線維筋痛症2

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

目次は”線維筋痛症1”を参照ください。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

こちらの表は前回もご紹介していますが、「本書に登場する薬品名と解説」になります。

第2章 線維筋痛症の症状 

同じ病気の患者の経過を参考にする

共通の症状やストレスとなる原因を探る

こちらは“本文中に出てくる主な略語です。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛

【経過】

・神経内科によって多発性神経炎(シェーグレン症候群による)に対するステロイド療法が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。

・リウマチ医によって線維筋痛症に対するパキシルとノイロトロピンの処方が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。

・この患者さんは、夫を交通事故で亡くし、その後3年間に6個のCSS(中枢過敏症候群)に属する症状・疾患(片頭痛、筋緊張性頭痛、子宮内膜症、顎関節症、筋・筋膜性疼痛症候群、こむら返り)を併発し、最終的に耐えがたい全身の疼痛(線維筋痛症の疼痛)が生じた症例である。

・当院では、セロトニン、ノルアドレナリンの賦活作用(活発にする作用)をもつ即効性の鎮痛薬であるトラマドールシロップを処方し、入院中にヘルパーの活用など家事援助を検討して導入した。

・入院時は移動するのに歩行器と車イスを使っていたが、現在は自立歩行ができるまでに改善し、家事が可能になっている。

症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ

【経過】

・ばね指の手術後に生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)に対して、適切な処置が行われず、7つのCSS(中枢過敏症候群)の症状・疾患(片頭痛、子宮内膜症、こむら返り、むずむず脚症候群、筋・筋膜性疼痛症候群、顎関節症、うつ病)を抱えることになった。

・入院後、痛みに対してトラマドール、筋のけいれんに対してガバペン、不安状態に対してパキシルを処方した結果、線維筋痛症の重症度を示すFIQは、80から63まで改善した。

・退院後は、ヘルパーを導入して夫の介護負担を軽減し、訪問看護師によるメンタル面の援助を受けて、在宅での生活を送っていたが、主治医が麻酔科の医師にかわると、除痛のためのトラマドールが麻薬に変更されて一日中眠い状態が続くようになり、疲れて寝たきりの生活になった。

・再び、主治医がかわり、入院によって麻薬からの離脱に取り組んだが、麻薬の中止までは長期入院を強いられた。

症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ

【経過】

・若い頃からCSS(中枢過敏症候群)の3つの症状・疾患(片頭痛、顎関節症、子宮内膜症)があったが、出産時に点滴の針を刺したところから生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)が放置されたため、線維筋痛症の疼痛が生じたものと判断した。

・母乳が中止されていたこと、疼痛がきわめて強いことから、トラマドールの服用を開始し、現在は子どもの世話を含めた家事も可能になっている。

症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症

【経過】

・最初は一次性の線維筋痛症という診断で、疼痛に対する治療を中心としていたが、付着部痛が著しくなり、検査の結果、脊椎関節炎と診断した。レミケード、エンブレルを使ったものの効果がなく、トラマドールとリウマトレックスを併用したところ、職場復帰が可能なまでになった。

症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛

【経過】

・FIQは78から67、62、42と変動がある。疼痛に対して、応急的にノイロトロピンの点滴を受けているが、緊急入院などはなくなり、家事労働をこなしている。また社会的にも活発な活動をしているが、線維筋痛症への移行にはメンタル面のほうが強く関与していたと思われる。

線維筋痛症の中心症状

動かさないときでも起きる広範囲疼痛

線維筋痛症の疼痛部位は、原則として左右・上下対称であり、痛みの箇所が一か所に集中することはない。

線維筋痛症の疼痛は「自発痛」で、触れられることにより疼痛が増すのが特徴であり、場合によっては皮膚の発赤がみられる。

・線維筋痛症は、英語でfibromyalgiaというが、これは腱や靭帯の結合組織(fibro)と筋肉(myo)の疼痛(gia)という意味である。疼痛部位は関節ではないため、関節の腫れや疼痛を診察する方法では線維筋痛症を見つけることができない。

・線維筋痛症の疼痛の特徴の中には、音や光などによって疼痛が増すこともある。これをアロディニアという。

線維筋痛症の疼痛は、脳幹部の異常による中枢性疼痛と考えられており、抗うつ薬や抗けいれん薬が有効である。

睡眠や休息をとっても改善されない疲労

疲労も線維筋痛症の中心症状のひとつだが、線維筋痛症の疲労は睡眠や休息だけでは十分に改善されない。

脳波で確認しにくい睡眠障害

・線維筋痛症の睡眠障害は、入眠障害か早朝覚醒というタイプだが、これは睡眠にかかわる2つの脳波、レム波とノンレム波のバランスのくずれが関係しているといわれている。ただし、脳波に異常が確認できるのは30%以下である。

・睡眠時無呼吸症候群が関与する場合もある。

線維筋痛症の睡眠障害では、睡眠薬をできるだけ使用せず、疲れたら寝るという考えが大切である。睡眠薬が必要なときは、できるだけ少量にする。

線維筋痛症の共通症状

基礎疾患のない“むくみ”感

・線維筋痛症では「むくんでいる」と訴えることがあるが、実際には「むくんでいない」ことが多い。女性の患者さんには子宮内膜症など婦人科的疾患にかかったり、若い頃に手術を受けたりした患者さんが多くいるが、月経前の体重増加や更年期障害としての“むくみ”感を訴える場合もある。通常、むくみは心臓や腎臓に関わる病気が考えられるが、線維筋痛症の患者さんに見られる“むくみ”感の訴えには、こうした基礎疾患はほとんどない。

全身のしびれ、異常感覚

線維筋痛症の患者さんの多くは“しびれ”を訴える。その部位は全身であり、神経学的には説明がつかない。

下肢のしびれなど、局所だけでなく病歴と全身の状態や症状を参考にして判断する。

・安易に脊髄疾患と診断され、不要な手術により症状を急激に悪化させることがしばしばある。

・線維筋痛症に似た疾患に多発性硬化症があるが、全身症状と経過を参考にすることで鑑別することができる。

事故につながりやすい立ちくらみ、めまい

CVr-rなどの自律神経の検査で40%近くの患者さんに異常がみられる。立ちくらみやめまいの訴えが多いのはこのためと思われる。また、血圧が低く、起立性低血圧もみられる。

・立ちくらみ、めまいなどの自律神経障害の症状がある場合は、サポートタイプのパンティストッキングを使用することに加え、塩分の摂取などの食生活の見直しが必要である。

短期記憶障害は長く続くことはない

・短期記憶障害は、英語でFibrofog(fibro=線維筋痛症・fibromyalgia  fog=濃霧)と表現される。電話番号や相手の名前を覚えられない、忘れてしまうといった障害である。ただし、短期記憶障害の症状が長く続くことはないようである。

不安、ストレス、うつ状態などの精神症状

患者さんの多くは、気分障害など精神症状を持っている。海外の報告では線維筋痛症患者の20%にうつ状態、15%にパニック障害があるといわれているが、これは疼痛など線維筋痛症の様々な症状が、満足にコントロールできないことによる結果であると考えられる。一方、大うつ病(うつ状態でなく真性のうつ病)でも全身の疼痛が生じることがある。精神症状が線維筋痛症の症状として現れているのか、それとも大うつ病などの精神疾患なのか、慎重に診断することが重要である。その意味で、精神科医と線維筋痛症専門医との共同の対応が必要といえる。

線維筋痛症の関連症状・疾患

中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

慢性疲労症候群:何らかの感染を繰り返した結果、日常生活に支障をきたす非常に強い疲労感が、改善されないまま続く状態。

過敏性腸症候群:頻繁に下痢や便秘を繰り返したり、両方が交互に起きたりする。腸の疾患は検査では見つからず、ストレスなどが関係している。

筋緊張性頭痛:肩、首周辺の筋肉の疼痛に伴う頭痛で、姿勢などが関係する。

片頭痛:発作的に反復して起きる頭痛で原因は不明。発作を予期できるタイプと、できないタイプがある。

生理不順/子宮内膜症:生理不順は、生理前や生理中に、耐えられない下腹部痛や月経周期の乱れを繰り返し起こす状態。子宮内膜症は、子宮内膜と同じものが、子宮以外の場所にできてしまう病気。

うつ病:うつ状態ではなく、真性のうつ病(大うつ病)です。

外傷後ストレス症候群:心に深い傷を負うような出来事の後に強いストレスが残り、激痛や睡眠障害、さらにうつ状態になる

化学物質過敏症:シックハウス症候群などに代表される化学物質過敏状態である。同時に薬物、食品に対する過敏を伴う場合が多い。

こむら返り:ふくらはぎの痙攣。指、首、肩にも起きるが、この場合は「全身こむら返り病」と呼ぶ。

むずむず脚症候群:下肢の不快感を覚え、下肢を動かしたいという強い欲求が生じるもので、レストレス・レッグス症候群と呼ばれる。特に夜間に寝床につくと、下肢が「むずむずする」「虫がはっている」「ほてる」「ずきずきする」などと感じ、睡眠障害が起きる。下肢を動かすことでやわらぐ。

顎関節症:開口障害を主な症状とする疾患で、疼痛を伴うこともある。

筋筋膜性疼痛症候群:局所の強い疼痛を生じる疾患で、表2のような診断基準がある。

多彩な症状は根拠のある訴え

・過敏性腸症候群で20%、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の3%に線維筋痛症が合併する。

・婦人科で更年期障害と診断された患者さんに線維筋痛症の可能性がある。

・顎関節症の患者さんの15%に線維筋痛症がある。