腎疾患における活性酸素

ご来院頂いた腎臓病の患者さまの多くは、クレアチニン値が3点台~5点台です。成果は改善される患者さま、ほぼ現状維持の患者さま、数値の悪化が止まらない患者さまと個人差があります。まだまだ、分母(患者数)は多くありませんが、「鍼治療で改善される可能性があります」というのが当院の実績に基づく、実状です。

一方、腎臓病に限りませんが、生活習慣の改善が健康にとって重要であることは明らかです。鍼治療よる効果には個人差があるわけですが、すべての患者さまにとって「鍼治療と生活習慣の改善は両輪である」と考えています。

以下の表を参考にすると、生活習慣の中では、古典的危険因子の中の“喫煙”、“運動不足”と非古典的危険因子“睡眠障害”の3つが最も重要な改善点ということになります。

また、この表は2017年の日本内科学会雑誌 106巻7号に掲載されていた『医学と医療の最前線 酸化ストレス処理機構と腎障害』"1.腎機能が低下すると酸化ストレスが亢進する"の中で紹介されているものです。内容は非常に高度で理解困難なのですが、キーワードの“酸化ストレス”について書かれているため全文をご紹介します。

『腎機能障害はなぜCVDの危険因子なのだろうか。腎機能低下者ではCVD危険因子の保有状態が他のpopulationとは異なっているのではないか、と考えられている。一般に、CKD患者には従来から確立されている古典的危険因子(traditional risk factor)以外の危険因子(非古典的危険因子:nontraditional risk factor)が集積しているとのではないかと提唱されている(表)。Nontraditional risk factorの中でも酸化ストレスNO[一酸化窒素]産生異常は、CKDにおける高いCVD合併率を説明し得るprimary mediatorあるいはmissing linkと目されている。腎不全患者での酸化ストレス亢進、血管内皮機能障害については数多くの報告がある。中等度腎機能障害患者および透析患者において、前腕動脈の内皮依存性血管拡張反応の低下が示されている。腎機能が低下すると内因性NOS(nitric oxide synthase)阻害物質であるasymmetric dimethyl- arginine(ADMA)が増加することが報告されている。ADMAはarginineのメチル化により産生され,細胞内への取り込みやNOSの基質として l-arginineの競合的阻害物質として作用する。腎機能障害患者では血漿ADMA増加、l-arginine低下が報告されている。』

画像出典:「医学と医療の最前線 酸化ストレス処理機構と腎障害」

酸化ストレスに注目するのは、酸化ストレスを多量に発生させる要因に“ストレス”があり、腎臓病では一般的に問題ないとされている飲酒も、“暴飲暴食”の域に入ると多量の酸化ストレスが産生されるため、可能な限り避けて頂きたい行動だからです。 

こちらは、岐阜大学 科学研究基盤センター 共同研究講座 抗酸化研究部門さまのサイトにある“「酸化ストレス」とはどんなものか?”というページです。その中に次のような説明があります。

我々のまわりには、紫外線や喫煙、自動車の排気ガスなど、活性酸素の発生量を増やす因子があふれています。精神的、肉体的なストレスが高まっても、大量のアルコールを摂取しても、糖質を取り過ぎても、活性酸素は増えます。仕事が忙しくて睡眠時間が足りない、やけ酒を飲む、暴飲暴食・・・こうしたストレスが続くと、我々の体に備わった抗酸化システムの処理能力をオーバーしてしまいます。すると、活性酸素の悪い面が表に出てきて、体が酸化ストレスにさらされますこうした状態が続けば、老化を早めたり、さまざまな病気の因子を増やしたりと、あまりいいことはありません。酸化ストレスの影響をできるだけ減らす生活を心がけたいものです。』

そして、酸化ストレス・活性酸素と腎臓の関係を詳しく知りたいと思い、県内の図書館で見つけた本が次の『抗酸化の科学』になります。

編者:河野雅弘、小澤俊彦、大倉一郎

発行:2019年8月

出版:化学同人

目次は大項目と中項目のみのご紹介になります。

目次

Overview 抗酸化物質の歴史と概観

第Ⅰ部 活性酸素種の科学

第1章 活性酸素およびフリーラジカルによる酸化ストレス傷害のしくみ

第2章 酸化ストレス反応を引き起こす無機媒体の役割

第3章 活性酸素およびフリーラジカルを生成させる物理的・化学的な因子

第4章 生体内への酸素の取り込みと排出のしくみ

第5章 酸化ストレス反応を引き起こす活性窒素種の役割

第Ⅱ部 抗酸化反応の測定

第6章 活性酸素およびフリーラジカルの計測方法

第Ⅲ部 活性酸素種および活性窒素種の反応と制御

第7章 活性酸素種および活性窒素種の発生系

第8章 生体内で活性酸素および活性窒素の発生する酵素系

第9章 酸化ストレス傷害を制御する抗酸化酵素の性質と機能

第Ⅳ部 酵素活性種の制御と医療への応用

第10章 活性酸素およびフリーラジカル障害を抑制する医薬品

第11章 活性酸素および活性窒素で引き起こされる病気

第12章 予防医学:酸化ストレス傷害を予防する食事の摂取

第Ⅴ部 天然由来の抗酸化物質

第13章 酸化ストレス反応を抑制する抗酸化物質:必須ビタミンの役割

第14章 青果物のもつ抗酸化能についての考察:活性酸素消去活性

あとがき

ブログは、「第11章 活性酸素および活性窒素で引き起こされる病気」の中の「腎疾患における活性酸素」、そして「第13章 酸化ストレス反応を抑制する抗酸化物質:必須ビタミンの役割」の中の「ビタミンEと老化および疾患」の2つをご紹介したいと思います。

なお、以下の図は“活性酸素種”と“酸化ストレス”、“抗酸化物質”の位置づけを示すもので、例えは良くないのですが、活性酸素種は鉄砲、酸化ストレスは実弾、抗酸化物質は鉄砲を収める(抑制する)ケースというイメージです。 

画像出典:「日本老化制御研究所

こちらは厚生労働省が運営しているe‐ヘルスネットの“活性酸素と酸化ストレス”に関する記事です。『活性酸素とは:私たちが生命活動を営む上で酸素の利用は必須となります。呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部は、通常の状態よりも活性化された活性酸素となります。ヒトを含めた哺乳類では、取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化すると考えられています。活性酸素は、体内の代謝過程において様々な成分と反応し、過剰になると細胞傷害をもたらします。

腎疾患における活性酸素

『慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)は透析療法を必要とする末期腎不全への大きな危険因子であることは論を待たないが、それだけでなく全身性の心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の大きな危険因子でもある。実際、CKDはCVDの発症、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳血管障害、入院、CVDによる死亡の危険因子であることが明らかにされており、さらに原因を問わない全死亡のリスクをも高める。腎機能(糸球体ろ過能)の低下とともにタンパク質尿の存在もリスクを増加させる。CKDは人類の健康福祉に対する大きな脅威であると同時に、医療経済的にも大きな負担となることから、全世界的な対策が求められている。

CKDの特徴として、その進行が長期にわたり経過しかつ不可逆的であることがあげられる。この病態進行過程に酸化ストレスが大きく関与することから、酸化ストレス機構の解明と効果的な抗酸化介入はCKD進展抑制への期待は大きい。 

慢性腎臓病の進展と活性酸素および活性窒素

上述のようにCKDは長期経過を辿り、その各過程には酸化ストレスが強く関与する。その初期は糸球体や尿細管など腎局所のおける炎症が主体であるが、やがて腎全体での抗酸化能の低下、レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系(renin-angiotensin-aldosteron system;RAAS)の活性化、腎排泄能の蓄積による尿毒症性物質(uremic toxin)の蓄積、などの過程を経てCVDを中心とした全身性疾患に至る。

この図を見ると、最初に起こる問題は「糸球体・尿細管局所での炎症」となっています。

画像出典:「抗酸化の科学」

腎臓は多くの抗酸化物質を内因し、生体内でROSに対する消去還元能が最も高い臓器の一つである。CKDには糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎、腎硬化症などさまざまな原因があり、糸球体や尿細管などにおける炎症細胞浸潤やメサンギウム細胞からのROS産生などにより酸化ストレスが増大するが、初期ではこの豊富な抗酸化能に守られ、酸化ストレス傷害は腎局所に限定される。しかし一定以上のネフロンが傷害されると、CKDは不可逆的な共通過程により進行する。すなわち、一部のネフロンが傷害されると、残存ネフロンに過剰な糸球体ろ過負担による糸球体硬化が引き起こされ、傷害ネフロンが連鎖的に増加し糸球体ろ過能が低下していく(過剰ろ過理論、hyperfiltration theory)。

このような状況になると、糸球体ろ過能の低下と並行して、腎や全身での抗酸化物質の量が低下する。なかでもビタミンEは比較的早期から低下しCKDステージ3では赤血球中含有量は半減する。また、グルタチオンペルオキシダーゼやSODなども透析期では60~80%まで減少する。これらの腎内抗酸化物質の急激な減少は、腎排泄能低下による尿毒症性物質の蓄積とともに、腎局所から全身へ酸化ストレスを拡大させる。とくに心への進展による心血管障害は心腎症候群と称され、最も治療介入を要するCKD病態である。』

ビタミンEと老化および疾患

同様にヒトにおいてもビタミンE投与の研究がさまざま行われている。特に酸化ストレスが病態の発症や亢進に深く関与するとされているアルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの脳神経変性疾患に対する大規模臨床試験は、これまでも世界中で行われてきた。しかし、その結果はバラツキがある。その背景には各試験における投与条件の違い、被験者の背景など複雑であり、効果の真意を明確にするにはまだ時間が必要であろう。しかし、試験管や培養細胞、動物実験レベルでは、ビタミンE欠乏マウスで脳内にβアミロイド斑のような凝集タンパク質がみられること、またβアミロイドが活性酸素を放出すること、さらにビタミンEの過剰投与ではこれらの現象はみられないことなどから、ビタミンEが抗酸化的にアルツハイマー型認知症において効果を発揮する可能性は十分に考えられる。

これ以外にも非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)やがんといった炎症反応を伴い酸化ストレスが亢進しているであろう疾患に対してもビタミンEの投与が有効であるとの報告がある。ビタミンEの場合、過剰摂取による影響は少ないため、加齢に伴う生体内酸化の亢進を防ぐためには積極的な摂取が推奨される。』

こちらは江崎グリコさまのサイトです。ビタミンE摂取の注意点として以下のような説明が出ています。

『過剰症では出血傾向になるという害がみられるのでサプリメントや薬などからの過剰摂取には注意が必要です。日常の食生活ではとり過ぎになる心配はほとんどなく、積極的にとりたい栄養素のひとつです。』

鍼治療と酸化ストレスに関する論文等の情報を検索すると、特に新しいものほとんどありませんでした。その中で、ラットではありますが「埼玉医科大学雑誌 第41巻 第2号 平成27年3月」に書かれていた、”抗ストレス作用は抗酸化力や酸化ストレス度に影響する”という内容に興味を持ちました。 

鍼治療による抗ストレス・抗酸化作用の可能性”:『ラットに対するストレス負荷による影響を検討した結果、拘束ストレスにより血液流動性の低下、血小板凝集能の亢進、血中ATP濃度の増加を認めた。こうした拘束ストレス負荷を加えたラットに対して鍼刺激を行ったところ、先に述べた項目が抑制されたことから鍼刺激による抗ストレス作用が明らかになった。また、拘束ストレスにより抗酸化力の低下と酸化ストレス度の増加を認めたが鍼刺激はこれらの反応を改善させ、鍼刺激による抗酸化作用・赤血球や血小板の細胞膜保護作用がある可能性が示唆された。』

付記1:腎エイジングと個体加齢の悪循環

こちらは「医学と医療の最前線 老化と腎臓病」に掲載されていた図ですが、腎エイジングと個体加齢の悪循環にも酸化ストレスが関与しています。

タイトルの”喫煙と腎・泌尿器疾患”をクリック頂くと、6ページのPDF資料がダウンロードされます。

調べてみると上記の資料は高野先生のクリニックの”禁煙への思い”の中にありました。