超音波を使って筋肉の硬さを測る

今回のブログは、「月刊トレーニングジャーナル 2017 8 No.454」の特集「ケガや不調を防ぐヒントとアドバイス」から「骨格筋の硬さ情報をケガの予防に活かすための基礎研究 -超音波を使って硬さがわかる」を取り上げました。この寄稿の筆者は、稲見崇孝先生(慶応義塾大学体育研究所)です。他の2つのテーマは「不測の事態を予防する取り組み」と「トレーニング分野との協業で傷害予防を」となっています。

 

月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

発行:ブックハウス・エイチディ

サブタイトルの「超音波を使って硬さがわかる」とあるように、主役は筋肉と超音波診断装置のお話です。整形外科で最も利用されているX線検査では筋肉は写りません。

一方、MRIは大掛かりな装置であり、ダイナミックな筋肉を対象とする画像診断装置としては、重厚長大な感じは否めません。
その点、超音波診断装置は機能性に優れ、リアルタイムで筋肉を診断できる素晴らしい画像診断装置です。また、表面筋電図では難しい深さの情報にも対応できる点も魅力です。
話はそれますが、私はMPS研究会(MPSとは筋膜性疼痛症候群)という会の会員になっています。この会は木村裕明先生(木村ペインクリニック)が会長をされており、整形外科や麻酔科、ペインクリニックの先生を中心に筋膜性疼痛症候群(MPS)に対し、超音波診断装置の活用に積極的に取り組まれています。

 

こちらは2017年3月に出版されたものですが、木村裕明先生は編集主幹をされています。

Fasciaとは筋膜、靭帯、支帯、関節包、傍神経鞘などの線維性結合組織を包括する概念です。

(吉岡紀夫先生の「筋膜療法 Fa・ther」を熟読するという宿題があり、まだ読めていません)

 

発行:文光堂 

寄稿のなかでは、組織の硬さをリアルタイムで画像化する超音波エラストグラフィ(Ultra Sound Elastography:超音波組織弾性映像法)という新しい装置が登場しています。

 

ネット検索で見つけたエラストグラフィに関する2つのサイトをご紹介します。
1.JRA日本中央競馬会 競走馬総合研究所 (下左図)

・なんと!ヒトではなく馬の画像です。従来(白黒)の画像とエラストグラフィ(カラー)の画像の比較が分かりやすかったため載せました。 
2.がんなび (下右図) 
・複数のメーカーが製品化していると思いますが、この記事では日立メディコが筑波大学との共同研究で実用化し、2003年末から販売されているとのことでした。なお、このエラストグラフィの装置は、日立製の超音波装置に追加できるユニットになっているそうです。


 

こちらは過去に大腿直筋を損傷した選手が筋収縮しているときの画像です。左大腿部は筋の形が変形しており、見ためは左右差が顕著ですが筋力には差がないとのことです。

 

画像出展:月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

稲見先生は、この状態に対し疑問を提示されています。

『たとえば膝関節の伸展筋力は大腿直筋、外側広筋など4つの筋で構成された大腿四頭筋の力です。大腿直筋の肉ばなれを起こした選手がいたとして、大腿四頭筋全体の筋力の回復をもって現場に復帰したり、左右差なしと言うだけで本当によいのかどうか。個々の筋の状態をそもそもダイナミックに評価できないのかという思いがありました。パラリンピックに出場する選手の中には普段鍛えにくい筋が非常に肥大している場合があることを考えると、ある部位の損傷によって損傷していない他の協同筋が適応もしくは代償した可能性もあるわけです。それで最終的に左右で同じ値になったとしても、中身は違うのではないか。外からみた動きが本当に正しいのか、と思います。
必要となるのは、個々の筋を細かく評価するツールですが、超音波エラストグラフィはそれを可能にする診断装置です。たとえば、予防トレーニングでは左右差も1つの評価項目ですが、関節角度が左右同じであっても(同じように筋収縮していても)、貢献する筋の硬さ情報が違うといったことが観察できます。予防トレーニングを実践する選手にとっても、見やすく色づけされた動画であることは納得しやすいと思います。』

 

画像出展:月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは腓腹筋の硬さを縦軸、収縮強度を横軸に取ったグラフです。このグラフについて、稲見先生は次のように解説されています。
『最大筋力を100%としたとき、少しずつ収縮強度を上げていくとどうなるか。健常側では直線的に上がっていくグラフとなっており、これは先行研究の通りです。一方、肉ばなれ後の脚は低強度から一気に硬くなってしまいます。15%強度の硬さが、健常例の45%強度に相当しています。筋の硬さは筋活動と正相関の関係にあるため、これだけ硬いということは、同じ出力で筋力に左右差はないのに過活動しているということになります。また、活動量が多いことも硬さを上げる要因であるため、中枢からの指令も違っているはずです。中枢についてはまだ詳細に測れていないのですが、部位を局所的に見ると瘢痕化していて実際に筋が正常な収縮をできる状況にありません。よって少なくともこのような事例では局所的に起こっている潜在的な問題があると考えています。
つまり本来はいくつかの協同筋と一緒に活動しないといけないのに、ある特定の筋だけが頑張っているということが起こり得るので、これをトレーニングやリハビリテーションとして改善・予防していくために必要な取り組みがあるのではないかと思います。』

先にご紹介した大腿直筋を損傷した選手の話に戻りますが、何故、詳細な評価を受けたのか、その理由が説明されていました。

リハビリして現場に戻ったのち、左右差がないのはわかっているが、過去にケガをしたほうの太ももの付け根(大腿直筋近位)にのみ疲れがたまるという「なぜ」がありました。陸上短距離の国際大会に出場する選手なのですが、その部位だけ疲れてしまって動けなくなる、脚があがらなくなる、反対の脚では起こらないということでした。MRIでは瘢痕が確認できました。エラストグラフィで硬さを測定すると、受傷側は安静時でも健常側より硬く、さらに筋電図で大腿部の上部から下部まで細かくみてみると活動の序列が崩れていて、訴えのあった疲れる箇所の過活動が確認されました。
これから、再度損傷しないように予防していくために、柔軟性トレーニングと並行して股関節屈曲トレーニングより膝関節の伸展トレーニングを増やすなどのトレーニング時期を設けました。なお、この選手の受傷機転は運動会での競争中、走り始め3歩目くらいでぶちっと筋がきれる音がしたとのことだったのですが、片づけが終わるまでアイシングなどの処置ができなかったことにも問題がありました。テーピングをして2週間後の大会に出場していることから、一般的によく起こりうるレベルの肉ばなれかと思いますが、軽視・放置してはならない事例だと言えます。』


まとめ

腓腹筋の肉ばなれ後の硬さの問題や、陸上短距離選手の事例を拝見すると、気になる筋肉ごとの硬さをダイナミックに測定できることは、選手に起きている症状の分析を容易にし、リハビリや予防トレーニングのメニューを正しい情報に基づき最適化できるということなので、超音波エラストグラフィは筋肉の最新状況を分かりやすく見せてくれる頼もしい診断装置であると思います。