不妊鍼灸2

不妊治療に対する鍼灸の本を探していて今回の本を見つけました。著者の形井先生については、『治療家の手の作り方』という本を拝読していたため、お名前は存じ上げていました。

著者:形井秀一
産婦人科領域の鍼灸治療

著者:形井秀一  

出版:社会福祉法人桜雲会点字出版部

発行:平成21年12月

目次は、多くは3段階(一部4段階まであり)ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。なお、取り上げている項目は各論の「冷え症」のみになります。

目次(大項目、中項目まで)

Ⅰ 産婦人科領域の鍼灸の歴史と現状

1.現代日本鍼灸と産婦人科領域の鍼灸

2.日本における産婦人科の歴史

Ⅱ 東洋医学の産婦人科の考え方

1.月経について

2.妊娠月数と妊婦の生活

3.分娩

Ⅲ 各論

1.基礎体温

2.月経不順

3.月経困難症

4.冷え症

5.不妊

6.更年期障害

7.つわり

8.妊娠中の腰痛

9.逆子

10.逆子治療の安全性

Ⅳ 産婦人科領域の鍼灸治療のまとめ

1.はじめに

2.自分の力を信じること

3.連載を振り返って

4.これからのレディース鍼灸の方向性

4.冷え症

冷え症とは

『冷え症は、「身体の他の部分が冷たく感じないような温度で、身体の特定部位のみが特に冷たく感ずる場合をいう」と定義される。

元々、手足は、身体の熱を逃がす役割を持っているという意味で、身体の冷却器官であるという言い方もある。通常は、手足の温度が額温より高いことはない。手足の温度が高く感じられる場合は、眠い時や、喘息のある人なら喘息発作の前兆であったりする。額と手と足の温度を比べると、額>手>足の順で温かい。

ところで、足の温度が何度以下を冷えとするかの基準は決められていない。一般に、男性は足の温度が20℃に近いくらい冷えていても冷えを訴えず、逆に女性では30℃に近いくらい温かくても冷えを訴えることがある。男性は冷えを感じにくく、女性は冷えに敏感だと言えよう。

総じて、冷えは女性に多い。冷えは、基本的には冷えを感じている人の側の訴えであるが、他者が触れて感じる場合も含まれる。冷えを訴える範囲は、全身、背部、腰から下、大腿部から下、膝から下、ソックスを履く範囲、足の指先と様々である。時には、足先は温かいが下腿部だけ冷える、腰やお尻だけが冷たいという人にもお目にかかる。2ヶ所以上に渡って冷えを訴える場合が多い。

女性の腰部や殿部、大腿部などはもともと脂肪がたくさんつくようになっている。脂肪は放熱や寒さの侵入を防ぐ防御壁で、女性器や泌尿器が冷えて働きが悪くならないように助けてくれていると考えられている。しかし、現代は脂肪が少ない女性、すなわち結果的に冷えが発生しやすい、痩せた女性が魅力的とされる傾向にあるので、冷え症の発生率は社会や時代にも影響を受けているといえよう。

ところで、環境温の変化による一時的な手足の冷えは「冷え」でよいが、それを常時感じたり、強く感じて辛い人の場合には「冷え症(あるいは、冷え性=冷える性質)」と言う。

東北大の産婦人科の斎藤の調査では、下腹痛・腰痛・頭痛などの月経困難症を訴える女性332名中、冷えを訴えた女性は214名(64.5%)であった。月経過多を訴える女性51名でも、そのうち40%(78.4%)に冷え症が存在した。

また、川名は、看護科の女子学生228名(19~30歳)から、常時「強い冷え」のある者30名を選び、生理前の全身の愁訴を聞いたところ、冷え症がない人に比べて、「頭痛・頭重感」、「下腹部が痛い」、「下腹部が重苦しい」、「腹部膨満感」、「腰痛」、「腰がはる・だるい」、「いらいらする」、「怒りっぽい」、「眠くなる」、「疲れやすい」、「思考力が低下する」等が明確に多かったと報告している。

このように、冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。また、頻尿・残尿感など泌尿器関係の障害とも関連があることも多くの患者が訴えるところである。

冷え症がある人は、手足の末梢の血管が収縮して血液が流れ難くなっている状態があったり、精神的な緊張状態があったりする。つまり、自律神経の機能状態がアンバランスになっていることが多い。

自律神経は、意識に支配されずに、呼吸や消化吸収、排便・排尿、睡眠、血液循環などの働きを調整して、身体の健康を維持しているのだから、その働きがアンバランスである時には、冷えだけでなく様々な症状が同時に発生しやすい。例えば、何となく身体がだるい、元気が出ない、イライラする、集中できない、食欲がない、夜よく眠れない、肩こり・腰痛があるなど、様々である。

この様な一連の愁訴群を不定愁訴症候群と呼んでいる。不定愁訴が多くある人は、身体の抵抗力も弱っているし、元気度も低下しているから、風を引きやすい、疲れがなかなかとれない、月経痛・月経不順などの状態に陥りやすい、ということになる。こういう人は、当然の事ながら、冷えやすい服装をしたり、寒いところに長く居たり、冷たいものを飲んだり食べたりすることが重なると、簡単に健康を害してしまう。単純な冷えではなく、冷え症にもなってしまう。』

月経のサイクル
月経のサイクル

画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」

冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。』とのことが書かれていました。

そこで、月経とはどんな機能なのか調べてみました。この図は月経とホルモンの関係がとても分かりやすく説明されており、知識不足だった私にとっては、「目から鱗が落ちる」ような貴重なものでした。

「月経とは子宮内膜からの定期的な出血」ということですが、大事なことは受精のための準備だったんだという点です。そして、その準備の1つが排卵前の増殖期(卵胞期)における、「エストロゲンが受精卵のためのベッドをつくる(子宮内膜を増殖・肥厚させる)」ことであり、もう一つの準備が、排卵後の分泌期(黄体期)における、「プロゲステロンがベッドにふかふかのふとんをしく(子宮内膜の質を変え、着床に適した状態にする)」ということです。

月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴といった問題は、冷え症との関係だけでなく、受精のための準備(「ベッドを作って、ふかふかのふとんをしく」)にも悪影響を及ぼしている可能性が高いと考えるべきだと思います。また、これらの問題を解決するということは、受精のための良い準備につながり、それが妊娠の確率を高めることになると思います。つまり、不妊症の対策として、「最近、心身の状態が良くなった。月経も順調!」という実感こそが、不妊鍼灸の第一歩、基本ではないかと思います。

●冷え症の鍼灸

『さて、鍼灸治療であるが、局所的治療として、肝経の太衝や侠渓、地五絵などに置鍼をすると患者の自覚的な冷えの改善の効果が得やすい印象がある。自律神経機能が落ちていれば、全身的な鍼灸治療を行って、自律神経のバランスをとる。また、冷えのある下腿を中心に鍼をすることで、足の循環改善を目指すという考え方で良いと思うが、腹部に瘀血や少腹急結などがあれば、それらを治療することも良い。ただし、腹部の瘀血塊は、刺鍼や灸によっても変化しにくい人が多く、ある程度長期の治療を覚悟しなければならない場合が多い。

冬場になって冷えを感じるようになってからよりも、秋口から治療を重ねておくことが効果的であると言えよう。』 

前段の“冷え症とは”の後半部に、“川名”という名前が出てきていますが、これは参考文献の『冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について』の著者である川名律子先生のことです。

冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について 川名律子-

上記をクリック頂くと、“J-Stage”の“全日本鍼灸学会雑誌”というサイトに移動するのですが、右上の【PDFをダウンロード】というボタンをクリック頂くとPDF(12枚)の資料がダウンロードされます。また、川名先生は『冷え症の鍼灸療法(NO.1) -特に足のひえについて 川名律子-』という寄稿(10枚)もされています。

一般的に冷えに効くとされる足のツボには、太衝、三陰交、勇泉、八風などがあります。

Kampoful Lifeさまの記事“足が冷たい!足指ツボのマッサージで足の冷えを改善!寝る前の足をポカポカにに取り上げられているツボは“八風”ですが、具体的なマッサージ方法の他、筋トレや食べ物についても書かれており、とても役に立つ情報だと思います。

付記:不妊鍼灸の実績データ

2000年9月発行なので新しいものではありませんが、『鍼灸臨床の科学』という本の中に不妊症患者20例の実績が掲載されていましたのでご紹介させて頂きます。

なお、20例について特に注目したのは、効果があった症例のほとんどが治療回数11~20回であったという点です。そして、妊娠に至った4例は治療回数13~27回(平均17.8回)、治療期間95~274日(平均193.5日)であり、妊娠するまでには3~8カ月を要したとのことでした。

2000年9月発行「鍼灸臨床の科学」より
鍼灸治療回数と結果

不妊症患者20例に鍼灸治療を行い、11回以上治療できた15例中4例が妊娠に至り、転居2例と脱落5例の計7例が中断し、4例が治療を継続している。

妊娠に至った例数は多くないが、不妊の治療のためのホルモン療法などを継続できず、鍼灸治療を行って妊娠した症例もあり、また基礎体温の変化が改善される症例も少なくない。したがって、鍼灸治療は不妊症の患者に試みる一手段として、検討に値すると考えられる。