中高年女性の腰痛3

下記は前々回“中高年女性の腰痛1”のまとめです。

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年10月

●女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

●女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

●首は約6kgの頭を支えている。

●骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

●子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

●体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

●ストレスは自律神経系を乱す大きな原因の一つである。

続いて、以下は前回“中高年女性の腰痛2”のまとめです。

●更年期における自律神経の乱れは、個人差があるものの母性に関わるもので避けられない。

●自律神経にとってもからだを休めることは大切である。

●自律神経を乱す大きな要因にストレスがあり、“生活習慣の見直し”や“受け止め方を変える工夫(ネガティブ⇒ポジティブ等)”が改善につながる。

●自律神経の乱れは全身の筋肉の血流を悪化させるため、腰痛に限定せず“頭痛-肩こり-腰痛”と範囲を広げて施術を考えることが必要である。

●鍼灸治療は“自律神経”と“筋肉”の両面からアプローチすることが有効であると思う。

以上の12項目をベースに施術を考えていきます。なお、“経穴”とは教科書的かつ固定的なもの、“ツボ”とは実践的かつ流動的なものというイメージで使い分けをしています(引用箇所はすべて“経穴”になっています)。

1.前提

目的は「標治の引き出し」を増やすこと。

●「混ぜるな危険」の原則に従い、本治(陰経:肝経・腎経・脾経・肺経・心経/心包経)に手を加えることはしない。

●標治に加える対象は陽経のツボとする。

●「自律神経」と「筋肉」の両面から検討する。

●ターゲットを「更年期障害」として検討する。

2.現在行っている「更年期障害」の本治と標治

典型的な脈:上焦(心・肺)・中焦(肝・脾)は浮大の熱型で、下焦(腎・心包)は沈細軟の冷え型。

典型的な病態:上実下虚[上熱下寒]…冷え・のぼせ、発汗、イライラ等。

こちらの画像は『あるスーフィー巡礼者の日記 A diary of a sufi』から拝借しました。

左は健康に良い「頭寒足熱」、右はその逆、健康に良くない「頭熱足寒」です。上実下虚は右側の状態といえます。

 

本治:肝は水穴(曲泉)・金穴(中封)、腎は土穴(太渓)・金穴(復溜)、および腹部の中脘・天枢・関元。背部兪穴の腎兪・肝兪。さらに本治を補完する全身調節穴(天柱・風池・完骨、委中・飛揚・崑崙、攅竹)。

標治:上焦の熱を取る(頚、肩および脊柱両側のストレスラインの硬結)

3.自律神経に対して

以前、ブログ(“長野式‐結合組織活性化処置法”)でご紹介した「長野式」には自律神経をターゲットとした施術パターンが数多くあります。これらの中から、対象を「全身的交感神経緊張抑制処置」と「全身的副交感神経促進処置」の2つに絞り(「局所性処置」および「交感神経機能促進処置」は除外)、各処置法を吟味したいと思います。

著者:長野潔

出版:医学の日本社

発行:1993年12月

 

全身的交感神経緊張抑制処置

副腎処置:自律神経処置の基本と位置付けられる最も重要な処置法です。代表的なツボは「照海・兪府(15~20分の置鍼)」となっていますが、「復溜・兪府」「太渓・兪府」「築賓・兪府」と使い分けても良いとされています。これらはすべて腎経のツボになりますので、陰経のツボということで対象外になります。ただし、現在行っている更年期障害の患者さまの本治が腎経・肝経ということから、腎経を使っている「副腎処置」ついて違和感はありません。

補足)中医学では腎(精)と肝(血)は相互滋養ということから“肝腎同源(精血同源)”ともいわれており、近い関係にあります。

足少陰腎経の経穴です。

太渓:KI3

照海:KI6

復溜:KI7

築賓:KI9

兪府:KI27

画像出展:「経絡マップ」

 

外ネーブル4点:血圧を下げる働きがあるとされています。ネーブルとはお臍で、その外側に4カ所刺鍼するというものです。その4カ所は、中脘(胃経の募穴)、天枢(大腸経の募穴)、関元(小腸経の募穴)に相当します。

この腹部の4穴は現在行っている本治の基本穴なので、既に使っているということになります。今後は、更年期障害など自律神経を調えたい患者さまに対しては、自律神経の働きかけを意識したいと思います。

募穴とは:「募穴の文献的考察」には『募穴は体外よりは見えないが、中に各経の力源→臓腑がある、したがって各臓腑のある部位の穴の意となる。』とされています。クリックされるとPDFの資料がダウンロードされます。

任脈の経穴の中に中脘(CV12)と関元(CV4)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

胃経の経穴の中に天枢(ST25)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

イ・ヒ・コン(「椎骨脳底動脈血流促進処置」):椎骨脳底動脈の充血を解消し、内分泌の中枢である視床下部の循環を促して興奮を抑制します。“イ・ヒ・コン”とは、膀胱経(陽経)の“委中・飛揚・崑崙”の3穴のことです。特徴は委中、飛揚は補鍼ですが、崑崙は雀啄瀉鍼となっています。

現在、本治を補完する目的で「全身調整穴」というツボを適宜選択しているのですが、この“委中・飛揚・崑崙”の3穴はその「全身調整穴」に含まれており、ほぼ必ず刺鍼しています。ただし、崑崙も補鍼であり雀啄瀉鍼ではありません。『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』で内容を確認したところ『膀胱経火穴の崑崙に雀啄瀉鍼しその部の圧痛を除去する』とのことでした。顕著な圧痛があった場合は雀啄瀉鍼をしてみるということは有りかもしれませんが、曖昧になるので、“イ・ヒ・コン”としては使わないものとします。

足太陽膀胱経の経穴です。

委中:BL40

飛揚:BL58

崑崙:BL60

『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』の59ページに「椎骨脳底動脈血流促進処置」として出ています。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

脊柱起立筋緊張緩和処置:これはブログでご紹介した処置法の一つで、必要に応じて標治として使うものと位置付けています。内容は『この処置は脊柱起立筋及び広背筋、腰方形筋等の過緊張を緩解させ、交感神経緊張を抑制し、副交感神経を賦活させる』となっています。つまり筋肉の緊張を緩めることで、自律神経のバランスを改善するという狙いです。この主旨で使うツボは、屈伸穴(L5下の上仙の外方4~5横指、硬い所)と内会陽穴(通常の会陽穴、上仙方向へ水平刺)となっていますが、屈伸穴に関しては既に使っています。

次にご紹介する3穴は、『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』の中で“交感神経緊張抑制処置法の重要な経穴”という見出しがついて解説されています。この中で攅竹は先にお伝えした「全身調整穴」の一つになっており、特に自律神経を調えたいと思った時に使っています。

攅竹は膀胱経、脊中、腰兪は督脈でいずれも陽経なので、自ら定めた活用ルール上は問題ありません。なお、本書には各経穴について詳しい説明が出ていますので、その内容を確認したいと思います。

攅竹:『「攅竹」に刺鍼、微刺鍼を与えることによって、心窩部の痛みや、腹部膨満感が消失するのは、第三の自律神経系と言われる散在性腸壁神経系(これは交感、副交感神経の影響を受ける)の活性化と、第三脳室周囲灰白質、中脳中心灰白質と共に下行性疼痛抑制物質、即ちメチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン、β-エンドルフィン等が副腎髄質や腸壁からも産生されているので、それ等の物質の分泌が促進されて鎮痛作用が起こるのではないだろうかと考えている。』

膀胱経の経穴の中に攅竹(BL2)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

 

脊中:『督脈の「脊中」、即ち胸椎第11椎と第12椎の間にあるこの部は、形態的に中年以降になるとその間隔が緊迫し、時に骨棘形成までみられることがある。ここは膵臓における島のソマトスタチンの分泌を活性化し、インシュリン、及びグルカゴン分泌の調整をはかるのではないかと思われる。例えば鍼灸刺激などによる血糖値の正常化は、臨床的に筋、腱等の緻密結合組織の硬化を改善すると共に、粘膜性炎症の消失に重要な意義を持っているものと考える。従って、高齢者の体性系のこわばりや中年者以後の筋筋膜性腰痛、及びアレルギー性の粘膜炎症の処置法の一環として、臨床的に重要な意義を持つと推論される。なお、持続的効果をもたらすために、0.5ミリ皮内鍼の保定も有効であることを附記する。』

督脈の経穴の中に脊中(GV6)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

腰兪:『「腰兪」は脊髄の終末端の馬尾が脊柱管を出るところにあり、部位は正中仙骨陵の下端、即ち仙骨裂孔の陥凹部である。この部位に対する刺鍼(寸三・二番鍼、刺入角度は上向き45度、刺鍼深度20~15ミリ、雀琢補鍼)は、脊髄神経を介して第三脳室周囲灰白質や、中脳中心灰白質から分泌される疼痛抑制物質の増強をはかるのではないかと推論される。この刺鍼によってアレルギー性鼻炎、アレルギー性眼瞼炎、偏頭痛、喉頭痛、血の道等の頭頂部の痛み、目のかすみ等に著効することが多く、交感神経緊張抑制に必須な経穴である。その他腰部疾患は勿論、下肢の痺れ、冷え、痔疾、利尿不全、不眠等に有効である。また、副腎髄質から分泌されるノルエピネフリン[ノルアドレナリン]、エピネフリン[アドレナリン]の分泌亢進が抑制されるのではないかと推論される。』

督脈の経穴の中に腰兪(GV2)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

全身的副交感神経促進処置

八髎穴:『「八髎穴」(ここは深く刺入すると、骨盤内臓器の循環促進、即ち内側大腿内旋動脈の血流を促進する)の過敏反応点に寸三・二番鍼を垂直に2~3センチ刺鍼、或いは施灸を行ってもよい。』

また、長野先生の『新治療法の探求』には、次のような記述も紹介されています。

『「上髎」、「次髎」、「中髎」、「下髎」という、いわゆる「八髎穴」は、骨盤部内臓の虚血状態の時に非常によく効く経穴であり、骨盤内臓部の循環代謝が悪い、冷え性、不妊症、生理痛、腰痛症等の時には、ここに鍼または灸頭鍼や施灸することは大変効果がある。』

膀胱経の経穴の中に八髎穴(BL31~BL34)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

4.首と骨盤について

中高年女性の腰痛を考えるときに、自律神経とともに注目すべきは首と骨盤です。

●女性の筋量(筋力)の少なさは関節への負担を高めます。特に約6kgの頭部を支える首と、体と両足の土台となる骨盤(仙腸関節)は重要です。 

画像出展:「新型「うつ」原因は首にあった!」

なお、本書については”頚筋性症候群(頚筋性うつ)”というブログをアップしています。

 

 

色の付いた部分が頚を守る筋群です。断面からは小さな筋肉が、頚椎の上に筋膜を伴って重なるように存在しているのが分かります。いかにもコリや筋膜の癒着が起きやすいように感じます。

画像出展:「トリガーポイント・マニュアル」

 

 

仙腸関節は仙骨と腸骨を結ぶ関節です。

画像出展:「リアライン

相対筋力の男女差(女性とレジスタンストレーニングより)』に関するPDFの資料がありました。なお、男女の筋力差は筋肉量に依存するようです。

仙腸関節については”仙腸関節障害”というブログがあります。

 

 

●女性は骨盤内部に子宮、卵巣などの内性器を保持しており、骨盤内部のうっ血や虚血をまねく可能性が男性より高いと考えられます。

中央が子宮などの内性器です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

●“胸腰系”の交感神経系に対し、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれています。これは副交感神経系が頭部と仙骨部から出ているためです。つまり、副交感神経系にとってこれらは聖地といえます。

右の青線副交感神経系です。延髄)と仙髄S2-S4)から出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

 横から見た図です。副交感神経は灰色です。八髎穴や腰兪が重要なのが理解できます。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

5.中高年女性の腰痛に対する施術と生活習慣の改善(まとめ)

1)本治

●従来通り

2)標治

上焦の熱を取る(頚、肩、上背の硬結に雀啄瀉鍼)

後頚部の硬い部位に置鍼:百労、天元など

不思議なことに重要な後頚部には教科書的な経穴はありません。下方の写真は木下晴都先生の『 最新鍼灸治療学 上巻』に出ているものです。今後はこれを参考にしたいと思います。

仙骨部の硬い部位に置鍼:上髎、次髎、腰兪など

後頭部―骨盤部の広い範囲を対象に置鍼:脊中、L2-L5など脊柱両側の硬い部位

3)生活習慣の改善

●ストレス低減の工夫:なるべくポジティブに考えるように努める。

●からだを休める工夫と温める工夫:早寝早起き、入浴、運動など。

 伸展時に痛みなどがある場合は、頚椎内方45度で刺鍼します。

画像出展:「最新鍼灸治療学 上巻」

 

 

 回旋時に痛みなどがある場合は、頚椎外方30度で刺鍼します。

画像出展:「最新鍼灸治療学 上巻」

 

 

殿部の筋の中では、腸骨と大転子をつなぐ中・小殿筋と仙骨と大転子をつなぐ梨状筋が特に重要です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

こちらは各筋肉の起始・停止を表した図です。左(前面)は脊柱から出ているのが大腰筋、腸骨前面の筋が腸骨筋で、合わせて腸腰筋とよばれている重要な筋肉です。

画像出展:「人体の正常構造と機能

 

 

中・小殿筋は上殿神経支配、梨状筋は第1-2仙骨神経支配となっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能

 

 

こちらは運動神経、感覚神経の”脊髄神経”と経穴の図です。脊中はT11-T12間にあります。

筋肉は脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)、多裂筋、腰方形筋などが腰背部の主な筋肉になります。

画像出展:「経絡マップ

 

 

下の2つのイラストはこちらの本に出ているものです。詳しくはブログ ”がんと自然治癒力9” を参照ください。


付記:頭頚移行部(2019年6月4日)

調べ事をしていて、とても興味深いことを発見しました。

医師である博田節夫先生が考案されたAKAでは、腰痛治療において第1頚椎・第2頚椎(C1・C2)を弛めることを大切にしているとのことでした。頚への刺鍼では、このポイントも考慮していきたいと思います。

クリック頂くとAKAのサイトに移動します。

『関節運動学的アプローチ、AKA(Arthrokinematic Approach)とは関節運動学に基づき、関節の遊び、関節面の滑り、回転、回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法である。』

C1(Ⅰ)は環椎、C2(Ⅱ)は軸椎とも呼ばれています。

画像出展:「weblio辞書