前庭系と筋緊張

このテーマを取り上げた理由は2つあります。

1つは前庭系には頚部と背部などの抗重力筋(姿勢維持に関与している筋群)を緊張させるメカニズムがあることです。これは筋肉の硬結に対して施術を行なう鍼灸治療にとって非常に重要です。
そして、もう1つは前庭系が触覚系や体性系とともに小児の脳性麻痺に大きく関わっているためです。後者については、週2日勤務で現場に入っている「訪問鍼灸・マッサージ」のプラナ治療院が小児障害児マッサージのサービスを提供することになり、そのための講習を受けているという背景があります。

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なお、ブログは前庭系を理解するために自己学習した内容のご紹介という感じで、ほとんどは「新・感覚統合法の理論と実践」と「人体の正常構造と機能」に基づいています。


前庭系の最大の仕事は、頭の位置や動きに合わせて抗重力筋の緊張を調節し、適切な姿勢とバランスを維持することですが、ほとんど無意識で行われるため、回転動作や激しい加速を受けるような状況以外は意識に上がるようなことはありません。以下、添付された図の番号に沿ってご説明します。

     「新・感覚統合法の理論と実践」の図を一部加筆させて頂きました。

①前庭神経核
前庭神経核は外側核、内側核、上核、下核に区分けされていますが、前庭器の種類と明確に対応しているわけではありません。内側核と上核は主に半規管からの入力が強く眼球運動核へ出力を送ります。また、内側核は更に頚髄に出力しています。外側核と下核は半規管と耳石器からの入力を受け、主に脊髄へ出力を送ります。


②抗重力筋の緊張の調節
前庭系の第一の働きは、頭の位置や動きに合わせて抗重力筋の緊張を調節し、適切な姿勢とバランスを維持する土台を作ることです。この働きには、前庭神経核から脊髄に下行する前庭脊髄路が関与しています。これには外側と内側の二つの経路があり、外側前庭脊髄路は主に伸筋(抗重力筋)を収縮させ、屈筋を弛緩させるように作用します。一方、内側前庭脊髄路は頚の筋肉のコントロールに関係しています。

筋緊張の調節は自動的に行われ、前庭脊髄反射と呼ばれています。また、前庭系は全身の筋に一定の緊張を与えるように作用しています。


③姿勢・平衡・運動の自動調節
我々は日常生活において、特に意識することなく体のバランスをとり、思ったように運動を行っています。これは大脳皮質の運動野から出発し、意図的な運動を指令する「錐体路系」と、錐体路系以外の領域で、それぞれが関係性をもち、意図的運動をスムーズに行うために細かな調節を行う「錐体外路系」があります。前庭系も小脳を介して関係性をもっており、姿勢と平衡、運動の自動的な調節に寄与しています。なお、錐体外路系は解剖学的に特定の部位を指すものではなく、近年では「錐体外路系」という呼び方に疑問が投げかけられています。


④眼球の動きの自動調節
前庭系の第三の働きは、頭の傾きや動きに合わせて、目の動きを自動的にコントロールすることです。歩きながらビデオ撮影すると画面がブレてしまいますが、我々が歩いたり、頭を回したりしても景色がブレたり流れたりすることはありません。これは、前庭受容器と首の固有受容器からの情報が視運動系に送られ、頭の動きに応じて目の動きを補正しているからです。前庭系は、いわばビデオカメラの手ブレ防止装置のような役割を果たしているといえます。


⑤覚醒への影響
大脳皮質の覚醒をコントロールする脳幹網様体には、あらゆる感覚情報が流れ込んでいます。流入する感覚刺激の質と量によって網様体の活動は変化し、その変化は大脳皮質に伝えられて意識水準が調整されます。前庭感覚の情報は興奮性にも、抑制性にも強く働き覚醒に影響を与えます。前者の興奮性は遊園地の回転性の乗り物であり、後者の抑制性は暖かく気持ちの良い日に電車の座席で揺られているような場合です。


⑥自律神経系への影響
前庭神経核から網様体を経由して自律神経核群にも情報を送っています。前庭系と自律神経系の密接な関連は、乗り物酔いからも明らかです。前庭受容器からの刺激は心拍数の増加、冷汗、吐き気、嘔吐などの自律神経症状をもたらします。これらは前庭自律神経反射と呼ばれています。

 

鍼灸治療における局所治療のポイント

抗重力筋を収縮させ、頚の筋肉をコントロールし、全身の筋に一定の緊張を与えるということは、前庭系に起こった異常は不必要な筋緊張の原因になると考えられます。また、前庭神経核は自律神経系にも影響を及ぼしており、非常に重要な治療ポイントです。ツボは翳風(えいふう)を第一選択と考えます。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ中央、耳たぶの下にあるのが翳風(えいふう)になります。

画像出展:「経絡マップ」医歯薬出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらも中央付近のツボが翳風です。近くに副交感性の迷走神経、舌咽神経が通っています。

画像出展:「経絡マップ」医歯薬出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「経絡マップ」医歯薬出版

 

上記の表は左から「神経の名称」ー「支配の領域」-「相関の経穴」になっており、中段下方に「内耳神経」があります。(知)とは知覚性をさしています。内耳神経は前庭神経と蝸牛神経から構成されています。そしてピンク色にマーカーされているのが、前庭神経と「相関の経穴」欄にある5つの翳風ですが、この5つの中で顔面神経、舌咽神経、迷走神経は、(混)混合神経であり、知覚性・運動性・自律神経の副交感性をもった神経です。このように翳風というツボは、自律神経の副交感神経に対しても広く効果を及ぼすことが可能であり、自律神経を意識した施術を行う場合に特に重要なツボとなります。