脳と運動1

脳性まひ児への施術を考えるうえで、繰り返し出てきた「脳の可塑性」とは「脳は変わる」ということです。

ブログ"アナット・バニエル・メソッド1"は"限界を超える子どもたち 脳・身体・障害への新たなアプローチ"という本を題材としたものですが、その本の中には、脳神経学者のマイケル・マーゼニック先生が"本書によせて"というタイトルで、脳の可塑性について語った文章があります。 

『アナット・バニエルのアプローチは、特別な支援を必要とする子どもたちとの豊かな実践から生まれました。彼女は子どもたちの脳が変わっていくことができるのを繰り返しみてきました。子どもたちは人生に目覚め、能力を獲得し、力強く生き方を変えていきました。私たちの脳には「可塑性」があります。一生を通じて脳は変化しつづけます。

~ 中略 ~ 私は長年、「再構築する脳」の力を子どもや大人に役立てる方法を解明したいと、科学の分野で取り組んできました。数十年の研究を経て、私たち科学者は神経科学の観点から脳の可塑性を支配する「法則」を明らかにしました。そして、よりよい変化をもたらすためには脳はどのように働かせるのがよいかがわかってきました。

何をしたら脳の可塑性は進むのだろう?

という疑問から本を探していたときに、見つけたのが今回のブログの題材である"脳を鍛えるには運動しかない”という本でした。

著者:ジョン J. レイティー

訳者:野中香方子

出版:NHK出版

初版発行:2009年3月

原書の題名は『SPARK』でした。

ここには、「脳を発火(スパーク)させて生気(スパーク)を取り戻そう」という意味が込められているそうです。

この本の評価の中には「論文の情報がない」というご意見もあり、少し気になったため、ジョン J. レイティー先生についてネット検索してみました。 

John J. Ratey MD, is an associate clinical professor of Psychiatry at Harvard Medical School and an internationally recognized expert in Neuropsychiatry. 

画像をクリックして頂くと、レイティー先生のFacebookに移動します。なお、画像は「APEX BRAIN CENTERS」さまより拝借しました。

 

 

本書の最後に『1998年から毎年[初版発行は2009年]、同業者の選出による全米ベスト・ドクターのひとりに選ばれ続けている。』という記述があったため、調べて見ると日本を含め12カ国で展開されているものでした。ホームページの右上にある小さなフィールドで国名を選ぶことができます。 

本書の中には個別の参照論文に関する表記はないのですが、”第十章 鍛錬 ―脳を作る” の中に次のようなことが書かれていました。

『わたしが強調したかったこと―運動は脳の機能を最善にする唯一にして最強の手段だということ―は、何百という研究論文に基づいており、その論文の大半はこの10年以内に発表されたものだ。 

ブログは最初に目次をご紹介していますが、黒太字になっている項目が取り上げたものです。なお、「第九章 加齢 ―賢く老いる」の中の「いかに年をとるか」以外はいずれも内容の一部です。

また、ブログは4つに分けており、今回の“脳と運動1”の対象は序文と第二章になります。 

目次

序文 結びつける

第一章 革命へようこそ ―運動と脳に関するケーススタディ

 トップクラスの成績

 新しい体育

 たいまつを掲げる

 新しいステレオタイプ「賢い運動選手」

 体にいいことは、脳にもいい

 まったく新しい球技

 先駆者についていこう

 フィットネスを超えて

 教えを広める

第二章 学習 ―脳細胞を育てよう

 メッセンジャー役の物質たち

 学ぶことは成長すること

 最初のひらめき

 環境要因と脳

 可塑性を伸ばす

 体と心の関係

 こんな運動をしよう

第三章 ストレス ―最大の障害

 ストレスを定義し直す

 ストレス免疫をつけよう

 警報システム

 燃料を燃やす

 知恵

 本能と戦う

 ストレスはあなたを殺すだけではない

 もうたくさん!

 ストレスの有害作用

 ストレスを燃やし尽くす

 心を守るものが体も守る

 こんな運動をしよう

第四章 不安 ―パニックを避ける

 エイミーのケース

 防衛

 証拠

 恐れを恐れる

 パニックの苦しみ

 苦しみ抜いて

 失われたつながり

 恐怖に向かって走れ

 恐怖から走って逃れる

 こんな運動をしよう

第五章 うつ ―気分をよくする

 新しいブーム

 収束する生化学回路

 本物のテスト

 最高の処置

 論理の穴

 裏にある結合

 絆を断つ

 トンネルを抜ける 

 こんな運動をしよう

第六章 注意欠陥障害 ―注意散漫から脱け出す

 とてつもない注意散漫

 問題の兆候

 大々的に、しかも曖昧に、やり遂げる

 全コントロール・ユニット、注目!

 初期の手がかり

 エクササイズに集中する

 脳を関与させる

 典型的な事例

 こんな運動をしよう

第七章 依存症 ―セルフコントロールのしくみを再生する

 不当な報い

 ふたたび自立する

 ドーパミンへの渇望

 衝動と戦い、習慣を断つ

 ある依存症患者の物語

 ランナーズハイ

 よいものにこだわる

 空の容器を満たす

 こんな運動をしよう

第八章 ホルモンの変化 ―女性の脳に及ぼす影響

 PMS―自然な変動

 バランスを回復する

 妊娠―動くべきか、動かざるべきか

 赤ちゃんのことをお忘れなく

 産後のうつ―青天のへきれき

 元の自分に戻る

 閉経―大きな変化

 運動補充療法

 こんな運動をしよう

第九章 加齢 ―賢く老いる

 すべてをひとつに

 いかに年をとるか

 認知力の衰え

 感情が乏しくなる

 認知症

 人生のリスト

 母の教え

 食事―軽く、体にいいものを食べよう

 運動―規則正しくつづけよう

 頭の体操―学びつづける

第十章 鍛錬 ―脳を作る

 走るべく生まれついている

 ウォーキング

 ジョギング

 ランニング

 非有酸素運動

 やり通すこと

 大勢でやればなおよい

 柔軟性を保つ

あとがき 炎を大きくする

序文 結びつける

わたしが目指すのは、運動と脳をつなぐ驚きに満ちた科学を分かりやすい言葉で語り、それが人間の生活にどのような形で現れるかを示すことだ。そして、運動が認知能力と心の健康に強い影響力をもっているという認識を確かなものにしたい。運動は、ほとんどの精神の問題にとって最高の治療法なのだ。

『最も見習うべき事例は、診察室の壁を越えたはるか先、シカゴ郊外の学区で見つかった。その学区で展開された画期的な体育プログラムは、今わたしが述べてきた刺激的で新しい研究と深く結びついている。イリノイ州ネーパーヴィルで取り入れられた体育の授業は、19,000人の生徒を、おそらく米国一健康にした。ある高二のクラスでは、太りすぎの生徒は3%しかいない。国の平均は30%だ。さらに唖然とさせられるのは、そのプログラムによって、学区の生徒が国内有数の頭のいい生徒へと変身したことだ。』

本書の序文の中で紹介されている、米国イリノイ州ネーパーヴィルで実施された体育プログラムに関しては、ツインデンタルクリニックさまの「健康ブログ」に、”ネーパーヴィルの奇跡”という題名で、概要が簡潔にまとめられていました。

英文の記事もありました。タイトルは"One Small Change Turned These 19,000 Students Into the Fittest and Smartest in the US"です。なお、こちらは「ORTHODOX UNION」というサイトに掲載されていました。

第二章 学習 ―脳細胞を育てよう

メッセンジャー役の物質たち

『グルタミン酸は脳の馬車馬となってはたらいているが、精神医学がそれよりも重視するのは、脳の信号操作とすべての活動を調整している一群の神経伝達物質だ。すなわち、セロトニンノルアドレナリン、そしてドーパミンである。それらを作り出すニューロンは、脳におよそ1000億個あるニューロンの1パーセンントにすぎないが、影響は甚大だ。ニューロンに命じてもっとグルタミン酸を作らせたり、ニューロンがより効果的に情報伝達できるようにしたり、受容体の感度を変えたりする。また、余計な信号がシナプスに伝わらないようにして脳内の「雑音」を小さくしたり、逆にほかの信号を増幅したりもする。グルタミン酸やGABAのように信号を送ることもできるが、その第一の役割は、情報の流れを調節して、神経化学物質全体の調整をすることだ。

あとの章で詳しく述べるが、セロトニンは脳の機能を正常に保つはたらきをしているので、よく脳の警察官と呼ばれる。セロトニンは、気分、衝動性、怒り、攻撃性に影響する。フルオキセチン(商品名プロザック)のような選択的セロトニン再取り込み阻害薬を使うのは、うつ病や不安障害、強迫神経症の原因となる脳の暴走をそれが抑えるからだ。

ノルアドレナリンは、気分について理解するために研究された最初の神経伝達物質で、注意や知覚、意欲、覚醒に影響する信号をしばしば増強させる。

ドーパミンは学習、報酬(満足)、注意力、運動に関係する神経伝達物質と見られており、脳の部位によって正反対の役割を果たすこともある。塩酸メチルフェニデート(商品名リタリン)は、ドーパミンを増やして気持ちを落ち着け、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を緩和する。

精神の状態を改善するために用いる薬のほとんどは、これら三つの神経伝達物質のひとつか、あるいは複数にはたらきかける。だが、ここではっきりさせておきたいのは、そのシステムは非常に複雑なので、どれかを増減すれば決まった結果が出るわけではないということだ。ひとつの神経伝達物質を操作すると、その影響は連鎖的に広がっていき、人によって現れる効果は違ってくる。