自閉症と感覚過敏

「自閉症と感覚過敏」の著者である熊谷高幸先生は、著書の「はじめに」の中で、障害の発生源には「感覚過敏」があるとのことを指摘されています。
マッサージは、主に直接的な触感覚・固有感覚と間接的な聴覚・視覚、そして1対1のコミュニケーションの中で、これらの感覚が刺激されます。「感覚過敏」が熊谷先生のお考えの通り、障害の発生源であるとすれば、4つの感覚を接点とするマッサージは活躍の場を広げる可能性があると思います。そして、「感覚過敏」に対するマッサージで心がけるべきは何なのか。この難題を考えるために「自閉症と感覚過敏」を拝読させて頂きました。

 

出版:新曜社

『はじめに』の中で説明されている自閉症に関する実状
・自閉症が報告(1943年)されてから70年以上たつが、障害の定義や、原因や、該当する人々の範囲についての考えは次々に変わってきている。

・自閉症と見なされる人の数が年々増えている。40年ほど前には2,000人に1人ほどといわれていたのが、今では100人に1人とまでいわれるようになった。

・自閉症は、それに当てはまる人々の数についても、それが含む症状の範囲についても、さらには関連する障害についても、大きな広がりを見せるようになっている。

・自閉症は、その原因と結果を1対1に対応できない障害である。脳の特性によって生じるところまではわかっているが、より深い所では原因をひとつに絞ることができない。だから、症状の集まりとして診断されている障害である。つまり、社会性が乏しい、こだわりがある、ことばが遅れる場合がある、パニックになりやすい、記憶力がよい場合が多い、感覚過敏が現われやすい、などの症状の集まりとして理解されている。だが、これらの症状のあいだにどのような関係があるのか、また、それらはどのような経路をたどって現われるか、についてはほとんど答えが出されていない。
感覚過敏とは、最近になって自閉症に一般に認められるものとなった症状である。感覚が非常に敏感になっている状態で、刺激を恐れる場合と求める場合がある。たとえば、嫌な音を恐れて耳をふさいだり、音のする部屋に入らなかったりする。また、水路を見つめ小石を落とす行為をいつまでも続けたり、ビデオの同じ箇所を何度も見続けたりする。感覚過敏は視覚や聴覚など、あらゆる感覚に現れ、また、敏感性としてだけでなく鈍感性としても現れる、非常に多様な側面をもつ症状である。

 

自閉症スペクトラム
『自閉症スペクトラム障害は、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)において、これまでアスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症など様々な診断カテゴリーで記述されていたものを、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」の診断名のもとに統合されました。「DSM-5」以前の診断カテゴリーである自閉症やアスペルガー症候群などは、それぞれの症状に違いがあるとされ、それに伴って診断基準も異なるため、独立した障害として考えられてきました。』

上記は「発達障害ポータルサイト」のコラムからの引用です。詳しくはこちらをご覧ください。

スペクトラムとは、分光器によって分けられた様々な波長の色の連続体を示すことばで、共通性の中に、多様性を示す自閉症という障害を表すために用いられました。「自閉症スペクトラム」という捉え方では、自閉症の人と通常の人の境目も以前のように明確なものではなくなっています。一方、自閉症の人々の感覚や行動の特性は通常とはかなり異なるように見えますが、通常の人々に全く現れないものではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

自閉症スペクトラムは、自閉症(言葉の遅れがある自閉症)、アスペルガー症候群(言葉の遅れのない自閉症)、高機能自閉症(発達初期には言葉の遅れがあったが、その後、急速に知能が発達した自閉症)を包含したものとして位置づけています。また、ADHD(注意欠陥・多動性障害)とLD(学習障害)は自閉症スペクトラムとは異なる障害ですが、それぞれが重なり合うことが認められており、熊谷先生は、その重なりには感覚過敏が含まれていると考えられていますなお、ADHDは5%の子どもに、LDは3%の子どもに現れるといわれています。 

感覚過敏が自閉症の発生源とされる理由
・感覚過敏があると、刺激に対する反応が大きくなり、好きな物は非常に好んで求め、嫌いな物は恐れて避けるようになります。そのため、外界の捉え方が通常とは異なり、行動の仕方も通常と異なってくると考えらえます。このため、人々と共に生活することや学ぶことが難しくなってきます。ことばを学び、人々とコミュニケーションができないと、社会に参加することができなくなります。このように、感覚過敏は発達全体に影響を及ぼす可能性をもっています。
・自閉症の人が自らのことを語ったのは、テンプル・グランディンが発表した「我、自閉症に生まれて」(原著“Emergence:Labeled Autistic”1986)と、ドナ・ウィリアムズが発表した「自閉症だったわたしへ(原著“Nobody Nowhere”1992)でした。日本人でも2007年に東田直樹さんが14歳のときに「自閉症の僕が跳びはねる理由」を世に出しました。その後もニキ・リンコさんなど自閉症の当事者たちによる自伝が次々に出版され、いまでは自閉症に関する出版物の半数ほどを占めるまでになっています。そして注目すべきことは、これらの著書のほとんどすべての中で感覚過敏の経験が語られているという点です。


例えば、下記は東田直樹さんが11歳のときに書いた「誰もいなくなった」という詩の冒頭です。
みんながいる所は 嫌い
音が大きい所は 嫌い
物が多い所は 嫌い
どこに行ってもうるさくて
僕はいつでもがまん出来ない

 

また、ニキ・リンコさんと藤家寛子さんの対談本「自閉っ子、こういう風にできてます!」では、
+雨が痛い。
+扇風機の風が痛い。
+カメラのフラッシュのあと何も見えなくなる。
+コタツに入ると脚が消える。(視覚と身体感覚が両立しにくく、一方が優勢になると他方はほとんど無視されてしまうことを意味しています)


などの経験が語られています。そして、この対談の司会者であり、この本の発行人でもある浅見淳子さんは同書の中で次のように述べています。
『ひと口に自閉所スペクトラムの方と言っても、性格は皆さんそれぞれです。定型発達の人と同じようにバラエティに富んでいます。でも一人残らず、身体機能の不具合を抱えていました。自閉症というと心の内側、つまりその心理がまず問題にされやすい。しかし、その前に外部との接点のところにもっと注意を向けなければならないことがわかってきたといえるだろう。』

 

自閉所者は外部からの刺激をいちどに大量に取り入れてしまうという特性をもっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自閉症者の場合、ある刺激が入り込むと、感覚の枠いっぱいに広がり、そのまま停留します。すると後続の刺激は、感覚の枠に入り込めない状態で通過し、見落とされてしまいます。この見落としのために時間や空間の関係を捉えることが難しく、コマ送りのような映像は動画にはならず、全体像を理解しずらいという事態に直面します。つまり、外部からの刺激の取り込みという行動初期から、自閉症者はコミュニケーションを阻害する困難さに立ち向かわなければなりません。

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

自閉症者の心と体のかみ合いにくさの特性
・自閉症者は時間、空間など外部の世界を統合するのが難しいだけでなく、自分自身の身体各部も統合しにくいという問題が起こります。例えば、書くこと(指)に集中すると、体が傾いているのに気づかず、椅子から落ちてしまう等です。
・身体各部が統合しにくい理由として、触覚や筋肉感覚(体性感覚)は目や鼻(特殊感覚)と違って、特別の受容器をもたず、集中管理もしていません。また、受容器は全身に分布し脳の中の別々の皮膚領域で受容されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視覚は「目」、聴覚は「耳」という特殊な受容器がそれぞれ2つずつ顔に存在しており、必ずそこからの情報であると限定してくれますが、体性感覚の受容器は全身に分布しており、分かりずらさの原因になります。

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

運動を起こす時は、身体各部の筋肉に対応した脳部位の指令の下で動きが生じます。人の脳は、それらの動きを前頭前野で統一する働きをもっていますが、感覚過敏があると前頭前野での接続がむずかしくなると考えられます。つまり、身体や運動の感覚は視覚や聴覚よりも一般化しにくい特性をもっており、一方、自閉症者のように感覚過敏があり、身体の特定部位からの感覚に強い影響を受けやすい状態であると、さらに全体的な統一感は保ちにくく、自分のものとして感じにくくなります。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

自閉症者が苦手とする代表的なものが縄跳びです。縄跳びは全身を一体化させ、一定のリズムで跳躍しなければならないうえに、更に縄の回転の動きに合わせなければならないためです。

自閉症者が跳びはねる理由は、一つは飛んでいるときは足を感じ、手を叩けば手を感じる。つまり、バラバラになっている感覚の一体感を取り戻すためにやっていると考えられています。もう一つの理由は、意識が外部のわずらわしい刺激から解放されて自分自身に向き、自分を取り戻すことができるからです。(ドナ・ウィリアムスは自宅にブランコがあり、ブランコの規則正しいリズムに自分を溶け込ませて気持ちを和らげるために使ってとのことです)。

アンケート結果にみる感覚過敏の実態
自閉症者は自分の状態を細かく語れない人の方が多いため、熊谷先生は、より多くの自閉症者を対象に感覚過敏との関連性を調べるため、自閉症児の親へのアンケートを実施されました。
アンケートは特別支援学校に通う30名の自閉症児、男児25名、女児5名で、年齢は10歳から18歳までです。言語をもたない自閉症児は4名でした。ただし、「会話が可能」の中には一語文レベルにとどまる者が7名いました。
なお、以下の表は30名の言語状況を示す一覧表です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

下記の表は掲載されていた表を1枚のシートにまとめたものです。

「人に触れられるのを嫌がる」という質問に、「よくある」と回答したのは5名です。これは全体の約16.6%になります。

まとめ

「マッサージは、主に直接的な触感覚・固有感覚と間接的な聴覚・視覚、そして1対1のコミュニケーションの中で、これらの感覚が刺激されます。」と紹介させて頂きましたが、実際に発達障害児へのマッサージを行おうとすると、落ち着いて横になっていない児童も少なくというのが現実です。このため、マッサージの効果を実感することは困難な道のように感じていますが、児童への理解を柱に、実践に知識をプラスし、その理解・知識・実践を1サイクルとして、それを回しながら前進していくことがあるべき姿に近づける方法だろうと思っています。

付記:ADHD(注意欠陥・多動性障害)と感覚過敏についての記事

タイトル:「ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療法・療育法は?治療薬は効果的なの?」 

この記事の中に、次のような説明がありました。

『ADHDの原因は、現在の医学ではまだはっきりと分かっていません。一番有力なのは、脳の前頭前野部分の機能異常だと言われています。前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり、論理的に考えたりする働きをします。ADHDの人はこの部分の働きに何らかの偏りや異常があり、思考よりも五感からの刺激を敏感に感じ取ってしまいます。そのため論理的に考えたり集中するのが苦手となるのです。 』

これは、熊谷先生の説を後押しするような記事だと思います。