頚筋症候群(頚筋性うつ)

不安や強いストレスがあると頚に痛みが出やすい患者さまがおいでです。また、心臓の関連痛ではないかと気にされていました。
一般的には心臓病の関連痛は左肩から左手(小指)に出るとされていますが、もし、心臓病による関連痛だとすると、鍼灸治療は適切ではないため、念のためネットで調べてみました。すると、例外的に頚に関連痛が出ることもあり、完全に否定することはできないようですが、通常では考えにくいということが確認できました。

では、頚に症状が出る疾患や病気は何かないかという視点で、あらためて調べてみると、
「パニック障害」、「不安神経症(全般性不安障害)」、そして「うつ病」、これらと頚のこりや痛みとの関連性について、「書き込み」や「情報提供」が数多くあるのを見つけました。
特に印象的だったのは、著書を数多く出版されている、松井病院および東京脳神経センターの理事長でもある、松井孝嘉先生の「頚筋症候群(頚筋性うつ)」というものでした。

東京、大阪、福岡、横浜、大宮などに「すっきりセンター」という提携治療院があるようです。

調べてみると『新型「うつ」原因は首にあった!』という、まさにこのタイトルの本が出版されていたため、購入して読んでみることにしました。『』内は本文からの100%引用です。

以下の内容は特に重要な部分と思います。

頚筋症候群の発見と治療法の確立
『首のこりが原因で起こるうつ症状「頚筋性うつ」について理解していただくために、ここでは「頚筋症候」を発見したきっかけと治療法の確立に至るまでの経緯、症状発生のメカニズム、首の構造、首のこりなどについて述べましょう。
私は、1968年からムチウチ症の研究をライフワークとして続けてきました。なぜなら、それまでの医学界の常識では「首の筋肉が原因で起こる病気はない」といわれており、そのなかで唯一、ムチウチ症だけが「首の軟部組織の異常から起こる病気なのではないか?」と疑われていたからです。
私は、30年間さかのぼって、世界のムチウチ症の研究発表を調べました。しかし、首の筋肉が原因でムチウチ症が起きたという発表も、首の筋肉を治療してムチウチ症が治ったという発表もありませんでした。
ムチウチ症は、首の痛み、頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気などの症状を引き起こします。うつ症状を伴うこともあり、患者さんはこれらの不定愁訴に悩まされながらも、根治する治療法を見つけられないまま病院を転々とし、症状を抑えるような一時しのぎの薬物療法を受けていました。症状が少し良くなったところで、あきらめざるを得ないというのが現状でした。
「これらの不快な症状を根本的に治療する方法を見つけたい」と研究に没頭しました。そして1978年、ムチウチ症でさまざまな不定愁訴が出ているのは、首の筋肉が異常を起こし、二次的に神経(主に自律神経)に異常が起きているのが原因であることを突き止めたのです。』


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うつ症状」の精神症状だけをとらえ治療を試みても、「頚筋症候群」から発生した自律神経の問題、数々の不定愁訴を起因とする「頚筋性うつ」の場合は、大きく治療内容が異なるため、いつまでも改善されないという事態に直面します。

画像出展:「新型[うつ]原因は首にあった!」(大和書房)

「首のこり→身体症状→精神症状」の順に症状は出る
頚筋症候群は、首のこりからくる頚筋の異常が自律神経を失調させ、さまざまな不定愁訴を引き起こす病気です。首の筋肉に異常があると、頭痛、めまいと自律神経の症状、つまり不定愁訴が出てきます。不定愁訴を全身に抱えた状態が長く続くと、そこから二次的にうつ症状である頚筋性うつが誘発されるのです。
ここで、頚筋症候群の主な症状、症状のメカニズムについて述べておきましょう。
交通事故や転倒などにより頭部に外傷や衝撃を受けたり、うつむき加減の姿勢を続けたりすると、首の筋肉へ過度な負担がかかり、疲労して過労状態となり、変性が生じて、さらに硬縮を起こします。それにより、頚筋症候群の三大症状である、頭痛、めまい、自律神経失調症が起こります。
自律神経失調の症状は、いわゆる不定愁訴と呼ばれるもの。症状には、静かにしているのに心臓がドキドキする心悸亢進、血圧の不安定、暖かいところに長くいられない体温調節障害、いつまでも続く原因不明の微熱、下痢や便秘、腹痛などの胃腸障害、涙の量が減って目が乾燥するドライアイなどがあります。
また、全身がだるくなる全身倦怠感、吐き気、異常に汗がダラダラと出る発汗異常、目が見えにくくなる視力障害、瞳孔が開きっぱなしで閉じない瞳孔拡大、天気が悪くなり始めると調子が悪くなる症状の天候依存、手足が冷えているのに、頭がのぼせて顔が熱くなる冷えのぼせ、胸が苦しく圧迫されているような感じのする胸部圧迫感もあります。
こうした不定愁訴が全身に出てくる状態が長く続くと、うつ症状、つまり頚筋性うつが出てきます。頚筋症候群では、比較的軽度の状態では不定愁訴がたくさん出て、重症になると、うつ症状が出てくるのです。同じように二次症状として、パニック障害、慢性疲労症候群も起こります。

 

頭の重さはスイカ1個分とのこと。そう考えると、確かに首への負担は想像以上です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「新型[うつ]原因は首にあった!」(大和書房)

交感神経です。いわゆる「闘争」や「逃走」など、戦うピリピリした時に活性化する神経です。そして、副交感神経です。こちらは「リラックス」した状態の時に活発になります。

交感神経の神経核は体の「胸部」、「腰部」の高さの脊髄から出ているため、胸腰系とも呼ばれます。一方、副交感神経は「脳」と「仙骨部」の高さの脊髄から出るため、頭仙系と呼ばれます。

頭と体の架け橋である頚が、過労やダメージ等により筋が硬くなった場合、特に副交感神経に影響を与えることは、この図からも想像できると思います。

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)

首の上半分は、脳の一部
『首の筋肉は、複雑に寄り合わさるようにして、頚椎を囲んでいます。
頚椎の中心の芯にあたる部分に脊髄があります。脊髄は脳から背骨の中を通って伸びている中枢神経です。脊髄から末梢神経や自律神経が出て、身体中のいろいろな部位にはり巡らされています。人間の身体を動かす脳のさまざまな指令は、脳からこの脊髄を通って全身に伝わります。脊髄の上部は脳とつながっているため、構造的には脊髄は脳が下に伸びた部分であり、人間の脳と体をつなぐ大切な役目を果たしています。この脊髄を首の位置で保護しているのが頚椎です。そして、頚椎の間から神経根と一緒に出て、末梢神経の一部となって消化管や心臓など体中に分布しています。
自律神経は、身体全体に神経ネットワークを巡らしていて、自分の意思とは関係なく、内臓や血管などの働きをコントロールし、消化や呼吸、発汗などを促し、運動神経や感覚神経以上に大切な神経です。自律神経は交感神経と副交感神経から成り立っていて、この二つの神経がバランスよく働くことで、身体を健康的に維持します。
首の筋肉が異常を起こすと、この自律神経に影響を及ぼします。首の筋肉の異常が、どのように自律神経に影響を及ぼすのかについては、まだ完全には解明されていませんが、私の臨床でのたくさんの患者さんが実際に実証してくれました。
首、とくに首の上半分の筋肉異常が自律神経失調を起こすことが私の臨床経験でわかってきました。そして、常に交感神経が強く、副交感神経が弱くなってアンバランスな状態になります。首は、人間の身体のなかで、脳と身体の各部位をつなぐ唯一の架け橋です。脳の指令を身体の各部位に伝える、脳の一部ともいえる大切な器官です。それだけに、複雑かつ繊細な構造になっていて、トラブルを起こしやすいともいえるのです。 私たちが、首のこりを器質的疾患として取り組む理由はここにあります。』


画像出展:「経絡マップ」(医歯薬出版)

誤診されやすい関連した病気
1.初老期のうつ
2.若年性アルツハイマー、認知症状
3.パニック障害
4.仮面うつ
5.更年期障害
6.男性更年期障害(燃え尽き症候群)
7.慢性疲労症候群
8.線維筋痛症

 

鍼灸師として
本文の中に「首こりを治す最新の物理療法」の解説が出ています。これを拝見すると概要は以下のようになります。
治療は東洋医学と西洋医学を併用させたものである。
・一人ひとりの症状に合わせたオーダーメイドの治療である。
・定期的に再診察を行い、症状の経過をみながら、首の治療ポイントを変えていく、ピンポ

 イント治療を行う。
・筋肉の深いところにも効果がでる特殊な【低周波治療器】(2種類)を用いる。
・低周波治療器の治療中に【遠赤外線】で首を温める。
・補助的に神経を調整する【ビタミンB】を点滴する。また、我慢できないほどの激しい痛

 みを伴う場合、対症療法として一時的に痛みを鎮静させる薬や注射を処方することもある。
・長年の研究から見つけ出した首のポイントに【(電気)】を打つ。このポイントは東洋医

 学の経絡のツボとは異なる。

 

本1冊を読んだだけでコメントすることは、適切ではないかもしれませんが、「首のこり」を取る、筋肉を緩めるという点に着目すれば、この4つ(【低周波治療器】【遠赤外線】【ビタミンBの点滴】【鍼】)の中で、【鍼】は重要な位置づけになるだろうと思います。どのポイントに鍼をするかが生命線ではありますが、鍼灸師は「頚筋症候群(頚筋性うつ)」の治療に大きく貢献できると思います。

ここから先は、特に鍼灸師の方向けに書いています。

医道の日本社が1986年4月に発行した「創刊500号記念特集-特集:圧痛点による診断と治療及び指頭感覚-」は鍼灸師にとって、目から鱗が落ちるような内容をたくさん含んだ、154名のベテラン鍼灸師や医師などによる寄稿で、A5サイズではありますが、763ページからなる力作となっています。その中には首/頚を取り上げているものもあり、今回はその中から、6つをご紹介させて頂きます。

 

時々、オークションに出品されています。

井垣博夫氏:「圧痛(反応)点の重要性と実際」
パーキンソン病の振戦麻痺患者のT1~T2左外方1㎝(大杼の脊柱寄り)に筋硬結部があり、これを緩解させたところ(単刺でまとわりつく感じが取れない場合は置鍼)、数日後に振戦が止った。これが意味するところ(理論的理解)を求め色々な資料に目を通していたところ、大村恵昭教授(Oリングテストで有名)の脳循環に関する記述を見つけた。これは「首および肩に異常があると80%以上のケースが脳循環に異常があると出ている(医道の日本469号)」と話され、Oリングテストでは椎骨動脈の診断点としてC6棘突起外方をあげている。今回経験した反応点はこの椎骨動脈の診断点よりかなり下であるが、振戦麻痺の原因が脳の特定部位の変性(黒質等)によるものであり、脳の血液循環は重要な意味をもっていると考えられる。従って、この刺鍼が何らかの機序をもって脳の血流異常を正常化する方向に働いたものと推測される。


角貝醸計氏:「後頭部に出現する硬結圧痛による診断と治療」
現代医学的に後頭部と脳の循環について…脳の循環は総頚動脈から分かれた内頚動脈(分岐部は頚動脈三角に当たる。頭蓋底で頚動脈管を通ったのち頭蓋腔に入る)と鎖骨下動脈の枝である左右の椎骨動脈の吻合してできた脳底動脈とが大脳動脈輪をつくる。そこから、前・中・後大脳動脈が出て脳に血液を供給する。つまり、脳に血液を供給する椎骨動脈は、天柱、風池、完骨の下側を通り脳底蓋より脳に入る。従って、この天柱、風池付近の硬結は脳に血液を送る大変重要な血管を圧迫し、虚血現象を起こす原因となる。
後頭部、天柱、風池、完骨付近に出現する硬結・圧痛の治療法…いずれも頚椎に向かって斜め45°の角度で刺入するとグリグリとした骨状の硬結に触れる時、ゴム粘土状の硬さの硬結に触れる時など、患者の病態によって所見に違いがあるが、多くは天柱の深部に硬結に触れる。寸3 1番鍼を目的の硬結付近まで鍼先を静かに進め、ゆっくり雀啄し、気持ちよい微かに重い響きを発生させる。これで抜鍼し、これを2、3回行うと硬結は消失する。慢性的に硬く全体が緊張している時は5~10分置鍼するとよい。この部位は血管、神経が数多く分布し、大変敏感な所なので細い鍼で丁寧を行うことが基本である。


城戸勝康氏:「圧痛点による診断と治療」
臨床家が時に見逃してるブラックホールともいうべき大穴…頚部は頭部と全身をつなぐ、文字通りネックとなる要所であって、組織解剖学的な見地からも神経系(体性神経や自律神経)、血管系(頚動脈や椎骨動脈など)、筋肉系という軟部組織の多重構造を持つ要部である。中でも胸鎖乳突筋の前後、筋腹中央、後縁の縦ラインは神経支配、血管分布、自律神経節という点から、最も重要なところであろう。この点については「霊枢」第二本論篇にも見られる通りである。すなわち、人迎、扶突、天窓、天容、天柱、風池などをピックアップすることができる。胸鎖乳突筋周辺のこれらの穴はよく反応を現すばかりでなく、刺鍼部位としても著効をもたらす要穴である。なお、主な適応例を上げると、頚肩腕症候群、自律神経失調症、高血圧・低血圧、歯・耳・喉等の疾患、頑固な肩こりなどである。


高島文一氏(医師):「圧痛点による診断と治療」
頚部、後頭部の天柱付近の圧痛を静かに圧を加えながら慎重に探る必要がある。この場合左右何れかに圧痛が著明であると、その半側の躯幹部の膀胱経に相当する部分に圧痛を認めることが多い。臀部の仙腸関節部から外下方にかけての圧痛は、同側の肓門、志室の圧痛、更には天柱の圧痛と連動することが多く、階段の昇降、山歩きなどの後にみられる。ところが一側の天柱、肝兪、肓門、志室に圧痛がありながら仙腸関節部から下肢の承扶、殷門、委中、飛揚、豊隆にかけて反対側の圧痛を認める事がよくある。比率は50%をこえるのではないかと思われるが、これらは躯幹と下肢の対称性を示すものと思われる。


橋本正博氏:「診断点治療点としての圧痛」
「霊枢」の本輪篇(第2)と根結篇(第5)に頚部周囲にあたる経穴として盛絡穴をとらえている記載がある。任脈を基準として、一次から七次の督脈に至るまでそれぞれの頚部穴を構成しており、面白いことは手足の陽脈の盛絡穴が比較的隣同士で仲よく並んでいることである-任脈…天突、足陽明(一次の脈)…人迎、手陽明(二次の脈)…扶突、手太陽(三次の脈)…天窓、足少陽(四次の脈)…天容、手少陽(五次の脈)…天牖、足太陽(六次の脈)…天柱、督脈(七次の脈)…風府-。おぼえやすく選穴しやすく、応用にはもってこいの経穴を構成している。この頚部の盛絡穴の主な筋肉系は胸鎖乳突筋と僧帽筋で直立生物たる人間が腰部と頚に負担のかかる最重要地点の一つにもなっている。また、人間の活動面での重力の場であり、疾病成立の主要部でもある。顔部の五器官の酷使と熱脳、それを支柱とする頚筋は注目すべき位置を占める。この盛絡穴の圧痛を診察することによって、証決定の有力な診断の一つになりえることであり、同時に、治療穴と直結する情報を我々に与えてくれるものがある。病症(主訴)と脈診は診断の決定権をもっているのであるが、証決定の思案にくれるとき、頚部の圧痛点、頚部の盛絡穴圧痛診察法は大きな助けとなりうるものである。


福島弘道氏:「反応点と指頭感覚」
この部は手足三陽経が、欠盆より胸腔腹腔内に入り、諸臓器に歴絡している。また、ここより分かれた枝は、頭部、頚部の臓器、即ち、眼・耳・鼻・口腔・咽頭等に絡っているので、言うならばこの部は経絡流注の重要点である。西洋医学的にも、深部に頚腕神経叢や自律神経の星状神経節があり、この影響下に現われる病症を頚肩腕症候群、或いは交感神経反射症候群などと称して、上肢や胸内、及び腹腔内の諸内臓に複雑な影響を及ぼす所となっている。また、星状神経の反回ニューロンは、広く頭部顔面部の眼・耳・鼻・咽頭等の諸器官に影響を及ぼしている。従って、鍼灸家に縁の深い肩凝り、頭重や上肢の疼痛・痺れ感、或いは動悸・めまい・むかつき・不眠・イライラ等の不定愁訴は、この部に入念な処置をすることによって特効を上げることができる。この他、肺・心等の胸部内臓の慢性症や、消化器、婦人科疾患等の難症痼疾は、この部の所見を的確に処理することによって好成績を上げることが出来るものである。その内、婦人科、肝胆疾患は右側に多くあらわれ、心臓疾患は左側に現われるが、その他総ての病症は現在苦痛を訴えている側、或いは両側に現われるものである。