線維筋痛症1

かなり前の話になりますが、著名な女性タレントの方が線維筋痛症になったというニュースが流れていました。

以前から線維筋痛症について関心は高かったものの、調べることはしていませんでした。そこで、このニュースをきっかけに、3冊の本を図書館から借りてきました。なお、じっくり拝読させて頂いたのは2冊です。今回も知らないことばかりだったため、長文になってしまいました。そこで、ブログを5つに分けることにしました。

著者:今野孝彦
線維筋痛症は改善できる

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

著者である今野孝彦先生は線維筋痛症の専門外来を6年以上開業されています。「はじめに」に書かれている内容は、この難しい疾患を熟知されている先生が現場で積み上げられたものです。

はじめに

日本では、線維筋痛症の患者さんは約200万人に上ると推定されています。私が線維筋痛症の専門外来を開設してから6年以上経ちました。その診療実績をもとにして平成16年から毎年、北海道大学医学部・環境医学講座で医学部学生に「広範囲疼痛の臨床的アプローチ」と題して講義を行っています。

患者さんの痛みを患者さんと一緒に考え、痛みの研究に興味を持つ医師が一人でも多く出てほしいと願って講義を続けています。本書はその講義の内容を、患者さんはじめ、一般の方が理解できるようにアレンジしたものです。

線維筋痛症の患者さんの主症状は痛み(疼痛)です。受診する科はいろいろで、それぞれの科の専門医の対応も多様です。しかし、適切な対応は少なく、誤診、診療拒否、過剰診断・治療なども見られます。その原因は、疼痛に関する医学教育・医学体制の不備にあります。特に、画像診断、検査中心の日本の医療現場では、疼痛を訴える患者さんの診察は驚くほど画一的なものです。MRIやCT、多数の血液検査を行い、何とか画像、何とか検査で異常を見出そうとして、患者さんも医師も湯水のごとく投資しています。そして、行き着くところは、「何もない。精神科へ行ったら…」になります。

本来、医師はたくさんの画像診断や血液検査を行うよりも、まず患者さんの痛みの訴えに耳を傾けるべきです。何がこの強い疼痛を引き起こしているのかを、患者さんと一緒に考えることが一番大切だと思います。

本書は、35年間リウマチ医療に従事してきた一人の内科リウマチ医が、線維筋痛症専門外来を開設し、患者さんと一緒に悪戦苦闘し、疼痛と闘ってきた記録です。患者さんを中心に一人でも多くの医師、医療・福祉関係者が同じ土俵に上がり、疼痛に取り組む手がかりとなればと思います。

多くの線維筋痛症の患者さんが、診断・治療の遅れで毎日疼痛から悩まされ、社会的労働から疎外されて孤独な生活を強いられています。あふれる情報をもとに線維筋痛症であると自己判断し、たくさんのサプリメントに多額の投資をしている患者さんもいます。また、いまの状態のままでは容易に線維筋痛症へ移行してしまう線維筋痛症予備軍の方たち、そういうすべての方たちに読んでいただきたいと願っています。

さらに、気苦労の多い厄介な病気として、線維筋痛症の治療から目をそむけている医療従事者たちにも、ぜひ読んでほしいと思います。そうすれば、疼痛に苦しんでいる患者さんがいかに多く、適切な対応がなされていないか、適切な対応をすれば、かなりの疼痛患者さんが、苦しみから解放されるのだということが理解できると思います。

なお、本書では薬の名前はすべて商品名にしました。対応する薬品名、分類は164ページの表を参考にしてください。』

本書に登場する薬品名と解説
本書に登場する薬品名と解説

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

こちらがp164の表になります。

 

目次は下記の通りですが、ブログは第1章、第2章と第3章の一部、および第5章の中から「その他の併用療法」と「診断と治療の進め方(疼痛の重症化を防ぐ対応)」を取り上げています(黒字)。内容は要点と思った個所をまとめたものが大部分ですが、一部引用させて頂いたもの(『』でくくられています)もあります。

第1章 線維筋痛症とは?

患者が置かれている状況

●体の広範囲の痛みが3か月以上続く

●社会生活が困難になる

●多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている

第2章 線維筋痛症の症状

同じ病気の患者の経過を参考にする

症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛

症例2:疼痛を起こす基礎疾患のない、精神的ストレス(離婚)を基礎にした全身の痛み

症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ

症例4:足親指の打撲の治療後、局所に痛みや腫れを生じ、数か月後には全身に疼痛

症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ

症例6:うつや顎関節症などがあるが、脊椎関節炎が基礎にある線維筋痛症

症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症

症例8:かぜ症状を繰り返し、倦怠感もある慢性疲労症候群を基礎とした線維筋痛症

症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛

症例10:C型肝炎を持ち、子宮内膜症や筋緊張性頭痛の病歴があり、触れられただけで全身に激痛

線維筋痛症の中心症状

●動かさないときでも起きる広範囲疼痛

●睡眠や休息をとっても改善されない疲労

●脳波で確認しにくい睡眠障害

線維筋痛症の共通症状

●基礎疾患のない“むくみ”感

●全身のしびれ、異常感覚

●事故につながりやすい立ちくらみ、めまい

●短期記憶障害は長く続くことはない

●不安、ストレス、うつ状態などの精神症状

線維筋痛症の関連症状・疾患

●中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患

●多彩な症状は根拠のある訴え

第3章 線維筋痛症の原因は?

神経伝達の障害

●痛みを抑えるシステムの破たん

●痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい

●痛みの感受性が強く、回復に時間がかかる

●検査でわかる重要な異常

●症状を引き起こすストレス

セロトニンとの関係

●基礎疾患の有無で一次性と二次性に分けられる

●セロトニン神経の機能低下

第4章 線維筋痛症の関連疾患

病名が間違われる背景

●関連疾患との鑑別抜きに線維筋痛症の診療は進まない

脊椎関節炎(SPA)

●誤って線維筋痛症と診断されているケースが多い

●脊椎関節炎に気づかない医師がさまざまな病名をつけている

●脊椎関節炎にはさまざまな疾患がかかわっている

●脊椎関節炎の診断にはアキレス腱の超音波検査を組み合わせるとよい

●脊椎関節炎は関節リウマチに近い病気

複合性局所疼痛症候群(CRPS)

●何らかの手術後に発症することが多い

●早期診断、早期治療で多くは完治する

慢性疲労症候群

●日常生活に支障をきたす強い疲労感が改善されない

疼痛性障害

●心理的要因が疼痛を起こし、重症化させている

●疼痛の身体的原因を調べないところに問題がある

リウマチ疾患

●リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多く、ステロイドが劇的に効く

●関節リウマチの寛解には線維筋痛症の有無が影響を与える

線維筋痛症診断の手順

●基礎疾患を探して分類する

第5章 線維筋痛症の治療法は?

薬物療法

●線維筋痛症には薬物療法が効く

●治療効果をみながら、オーダーメイドの治療を進める

症例1:メンタル面

症例2:メンタル面

症例3:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例4:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例5:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例6:脊椎関節炎タイプ

症例7:脊椎関節炎タイプ

症例8:慢性疲労症候群タイプ

症例9:慢性疲労症候群タイプ

症例10:その他

●疼痛を改善すると、疲労、気分障害もコントロールできる

その他の併用療法

●薬物療法以外の治療法もあわせて導入する必要がある

●適切な治療で3~5年以内に70%以上が症状の改善可能

疼痛の重症化を防ぐ対応

●専門外来の医師の立場から線維筋痛症を考える

●診断と治療の進め方

第6章 線維筋痛症とのつき合い方

生活スタイルの工夫

●質のよい睡眠をとる

●食事は、不足しやすい栄養素を十分にとる

●喫煙は症状を悪化させる。禁煙を!

●天候の変動に備える

●疲労をためないように休息に努める

●家事などは体に負担のかからないような工夫が必要

患者さんの実例から学ぶ日常生活の工夫

●起床時の工夫

●就寝時の工夫、寝具の工夫

●食事の支度と後片付け、食事の仕方

●嗜好品

●口渇

●洗濯

●掃除

●入浴/浴室の工夫

●服装(着替えと寒さ対策)

●衛生、美容

●デスクワーク

●ストレッチ、運動

●日常動作の工夫

●リラックスするための工夫

患者さんの苦悩

●いま抱えている不安

●線維筋痛症を認めない医師

●以前の職場の環境と仕事

●何故この病気と闘ってこられたのか

●私にとって線維筋痛症とは

参考文献

あとがき

第1章 線維筋痛症とは?

患者が置かれている状況

体の広範囲の痛みが3か月以上続く

・広範囲疼痛とは、図1(1~6)のすべてに痛みがある場合である。

広範囲疼痛と診断する疼痛の部位
広範囲疼痛と診断する疼痛の部位

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

線維筋痛症は広範囲疼痛の約20%、人口の2%程度、日本では全人口のおよそ1.7%、約200万人と考えられる。

・米国リウマチ学会(ACR)が提唱した診断基準と日本人の患者にみられる痛みの部位

ACRが提唱した線維筋痛症の診断基準と日本人に多く見られる圧痛点
ACRが提唱した線維筋痛症の診断基準と日本人に多く見られる圧痛点

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

・痛みの評価は4kgの強さ(指で押して爪が白くなる程度)で圧迫したときに痛みがあるかどうか。

・線維筋痛症と診断されるのは、18か所の圧痛点のうち、11か所以上で痛みがあり、その痛みが3か月以上続いていることが診断基準となっている。

社会生活が困難になる

・日本の疫学調査によると、線維筋痛症の患者さんの平均年齢は51.5歳、発症年齢は43.8歳、罹患期間は7.4年、診断に要した時間は4.3年である。

・女性が8割を占めるため、女性ホルモンを含めたホルモンの影響が検討されたが、影響は見出されなかった。

今では、神経伝達物質のセロトニンの関与が考えられている。セロトニンは脳の中枢にあって、疼痛緩和やストレスと関係が深い物質で、女性のセロトニンの分泌は男性の4割程度と低いのも注目される理由である。

・線維筋痛症の主な症状は、①些細な刺激にも誘発・増悪される自発痛(何もしていないのに感じる痛み)、②早期覚醒や入眠障害などの睡眠障害、③休息で回復しない疲労、④抑うつ状態などの気分障害。なお、これらの症状は、天候(寒さや多湿など)、運動不足(活動の低下)、音や光などによって悪化する。

局所の保湿、休息、適度な運動、マッサージ、ストレッチングなどは症状を緩和させる。

・線維筋痛症で最も大きな問題は、社会的労働や家事労働などが十分に行えなくなることである。

多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている

・線維筋痛症の原因は多彩なため、それらをすべて取り除くことは一筋縄ではいかないが、症状を軽くすることはできる。

線維筋痛症の症状は、様々なストレスが加わると、脳の中枢にある疼痛を制御する場所の働きが低下することによって起きると考えられているので、症状を起こす原因となるストレスを見出して取り除けば症状を軽くすることができる。

線維筋痛症という病名に対する画一的な治療はなく、原因となるストレスの種類によって、一人ひとり異なるオーダーメイドの治療が必要である。