大殿筋と腰痛2

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

「まとめ」は”大殿筋と腰痛1”を参照ください。

 

 

 

1.大殿筋

●大殿筋の解剖

〔起始〕

後殿筋線の後方とその上部、後部の骨の一部

仙骨・尾骨の背面の近接部。仙結節靭帯

脊柱起立筋の腱膜

〔停止〕

深層:大腿骨の殿筋粗面

浅層:大腿筋膜の外側部から腸脛靭帯

〔作用〕

股関節の内転の補助。腸脛靭帯を通しての伸展時の膝の安定性向上

上部線維:股関節の外旋と外転の補助

下部線維:股関節の伸展と外旋(ランニング時や、座位から立位への移行の際の力強い伸展)。体幹の伸展

〔支配神経〕

下殿神経(L5.・S1・S2)

●大殿筋の機能

股関節を外転、外旋させることで膝関節のアライメントの調整を助ける(階段を上がるときなど)。

仙腸関節を安定させる(力拘束を担う筋肉の一つである)。

-大殿筋はハムストリングスとともに、歩行周期において重要な役割を担っている。踵接地の直前、ハムストリングスが活性され、仙結節靭帯を通して仙腸関節への圧力が高まる。このつながりが、歩行中の荷重時の仙腸関節の安定を助ける。

-大殿筋線維の一部は、仙結節靭帯と胸腰部の筋膜に付着している。この筋膜につながる筋肉の一つが広背筋である。大殿筋は反対側の広背筋と胸腰部の筋膜を通してつながっている(後部斜角スリング)。このスリングは、歩行周期における片足立ち時の体重のかかった仙腸関節への圧力を高める。

-大殿筋は後部斜角スリングとのつながりを通して、立脚前期から中期にかけての仙腸関節の安定性に大きく寄与している。 

画像出展:「強める!殿筋」

●大殿筋の機能不全と筋力低下

大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群がある。これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。

大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ、これが仙腸関節の障害につながる。また、これらの大殿筋の問題を補うため、反対側の広背筋(上腕骨と肩甲骨に付着)を緊張させる。その結果、肩関節が影響を受ける。

・大殿筋の機能不全や筋力低下によって、ハムストリングスは仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、筋肉を常に緊張状態にする。そして、このハムストリングスの緊張状態が続き、慢性化すると故障の原因となる。

●腰痛と大殿筋

腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。 

画像出展:「強める!殿筋」

”各症状の原因と考えられる大殿筋の状態”

2.中殿筋

●中殿筋の解剖

〔起始〕

腸骨稜の外側、腸骨稜の下部、前殿筋線と後殿筋線の間

〔停止〕

大転子尖端の外側面

〔作用〕

上部線維:股関節の外旋と外転の補助

前部線維:股関節の内旋と屈曲の補助

〔支配神経〕

上殿神経(L4・L5.・S1)

●中殿筋の機能

・踵接地から立脚期において骨盤維持という重要な役割を担っている。

・ランニングに関わる故障を診るときに、中殿筋を検査する必要がある。

・オーバーユースによる下肢や体幹の故障を訴える患者の多くが中殿筋の機能低下を起こしている。

・中殿筋は前部、中部、後部と3つの部位に分けることができ、それが集まってできた幅広い腱が大腿骨大転子につながる。

中殿筋後部線維は大殿筋とともに、股関節の外旋をコントロールし、歩行周期の開始時に股関節、膝、下肢のアライメントを整える役割を担っている。

・中殿筋の機能低下はシンスプリント(脛骨内側過労性症候群)、足底筋膜炎、アキレス腱障害など、慢性的な過外反に関連する故障のリスクにさらされている。 

画像出展:「強める!殿筋」

”各症状の原因と考えられる中殿筋の状態”

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左:浅層(大殿筋)

右:深層(中殿筋/小殿筋)

画像出展:「人体の正常構造と機能」

大殿筋は上から5番目です。

3.筋不均衡と筋膜スリング

・筋不均衡が生じる過程のどこかで殿筋が関係している。

・腸腰筋は常に収縮させられる筋肉であるが、不自然に収縮した状態を長時間強いられるとついにはその状態で固まってしまう。『腸腰筋の緊張は、ジグソーパズルのピースの一つであり、患者の訴える症状の重要な手がかりとなる。』

●姿勢筋と相動筋

・姿勢筋は屈筋によって構成されている。

・相動筋は伸筋によって構成されている。

画像出展:「強める!殿筋」

画像出展:「強める!殿筋」

・姿勢筋

-姿勢筋は負荷がかかると短縮する傾向を持っている。また、重力に対抗する役割を担い、姿勢保持と密接に関連している。

-姿勢筋は遅筋が優勢であり、多くは細い運動ニューロンにより支配されている。このため興奮閾値が低く、神経インパルスが相動筋より早く姿勢筋に伝わる。これにより、姿勢筋の持続的緊張状態は相動筋の働き(収縮)を阻害する。 

ブログ“ゴースト血管”では次のような記述がありました。『筋肉や体の動きによって、静脈内の血液の流れは変わる』。つまり、収縮を阻害され機能低下した筋肉の血流は悪化し虚血になる。そして血流を高めようとする発痛物質の作用で痛みが起こる。これが痛みの原因の一つと考えます。

 

・相動筋

-相動筋の主な機能は「動かすこと」であり、姿勢筋より表面にあって多関節にわたる傾向にある。

収縮して硬くなった筋肉は関連する相動筋の働きを阻害するが、その結果、相動筋は弛緩し筋力が低下する。腸腰筋[腸腰筋=腸骨筋&大腰筋]と殿筋の関係性はこれにあたる。

Study channel"というサイトに、「大腰筋と腸骨筋の機能と役割」というとても興味深いことが書かれていました。股関節屈曲の主動作筋は腸骨筋とのことです。

 

●筋不均衡の影響

・『筋不均衡を放置すれば、身体は不均衡を補完するための姿勢になり、筋骨格系への負担を増やし、組織の損傷、故障へとつながる。すると姿勢筋は縮まり、相動筋が弛緩して負のサイクルに入ることになるのだ。

・『筋肉が機能的でない場合や繰り返し負荷をかけられるとき、姿勢筋は短縮し、相動筋が弱まって「長さ」と「張り」の関係性に変化が起こる。最終的には筋肉が軟部組織や骨格の位置を変えることで、姿勢に直接影響を及ぼす。 

画像出展:「強める!殿筋」

”筋骨格系悪化の負のサイクル”

●体幹筋との関係

・骨盤、正確には仙腸関節は、安定性に影響を与える2つの主な要因である「形態拘束」と「力拘束」を有している。

・形態拘束

-寛骨(腸骨、仙骨、恥骨で構成される)と仙骨の形状(腸骨の間に仙骨がくさび石のようにはまる)により可能になる。

-平らな関節平面は関節面と平行な力に対しては弱いが、仙腸関節はその弱点を補うための3つの特長がある。それらは、仙骨が両側から寛骨により押さえされていること、他の滑膜関節とは異なり関節軟骨の表面が不規則でデコボコしていること、軟骨に覆われた骨部が関節の隆起線や溝にはまっていることの3つである。

・力拘束

形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯筋肉筋膜といった組織である。

・仙腸関節の安定性

-靭帯、筋肉、筋膜といった組織が協力して力拘束を担うシステムは、総じて「骨関節靭帯機構」と呼ばれている。

大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており、仙腸関節を安定させるのに重要な機能を果たしている。

-大殿筋は胸腰筋膜を通して反対側の広背筋につながり、後方斜角筋膜スリングを形成する。

-大殿筋の筋力低下や神経発火パターンの問題は二次的な問題として、反対側の広背筋の過活動を引き起こす。 

画像出展:「強める!殿筋」

”後部斜角スリングと広背筋とのつながり”

・仙骨の前傾(ニューテーション)と後傾(カウンターニューテーション)

-ニューテーションとは仙骨底の前下方(前傾)、カウンターニューテーションとは仙骨底の後上方(後傾)を指す。

画像出展:「強める!殿筋」

左:仙骨の前傾

右:仙骨の後傾

前傾ができないと片足時に不安定になる。

後傾は仙腸関節を緩めることで、寛骨の前方回旋と股関節の伸展を可能にする。[仙腸関節が緩まないと寛骨の前方回旋と股関節の伸展が抑制される]

後傾ができないと、腰部骨盤部が屈曲することになり、腰椎の不安定性につながる。

・力拘束靭帯

-力拘束を担う靭帯は仙骨から坐骨につながる仙結靭帯と、第3仙椎と第4仙椎から上後腸骨棘につながる後仙腸靭帯がある。 

画像出展:「強める!殿筋」

 

-靭帯はつながっている骨が動いて引っ張られるか、その骨についている筋肉が収縮することで関節への圧力を高める。[仙結節靭帯の張力は腸骨が仙骨に対して後方に動く前傾、または大腿二頭筋、梨状筋、大殿筋、多裂筋が収縮することで増大する〔大殿筋や梨状筋の機能が低下している場合、多裂筋や大腿二頭筋に負荷が集中するのではないか?〕]

-後傾を抑制する主な靭帯は、長後仙腸靭帯と後仙腸靭帯である。[後仙腸靭帯は長後仙腸靭帯と短後仙腸靭帯に分かれる。前者は仙腸関節の関節包後面を補強する靭帯で、仙骨の外側仙骨稜と下後腸骨棘をつなぐ。後者は短後仙腸靭帯を覆うようにその外側上方の靭帯で、仙骨の外側縁下部と上後腸骨棘をつなぐ]

仙腸関節が緩い場合、特に後傾に関しては水平または垂直にかかる負荷に対して骨盤が不安定になる。

-後仙腸靭帯は痛みを発することが多く、上後腸骨棘の直下で触診できる。

骨盤の安定性は靭帯だけでなく、筋組織がサポートしている。腰部、骨盤の安定に貢献している筋肉は、インナーマッスル(体幹)とアウターユニット(筋膜スリング機構)に分かれる。インナーユニットは腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋によって構成されている。アウターユニットはいくつかの筋機構(スリング)によって構成されており、インナーマッスルとアウターユニットが構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作に担っている。

・フォースカップル(偶力)

定義:フォースカップル(偶力)とは、ある物体に対して同等の力が逆の方向に働き、純粋な回旋が起こっている状態のこと。

-筋不均衡によって起こる骨盤の位置の変化は、その他のキネティックチェーン(運動連鎖)に影響を与える。骨盤の適切な位置やアライメントは、いくつかのフォースカップルが関係している。  

画像出展:「強める!殿筋」

 

画像出展:「強める!殿筋」

 

画像出展:「強める!殿筋」

 

●インナーユニット:体幹

定義:静的安定とは、構造のアライメントを崩すことなく長時間一つの姿勢を保つ能力。

画像出展:「強める!殿筋」

 

・腹横筋

-腹筋の中で最深部に位置する。

-腸骨稜、鼡径靭帯、腰椎部の筋膜、6つの下部肋骨の軟骨部に起始を持ち、剣状突起、白線、恥骨で停止する。

-腹横筋の主な作用は腹壁を引っ張り、腹部を圧縮すること。脊椎を屈曲するわけでも、伸展するわけでもない。

直接側屈する役割は持たないが白線を安定させることで、体幹前側と横側の筋肉(内腹斜筋、外腹斜筋)の働きを支えている。

-吸気中、腹横筋が横隔膜の腱中心を引き下ろし、平らになると、胸腔は縦に伸び、腰部の多裂筋は圧縮される。

・多裂筋

-第5腰椎より下にわたる筋線維は腸骨と仙骨に付着する。

-多裂筋は連続する細かい筋肉で、表面部のものと深部のものに分けることができる。

-腰椎の屈曲や腰椎間にかかる剪断力に抵抗することに加え、腰椎の安定のために重要な伸展の役割を担っている。

-体重を椎骨全体で支えることで、椎間板への負担を減らす役割も持つ。

表面部分の多裂筋は脊柱を真っすぐに保つ働きを持ち、深部の多裂筋は脊椎の全体的な安定性に貢献している。

-『Richardson, C. らの研究(1999)は、腰部多裂筋と腹横筋が腰痛の安定性の要であることを証明した。これらの筋肉が胸腰筋膜とつながり、Richardson, C. らの言う「腰痛対策の自然な深部筋肉コルセット」(a natural, deep muscle corset to , deep muscle corset to protect the back from injury) となる。』

ご参考:Richardson, C., Jull, G., Hodges, P., and Hides, J. 1999. Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low back pain: Scientific Basis and Clinical Approach, Edinburgh: Churchill Livingstone. (翻訳書 「脊椎の分節的安定性のための運動療法:腰痛治療の科学的基礎と臨床」 エンタプライズ,2002)

 

左をクリック頂くと、PDF4枚の資料がダウンロードされます。こちらの論文にも骨盤と多裂筋の関係が書かれています。

〔目的〕体幹と骨盤の動きを必要とする座位に着目し、骨盤の傾斜角度の違いが背筋群の筋活動に与える影響を検討した。

〔対象〕腰痛の既往のない健常成人男性10名。

〔方法〕測定肢位を骨盤軽度後傾位(以下後傾位)と骨盤軽度前傾位(以下前傾位)とし、課題を安静座位と腹部引き込み運動とし、肢位と課題の組み合わせの4 条件下での腰部脊柱起立筋と腰部多裂筋の筋電図を導出した。課題間の比較は、一元配置分散分析後,多重比較検定を実施した。

〔結果〕安静座位と腹部引き込み運動の課題において、多裂筋の筋活動は後傾位に対し前傾位で有意に増加したが、脊柱起立筋の筋活動に有意な差はなかった。これは骨盤前傾作用として多裂筋の筋活動が増加したと考える。

〔結語〕前傾位は脊柱起立筋の筋活動を有意に増大することなく、選択的に多裂筋の筋活動を高めることができる姿勢と考える。

-腰仙部の多裂筋は収縮すると、後方に胸腰筋膜に沿って広がる。この作用は腹横筋が収縮し、胸腰筋膜を脊柱起立筋と多裂筋に引き寄せることで強まり、体幹の安定性を高める。

画像出展:「強める!殿筋」

 

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

・アウターユニットの力拘束は後縦、側面、前面、後斜という、4つの筋スリング機構から成り立っている。  

画像出展:「強める!殿筋」

 

画像出展:「強める!殿筋」

 

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

・アウターユニットの力拘束は後縦、側面、前面、後斜という、4つの筋スリング機構から成り立っている。  

これらの筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらのうちのどれかが弱いと、機能不全が起こり腰痛につながる。

・スリングには起始停止という考えはなく、力を伝導するのに応じたつながりという考え方に基づく。

・スリングとは、すべてをつなげている一つの筋膜機構内の各部分を指す。特定動作のスリングはあくまでその一つの大きな筋膜機構の一部である。

スリングのどの部分で動きが制限され安定性に支障を来しているのかを理解するために、筋肉の機能不全(筋力低下、不適切な活動、緊張)の箇所を見極め、治療することが重要である。

アウターユニットの4つの機構が効果的に機能するためには、インナーユニットによる関節の安定性が必要である。

-アウターユニットが機能するために必要な身体の安定性をインナーユニットが十分につくられていない場合、筋肉のアンバランス、関節の故障、パフォーマンスの低下につながる。

●悪い姿勢

・痛みと攣縮[痙攣性の筋収縮]のサイクル

-『姿勢の問題による初期の痛みの原因は、虚血である。筋肉への血流量は筋収縮の程度に反比例し、50~60%の収縮で血液量はほぼ0にまで落ちる。慢性的に10%を超える等尺性収縮[一定の姿勢で動かない抵抗に対し筋肉を収縮させること]の状態だと、身体が恒常性を保てなくなるという研究もある。

頭の重さは体重の約7%(肩と腕が約14%)である。例えば体重80㎏の人であれば、頭の重さは5~6㎏程度である。もし頭と肩が理想的な姿勢から前方に突出した場合、頚部伸筋の過活動につながり、結果として血流が低下する。慢性的な等尺性収縮は筋肉に嫌気性代謝を強いることになり、乳酸やその他の痛みの原因となる物質[ブラジキニン、プロスタグランジンなど]を増加させる。適切な休息を取らないと、すでに虚血状態の筋肉の反射性収縮が始まる。そうなると、痛みと攣縮のサイクルという悪循環に陥ることとなる。』 

画像出展:「強める!殿筋」

 

大殿筋と腰痛1

思ったように施術の効果が上がらない患者さまがおいでです。腰痛に加え、お尻(殿筋)から太ももの裏(ハムストリングス、特に大腿二頭筋)の痛みも訴えられていました。

腰痛の場合、殿筋に関しては腰痛との関連が強いとされる“中殿筋(小殿筋)”や坐骨神経との関係が深い“梨状筋”に対しては、ほぼ定番のように刺鍼しています。しかしながら、今回は結果が出ていませんでした。

「これは、もしかして大殿筋なのかなぁ?」との思いから、ネット検索してみると、腰痛とお尻の筋肉に関するサイトが数多く出てきました。以下はその一部です。

画像出展:「TENTIAL」

こちらのサイトは理学療法士の安田智彦先生が監修されています。

画像出展:「腰痛トレーニング研究所

画像の方をクリック頂くと、“サライ.jp”にある川口陽海先生の“腰痛改善教室”のページに移動します。

なお、川口先生のサイトに掲載されている“トリガーポイントの図”ですが、“The Trigger Point & Referred Pain Guide”というサイトには全部で 111の筋肉のトリガーポイントが紹介されています。(Googleの右上の“翻訳”が便利です)

こちらのイラストは、「トリガーポイントマニュアル」という本に掲載されてるものです。初版発行が1992年と古いため内容的には一部見直しが必要な個所もあるようですが、まさに“トリガーポイント”のバイブル的存在の本です。ちなみに、私が見たときは、ヤフーオークションで全巻4冊セットが“¥150,000即決”として出品されていました。

なお、これらの本は国会図書館や都立中央図書館で閲覧、コピーが可能です。実は、私も10年近く前に腰痛に関係しそうな筋を中心にせっせとコピーを取っていました。

そこで、今回はそのコピーを引っぱり出し、興味深い箇所をご紹介させて頂きます。 

画像出展:「Amazon

症候

●ほとんどの大殿筋TrPs(トリガーポイントのことですが、イラストに合わせ“TrP?”を使っています)から放散した痛みは、特に前方屈曲姿勢で上り坂を歩くことにより悪化する。

●坐骨結節近位のTrP2をもつ患者は、座った時にしばしば不快と不安を感じる。

TrP3(坐骨結節内下方)から放散した尾骨痛を訴える患者は、長時間座っている間に、局部圧痛およびTrPsの圧迫で生じた関連痛を避けようと、もじもじ身をくねらせることもある。

●坐骨結節を被う結合組織と皮膚は、長時間の直立位の後に不快な虚血状態となる。

●圧迫を回避するための動きに伴う荷重はTrP2を増加させる。

●大殿筋のTrPsは着座姿勢を避ける。椅子は快適なものではない。

●鑑別診断(大殿筋・中殿筋・小殿筋) 下図8.5参照

大腿部への痛みの放散は、大殿筋のTrPsは大腿部近位の数cm程度である。一方、中殿筋のTrPsでは大腿中間部に痛みを放散することもある。また、小殿筋のTrPsは膝の下に痛みを放散する。

・大殿筋の緊張は股関節の屈曲を制限し、中殿筋、小殿筋は股関節の内転を制限する。

・大殿筋のTrPsによる放散する圧痛は、下層の中殿筋、小殿筋のTrPsの検出を難しくさせる場合がある。

大殿筋は仙骨に付着する筋の一つで、通常、仙腸関節のずれがTrPsの活性化の原因になる。

トリガーポイントの活性化と永続化

●転倒を防ごうと激しい筋収縮を維持するときにTrPsの活性化が起きやすい。

●片側の殿筋を直接強打する衝撃は大殿筋のTrPsを活性化するおそれがある。

●前屈みで長時間歩くことは大殿筋を過負荷にする。

●大腿を深く曲げ、横向き眠ることは上層の大殿筋を過度に伸展させ、TrPsを活性化する。

●大殿筋のTrPsを永続化する代表的な運動は股関節の伸展に加え、腰椎を過伸展させる水泳(クロール)である。

頻繁に屈んだり、赤ちゃんを囲いから外に持ち上げるような反復動作は大殿筋のTrPsを永続させる。

同じ姿勢で長時間座っていることは大殿筋のTrPsを永続させる。

関連のトリガーポイント

中殿筋後部は大殿筋TrPsと関連してTrPsが最も発生しやすい。また、小殿筋後部およびハムストリングス(膝屈曲筋群)は、中殿筋後部の次に影響を受けやすい筋である。

●大殿筋の拮抗筋である腸腰筋、大腿直筋にもTrPsが生じることもある。 

画像出展:「トリガーポイントマニュアル」

図8.5になります。

 

そして、4回目の施術の時、大殿筋のトリガーポイントを意識して刺鍼してみました。すると、翌週ご来院頂いた時には、ピーク時の痛みを10とすると7ぐらいになったとのお話で、初めて確かな手応えを感じることができました。

大殿筋も腰痛にとって重要な筋肉ということが分かり、「勉強しないといけないなぁ」との思いから、見つけたのが今回の『強める! 殿筋 -殿筋から身体全体へアプローチ-』という本です。殿部の筋肉は骨盤を支え、身体のバランス維持に力を発揮するとのことです。そして、次の言葉が印象的でした。

『(第5章では)大殿筋に焦点を絞り、この筋肉がどのように患者やアスリートに多い問題、とりわけ腰痛とかかわってくるかについて話したい。大殿筋は、私がこれまで会ってきたほとんどの治療家に軽視されているように感じる。その理由は恐らく、大殿筋自身が痛みを発することが滅多にないからであり、それにより、このすばらしく機能的な筋肉は無視され続けてきたのである。 

著者:John Gibbons

監訳:木場克己

発行:2017年1月

出版:医道の日本社

 

ブログはまず目次をご紹介していますが、今回は目次に沿った内容にはなっておらず、全体的にもスッキリ感が乏しいため、最初に大殿筋を中心とした“まとめ”を書くことにしました。また、長くなったため3つに分けました。『 』は引用、少し小さい[ ]および〔 〕は私が追記したものです。

Contents

監訳者のことば

まえがき

謝辞

第1章 身体各部とつながる大殿筋

●ケーススタディ

・評価

・ホリスティック(全身的)なアプローチ

・大腿筋の機能

・つなぎ合わせる

・治療法

・予後と結論

第2章 筋不均衡と筋膜スリング

●姿勢

●姿勢筋と相動筋

・姿勢筋

・相動筋

●ストレッチ前後の筋活動

●筋不均衡の影響

●体幹筋との関係

・形態拘束

・力拘束

・仙腸関節の安定性

・仙骨のニューテーションとカウンターニューテーション

・力拘束靭帯

・フォースカップル(偶力)

●インナーユニット:体幹

・腹横筋

・多裂筋

・「油圧増幅器」

●アウターユニット:統合筋膜スリング機構

●悪い姿勢

・矢状面で見た姿勢変位

・痛みと攣縮のサイクル

第3章 殿筋と歩行周期

●歩行周期

●踵接地

●筋膜のつながり

●骨盤の動き

第4章 脚長差と過外反 ― 殿筋による影響

●脚長差のタイプ

●検査

●足と足首の位置

●構造性短下肢と骨盤の関連性

●構造的脚長差と体幹、頭部との関連性

●脚長差と歩行周期

・腸腰筋の補正のまとめ

・仙骨と腰椎の補正のまとめ

●過外反症候群

●脚長差と殿筋

●立位バランス検査

第5章 大殿筋の機能解剖学

●大殿筋の解剖

●大殿筋の機能

●大殿筋の検査

・股関節伸展時神経発火パターン検査

●ケーススタディ

・運動歴

・検査時において

・大殿筋神経発火パターン検査

・治療

●結論

第6章 中殿筋の機能解剖学

●中殿筋の解剖学

●中殿筋の機能

●中殿筋の検査

・股関節外転時神経発火パターン検査

・中殿筋前部、後部筋線維の筋力検査

・中殿筋後部筋線維の筋力検査

第7章 マッスルエナジーテクニック

●マッスルエナジーテクニックの有用性

・過緊張状態の筋肉の正常化

・筋力低下した筋肉の活性化

・筋肉が伸長するための準備

・関節可動域の改善

●生理学からみたマッスルエナジーテクニックの効果

●マッスルエナジーテクニックの適用方法

・「バインドの位置」または「制限バリア」

・手順

・急性期と慢性期

●PIR vs RI

・PIRの例

第8章 原因としての拮抗筋 ― 腸腰筋、大腿直筋、内転筋群の重要性

●腸腰筋の解剖学

・腸腰筋の検査

・腸腰筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

・腸腰筋への筋膜リリース

●大腿直筋の解剖学

・大腿直筋の検査

・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

・大腿直筋への筋膜リリース

・大腿直筋へのマッスルエナジーテクニックを用いた異なる治療法

●内転筋群の解剖学

・内転筋群の検査

・内転筋群へのマッスルエナジーテクニックを用いた治療

第9章 膝や足首の痛みを引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●膝の解剖学

●膝の故障

●腸脛靭帯摩擦症候群を引き起こす中殿筋と大殿筋

・腸脛靭帯摩擦症候群とは

●膝蓋大腿疼痛症候群を引き起こす中殿筋

・膝蓋大腿疼痛症候群とは

●内側側副靭帯と半月板の痛みを引き起こす中殿筋

●中殿筋と大殿筋と足首の捻挫との関係性

第10章 腰痛を引き起こす大殿筋や中殿筋の問題

●腰椎の解剖学

●椎間板ヘルニア

●変形性椎間板疾患

●椎間関節症候群・疾患

●腰痛と殿筋群の関係性

●胸腰筋膜と大殿筋の関係性

第11章 殿筋群の抑制効果による筋力低下の鑑別

●デルマトームとミオトーム

・股関節関節包炎と腸骨大腿靭帯

第12章 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズ

●文献レビュー

・中殿筋と側臥位股関節外転

・中殿筋と足底装具の使用

●リハビリの方法

・回数とセット数

●オープンキネティックチェーンエクササイズ

・オープンクラムエクササイズ

・サイドラインアブダクション

・サイドプランク

・四つん這いからのヒップエクステンション

・フロントプランク

●クローズドキネティックチェーンエクササイズ

・腹臥位での分離動作パターン

・グルテアルスクイーズ(腹臥位)

・スクイーズ&リフト

●バランススタビライゼーション

・Level1 立位での分離動作パターン ― グルテアルスクイーズ(立位)

・Level2 バランス ― 交互片足立ち

・Level3 バランスとコーディネーション

付録 大殿筋と中殿筋の安定性向上とエクササイズシート

参考文献一覧

索引

まとめ

腰痛患者の50~60%は、腰痛の根本的な原因が大殿筋にあると考えられる。

大殿筋の機能は股関節の外転、外旋、そして仙腸関節を安定させることである。

■大殿筋の一部は胸腰部の筋膜だけでなく、仙結節靭帯ともつながっており仙腸関節を安定させる。

大殿筋を神経的に抑制させる主な筋肉は、股関節の屈筋に分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群であり、これらの屈筋が緊張し短縮すると大殿筋の筋力は低下する。

■大殿筋の機能不全や筋力低下は、後部斜角スリングの有効性を低下させ仙腸関節障害につながる。

■大殿筋の機能不全や筋力低下は、仙腸関節の安定や骨盤の位置を維持するために、ハムストリングスを常に緊張状態する。この緊張状態が続き慢性化すると故障の原因となる。

収縮して硬くなった姿勢筋は関連する相動筋の働きを阻害し、相動筋は弛緩し筋力が低下する 

画像出展:「強める!殿筋」

 

■仙腸関節は「形態拘束」と「力拘束」によって安定を図る。

■形態拘束は不完全なため関節面の安定を図る必要があるが、これを行うのが、靭帯、筋肉、筋膜といった組織である。

■姿勢筋と相動筋が構造的、機能的につながることで身体全体の安定性や動作を担っている。

筋膜スリングによる力拘束で骨盤は安定する。これらに問題があると機能不全が起こり腰痛につながる。特に姿勢筋による関節の安定性が重要である。

画像出展:「強める!殿筋」

左:後縦スリング

右:側面スリング

 

画像出展:「強める!殿筋」

左:前斜スリング

右:後斜スリング

 

■大殿筋が抑制されると大腿筋膜張筋が優位となり、大腿骨外側上顆で前側に引っぱり、腸脛靭帯摩擦症候群につながる。

■大殿筋の筋力低下は胸腰筋膜の緊張を保つ機能の低下が起こり、それを補完するために反対側の広背筋や同側の多裂筋が過度に活発になるというメカニズムが存在する。

※コメント

今まで、腰痛の患者さまで改善がなかなか進まない症例がありました。これらは”大殿筋”を軽視していたことが大きな要因だったかもしれません。

降圧薬2

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

目次は”降圧薬1”を参照ください。

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

図3-1 血圧状態ごとの有酸素運動による血圧低下量

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・正常血圧の人に比べ、高血圧および高血圧前症の人は有酸素運動による効果は大きい(収縮血圧:マイナス8.3mmHg/拡張期血圧:マイナス5.2mmHg)。[“平均”は“正常血圧”の人も含めた数値です]

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

表3-1 運動強度と血圧の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・表を見ると、低強度の運動では血圧を下げるのは難しく、中強度または高強度の運動でないと効果は期待できない。

高強度の運動は高血圧の人にとってリスクが高いので行ってはいけない。

1.参考となる論文:1993年発行の「Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology」誌に掲載された“Crossover comparison between the depressor effects of low and high work-rate exercise in mild hypertension

図3-2 強度別の有酸素運動中の血圧変動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本で行われた研究で、高強度の有酸素運動のリスクを示している。

・黒丸が高強度、白丸が中強度の運動である。高強度の有酸素運動を行うと、安静時の収縮血圧(150mmHg弱)が一気に50mmHgも上がってしまい危険である。一方、中強度の場合の上昇は10mmHg程度と上昇は少ない。

高血圧の人は有酸素運動を中強度で行うことが望ましい。中強度の運動とは余剰心拍数の40~60%で行う運動である。

40歳、脈拍70の人の余剰心拍数:114~136

①220-年齢(この数値は最大心拍数の推定値)…220-40=180

②最大心拍数(180)-脈拍(70)=予備心拍数(110)

③運動強度40%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の40%を足したもの…70+110×0.4=114

④運動強度60%の心拍数は、脈拍に予備心拍数の60%を足したもの…70+110×0.6=136

表によると、50歳、心拍数(脈拍)70の人の“適切な心拍数”は、110~130である。

表3-2 適切な心拍数(20~65歳)

画像出展:「降圧薬の真実」

 

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

・週150分未満の運動と血圧改善効果についての研究

1.参考となる論文:2003年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“How much exercise is required to reduce blood pressure in essential hypertensives: a dose-response study

図3-3 運動時間と血圧の変化の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・日本人を対象とした研究である。

週30~60分の運動でも、収縮期血圧:マイナス7mmHg/拡張期血圧:マイナス6mmHg程度の効果が期待できる。※左から2番目の棒グラフ

・この論文には運動の仕方にも言及されており、それによると、運動を週1回まとめて行っても、週5回以上に小分けに行っても効果は特に変わらないということである。[ただし、運動強度は中強度(余剰心拍数40~60%)が前提となる]

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

・『ウェイトトレーニングが筋力や筋肉量の向上に役立つことは、広く知られています。ダイエットにも有効であり、最近流行となっています。なお、私はボディビルの大会出場のために27㎏の減量に成功しましたが、その際、運動はウェイトトレーニングしか行いませんでした。

また、ウェイトトレーニングが肩こり、腰痛、膝の痛みにも効果的であることも有名だと思います。事実、私のわずか10分ほどの説明で、「明らかに良くなった」、「痛み止めの注射がいらなくなった」、「月1万円もかかっていた病院、薬代が1か月で0円になった」と驚くべき効果をあげた患者さんがたくさんいます。これは私の腕が特別に良いというのではなく(それなりに研究はしてきましたが)、適切なウェイトトレーニングを行えば薬以上の効果が出るという科学的事実がそのまま表れたに過ぎません。

他にも、血糖値の改善、骨密度の改善、様々な疾患に対するリハビリテーションの一環として役立つことも示されています。

このように健康に役立つウェイトトレーニングですが、実は血圧にも効果的なのです!実際、海外の高血圧に関する医学専門誌ではウェイトトレーニングを高血圧の人に役立つエクササイズとして紹介しています。

表3-5 ウェイトトレーニングによる血圧の変化

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・このデータから低強度の場合、収縮期血圧:マイナス5.8mmHg/拡張期血圧:マイナス4.7mmHgの効果が期待できる。

・低強度のウェイトトレーニングとは、ギリギリ挙げられる最大重量の30~40%とされているが、危険を冒して最大重量を計測する必要はない。1セット20回以上、余裕をもって反復できる重量であれば、40%を超えることはないので安全にウェイトトレーニングができる。頻度は週2、3回。なお、20回以上できる負荷であっても、決して頑張るようなことがあってはならない。また、トレーニング中は呼吸を止めてはいけない。息を止めると急に血圧が上がり危険である。

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

・健康番組にも紹介された有名な方法である。

1.参考となる論文:2010年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Isometric handgrip exercise and resting blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

握力を鍛えるだけの運動であるが、その効果は驚くべきものである。収縮期血圧:マイナス13.4mmHg/拡張期血圧:マイナス7.8mmHg程度の効果が期待できる。

・実験期間は8~10週間であり、効果は3か月以内に出ている。

・方法

①最大筋力の30~40%程度の軽いグリッパー(握力を鍛える器具)を2分間握る。

②1~3分間休む。

③ ①②を4回繰り返す。

④ ①②③を週3回行う。3日連続より、月・水・金のように1日空けた方が効果は出やすい。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Lancet」誌に掲載された“Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE) study

握力は健康を測る指標として非常に重要であることが示されている。

・驚くべきことに血圧よりも重要であるとされている。

・『樹上生活を行ってきた私たちのご先祖の中で、握力のない者は木にうまく上ることができず、肉食獣に食べられてしまったことが予想されます。そして現代においても握力のない者は健康を失うリスクが高いことが示されてしまいました。握力の重要性は霊長類にとって不変の法則なのかもしれません。』 

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

・力を入れて握り続ける握力運動はアイソメトリック運動(等尺性運動)というが、握力に限らずアイソメトリック運動で血圧を下げることができる。

1.参考となる論文:2015年発行の医学雑誌「Mayo Clinic Proceedings」誌に掲載された“Isometric exercise training for blood pressure management: a systematic review and meta-analysis

研究によると、収縮期血圧:マイナス6.77mmHg/拡張期血圧:マイナス3.96mmHgの効果があったとされている。

アイソメトリック運動

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

・これまでの内容から「血圧とリスク」「降圧薬の効果」から、目標となる数値の目安をまとめた。

図1-6 降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・『この数値を一つの根拠として、降圧薬の減量、中止を医師に申し出るタイミングを見計らってください。なお、「中止」とは「通常量の降圧薬を1種類やめる」という意味です。』

・『ただし、75歳以上の方は、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満 で健康リスクが高くなる恐れがあるので、もしこの数値になったなら、即座に薬の減量、中止を申し出てください。今飲んでいる量の降圧薬は、お金の無駄だけではすまない恐れがあるのです。』

●医師にどのように切り出すか?

生活習慣を改め、血圧が十分に下がりました。毎日血圧を測り、家での血圧も安定しています。それでは私たちからどのように薬の減量、中止を医師に切り出せば良いのでしょうか?

ここはやはり正々堂々と、「自分なりに勉強して生活習慣の改善に取り組んできました。以前に比べ、血圧はかなり下がったと思います。薬を一度減らしてみてもらえませんでしょうか? 数値が悪化するならまた戻してくれて構いませんので」と発言しましょう。

このように生活習慣改善に積極的である姿勢をとれば医師も減らしやすくなるはずです。減らしたことにより血圧に問題が出るならば戻しても良いということを話し、医師が薬を減らしやすくするように持ち込むわけです。この表現なら医師と衝突する心配もなく切り出すことができるはずです。

金銭負担が気になることも併せて盛り込んでも良いでしょう。ほとんどの医師は金銭負担を考慮する人格を持っています。金銭負担が減れば助かるのはあなたの財布だけではありません。国全体の財政が助かるのです。

もちろん、ふらつき、めまい、脱力感がある。拡張期血圧70mmHg未満であるなど健康に悪影響を及ぼす恐れがあるならば即座に減量を申し出るべきです!

医師に申し出るのは勇気が必要かもしれません。しかし、ほとんどの医師もわかっています。必要以上に血圧を下げる必要がないことを。薬の効果は実はそれほど大きなものではないことを。そして、最初は高かった血圧がしっかりと改善しているのは薬のおかげではなく、あなたの努力の成果であることを……。きっと良い返事が返ってくると思います。

降圧薬1

著者:石川太朗

発行:幻冬舎

出版:2016年7月

慢性腎不全で高血圧の薬を飲んでいる患者さまの担当医が代わり、高血圧の薬がすべて替わるということがありました。

なお、当院では患者さまの血圧と脈拍を測定していますが(手首で測る血圧計で、ベッドに仰向けになった状態で測るため座位に比べ低めに出ると思います)、この患者さまの血圧は収縮期血圧130前後、拡張期血圧65前後であり、個人的には降圧薬でうまくコントロールされているという印象を持っていました。そのため、何故、薬を替えられたのか不思議に思いました。

下記は処方されていた降圧薬の前と後です。

■前

・ニフェジピン(Ca拮抗薬)

・シルニジピン(Ca拮抗薬)

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・アイミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※アイミクスは、イルベサルタンとアムロジピンの配合剤

・ルプラック(ループ利尿薬)

■後

・アムロジピン(Ca拮抗薬)

・イルアミクス(長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤) 

 ※イルアミクスはアイミクスのジェネリック薬剤

・イルベサルタン(長時間作用型ARB)

・トリクロルメチアジド(チアジド系降圧利尿剤)

・フロセミド(ループ利尿薬)

この中で非常に気になったのは、“イルベサルタン”という薬です。

ネットで調べたのは、KEGGというサイトです。このサイトに頼ったのは、①検索上位のサイトであったこと。②母体が信頼できると思ったこと。③非常に詳しく説明されていたこと。 の3点です。 

KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes

『KEGG は分子レベルの情報から細胞、個体、エコシステムといった高次生命システムレベルの機能や有用性を理解するためのリソースです。とくにゲノムをはじめとしたハイスループットデータの生物学的意味解釈に広く利用されています。また KEGG MEDICUS では医薬品添付文書など社会的ニーズの高いデータとの統合も行われています。

そして、“イルベサルタン”に書かれていた中で特に気になった部分は次の内容です。

KEGGのページ(左をクリックしてください)

●『両側性腎動脈狭窄のある患者又は片腎で腎動脈狭窄のある患者においては、イルベサルタンによる腎血流量の減少や糸球体ろ過圧の低下により急速に腎機能を悪化させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。

●『高カリウム血症の患者においては、イルベサルタンにより高カリウム血症を増悪させるおそれがあるので、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること。また、腎機能障害、コントロール不良の糖尿病等により血清カリウム値が高くなりやすい患者では、高カリウム血症が発現するおそれがあるので、血清カリウム値に注意すること。』

特に注目したのは『片腎で腎動脈狭窄のある患者』という点です。これは、この患者さまは片腎のため、万一、腎動脈狭窄があるとすれば、『治療上やむを得ないと判断される場合を除き、使用は避けること』に該当することになります。

ご参考1:こちらの”倉敷中央病院 心臓病センター 循環器内科”さまのサイトに、腎動脈狭窄の原因と結果などが詳しく紹介されていました。 

腎動脈狭窄症の原因とその結果

『腎動脈の狭窄の頻度は、軽症なものも含めると意外に多く、高齢者をランダムに血管エコーでスクリーニングすると6%前後に狭窄を持つ人がいるといわれています。55歳以上の亡くなった方を解剖した研究では、15%に腎動脈に狭窄があったと報告されています。

腎動脈が細くなる原因として、その90%以上は加齢に伴う動脈硬化です。残りの10%弱は比較的若年者に見られる、動脈硬化によらない腎動脈狭窄症で、細くなった場所の顕微鏡による観察から、線維筋性異形成症と呼ばれています。』

ご参考2イルベサルタンなどのARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)には腎保護作用があるとされています。こちらの”大森病院 腎センター”さまのサイトに、腎保護作用についての説明がされています。イルベサルタンは腎保護作用があるという点から中長期的には腎臓にとっても良い薬のようです。

『糸球体にかかる圧力のことを「糸球体内圧」と呼びます。降圧薬の中にこの糸球体内圧をさげる薬があります。「アンギオテンシン変換酵素阻害薬:ACE‐I」や「アンギオテンシン受容体拮抗薬:ARB」といわれる薬は全身の血圧を下げる働きとともに糸球体内圧を特別にさげる働きがあります。

糸球体内圧が低下するのでろ過される血液が減ることがあり、腎臓の働きとしては低下してしまうこともあります。しかし中長期的にみて腎臓への負担を減らすことになり、結果として腎臓を長持ちさせることができます。

現在ではデータの蓄積により、腎臓病をもつ高血圧患者さんへの第1選択薬として積極的に使用されるようになりました。』

長い前置きになってしまいましたが、今回、高血圧の薬(降圧薬)について詳しく知りたいと思った経緯は、上記のようなことがあったためです。

そして、購入した本は、薬剤師であり、ご自身が薬に頼らず血圧を下げられた経験をお持ちの石川太朗先生が書かれた『降圧薬の真実』でした。

ブログは、最初に“あとがき”の一部をご紹介しています。これは、石川先生がこの本を書かれた理由を知ることができるためです。次いで目次をすべて書き出していますが、その中の黒字がブログで取り上げた項目です。

あとがき

『高血圧はいわば国民病ともいえる病であり、血圧を下げる方法として、薬、食事、サプリメントに関するたくさんの情報があります。

その一方で、「降圧薬は一生飲み続けなければならないのか」という疑問に対しては具体的な答えを見つけるのが難しいのが実情です。事実、私は大型書店の専門書コーナー、母校の京都大学附属図書館をはじめ、東京大学附属図書館、慶応義塾大学信濃町メディアセンターなどのいろいろなところで資料を探してみましたが、満足のいく答えを示した本を見つけることができませんでした。

私は薬剤師なので、しばしばこの、「降圧薬は一生飲まなければならないのか」という質問を受けてきました。自身の体験から、生活習慣を改善すれば降圧薬を飲まないですむことは理解していましたが、それに対して具体的な説明ができない状態でした。これは薬のスペシャリストとしていかがなものかと思い、調べようとしたのが本書の執筆を始めたきっかけです。』

目次

はじめに

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●氾濫する情報に踊らされる高血圧患者たち

●医師自身も騙されている?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

●まとめ

二 そもそも「高血圧」とは何か?

●高血圧の分類

●なぜ血圧が高いといけないのか

●自分の「最適数値」を目指そう

●下げれば下げるほど良いのか?

●下げすぎの危険性とは?

●「薬で下げる」は危険?

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

●まとめ

三 製薬企業と降圧薬の知られざる関係

●降圧薬は製薬企業のドル箱市場

●一つの薬が1000億円以上売れる!

●世界一の企業の論文不正事件

●日本一の企業も不誠実

●まとめ

四 降圧薬の効果を知る

●降圧薬によって、数値はどれだけ下がるのか?

●「日本一の薬」の効果とは?

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

●まとめ

五 トクホの効果を知る

●トリペプチド 薬以上の効果があるように見えるが……

●トクホの効果は塩1g!?

●トクホで血圧の数値を改善できるのか

●まとめ

第2章 降圧薬に頼らずとも、血圧を下げる方法はないのか

一 薬の減量、中止は可能なのか

●医師はなぜ処方しつづけるのか

●第一段階は「薬の減量」

●「家で血圧を測る」メリットとは

●まとめ

二 生活習慣が変われば血圧は下がる

●『高血圧治療ガイドライン2014』によると……

三 減量のすすめ

●体重90㎏、BMI35の大学1年生

●適正体重を維持すれば、降圧薬はやめられる

●まとめ

第3章 有酸素運動、健康体操、ヨガ…… 血圧数値を劇的に改善する「運動法」

一 有酸素運動の血圧改善効果

●有酸素運動は薬以上の効果を示す!

●血圧を下げるポイントは運動の「強度」

●週30分の運動は、「日本一の薬」を超える!

●血圧が高い人ほど効果的

●温水プールのエクササイズで平均35mmHg以上の改善!?

●まとめ

二 ウェイトトレーニングは高血圧の人にも役立つ

●ウェイトトレーニングと血圧の関係

●実践 初心者向けエクササイズ

●まとめ

三 血圧改善効果のあるその他の運動

●とてもお手軽な握力運動

●動かずにできるアイソメトリック運動で血圧が改善する!?

●健康体操の驚くべき効果!

●気軽にできるヨガ

●マッサージを受けるだけで血圧は下がる!

●まとめ

第4章 正しい「食事法」と「生活習慣」で「適正血圧」の基盤を固める

一 食事でどれだけ血圧が下がるのか?

●減塩効果を正しく理解する

●「お酒はほどほど」 が鉄則

●血圧を下げる成分がある!

●血圧を下げる「DASH」食とは

●カリウムの効果

●マグネシウムの効果

●カルシウムの効果

●食物繊維の効果

●DASH食の真の血圧改善効果!

●魚の油を摂取すると……

●その他の安価で有用な成分

●ビタミンCが効くのは美容面だけではない!

●乳酸菌は血圧も下げる

●トマトの驚くべき効果

●トクホを超える緑茶の力!

●まとめ

二 血圧に悪しき四つの習慣

●「痛み止め」は血圧を上げる

●炭水化物と清涼飲料水は要注意!

●たばこは「百害あって一利なし」

●「漢方薬だから大丈夫」の落とし穴

●まとめ

三 モデルケース

●30代男性

●20代男性

●40代女性

第5章 ケース別に学ぶ「運動」と「食事」の最適な組み合わせ方

一 「時間はあるけどお金はない人」編

●運動/食事

二 「お金はあるけど時間はない人」編

●運動/食事

三 「お金も時間もない人」編

●運動/食事

四 医師とともに薬を減らすには

●降圧薬の減量、中止に向けて目標値を決める

●医師にどのように切り出すか?

あとがき

第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療

一 血圧の薬は死ぬまでやめられない?

●半分以上の人はやめられる!科学的に証明されている!

・降圧薬をやめた後、再び必要になるかどうかを研究した論文が存在する。

1.「高血圧治療ガイド2014」(日本高血圧学会):この治療ガイドによると『軽度高血圧、若年者、塩分摂取制限を行っている人、適正体重の維持ができている人、他に特に合併症のない方などがやめられる可能性が高い』と示されている。

2.2001年発行の「American Journal of Hypertension」誌に掲載された“A systematic review of predictors of maintenance of normotension after withdrawal of antihypertensive drugs”という論文がある。研究内容は次の通りである

・降圧薬服用中であるが、正常血圧で安定している患者を対象にしている。

・医師の判断のもとに服用を中止し、その後、降圧薬が再び必要になるかどうかについて調べている。

表1-1 降圧薬中止後の生活習慣改善別の成功率

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・この表は薬の服用中止後に「生活習慣を改善したかどうか」、「薬の再処方が必要だったか」を示している。

・表右端の[成功率]とは、その生活習慣改善の有無における薬が不要になった人の割合を表している。

・このデータによると、体重の減量や減塩などの努力により半分以上の人は降圧薬が不要になった。

・年齢と成功率に関係は見られなかった。

●下げすぎの危険性とは?

血圧が下がりすぎると脳梗塞を起こすリスクが高まる。特に高齢者ではそのリスクが高い。

1.参考となる論文:2011年発行の「Geriatrics & Gerontology International」誌に掲載された“Practitioner’s trial on the efficacy of antihypertensive treatment in elderly patients with hypertension Ⅱ(PATE-hypertension Ⅱ study) in Japan

・日本で行われた試験。

カンデサルタン服用において、正常血圧の人のリスクを1とすると、75歳以上の心血管疾患発症リスクは、収取期血圧120mmHg未満は3.40、160mmHg以上は2.90であった。つまり、高い血圧より、低い血圧の方が危険であるという驚くべき結果であった。

・『この論文は、医療系の大学には必ずといっても良いほど置いている著名な医学雑誌「医学のあゆみ」(医歯薬出版)でも紹介された論文であり、医師たちの多くは下げすぎの危険性を理解しているはずなのです。』

拡張期血圧が低すぎるのは収縮期血圧以上に恐ろしく、心臓発作や脳卒中のリスクになることが多くの論文で指摘されている。

2.参考となる論文:2013年発行の「International Journal of Hypertension」誌に掲載された“Low Diastolic Blood Pressure as a Risk for All-Cause Mortality in VA Patients” 

図1-2 拡張期血圧と死亡リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

・45歳以上の病院患者のデータ(実線が死亡率)

・拡張期血圧が75mmHgから低くなるほど死亡リスクが高くなる。

・『低い拡張期血圧は衰弱や動脈硬化の結果でもあります。病院に行かなくても良いような健康な人には当てはまらないかもしれません。しかし、血圧の薬を使っている人にとっては当てはまる恐れが高いのです。

3.参考となる論文:2015年発行の「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」誌に掲載された“Meta-analysis of modifiable risk factors for Alzheimer’s disease” 

図1-3 アルツハイマー型認知症のリスクファクター

画像出展:「降圧薬の真実」

 

拡張期血圧が低すぎることは認知症の大きなリスクファクターである。

・この論文は5000人以上と参加者が多く、グレードⅠと研究の質も高い。

拡張期血圧70mmHg未満[左から2番目の棒グラフ]の人の発症リスクは1.87倍で重度の喫煙(1.96倍)についで、第2位となっており、収縮期血圧160mmHg以上[右から2番目の棒グラフ]の発症リスクより顕著に高い。

4.参考となる論文:2012年発行の「Archives of internal medicine」誌に掲載された“Rethinking the association of high blood pressure with mortality in elderly adult:the impact of frailty”

・降圧薬の害について書かれた論文である。

・通常の歩行ができる人は収縮期が低いほど死亡率が低いが、歩行速度が遅い人の場合は血圧と死亡率に関連は見られない。

・歩行困難な人では血圧を下げると死亡率が高くなり、薬を飲んでいる人ではより顕著になる。

●降圧薬を飲んでも、脳卒中のリスクは高いままである。

・この考え方を指示した論文が、日本人を対象とした大規模な研究で明らかになっている。

1.参考となる論文:2009年発行の「Journal of Hypertension」誌に掲載された“Stroke risk and antihypertensive drug treatment in the general population: the Japan arteriosclerosis longitudinal study

・この研究は、11,371人の日本人を対象として東北大学大学院によって行われた。

・追跡期間は9.5年、40~89歳の人を対象として脳卒中のリスクを調べた。

図1-5 血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無を考慮に入れていないデータである。

・左端(下部)の【至適血圧】の脳卒中発症リスクを1とした場合のリスクが黒の■になる。

※【至適血圧】:収縮期血圧120未満/拡張期血圧80未満。

※【正常血圧】:収縮期血圧120~129/拡張期血圧80~84。

※【正常高血圧】:収縮期血圧130~139/拡張期血圧85~89。

※【Ⅰ度高血圧】:収縮期血圧140~159/拡張期血圧90~99。

※【Ⅱ度高血圧】:収縮期血圧160~179/拡張期血圧100~109。

※【Ⅲ度高血圧】:収縮期血圧180以上/拡張期血圧110以上。

・この薬の使用を考慮に入れていないグラフでは、血圧を下げるほど脳卒中のリスクは下がる。

図1-6 降圧薬の使用と血圧レベルと脳卒中発症リスクの関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

このグラフは、薬の使用の有無で分けたデータである。

・左の図は降圧薬不使用の場合で、血圧が高いほど脳卒中のリスクは高まる。

・右の図は降圧薬使用の場合で、血圧と脳卒中のリスクに相関関係は統計学的にも認められない。特に注目すべきは、薬を服用し、血圧が【至適血圧】になっている場合、脳卒中の発症リスクが4.1倍と激増している点である。

「血圧は低ければ低いほど健康に良い」という主張は、降圧薬を服用している人には当てはまらない。

表1-5 降圧薬の使用、性別、血圧レベル別の脳卒中リスク

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・この表が具体的な数値で見たリスク比である。

・男女に関係なく、薬を服用していると脳卒中のリスクは高まる。

・特に男性では、薬で【正常血圧】、【正常高血圧】に抑えても、6.69~15.30倍ととんでもなく高い。

・脳卒中の発症リスクだけを考えると、「【Ⅲ度高血圧】でもない限り、降圧薬を使うのは意味がない」という主張までできてしまう。

・このデータは年齢、過体重、喫煙、飲酒、糖尿病、コレステロール値、脂質異常症治療薬使用の有無で調整されているものなので精度は高い。

・合併症がある場合、降圧薬に血圧を下げる以外の効果を期待していることがあるため、減薬や中止は難しい可能性がある。(いずれにしても、降圧薬の減薬や中止は医師の判断が必須である)

四 降圧薬の効果を知る

●「日本一の薬」の効果とは?

最初に、第1章 疑惑だらけの「降圧薬」治療 一つの薬が1000億円以上売れる から、降圧薬の売上ランキングをご紹介します。なお、降圧薬はベスト100の中に、1位の「ディオバン」をはじめ、計11種類の薬がランクインしており、降圧薬がいかに大きな市場となっていることが分かります。

表1-8 降圧薬の売上ランキング

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・日本で最もよく使われている降圧薬はカルシウム拮抗薬(CCB)であり、次はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)である。

・CCB(代表的なCCBはアムロジン[成分名:アムロジピン])とARB(代表的なARBはディオバン[成分名:バルサルタン])を比較したデータは次の通り。血圧の状態や個人差による違いはあるが、十分に参考になる。

表1-10 エックスフォージ配合剤の血圧降下作用

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・CCB[アムロジピン]の方がARB[バルサルタン]より降圧効果は高い。

・バルサルタン単体(⑦⑧)は薬の量を半減させてもほとんど変わらない。収縮期血圧:ー5.1⇒ー4.9、拡張期血圧:ー3.9⇒ー3.6。

●平均値はわずか「マイナス5.5~マイナス9.1mmHg」!

1.参考となる論文:2003年発行の「British Medical Journal」誌に掲載された“Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials” 

・対象となった患者数は、のべ56,000人、これほど大規模で信頼性の高い論文はない。

表1-12 降圧薬と血圧降下量の関係

画像出展:「降圧薬の真実」

 

 

・降圧薬を通常量用いるとその種類を問わず、血圧に対する効果は、①収縮期血圧:マイナス9mmHg ②拡張期血圧:マイナス5mmHg 程度である。

薬の量を半分あるいは倍増しても平均すると、①収縮期血圧:1.9mmHg ②拡張期血圧:1mmHg 程度しか変わらない。さらに、半減(通常量の4分の1)させても同様に大きくは変わらない。これは、薬を減らすことが難しくないという理由でもある。

『個人差もありますし、急に中止すると血圧が急に変動する薬もそんざいするので、薬の量の調節を自己判断で行ってはいけません。』

たんぱく質と糖質の制限

今回のブログは北里大学研究所病院腎臓内科・内分泌代謝内科の部長と糖尿病センターのセンター長を兼任されている山田悟先生が”MedicalTribune”に寄稿された“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!/揺れ動くガイドラインの推奨という2019年11月の記事がきっかけです。このメディカルトリビューン社さまの記事を読むには、会員登録が必要なためご紹介できないのですが、2013年に米国糖尿病学会(ADA)が栄養勧告を改訂した折(ADA2013)、いくつか受けた衝撃の1つが、蛋白質制限食の意義を否定したことであった。という内容に目が点になってしまい、調べてブログにアップしたいと考えました。

「メディカルトリビューン社は、医学新聞『Medical Tribune』を1968年に創刊して以来、メディアカンパニーとして国内外の最新医学・医療情報を提供してまいりました。」とのことです。

そこで、山田先生の著書の中から“たんぱく質”のことが書かれている、『カロリー制限の大罪』という本を見つけ、拝読させていただくことにしました。

著者:山田悟

出版:幻冬舎

発行:2017年6月

山田先生はロカボ(ローカーボハイドレート)という“緩やかな糖質制限”による食事法を推奨されています。“ロカボ”に関しては、以下のホームページをご覧ください。

「おいしく楽しく適正糖質」それがロカボです。

糖質は三大栄養素の「炭水化物」に含まれていて、血糖値を上げる原因になっています。適正な糖質摂取を心がけることで血糖上昇を抑えることができます。』

ブログは、最初に「おわりに」の中の冒頭と最後の部分をご紹介しています。これは、先生がロカボを推奨するようになった経緯と、読者に伝えたいとされるメッセージが出ているためです。

続いて、目次を書き出していますが、黒字がブログで取り上げた項目です。

おわりに

『「ヘルス・リテラシー」という言葉があります。リテラシーとは、ものを読み書きする力のことだそうで、ヘルス・リテラシーとなると、巷にあふれる健康情報の中から適切なものを取捨選択して、効果的に利用する個人の能力ということになるそうです。

ここ数年での栄養学の大転換は、実は医療従事者のヘルス・リテラシーに大いなる疑念をつきつけています。

私自身が10年前まで糖尿病の患者さんに強く推奨していたのが、カロリー制限であり、脂質制限でした。しかし、私が指導したカロリー制限で、ご自身の大切な喜寿のお祝いの会を台無しにしてしまった患者さんのお声を聴き、あるいは、私がおすすめした脂質制限食で、まったく高脂血症が改善できずに泣き出した患者さんのお顔を拝見するうちに、私自身、そうしたゴールデンスタンダードの食事法への疑念をいだくようになり、何が本当に適切な食事法なのかを追い求めるようになりました。 

『本書は、健康的な食事法に関心のある一般の方と、当たり前・言い伝えの栄養学ではなく、科学としての栄養学を学びたいと思っている医療従事者の方々が読んでくださることを願いながら執筆してきました。それが今回、一つ一つのデータに参考文献をつけた理由です。

一般の読者の皆様におかれては、ぜひ、「当たり前」に流されることなく、「正しい」と「当たり前」を区別していただきたいと思います。

そして、医療従事者の読者におかれては、私が師から教わった言葉をお伝えしようと思います。

「人間は未来永劫、真実をつかむことはできない。観察された事実をもとに真実を想像することしかできない。円錐を横から見れば三角形、上から見れば円形。それらは、いずれも事実だが、いずれも真実ではない

目次

第1章 カロリー制限の意義を考える

パート1 私自身のカロリー制限

・一日1600kcalを目指して

・カロリー計算を断念

・突然、気持ちが切れる

・カロリー制限は“理想的な餅”?

パート2 アンチエイジングに対するカロリー制限

・正反対の結論を出した2つの研究

・合同研究でも食い違った検証結果

・カロリー制限をして増えた病態とは

パート3 肥満に対するカロリー制限

・日本肥満学会のカロリー制限の基準

・“カロリー制限最良”論には科学的根拠がなかった

・カロリー制限は短期では有効だが……

パート4 糖尿病に対するカロリー制限

・すべての糖尿病患者にカロリー制限を推奨する日本

・日本人を対象にした研究はたった3件

・明らかな矛盾

・多くの日本人糖尿病患者は肥満ではない

・カロリー制限により糖尿病の種々の病態は改善されるか?

パート5 糖尿病治療のカロリー制限設定は妥当か?

・一日約2300kcalが標準と定められた

・「水を飲んでも太る」は本当?

・糖尿病治療のためのカロリー設定値を確認する

パート6 カロリー制限の安全性はどうか?

・カロリー制限の有効性を証明するはずだった研究の結果

・やる気のある被験者が次々脱落

・カロリー制限で減量できなかった少女ザル

・恐ろしい低栄養リスク

第2章 脂質制限の意義を考える

パート1 油を制限したら何に効くのか?

・脂質制限が有効だと思っていた私

・糖質制限に脂質制限を加えたがる人

パート2 高脂血症に対する脂質制限

・油を制限しても高脂血症予防はできなかった

・高悪玉コレステロール血症は食事や運動では改善しない

パート3 肥満症に対する脂質制限

・油を制限したら代謝が低下

・異なるホルモンの影響が想像される

パート4 糖尿病に対する脂質制限

・脂質は血糖上昇と負の相関だった

・食後血糖の上昇を抑える脂質+たんぱく質

パート5 脂質の質をどう考えるか?

・脂質摂取量の上限を撤廃したアメリカ

・脂肪酸の構造と分類

・日本人が動物性脂質を積極的に摂るべき理由

・健康を増進させる一価不飽和脂肪酸&オメガ3多価不飽和脂肪酸

・評価が分かれるオメガ6多価不飽和脂肪酸

・トランス脂肪酸は要注意

・認知症の予防効果が期待される中鎖脂肪酸

・油をたくさん食べるとどうなる?

第3章 三大栄養素比率を考える

パート1 カロリーを把握する難しさ

・正確なカロリー計算は可能か?

・カロリー計算は当てずっぽう

パート2 三大栄養比率はどのようにして決定されるのか?

・「正しい栄養バランス」の違和感

・PFCバランスはこうして決められた

・たんぱく質と油―撤廃された上限

パート3 カロリーや栄養素バランスは考えなくてもよい

・緩やかな糖質制限はカロリー制限にもなる

・現代人の運動量では消費しきれない糖質

第4章 ケトン体の意義を考える

パート1 ケトン体を出させる薬のものすごい効果

・SGLT2阻害薬

・死亡率が32%も減少

・ケトン体が臓器を元気にする?

・ケトン体仮説への反論

パート2 なぜ、ケトン体に負のイメージがあったのか

・ケトン体産生食と減量効果

・ケトン体と悪玉コレステロールの関係

・極端な食事制限が血管内皮機能を低下させる

・ケトアシドーシスと心臓死

・ケトン体と胎児の奇形の問題

パート3 結局ケトン体はいいのか悪いのか

・ケトン体についての結論

・てんかん治療のためのケトン体産生食

・サプリメントとオイル

・ロカボとケトン体

・ケトジェニックダイエットについて

第5章 ロカボの意義を考える

パート1 糖質過多で起こる肥満と糖尿病

・そもそも糖質とは

・なぜ太るのか?

・インスリン分泌能力

・恐ろしい高血糖

・糖尿病に根治療法はない

・老化と糖化

・AGEや酸化ストレスが起こすこと

パート2 ロカボという万能選手

・緩やかな糖質制限

・ロカボを実践するとこうなる

・とにかく「満腹」を目指せ

・脳のために甘いものを、は迷信

・カロリーのことはきっぱり忘れてよし

・ロカボでおなかいっぱいに

パート3 スポーツとロカボ

・アスリートの食事をどう考えるか

・カーボローディングで食後高血糖に

・ファットアダプテーションへの切り替えタイミング

・プロポーションが問われるスポーツと階級制スポーツ

・エネルギー利用可能性

・東京オリンピックに向けて

第6章 ロカボの普及で世界が変わる

パート1 ロカボの取り組み最新情報

・ロカボ先進都市・神戸

・行政も後押し

・東京が動き出した・大丸有の取り組み 三菱地所

・企業がぞくぞくと商品開発

・栄養成分表示の現状

・2015年の大転換

パート2 ロカボが目指す社会

・ロカボで社会はこう変わる

・医療費、社会保障費の大幅削減に

第7章 常識・非常識を考える

パート1 食品編

・果実

・異性化糖

・スムージー

・黒い食べ物

・白くない砂糖

・甘味料

・ビール

パート2 食べ方編

・グルテンフリー

・食べ順

・絶食

パート3 その他の問題編

・腸内フローラ

・たんぱく質の量

・たんぱく質の質

・サプリメント

・薬

・日本人と欧米人

パート4 油編

・基本的な油の働き

・役に立つ油

・基本的にすべての油がOK

・危険な油は

・さまざまな油に対する見解

最終章 栄養学「正しい」と「当たり前」

・科学的検証

・エビデンス

・おわりに

・参考文献

第3章 三大栄養素比率を考える

パート2 三大栄養比率はどのようにして決定されるのか?

・たんぱく質と油―撤廃された上限

2013年、アメリカ糖尿病学会は、「たんぱく質を制限しても、腎機能の保護にはつながらない」、「理想的な三大栄養素比率など存在しない」と断言している。そして、脂質についても、今のアメリカの食事摂取基準は「そもそも油の摂取量は、栄養学的な関心事項ではない」としている。

参考文献の記載をたどると、下記のサイトに行きつきます。なお、日本語訳は山田先生の寄稿、“蛋白質制限食は有効かもしれないが命がけ?!” の中に書かれていた内容を拝借しました。 

■For people with diabetes and diabetic kidney disease (either micro- or macroalbuminuria), reducing the amount of dietary protein below the usual intake is not recommended because it does not alter glycemic measures, cardiovascular risk measures, or the course of glomerular filtration rate (GFR) decline. (A)

腎症のある糖尿病患者が蛋白質摂取を一般人未満に制限することは推奨されない。なぜならば、それは血糖管理、心血管疾患リスク、糸球体濾過量(GFR)低下になんら変化を与えないからである。(A)

アメリカ糖尿病学会では内容を毎年見直しているとのことです。そこで、色々と探していると、またまた新たな記事を見つけました。こちらは2019年のお話です。

第12回 米国糖尿病学会の2019年版診療ガイドライン速報 糖尿病・代謝 能登 洋(聖路加国際病院)” こちらの記事もm3という会員登録が必要なサイトの記事のため、ご紹介することはできないのですが、元々はアメリカ糖尿病学会のものなので、そちらをお伝えします。

『m3.com 〔エムスリー〕 は、29万人以上の医師が登録する日本最大級の医療従事者専用サイトです。』とのことです。

■For people with nondialysis-dependent CKD, dietary protein intake should be approximately 0.8 g/kg body weight per day (the recommended daily allowance). For patients on dialysis, higher levels of dietary protein intake should be considered. B 

透析していないCKDの患者さまの場合、食事によって1日あたり約0.8 g / kg体重(60㎏の人は1日48g)のたんぱく質摂取が推奨されています。一方、透析中の患者さまの場合は、食事によって高レベルのたんぱく質摂取を考慮する必要があります。B [意訳しています]

国内ではたんぱく質摂取はどんな状況なのだろうかと思い、調べてみたところとてもユニークなサイトを発見しました。 

監修をされているのは下記の先生方です。

廣村桂樹、池内秀和(群馬大学医学部附属病院腎臓・リウマチ内科)

齊賀桐子(群馬大学医学部附属病院・栄養管理部)

川島崇(群馬県医師会)

高橋さつき、岡美智代(群馬大学大学院保健学研究科

このページの“スタート”をクリックすると、「6 食事の留意点とコツ」というページがあります。

この中から“慢性腎臓病のステージG3a、G3b、G4、G5 たんぱく質制限についてわかります”をクリック頂くと、2ページ目に、“2.体に合ったたんぱく質摂取量は、どのくらいなの?”が出てきます。ここでご自分のステージと身長を入力すると、“標準体重”と“たんぱく質摂取量”が表示されるのですが、G3aの場合、たんぱく質制限は0.8~1.0g/kg/日となっています。つまり、このサイトではG3aの場合は1日の摂取すべきたんぱく質は体重1kgあたり、0.8~1.0gを推奨しているということです(お伝えしたいことは、細かいのですが、0.8gではなく0.8~1.0gというところです)。

以上のことから、アメリカ糖尿病学会においても、たんぱく質の摂取はとてもデリケートな問題で、今後も、医学の進歩と伴に変わっていくかもしれません。

また、求められていることは、病気の進行度合いと推奨摂取量を考慮しながら、ひとり一人に適したたんぱく質摂取の計画と管理を行うこと。そして、特に注目すべきは、透析中の患者さまの場合は、高レベルのたんぱく質摂取を考える必要があるという点です。

第4章 ケトン体の意義を考える

パート2 なぜ、ケトン体に負のイメージがあったのか

・ケトアシドーシスと心臓死

●インスリンを出せないⅠ型糖尿病の人の中に、まれに肝臓が無制限にケトン体をつくり続けてしまうことがあり、次第に体が酸性化し重篤な意識障害につながる。このような状態をケトアシドーシスという。

●ケトン体産生食には問題を指摘する症例と問題ないとする症例が混在しており、はっきりしたことは分かっていない。

ケトン体産生食の是非について、以前ブログ“ケトン体エンジン”の時にご紹介させて頂いた、宗田哲男先生の『ケトン体が人類を救う』には次のような分かりやすい説明がされていました。 

『火事(アシドーシス)で現場に駆けつけたら、ケトン体がたくさんあった。そこで火事の原因をケトン体に違いないとして「ケトアシドーシス」という名前を付けた。インスリンが不足してブドウ糖をエネルギーにできない火事の現場で、ケトン体は自らがエネルギーとなって、必死に体を助けていた。ケトン体は火事を消そうとしていた消防士だったにもかかわらず、その後もずっと犯人にされてしまった。「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体とは何も関係ない。インスリンを投与して高血糖を抑えればケトン体は消えるが、これは消防士が引き上げて、正常任務に戻ったのであり、「ケトン体さんご苦労様でした」というべきところです。』

この『病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌』の図をみると、「よし、糖をつくるぞ!」(図中央)とはりきる肝臓が、筋に働きかけ“糖新生”によりグルコースを、また脂肪組織に働きかけ“β酸化(脂肪酸の代謝経路)”によりケトン体の産生を高めています。

そして、この図で起きていることが何かを見てみると、原因(最上段のボックス)によって引き起こされることは、一つは“インスリン拮抗ホルモンの亢進”(右側)、もう一つは“インスリンの絶対的欠乏”(左側)であり、宗田先生がご指摘されている『「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体とは何も関係ない。』

というご指摘と一致していることが分かります。この図を見る限り、ケトン体は悪者ではなく、インスリン不足でブドウ糖をエネルギーにできないという火事の現場に駆けつけた、責任感の強い消防士のように思えます。

第5章 ロカボの意義を考える

パート1 糖質過多で起こる肥満と糖尿病

・そもそも糖質とは

●糖質は多糖類、オリゴ糖類、二糖類、単糖類、糖アルコールという5種類に分類される。

●単糖類はブドウ糖や果糖のように1個だけで存在するもの。

●二糖類は砂糖、ショ糖、麦芽糖など、単糖類が2つ結合したもの。

●多糖類は結合が数百~数万個以上であり、代表格はでんぷんである。

●「糖類」とは単糖類と二糖類の総称であり、いずれも甘さが特徴である。

糖アルコールは自然界にある成分をもとに、人工的に作り出されたもの

●糖アルコールにはトレハロース、パラチノース、キシリトール、エリスリトールなどがある。

糖アルコールの中には血糖値をほとんど上げないものもある。

・なぜ太るのか?

●あらゆる糖質は基本的に体内でブドウ糖に変換される。

●血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことである。

●食後、血糖値が上がると膵臓からインスリンというホルモンが速やかに分泌され、全身の臓器にブドウ糖を送り込み、エネルギーとして利用できるように働く。通常であれば、これによって血糖値は下がるため問題はない。

●血糖値の正常値は食前で70~110㎎/㎗、食後で70~140㎎/㎗で、通常は食後の血糖値上昇は30㎎/㎗程度である。

40歳を越えるとインスリンの分泌が緩慢になるため、健常者でも跳ね上がるようになる。特に糖質摂取の多い人は異常な数値までに上がったり、乱高下したりするようになる。

●血糖値が180㎎/㎗くらいまで上昇すると、後からインスリンが過剰に分泌されるようになり、食後、一過的に血糖値が大きく下がる人もいる。

血糖値の大きな上下動は、動脈硬化症や認知機能の低下をもたらす。

●食後高血糖は体を傷め(これを「糖毒性」という)、さらにインスリン分泌を遅くする。この結果、高インスリン血症により肥満が進む。

食後高血糖は時間経過とともに悪化し、疲弊したインスリン分泌細胞は、やがてインスリンの分泌が困難になり糖尿病になっていく。

・インスリン分泌能力

●生物にとって糖質は最も効率の良いエネルギー源である。

●運動量が多かった昔の人は、体内に取り込んだ糖質を1日の活動で消費していた。[現代のように糖質が潤沢な食糧事情でもなかったと思います]

●文明が高度に発達し、体を動かす機会が少なった現代人は、体の中で糖質がダブつきやすくなっている。

●2015年、サッポロビールが実施した「食習慣と糖に関する20~60代男女1000人の実態調査」によると、現代の日本人が1日に摂取する糖質量の平均は、男性309g、女性332gとなっている。この摂取量はあまりに多すぎて、ほとんどの人は1日の活動では消費しきれるものではない。そして、エネルギーとして使われず余ったブドウ糖は、インスリンによって脂肪に変換され、体の中に溜め込まれる。

体に余分な脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなり、それをカバーするために、体は更にたくさんのインスリンを分泌する悪循環に陥る。

●膵臓はインスリンを作るのに疲れ、分泌量が減る。そして、血糖値がコントロールできなくなって、慢性的な高血糖である糖尿病を発症する。

・恐ろしい高血糖

●糖尿病の恐ろしい点は三大合併症である。これは高血糖により毛細血管が傷むことにより、腎臓、目、神経の障害を引き起こすものである。

●腎臓が傷むと人口透析に至り、目は網膜症によって失明の恐れがある。神経障害は起立性低血圧や尿失禁、EDを引き起こす。

糖尿病患者の中で様々なガン患者が増えているという事実があるが、インスリン自体がガン細胞を増殖させているのではないかと言われている。なお、この傾向は食後高血糖(糖尿病予備軍)にも当てはまる。

●糖尿病は、動脈硬化のリスクを上げ、心臓病や脳卒中などの脳血管障害と脚の障害を起こしやすくする。

・糖尿病に根治療法はない

●人間の糖尿病の根治治療はまだ見つかっていない。[1994年、マウスに抗CD3抗体という物質を投与することによって、インスリン分泌細胞を再生させ、高血糖を長期的に改善させることに成功した]

現在は、食生活の改善と運動習慣によって食後血糖の上昇に歯止めをかけるしか道はない。

・老化と糖化

●肥満、糖尿病以外にも糖質が関わっている身体の現象があるが、それは老化である。

●わかりやすい老化現象には、皮膚のシミや白髪、体の不調、認知機能の低下などがあるが、いずれも糖質が深く関わっている。

糖質の多い食事により高血糖の状態になると、体の中で糖化反応(グリケーション)が起こる。これは体の中のたんぱく質に余分な糖がくっつき、たんぱく質が劣化してAGEs(糖化最終生成物)を生成する反応である。

・AGEや酸化ストレスが起こすこと

AGEsが蓄積すると肌や髪、骨などに含まれるコラーゲン分断が起こり、全身の老化が進行する。そして、体調不良や糖尿病、高血圧、ガン、動脈硬化など様々な病気を引き起こす。

血糖の激しい上下動によって、酸化ストレスが引き起こされる。酸化ストレスは老化や細胞のガン化に関わる。

●血糖の上下動の大きさと認知症の低さには、相関があるとされている。

第7章 常識・非常識を考える

パート1 食品編

・果実

●糖質の中で特に注意すべきものは果物やハチミツの甘さのもとになっている果糖である。

●果糖は体内に入ると肝臓で20%だけブドウ糖に変換され、残りは果糖のまま血中をめぐる。血糖値とは血中のブドウ糖の量を測ったものなので、果糖は血糖値をあまり上昇させない。そのため糖質制限をしている人も果物は食べても問題ないと考えがちである。

果糖の問題は非常に中性脂肪に変わりやすいため、肥満や脂肪肝につながりやすい糖質であることである。太りやすさの観点では果糖は砂糖やお米よりも危険である。

●果糖は直接的に肝臓のブドウ糖合成を促進する。また、ブドウ糖よりも糖化を起こしやすく、臓器障害や動脈硬化を増やす原因になっているという論文も出ており、果糖にも注意しなければならない。

●果物には食物繊維も多く、ビタミン、ミネラルも豊富な食材なので、量に注意して摂取するようにする。

・甘味料

『糖アルコールや人工甘味料は、ロカボを実践する上では絶対にはずせない食材ですが、安全性を心配して、手に取ることを躊躇する人もいまだ多いようです。しかし、実はそのほとんどが偏見や誤解によるものです。

日本でよく使われているエリスリトールは、果物の発酵食品から抽出されるなどした天然由来の甘味料で、糖アルコールに分類されます。摂取すると小腸で吸収され血中へ移動し、そのまま尿で排泄されるためエネルギーにはならず、血糖値も上がりません。アメリカの食品医薬品局FDA、ヨーロッパの医薬品庁EMAともに、摂取する上限量を設定する必要がない、極めて安全な食品に分類しています。

また、アスパルテーム、スクラロースなどの人工甘味料は、アメリカやヨーロッパの許認可庁によるデータで一日に摂取できる上限が定められているものの、その量は缶ジュースにしておよそ15~25本。通常の食生活ではおよそ摂ることがない数値に上限が設定されていますので、普通に使用するならまったく安全と言ってもいいでしょう。』

パート3 その他の問題編

・腸内フローラ

●人間の腸内には100種類以上、数にして約100兆個にものぼる細菌が棲んでいる。

●小腸の終わりにある回腸から大腸にかけては、腸内細菌が種類ごとにまとまり、腸の壁面にびっしりと生息している。その様子が種ごとに群生するお花畑のようであることから、「腸内フローラ」と呼ばれている。

腸内細菌はこれまで考えられていた以上に頑健で、なかなか変化しないことが分かってきた。

●2015年、イスラエルの研究グループは、食品の血糖値が上がらない食べ方をすることによって、善玉菌が増えるというデータを発表した。

※こちらは”参考文献”に紹介されていた”データ”です。

Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses

・たんぱく質の量

高齢者ほど肉や魚をしっかり食べる必要がある。若い人は一食あたり10gほどのたんぱく質で食後の筋肉合成ができるが、高齢者は20gほどの量が必要になってくるからである。これは肉なら100g程度にあたる。

・たんぱく質の質

●たんぱく質を摂る時に注目すべきは、必須アミノ酸の含有量である。

●アミノ酸とはたんぱく質の構成要素で、アミノ酸が少数結合したものをペプチド、多数結合したものをたんぱく質と呼ぶ。

●一部の特殊なものを除き、たんぱく質は20種類のアミノ酸が結合して作られている。

まとめ

摂りすぎ厳禁の糖質。一方、たんぱく質の摂取量は微妙です。透析患者さまの場合は高レベルなたんぱく質摂取を考慮することが求められています。透析に至っていない患者さまについては、医師と相談し推奨の上限値を意識することが、分子整合栄養医学の面からも重要であるように思います。

※分子整合栄養医学についてはブログ“分子整合栄養医学1”を参照ください。

ゴースト血管

手先や足先の痺れを訴える患者さまは、主に中高年の方に時々みられます。硬くなった筋肉が血管や神経を圧迫しているのが原因ではないかと考え、気になる筋肉や絞扼しやすい箇所に刺鍼するのですが、症状の緩和は末端の指先に近くなるほど難しいという実感があります。

そんな中、“ゴースト血管”はテレビの健康番組で知りました。この“ゴースト血管”を詳しく知ることは、手先や足先の痺れに対する鍼治療の参考になるのではないかと考え、“ゴースト血管”の名付け親である高倉伸幸先生が書かれた本を購入しました。 

血管のゴースト化を進める元凶は、糖化(コゲ)」と「酸化(サビ)」のようです。

著者:高倉伸幸

出版:毎日新聞社

発行:2019年2月

ブログは第5章(「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」)および、「ゴースト血管にまつわるアレコレQ&A」には触れていません。取り上げているのは、目次の黒字の部分ですが、特に重要と思ったところをまとめました。

目次

はじめに

あなたのゴースト血管化をチェック!

第1章 人は毛細血管とともに老いる

・生命に大きな影響を与える毛細血管

・血管は縦横無尽に体内を走っている

・それぞれの血管のミッション

・毛細血管の運搬法

・毛細血管はホルモンの情報を伝達する

・毛細血管は免疫にはたらく

・毛細血管は体のバランスを保つ

・毛細血管はなぜゴースト化するのか

・Column@高倉Lab がん治療にも応用される「アンジオクラインシグナル」

第2章 ゴースト血管と病気

・血管がゴースト化すると全身に悪影響が!

・重い便秘はゴースト血管のせい?

・毛細血管の減少が肝硬変の原因に!?

・腎機能の低下はゴースト血管が招く

・ゴースト血管が糖尿病の原因に!?

・ゴースト血管と肺の病気

・アトピー性皮膚炎も血管病!?

・過剰な毛細血管がリウマチを悪化させる

・骨粗しょう症もゴースト血管が原因

・ゴースト血管で失明に?

・認知症の原因はゴースト血管だった!

・血管がゴースト化すると抗がん剤が効かない!?

・Column@高倉Lab がん細胞を増殖させる「がん幹細胞」

第3章 ゴースト血管と老化

・体内の37兆個の細胞に「老化」というイベントが起こる

・「糖化」は体のコゲ

・「酸化」は体のサビ

・毛細血管が少ないと老けて見える!?

・毛細血管と肌の深い関係

・毛細血管の減少が薄毛の原因に!

・更年期は毛細血管のダメージから起きる

・Column@高倉Lab 毛細血管がよみがえる「血管新生」のしくみ

第4章 人は毛細血管とともに若返る

・毛細血管は何歳からでも改善できる

・血流をよくすればゴースト化は防げる

・免疫力を上げると毛細血管を維持できる

・毛細血管も自律神経の影響を受けている

・リンパ管は毛細血管のサポーター

・Column@高倉Lab 脳は記憶で傷を修復する!?

第5章 ゴースト血管をつくらない33のメソッド

血管力を上げる簡単メソッドを生活習慣に

Ⅰ 血液の質をよくする

メソッド1 バランスのよい食事を心がける

Ⅱ 「どう食べるか」も重要

メソッド2 食事は腹八分

メソッド3 一気に食べない

メソッド4 一気に飲むのも危険

メソッド5 少量に分けて栄養摂取

メソッド6 糖質はほどほどに

Ⅲ 血管をしなやかにする

メソッド7 うまみ成分を生かす

メソッド8 お酢を活用する

メソッド9 油は選んで使う

メソッド10 スパイスを上手に使う

メソッド11 カリウムを多く摂る

Ⅳ 自律神経のバランスを保つ

メソッド12 呼吸を整える

メソッド13 片鼻呼吸法で副交感神経を活性化

メソッド14 ゆっくりバスタイム

Ⅴ 血流をアップする

メソッド15 運動を習慣化する

メソッド16 1日1回だけしっかり運動する

メソッド17 「ながら」で運動する

メソッド18 かかと上げを習慣に

メソッド19 かかと上げ・応用編

Ⅵ 下半身を鍛えて血流を上げる

メソッド20 スクワットが効く!

メソッド21 ステーショナリーランジで筋トレ

Ⅶ 血管に刺激を与える

メソッド22 血管マッサージで血管を刺激する

Ⅷ ぐっすり眠って血管を修復する

メソッド23 体内時計をリセットする

メソッド24 メラトニンの原料を摂る

メソッド25 夜は光の刺激に注意する

Ⅸ タイツー(Tie2)を活性化する

メソッド26 シナモンを摂取する

メソッド27 シナモン+ショウガで血管の状態を整える

メソッド28 シナモン+バナナで簡単デザート

メソッド29 料理にもシナモンを

メソッド30 注目の食材・ヒハツを摂る

メソッド31 ヒハツを料理に使う

メソッド32 春の山菜・ウコギを摂る

メソッド33 ルイボスティーを飲む

ゴースト血管にまつわるアレコレQ&A

おわりに

第1章 人は毛細血管とともに老いる

それぞれの血管のミッション

動脈

・動脈の直径は1~30mm、弾力性があり、内膜・中膜・外膜の三層構造である。内側には薄い細胞の層である「血管内皮細胞」が敷き詰められていて、ここからNO(一酸化窒素)が分泌されていると、しなやかな血管を維持することができる。

静脈

・血管外に出たリンパ球(白血球)は主にリンパ管を通って静脈に戻る。

・静脈も動脈と同じ三層構造だが、血管の壁はかなり薄い。

・静脈には部分的に内側がひだ状になった弁があり、これにより血流が逆流することを防いでいる。

筋肉や体の動きによって、静脈内の血液の流れは変わる。 

毛細血管

毛細血管は約0.01mm。全長は数千~数万Km。全身の血管の95~99%が毛細血管

・臓器や筋肉などに合わせた形状をしている。まっすぐに、あるいは放射状や蜘蛛の巣状になって、全身に張り巡らせている。

・毛細血管の壁から通過して組織に入った酸素が拡散される距離は、およそ50μm(髪の毛の20分の1程度)。つまり、100μmに1本の割合で毛細血管がないと酸素は行き渡らない。

毛細血管は血管内皮細胞の一層でできている。 

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

「『毛細血管がないと酸素が行き渡らない』となると、どうなるんだっけ?」というとても基本的な疑問が浮かんでしまい検索したところ、高倉先生が解説をされている素晴らしいサイトを見つけました。記事の題名は”【ゴースト血管とは】毛細血管減少の改善・再生に役立つ食事と運動はコレ!”です。ちなみに、私の疑問の回答は”細胞の老化が始まる”というものでした。

毛細血管の運搬法

・毛細血管の内径は約5μm、赤血球の直径は約8μm。このため赤血球が毛細血管を通るとき、毛細血管の内壁と赤血球の表面はこすれ合う。これにより赤血球の酸素や血漿中の栄養が血管内皮細胞の隙間から押し出されて、外側の細胞に届けられる。

毛細血管内の圧力は外側よりも高いため、外側に向かって勢いよく物質が出ていき、外の組織にサーッと吸収されていく(拡散)。 

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

上の図は毛細血管と赤血球がこすれ合っている状態。下の図は赤血球の中の酸素や栄養が外に拡散している様子です。

毛細血管は免疫にはたらく

がんや異物、細菌が侵入すると、血管内皮細胞が反応して、リンパ球に対する接着因子を分泌。ローリングしながら移動し血管内皮細胞同士の微かな隙間を見つけて、壁細胞の後ろに隠れる。その後、壁細胞同士の間を通って血管外に出ていく。これは免疫を担って出ていく白血球につられて外に漏れる血液成分を、最小限にするためのしくみである。

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

左の図の3つの●は”細菌や異物”です。

上段の図は、免疫細胞の白血球が接着因子によって血管内皮細胞にくっつき、ローリングしている状態です。

中段は、壁細胞の後ろに隠れた状態です。

そして、下段は、壁細胞同士のわずかな隙間から、他の血液成分の漏れを最小限にしながら、白血球が細菌や異物の攻撃のために出動していく様子です。

毛細血管は体のバランスを保つ

・毛細血管には体温を維持する働きもあるが、その調節は自律神経が行っている

外気温に対応して自律神経は血液量に関わる筋肉をコントロールする。血液の流れ(血流)は血液の温度低下を防ぎ、体温維持に貢献している。

毛細血管はなぜゴースト化するのか

・毛細血管は加齢により、壁細胞の変性と消滅、それに伴う血管内皮細胞の機能の衰えが起こる。また、内皮細胞と壁細胞の接着を促すアンジオポエチン1というたんぱく質の分泌も減る。これらにより、壁細胞の内皮血管細胞からの離脱が起こりやすくなり、毛細血管は劣化していく。

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

高血糖は毛細血管の劣化を加速させる。体内で過剰な糖質とたんぱく質が結びつく変化を「糖化といい、体内に焦げのような物質「AGE(Advanced Glycation End Products=終末糖化産物)」を発生させる。このAGEは老化の要因の一つである。

血糖値が高くなるとAGEが発生し、毛細血管の血管内皮細胞の受容体がAGEを取り込む。すると「活性酸素が大量に発生し、壁細胞にダメージを与える。

・高血圧や脂質異常症によっても血管はダメージを受け、弾力性が失われる。これも毛細血管の老化といえる。

毛細血管のゴースト化は薬効を十分に浸透させることができないため、病気の治癒率を下げる。

・毛細血管の数は加齢で減少する。皮膚では60~70代の人は、20代の約40%も減少するという報告もある。

第2章 ゴースト血管と病気

腎機能の低下はゴースト血管が招く

・腎臓病の中で最も多いといわれる慢性糸球体腎炎は、糸球体の炎症によってたんぱく尿や血尿が続く病気で、むくみやめまい、高血圧などの症状がある。

・原因には糸球体のゴースト化も考えられる。これは高血糖などにより糸球体の血管内皮細胞を取り巻く壁細胞が剥がれて、漏れてはいけないタンパク質などを排出してしまうという病態である。

ゴースト血管が糖尿病の原因に!?

・糖尿病は尿に糖が出ることが問題ではなく、血液中の血糖値が高い状態のまま続くことに問題がある。つまり、糖尿病は血液や血管にかかわる病気である。

ゴースト血管と肺の病気

・肺の毛細血管は、他の臓器と異なり壁細胞がかなり少なく、血管内皮細胞への接着も少ない。もともと少ないところに、壁細胞の減少が起こると、ダメージもかなり大きくなる。

・肺胞を覆っている毛細血管がゴースト化すると、血管内皮細胞に異物が侵入するリスクが高まり、炎症を起こしやすくなる。マクロファージという炎症性細胞の侵入が多いと、少量のウィルスや細菌にも反応し炎症を生じてしまう。

アトピー性皮膚炎も血管病!?

アトピー性皮膚炎では体内に異常な毛細血管が増加していることが明らかになった

・血管新生により誕生した未成熟な毛細血管(血液成分が漏れやすい)により、炎症細胞のマクロファージが活性化する。すると肥満細胞が反応してヒスタミンが放出されやすくなり、知覚細胞が常に刺激されて異常な痒みが起こる。

・ヒスタミンは血管の漏れも誘導するため、炎症状態が継続してしまう。

過剰な毛細血管がリウマチを悪化させる

・関節リウマチの関節の腫れと痛みは、免疫異常によって誤って自分自身の細胞や組織を攻撃し、それによって炎症が起こるためである。

・免疫異常は血管新生による未成熟な毛細血管が関わっていることが判明した。

炎症を止めるために血管新生が起こるが、壁細胞と血管内皮細胞の接着がゆるい未成熟な血管のため、血液成分が漏れる。その状態のまま血管新生は止まらず、さらに毛細血管が増え続け、炎症も続いてしまう。

認知症の原因はゴースト血管だった!

・アルツハイマー病は脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することが原因とされてきたが、近年解明されたアルツハイマー病のメカニズムは、血液脳関門を形成している毛細血管のゴースト化(血管内皮細胞の機能低下)が、大きな原因であるとされている

・毛細血管の壁細胞が失われることで、血管内皮細胞から血液成分が漏れやすくなる。

かつて悪玉とされたアミロイドβは、脳細胞にとって必要な物質だった。必要とされる分泌がないと血管障害の原因となる。しかし血管がゴースト化すると、アミロイドβの回収・排出が滞り脳内にアミロイドβが過剰に蓄積してしまう。

・アルツハイマー病の引き金は、タウというたんぱく質が異常リン酸化して蓄積し、シナプスに障害を与えることである。シナプスの連動が悪くなり、神経伝達が抑制されて脳機能が低下する。

・タウによる神経への毒性化が始まるのはアミロイドβの蓄積から10年ほどかかるため、アミロイドβの蓄積を病気発症のトリガーとして、この時期に脳の毛細血管を活性化させるような、認知症予防薬の開発も進められている。

血管がゴースト化すると抗がん剤が効かない!?

・がん細胞の増殖のメカニズムを研究する中で、がんとゴースト血管との関係性を発見した。

・細胞は酸素や栄養を使って、細胞内のミトコンドリアがエネルギーを産生するが、がん細胞は酸素が乏しくてもミトコンドリアを介さずに、エネルギーを産生する。

・がんの毛細血管はゴースト血管である。がんの毛細血管には壁細胞は若干あるが、ほとんど血管内皮細胞に接着していない。これは未成熟な血管で伸びることができず団子状になる。このため、酸素や薬剤を運ぶことはできない。

・がん細胞が増殖している組織は低酸素のため、酸素を必要とする放射線治療の効果もあまり期待できない。

がん細胞のゴースト血管(未成熟な毛細血管)を正常な血管に戻せれば、抗がん剤ががん細胞に行き渡ることになる。また、酸素が十分な状態になれば放射線治療も効くようになる。 

第3章 ゴースト血管と老化

「糖化」は体のコゲ

糖化とは食事から摂った余分なブドウ糖が、体内のたんぱく質と結びついて細胞を劣化させることであり、高血糖の血液を運ぶうちに血管の組織はもろくなり、炎症が起こりやすくなる。

糖化はAGE(終末糖化産物)という、「体の焦げ」を作る。毛細血管の壁細胞はAGEによってダメージを受け消滅すると、毛細血管はゴースト化するが、AGEは一度蓄積すると、何十年も分解されずに全身の老化を加速させるので要注意である。

「酸化」は体のサビ

・「酸化」は「糖化」とともに老化を進めるもう一つの原因である。

・活性酸素が体内に過剰に発生すると全身が酸化し、錆びた状態になる。

・活性酸素は体内で生まれ、消えていくもので、細菌やウィルスが体内に侵入すると、活性酸素が反応し破壊してくれる。

もっとも悪性の強い活性酸素のヒドロキシラジカルは、人間の体内の脂質、特にリン脂質に影響を及ぼし、過酸化脂質を発生させる。これが老化やがんなどの病気の原因になると考えられている。

活性酸素の主な発生原因は、大気汚染、強い紫外線、たばこやアルコール、化学薬品や食品添加物、ストレスなどである。

毛細血管、特に壁細胞は活性酸素に非常に弱いので、ダメージを受けやすく、それが毛細血管のゴースト化につながる。

私たちの体内にはSOD(Superoxide Dismutase)という抗酸化酵素が分泌され、過剰な活性酸素を消去してくれるが、加齢とともにSODは減っていく。

更年期は毛細血管のダメージから起きる

・更年期障害の原因は卵巣にエストロゲン分泌の指令を出していた脳の視床下部が、突然分泌ができなくなった状態にパニックになり、以前より数倍の指令を出すために、異常な発汗やめまいが起こるといわれている。

・視床下部は消化機能や自律神経、体温調節などをコントロールする器官のため、それらの調節もできなくなってしまう。 

第4章 人は毛細血管とともに若返る

毛細血管は何歳からでも改善できる

皮膚に傷がつき少し出血したような場合、止血後、好中球やマクロファージなどの炎症細胞が集まり、ダメージを受けた組織を再構築する。その後、線維芽細胞が移動して、場所(細胞外マトリックス)を確保し、血管新生が起こる。この時、必ず毛細血管は伸びているが、傷を治すという緊急事態では毛細血管の伸び方が通常より早い(マウスの実験では、通常の20~40倍だった)。

ケガをしたり、炎症が起こった場合、ダメージを受けた毛細血管が誘導する炎症反応でVEGF(血管内皮成長因子)などの物質を分泌する。それら[VEGFなど]の物質が既存の血管から新しい血管をつくるように促す。

・血管新生は毛細血管の重要な機能の一つだが、がんや過剰な活性酸素などの環境下では、血管内皮細胞と壁細胞が接着していない未成熟な毛細血管ができることもあり、それらは病気の原因につながる。

ゴースト血管は「血管伸長」という機能が残っていれば回復できる。そのためにはゴースト血管に血液を大量に届ける必要があるが、これには質のよい血液がしなやかな血管にスムーズに流れることが重要である。

血流をよくすればゴースト化は防げる

・試験管内の実験では、流れのない状態で血管内皮細胞を培養していると、血管内皮細胞同士の接着がルーズになるが、そこに血液の流れを送りこむと、流れに沿って血管内皮細胞が整列をはじめ、真っすぐできれいな接着が誘導される。これは、血管内皮細胞には血流を認識する受容体があるため、血液が流れると細胞内にシグナルが入り、細胞を接着させる因子を活性化させるからである。

免疫力を上げると毛細血管を維持できる

・免疫にはたらく白血球のうち、外敵と戦うT細胞にはキラーT細胞と、マクロファージや樹状細胞からの情報によってリンパ球に命令を出すヘルパーT細胞がある。このヘルパーT細胞は、血管の中だけでなく血管の周囲にも存在している。さらに、この細胞がないと毛細血管は未成熟になるという論文が2017年に『Nature』に発表された。

毛細血管も自律神経の影響を受けている

・毛細血管とその上流になる細動脈の先にある前毛細血管括約筋が、交感神経が優位になると収縮。これにより、末梢の毛細血管に流れる血液が少なくなり酸素が運ばれなくなる。

・過度な緊張やストレスにより、この状態が続くと毛細血管のゴースト化が加速する。 

画像出展:「ゴースト血管をつくらない33のメソッド」

前に『自律神経は血液量に関わる筋肉をコントロールする』という記述がありましたが、まさにこのことですね。

まとめ

1.血管のゴースト化の主犯は、「糖化」と「酸化」

●糖化はAGE(終末糖化産物)という、「体の焦げ」を作る。毛細血管の壁細胞はAGEによってダメージを受け消滅すると、毛細血管はゴースト化する。

●毛細血管、特に壁細胞は活性酸素に非常に弱いので、ダメージを受けやすく、それが毛細血管のゴースト化につながる。

「糖化」と「酸化」は血管のゴースト化を防ぐためのキーワードです。前者は糖質を摂りすぎないこと、後者は暴飲暴食、喫煙を避けること、良い睡眠や適度な運動などを通じ、強いストレスを溜めこまないことが特に重要です。

2.鍼による手指、足趾に対する局所治療について

今まで、手指や足趾の痺れに対し、患部に直接刺鍼することは避けてきました。これはこれらの部位への刺鍼は痛みをともなうのと、効果に疑問を持っていたためです。

しかし、下記のように、皮膚や毛細血管へのダメージに対する炎症反応は、血管新生や毛細血管の成長促進につながるものなので、施術に組み入れる価値はあると思います。また、血流を高めるという狙いでは、患部の上流の硬くなった筋肉や絞扼ポイントも大切だと思います。

●皮膚に傷がつき少し出血したような場合、好中球やマクロファージなどの炎症細胞が集まり、ダメージを受けた組織を再構築する。その後、血管新生が起こる。この時、必ず毛細血管は伸びているが、傷を治すという緊急事態では、毛細血管の伸び方が通常より早い。

●ケガをしたり、炎症が起こった場合、ダメージを受けた毛細血管が誘導する炎症反応でVEGF(血管内皮成長因子)などの物質を分泌する。それらが既存の血管から新しい血管をつくるように促す。

●ゴースト血管は「血管伸長」という機能が残っていれば回復できる。そのためにはゴースト血管に血液を大量に届ける必要があるが、これには質のよい血液がしなやかな血管にスムーズに流れることが重要である。

●血管内皮細胞には血流を認識する受容体があるため、血液が流れると細胞内にシグナルが入り、細胞を接着させる因子を活性化させる。 

顎関節症

顎関節症は線維筋痛症と同じように以前から気になっていました。それは、不定愁訴を追っていくと顎関節症は一つの可能性として、よく登場してくるためです。また、何となくモヤモヤした印象を持っていたのですが、考えてみると、それは歯科医なのか整形外科医なのかどちらが診る疾患なのかよく分からないというのが理由だったように思います。

検索してみると、顎関節症の書籍は思ったほど多くなく、選んだのは『噛み締めの謎を解く!』という本でした。これはタイトルに付随して、“歯科医が解明した姿勢の歪み・発症のメカニズム”という見出しが気になったためです。

なお、今回は顎関節症の概要や現状を把握すること、鍼灸治療に反映できるものを見つけることが目標です。

ブログは目次の中の黒字の項目をご紹介していますが、「はじめに」は冒頭のみです。内容は要点と感じた個所の要約と、そのまま抜き出した引用(『』で括っています)とが混在しています。 

著者:尾﨑勇

出版:現代書林

発行:2017年5月

 

はじめに

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第1項 あなたの噛み締め度チェック

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

①正しい姿勢とはどのような姿勢? 良い噛み合わせとは?

②姿勢を保つ反射の働き

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

④“あご”が小さくなると頭の位置がずれる?

⑤押し上げ回転と押し下げ回転

⑥7つの姿勢分類と噛み締め型

⑦身体を正面から見た時の姿勢の歪みについて

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

③なぜ口が開かない? 目安は40ミリ

④開口時に起こる関節音(クリック音)

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

●顎関節が痛い

●あごにひっかかり感がある

●噛むと歯が痛い

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

●「緊張性頭痛」の治療方針

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

●“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

●細い眼、眼が乾く、三白眼、左右の眼の大きさの違い

②耳の症状

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

●舌のもつれ・発音障害

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

④鼻の症状

●蓄膿症との関係

⑤首のコリ・首が回らない

●首が回らない症状

⑥指先のちりちり感

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

⑧腕が上がりにくく、肩に痛みが起こる(四十肩・五十肩)

⑨自律神経失調症ほか

⑩睡眠時無呼吸症候群と噛み締め

●睡眠時の無呼吸と噛み締めのメカニズム

●無呼吸を招きやすい仰向け寝

●横向き寝で気道を確保する

●呼吸がしやすいうつ伏せ寝

第4項 クリニックでの実際の症例

①症例1 顔が下を向いてしまった男子中学生の患者さん

②症例2 顔が左右非対称だった30代女性の患者さん

第3章 自宅で症状の改善を図るために

第1項 自分の身体の現状をチェック…触診とあごの位置

第2項 マッサージとストレッチを行う

①立っている姿勢で首のストレッチ

②寝転がって肩と骨盤の高さを整える

③日常の生活習慣を変えていく

④片頭痛と緊張性頭痛の対処法

⑤顎関節症・口周辺の対処法

第3項 具体的な運動療法と訓練

①骨盤を押し下げ回転にする運動療法

②股関節、膝、足の不調の対処法

●足のマメ、足の裏の痛み

③舌の訓練

おわりに 

はじめに

あごの関節が痛くて口が開かない、顎関節にひっかかり感があり口が開けにくい、口を開けたり閉じたりすると「カックン」または「ポン」と音がする、下あごを自由に動かすことができない、噛みにくい、噛む筋肉が痛い……。

このような症状を顎関節症と言います。顎関節症はいつも強く噛み締めている状態、慢性的な「噛み締め」が原因で起こります。しかしなぜ「噛み締め」が起きるのか、本人も知らず知らずに「噛み締め」を続けてしまう状態がどのようなメカニズムで起きるのか、実は歯科界の最大の謎となっています。そして「噛み締め」が原因で顎関節症を患った患者さんの多くが、首や肩に頑固なコリなどの症状を訴え、「頭痛がする」、「手足がしびれる」、「精神的な落ち込みがひどい」などの全身的な症状を訴えます。

これまでの長年の治療で、「噛み合わせ」の治療を終えて顎関節の痛みが消え、口が正常に開くようになると、患者さんが訴えていた首のコリも消え、慢性的に感じていた苦痛に改善がみられることがわかってきました。こうした経験から噛み合わせが身体全体に及ぼす影響を無視できないと考え、「噛み締め」がなぜ起こるのか、そのメカニズムを解き明かす研究に20年以上取り組んできました。』

第1章 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

第2項 歯科最大の謎―噛み締めのメカニズム

②姿勢を保つ反射の働き

・重い指令塔を身体のてっぺんに載せて2本足で立つというとても不安定な構造であるが、視覚や聴覚、あちこちの関節に加わる力や反射などさまざまな感覚や機能をフル稼働させてバランスをとり姿勢を保持している。

・「反射」は姿勢を維持するために特に重要な役割を担う。頭が傾いた時、頭を支える首の筋肉が緊張したり弛緩したりして、頭の傾きを修整する。

・反射は複数あるが、とくに「姿勢反射」は、噛み合わせと深く関連している。身体が揺らぎながら良い姿勢を維持できるエリアを青くし、これを超えてバランスを崩したり倒れたりするエリアを赤く塗ると図3のようなイメージになる。

・『青ゾーンでは、頭は傾くことなく平衡を保ちながら身体が揺らいでいます。そしてこの範囲で身体が揺らぐときは、上下の歯は接触することなく安静位空隙が保たれていると考えます。安静位空隙とは車のハンドルの遊びのようなものです。この“遊びの空間”が確保されているために、上あごから筋肉という紐で吊るされたような構造の下あごも、身体の揺れに合わせて一緒にブランコのように揺れることができます。下あごは身体の動きを感知するセンサーの役割を果たし、姿勢を制御しているというのが、本書の核心になります。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

 

画像出展:「柔整ホットニュース

上から2段目の、”延髄・橋に関する反射”の右カッコ内に書かれた“緊張性迷路反射”は、耳石器官が関り頭部を調整します。一方、“緊張性頚反射”は頚部の伸張度に応じて四肢の緊張を変化させるもので、非対称性と対称性に分けられますが、いずれも生後4週間から8週間に最も顕著に見られ、原始反射と呼ばれています。

③口元の異常が肩や腰、膝へと伝わっていく

あごの痛みを訴えて診察に来る患者さんは、ほとんど身体に歪みがあって姿勢が崩れています。そして首や肩、腰などに痛みを抱えています。患者さんの姿勢は、いったいいつ、どのようにして崩れてしまうのでしょうか?

その発端は、私は“口元”にあると考えています。口を開けたり閉じたり、話したり、食べ物を飲み込んだりする一連の動きは絶妙なタイミングで調和しています。ちょっとでもずれるとしゃべっているときにつばが飛び散りやすかったり、食べ物が口からこぼれやすかったり、頬っぺたや唇の裏側を噛んでしまい、その傷がもとで口内炎になったりします。そして口周辺と身体の筋肉はつながっているため、患者さんの口元で始まった歪みが、筋肉を伝わって全身に波及していくことがわかってきました。

●口元に起きた異常が全身に波及する流れ

1.食べものの咀嚼や飲み込み、話をしたり息をしたりするときに使う噛む筋肉、舌の筋肉、喉の筋肉などは、口やあご周辺で独立しているのではなく、それぞれが連携し調和しながら動き、首や肩、胸の筋肉とつながり、全身の動きとつながっている。

2.口やあごなど口元に異常が起きると、食べ物を飲み込んだり、話をしたり、とくに呼吸する機能に支障が出る。

3.生命の維持に重要な呼吸機能を守るため、司令塔(=頭部)は台車(=首から下の身体)に、「口とつながっている筋肉に力を入れて引っ張ったり、伸ばしたりして、呼吸が楽にできるようにしろ!」と命令する。あごや頭部の位置をずらしながら、呼吸が楽になる姿勢を見つけると、たとえ頭の位置が身体の重心からずれていたとしても、その状態をキープ7するよう命令する。このため口元や首周辺の筋肉は、常に力が入った状態で固定化する。(図7)  

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

4.口元や首の筋肉が常に緊張・収縮すると、その筋肉につながっている胸、背中の筋肉、それにつながっている腰、臀部の筋肉へと緊張が全身に伝わっていく。身体の筋肉の力が抜けていて、筋肉が緊張と弛緩を繰り返しながら頭が落ちないようにバランスをとる正常な姿勢から、常に筋肉がこわばっている状態に身体が変化し、身体のゆらぎが失われて姿勢が固定化する。

5.筋肉の緊張が定常化した箇所で、コリや痛みが発生する。こうして口元の異常が全身のコリや痛みなどの不定愁訴につながっていく。 

『このような流れで口元の異常が全身に及んでいます。逆にこうした流れで生じた頭痛や肩こりなどの不定愁訴は、口元の異常を治せば解消するというのが私の治療方針になります。』

第2章 噛み締めが引き起こすさまざまな症状

第1項 噛み締めが引き起こす顎関節症

①顎関節症の実態

顎関節症は原因の究明も治療法も確立しておらず、顎関節症の治療を行っても健康保険の対象となる部分は少ない。そのため収入につながらない。これが立ち遅れている一因でもある。

・顎の関節が痛い、口が開かない、口の開け閉めで音がする、顎や舌が動かしづらい、顎に引っ掛かり感がある、これらは顎関節症の症状である。これらの原因は主に「噛み締め」状態が長期間、絶え間なく続くためである。

②女性が男性の2~3倍、顎関節症になりやすい理由

男女の身体の使い方の違いに原因があると考えている。

・特にスカートやハイヒールをはいた時など、多くの女性は綺麗な姿勢を意識するため、骨盤は強い押し上げ回転となる。一方、女性はあごの発育が小さく口の中が狭いため、気道を広げるために頭は押し下げ回転傾向にある。つまり、骨盤と頭の回転はいつも逆向きとなり、腰椎や頚椎に歪みを発生させる。そして、それが「噛み締め⇒顎関節症」につながる。 

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

左は、顎は押し下げ傾向にあるにもかかわらず、意図的に骨盤を押し上げるケース。右は、骨盤が押し下げ傾向にあるにもかかわらず、噛み締めのために顎を引いているケース。これらの無理な姿勢が繰り返されて、腰椎や頚椎に歪み(赤曲線)がうまれていく。

⑤顎関節症のさまざまな症状

●気がつくと噛み締めている

・傾いた頭は姿勢反射によって平衡状態に戻されるが、気道確保などの理由で姿勢反射が働かず、首が曲がったままの状態が続くと、首にスイッチがある頸反射が働き続け、顔を上げ下げする筋肉が収縮する。また、首の筋肉に連動して噛む筋肉が緊張し続け、本人が気づかないうちに「噛み締め」がおきる。 

●顎関節が痛い

・低い冠やブリッジ、低い義歯の装着、奥歯を抜いたままの放置などによって、奥歯の高さが低くなると、噛み締めの力は、本来は受け止めるべき奥歯ではなく、下あごの顎関節頭と関節円板で受けとることになる。顎関節頭は円板の後方にずれ落ち、噛み締める力は顎関節頭から直接、鰐関節窩に伝わり、圧迫し、傷つけ、噛むたびに顎関節が痛む。 

顎関節の構造です。この画像は大阪市にある「MDC(モリサキデンタルクリニック)」さまから拝借しました。

 

●あごにひっかかり感がある

・口を開ける時に感じる“あごの引っかかり感”は、顎関節頭が関節円板の後方に滑り落ちている状態で起きる。大きく口を開ける時に顎関節頭は前方に滑走するが、関節円板が移動を妨げると、“あごがひっかかるような”感じを覚える。

口を開け閉めした時の様子です。この画像は函館市の「みはら歯科矯正クリニック」さまから拝借しました。

 

 

●噛むと歯が痛い

・しっかりと嚙合わせる事ができないと訴える人は、上下の歯を接触させながら前後左右に下顎をスライドできない。正しい噛み合わせは、上下の歯列に噛む力が均等に伝わる。噛み締めの圧力が偏り続けると圧力よって歯槽骨と歯の間にある歯根膜を圧迫して炎症を起こし痛みがおこる。この状態を早期接触による咬合痛という。

●歯ぎしりをする(ブラキシズム)

・歯ぎしりは大学や研究機関においても未だに、原因が突き止められていない。

・身体の歪みが解消されない状態が続くと、身体に起こった筋肉の緊張状態を解放するため、無意識に左右の噛む筋肉を交互に緊張させていると考えている。

・歯ぎしりは通常は60~80㎏の噛み締めの力が、ライオンや虎と同じ200~250㎏に及ぶ人もいる。

・歯ぎしりが続くと咬耗や歯周病の進行を止めることは難しい。

・歯ぎしりは蓄積したストレスを発散させ、全身の硬直状態を緩和する行為かもしれない。しかし、度が過ぎた噛み締めや歯ぎしりは治療が必要になる。

・噛み締めや歯ぎしりは、全身の筋肉の緊張と密接に関係している。口元の噛み合わせの治療だけでは改善が望めない場合、運動療法によって身体が硬直しないよう、正しい身体の使い方を身につける必要がある。

●ほとんどの人は左側の「噛み締め」

・噛み締めは、どちらか片方に偏っている人がほとんどである。そして、来院される患者さんの9割ほどは左である。なお、原因は諸説あり明確なことは分からない。

第2項 噛み締めが引き起こす頭痛

①子供にも広がる噛み締めからの頭痛

噛み合わせの歪みは必ず首に伝わり、その痛みが首から上に向かう場合は頭痛など頭部を中心とした痛み(不定愁訴)を引き起こす。一方、首から下に向かう場合は、肩、背中、腰などを中心とした痛みを引き起こす。

・顎関節症で、慢性的な頭痛をもっている患者さんはほとんど成人だったが、最近では小学生など年齢や性別に関わらず、頭痛に悩む患者さんが増えてきた。

・日本人の3人に1人が慢性的な反復性頭痛をもち、寝込んでしまうほどの痛みを経験した人が34%、国民の約1割は頭痛により日常生活に支障があるという報告もある。

・慢性頭痛は緊張性頭痛と片頭痛が代表的。前者は人口の約8%、後者は約20~30%といわれている。

②緊張性頭痛(非血管性頭痛)と割り箸対処法

・「緊張性頭痛」は、奥歯の噛み合わせの高さが十分ではなく、気道を確保するために頭を押し下げ回転がかかる傾向の強い人が、職場のストレスなどで身体中の筋肉を緊張させた時に、とくに強い筋力を持つ背中の筋肉が収縮して骨盤を押し上げ回転させてしまうことで、引き起こされていると考えている。

・頭と骨盤が逆向きに回転し、腰椎や頚椎に生じた歪みが発端となって全身に起きる不定愁訴のうちの一つの症状ととらえている。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

緊張性頭痛に関して、特に左のケースが重要なようです。

画像出展:「Therapist Circle

“背中の筋肉”は脊柱起立筋群と呼ばれており、姿勢を維持する“抗重力筋”に該当します。

 抗重力筋には筋紡錘が多いためにうっ血しやすい

抗重力筋には筋紡錘(筋肉の長さを認識するための受容器[センサー])が多いという特徴があります。こちらの記事は「インナーマッスル腹筋でシェイプアップ!!」さまのものです。

画像出展:「鍼灸は効くのか、なぜ効くのかの10講」(全日本鍼灸学会)(PDF4枚)

筋紡錘には交感神経が入ってきているため、ストレスに反応しやすく血管を収縮、血流を悪化させ筋肉を硬くします。

 

③片頭痛(血管性頭痛)と女性の患者数

・片頭痛は片側あるいは両方のこめかみから眼のあたりにかけて、脈を打つように「ズキン、ズキン」と痛むのが特徴である。痛みは4時間~72時間ほど続く。女性は男性の約3倍、比較的若い層(10~40代)に起こる。

・片頭痛は血管性頭痛とも呼ばれ、脳や頭の血管が収縮していた状態から急激に拡張したりする時に、心臓の拍動と同じリズムで痛みが起きる。

“こめかみ”周囲に起こる片頭痛の成因

・噛み締めと鱗状縫合の働きが密接にかかわっていると考えている。ストレスの多い生活によって強い噛み締め状態が長時間続き、噛む筋肉が収縮して硬直している状態が長く続くと、鱗状縫合は閉じたままの状態が続く。ストレスから解放されると、全身の筋肉が弛緩して噛み締めや食いしばりからも解放され、噛み締めによって長期間閉じていた側頭部にある鱗状縫合が突然開き、鱗状縫合に接していた血管の周囲は急激に減圧となって、血管が膨らんだり周囲にひっぱられ、血管を取り巻く神経は引きちぎられて傷つき、拍動を伴った激しい頭痛が発現する。

・『ストレスから開放されたことでセロトニンの消失による血管の膨張と、噛み締めの解消による鱗状縫合の弛緩という、身体の中でただ一ヵ所、2つの膨張要素が重なって三叉神経の損傷が起きるため、こめかみにだけ痛みが出現するというのが私の考えです。この考えについては、今後、脳外科や整形外科、耳鼻科の先生たちとともに検証を進めていきたいと考えています。

まだ私の研究が初期のころ、スプリント装置の装着や、冠を被せる噛み合わせの治療を施して急に「噛み締め」を解放させたときに、患者さんに激しい片頭痛が起きて治療を中断する事が何度もありました。』

鱗状縫合は側頭部中央付近の側頭骨と頭頂骨の間にある縫合です。この画像は兵庫県西宮市の「まつうら歯科クリニック」さまから拝借しました。

 

 

こちらの図は「三叉神経痛.Com」さまから拝借しました。

 

 

第3項 噛み締めが全身に引き起こすさまざまな不定愁訴

①眼の症状

・片頭痛とともに眼の奥に激しい痛みを感じることがある。眼窩の骨は下あごの外側にある咬筋と側頭筋、そして下あごの内側にある翼突筋と結びついている。翼突筋は下あごを前方に押し出す働きがあり、左側に「噛み締め」がある時は、左の咬筋と側頭筋が収縮して下あごを左奥に引っ張り、下あごは左側に移動する。一方、右側の翼突筋も収縮し、足場としている眼の裏側にある骨を歪ませる。そのために左に噛み締めがある人は、右の眼の奥に痛みが起こると考えられる。

こちらの図は「PROTECT GUM」さまから拝借しました。各筋肉の詳しい説明は「筋肉.guide」さまのものです。

②耳の症状

・耳の痛みや難聴等の耳の症状は、噛み締めにより、顎関節頭が額関節窩後壁を直接圧迫し、薄い骨で隔てた外耳道を圧迫するために起こる。

・応急措置としては硬直した噛む筋肉をマッサージするのが効果的だが、本格的な治療は噛み合わせを支える奥歯の高さを回復させる歯科治療が必要になる。

・耳鳴りに関しては、顎関節治療によって消えた患者さんもいれば、続いている患者さんもあり、顎関節症との関係ははっきりしていない。

③口、喉の症状―噛み合わせと気道の圧迫

・顎関節症は「身体と噛み合わせの役割」をよく理解していないと、治すのは容易ではなく、かえって症状を悪化させてしまう場合もある。

・特に問題が多いのは、顎が小さい患者さんの歯並びを矯正する時に、歯が並ぶスペースをつくるために、噛み合わせにとって最も重要な小臼歯を抜歯(便宜抜歯)することである。

●舌のもつれ・発音障害

・低い噛み合わせを急に高くすると、口の中が広がることにより、舌の位置が定まらず発音や嚥下機能に障害が起きたり、さまざまな違和感があらわれたりすることがある。

●口の中が乾く・口臭がある。舌がしびれる、舌痛

・噛み締め状態が続くと、筋肉の硬直のために血流が悪化し、唾液腺の働きが弱まり口の中が乾き、唾液による自浄作用の低下により細菌が滞り、口臭などの原因にもなる。また、血流の問題は舌痛や舌のしびれを起こすこともある。

舌に歯の圧痕がつく症状は慢性的な「噛み締め」によるものである。 

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

顎関節症が疑われる時に、舌の外側に歯の圧痕を確認することは良い方法だと思います。

④鼻の症状

・アレルギー性鼻炎などの耳鼻科的疾患がないにもかかわらず、鼻で息がしにくいと感じる状態は、口の中に舌が収まるスペースが不足しているために舌が喉に落ち込んで、軟口蓋が押し上げられている状態が考えられる。

⑤首のコリ・首が回らない

・噛む筋肉と首の筋肉は連動している。「片寄った噛み癖」、「片寄った噛み締め」がある人は、首の動きが悪い、首こりがある、疲れてくると首が痛い、首をマッサージすると激しい痛みがあるなど、首を中心とした症状を訴える。このような患者さんは、首の後方、第1~第3頸椎周囲がほとんど硬直している。強く押すと神経に触ったかのような激しい痛みを訴える。そしてこの痛みは、噛み合わせの治療を施すと消える。

⑥指先のちりちり感

・指先がチリチリと痺れ、フライパンなどがしっかりもてない症状は、頸椎5、6、7番目の後方から腕の指に神経が出ているが、この部位の筋肉が長期に渡って硬直し、血流が悪くなって疲労性老廃物が蓄積した状態になると、指先にしびれたような感覚が起こる。

⑦左右の肩の高さの違い・左右の骨盤の高さの違い

・噛む筋肉の収縮により、左肩が上がり[左側を強く噛み続けると]、相対的に右肩が下がる。左肩は背中側に引っ張られ、右肩は下がりながら身体の前側に引っ張られ、左右の肩の高さに違いが生まれる。さらに骨盤は左側が下がり、右骨盤は上がって右膝は伸びてロック状態になる。

画像出展:「噛み締めの謎を解く!」

上記で紹介されているケースは左の図のAEになります。

⑨自律神経失調症ほか

・噛み締めがあり身体の筋肉が収縮し続けているような人は、筋肉の緊張状態が続き、交感神経が優位に働いて身体を休める事ができなくなる。

・頸反射は睡眠中であっても身体の筋肉を収縮させているために交感神経を興奮させ、なかなか寝つかれない身体の状況を作り、眠りを浅くし、睡眠不足のために疲れが溜まり常にイライラする。

・首には自律神経が通っており、首の筋肉が緊張し続ける事で正常な自律神経の働きを乱す可能性も考えられる。

・頸反射によって首の筋肉の収縮が後頭部周囲の頸椎に集中すると、頸椎に沿うようにして脳に血液を送っている椎骨動脈が圧迫される。脳に血液を送らなければならない時、高血圧を引き起こす可能性が考えられる。

まとめ(鍼灸治療で考えること)

1.顎関節症は長期に渡る過度なストレスが関係している。

2.鍼灸治療の対象は筋肉と自律神経系である。

●筋肉を緩める

・局所…側頭筋、咬筋、外側翼突筋

・全身…後頚部、腰背部、腹部(腸腰筋など)

●自律神経系を調整する

・本治…脈診から判断したツボおよび“全身調整穴”による施術

・特効穴…内ネーブル4点(長野式で用いられているツボ。お臍の際に4ヵ所雀啄+置鍼。花粉症で使われる)※ブログ”花粉症と自律神経”の最後の付記に説明があります。

付記:日本顎関節学会(さいたま市)

色々検索しているときに、「日本顎関節学会」という学会を見つけました。

このサイトには“専門医・指導医一覧”というページがあります。埼玉県は専門医がさいたま市に一つ、指導医が春日部市に一つありました。

さいたま市の場所は北区宮原町です。

専門医は部長の鈴木茂先生になります。

スペイン風邪と新型コロナ2

著者:速水 融

発行:2006年2月

出版:藤原書店

目次は”スペイン風邪と新型コロナ1”参照ください。

第6章 統計の語るインフルエンザの猖獗

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“この恐ろしき死亡率を見よ 流感の恐怖時代襲来す”

全国の状況

-死亡者数の合計

『スペイン・インフルエンザは、大正七(1918)年の「春の先触れ」の後、本格的には、同年10月に始まる「前流行」として、さらに翌大正八(1919)年12月に始まる「後流行」として、二度、日本を襲った。われわれの計算では「前流行」の「インフルエンザ死亡者」は26万647人、「後流行」は18万6673人合計45万3152人で、この数は、従来言われてきたどの死亡者数よりも多い。これは、従来用いられてきた「流行性感冒」の数値から離れ、「日本帝国死因統計」に戻り、「超過死亡[インフルエンザが流行していなかったと想定したときの死亡者数と範囲を統計学的な手法を使って推定し、実際の死亡者数と比較することでインフルエンザによる死亡者数を推定したもの “国立感染症研究所 感染症疫学センター”より]」の考え方に基づいて死亡者数を計算し直した結果である(「流行性感冒」にも超過死亡に近い見方をしている箇所があるが)。』 

-月別の死亡者数

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

月別インフルエンザ死亡者数(全国)〔1918年―1920年〕

・「前流行」の死亡者数は急速に増大し、大正七(1918)年11月だけで13万人以上を記録し、5月にほぼ終息した。

・このグラフは「前流行」と「後流行」の二つの山があったことを示している。それぞれのピークは大正七(1918)年11月と大正九(1920)年1月で、前者が13万人強、後者が8万弱であった。

-年齢別死亡率

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

年齢別インフルエンザ死亡者率(全国・男女別)〔1918年―1920年〕

・5歳を過ぎると死亡率は低下するが、15~19歳層から上昇し、男子では30~34歳層、女子では25~29歳層をピークにあとは次第に下降している。このように通常ならば年齢別死亡率の低い層が逆に高いというのが、スペイン・インフルエンザの特徴だった。

地方ごとの状況

-府県別インフルエンザ死亡者数(上)

-府県別インフルエンザ死亡率(下)

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

府県別インフルエンザ死亡者数(前流行・後流行・合計)

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

府県別インフルエンザ死亡率(前流行・後流行・合計)

・人的被害は地方差が顕著であったが、この差は、猖獗を極めた時期、都市の存在、軍隊との関係、置かれた自然条件などからもたらされた。

第8章 国内における流行の諸相

神奈川県

-与謝野晶子が感じた「死の恐怖」 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

こちらの”死の恐怖”は2度目の投稿。1度目の投稿の題名は”感冒の床から”。

 

『ところで【新報】は、この時期全盛時代で、発行部数15万部、東京発行のどの新聞より県下で広く読まれていた。そして評論家として与謝野晶子からしばしば寄稿を受けていた。流行性感冒に関し、与謝野は二度の論評を掲載している。

第一回は、「前流行」のさなか、大正七(1918)年11月10日で、「感冒の床から」と題し、その伝染性の強さから説き起こし、自分の一人の子どもが小学校で感染したら家族全員に伝染したことを述べ、ついで、日本の対応の遅さに怒りをぶつけている。政府はなぜ早くから、伝染防止のため、「大呉服店、学校、興行物、大工場、大展覧会等、多くの人間の密集する場所の一時的休業を命じなかったのでせうか」。一方では、警視庁の衛生係ではなるべく人ごみに出るなと警告していることを挙げている。このような政府における意志の不統一は多くの国民を危険にさらしているのだ、と気焔(キエン)をあげている。彼女が我慢ならなかったのは、「日本人に共通した目前主義や便宜主義[問題の根本的な部分にはふれないで、何とか済ませてしまおうとする態度]の性癖」であった。あとは折からの大戦終結に向けての意見なのでここでは省略する。

第二回は「後流行」のさなか、大正九(1920)年1月25日で、「死の恐怖」と題し、かなり悲観的、達観的な筆致になっている。死とは何か、から始まり、今回の流行性感冒によって自分が死ぬとしても、最後まで子ども達のために生きたい、それには予防をし、注射を受け、全力を注いで生きるべく努め、「生」への欲を高揚させること、その後なら「人事を尽くした」のだから、運命とあきらめることもできる、としている。「君しにたまふことなかれ」は有名な晶子の詩であるが、ここではそれを自分に向けたかのように感じられる。

終章 総括・対策・教訓

総括

-なぜ忘却されたか?

・『大正中期、日本は、精神的にも、社会的にも、物質的にも大きな曲がり角にあった。海外から入ってくる社会主義思想と、それに対抗する日本の伝統に立つべしとする考え方とかが正面から衝突し、ひとびと、とくにインテリ層は、自分の位相をはっきりさせる必要に迫られていた。「米騒動」に象徴される社会運動は、これに都市の労働運動も加わり、騒々しさを増していった。日本の工業生産額が、農業生産額を上回ったのも、まさにこの時期のことであった。電力生産量が増え、一般家庭に電灯が行きわたり、夜の生活が一変した。夜なべ仕事や読書が従来よりはるかに容易にできるようになった。

日本は、大した犠牲も払わずに第一次世界大戦の戦勝国となり、国際聯(連)盟の理事国にさえなったのである。日本の国際的地位が上がるとともに、日本の大陸侵出が本格的に始まり、内戦中で有効な対抗手段を持たなかった中国へは、要求、借款、資本進出が相ついだ。これに対して、大戦中または大戦直後のヨーロッパ諸国は、自国の再建に忙殺され、ひとりアメリカのみが日本のアジア侵出を警戒し、そのことに対する日本の対応が、結局、その後の太平洋戦争をもたらす素因となるのである。

国内政治では、男子に限られていたとはいえ、制限付きで普通選挙法が治安維持法と抱き合わせのような形で施行され、大学令によって、私立大学も大学の仲間入りをした。識字率の上昇は、大衆に文字文化を伝え、雑誌、書籍の発行点数が非常な勢いで上昇した。

・『関東大震災による死亡者は、最近の調査で約10万人とかなり減ったが、物的被害の大きさはスペイン・インフルエンザの比ではない。この二つの事件を並べると、人的被害と物的被害が対照的であることに気づく。スペイン・インフルエンザによって、日本の景観は少しもかわらなかったが、関東大震災は、東京・横浜を中心に焼野原を作りだした。本書を記すにあたって、スペイン・インフルエンザ流行期の写真を探したが、ほとんど見つからなかったのも、スペイン・インフルエンザが「絵にはならなかった」からであろう。

ともかく関東大震災の一撃によって、スペイン・インフルエンザは記憶の片隅に追いやられてしまった。さらに、昭和期に入ると、日中戦争、太平洋戦争とスペイン・インフルエンザより、もう一桁多い戦死者や一般市民の犠牲者を出す出来事があいつぎ、その思い出は忘却のなかに薄らいでしまった。ようやく、90年近くを経て、いま、再び新型インフルエンザの到来の危険が叫ばれるようになり、スペイン・インフルエンザが人々の話題に登場するようになったのである。』

対策

-人々はインフルエンザにどう対したか?

・『未曽有の大量の死者をもたらしたスペイン・インフルエンザに対し、政府や医学界は何も対策を講じなかったのか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。イエスというのは、政府や地方自治体、警察、医学界、病院は、予防ワクチンの注射を勧め、通告を出して、マスクの使用、うがいや手洗いの励行、人ごみをさけることなどを、繰り返し促していた。小学校や中学校では、罹患者が出れば休校となった。こういった注意は、すでに述べてきたように、現在でもわれわれが唯一とり得る対処法であり、呼吸器系の感染症対策の基本である。軍隊が演習を中止したり、鉄道や通信は人手不足で機能を低下させたが、全面ストップにはならなかった。何とかやりくりして、最悪の事態を回避した。何の準備もなかった当時のことを考慮すれば、これには「天晴れ」印を付したいくらいである。スペイン・インフルエンザによる死亡者数が、人口の0.8パーセントでとどまったのも、いく分かはこういった対策が効いたのかもしれない。

しかし、そういった対策は、決して徹底されていたわけではなく、すべてに効果があったわけでもなかった。興業の閉鎖は関東州だけで、他のところではなされなかった。神仏に救いを求めて殺到する満員電車の乗客には、車内での罹患の危険が非常に高かったにもかかわらず、何の規制も加えられなかった。新聞にも、同様の注意が府県、著名な医者の談話として終始掲載され、具体的に、予防ワクチン注射の予定も発表されているが、これはスペイン・インフルエンザ自身に対してなんら効果はなかった。』

新型コロナ感染対策

画像出展:「AFP●BBNews

特集:新型コロナウイルス感染症「COVID-19」”から拝借しました。

 

問題解決の王道は「早期発見、早期対応」です。そして、対策が自分自身で解決できる範囲(ヒト・モノ・カネ)を超える場合は、速やかに上司に相談し、問題解決できる立場(役職)の人を巻き込むことが肝要です。もし、躊躇すれば問題解決のゴールは遠くなります。

これは、私が営業で学んだことです。

政府の感染対策は1年経った今も有事対応には至らず、失敗を恐れて蓋をしてしまったかのようで、根本解決のための積極的な対策は見えてきません。手綱を握りつつ、多くは地方自治体や保健所に丸投げしているようにみえます。うまくいって当たり前、失敗したら厳しい政権批判につながる難しい舵取りのコロナ感染対策からは距離を置き、失敗が少なく英断も不要、多くの国民から評価を得られやすい施策に税金を優先的に投入しているのではないかと勘ぐってしまいます。ちなみに平成30年版厚生労働白書によると、医療関係従事者数は3,206,055人です。一方、日本の有権者数(令和元年の参院選)は、106,587,860人なので、この数字を使って計算すると医療関係従事者は有権者の約3%にすぎないということが分かります。

また、注力している“Go toキャンペーン”にはブレーキがついていないことが発覚し、あらためて危機意識の低さに愕然としてしまいます。アクセルとブレーキを使い分けられない日本政府が、東京オリンピック・パラリンピックを開催することはとても不安です。 

溜まっていた政府への不満と愚痴を書いてしまい申し訳ありません。ただ、アクセル(経済活性化)が非常に重要であることに疑う余地はなく、「本当のところ、どうすべきなのだろう?」という疑問から、まずはうまく対応している国を中心にデータを取ってみてはと思い、調べたところworldometer”という素晴らしいサイトがあることを知りました。そして何はともあれ、情報収集(集計)を始めることにしました。

なお、”worldometer"と共に、ロイターさまの”COVID-19 Gloval tracker”も興味深いサイトです。 

日本(2.891)以外で注目した国は、東アジアが“韓国(1.964)”、“台湾(0.029)”、東南アジアが“フィリピン(8.497)”、“ベトナム(0.036)”、“タイ(0.093)”、“シンガポール(0.494)”、オセアニアが“オーストラリア(3.561)”、“ニュージーランド(0.500)”、欧州が“ドイツ(36.510)”、“スウェーデ(88.386)”、“フィンランド(10.389)”の計11の国です。国名の後ろの( )の数字は、2021年1月5日時点の“人口10万人当たりの累積死亡者数”です。グラフは死亡者数が2桁のスウェーデン、ドイツ、フィンランドを除く9カ国としました。

集計は昨年8月4日からですが、今年の年末まで集計し、約1年半のデータにGDPや失業率などの経済指標を加えて、感染対策と経済対策の関係性について見てみたいと思っています。

参考:「worldometer」

 

今回のブログでは、第2波(第2の山)が大きくなった、日本、フィリピン、オーストラリアの3国に絞り、2021年1月5日までの155日間を対象に人口10万人当たりの、“新規感染者数”・“累積死亡者数”・“累積検査数”をグラフ化しました。以下の表は3カ国ですが、これは12カ国から抜粋したものです。(こんな感じで集計していますということで貼り付けました) 

参考:「worldometer」

 

参考:「worldometer」

”Go to イート”および”Go to トラベル”東京参加は10月1日です。「人が動けばウィルスも動く」だと思います。やはり、ブレーキは必須です。

 

参考:「worldometer」

日本、フィリピンとも明らかに増加傾向です。日本が増え始めた11月5日~1月5日までの2カ月間で両国を比べてみると、日本2.03フィリピン1.25倍となっています。日本は今が最も大事な時期だと思います。

 

 

参考:「worldometer」

このグラフでは日本とフィリピンの差が分かりずらいのですが、2021年1月5日/2020年8月4日の検査数は、日本3,986/672(5.93倍)フィリピン6,230/1,474(4.22倍)と両国も増えていますが、積極的な検査をしているオーストラリアとの差は大きなものです。

日本と検査実態が似ているフィリピンの第2次対策の予算の概要は以下の通りです。こちらは、JETROさまの”フィリピンで新型コロナ対策法第2弾が可決”から拝借しました。

総額1,655億ペソ(約3,641億円、1ペソ=約2.2円)、内訳は予備費(255億ペソ)を除いたものです。

なお、フィリピンの大卒初任給は日本円で約5万円とのことなので、日本の約1/4になります。そのため、投入金額の規模感は4倍の約1兆4500億円程度になります。また、フィリピンのGDPは神奈川県の2824億ドル(”米国個別株とETF【銘柄分析400】”より)を少し上回る規模のようですので、神奈川県が1兆円を超える対策をうったというイメージです。太字は主に医療に関わる予算ですが、合計すると305億ぺソとなり全体の23.3%になります。

日本はこの後、ご紹介するのですが、フィリピンは日本に比べると予算の用途が明確です。日本は、「緊急対応策第2弾」では、“感染拡大防止策と医療提供体制の整備:486億円”、「第1次補正予算の概要」では“新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称)〔1,490億円〕”内訳も付いているものの、具体的にどのような対策をとって問題解決を図ろうとしているのか、予算からは日本政府の根本解決の強い意志は伝わってきません。これは、与謝野晶子先生がスペイン・インフルエンザのパンデミックの時に指摘されていたと同じように、新型コロナ対策も、目前主義・便宜主義な予算化と言わざるを得ません。

●政府系金融機関への資金注入(394億7,000万ペソ)

●農業・漁業従事者向け補助(240億ペソ)

医療従事者の雇用経費および福利厚生費用(135億ペソ)

●失業者などに労働機会を提供して収入を補助する「キャッシュ・フォー・ワーク・プログラム」(130億ペソ)

●公共交通の運転手などへの補助(95億ペソ)

●危機的な状況にある個人向け補助(60億ペソ)

感染者の接触履歴調査員雇用費(50億ペソ)

医療隔離施設の建設や政府系病院の拡張(45億ペソ)

新型コロナウイルス感染者の隔離関連経費(45億ペソ)

●観光産業向け補助(40億ペソ)

●遠隔教育推進費用の補助(40億ペソ)

医療用防護服などの調達費用(30億ペソ)

参考:「フィリピンで新型コロナ対策法第2弾が可決

緑色は”観光産業向け補助”です。”医療従事者の雇用経費および福利厚生費用”の約3割となっています。

 

日本の新型コロナ対策に関しては財務省のサイトにある“令和2年度補正予算(第1号及び第2号)の概要について”が参考になります。

以下に気になる箇所をチェックしながら書き出しました。 

1.緊急対応策第1弾

・政府チャーター機による帰国者の生活支援やワクチン等の研究開発の加速などを盛り込んだ、予備費103億円を含む総額153億円の対応策を2月13日に取りまとめた。(予備費を除く金額は、50億円)

2.緊急対応策第2弾

・新たな助成金など学校の臨時休業に伴って生じる課題への対応や、雇用調整助成金の特例措置の拡大などを盛り込んだ、予備費2,715億円を含む総額4,308億円の対応策を3月10日に取りまとめた。(予備費を除く金額は、1,293億円)

内訳

1)感染拡大防止策と医療提供体制の整備(11.28%):486億円―PCR検査強化10億円(0.23%)、治療薬開発加速28億円(0.64%)など

2)学校臨時休業に伴って生じる課題対応(57.14%):2462億円―保護者支援で1750億円、学童クラブ体制強化等470億円など。

3)事業活動継続縮小や雇用への対応(27.66%):1192億円―雇用調整金特例措置の拡大374億円、資金繰り支援782億円。

4)事態の変化に即応した緊急措置など(3.89%):168億円。

特に“PCR検査強化10億円(0.23%)”と“治療薬開発加速28億円(0.64%)”を足しても対策費の1%にも満たないという現実に唖然としてしまいました。

3.第1次補正予算の概要

1)新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係経費(25兆5,655億円)

(ア)感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円):7.07%

(イ)雇用の維持と事業の継続(19兆4,905億円):76.2%

(ウ)次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復(1兆8,482億円):7.22%

(エ)強靭な経済構造の構築(9,172億円):3.58%

(オ)新型コロナウイルス感染症対策予備費(1兆5,000億円) 

まず、“Go toキャンペーン”ですが、上記の(ウ)に含まれています。予算規模は16,794億円です。“新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係経費”に占める割合は6.56%になります。

次に、“感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円)”の内訳ですが、以下のようになります。

新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称) 〔1,490億円〕

PCR検査機器整備病床・軽症者等受入れ施設の確保人工呼吸器等の医療設備整備応援医師の派遣への支援等

・ 医療機関等へのマスク等の優先配布 〔953億円〕人工呼吸器・マスク等の生産支援〔117億円〕

・ 幼稚園、小学校、介護施設等におけるマスク配布など感染拡大防止策〔792億円〕、全世帯への布製マスクの配布〔233億円〕(合計:2,095億円)

アビガンの確保〔139億円〕産学官連携による治療薬等の研究開発〔200億円〕国内におけるワクチン開発の支援〔100億円〕国際的なワクチンの研究開発等〔216億円〕

新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)〔10,000億円〕

新型コロナウイルス感染症への対応として必要な、以下を目的とした事業であれば、原則として使途に制限はありません。Ⅰ.感染拡大の防止 Ⅱ.雇用の維持と事業の継続 Ⅲ.経済活動の回復 Ⅳ.強靭な経済構造の構築"

最も気になる“新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称)”は1,490億円なので、「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円)」の8.23%です。また、“産学官連携による治療薬等の研究開発”200億円は、1.10%、“国内におけるワクチン開発の支援”100億円は0.55%となり、気になる3つの分野への支援は、1兆8,097億円の約10%でした。“新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)”に1兆円〔10,000億円〕が予定されていますが、主な用途が「感染拡大の防止・雇用の維持と事業の継続・経済活動の回復・強靭な経済構造の構築」となっているので、予算の約55%を占める“地方創生臨時交付金”のうち、どれ程が医療系に回るのか分かりません。もし、1兆円の多くが経済活動に注がれるならば、「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発(1兆8,097億円)」は名ばかりの予算になってしまいます。

4.第2次補正予算の概要

1)新型コロナウイルス感染症対策関係経費(31兆8,171億円)

(ア)雇用調整助成金の拡充等(4,519億円):1.42%

(イ)資金繰り対応の強化(11兆6,390億円):36.5%

(ウ)家賃支援給付金の創設(2兆242億円):6.36%

(エ)医療提供体制等の強化(2兆9,892億円):9.39%

新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金として2兆2,370億円(7.03%)

・医療用マスク等の医療機関等への配布のための経費として4,379億円(1.37%)

・ワクチン・治療薬の開発等の経費として2,055億円(0.64%)

・等々

(オ)その他の支援(4兆7,127億円):14.8%

・新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の拡充のための経費2兆円(6.28%)

・低所得のひとり親世帯への追加的な給付のための経費1,365億円(0.42%)

・持続化給付金の対応強化のための経費1兆9,400億円(6.09%)

・等々

(カ)新型コロナウイルス感染症対策予備費(10兆円):31.4%

・新型コロナウイルス感染症の第2、3波の可能性が排除できない中、今後の長期戦を見据え、事態の急変に対して臨機応変に対応するための万全の備えとして、新型コロナウイルス感染症対策予備費に追加的に10兆円を計上している。

第1次補正予算の時に7.07%だった“感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発”は、第2次補正予算では”医療提供体制等の強化”9.39%と増額されていましたが、フィリピンの23.3%の半分以下です。もっともっと増額されても良いと思いますが、大事なことは目標と計画です。

このためには、新型コロナ感染対策を“有事”と位置づけ、高い危機意識と危機管理、目標・役割・責任を全うする”七人の侍”のような精鋭(感染対策、経済対策、都道府県連系等)を首相直下に配置、そして鬼気迫るリーダーシップの元、感染拡大阻止のための”ロードマップ”を作り、”覚悟ある決断力””状況に応じた柔軟な修正力”をもって、”国民の先頭”に立って新型コロナに立ち向かっていくような、肝の据わった推進力が必要です。なお、これは脱目前主義・脱便宜主義と言えると思います。

最後に、新型コロナ感染対策は有事であり、”ヒト・モノ・カネ”をダイナミックに動かす必要があるため、この問題のオーナーは各知事(地方自治体)ではなく、”日本政府”であると考えます。

付記1:2021年1月3日朝刊の新聞記事

こちらは、ちょっとマニアックな「埼玉新聞」です。

”勝負の3週間”が空振りに終わり、大晦日に東京、神奈川、千葉、埼玉で新規感染者数の最多を更新、”緊急事態宣言”が要請されました。

「進むも地獄、進まぬも地獄だ」。自民党関係者は首相の心境をこう推し量った。再発例すれば感染防止の遅れを認めることになる。一方、発令に慎重姿勢を貫けば医療逼迫の政治責任を一身に背負いかねないためだ。

⇒国民不在!!!

付記2:新型コロナに関するニュース

昨年6月より、気になったニュースの見出しをリストアップしています。ご興味あればクリックしてください。”衛生管理”のページの下のほうにあります。

スペイン風邪と新型コロナ1

まさか生きているうちにパンデミックに遭遇するとは思ってもみませんでした。

前回のパンデミックは約100前の“スペイン風邪(インフルエンザ)”でした。「どんな状況だったんだろう?」という思いからネット検索し、スペイン風邪が日本に広がり始めたのは大正七(1918)年10月であることを知ったのですが、これには少し驚きました。というのは、102歳になっている母親の誕生月が1918年10月だったためです。当時は赤ん坊、今は認知症の高齢者のため、2度に渡ってその脅威に怯える必要はなかったのですが、歴史的には2度のパンデミック経験者ということになります。あらためて、長生きの凄さを実感します。

そんな背景もあり、スペイン風邪の実態を知りたいと思い、見つけたのが今回の本です。 

著者:速水 融

発行:2006年2月

出版:藤原書店

目次の黒字箇所を取り上げていますが、長くなったので前半、後半の2つに分けました。

新型コロナについては後半の最後に、日本を含めた12カ国の日々のデータ(10万人当たりの、“新規感染者数”・“累積死亡者数”・“累積検査数”など)の中から、第2波(フィリピンは第1波の第2の山というべきかもしれません)が大きかった日本、フィリピン、オーストラリアの3カ国について比較しています。

以下は本の表紙の裏側に書かれていたものです。簡潔でとても分かりやすいので最初にお伝えします。

『昨今、「新型インフルエンザ」の脅威が取り沙汰されている。現在、そのウィルスは幸いまだトリからヒトへの感染でとどまっている。しかし、いつそれがヒトからヒトへの感染に変わり、ジェット機時代のおかげで、瞬く間に世界中に広がるか分からない。1918年の人々にとっては、スペイン・インフルエンザがまさに「新型インフルエンザ」だった。世界で第一次大戦の4倍(4000万人)、国内では内地に限っても、関東大震災の5倍近く(45万人)の人命を奪った。これは20世紀最悪の人的被害であり、記録のある限り人類の歴史始まって以来最大でもある。しかし、この史上最悪のインフルエンザは、人々の記録から忘れ去られ、これを論じた著作は日本で一冊も書かれてこなかった。

筆者の願いは、とにかく「スペイン・インフルエンザ」に晒された人々の悲鳴を聞き、状況を知ってほしいという一言に尽きる。当時の人々は、そのような事態に直面して、どう対応したのか、政府は何らかの手を打ったのか、そして、なぜ忘れ去られたのか。将来「天災」のようにやって来るであろう新型インフルエンザに対する備えは、過去の歴史を知ることから始めなければならない。

目次

序章 “忘れられた”史上最悪のインフルエンザ

第1章 スペイン・インフルエンザとウィルス

◆なぜ「スペイン・インフルエンザ」か?

◆インフルエンザ・ウィルスの構造と特徴

◆新型インフルエンザ発生のメカニズム

◆ウィルス発見をめぐるドラマ

◆ワクチンも「タミフル」も万能ではない

第2章 インフルエンザ発生―1918年(大正7)年春~夏

◆三月 アメリカ

-⁻記録に残る最初の患者

-第一次世界大戦の戦況とインフルエンザの発生

-無視された「春の先触れ」

◆四月-七月 日本

-台湾巡業中の力士の罹患

-ウィルスはどこから来たか?

-軍隊での罹患者の増大

◆五月-六月 スペイン

-800万人が罹患

-「スペイン・インフルエンザ」という名称の誕生

◆七月-八月 西部戦線

-西部戦線の異状

-『京城日日新聞』のスク-プ

-両軍の動きを鈍らせたインフルエンザ

-軍隊から市民への感染拡大

◆「先触れ」は何だったのか?

-アメリカ西部の兵営を起点に拡散

-予防接種的な役割を演じる

-三週間で世界中に

第3章 変異した新型ウィルスの襲来-1918(大正7)年8月末以降

◆アメリカ

-港町で変異したウィルス

-欧州派兵とウィルス

-ディベンズ基地で猛威をふるったウィルス

-米軍戦没者の8割はインフルエンザによる病死か?

-当時の状況を描写した詩文

-文字に記されたインフルエンザと体制への憎悪

-アメリカ国内での感染の拡がり

-流行は1918年に限らない

-少なめに算出された死亡者数

-パニックに陥ったアメリカ社会

-戦勝気分に酔うその足元で

-貧富の違いによる被害の違い

◆イギリス

-最大の被害をもたらした第二波は6週間でイングランド全土に

-突出した壮年層の死亡者数

-三つの流行拡大のパタ-ン

◆フランス

-アメリカ軍、フランス軍、イギリス軍の順に感染拡大

-「アポリネ-ル症候群」

◆補遺

第4章 前流行-大正七(1918)年秋~大正八(1919)年春

◆本格的流行始まる

-前流行と後流行

-従来の記録よりも多い実際の死亡者数

-スペイン・インフルエンザ・ウィルスはいつ日本に襲来したのか?

-軍隊、学校が流行の起点に

-三週間のうちに全国に拡大

◆九州地方

-初期の報道-「ブタ・コレラ」、海外の状況

-罹患者の急増

-都市から周辺部への拡大

◆中国-四国地方

-10月末以降、死亡記事が急増

-「予防心得」、氷の欠乏、医療体制の不備、新兵の罹患

-比較的軽かった中国地方での被害?

◆近畿地方

-被害の大きかった京都、大阪、神戸

-地域によって異なる流行の再発

◆中部地方

-大都市より中小都市、郡部で蔓延

-11月に入り、死者増加

-後になるほど悪性を発揮

-被害が大きかったのは製糸業地帯

-「鶏の流行感冒」

-人口1000名中、970名罹患、70名死亡の村も

-生命保険加入推進のチャンス

◆関東地方

-新聞は意図的に報じなかった

-初発以来数十万人が罹患

-インフルエンザと鶏卵の不足

-記録に残された五味淵医師の奮闘

-前年秋を乗り切った人々が罹患

-東京府・東京市の対応

-報道にみる被害の実態

◆北海道・奥羽地方

-他地方より遅れた初発、その後の状況の悪化

-鉄道が伝染経路に

-郡部で長引く流行

-被害が比較的軽かったと言われる北海道

-一村全滅の例も

◆小括

第5章 後流行―大正八(1919)年春~大正九(1920)年春

◆後流行は別種のインフルエンザか?

-前流行と後流行の症状の違い

-前流行と後流行の間の状況

◆九州地方

-後流行の初発

-「予防の手なし」

◆中国・四国地方

-罹患者の二割が死亡

-地獄絵を見るような10日間

-軍隊内での流行

◆近畿地方

-最大の死亡者を出した地域

-年が改まり、死者がさらに増大

◆中部地方

-抗体をもたない初年兵に多い罹患

-二月に死者増大のピーク

-郡部で猛威をふるう

◆関東地方

-初めは軍隊から

-地獄の三週間

-一割強の死者

-鉱山町での大きな被害

◆北海道・奥羽地方

-軍隊が流行の発生源

-秋田県で最小、福島県で最大の被害

-交通の要衝地での感染拡大

-北海道での惨状

◆小括

 

第6章 統計の語るインフルエンザの猖獗

◆国内の罹患者数と死亡者数

-低く見積もられた『流行性感冒』における患者数と死亡者数 

-超過死亡(excess death)による試算

◆全国の状況

-死亡者数の合計

-月別の死亡者数

-死亡率の男女差

-年齢別死亡率

◆地方ごとの状況

-地方ごとの月別インフルエンザ死亡率

-都市のインフルエンザ死亡率

-府県別インフルエンザ死亡者数

-府県別インフルエンザ死亡率

第7章 インフルエンザと軍隊

◆「矢矧(ヤハギ)」事件

-最高級の資料

-上陸許可後に直ちに罹患

-緩慢な病勢進行と急速な感染拡大

-すでに罹患していた「明石」の乗組員

-マニラ到着直後の安堵

-死者続出の惨状

-階級による差

-症状に関する克明な記録

-同じように襲われた他の軍艦・商船

-「矢矧」の帰還

-ピーク後も未感染者に活動場所を見出すウィルス

◆海外におけるインフルエンザと軍隊

-地中海派遣艦隊を襲ったインフルエンザ

-シベリア出兵とインフルエンザ

◆国内におけるインフルエンザと軍隊

-陸軍病院の状況

-各師団の死亡者数

-海軍病院の状況

-新聞報道

◆小括

第8章 国内における流行の諸相

◆神奈川県

-豊富な資料

-流行の時期

-流行の初発

-死者の増大

-いったん終息、その後再発

-後流行の猛威

-与謝野晶子が感じた「死の恐怖」

-二つの貴重な統計

-僻地で高い罹患率

-都市部と農村部の違い

-郡部で罹患者死亡率の高かった後流行

-前流行と後流行の相関関係

-1920年1月における死者の激増

◆三井物産

-『社報』も語る死者の増大

-社員家族を襲った悲劇

◆三菱各社

-流行期に上昇している社員の死亡者数

-鉱山など生産現場に多い犠牲者

◆東京市電気局

-罹患者の多かった「春の先触れ」

◆大角力協会

-「角力風邪」

-「先触れ」で免疫を得た力士

◆慶応義塾大学

-民間における青年・壮年層の被害の実態

◆帝国学士院

-罹患と外出忌避による欠席者の増加

◆文芸界

-犠牲者

-文学作品

◆日記にみる流行

-原敬日記

-秋田雨雀日記

-善治日誌

第9章 外地における流行

◆樺太

-漁期に流行

-最も高い対人口死亡率

-先住民にも多くの死者

◆朝鮮

-内地と同時に流行

-死亡率の高い後流行

-行政は何をしたのか?

-免疫現象の確認

-統計資料の問題

-朝鮮での前流行の犠牲者は約13万人

-朝鮮での死者の累計は約23万人

-三・一運動とスペイン・インフルエンザ

◆関東州

-本地人により大きな被害

-関東州でも死亡率の高かった後流行

◆台湾

-台湾中に拡がり先住民も罹患

-台湾でも軍隊を起点に流行

-本地人と内地人(日本人)の間の被害の差

-死者は多いが、短期間で過ぎ去った流行

-先住民の被害

◆小括

終章 総括・対策・教訓

◆総括

-内地45.3万人、外地28.7万人、合計74万人の死者

-日本内地の総人口は減少せず/流行終息後の第一次「ベビーブーム」

-なぜ忘却されたか?

◆対策

-人々はインフルエンザにどう対したか?

-謎だった病原体

◆教訓

あとがき

資料1 五味淵伊次郎の見聞記

資料2 軍艦「矢矧」の日記

新聞一覧

図表一覧

第2章 インフルエンザ発生―1918年(大正七)年春~夏

四月-七月 日本

-台湾巡業中の力士の罹患

・『大正七年(1918)年の四月には、日本統治下の台湾で折から巡業中の大相撲(当時は「角力」と表記)力士が病気に罹り、三人が命を落とし、ほかの数名が入院するという事件が発生した。』 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“不思議な熱病現はる”

『悪寒から始まり、発熱、四肢の倦怠感、腰痛、38度から40度に達する高熱、約5日間で快方に向かう、としている。』

 

4章 前流行-大正七(1918)年秋~大正八(1919)年春

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“太平洋を超て早くも日本へ”

『爆裂弾より恐ろしい西班牙(スパニッシュ)流行感冒 激烈なる流行速度』

 

本格的流行始まる

-前流行と後流行

・スペイン インフルエンザは、大正七(1918)年10月にはじまる流行を「前流行」、翌大正八(1919)年12月から始まる流行を「後流行」と呼ばれた。

-スペイン・インフルエンザ・ウィルスはいつ日本に襲来したのか?

・日本へウィルスが襲来したのは、大正七年9月末から10月初頭の頃であったと考えられている。

-三週間のうちに全国に拡大

・『10月20日を過ぎると、この病気が「流行性感冒」であることが一般に知られるようになり、各新聞とも「流行性感冒猖獗(ショウケツ)」あるいは「死亡者続出」という見出しのもと、軍隊だけでなく、学校の休校、官庁や鉄道・通信機関従事者の欠勤状況についての記事が多くなってくる。全国紙、または準全国紙では、国外や国内の他の地方の状況についての記事が多かった。以下では、全国を六つの地方に分け、仮定した伝染経路にしたがって、西日本から始めるが、その前に、「流行性感冒」に掲載されている各府県の感冒初発の時期を図4-1の地図に示そう。最も早いのは福島・茨城・山梨・奈良の四県であるが、これはむしろ例外で、大部分の府県では9月下旬から10月中旬であった。ほぼ三週間のうちに、スペイン・インフルエンザは全国に拡がった、と言えるだろう』

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

 

 

関東地方

-新聞は意図的に報じなかった

・東京については、10月24日の各紙で流行性感冒来襲を告げている。

10月25日以降、記事は事の重大性に気付いたごとく、深刻になってくる。

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

 

 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

これ以降、「スペイン(西班牙)風邪」という呼称が一般化する。

 

 

・『10月中の市内の記事は、感冒流行、休校、遠足中止、職場の欠勤者についての報告、交通機関・通信等への影響等に関するものが多く、死亡についての記事は稀であった。しかし11月に入ると、死亡者の続出してきたことが「火葬場の満員 半数は流行性感冒」という見出しの記事(「都新聞」11月5日付け)から窺うことができる。曰く「……砂村、町屋、桐ケ谷、落合の四火葬場に毎日の如く運ばる運ばる病死者の数は殆ど枚挙に遑(イトマ)あらず、……火葬場は今や満員を告げ居りて三日以前に申込むにあらざれば応じきれぬ程の有様を呈し而も其病死者の半数以上は悪性感冒より肺炎、脳膜炎等を併発した結果なりと云う」。この段階では、各紙とも本文には東京市住民の死亡そのものについては何も伝えていないのに、火葬場が多忙なのは、スペイン・インフルエンザ・ウィルスが深く、静かに、東京市の住民に食い込んでいた結果であろう。』

・『この頃[1918年10月]を過ぎると、さすがに抑えきれなくなったのか、にわかに市内の死亡者に関する記事が目立つようになった。11月1日から4日までの4日間の死亡者は、本所区143名、浅草区137名、深川区97名、下谷区91名、牛込区46名とある(「都新聞」11月8日付)が、このうちどれだけが流行性感冒によるのかは判明しない。しかし、翌日の同紙の紙面では、11月になってからの5日間のうちにインフルエンザがらみの病因による死亡が全外の26パーセントに跳ね上がったことを「恐るべき実例」として衛生部長に語らせている。』

第5章 後流行―大正八(1919)年春~大正九(1920)年春 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

“遊びにもマスクの世の中

 

 

関東地方

-地獄の三週間

大正九(1920)年になると、スペイン・インフルエンザは牙をむいて東京市民に襲いかかってきた。各紙とも一斉にその状況を伝えている。三河島火葬場に運ばれた遺体は、元旦・59、二日・149、三日・196、四日・157、五日・164に達し、処理能力の1日155体を越えたため、焼残しの出る日も生じた(「都新聞」1月8日付)。そのすべてがインフルエンザによる死亡ではなかったとしても、この明らかに異常な状況は、インフルエンザがいかに猛威を振るったかを示している。「時事新報」は、流行前の大正六(1917)年1月8日の東京市の死亡者が156名であったのを、「本年1月7日の235名と比較」している(1月10日付)  

大正九(1920)年1月11日の「東京朝日新聞」に掲載された死亡広告も被害の大きさを物語っている。 

画像出展:「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」

 

 

 

正月明けで集中したとはいえ、これだけ黒枠広告が載るのは、やはりこの期間の流行性感冒による死亡者が多かったことの証明である。なかには、枢密顧問官芳川顕正伯爵、三村君平氏、秋山孝之輔夫人ら著名人の名も見られる。

しかし、本格的な殺戮は、1月中旬にやってきた。1月11日の「東京朝日新聞」第五面は、ほとんどが流行性感冒関連の記事で蔽われている。見出しのいくつかを取り出すと、「この恐ろしき死亡率を見よ 流感の恐怖時代襲来す 咳一つ出ても外出するな」、「市内一日の死亡者(流行性感冒による)百名に激増 一日以来の感冒患者総数実に九万人」、「元旦からの死亡者同区で二百五十名」、「流感悪化して工場続々閉鎖す」、「日に新患者六十名 第一師団の大恐慌」といった記事で、いよいよ地獄の三週間が始まった。』