腰痛

概要
腰痛には筋肉や関節によるものではなく、内臓疾患が原因で発生するものがあります。確率的には内臓疾患による腰痛は、全体の1%程度であるという指摘があり、決して多いとは言えませんが、生死に関わる重大疾患もあり、まず最初に考えなければならないものとなります。
腰痛の原因となる主な内臓疾患には次のものがあります。
・尿路結石、膀胱炎、腎盂腎炎、胃潰瘍、十二指腸潰傷、慢性胃炎、胆嚢炎、慢性膵炎、腹部大動脈瘤、塞性動脈硬化症、子宮筋腫、月経困難症、インフルエンザなど
大切なことは、どのように内臓疾患による腰痛を見分けるか、鑑別するかということになります。
そのポイントは2つです。それは「どんな姿勢でも安静にしていても痛む」そして「症状は徐々に悪化する」というものです。シクシクと痛い胃痛は内臓の痛みです。じっとしていても痛い、座っていても痛い、何をしていても胃が痛い、これが内臓痛の特徴です。つまり、じっとしていても、座っていても、何をしていても「腰」が痛いという状態であれば内臓疾患による腰痛が疑われます。直面している痛みの性質がこのような腰痛で、しかも徐々に悪くなっているとすれば、まずは病院で診察されることをお勧めします。

 

ポイント
1.腰痛はまず、内臓などの筋肉以外によるものかどうかを考えます。
2.どのような姿勢、動作で痛みが出るのか、増強されるのか確認します

  (筋肉を特定します)
3.筋肉の問題が主である場合は、その腰痛が急性か慢性か、女性型か、肝

  型か腎型かを検討します。
4.その痛みが原発なのか関連痛なのかを考えます。

 

補足説明
腰痛の治療にあたり4つの視点で考えます。
1.急性腰痛と慢性腰痛
 ・急性腰痛
  ・急性腰痛の原因は腰椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間関節捻挫などもあります

   が、圧倒的に多いのは筋肉の問題ですので、ここでは筋肉による急性腰痛

   (筋・筋膜性腰痛)を取り上げます。NHKの番組でも取り上げられた

   トリガーポイントはこの筋・筋膜性腰痛を引き起こす黒幕的存在とい

   えます。トリガーポイントは特定の筋肉の収縮や伸張、あるいは外傷

   などによってできる微小な損傷部位に、動作の繰り返しや同じ姿勢の

   維持などの負荷が続き、血液不足から筋肉が虚血状態となってトリガ

   ーポイントが形成されると考えられています。
   さらに、現在ではそれは筋硬結というとらえ方だけではなく、皮膚、

   皮下組織あるいは筋膜、筋、腱、骨膜といった様々な軟部組織でトリ

   ガーポイントは起こるという発見から、侵害受容器(痛みや熱さなど

   を感じ取るためのセンサーのような装置)であるポリモーダル受容器

   が感作(刺激により過敏反応状態になること)されたものがトリガー

   ポイントではないかという説も出ています。
   筋・筋膜性腰痛が、トリガーポイントへの刺激により活性化し発生す

   る場合、その刺激は、「重い荷物などを急に持ち上げた時」、「何か

   の作業などで中腰の時間が長かった時」、「不用意に咳や大きなくし

   ゃみをした時」、「長時間、不自然な姿勢後に体勢を変えた時」、

   「背負っていた重い荷物を降ろした時」などがあげられます。
   トリガーポイントが活性化した状態になると、筋肉は筋スパズムと呼

   ばれる状態になります。これは筋攣縮と呼ばれるものですが、いわゆ

   る痙攣のようなピクピクするようなものではなく、筋肉にずっと力が

   入ったままのような状態で、硬く緊張し特に伸ばすと強い痛みがさら

   に増強され、そして筋力は低下します。以上が急性の筋・筋膜性腰痛

   のメカニズムです。
  ・所見はゼリー状の硬結が出ており、その周りは冷えています(虚血

   状態)。

   さらに痛みをかばいその外側の部位に痛みが出ています(遠隔地に発

   生した二次被害のイメージです)。30%でも改善できれば歩いて帰れ

   るので、治療はやり過ぎないように注意します。
  ・治療は離れた場所から開始します
   ・波及した痛みの箇所(二次被害地)に置鍼、単刺(刺鍼して、すぐ

    に抜きます)
   ・鍉鍼でちらす(鍉鍼は刺さない金属棒のもので、患部を撫でたり軽

    く圧したりします)
   ・炎症部(一次被害地)の周りから瀉法(熱を取る目的で即刺即抜の

    手技です)

      
 ・慢性腰痛
  ・慢性腰痛は痛みが3ヶ月以上続いているもので、一般的に重だるい痛

   みとして感じる場合が一般的です。食事、睡眠、適度な運動は、良好

   な血液循環を産みだし、体の各組織や臓器に酸素と栄養素を運び、不

   用になったものを回収し、体をリフレッシュした状態に維持してくれ

   ます。

   一方、この血液循環は生活習慣の乱れや強いストレスなどの影響によ

   り悪化すると、体の修復作業が適切に行われなくなります。さらに筋

   肉への負荷が高い状態のまま続く場合は、ますます筋肉の疲労はとれ

   ず、その結果、慢性腰痛となります。
   内臓の病気による腰痛があることは冒頭でお伝えしましたが、逆に慢

   性腰痛が原因で臓器の病気を発生させることもあるため、慢性腰痛に

   は気をつけなければなりません。
  ・背部に線状、円状、丸い硬結を探し、硬結が深い場合はその深さに刺

   入します。
  ・運動鍼(痛い姿勢の状態で3~5本刺鍼し、施術者が動かします。患者

   さまは力を抜きます)がよく効きます。


2.肝型腰痛と腎型腰痛(硬結の場所と形状による分類)
 ・肝型腰痛
  ・丸い硬結が志室(腎臓付近にある経穴)、あるいは腸骨稜に出ます。
  ・本治は肝経を考えます。
  ・運動開始時痛が多くみられます。
  ・浅い鍼+運動鍼
   ・置鍼は硬結の表面もしくは少し侵入させる程度、決して貫くような

    深い鍼は行いません。
   ・単刺は表面を砕き、徐々に小さくするイメージで行います。
  ・その他
   ・志室辺りに仮骨ができやすいのが特徴です。(仮骨とは筋肉にカル

    シウム沈着した不可逆的変性)


 ・腎型腰痛
  ・線状の硬結が肋骨弓から斜めに出ます。あるいは面状の硬結が腸骨陵

   下部付近に出ます。
  ・本治は腎経を考えます。
  ・同じ姿勢を長時間続けているとじんわり痛くなるという特徴があります。
  ・深い鍼+運動鍼または透熱灸(直接皮膚にのせるタイプのお灸)
   ・深い場所に硬結があるので、鍼も深く硬結に当たるように刺入します。
   ・お灸は3壮(3回)が目安です。 
  ・その他
   ・デスクワークを長時間やっている人が多いので、脊柱起立筋が全体

    的に硬い腎型の人が今の時代は非常に多くなっています。


3.女性型腰痛
  ・第4、第5腰椎を中心に腸骨稜、殿部、鼡径部から背部(第1、第2腰

   椎)にかけてのラインに圧痛、硬結がみられます。
  ・先天性股関節脱臼は女児に多いのですが、これは男性に比べ女性は股

   関節の接合部が構造的に弱いためです。また出産経験者であれば骨盤

   や股関節に問題をもっている場合もあります。さらに家事や育児は繰

   り返す動作が多く、特定の筋肉に負担が多くなる傾向があります。ま

   た、変形性膝関節症は女性の方が多いという調査結果が出ています。
   このように「女性型腰痛」の治療においては腰部だけでなく、骨盤安

   定という視点から股関節や膝にも注意を向ける必要あります。筋肉

   で考えるならば、腸腰筋、中殿筋、多裂筋が重要になると考えていま

   す。

       
4.筋肉およびトリガーポイントから考える腰痛
  ・トリガーポイントとは筋の硬結でなどあり、関連痛を起こすもので治

   療点として重要です。ここでは腰痛を筋肉のトリガーポイントから考

   えてみます。
  ・腰部にある筋肉では脊柱起立筋群である胸最長筋はぎっくり腰の要注

   意筋でもあります。また、下層にある多裂筋は、ぎっくり腰に加えて、

   慢性腰痛にも大きく関わっています。これは脊柱の安定化に特に重要

   な役割を果たしているためです。いずれも脊柱の伸展に関わりますが、

   回旋に関しては逆の作用になります。胸最長筋は同側回旋で働きます

   が、多裂筋は対側回旋で働きます。つまり、右回旋で腰に痛みが出る

   場合、胸最長筋であれば同側の右側の筋肉を、多裂筋であれば対側の

   左側の筋肉が問題と考えます。

   この2筋のトリガーポイントを疑う所見としては、椅子に「深腰掛け、

   背中を丸めて座る」という姿勢があります。これは無意識に筋肉が収

   縮しないように伸ばしている姿といえます。
  ・腰部の深層にあり、肋骨と骨盤を繋いでいる筋が腰方形筋です。トリ

   ガーポイントの第一人者でケネディ大統領の腰痛を治したことで一躍

   有名になったジェネット・トラベルの著者である「トリガーポイント

   マニュアル」には腰方形筋のことを「下背部痛のジョーカー」である

   と紹介しています。働きは胸腰椎の側屈と伸展であり、腰椎の安定化

   に大きく関与しており、寝返りができない時は腰方形筋を疑います。

   また、精神的緊張や呼吸器疾患との関連性が指摘されており、そのよ

   うな問題を抱えていて、原因不明の腰痛が起こっている場合において

   は、それは腰方形筋が関わる腰痛の可能性があります。
  ・関連痛が脊柱起立筋の痛みと勘違いされやすい筋が腸腰筋です。その

   一方で、筋自体の痛みは側腹部に出現するため、に虫垂炎と間違え

   られることもあります。このため、ジェネット・トラベルは腸腰筋の

            ことを「隠れいたずら者」と命名しています。筋の働きは股関節屈曲

   であり、トリガーポイントを疑う座り方は、椅子に「浅めに腰掛け、

   踏ん反り返るように座る」という姿勢であり、これは股関節伸展の働

   きをする、脊柱起立筋や多裂筋の座る姿勢の真逆となっており興味

   いところです。
  ・骨盤の安定化に深く関係している筋が中殿筋です。その働きは股関節

   外転であり、股関節痛がある場合は中殿筋を疑います。また、ジェネ

   ット・トラベルは中殿筋をそのものズバリ、「腰痛筋」と呼んでいま

   す。座わり方の特徴は「患側の足を組んで座る」という姿勢ですが、

   これは無意識に中殿筋を伸ばすためです。

   特に座っているのが辛いような痛みの場合は、この中殿筋と多裂筋の

   問題である可能性が高く、前者による場合は腸骨稜外側部に沿った痛

   み、後者であれば、中央部に痛みが出ます。
  ・まとめ

   「下背部痛のジョーカー」である腰方形筋、「隠れいたずら者」の腸

   腰筋、「腰痛筋」の中殿筋、この3筋は見落としやすいという意味に

   おいて、治療結果を左右する重要な筋だと思います。