大殿筋と腰痛3

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

「まとめ」は”大殿筋と腰痛1”を参照ください。

 

4.マッスルエナジーテクニック

●マッスルエナジーテクニックの有用性

・マッスルエナジーテクニックは1948年、Mitchell, F.L によって紹介された。

・緊張した拮抗筋を弛緩させ、殿筋群の能力を最大限に発揮させる目的で利用する。

・マッスルエナジーテクニック(METs)はオステオパシーの手技による検査法と治療法である。

・患者は施術者の指示通りに与えられる圧力に抵抗しながら正確な方向、位置に筋肉を動かす。

・マッスルエナジーテクニックの目的

-過緊張状態の筋肉の張りの正常化:一般的にマッスルエナジーテクニックはマッサージと併せて行うが、これは動作とマッサージを組み合わせたものといえる。

-筋力低下した筋肉の活性化:患者は施術者による圧に抵抗し筋を収縮させる(等尺性収縮)。例えば、患者は最大筋力の20~30%の力で5~15秒収縮させる。そして、10~15秒の休憩を挟みながら、5~8回繰り返す。

-筋肉が伸長するための準備:可動域に加え柔軟性を高めたい場合は収縮の強度を高める。例えば、40~70%の強度である。これにより、運動単位での神経発火は高まり、ゴルジ腱紡錘への刺激が増加してさらに筋肉は緩む。

-関節可動域の改善:マッスルエナジーテクニックとは筋肉の収縮と弛緩を繰り返すことによって、関節可動域の改善を図る方法である。

●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果

・マッスルエナジーテクニックの効果

-等尺性収縮後の筋伸長(Post-isometric relaxation:PIR)

-相反抑制(Reciprocal inhibition:RI)

・マッスルエナジーテクニックに関係する受容器

-筋紡錘:筋肉の伸縮の度合いや速度を感知

-ゴルジ腱紡錘:腱にかかる張力の変化を感知

・等尺性収縮後の筋伸長(PIR)と相反抑制(RI)の流れ

画像出展:「強める!殿筋」

 

 

-等尺性収縮が維持されている時、脊髄から筋肉への神経的フィードバックメカニズムを通してPIRが起こり、収縮した伸筋(大腿四頭筋)を減少させる[遠心性のピンク色のライン]。この緊張の減少は約20~25秒持続する。

-緊張が減少している約20~25秒の間、関節可動域内を容易に動かすことができる。

-拮抗筋である屈筋(ハムストリングス)は収縮を抑制する遠心性の神経インパルス[遠心性のオリーブ色のライン]により筋の収縮は抑えられる。

5.原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性

・Sherringtonの法則における相反抑制によると、過緊張状態にある拮抗筋は反射的に主動筋の働きを抑制している。このため、拮抗筋が緊張した状態にある場合、筋力低下した筋肉の強化の前に、まずは筋肉の緊張状態や伸長の度合いを正常に戻すことが優先される。

痛みによる抑制効果で起こる大殿筋や中殿筋などの活動パターンのアンバランスは、腰骨盤部の姿勢コントロールに影響を与え、大腿二頭筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋、内転筋群を活発にする。腸腰筋、大腿筋膜張筋は大殿筋の拮抗筋。強力な外転筋の中殿筋[前部線維・中部線維]の拮抗筋は内転筋群である。

●腸腰筋の解剖学

〔起始〕

大腰筋:全腰椎の横突起。胸椎~腰椎の椎体。それぞれの腰椎椎体上の椎間板

腸骨筋:腸骨窩の上部2/3。腰仙骨、仙腸関節前靭帯

〔停止〕

大腿骨小転子

〔作用〕

股関節の主要屈筋と股関節外旋の補佐。停止部位からの働きで、背臥位から座位への変位時の体幹の屈曲

〔支配神経〕

大腰筋:腰神経叢(L1-L4)腹枝

腸骨筋:大腿神経(L1-L4) 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腰筋

:腸骨筋

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左の図:筋の付着部を図示しています。

●色:大腰筋

●色:腸骨筋

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腰筋

:腸骨筋

 

●大腿直筋の解剖学

〔起始〕

下前腸骨棘、寛骨臼上縁

〔停止〕

膝蓋骨、膝蓋靭帯を経て脛骨粗面

〔作用〕

膝関節における下腿の伸展、股関節においての大腿の屈曲。体幹の屈曲時、腸腰筋の補助。歩行時の踵接地時の膝関節の伸展の保持

〔支配神経〕

大腿神経(L2-L4) 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腿直筋

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

:大腿直筋

 

●内転筋群の解剖学

〔起始〕

恥骨枝前部。大内転筋は座骨粗面に起始を持つ

〔停止〕

大腿骨内側

〔作用〕

股関節の内転と内旋

〔支配神経〕

大内転筋:閉鎖神経(L2-L4)、座骨神経(L4、L5、S1)

短内転筋:閉鎖神経(L2-L4)

長内転筋:閉鎖神経(L2-L4)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大腿部中央の断面図です。

 

6.膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●膝の解剖学

・『患者が痛みを訴えているとき、その痛みが「原因」なのか、または純粋な「症状」なのかどうかを見極めなければならない。』

●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋

立脚期は同側の外転筋群、内転筋群、反対側の腰方形筋が一体となった働きをしている(側面スリング)。このとき、内転筋群が緊張していると、相反抑制により拮抗筋は伸ばされ機能低下をおこす。この場合、弱った外転筋群の代わりに、立脚期において役割を補完する大腿筋膜張筋の緊張が高まり、その結果、膝外側、大腿骨外側上顆で摩擦が起こりやすくなる。 

画像出展:「強める!殿筋」

腰方形筋”を見落としがちなので注意したいと思います。

 

 

大殿筋と大腿筋膜張筋は腸脛靭帯につながり、ともに歩行周期における立脚期における安定性に関わっている。大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、摩擦症候群につながる。

●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋

・膝蓋大腿疼痛症候群は、膝蓋軟骨軟化症、膝前部痛、マルトラッキング(膝蓋骨の動きを外側に偏らせる)、膝蓋後部痛などがある。これらはいずれも膝蓋大腿関節が痛みを発している状態であり、問題は大腿骨滑車構の関節軟骨内、または膝蓋関節内軟骨内(もしくはその両方)にある。

・膝蓋骨の滑車溝上での動きを変化させるものが、膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)の原因となる。

膝関節において内側広筋は特殊である。この意味は膝関節の痛みや炎症によって簡単に機能が抑制されてしまうということである。大腿直筋が抑制される関節液の増加量(60ml~)に対し、内側広筋はわずかな増加量(10ml~)で抑制されてしまう。このため内側広筋のリハビリは想像以上に難しく、腸脛靭帯の緊張増加が外側筋支帯に影響を与え、マルトラッキングを引き起こす問題とともに、膝の痛みの除去を困難なものにしている。

7.腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●腰痛と殿筋群の関係性

・例えば左中殿筋が弱いと、体重がかかった時に骨盤は右側に傾く。すると腰椎は左側に傾き、椎間板は神経根だけでなく、左側の椎間関節に負荷がかかり痛みにつながる。また、左方向への傾きにより右側の腸腰靭帯や椎間関節の関節包が引き延ばされ、これもまた痛みの原因となる。また、左中殿筋が弱いと反対側の腰方形筋がより強く働き、補完しようとする。これが長期間続くと腰方形筋は短縮してトリガーポイントを形成し痛みにつながる。

・一定時間の歩行またはランニングで腰方形筋が拘縮し痛みが起こる患者に腰方形筋のトリガーポイント(ファッシア)のリリース等により腰方形筋を正常化することで痛みはなくなるが、歩いたり走ったりすることにより、元に戻ってしまうことがある。これは中殿筋の筋力低下により、対側の腰方形筋が頑張り過ぎたためである。

・大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋や内転筋群の緊張は、歩行周期における股関節の伸展を制限する。それを代償するために同側の寛骨は前傾し、対側の寛骨は後傾する。ハムストリングス、とりわけ大腿二頭筋は、大殿筋の筋力低下で起こる寛骨の前傾の増加のメカニズムの一旦を担っている。

・歩行の間、仙骨と腰椎では自然な回旋の動きが起こるが、寛骨の回旋が増加しているとき、仙骨と腰椎は動きの代償を強いられる。腰椎と仙骨(第5腰椎と第1仙椎)の間には椎間板があり、この椎間板にねじりの動きが加えられる。これはスポンジから水を絞り出すようなもので、この種の負荷は椎間板にとって好ましいものではない。

●胸腰筋膜と大殿筋の関係性

・胸腰筋膜は厚く、強い靭帯で構成された結合組織で、体幹、股関節、そして肩の筋肉を覆い、つなげている。

正常な大殿筋は胸腰筋膜を引っぱり、一定の緊張を保つ役割を持っている。

・大殿筋は胸腰筋膜を通して反対側の広背筋とつながっており、歩行時において反対側の筋肉と作用し合い(後部斜角スリング)、胸腰筋膜の緊張を高める。この機能は体幹の回旋や下部腰椎、仙腸関節の安定に重要な役割を果たす。また、腰椎の安定と関係する深部筋(腹横筋や多裂筋など)との同時収縮も起こっている。これらの筋肉は四肢の動きに併せて同時収縮する。

仙腸関節の力拘束に関係する仙結節靭帯との直接的または間接的つながりから、腹横筋、多裂筋は大殿筋の収縮に反応する。

大殿筋の筋力低下には、胸腰筋膜の緊張を保つ機能を低下させ、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。 

ご参考:臨床家のための トリガーポイントアプローチ

こちらの本は、国内でトリガーポイントを広めてこられた黒岩共一先生の著書です。発行は1999年と新しくはないのですが、刺鍼方法などもとても詳しく解説されているためご紹介させて頂きます。

著者:黒岩共一

出版:医道の日本社

発行:1999年6月

 

 

『トリガーポイントは①仙骨後面の胸腰筋膜起始部、②仙骨外縁部、③上後腸骨棘外縁起始線維の上方1.5cmの硬結部および腸骨から大転子にかけて走行する上部線維の外側上縁部、④薄く一定の幅を持った仙結節靭帯起始線維に形成頻度が高い。』 

画像出展:「トリガーポイントアプローチ」

 

 

 

 

①仙骨後面の胸腰筋膜起始部のトリガーポイント

・このトリガーポイントは個体差が大きい。正中線近くから肥大して触知される場合もあれば、仙骨外縁近くにあって②のトリガーポイントと一体化されるものまで様々である。特徴は大変硬く索状[骨格筋あるいは筋膜内にあるひも状のしこり]であり、体幹後屈(伸展)で最も短縮痛が誘発されやすい点は共通である。

①と②の下方に形成されたトリガーポイントが尾骨の痛みとして感じられることがある。

・このトリガーポイントに対する刺鍼は、押し手の先端で硬結をしっかり挟んで保持し、骨に当たるまで刺入する。骨の直前に1mm以下の厚さで軟骨様の硬結を貫き、得気する。

②仙骨外縁部のトリガーポイント

激痛にして所在が不明な腰痛の成因になる。

短縮痛、圧痛が誘発されるため仰臥位になれないほど痛む場合もある。

・腸骨筋のトリガーポイントも活動すると、全く横になることができない程に痛む場合がある。

・外縁部のトリガーポイントは石のように硬く、鍼を大殿筋に貫通させて大・小座骨孔に刺入させることは難しい。

・慢性の仙骨外縁深部の痛みでは、仙骨外縁から指の太さで数本の索状硬結が起始する場合と1~2mm径の索状硬結が多数起始し、触知される場合がある。ただし、いずれも2cmくらい外側へ走行して触知不能になるかもしくは消失する。また、これらの索状硬結がなく、仙骨外縁を厚さ1~2mmの硬結が覆う場合もある。この膜上硬結は軟骨(キャラメル)様の刺鍼感があり、鍼はゆっくりしか刺入できない。

③上後腸骨棘外縁起始線維の上方1.5cmのトリガーポイントおよび腸骨から大転子にかけて走行する上部線維の外側上縁部のトリガーポイント

・前者のトリガーポイントは、上後腸骨棘外縁部に置いた母指を内側奥へと沈めると母指頭大の弾力性に富んだ硬結として触知される。関連痛は大転子までで、周囲近辺に放散する。刺鍼は圧迫感を感じ取れる方向すなわち内側上方か内側下方へ向けて行う。

・後者のトリガーポイントは4分の1の円弧を描く径の大きい索状硬結として触知される。この硬結は浅層にあるので、軽めの触察の方が判りやすい。刺鍼にはコツが必要であるが初級者であれば刺鍼転向法を繰り返して得気(「ああっ!それです」)を得られなくてはならない。硬結は太く長いので5~6本の刺鍼が必要になる。

④薄く一定の幅を持った仙結節靭帯起始線維のトリガーポイント

・この硬結は表層に薄く広く分布する。従って筋線維走行に直行するやさしい触察で認知できる。触察圧が強すぎると見落としやすい。

・このトリガーポイントは殿部から大腿への移行部に重なる。

遠隔部に放散することは少なく、痛みの箇所が判然としない腰痛ではこのトリガーポイントを疑ってみた方が良い。

画像出展:「トリガーポイントアプローチ」

大殿筋や 脊柱起立筋にトリガーポイントがある場合の座り方です。