「肉離れ予防に必要だったこと」

今回のブログは、この「月刊トレーニングジャーナル 2017 1 No.447」の特集の中から「肉離れ予防に必要だったこと -正確な把握と適切な対策、伝える努力」を取り上げています。

ケガの予防に必要なこと
「トレーニングジャーナル」

特集は全部で4つあり、他は「予防の考えを浸透・継続させる取り組み」、「予防できる環境を整えるために」、「育成時代のコンディショニング」になります。

「肉離れ予防に必要だったこと」を選択したのは、何といっても、私自身が散々肉離れとおつきあいしてきたという経緯があり、非常に興味深く、また多くのスポーツ関係者にとって役に立つものと考えたためです。記述は特に印象に残った部分を列挙する形式とさせて頂きました。
筆者は内藤重人氏、読売巨人軍二軍トレーニングコーチ兼医療コンディショニング副室長です。関係者を巻き込んだ、緻密な調査・分析に基づいた素晴らしい内容となっており、実際に肉離れによる戦線離脱者の激減に成功されています。


1.障害予防マニュアルの作成
・2015年シーズン、春季キャンプ中の2月16日から6月16日までの約4ヶ月間に、一軍選手9名(11
件)、二軍選手3名(4件)の肉離れが発生し、これが戦力ダウンに結び付いた。
・現場、球団の上層部から、予防のための教科書になるようなマニュアル作成の依頼があった。
・春先のケガは野球に限らずどのスポーツにも起きる。原因がわかれば予防できると考えた。
・マニュアルを作成するにあたり、選手のコンディショニング及び障害予防に携わるスタッフであ
るトレーニングコーチ、理学療法士、トレーナーがそれぞれどんな考えを持っているのかをヒアリングした。
・なぜ肉離れは起きたのか、なぜ野手なのか、なぜシーズン序盤なのかをキーワードに原因を探った

・スポーツ医科学に関するさまざまな情報を集めるため、JISS(国立スポーツ科学センター)、病院
、大学、さらに日本肩関節学会、JOSKAS(日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会)、日本整形外科スポーツ医学会、日本臨床スポーツ医学会などから、症例や論文など大変参考になる情報を頂いた。

読売ジャイアンツ
「太もも・ふくらはぎ肉離れ予防マニュアル」

このマニュアルは、ユニフォームのポケットに収まるサイズになっているそうです。(素晴らしい!)

2.肉離れとは何か
・マニュアル作成を始めてから月に数回「C(コンディショニング)会議」を開いて、球団フロン
トを含む5~6名で昨年の肉離れ発生原因を検証した。
・実は、肉離れの定義が難しく、そのため治療や評価のノウハウが曖昧な状況だった。そして、定
義を考える上で、肉離れのMRI画像から専門医は何を診るかということが参考になった。特に出血像が重要になるが、出血像の多少と重症軽症を安直に結びつけるべきでなく、出血像が少ないからといって安易に復帰させるべきではない。
・肉離れの定義は、二関節筋を中心とした羽状筋で、筋腱移行部に起こりやすい筋膜・腱膜の損傷
であると考えている。
・肉離れの定義を限局して考えることにより、その対処法を明確にするという根本をおさえるこが
、予防に取り組むうえでも大事である。このことが今回一番の収穫だった。


3.野球の特性を踏まえて
・攻守交代は身体を冷やすことになる。肩については何度か送球して準備するが、下肢に対する準
備は不足しがちであり、ケガをしやすい要素をもっている。
・今回の検証から、肉離れは複合的な問題で起き、何か単一の原因を突き止めるのは難しいという
ことが分かった。
・下腿(腓腹筋、ヒラメ筋)の肉離れは加齢との相関が高いことが報告されている。
・ハムストリングスの肉離れに関して、走塁の局面ではファーストベースを駆け抜ける際に足を大
きく伸ばし強く踏み込むので、股関節屈曲・膝伸展で体幹は回旋(股関節内旋)という肉離れが起きやすい状況になる。
・野球選手は疾走距離が長くても前傾姿勢のまま走ることが多いが、地面を押す局面(走り方)ば
かりでスピードを上げようとすると、肉離れは起きやすい。投げる距離によって投げ方が変化するのと同じように、走る距離によって走り方も変わることを理解する必要がある。投げる動作と同様に、走る動作も個々の走技術の特性を理解して、画一的でない指導が必要である。


4.トレーニング、食事改善による予防
・肉離れの件数は2015年の11例から、一軍では2例に、二軍では0になった。(目標は、マニュア
ルの冒頭の「肉離れ ゼロへ」)
・トレーニングでは、スパイクでの全力疾走、方向を変えるアジリティ、ストレッチショートニン
グサイクルで下腿部に刺激を入れるジャンプトレーニングという、全力疾走・アジリティ・ジャンプという3つの要素を取り入れた。実施はウォームアップ直後に入れた。
・食事改善では、電解質の確保のため水分補給はスポーツドリンク、カフェインを含む緑茶は避ける
。体脂肪はリスクファクターになるため、キャンプ中の食事の献立はホテルと協力して考える。また、寮や練習場などでの食事の献立も見直している。


5.ケガにつながるものは私生活まで網羅
・障害予防は、選手や医療スタッフを含め、現場にいるすべての人の仕事である。なぜなら、ケガ
の原因は現場にいる人間しかわからないためである。
・試合時の気温・湿度・気候や練習量、また長距離移動した直後だったかなどの状況を見落とさな
いことが重要である。
・選手の体調や日々変わるので、それを選手が自覚できるか。今の疲労や身体コンディションをど
う考えるかが重要であり、マニュアルにはシーズン以外についても書かれており、ストレッチやトレーニング、食事、睡眠、入浴、メンタルなどすべて網羅している。
・ちょっとした不調なら自ら治す能力が人間にはあるが、煙草やアルコール、カフェイン、ファス
トフード、不規則な生活は体調を崩す。選手自身の私生活が悪ければ成功にはつながらない。セルフコンディショニングが重要となる。