医療マッサージ研究1

乳児期に起きた事故によって重症障害者となり、現在、青年期を迎えている患者さまにマッサージを行っています。スタートは2017年4月、頻度は週2回です。開始から15ヶ月が経ち3つの変化がありました。これらがマッサージの効果であるとは断言できませんが、関係しているものと思います。なお、施術では次のことを心掛けています。

◆無理をせず、安全第一(特に他動による関節運動)。

◆脳幹への感覚刺激入力として、声かけ(聴覚)、擦る・圧迫する(触覚)、各関節の他動運動(固有覚)という3つの感覚刺激が関連づけられて脳幹に届くことをイメージしています。乳児期の障害だったため言葉は理解できないと認識していますが、何度も何度も繰返すことで、何かが変わることを期待し、声かけでは「部位」と「動作」を伝えています。(例えば、「肩を動かすよー、前…後…。」とか、「腕をさするよー。腕を握るよー。等々)

◆免疫力アップを狙って、肩関節の他動運動では腋窩リンパ節、股関節では鼡径リンパ節への刺激を意識しています。

腋窩リンパ節と鼠経リンパ節
腋窩リンパ節と鼠経リンパ節

拡大して頂くと、脇と脚のつけねに円で囲われた部分のリンパ節が確認できます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

「人体の正常構造と機能」より
リンパ管

リンパは、感染防止の必要に応じて毛細血管から滲み出し、リンパ管に集められます。リンパ管は静脈にほぼ寄り添うかたちで全身に分布し、胸管などの太い主リンパ管となって首のつけ根で静脈に注ぎます。リンパ管の中のリンパは、体の動き、筋肉の収縮などによって太い方へ送られます。リンパ管の各所にあるリンパ節はリンパの濾過装置で、大きさも形も様々であり、ここで末梢からのリンパは濾過されて病原体、異物、毒素などが取り除かれます。また、異物から体を守る免疫の担い手であるリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)もリンパ節で作られます。


3つの変化

1.健康アップ(免疫力アップ)

2017年4月から9月までの6ヶ月間は、入院を含め、発熱等による体調不良のため施術が休みとなることが多く、予定通り実施できたのは約58%でした。一方、2017年10月以降、2018年6月までの9ヶ月間に関しては、体調不良により休みとなったケースはありませんでした。

2.体重増

施術の最初に側臥位の向きを変えてから始めるのですが、数ヶ月前から体を抱えたときの腕への負荷が明らかに高まったように感じました。ご家族の方も同様な認識であり、体重増は間違いないと思います。しかし、この患者さまにとって体重増加が良いことなのか把握できていません。基本的には健康度の指標となる各種検査値や栄養管理、あるいは衛生管理などの面から総合的に評価するべきものではないかと思います。

左の資料、「重症心身障害児の栄養管理」はJ-Stageさまからのものです。

『栄養摂取量に関してはこれまでさまざまな方法が提唱されているが確立された方法はない。我々は麻痺のタイプや筋緊張の変動の状態、呼吸状態などの臨床所見を参考に、年齢別体重当たり基礎代謝量の1~2倍程度の範囲に当面の総エネルギー量を設定し、その後の栄養評価を反復して行って、エネルギー摂取量を調節していく方法が実際的であると考えている。』

3.顔の反応(目、口、舌、頭、笑い、息み)

最も印象的なことはこの3番目です。施術を始めた頃に印象的だった反応は、「ニコッ―と笑う」、「う~~と息む」の2つであり、全体的には低反応な感じでした。

日報を見返すと2017年12月頃からになるのですが、顔の表情、顔の動きや反応に変化が表れてきました。長く施術をしていることから、思い入れや期待が強すぎる部分はあるかもしれません。

:以前は虚ろな目の印象が多かったのですが、動きがスローなのはほとんど変わらないものの、動く頻度が多くなり、勢いというか生気というか、何かを感じているような雰囲気が出てきているように思います。また、瞬きする回数も増えたと思います。

:いくつかのパターンがあります。「口を縦に開ける」、「口を最大限に開ける」、「少し緊張したように口をやや突き出すようにすぼめる」、「何かを噛むかのように、下顎を小さく上下に動かす」。これらの反応の発生頻度は徐々に変化してきています。

:こちらもいくつかのパターンがあります。「舌を口の中で動かす」、「舌を少し出す」、「舌をべローンと大きく突き出す」、「舌を上歯の裏に当てるようにして、チュッ、チュッと音を出す」。

:以前は十分な観察ができていなかったので、何とも言えないのですが、少なくとも最近は目の動きと連動するように、動かす頻度が多くなっているような気がします。

笑い:笑うことは以前から見られましたが、少し変化があります。まずは、「嬉しそうな表情」という中間的なものも見られることです。また、笑う頻度が多くなったようと思います。笑い声が出るときは、「アー」という感じでしたが、最近は時々「ハハハ」という笑い方をすることが多くなっているように思います。

息み:息みもマッサージを始めた頃から頻繁に見られた反応です。かなり大きな声を出し長い時間息んでいるので最初は驚きました。マッサージが痛いのか、不快なのか、何かネガティブな反応ではないかと心配しましたが、どうもそういう事ではなさそうです。

 今回、あらためて調べてみると興味深い資料がネット上に存在するのを見つけました。なお、こちらは「窪谷産婦人科」さまのホームページからになります。

9ページに、「1ヵ月を過ぎた赤ちゃんのうなり、いきみは肺が圧迫された状態であり、まだ深呼吸ができないため、うなったり、いきんだりする。」との内容が書かれています。

「生後1ヵ月」には該当しませんが、肺が圧迫された状態、深呼吸できない状態という意味では患者さまも同様です。確かに、患者さまの長い息みの後に、肺に空気がスーッと入っていく様子が確認できます。また、この行為が深呼吸の代わりだとすると、この行為には肩の力を抜いたり(リラックス)、あるいはストレス解消の効果もあるのかもしれません。 

 

次に顔の反応、特に口と舌の頻繁な動きは何なのだろうと考えてみました。そして、この患者さまの障害が乳児の時だったことを考えると、そして、仮に患者さまの時計(脳の発達)がその時から大きく進んでいないとすると、これらの仕草は赤ちゃんが見せるものではないかと思うに至り、ネット検索してみました。

そこで、特に気になったものは次のようなものでした。

◆『赤ちゃんはまだ自分の意志で自由に動かせるところが少ないので、動かせる舌などを動かして「確認している」と本で読みました。』

◆『赤ちゃんは、成長過程で舌を出す仕草をすることがあります。生まれてからしばらくは舌を上手に動かすことができませんが、成長とともに徐々に動かせるようになり、舌を動かすのが楽しくなるので頻繁に出しますよ。』

なお、赤ちゃんの舌出しについては下記のサイトに詳しく出ていました。

こちらの記事の監修はなごみクリニック 院長の武井智昭先生によるものとなっています。

このような赤ちゃんの仕草も、「脳」が大きく関わっていることは明らかなので、「脳」と「赤ちゃんの仕草」の関係が知りたくなり1冊の本を購入しました。

著者:開 一夫
「赤ちゃんの不思議」

『本書では、全ての大人が必ず通過する赤ちゃん時代の「不思議」について、脳科学・認知科学における最新の研究成果を参照しながら紹介するとともに、目まぐるしく変化する赤ちゃんの養育環境が発達とどう関連するのかについて論考していきます。』 

出版:岩波新書

大変興味深い内容だったのですが、期待していたイメージの本ではありませんでした。しかしながら、赤ちゃんの成長にとって、「目が見えること」、視覚が極めて重要だということを再認識しました(この本に出てくる各種テストのほとんどは、目が見えていることが前提となっていました)。

患者さまは口や舌を動かすことはできます。目(眼球)を動かすこともできます。そして、耳も聞こえています。しかしながら、見ることはできません。眼球自体に問題がないとすれば、脳が関係しているのは明らかです。では、「何が、どこが悪いからなんだろう?」、「医学が革新的に進歩したならばどうなんだろう?」。この疑問を前に進めたいという気持から、2冊の本を借りることにしました。

1.『脳と視覚 -何をどう見るか-』

2.『乳幼児の発達 -運動・知覚・認知-』 

なお、ブログについては【続く】ということにさせて頂きたいと思います。