冷え症2

著者:仙頭正四郎、土方康世
家庭でできる漢方 冷え症

著者:仙頭正四郎、土方康世

出版:農山漁村文化協会

発行:2007年1月

目次は”冷え症1”を参照ください。

第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす

1.みんなが知らない冷えの怖さ

●“冷え症”とはどういうものか?

・冷えとほてりの不思議な関係

-“冷え症”とは「体の一部が異常に冷えやすい症状、またその体質。手足下半身に冷えを感じること。自律神経の機能失調で、血行不良になるために生じる」とされている。

冷え症が女性に多いのは、女性ホルモンなどの内分泌をコントロールする内分泌中枢と、血流をコントロールする自律神経中枢が男性に比べて近い位置にあるためである。女性ホルモンの変動期には、女性ホルモン分泌が失調すると、自律神経がその影響を受け、全身の血管の収縮は血行を悪化させ、冷えの原因となる。

-温めると改善する腰痛、体の痛み、頭痛などの症状をもつ人は冷えが関わっている。

冷えが慢性化すると、むしろ火照るように感じることもあるが、これは冷え症の進行型であることが多い。

・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係

-冷え症は血管が収縮傾向にあるため、血流は悪化し鬱滞が起こりやすくなる。この血流鬱滞のことを中医学では血瘀という。

・36.5度の秘密

-冷え症の人の体温は36度以下の人が多い。

諸臓器の代謝は酵素反応によって行われている。たとえば食物の消化は、いろいろな酵素によって分解代謝され、栄養分は胃腸から吸収され、さらに多種多様の酵素反応を経て、血となり肉となる。これらの酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。

●冷え症を放っておくと

・あらゆる病気の引き金にも

-冷え症を放置すると酵素活性が常に低い状態となり、各臓器の代謝も悪く全身の臓器の機能低下が起きる。

-血流障害や血瘀(血流鬱血)は炎症や各臓器の機能障害につながる。つまり、冷えは脳を含むあらゆる臓器の病気を起こす引き金になる可能性がある。

・ガンも冷えを好む

-冷えきった状態は代謝を低下させ、免疫機構も正常に働かないため、ガン細胞の成長を加速させ、ついには立派なガンになってしまう(わずかなガン細胞は成長し診断がつくまでに10年かかることもある)。冷えはガンにとって喜ばしい環境である。

注):”2.痛いつらいは冷えのせい” は省かれています。

3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?

●女性の体が冷えやすいワケ

・冷えが原因で起こる女性特有の病気には、月経異常、不妊症、妊娠中の異常(切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫)、出産後の異常(産後腹痛、胎盤残留、産後膀胱炎、排尿障害)、子宮下垂、子宮内膜症、子宮筋腫などがある。

女性は月経周期にしたがって、毎月一度、女性ホルモンの大きな変化を受ける。

月経周期、基礎体温と女性ホルモンの変化
月経周期、基礎体温と女性ホルモンの変化

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

月経1週目は貧血気味、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌低下で体温は下がる。また、血行は悪くなり、生理痛や自律神経失調症状が続き、うつっぽく、肌は過敏、乾燥気味になる。

月経2週目は卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響で副交感神経の活動が活発になり、血行が良くなるので低体温であっても体調は良く、肌もきれいになる。同時に卵胞ホルモンは卵子が着床しやすいように布団状に子宮内膜を厚くする。

月経3週目は子宮内膜を潤す黄体ホルモンの分泌が増えて高温期となり、肥厚した子宮内膜は更に潤い充血してくるため、下腹部に不快感やむくみ、便秘などが起こりやすくなる。卵子と精子が受精し受精卵になると、布団状に厚くなった子宮内膜に着床する。受精に至らなかった場合は4週目に進む。

月経4週目は黄体ホルモンの影響が最も顕著になり、高温期が続いて交感神経が活発になり、むくみ、便秘、肩こり、腰痛、肌トラブル、ヒステリー症状などの月経前症候群が出やすい時期となる。最後に肥厚した子宮内膜は不要となり、剥がれ落ちて月経となるが、この時、子宮内膜表面を排出するための子宮収縮が起こって、さらなる下腹部痛を伴うこともある。

特に、1週目と4週目は冷えや疲れに注意しなければならない時期である。

自律神経中枢は、間脳(視床下部)のホルモン分泌中枢の近くにあり、ホルモン変動の著しい月経前後は自律神経も影響を受ける。その結果、冷え症の悪化、憂鬱感、イライラ、情緒不安定などの精神症状、頭痛、めまい、吐き気、消化器症状が起こりやすくなる。

・沖縄の激戦地で従軍した女学生たち(“ひめゆりの塔”)は、月経は停止したままだった。命に関わるような強いストレス状態では月経停止はすぐに起こる。日常的なストレスでも蓄積されていくと月経停止になる可能性はある。

●月経に現れる症状

・冷えが原因で悪化する月経の異常

月経困難症

-月経中の子宮収縮に伴い、強い下腹部痛、腰痛を伴う。

-子宮内膜症や子宮筋腫などで子宮をささえる靭帯を正常な位置で支えることができなくなり、子宮収縮に異常が出る。

-構造に問題がない場合でも、子宮内膜がプロスタンディンを作りすぎると子宮収縮が強くなり、腹痛が起こる。

-冷えると子宮収縮はさらに強くなり、痛みが増強する。

・冷えが引き起こす月経の異常と症状

月経の遅れ

-月経の正常周期は25日~38日。6日前後の変動は正常とされている。遅れるのは月経量が少ない人に多い傾向がある。貧血、冷え症により遅れる人もいる。

月経周期がはやい

-月経周期が21日以下の場合。月経過多や月経期間延長を合併する場合が多い。

-原因は虚弱体質、過労、ノイローゼなどで、自律神経失調症から冷えて胃腸系統が弱った人、冷えて泌尿生殖器系統の働きが弱った人、ストレスで情緒不安定になり、血流鬱滞、阻滞のある人。普通は熱がりの人に多い傾向がある。

過多月経

-レバー状の月経は、子宮腺筋症(子宮筋層内の内膜症)でも見られる。また、小さな凝血塊が時々見られる程度であればあまり心配しなくてもよい。

その他

-生理不順、不正出血、無月経、月経前後の頭痛、下痢、めまいなど。

●不妊症は冷えも大きな要因

・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?

-『“冷え症を治療すると、妊娠する確率が非常に高くなる”。そういう印象をもっています。』

-『1年前後にわたり漢方薬の服用をつづけて妊娠した数例は、すべてが冷え症でした。ですから不妊症の人は、現代医学的検査を受けて原因がわからないといわれたら、とにかく冷え症を治すことを最優先に考えるべきだと思います。それから、諦める前に、1日数回の足浴と、20分以上の半身浴、漢方薬治療をおすすめします。

・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常

妊娠中の異常

-切迫流産、早産、習慣性流産、妊娠浮腫などがある。妊娠中に冷えるとお腹が硬くなる人が多いので、冷えてお腹が硬いと感じたら、まず腰湯や入浴などでお腹を温めて、安静にして寝るのが良い。とにかく妊娠中は冷やさないようにする。また、適度な運動も必要である。

-3カ月頃から起こる辛い悪阻[ツワリ]は、ストレスから自律神経失調となって起きやすくなり、冷えにより更に悪化することもある。

-8カ月頃には妊娠浮腫が起こりやすくなる。冷えてお腹が脹ってきて、浮腫みが悪化するときは、体を横たえてお腹を温め寝ることにより改善する。

-流産はストレス、過労、冷えなどが原因であり、特に高齢出産や仕事が忙しい人は要注意である。

出産時の冷えによる異常

-子宮収縮不良(残留胎盤で悪化)、胎盤残留、産後膀胱炎や排尿障害などがある。

・冷えが原因で起こる子宮に関する症状

子宮下垂症

-子宮を上に固定しておく靭帯などの力が弱り、子宮が下降して発生する。冷えによって下垂は悪化する。

子宮脱症

-子宮膣部がさらに下降して膣外に露出するものである。

冷えで悪化する下腹部痛

-子宮内膜症、子宮筋腫をもっている人にみられる。冷えて瘀血が悪化するために起こると考えられる。

子宮ガン

-漢方的には子宮ガンは瘀血と考える。血流阻滞、鬱滞があり、冷えによる疼痛が起こることもある。子宮ガンの人のお腹は芯が冷たい感じがする。

まとめ

”冷え症1・2”で、特に気になったことは次の9つです。

.「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずである。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもつ。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちである。

東洋医学では、太陽のような働きを五臓の中の「」に位置づけている。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずである。そして、その本質は単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということである。

冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。

体がつくり出した熱を貯えておく場所が「」であると考えられている。に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。

の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。

の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足はの働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。

熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「」であり、は「」の指令に従って機能している。

は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。

注)五色という考えがあり、次のようになっています。[

酵素が最も働きやすい温度が36.5度付近のため、これ以下の体温になると、徐々に酵素の働きが落ちて代謝が悪くなる。そして、ますます冷え症は進み体調は悪化する。

今回の患者さまの下肢の本治穴は、“”・“”の土穴(力をつける:太渓太衝)と金穴(めぐりをよくする:復溜中封)です。これに三陰交足三里を追加しています。これは上記に照らし合わせても妥当といえます。ただし、“”はノータッチでした。

私が学んだ代々木の日本伝統医学研修センターでは、君火(明かり)の“心”に直接刺鍼することは推奨しておらず、施術対象とする場合は、相火(熱)の“心包”を推奨しています。なお、中医学では相火は「腎陽が発揮する各臓腑を温養し活動を推動する機能」と定義されています。

また、代々木時代のノートを丁寧に見返したところ、腎の冷えに対し、腎の土穴+心包の土穴(大陵)を使うとの記述を見つけました。この発見は今回の1番の収穫でした。この大陵は次回の施術から使いたいと思います。

冷え症1

今回のブログは前回の“漢方(中医学)”の続きです。「混ぜるな危険」、その目的は漢方と鍼灸(経絡治療)の違いを理解することでした。自分なりにその違いを認識できたので、前に進みたいと思います。

冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。施術の効果は悪くはないのですが、なかなか冷え型の脈(沈細やや軟:沈み、細く、少し軟らかい脈)が変わらない点が気になるところです。

鍼灸に限らず、何か良い策はないだろうかという思いから、本棚にあった仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」をあらためて熟読することにしました。

ブログは2つに分けましたが、全4章のうち、第1章と第2章の多くをカバーしています。

著者:仙頭正四郎、土方康世
家庭でできる漢方 冷え症

著者:仙頭正四郎、土方康世

出版:農山漁村文化協会

発行:2007年1月

目次

はしがき

第1章 冷え症を東洋医学でとらえると

1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”

・複数のタイプに分かれる冷え症

・冷えの原因のあれこれ

2.体の中に熱をめぐらせるには?

●熱の量を維持する仕組みを知る

・熱をつくり出す「脾」

・熱を貯える「腎」

●熱を運ぶ仕組みを知る

・熱を運ぶ器としての血液

・熱のめぐりを調節する「肝」

・めぐりの邪魔をする存在

3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシ+ト》

●各タイプの問題点と克服法

Ⓐ熱の量に問題がある冷え症

タイプ①熱の産生が不足する

タイプ②熱の無駄遣いは多い

Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症

・運ぶ器の問題

タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)

・めぐりそのものの問題

タイプ④めぐりの障害物が多い

タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い

タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる

●冷え症の予防策

・冷え症の攻略法

第2章 冷え症はこんな症状も引き起こす

1.みんなんが知らない冷えの怖さ

●“冷え症”とはどういうものか?

・冷えとほてりの不思議な関係

・冷え症と血瘀は、ニワトリと卵の関係

・36.5度の秘密

●冷え症を放っておくと

・あらゆる病気の引き金にも

・ガンも冷えを好む

2.痛いつらいは冷えのせい

●冷えがまねく体の

・上半身に現れる症状

+頭痛、肩こり

+疲れ目

+めまい

+動悸

+脱毛、薄毛

+鼻炎

・下半身に現れる症状

+骨粗鬆症

+肥満

+抑うつ感

+アトピ+性皮膚炎

3.女性のライフサイクルが冷えをまねく!?

●女性の体が冷えやすいワケ

●月経に現れる症状

・冷えが原因で悪化する月経の

・冷えが引き起こす月経の異常と症状

●不妊症は冷えも大きな要因

・冷えが治ると妊娠の確率も高くなる!?

・冷えが原因で起こる妊娠・出産の異常

・冷えが原因で起こる子宮に関する症状

●冷えの解消が乳ガン、乳腺症の改善に

・乳ガン

・乳腺症

第3章 東洋医学による冷え症の診断と治療

1.漢方治療の意味と姿勢

●治療が必要なくなる状態をめざす東洋医学

・混在し関連しあう冷えの原因

・対症療法よりも根本治療

・治療への近道は“冷え”を理解し、治療に参加すること

2.体を温めることは漢方治療の得意分野

●熱を増やすためにはどうしたらよいか

・生命力の土台の熱を増やす+タイプ①・②の解決策その1

・胃腸の力で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その2

・精神作用の誘導で熱を増やす+タイプ①・②の解決策その3

●熱を運ぶ器を増やすためにはどうしたらよいか

・潜在力を強めて器を増やす+タイプ③の解決策その1

・増幅力を助けて器を増やす+タイプ③の解決策その2

3.じつはもっとも重要な“めぐり”の問題

・邪魔者を取り除く+タイプ④の解決策

・器のめぐりを助ける+タイプ⑤の解決策

・めぐりの仕組みを整える+タイプ⑥の解決策

4.熱の不足で弱った機能を助ける

第4章 きょうからできる冷え症改善法

1.冷えないため食事術

●毎日の食事から冷えを改善

・冷やさないお酒の飲み方

・食材の力を活かす

・温めることよりも冷やすものを避ける

[冷え症タイプ別 適性食材の表]

●冷えないために食事で心がけたいこと

・冷えるものは温めるものとの組み合わせで

・大事な一歩は朝食から

・体を温めるオリジナルメニュ+

・体質、体調に合わせて食べる

・誤った健康情報に惑わされない

2.冷えないためのくらし術

●冷えないために服装で心がけたいこと

・冷えないおしゃれに工夫をこらす

・薄着でもできるこんな工夫

●冷えないために生活で心がけたいこと

・冷える生活習慣に要注意

・体をはやく温めるには運動は必須

●きょうからできる「冷え取り入浴法」

・入浴には落とし穴も

・半身浴+体の芯の温かさを体感

・足浴法+じわ+っと芯から万遍なく温める

3.自分でできる冷えの気功療法

一.手掌でぬくぬく功

二.全身ぽかぽか功

三.腰ポカ功

四.太陽と友だち功

4.自分でできる冷えのツボ療法

・冷え症改善に効果のあるツボ

 ・自分でできるツボ療法

はしがき

『東洋医学を専門とする医療者として、治療や生命を考えるとき、何を大切にするかと問われるとすると、いくつかあげたいもののなかの一つに、「熱を大切にする」ということがあります。それは、生命力が豊かであるときの様子が熱であり、同時に、豊かな熱の存在によって、活き活きとした生命力が支えられてもいるからです。健やかに生きるということは、「熱」とは切っても切れない関係にあるのです。

「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」といった、私たちが人生において追い求めるものに、私たちは「温かさ」を感じるはずです。「温かさ」は、熱や光や温かい水が放散するように、外に伸び拡がろうとする性質をもちます。「楽しさ、嬉しさ、明るさ、豊かさ、幸せ」は生命力に熱を生み、心に拡がりを生む気持ちなのです。「温かさ」は、豊かな生命力を意味し、同時に、豊かな心をも示すものなのです。それゆえ、「温かさ」の周りには人が集まり、その「温かさ」は周りに力を分け与えることができるのです。温かさの周りでは、互いが与え合え、すべての生命が活き活きとしています。

温かさと正反対の性質をもつ「冷え」は生命力を脅かし、機能の低下を意味するだけでなく、精神をも蝕みます。精神の状態は、表情に、目の輝きに現れます。「冷え」は容易に外に現れ、容貌、姿勢、立ち居振る舞いを変えます。冷えや温かさの状態は、どんなに強力なエステよりも、外見に影響力をもつものなのです。「苦悩、悲哀、狡猾、落胆、後悔」などの感情は、言葉にしなくても、その人の醸し出す空気から簡単に知ることができます。それは、これらが「冷え」を連想させる感情で、生命体として近寄りたくない空気だからです。「冷え」の性質は、「閉じこもり、固まり、沈み込み、内に向けて凝縮する」もので、周りから奪い、吸収して封じ込める性質をもっています。そのことが人を遠ざけ、人から「温かさ」を受ける機会をなくし、「冷え」の悪循環に陥いるのです。

人の生きる力は、周りの人から「温かさ」を受けて育まれ、また、周りの人に「温かさ」を与えることが生きる力を大きく膨らませます。こうした「温かい」存在によって生命力は支えられていて、それはあたかも太陽のようであり、東洋医学では、そのような働きを五臓の中の「心」に位置づけています。冷えの対策の目的は、単に熱の量を増やすことではなく、「温かさ」のやりとりを可能にすることにあるはずです。そしてその本質は、単なる体温の問題ではなく、生活の中に太陽の存在を意識するということです。自分を照らす太陽の存在を意識し、同時に、自分の中に、人を照らす太陽の存在を見い出すことでもあるのです。それは喜びになり、力になり、美しさにつながります。

本書で提供する冷え症対策で、冷えの世界から抜け出して温かさを手に入れ、その温かさを周りの人に分け与えてもらえれば、これに勝る喜びはありません。』

第1章 冷え症を東洋医学でとらえると

1.問題の本質は体の中の“めぐりの悪さ”

・複数のタイプに分かれる冷え症

-冷え症は単に冷えるということだけを問題にするのではなく、体の中で熱が果たしているいろいろな役割や仕組みを認識して、その熱が少なくなることで生じる様々な異常を冷え症の問題として捉える。

-物体も人も冷やされれば、同じように冷たくなるはずなのに多くの生き物が冷たくならないのは、物体として冷やされていながらも、体に貯えた熱を体表に絶えず運んでいるからである。

・冷えの原因のあれこれ

-血液や体の水が温められることで体中をめぐる。また、体の中に貯えられている熱はこうしためぐりに乗って、体中に配られる。熱はめぐりを良くし、めぐりの良さが体を温めるという“温め”の良いサイクルがつくられる。

-東洋医学では、どこが冷えているか、そして他の部分はどうかということに注目する。

-体全体が冷える人、足だけが冷える人、背中に冷えを感じる人、腰回りだけが冷える人、お腹に冷えを感じる人、手足は冷えても顔はほてる人まで、いろいろな特徴をもった冷え症がある。

さまざまなタイプの冷え症
さまざまなタイプの冷え症

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

めぐりの悪さで引き起こされる冷えの問題は、すべてが冷えることは少なく、冷える場所と反対に不自然に熱くなる場所が体の中に混在することが多い。

冷え症の問題は熱の不足によって、体の中をめぐるものの「動きが悪くなる」ということにその重大さがある。

-冷えのために血液の流れが悪くなる、水の流れが悪くなってむくみを生じる、逆に水が届かないところには乾燥をつくる。そうしたことが、また、流れの悪さの原因になる。こうした悪循環が体の不調の連鎖の原因になる。

-めぐりに乗って全身に配られる熱は、ただ体を温めるだけではなく、その熱が胃腸の働き、心臓の働き、免疫力、脳の働き、筋肉の働きなど、全身の色々な機能の土台となって体の働きを支えているため、冷え症の状態では体の色々な機能低下を引き起こすことになる。

2.体の中に熱をめぐらせるには?

熱の量を維持する仕組みを知る

熱をつくり出す「

-食事と関係する働きは、東洋医学では「」が分担すると考えていて、食べ物から必要なものを取り込んで、体に必要なものにつくりかえる働きをする。

-脾は後天的に生命力を補充する役目をすると考えられている。

熱を貯える「

体がつくり出した熱を貯えておく場所が「」であると考えられている。に貯えられた熱は体の様々な働きの原動力となる。

の働き(腎気)が充実していないと、熱を貯えることができないだけでなく、脾によって熱をつくり出す働きも十分に発揮されなくなる。

は先天的な生命力を貯える場所であり、体の芯の部分にあると考えられている。

腎の働きは足腰を使った運動をすることや、睡眠を十分とることで養われる。睡眠不足は腎の働きを圧迫して、冷え症の背景を強める。

熱を運ぶ仕組みを知る

熱のめぐりを調節する「

熱のめぐりを目的に応じて先導するのは「気」であり、熱のめぐりを調節するのも気の役目である。そして、気の働きを調節しているのが「」であり、は「」の指令に従って機能している。

は、感情や思考、気分の影響を受けやすいので、気分の状態によって、体の熱の様子は大きく変化する。楽しいことを考えているときは、じっとしていても熱の拡がりはよくなり、抑鬱的な気分や感情の起伏が少ない状態がつづくと、熱の拡がりは悪くなり体は冷えてくる。

-ストレスや抑鬱気分で気が滞ると熱の偏りが生じて、熱の多い所と少ない所がみられるようになる。中心には熱が過剰、末端では不足するといった状態になりやすく、こもって過剰になった熱は上の方に集まりやすくなるため、手足は冷えるが顔は火照るといった「冷えのぼせタイプ」の冷え症になる。

めぐりの邪魔をする存在

-水分や栄養の摂りすぎなどで余分なものを貯えている状態が度を越えて多くなると、流れを邪魔する障害物となる。これを「痰飲」とよぶ。

-痰飲は熱の運行を邪魔して冷えの原因となると同時に痰飲自体が冷えを貯える保冷剤になり、暑い時期には熱を貯えることにもなる。これは肥満体型で、夏は暑がり冬は人一倍の寒がりタイプの冷え症である。

※ご参考:”五色”という考えがあり、次のようになっています。[

3.あなたはどのタイプか 《冷え症チェックシート》 


冷え症チェックシート
冷え症チェックシート

画像出展:「家庭でできる漢方① 冷え症」

●各タイプの問題点と克服法 

Ⓐ熱の量に問題がある冷え症

タイプ①熱の産生が不足する

・先天的な生命力を貯える「腎」の働きや、後天的に生命力を補充する「脾」の働きがもともと弱い、元気のない人ややせ型で疲れやすいタイプの人の冷え症である。

タイプ②熱の無駄遣いは多い

・熱に生産量は正常だが、過剰な冷房、薄着で不必要に熱を逃がしたり、冷たい飲食物で体を内側から冷やしてたりしまっているタイプの冷え症である。

Ⓑ熱を運ぶ仕組みに問題がある冷え症

タイプ③運ぶ器が少ない(貧血)

・熱を運ぶ器ともいえる血液が少なく、顔色が悪く、皮膚がかさつき、めまいや立ちくらみといった貧血症状を起こしやすいタイプの冷え症である。このタイプは手足などの末端部の冷えが目立つ。

タイプ④めぐりの障害物が多い

・水分や栄養を摂りすぎて体に余分なものが貯えられ、それが障害物となって、熱の流れを邪魔しているタイプの冷え症である。この障害物は「痰飲」と呼ばれる、冷えだけでなく熱も貯えるため、夏は暑がりなのに冬は人一倍寒がりというのが特徴である。余分な水が冷えをつくり、熱の不足が水の動きを悪くして痰飲を強めるという悪循環が生じやすい。

タイプ⑤熱を運ぶ器の流れが悪い

・血液の流れを悪くさせる第一の要因は、気の滞り。くよくよ、イライラ、余計な心配、考えすぎ、こういったことを避けること。そして、第二の要因は、冷やすこと。水分は少量ずつ飲むようにして、摂りすぎないように注意する。

・滞っている血液をめぐらせるには運動が良い。これは通勤や通学、買い物、家事など体を使う意識をもてば、生活の中に多くの機会があり、工夫によって運動量はぐっと増える。

タイプ⑥めぐりを先導する「気」がとどこおる

・手足は冷えるのに顔は火照るといった冷えのぼせタイプの冷え症である。

・気がストレスや抑圧気分で滞って中心にこもると、中心には熱が過剰となる一方、末端では不足する。熱の不足と過剰が同居する冷え症である。

・気を滞らせないためには、「気」が自由に色々な方向に動けるように道を開くことが重要。心配事や嫌なことも肯定的にとらえ、色々なものに関心を向け、一つのことにこだわらず明るい気分で過ごす。「いい気持ち」でいられる時間や方法を見つけることが大切である。

●冷え症の予防策

・運動を心がけ、過労や寝不足を避けて、明るい気分で過ごす。

・冷飲食や夏野菜、緑茶など体を冷やす飲食物に注意して、栄養過剰を避ける。

・厚着でなくても、頚周り、脇の下、臍周り、足の付け根、足首などの要所を覆って熱を逃がさない衣服を工夫する。袖のある服、袖口の閉じた下着やブラウスなどで効果は絶大。

漢方(中医学)

“冷え”の問題が非常に重要ではないかと思う患者さまがおいでです。冷えについてあらためて勉強したいと思い本棚を見回したところ、仙頭正四郎先生と土方康世先生の「家庭でできる漢方① 冷え症」を見つけました。以前、ざっとは読んではいましたが、ほとんど記憶に残っていないため、今度はもっと真剣に熟読することにしました。

しかしながら、個人的な話ですが一つ大きな問題があります。それは、漢方と鍼灸(経絡治療)の考え方が同じではないということです。兄弟でいえば、双子の兄弟というより、普通の兄弟くらいの差があると思います。そして、問題というのは「混ぜるな危険」という教えです。これは色々な勉強をすることは良いことだが、理論がごった煮状態となってしまっては良くない、施術は1本筋の通ったものでないといけないということです。当院の施術の流れは、【経絡治療:四診(望・聞・問・切[特に脈診]⇒証をたてる⇒本治・標治】です。

漢方は中医学(中国伝統医学)の湯液[トウエキ]の流れを汲んでおり、その意味では中医学の考え方にもとづいているといえます。つまり、経絡治療と中医学の差を理解しておくことが、“理論のごった煮”を避けるためには必要です。

そこで専門学校時代の中医学の教科書と授業のノート(Excel)を取り出し、この点について考えてみました。

針灸学[基礎編]
針灸学[基礎編]

編集:日中共同(編集責任:天津中医薬大学・学校法人後藤学園)

出版:東洋学術出版

第三版発行:2007年1月(初版発行:1991年5月)

第1章 緒論の“1.中医針灸学の沿革”の後半に次のような記述があります。『清代[1644~1912]から新中国誕生までの期間は、鍼灸学はあまり大きな発展はとげられなかった。

清代前期は主として明代[1368~1644]の学風を継承しており、その整理と注釈が行なわれた。また清代後期から民国時代は、腐敗した封建文化と半封建半植民地文化の影響を受けて、針灸学はしだいに衰退していった。この時代の針灸は有効な治療法として民間の間に広く定着し、ゆるやかな発展をとげた。

新中国誕生後、政府は針灸学を重視し、臨床応用および古代文献の整理が行なわれ、さらに現代医学と現代科学を運用し、さまざまな角度から経絡、腧血、針感などの原理について大量な研究が行なわれた。とりわけ近年の針による鎮痛原理の研究および針麻酔の応用は、世界の医学領域に非常に大きな影響を与えた。』

これによると、最も認識すべきは、中医学は「古典にもとづく新しい学問である」ということです。“新古典”といっても良いかもしれません。

この本は日中共同編集によるものですが、中国側は天津中医薬大学となっています。そこでこの大学のホームページを見てみました。 

1958年、「天津中医学院」として創立されました。

日本では神戸に「天津中医薬大学 鍼灸推拿学院 神戸校」があります。

~心身を養い、整える~ 中医学のこと
~心身を養い、整える~ 中医学のこと

こちらのサイトには詳しい解説に加え、“張先生の「中医学の基本のお話し」”という約1時間12分の動画もあります。

 

中医学の医師を中医師と呼びますが、中医師になるには中医薬大学もしくは中医学院を卒業後、中医師資格試験に合格する必要があります。日本では3年制の専門学校を卒業することが国家試験の受験資格ですが、中国で針灸治療を行うには、中医師にならなければなりません。  

こちらのサイトには、“天津中医薬大学”の詳しい紹介が出ているのですが、“大学概要”の中の大学院留学の専攻分野≪修士≫”は次のようになっています。

中医基礎理論、中医臨床基礎、中医医史文献、処方学、中医診察学、中医内科学、中医外科学、中医骨折治療科学、中医婦人科学、中医小児科学、中医五官科学、針灸按摩学、中国・西洋医学融合基礎、中国・西洋医学融合臨床、中医薬学。

中医学の最大の特徴は、本書の第2章 中医学の基本的な特色 “第4節 独特の診断・治療システム[弁証論治]”にあると思います。また、第6章 中医学の診断法[弁証]にも説明が出ています。そこで、この第4節と第6章を確認してみました。 

目次は以下の通りですが、小項目を数多くを省いています。

目次

第1章 緒論

第2章 中医学の基本的な特色

第1節 中医学の人体の見方

第2節 陰陽五行学説

①陰陽学説

②五行学説

第3節 運動する人体

第4節 独特の診断・治療システム[弁証論治]

第3章 中医学の生理観

第1節 気血津液

第2節 蔵象

●蔵象概説

●五臓

●六腑

●奇恒の腑

●臓腑間の関係

第3節 経絡

①経絡の概念と経絡系統

②経絡の作用

③経絡の臨床運用

④十二経脈

⑤奇経八脈

⑥十二経別

⑦十二経筋

⑧十二皮部

⑨十五絡脈とその他の絡脈

第4章 中医学の病因病機

第1節 病因

①六淫

②七情

③飲食と労逸

④外傷

⑤痰飲と瘀血

第2節 病機

1.邪正盛衰

2.陰陽失調

3.気血津液の失調

4.経絡病機

5.臓腑病機

●内生の風・寒・湿・燥・火の病機

第5章 中医学の診察法[四診]

第1節 望診

第2節 聞診

第3節 問診

第4節 切診

第6章 中医学の診断法[弁証]

第1節 八網弁証

第2節 六淫弁証

第3節 気血弁証

第4節 臓腑弁証

第5節 経絡弁証

第7章 治則と治法

1.弁証

『医師は自身の感覚器官により、患者の反応から各種の病理的信号を収集する。それには望・聞・問・切という4つの診察法(四診)を用いる。四診により得られた疾病の信号に対して、分析、総合という情報処理を行い、「証候」を判断することを弁証という。

2.論治

「論治」とは、弁証により得られた結果にもとづき、それに相応する治療方法を検討して決定し、施行することである。したがってこれは「施治」ともいわれている。ここでは最もよい治療方針を確定するための検討が行われる。

弁証と論治は、相互に密接な関係をもつ。弁証は治療決定の前提であり、そのよりどころとなる。一方、論治は治療の方法であり手段である。論治による実際の効果を通じて、さらに弁証の結論が正確であったかどうかが検証される。このように弁証論治は、理論と実際の臨床により体系化されたものである。

弁証論治
弁証論治

画像出展:「針灸学[基礎編]」

”理―法―方―穴―術”

『中医臨床では、この弁証論治の過程を理―法―方―薬と称している。ところで針灸学では主として、針あるいは灸を用い、経絡経穴に刺激をあたえ、疾病を治療するわけであるが、この針灸の弁証論治の過程は、理―法―方―穴―術ということになる。

:各種の弁証法を運用して疾病発生のメカニズムを識別、分析すること。

:弁証により得られた結果にもとづき、それに相応する治療原則を確立すること。

:経穴による処方を指す。

:「穴義」ともいい、使用する経穴の作用と選穴の意義を指す。

:手法(灸を含む)を指す。

このように理―法―方―穴―術は、針灸弁証論治のすべての過程であり、これが針灸弁証論治の特徴である。

中医学では長期にわたる臨床経験の蓄積によって、八網弁証・六淫弁証・臓腑弁証・経絡弁証・気血弁証・六経弁証・衛気営気弁証・三焦弁証などの数種の弁証方法が確立されている。

それぞれの弁証法は、異なる視点から病証を分析するものであるが、各弁証は孤立したものではなく、相互に関連し、重なり合う部分もあり、比較的複雑な病証を分析する際には補完しあう関係にある。八網弁証は、陰陽学説にもとづいた視点から病証の全体像を大づかみに把握するもので、その他の弁証の基礎となる。もし病邪の関与が際立っている病証であれば、六淫弁証によって病邪の種類と趨勢を分析する。気・血の機能不足や流通障害があれば気血弁証を、臓腑の機能失調があれば、病邪の種類などに応じて、六経・衛気営血・三焦弁証のうち最も適切な弁証方法を選択して診断する。』

以下の表や文章は専門学校時代の資料です。

最初の表は、中医学の授業で配布された資料を一部編集したものです。私の記憶では、上から3段目の”機能”が特に中医学を理解する上で重要だったように思います。

2番目の資料は今回ご紹介した「針灸学[基礎編]」の中にあった図を抜き出して1枚にまとめたものです。五臓の関係性や主な機能について書かれています。

3番目の資料は、おそらく問題を作るという宿題だったと思います。従いまして、弁証は間違っているかもしれません。中医学の”弁証”の雰囲気を知って頂くには悪くないと思い貼り付けました。

まとめ

●中医学は古典にもとづく新しい学問であり、“新古典”というものである。

針灸は中医学の一部であり、他に湯液(漢方)、推拿(手技)、薬膳に加え、中国・西洋医学融合などを含んでいる。

●最大の特徴は弁証論治である。診断に相当する弁証は、“八網弁証”、”病因弁証”、”臓腑弁証”、”経絡弁証”、“気血弁証”、”六経弁証”、“衛気営血弁証”、“三焦弁証”、”六淫弁証”がある。特に基本となるのは八網弁証である。

◆一方、経絡治療は古典にもとづきながら、シンプルさを追及したもので、「経絡を整えれば臓腑も良くなる」という考え、いわば臓腑経絡説が中心にある。

以上のことから、漢方(中医学)に接する時には、古典にもとづいた新しい学問であることを認識すること。診断における多様性に注目し、あらたな見方、施術の応用として、明確な目的のもとで参考にすることは悪くないと思います。そして、その事により患者さまの状況が好転するならば、“応用法”として自らの施術に加えれば良いと思います。