくさん参加している。それらの人々は私たちと貴重な経験を分かち合い、研究のヒントをたくさん与えてくれた。
オキシトシンの効果についての考えは、動物実験ならびにヒトでの観察と測定に基づいている。私はそれらの知見から、まだ科学的解明が進んでいない事柄について、推測し、仮説を立てる。私がそのようにするのは、科学的研究によってこの分野が十分に探査されているわけではない現状において、「大まかな絵」を浮かびあがらせ、〈安らぎと結びつき〉システムの全体像をつかめるようにするためだ。私はオキシトシンを、私が〈安らぎと結びつき〉システムと呼ぶ広範な生理学的作用と結びつけ、ひとつの主張をうちたてようとしている。私が根拠とする証拠は説得力のあるものだが、状況証拠にすぎない場合もある。私のしていることは、いくつかピースが足りないジクソーパズルを嵌め合わせることに似ている。手持ちのピースを組み合わせて、二、三歩後ろに下がり、より広い視野の中で見ると、〈安らぎと結びつき〉システムの全体像がどんなふうになるか、見当がつく。
この短い著書で、この分野でなされてきたすべての研究の概要を紹介することは不可能だ、だから私は、そうする代わりに、いくらかの科学的な成果を出発点として、私たちが安らぎと結びつきをいかに切実に必要としているか、その状態がいかにして生み出されるか、それが私たちの健康にどのようなよい影響をもたらすかについて、自由に考えをめぐらせた。これらの問題は、今後、科学者がさらに探求していかなくてはならない重要な問題だと私は信じている。』
不妊治療に取り組みながらの流産は、極めて厳しい現実です。
なぜ起きるのか、鍼灸師としてできることは限られますが、少なくとも、何が起きたのか、どうして起きたのかを知ることは、良い施術の第一歩になることは間違いないと思い、特集のタイトルが気になった今回の雑誌を購入しました。
特集:『No more! 流産』
1.流産は、なぜ起こる?
2.着床するということは?
3.不妊治療と流産
4.体外受精と胚移植
5.体外受精と着床障害
6.着床障害の検査と治療 胚、胎児側の問題
7.胚の染色体の数を調べる PGT-A
8.胚の染色体の形を調べる PGT-SR
9.着床障害の検査と治療 母体側の問題
10.不育症なの? なんども流産してしまう
11.不育症の検査
12.不育症のリスク因子と治療 内分泌異常/血液凝固異常・自己抗体①
13.不育症のリスク因子と治療 血液凝固異常・自己抗体②
14.不育症のリスク因子と治療 子宮形態異常/夫婦の染色体構造異常/リスク因子不明
ブログで取り上げたのは、目次の中の黒字部分です。
『流産は、その経験が一度であっても、精神的なダメージが大きく、「生まれてこられたはずの命なのに、流産は自分のせいだ」と思い、深く傷つく人もいます。また、次の妊娠に気持ちを向けようとしても、「また流産してしまったら…」と思い、なかなか前向きになれない人もいるでしょう。
そして、不妊治療をしている人のなかには、胚移植をしても着床しない。生化学的妊娠[妊娠反応が陽性になったのみ]を繰り返してしまう…と悩んでいる人も少なくありません。
流産は、とても辛い出来事ですが、それが次の妊娠へ、赤ちゃんが授かる方法へと導いてくれることもあります。』
1.流産は、何故起こる?
1)流産とは
・妊娠22週より前に妊娠が終わること。22週とは赤ちゃんがお母さんのお腹の外では生きていけない週数のことである。
・流産は全妊娠の約15%に起こり、妊娠経験のある女性の約40%が経験しているとされている。
・妊娠12週未満を「早期(初期)流産」、妊娠12週以降22週未満の流産を「後期流産」という。流産の約80%は早期流産で、その原因のほとんどは胎児の染色体異常といわれ、偶然に起こる。
2)流産ではない生化学的妊娠
・生化学的妊娠とは、尿中や血中に妊娠反応があったという生化学的な反応だけで終わってしまうことである。「化学流産」と呼ぶこともあるため、流産と誤解されることもあるが、生化学的妊娠は流産に含まれない。
・生化学的妊娠の原因のほとんどは、胚の染色体異常から起こる自然淘汰がほとんどである。
・本来の妊娠は、超音波検査で胎嚢が確認できた臨床的妊娠をいう。
3)流産の兆候は
・妊娠6週頃になると、超音波検査で胎児の心拍が確認できるようになり、流産する確率は低くなる。
・流産の主な兆候は出血と腹痛である。腹痛は子宮の収縮により腹部が痙攣したような痛みが起こる。
・超音波検査で診断される稽留流産の場合は、出血や腹痛はないのが特徴である。
・腹痛、出血は流産とは限らないが、気になる兆候であることは間違いないので、病院で受診すべきである。
4)流産の確率
・年齢が高くなると、妊娠は難しく、流産はしやすくなる。
・40歳以上になると流産のリスクは高まる。なお、流産のリスクはグラフを見ると、体外受精の場合の方が低い。
注)以下の2つのグラフは時期およびデータ元が異なる。
5)流産は予防できる?
・切迫流産とは流産しかかっている状態であり、妊娠12週未満の場合には、特に有効な薬はなく、安静にして経過観察することになる。
・喫煙、風疹などの予防接種、糖尿病などの基礎疾患にも注意が必要である。
・栄養面で、葉酸摂取が推奨されているのは、神経管閉鎖障害の予防である。
2.着床するということは?
1)着床は、どのように起こるのか
①胚を受け入れる準備
・卵胞が成長するにつれ、卵巣はエストロゲンを分泌し、子宮内膜を厚くする。
・エストロゲンによって厚みを増した子宮内膜は、プロゲステロンによって着床しやすい状態に整えられる。
②受精から胚の成長
・卵管膨大部で卵子と精子は受精し胚になる。
・受精後は卵管内で細胞分裂を繰り返し成長しながら子宮へと運ばれていく。
・胚の栄養は卵管液だが、8細胞期まではピルビン酸と乳酸、8細胞期以降はグルコースを栄養にして、胚自体の力で発育するようになる。
③着床のはじまり
a.胚は、将来赤ちゃんになる細胞側を子宮内膜に接着させる。
b.胚は、内膜に接着するとすぐに潜り込んでいく。
c.胚は、子宮内膜を分解して、自分のものにしながら、胎盤をつくるためにhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の分泌を始める。
画像出展:「人体の正常構造と機能」
hCGは通常14日間以内に機能を失う黄体を刺激することにより、退縮なく機能を8週から10週維持する。
注)左端のぼやけて見えない部分は、「胎児精巣を刺激」になります。
d.胚は、hCGを分泌する。このホルモンが血液や尿中から検出されると妊娠反応が陽性になる。
e.胚が完全に潜り込むとその痕を塞さぐ。こうして着床が完了する。
3.不妊治療と流産
1)不妊治療をする夫婦は流産しやすいのか
・39歳以下では自然妊娠と体外受精の流産率に差はない。
・40歳以上では体外受精での流産率は低くなる。考えられる理由は以下の通り。
-体外受精では着床の可能性の高い胚を選択して移植できる。
-凍結融解胚移植では、子宮内膜、ホルモン環境を調整し、移植時期の最良のタイミングを選択も可能である。
・体外受精の場合、不妊原因を持っていたり、年齢層がやや高いという点では流産しやすい要因も存在している。
2)不妊治療をする夫婦は生化学的妊娠になりやすいのか
・卵子の老化は染色体異常の発生率を高め、卵子の力を低下させる。卵子はもともと染色体異常が起こりやすく、排卵した卵子の約25%に染色体異常があるといわれ、40歳前から上昇する。
・染色体数の異常のため受精が完了しない、胚が成長しない、着床しない、流産が起こる。もしくは染色体の数に問題を持った子どもが出生することにもつながる。
5.体外受精と着床障害
1)着床障害とは
・良好胚を何度も移植しているのに妊娠しない人、あるいは生化学的妊娠を繰り返している人は、着床障害の可能性がある。
・着床は、胚の問題がないこと、子宮内膜の厚さが十分にあること、胚移植と着床時期のタイミングがあっていることなどの条件が大切である。
2)胚移植と着床
・胚移植は、胚盤胞移植と凍結融解胚移植が多くなってきている。
・胚盤胞の場合は、程なく着床が始まり過程は自然妊娠と変わらない。一方、体外受精の場合にはプロゲステロンを補うための服薬、膣剤、貼付薬、注射などを使い、採卵(排卵相当日)から約16日後に妊娠判定を行うのが一般的である。
3)より着床しやすい胚移植とは
・凍結技術の進歩により、凍結・融解による胚へのダメージは、ほぼ心配することはなくなった。その結果、全ての胚を凍結して、子宮内膜やホルモン環境を整え、患者さんの都合に合わせて凍結融解胚移植を行う治療施設が増えてきている。
4)凍結融解胚移植の移植日
・着床しやすい時期は、通常排卵から5日目あたりで、“着床の窓”と呼ばれている。
・凍結融解胚移植の場合、移植胚の成長程度と子宮内膜の状態を同調させるため、排卵、または排卵の相当日から胚移植日を決定する。
・3つの方法
①自然周期
-自然排卵により排卵日から胚移植日を決定する方法。
②排卵誘発周期
-クロミフェンなどの服用する排卵誘発剤を使い、排卵を起こさせて胚移植日を決定する方法。
③ホルモン補充周期
-ホルモンを補充し、内膜の黄体化[卵子を排出した卵胞が黄体という組織に変化し、分泌されるプロゲステロンによって子宮内膜が厚くなる]を行った日から、胚移植日を決定する方法。
6.着床障害の検査と治療 胚、胎児側の問題
1)着床障害の検査
・着床障害には、明確な定義はなく、各治療施設によって異なるが、要因は胚または胎児側の問題と母体側の問題がある。
2)胚・胎児側の問題
・胚の染色体の数の異常や構造異常が原因で着床しない、もしくは生化学的妊娠によるものがある。
・流産全体の80%以上は、妊娠12週未満に起こる早期流産である。
・染色体の数の異常については、偶発的に起こる卵子の減数分裂の失敗や、受精時に起こる多精子受精などが要因になっている。
・受精は卵管膨大部で起こるが、受精の際、卵子に2個、3個の精子が入ることがある(多精子受精)。この結果、すべての染色体の数が3本(3倍体)、4本(4倍体)となり倍数体の異常が起こる。
・倍数体の異常は、卵子の極体がうまく放出できなかった場合や単為発生(卵子が精子と受精することなく活性化して前核が形成される:1倍体)の場合などがある。
9.着床障害の検査と治療 母体側の問題
1)母体側の問題
①子宮内膜環境の問題
・慢性子宮内膜炎
-子宮内膜の深い基底層にまで細菌が侵入して炎症が起こり、その炎症が持続している状態。
-慢性子宮内膜炎は自覚症状のない人が多く、なかなか着床しないことから発見されることも少なくない。
-慢性子宮内膜炎は不妊治療経験者の約30%、繰り返し胚移植にもかかわらず生化学的妊娠や流産を繰り返す人の約60%にあるといわれている。
・子宮内細菌(フローラ)
-2015年、子宮内に細菌(フローラ)が存在することが確認され、子宮内フローラの乱れが体外受精に悪影響を及ぼすことや、子宮内膜で免疫が活性化し、胚を異物として攻撃してしまう可能性が指摘されている。
-膣内環境や腸内環境が子宮内環境に影響している可能性も考えられている。
・ビタミンD不足
-ビタミンDの不足が着床を難しくしているという研究発表がある。ビタミンDは食事以上に、日光によって作られる方が多いと考えられているので、妊活中は1日30分程度、日に当たるよう心掛けることが重要である。
②胚移植のタイミングの問題
・着床は排卵から5日目というケースが多く、それに合わせて胚移植するが、約30%の人には着床時期にずれがみられる。
③免疫寛容の問題
・胚は卵子と精子が受精したものだが、外からの精子は非自己(自分自身ではないもの)である。にもかかわらず、拒絶反応が起こらないのは免疫寛容という働きによりものだが、免疫寛容に異常があると拒絶反応が起こり、それが着床障害の原因になる可能性がある。
・免疫寛容は、免疫応答の司令塔とされているT細胞が関連し、着床にはTh1細胞<Th2細胞の関係が通常であるが、なかなか着床しない人の中には、Th1細胞が優位になっている場合がある。
10.不育症なの? 何度も流産してしまう
1)不育症とは
・妊娠はするが流産を繰り返したり、死産になってしまったりすることを不育症と呼ぶ。
2)流産の要因は
・流産は全妊娠の約15%に起こり、胚の染色体異常による流産は、妊娠のごく初期に起こる。
12.不育症のリスク因子と治療 内分泌異常/血液凝固異常・自己抗体①
1)不育症のリスク因子とは
①内分泌異常
・甲状腺ホルモンの異常、多いのが「甲状腺機能亢進症」で、少ないのが「甲状腺機能低下症」であるが、いずれも流産のリスク因子である。
・糖尿病は不育症のリスク因子にあげられているが、ケースとしては多くないとされている。しかし、流産や早産のリスクに加え、心臓肥大など出生後に正常な発達、発育の問題が起こる可能性があるため、妊娠前からの血糖のコントロールが大切である。
②血液凝固異常・自己抗体
・血液凝固異常とは、血小板の異常や血液を凝固させるタンパク質の異常などによって起こり、止血が難しい出血傾向と凝固させやすい血栓傾向がある。不育症のリスク因子は後者である。
13.不育症のリスク因子と治療 血液凝固異常・自己抗体②
1)低用量アスピリン療法
・アスピリンには血小板を抑え、血液をサラサラにする効果がある。投薬の終了時期は、28週まで、もしくは36週までと医師によって判断は異なっている。
・妊婦禁忌とされており、アスピリンアレルギーの人もいるので、医師に相談すべきである。
2)低用量アスピリン+ヘパリン療法
・ヘパリンは血液凝固因子を抑えることで血栓を予防する。
・ヘパリンの開始時期は「妊娠が陽性になってから」あるいは「胎嚢が確認できてから」が一般的で、1日2回、12時間ごとの注射が、妊娠36週頃まで毎日、必要になる。
14.不育症のリスク因子と治療 子宮形態異常/夫婦の染色体構造異常/リスク因子不明
1)子宮形態異常
・子宮は胎児期には左右2つあるが、出生前には融合して1つになる。この融合がうまくいかないことが原因で、子宮の形態異常は発生する。特に中隔子宮が不育症のリスク因子に上げられている。
・中隔子宮は、外観は正常だが子宮腔内に仕切りのようなものがあり、内腔が左右に分かれている形態異常である。
・患者あたりの生児獲得率は、手術したグループで77.5%、しなかったグループでは53.8%であり、手術が必須とまではいえない。
2)夫婦の染色体構造異常
・夫婦のどちらかの染色体に構造異常があるために、流産を繰り返すもの。
3)偶発的流産・リスク因子不明
・不育症の中で一番多い。検査をやっても「異常なし」と診断される。なお、胎児の染色体異常はこの中に含まれる。
4)テンダーラビングケア
・『ストレスと流産についての因果関係は、はっきりしていません。
ただ、流産後、次回の妊娠に臨む前に、臨床心理士や産婦人科医がカウンセリングを行った方がストレスが改善し、妊娠成功率が高かった、という不育症研究班の報告があります。
なかでも最近、注目されているのがテンダーラビングケア(TLC)です。流産してしまった人に「優しく、愛情を持って接し、いたわる」ことで、次回の妊娠が継続し、出産に至る確率が上がるといいます。
とくに流産直後は、ストレスを強く感じ、辛い気持ちの中で過ごす時間も多くなることと思います。
心が痛い、辛いと感じるときは、無理せずに通院施設のカウンセラーや心理士、また心療内科を訪ねてみましょう。』
※ご参考
ストレスとうまくつきあう:『思うように授からないことや不妊治療がストレスになることも。不妊とストレスの関係について』
感想
ビタミンDは日光、腸内環境は食事、睡眠、運動などの生活習慣が重要です。一方、強いストレスなどによる自律神経系の乱れは、内分泌系や免疫系にも悪影響を及ぼします。
また、不妊症の方は“冷え”を訴えることが多く、これも自律神経系が交感神経優位になって、血管を緊張させ血液の流れを悪くしていることが要因の一つです。
以上のことから、日常生活で直面する過度な緊張、ストレスを減らすことが重要です。鍼灸治療は心身をリラックスさせます。自律神経系を整え、冷えを改善します。そして、子宮内膜が「ふかふかのベッド」になったとき、朗報は近くまで来ているのではないでしょうか。
「摂りすぎた糖は、AGEとなって大量の活性酸素を生み出す」ということは知っており、活性酸素が炎症を亢進させる重要な元凶の一つであるということも知っていました。
しかしながら、この重要なAGEについてはもっと詳しく知りたいと思っていました。
“AGE”は“終末糖化産物”と訳されることが多いようですが、『「糖化」を防げば、あなたは一生老化しない』の著者である久保先生は“糖化最終生成物”と訳されています。どちらが良いということもないので、以降、すべてAGEとさせて頂きます。なお、AGEはAdvanced Glycation Endproductsになります。
AGEについては、福岡市の”おおた内科消化器クリニック”の太田先生のホームページに詳しく書かれいます。
ブログでは目次の黒字部分を取り上げています。
目次
プロローグ
体が「糖化」すると「老化」してしまう
糖化こそ、老化や病気を引き起こす元凶だった!
「抗糖化」の食習慣で老化の進み具合が大きく変わる
第1章 老化・病気・不調すべての原因は体の糖化にあった!
―糖とどうつき合うかで人生が変わる
長生きするも早死にするも、すべては「糖」次第
AGEという不良がはびこると、体が活気を失う
ホットケーキもクッキーも糖化だった
「酸化」と「糖化」は“兄弟分”。いつも影響し合っている
食後1時間の血糖値の上がり方で糖化リスクが分かる
「食後1時間対策」で10年後の人生に大きな差がつく
第2章 あなたの体をボロボロにしてしまう糖化のメカニズム
―糖化はゆるやかな死への行進
AGEが悪さをしでかす2つのパターン
AGE架橋で体中のたんぱく質が“化石化”していく…
たんぱく質の機能低下が進むと全身がボロボロに…
動脈硬化の真の原因は細胞の炎症だった!
糖化はゆるやかな死への行進
糖化が引き起こす主な病気
《糖尿病・糖尿病合併症》
《動脈硬化・心筋梗塞・狭心症・脳梗塞・脳出血》
《認知症・アルツハイマー病》
《非アルコール性脂肪肝(NASH)》
《骨質が悪くなる》
《肌のトラブルが起こりやすくなる》
だるさや疲れやすさも糖化の影響の影響!?
第3章 体が糖化する食べ方、糖化しない食べ方
―糖化を防ぐ食べ方 5つのコツ
血糖値を急上昇させない食べ方が基本
糖質を敵視しすぎない姿勢が大切
「超低炭水化物ダイエット」の大きな落とし穴とは?
極端な糖質制限は医学的にも危険!
高GI&高カロリーの食事が連続するのを避ける
「食事記録」をつけて食べすぎている自分に気づく
「プチ減食デー」を設けて食生活を改善
食べ方をひと工夫するだけで糖化は防げる!
食べ方のコツ① 「懐石食べ」で血糖値の急上昇を防ぐ
食べ方のコツ② 緑の野菜をたくさん食べる
食べ方のコツ③ 糖化した食品を取りすぎない
食べ方のコツ④ 昼食を「食生活の切り替えポイント」にする
食べ方のコツ⑤ 食後1時間に体を動かすようにする
糖化メニューおすすめレシピ
メニュー① ライ麦パンアボガドディップ/野菜と豆のスープ/アイスカフェオレ
メニュー② 全粒粉パンのトーストポタージュ浸し/野菜とフルーツの豆乳ジュース
メニュー③ カブのみぞれ中華がゆ アジのなめろう添え/キュウリの昆布和え/フルーツ大豆ヨーグルト
メニュー④ 旬菜と蒸し鶏のパスタ/グリーンサラダ/餃子スープ
メニュー⑤ 豆腐のカニあんかけ/モロヘイヤとオクラの梅和え/キノコごはん
メニュー⑥ 鶏団子のカレースープ煮/ワカメとキャベツのゆず酢醤油和え/雑穀ごはん
COLUMN
健康的ダイエットで「サーチュイン遺伝子」が活性化する!
第4章 今日からはじめる!「抗糖化」の生活術
―抗糖化力を高めるために役立つ知恵Q&A
「抗糖化力」を高める生活術で若々しさをキープ!
Q1:カレーライスは糖化を進める危険メニュー!?
Q2:バイキング料理は糖化にとっては“鬼門”?
Q3:「炭水化物オン炭水化物」のメニューはNG?
Q4:ごはんを食べすぎないためのコツは?
Q5:やっぱり白米よりも玄米のほうがおすすめ?
Q6:間食するなら「糖分控えめチョコレート」!?
Q7:早食いはやっぱりよくない?
Q8:ハーブティが糖化防止にいいって本当?
Q9:抗糖化サプリメントってあるの?
Q10:夜、食べすぎてすぐ寝てしまうと糖化が進みやすい?
Q11:糖化にとってアルコールは? たがこは?
Q12:ストレスは糖化にも悪影響を与えるもの?
エピローグ
糖といいつき合い方をして充実した人生を
プロローグ
糖化こそ、老化や病気を引き起こす元凶だった!
・AGEは体に余分な糖が多くなり、たんぱく質と結びつくことで発生します。
・AGEが問題なのはたんぱく質でできた組織の変性、劣化を亢進させてしまうためです。
第1章 老化・病気・不調すべての原因は体の糖化にあった!
―糖とどうつき合うかで人生が変わる
AGEという不良がはびこると、体が活気を失う
●「何故、たんぱく質と結びついてしまうのか」、食事により血糖が上がっても、すい臓からインスリンが分泌され血糖は調節されます。しかしながら、あまりに血糖が多かったりインスリンが適切に分泌されない、あるいはインスリンの働きが悪かったり等、問題があるとインスリンでは対応できず、その結果、余った血糖は体中のたんぱく質と結びつき、変性してAGEとなって様々な問題の原因となります。
ホットケーキもクッキーも糖化だった
●AGEが体内に蓄積されるのは、余った糖がたんぱく質と結びついてAGEが生成される経路と、食べ物にもともと含まれるAGEが口から入ってくる経路との2つのルートがあります。ただし、後者は焼きすぎに注意し、焦げたところは食べないように注意している限り、それほど心配するものではないとされています。
●体内のAGEは白血球の一種である貪食細胞のマクロファージが体内の異物を食べてくれるため、一部のAGEは体外へと出ていきます(代謝)が、重要なことは食べすぎや糖の摂りすぎに注意することです。
「酸化」と「糖化」は“兄弟分”。いつも影響し合っている
・活性酸素は体内に入ってきた脂質を酸化させ、劣化した脂質(過酸化脂質)が、体内に居座るようになると、全身の細胞が傷つき老化の大きな原因になります。
・糖化と酸化は影響し合いながら進行する“兄弟分”のようなものです。糖の劣化には酸化や酵素の力が作用しており、酸化の度合いが大きければ、糖化も起こりやすくなります。
第2章 あなたの体をボロボロにしてしまう糖化のメカニズム
―糖化はゆるやかな死への行進
AGEが悪さをしでかす2つのパターン
①体を構成するたんぱく質にAGEが直接くっついて、その機能を低下させてしまうパターン。
②AGEが受容体とくっついて、その受容体を通して細胞に炎症を引き起こすパターン。
動脈硬化の真の原因は細胞の炎症だった!
●AGEにはRAGEという受容体があり、AGEとRAGEが結びつくと細胞内の情報伝達に変化が起こり、炎症シグナルが活発になります。これにより、個々の細胞に炎症が引き起こされます。炎症は細胞の機能を低下させ、老化のスピードに拍車をかけます。特に大きな打撃を受けるのが血管であり、血管内側の壁細胞の炎症が動脈硬化の真の原因でないかとみられています。
《認知症・アルツハイマー病》
●認知症には「脳血管型」と「アルツハイマー型」の2つがあるが、どちらのタイプにもAGEの関与が認められます。
●アルツハイマー病のβ-アミロイドというたんぱく質が脳内にたまると「老人斑」というシミができるのですが、調べるとAGEがたくさん検出されます。このAGEは脳細胞の死滅にも関与しているとされています。
《骨質が悪くなる》
●骨粗しょう症の原因の6~7割は「骨密度」が原因とされていますが、残りの3~4割は「骨質」の低下にありますが、AGEはコラーゲンたんぱくの中に入り込んで骨の構造を脆くします。
第3章 体が糖化する食べ方、糖化しない食べ方
―糖化を防ぐ食べ方 5つのコツ
血糖値を急上昇させない食べ方が基本
・意識的に血糖値の上昇を抑制するには、血糖値を急上昇させないような食品を食べるように注意することをお勧めします。
食べ方をひと工夫するだけで糖化は防げる!
・糖とうまくつき合っていくための工夫が重要です。
食べ方のコツ④ 昼食を「食生活の切り替えポイント」にする
・1日3食のトータルバランスを考えて、お昼のメニューを決めるようにするのも良い工夫です。栄養バランスや食べすぎ傾向にも注意を払うようになります。1日に1度、自分の食事や健康を考える時間を持つことはとても大事なことです。
食べ方のコツ⑤ 食後1時間に体を動かすようにする
・食後1時間をねらって体を動かすようにすると、血糖値は大きく下がります。
エピローグ
糖といいつき合い方をして充実した人生を
●『人間はしょせん“たんぱく質の塊”です。そのたんぱく質を生かすも殺すも糖次第。あふれた糖が牙を剥けば、たんぱく質は糖化してAGEになりますし、糖が適量であれば、たんぱく質がしっかり機能して長く健康に生きるためのエネルギーとなる。言わば、人間という“たんぱく質”の運命は糖が握っているようなものなのです。』