脳細胞再生の研究

『兵庫医科大(兵庫県西宮市)のグループが、脳梗塞の組織の中に神経細胞を作る細胞があることを発見し、それを採取、培養して移植することで、脳梗塞で死んでしまった脳細胞を再生させる研究を始めた。』という神戸新聞のニュースを知りました。

患者さまの中には脳血管障害の後遺症の方もいるため、詳しい内容を知りたいと思い、ネット検索すると、

『兵庫医科大学は、多能性細胞「iSC細胞」を使って、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)や各製薬会社との研究を開始します。』というサイトを発見しました。

そして、このiSC細胞は図と共に、次のように説明されていました。
『虚血誘導性多能性幹細胞:iSCs(ischemia-induced multipotent stem cells)の略。脳梗塞などで脳の組織を養うために必要な血液が回らなくなると、脳機能が傷害され脳細胞は死に至ります。その際、失われた組織を修復し、再生させるために「iSC細胞」が生み出されることを、兵庫医科大学 先端医学研究所 神経再生研究部門 教授の松山知弘と准教授の中込隆之が中心になって平成27年に発見しました。』

左をクリックすると、「iSC細胞」による研究についてのページが表示されます。

極めて画期的な研究だと驚きましたが、添付されている図の中には「Neurovascular unit」と「ペリサイト」とあり、まずはこの2つを調べることにしました。
調べたのは、3つの論文と「人体の正常構造と機能」という本です。3つの論文は古いものから「脳ペリサイトの重要性と脳血管障害における役割」、「脳血管ペリサイトの生理的役割と脳虚血応答」、「脳梗塞病態における周皮細胞の挙動とその重要性」になります。なお、1番新しい論文はPDF資料として添付させて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「iSC細胞とは」(兵庫医科大学 最新情報)

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脳梗塞病態における周皮細胞の挙動とその重要性.pdf
PDFファイル 3.4 MB

神経細胞から神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)へ
・脳機能は神経細胞によるものであり、脳血管障害においても神経細胞に対する保護薬の開発が数

 多く試みられてきましたが、多くの薬剤の開発が失敗に終わっています。
 そこで、神経細胞だけに注目するのではなく、これを支える周囲の細胞、すなわち、アストロサ

 イト(星状膠細胞)、血管内皮細胞、ペリサイト(周皮細胞)を含めて一つの単位としてとらえ、

 これらを一体として保護・修復する方策をとる必要があるという考え方が出てきました。
 この一つの単位のことを、神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)と呼んでいます。
・これらの細胞は互いに密接かつ複雑に関わっており、血液脳関門や微小循環の調節など多彩な脳

 機能の維持を担っていますが、なかでもペリサイト(周皮細胞)は内皮細胞を被覆して血管を物

 理的に安定化させるだけでなく、内皮細胞と相互に作用し、微小血管の成熟、安定化、血液脳関

 門の維持などに重要な役割を果たしています

 

 

左上に神経細胞、下方に星状膠細胞(アストロサイト)、この図には記載されていませんが、毛細血管の構成要素として、内皮細胞、周皮細胞(ぺリサイト)があり、神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)を含んだ図であると言えます。

画像出展:「人体の正常機能と構造」(日本医事新報社)

ペリサイト(周皮細胞)の特徴
・ペリサイトは間葉系の細胞であり,大~中サイズの動脈血管壁に存在する平滑筋細胞から移行

 し、全身の細小動脈→毛細血管→細小静脈レベルにおいて内皮細胞を覆うように存在する血管壁

 細胞です
・細小血管における内皮細胞に対するペリサイトの存在比率は臓器によって大きく異なっており、

 例えば骨格筋では内皮細胞100に対してペリサイト(周皮細胞)1程度しか存在しませんが、脳お

 よび網膜では内皮細胞1に対してペリサイト(周皮細胞)1の割合で存在しています。
・加齢、高血圧・糖尿病などの生活習慣病では、しばしばペリサイト機能が減弱化していると考え

 られています。
・ペリサイトはNVU(神経血管単位)の保護や修復過程において中心的な役割を果たしている可能

 性が考えられ、脳虚血や認知症など種々の中枢神経疾患に対する新たな治療標的として期待され

 ています。


周皮細胞となっているものがぺリサイトです。右は血液脳関門であり、星状膠細胞(アストロサイト)の突起で覆われています。また、基底膜の下がタイトジャンクションになっています。

画像出展:「人体の正常機能と構造」(日本医事新報社)

脳梗塞時における血液脳関門の維持と修復
・血液脳関門は脳の毛細血管ですが、内皮細胞の小孔(窓)が少なく、表面は星状膠細胞(アスト

 ロサイト)の突起で覆われています。また、内皮細胞間もタイトジャンクションを形成してお

 り、血液と脳の間の物質移動が制限されます。水、酸素、二酸化炭素は容易に通過できますが、

 ナトリウムイオンなどの電解質は通過しにくく、脳の重要なエネルギー源であるグルコースは、

 グルコース輸送体を介して通過します。このようにして、中枢神経系の神経細胞を取り巻く環境

 は、血液脳関門により一定に保たれます。また、生体内外からの様々な毒素から脳を守ることも

 しています
・脳梗塞発生時はいかに血液脳関門の破綻を最小限にとどめ、速やかに修復できるかが重要な課題

 となります。
・血液脳関門の破綻が長く続くと、血管内物質の漏出により組織障害が進行するため、脳梗塞は拡

 大悪化し、出血性変化も伴いやすくなります。
脳梗塞発生時にどの程度ペリサイトが健全な状態にあったか、そして、傷害発生後はいかに速や

 かにペリサイトを内皮細胞周囲に動員させ血液脳関門を維持・修復できるかが重要になります

 

まとめ
・急性脳虚血のみならず認知症を含む種々の中枢神経疾患において、血液脳関門・NVU(神経血管

 単位) の機能維持は極めて重要なものです。加齢や生活習慣病によりペリサイトの機能破綻から

 血液脳関門・NVU(神経血管単位)の機能破綻が生じることが明らかとなっています。

 また、近年は加齢・生活習慣病と認知機能低下の関連が力説されるようになってきましたが、

 これらを神経細胞ではなく、NVU(神経血管単位) の視点から捉えることが重要です。

・鍼灸治療の直接的効果を明らかにすることはできませんが、東洋療法学校協会のサイトに掲載さ

 れている「鍼灸は何故効くのですか?」の回答にあるように、鍼灸は循環系と神経系に作用する

 ものなので、ぺリサイトとNVU(神経血管単位)にとってプラス要因に働くものと思います。

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