感覚統合法の理論と実践

今回は『新・感覚統合法の理論と実践』の再チャレンジです。前回(2016年11月)は「前庭系と筋緊張」というタイトルで、前庭系を説明する時に参考としましたが、この本に対する全体の理解は低く、明らかに消化不良状態でした。 全編の理解度を高めるため、そして発達障害児へのマッサージを行ううえでの基礎知識を増やすため、あらためて読み直しました。

 

著者:坂本龍生・花熊 暁
出版:学習研究社
 
※掲載されている図、イラストに関し、「画像出展」の明記がないものは、全て『新・感覚統合法の理論と実践』からの出展になります。

目次

1.子どもの発達と感覚運動 (第1章の概要です)
2.感覚統合法理解の基礎 (第2章、3章より感覚統合理論を支える神経生理学について。他の本からも図などをもってきました)
3.触覚のしくみとその働き (第4章~6章については、触覚と固有覚を取り上げました)

4.固有覚のしくみとその働き
5.神経生理学を意識したマッサージ 
(脳幹、固有覚、触覚、前庭覚の視点からマッサージをどのように行えばよいか考えました)

ちなみに、この本の見出しは次の通りです。
理論編 
第1章 子どもの発達と感覚運動の指導 
 感覚運動指導の意義

 障害児の感覚運動課題
 生物としてのヒトの発達
 ヒトの運動系の発達と感覚統合
 ヒトの認知系の発達と感覚統合
第2章 感覚統合法理解の基礎 
 感覚統合法の背景
 感覚統合とは何か
 感覚統合過程
 感覚統合障害
 感覚統合指導の原理と方法

第3章 神経系のしくみとその働き 
 神経系の概要
 感覚統合の中枢としての脳幹
 感覚統合理論を支える神経生理学
第4章 前庭系のしくみとその働き 
 前庭系のしくみ
 前庭系の働き
 前庭系の特徴と指導上の意義
 前庭機能の評価
 前庭刺激指導の留意点

第5章 触覚系のしくみとその働き 
 日常生活を支える触覚情報
 体性感覚系のしくみと働き
 触覚系の発達
 触覚の異常と評価
 触覚系の異常への指導
第6章 固有感覚系のしくみとその働き 
 固有感覚系の働き
 固有感覚系の神経学的理解
 固有感覚系の臨床観察
 固有感覚系の指導

 

実践編 
第7章 発達の遅れた子どもへのアプローチ 
 精神遅滞児の感覚運動の特徴
 症例別に見た指導の実際

第8章 体の不自由な子どもへのアプローチ 
 臨床観察のポイント
 臨床像の理解と指導プログラム
 症例別に見た指導の実際

第9章 自閉的な子どもへのアプローチ 
 感覚の調整の障害とその評価
 症例別に見た指導の実際
第10章 感覚運動指導における認知とコミュニケーション 
 遅れの重い子どもへの配慮点
 認知面への配慮
 コミュニケーション面への配慮
終章 感覚統合法の研究動向とこれからの課題 
 感覚統合法の動向
 米国での論争
    障害児教育における意義と課題

1.子どもの発達と感覚運動       
 子宮の中は羊水の中に漂う無重力の世界。単調な母体の心音、腸音などの音の世界も、ほの暗くぼんやりとした光の世界も、劇的に変化します。羊水の感触は、温覚や触覚など種々の皮膚感覚が刺激される世界へと変わります。

 赤ちゃんは当初は生まれつき持っている反射や反応が助けてくれますが、徐々に感覚運動体験を積み、この多様性に富む複雑な世界に対し、柔軟に行動できるよう、自らの反応を複雑化していきます。 赤ちゃんの学習は感覚刺激への反応に始まり、動きの形で反応し、母親やその他の人々も含めた広い意味での環境との相互作用で成長します。基盤となる感覚運動発達は、姿勢、手指の巧緻運動と各部位(首、肩、肘など)の固定、感覚-運動-感覚間の統合(話を聞きながらノートに正しく書き取る等の総合的動作)などです。

 脳の研究やリハビリテーション学の進歩により、視覚や聴覚に加え、基本的な感覚ともいうべき触覚、固有覚、前庭覚の働きと様々な感覚間の情報統合が、子どもたちの発達の基礎となることが分かってきました。     

 動物が運動する場合、運動に関連して常に二つの感覚が必要です。一つは環境と自分との関係、一つは自分の中心と体の他の各部分との関係を教える感覚です。前者が前庭覚、後者が固有覚であり、これにより空間の中での運動が可能になります。

 50cm幅の溝を跳び越すとき、大げさに身構えて、1mも2mも跳ぶということはしません。視覚は溝の幅と接地点の状況を教え、足底は今踏んでいる地面の硬さを教えます。私たちは前庭覚や固有覚などから得た記録に基づき運動の計画を立て実行します。もし、この溝が2mであれば、運動はもっと慎重に計画されます。接地したときに、倒れないのは重力空間に対する頭部の位置関係、その位置を支える足の頭部に対する位置と運動の関係が入力により絶えずコントロールされているからです。

 

2.感覚統合法理解の基礎       
感覚統合法の背景
 感覚統合理論を支える神経生理学 
エアーズ(Anna Jean Ayres)は感覚の中でも、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であり、そのためには脳幹レベルの統合が重要であるとして、脳幹を感覚統合の中枢と位置付けています。

 

脳幹は下位の中枢神経で延髄・橋・中脳を含んでいます。また、脳幹網様体は脳幹の背中側にあり、白質でも灰白質でもなく、神経細胞体と神経線維が入り 交じって網目状をなしています。

脳幹は感覚の情報を受け、運動系、意識状態、情緒、自律調節に関わる、生命維持に不可欠な機能に関わっています。     

 

この絵では、青線は脳幹網様体に入ってくる情報、赤線は主な働きを示しています。そして、●は「神経核」を表しています。

網様体に存在している神経核から発する指令のうち、下行する橋網様体脊髄路(内側網様体脊髄路)伸筋の活動を高めます。同じく、下行する、外側の延髄網様体脊髄路(背側網様体脊髄路)屈筋の活動を高めます。

これらの指令は、γ運動ニューロンに接続し、筋肉の活動を調節することで歩行リズムの調節などを含む随意運動を円滑にさせます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記3つの絵についてご説明します。

左上の図は、ブログ「前庭系と筋緊張」で使用したもので、『新・感覚統合法の理論と実践』の図を一部加筆したものです。また、他の2つは『人体の正常構造と機能』からの画像です。ここでは、前庭神経核についてご説明します。

この前庭神経核は脳幹の橋~延髄にまたがっており、対になっています。核は上核・下核・外側核・内側核と4つあり、内側核は頚髄から頚部の筋に、外側核は頚髄から腰髄の抗重力筋(脊柱起立筋など)に働きます。

耳にある前庭器官(半規管・耳石器)からの重力に関わる情報は、前庭神経核に伝わり、前庭脊髄路を興奮させ脊髄の反射回路を活性化させます。これにより、わずかな姿勢の崩れなどを認識し、抗重力筋に働きかけることで、姿勢を保持してくれています。

また、前庭神経核は眼球運動核(外転神経核・滑車神経核・動眼神経核)にもつながっています。これらの神経は眼を動かす筋肉、外眼筋(上斜筋・下斜筋・上直筋・下直筋・内側直筋・外側直筋)に作用します。

前庭覚・触覚・固有覚刺激の意義     
 前庭覚・触覚・固有覚の感覚系は、発達の初期段階で重要な役割を果たし、視覚と聴覚の発達や学習能力の発達の基礎を形成します。感覚統合法で問題とする脳幹の働きの改善にあたっては、これらの三つの感覚系からの入力は特に重要になります。
   
感覚統合指導      
 ヒトは、通常、運動したり遊んだりしているうちに刺激を感覚として入力しながら脳神経系が成熟していくので、そのための訓練を必要としているわけではありません。しかし、感覚と運動の不統合性が生じたときは、乳幼児であればあるほど適応反応がうまくいきませんし、発達が総じて遅れがちになります。したがって、そういう子どもたちの発達を支援するために、特別に構造化された環境を提供することが求められます。

     
感覚統合法の指導の中心原理     
 感覚統合の指導の基本的な原理は、感覚の入力、特に前庭覚や筋肉、関節などに存在する固有覚、あるいは触覚からの入力をできるだけ統合し、自発的な適応反応に高めるよう配慮し、それを制することを学ばせていくものです。指導していくための手掛かりとして、少なくとも次の6つの系列が重視されてきました。  
 ①触覚系と前庭系の健常化をはかること。    
 ②原始的姿勢反射(無意識に出る赤ちゃんの反応や姿勢)の統合を進めること。    
 ③平衡反応を発達させること。    
 ④視運動を正常化すること。    
 ⑤身体両側の感覚運動機能の協調性を高めること。    
 ⑥視覚的形態と空間知覚を発達させること。    
 感覚統合の指導は、ともすると遊戯療法と間違えられますし、学校では体育の授業ではないかという批判をよく受けます。しかし、感覚統合の指導は、活動のしかたや運動の技術を教えようとするものではありませんし、いわゆる教科的にいう体育でもありません。その根幹は、感覚入力のよりよい統合をはかるという目的的な治療行為であり、そのための観察、診断、指導プログラムが確立されています。

3.触覚系のしくみとその働き
日常生活を支える触覚情報                  
 私たちは周りの環境を知るためだけではなく、姿勢、情緒、覚醒状態などを調節するためにも、日常生活の中で触刺激をむしろ積極的に使っています。触覚は人が社会生活を維持するための基礎として働き、日常生活全般に影響を及ぼしています。

            

感覚の種類と感覚器                 
 「体性感覚」は、皮膚の表面で感じられる表在感覚と、もう少し深いところで感じる深部感覚を含めたものです。一方、「痛み」は痛みという刺激があるのではなく、圧迫や熱さなどの刺激が皮膚や深部の組織を損傷し、その時に出る発痛物質が痛みの感覚器に作用して痛みとして感じられます。

主な内因性発痛物質には、カリウムイオン、ブラジキニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどがあります。カプサイシンは外因性発痛物質、PG(プロスタグランジン)は発痛増強物質となり、内因性発痛物質とは異なる物質です。

 

この表は、「触覚線維」と2つの「痛覚線維」を説明したものです。

触覚線維の特徴は、痛覚線維に比べ太くて(有髄Aβ線維)、速いというものです。

痛覚を伝える線維には鋭い痛みの一次痛を伝える高速タイプ(有髄Aα線維)と、鈍い痛みの二次痛を伝える低速タイプ(無髄C線維)の2種類があります。

これらの痛覚線維は、触覚線維と異なり、興奮性または抑制性に作用する神経伝達物質を伴います。表で紹介されている、Glu、SP、CGRPの3つはいずれも興奮性神経伝達物質です。抑制性伝達物質には、GABAやグリシンなどがあります。なかには受容体が興奮性か抑制性かを決める神経伝達物質もあり、これにはセロトニンやノルアドレナリンなどが該当します。

画像出展:「痛みと鎮痛の基礎知識[上]基礎編」

深部感覚に関係する筋肉からの情報は意識されにくく、圧迫、振動、運動覚、位置覚などは、筋肉の伸張状態を感知する筋紡錘や関節の感覚器(固有受容器)からの情報と皮膚の感覚の複合産物といえます。この他、触るだけでなく、指先を動かすことによって初めてわかる手触りや、物の形の弁別なども、指先の皮膚と指が動くときの筋肉および関節からの情報が、脳で統合されたことにより生じた感覚です。  

              
体性感覚の経路
意識できる体性感覚の経路-脊髄視床路と後索毛帯路                
意識できない体性感覚の経路                
原始感覚系と識別感覚系   

             
触覚系の発達

 胎生期の神経発達                 
 神経系の形成と組織化                
 受精後、四肢の出現に先立って、数週で神経系が形成され始め、3カ月目で口腔周辺への触刺激に対して、頭や体を後ろにのけ反らせる回避反射が出現します。反射は最も単純な感覚の処理のされ方ですが、この反射の出現は感覚入力と運動が結びつく回路ができていることを指しています。

回避反射はやがて吸啜・嚥下反射に変化し、生後の哺乳行動を準備します。この反射の防衛的なパターンから適応的なものへの変化は、神経系のフィードバック機構にその説明を求めることができます。刺激の入力によって引き起こされた運動反応は、最初の刺激に加え、筋肉からの新たな刺激を加えます。この繰り返しが神経線維の樹状突起の数を増やし、神経線維の髄鞘化を促進し、近隣のニューロンとの結びつきを密にします。その結果、反射の内容が変化していきます。    

 触覚と固有受容覚との統合                
 胎児は子宮内で、羊水、脂肪の膜などで何重にも保護されています。生後、これらの保護は突然取り外され、新生児にとって過剰な重力と刺激の溢れる世界で活動することになります。

して、まず体の内外の境界となる皮膚に保護機制が強く働くことになりますが、保護機制だけではうまく環境に適応していけません。反射の中には環境に積極的にかかわっていく運動パターンもいくつか身につけています。モロー反射や非対称性緊張性頚反射、緊張性迷路反射は屈曲優位な新生児期の姿勢を是正していくのに役立つと言われています。      

 触覚と運動企画                 
 新生児にも四肢の動きはありますが、頭や体全体の動きに影響されて、意図した動きになっていません。固有覚は触覚と統合されることによって身体感覚を明確にします。このようにして自分の体の全体のイメージ(ボディイメージ)とそれぞれの部分の位置関係の理解を生み、その効率的な動かし方の基礎を作りあげます。                
 触覚と情緒の発達                 
 多くの動物の子育ての研究は、出生直後の子なめ行動が免疫機能をはじめとする生体の生命維持活動を高めることを報告しています。そして、人間の長い分娩時間中に受ける多量の触圧刺激が子なめに相当するものではないかと類推されています。

人間は誕生の瞬間だけでなく、その後の発達においても成人とは比べようもないほど、多くの触圧刺激を受けます。子宮内で多くの保護のもとにいた胎児がその保護を突然解かれるならば、生後もそれに替わりうる保護が必要だからです。乳幼児の自我や情緒の発達の研究家たちは、こぞってそれに相当するものを養育者との肌の接触を通した情緒的交流であるとしています。身体の境界に子宮環境を想起させる心地よい刺激を感じることは、子ども自身に安心をもたらし、この安心感が自・他を同時に感じさせ、自我を育てるとともに、人に向う愛着を育てるといわれています。      

          
触覚系の異常への指導 
 抑制的効果

 口腔周辺への触圧刺激、腹部への触圧刺激、手掌、足底への持続的圧刺激、背中への軽擦(少し圧を加えながらこする)、35℃から37℃の温度

 促通(興奮)的効果

 口腔周辺への動きのある触刺激、皮膚知覚体節T10への動きのある触刺激、ブラッシング、氷

 

 

「皮膚知覚体節T10」とは左図、体の中央、お臍付近の高さの周りになります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 刺激する体の部位 
 触覚に対する過敏さが目立つ子どもに対しては、比較的弱い刺激を耐えやすい背中、手足の外側部などに加え、それが耐えられるようになったら刺激を強くし、その後、徐々に敏感な部分に移行していくのが良い方法です。こする方向は遠心性(毛に逆らわない)の方が刺激が弱いものになります。                
 遊びの中への触刺激の導入                 
 筋緊張の低下(低緊張)には促通的な刺激が、多動に対しては抑制的な刺激が必要になります。しかし、低緊張で多動を示す子どもも少なからずいます。このように刺激の与え方は機械的には決定できません。あくまで刺激を与えた結果をみながら、与えるべき刺激を調整する必要があります。
人は最も大きな刺激源であり、人に対する感情によって、刺激の感じ方もずいぶん違ってきます。子どもとの信頼関係ができあがっていない段階では、抱いたり、近づいたりすることが子どもの不安を高めかねません。他人への不安は触覚への過敏性の結果であると同時に、その原因ともなります。

 重症心身障害児など触刺激に低反応を示す子どもには、筋肉や関節からの刺激を同時に入れて、より識別的な触覚を発達させる必要があります。そのためには、手足を他動的に動かすだけではなく、体を起こし、首、体幹、手に支持性をつけていくことも大切な点です。

4.固有感覚系のしくみとその働き                   
固有感覚系の働き                  
 私たちが運動するとき、固有感覚と呼ばれる筋肉や腱、関節からの情報が、絶えず脳に流れ込んでいます。私たちが目をつむっていても、体位はどうなっているのか、自分の体がどのように動いているのかが分かるのは、この感覚の働きのおかげです。

 固有感覚系は、体の動きに関する情報を脳に送り、脳はその情報に基づいて体の動きを軌道修正します。私たちがなめらかに、そして意識的努力なしに、あるいは、動きのプロセスを考えたり一つひとつの動きを学習したりすることなしに、一連の運動を繰り返すことができるのは、固有感覚系の働きがあるからです。さらに、この感覚系の働きは、視空間認知や身体像(ボディイメージ)の発達にとっても必要不可欠です。

 固有感覚は、運動感覚(意識的な感覚)と呼ばれることもありますが、この二つを区別せずに用いることが多くなっています。この感覚系からの情報は、ふつう無意識的に処理されますが、新しい運動をするときや大きな努力を必要とする運動の場合は、意識に上ります。この感覚を刺激する活動は、一般的に体幹部の筋肉活動で、少なくとも体重の移動を伴うようなものです。

 固有感覚情報をうまく処理し、関節の安定と姿勢の安定をはかるためには、骨格筋の「同時収縮(屈筋群と伸筋群の同期的収縮)」の発達が重要です。同時収縮とは関節の周囲の屈筋群と伸筋群を同時に収縮させ、関節を一定の位置で固定する働きをさします。同時収縮は協調運動のような巧緻動作の発達にも深い関係をもっています。筋の同時収縮が発達するためには、その前段階として、屈曲と伸展の繰り返し運動である「相反性運動(屈曲と伸展の繰り返し)」が発達する必要があります。

 屈曲のパターンは人生の早期に発達するもので、腹側の筋肉の機能と考えられています。たとえば、仰向けにした状態から起き上がるときに使うパターンなどです。屈曲は姿勢の安定の発達の土台であり、運動スキルが発達するうえでも重要です。このパターンを育てるには、ボルスターやフレクサースイングなどにしっかりとしがみついて乗る活動がよく使われます。こうした屈曲活動には、たいてい触覚活動が先行しており、活動から得られる触覚や固有感覚の刺激は、適切な運動の協調的活動の基礎となります。

 屈曲と同様に伸展パターンも、人生早期に発達する背中側にある筋肉の機能です。子どもは、ジャンプのように興奮したときの動きに伸展パターンをよく使います。この伸展パターンは、姿勢の安定のもう一つの土台です。伸展パターンによる活動には、他の感覚刺激、特に前庭刺激が先行します。伸展パターンを引き出す活動として非常によく用いられるのは、スクターボードやハンモックに腹ばいで乗る活動です。


 同時収縮は、自発的な関節の伸展を伴う運動の際に最も強力に現われます。トランポリンの上での意図的なジャンプ、腹ばいでスクーターボードに乗って壁をけって進んだり、両手で床をこいで進んだりする遊び、スクーターボードに乗って手に持ったリングを引っ張ってもらう遊びなどは、いずれも同時収縮する活動です。



 同時収縮の発達には一定の順序があり、首や腰など体幹の関節からまず発達します。体幹の筋の同時収縮の発達は、四肢の関節の同時収縮の土台となりますので、指導もこの順序で行います。

 また、固有感覚系は触覚系と深い関係を持っています。固有感覚と触覚は組み合わさって、体の空間内での動きについてより正確な情報をもたらします。たとえば、空間理解のよくない子どもに対しては、触覚的な手がかりを与えると、よりうまく行動できます。新しい不慣れな運動課題の計画と遂行の能力(運動企画能力)がうまく発揮されない場合には、運動感覚に加えて触覚を経験させるといった、身体意識を増大させる働きかけが有効です。寝返り、ジャンプ、歩行、ボール遊び、スクーターボード遊びなどは、難易度の調節が簡単で、たいへん利用しやすい活動といえます。  

               
固有感覚系の神経学的理解                  
 固有感覚入力は姿勢調節と関連して、視覚、前庭覚とともに中枢神経系の小脳に伝達され、脳幹(延髄、橋、中脳)からさらに大脳の感覚野に伝えられます。小脳に伝達される固有感覚入力が意識に上がることなく処理されるのに対して、大脳皮質に伝えられる情報は意識化されて四肢や姿勢の認知にかかわり、意図的行動と深く関係しています。大脳に伝えられた固有感覚情報は、錐体路という運動神経路を通して四肢躯幹を自発的に動かしたり、動きを微妙に修正したりします。これは、子どもの具体的遊び活動そのものです。

 大脳からの指令による自発的・目的的な遊び活動が自動的に円滑に、また正確に行われるためには、一定の筋緊張が必要とされます。これには網様体-脊髄系と呼ばれる運動経路が重要な役割を果たしています。この経路が働くためには、大脳、小脳、脳幹が互いに関連し合って情報を統合することが必要です。この情報の統合がうまくいかないと、姿勢調節、バランス、ボディイメージ(主に身体の自発的動きによって作られる)の形成に問題が生じます。

 

固有感覚系の臨床観察

 筋緊張と目的的運動の遂行 

 固有感覚の処理が最も関係しているのは運動の遂行です。触覚と関連して現われる体性感覚の統合の障害は、体性感覚性障害として著しい不器用さをもたらします。この障害では、運動の背景となる適切な筋緊張の障害と、それに伴うボディイメージの形成の問題がみられます。運動企画能力(運動概念の形成と相互に作用する)の障害は、このボディイメージの障害に起因しています。感覚運動指導では、目的的運動の遂行を強調した遊び活動を通して指導を行いますが、筋緊張、ボディイメージ、運動企画の三つは、子どもの行動を理解するためのキーワードです。

固有感覚系の指導

 運動活動を通して経験される固有感覚は、触覚とも関連しながら、子どもの筋緊張を適正にするとともに、興奮を鎮め、触覚の敏感性を低減します。したがって、固有感覚刺激は、覚醒水準が高く多動性を示す子どもに対しても、反対に注意機能が低下して寡動な子どもに対しても、必須な感覚刺激といえます。

 発達障害児では、感覚の基本的な調節作用がうまく働いていないことが多く、感覚入力に非常に敏感であったり、逆に鈍感であったりします。その結果、覚醒水準の障害や注意の障害、あるいは多動や寡動などの動きの問題が目立ちます。

 ※上記は熊谷高幸先生説(自閉症スペクトラムには感覚過敏が関与している)に通じるものであり、「心理的問題以前の、外からの刺激という接点の問題を考えるべき」という事につながると思います。

 固有感覚(および触覚)の抑制的な使用法は、ゆっくりとしたリズミカルな動きと、全体に均一の深い圧刺激です。一方、促通的な使用法は、速い不規則な動きと、断続的な軽い触刺激です。原則として、前者は子どもの状態が多動で転導性(注意があっちにこっちに次々に移る様子)の強い場合、後者は寡動(動きが少ない)で覚醒水準の低い場合に用います。

 下記の表(固有感覚を取り入れた遊び活動の内容)は、発達障害児に適切と思われる固有感覚を主とした遊び活動についてまとめたものです。どんな遊び活動にも固有感覚経験が含まれていますが、四つの活動(動かす、押す、引っ張る、持ち上げる)パターンは、とりわけ同時収縮を必要とします。したがって、活動の対象は「重さ」のあるものを利用することが多くなります。また、抵抗を用いるのも、これと同じ考えです。また、この表の主たる目標は、固有感覚の処理の改善です。具体的には、伸筋緊張の改善や体幹の安定、姿勢の発達と、それに伴う身体像の形成や身体の動きの改善などです。さらに、視空間認知や動作・行動の改善、四肢の協調運動の改善も目標となります。これらの目標を達成する過程で、ことばによる指示の理解の高まりや、自分の動作を言語化する能力の発達もみられます。活動を行う中で、子どもの活動状態から固有感覚の処理過程を評価しますが、感覚の処理に無理な努力を必要とするほど、子どもから不平や疲労の訴えが出てきます。反対に感覚の統合がうまく行われていると、子どもは活動に興味を持ち、積極的に参加するようすがみられます。 

5.神経生理学を意識したマッサージ
 感覚統合理論を世に発表したエアーズ(Anna Jean Ayres)は、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であるとし、そのためには脳幹レベルの統合が必要であると考えました。
発達障害児へのマッサージにおいても、この3つの感覚と脳幹という下位中枢神経に働きかけることが施術の柱になります。

施術を行う前提として発達障害者への理解が第一ですが、基礎知識が欠けていては目的意識を持つことは難しく、漠然とした施術になりがちです。次の3つはまさに基礎知識です。
①前庭覚に対する反応
②触覚防衛反応
③筋緊張(高い筋緊張と低い筋緊張)

 

前庭覚に対する反応                 
 前庭刺激を怖がる子ども                
すべり台で手をブレーキにスピードを落としたり、不安定な姿勢ではすべれません。ブランコも地面に足をつけて止めてしまうなど、リズミカルなゆれ刺激を楽しめません。ただし、これらの背景には運動経験が少ないということも関係していると思われます。

 

  重力不安を示す子ども

前庭刺激を怖がる状態がさらに強くなると、情緒的な拒否反応が現われてきます。ラージボールやスクーターボードのように両足が地面から離れることを嫌がります。重力不安の子どもは、バランスが崩れそうになったり、普段とは違った姿勢をとらなくてはならない場面ではパニックになることもあります。

 

重力不安により、頭の位置を維持するために、首、肩、体幹の筋肉は緊張し、つねに硬くなった状態。(強い緊張とも関係している)

 強い前庭刺激を求める子ども                

より強い前庭刺激を求める児童もいます。この場合、トランポリンで遊ぶと平気で30分くらい跳んでいます。ハンモックに乗せて勢いよく回転させ、急に止めたあとでも目が回りません。普段の傾向は活動量が多く、じっとしていないタイプに多く、前庭刺激が十分入力されていないのではないかと思われます。前庭刺激が不足し抑制された状態で過ごしていると、自分の身体のイメージがまとまりにくくなると考えられています。

 

触覚防衛反応
「触覚防衛反応」とは特定の触覚を嫌い、避けようとする行動です。 触覚は発達の早期には母子関係を形成する主要な感覚だといわれています。 また、運動を行ううえでガイドとなる働きあります。                
 触覚防衛反応を示す子どもは、触角刺激に対して敏感なタイプの子どもだといえます。このような反応が幼稚園や保育所の年長組から学校に入っても強く見られる場合、生活面や学習面、運動面、対人関係の面にさまざまな問題を残すことが考えられます。一方、
触刺激に鈍感な場合、自分が触られた場所を指せないというケースもあります。触知覚が混乱していると、身体のイメージがばらばらになり、運動するうえで制約が出てきます。

筋緊張(高い筋緊張と低い筋緊張)

 目覚めているとき、骨格筋は適切な姿勢を保ち、いつでも運動ができるように、一定の緊張状態を保っています。これを筋緊張といいます。また、屈筋と伸筋を同時に緊張させて関節を固定する働きを同時収縮と呼びます。筋緊張の異常や同時収縮に問題があると次のような問題が生じます。

 

 静的な姿勢での全身の筋緊張

 筋緊張が高い子どもは関節の可動域が狭く、各関節をゆっくり牽引、屈曲、伸展したときに強い抵抗が感じられます。反対に緊張の低い子どもは関節の可動域が普通以上に大きく、抵抗が少なくて、ぐにゃぐにゃした感じがします。また、筋緊張に異常があると、体性感覚の処理がうまくできず、適応反応の獲得が妨げられやすくなります。

 

 動作時の筋緊張                
 筋緊張が高いと動作に柔軟性がなく、過緊張が見られます。一方、緊張が低いと頭がついてこなかったり、頭を無理に起こそうとして全身に過度の緊張が生じます。寝返り動作では、筋緊張の高い子どもは、全身を1本の丸太のように動かしたり、過度に体を反らせて反りを利用した回転をしようとしますが、緊張の低い子どもの場合は、体を過度に反らせたり、反対に屈曲させたりして寝返ろうと試みます。

 

 筋の同時収縮                
 両肘を軽く曲げた状態を子どもにとらせ、大人の母指を両手で握らせて、軽く押したり、引っ張たりしてみると同時収縮が上手にできる子どもは首や肘がしっかり固定されて、頭がぐらついたり、肘が動いたりしません。筋緊張が低い場合は首や肘の固定ができず、筋緊張が高い場合は動きに柔軟性がなく、関節の拘縮が見られることも少なくありません。筋の同時収縮がうまくできないと、適切な固有覚情報が得られず、誤った運動パターンを学習してしまったり、運動企画性の発達が妨げられます。

 

 緊張が高い場合の主な問題点

1.一人で座れなかったり移動できなかったりする。
2.手を使って探索したり、首を回して外界を認知できない場合、重い精神発達の遅れにつながりやすい。
3.筋肉の柔軟性の欠如は運動の固定化を生み、さらに、固定から逃れようとして代償的な運動パターンを引き起こし、それが反復活動によって習慣化されると異常な姿勢筋の緊張を作り出す。

 

 緊張が低い場合の主な問題点
1.椅子からずり落ちてしまったり、手で床を支えていないと上体を起こしていられない子もいる(体を支える補助に使われると手の機能の発達が遅れる原因になる)。
2.腹筋、背筋が弱いとまっすぐな立位の姿勢が難しい。(腹筋、背筋の筋トレは大切)
3.姿勢を維持するために常に力を入れているため、とても疲れやすくなる。長時間学習に集中することができない。
4.筋緊張が低い子どもは、表出反応が鈍くなり、覚醒レベルも低いことが多く、「意欲がない、やる気がない、不真面目だ」と誤解されることがよくある。
5.各関節の可動域が過度であったり、逆に拘縮の進行、骨のもろさ、筋肉全体の異常な柔らかさなどがみられる。

さらに、姿勢や目の動きの状態についても確認する必要があります。
姿勢と運動

 どのような姿勢が取れるか、どの運動ができるかだけでなく、どのように姿勢を取っているか、どのように体を動かしているかをよく観察することが大事です。

 寝返り

 両側になめらかに寝返ることができるか。まっすぐに回転できるか。体幹の過伸展、屈曲を利用して回転していないか。

 腹ばい

 頭を持ち上げて保持できるか 。手で上体を支えられるか。支えられる場合、手のひらで支えているか、それとも肘で支えているか。

 四つばい

 四つばいの姿勢が保持できるか。四つばいの姿勢で前後左右に体重移動ができるか。背中の過伸展や背中を丸めた円背はないか。なめらかな四つばい移動ができるか。

 座位

 骨盤を起こして座位がとれるか。手をつかずに座っていられるか。股関節の外転、外旋方向への柔軟性はあるか。椅子に座って両足をつき、股関節が中間位で保持できるか。               

 ひざ立ち                
 両膝で床を踏みしめることができるか。首から下肢にかけて抗重力反応があるか。股関節の屈曲、背中の過伸展などは見られないか。

 立位                
 両足で床を踏みしめることができるか。体のゆれぐあいぐあいはどうか。首から下肢にかけて抗重力反応があるか。               
 姿勢背景運動                
 体のゆれが見られないか。一方の手が動くと、使っていない反対側の手も同じように動く連合反応が見られないか。   

            
眼球運動                 
 姿勢や運動の機能に問題があったり、前庭系や固有覚系の情報処理がうまくできないと、眼球運動の問題が起こりやすくなります。

マッサージは、皮膚、筋膜などの結合組織、筋肉に対して、指や手などを使って、触る、さする(軽擦)、圧迫する、叩くという手技と、関節の可動域確保や筋力維持などを目的に、関節を動かす手技が基本です。関節に対する施術では、関節の力を抜いた状態で行う運動を「他動運動」、自分自身で動かすことを「自動運動」、施術者が動かす筋肉に抵抗を加えることを「抵抗運動」といいます。

ここでは「新・感覚統合の理論と実践」に出てくる「触圧の刺激」という言葉に焦点を当て、そこに記載された内容をご紹介し、その上で感覚統合法を補完するマッサージについて考えたいと思います。

 

感覚調整の障害
 『新・感覚統合法の理論と実践』の中では触覚防衛反応は、自閉的な子どもたちが持っている感覚調整の障害によって発生するものと考えられています。そして、感覚調整の障害について、神経生理学的および感覚統合法の立場から次のような説明がされています。

 自閉的な子どもたちは、対人関係や言語、認知の発達の遅れに加えて、こだわりやパニック、多動性、自己刺激行動など、さまざまな行動上の問題を示します。感覚統合理論では、このような特徴を示す自閉性障害の原因について、脳幹部や大脳辺縁系、小脳などを含む広汎な中枢神経系の機能不全によるものと考えています。特に、皮質下の脳幹や間脳における感覚の調整の障害は、外界からのいろいろな感覚情報の処理の偏りやひずみの原因となります。それはさらに、皮質を中心とした高次神経系での情報処理に影響を与え、その結果として、前述した様々な問題が現われてくると考えられています。

 感覚統合法の立場から自閉症を解釈すると、自閉症とは、感覚情報の登録や調整機能の障害のために、人や物を含む周囲の環境との相互交渉に問題を生じている子どもといえます。したがって、自閉症児に対する感覚統合法の指導では、まず、感覚刺激に対する反応の様相を評価し、個々の子どもの感覚調整の障害に対応していきます。なお、評価は感覚歴、臨床観察、そして心理検査の結果が求められます。

 過反応タイプの子ども(触覚防衛反応)                 
 触覚防衛反応を示す自閉症児は、ふつう私たちが心地よく感じる感触に過敏に反応し、その刺激を嫌って逃避したり、興奮したりします。身体部位では、首筋、顔面、口周辺、そして手のひらなどへの触覚刺激に対して過敏症を示しやすいようです。触覚防衛は、覚醒レベル、情緒的な不安定性、対人関係の問題、音やにおいに対する過敏性、多動性、固執性、注意転導性などにも関連しているため、自閉症児の発達を援助するうえで、早期からの改善の取り組みが必要です。   

 低反応タイプの子ども(前庭-固有系の感覚登録障害)                 

 私たちが知覚できる刺激をわずかしか感じることができないため、結果として多くの強い刺激を求めることになります。そのため、トランポリンやぶらんこ、グローブジャングルなどの遊びに夢中になります。一方、いったんそれらに入り込むと、今度は特定の感覚刺激や遊びに固執しがちになります。

 

 感覚歴

 感覚調整の障害は、触覚系と前庭-固有覚系に生じやすく、過反応(過剰反応)や低反応(過少反応)といった両極端な反応となって現われます。前者には、触覚防衛や重力不安などの状態があります。また、後者は、感覚刺激の登録が低下しているために、刺激に反応しにくい状態です。                
感覚調整機能に関する質問では、現在の様子だけでなく、過去(通常は幼児期)も確認します。これは現在改善されている場合でも、ストレスが生じる過剰な刺激状況に出会ったとき、一時的にせよ再び感覚調整の問題が現れて、不適応行動を生じる可能性があるからです。

 臨床観察                 
観察項目                
1.神経学的徴症状:原始反射の統合状態や筋緊張など                
2.粗大運動と微細運動:姿勢や歩行状態の特徴、運動企画力、手指機能など                
3.対人関係:アイコンタクト、やりとり行動、指示行動、模倣、象徴遊びなど                
4.言語:ことばの理解と発話(反響言語、トーン、構音、会話)のようす                
5.行動の偏り:固執性、パニック、自己刺激行動、注意転動性、多動(寡動)性など                
 以上の観察項目のうち、対人関係、言語、行動の偏りについては、特別な検査場面や指導場面における周囲の人や物とのかかわりの中で把握するようにします。

 

 心理検査

 自閉症児の場合、その場の状況や課題によって観察結果が変動しやため、1回で判定するのではなく、色々な場面で観察を繰り返し、総合的に評価するようにします。

 

  筋緊張の強い子ども(1)-重度の運動機能障害の場合                 
 触圧の刺激などによって緊張部位のリラクセーションをはかり、屈筋群と伸筋群の拮抗をバランスよく保ち、柔軟な筋肉の活動を促します。

 ねらい
 軽い触圧の刺激を持続的に入れることで、反り返りを抑制したり、動かしにくい筋群の活性化をはかります。

 活動の展開と留意点
 重度の子どもたちへの「抑制的な触覚刺激」は、中枢あるいは末梢神経障害に起因する皮膚の過敏症、長期にわたる異常な筋緊張から柔軟性の欠如を改善するために利用されます。また、「促通的な触覚刺激」は、原始反射は統合されているが平衡反応が十分に発達していないので、それを強化する場合や、触覚刺激への反応が弱い場合に利用します。

 抑制的な触覚刺激

 反り返りが強く自力で頚部を動かせない子どもに対しては、以下のような方法が考えられます。

 頚部を左または右に回旋し、後弓反射(脊柱の伸展、肩甲帯の後退、下肢内転筋の痙性、過度の伸展)の強い子どもに対しては、前斜角筋中央部に軽く指を当て、軽い触圧の刺激(ソフトタッチ)を入れます。そして、中斜角筋、後斜角筋、後頚筋、上僧帽筋、胸鎖乳突筋あたりへの軽い触圧の刺激(ソフトタッチ)をくり返すことで過敏性をとります。

自分で体を動かせない、触覚刺激への反応が弱い子どもへの部分的な技法には、促通的な触覚刺激として下右図のようなものがあります。                                      


筋緊張の強い子ども(2)-異常な運動パターンを示す場合                 
 子どもたちの異常な運動パターンは、異常な姿勢筋の緊張と姿勢反射の統合不全によって生じた姿勢変換の誤学習が蓄積したものといえます。最初は正常からわずかに偏位したものだったのが、そのわずかな偏りの上に学習を積み重ね、ますます偏りが強化されてしまったということです。こうした障害が形成されていく過程は、筋肉の柔軟性のなさからくる運動の固定化に始まります。さらに、固定から逃れようとして代償的な運動パターンを引き起こし、それが反復活動によって習慣化されます。触圧の刺激によって緊張部位のリラクセーションをはかったり、ボディイメージを育てたりして、柔軟な筋肉の活動を促します。

 ねらい

 軽い触圧の刺激を持続的に入れることで、緊張部位のリラクセーションをはかったり、ボディーイメージを育てたりして、柔軟な筋活動を促します。

 活動の展開と留意点

 ボディーイメージが育っていなかったり、異常な運動パターンを示す子どもたちにとって、持続的な触圧の刺激は、身体部位の無視を軽減させたり、触覚の閾値を正常化したりするのに有効です。また、ブラッシングによって筋紡錘を刺激し、筋活動全体の活性化をはかります。

 軽い圧の刺激

 身体各部への持続的な圧刺激は、異常な運動パターンを鎮静する効果があります。

 腹部中央へ手を当て、軽い圧を加えます。これは、全体の異常緊張を抑制し、全身のリラクセーションをもたらします。

 横隔膜に沿って両手を当て、呼吸パターンに合わせて軽い圧を加えます。これは、呼吸のリズムを整え、大胸筋から頚部のリラクセーションに役立ちます。

 あぐら位をとらせ、後から脊柱のゆがみを観察し、動きの悪い筋肉の上に手を当て、子どもの動きに合わせて軽い圧を加えます。これは脊柱起立筋や腰方形筋の活性化をうながし、縦方向への緊張の手助けとなります。

 手を中心としたマッサージをし、末梢を意識させます。

筋緊張の低い子ども-重度の運動機能障害の場合

 全身の筋緊張が低く、首が座っていなかったり、同じ姿勢を維持できなかったり、姿勢変換ができない子どもは、一定の緊張が維持できないため、各関節の可動域が過度であったり、逆に拘縮の進行、骨のもろさ、筋肉全体の異常な柔らかさなどがみられます。このような子どもたちは、自分で身体を動かしたり探索したりできないために、情報をうまく受けとめることができず、表出反応も鈍くなり、覚醒レベルも低いことが多いようです。こうした状態は、特に脳性まひの低緊張タイプや先天性筋ジストロフィー症、難治性てんかんなどによくみられます。

 促通活動を中心とした触圧の刺激などによって屈筋群の活性化をはかり、柔軟な筋肉の活動を促します。

 基本姿勢パターンと触圧刺激

 ねらい

 固有感覚系に適切な感覚を入力することで、基本姿勢パターンの改善をはかります。同時に触圧刺激を利用して、覚醒レベルを高めたり、弁別機能を高めたりします。

 活動の展開と留意点

 伸長、牽引、タッピング、抵抗などを固有感覚の入力として行ったり、温度刺激や触覚刺激を促通的に使うことで、姿勢パターンの改善をはかったり、ボディーイメージを高めたりして、覚醒レベルを上げるようにします。

 うつぶせ

 子どもを肘たて位にし、頚周囲筋群を同時収縮させ、肘を90度屈曲位に保ち、肩の真上から垂直圧を加えます。ゆっくりと10数え、肩から手が離れないようにゆっくり力を抜きます。

 椅坐位

 頭を正中位に置き、肩の真上から力を加え、関節圧縮を利用して躯幹筋群の縦方向への促通をうながします。

 座位

 あぐら座位をとらせ、脊柱のゆがみを観察しながら、両手を凸側の起立筋および広背筋に当て、まっすぐ下に負荷をかけ、ゆっくり手を離します。

 三角座りからそんきょの姿勢をとらせ、両足の踵から前方に体重移動させます。これらの持続的緊張が加えられると、足関節周囲の同時収縮が促通されます。             

 四つばい

 四つばい位をとらせ、肩から真下に負荷をかけます。股関節に対しても同様に負荷をかけます。前後左右、対角線方向に体重移動を行い、各関節に圧迫を加えます。

マッサージのポイント  
1.人は最も大きな刺激源であり、人に対する感情によって、刺激の感じ方もずいぶん違ってくると言われています。従って、子どもとの信頼関係を築くことが最初の課題です。  
2.触覚防衛反応などの感覚調整の障害については、「感覚調整機能評価表」を利用し、触覚系と前庭-固有覚系の過反応と低反応の実態を把握します。
3.筋緊張の強い子には、抑制的な触圧の刺激などにより、緊張部位のリラクセーションをはかり、屈筋群と伸筋群の拮抗をバランスよく保ち、筋肉の柔軟性を高めます。
4.筋緊張の低い子には、促通的な触圧の刺激などにより、屈筋群の活性化をはかります。また、関節への抵抗運動により筋緊張を高めるとともに拘縮を予防します。              
5.ボディイメージが弱い子には、関節の抵抗運動により、それぞれの筋肉の動かし方を繰り返し学習します。 
             
全体のまとめ
1.マッサージは感覚統合法を補完します。
2.マッサージは筋緊張、感覚調整、ボディイメージの状況を改善します。
3.マッサージを行うにあたり、子どもとの信頼関係を築くことが大前提になります。 

付記

左は、奈良県立教育研究所内の特別支援教育ガイドのページです。クリックすると「感覚運動指導の実際」というスライド154ページ(PDF 1.3M)の資料をダウンロードできます。

なお、この資料は中尾繁樹先生が作られたものです。

 

こちらは、コラムで「音楽療法」の有効性などを紹介されています。

その中で、次のようなコメントがありました。

 

『何よりも大切なのは、音楽を通して、セラピストと子どもがコミュニケーションを取ることです。これこそが、音楽療法のなかで一番大切な部分であると言っても過言ではありません。

音楽療法士のピアノに合わせて楽器を鳴らす、音楽療法士と順番に楽器を鳴らす、出来たら音楽療法士とハイタッチをする…子どもたちは、このように音楽を通してコミュニケーションを学び、社会性を獲得していくのです。』

子どもと施術者とのコミュニケーションは、マッサージにおいても、同様に重要なものであると思います。