腎臓のはなし2

著者:坂井建雄

出版:中公新書

発行:2013年4月

目次は”腎臓のはなし1”を参照ください。

第四章 進化した腎臓 ―高度に発達した哺乳類の腎臓

哺乳類の糸球体の構造

糸球体の血圧を安定させる仕組みの第一は、動脈の平滑筋細胞(血管平滑筋)が持っている、一定の長さを保とうとする性質である。

糸球体の血圧を安定させる第二の仕組みは、傍糸球体装置による尿細管糸球体フィードバックである。これは糸球体の血圧が上がりすぎないようにするフィードバック機構である。

・尿細管糸球体フィードバックとは、糸球体血管極に接触する遠位尿細管の尿の流量が増加すると、輸入細動脈の平滑筋を収縮させて糸球体の血圧を下げ、それによって糸球体濾過量を低下させるという仕組みである。

糸球体の血圧を安定させる第三の仕組みは、逆に糸球体の血圧が下がりすぎないようにするものである。

・レニンは傍糸球体装置の顆粒細胞から出される。その働きはアンジオテンシンⅠというペプチドを生成する。その後、内皮細胞の持つ変換酵素によって処理されてアンジオテンシンⅡになる。これが短期的に血圧を上昇させるとともに副腎皮質からアルドステロンを分泌させて中長期的に血圧を上昇させる。

・『哺乳類の糸球体では、毛細血管の直径も厳密に調節されているわけではない。実際に顕微鏡で糸球体を観察しても、毛細血管の太さにかなり不揃いがある。太めの毛細血管では、濾過フィルターに必要とされる張力は大きくなる。このように哺乳類の糸球体では、血圧の変動や毛細血管の径の不揃いといった、濾過フィルターに加わる負荷の大きさを増大させる不確定の要因が存在する

第五章 壊れそうで壊れない糸球体 ―繊細な構造、壊れない仕掛け

臓器の隅々に広がる毛細血管

・内皮細胞は、血液に接する血管の内面を覆っている扁平な細胞であり、内皮細胞の細胞膜は、陰性荷電を持つ糖鎖によって覆われている。

・『血液中の血小板などの血球も、表面に陰性荷電を持つ糖鎖があり、電気的な反発力によって内皮細胞の表面に付着しないようになっている。内皮細胞が剥がれて血液が血管周囲のコラーゲンなどに直接触れると、血小板が凝集して内皮細胞の穴を塞ぎ、血液凝固が始まる。内皮細胞と血液凝固系の精妙な働きがなければ、血液の流れによって血管系はたちまち傷つき、壊れてしまう。人体の血管系が100年近い寿命の間、血液を流し続けていられるのは、微小な傷が絶えず修復されているおかげである。

糸球体の毛細血管の特徴

・糸球体の毛細血管は、身体の他の毛細血管とはまったく違う特徴、血液から大量の尿を濾過して作るという特徴を持っている。

・毎分100~150ミリリットルという膨大な糸球体濾過量は、体液の量と成分を一定に保つためである。

糸球体の特徴は毛細血管が密集していることである。糸球体の大きさは直径0.2ミリほどであるが、その中に1000分の8ミリほどの太さの毛細血管がぎっしりと詰め込まれている。左右の腎臓の200万個の糸球体の毛細血管をつなぎ合わせると、その長さは20kmにもなる。

糸球体の内部構造

・糸球体は毛細血管だけでなく、内皮細胞も含めて三種類の細胞が糸球体を作っている。

・第二の細胞は足細胞である。多数の細かな足突起を伸ばして糸球体の表面を覆っている。

・第三の細胞は糸球体の内部にあって毛細血管を結びつけている細胞で、メサンギウム細胞と呼ばれる。

・細胞ではないが糸球体基底膜も糸球体の重要な構成要素である。

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

こちらの図のタイトルは、[20]糸球体毛細血管、メサンギウム、基底膜3者の関係 となっていますが、このタイトルの下に[17]を横断面で見たところ。との説明があります。この[17](腎小体の構造)とは下記の図になります。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」 

腎小体とは毛細血管の糸玉である糸球体を、ボウマン嚢という袋でつつんだものです。

 

 

 

・糸球体の構造を理解するには、中身と表面とを区別するとわかりやすい。

・糸球体の中身は、毛細血管とメサンギウムである。毛細血管は薄べったい内皮細胞が作る筒で、血液が流れていく。メサンギウムは糸球体に固有の結合組織で、メサンギウム細胞とその周囲を埋める細胞外の物質からできている。

・糸球体の形はかなり複雑であるが、毛細血管とメサンギウムでできた中身が、糸球体基底膜と足細胞の足突起によって覆われたものといえる。

糸球体の三種類の細胞 (「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」より)

足細胞:足細胞は多数の突起を伸ばして糸球体の表面を覆う

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

『糸球体係蹄[糸球体本体]の表面を覆う足細胞は、多数の足を伸ばしたタコのような形をしている。大型の細胞体から太い一一次突起がいくつも出て、そこから細かな足突起が無数に伸び出している。隣り合う細胞からの足突起は互いにかみ合うように並び、糸球体係蹄の全表面を覆っている。』

 

 

 

内皮細胞:内皮細胞には多数の窓があいている

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

糸球体毛細血管の内皮細胞は、薄い細胞質のシートを円筒状に伸ばし、毛細血管の本体を作る。毛細血管の内皮細胞の性質は組織によってさまざまであるが、糸球体毛細血管の場合には、細胞質シートに多数の孔があく有窓性で、しかもその孔に隔壁を持たず、透過性が高いという特徴がある。骨格筋や皮膚の毛細血管は細胞質シートに孔がない連続性で、内分泌腺の毛細血管は有窓性だが、孔に隔膜を持つことが知られている。』

 

 

 

 

メサンギウム細胞:メサンギウム細胞は血圧に抗して糸球体構造を保持する

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

『メサンギウムは、糸球体係蹄の中軸部を占める特殊な結合組織で、血管極で糸球体外メサンギウムにつながり、糸球体の隅々にまで伸びて毛細血管を束ねる役目をする。メサンギウムは、線維芽細胞に似たメサンギウム細胞と、その周りのメサンギウム基質とからなる。』

 

 

 

 

 

糸球体が壊れないで働き続けるために

糸球体での大量の濾過を円滑に行うためには、尿の原材料となる多量の血液を糸球体に送ること、濾過の原動力となる高い血圧を糸球体内部に保持することが必要である。

・糸球体の構造については、長い毛細血管を糸球体の中に折りたたんで濾過フィルターの表面積を十分に広げておくこと、濾過フィルターを薄くして尿を通りやすくしておくことが必要である。

・糸球体は精密機械のようにきっちりと守りながら濾過をし続けているが、これらの条件が少しでも狂うと、糸球体の動きは破綻する。とくに糸球体の血圧はごく狭い範囲で一定に調節されなければならない。

糸球体の血圧が高すぎると糸球体は壊れるし、血圧が低すぎるとたちまち糸球体濾過量が止まってしまう。

腎臓は糸球体の血圧を安定させるためにさまざまな工夫を凝らしている。

糸球体濾過量の調節機構 (「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」より)

・全身の血圧は、運動、感情の変化(怒り)、体位の変化(臥位から立位)による影響を受け容易に変動する。

・体血圧の変動が、腎血流や糸球体濾過量の変動に直接結びつかないように、糸球体には濾過量の変動を最小限にする安定化機構が備わっている。

1.血管平滑筋による調節

・腎臓には、腎血管抵抗を変えることにより血圧の変動に起因する血流変動を最小限に抑える自動能が存在する。

・血管平滑筋は、血管内圧増加に対抗して収縮力を増し内径を小さくしようとする性質を持つ。この筋原性の自動能により、腎血流は体血圧(収縮期血圧)が90~180mmHgの範囲で一定に保たれる。

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

 

 

 

 

 

 

2.尿細管糸球体フィードバック

・糸球体濾過量は、ネフロン下流からのシグナルによっても調節されている。

・『ヘンレの太い上行脚から遠位曲尿細管への移行部には、緻密斑と呼ばれる一群の上皮細胞があり、この部位で濾液の液量がモニターされている。 

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

上段水色(遠位尿細管)の内部を取り巻くように緻密斑があり、ここで濾過液量をモニターしています。

 

 

 

 

 

 

濾液の増減は、濾液中のCl⁻濃度の増加/減少を感知すると、輸入細動脈とメサンギウム細胞にシグナルが送られ、糸球体濾過量を減少/増加させる。この働きを尿細管糸球体フィードバックといい、下流(遠位尿細管)の濾液流量を判断して、上流に位置する糸球体の濾過量を調節するという、より高次の調節能である。』

3.レニン-アンジオテンシン系による糸球体濾過量の確保

・腎臓は、体内のすべての細胞の生命活動の結果放出されるさまざまな代謝産物を恒常的に体外に排出する使命を持っている。

・腎血流が何らかの原因で低下した場合においても、一定の糸球体濾過量(GFR)は維持されなければならない。

・レニン-アンジオテンシン系は、全身の動脈を収縮させ血圧を上げるとともに、輸出細動脈を選択的に収縮させ、巧妙にGFRを確保する。 

腎機能が低下している高血圧患者(すでに利尿薬が投与され体液量が減少気味の患者)に降圧薬としてアンジオテンシン阻害薬を処方することは、腎機能の急速な悪化を招く危険がある。

画像出展:「人体の正常構造と機能 全10巻 縮刷版 第1版」

 

 

 

 

 

 

 

レニン・アンとジオテンシン・アルドステロン系

・傍糸球体装置の第一の働きは、全身の血圧を上昇させるレニンという物質を放出することである。

・レニンから始まる血圧上昇システムは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)と呼ばれている。

・レニンはホルモンと見なされることがあるが、ホルモンではない。ホルモンは、血液や体液中に分泌されて細胞膜や細胞質内の受容体に特異的に結合し、標的の細胞の反応を引き起こす物質のことである。

レニンはきわめて特異性の高いタンパク分解酵素であり、傍糸球体装置の顆粒細胞から血液中に分泌され、血漿に含まれるアンジオテンシノーゲンというタンパク質を分解して、アミノ酸10個からなるアンジオテンシンⅠ(AⅠ)というペプチドを生成する。

・アンジオテンシンⅠは内皮細胞の持つ変換酵素によって処理されてアミノ酸8個のアンジオテンシンⅡになる。このアンジオテンシンⅡにはきわめて強力な血圧上昇作用がある。

・アンジオテンシンⅡの作用は、一つは、全身の動脈の平滑筋に作用して強く収縮させる働きで、血管の抵抗が増して短期的に血圧が上昇する。もう一つは、副腎皮質に働きかけて、アルドステロンというホルモンを分泌させる働きである。

・アルドステロンはステロイドホルモンの一種であり、腎臓の集合管に作用してその性質を変え、ナトリウムの再吸収を強力に促進する。アルドステロンの作用により、身体の中にナトリウムが蓄積し、体液の量が増え、その結果、中長期的に血圧が上昇する。

レニンはアンジオテンシンⅡを生成することにより、短期的および中長期的に全身の血圧を上昇させる。

・顆粒細胞は、糸球体の血圧が下がったときにレニンを分泌する。

・顆粒細胞はもともと平滑筋細胞から生じた細胞で、糸球体の近くで輸入細動脈の周りを取り巻いている。

糸球体の血圧が下がると、輸入細動脈壁の張力が低下し、それを感じて傍糸球体装置の顆粒細胞がレニンを分泌し、全身の血圧を上昇させる。これにより糸球体の血圧を確保する。 

画像出展:「腎臓のはなし」