脳性まひの治療アイデア3

“痙直型両まひの治療 Ⅱ.治療の考え方” からで中項目は全部で9つあります。取り上げたのは“5.足部の活性化”、“6.体幹近位部の動的安定性の活性化”、“8.痙直型両まひ児の立位と歩行”、“9.下肢の選択的な運動”の4つですが、今回のブログでは5.足部の活性化”と“6.体幹近位部の動的安定性の活性化”について書いています。文章は箇条書きにしたものと、そのまま抜き出したものが混在しています。

なお、取り上げなかった5つは次の通りです。“1.早期治療”“2.頭部コントロールと上肢の治療”“3.良好な座位への促通”“4.座位での体幹活動”“7.座位からの立ち上がり” 

著者:Jung Sun Hong 監訳:紀伊克昌 訳:金子断行

出版:三輪書店

初版発行:2010年4月

第2版発行:2014年10月

目次は“脳性まひの治療のアイデア1”を参照ください。

 

5.足部の活性化

●胎児運動は、四肢の選択性のない動きが特徴である。選択性のない動きは、身体各部位を同時に運動する経験となり、屈曲姿勢の中で頭部からつま先までを連結させる。これは姿勢コントロールの発達の基盤となる(図C-72)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

足部の背屈は、足の運動の中で最も重要であり、全身の運動連結が発達していることを示している。また、足部の背屈は下肢の運動の繰り返しにより出現する。

●中枢部の動的安定性を獲得するまでは座位バランスを足部の背屈で助ける。

●さまざまな座位バランスを獲得するまでに足部は大きな役割をはたす(図C-73)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

●体幹近位部の動的安定性が発達すると、バランスを維持するための足部の運動は必要なくなる。そして乳児は安定性限界域を超えて動き始める。

両まひ児の足部は、生後から運動性に乏しく、とりわけ背屈の動きがとても弱い。これは、下肢の過緊張、足部筋群の弱化、体幹の不安定性が要因である。これらはやがて足部の運動をさらに乏しくさせ、足関節のアライメントを不整にし、つま先の動きも消失させてしまう。

治療では、はじめにセラピストは足部の動きを評価し、四肢近位部の動的安定を活性化させながら足部の豊富な運動性を促通する。

正常発達から考えると、座位は足部の運動を引き出すには最良な姿勢である。

足部の背屈は体幹と骨盤の運動と関連している。

●座位での良好な姿勢コントロールでは、骨盤が垂直伸展位となり、股関節・膝関節が適度に屈曲し足関節は背屈となる。

●仙骨座りは下肢を伸展位にさせる。そこから骨盤を垂直位にして両坐骨に体重を負荷すると、下肢は屈曲位となり、自動的に足部は0°に背屈する。そして、この肢位から骨盤が前傾すると足部に深い背屈が得られる。このような足部と骨盤の自然な連結がわかるセラピストは足部の運動を促通しやすい。

●下肢に典型的な痙直パターンを示す両まひ児では足部は強く底屈し、骨盤を垂直位に保持できない。そのため、仙骨座りとなり、両坐骨に体重をのせることができない。このような場合、足部を動かすことは難しく、頭部と体幹の正しい伸展も困難となる。そして、両上肢も重たくなり、結果的に身体各部位の連結と頭部コントロールは未成熟となる。

治療では、足部の活動性、骨盤の垂直伸展、体幹の伸展、頭部の伸展といった姿勢コントロールの要素を学習させる。骨盤の垂直伸展は、頭部と体幹の伸展とともに起こる。また、足部の運動が得られないと、頭部からつま先までの連結が発達しない。

a)セラピストは骨盤を垂直伸展させる準備として、脊柱と骨盤の運動性を引き出しておく。

b)セラピストは両まひ児の体幹を伸展させたまま後方に傾けて下肢の伸展とともに足関節を背屈させていく(図C-74)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c)必要であれば、骨盤や体幹を助けて自分自身で体幹と骨盤を垂直位に起こすように求める。その動きとともにセラピストは足部を背屈させていく。この活動は骨盤と足部の連結を促通している(図C-75)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

またこれは、両まひ児の足部にとって新しい感覚運動経験となる。両まひ児の治療では、このように姿勢コントロールと連結の促通を重要視していく。さらに、セラピストは座位だけではなく立位・歩行、さらには日常生活の中で頭部・体幹・骨盤・下肢・足部のアライメントを維持できるように介入していく。

●足部の運動を促通しつつ、つま先の運動も促通していく。これにより大腿骨・脛骨・腓骨・足関節のアライメントが整えられ、つま先と足部の運動が出現しやすくなる。

●足関節の背屈と底屈は、ふくらはぎの筋群と足趾筋群が適度に協調された運動である。つま先の伸展がないと背屈は弱くなり、効果的に底屈を抑えられない。 

6.体幹近位部の動的安定性の活性化

体幹近位部の動的安定性は、骨盤と下肢の運動の基盤となる

●下肢の随意運動遂行時、必ず骨盤に運動が生じる。これは、体幹近位部の動的安定性が自動的に働くからである。

●効率的に体幹近位部の動的安定性が働けば、骨盤と下肢を中間位に保つことができる。これにより、選択的な運動が誘発され、おのおのの下肢筋群が活性化する。

両まひ児の治療は筋肉を育成させ、体幹近位部の動的安定性を活性化させる。 

1)下肢の伸展と脊柱の下部体幹の治療

●セラピストは、下肢の運動と下部体幹の動的安定性の関連を知らなければならない。例えば、右下肢が正しく屈曲する時、骨盤は体幹に対して後傾する。左側の骨盤は右下肢を中間で支えるために動的に安定する。このような協調運動は、治療における重要な基礎となる。また、治療前の評価と治療後の機能を比較することが大切である。

a)セラピストは子どもが運動を開始する前から評価する。子どもに頸部の屈曲を求めて、下部体幹が活動するかを、さらに良好な身体のアライメントをとれているかを評価する(図C-76)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b)子どもに一側下肢を屈曲することを求め、下部体幹の筋活動を観察する。そして下肢が動いている間、下部体幹のどこが不活性であるかを評価する。例えば、左下肢体幹の安定性が弱いと右下肢を正中線上に保ちながら屈曲することはできず、努力性に外転を伴い屈曲してしまう(図C-77)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c)セラピストは骨盤を左方向に回旋させ、子どもに中間位に戻すように声をかける。この運動の繰り返しにより、骨盤の中間位保持を学習させていく。その際、セラピストは骨盤を戻す時に軽く抵抗をかけて運動の方向を教える。それにより、徐々に下部体幹の動的安定性が活性化されてくる図C-78)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

d)徐々に抵抗を強くしてリズミカルに骨盤が回旋できるように誘導していく。それにより、少しずつ右側の骨盤周囲筋群と左側大殿筋が活性化し、左体側が伸張されてくる図C-79)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

e)セラピストは下肢の運動を再評価する。とりわけ、右下肢が正中位で保持され、さらに骨盤の後傾を伴い、より深く屈曲できていれば治療は成功している(図C-80)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

f)この治療を通じて、セラピストは子ども自身に下肢の運動を気づかせていく。また、寝返り、座位、立位など、すべての姿勢でこのようなプログラムを行い、子どもが自分自身で不活性な体幹から活動性のある体幹へ育成できるようにセラピストは務める。 

2)下肢を交差させた膝立て背臥位

この治療も、下部体幹の動的安定性を発達させる目的で行う。治療開始前にセラピストは評価を行い、どちらの下肢から治療するか決める。

a)背臥位で膝を立てて下肢を交差させる(図C-81)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b)セラピストは上側の下肢を把持して、骨頭を上側の下肢の方向へ回旋させる。その後、子どもに骨盤を正中位に戻すことを求める(図C-82 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c)セラピストは骨盤が正中位へ戻る時、軽い抵抗を与えて運動方向を誘導し反対側の下部体幹と同側の殿筋群・下肢筋群の活動性を高める(図C-83)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

3)側臥位での治療

●側臥位から腹臥位への寝返りを促通する中で、下側の下部体幹の安定性と上側足関節背屈と下肢の屈曲運動を引き出す。特に、この動作で大切なのは、正常に寝返る時の骨盤の動きを理解することである。寝返りする時、下側になる体幹はまず伸張される(図C-84)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 この下側になる体幹の強い安定性は、寝返りのための支持基底面を提供する。しかし、両まひ児では中枢部の動的安定性が不十分なため、これがうまく機能できない。このような知識を用いて、セラピストは骨盤の動きを評価する。もし、動きが不十分かつ不活性であれば、まずはじめに骨盤の運動を活性化させる。さらに寝返りを促通するためには、両下肢を伸展させた正しい側臥位をとらせる。この肢位は骨盤の操作やコントロールを容易にして下肢筋群を強化できる。

a)セラピストは動き出す前の姿勢を評価し、両まひ児に寝返り、さらには正中位に戻るように求める。その際、中枢部が働いているか、身体のアライメントが良好かを観察する(図C-85)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b)セラピストは骨盤の両側を把持し、骨盤の運動性を引き出す。下側の骨盤を引き下げながら下側になる体幹側腹部を伸張する(図C-86)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

そして、セラピストは下側の体幹の長さを引き出しつつ、寝返るために上側骨盤を前方へ動かすように求める(図C-87)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c)セラピストは骨盤の両側を把持して、上側の骨盤を前方へ動くのに合わせて介助する。これを繰り返すことで、骨盤の動きを促通できる。その際、少しずつ抵抗を与えつつ、下側の骨盤周囲筋群と殿筋群および上側の下肢屈曲筋群を育成させる。そして、下側の安定性、上側の運動性を促通する(図C-88)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

d)下側の体幹の長さを引き出しつつ、骨盤にリズミカルな運動を与える。

e)その時、上側下肢の正中線上での動きおよび骨盤後傾を伴ったより深い上側下肢の屈曲ができているかを確認する。さらに、下側の体幹の伸展と下肢の伸展が得られているかを確認する(図C-89)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

f)この治療により子どもは、骨盤と下肢の運動感覚を学習できる。 

4)一側下肢からの寝返りの促通

●多くの両まひ児は、立位や歩行ができる。しかし、セラピストが背臥位から側臥位に寝返りを求めると、多くは寝返る時に下肢を使わずに上肢を用いる(図C-90)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

●両まひ児は一側の下肢を伸展させ、反対側の下肢を屈曲する分離運動ができない。これは中枢部と下肢、特に足部との連結不足から生じる。

●正常運動では、中枢部の動的安定性は骨盤と下肢を協調的に働かせる。例えば、下肢を体幹の方向へ屈曲させるには、骨盤後傾を伴う股関節90°以上の屈曲と足関節背屈が必要となる。さらに、両下肢が分離して動くことも必要である。

●両まひ児は下肢の運動を保障する体幹と四肢近位部の動的安定性をうまく働かすことができない。そこで、セラピストは中枢部の動的安定性の自動的活動とともに下肢の動かし方を学習させる。さらに、セラピストは一側下肢の屈曲を促通する時、足部とつま先の動きも同時に活性化させる。

●筋肉を育成する目的は、治療中に筋を活性化させるだけではなく、長い期間をかけて、筋の性質・長さ・形状をできるだけ正常に近づけ、日常活動を変えることにある。

a)セラピストは座位で子どもに足部とつま先をみるように求める。そして、つま先を動かすように声をかける。足部とつま先を動かす挑戦が、足部を知覚する絶好の機会となる図C-91)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b)背臥位で一側下肢の膝を立てて、それを母親に保持してもらう。他側下肢を深く屈曲させ、骨盤後傾と足関節の深い背屈を行う。

●両まひ児は、中枢部の動的安定性が不十分なため、下肢を最大に屈曲させることが難しい。さらに、下肢の屈曲と骨盤の後傾を同時に働かせることができない(図C-92)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c)セラピストは側臥位で下側の下肢を伸展位に保ち、上側の下肢を最大屈曲に導く、その時、足関節の背屈も促す。運動方向を教えるために足関節の背屈に少し抵抗を加えると全身が連結しやすく、骨盤の後傾と足関節の背屈が促通しやすい図C-93)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

d)中枢部の動的安定性を得た後、子どもに下肢を屈曲させてからの寝返りを求める(図C-94)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」