脳性麻痺と機能訓練6

今回は、第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 3.自立坐位獲得機能訓練 になります。なお、最後に番外編として、Ⅴ. 抗重力肢位訓練 にある”坐位訓練”に関してもご紹介しています。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

Ⅳ.ダイナミック訓練の実際

3.自立坐位獲得機能訓練

●坐位は哺乳動物以降にみられる抗重力機能であり、視線の位置を高め、上肢の使用を可能にする。人の生活に不可欠な食事、着脱、排泄が行われやすく、坐位機能の獲得は訓練上の大きなテーマとなり、作業療法、ADL機能訓練の出発点でもある(表5参照)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

この表から”割り坐が動作獲得の重要な基点になっていることが分かります。

 a.坐位と立ち直り機能

●坐位は体幹を垂直に保持する働きを必要とするが、この抗重力機能も立ち直り機能という。

坐位の獲得は垂直位保持機能の活性化であるが、運動学的には次の2つによって保持される。

①頚椎から骨盤にかけての体幹垂直位保持能力(体幹内立ち直り能力)

②下肢による体幹の垂直位保持能力(股関節での垂直位保持能力)

1)体幹の垂直位保持能力(体幹内立ち直り能力)

体幹内の起立位保持は、短回旋筋、長回旋筋、多裂筋など抗重力伸筋と、内腹斜筋、腹横筋の抗重力屈筋の活動で得られる(図12参照)。

2)下肢による体幹の垂直位保持能力(股関節での垂直位保持能力)

大殿筋、大内転筋、腸骨筋、短内転筋、長内転筋など抗重力筋の活動で、下肢が体幹を安定位に支える。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b.坐位を阻害する筋の過緊張と麻痺

●最長筋、腸肋筋、棘筋などの多関節性伸筋群の過緊張が体幹内の垂直位保持を妨げる。

●半棘筋、多裂筋、長回旋筋、短回旋筋、および内腹斜筋、腹横筋など抗重力筋の麻痺によって体幹内の垂直位保持が困難になる。

●半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋などの多関節性伸筋群の過緊張および大腰筋、大腿直筋などの多関節屈筋群の過緊張が股関節での体幹支持を阻害する図38-B参照)。

また、大殿筋、中小殿筋、長・短内転筋、腸骨筋など、抗重力筋の麻痺によって下肢での体幹の支え能力がなくなり、坐位が困難となる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

メモ麻痺と肢体不自由

ここまでブログを進めてきて、坐位、特に”割り坐の機能訓練”が極めて重要であるということが分かりました。また、坐位を阻害している元凶は多関節筋群の”過緊張”と”麻痺”ということも分かりました。そして、その機能訓練を真剣に実践していこうとすると、あらためて「麻痺とは何か?」ということを明確にしないといけないと感じました。

そこで、8月30日にアップさせて頂いた”小児の理学療法2”のメモの一部を再度ご紹介したいと思います。

脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。

脳性まひ児にみられる”麻痺”は、脳血管障害に伴う血液の滞りによる組織の機能不全のような”麻痺”とは異なり、母体や乳幼児の時に体を思うように動かせなかったため、脳が学習する機会を十分に得られず、その結果、脳が適切にからだを認識し、合理的に動かす方法を十分に身につけることができなかった状態、いわゆる”肢体不自由”ととらえることが適切だと思います。そして、重要なことは”麻痺”によって直面する心身の困難さに比べ、”肢体不自由”が持つ改善の可能性、その領域は広く、動作法(心理リハビリテーション)や、脳の可塑性へのアプローチによって大きな変化が期待できる領域であると考えます。

c.自立坐位獲得訓練の実際

訓練は次の3つに分けられるが、ここでは自立坐位獲得訓練を検討する。

①介助坐位訓練

②自立坐位獲得訓練

③椅坐位獲得訓練

まず、割り坐を育て、さらに四つ這い訓練に進み、四つ這いから正坐、横坐、あぐら坐、長坐へ導入する。きわめてダイナミックな坐位獲得である。

1)割り坐訓練

●割り坐は両大腿内側、両下腿内側、両足および坐骨部での支持による坐位で、坐面が広く安定性が高い。

割り坐はハムストリングの緊張がもっとも少なく、大内転筋群など抗重力筋の活性化に好都合である。

●上着などの着脱、食事などの上肢使用も可能である。

●割り坐の欠点は一側に体重が移動できず、ズボンの着脱など、高次のADL改善に結び付かない点である。

割り坐の股関節屈曲・内旋・外転位は股関節の求心位保持に最善の肢位であり、脱臼の予防肢位である。

●割り坐肢位は体幹の垂直保持訓練にももっとも適切な肢位である。

a)割り坐を育てる手技

もっとも重要な手技であり、腹這い肢位を出発肢位とする。交叉肢位がとれ、肘つき、腹這いの能力が育っていることが望ましいが、必ずしもそこまで育ってなくてもよい。次の2つの方法がある。

1)外転拘縮弛緩タイプ

①まず両上肢・両肩屈曲位(頭の方に伸ばす)、両肘屈曲位、下肢伸展位をとる。

②一側下肢を120~140°以上屈曲させ、他側下肢も骨盤を少し持ち上げつつ120~140°屈曲させる。

③両下肢を少しずつ内転させ骨盤を浮かすよう呼びかけつつ、骨盤の持ち上げを助ける。

④骨盤が持ち上がると、さらに股関節を屈曲させ、殿部を床に降ろすように呼びかけ手助けする。

⑤殿部が下がり、脊椎が伸び、手つき割り坐が得られる。

2)両下肢交叉伸展肢位

①両上肢は両上肢・両肩屈曲位(頭の方に伸ばす)、両肘屈曲位、下肢は伸展位である(図35-A、36-A参照)。

②両前腕に十分の体重をかけ、腹部に術者の手を入れ、両下肢を屈曲させて骨盤帯を空間に持ち上げる(図35-B、36-B-a参照

③腰の持ち上げを手伝うと、自力で腰を持ち上げようとする動きが出る。

④骨盤が十分持ち上げられると、次に両上肢を伸展させ体重を徐々に後方に移動し、両下肢を屈曲させる(図35-C、36-B-b参照

⑤徐々に体重が後方に移動し、手つき割り坐が得られる。この時、膝の曲がりが悪い児は膝に痛みを訴える。また、股の内旋できない児や足が背屈している児は、痛みを訴える。急に行わず徐々に膝の曲がりや股の回旋の動きをよくし、足の可動域をよくしていく。最初痛い時は、坐骨と坐骨の間にタオルとか正坐した術者の大腿部を入れて、四つ這い肢位に近く保持し、徐々に膝を曲げ、割り坐肢位とする。手つき割り坐で、徐々に背中を伸ばすよう呼びかけ、体重を坐骨から下肢までに移すと、体幹が徐々に伸びてくる。手を離し、割り坐へと移行する(図35-D、36-B参照)。

手つき割り坐では、大腰筋が緊張し、体幹が垂直を取りにくいことも多い。腹部から手で体を起こし、大腰筋の緊張を抑制し、大殿筋の伸展力を育てつつ、体幹の垂直位獲得をはかる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b)割り坐を阻害する因子

股関節伸展内転緊張

股関節伸展、内転緊張が強いと、腹臥位での股関節屈曲ができない(図35-A参照)。

腹這いでの伸展筋群の伸張(ストレッチ)訓練を家庭訓練を含めて、あらゆる機会を利用して行う。股関節をやや外転した割り坐が望ましい。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

下肢屈曲緊張

股関節の屈曲緊張が極度に強いと、手つき割り坐をとり、次に股関節を伸ばし、脊椎を伸展させる段階で体幹は起き上がってこない(図37-A,B、図38-A参照)。

他動的に起こすと、大腿部も一塊となって持ち上がり、体を支える状態がつくれない(図37-B、38-B参照)。

訓練上は手つき割り坐をとらせ、体を徐々に伸ばし、屈曲緊張をゆるめつつ、股伸展筋の発達を待つ手つき割り坐訓練が重要である図37-C参照)。

腹臥位ストレッチ訓練により、股関節屈筋群の緊張の抑制をはかる図20参照)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

上肢のレトラクション

手つき割り坐に入る時、まず腹臥位から骨盤が浮き上がり、次に両下肢が曲がる。上肢が肘関節で伸びながら体を後方に移動させ、殿部が下がってくる。肩のレトラクションがあると、この上肢の前方での伸びが妨げられる。レトラクションを徐々に除き、能動的割り坐肢位訓練によって肩、肘の支配能力を育てる(図35-C参照

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

2)正坐訓練

股関節の外旋力が付くと、正坐が可能になる。重心が高く支持面が狭くなり、よりレベルが高い坐位である。一側だけでの支持が容易になり、体重が左右に移動できる。割り坐からいったん両手をつき殿部を浮かし、四つ這い肢位をとり、それから下肢を内外旋中間位に保持させつつ殿部を降ろし、正坐位をとると訓練がきわめて容易となる。自発運動を尊重したダイナミックな正坐獲得訓練が、四つ這い肢位を活用することによって可能となる。

横坐り訓練

一側外旋、他側内旋の横坐りでは、外旋した方の下肢に体重を乗せることが可能になり、日常生活動作もさらに高次なものが可能となる。また、外旋位保持によって大殿筋など股関節外旋筋の活性化がもたらされる。自力で椅坐位をとるための股関節の回旋の動きを育てる訓練の第一歩にあたる。車椅子の乗り、便器への移動などでの股関節の回旋能力の獲得のためには、このような横坐り能力から育てていく必要がある。また、四つ這い移動からの横坐り屈筋は自発性が高い(図39参照)。

あぐら坐り訓練

両側股関節が外旋した坐位である。痙直型両麻痺の子どもたちには、この坐位は難しい。体重の左右移動が容易となり、遊脚側での着脱が容易となる。手技としては、四つ這い肢位訓練、横坐り訓練が基本となる。両側の横坐りが安定すると外旋側に体重を移し、次に内旋下肢を外旋させ、両股外旋位をとる(図39参照)。

長坐り訓練

ADL、上下着や靴下の着脱などが可能なレベルの高い坐位である。横坐りができ、さらにハムストリングの伸展緊張がゆるんだ段階で初めて可能となる。脳性麻痺ではハムストリングの緊張が強く、この肢位を自発的にとることは難しい。まず四つ這い移動を獲得し、四つ這い肢位からの股関節の回旋によって長坐に移る図39参照)。ハムストリングがゆるんだケースでは、側臥位、肘つき側臥位、手つき側臥位をとり、股関節および体幹の回旋で長坐位に移りえる図40参照)。

このように坐位については、まず割り坐の獲得がもっとも大事であり、それができたら四つ這い肢位の獲得に向かい、次にこの四つ這い肢位から横坐り、長坐など、自立坐位訓練を進める。

付.坐位の獲得方法

坐位獲得は、側臥位から片手をついて起き上がり、投げ出し坐りとなる方法と(図40参照)、四つ這いから一側下肢を内転外旋させて横坐り、そして投げ出し坐りになる方法図39参照の2つの方法がある。第1の方法は、訓練上到達レベルが一気に高くなるために、自発性を出すことが困難で、とくに股関節伸展緊張のある例には困難なことが多い。第2の方法は、まず四つ這いを獲得してからの方法であり、四つ這い獲得が先決である。この四つ這い獲得のためには、割り坐からの訓練が必要となる。割り坐獲得、四つ這い位獲得、そして長坐獲得と3段階に分け自発性を出す。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

3)椅坐位訓練

自立椅坐位は四つ這いと立位の間に位置するレベルの高い坐位ととらえる。

d.基本運動レベルの中での自立坐位獲得機能の位置づけ

●これまでの坐位訓練は、椅坐位での静的訓練を重要視し、床上坐位でのダイナミック訓練は、あまり用いていないようにみえる。

●著者らは割り坐のような重心の低い安定性のある坐位も価値のあるものと考え、自由に坐位獲得の動きを出そうとしている。

●割り坐は内旋変形をもたらすと考えられ、嫌われる傾向にあるが、著者らは症状の重いケースに自発的な坐位獲得の動きを出すことが重要と考え、割り坐を訓練上不可欠のものととらえる。内旋は割り坐獲得ののち、横坐り訓練などで矯正する。

●床坐位は重心が低くバランス能力は少なくてすみ、自発的なダイナミック訓練が行われやすい。レベル的には、腹這いと四つ這いの間に位置すると考えられる。

椅坐位は重心が高く、より高次のバランスが求められる。レベルの低いケースにこの坐位を用いると、多くの支えを必要としダイナミズムに欠ける。椅坐位はレベル的には四つ這いと立位の間に位置すると考えられる。

e.自立坐位獲得訓練・四つ這い訓練と異常姿勢反射の抑制

●坐位の獲得、四つ這いには、両手掌・両上肢の伸ばしによる体幹の支えが不可欠であり、異常姿勢反射の一局所であるレトラクションが、この機能獲得を阻害する。このレトラクションを制御しつつ、手を体の前に伸ばす訓練が重要となる。

●下肢による体幹の支えも、坐位獲得、四つ這い移動には欠かせない。

●異常姿勢反射の一局所症状である下肢の伸展緊張、屈曲緊張は、この機能の獲得を阻害する。

●異常姿勢反射の一局所所見である体のそりも、体幹の垂直位獲得の障害になる。

●下肢の過度な伸展緊張、屈曲緊張、体のそりを抑制することによって、下肢での体の支えが可能になり坐位が安定し、四つ這い機能が得られることになる。

療育メモ14“割り坐への起き上がり(これこそが訓練の核ではないか?)"

『すでに、“寝返り”の項で腹這いを運動の基本ととらえ、そこに起き上がってくる寝返りを抗重力運動の第一歩ととらえたが、もう1つ大事な抗重力運動に割り坐への起き上がりがある。すでに、あちこちで割り坐の重要性については述べたが、何回述べても言い足りることはないぐらい、割り坐は腹這いから四つ這いのレベルに立ち上がってくるためのステップとして大事といえる。

どうしてこのようなことに気づいたかは、著者らの股関節手術のあり方と大きく関連するので少し触れてみる。股関節解離手術は、世界でもっとも普及している整形外科手術であるが、一般的に行われる手術は、

①腸腰筋切離

②内転筋切離+閉鎖神経切離

③内側ハムストリングの末梢腱延長

になる。

ところが著者自身この手術を1980年頃に行っていた時に、理学療法士らから、“手術をすると股関節の力が弱くなるからさせたくない”と言われることが多かった。この手術では、立つ時の安定性が悪くなると同時に、腹這いからお尻を持ち上げて割り坐になる時に、股関節を曲げる力が極端に弱くなるのである。

そこで、腸腰筋のうちの大腰筋だけを切り、腸骨筋を残す手術を行うことにした。これは、その後、アメリカでもよくいろいろな書籍に取り上げられ効果のある手術とされたが、それでも理学療法士らからは、なお筋力が落ちると言われ続け、これを改善するために長内転筋を残し、代わりに内側ハムストリングである半膜様筋の中枢腱を切る手術を考え出すことになった。

1987年(昭和62年)のことである。A君が、歩けるようになりたいとやってきた。筋力は弱く、痙性は強く、そう簡単には歩けそうにない。でもなんとか歩かせたいとのご両親の思いをかなえるべく、手術に踏み切ることにした。

しかし、確かに歩行器では歩けるようになったが、以前は床から割り坐へ、お尻を持ち上げ自分で坐れていたのに、手術のあと、このお坐りができなくなってしまった。腸骨筋、長内転筋の大半は残し、股関節の屈筋を温存すべく注意したにもかかわらず、お尻が上がらない。筋力が弱かったのである。もっともっと注意深く、長内転筋を触らないほど用心して手術をしないといけなかったのである。股関節を曲げやすくする足の手術、膝の手術をして、祖父母の方々も総動員で訓練したが、自分でお尻を上げるようになりえなかった。自力で坐れるようにならなかったのである。

この時を機に、著者の目が変わった。腹這いの姿勢からお尻を持ち上げて割り坐になり、手をつきながらお坐りに起き上がっていく機能がどれほど大事なものか思い知らされたのである。訓練上も、この機能が大事ということに気づいたのである。

同じ頃、やっと自分でお尻を上げて、お坐りができる子どもがやってきた。両方の股関節が強く脱臼していた。筋肉の力は弱そうである。脱臼を治すために、筋肉を解離する手術、関節を整復する手術が行われた。脱臼はまずまずよくなったが、手術のあと自分で坐れなくなってしまった。このように、脳性麻痺をもった患児の中には、自分でやっとなんとかお坐りができるようなレベルの人がいるのである。この患児に、不用意に手術をすると、著者らみたいに伸展側の解離をやっていても、ちょっと屈筋をゆるめるだけで股関節が曲がらなくなってしまう。一段レベルの低い腹這いの生活に逆戻りしてしまう。ご両親からは、この子どもが手術後坐れなくなったと不信感を持たれ、その後、脊椎が曲がってきたにもかかわらず、手術をされる気配はみられなかった。医師としては、“股関節脱臼がある程度治ったのだから”という気持ちはもったとしても、“自分でお坐りに上がっていく機能を破壊しては駄目なんだ”と肝に命じ、それ以来お坐りが逆にできやすくなる手術を目指し、一例もお坐りができなくなるような手術はしていない。

この経験をもとに、著者らは、床からお尻を上げて足をお腹のほうに引き寄せ、割り坐の形で坐り上がっていく自立坐り獲得がいかに大事なことであるかを認識し、このお坐り上りが患者にとって、立体的な四つ這い姿勢、移動を開始する基点であることを知ることになった。さらに、この姿勢は今まで割り坐として嫌われていたけれども、実態は訓練上ももっとも大事な、これがなければ訓練自体が成り立たないような大事な訓練であることも認識することになった。

ここで振り返ってみよう。脳性麻痺の訓練は割り坐肢位が悪いと決めつけると、どうしてよいかわからないような奇妙なむずかしさの中に投げ込まれたような気になる。腹這いからどうやって四つ這いにもっていったらよいのかわかりにくい、自分でためしてみていただきたい。寝返りや腹這いの訓練など、腹這いから四つ這いへの訓練に比べれば簡単なものにみえる。

でも、腹這いから四つ這いの間に割り坐をおいて、まず腹這いから割り坐へ、割り坐から四つ這いへと、訓練を2段階に分ければ、きわめてわかりやすくなるのに気づかされる。

割り坐については、これまで内旋歩行がもたらされやすいとか、あまり好まれなかったが、整形外科的に冷静に考えれば脱臼防止肢位であり、脊椎に無理がいかず、側弯症変形防止肢位でもある。あぐら肢位のほうが脊椎の肢位には悪いし、長坐肢位のほうが脱臼促進肢位なのである。

人の基本運動は大きく分けて、

①背這い(寝返り不可)レベル

②寝返りと腹這いの平面的活動レベル

③坐位立ち上がりと四つ這いレベル

④立ち上がりと二脚歩行レベル

に分けられるが、訓練や整形外科の場面で、まだ腹這いレベル以下の子どもに無理矢理、立位の訓練をしているところが多い。この立位訓練は、脱臼や脊椎の側弯症をもたらし、なんの良いところもない。

四つ這いの生活という大事な世界を忘れていないか、その入口である割り坐の重要性に気づかず、その難点を言う古い発想にとらわれ、四つ這いという大事な世界に脳性麻痺の子どもたちをいざなうことができずにいるのではないか、是非、リハビリテーション関係者は学んでほしい。整形外科の分野では、割り坐は大事な肢位であるとの認識が生まれている。また、この発想に理解を示す、療法士、養護学校の教師、保育士、看護師らはすでにこの考えを取り入れ、豊かな訓練を展開している。是非、腹這いから四つ這いにもっていく訓練肢位として、割り坐肢位を考えてみて欲しい。』

注)本書には【療育メモ】が全部で17あります。 

番外編:抗重力肢位訓練-坐位訓練

“第3章 理学療法の実際”の5つめは、“Ⅴ 抗重力肢位訓練”となっています。この中で坐位訓練に関しては詳しい説明がされていますので、冒頭部分とそれらの坐位訓練のみをここでご紹介したいと思います。

Ⅴ. 抗重力肢位訓練

抗重力訓練の特徴は、一定の肢位を他動的に保持しつつ、体を抗重力肢位に支える筋力を付けるとともに、平衡バランス機能を活性化することである。また、見過ごされやすいが、意味が大きいのは重心移動を利用したダイナミックな平衡機能の活性化である。一定方向に集中させ、寝返り、腹這い、四つ這い、歩行といった推進運動へ移る準備する。側臥位では、上腕支持部で体重を前後に移し、バランス獲得、支持能を高め、腹臥位への回旋運動の前準備をする。腹這いでは、重心を一側上・下肢に十分移し、対側下肢の屈曲の動きを誘発する。四つ這い肢位でも、体重を一側上肢と下肢に十分に移しつつ、対側下肢の前方移動の動きを待つ。両杖立位、二脚立位の訓練もまったく同じである。

訓練の手技には多様なものがあり、もろもろの器具、支持具、おもちゃを使って、無数の取組がある。手技については、既存の訓練法を参照するとよい。

4.坐位訓練

a.床坐位訓練

1)割り坐訓練

内側ハムストリング、大腰筋、大腿直筋の緊張の少ない肢位であり、抗重力筋の活動のための訓練がなされやすい。大内転筋、殿筋群、腸骨筋、長・短内転筋の活動によって体が支えられる。割り坐のできないケースで後ろから支えたり、前に机を置いたりし、安定性を育てる。日常生活のほか、おもちゃを前に置いた場面などで、割り坐を阻害する拘縮をゆっくり除いていく。

2)正坐訓練

他動的に正坐位をとる。重心は高くなり、面も狭くなり、より股関節周辺の安定度が必要となる。本坐位は、体重への左右移動が可能であり、体幹を部分的に支えつつ一側支持訓練を行う。

3)横坐訓練

大殿筋、中殿筋が活性化されると、下肢も外旋位をとることが可能になる。割り坐が安定すると、四つ這い肢位から、この肢位をとらせる。全体重を、外旋側一側に支持するための抗重力的な支持訓練になる。

4)あぐら坐位

下肢を外旋して坐るあぐら坐位訓練である。この肢位は、内転筋・内側ハムストリングの緊張を抑え、大殿筋、中殿筋の活性化をはかるものとして愛用される。体重を左右に移動することができて、ある程度発達した患者では、他側が遊脚となり、遊脚側での日常生活が可能となる。重要な肢位訓練である。しかし、一方では、内側ハムストリングの緊張がある重度児では、この内転緊張も抑制しなければならない。また、骨盤が後傾しやすく脊椎が後弯し、重度児訓練には適切でない。脊椎伸展をはかるのがむずかしいなど、抑制ばかりが強くなり、自発性が低く、悪い訓練となる。患者の後ろから、術者が両下肢を患者の下肢の上に乗せ、股を開き、脊椎を無理に伸展しているような訓練をみかけるが、自発性のほとんど育たない不毛の訓練といってよい。

5)長坐訓練

この訓練も、しばしば愛用されている。しかし、この肢位はもっとも脱臼を起こしやすい危険な肢位である。レベルの低い例では、脱臼を起こしやすく、濫用を避けたい。ハムストリングの緊張で骨盤が後傾しやすく、脊椎も後弯し、脊椎伸展訓練には適さない。まず、脊椎の伸展は割り坐ではかり、股関節の内転緊張は股関節で除いていく、というように訓練の過程を2つ分けることによって、自発性を出すという発想が求められる。

b.椅子坐位訓練

術者は、患児の後ろに患児を抱くようにして坐る。患児の体幹、骨盤を前後左右から平衡能力に応じて支えつつ、足底をつけ、抗重力訓練を行う。テーブルを前に置き、両上肢で支持させ、安定をはかることもある。背もたれ椅子、肘もたれなどを用いて不安定性を防止するなど、最初は支持を多くし、徐々に支持を少なくし、手を離しても倒れない坐位を目指す。体幹の直立位支持力の付いた患者に用いるべき訓練であり、重い麻痺をもつ児への濫用は慎みたい。