活性酸素シグナルと酸化ストレス

今回の題材は2017年12月29日の「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」の中で、自らに課した宿題です。これはパーキンソン病発症には「活性酸素」が深く関わっており、これをしっかり理解することが重要であるという思いからでした。
教材は下記の2冊ですが、「絵とき  シグナル伝達入門 改訂版」ついては関心がある箇所だけを拾い読みしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

監修:谷口直之

出版:羊土社

※発行は、2009年9月になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者:服部成介

出版:羊土社


本題に入る前に、パーキンソン病と活性酸素との関係についてお伝えしたいと思います。

この写真と図は、「パーキンソン病 -進化する診断と治療-」の座談会で司会を務められた、京都大学大学院の高橋良輔教授が平成20年に日本内科学会講演会で発表され、日本内科学会雑誌 第97巻 第9号に掲載された資料からのものですが、ネット上にある資料でしたので閲覧できるようにさせて頂きました。

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神経変性疾患研究の進歩.pdf
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自分なりに考えた、パーキンソン病と活性酸素との関係について
1.活性酸素と抗酸化物質のアンバランスによって「酸化ストレス」は生まれ障害を起こす。
2.パーキンソン病を神経変性疾患の一つとしてとらえ、「蛋白質障害」という切り口で考える。
3.活性酸素はシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などの有益な働きもしている。

 

 

神経変性疾患はコンフォメーション病(蛋白質ミスフォールディング病)とも呼ばれており、原因タンパク質が凝集化し、病変部位に沈着することが特徴です。原因タンパク質の凝集化には酸化ストレスが関与しています。

 

 画像出展:「コンフォメーション病としての神経変性疾患」

そして、鍼灸治療について考えるならば、「自律神経系と内分泌系のバランスを調え、内臓の働きと自然治癒力を高め、酸化ストレス発現の抑制と耐性を目指す。」というものが治療の柱になると思います。非常に抽象的ではありますが、「何を、どうしたいのか」という治療イメージを持って臨むことが、良い施術の第一歩であると考えています。

『病態解明に迫る 活性酸素シグナルと酸化ストレス』では、活性酸素、酸化ストレスに加え、「シグナル伝達」というキーワードも重要なポイントになっています。そこで、まずはこの「シグナル伝達」が、いかなるものか調べました。

『絵とき  シグナル伝達入門』では「はじめに」の中で以下の2つを上げられています。
シグナル伝達研究は、さまざまな生命現象のメカニズムを分子レベルで明らかにしていこうとするものである。
“だれ”が“だれ”にシグナルを伝え、次に“だれ”がそれを受け取るのか、そして最後に何が起こるのか…この流れを捉えていくことが大切である。


著者の服部先生は、“がん研究からみつかった[がん遺伝子]はシグナル伝達研究に大きなインパクトを与えた”とお話されていますが、その説明箇所を引用させて頂きます。

なお( )内は補足説明として私の方で追記したものになります。
「シグナルを流れとして捉える-点から線へ、さらにはネットワークへ」
『細胞の受容体が受け取ったシグナルは細胞の中でどのようにプロセスされて、核、細胞質や細胞骨格(線維状のタンパク質により細胞を支えたり、動かしたりする)系に伝えられていくのだろう。シグナルを誤って伝えることは、シグナルがない時よりも悪い結果をもたらしかねない。まず受容体が刺激されたという細胞外のシグナルを細胞内のシグナルに変換しなければならない。そしてさらに正しい経路を経てさまざまな最終目的地まで間違いなく伝えなければならない。シグナル伝達は伝言ゲームにたとえることができるだろう。

 

画像出展:

「シグナル伝達入門」

どのようにして、シグナルを伝えるべき相手を選び、しかも正しく伝えていくのだろうか。
がん研究からみつかった“がん遺伝子”はシグナル伝達研究に大きなインパクトを与えた。すでに100以上もみつかっているがん遺伝子は、実は私たちの体のどの細胞ももっている遺伝子“前がん遺伝子”に変異が生じできたものである。そして前がん遺伝子の産物たちは、手に手を取り合って細胞の増殖を指令し続けさせるものだった。“だれが”“だれに”シグナルを伝え、次の“だれが”それを受け取るのか、そして最後に何が引き起こされるのか。シグナル伝達の研究はこうした点を次々と明らかにしてきたのである。
細胞の増殖を研究するにしろ、あるいは神経細胞の分化を研究するにせよ、シグナル伝達の立場は、常にシグナルを“流れ”として捉えてその流れを伝えていく役者を次々と明らかにしていくものである。その主役はタンパク質であることは間違いない。
このようにシグナル伝達はがんの研究から大きな影響を受けたけれども、もちろん生理学や遺伝学からもシグナル伝達研究の柱となるような大きな結果が出ている。

興奮するとドキドキしたり、また気合いが張ってくるのを感じることがあるだろう。これはアドレナリンの作用で、細胞の中のcAMP(サイクリック[環状]AMP[アデノシン一リン酸]:アドレナリンなど多くのホルモンや神経伝達物質などの第1メッセンジャーの細胞外からの刺激を、細胞内の標的分子に伝える第2メッセンジャーとして機能する)濃度が高められるせいである。その結果、細胞内のさまざまなタンパク質がcAMP依存性のタンパク質リン酸化酵素でリン酸化されていろいろな効果が発揮される。

 

画像出展:

「シグナル伝達入門」

さまざまな神経伝達物質の受容体からのシグナル伝達もこのような経路を用いている。こうしてみると、私たちの気持ちや心理状態もシグナル伝達の立場から説明できる日も遠くないかもしれない。』

『病態解明に迫る 活性酸素シグナルと酸化ストレス

 癌、神経変性疾患、循環・代謝異常にかかわるレドックス制御機構と最新の技術開発』

は、「序」に続き「概論」からスタートしていますが、まずは目次をご紹介します。

概論
活性酸素のシグナル伝達機能 -その生理機能の再発見と酸化ストレス研究の新展開
第1章 活性酸素・NOの生理機能
1.活性酸素シグナル生成系の制御機構
2.ミトコンドリア活性酸素生成とシグナル制御
3.チオール基の修飾による活性酸素のセンサー機能制御
4.親電子シグナル伝達
5.SNO化修飾によるシグナル伝達の新展開
6.NO・ニトロソ化シグナルと細胞死
7.活性酸素によるリン酸化シグナル制御
8.G12/13タンパク質による活性酸素シグナリング
9.植物におけるNADPHオキシダーゼの制御機構
10.植物のストレス応答・形態形成における活性酸素種の積極的生成とその制御
第2章 酸化ストレスと病態
Ⅰ.細胞分化増殖・シグナル異常と再生医療
1.ER(小胞体)と酸化ストレス
2.アポトーシスと酸化ストレス -酸化ストレス誘導性アポトーシスにおけるNoxaの役割
3.幹細胞ホメオスタシスと酸化ストレス
4.眼表面と酸化ストレス
5.グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPx4、PHGPx)による胚発生・精子形成の制御機構
Ⅱ.炎症・発癌と変性疾患
1.酸化的翻訳後修飾タンパク質の解析でみえてきた肝・消化管炎症病態の新展開
2.チオレドキシンによる酸化ストレス防御とレドックスシグナル制御
3.酸化ストレス誘発発癌機構の解明 -フリーラジカル傷害に弱いゲノム領域を探る
4.塩基除去修復酵素MUTYHに依存したプログラム細胞死と発癌抑制機構
5.ALSにおける酸化ストレスおよび酸化型SOD1の関与
Ⅲ.呼吸・循環・代謝異常
1.H2O2が制御する血管弛緩反応の分子機構
2.慢性腎臓病における鉄の重要性
3.COPDにおける酸化ストレス病態
4.糖尿病合併症および糖尿病発症における酸化ストレスの意義
5.酸化ストレスによる貧血 -造血幹細胞の老化と赤血球の酸化
第3章 活性酸素応用研究の最前線
1.論理的設計法に基づく種選択的ROS蛍光プローブの開発
2.活性酸素シグナル分子H2O2を介したユニークなタンパク質修飾機構
3.アダクトミクス -DNAおよびタンパク質付加体の網羅的解析
4.活性酸素センサー:nucleoredoxin
5.酸化ストレス作動性TRPチャネルの化学生理学
6.親電子性リガンドセンサーとしての核内受容体PPARγ
7.活性酸素がインスリンシグナル伝達に与える影響とその二面性
8.レドックス制御に干渉する小分子のケミカルバイオロジー
9.Nrf2/Keap1酸化ストレス応答系による活性酸素シグナル制御
10.NOと植物の感染防御応答

続いて、「概論」の冒頭に書かれていた全文をご紹介します。
『活性酸素は生体内のエネルギー代謝や感染防御過程において発生する一連の活性分子種(O2⁻,H2O2など)であり、これまで酸素毒性の要因となる有害物質として取り扱われてきた。実際、活性酸素は、感染、炎症、癌、動脈硬化・糖尿病などの生活習慣病や代謝性疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患といった、さまざまな疾病の原因となることが示唆されている。近年本書は2009年の発行です)、活性酸素がシグナル伝達機能を発揮していることが報告されるようになり、幅広い生命科学領域において、「活性酸素による生理的なシグナル伝達機能」の解明が飛躍的に進展している。本増刊号においては、最近次々と明らかにされている活性酸素シグナルの新知見に焦点をあて、その真の生理活性を議論することにより、活性酸素の機能と病態解明の新展開を紹介する。』


以降、本文よりブログに記録しておきたい要点を抜き出し、列挙させて頂きます。
なお、ROSはreactive oxygen speciesの略で「活性酸素種」となりますが、「活性酸素」を意味します。ブログの中ではROSは「ROSシグナル」として使い、それ以外は「活性酸素・活性酸素種」という言葉を使います。
概論
活性酸素のシグナル伝達機能 -その生理機能の再発見と酸化ストレス研究の新展開
・生物は、酸素との長い付き合いが始まった太古の時代より、酸素分子の高い化学反応を利用したエネルギー代謝の代償としてその毒性を被ることとなった。
・活性酸素は生体分子の非特異的損傷をもたらす単なる毒性因子ではなく、精密に制御されたシグナル伝達の担い手であるというコンセプトが広く受け入れられつつある。
・活性酸素は、生体内のその他のシグナル伝達物質(細胞内に存在し、外部からの刺激[信号]を受け取って別の物質に伝える役割を持つ物質)と同様に、特異的なシグナル経路を活性化して、細胞保護、細胞分化増殖、細胞死の制御などを司ることがわかってきた。
・活性酸素による細胞シグナル制御(ROSシグナル)に関する関連分野からの国際誌への発表論文数は、この10年間で2倍以上の伸びを示している。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

1.シグナル分子としての活性酸素(ROSシグナル)の再発見
・80年代頃から盛んに試みられた抗酸化療法は、当初期待したほどうまく臨床応用が進まず、その学術基盤が確立されぬまま、科学的に腑弱な概念に基づく民間療法として一般に普及してしまった。特に日本国内における酸化ストレス研究は、折りしも国民に広く流行した健康食品ブームに押されるようにして進展してきたともいえる。
・酸化ストレス研究は2000年前後に特に顕著に進展し沢山の成果を上げてきた。
・近年急速に進展しているROSシグナルの解明は、活性酸素研究に新たな潮流を生み出し古典的な酸化ストレス研究に革新的な扉を開こうとしている。
2.ROSシグナルの生理機能からみた酸化ストレス病態
これまでの酸化ストレスの病因論は「活性酸素」として展開してきた。この病態理論はもちろん酸化ストレスの中心的なドグマ(教義)となっている。実際、活性酸素により脂質過酸化反応が誘発され細胞の生体膜機能が損なわれること、血中の脂質・コレステロールの酸化が、動脈硬化病巣の形成を促しその発症に深くかかわること、また、高血糖が活性酸素の産生を高めることにより生活習慣病の重要な要因になることなどが報告されている。酸化ストレスが疾病病態に普遍的に関与することは、関連分野の多くの研究者に広く認められている。
・ER(小胞体)ストレス、幹細胞の分化制御、アポトーシス・細胞死制御、角膜エイジング、生殖・再生、発癌など多様な病態と酸化ストレスのクロストークに関してもそれぞれの分野の第一人者から最新の知見が紹介されている。
・酸化ストレスを活性酸素による生理的シグナル伝達経路を介する病態、あるいは、正常なシグナル伝達の制御異常という視点から捉えることも重要であろう。

・活性酸素は、酸化ストレスをもたらす病原因子としてふるまう反面、その生理機能の重要性を示す多くの科学的根拠が報告されており、しばしば「double-edged sword」として取り扱われてきた活性分子種である。その光と陰は、これまで単純にその化学的反応性と毒性により説明されてきた。しかしながら実際は毒性というより、生理的なROSシグナル活性の発現と制御信号が、活性酸素の二面性を操る本態であることが明らかにされつつある。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

「酸化ストレスとは、活性酸素と抗酸化システム、抗酸化酵素との バランスとして定義されています。酸化ストレスが高いとは、生体内において活性酸素による酸化作用と、 抗酸化物質等の抗酸化作用とのバランスが崩れ、酸化反応が亢進する状況のことを言います。」

画像出展:「日本老化制御研究所

・活性酸素の生理活性として以前より感染防御作用においても、直接的な抗菌作用だけでなくROSシグナルを介する間接的な防御機構が存在することが示唆されている。
活性酸素研究の新たな潮流と裾野の広がりは生命科学領域のほとんどの分野に及んでおり、特に、メタボリックシンドローム、感染・炎症・免疫異常、老化、神経変性疾患、発癌などの酸化ストレスのかかわる疾病病態の解明とその再生医療などの先進医療への応用・展開は、高齢化が進むわが国にあっては社会的にも要請が強い重要な課題といえる。
・活性酸素は、これまではその高い反応性のため真の生理活性に不明な点が多かったが、分子イメージングや質量分析法などの優れた技術開発により、近年その実体の解明が飛躍的に進んでいる。
・活性酸素がユニークなシグナル伝達の担い手として再発見され、今まさに歴史の大舞台に登場してきた。今後さらに、新しい病態論と診断・予防・治療法が確立されるものと期待される。

第1章 活性酸素・NO(一酸化窒素)の生理機能
1.活性酸素シグナル生成系の制御機構
種々の活性酸素生成系について
・活性酸素は、歴史的にはまず、代謝系の副産物として認識された。現在ではミトコンドリアの電子伝達系の寄与が大きいと考えられている。特にミトコンドリア内膜の複合体Ⅰや複合体Ⅲから漏れ出た電子が、酸素分子に渡されスーパーオキシドが生成する。
・細胞質に存在するキサンチン酸化還元酵素(XOR)は、通常はキサンチン脱水素酵素(XDH)として存在し、活性酸素を生成しないが、酸化ストレス時にはキサンチン酸化酵素(XO)に変換され、酸素分子から過酸化水素やスーパーオキシドなどの活性酸素を生成するようになる。
・細胞質に存在するNO合成酵素(NOS)は、ストレス時にuncouplingが起こるとNO合成をやめてスーパーオキシドを生成するようになる。
・シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼなどからも活性酸素が生成しうるが、これらの活性酸素シグナリングにおける役割は小さいと、今のところ考えられている。

2.ミトコンドリア活性酸素生成とシグナル制御
ミトコンドリアは各細胞に数百存在し、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、脳などにある代謝の活発な部位では、細胞質の約40%をも占める組織もあるほどである。
・ミトコンドリアにおいて活性酸素が産生されるという仮説は、Denham Harmanが1956年に発表した“Free radical theory”(「加齢はミトコンドリア由来のフリーラジカルによって引き起こされる細胞損傷が蓄積したものである)という理論が最初である。
・抗酸化剤のSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)が発見されたのは1969年だった。
・1973年にBoverisらが過酸化水素が単離ミトコンドリアから産生されていることを証明し、現代に至るまで、加齢のみならず、種々の慢性疾患において、ミトコンドリア呼吸鎖由来の活性酸素が、その病態形成、伸展において重要な役割を果たしていることが知られるようになった。
ミトコンドリアにおける活性酸素種とその産生部位
・ミトコンドリア呼吸鎖における活性酸素は、複合体ⅠおよびⅢにおいて産生される。
・過酸化水素は細胞膜を自由に通過でき、細胞質内に移動できることが知られている。
ミトコンドリア内には、スーパーオキシドを消去するMn-SODのほかに、過酸化水素の消去系として、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やペルオキシレドキシン(Prx)が存在し、産生された活性酸素はすみやかに消去される。
処理しきれない過剰な活性酸素は、タンパク質や核酸と反応し傷害を及ぼし、機能障害、細胞死へと導く。
これらの抗酸化酵素と活性酸素産生の不均衡は、発癌やアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、動脈硬化、心不全、さらに老化など実にさまざまな慢性疾患に関与していると考えられ、抗酸化剤の投与、抗酸化酵素の過剰発現によって治療効果が得られることが、多くの実験によって裏づけられている。
・近年、いくつかのミトコンドリアに局在するリン酸化酵素がミトコンドリア由来の活性酸素によって可逆的に不活性化されることも知られてきた。
・活性酸素が細胞周期をも制御することが明らかにされている。
過酸化水素(活性酸素)はNO同様に、その濃度によって作用を異にする。
 ・0.7μM以下…細胞増殖に作用
 ・1.0~3.0μM…アポトーシス
 ・3.0μM以上…ネクローシス(壊死)
活性酸素とアポトーシス
・アポトーシスはdeath receptorにTNF-α、Fasリガンドが結合することで、カスパーゼを活性化する外因経路とミトコンドリアを介した内因経路が知られている。
・アポトーシスの内因経路は、アポトーシス促進因子として、ミトコンドリア由来の酸化ストレスと深く関連していることが知られている。
ミトコンドリアは最も重要な活性酸素の産生源であり、同時に活性酸素の標的でもある。そして、ミトコンドリア由来のスーパーオキシドおよび過酸化水素が種々の病態ひいては老化において、いわゆる“悪役”として重要な役割を果たしていることが概念として認識された。

3.チオール基の修飾による活性酸素のセンサー機能制御
・近年、活性酸素は巧妙に制御されたシグナル伝達機構の担い手であるというコンセプトが生命科学分野に広く受け入れられつつある。
・活性酸素が、防御的な酸化ストレス応答を誘導する重要なシグナル分子であることが明らかになってきた。
・活性酸素や一酸化窒素(NO)は、シグナル伝達の最も上流に位置する分子群として、細胞内のセンサータンパク質を活性化し、さらに下流のエフェクター分子へとシグナルを伝える。

7.活性酸素によるリン酸化シグナル制御
高濃度の活性酸素種は細胞死や細胞傷害を引き起こすが、生理的に産生された低濃度の活性酸素は細胞増殖、細胞運動、遺伝子発現を制御する。さらにサイトカイン刺激などの細胞外刺激に応じて産生された活性酸素がセカンドメッセンジャーとして機能することも明らかにされている。ここで問題になるのは活性酸素がどのようにしてシグナル系を駆動するのかということである。

8.G12/13タンパク質による活性酸素シグナリング
・神経伝達物質や液性因子などの受容体刺激によって生じる細胞内シグナル伝達のなかで、活性酸素の役割が注目されている。
・心臓では、アンジオテンシンⅡ刺激がAT1受容体を介してスーパーオキシドや過酸化水素をはじめとする活性酸素種を生成することが報告されている。これらの活性酸素は主に細胞膜上のNADPHオキシダーゼの活性化を介して生成され、AT1受容体シグナリングにおける細胞内情報伝達因子として重要な役割を果たしている。

筑波大学の研究情報ポータル(COTRE)に以下の図と説明がありました。ご紹介させて頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちの体内の組織や臓器は、それらに特有の細胞によって作られています。それらの細胞がホルモン・成長因子・神経伝達物質などの情報を受け取って、シグナル伝達が稼働して細胞機能が発揮されることにより組織や臓器が正常に機能します。その結果として私たちは正常な生活を営むことができます。しかし、細胞のシグナル伝達に異常をきたすと、様々な病気になります。この異常は、シグナル伝達を行うタンパク質や酵素の性質の変化によって起こります。シグナル伝達の異常によって起こる病気には、がんやアレルギー、神経疾患などがあります。シグナル伝達がどのようなメカニズムで作動しているのかを解明して、それらの異常がどのような病気に関連しているのかを分子レベル、細胞レベル、および個体レベルで解明することが求められています。』

第2章 酸化ストレスと病態
Ⅰ.細胞分化増殖・シグナル異常と再生医療
1.ER(小胞体)と酸化ストレス
・ERは細胞内Ca2+(カルシウムイオン)の主たる貯蔵部位として、Ca2+ホメオスタシスにおいて重要な役割を演じる。
・ERの諸機能の破綻によるERストレスは、神経変性疾患や虚血性臓器傷害、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病の誘因の一つと考えらえるが、近年、その分子機構とレドックス(酸化還元反応)、酸化ストレスとの関連が注目されている。
ERにおけるタンパク質の酸化的折りたたみ
・分泌・膜タンパク質の新生ポリペプチドは、ER内腔へ引き込まれた後、分子シャロペンのようなタンパク質の折りたたみ関連酵素による手助けのもとで正しく折りたたまれる。そして、ゴルジ体で糖鎖修飾などの翻訳後修飾を受けた後、細胞外あるいは膜上に運ばれる。
・ERでの折りたたみに失敗したタンパク質は細胞質に移送され、ユビキチン・プロテアソーム経路で分解される。
ERにおけるレドックスホメオスタシスとROSの生成
過剰なERでのタンパク質生合成は、酸化ストレスの発生と密接に関係する。
ERストレスとは
ERストレスは、正しく折りたたまれない変性タンパク質のERへの蓄積が起こすストレス応答である。
・ERストレスは、酸化ストレス、虚血、低酸素、ウィルス感染、栄養飢餓など種々の環境変化によってもたらされる。
・ERストレスシグナルに起因したERストレス応答では、変性タンパク質が過剰にERに蓄積しないよう、タンパク質の翻訳停止、ERシャロペンの発現誘導、ERADの亢進が起こる。
・ERストレスにより回避できない細胞傷害が起こった場合、細胞は自らアポトーシスの誘導を選択する。
ERストレスと酸化ストレスのクロストーク
・糖尿病態において、酸化ストレスとERストレスの両者が密接に関わることを示している。
酸化ストレスによるER内Ca2+制御タンパク質の機能修飾
・ERに局在するCa2+制御タンパク質は、酸化ストレスの標的となり、その生理機能が制御され、細胞・組織の酸化ストレス傷害と関係することが知られている。

2.アポトーシスと酸化ストレス -酸化ストレス誘導性アポトーシスにおけるNoxaの役割
・生体内で発生する活性酸素種は遺伝子発現やシグナル伝達因子の活性を制御し、種々の細胞応答にかかわっていることが知られている。
活性酸素種の発生量は産生と消去とのバランスにより、厳密に制御されており、その制御破綻は、老化、発癌、梗塞、神経変性疾患など、さまざまな疾患の発症に関与していることが示唆されている。とりわけ、酸化ストレスによる過剰な細胞死の誘導は、組織の機能を維持するうえで危機的であり、その分子メカニズムの解明は、生物学的な意義をもつだけではなく、医学的にも非常に重要な課題と思われる。
・活性酸素種の1つである過酸化水素による細胞死に関しては、アポトーシスとネクローシスがよく知られているが、どの細胞死機構が活性化されているかについては、細胞腫や過酸化水素の濃度によって異なっており、両者が混在するケースも知られている。
アポトーシス経路とミトコンドリア
・アポトーシスはさまざまな刺激によって誘導されるが、各刺激によって誘導されたシグナルは最終的にはミトコンドリアに集約される。

4.眼表面と酸化ストレス
・角膜を含む眼表面が、なぜこれほど環境性の酸化ストレスに強いかはまだ知られていない。角膜上皮が多くのグリコーゲンを貯蔵して、嫌気性代謝に依存する率が高いことも1つの原因としてあげられている。角膜の抗酸化機能を解明することは、酸化ストレスによるエイジングや発癌メカニズムを一部解明できるかもしれない。

Ⅱ.炎症・発癌と変性疾患
3.酸化ストレス誘発発癌機構の解明
酸化ストレスと発癌
酸化ストレスを引き起こす病態は、放射線・紫外線への曝露、鉄・銅などの遷移金属の過剰状態、ウィルス感染、あらゆる慢性炎症、ある種の抗癌剤投与(ブレオマイシン、アドリアマイシン)、臓器移植や梗塞など、実に多岐にわたっている。

Ⅲ.呼吸・循環・代謝異常
1.H2O2(過酸化水素:活性酸素の一つ)が制御する血管弛緩反応の分子機構
血管内皮細胞および血管平滑筋細胞は、多くの相互作用を及ぼしつつ血管の生理的機能を保っていることが知られている。血管内皮は各種の血管弛緩因子を産生・放出し、血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。われわれは、生理的濃度の活性酸素(H2O2)が内皮由来過分極因子の本体として、血管弛緩作用を有することを報告した。一方、過剰な活性酸素(酸化ストレス)は心血管疾患の原因になることが知られている。われわれは最近、酸化ストレスが血管平滑筋細胞よりCyclophilin A(細胞質に大量に存在する蛋白質。CyPA はそもそも免疫抑制剤cyclosporin A(CsA)の特異的 リガンドとして発見され,ポリペプチドのプロリンのアミド結合のシスからトランスヘの異性化を触媒する活性を有する)を分泌させ、血管内皮機能障害や平滑筋増殖促進作用を有することを報告した。これらの酸化ストレスによる血管弛緩反応の分子機構の解明により、心血管疾患の新たな治療薬開発の可能性が期待される。
・血管内皮細胞は、血管平滑筋層の内側を覆うたった一層の細胞群ではあるが、血管平滑筋細胞との多くの相互作用を有し、血管機能制御の根幹を形成している。血管内皮はプロスタサイクリン(PGI2)・一酸化窒素(NO)・内皮由来過分極因子(EDHF)の3種類の血管弛緩因子を産生・放出し、これらは生理的条件下での血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。(短期的には血管トーヌス[緊張]を弛緩優位に保ち、長期的には動脈硬化の発生・進展を抑制して、心血管系の恒常性の維持に極めて重要な働きをしている)
EDHFとしてのH2O2
・H2O2は血管弛緩反応に関する役割をNOと分担しており、大動脈などの導入血管における弛緩反応は主としてNOにより制御されているが、H2O2は微小血管、特に抵抗血管において重要な役割を果たしていると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素シグナルと酸化ストレス」

酸化ストレスとしてのH2O2
・高血圧、糖尿病や脂質異常症などの種々の動脈硬化危険因子の存在下では、過剰な活性酸素種が血管平滑筋細胞や炎症細胞(好酸球,Tリンパ球,肥満細胞[マスト細胞],好中球,好塩基球など)において大量に産生・遊離されることがわかっている。
・血管平滑筋細胞は中~大血管を構築する細胞のなかでも圧倒的な数および容積を有し、NADPHオキシダーゼなどの多くのROS産生源を有する。
・アンジオテンシンⅡ(ポリペプチドの1種で、血圧上昇[昇圧]作用を持つ生理活性物質である。アンジオテンシンII〜IVは心臓の収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させる。特にアンジオテンシンII は副腎皮質にある受容体に結合すると、副腎皮質からアルドステロンの合成・分泌が促進される)などのアゴニスト(生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬のこと。現実に生体内で働いている物質はリガンドと呼ばれる)刺激や「ずり応力」(血流は内皮にずり応力を与える:血管壁には常に血行力学的ストレスが作用している. 一つは血圧による血管壁に垂直方向に働く法線応力で,これは内皮細胞や平滑筋細胞を引き伸ばし細胞に張力を与える.他 の一つは血流によるずり応力で,これは血管内面を覆う内皮細胞にのみ作用し,内皮細胞を流れの方向に歪ませる力となる)、低酸素などの環境因子により大量の活性酸素が平滑筋細胞内で産生され、病的高濃度(ミリモルオーダー)のH2O2は、生理的濃度(マイクロオーダー)のH2O2とは異なる役割を有していることが示唆されている。すなわち、H2O2は生理的低濃度において特に微小血管の血管機能にとって保護的に働く一方、病的高濃度においては血管リモデリング(血液循環状態の変化に伴う、血管の構造上の変化で、高血圧による圧力変化に対応する血管壁圧の変化や、腫瘍組織における血管新生などが例である)を促進する可能性がある。

2.慢性腎臓病における鉄の重要性
慢性腎臓病(CKD)では、腎障害のさらなる進行や心血管疾患(CVD)の合併が多くみられ、その病態には酸化ストレスが深く関与している。CKDの酸化ストレス亢進において、タンパク尿やレニン・アンジオテンシン系亢進に加え、鉄代謝異常の役割は大きい、鉄輸送タンパク質の発現異常による細胞内の鉄過剰状態は活性酸素産生を惹起する。また、CKDではチオシアンさんの増加による活性酸素産生がCVD発症に関連しうる。CKDあるいはCVDに関するこれらの知見から、活性酸素・遊離鉄をターゲットとした治療戦略の確立が望まれる。
・CKDの重要な点は、腎障害が悪化して末期腎不全へと至ることだけではなく、心血管疾患(CVD)などの合併がきわめて多く死亡率も高いことである。CKDでは従来からタンパク尿の程度と腎機能の予後との関連が知られており、タンパク尿による腎障害進行のメカニズムが報告されている。また、腎障害やCVDの進展においてレニン・アンジオテンシン系の亢進、酸化ストレスや慢性炎症の持続なども病態に関与している。
CVD(心血管疾患)
・CVD発症のリスク因子として、従来から喫煙や高血圧、肥満などの因子が知られているが、最大のリスク因子はCKDであることが、欧米および日本での大規模臨床試験で示されている。われわれは、CKDの病態およびCVD発症・進展には鉄代謝異常が関与していると考えている。
・透析患者は鉄輸送タンパク質の調節異常によって、細胞内では鉄が過剰に存在することが明らかとなった。