交流磁気治療器

数年前から、起床時にジクジクとした腹痛で、辛い思いをしている70歳代の患者さまがおいでです。この痛みは起床後、お昼までには消えていくとのことです。
病院での診察は過敏性腸症候群とのことなのですが、便通はやや便秘ぎみではあるものの特に困っている状況にはなく、年齢面、ストレスの状態など、過敏性腸症候群の代表的特徴と比べても疑問点が多いというのが率直な感想でした。
ウィキペディアの「過敏性腸症候群」に関するページには、診断について、『まずは炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)及び大腸癌ならびに虚血性大腸炎、感染性胃腸炎、大腸憩室症などの腸疾患、さらに婦人科系疾患、泌尿器系疾患、後腹膜疾患など器質的疾患などの可能性を除外した上で診断される』ということが書かれていました。
この中の「虚血性大腸炎」については素通りできず、さらに調べてみることにしました。

一方、患者さまからは「交流磁気治療器の購入を考えている。」とのお話がありましたが、私自身は交流磁気治療器に関する知識がなかったため、埼玉県内の市立図書館に所蔵されていた「磁気治療が好き!」(著者は日下史章先生と上村晋一先生、出版会社はコスモの本)という本を借りることにしました。また、なるべく客観的、中立的に評価をしたいと思い、ネット検索で色々な情報にアクセスしました。

著者:日下史章、上村普一
「磁気治療が好き!」

1.厚生労働省(厚生省)による認可
以下は、株式会社ソーケンメディカルさまの会社概要に掲載されているものです。

・昭和47年頃:開発者石渡弘三が、家族の健康回復のため交流磁気治療器の開発に着手
・昭和49年:交流磁気治療器の臨床試験(いすゞ病院院長・中川恭一医学博士)を依頼
・昭和54年 2月:神奈川県総合リハビリテーションセンター(内科部長・和合健二医学博士)にて交流磁気治療器の臨床試験開始
・昭和54年 4月:通産省より交流磁気治療器の甲類電気用品形式承認を取得
・昭和55年 3月:中川恭一・和合健二両博士の臨床データを添えて、厚生省に交流磁気治療器の認可申請
昭和55年 11月:中央薬事審議会の審査を受け、厚生省の製造並びに販売の認可を取得する。認可申請の元になった論文は、中川恭一先生の「皮膚貼付用磁気治療具の治療効果について」であるという情報がありました。

なお、この中川先生の論文は「メディカルオンライン」というサイトで購入できます(648円)。資料は13ページですが、有料の資料のため、1ページ目上段の「はじめに」の部分のみ添付させて頂きます。

平成10年には「厚生省告示第118号」で家庭用電気磁気治療器基準を定めています。こちらは、「明治大学科学コミュニケーション研究所 疑似科学とされるものの科学性評定サイト」というサイトの中に見つけることができました。

なお、「効能又は効果」に関しては「装着部位のこり及び血行とする。」と明記されています。

2.否定的な情報
BRITISH MEDICAL JOURNAL(BMJ)」が、磁気について、血行促進、痛み、こりの緩和ともに効果なしとする報告がある。という情報がネット上のサイトにあったため、検索を試みましたが、私の英語力に問題もあり、見つけることができませんでした。

3.磁気は医療に有効なのか
「磁気」は本当に医療に役立つものなのか? 本では第2章 磁気治療の未来を変える「交流磁気」革命!の中で、「全米400カ所が実施するうつ病磁気治療」というタイトルに続き、次のような説明がされていました。

磁気治療の中でも現在、世界的に注目されているのが、パルス磁気で脳を直接刺激する経頭蓋磁気刺激(TMS)療法です。そもそも脳の異常を探る診断法として使われていた技術ですが、1995年、アメリカの国立保健研究所のマーク・ジョージらが「大脳皮質前頭葉を強いパルス磁気で刺激し、同部位の血流循環を高めて脳細胞の機能を活性化させることにより、うつ病治療に成功した」と発表。それをきっかけに、病気の治療にも活用されるようになったのです。』
日本では、うつ病ではありませんが、脳卒中後遺症に対する治療として、東京慈恵会医科大学など全国で11のTMS施行施設があります。

 

以上のことから、少なくとも「磁気」には血行を改善する働きがあると考えます。

東京慈恵医科大学
rTMS

4.メカニズム
第2章の中の「磁場の種類で効果も変わる」で説明されている内容をお伝えします。
『磁気治療は、磁石が作った磁場を体に作用させる治療です。磁場には磁力が常に一定の状態にある定常磁場と、時間とともに磁力の強さや方向が変化する変動磁力の二種類があります。このうち定常磁場は永久磁石によって作られます。磁気バンソウコウや磁気ネックレスが定常磁場治療器に相当しますが、作用の範囲は狭く、磁力も皮下の約1.5~2cm程度しか届きません。
もう一つの変動磁場は、電磁石に電流を流して人工的に作った磁場です。日本の磁気治療を支える交流磁気治療と、世界の磁気治療として本章の冒頭でご紹介したパルス磁気治療は、この人工的に作り出した変動磁場を利用しています。交流磁気治療に用いられるのは、電磁石に交流(一定時間ごとに交互に逆方向に流れる)電流を流し、N極とS極が交互に入れ替わることで発生する交番磁場です。N極とS極の入れ替わりに伴い、磁力の強さが変化する交番磁場は広範囲に磁場が発生し、全身に安定した強力な刺激を与えられるのが特長です。体の奥深くまで磁力線が届くので、格段に大きな治療効果が得られるのです。
一方、パルス磁場は、2~3秒間に1回、N極またはS極の方向に瞬間的に磁力線が走る磁場です。周波数を自在に変えることができ、小さなエネルギーで大きな効果を引き出すことができるため、ピンポイントの局所治療に使われます。』

 

5.磁気の安全性
平成10年の「厚生省告示第118号(家庭用電気磁気治療器基準)」では、最大磁束密度は35mT~180mTと定められています(「T」はテスラ。昔はガウスが使われていた)。一般的な交流磁気治療器は70mT前後です。一方、最新の高性能MRIは3.0Tになりますので、この3.0Tを1として、2つを比較すると磁気の強さは1:0.023ということになり、交流磁気治療器の数値が非常に小さいものであることが分かります。また、MRI検査は一般的には1ヶ月に何回受けても、身体への影響は無いとされているようです。(検査を受ける上での注意事項はあります)
これらを踏まえると、交流磁気治療器は使用上の注意点を守るという前提で、副作用はないと思われます。

交流磁気治療器
交流磁気治療器

左の写真は(株)ソーケンメディカル社の交流磁気治療器です。

6.交流磁気治療とともに歩んだ30年間 
・本の中には、多くの疾患の改善事例が掲載されておりますが、効果には個人差がありますので個別の症例ではなく、著者のお一人である上村晋一先生が先代から開院されている熊本県 阿蘇立野病院における30年におよぶ取組みをご紹介させて頂きます。

『今後、日本の医療が歩むべき道は、病気の急性期に鋭い切れ味を発揮する西洋医療と、体に負担をかけずに自然治癒力を引き出す代替医療とを併用する医療、すなわち「統合医療」であると思います。そして、その統合医療を最も必要としているのが、お年寄りたちがさまざまな不調を訴えて集まってくる、地域医療の現場なのです。
わが阿蘇立野病院も地域医療に携わる医療機関の一つです。昭和54年に立野病院として設立されて以来、同地区唯一の総合病院として一般診療から救急診療、さらには乳幼児健診、学校医、介護保険の認定審査にまで至る、あらゆる保健医療に関わりながら地域住民の健康を支えてきました。
しかし、そんな地方病院の一つでありながら、当院には、すでに30年近く統合医療を実践してきた歴史があります。その歴史は、実は交流磁気治療とともに始まりました。
南阿蘇は熊本でも屈指の高齢地域です。設立時にはすでに過疎化も進んでいましたが、前院長の上村順一は、まだ医学の中に代替医療や統合医療という言葉も発想もなかった時代から、保険点数のつかない交流磁気治療を導入し、地域医療の中に根づかせてきたのです。そんなわが父でもある前院長の先見の明に、私も頭が下がる思いです。
磁気ベッドは病院だけでなく自宅にも設置され、当時寮生活を送る学生だった私も、休暇で帰省するたびに利用していました。ベッドに寝ているだけで、体がポカポカと心地よく温まり、まったりと眠くなってくる……。初めて試したときは、その抜群のリラックス効果に驚きました。
ですから、父から院長職を引き継ぐ際にも、磁気治療を継続することに迷いはありませんでした。むしろ高齢化社会、ストレス社会において、磁気治療は非常に価値の高い医療であり、守り続けるべき医療の一つだと思っています。』