不妊鍼灸2

不妊治療に対する鍼灸の本を探していて今回の本を見つけました。著者の形井先生については、『治療家の手の作り方』という本を拝読していたため、お名前は存じ上げていました。

著者:形井秀一  

出版:社会福祉法人桜雲会点字出版部

発行:平成21年12月

目次は、多くは3段階(一部4段階まであり)ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。なお、取り上げている項目は各論の「冷え症」のみになります。

目次(大項目、中項目まで)

Ⅰ 産婦人科領域の鍼灸の歴史と現状

1.現代日本鍼灸と産婦人科領域の鍼灸

2.日本における産婦人科の歴史

Ⅱ 東洋医学の産婦人科の考え方

1.月経について

2.妊娠月数と妊婦の生活

3.分娩

Ⅲ 各論

1.基礎体温

2.月経不順

3.月経困難症

4.冷え症

5.不妊

6.更年期障害

7.つわり

8.妊娠中の腰痛

9.逆子

10.逆子治療の安全性

Ⅳ 産婦人科領域の鍼灸治療のまとめ

1.はじめに

2.自分の力を信じること

3.連載を振り返って

4.これからのレディース鍼灸の方向性

4.冷え症

冷え症とは

『冷え症は、「身体の他の部分が冷たく感じないような温度で、身体の特定部位のみが特に冷たく感ずる場合をいう」と定義される。

元々、手足は、身体の熱を逃がす役割を持っているという意味で、身体の冷却器官であるという言い方もある。通常は、手足の温度が額温より高いことはない。手足の温度が高く感じられる場合は、眠い時や、喘息のある人なら喘息発作の前兆であったりする。額と手と足の温度を比べると、額>手>足の順で温かい。

ところで、足の温度が何度以下を冷えとするかの基準は決められていない。一般に、男性は足の温度が20℃に近いくらい冷えていても冷えを訴えず、逆に女性では30℃に近いくらい温かくても冷えを訴えることがある。男性は冷えを感じにくく、女性は冷えに敏感だと言えよう。

総じて、冷えは女性に多い。冷えは、基本的には冷えを感じている人の側の訴えであるが、他者が触れて感じる場合も含まれる。冷えを訴える範囲は、全身、背部、腰から下、大腿部から下、膝から下、ソックスを履く範囲、足の指先と様々である。時には、足先は温かいが下腿部だけ冷える、腰やお尻だけが冷たいという人にもお目にかかる。2ヶ所以上に渡って冷えを訴える場合が多い。

女性の腰部や殿部、大腿部などはもともと脂肪がたくさんつくようになっている。脂肪は放熱や寒さの侵入を防ぐ防御壁で、女性器や泌尿器が冷えて働きが悪くならないように助けてくれていると考えられている。しかし、現代は脂肪が少ない女性、すなわち結果的に冷えが発生しやすい、痩せた女性が魅力的とされる傾向にあるので、冷え症の発生率は社会や時代にも影響を受けているといえよう。

ところで、環境温の変化による一時的な手足の冷えは「冷え」でよいが、それを常時感じたり、強く感じて辛い人の場合には「冷え症(あるいは、冷え性=冷える性質)」と言う。

東北大の産婦人科の斎藤の調査では、下腹痛・腰痛・頭痛などの月経困難症を訴える女性332名中、冷えを訴えた女性は214名(64.5%)であった。月経過多を訴える女性51名でも、そのうち40%(78.4%)に冷え症が存在した。

また、川名は、看護科の女子学生228名(19~30歳)から、常時「強い冷え」のある者30名を選び、生理前の全身の愁訴を聞いたところ、冷え症がない人に比べて、「頭痛・頭重感」、「下腹部が痛い」、「下腹部が重苦しい」、「腹部膨満感」、「腰痛」、「腰がはる・だるい」、「いらいらする」、「怒りっぽい」、「眠くなる」、「疲れやすい」、「思考力が低下する」等が明確に多かったと報告している。

このように、冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。また、頻尿・残尿感など泌尿器関係の障害とも関連があることも多くの患者が訴えるところである。

冷え症がある人は、手足の末梢の血管が収縮して血液が流れ難くなっている状態があったり、精神的な緊張状態があったりする。つまり、自律神経の機能状態がアンバランスになっていることが多い。

自律神経は、意識に支配されずに、呼吸や消化吸収、排便・排尿、睡眠、血液循環などの働きを調整して、身体の健康を維持しているのだから、その働きがアンバランスである時には、冷えだけでなく様々な症状が同時に発生しやすい。例えば、何となく身体がだるい、元気が出ない、イライラする、集中できない、食欲がない、夜よく眠れない、肩こり・腰痛があるなど、様々である。

この様な一連の愁訴群を不定愁訴症候群と呼んでいる。不定愁訴が多くある人は、身体の抵抗力も弱っているし、元気度も低下しているから、風を引きやすい、疲れがなかなかとれない、月経痛・月経不順などの状態に陥りやすい、ということになる。こういう人は、当然の事ながら、冷えやすい服装をしたり、寒いところに長く居たり、冷たいものを飲んだり食べたりすることが重なると、簡単に健康を害してしまう。単純な冷えではなく、冷え症にもなってしまう。』

画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」

冷え症は、月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴などの婦人科疾患と関係が深いと言えよう。』とのことが書かれていました。

そこで、月経とはどんな機能なのか調べてみました。この図は月経とホルモンの関係がとても分かりやすく説明されており、知識不足だった私にとっては、「目から鱗が落ちる」ような貴重なものでした。

「月経とは子宮内膜からの定期的な出血」ということですが、大事なことは受精のための準備だったんだという点です。そして、その準備の1つが排卵前の増殖期(卵胞期)における、「エストロゲンが受精卵のためのベッドをつくる(子宮内膜を増殖・肥厚させる)」ことであり、もう一つの準備が、排卵後の分泌期(黄体期)における、「プロゲステロンがベッドにふかふかのふとんをしく(子宮内膜の質を変え、着床に適した状態にする)」ということです。

月経困難や月経過多、月経に伴う不定愁訴といった問題は、冷え症との関係だけでなく、受精のための準備(「ベッドを作って、ふかふかのふとんをしく」)にも悪影響を及ぼしている可能性が高いと考えるべきだと思います。また、これらの問題を解決するということは、受精のための良い準備につながり、それが妊娠の確率を高めることになると思います。つまり、不妊症の対策として、「最近、心身の状態が良くなった。月経も順調!」という実感こそが、不妊鍼灸の第一歩、基本ではないかと思います。

●冷え症の鍼灸

『さて、鍼灸治療であるが、局所的治療として、肝経の太衝や侠渓、地五絵などに置鍼をすると患者の自覚的な冷えの改善の効果が得やすい印象がある。自律神経機能が落ちていれば、全身的な鍼灸治療を行って、自律神経のバランスをとる。また、冷えのある下腿を中心に鍼をすることで、足の循環改善を目指すという考え方で良いと思うが、腹部に瘀血や少腹急結などがあれば、それらを治療することも良い。ただし、腹部の瘀血塊は、刺鍼や灸によっても変化しにくい人が多く、ある程度長期の治療を覚悟しなければならない場合が多い。

冬場になって冷えを感じるようになってからよりも、秋口から治療を重ねておくことが効果的であると言えよう。』 

前段の“冷え症とは”の後半部に、“川名”という名前が出てきていますが、これは参考文献の『冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について』の著者である川名律子先生のことです。

冷え症の鍼灸療法(NO. 2) -若年女性の月経, 骨盤周径, 腹証との関連について 川名律子-

上記をクリック頂くと、“J-Stage”の“全日本鍼灸学会雑誌”というサイトに移動するのですが、右上の【PDFをダウンロード】というボタンをクリック頂くとPDF(12枚)の資料がダウンロードされます。また、川名先生は『冷え症の鍼灸療法(NO.1) -特に足のひえについて 川名律子-』という寄稿(10枚)もされています。

一般的に冷えに効くとされる足のツボには、太衝、三陰交、勇泉、八風などがあります。

Kampoful Lifeさまの記事“足が冷たい!足指ツボのマッサージで足の冷えを改善!寝る前の足をポカポカにに取り上げられているツボは“八風”ですが、具体的なマッサージ方法の他、筋トレや食べ物についても書かれており、とても役に立つ情報だと思います。

付記:不妊鍼灸の実績データ

2000年9月発行なので新しいものではありませんが、『鍼灸臨床の科学』という本の中に不妊症患者20例の実績が掲載されていましたのでご紹介させて頂きます。

なお、20例について特に注目したのは、効果があった症例のほとんどが治療回数11~20回であったという点です。そして、妊娠に至った4例は治療回数13~27回(平均17.8回)、治療期間95~274日(平均193.5日)であり、妊娠するまでには3~8カ月を要したとのことでした。

不妊症患者20例に鍼灸治療を行い、11回以上治療できた15例中4例が妊娠に至り、転居2例と脱落5例の計7例が中断し、4例が治療を継続している。

妊娠に至った例数は多くないが、不妊の治療のためのホルモン療法などを継続できず、鍼灸治療を行って妊娠した症例もあり、また基礎体温の変化が改善される症例も少なくない。したがって、鍼灸治療は不妊症の患者に試みる一手段として、検討に値すると考えられる。

不妊鍼灸1

先日、知り合いの鍼灸師と話す機会があり、「不妊鍼灸はいいよ!」ということを聞きました。1番のポイントは、何と言っても成果が出ているという点です。もちろん、病気や痛みなどから解放されることも素晴らしい成果ですが、それとは違った、喜びや達成感を共有できるという点が大きな魅力とのことです。また、何をやってもうまくいかず、子宝に恵まれることのなかった夫婦が妊娠に至るというケースも少なくないという話でした。

確かに、自律神経系の乱れや冷えの問題などは、鍼灸の得意とするところです。目的は体質改善になるため数回というわけにはいかないと思いますが、鍼灸が貢献できる分野だと思います。

“不妊鍼灸”で検索してみたところ、予想以上に活況であることが分かりました。また、代々木の研修センター時代のノートを見返してみると、不妊症への鍼灸治療について心がけや施術法など、詳しく教わっていたことも確認できました。

実は、“美容鍼灸”と“不妊鍼灸”は自分には縁がないだろうと思いスルーしていたのですが、今回の一件で、「やってみよう」とのやる気が芽生え、そのための準備(勉強)を開始することにしました。

今回、勉強のために用意した主な本と雑誌は4つ、参考にした本は2つの計6冊です。

1.「カラダを温めれば不妊は治る

2.「産婦人科領域の鍼灸治療

3.「先生!私は妊娠できますか?

4.「医道の日本 2018年7月号 特集 不妊症と鍼灸治療

参考:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」、「人体の正常構造と機能

不妊症に関わるものには次のような学会もありました。

1.一般社団法人日本生殖鍼灸標準化機関 

2.NPO法人日本不妊カウンセリング学会 

3.一般社団法人 日本生殖医学会 

4.一般社団法人 日本生殖心理学会

また、不妊治療情報センターさまは多くの情報を発信されており、日本生殖医療研究協会さまには大変便利は“用語集”がありました。

この4つの中で、今の自分に最も必要なものは、現代医学が進めている不妊治療の現状や患者さまが直面している実態を知ること。鍼灸がどんな時にどんな貢献ができるのかを知ること、そして発見すること。さらに、栄養、運動、メンタルケアなどの視点からもお話ができるようになること。

以上の3つが課題であると考え、今の自分にとって最も役立つ学会は、日本不妊カウンセリング学会さまであると判断し、入会させて頂きました。 

1.広く一般市民を対象に妊娠・出産や不妊に関する適切な情報提供活動を行い、また特に不妊で悩んでいる人々に対して、カップルが最適の不妊治療を選択することができるように不妊カウンセリング・ケアの発展と普及を図る。

2.不妊カウンセリング・ケアに係わるさまざまな実践や研究を行う。

3.認定基準に基づき不妊カウンセラーや体外受精コーディネーターの養成講座の開催や認定を行う。

4.1、2、3を通して、国民の医療・福祉の向上に寄与する。

ブログについては長くなったので4つに分けました。

最初のブログは、不妊鍼灸で有名な徐 大兼先生の著書です。

著者:徐 大兼(アキュラ鍼灸院院長)

出版:インデックス・コミュニケーションズ

発行:2008年5月

目次は3段階ですが、ブログでは大項目と中項目までをご紹介しています。取り上げている項目は黒字の部分です。『』で括った文章は引用させて頂いたものです。また、自分の勉強のために何度も割り込みをしており、かなり見づらくしていると思いますがご容赦ください。

目次(大項目、中項目まで)

まえがき

Chapter1 カラダを温めましょう

1.あなたのカラダは冷えていませんか?

2.カラダの「冷え」が不調の原因

3.冷え性体質のあなたに

4.カラダを温めないあなたに

5.食事が不規則なあなたに

6.カラダを冷やす食べものが好きなあなたに

7.睡眠不足のあなたに

8.運動不足のあなたに

9.ストレスがたまっているあなたに

10.心が冷えているあなたに

Chapter2 不妊症に向き合おう

1.不妊症をよく知ろう

2.不妊治療のステップ

3.妊娠のために自分でできること

4.男性の不妊症について

5.アルコール、タバコ、サプリメントなどについて

6.心とカラダを温めるセックス

7.不妊に効く、その他の健康増進法

Chapter3 東洋医学で不妊症を脱しよう

1.東洋医学ってなんだろう?

2.東洋医学は不妊に効く!

Chapter4 鍼灸を不妊治療に活用しよう

1.不妊に効く鍼灸治療

2.良い鍼灸院を選ぶポイント

3.鍼灸を不妊治療で利用した人たち

まえがき

●不妊に悩む女性には共通点がある。それは、カラダに「冷え」をかかえているということである。

「冷え」を取り除き温かいカラダになることは、不妊から解放される第一歩となる。

Chapter1 カラダを温めましょう

1.あなたのカラダは冷えていませんか?

●カラダの「冷え」が改善する時期と、不妊治療の結果が出て妊娠する時期がだいたい一致するということがわかった。

●生活習慣や食事が「冷え」をつくっていないか注意する。

規則的なライフスタイルで健康になってこそ、子宝に恵まれるカラダの余裕が生まれる。

ストレスは「冷え」をつくる。ストレスは心も冷やす。  


画像出展:「自律神経失調症を知ろう」 (詳細はブログ“自律神経失調症”を参照ください)

ストレスの第一の標的は脳であり、“脳の疲労”を生み出します。これが続くと“神経症”に進み、さらに体全体(自律神経系)に広がると“自律神経失調症”になります。分泌系は脳(視床下部)から始まることを考えると、ストレスは最初にやってくる最大の脅威です。

女性の排卵機能は、内分泌系や自律神経系と大きな関係がある。


画像出展:「人体の正常構造と機能」

卵巣や精巣から分泌されるホルモンは、脳(視床下部)→下垂体→卵巣・精巣とつながっており、分泌促進や分泌抑制などのフィードバック機能によって適正な状態に維持されます。

これを見ても、脳を第一の標的とするストレスは大変な脅威といえます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

左側の赤線は、活動する神経の交感神経ですが、赤●(神経核)はT1(第1胸椎)~L2(第2腰椎)から出ています。

一方、右側の青線は休息する(内臓は活動)神経の副交感神経ですが、青●(神経核)は脳(中脳・橋・延髄)骨盤部のS2(第2仙椎)~S4(第4仙椎)から出ています。

これを見ると、脳とともに骨盤部も非常に重要なことが分かります(交感神経に関しては、不妊症を考えるとT9(第9胸椎)~L2(第2腰椎)が特に重要です。ちなみにツボ[背部兪穴]の視点でみると、T9-“肝”、T11-“脾”、L2-“腎”となり、不妊症に関係が深いとされる“臓”がすべて入いっています)。

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

この図は骨盤部をお腹側から見たものです。色が3色()である理由は以下の通りです。

交感神経副交感神経ですが、神経叢においては交感・副交感神経線維は入り混じって臓器に分布しているためになっています。

また、“副交感神経の仙骨部と骨盤神経叢”という見出しに続く説明は以下の通りです。

『仙髄から出る副交感神経を骨盤内臓神経といい、S2~4から数本以上の小枝として起こり、肛門挙筋神経と共通幹を作ることが多い。骨盤内臓神経は、下腹神経および仙骨内臓神経とともに、骨盤神経叢(下下腹神経叢)を構成する。骨盤神経叢は、膀胱の後縁から直腸の側方にかけて広がる扁平な神経叢である。ここから多数の枝が出て、直腸、膀胱、前立腺、子宮、膣などの骨盤に分布する。なかでも骨盤内臓神経は、排尿、排便、勃起などの重要な自律神経反射を担っている。』

画像出展:「はりきゅう理論」

左の“分節性反応”とは直接的な作用です。一方、右の“全身性反応”は次のような説明がされています。

四肢の体性刺激によって起こる内臓反射は、おもに上脊髄性反射として全身の反応性の反応が現われ、その例として血圧の調整にも関与している。』

また、鍼灸効果と体性内臓反射との関係は以下のようなものです。

一定の体壁を刺激すると、その興奮は脊髄後根に伝えられ、脊髄と同じ高さの神経支配を受けている内臓に反射作用が現われる。このときに、内臓に現われる現象は、運動性(蠕動、収縮など)、知覚性(過敏、鈍麻)、分泌性(亢進、抑制など)、代謝性ならびに血管運動性(小動脈の拡張、収縮など)である。体表から刺激を加えて、内臓機能の変調を調整しようとする鍼灸効果の機転は、この反射によるものが大部分であるといえる。

画像出展:「新版 経絡経穴概論」

背中には背部兪穴(肝兪、脾兪、腎兪など)がよく使われますが、奇穴[先人が有効な施術点として発表し、その有効性が経験的に証明され、歴史的にも受け継がれているもの]の中には、“夾脊華佗夾脊”という、脊骨の際に取るツボがあります。主治は「胸腹部の慢性疾患」となっています。

なお、”華佗”とは、中国後漢末期の薬学・鍼灸に非凡な才能を持つ伝説的な医師です。華佗という名がついた“華佗夾脊”は、歴代の医師が極めて重要なツボと考えていたということだと思います。

 

本書の、「2.8 神経リンパ反射の交感性・副交感性作用」には次のような説明がされています。

チャップマン反射点を活性化すると、自律神経系を通して反射点と連結する内臓に影響を与えることが可能である。反射点の治療を通して交感神経緊張の制御が切り替わり、関係する内臓の血流が良くなり代謝推移が素早く正常化する。

 

 

画像出展:「神経リンパ反射療法」

こちらは、背中側のチャップマン反射の刺激点を表したものです。生殖に関係する刺激点は、右第9、第10胸椎(卵巣・精巣)右第5腰椎(子宮広間膜・前立腺・子宮・精管)、右仙骨裂孔外方(卵管・精管[主要反射点])となっています。

一方、左側には、左第8~第10胸椎(小腸)、左第11胸椎(副腎)、左第12胸椎(腎臓)などが見られます。

 

8.運動不足のあなたに

●運動は気や血の流れをよくし、健康で温かく、やわらかいカラダをつくり、カラダを芯から温める最も効果的な方法である。

●子宮内膜の血液は、子宮動脈→弓動脈→放射状動脈→ラセン動脈→毛細血管→静脈腔へといくつも枝分かれしながら、最終的に子宮内膜にたどりつく。 

こちらのイラストは“現役産婦人科医による医師国家試験解説ブログ”さまから拝借しました。

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

こちらの図では、子宮内膜の放射線動脈からの先の構造(ラセン動脈→毛細血管→静脈腔)が確認できます。

 

 

●歩くことによって仙腸関節に微妙な動きが生じ、お尻の上に位置するこの関節が歩くたびにゆらゆらと動きながら、本来の正しい骨盤の位置に修正されていく。

●内臓はカラダの中にギッシリ詰まっているが、歩くことにより内臓が動き、内臓同士がお互い滑り合いそれぞれの位置や形を変えて適応する。

●内臓はすべて膜(漿膜など)でつながっているが、動かないとこの膜同士の滑りに制限がでてくる。するとお互いの動きが悪くなり、それが内臓の働きに悪い影響を与える。

歩くことによって、内臓の滑りがよくなり、最適な位置に収まり、動きの制限がなくなって緊張がゆるむ。これは“内臓のコリ”がとれた状態で、これによって内臓の血液循環もよくなり、温かくやわらかい内臓になる。 

「ゆらゆらと動きながら、本来の正しい骨盤の位置に修正されていく」というお話から、“操体法”を思い出しました。写真をクリック頂くと、日本操体学会さまのサイトに移動します。健康法としての「操体法」は不妊でお悩みの方にも有用なものではないかと思います。

『「操体」とは、立って動き回る人間にとって基本的な人体の構造と仕組みとしての骨格と筋肉のかかわり(運動系)を、その成り立ちの根本に着目して、誤りなく体をあやつり、動かすことを総称した表現です。単なる運動とか体操とは違い、二足歩行動物としての人間に とって最も自然な身体の動きと、不自然な動きによって起きる体の歪みを見きわめ、歪みのない体を保つことが操体です。

画像出展:「万病を治せる妙療法」

『私は「人間は動く建物である」と考えています。簡単な三角屋根の家の四隅の柱を四本の足として、棟木を背骨と考え、これに首と尾をつければ動物であり、さらに後足で立ち上がったかたちが人間です。ただの建物であれば動きませんが、この建物は動きまわると考えてください。動くからこそ、からだを操って健康を守ろうという理由も出てくるわけです。建物に構造上のくるいがあっては健康はまっとうされない。そればかりでなく、動き方にも故障があってはならない。構造にも動き方にもちゃんと自然の法則はあるのです。これが人体の基礎構造です。』

画像出展:「万病を治せる妙療法」

”操体療法の基本型”はⅧまであります。

[余計なお世話ですが、パートナーの方の協力で取り組むというのはいかがでしょうか。もちろん、「操体法」がすべてではありませんが]

 

筋肉は体の中で最も熱を発生させる。

こちらの画像は、「身体の“熱”の発生源は筋肉(市報のだ10月15日号掲載)」より拝借しました。筋肉といえば、運動、力の発揮ですが、もう一つの重要な働きが身体の熱をつくること、“熱産生”です。生命維持に必要最低限のエネルギーとされる“基礎代謝”は筋肉が増えると上がります。つまり、筋肉を増やすこと(栄養+運動)は、冷え対策の観点からもとても重要といえます。 

9.ストレスがたまっているあなたに

リラックスすると副交感神経が優位になる。副交感神経が優位な時は消化器がよく働き、栄養の吸収もよくなる。妊娠に必要なホルモンの分泌も盛んになる。

リラックスは全身の筋肉をゆるめ、筋肉で押さえつけられていた毛細血管を拡げる。すると血液循環がよくなり、栄養たっぷりの血液が全身に送られ、体の細胞が元気になる。 

“リラックス”はストレスから心身を守る有効な手段です。しかしながら、リラックスするとは簡単そうでなかなか難しいものです。成瀬悟策先生は“動作法”の創始者ですが、この「リラクセーション」という本の中には、“リラックス・イメージ体験”というユニークな方法が出ています。なお、画像をクリック頂くと、”心理学ミュージアム”で紹介された成瀬先生の動画に移動します。また、ご興味あれば、ブログ“緊張とリラックス”を参照ください。

リラックス・イメージ体験

『本当はまだまったくリラックスしていないからだなのに、いきいなり自分のからだをリラックスしているとイメージしようとしても、なかなかそんなことはできないものです。そんな概念とか観念のようなものは、頭のなかで思うことはできても、リラックスする感じを伴うことのない空疎な言葉だけに終わってしまうでしょう。

ところが、しばらくその思いを繰り返したり、いくらか疲れたか飽きたりしてぼんやりしてきたり、課題実現はあきらめて楽な気分になったり、頑張りはやめて何も考えないでいたり、現実を忘れて豊かな雰囲気に包まれていたり、春風駘蕩の夢心地という状況に近づいてくると、自然にからだも緊張からかけ離れたものになってきます。

緊張はしていないにしても、まだリラックスという感じではないという状況がしばらく続くと、緊張と弛緩の中間にあった気分は徐々に変化してくるものです。それをとくに自分のからだの弛緩した感じとしてからだに注意を向けてみると、なんだかそのとおりの感じがしてくるということになるかもしれません。さらに、それにこころを向けていると、この感じがいよいよはっきりしてきて、身も心もリラックスしたような感じになってくるものです。』 

10.心が冷えているあなたに

下記に書かれた内容は、日々忙しい夫婦にとって決して簡単なことではないかもしれませんが、不妊と向き合う上で、最も大事な最も基礎になるものだと思います。

不妊治療を始めたことで、夫婦の絆が深まるカップルもいます。そういうカップルは、不妊治療を「二人で取り組む共同作業」だと考えています。本音で話し合い、励まし合い、いたわりあって乗り切っていくのです。その乗り切りには、カップルそれぞれの個性があるでしょう。

私がすばらしいアイデアだと思ったのは、妊娠判定日には必ずご主人がディナーを予約するというカップルです。

採卵、移植と過ぎて、妊娠しているかどうかが判明する日、結果はどうあれ、「今回もがんばってくれて、ありがとう」という気持ちの表現として、ご主人がセッティングなさるのだそうです。

待ち望んだ妊娠判定が出たら、「おめでとうディナー」として、ジュースで乾杯! 残念な結果に終わったとしたら、「お疲れさまディナー」としてワインで乾杯です。

不妊治療の結果にかかわらず、毎回の区切り区切りでホッと肩の力を抜く機会が必要だと思います。「ありがとう」とパートナーに言われたら、女性も心が温かくなります。がっかりはしても、またがんばろうと思えるでしょう。

お互いに歩み寄り、子どものできない大変な時期を二人で乗り切るために、夫婦のコミュニケーションは常に深くなっていくべきなのです。

逆に、女性が不妊治療を一人ぼっちで戦っている気持ちになると、冷たく硬い心になって、うつっぽくなってしまいます。冷たく硬い心は、カラダを縮こまらせ、筋肉を硬くします。そのことで血行も悪くなり、カラダまで冷えてくるのです。「冷え」が新たな不妊の原因を生むことになり、子どものできない期間を長引かせることにもなります。

男性は、女性をそんな気持ちにさせないように、温かい言葉をかけてあげてください。女性がホットできるような時間をつくってあげてください。照れずに感謝の気持ちを伝えてあげてください。二人の心が冷えないことが、妊娠の鍵なのですから。』

Chapter2 不妊症に向き合おう

1.不妊症をよく知ろう

●器質性不妊…カップルのどちらか、あるいは両方に妊娠に至らない理由があるもの。女性ならば、排卵障害、卵管障害、着床障害などがあり、男性ならば、精子の数や運動効率の問題などがある。

●機能性不妊…身体的異常がないが妊娠しないもの。

5.アルコール、タバコ、サプリメントなどについて

●『妊婦に対するカフェインの有害性は、以前からアメリカでもさまざまな論文が出されています。しかし、それだけでなく、何杯もコーヒーを飲むことによって妊娠する力が低下し、コーヒーを飲まない人と比べると、妊娠率が低下することが報告されているのです。1日数杯飲むだけでも、その違いは出てしまいます。

また、喫煙者で、カフェインも摂取する人の場合は、より妊娠しにくいという調査結果も発表されています。私自身もこれまでの治療の経験から、コーヒーをたくさん飲む人に見られる、ある共通点を感じています。それは、カラダの冷えが強く、妊娠に関連する3つの経絡(肝経、腎経、膀胱経)にも冷えが現れている人が多いということです。』

アルコールやタバコが良くないのは明らかですが、コーヒーなどカフェインの摂りすぎも大きな問題のようです。 

カフェインの過剰摂取について

『コーヒーは、適切に摂取すれば、がんを抑えるなど、死亡リスクが減少する効果があるという科学的データも知られていますが、カフェインを過剰に摂取し、中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。』

食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~

以下はカナダ保健省 (HC)の例です。

2010(平成22)年に、カフェイン摂取について注意喚起を行いました。主な内容は以下のとおりです。

・少量のカフェイン摂取はほとんどのカナダ人にとって懸念はないが、過剰摂取は不眠症、頭痛、イライラ感、脱水症、緊張感を引き起こすため、特に子供や妊婦、授乳中の女性は注意すること。

・健康な成人は最大400 mg/日(コーヒーをマグカップ(237 ml入り)で約3杯)までとする。

カフェインの影響がより大きい妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性は最大300 mg/日(マグカップで約2杯)までとする。

・子供はカフェインに対する感受性が高いため、4歳~6歳の子供は最大45mg/日、7歳~9歳の子供は最大62.5mg/日、10歳~12歳の子供は最大85mg/日(355ml入り缶コーラ1~2本に相当)までとする。

・13歳以上の青少年については、データが不十分なため、確定した勧告は作成しなかったが、一日当たり2.5mg/kg体重以上のカフェインを摂取しないこと。

 (ご参考)Health Canada Reminds Canadians to Manage Caffeine Consumption(2010) 

Chapter3 東洋医学で不妊症を脱しよう

2.東洋医学は不妊に効く!

骨盤腔内への血流が悪くなると生殖機能が弱まる。

画像出展:「病気がみえる vol9 婦人科・乳腺外科」

子宮は、前方からは膀胱と恥骨、後方からは直腸と仙骨盤に挟まれており、とても窮屈そうです。

こちらは“フィットネスの勧め”さまより拝借しました。図は腰を横から見たもので右が背中側になります。ここに出ている動脈は全部で23本ですが、これを見ると、窮屈そうな骨盤腔内には多くの動脈が走行しており、血液の滞りが懸念されます。

Chapter4 鍼灸を不妊治療に活用しよう

1.不妊に効く鍼灸治療

●卵胞発育促進剤(クロミッド、セロフェン、セキソビット)は子宮内膜を薄くし、精子にとって重要な頸管粘液が減るという副作用があるが、鍼灸治療は、このようなアンバランスな部分を整えることもできる。

2.良い鍼灸院を選ぶポイント

高度生殖医療の知識、特に血液検査に対する知識など必須である。

分子整合栄養医学2

著者:森谷宜朋

出版:幻冬舎

発行:2013年7月

目次は”分子整合栄養医学1”を参照ください。

 

Chapter5 細胞から整えてきれいな肌になる

栄養不足が老化の原因

●身体を構成している60兆個の細胞はタン白質・脂質・ミネラル・ビタミンなどの栄養素で成り立っているが、細胞の材料の大半を占める栄養素がタン白質である。

画像出展:「肉食女子の肌は、なぜきれいなのか?」

こちらは“プロテインスコア”の表です。プロテインスコアとは体内では合成できない9種類の必須アミノ酸のバランスを食品ごとに評価したものです。卵を先頭に上位を動物性の食品が上位を占めています。大豆、納豆、豆腐などはいずれも50台ですが、これは大豆がメチオニンとリジンという必須アミノ酸の含有量が少ないということのようです。

 

多すぎる活性酸素は老化を進行させる

・『ヒトの細胞は酸化に常にさらされています。なぜなら、ヒトは酸素を吸って生きているからです。ヒトの細胞は、酸素を利用してATPというエネルギーを作って生きているのですが、このエネルギーを作る過程でどうしても活性酸素が作られてしまうのです。少量の活性酸素は細菌を殺菌するなどで貢献してくれるのですが、問題は活性酸素が過剰に産生された場合。大量の活性酸素は役立つどころか、かえって細胞の酸化を引き起こしてしまいます。そしてどんな時に過剰な活性酸素が発生するかというと、たとえばマラソンやトライアスロンなどのハードな運動をした時です。

エネルギーを産生する時以外にも、活性酸素は体内で発生します。お酒を飲んでアルコールが分解されてできたアセトアルデヒド、あるいは喫煙なども活性酸素の発生源です。その他には、X線検査などで浴びる放射線や、ウィルスや細菌の感染などでも活性酸素が発生します。』

活性酸素がシミやしわ、がんや認知症の原因に

『活性酸素が大量に発生したり、活性酸素の処理がうまくいかなかったりすると、細胞を酸化させ傷つけてしまいます。というのは、細胞を覆う細胞膜にはコレステロールやリン脂質などの脂肪成分が多く、この脂肪成分が活性酸素によってダメージを受けやすいからなのです。

また、がんや認知症も活性酸素による一種と言えます。それは、活性酸素によって細胞の設計図であるDNAという遺伝子が傷つけられ、その修復が正しくなされないことが、がんの原因になるからです。認知症は、脳細胞が活性酸素によって多くダメージを受けたことを原因としています。』

甘いものは老化の原因

・甘いものなど、糖質が多く含むものを摂ると血糖値が高くなるが、多くなったブドウ糖は細胞や酵素などのタン白質にくっつき、タン白質の本来の機能を損ねてしまう。このブドウ糖がタン白質に結合する現象のことを「糖化」という。

・酵素には活性酸素を消去したり、代謝を促進したりする作用があるが、糖化してしまった酵素はこのような機能が十分に発揮できなくなる。そのためいろいろな病気の原因や老化の原因になる。

・糖化したタン白質は活性酸素を発生させる。さらに恐ろしいのは、糖化したタン白質は最終糖化産物(AGE)というものになり、これが活性酸素を大量に発生させてしまう。

腸を整えると美肌になる

・栄養素は主に小腸で吸収される。

小腸の主なエネルギー源はグルタミン酸というアミノ酸で、タン白質の中に多く含まれている。従って、タン白質摂取が少ないと小腸の働き低下につながる。

・小腸の粘膜は摂取する栄養の不足により働きが低下するが、粘膜上皮の維持(正常な分化)にはビタミンAが欠かせない。

・小腸の免疫活動は飲食物に含まれる外来抗原に対抗するためだが、腸管の粘膜には身体全体の量の半分以上のリンパ球が存在している。腸管免疫系とは、身体に必要な栄養素と病原性のある細菌を識別し、必要なものだけを取り込み、有害なものを排除するという仕組みである。

腸も自律神経を調節する

・ヒトの腸内には100種類を超える常在細菌が存在しており、その数は100兆個と言われ、重量にすると1㎏ほどになる。

・腸内細菌は他の菌と共生しているだけでなく、宿主であるヒトとも共生している。

・腸内細菌には乳酸菌のような善玉菌、ウェルシュ菌などの悪玉菌、大腸菌などの日和見菌があるが、善玉菌は、病原菌の感染を防ぐ、免疫を刺激する、自律神経のバランスを整える、ビタミンB群やビタミンKを作る、腸内の内容物の腐敗を防ぐなどの働きをしてくれる。

・日和見菌は、普段は善玉でも悪玉でもないが、体調が悪化すると悪玉菌として作用する。

・「第2の脳」とも言われる腸には1億個の神経細胞があり、脳の指令を受けず腸自身で判断することもある。

・自律神経は脳だけでなく、腸からも調節を受けているが、腸での自律神経の調整には腸内環境が良いことがとても重要になる。

腸内環境をよくすると冷え性も改善

・冷え性の原因は、鉄不足、筋肉量不足のほか、腸内環境の悪化も冷え性の原因となる。

腸内環境が悪化すると、自律神経の調節がうまく行われず、交感神経が緊張し、副交感神経が抑制されることにより血管が収縮する。これにより、皮膚の血管も収縮し、血流が悪化して手足が冷える。

・自律神経の安定は腸内の善玉菌が鍵を握っているが、善玉菌の増殖や悪玉菌の抑制にはラクトフェリンやオリゴ糖、食物繊維などのプレバイオティクスの補給が重要である。

・腸内環境が良くないと、小腸が異物を吸収してしまい皮膚のアレルギー症状を引き起こしたり、腸内細菌がビタミンB群をうまく作れず皮膚炎を起こしたりする。

頭痛の大半は鉄不足から

・女性の頭痛には鉄不足が関係していることが多い。分子整合栄養医学的には「月経のある女性であれば70 ng以上、閉経後の女性であれば125 ng以上が理想値」と考えており一般的な基準値は6~167ng[ナノグラム=10億分の1グラム])、隠れた鉄不足が問題である。

脳や神経と皮膚の深いつながり

・発生学的に見ると、皮膚は神経に近い存在で関係性は深い。神経の維持にはビタミンB群、神経の安定にはカルシウムが必要である。これらの栄養素を摂取し自律神経を安定させることは皮膚の健康にとっても重要である。

皮膚炎や湿疹の原因が副腎疲労症候群のことも

・人はストレスがかかると、副腎で抗ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンを分泌して、ストレスに対抗するが、ストレス状態が長く続いたり、栄養不足が顕著になったりすると、副腎は疲労しホルモンをうまく分泌できなくなる。これにより、倦怠感、気分の落ち込み、睡眠障害、関節の痛みのほか、湿疹や皮膚炎が起きたり、太りやすくなるなどが起こる。

副腎は身体の中で最もビタミンC濃度が高い臓器であり、ビタミンCは副腎を元気にする栄養素だが、その他、タン白質、ビタミンB5、ビタミンEなども重要である。

Chapter6 お悩み別アドバイス

2.乾燥肌

肉を食べると、お肌の潤いが保てる

・肌の乾燥は表皮の一番上にある角層の水分不足が最大の原因だが、角層の水分にはケラチンが関与している。ケラチンは動物性タン白質に多く含まれている。また、角質細胞にはNMF(天然保湿因子)があり、肌の潤いを保っている。このNMFは半分以上がアミノ酸でできているが、さらにNMFが作られるためには表皮細胞が正常に分化するためのビタミンAも重要である。また、角質細胞と角質細胞の間にはセラミドやコレステロールなどの細胞間脂質があり、水分の層を挟み込んで保持している。以上のことから乾燥肌を防ぐには、タン白質、ビタミンA、脂質を摂ることが大切である。

4.しわ・たるみ

コラーゲンよりもビタミンC、アミノ酸、ヘム鉄を

・『しわの一番の原因は、紫外線によってできた活性酸素です。活性酸素によって真皮の大半を占めるコラーゲンのタン白質の立体構造が壊されると、その壊れた部分が凹んで、しわになります。コラーゲンを安定化させている基質も同様に、紫外線によってできる活性酸素で変性します。ですから、しわの予防のためにも紫外線対策が重要になります。』

・コラーゲンを作るための材料が不足したり、コラーゲンを作る線維芽細胞がきちんと機能しなかったりすると、しわになってしまう。

・コラーゲンを作る線維芽細胞がきちんと分裂するためには亜鉛が、正常に分化するためにはビタミンAが必要である。

13.更年期障害

副作用がない大豆イソフラボンがおすすめ

・『更年期障害は、卵巣機能が低下し、女性ホルモンの分泌が減少し始めるころから閉経までの期間に起こります。症状は、のぼせ・発汗・不眠・うつ・イライラ・めまい・頭痛・動悸など多岐にわたります。

更年期には、卵巣機能が低下してきて、卵巣からエストロゲンという女性ホルモンを分泌することがうまくできなくなります。そのため、卵巣からエストロゲンをしっかり分泌させようと、女性ホルモンの分泌を司る脳の視床下部が分泌命令を強めるのですが、卵巣機能が低下しているので、卵巣は脳の指令に応じた女性ホルモンをうまく分泌できません。その結果、命令を下した視床下部は混乱します。そのうえ、この視床下部には自律神経の中枢もあり、女性ホルモンをうまく分泌できないという混乱が自律神経のバランスにも影響を与えてしまいます。そうして、前述のようなさまざまな症状が生じるわけです。』

・婦人科ではホルモン補充療法を行う場合が多いが、アメリカでは乳がん・子宮がん・心筋梗塞といった動脈硬化・肝機能障害などの副作用が多く、ホルモン補充法は今では下火になっている。

・日本人は欧米人に比べて更年期障害の症状が軽いが、それは日本人の大豆摂取量が多いためではないかと考えられている。また、卵巣機能を高めるためにはビタミンEの補給が有効である。

副腎でも性ホルモンを作っていて、副腎機能が低下すると性ホルモンの分泌が低下し、更年期症状が出やすくなる。なお、副腎を元気にするのは、ビタミンC、タン白質、ビタミンEなどである。

・貯蔵鉄(脾臓や肝臓に蓄えられている鉄)の値が低い鉄欠乏性状態の女性は、より更年期障害の症状が出やすくなるので、鉄欠乏を改善することも大切になる。

エストロゲンの分泌が減ると骨粗鬆症も引き起こすので、カルシウムやマグネシウムの摂取も重要になってくる。

まとめ

以下の2つがポイントだと思います。

1.望ましい生活習慣(食事・睡眠・運動・禁煙)を心がけ、腸内環境をととのえるとともに、不要な活性酸素の発生を抑えること。

2.糖質をひかえ血糖値を維持する。これにより、摂取したタンパク質を亡きものにしてしまう糖化、さらに進んで大量の活性酸素をばらまく最悪の物質、AGE(最終糖化産物)を発生させないこと。

そして、特に栄養の偏りが気になる方、原因不明の体調不良がながく続いている方は、まずは今の食習慣を見直して頂くことをお勧めします。

分子整合栄養医学1

今回の“分子整合栄養医学”はブログ“線維筋痛症”の宿題です。そして、栄養に注目するのは、自然治癒力に深く関係していると考えているためです。

昔から自然治癒力という用語を深く考えず、当たり前のように使っていたのですが、ある時、「ところで、自然治癒力って何だ??」と気になったことがありました。考え出したキーワードは「恒常性の維持」と「代謝」です。そして、最終的に自然治癒力を「ストレス適応と栄養代謝」と定義しました(ご興味あれば、ブログ“がんと自然治癒力13”の後半を参照ください)。

ストレス」の元であるストレッサーは脳にアタックをかけます。これらのストレッサーに対処し、ダメージをできる限り小さくすることができれば、健康な状態を守ることができると思います。なお、ストレスへの対処に有効なものの代表は運動です。

一方、ダメージを負った心身に必要なものは、食事(栄養素)睡眠だと思います。「栄養代謝とは、しっかり食べ、しっかり休息をとり、酵素やホルモンなどが本来の働きをし、食べた物が無駄なく体の血肉になるというイメージです。

以上が、自然治癒力にとって「栄養」は非常に重要であると考える理由です。

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

医学の父と呼ばれているヒポクラテス(紀元前460~357年)は次のような言葉を残されています。

食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか

著者:森谷宜朋

出版:幻冬舎

発行:2013年7月

一瞬、タイトルにギョギョとしてしまいましたが、よく見ると小さく、”細胞から整える分子整合栄養医学のすすめ”という副題がついており、実際、たいへん勉強になりました。

 

ブログで取り上げた項目を黒字にしていますが、『』で括られた文章は正しくお伝えしたいので引用させて頂きました。

Chapter3、4、7については触れていません。また、少し長くなったので2つに分けました。

はじめに

Chapter1 アンチエイジングのための分子整合栄養療法

「病気は薬で治すもの」と思い込んでいた勤務医時代

分子整合栄養医学との出合い

産後に精神不安定だった妻が劇的に快復

薬を使わないので副作用の心配がない

自然治癒力を取り戻す

「未病」を発見して治療

Chapter2 答えはすべて血液診断にある

栄養が足りなくなると、どうなるの?

健康は細胞から崩れ始める

体調が悪いのに、血液検査で「異常なし」が出る理由

基準値=正常値ではない

血漿レベルではなく、細胞レベルで濃度をチェック

胃粘膜の萎縮は胃の老化

ピロリ菌を除菌してアンチエイジング

病院の医師は火消し役、分子整合栄養医は修理役

Chapter3 若々しくきれいになるための肉食のすすめ

採食生活のさまざまな落とし穴

鉄不足はしわやたるみの原因に

適量の動物性食品をプラスする

現代人に多い栄養失調

主食は米にあらず

糖質・炭水化物を摂りすぎない

栄養価の高い旬の食材

タン白質を必ず毎日一定量摂る

低血糖症の人はおやつに豆類かゆで卵を

アルコールを飲む場合はナイアシンを補充

市販のサプリメントに頼らない

分子整合栄養医がすすめるダイエット

ダイエット中も、タン白質、ミネラル、ビタミンは摂取

断食をするとリバウンドしやすくなる

Chapter4 分子整合栄養医が斬る食にまつわるウソ・ホント

あなたの食理論はホントに正しい?

「菜食主義」は老化を抑える→ウソ

肉を食べると太る!→ウソ

コレステロールが高い人は、卵や肉を食べてはいけない→ウソ

貧血には、ほうれん草やひじきがよい→ウソ

皮下脂肪は余計なもの→ウソ

タン白質が不足すると、脚が短くなる→ホント

プロテインを飲むと、マッチョになる→ウソ

ビタミンCは、摂りすぎると尿に溶けて出ていく→ウソ

バターよりもマーガリンの方がヘルシー→ウソ

オリーブ油は身体にいい→ホント

心筋梗塞や脳梗塞の原因は、動物性脂肪である→ウソ

青魚と肉をバランスよく食べると、血管がきれいになる→ホント

胃酸は抑えるほどいい→ウソ

お酒を飲むなら焼酎か赤ワイン→ウソ

Chapter5 細胞から整えてきれいな肌になる

真のアンチエイジングは、身体全体がターゲット

皮膚は内臓の鏡

GPTの値が低すぎても「異常」

皮膚は排泄する臓器

理想なのは赤ちゃんの肌

美しい肌のために必要な栄養素

栄養不足が老化の原因

糖質や炭水化物を摂りすぎない

多すぎる活性酸素は老化を進行させる

活性酸素がシミやしわ、がんや認知症の原因に

甘いものは老化の原因

血糖を急上昇させない食事を

フレンチや会席料理の順番で食べる

タン白質をきちんと消化する胃を

ピロリ菌感染で胃は老化する

腸を整えると美肌になる

腸も自律神経を調節する

腸内環境をよくすると冷え性も改善

頭痛の大半は鉄不足から

脳や神経と皮膚の深いつながり

皮膚炎や湿疹の原因が副腎疲労症候群のことも

ストレスはシミも濃くする

最低限のスキンケア+栄養たっぷりの食事を!

Chapter6 お悩み別アドバイス

1.ニキビ・ふきでもの

・鉄不足、ビタミンB群不足、糖分の摂りすぎなどが原因

2.乾燥肌

・肉を食べると、お肌の潤いが保てる

3.シミ

・紫外線による活性酸素を防ぎ、消去する

4.しわ・たるみ

・コラーゲンよりもビタミンC、アミノ酸、ヘム鉄を

5.毛穴の開き

・コラーゲン減少による真皮のたるみが原因

6.赤ら顔

・腸内細菌の乱れが発症の一因

7.主婦湿疹(手荒れ)

・バリア機能の低下による炎症

8.薄毛・抜け毛

・タン白質や亜鉛不足

9.便秘・下痢

・便は健康のバロメーター

10.ダイエット

・タン白質を減らしたダイエットはリバウンドする

11.デトックス

・毒素は水でなく、よい脂肪で追い出す

12.月経前症候群(PMS)

・体内の過剰な水分蓄積や栄養バランスの乱れを直す

13.更年期障害

・副作用がない大豆イソフラボンがおすすめ

14.頭痛

・頭痛の原因は鉄不足にあり

Chapter7 栄養療法はオーダーメイド

栄養療法は健康や長寿につながる

「こんなにたくさん飲むの?」というほど摂取する

サプリメントに抵抗がある人は

自然治癒力を高める栄養療法

継続は力なり

あとがき

あなたには、この栄養素が足りない!

分子整合栄養療法でよく用いる栄養素

はじめに

分子整合栄養医学とは、「人間の身体は食べた栄養からできており、身体を構成する細胞に必要な分子(栄養素)の不足や乱れが病気や老化の原因になるため、細胞の分子濃度(栄養状態)を正常な状態に整え合わせることで、病気や老化を予防・治療する」というものである。そして、この分子整合栄養医学の理論に基づき、血液検査で不足栄養素をチェックし、治療用に開発された高濃度の栄養素を補充する治療のことを「分子整合栄養療法」という。

●慢性疾患は細胞の分子の乱れ=栄養欠損が原因である。そのため薬に加え、不足している栄養素を補充し、細胞の栄養濃度を正常に戻す必要がある。

●分子整合栄養療法が効果的な疾患は、貧血、アトピー性皮膚炎、ニキビ、湿疹、うつ、関節リウマチ、動脈硬化、不妊、月経不順、PMS(月経前症候群)、がん、認知症、肌の老化などのアンチエイジングなどである。

Chapter1 アンチエイジングのための分子整合栄養療法

「病気は薬で治すもの」と思い込んでいた勤務医時代

・『一般の人はもちろんのこと、医療関係者のほとんどが、病気は薬で治すものと思い込んでいます。かく言う私も勤務医時代はそう思っており、薬を処方してきました。

しかし、大きな病院に勤務し、内科医として薬物治療を行っていながらも、自分はほとんど患者さんを治せていないという無力感を抱いていたのです。特に胃がんや大腸がんの末期の患者さんは、いくら抗がん剤治療をしても、副作用に苦しんで、最終的には残念な結果に至るということの繰り返しでした。』

分子整合栄養医学との出合い

・『何かよい治療方法はないかと模索している時に出合ったのが、分子整合栄養医学です。

分子整合栄養医学は、ノーベル賞を2回受賞した天才生化学者ライナス・ポーリング博士らが提唱したもので、正式には“Orthomolecular Nutrition and Medicine”と言われます。その理論は次のようなものです。

身体の不調は、加齢、ストレス、遺伝素因、不適切な食生活、生活習慣、飲酒、喫煙等々のさまざまな原因が関与し、身体を構成する細胞の分子がある本来あるべき正常な状態ではなくなることに起因するので、人間の身体の仕組みを細胞の分子レベルで解明し、不足している分子を至適量補給すれば、生体機能が向上し、人間が本来持っている自然治癒力が高まって病態が改善される

・ここでいう「分子」とは「栄養素」のことである。従って、「細胞の分子が本来あるべき正常な状態でなくなる」というのは、「細胞が栄養不足になる」ということである。そして、これが原因で身体が不調になる、つまり「病気は、栄養不足が原因である」ということである。

・栄養不足が病気の原因ならば、栄養不足を解消することが治療に至る一番の近道となる。

・栄養不足を解消する治療法とは、人間の身体の仕組みを細胞の分子レベルで解明し、不足している分子を至適量補給すること。つまり、細胞に不足している栄養素を探り、必要な栄養素を必要なだけ補給するというものである。

どんな栄養素が不足しているかという診断は、生化学的な理論に基づく詳細な血液検査によって行う。分子整合栄養医学では、病院で通常検査する項目以外にも多数検査する。また、検査で得られた数値を、ただ基準値に当てはめて正常か異常かを診るのではなく、生化学的な背景を考慮しながら、本来あるべき細胞濃度と照らし合わせて深く分析する。

画像出展:「日本オーソモレキュラー医学会

ライナス・ポーリング博士は、1954年度のノーベル化学賞と1962年度のノーベル平和賞を受賞されました。そのポーリング博士が60代になった時、体内の生化学物質が本来の機能を発揮できないことが原因で発生する病気に焦点を当て、これを治療する「オルソモレキュラー・メディスン(分子整合医学)」を提唱されました。

※”オーソモレキュラー栄養療法 導入医療機関一覧”をクリック頂くと、各都道府県で開業されている医療機関を見つけることができます。

自然治癒力を取り戻す

●分子整合栄養医学の最大の長所は元を断ち、根本的な治療をすることである。これは細胞の濃度を「本来あるべき状態」に戻し、個々の細胞を自然な働きへと向かわせることであり、根本原因の栄養不足が是正されれば、自然治癒力が働くようになる。つまり、必要な栄養素を口から摂取し、腸から吸収し、血液に取り込んで血流に乗せて、不足している場所まで運べば、あとは人間の身体が壊れかけた細胞を修復してくれるということである。

Chapter2 答えはすべて血液診断にある

体調が悪いのに、血液検査で「異常なし」が出る理由

●体調不良に伴って病院で行われる血液検査は保険適用内の検査で、目的は「治療のため」であり、検査項目は限られたものになっている。一方、健康診断の血液検査の項目も、血色素量(ヘモグロビン)、赤血球数、GOT、GPT、γ‐GTP、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、空腹時血糖という範囲に限られたものであり、分子整合栄養医学的な検査項目と比較すると、2割程度の項目数にすぎない。これでは、未病や慢性疾患の原因を発見したり、さらに原因を突き止めたりすることはできない。

基準値=正常値ではない

●検査結果の数値は個人差があるので、継続して検査を行う必要がある。何度検査しても同じくらいの数値であれば、その数値が基準値から外れていても、それはその人の正常値であると考えられる。このように、血液検査の分析は経時的変化を診ることが極めて重要である。

●GPTは肝機能を診る検査である。この値が高いと「肝細胞が壊れている=炎症がある」と考えるが、値が低い場合は特に問題なしとなる。しかし、分子整合栄養医は異なる。酵素の多くはタン白質でできており、GPTはさらにビタミンB6を補酵素としているため、GPTが低い場合、分子整合栄養医はタン白質不足、ビタミンB6不足があると判断する。 

画像出展:「肉食女子の肌は、なぜきれいなのか?」

 

 

 

血漿レベルではなく、細胞レベルで濃度をチェック

●『たとえば鉄の過不足を診断する際に、現代医学では一般的にヘモグロビンや血清鉄の値が基準値内に収まっていれば、鉄欠乏はないと考えます。

しかし血清鉄とは、臓器やタン白質に貯蔵されている鉄(貯蔵鉄)がヘモグロビンの合成や組織での利用のために運ばれている状態のものです。したがってその値は運搬中の鉄量であり、体内にあるすべての鉄量を示すものではありません。むしろ、体内にある鉄の3分の2がヘモグロビンに、残りの大半が貯蔵鉄に含まれているので、血清鉄はほんのわずかな量でしかありません。しかも血清鉄は運搬中の鉄ですから、貯蔵鉄が少しくらい減ったところで、値は大きく変動しません。

体内で鉄が不足してくると、まず減るのが貯蔵鉄、次に減るのが血清鉄、そして最後はヘモグロビンが作れなくなって、鉄欠乏性貧血が起こります。したがって、鉄不足を初期段階で見つけるには、貯蔵鉄をチェックしなければなりません。逆に、血清鉄の値が基準値を下回っているようなら、すでに深刻な鉄不足です。

貯蔵鉄の値を示す項目が「フェリチン」です。フェリチンは鉄を貯蔵するタン白質で、身体の中の鉄の減少を、血清鉄よりも早く、そして正確に反映します。ですから、血清鉄の値が低くなくてもフェリチンの値が低い場合は鉄欠乏と診断すべきなのです。

このように、栄養素の過不足を判断するうえでは、血液中の液体成分に含まれる血漿レベルの濃度よりも、細胞レベルでの濃度を診る方が重要になります。にもかかわらず、医学者の多くは、血漿レベルでの濃度しか診ていないのです。 

高齢者の鍼灸療法

私自身が還暦越えのためか、70歳以上の患者さまもめずらしくはありません。

愁訴や様子などにより状態を把握することが基本であり、その意味では患者さまの年齢を特に意識することはないのですが、年齢に関わらず配慮すべきと判断した場合は、着替え、ベッドの昇降、体位変換、体位維持、施術時間や刺激量(鍼数、置鍼時間、雀啄の有無)などに注意するようにしています。

これらの中で、特に気になっていたのは体位に関するものと、刺激量についての対応です。そこで、何か良い本はないだろうかと思って見つけたのが、今回の“中高齢者の鍼灸療法”という本になります。なお、ブログでは“5.鍼治療法”をご紹介しています。

編著:宮本俊和、冲永修二

出版:医道の日本社

発行:2015年4月

執筆者の先生は下記の通りです。

画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」

目次

総論

1.中高齢者の医療

2.中高齢者の整形外科的疾患の特徴(ロコモティブシンドローム)

3.中高齢者の健康・体力づくり

4.中高齢者の鍼灸受療状況

5.鍼治療法

6.低周波鍼通電法

7.灸治療法

各論

1.頚椎症性神経根症・脊髄症

2.肩関節周囲炎(五十肩)

3.上腕外側上顆炎

4.腰部脊柱管狭窄症(LSS)

5.変形性股関節症

6.変形性膝関節症

7.頭痛

8.三叉神経痛

9.顔面神経痛

10.関節リウマチ・膠原病

11.気管支喘息

12.糖尿病性神経障害

13.慢性腎臓病(維持透析)

14.高血圧症

15.前立腺炎・膀胱炎

16.更年期障害

コラム 医療従事者からよく聞かれる鍼灸Q&A (84ページ)

5.鍼治療法

鍼治療  筑波大学理療科教員養成施設 濱田淳

筑波大学理療科教員養成施設では、治療の原理として経絡や経穴の特異的効果よりも、解剖学的、生理学的な知見に基づいて施術を行っている場合が多い。

診察上、客観的所見の得られやすい筋骨格系の施術を得意としており、そのため、主動作筋や支配神経を施術対象とすることが多い。刺激方法としては、施鍼のみ(置鍼法・雀啄法)、あるいは低周波鍼通電を用いている。後者については別項に譲り、ここでは基礎技術とも言える刺激法に関して、中高齢者に特化して述べる。』

中高齢者に鍼をする前に

・人は30歳を過ぎたあたりから心身の機能低下を自覚するようになる。高齢になっていく過程で、女性では更年期障害による問題、男性でも退職による問題、あるいは友人や親族などを亡くしたことによる喪失感や将来への不安など身体的な障害だけでなく、精神的な問題も健康状態に影響を及ぼす傾向が強くなる。

・中高齢者の愁訴は一般的な原因だけで把握することが難しく、さらに加齢による退行性変性が加わるので、愁訴の原因は複雑化し、改善に至るまでに時間がかかることが多い。

治療にあたっては、一度傷害された組織は元通りに戻ることは少ないこと、若い時とは異なり、症状は同様であっても、状況や病態、回復までの時間は同様ではないことを認識してもらうことが大事である。

鍼治療は適応と限界を有する治療法であり、施術者まかせという姿勢だけでは回復が進まないケースも見受けられるため、施術者と患者が共同で治していくという態勢を構築する。

鍼施術を進める上での注意点

1)姿勢変化や変形、あるいは治療姿勢の問題

・加齢により、組織の柔軟性の低下や筋力低下、関節可動域の低下、運動機能の劣化などにより、ベッド上での体位変換が難しくなり、落下など思わぬ事故につながることがあるので、運動機能評価を兼ねた見守りや支え、手助けが必要である。

・ベッドからの落下防止あるいは被害を小さくするには、昇降可能なベッドを使用し、体位変換時や立位介助に役立てるのが理想的である。

管鍼法を使う場合、通常は上から打つところを下から打つなど、患者のとれる姿勢に合わせた刺入技術を工夫することが必要になる。

五十肩患者の施術時には治療姿勢が重要で、患者に同一姿勢を維持させると、不動作や圧迫により関節や筋に痛みが出てきて苦痛を感じることも多い。

2)多愁訴化

変形性関節症を例に挙げても、膝だけでなく、他の部位にも症状が現れる場合が多いので、体幹部、股関節、足関節などの観察も重要となる。

全く異なる疾患が潜在している可能性も考えるべきであり、施術者は多方面から検査・鑑別することが求められる。

愁訴が多く、施術時間が長くなりがちなので、同一姿勢を長く続けなくても良いように、配慮や工夫が必要である。

3)体格の問題(肥満・痩せ)

①肥満

・代謝の変化や運動量の減少によって、中高齢者は体格に変化をきたすことが多い。

・肥満が様々な疾患を引き起こしたり、症状の増悪を招いたりしているケースも少なくないので、食事や運動など減量に関するアドバイスも必要である。

・女性はもともと皮下脂肪が厚く、筋が薄く加齢とともにこの特徴が強まることが多い。そのため、刺鍼のための骨指標がとれず、想定した部位あるいは組織に刺入できないことがある。

筋に刺入するためには脂肪層の奥の筋が思っているより薄いため、刺鍼は簡単ではない。不必要な神経刺激を与えたり、気胸を起こしたりする危険性が高まるので、十分な注意が必要である。

②痩せ

・痩せている場合には、骨指標がとりやすく、さらに気胸などを警戒して刺鍼するので問題は少ないが、過敏だったり、刺入痛が起こったりすることが多い。

筋委縮や痩せなどによって組織圧が低くなると鍼が抜けやすくなる。置鍼時や低周波通電を行う際には注意が必要である。また、刺鍼により出血することもあり、事前に説明しておくと良い

4)組織の脆弱化などの問題

・加齢によって組織の脆弱化などがあるにもかかわらず、体力低下や筋力低下が気になり、やや強度の高い運動をしてしまったケースにしばしば遭う。組織の一部で起きた炎症が周囲に拡がり広範囲に及ぶ。

高齢者では、筋萎縮や皮下脂肪減少により極端に痩せていて圧迫に弱かったり(神経の露出、軟部組織の硬化)、骨粗鬆症で骨が弱くなっている場合がある。治療のために無理な姿勢を取らせないようにし、理学検査、運動鍼などを行う際は細心の注意が必要になる。

・骨化、骨棘形成、石灰沈着により、解剖学的イメージと異なっている場合、想定した通りに刺入できないことがある。そのため、刺入痛を起こす可能性も高まる。

・関節裂隙の狭小化や骨棘形成によって、刺入点を設定するための骨指標がとらえにくくなっていたり、刺入対象である部位を誤認することもある。慎重に時間をかけて触診するべきである。

5)感覚の低下、神経機能の劣化の問題

特に高齢者ではすべての感覚が鈍くなっているため、強い刺激でないと反応しなくなる傾向にある。そのために、施術者は知らず知らずのうちに、強刺激になってしまっていることがある。患者の状態(局所や顔色など)を見極め、刺激量を調節する必要がある。

・変性が進んでいる患者では、遠隔部の治療よりは局所にピンポイントで鍼をするほうが効果は高い。

6)ストレスや精神的ケア

・中高齢者は、家庭や職場などでストレスが多く、精神的な問題を抱えて鍼灸院を訪れることも多い。患者の求めているものを見極め、鍼治療で痛みや愁訴を改善しつつ、話を傾聴することなども治療者の役割である。

・不安、うつ、心身症の患者は訴えが多くなりがちで、自分の症状にとらわれていることが多い。また、男女の更年期では、やたら励ますのも問題があり、まずはしっかり話を伺うことが重要である。

7)その他(特に問診の際)

必ず喫煙歴を確認する。疾患鑑別の意味だけでなく、喫煙者は肺組織の硬化などにより気胸になりやすいと考えられる。

ペースメーカーや人工関節の有無、使用薬剤(病院で処方されたもの以外)については必ず問診しておく。

・定年退職後は趣味に時間を費やすことが多くなり、職業関連疾患ならぬ「趣味関連疾患」が起こっている場合があるので、問診で確認しておく。

「血液をサラサラ」にする薬(アスピリンなど)を服用している場合は、刺鍼によって皮下出血を起こしやすいので、問診で確認の上、説明しておく。皮下出血、血腫そのものは1週間ほどで消滅するので、さほど、問題にならないが、患者が驚いてしまい、その後の治療継続に影響が生じる。

感覚低下や皮下血行が悪いため、やけどをしやすい傾向にあるので、温熱療法、灸施術についても注意が必要である。

甲状腺機能異常、特に機能低下を呈する疾患は精神機能低下を伴うので、認知症とみなされている場合がある。

中高齢者の鍼治療

・『鍼治療を受ける中高齢者の多くは、変形性膝関節症、五十肩、脊柱管狭窄症などの退行性変性を有している。そのため治療目的は、①疼痛対策、②日常生活動作や生活の質の改善、③疾病の進行抑制が中心となる。一般に退行性変性は修復する可能性が極めて低いため、1)疾病部位の改善と、2)機能面の向上の両面からの治療が必須となる。』

1)疾病部位の改善

病変部位の改善を目的とした治療では、圧痛部の置鍼術や単刺術が効果を上げることが多い。

変形性膝関節症では圧痛の強さと症状の強さが相関するとともに、圧痛部の置鍼により症状が改善する場合が多い。

2)機能面の向上

・たとえば膝痛における階段昇降痛や坐位からの立ち上がり動作、しゃがみ込み動作などの機能面の改善を目的とした治療では、膝ばかりではなく、股関節、足関節などの可動性を良くするための治療を併せて行う必要がある。つまり疼痛局所の治療だけでなく、機能面向上の視点からの刺鍼部位を考える。

付記:高齢者の体力づくり

年齢に関係なく、体を鍛えることで筋肉は活性化するとされていますが、本書の中にそれを物語るような運動実施期間と体力年齢/平均実年齢を比較したグラフがありましたのでご紹介します。

画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」

『健康・体力づくりのためには、運動が重要であることはよく知られている。そして、効果的な運動のポイントの1つには継続して行うことが挙げられる。図1に示すように、運動を継続すれば、たとえ高齢者であっても運動開始から30カ月後でも、運動効果が認められる。しかしながら、一時的に運動を休止すると、それまでの運動効果は消失している(下のグラフ)。』

 

画像出展:「中高齢者の鍼灸療法」

棒グラフの高さは体力年齢になりますので、低いほうが良いということになります。

線維筋痛症5

編者:リーダーズノート編集部

出版:リーダーズノート出版

発行:2014年7月

目次は”線維筋痛症4”を参照ください。

慢性痛にはセルフケアが重要

『「風を引いたら、みんなどうする?」と子供たちに聞く。10人中、10人が「薬を飲むー」と答える。明治国際医療大学の伊藤和憲准教授(臨床鍼灸学教室)は、これが日本の典型的な姿だと危惧する。医療保険の充実しない海外ではそうならない。「風呂にはいる。ハーブティーを飲む」そういった答えが返ってくる。幼少期の教育が大人になってからの痛みの対処法を決めると考える伊藤准教授は、日本の子供たちには、早期に、自分で身体をケアする教育が必要だと言う。「風を引いたら病院で薬をもらう」との発想のくりかえしでは、病気になったときに、自分では何もできない。』

・伊藤准教授は、鍼灸センター専門外来で線維筋痛症を担当されており、国内でもトリガーポイントの専門家として知られている。

・痛みは医療機関だけにまかせる受身的な治療ではうまくいかないことから、患者自らが痛みをコントロールするセルフケアを推奨し認知行動療法(痛み教育と考え方)、アロマテラピー、森林浴、ヨガ、ツボケア、笑い、運動の八つのプログラムによるセルフケアの効果の研究も行っている。

身体の機能を回復させる治療として数多くの東洋医学的アプローチがある中で、鍼治療のメリットについては、痛みがコントロールできること、副作用がほぼないこと、そして、治療中に患者と語り合えることの三つを挙げている。

鍼は、医師の治療や処方された薬を補っていく役割と位置づける。

・専門は筋肉のため、線維筋痛症や筋・筋膜疼痛症候群の患者との関りも多い。

・『「ストレスがかかると筋肉は硬くなり身体は丸まるんです。交感神経が高ぶる時は、体は丸まるようにできていて丸まる筋肉も決まっている。立ったり、バランスを取る抗重力筋はストレスに敏感。ほかの筋肉に比べ脳とのやり取りが密にあるわけです」 

・抗重力筋の中にある筋紡錘には交感神経が来ており、脳の影響を受けやすい。

交感神経が高ぶると、大胸筋、僧帽筋、肩甲挙筋、腓腹筋、ヒラメ筋などの筋肉が緊張しやすい。また同時に、目が乾いたり口が渇いたり、手足が冷えたり、不眠といった不定愁訴が起こってくる。

・『「私は選択的に、交感神経に影響のある筋肉のトリガーポイントを探して緩めてあげる。それが、副交感神経を優位にするんですね」鎮痛系に働く治療と、交感神経に働く治療と二つを合わせて治療する。それが伊藤准教授の考える鍼治療の理想。脳を介した痛みのメカニズム、自律神経を調節するための方法、局所の筋肉の対処という、立体的な医療概念からの話も魅力的だ。』

・線維筋痛症を含む慢性痛は、自分でも身体をメンテナンスしていかなければ治すのは難しい。そのためセルフケア医療への対策にも力を入れている。

鍼灸師は、痛みの専門家として、痛みに関する正しい知識を身につけ、ペインマネージャとして患者の痛みをトータルケアする必要がある。[注:このことは本に書かれていたものではありません。2014年冬に伊藤先生が講師をされた“トリガーポイントと鍼灸治療”というセミナーを受講したときに、最も印象に残ったことです。] 

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

伊藤先生の”セルフケア”のコラムを見つけました。

慢性痛患者のための セルフケアガイドブック” もありました。クリック頂くダウンロードされます(PDF24ページ)

機能回復、症状改善するポイントは血流にある

『身体の機能を高める=免疫力を高めるために、姫野医師のような「分子整合栄養医学」からのアプローチは極めて説得力を持っていた。また、伊藤准教授の説くセルフケアも重要に思えた。次に本書の取材班は、線維筋痛症の症状改善のために「血流」に焦点を当てて治療を行ってきた永田勝太郎医師を訪ねた。では、なぜ血流なのか。「どんなん病気でも、まず病院で血圧測りますよね。血圧が基本だからです。そして血圧は、血流、血行動態を表している」

血圧とは、心臓から出た血液が血管の中を流れ、全身をめぐり末梢にまで至り、再び心臓に戻ってくる過程、血行動態、すなわち血液循環の状態を表す数値。そして血圧は、心臓に収縮力と末梢の血管抵抗から成り立つものだ。

「この血行動態と線維筋痛症の痛みは、関係があるんです。たとえば、腕を強く押され続けると腕がしびれてくる。正座を続けると足がしびれ、痛む。それは神経を圧迫しているというよりも血液を途絶えさせているからです。血の流れを止めるとそこに発痛物質が溜まる。すると神経が刺激され、しびれたり痛くなる。結果的には神経だがもとは血流の問題です。だから血流、血圧の管理が重要」

・線維筋痛症は、筋痛がおもな症状で、筋は心臓から出る血液の約80%を使っている。

・筋の細胞は代謝してエネルギーを発生し老廃物をつくる。この老廃物には、痛みを発する物質であるカテコルアミンやサブスタンスP、ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどが含まれており筋痛と深くかかわっている。

血流や血圧を正常化することは、老廃物を流し去り痛みから解放することを意味する。

『「私は、まず、血行動態を改善させたあと、温泉療法を試してもらう。線維筋痛症の患者さんは血圧が低いんですそしてこの疾患が女性に多いのは女性ホルモンが出ているから。ちなみに女性ホルモンは血管拡張剤でもあるから閉経前の女性は心筋梗塞にならないんですよ。温泉療法は、血圧の低い女性の血行動態を改善するんです」』

こちらは横浜市保土ヶ谷区にある“診療所スカイ”さまのサイトです。女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)について詳しくご説明されています。なお、血管については「血管では、血管拡張作用や抗動脈硬化作用を認めます」とのことも書かれています。

 

こちらは慶應義塾大学保健管理センターさまが2002年に発行された“エストロゲンと生活習慣”慶應保険研究(第20巻第1号、2002。PDF7ページ)です。こちらにも「エストロゲンは血管拡張に作用し、血管障害や動脈硬化を抑制する」とのことが記述されています。

湯あたりで、脳と身体をリセットする?

・永田医師が行う温泉療法は、症状などに合わせて数多くある。一例として、1日3回入浴。1回の入浴時間は最初は5分で徐々に増やしていく。入浴中、気分が悪くなったらすぐに出る。入浴中は温泉の中で、ゆっくりと自律訓練法を行う。この療法中は、入浴以外に何もしないこと。一日の終わりに、「からだへの気づき」と「こころへの気づき」の日記をつける。

・『「私の行っている療法は、温泉の温熱効果だけを期待するものではありません。温泉療法に心理療法(実存分析療法)を加えます。これは“温泉ロゴセラピー”と呼んでいて、究極の療法です」』

・温泉療法を行うと必ずといっていいほど「湯あたり」がある。湯あたりはこれまで温泉療法の副作用と考えられてきたが、永田医師は、この11年を振り返って検証すると、湯あたりがあったほうが効果が出ると考えている。

・湯あたりがひどいと、まず症状が悪化して痛みが全身に広がる。頭痛も出る。吐いて食事もできない。温泉は見るのも嫌になる。しかし、そういう状況を懸命に乗り越えると、ある日、ストンと落ちたように治る。

・脳波を調べてみると、湯あたりのあった患者ほど、脳波のアルファ波が減少し、シータ波やデルタ波が増加(座禅や瞑想しているときと同じ状況)する。

・心拍変動のスペクトル解析による自律神経系の反応は、湯あたり中は自律神経系に大きな乱れが生じるが、湯あたりのあとは交感神経の興奮はおさまり副交感神経の機能が高まる。これは音楽療法などによる効果と同様で、永田医師は、緊張から弛緩に移行した状態だと分析している。 

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

”日本自律訓練学会”という学会がありました。 

永田先生の“千代田国際クリニック”です。

機関誌『温泉』2019年冬号に掲載された。“ストレスと温泉”という投稿を見ることができます。

永田勝太郎先生のウェブサイト”というサイトもありました。

人間に本来備わっている自然治癒力を応用

・永田先生は在学中に「痛みをライフワークにする」ことを決意され、卒業後に心療内科、東洋医学、緩和医療、そして麻酔科に学ばれた。その後、高名なウィーン大学のヴィクトール・フランクル博士(実存分析学・人間学)と運命的に出会う。

・フランクル博士は、大戦中にアウシュヴィッツに収容された経験があり幸いにも生還したが、収容所では、死を前にして「譲りあう人と奪いあう人の姿」に直面し、その後の人生を「生きることの意味を問いつめる」ことに費やした学者である。

・『「ある患者さんが、痛みを取ってほしいと医者に頼んだ。さまざまな薬で痛みは7割取れたけれども、立てなくなってしまったという話があります。患者さんからすれば、痛みが取れたからいいだろうと言われていても納得できない。治療のエンドポイントはどこにあるか。それは、痛みの除去だけではないということです」

包括的、全体的な健康観にもとづいた全人医療を実践する立場から、西洋医学本位の治療に批判も呈する永田医師だが、温泉療法をはじめとして、人間に本来備わっている「自然治癒力」を応用する療法、生き方そのものから変えていこうとする哲学的なアプローチは、多くの専門家や患者から注目されている。 

こちらは、EARTHSHIP COUNSULTINGという、ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl)のことが詳しく書かれたサイトです。

 

まとめ(鍼灸師として)

“線維筋痛症患者さまのペインマネージャになる”が目標です。そのための前提は線維筋痛症に対する知識と患者さまへの理解です。

特に“心”に向きあうことが第一です。その上で、“ストレス”を小さくすること、自律神経を整え、硬い筋肉をゆるめ血液の流れを良くすることに注力します。そして、低血圧であれば、その改善を目指します。

なお、「分子整合栄養医学」については、今後の宿題とさせて頂きます。

こちらのページは”参加医療機関マップ”です。埼玉県は3件(病院は2件、鍼灸院1件)、東京都は23件(病院は21件、鍼灸院は2件)で、姫野医師、永田医師も登録されていました。また、”学術集会”の冊子が閲覧できるページもありました。

線維筋痛症4

こちらは2冊目になりますが、最初に「はじめに」の冒頭部分をご紹介させて頂きます。

『本書、【痛みが全身に広がる病気をとことん治す】は、線維筋痛症をはじめとした、原因不明といわれる「慢性の痛み」の病気をテーマとして、患者の身に巻き起こる痛みや、これらの病気に対する研究、そしてさまざまな治療の方向性、多数の方法までも綿密にリポートするものだ。

こういった痛みの治療については、実は、これまでも危機感が示されてきた。厚生労働省の【慢性の痛み対策について】の中には、次のような指摘もある。

病態が十分に解明されておらず、診断も困難である。そのために、患者は適切な対応や治療を受けられないだけでなく、病状を周囲の人から理解されないことによる疎外感や精神的苦痛にも苦しんでいることが多い

「痛みを専門とする診療体制は十分に整備されていない。その背景には、痛みを対象とした診療が成り立つような制度や人材育成、教育体制が確立されておらず、痛みを理解し、痛みに苦しめられている者を社会全体で支えようとする意識が、十分に醸成されていないことが挙げられる」』

こちらは厚生労働省発行の資料です。クリック頂くと厚生労働省のページに移動します。下部にはPDF資料へのリンクもあります。

今後の慢性の痛み対策について

編者:リーダーズノート編集部

出版:リーダーズノート出版

発行:2014年7月

目次に続いて、ブログでご紹介するのは、【データで見る線維筋痛症】の一部と、最後の[身体の機能を高める]に関する箇所です。「身体の機能を高める」は自己治癒力/自然治癒力に関する内容で、特に栄養・血液・血流の三つに注目されており、鍼灸師の私には非常に興味深いものです。

目次

①痛みとたたかう患者たち -なぜ、こんなに痛いの?

[支えあう患者たち]

・ふつうの私が消えた日

・せめて病名がほしい

・月に電話相談160件

・さまざまな出会いが支えてくれた

・痛みをそらし、つき合っていく

[医師をめざす、患者のたたかい]

・これが……私たちの日常

・もはや身体や神経の損傷では説明できない

・周囲に理解されないことが一番つらい

・薬に頼りすぎる治療は問題

・医師として患者と向き合う

[共有されない痛み]

・妻には絶望しか残っていなかったのか

・厳しい寒冷地の気候もストレスに

・ドアノブも掴めない、食べ物を噛むこともできない

・薬だけで症状を和らげるのは難しい

・裁判所にも、わかってもらえない

・痛みと事故の因果関係が立証しにくい

データで見る線維筋痛症

◆発症年齢

◆疾病罹患がトリガーとなった各診療科別要因

◆臨床症状と重傷分類

◆発症から診断までの期間

◆障害者手帳の取得状況

◆臨床領域にみられる合併しやすい代表的疾患

◆リウマチ性疾患との鑑別診断の要点

②現代医療の壁に挑む -研究者たちの挑戦

[線維筋痛症診療ガイドライン]

・診療を避ける医師が多いことが問題

・大切なのは、三つの視点

・圧痛点を診るというスキル

・病気の概念が変わるというデメリット

・医師に病名が認知されてきた

[診断技術への挑戦]

・痛みは、測定できるのか?

・痛みを測定するペインビジョン

・脳SPECT検査

・PET解析

・「抗VGKC複合体抗体」の研究

[検体バンク]

・検体バンク構想

・世界中の研究者が使えるものに

・プロトタイプを分析

[メカニズム]

・カテプシンSと慢性の疼痛

・犯人の足跡、フットプリントを追え

・インターフェロン・ガンマは、強力なアクセル

・Cファイバーの脱落

 ・神経のどこかで混戦が起こっている

③最新治療を探る -痛み止め、病気を治すために

[薬で痛みを止める]

・専門薬、リリカの登場

・ほかの薬とは、まったく違う

・「すぐにリリカ」は、危険な発想

・急性か慢性かの判断が重要

・ノイロトロピンの活用

・ペインレスキュー

・徹底して、生活の質を上げる

[脳にアプローチする]

・脳に磁気を当てる「TMS治療」

・南国土佐で始まった治療

・先端治療へのチャレンジ

・脳の神経がうまく働いていない

・景色も表情も、見違えて見えた

・患者を支える

[認知行動療法]

・危険な「痛み」ではないことをわかってもらう

・医師と医療スタッフが新たな家族に

・痛みで何もできない状態からの回復

・痛みで眠れない人に、不眠認知行動療法

[歪みを治す]

・咬み合わせ調整で、痛みを除去する

・線維筋痛症と顎関節症の深い関係

・「バランス」という言葉に、もっと慎重になるべき

[身体の機能を高める]

・なぜこの病気は女性に多いのか?

・脳も身体も、実は深刻な栄養不足

・ビタミン、カルシウム、マグネシウムが必要なわけ

・自分の治す力を強めることが本来の医療

・慢性痛にはセルフケアが重要

・機能回復、症状改善するポイントは血流にある

・湯あたりで、脳と身体をリセットする?

・人間に本来備わっている自然治癒力を応用

データで見る線維筋痛症

発症年齢

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

発症から診断までの期間

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

障害者手帳の取得状況

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

臨床領域にみられる合併しやすい代表的疾患

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

以下の図は「線維筋痛症がよくわかる本」にあったものです。線維筋痛症の痛みの凄さが分かります。 


[身体の機能を高める]

おそらくほとんどの病気に有用なのは、身体の機能を高めること=自己治癒力を高めること。食事、睡眠、運動は、その基本だ。線維筋痛症もまた、身体の機能を高めることなしに、いかなる薬も効果を発揮しないに違いない。取材班は身体の機能を高める治療を探ることにした。』 

なぜこの病気は女性に多いのか?

血液が患者を物語る。そして、栄養不足が症状を説明する。

『そう主張するのは、この病気の研究治療を20年以上続けてきた心療内科医の姫野友美医師。テレビ番組、雑誌にたびたび登場する「売れっ子」で、著書も多数。なぜこの疾患は女性患者が多いのか。分子整合栄養医学は線維筋痛症にどのように適用されるのか。東京都五反田の、ひめのともみクリニックに赴いた。白衣に着替えた姫野院長の解説もまた、テレビの健康番組のように歯切れよくわかりやすい。』

線維筋痛症をはじめ、女性に身体症状が出やすい理由。

1.月経、妊娠、出産、閉経など性周期に伴う内的環境の変化。女性ホルモンの変動は同時に自律神経の変動、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどの神経伝達物質の変化をもたらし、免疫にも影響する。

2.男性と比べて筋肉量や循環血液量が少ないことによる血行動態の不良

3.月経や妊娠、出産によるたんぱく質や鉄分など栄養の喪失が心身に影響を与える。

4.男性よりセロトニンレベルが低く、ノルアドレナリンやカテコールアミンの制御不全を起こしやすい。

5.女性の脳の構造上、感情ストレスが大脳皮質を介し、大脳辺縁系視床下部径路を刺激しやすい

これらの身体的性質に加えて、女性特有のライフサイクル、社会的役割といった心理的社会的背景がストレスを増大させていると考えられる。

脳も身体も、実は深刻な栄養不足

『ここ、ひめのともみクリニックでは「分子整合栄養医学」を基本方針とし、心身症の患者に栄養指導の考え方はごくシンプルだ。

基本的に人間の身体は、すべて食べ物=栄養素という材料によって構成されており、どの栄養素が欠けても身体機能は失調状態に陥ります。不足している栄養素を本来あるべき至適量まで補充してあげれば、自らの自然治癒力は高まり、病気の進行を防ぎ、症状の改善、さらには病気の予防が可能となる。これが分子整合栄養医学の考え方です

・初診の患者全員に血液検査およびサプリメントドック[足りていない栄養素を確認し解析する]を行い、体内の代謝の状態、ビタミンやミネラルなどの栄養不足、血糖値の変動、さらに活性酸素の発生、酸化ストレスの進行具合などを明らかにする。

最も問題視するのは血糖の調節異常である低血糖。

・『「低血糖は痛みが増しますから。線維筋痛症の患者さん、片っぱしから調べてますけど、みんな甘いものが大好き。その理由はセロトニンが少ないからで、セロトニンを分泌させようと、チョコレートや甘いものに手が伸びるんです。ところが、それで一気に血糖値が上昇して、インシュリンが大量に分泌されて逆に低血糖を起こし、ノルアドレナリンを誘発する。それが筋肉や血管を収縮させるからさらに痛むのです」』

・脳は「大食漢」である。わずか5%の重さしかないのに、摂取した栄養の20%は脳で消費されている。常に低血糖の状態にあるならば、脳が正常に機能するために必要なブドウ糖の安定供給ができない状態ということである。いつまでも疲労感が拭えず、元気になれない理由はそこにある。

線維筋痛症患者に顕著なのが低血圧すなわち血行動態不良で、その原因の一つは鉄とたんぱく質の欠乏が考えられる。

・鉄分は閉経していない女性では、一度の月経で30ミリグラムも体外へと排出されてしまう。

・ピロリ菌は鉄欠乏の主要な原因の一つである。胃の粘膜を萎縮させるために、鉄やたんぱく質の吸収力が悪くなる。しかもピロリ菌の出す毒素を消去する際にビタミンCが消費されるので、活性酸素が消去できない。

・『現代人の深刻な栄養失調。姫野院長は鋭く指摘する。

・栄養失調は身体の機能を正常化するための栄養素が足りない状態である。ふくよかな人であっても、実態は栄養失調であることは少なくない。

・コンビニの加工食品は圧倒的なミネラル不足で、清涼飲料水やスイーツは24時間好きなだけ手に入る。

・品種改良を重ねた味も形もよい現代の野菜は、昔の品種に比べて栄養素が格段に少ない。ビタミンA含有量は50年前のわずか3分の1である。 

ビタミン、カルシウム、マグネシウムが必要なわけ

原因も正体も不明で、有力なバイオマーカーがない。ゆえに通常の血液検査ではなかなか異常が見られない。それが線維筋痛症の診断をいっそう難しくしている。

・『姫野院長の見立てでは、線維筋痛症は「活性酸素と炎症」である。あれだけ痛みがあるのに、異変が起きていないはずはない。そう言い切った。「線維筋痛症の異常(炎症)は、普通の血液検査では見えず、高感度CRP検査でないと出てこないんです。これでCRP[炎症時に体内に発生するC反応たんぱく質の血中量]0.05以上の数値が出たら、微小な慢性異常が存在すると判断します。ただ、まったくCRPが上がらない患者さんもいて、バイオマーカーは一つではありません。ほかには、たんぱく分画のアルファ2グロブリンが上昇することや、酸化ストレスで赤血球の膜が壊れて間接ビリルビンが上昇することなどによって判断します。

炎症には活性酸素が関わっていますから、うちでは抗酸化アプローチをかなり行います。たとえば高濃度ビタミンC。これも栄養療法の一環ですね」。』

・高濃度ビタミンC注射に含まれるビタミンCの量は25グラム。ここまで大量に経口服用すると下痢を起こすので、静脈注射でダイレクトに血中に入れる。この治療はビタミンC不足が招く疾患、線維筋痛症や慢性疲労症候群、リウマチなど免疫異常の症状改善、白内障や糖尿病の予防にも有効であるとされる。

線維筋痛症は筋肉の付着部などのスパズム(攣縮)という説があり、リリカやリボリトールなど、けいれんの原因となる興奮系の神経を抑える薬物を用いると症状が和らぐことが裏づけとなっている。

筋肉が痙攣を起こす原因はカルシウムとマグネシウム不足で、この二つの栄養素はストレス下に置かれると大量に尿から排出されるという性質がある。さらに、更年期を過ぎた女性はカルシウムの吸収力が衰える。線維筋痛症が40代以降の女性に好発するという傾向と一致する。

自分の治す力を強めることが本来の医療

基本、全患者に対して栄養療法を実施するが、痛みの強い患者にはトリガーポイントブロック、神経ブロックなどの対症療法も行う。

・『「線維筋痛症の原因と目される、下行性疼痛抑制系の機能不全では、セロトニンやノルアドレナリンが足りないという話がありますね。これを増やすためにサインバルタやトレドミンなどの抗うつ薬が処方されて、それはそれなりに効くわけです。ところが薬というのは、基本的にリサイクルなんです」』

・西洋の薬は、基本的に酵素を遮断するものである。線維筋痛症治療としても使われる抗うつ薬、SSRIやSNRIも、それぞれセロトニンとノルアドレナリンの再吸吸収を阻害する。

薬のリサイクルには限度がある。リサイクルし続けると物質は劣化していくので、だんだん薬が効かなくなる。薬の量が増え悪循環となる。

・『「逆に、フレッシュなセロトニンやノルアドレナリンを、自力で体内でどんどん作れたら、薬の利用効率だって上がる。最終的に、自分で必要なぶんだけをまかなえるようになれば、薬の利用効率だって上がる。』

・薬をやめたいが、患者にはやめどきがわからない。「薬を止めたら悪化しました」という患者の声はいくつもあった。

・『「当然ですよ。まだ、自分の中で十分な量を作れていないのだから。だから、うちでは栄養解析のデータで示してあげるんです。ここまで数値がそろってきたね、じゃあそろそろ薬をやめられるかなとか。患者さんにすれば、良くなりそうなめどが立つ。そうなると、自ら治療を提案するようになる。先生、私もっと鉄を増やして飲んでみます、たんぱく質摂るためお肉食べなきゃ、甘いもの控えます、だからお薬減らしていいですか、と。病は医者の言う通りにして治すものではなく、自分の中の治す力、自己治癒力を強めることが本来の医療。そう思いますね」。』

精神的なストレスによってカルシウムやマグネシウムは足りなくなる。活性酸素が増え、ビタミンCがどんどん消費される。ストレスを緩和するため、セロトニンも大量分泌しなくてはならない。すべては身体を正常で健康な状態に保とうとするゆえの作用である。

・『「身体の代謝の状態を分析してあげて、欠損部分を栄養素と補って治療してあげる。もちろん、鉄をはじめとするミネラルはたんぱく質と結びついて運ばれますから、食事も重要。しっかりたんぱく質、つまりお肉を取ってバランスを整えると、心も身体も見違えるほど元気になります。』

・痛みや症状に向きあうための心理療法、認知行動療法については、まず痛みを取り、脳に栄養を与えて機能を取り戻したあとの話ではないかと考えている。

・きちんと脳に必要分の栄養を入れてあげて、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンが増えてくると、認知は自然に変わる可能性がある。 

画像出展:「痛みが全身に広がる病気をとことん治す」

線維筋痛症が書かれたページです。

健康未来予測ドック”(“サプリメントドック”は進化したようです)

線維筋痛症3

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

目次は”線維筋痛症1”を参照ください。

以下は既にご紹介済の薬品名と略語の表です。(画像出展:「線維筋痛症は改善できる」)


第3章 線維筋痛症の原因は?

神経伝達の障害

痛みを抑えるシステムの破たん

・線維筋痛症の疼痛は、鎮痛薬だけでなくモルヒネのような麻薬も効かない。

・疼痛は痛みを抑える仕組みが破たんし、その結果として激痛が起きる。

有効なのはセロトニン、ノルアドレナリンの作用を活発にする抗うつ薬や抗けいれん薬など。このことから、痛みを制御する仕組みの破たんから起きていると考えられている。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

下記もセロトニンやノルアドレナリンによる“下行性抑制系”について説明されたものです。(画像出展:「線維筋痛症がよくわかる本」)


痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい

・線維筋痛症の疼痛は、適度な運動をしたりストレスを除去したりすることで改善することがあるが、これを説明できる有力な理論がゲートコントロール理論である。これは痛みの刺激が脳へ伝わるのを阻止する神経線維が存在するという理論であるが、重要なことはゲートの開閉は中枢から下行性の影響を受け、人の情動や気分などがゲートの開閉を左右している点である。

検査でわかる重要な異常

髄液中のサブスタンスPという疼痛を起こす神経伝達物質の数値が高い。

※サブスタンスP:「タキキニンの一種で痛覚の伝達物質。三叉神経節、内頚神経節に含まれ、血管に広く存在し、硬膜の血管にも分布する。炎症にも関連し、軸索反射により放出されると紅斑(フレア)が出る。鍼灸ではこの作用を利用し、体質改善を促進したりしている。(ウィキペディアより)」

・髄液中のセロトニン、ノルアドレナリンの数値が低い。

・脳血流量の低下の可能性がある。

症状を引き起こすストレス

・線維筋痛症の症状が現れるしくみは、以下の図のように表すことができる。

・症状を起こす要因として明らかなのはストレスである。ストレスを起こす原因をストレッサと呼ぶ。 

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

第5章 線維筋痛症の治療法は?

その他の併用療法

薬物療法以外の治療法もあわせて導入する必要がある

線維筋痛症の治療は薬物療法だけでは不十分で、他の治療法の導入も必要である。そこで、再度、セロトニンについて考えてみる。

①セロトニン神経は、覚醒時に持続的なインパルス発射(セロトニン神経の活動化)があり、睡眠時に休止する。

②朝起きてセロトニン神経が十分に働かないと、症状(気分障害、疼痛、睡眠障害、起立困難やすぐしゃがむ)が現れる。また、ストレスがセロトニン神経の働きを抑制する。

③インパルス増強には、歩行、呼吸、咀嚼のリズム運動が必要。

上記を基に、今野先生は次のような治療方法を患者さんに選択してもらっている。

ウォーキング~運動浴(水温35度以上)

呼吸法~腹式呼吸

ヨガ~ストレッチング

咀嚼~ゆっくりリズミカルに

また、保湿により疼痛が軽減する(疼痛が増強する患者さんも10%位いる)患者さんには次の方法も勧めている。

保湿(使い捨てカイロ、下着の工夫)

②綿花灸(湿らせた綿花の上にもぐさを置き、疼痛部位周辺に行う灸―自然医療の権威である斑目医師が考案したもの)[台座灸(千年灸など)でも代用可能と思います]

③TENS(経皮的末梢神経電気刺激法)という小型の器械を使って、10分間ほど患部周囲に通電する。心臓ペースメーカーを使っていたり、保湿で疼痛が増強する患者さんには使えない。購入する前に医師に相談すべきである。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

検索してみたところ、数千円~10万円台まであるようです。

適切な治療で3~5年以内に70%以上が症状の改善可能

・今野先生は定期的に通院されている患者さん(50名)と紹介されて来院された患者さん(13名)にアンケート調査をされました。アンケートの内容は1.線維筋痛症の治療開始(疼痛と診断からの年月)前後で、どの程度症状が改善しているか、2.一番効果的と思う薬は何か、3.治療院へ通院しているか、などであり、その結果は次の通りである。

-線維筋痛症の専門医での成績では、疼痛発症からの平均期間は7.6年だったが、疼痛発症からの期間に関係なく、線維筋痛症の治療開始後、平均3.6年以内には、治療前と比較して、改善が72%(著明改善と改善:42%、やや改善:30%)、変化なしは6%、悪化は22%だった。FIQの平均は59であった。

-一般医の治療成績では、疼痛発症からの平均期間は6.7年で、線維筋痛症の治療開始後、3.4年以内には、診断前より改善したのは22.5%、変化なしは15%、残りは悪化していました。FIQの平均は72.7でした。

-鍼灸、物理療法など、治療院へは54%の患者さんが通院していた。

疼痛をゼロにすることは不可能だが、専門医による適切な治療によって、治療開始から3~5年以内に、70%以上を改善させることができる。

・治療により改善した患者が使用している薬のうち、「最も効果があると感じている薬」は以下に通りである。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

抗炎症薬の内訳はブレドニン、ノイロトロピン、非ステロイド性抗炎症薬がほぼ同じ割合で、プレドニンは主に脊椎関節炎タイプに用いられていた。抗けいれん薬は主にガバペンで、抗うつ薬はSNRI、SSRI、三環系抗うつ薬など多種類だった。ほとんどの患者さんは、これらの4種類の薬のいくつかを病型分類に沿って組み合わせて使用している。なお、薬を使用せず順調な経過をたどっている患者さんは、温泉療法ラクトフェリンのサプリメントなどを使っていた。

線維筋痛症の患者さんは「線維筋痛症に効く薬はない」と決めつけないで、「時間はかかるが、必ず自分に合う薬がある。薬の適切な組み合わせを早く見つけることで、厄介な疼痛から解放される」という気構えが必要である。 

疼痛の重症化を防ぐ対応

診断と治療の進め方

最後のまとめとして、線維筋痛症の診断・治療のステップがまとめられています。

①『第1の原則は、原因不明の局所的、または広範囲疼痛があるとき、疼痛を引き起こす原因を早く見出し、原因に対する集中的治療を行って疼痛を緩和することで、線維筋痛症に移行させないように努力することです。』

②『治療には、線維筋痛症の病型分類を参考にし、決してACRの圧痛点のみで線維筋痛症と診断して、画一的治療を行わないようにすることです。精神的ストレス、CRPS、脊椎関節炎など原因はさまざまなので、一人の医師では対処できません。その場合でも、ACR基準を盲信しないで、線維筋痛症に精通している医師が中心となって、チーム医療を行うことが望ましいでしょう。それには、患者さんの病気の詳細な経過を作成するのに中心になる医師が必要であり、そして過剰なぐらいの早い対応が必要だからです。』

③『「完璧な病歴」「理学所見」「画像診断」「血液検査」を参考に基礎疾患の有無を調べ、異常があればそれを治療します。異常があればそれを治療します。異常がなく、疼痛が持続するときは、まずは十分な量の非ステロイド性抗炎症薬、場合によってはステロイド(プレドニンで5~10mg)を短期間(長くても1か月以内)併用し、効果を判定します。治療的鑑別です。疼痛は患者さんにとってきわめて不快な症状なので、薬の効果の判定はそれほど難しくありません。そして、患者さんは薬の効果評価を正確に医師に伝える必要があります。この段階で疼痛が緩和されているときは、たとえACRの基準を満たしていても、線維筋痛症の診断は避けるべきでしょう。』

④『十分な量の非ステロイド性抗炎症薬、ステロイドにまったく反応しないとき、初めて、患者さんの疼痛は末梢性の疼痛でなく、中枢性の疼痛と判断できます。そして、中枢性の疼痛に対する治療が開始されることになります。気分障害が強い場合は、抗うつ薬のSNRIから、気分障害が強くないときは抗けいれん薬から、トラマドールを最初に用いる場合もあります。この段階でもう一度病歴の取り直し、さらに理学所見の取り直しを行う必要があります。そして、疼痛の重症度を評価します。可能であれば血中セロトニンの数値を測定します(自己負担で2000円ほどかかります)。』

⑤『患者さんは、治療開始後1~2年間は薬の変更、薬の副作用にとまどうかもしれませんが、原因の究明と本人に合った薬を探すために、時間と費用がかかることを理解し、治療に取り組んでいただきたいと思います。

線維筋痛症2

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

目次は”線維筋痛症1”を参照ください。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

こちらの表は前回もご紹介していますが、「本書に登場する薬品名と解説」になります。

第2章 線維筋痛症の症状 

同じ病気の患者の経過を参考にする

共通の症状やストレスとなる原因を探る

こちらは“本文中に出てくる主な略語です。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛

【経過】

・神経内科によって多発性神経炎(シェーグレン症候群による)に対するステロイド療法が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。

・リウマチ医によって線維筋痛症に対するパキシルとノイロトロピンの処方が行われたが、疼痛を緩和することはできなかった。

・この患者さんは、夫を交通事故で亡くし、その後3年間に6個のCSS(中枢過敏症候群)に属する症状・疾患(片頭痛、筋緊張性頭痛、子宮内膜症、顎関節症、筋・筋膜性疼痛症候群、こむら返り)を併発し、最終的に耐えがたい全身の疼痛(線維筋痛症の疼痛)が生じた症例である。

・当院では、セロトニン、ノルアドレナリンの賦活作用(活発にする作用)をもつ即効性の鎮痛薬であるトラマドールシロップを処方し、入院中にヘルパーの活用など家事援助を検討して導入した。

・入院時は移動するのに歩行器と車イスを使っていたが、現在は自立歩行ができるまでに改善し、家事が可能になっている。

症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ

【経過】

・ばね指の手術後に生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)に対して、適切な処置が行われず、7つのCSS(中枢過敏症候群)の症状・疾患(片頭痛、子宮内膜症、こむら返り、むずむず脚症候群、筋・筋膜性疼痛症候群、顎関節症、うつ病)を抱えることになった。

・入院後、痛みに対してトラマドール、筋のけいれんに対してガバペン、不安状態に対してパキシルを処方した結果、線維筋痛症の重症度を示すFIQは、80から63まで改善した。

・退院後は、ヘルパーを導入して夫の介護負担を軽減し、訪問看護師によるメンタル面の援助を受けて、在宅での生活を送っていたが、主治医が麻酔科の医師にかわると、除痛のためのトラマドールが麻薬に変更されて一日中眠い状態が続くようになり、疲れて寝たきりの生活になった。

・再び、主治医がかわり、入院によって麻薬からの離脱に取り組んだが、麻薬の中止までは長期入院を強いられた。

症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ

【経過】

・若い頃からCSS(中枢過敏症候群)の3つの症状・疾患(片頭痛、顎関節症、子宮内膜症)があったが、出産時に点滴の針を刺したところから生じたCRPS(複合性局所疼痛症候群)が放置されたため、線維筋痛症の疼痛が生じたものと判断した。

・母乳が中止されていたこと、疼痛がきわめて強いことから、トラマドールの服用を開始し、現在は子どもの世話を含めた家事も可能になっている。

症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症

【経過】

・最初は一次性の線維筋痛症という診断で、疼痛に対する治療を中心としていたが、付着部痛が著しくなり、検査の結果、脊椎関節炎と診断した。レミケード、エンブレルを使ったものの効果がなく、トラマドールとリウマトレックスを併用したところ、職場復帰が可能なまでになった。

症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛

【経過】

・FIQは78から67、62、42と変動がある。疼痛に対して、応急的にノイロトロピンの点滴を受けているが、緊急入院などはなくなり、家事労働をこなしている。また社会的にも活発な活動をしているが、線維筋痛症への移行にはメンタル面のほうが強く関与していたと思われる。

線維筋痛症の中心症状

動かさないときでも起きる広範囲疼痛

線維筋痛症の疼痛部位は、原則として左右・上下対称であり、痛みの箇所が一か所に集中することはない。

線維筋痛症の疼痛は「自発痛」で、触れられることにより疼痛が増すのが特徴であり、場合によっては皮膚の発赤がみられる。

・線維筋痛症は、英語でfibromyalgiaというが、これは腱や靭帯の結合組織(fibro)と筋肉(myo)の疼痛(gia)という意味である。疼痛部位は関節ではないため、関節の腫れや疼痛を診察する方法では線維筋痛症を見つけることができない。

・線維筋痛症の疼痛の特徴の中には、音や光などによって疼痛が増すこともある。これをアロディニアという。

線維筋痛症の疼痛は、脳幹部の異常による中枢性疼痛と考えられており、抗うつ薬や抗けいれん薬が有効である。

睡眠や休息をとっても改善されない疲労

疲労も線維筋痛症の中心症状のひとつだが、線維筋痛症の疲労は睡眠や休息だけでは十分に改善されない。

脳波で確認しにくい睡眠障害

・線維筋痛症の睡眠障害は、入眠障害か早朝覚醒というタイプだが、これは睡眠にかかわる2つの脳波、レム波とノンレム波のバランスのくずれが関係しているといわれている。ただし、脳波に異常が確認できるのは30%以下である。

・睡眠時無呼吸症候群が関与する場合もある。

線維筋痛症の睡眠障害では、睡眠薬をできるだけ使用せず、疲れたら寝るという考えが大切である。睡眠薬が必要なときは、できるだけ少量にする。

線維筋痛症の共通症状

基礎疾患のない“むくみ”感

・線維筋痛症では「むくんでいる」と訴えることがあるが、実際には「むくんでいない」ことが多い。女性の患者さんには子宮内膜症など婦人科的疾患にかかったり、若い頃に手術を受けたりした患者さんが多くいるが、月経前の体重増加や更年期障害としての“むくみ”感を訴える場合もある。通常、むくみは心臓や腎臓に関わる病気が考えられるが、線維筋痛症の患者さんに見られる“むくみ”感の訴えには、こうした基礎疾患はほとんどない。

全身のしびれ、異常感覚

線維筋痛症の患者さんの多くは“しびれ”を訴える。その部位は全身であり、神経学的には説明がつかない。

下肢のしびれなど、局所だけでなく病歴と全身の状態や症状を参考にして判断する。

・安易に脊髄疾患と診断され、不要な手術により症状を急激に悪化させることがしばしばある。

・線維筋痛症に似た疾患に多発性硬化症があるが、全身症状と経過を参考にすることで鑑別することができる。

事故につながりやすい立ちくらみ、めまい

CVr-rなどの自律神経の検査で40%近くの患者さんに異常がみられる。立ちくらみやめまいの訴えが多いのはこのためと思われる。また、血圧が低く、起立性低血圧もみられる。

・立ちくらみ、めまいなどの自律神経障害の症状がある場合は、サポートタイプのパンティストッキングを使用することに加え、塩分の摂取などの食生活の見直しが必要である。

短期記憶障害は長く続くことはない

・短期記憶障害は、英語でFibrofog(fibro=線維筋痛症・fibromyalgia  fog=濃霧)と表現される。電話番号や相手の名前を覚えられない、忘れてしまうといった障害である。ただし、短期記憶障害の症状が長く続くことはないようである。

不安、ストレス、うつ状態などの精神症状

患者さんの多くは、気分障害など精神症状を持っている。海外の報告では線維筋痛症患者の20%にうつ状態、15%にパニック障害があるといわれているが、これは疼痛など線維筋痛症の様々な症状が、満足にコントロールできないことによる結果であると考えられる。一方、大うつ病(うつ状態でなく真性のうつ病)でも全身の疼痛が生じることがある。精神症状が線維筋痛症の症状として現れているのか、それとも大うつ病などの精神疾患なのか、慎重に診断することが重要である。その意味で、精神科医と線維筋痛症専門医との共同の対応が必要といえる。

線維筋痛症の関連症状・疾患

中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

慢性疲労症候群:何らかの感染を繰り返した結果、日常生活に支障をきたす非常に強い疲労感が、改善されないまま続く状態。

過敏性腸症候群:頻繁に下痢や便秘を繰り返したり、両方が交互に起きたりする。腸の疾患は検査では見つからず、ストレスなどが関係している。

筋緊張性頭痛:肩、首周辺の筋肉の疼痛に伴う頭痛で、姿勢などが関係する。

片頭痛:発作的に反復して起きる頭痛で原因は不明。発作を予期できるタイプと、できないタイプがある。

生理不順/子宮内膜症:生理不順は、生理前や生理中に、耐えられない下腹部痛や月経周期の乱れを繰り返し起こす状態。子宮内膜症は、子宮内膜と同じものが、子宮以外の場所にできてしまう病気。

うつ病:うつ状態ではなく、真性のうつ病(大うつ病)です。

外傷後ストレス症候群:心に深い傷を負うような出来事の後に強いストレスが残り、激痛や睡眠障害、さらにうつ状態になる

化学物質過敏症:シックハウス症候群などに代表される化学物質過敏状態である。同時に薬物、食品に対する過敏を伴う場合が多い。

こむら返り:ふくらはぎの痙攣。指、首、肩にも起きるが、この場合は「全身こむら返り病」と呼ぶ。

むずむず脚症候群:下肢の不快感を覚え、下肢を動かしたいという強い欲求が生じるもので、レストレス・レッグス症候群と呼ばれる。特に夜間に寝床につくと、下肢が「むずむずする」「虫がはっている」「ほてる」「ずきずきする」などと感じ、睡眠障害が起きる。下肢を動かすことでやわらぐ。

顎関節症:開口障害を主な症状とする疾患で、疼痛を伴うこともある。

筋筋膜性疼痛症候群:局所の強い疼痛を生じる疾患で、表2のような診断基準がある。

多彩な症状は根拠のある訴え

・過敏性腸症候群で20%、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の3%に線維筋痛症が合併する。

・婦人科で更年期障害と診断された患者さんに線維筋痛症の可能性がある。

・顎関節症の患者さんの15%に線維筋痛症がある。

線維筋痛症1

かなり前の話になりますが、著名な女性タレントの方が線維筋痛症になったというニュースが流れていました。

以前から線維筋痛症について関心は高かったものの、調べることはしていませんでした。そこで、このニュースをきっかけに、3冊の本を図書館から借りてきました。なお、じっくり拝読させて頂いたのは2冊です。今回も知らないことばかりだったため、長文になってしまいました。そこで、ブログを5つに分けることにしました。

著者:今野孝彦

出版:保健同人社

発行:2011年3月

著者である今野孝彦先生は線維筋痛症の専門外来を6年以上開業されています。「はじめに」に書かれている内容は、この難しい疾患を熟知されている先生が現場で積み上げられたものです。

はじめに

日本では、線維筋痛症の患者さんは約200万人に上ると推定されています。私が線維筋痛症の専門外来を開設してから6年以上経ちました。その診療実績をもとにして平成16年から毎年、北海道大学医学部・環境医学講座で医学部学生に「広範囲疼痛の臨床的アプローチ」と題して講義を行っています。

患者さんの痛みを患者さんと一緒に考え、痛みの研究に興味を持つ医師が一人でも多く出てほしいと願って講義を続けています。本書はその講義の内容を、患者さんはじめ、一般の方が理解できるようにアレンジしたものです。

線維筋痛症の患者さんの主症状は痛み(疼痛)です。受診する科はいろいろで、それぞれの科の専門医の対応も多様です。しかし、適切な対応は少なく、誤診、診療拒否、過剰診断・治療なども見られます。その原因は、疼痛に関する医学教育・医学体制の不備にあります。特に、画像診断、検査中心の日本の医療現場では、疼痛を訴える患者さんの診察は驚くほど画一的なものです。MRIやCT、多数の血液検査を行い、何とか画像、何とか検査で異常を見出そうとして、患者さんも医師も湯水のごとく投資しています。そして、行き着くところは、「何もない。精神科へ行ったら…」になります。

本来、医師はたくさんの画像診断や血液検査を行うよりも、まず患者さんの痛みの訴えに耳を傾けるべきです。何がこの強い疼痛を引き起こしているのかを、患者さんと一緒に考えることが一番大切だと思います。

本書は、35年間リウマチ医療に従事してきた一人の内科リウマチ医が、線維筋痛症専門外来を開設し、患者さんと一緒に悪戦苦闘し、疼痛と闘ってきた記録です。患者さんを中心に一人でも多くの医師、医療・福祉関係者が同じ土俵に上がり、疼痛に取り組む手がかりとなればと思います。

多くの線維筋痛症の患者さんが、診断・治療の遅れで毎日疼痛から悩まされ、社会的労働から疎外されて孤独な生活を強いられています。あふれる情報をもとに線維筋痛症であると自己判断し、たくさんのサプリメントに多額の投資をしている患者さんもいます。また、いまの状態のままでは容易に線維筋痛症へ移行してしまう線維筋痛症予備軍の方たち、そういうすべての方たちに読んでいただきたいと願っています。

さらに、気苦労の多い厄介な病気として、線維筋痛症の治療から目をそむけている医療従事者たちにも、ぜひ読んでほしいと思います。そうすれば、疼痛に苦しんでいる患者さんがいかに多く、適切な対応がなされていないか、適切な対応をすれば、かなりの疼痛患者さんが、苦しみから解放されるのだということが理解できると思います。

なお、本書では薬の名前はすべて商品名にしました。対応する薬品名、分類は164ページの表を参考にしてください。』

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

こちらがp164の表になります。

 

目次は下記の通りですが、ブログは第1章、第2章と第3章の一部、および第5章の中から「その他の併用療法」と「診断と治療の進め方(疼痛の重症化を防ぐ対応)」を取り上げています(黒字)。内容は要点と思った個所をまとめたものが大部分ですが、一部引用させて頂いたもの(『』でくくられています)もあります。

第1章 線維筋痛症とは?

患者が置かれている状況

●体の広範囲の痛みが3か月以上続く

●社会生活が困難になる

●多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている

第2章 線維筋痛症の症状

同じ病気の患者の経過を参考にする

症例1:夫の死をきっかけに片頭痛や顎関節症などを併発。その後に全身の疼痛

症例2:疼痛を起こす基礎疾患のない、精神的ストレス(離婚)を基礎にした全身の痛み

症例3:手術後、局所の痛みが全身に。片頭痛やうつ病などを併発して全身の疼痛へ

症例4:足親指の打撲の治療後、局所に痛みや腫れを生じ、数か月後には全身に疼痛

症例5:出産時の点滴でひじに血管痛。その激しい痛みが続き、全身の痛みへ

症例6:うつや顎関節症などがあるが、脊椎関節炎が基礎にある線維筋痛症

症例7:家族の病歴(クローン病)などから、脊椎関節炎を基礎とした線維筋痛症

症例8:かぜ症状を繰り返し、倦怠感もある慢性疲労症候群を基礎とした線維筋痛症

症例9:発熱、睡眠障害、関節痛、疲労感から、しだいに全身に自発痛

症例10:C型肝炎を持ち、子宮内膜症や筋緊張性頭痛の病歴があり、触れられただけで全身に激痛

線維筋痛症の中心症状

●動かさないときでも起きる広範囲疼痛

●睡眠や休息をとっても改善されない疲労

●脳波で確認しにくい睡眠障害

線維筋痛症の共通症状

●基礎疾患のない“むくみ”感

●全身のしびれ、異常感覚

●事故につながりやすい立ちくらみ、めまい

●短期記憶障害は長く続くことはない

●不安、ストレス、うつ状態などの精神症状

線維筋痛症の関連症状・疾患

●中枢の過敏状態(CSS)が引き起こす症状・疾患

●多彩な症状は根拠のある訴え

第3章 線維筋痛症の原因は?

神経伝達の障害

●痛みを抑えるシステムの破たん

●痛みの伝達ゲートは情動や気分の影響を受けやすい

●痛みの感受性が強く、回復に時間がかかる

●検査でわかる重要な異常

●症状を引き起こすストレス

セロトニンとの関係

●基礎疾患の有無で一次性と二次性に分けられる

●セロトニン神経の機能低下

第4章 線維筋痛症の関連疾患

病名が間違われる背景

●関連疾患との鑑別抜きに線維筋痛症の診療は進まない

脊椎関節炎(SPA)

●誤って線維筋痛症と診断されているケースが多い

●脊椎関節炎に気づかない医師がさまざまな病名をつけている

●脊椎関節炎にはさまざまな疾患がかかわっている

●脊椎関節炎の診断にはアキレス腱の超音波検査を組み合わせるとよい

●脊椎関節炎は関節リウマチに近い病気

複合性局所疼痛症候群(CRPS)

●何らかの手術後に発症することが多い

●早期診断、早期治療で多くは完治する

慢性疲労症候群

●日常生活に支障をきたす強い疲労感が改善されない

疼痛性障害

●心理的要因が疼痛を起こし、重症化させている

●疼痛の身体的原因を調べないところに問題がある

リウマチ疾患

●リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多く、ステロイドが劇的に効く

●関節リウマチの寛解には線維筋痛症の有無が影響を与える

線維筋痛症診断の手順

●基礎疾患を探して分類する

第5章 線維筋痛症の治療法は?

薬物療法

●線維筋痛症には薬物療法が効く

●治療効果をみながら、オーダーメイドの治療を進める

症例1:メンタル面

症例2:メンタル面

症例3:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例4:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例5:CRPS(複合性局所疼痛症候群)タイプ

症例6:脊椎関節炎タイプ

症例7:脊椎関節炎タイプ

症例8:慢性疲労症候群タイプ

症例9:慢性疲労症候群タイプ

症例10:その他

●疼痛を改善すると、疲労、気分障害もコントロールできる

その他の併用療法

●薬物療法以外の治療法もあわせて導入する必要がある

●適切な治療で3~5年以内に70%以上が症状の改善可能

疼痛の重症化を防ぐ対応

●専門外来の医師の立場から線維筋痛症を考える

●診断と治療の進め方

第6章 線維筋痛症とのつき合い方

生活スタイルの工夫

●質のよい睡眠をとる

●食事は、不足しやすい栄養素を十分にとる

●喫煙は症状を悪化させる。禁煙を!

●天候の変動に備える

●疲労をためないように休息に努める

●家事などは体に負担のかからないような工夫が必要

患者さんの実例から学ぶ日常生活の工夫

●起床時の工夫

●就寝時の工夫、寝具の工夫

●食事の支度と後片付け、食事の仕方

●嗜好品

●口渇

●洗濯

●掃除

●入浴/浴室の工夫

●服装(着替えと寒さ対策)

●衛生、美容

●デスクワーク

●ストレッチ、運動

●日常動作の工夫

●リラックスするための工夫

患者さんの苦悩

●いま抱えている不安

●線維筋痛症を認めない医師

●以前の職場の環境と仕事

●何故この病気と闘ってこられたのか

●私にとって線維筋痛症とは

参考文献

あとがき

第1章 線維筋痛症とは?

患者が置かれている状況

体の広範囲の痛みが3か月以上続く

・広範囲疼痛とは、図1(1~6)のすべてに痛みがある場合である。

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

線維筋痛症は広範囲疼痛の約20%、人口の2%程度、日本では全人口のおよそ1.7%、約200万人と考えられる。

・米国リウマチ学会(ACR)が提唱した診断基準と日本人の患者にみられる痛みの部位

画像出展:「線維筋痛症は改善できる」

 

・痛みの評価は4kgの強さ(指で押して爪が白くなる程度)で圧迫したときに痛みがあるかどうか。

・線維筋痛症と診断されるのは、18か所の圧痛点のうち、11か所以上で痛みがあり、その痛みが3か月以上続いていることが診断基準となっている。

社会生活が困難になる

・日本の疫学調査によると、線維筋痛症の患者さんの平均年齢は51.5歳、発症年齢は43.8歳、罹患期間は7.4年、診断に要した時間は4.3年である。

・女性が8割を占めるため、女性ホルモンを含めたホルモンの影響が検討されたが、影響は見出されなかった。

今では、神経伝達物質のセロトニンの関与が考えられている。セロトニンは脳の中枢にあって、疼痛緩和やストレスと関係が深い物質で、女性のセロトニンの分泌は男性の4割程度と低いのも注目される理由である。

・線維筋痛症の主な症状は、①些細な刺激にも誘発・増悪される自発痛(何もしていないのに感じる痛み)、②早期覚醒や入眠障害などの睡眠障害、③休息で回復しない疲労、④抑うつ状態などの気分障害。なお、これらの症状は、天候(寒さや多湿など)、運動不足(活動の低下)、音や光などによって悪化する。

局所の保湿、休息、適度な運動、マッサージ、ストレッチングなどは症状を緩和させる。

・線維筋痛症で最も大きな問題は、社会的労働や家事労働などが十分に行えなくなることである。

多彩な原因に対して、現状は画一的な治療が行われている

・線維筋痛症の原因は多彩なため、それらをすべて取り除くことは一筋縄ではいかないが、症状を軽くすることはできる。

線維筋痛症の症状は、様々なストレスが加わると、脳の中枢にある疼痛を制御する場所の働きが低下することによって起きると考えられているので、症状を起こす原因となるストレスを見出して取り除けば症状を軽くすることができる。

線維筋痛症という病名に対する画一的な治療はなく、原因となるストレスの種類によって、一人ひとり異なるオーダーメイドの治療が必要である。

考える血管(pJAL5)

新型コロナとの闘いが続く中、毎日、多くの報道がされています。その中で危機感が強く伝わってくるのは、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥先生の言動です。そして、もうお一人、東京大学 先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトのリーダーである児玉龍彦先生の参院・予算委員会でのお話も鬼気迫るものがありました。そして、“エピセンター(感染の震源地化)”という考え方に加え、“交叉免疫”という今まで聞いたことのない“免疫”に大変興味を持ちました。 

左は、「東京大学 アイソトープ総合センターさま」のサイトです。そして、“新型コロナウィルスへの血清IgM,IgG抗体の定量的かつ大量測定プロジェクト-紹介と研究参加のご案内”をクリック頂くと、このページから「参議院予算委員会提出資料」や「NHKクローズアップ現代+」などにアクセスできます。

 

残念ながら、児玉先生の著書の中に“交叉免疫”を題名にしたものを見つけることはできなかったのですが、『考える血管』というブルーバックス(講談社さまが発行している一般向け科学シリーズ)を見つけました。

申すまでもなく、血管は血液を各組織に届けるインフラであり、まさに体の中のライフラインです。血液に注目するのであれば、血管のことを良く知ることも重要だと思いました。

著者:児玉龍彦、浜窪隆雄

出版:1997年6月(初版)

発行:講談社

 

ブログは目次に続き、最初に「あとがき」をご紹介しているのですが、これは全体像をお伝えできることと、体の中の環境問題[ゴミ処理問題]という言葉がとても新鮮で印象に残ったからです。

その後、第2章 躍動する血管/4.平滑筋細胞を伝わる情報/“内皮細胞と平滑筋細胞の対話”と、第4章 詰まる血管/3.解明されたスカベンジャー受容体/“新しいパラダイム”に関して簡単にまとめています。

また、プロローグの表紙にあった、日本航空5便の機内で撮られた若き児玉先生と、大逆転の大発見となった、「スカベンジャー受容体遺伝子の発見」に関わるエピソードを加え、さらにエピローグの表紙(「脳のなかのスカベンジャー受容体」)も添付させて頂きました。 

目次

はじめに

プロローグ コレステロールをためる遺伝子

第1章 伸びる血管

1-1 血管がのびるとき

・人口60兆人の巨大都市

・撮影された二つの塊

・がんが血管を伸ばす

・血流が途絶えればがんは死ぬ

・がん根絶への課題

1-2 管構造の謎

・総延長、10万キロメートル

・内皮細胞の発見

・パイプをつくるメカニズム

・第四の説がもつ魅力

・二つの伸び方

・人工血管の苦悩

・求められる第二の性質

・脳の堅牢な血管構造

・細胞のなかを移動する袋

・二つの顔をもつ門番

1-3 血管を伸ばすもの

・クローニング競争

・細胞周期を再起動させるもの

・勝者になってこそ

・つかめない正体

・本命のVEGF[血管内皮増殖因子]

・一つの遺伝子がもつ二つの顔

・二つの遺伝子

・VEGF受容体

・ノックアウトマウス

・壊された遺伝子がもつ意味

・VEGF受容体ノックアウトマウス

・遅れたVEGFノックアウトマウス

・濃度勾配がはたす役割

・相互に依存する関係

・臓器のパートナー

・病気とのかかわり

・老いゆく血管細胞

・寿命を決める回数券[テロメア]

第2章 躍動する血管

2-1 コントロールされる血管

・柔軟で緊張した管

・血管を緊張させる細胞

・神経系による支配

・延髄に存在する指令センター

・残された謎

2-2 血圧を制御する物質

・発見は意外なところから

・マウスにあって、ラットにない

・レニン-アンギオテンシン系

・高血圧と動脈硬化の違い

・理由がわからないまま効く薬

・受容体とブロッカー

・二種類の受容体

2-3 内皮細胞のはたらき

・ダイナマイトが血管を拡げる

・ガスをつくる酵素

・史上最強の血管収縮ホルモン

・エンドセリンのパラドックス

2-4 平滑筋細胞を伝わる情報

・平滑筋細胞の収縮メカニズム

・カルシウムの動きを目で見る

・クロゴケグモの毒

・細胞内を伝わるシグナル

内皮細胞と平滑筋細胞の対話

・変身する平滑筋細胞

第3章 血管を彩る血球たち

3-1 血管にくっつく血球

・骨髄で誕生する

・拒絶する白血球

・家へ帰っていくリンパ球

・セレクチンの発見

・激流のなかで細胞をとらえる

・白血球を呼ぶ

・接着因子の出方

3-2 出血はどう止まるか

・細胞のかけら

・血小板のはたらき

・凝固因子のはたらき

・絶えず溶かされる血液

・権利は発見者に

3-3 がん転移のメカニズム

・がん治療最大の困難

・流れていくがん細胞

・接着因子がはたす役割

・ブルドーザー[がん細胞]を止められるか

第4章 詰まる血管

4-1 動脈硬化

・サイレント病の恐怖

・大食い細胞、マクロファージ

・ブラウンとゴールドシュタイン

・LDL受容体の重要度

・「キッチン・シンク」スタイル

・ある思いつきからの発見

・突然の中止

・投げかけられた疑問

・フラミンガムスタディ

・メガトライアル時代

・鍵を握るのはプラークの破壊

4-2 酸化されるLDL

・動脈硬化を進める遺伝子

・スカベンジャー仮説

・酸化LDLの発見

・酸化LDL説の誕生

・抗酸化剤プロブコールの効果

4-3 解明されたスカベンジャー受容体

・MITへ

・5フルオロウラシルのマジック

・スカベンジャー受容体とコラーゲン

・解明された謎

・戦う細胞のもう一つの顔

・動脈硬化とマクロファージ

新しいパラダイム

エピローグ 脳のなかのスカベンジャー受容体

おわりに

おわりに

『人間の体は、60兆個の細胞からなりたっている。分子生物学は、DNAを読めば人間の情報がわかると予言した。そして、「利己的な遺伝子」などという言葉に代表されるように、遺伝子が自立して機能をもつことを重視する生命観が形成されてきている。

だが、60兆個もの細胞が集まった人間たちの見取り図が、遺伝子を読むだけですべてわかるのだろうか。本当は、細胞と細胞がどうかかわっているか、相互の関係を見ていくことが必要なのではないか。そこで本書では、血管の細胞たちを通じて、細胞がどのように全身のシステムとかかわるのかを明らかにしようと試みた。

筆者らは、動脈硬化と高血圧の研究者であり、はじめこれらは病気の原因となる遺伝子、その遺伝子によってコードされるたんぱく質を研究していた。ところがある遺伝子をクローリングしてみても、その体のなかでのはたらきは実はよくわからない。

動物は、どんなに多くの細胞からなるものでも、はじめは一個の受精卵からスタートする。そこで、出発点の精子や卵子の遺伝子を操作すれば遺伝子に異常をもつ動物をつくり出すことができる。第1章で紹介したノックアウトマウスがそれであり、このような実験から遺伝子のはたらきを探ろうとしていたのである。ところが、ここで予想外のことが起こった。

第2章で紹介した、血管を収縮させる因子であるエンドセリンというたんぱく質。試験管のなかで血管壁にエンドセリンをふりかけると血管は収縮する。動物にエンドセリンを注射すれば血圧が上昇する。

ところが、遺伝子を操作して、二個あるエンドセリン遺伝子のうち一個が壊れてエンドセリンが半分しか作れないマウスをつくると、予想とは逆に高血圧を起こすという結果になってしまったのである。

いくらマウスの遺伝子を改変しても、その結果がどうなるかはブラックボックスから出てくる結果しかわからないということだ。そこで、もういちど血管にもどってみた。血管を構成する細胞を中心に考えなおしてみたのが、本書なのである。

われわれは、まだ60兆個の細胞を解析する手だてをもっていない。そこで、あるまとまった細胞の種類に注目した。

血管の特徴は、細胞が集まってパイプのような管をつくり、血液を流すことである。このパイプをなすのが一層の内皮細胞であった。この内皮細胞のまわりには、血圧を保つために躍動する平滑筋細胞がある。これらの二つの細胞を調べ、さらに血管にくっつきパイプを越えて出入りする血球に注目していった。

遺伝子は細胞のなかではたらく。そのもっとも大切なはたらきは、一つの細胞が分裂して二つになること、つまり細胞の増殖をコントロールすることであろう。

血管でいちばん大切な内皮細胞の増殖をコントロールする因子は、血管のまわりにあって、酸素や栄養分のたりなくなった細胞が放出する。血管が、まわりの細胞との対話から出発していることがわかってきたのである。こうした対話の仕方をクロストークと呼んでいる。

動物が大きくなれば、血管も太く、長くなる。人間では総延長10万キロメートルにもなる。そうすると血液を配る圧力が必要になり、それを調節する細胞が平滑筋細胞なのである。運動をすると筋肉はたくさんの酸素を要求し、血液をたくさん必要とする。こうした場合の調節でも、運動する筋肉の細胞と、血管の細胞との対話がなければなりたたない。

従来、血管の細胞は、まわりの細胞や神経にいわれて命令されたままに動くように思われていたが、エンドセリンや一酸化窒素の発見から、むしろ血管の細胞が、周囲の細胞と相互に作用しつつ、「考えながら」行動することがわかってきた。

今日のわれわれにとって、もっとも大きな血管の問題は動脈硬化であろう。動脈硬化の研究においても、分子生物学による研究がはなばなしく繰り広げられてきた。コレステロールの研究で、若くしてノーベル賞を受賞したブラウンとゴールドシュタインはその象徴であった。

ブラウンとゴールドシュタインによって示唆された、血管にコレステロールがたまるメカニズムの解明も、遺伝子の重要性、つまり動脈硬化が細胞のDNAによって決められた運命というよりも、細胞の反応が重要な役割を果たす、むしろゴミ処理問題としてのおもむきを示してきた。

コレステロールをはこぶ複合体が、血管壁の骨組みをなすマトリックスたんぱく質にくっついて変性し、それを食べにきたマクロファージがいすわってしまって動脈硬化が進んでいく。このようなメカニズムは、その他の病気でも考えられはじめており、いわば、体のなかの環境問題が成人病の鍵になるようである。

人間の体のなかでは、細胞は裸で暮らしているというよりは、マンションの部屋がゴミでうもれ、ダイオキシンのような有害なものがあふれてしまうのが成人病であるのかもしれない。

こうしたパラダイムがアルツハイマー病や糖尿病、また、本書では紹介できなかった白内障や骨の病気でも登場してきている。』

内皮細胞と平滑筋細胞の対話 

血管の内皮細胞はただ単に血管の内側を埋めている敷石のような存在ではない。平滑筋細胞を収縮させるエンドセリンを分泌したり、アンギオテンシンを活性型に変換したり、また弛緩させるNOを放出したりと、縦横にはたらく実に機能的な細胞である。

●血管の内皮細胞はナトリウム利尿ホルモンやアデノシン、プラスタノイドといった平滑筋細胞の収縮を制御する物質を分泌する。

●血管の内皮細胞は平滑筋細胞の増殖を促すホルモンを分泌する。

●平滑筋細胞は内皮細胞に対して増殖因子を分泌している。このことから、血管を構成する細胞たちがお互いに情報の交換をしながら機能を果たしていることが予測される。

●『最近、アメリカのリジェネロン社のヤンコプーロスのグループから非常におもしろい仮説が提出された。彼らはアンギオポエチンと名付けた新しいたんぱく質を同定した。その仮説によれば平滑筋細胞の前身の細胞(前駆細胞)からこのアンギオポエチンが放出され、血管の内皮細胞がそれを受け取ると、こんどは内皮細胞がPDGF(血小板由来増殖因子)やHB-EGF(ヘパリン結合性内皮増殖因子)と呼ばれる因子を放出する。そして、このシグナルを受け取った前駆細胞が内皮細胞のまわりに集まってきて平滑筋細胞になるというのである。

このようにして、血管の細胞たちが、まるで対話をしているかのような双方向性のシグナルのやりとりをおこなっている姿が浮かび上がってきた。

本書の中で“仮説”とされた「平滑筋細胞→(アンギオポエチン)→内皮細胞→(PDGF)」というシグナル伝達について、検索してみたところ、本書から約10年後の2006年12月発行の科学雑誌に、これらの関係性について書かれたものがありました。このことから仮説ではないと考えます。

生体の科学 57巻6号 (2006年12月)

特集 血管壁 血管平滑筋の発生分化と特異的遺伝子発現

『血管系は管腔を一層に覆う血管内皮細胞(endothelial cells)とその外側を内皮細胞が産生した基底膜、その周辺を中膜形成する血管平滑筋細胞(smooth muscle cells)、毛細血管ではペリサイト(pericytes)などの周皮細胞からなる壁細胞で構成されている。中膜は収縮弛緩することで血圧や血流を調節している。これら血管系細胞群の発生分化、形成に関する細胞科学的な解析や関連する遺伝子の解析が進み、その過程の理解が飛躍的に進んできた。血管平滑筋の増殖を制御する代表的な因子は内皮細胞が発現するPDGF(platelet-derived growth factor)とそのレセプターであるが、チロシンキナーゼ型レセプターTie-1,Tie-2とそのリガンドである壁細胞が分泌するアンジオポエチン(angiopoietin)は内皮細胞と血管平滑筋細胞の接着や増殖などを調節している。

本総説では血管平滑筋細胞とは何か、特に発生における組織細胞の由来および成体における各種外部刺激による細胞形質変換について概説し、平滑筋の発生分化を牽引する血管平滑筋細胞特異的遺伝子発現がどのようなメカニズムで行われるのかを、典型的な平滑筋マーカーである血管平滑筋α-アクチン(Smooth muscle α-actin;SmαA)を例にして解説する。』

新しいパラダイム

『北教授によるプロブコールをもちいた実験などでは、LDLが動脈にたまっても酸化されさえしなければ、マクロファージが動脈に集まることはなく動脈硬化も起きない。コレステロールがたまること自体より、マクロファージが集まってしまうことが動脈硬化を悪化させる面が強いという。

動脈硬化とは、酸化されたLDLが不燃ゴミのように血管壁にたまり、やってきたゴミ処理工場のマクロファージが、自分では分解できないコレステロールを食べすぎることで泡沫細胞になり、過剰反応を起こしたり、壊れたりしてしまうという、体のなかの環境問題である

動脈硬化の予防と治療の方法

1.血液中のコレステロール濃度を下げる(従来からのリスクファクターの改善)。

2.LDLの酸化を抑える。

3.病変部へのマクロファージの集積を抑える。

4.マクロファージが血管壁から離脱するのを助ける。

プロローグ コレステロールをためる遺伝子

画像出展:「考える血管」

帰国のJAL5便のなかで取れた、動脈硬化にかかわるスカベンジャー受容体遺伝子のかけらは、「pJAL5」と命名された。さっそく観光ビザでアメリカにとんぼ返りし、遺伝子のすべての配列を決めた。つづけてコレステロールをためて細胞を泡沫のようにさせる実験を行い、論文をつくり上げた。わずか二ヵ月であった。この遺伝子に関する二つの論文は国際科学誌「ネイチャー」に掲載されることになり、その表紙を飾った。

この発見は、動脈硬化と老化の新たな研究の基礎となった。それだけではなく研究の進み方にもっと広い意味での文化をもたらした。たんぱく質の精製や遺伝子クローニングに明け暮れていた私の研究生活も別の方向へ転換をはじめた。

スカベンジャー受容体遺伝子の核心的な構造は、コラーゲンと呼ばれる、人体で最大量を占め、血管壁でももっとも多く存在するたんぱく質と同じ構造をしていた。この構造は、それまでには考えられなかったようなたくさんの種類の異物や老廃物を結合し、細胞のなかへ飲み込んでしまう。スカベンジャー受容体は、大食い細胞という名をもつマクロファージと呼ばれる細胞のみがもっていて、そのマクロファージがコレステロールを食べすぎることで泡沫細胞になり、動脈硬化を進めていくということがわかった。さらにスカベンジャー受容体に結合するゴミがたくさんありすぎると、マクロファージがこれを飲み込もうとしてもうまくいかず、ゴミのたまっているところにくっついたままになってしまうことがわかってきた。スカベンジャー受容体の発見は、体のなかのゴミ処理機構が動脈硬化という病気にかかわることを明らかにした。それと同時に、「老化の新しいパラダイム」を示すものでもあった。

さらに、脳の皮質のなかの動脈が、スカベンジャー受容体をもった新しい細胞に包まれていることが発見され、従来の血液脳関門に代わる脳の新しい血管構造モデルが生まれてきている。 

画像出展:「考える血管」

スカベンジャー受容体のクローニングを伝える「ネイチャー」1990年2月8日号、描かれているのは、スカベンジャー受容体の構造。

エピローグ 脳のなかのスカベンジャー受容体

画像出展:「考える血管」

間藤細胞 『脳の血管のまわりには、ゴミを食べて掃除する細胞がある。脳内のゴミをたくさん食べたこの細胞は、たまってきたゴミによって変性を受け、血管を圧迫し、狭くしていく。

この細胞は、1979年に間藤方雄先生によってFluorescent Granular Perithelial細胞として報告されたが、その後世界の研究者は、MATO(間藤)細胞の名で呼んでいる。

 

塩と高血圧5

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第四章 効き目に差をつける降圧剤の使い方 安易な服用はかえって危ない

降圧剤に関する無知と誤解があまりにも多すぎる

・これまで延べ何万人という多くの患者さんを治療してきた。そこで、いつも心配になるのは降圧剤の飲み方である。降圧剤は、場合によっては30年も40年も服用することが必要で、高血圧の人にとって大切な健康管理のための薬となるが、降圧剤についての誤解が非常に多くこちらの方がヒヤッとすることさえある。

・夕食後に服用すべき降圧剤を寝しなに飲むと、最も低くなる夜間睡眠中の血圧をさらに低下させることになるため、血液が滞って固まるというリスクが高まり、狭心症や脳卒中を誘発する懸念を高めてしまう。

・1日分の降圧剤をまとめて飲んでしまったり、飲み忘れた分を次の回にいっしょに飲んでしまうなども危険である。

降圧剤は強引に神経の作用を遮断したり、体内の水や塩を減らして血圧を下げる薬である。高血圧を根本的に治療する薬でもなければ、ましてや高血圧の予防薬でもない。親が高血圧だから自分もとりあえず飲んでおこうなどという考えも大変危険である。

降圧剤は、単に高い血圧を引き下げるだけの薬であると考えるべきである。

「降圧剤は一生服用しなければならない」というのは迷信にすぎない

・高血圧が軽症や中等症の人の中には、降圧剤を中止したり減量したりできる人がいる。

・長い間薬で血圧の上昇を抑えていると、体の仕組がこれに順応して血圧が上昇しにくくなり、中には降圧剤を必要としない人もいる。

・血圧が目標値に達し、しかも長期間安定している場合は、降圧剤の減量を試みるべきである。また、年齢や環境によって血圧も変化するため、それに応じた適量を知るためにも、一度減量して血圧の変化を観察することは有益である。

降圧剤はこんな人に使ってはいけない

・正常血圧より高いが、高血圧というほどでもないという境界域高血圧の人の中には、予防的に降圧剤を利用したいと思っている人がいるがこの考えは正しくない。

第一に、高血圧の人は正常血圧よりも多少高めの血圧が治療目標になる。これはその方がその人の体質に元々合っていると考えられるからである。正常血圧でなければ健康でないという考え方は誤りである。

第二に、境界域程度の高血圧であれば、日常生活に注意するだけで、十分に血圧を下げることは可能であり、副作用の危険をおかしてまで降圧剤を服用する必要はない。

第三に、境界域高血圧は二十代から三十代の人に多いため、降圧剤を使い始めると、50年も60年も服用することになり、未知の副作用が現れることも考えられる。

さらに恐ろしいのは、血圧が下がりすぎてしまうことである。高血圧の人は血圧を上昇させようとする力が強く働いているが、血圧を下げようとする力も働いている。つまり、上昇させようとする力と下降させようとする力、これに降圧剤が加わって、ちょうどよいバランスがとれるのである。ところが、血圧を上昇させる力がそれほど強くない人が降圧剤を服用すると、低血圧が起こる危険が出てくる。こうなると、血液を体の隅々まで運ぶことが難しくなり、手足の冷えや、立ちくらみ、めまい、無気などの症状が現われてくる。

・70歳以上の高齢者も降圧剤には危険が多い。高齢者は一般的に動脈硬化によって血管が硬くなり、収縮血圧が上昇する。しかし、同時に血圧を調節する機能も低下し、血圧が変動しやすくなる。

病院で測定すると収縮期血圧が180ミリあっても、家庭でリラックスしているときは、120ミリしかないというようなことも少なくない。このような高齢者に降圧剤を使用すると、脳や心臓、腎臓などに部分的に血液を送れなくなることがあり、かえって体の機能低下が起きたり、活力が低下して元気のない高齢者が出てきてしまう。

高齢者でも拡張期血圧が100ミリ以上、あるいは収縮期血圧が180ミリ以上ある人、また健康で活発に行動している人は、降圧剤による治療が必要である。この場合も、高齢者は薬を排泄する力や無毒化する力が衰えているので、普通より少なめに服用することが大切である。

降圧剤で正常血圧まで下げてしまうのは、大きな誤り 

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

高血圧の人は、もともと高めの血圧の方が体に適していると考えられている。また正常血圧というのも、健康な人たちの平均血圧のことで、それにピッタリあてはまらなければ不健康という意味ではない。多少高めで全身の機能がちょうどよく働くという人もいる。

・血圧は年齢の増加に伴って上昇する。従って三十代では収縮期血圧の降圧目標は130ミリでも、八十代には180ミリでも大きな問題はない。

副作用がなく、血圧を即座に下げる薬が開発された

1950年代にレセルピン[交感神経の中枢と末梢に作用しノルアドレナリンを抑制し、心拍出量の低下と血管の拡張をもたらし血圧を下げる]や利尿剤が高血圧の治療に使用されるようになったが、これらの降圧剤の副作用は本態性高血圧症に“間接的”にしか作用できないからだと考えられる。高血圧を起こす原因そのものには対処せず、無理やり心臓の機能を低下させたり、血管を広げて、血圧を低下させるため、体にゆがみが生じてさまざまな障害を起こすと考えられる。

・当時、治療の主体となっていたのは心臓の仕事量を軽減させるβ遮断剤が使用されていたが、深刻な副作用として心臓の機能を低下させすぎて、心不全を起こす危険があった。

・カルシウム拮抗剤が開発されたのは1972年に入ってからであるが、この薬は本態性高血圧症の治療薬として開発されたわけではなく、狭心症の特効薬として心臓の冠動脈を広げるという目的で開発された。

カルシウム拮抗剤は、ドイツと日本の協同研究によって追試が重ねられる中、カルシウム拮抗剤で高血圧の人の血圧が低下したという報告があった。そこで、遺伝性高血圧ネズミを使ってカルシウム拮抗剤の効果を実験したところ、すべてのネズミの血圧が低下した。さらに本態性高血圧の治療に応用したところ、やはりすべての患者さんの血圧がすみやかに下降し、しかも副作用が全くといって良いほど少ないことが分かった。

なぜこの薬は、こんなにすばらしい効果を発揮するのか

・カルシウム拮抗剤で心配になるのは、体の他の部分への影響である。手足の骨格筋や胃腸の筋肉もやはり、カルシウムイオンの濃度によって伸び縮みしているので、これらの筋肉に対しても収縮を抑制するという懸念がある。しかしながら、幸いにもカルシウム拮抗剤は、血管の筋肉だけに特別に作用する性質をもっているため、この懸念点は排除できる。 

従来の降圧剤より、ここがこれだけすぐれている

従来の降圧剤の副作用には、無理に血圧を下げることにより、血液の流れを悪くし人体各部の血液不足を起こすことがある。このため血液不足による病気、たとえば脳卒中や狭心症、心筋梗塞、腎臓機能の低下などを起こす危険があった。

・カルシウム拮抗剤は本態性高血圧症の原因に直接働きかける薬である。しかも、血管の異常に対してだけ特異的に作用する性質を持っている。そのため、血管に異常のない正常血圧の人がカルシウム拮抗剤を飲んでも、血圧はほとんど下降しない。

本態性高血圧症の人は、生まれつき血管筋肉細胞の膜にカルシウムイオンの通路が多く、そのために細胞内のカルシウムイオン濃度が異常に高くなっている。これが血管の内腔を狭くし血圧を上げる原因となっている。

カルシウム拮抗剤は、この余分な細胞膜の通路をふさぎ、細胞内のカルシウムイオン濃度を低下させることによって血圧を下げる。

・カルシウム拮抗剤は、本態性高血圧症の人の血管の仕組みを正常に近づけて血圧を下げるため、従来の降圧剤のように不必要な働きをすることが非常に少なく、そのため副作用の心配も少ない。

カルシウム拮抗剤の効きめを最も高める使い方

・カルシウム拮抗剤には血圧を低下させるだけではなく、高血圧による合併症を防止・治療する働きもある。

狭心症、あるいは前胸部から左胸部にかけて、しめつけられるような圧迫感のある人:『カルシウム拮抗剤は本来狭心症の治療薬ですから、こうした症状を伴う高血圧の人にはうってつけです。ただ、前述[カルシウム拮抗剤には、ジルチアゼムとニフェジピンという二つの系統があるということ]のように種類によって心拍数に与える影響が異なるため、心拍数が70回以上の人はジルチアゼム、69回以下の人はニフェジピンを用います。どちらの場合も、起床時に寝床で服用すると、睡眠中に狭くなっていた血管が広がり、効果的です。』

脳の血液不足や腎機能の低下が心配な人:『高血圧では、血管が狭くなり血液が流れにくくなるため、血液不足で脳や腎臓の働きが低下します。カルシウム拮抗剤は、血管を広げて流れる血液の量が増加しますから、これらの病気を予防し、また一度低下した機能を回復させるためにも効果があります。』

不整脈のある人:『不整脈は、心臓が拍動するペースが狂う病気で、たいていは心臓の血液不足が原因で起こります。また、高血圧による心肥大や狭心症に合併して現れることもあります。そのいずれの不整脈にもよく効くのが、ジルチアゼムです。これは、ジルチアゼムによって血管が広がるため、心臓が血液を送り出す作業が楽になり、そのために不整脈も治るのではないかと考えられています。これに対してニフェジピンのほうは、逆に心拍数を増加させる作用があるため、不整脈を治す力も少ないとされています。』

緊急事態を招いた重症高血圧でも、この薬を使えば簡単に危機を脱出できる

・重症高血圧の人は、ニフェジピンにプロプラノロールというβ遮断剤を加えるとより効果的である。これはβ遮断剤によって、ニフェジピンの降圧作用が強化される上に、ニフェジピンによる心拍数の増加が防止できるからである。

第五章 高血圧の不安を一掃する早わかり相談 この知識であなたの血圧対策は万全なものとなる

実のところ塩はどの程度とればよいのでしょう?

・適切な食塩の摂取量は一日10~15g(15gは発汗の多い夏場や運動時)。

高血圧の人にとって最も大切な食事の注意を教えてください

高血圧の人に限らず大切なことは、各栄養素を体に必要な量だけとることである。特に高血圧の人にとって欲しいのがタンパク質である。タンパク質は高血圧で弱った血管や心臓を丈夫にする栄養素である。体内に入ったタンパク質は心臓や血管の筋肉となり、その柔軟性(伸縮性)を高める。従って、血圧が少々上昇しても、心臓は元気に収縮し血管も伸びて破れにくくなり、さらに、血管が柔軟に広がり血圧は低下する。

※慢性腎臓病の患者さまは、一般的にタンパク質摂取制限を求められます。

高血圧の人が、ぜひ避けなければならない食品は何ですか?

・高血圧の人が避けなければならない食べ物はない。ただし、特定の食品を過食したり、逆に食べないことはよくない。特に高血圧の人が注意してほしいのは、糖質と脂質の過食であり、その際、過食かどうかは体重が「身長マイナス110」kgが目安となる。必要以上の摂取は脂肪組織(ぜい肉)になる。

・脂肪組織は腹ばかりでなく、血管壁や心臓の壁にも蓄えられ、その結果、血管が狭くなって血圧が上昇する。一方、心臓の動きが鈍くなって血圧を十分に送り出すことができなくなる。これらによって、脳卒中や心臓発作を起こす可能性が高くなる。

・血液の中の中性脂肪が増加すると、血液はドロドロの状態になり、血液が流れにくくなってますます血圧は上昇する。

血圧が高い人がやってはいけない健康法はありますか

高血圧の人にとって良くないのは、過度な肉体労働と精神労働である。こうした労働は、一時的であっても血圧を上昇させて心臓病や脳卒中の発作の引き金になる。また、過労を繰り返していると、血圧を高血圧の状態に固定してしまう。

・ジョギングやマラソン、水泳、スキーなどは血圧を著しく上昇させ、心臓の負担を大きくするので危険である。

・瞬発力の必要なスポーツは急激に血圧を上昇させる。バーベルなど重い器具を持ち上げると、一瞬にして150ミリの収縮期血圧が、300ミリにまで上昇してしまう。その拍子に血管が破裂することさえある。ゴルフやテニス、バドミントンにも同じ危険が伴う。

散歩のような軽い運動は、血管を広げて血圧を下げる作用があり高血圧の人に適している。ただし、寒さは血圧を上げるので、冬は室内を歩くか、日差しのある場所を選んで、暖かい時間に外に出て散歩すると良い。

万能降圧剤のように思えるカルシウム拮抗剤に欠点はないのですか?

・カルシウム拮抗剤は、従来の降圧剤に比べると、格段に副作用や欠点の少ない薬だが、薬である以上副作用はある。ニフェジピンというカルシウム拮抗剤は降圧効果の強力な、重症高血圧の特効薬だが、軽症の高血圧にニフェジピンを普通量使用すると、血圧が下がりすぎたり、立ちくらみ、めまい、頭痛、顔のほてりなどを起こすことがある。また、70歳以上の高血圧の人に使うと、足に浮腫みが起きることがある。これはニフェジピンが毛細血管まで広げて血管壁の網目を大きくし、そこから血液の液体成分が血管の外に出てしまうからである。浮腫みはこの液体成分が組織にたまるために起こる。一方、ジルチアゼムというカルシウム拮抗剤には、心拍数をやや低下させる作用がある。従って、拍動、つまり脈拍が少ない(1分間に60回以下)人にこの薬を大量に使うと、除脈発作を起こす危険がある。

カルシウム拮抗剤は日本でも広く使われているのでしょうか?

・カルシウム拮抗剤は、現在[1984年以前]日本で一番多く使われている降圧剤の一つである。

塩を減らさなければいけない高血圧のタイプを教えてください

・『減塩が必要な高血圧は、食塩過食性高血圧と腎臓の機能不全によって起こった高血圧です。高血圧の90%以上は本態性高血圧症ですが、残りの10%は二次性高血圧といって、他の病気や明らかな臓器障害があって起こる高血圧です。食塩過食性高血圧も、腎臓の機能不全によって起こる高血圧も、二次性高血圧の一つで、数の上では非常にわずかです。食塩過食性高血圧では、遺伝(副遺伝子)によって食塩に対する強い感受性が受け継がれ、食塩を過剰摂取したときのみ高血圧が起こります。食塩に対する感受性が強い人の場合には、過食した食塩が血管の筋肉細胞の中にカルシウムイオンを引き込んでしまいます。そのために、食塩を過食すると細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇して、血管が収縮し、血圧が上昇してしまうのです。一方、腎臓に障害がある人も、これと同じメカニズムで高血圧が起こります。つまり、食塩が尿の中にうまく排泄されないために食塩が体内に蓄積され、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇するのです。だから、一日に摂取する食塩の量を5~8gに減らせば、血圧が下がります。』

高血圧家系の人は、何歳ごろから、どのような点に注意すればよいでしょう?

・『本態性高血圧症の家系の人は、20歳ごろから徐々に血圧が上昇し、四十代で確定高血圧になります。いわばいちばんの働きざかりに高血圧になるわけです。しかし、じょうずに降圧剤を利用し、日常ちょっとした心がけをすれば、健康な人と全く変わらない生活ができます。本態性高血圧症の人は、、三十代で血圧がやや高め(境界域高血圧)になり、精神的刺激や肉体労働で正常血圧の人よりも血圧が大きく上昇します。しかし、血管や心臓は健康ですから、三十代の高血圧は良性といえます。この時期には、正常圧で健康な人よりも一割程度多く休息をとってください。過労気味のときには、レジャーも中止して十分休息をとり、ボディビルや、全力疾走が必要なスポーツは避けます。また、肥満やアルコールの多飲、喫煙は血圧の上昇に拍車をかけますから、節制してください。四十代は血圧が急速に上昇する時期で、過労で胸が重くなるなど、高血圧による自覚症状も現われてきます。血圧に注意して降圧剤を利用し、十分な休養をとりましょう。ただし、60歳を越えれば高血圧も峠を越し、心臓病や脳卒中などの発作が起こりにくくなるので、普通の人と同じ生活が送れます。』

酒とタバコは、やはり百害あって一利なしなのでしょうか?

・アルコールは少量であれば、精神的緊張をやわらげる、ストレスを解消するといった効果をもたらすこともあるが、血管に対しては毒として働く。それゆえ、アルコール類は飲まないほうが健康によい。アルコールは血管の筋肉を障害し、血圧を調節する神経を麻痺させるからである。

・タバコは害しかない。タバコは全身の血行を悪くするだけでなく、心臓の働きまで低下させる。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させて血のめぐりを悪くする。

タバコには大量の二酸化炭素が含まれるため、血液中の酸素が減少して全身が酸素不足に陥る。これだけでも酸素不足による脳や心臓の発作を起こしやすくなるが、そのうえタバコは心臓の機能を低下させ、心臓を支配する神経を麻痺させる。高血圧とタバコの害が相まって不整脈が現われ、ますます心臓発作が起こりやすくなる。高血圧の人にとってタバコはとりわけ恐ろしい毒物である。

健康にいいと言われるカルシウム剤も高血圧の原因になりますか?

・カルシウムをとりすぎても血圧は上昇しない。摂ったカルシウムの大半は骨に沈着し、血液のカルシウムイオンになるのはごく一部である(0.1%程度)。たとえ、血液中のカルシウムイオンの数が増加しても、血管細胞に到達するまでにいくつもの関所が待ち構えていて、細胞内にカルシウムイオンが入れないように目を光らせている。

塩と高血圧4

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第三章 血圧はこの方法で下げなさい あなたのやり方では高血圧は治らない

動物性タンパク質を十分とると狭心症や脳卒中も防げる

・血管壁は筋肉細胞と結合織からなり、伸び縮みするのは筋肉細胞であり、筋肉細胞を形作っているのはタンパク質である。

・筋肉細胞は老化し、再生され、世代交代(新陳代謝)をどんどん繰り返している。筋肉細胞の寿命は約1ヵ月なので、若い細胞を作るためには、質のよいタンパク質を十分に摂らなければならない。筋肉を作る材料が不足すれば、老化したボロボロの細胞だけになり、動脈硬化を進行させてしまう。

・血管だけではなく、心臓もまた心筋と呼ばれる筋肉が伸び縮みして、血液を毎日10万回近く体内に送り出しているため、心筋梗塞や狭心症の予防とその修復にも、動物性タンパク質は欠かせない。

・『事実、青白い顔をしていた患者さんたちが、動物性のタンパク質を十分にとるようになってから、皮膚の色つやが見違えるほどよくなり、狭心症や心筋梗塞も改善していくのを、私は毎日のように経験しています。

みんなが敵視する肉は、実は血圧が高い人にも必要な栄養食

血管をしなやかに、かつ強靭に保つための第一条件は、タンパク質を十分に補充することであるが、一番良いタンパク質は人間の体を構成しているタンパクに近い動物性タンパク質である。タンパク質を摂らないと細胞の新生を障害し、体の老化を促進してボケを早め、やがては心臓と血管を崩壊させてしまう。

・人間の体を作るタンパク質は、人間以外のどの生物のタンパク質とも違う「人間タンパク質」である。この人間タンパク質は、食物からとったタンパク質を分解して取り出したアミノ酸と、体内で合成されたアミノ酸から作られる。

・体内で合成できないアミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニールアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリンの8つで、これらは必須アミノ酸と呼ばれ、1つでも欠けると人間タンパク質はできない。[現在はヒスチジンを加え、計9つとなっています]

必須アミノ酸は植物性タンパク質より動物性タンパク質に多く含まれている。なお、食肉としては赤身肉やヒレ肉など、脂肪を含んでいない肉が対象になる。

水を十分に飲むと脳卒中にも心筋梗塞にもなりにくい

体内には、体重の約12分の1(50kgの人なら約4.2l)の量の血液が流れている。血液成分の45%は赤血球を中心とした血球成分で、残りの55%は血清と呼ばれる液体成分だが、血清1dl中には、タンパク質7g、糖質100mg,脂質500mg、微量のミネラルが含まれており、血液はもともと粘っこい液体である。

血圧の粘度を減らす方法は二つある。一つは血清中の余分の脂肪(主として中性脂肪)を減らすこと。脂肪を減らすには標準体重にすることである。もう一つの方法は、水を飲んで血液中に占める水の割合を増すことである。飲料水や食物として胃の中に入った水は、胃や腸で吸収されて血管腔に入いる。水は胃壁や血管壁というフィルターを通して血液中に入るが、それら壁は血液の水分量を正確に調整しているので、血液が水で薄まりすぎるような心配はない。

寝しなに水を飲めば、明け方に多い心臓発作が防げる

・消防庁の統計によると、心臓発作がいちばん多発するのは冬で、次いで夏の順である。冬は寒さによる血圧の上昇、夏は発汗により血液がドロドロになりがちになるというのが原因である。

・発作の時間帯はいずれも明け方である。明け方に発作が集中するのは睡眠中の状態に危険が潜んでいるからである。

睡眠中、心臓は収縮回数と心拍出量を減らし、送り出す血液の量を低下させる。血管も流れている血液が少ないために血管の幅をせばめて休んでいる。一方、血液は夕食により栄養を仕込んでいるがこれを取り込むべき細胞は休息中であり、さらに睡眠中はコップ一杯分の汗をかくため、血液は一日中で最も濃く、ドロドロした状態になっている。

・寝しなに飲む一杯の水は、濃厚な血液を薄め、さらに血液量を増やして睡眠中の血液の流れをスムーズにしてくれる。さらに、就寝前に10分程度の軽い運動を行えば発作の防止に効果的である。これは運動によって血管が広がり血液が流れやすくなり、新陳代謝により血液から栄養素が細胞に取り込まれるため血液が流れやすくなるからである。

十時と三時のお茶は、高血圧の人に欠かせない大切な健康法

・寝しなの水が、明け方の発作を防ぐが、それと同様に起床後の一杯の水も重要である。夜の間に発汗や尿の生成で血漿中の水分は減少するためである。飲水で血液が増えると血管が広がるため血液の流れがスムーズになる。

・体内に入った水は、尿や汗となって体外に出ていくため、早ければ2時間、遅くても3時間で体外に排泄される。7時に飲んだとすると、10時と昼食後の3時に水分の補給を行うことが大切である。

高齢者は老化現象によって、誰もがある程度の動脈硬化が起きている。そこを流れる血液も若い人に比べ、赤血球や白血球などの固形成分の占める割合が高くなっている。さらに尿素や尿酸など栄養素を使ったあとの残りカスの排泄も悪くなるため、どうしても血液が濃くなってしまう。

・飲水はイライラした神経を沈める。また、胃液を薄めるため胃を守る働きも持っている。

起き抜けのラジオ体操を実行すれば、一日じゅう血圧を低く保てる

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・「目が覚める」、つまり脳神経細胞が活動を始めると、私たちは体全体が眠りから覚めたような気になる。しかし、各自器官には少しずつ眠りから覚める時間のズレがあり、これが心筋梗塞や脳卒中の引き金になっている。

・心臓発作が最も起こりやすい時間帯は明け方だが、これに次いで多いのが朝、家を出て駅の階段を駆け上がったときやラッシュアワーの混雑の中で心臓発作を起こすことが多い。この原因は、血管と心臓の目覚める時間の違いからきている。起床後、心臓は即座に活発な活動しはじめるが、血管は目覚めが遅いため心臓から押し出されてくる血液量に適応して血管を広げることができない。その結果、血圧が上昇して血管の破裂や心臓の酸欠状態が起こるのである。

・若い頃は血管も弾力に富み、体の順応力も旺盛なので目覚めの違いもそれほど大きなものではないが、40歳を越えると体内の反射神経が鈍くなるため、目覚めのズレが大きくなり発作のリスクが高まる。

・起床後の10分程のラジオ体操は心臓の動きをなめらかにし、かつ血管を目覚めさせ、体全体の発進準備をとなる。

血圧が高めの人は、昼休みに碁や将棋をしてはいけない

・ゆっくり落ち着いて食べれば正常圧を保てる人でも、慌しい食事は簡単に血圧を20ミリから30ミリ上げ、高血圧にしてしまう。

・食後の休みもとらないでジョギングなどの運動を行えば、食べたものの消化吸収のために胃に送る血液が増加することに加え、運動を行うために手足に大量の血液を供給する必要があり、心臓は猛烈な勢いで酷使されることになる。

・囲碁や将棋、あるいはゲームなど勝負にこだわってくると、その気分は高揚し交感神経を刺激して、血圧を上げる物質(ノルアドレナリン)を分泌させる。その結果、収縮期血圧が150ミリの人なら、勝負どころで200ミリ、また拡張期血圧が100ミリなら130ミリまで上昇する。

・血圧がより高い場合、血圧の上がり方はより大きくなり、脳出血や狭心症を起こすリスクは高まる。横になったり、のんびり散歩することは血圧を下げるには良い方法だが、大きなあくびをしたりため息をつくだけでも血圧対策にはなる。

体重を5キロ減らすだけで高血圧が治ることがある

・『自らの体験から話しますと、私は体重を7kg減らしたおかげで、上昇傾向にあった血圧を正常値にまで下げることができました。以後その体重を維持しているため、一度も血圧は上がったことがありません。体重を減らすことは、私に限らず太った人すべてに共通する強力な血圧降下策です。

・40歳を過ぎた人の心臓と血管は中古のエンジンとゴムホースのようなものである。このような車を長く乗り続けるためには、積荷を減らすのが良い方法である。積荷とは自分の体重のことだが、この荷物は重い上に大量のガソリン、すなわち血液が必要になる。一方、脂肪濃度が高くなった血液はドロドロになり血圧を上昇させる。

高血圧の人でも眠っている間の血圧は低いことを知ってほしい

・問題ないとされている「正常血圧」とはどのような血圧値なのか。病院で計測する血圧は判断する血圧としては不適当である。

・脳卒中や心臓発作などの病変とよく比例する血圧は、基礎血圧といわれるものである

基礎血圧は早朝目覚めた直後に蒲団の中で測定される血圧のことである。あるいは、やや空腹時に暗く静かで快適な室温の部屋の中で、約1時間横になった後に測定した血圧はこの基礎血圧に近い値を示す。

・正常血圧の人より高血圧の人の方が睡眠中に血圧が大きく下がる。これは高血圧の人にとって睡眠と休養が血圧を下げる最も効果の高い治療法ということを意味している。

【メモ】慢性腎臓病では、なぜタンパク制限が必要なのか ?

タンパク質が中高年の健康維持にとても重要なのは良く理解できたのですが、例えば、慢性腎臓病の場合はタンパク制限が求められます。その意味では、高血圧の予防に腎臓はとても重要な臓器といえます。

なお、慢性腎臓病においてタンパク制限が必要な理由は以下の通りでした。

これは”東京女子医科大学病院 腎臓内科”さまのホームページに書かれていたものです。

食事蛋白は老廃物の一種である窒素代謝物を作ります。正常の腎機能であれば、それを処理するのに十分な糸球体があります。しかし腎機能が低下していると、残った糸球体1つ1つがその能力を超えて処理をしようとします(糸球体過剰濾過)。この状態糸球体過剰濾過]は長くは続かず、徐々にそれぞれの糸球体の濾過機能も落ちてきてしまうと考えられています。その負担を軽減するために行われるのが食事蛋白の摂取制限です。

塩と高血圧3

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第二章 高血圧は塩が原因ではなかった 突き止められた血圧を上げるメカニズム

 「高血圧=塩」の神話はいかにして作られたか

・『高血圧、即、減益という連想は、今ではもう一般の人たちの頭にこびりついてしまったようです。減塩食をいくら食べても血圧が下がらないにもかかわらず、塩に対するイメージはなかなか変わらないようです。いったい、高血圧の原因が塩であるというこの誤った常識はどのようにして作られたのでしょうか。

すでにふれたように、アメリカの高血圧学者であるメーネリーは、1953年、普通の20~30倍という高食塩食を10匹のネズミに食べさせて、そのうち4匹のネズミを高血圧にすることに成功しました。これが、「高血圧=食塩」説の発端となった実験です。しかし、これだけで常識が作られたわけではありません。その後の研究や実験、あるいは人情などが相まって、この説をどんどんふくらませていったのです。』

・アメリカ人のトビアンやガイトンは、食塩を排泄する腎臓の機能が低下すると、高血圧が起こるという報告をしたが、この実験結果も食塩の体内蓄積が高血圧を起こすという論理につながり、食塩はしだいに悪者に仕立てられていった。

・日本人も「高血圧=塩」という説を裏付ける役割を果たした。アメリカの高名な高血圧学者であったダールは、戦後日本で高血圧患者が多いことに注目し、食塩の摂取量と高血圧の発生率を調べた。対象に選ばれたのは東北地方と南日本で、その結果、食塩摂取量の多い東北地方で、圧倒的に高血圧発生率が高いことがわかった。

・一日14gの塩をとっている南日本の高血圧発生率が20%強であるのに対し、一日27g~28gをとる東北地方では、40%近い発生率で高血圧患者がいたと報告されている。

・ダールは日本での、「食塩摂取量が増加すればそれだけ高血圧の発生率が高くなる」という調査結果を確かめるため、アメリカに戻ってネズミで実験を始め。高食塩食で血圧が上がるネズミどうしを何代にもわたって交配させ、食塩によって血圧が上昇するネズミの家系を作ったのである。同時に高食塩食で血圧が上がらないネズミも同じように交配させ、いくら食塩を食べても血圧が上がらない家系を完成させた。

・『現在からみれば、ここで食塩によって血圧が上昇する人と、全く変化しない人がいることが判明したわけですが、当時の研究者たちの受けとり方は違いました。本態性高血圧症の人はすべて食塩で血圧が上昇する家系だ、と彼らは考えたのです。

一方、医学的に食塩水を人の静脈に注射して、一日に30gの塩を体内に注入すると、収縮期血圧が10~20ミリ上昇することもわかりました。事ここにいたって、「高血圧=食塩」説は、世界の注目を集めるところとなったのです。

この説はまた、一般に受け入れられやすいという点でも、神話としての要素を備えていました。まず普通の人にも理解しやすかったことと、また減塩食が実際的で家庭でも高血圧の治療として実行しやすかったことです。さらに、遺伝によって発病する高血圧を減塩で治せるという点でも魅力的でした。

このように、いろいろな要素が「高血圧=塩」の神話を作り出しては支えてきたのです。

しかし、10年ほど前から、この説を実際の高血圧治療に応用したところ、思ったほどの効果がないどころか、過剰な食塩制限による塩なし病まで生まれ、今日では世界中が食塩説に疑問を抱くようになっています。こうしてようやく、「高血圧=食塩」の神話は過去のものとなったのです。』

一匹のネズミが従来の誤った学説を放逐した

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・ 『今から二十数年前の1959年、私はネズミを使って高血圧の研究を行うために、ある特殊な血圧測定器を作っていました。ネズミの血圧は人間の血圧とたいへんよく似ているため、血圧の研究にはネズミがもってこいの動物です。ネズミの血圧を測定する器具は、すでに1938年にイギリスで開発されていましたが、その器具はあまり実用的ではなく、精度を高めようとして私も苦心していたのです。

ところが、その最中に偶然にも、私はあるネズミとの運命的な出会いをしました。大げさに言えば、この出会いがそれまでの高血圧の歴史を変えることになったのです。

・血圧測定器の精度を再確認するため、京都大学動物センターから分けてもらった10匹のネズミを、1匹ずつ計器の中に入れ、血圧を測定していたところ奇妙なことに気がついた。10匹のネズミの中に、140ミリと170ミリをいつも示すネズミがいた。つまり、わずか10匹のネズミの集団の中に、正常血圧のネズミにまじって境界域高血圧のネズミと高血圧のネズミがいたことになる。

高血圧のネズミどうしを交配すれば、遺伝性の高血圧家系ができると直感した。遺伝性の高血圧は、人間でいえば本態性高血圧症にあたる。いちばん血圧が高かったオスとメスを繰り返し交配し、三世代目にはオスもメスも100%高血圧になった。中には収縮期血圧300ミリ以上のネズミや自然に脳出血を起こすものも現れた。こうして、1963年に遺伝性高血圧ネズミ、正式には高血圧自然発症ラット(SHR)が完成した

 【メモ】ネズミと研究者による偉業

思わず、”ネズミの血圧計”に反応してしまいました。また、いくつかの興味深い発見もありました。

画像出展:「株式会社ソフトロン

画像出展:「京都大学大学院 松田研究室

SHR開発記念碑「人類への贈物」 

 『高血圧は現代社会で最も多い病態で、三大死因の一つ、脳卒中や、寝たきり、認知症の主要因である。ヒトと類似の高血圧、脳卒中を自然発症する高血圧自然発症ラット(SHR)、脳卒中易発症ラット(SHRSP)は20世紀後半(1963年、1973年)岡本耕造名誉教授・青木久三博士はじめ、京都大学医学部病理学教室の多くの共同研究者の尽力により開発された。 このモデル動物のおかげで、高血圧・脳卒中など成人血管病の病因、病態解明も進み、多くの降圧剤が世界中で新たに開発され、栄養などで脳卒中の予防が可能であることも実証された。 脳卒中を必発する遺伝子を保有していても、その遺伝子を検出し、遺伝子の発現を制御して疾患の発症を予知し予防する、「病む人なき未来医学」の夢がここに誕生したのである。』

画像出展:「株式会社星野試験動物飼育所

高血圧自然発症ラット(SHR)です。

画像出展:「The National BioResource Project for the Rat in Japan

こちらは、高血圧自然発症ラット(SHR)、ではなく、脳卒中易発症ラット(SHRSP)でした。

食塩を減らしても血圧が下がらない場合が多いことが証明された

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・『「高血圧=塩」という説が治療に応用されたとき、第一に疑問になった点は、一日10gの減塩食ではほとんどの高血圧の人の血圧が下がらないという事実でした。そこで、食塩説を立証するために、一日1~2gという厳しい減塩食が実施されました。しかし、これでわかったことは、血圧が下がるどころか、過度の減塩食がかえって塩なし病を起こすことだったのです。

高血圧症の患者さんに、一日5gという減塩食を実施してもそれで血圧が下がったのは、10人に1人あるかないかでした。実は、減塩食では遺伝性高血圧が治らないことは、すでに1971年に私の実験で明らかにされていたのです。

遺伝性高血圧ネズミは、人間の本態性高血圧症に相当しますから、それを使った実験で減塩食の効果を判断することができます。』

遺伝性高血圧ネズミを四つのグループに分ける。

①普通の食塩摂取量の10倍の高食塩食

②通常の食塩を含む標準食

③通常の三分の一の低食塩食

④10倍の高食塩食と飲料水として1%の食塩水

それぞれ30週間与えて経過をみた。低食塩食、標準食、高食塩食では、ほとんど血圧に変化はなく、むしろ、標準食グループのほうが低食塩食グループよりも血圧が低かった。唯一、高食塩食に1%の食塩水を飲料水として与えたグループだけが、収縮期血圧が180ミリから220ミリ程度に上昇し死に至った。実際には、このグループのネズミは40~50倍の食塩水を無理やり食べさせられていたことになる。これだけ大量の食塩を30週間毎日食べていれば、体液のバランスがひどく崩れ、ネズミは高ナトリウム血症(血液中のナトリウム値が異常に高くなった状態)と腎不全を起こす。従って、このネズミの死因は高血圧ではなく、食塩の異常摂取による全身状態の悪化が原因である。

この実験によって、遺伝性高血圧ネズミの血圧は、食塩の摂取量に関係がないこと、さらにかなりの高食塩食でも水を十分に飲み、尿を排泄できれば、血圧は上昇しないことがはっきりした。

血圧はこのような仕組みで調節されている

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

この絵を拝見し、筋肉による細動脈の収縮は血流にこれ程までに大きな影響を及ぼしているということを知りました。

・血管はいつも拡張と収縮を繰り返しているが、最大拡張時の血管は最大収縮時の5倍に広がる。

・血管の収縮と拡張は、動脈の壁にある筋肉(血管平滑筋)の伸び縮みによって営まれている。

・血管平滑筋が収縮時の1.7倍の長さに伸びるだけで、内腔は5倍に広がる。これは血管平滑筋が40%縮むと内腔が5分の1にまで減少するというでもある。つまり、血管はほんの少し筋肉の収縮率を変えるだけで簡単に動脈の太さを変え、血圧を調節することができるということである。

・青木先生が行った流体力学による計算では、血管平滑筋の伸びが1%少ないと100ミリの血圧は113ミリに、それが3%だと152ミリに上昇する。このように筋肉の収縮は血圧に対して大きな影響を与えるのである。したがって、血管平滑筋に1~3%余分に収縮する性質があるとすると、簡単に高血圧になってしまう。

・動脈は大動脈に始まり、中動脈、小動脈、細動脈と枝分かれして徐々に細くなっている。このうち大動脈には筋肉は少なく、自ら太さを調節することはできない。これに対して、自ら拡張と収縮を行い、血管の太さを決めているのは直径100μmほどの細動脈である。この細動脈には大動脈の1000倍もの筋肉があり、その収縮によって血圧は決定されている。したがって、本態性高血圧症の原因は細動脈に潜んでいるのである。

血管の太さを調整し、血圧を調節する物質がわかった

細動脈の筋肉が収縮しやすい性質を持っていると、収縮期には必要以上に血管が細くなる。また、拡張期には十分血管が広がらないために、いつも血圧が高くなるのである。

・本態性高血圧症の原因と考えられる細動脈の内腔の大きさは数種類の命令系統によって調節されている。

・血管自身にはゴムのように、一度伸びれば自動的にもとに戻ろうとする性質がある。

・胃が食べ物によって膨らむと、その圧力を感じて消化運動を始めるように、血管の壁にも血液中の圧力を感じとって、血管の太さを調節する機能が備わっている。さらに、血管の壁は血液中の化学物質をキャッチして、血管の太さを変える働きももっている。このように動脈壁の筋肉自身、神経、血液中の化学物質などによって、血管の太さは四重にも五重にも見張られていおり、それによって血管の太さが厳重に調節され、血圧が正常に保たれる仕組みになっている。それにも関らず、血管が細くなりすぎて血圧が上昇したのが高血圧である。

細動脈に関しては、前週のブログ”塩と高血圧2”の最後に追記した”【メモ】血管の筋肉にある自動血圧調整機能?”を参照ください。

生まれつき高血圧になりやすい人は血管の細胞膜に異常がある

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

・細胞内への物質の取り込みは、細胞を包む細胞膜によって調節されている。このことから、遺伝性高血圧ネズミはこの細胞膜になんらかの障害があり、そのために細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇して血管筋肉が常に収縮気味と考えられる。これを人間にあてはめると、本態性高血圧症の人は、血管筋肉内細胞の細胞膜に生まれつき障害があり、そのために血圧になると考えることができる。 

高血圧の人は、もともと血管の筋肉が収縮しやすい

・今までの内容を整理すると、血圧を決めているのは細動脈の内腔の太さで、この太さは血管の壁にある筋肉によって調節されている。そしてこの筋肉の収縮と伸展はカルシウムイオンの濃度で決定され、また、この濃度を調節しているのは細胞膜であるということである。

塩と高血圧2

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

注)出版が36年前の本なので最新の知見とは合わない部分があるかもしれません。

また、目次は”塩と高血圧1”を参照ください。

 

第一章 塩をとっても血圧は上がらない 血圧対策の常識が変わった

塩は高血圧とほとんど無関係であることが判明した 

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」 

・減塩食には100mmHgの血圧を1~2mmHg下げる程度の力しかない。

無理な減塩食は心身に深刻な害を与えている。

・塩は1953年頃から高血圧の原因として考えられるようになった。

・青木先生は1959年に普通食で高血圧を発病するネズミを発見し、これらの高血圧ネズミを交配させ、普通のエサで遺伝的に高血圧になるネズミの家系(高血圧自然発症ラット:SHR)を完成させた。

人間の場合、遺伝によって受け継がれる高血圧を、本態性高血圧症と呼んでいる。これらは高血圧自然発症ラットと同様に、摂取する食塩の量を減らしても血圧を下げることはできない

10人に1人程度の割合で、二次性高血圧の人がいる。こちらも遺伝とは切り離せないが、原因は腎臓の障害やホルモンの分泌異常、肥満しやすい体質によるものである。

食塩が原因の高血圧は、塩を排泄する腎機能が弱という性質が遺伝することによる二次性高血圧の1つである。この場合には原因である塩の摂取を制限すれば、血圧を下げることができる

問題はほとんどの医師が、食塩を本態性高血圧症の原因と考えているということである。

減塩のしすぎはかえって体に異常をきたす

・「減塩すれば血圧は下がる」という考え方は、日本だけでなく世界中に広まっている。

・減塩しょうゆや減塩みそなどの減塩食信仰が新しい病気、塩なし病を生み出していることはあまり知られていない。

・世界的に著名な学者であるイギリスのピッカリング博士は、「減塩をしすぎて死亡した人の数と食塩の摂りすぎによって死亡した人の数は、どちらが多いかわからない」と述べ、減塩食信仰の行きすぎを嘆いている。

・塩はナトリウムと塩素という二種類の元素でできた化学物質である。いずれも体を構成する重要な成分であり、生命活動を営む大切な物質として働いている。

ビタミンの欠乏は特定の「病気」を起こすだけだが、塩の欠乏は「生命」を奪うことになる。塩の摂取量を減らしすぎると体の細胞に障害が起きる。

・二年も三年も厳しい減塩食を続けていると、全身の倦怠感、無力感、食欲不振、いつもイライラして落ち着かない、やる気が起こらない、根気が続かない、ボケ、壮年性・老年性認知症などの病状が現われてくる。

細胞が細胞の形を維持しているのは、ナトリウムイオン、すなわち塩のおかげである。もし、細胞内の塩が二分の一になると、細胞内のイオン濃度が低下するため、細胞内の水はほとんど全部外に流れ出し、細胞はつぶれてしまう。

浸透圧が生体で適切に保たれているのは、塩がうまく働いているからである。その働きを維持するためには、食塩を1日8~10gとる必要がある。

・極度の減塩が血圧を上げる場合もある。これは外から塩が入ってこないために、塩不足によって腎臓が障害され、血圧を上げる物質が腎臓などで作り出されるためである。

塩を減らさなければいけない人は意外に少ない

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」 

・『私の診療経験からいって、減塩食で高血圧が治る人、つまり塩が原因の高血圧である食塩過食性高血圧は、100人のうちせいぜい二人か三人にすぎません。

確かに食塩には、1日30gか40gずつくらい非常に大量にとりつづければ、収縮期血圧(最大血圧)を10~20ミリほど上げる作用があります。ですから、微弱ながら塩には血圧を上げる働きはあるのですが、普通は血圧を正常に維持しようとする生体の力が働き、塩が昇圧作用を発揮しないうちに、尿や汗となって体外に排泄されます。ところが、食塩に敏感な体質の人では、食塩を少しとりすぎても、昇圧作用が強く現れ、血圧が上がってしまうのです。この塩による血圧上昇のメカニズムは次のように考えられています。

食べ物から摂取された塩は、ナトリウム(ナトリウムイオン)となって血液中に入り込み、全身に供給されますが、このとき、血管壁の筋肉細胞の中にも一部のナトリウムが入り込みます。筋肉も細胞の集まりですから、細胞の周囲には細胞外液が満たされていて、大量の食塩をとると、この細胞外液にナトリウムがどんどん増加します。』

・細胞外液と細胞中の細胞内液を一定の濃度に保つために、細胞の膜にはナトリウム-カリウムポンプという特別なナトリウムのくみ出し装置がついている。

・ナトリウム-カリウムポンプの働きで細胞内のナトリウムを外にくみ出し、細胞の内と外を一定のナトリウムイオン濃度に保っているが、細胞外液にナトリウムが増えすぎると、ポンプが働かなくなってナトリウムが細胞の中に増えてしまう。そのため、増えたナトリウムを細胞外へ運び出すために、カルシウムイオンの力を借りることになる。

・細胞外のカルシウム(カルシウムイオン)を細胞内へ運び込むときに生じる力によって、ナトリウム-カリウムポンプは細胞内のナトリウムを細胞外へくみ出す。その結果、今度はカルシウム(カルシウムイオン)が細胞内に増加する。実はこのカルシウムこそが、血圧を上げる真犯人である。カルシウムは血管の筋肉を収縮させ、血管を細く、狭くする。そして、狭くなった血管を血液が通過するために、より強い圧力が必要になり、その結果、血圧が高くなるという仕組みである。

減塩が必要な体質かどうかを知るチェックポイント

・本態性高血圧症は、普通自覚症状があまりなく、気がつかないうちにじわじわと血圧が上がり、60歳くらいを境に老化によって血圧が低下するまで続く。つまり40年から50年にわたる長期の病気である。

本態性高血圧症は遺伝的な素質に基づいて発病する病気であり、かなり若いときから体内では高血圧の準備が始まっている。一般的には十代、二十代に発症前期といって高血圧の準備段階に入り、三十代になるとその徴候が現われはじめる。その頃になると、収縮血圧が140~150ミリ、拡張期血圧が90ミリ程度に上昇する。さらに、四十代から五十代にかけて、高血圧が進み完全な高血圧症になる。

・自覚症状によって本態性高血圧を判断することは困難で、手がかりは本態性高血圧症が遺伝による病気で、減塩食では血圧は低下しないことである。一方、食塩過食性高血圧では、摂取する食塩の量で血圧は上下する。

治療が必要な高血圧の人は案外多くない

・血圧が少し高い程度ですべて人が、降圧剤を飲まなければならないということではない。高血圧の薬は長く服用するため、薬の種類、量、服用法を慎重に考える必要がある。

高血圧の人に薬物療法が必要かどうかを決定する目安となるのは、当然血圧値であるが、特に拡張期血圧(最小血圧)が治療の指針となる。この理由は、高血圧による害である動脈硬化や心肥大、さらに脳出血のような病気は主に拡張期血圧の上昇によって引き起こされるからである。

・1983年の国際高血圧学会会議とWHO(世界保健機構)との合同会議でも、治療を必要とする高血圧は拡張期血圧が95ミリ以上であり、収縮期血圧は参考にとどめるべきであることが正式に明らかにされた。

画像出展:「日本高血圧学会」 

こちらは2019年7月に更新された“血圧の分類”です。1983年に高血圧とされた拡張期血圧95mmHgという数値は、2019年7月の診察室血圧のⅠ度高血圧(90~99)のほぼ中間値になっていますので、ほぼ同等ということになります。

 

血圧は通常、1日の間に収縮期血圧で40ミリ、拡張期血圧で30ミリ程上下するため、1回に3分以上かけて3回以上血圧を測定し、そのうち1番低いもの、あるいは3分以上安静にした後、安定した時点の血圧を3回以上測定し、その平均値をとらなければならない。この方法で測定し、拡張期血圧が106ミリ以上であるときは迷わずに治療が開始される。90ミリ~105ミリの人は、1ヵ月以内にもう二回、血圧の測定を受ける。そして二回、二日間とも最も低い測定値が100ミリ以上であったときに初めて治療が開始となる。拡張期血圧が99ミリ以下の人は、少なくとも急いで治療を開始する必要はないが、管理を怠ることは非常に危険である。拡張期血圧が90~99ミリの人は、生活療法(軽い減塩食、標準体重にするための減量、適度の運動など)を続け、拡張期血圧が95ミリ以上3ヵ月続いていたら、降圧治療を始める。この3ヵ月間を通じて常に拡張期血圧が90~95ミリであった人は、もう3ヵ月間状態を観察し、この間に拡張期血圧が95ミリ以上に上昇し、しかもそれが続くようであれば、薬を使用することも考えなければならない。いずれにしても、90~99ミリの人は定期的に血圧を測定することが大切である。

中年からジョギングを始めるとかえって危険なことが多い

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」 

これを見ると、激しい運動の血流の変化には3つのタイプがあるのが分かります。

1.変化しないものー脳

2.増えるものー筋肉、皮膚、心臓

3.減るものー内臓、腎臓

・激しい運動を行うと筋肉への1分間の血流量は平常時の1200mlが約10倍になる。また、心臓の血流量も普段の250mlが3倍になる。これだけの血圧を全身に送り込むには血圧は顕著に上昇する。例えば、5分間走ると正常血圧の人でも収縮期血圧(最大血圧)が120ミリから160ミリに、拡張期血圧(最小血圧)が70ミリから100ミリまで上昇するが、高血圧の人は血圧の変動幅も大きいため、運動による血圧の上昇はもっと大きくなる。収縮期血圧160ミリ、拡張期血圧100ミリの高血圧の人は、5分間の運動でそれぞれ、220ミリと140ミリに上昇する。

60歳を過ぎてからの高血圧は心配しなくてよい 

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

左が”収縮期血圧(最大血圧)、右が拡張期血圧(最小血圧)です。

拡張期血圧最小血圧)は収縮血圧(最大血圧)に比べ血圧上昇による死亡指数への影響が大きいこと。また、50才以上(青木先生の見解は60歳を過ぎるとさらに差がつくとのことです)の死亡率は低くなることが分かります。 

・高齢者の血管は弾性が低下する。一方、血管壁の弱体化を補うために結合織が増え、血管壁は厚くなる。また、供給される血液の量が少なくなるため、血管の収縮・拡張を行っている筋肉も衰えてくる。このように動脈硬化に陥った血管では、心臓の収縮期に血液が送り込まれてきても、血管がうまく内腔を広げることができず、血圧が上がってしまうのである。したがって、高齢者に起こる高血圧は収縮期高血圧であり、一種の老化現象として起こるものであり、学者によって高血圧の範囲に入れないこともある。

・収縮期血圧が160ミリ以上になると、30歳から50歳の人では、死亡率が正常圧の人の3倍になるが、60歳以上になると死亡率は1.1倍程度まで下がる。この統計からも60歳以上の収縮期血圧は老化現象であり、あまり心配はないといえる。しかし収縮期血圧が180ミリを超えると治療対象になる。これは180ミリを超えると血管の筋肉にある自動血圧調節機能が活動を停止するためである。さらに老化は血圧をコントロールする分泌などに狂いが生じ、容易に、しかも大幅に血圧は変化するため注意を要する。

メモ血管の筋肉にある自動血圧調整機能?

ここで私は「”血管の筋肉にある自動血圧調整機能”とは何だろう?」と思い、調べてみることにしました。その結果、これかなというものが2つありました。

左のイラストは東邦大学さまの”心筋ー心臓は電気とカルシウムイオンで動いている”から拝借したものです。

ここでは、血管の筋肉(血管平滑筋)を考える上では「細動脈」が重要であり、また、血圧の調整機能という視点で考えた場合、自律神経(交感神経)の働きを理解する必要があると考えたため、引用させて頂きました。細動脈 arteriole は各臓器に血液を供給するやや細い動脈です。平滑筋層が発達しており、それが適度に収縮することで緊張を保ち、血管の断面積つまり血流に対する抵抗の大きさが調節されています。したがって細動脈平滑筋層の緊張度を変化させる物質は、臓器間での血流の分配を変化させると共に、血圧に影響を与えることになります。血圧を規定する主要な因子は単位時間に心臓から送り出される血液の量(心拍出量 cardiac output )と細動脈全体としての抵抗(末梢血管抵抗 peripheral vascular resistance )です。心拍出量と末梢血管抵抗の積が血圧になります。細動脈は交感神経により調節されていて、交感神経が興奮すると伝達物質のノルアドレナリンが血管平滑筋に作用して収縮を起こし、血管抵抗が増大します。ノルアドレナリンは心拍出量も増大させるため、この両方の効果により血圧が上昇します。この他多くの生体内物質や薬物が細動脈平滑筋に作用して血流、血圧に影響を与えます。

細動脈の最も内側の血液に接している面は、一層の内皮細胞 endothelial cell で覆われています。内皮細胞は様々な生理活性物質を分泌して血管壁を保護しています。内皮細胞には収縮機能はありませんが、血管平滑筋に作用して収縮や弛緩を起こさせる様々な物質を分泌し、局所血流や血圧の制御に関与しています。

もう一つは、PDFの資料(7ページ)で、タイトルは”血圧,心拍数,心機能および血液量の調節”です。クリック頂くとダウンロードされます。

細小動脈平滑筋の緊張を調節するメカニズムはいろいろある。平滑筋自体の収縮が内在リズムで行われるだけでなく、血圧上昇時に動脈平滑筋が伸展される圧力弛緩という現象と、逆に血圧上昇による動脈の伸展に反応して、平滑筋が収縮する作用であるが、後者は血圧が上昇しても血流量がほとんど変わりないための自己調節といわれるものである。このような局所性調節のもうひとつは、組織におけるヒスタミンやブラディキニンなど血管拡張性物質の産生である。動脈収縮による組織血流減少によって、その局所で血管拡張性物質を作り、それが動脈収縮を打ち消す作用をするといわれている。

塩と高血圧1

昨年夏、母親が定期的に行っている血液検査で、軽い“低ナトリウム血症”と診断されました。この頃、母親は時々頭痛を訴えていました。更に、たまにですが「気持ちが悪い(嘔気)」と発するときもありました。

水分には気を遣っていましたが、塩についてはノーマークでした。また、塩というと血圧と腎臓病との関係から、“減塩”を意識し、実際、減塩醤油や減塩味噌を使っていました。塩といえば、「減らすべきもの」という先入観を持っていました。

塩は腎臓病患者さまにとって要注意とされていますが、特に中高年の腎臓病の患者さまの場合、高血圧の薬を服用されている方が多く、以前から“高血圧”については詳しく知る必要があると感じていました。

このような経緯から、今回は“塩と高血圧”をテーマとしたのですが、最初に拝読したのが『塩を変えれば体は良くなる!?』という、まさに塩について詳しく説明されている本でした。そして、この本の中で青木久三先生を知り、青木先生の著書の中から、一般の人向けに書かれた『減塩なしで血圧は下がる』という本で勉強させて頂くことにしました。

高血圧に詳しくない私にとっては非常に勉強になったですが、ご注意頂きたいのはこの本の出版が昭和59年(1984年)4月と36年前に書かれた本であるという点です。最新の知見とは合わない部分もあるかもしれません。少なくとも、日本高血圧学会が発表している”高血圧治療ガイドライン”とは差があります。 

 

 

画像出展:「日本心臓財団

下記の図は、“降圧剤を使用するときの年齢別降圧目標”になります。

青木先生は、前提として「高血圧の人は正常血圧まで下げることを目標としない」というお考えですが、その理由は次の三つです。

1.無理な降圧は体への負担が大きく、血圧低下に伴う血液不足によるリスクが大きくなる。

2.高血圧の人は、もともと高めの血圧の方が体に適している。

3.降圧剤が増えれば、それだけ副作用のリスクが高まる。

画像出展:「減塩なしで血圧は下がる」

著者:青木久三

出版:1984年4月(昭和59年)

発行:主婦の友社

 

減塩を否定する本のため、目次の中には「どうなんだろう?」と疑問に思う項目も多く、そのため、青木久三先生のプロフィールを目次の前にご紹介することにしました。

また、私にとっては新鮮なお話ばかりで、ブログがかなり長いものになってしまったため、5つに分割することにしました。

ブログは要点と感じた部分をまとめる形式が大部分ですが、正確にお伝えしたいと思った個所は、そのまま引用させて頂きました(『』括られています)。また、目次の中の灰色の項目に関しては触れていません。

著者ご紹介

昭和8年名古屋市に生まれる。昭和33年名古屋市立大学医学部を卒業後、京都大学大学院をへて、名古屋市立大学医学部第二内科入局。昭和39年から約3年間、アメリカ・クリーブランドクリニックの研究所で、高血圧の世界的権威ページ博士より指導を受ける。次いで、昭和43年から1年間、米国文部厚生省(NIH)の主任研究員を委嘱され、現在、名古屋市立大学医学部助教授[1984年時点]

昭和57年には、高血圧学会のノーベル賞といわれる高血圧学会賞を米国心臓学会より受賞。現在[1984年時点]、日本高血圧学会評議員、米国心臓学会高血圧誌編集委員。国際高血圧学会所属。

専門は、内科学、循環器病学、高血圧病学。

主な著書に「高血圧の臨床―本態性高血圧症と二次性高血圧―」「本態性高血圧症とその治療」、「Ca拮抗剤の基礎と臨床」(共著)、「Ca拮抗剤の最近の知見」(共著)、「臨床心臓病学」(共著)がある。この他、ネイチャー、サイエンスをはじめとする外国の学術誌に英語の論文も多数発表。

米国心臓学会 高血圧学会賞:失礼だと思いましたが、ちょっと調べてみました。下記のページをスクロールして頂くと、”1982”のところに、3人の先生の氏名が出ています。青木先生は、Kyuzo Aoki, MDです。

 ”CIBA Award for Hypertension Research 1996

目次

第一章 塩をとっても血圧は上がらない 血圧対策の常識が変わった

塩は高血圧とほとんど無関係であることが判明した

減塩のしすぎはかえって体に異常をきたす

塩を減らさなければいけない人は意外に少ない

こんな人は塩を気にする必要はない

減塩が必要な体質かどうかを知るチェックポイント

治療が必要な高血圧の人は案外多くない

食事からとるコレステロールを気にするのは無意味で大きな誤り

貝やイカはコレステロールを上げるどころか逆に下げることがわかった 

人気のリノール酸は逆に血管を傷め、動脈硬化によくない

動脈硬化によいと評判のビタミンEにひそむ重大な死角

中年からジョギングを始めるとかえって危険なことが多い

60歳を過ぎてからの高血圧は心配しなくてよい

塩よりも肥満のほうが血圧を上げていることを忘れてはいないか

第二章 高血圧は塩が原因ではなかった 突き止められた血圧を上げるメカニズム

高血圧の専門医もまちがう高血圧の本当の意味

これだけはまず知っておいてほしい高血圧の基礎知識

高血圧があなどりがたい重大な成人病であると言われる理由

「高血圧=塩」の神話はいかにして作られたか

一匹のネズミが従来の誤った学説を放逐した

食塩を減らしても血圧が下がらない場合が多いことが証明された

高血圧の遺伝は「メンデルの法則」を抜きに考えられない

血圧はこのような仕組みで調節されている

血管の太さを調整し、血圧を調節する物質がわかった

生まれつき高血圧になりやすい人は血管の細胞膜に異常がある

突き止められた血圧を調節する細胞膜の仕組み

高血圧の人は、もともと血管の筋肉が収縮しやすい

第三章 血圧はこの方法で下げなさい あなたのやり方では高血圧は治らない

高血圧と心臓病の危機を脱した私の体験から話そう

動物性タンパク質を十分とると狭心症や脳卒中も防げる

みんなが敵視する肉は、実は血圧が高い人にも必要な栄養食

血圧の高い人にはまるごと食べられる卵や小魚が最高の治療食

水を十分に飲むと脳卒中にも心筋梗塞にもなりにくい

寝しなに水を飲めば、明け方に多い心臓発作が防げる

十時と三時のお茶は、高血圧の人に欠かせない大切な健康法

起き抜けのラジオ体操を実行すれば、一日じゅう血圧を低く保てる

朝晩散歩する習慣をつけるかどうかで高血圧の合併症予防にこれだけ差がつく

血圧が高めの人は、昼休みに碁や将棋をしてはいけない

体重を5キロ減らすだけで高血圧が治ることがある

血圧の重い人が重い荷物を持つのは非常に危険

階段の駆け上がりは、高血圧の人には絶対にすすめられない

血圧はちょっとしたことで大いに変動する

高血圧の人でも眠っている間の血圧は低いことを知ってほしい

私がすすめる高血圧の人のための特効献立

第四章 効き目に差をつける降圧剤の使い方 安易な服用はかえって危ない

降圧剤に関する無知と誤解があまりにも多すぎる

「降圧剤は一生服用しなければならない」というのは迷信にすぎない

降圧剤はこんな人に使ってはいけない

降圧剤で正常血圧まで下げてしまうのは、大きな誤り

これだけは知っておきたい降圧剤の種類と副作用

降圧剤は一種類から始めるのが理想的

副作用がなく、血圧を即座に下げる薬が開発された

なぜこの薬は、こんなにすばらしい効果を発揮するのか

従来の降圧剤より、ここがこれだけすぐれている

降圧剤の副作用は、カルシウム拮抗剤をいっしょに使えば防止できる

カルシウム拮抗剤の効きめを最も高める使い方

緊急事態を招いた重症高血圧でも、この薬を使えば簡単に危機を脱出できる

降圧剤は、高血圧の程度でこのように使い分けよ  

第五章 高血圧の不安を一掃する早わかり相談 この知識であなたの血圧対策は万全なものとな

実のところ塩はどの程度とればよいのでしょう?

高血圧の人にとって最も大切な食事の注意を教えてください

高血圧の人が、ぜひ避けなければならない食品は何ですか?

血圧が高い人がやってはいけない健康法はありますか

万能降圧剤のように思えるカルシウム拮抗剤に欠点はないのですか?

カルシウム拮抗剤は日本でも広く使われているのでしょうか?

降圧剤を山ほどもらってきます。やはり全部飲むべきでしょうか?

飲み忘れた降圧剤を、次回にいっしょに飲んでもかまいませんか?

塩を減らさなければいけない高血圧のタイプを教えてください

高血圧家系の人は、何歳ごろから、どのような点に注意すればよいでしょう?

酒とタバコは、やはり百害あって一利なしなのでしょうか?

健康にいいと言われるカルシウム剤も高血圧の原因になりますか?

足関節捻挫後遺症

“慢性捻挫”や“捻挫ぐせ”と呼ばれるものは、現在「慢性足関節不安定症CAIChronic Ankle Instability」と呼ばれています。数知れない捻挫によって、ちょっと動かしただけでコキコキ音がする私の足首は慢性足関節不安定症だと思います。

定期購読は止めたものの、興味ある内容のときは「月刊スポーツメディスン」を購入しています。送られてきたメールから、No.215(2019年11月号)の特集が“足関節捻挫後遺症の課題を整理する”であることを知り、迷うことなく注文しました。 

出版:ブックハウス・エイチディ

発行:2019年11月

寄稿は以下の4つです。

1.慢性足関節不安定症に対する治療の現状と課題

2.足関節捻挫が関節機能に及ぼす影響

3.足関節捻挫がスポーツパフォーマンスに及ぼす影響と課題

4.足関節捻挫における後遺症が将来的な健康に及ぼす影響と課題

ブログはを取り上げていますが、“”ではCAIの概要と2019年に更新された“CAIの業態モデル”をご紹介し、“”では鍼治療の視点から、筋肉に注目しながら表形式にまとめ、そこで洗い出された筋群を遠隔治療の筋肉と位置づけてみました。また、局所治療については、『スポーツ鍼灸の実際』と『スポーツ鍼灸臨床マニュアル』という本に書かれていた足関節捻挫の治療法をご紹介しています。

1.慢性足関節不安定症に対する治療の現状と課題

北海道千歳リハビリテーション大学 健康科学部 リハビリテーション学科

理学療法士、博士(医療工学) 小林匠

足関節捻挫と慢性足関節不安定症

CAIは足関節捻挫を繰り返すことで、慢性的に足関節に不安定感を抱いてしまう病態で、一般的には“捻挫ぐせ”と言われたりもします。CAIの原因となる足関節捻挫はさまざまなスポーツ種目において最も発生率の高い外傷の一つです。日常生活でも“ころぶ”・“つまずく”・“すべる”など、さまざまな場面に足関節捻挫のリスクは潜んでいます。前述のとおり、スポーツ現場において足関節捻挫は軽視されることが多く、ヨーロッパのサッカーリーグに所属する選手を対象とした研究では、足関節捻挫を受傷した選手が復帰するまでの平均期間は8日と報告されました。他の研究でも足関節捻挫を受傷した選手の95%が11日以内にスポーツ復帰できたとされています。一方、スポーツ復帰段階では足関節の背屈可動域制限や動的バランスの低下、自覚的機能低下、靭帯の緩みなどの関節機能の問題を抱えていることも示されています。言い換えると、足関節捻挫を受傷した選手の多くが、十分な関節機能の回復を待たずしてスポーツ復帰しているということになります。このような状況が足関節捻挫の再発率を高め、結果的に後遺症に悩まされる選手を生んでしまっている要因と推測されます。』

新たなCAIの病態モデル

『今年になって[2019年]HertelがCAIの新たな病態モデルをJournal of Athletic Trainingにて発表しました。このモデルは主に、

①一次組織損傷(primary tissue injury)

②病理機械的障害(pathomechanical impairments)

③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)

④運動行動障害(motor-behavioral impairments)

⑤個人要因(personal factors)

⑥環境要因(environmental factors)

⑦各コンポーネントの相互作用(component interactions)

⑧臨床結果のスペクトル(the spectrum of clinical outcomes)

の8つのコンポーネントから構成されており、2002年にHertel自身が公表したモデルからは、より複雑かつ詳細なものに改変されています(図3)。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

このモデルの中心には、②病理機械的障害(pathomechanical impairments)、③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)、④運動行動障害(motor-behavioral impairments)の3つのコンポーネントが位置し、各コンポーネント内にあげられている障害には、これまでの研究によってCAI患者で特異的に認められるとされた要因が含まれます。

また、③感覚・知覚障害(sensory-perceptual impairments)と④運動行動障害(motor-behavioral impairments)は知覚(perception)と行動(action)を通じて互いにリンクしており、そこには神経系の記憶や痕跡・符号(neurosignature)が関与し、疼痛の発生に影響するとされています。すべてのCAI患者がこのモデルであげられるすべての障害を有しているわけでなく、各患者で障害は異なり、個人要因や環境要因が加わることで、臨床結果(Outcome)は、足関節捻挫の再発(recurrent ankle sprain)から完全復帰(full recovery)に向けたスペクトルで表現され、CAI患者は症状を有さないCoperに向けて段階的に復帰を目指すことになります。一見するとこのモデルは非常に複雑に感じますが、これまでのモデルと比較すると、より臨床に即したものになったと言えます。今後は、この病態モデルをベースにCAI患者の臨床・研究が発展していくと思われます。』

2.足関節捻挫が関節機能に及ぼす影響

NTT東日本札幌病院リハビリテーションセンター

北海道大学 大学院保健科学研究院 客員研究員

理学療法士、博士(保健科学) 越野裕太

足関節捻挫による関節障害の評価

図5:前方引き出しテスト

図6:スクィーズテスト

図10:Medial subtalar glide test

図11:Plantar flexion break test

図12:最終域底屈筋力評価

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

足部の機能障害の評価

図14:前足部アライメントの評価

図15:第1趾列の可動性評価

図16:short foot exercise

図17:toe spread out 

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

膝および股関節の機能障害の評価

図なし:股関節の外転と外旋の筋力評価

図19:筋反応の評価

画像出展:「月刊スポーツメディスン11月号(2019年)」

こちらは”ハンドヘルドダイナモメーター”とその使用例(下段)です。

画像はオージー技研さまより拝借しました。


足関節捻挫の遠隔治療の筋肉

1.大腿後面の筋(ハムストリングス:大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋

2.下腿の筋腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長指(趾)屈筋、長母指(趾)屈筋、長腓骨筋

3.足部内在筋(足裏への刺鍼は強い痛みを伴うため、基本的には施術対象外と考えています)

4.股関節外転筋・外旋筋大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、梨状筋など

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

図中の右上の2つ並んだイラストですが、うすい灰色は、長指屈筋(左)、長母指屈筋(左)、長腓骨筋(右)の各筋肉です。これを見るとこれらの筋肉は下腿から足裏まで伸びていることが分かります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

画像出展:「人体の正常構造と機能」

足関節捻挫の局所治療例

編集者:福林 徹、宮本俊和

出版:医道の日本社

発行:2009年7月

新鮮例

置鍼・雀啄術

刺激部位は腫脹部の周辺を取り囲むようにし、その円の中に数本切皮程度の深さ(2-3mm)にとどめ置鍼していく。

受傷部への雀啄術は圧痛点を中心に行う。ただし、熱感や腫脹がある程度引いてから行うようにする。それ以前に行うと増悪する場合もある。腫脹・熱感が強い場合は、遠隔部での刺激が無難である。前距腓靭帯は関節包内靭帯で、靭帯に直接鍼を刺入することは関節包内への刺鍼になるので刺入の深さには注意する。

陳旧例

基本的には“新鮮例”の治療法と同じと考えてよいが、新鮮例よりも刺鍼部位は多く、深度は深くなる場合が多い。圧痛が不明瞭であったり広範囲に及ぶことがあるので、よく確認する。

足根洞への刺鍼(深さのは目安は1~3cm程)

足部と捻挫の関係性!?足根洞症候群の原因・症状、リハビリについて

こちらは、北海道の理学療法士である佐藤てつや先生によるものですが、

足根洞症候群」について分かりやすく説明されています。

特に次の点はとても重要なので列記させて頂きます。

・外反ではなく、足関節内反捻挫などに伴う内出血が足根洞に流れることが大きな要因である。

・足関節を背屈させた時に症状が強く自覚されることが特徴の1つである。

・足根洞症候群の患者では、腓骨筋群の運動で異常を示すと報告されている。

(筋トレの動画では”腓骨筋”に加え”後脛骨筋”も紹介されています)

著者:松本 勅

出版:医歯薬出版

発行:2003年7月

靭帯の損傷が大きく、疼痛、腫脹、機能障害などが顕著な場合は一般治療(整形外科治療)を優先させるが、軽度の場合は消炎、鎮痛、腫脹の軽減などを目的に腫脹の周辺への数本の刺鍼および損傷靭帯部への1靭帯1本の刺鍼を行い、可能であれば10~20分間置鍼する。後に円皮鍼を腫脹の周縁部に留置してもよい。

損傷靭帯部の刺鍼は、前距腓靭帯は外果の前下部(中封穴付近)に、踵腓靭帯は外果の下部(申脈穴付近)に、後距腓靭帯は外果の後下部に、外側距腓靭帯・二分靭帯(踵立方靭帯と踵舟靭帯)・背側踵立方靭帯は外果前下部よりもさらに前方にあるので、指先で腫脹・圧痛を調べて靭帯を確認して的確に刺入する。

ご参考

鍼は筋力低下を予防し、免疫力の回復を早める

こちらは、『スポーツ鍼灸の実際』の編集をされた宮本俊和先生の記事です。以前から疑問に感じていたことで、今回、たまたま見つけたのでご紹介させて頂きます。(残念な点は、実験がマウスによるものというところです)

筋肉の萎縮を防ぐ鍼(はり)

骨折後、ギプスで固定をしていると筋力が低下したり、ひざの靭帯損傷の手術後、動かさないでいると太ももの筋力が低下する、あるいは、寝たきりでいると筋肉が萎縮していく廃用性筋萎縮を起こします。それに対して鍼は何ができるか、という実験をしました。スポーツ選手ですと、低下した筋肉を回復させるためにアスレティックリハビリテーション(競技種目に必要な体力や技術を付けるための特別なリハビリテーション)を行いますが、鍼を使用することでこの期間を短縮できるか、あるいは筋肉の萎縮の速度を遅くできるか、を目的に置いた実験です。

マウスの後ろ足を宙吊りにして使えないようにして前足だけで自由に動けるようにし、鍼をする群と何もしない群に分けます。2週間後、何もしなかったマウスの後ろ足のヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)は萎縮を起こしていましたが、2日に1回30分間、筋肉に鍼通電刺激を与えていたマウスは、4足で走らせていたマウスと同程度の筋肉の量がありました。この実験で、筋肉を使わないことで起こる筋萎縮を鍼通電刺激が抑制している可能性がわかりました。』

ガンとホリスティック医学4

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

目次は“ガンとホリスティック医学1”を参照ください。

 

【ガン治療の症例】

再発した骨肉腫を食事療法と瞑想、抗ガン剤で克服

●『西洋医学が臓器を対象とし、代替療法が場に働きかける治療法であることはわかったから、もっと具体的にどんな治療を受ければいいのか教えてほしいという声が聞こえてきそうです。第一章でもお話ししたように、ガンというのはミステリアスな存在で、治療法のマニュアルを作ることができません。Aさんにはとても効果的だった治療法が、Bさんにはまったく効果がないという例はいくらでもあることです。

それを踏まえて、どのような例を挙げれば読者の皆さんがもっとも理解がしやすいか、参考になるか、記憶をたどってみると、ひとりのオーストラリア人に行き当たりました。1998(平成10)年11月、日本ホリスティック医学シンポジウムの翌日、私の病院でも講演をしてくださいました。

彼は、現役の獣医さんです。主に競走馬を診ているようです。もともとは陸上競技の選手でしたから、きっと競走馬の気持ちもわかるのではないでしょうか。

彼の右大腿骨に骨肉腫が発見されたのは、74(昭和49)年の暮れでした。すぐに右下肢の切断手術を受けました。足をなくすというのは、誰でも大変なショックです。とはいっても、命にかかわることですから、彼も悩み抜いた末に手術を受ける決断をしただろうと思います。しかし、10ヵ月後にガンが再発しました。骨盤と肺、胸壁への再発でした。このとき、彼はオーソドックスな治療法と決別し、自然療法を選択したのです。

なぜ、自然療法だったのか、とても興味のあるところです。彼は、再発という窮地に追い込まれたときに、自分が治療してきた馬たちのことを思い出しました。もちろん、馬が病気になったとき、薬を使ったり、手術をしたりするというのは重要な選択ですが、その前に大自然の中で癒すことを考えるのだそうです。飼料を吟味し、運動と休息に配慮し、なでたりさすったり、やさしく声をかけたりします。そうすることで、馬たちは驚くほど元気になっていきました。彼は、自分にも、それが通用すると感じたのです。

まず、食事療法と瞑想から始めました。動物性のものよりも植物性のものをとるようにし、精製しないものを食べるなど、さまざまな情報を集めて自分なりの方法を作り上げました。瞑想は徹底的にやったようです。何しろ1日に7時間も瞑想したというのですから半端ではありません。

ところが、そんな努力の甲斐もなく、再発して5ヵ月後には、医師が「あと二週間くらいの命だろう」と言うほど悪化してしまったのです。普通なら、ここで精神的にも折れてしまいます。こんなに頑張ったのにという空しさに押しつぶされ、ガタガタと体調を崩してしまいます。しかし、彼はあきらめませんでした。まだ、可能性はあるはずだと、次の手を懸命に求めたのです。「あと二週間」と宣告した主治医も、決してあきらめませんでした。「もう一度、抗ガン剤をやってみないか」と、医師はイアンさんにすすめました。宣告して放り投げるのではなくて、最後まであきらめない態度が、この主治医にはありました。

自然療法をやりたいというイアンさんの気持ちを優先し、こうやってとことんイアンさんに付き合おうとするなど、イアンさんは素晴らしい主治医に恵まれたと思います。イアンさんは主治医の提案を受け入れました。抗ガン剤治療を受けることにしたのです。これが功を奏しました。症状はみるみる回復し、体調も良くなっていったのです。

西洋医学の全否定は誤り

●『代替療法を信望する人は、西洋医学を否定しがちです。世の中には代替療法でガンが治ったという人がたくさんいます。そういう人たちは、「西洋医学は駄目だ」「抗ガン剤はやめろ」という言い方をします。しかし、ガンになってからの彼らの経過をよく聞くと、最初のうちは、手術を受けたり、抗ガン剤や放射線の治療を受けたりしているのです。副作用が強くて病院を逃げ出したというエピソードはどの方にも共通することですが、手術や抗ガン剤、放射線が本当にマイナスだったのかは、誰にもわかりません。最初に西洋医学の治療を受けたからこそ、のちの代替療法がより効果的に作用したのかもしれません。

西洋医学は駄目だと断定してしまうと、イアンさんは宣告された二週間後には亡くなっていたでしょう。西洋医学も選択肢に入っていたからこそ、それからのドラマがあったのです。

イアンさんの話に戻りましょう。抗ガン剤治療は二年間続けるプログラムが組まれました。しかし、イアンさんは、どうもこの治療は違うと感じ、二ヵ月半で中止します。主治医ともじっくりと相談したうえでの決断でした抗ガン剤には感謝しつつ、彼は冷静になって、緊急避難としての抗ガン剤は有効だけど、長く続けるものではないという結論を出したのです。

そして、彼は再び、食事療法と瞑想を始めました。しかし、前回の反省を踏まえて、今度はあまりストイックな取り組みはやめて、リラックスしてやることにしました。前回は七時間も瞑想しましたが、今回は一時間を三回と、半分以下の時間に抑えました。食事も、これでなければいけないというのではなくて、会食では一般のものを食べるゆとりをもつようにしました。これが正解だったのでしょう。再発巣の進行は停止したかのような状態が続きました。しかし、依然としてガンはあるわけですから、気をゆるめるわけにはいきません。とにかく、よいと思われることは積極的に取り入れました。』

フィリピンの心霊手術とインドのサイババ

●『この頃、イアンさんが取り組んだことで、振り返ってみてよかったと思われることが二つありました。ひとつが、フィリピンの心霊手術で、もうひとつがインドのサイババです。

両方とも、そんなのインチキだと顔をしかめる人もいるかもしれません。果たして、素手を体内に突っ込んで病巣を取り出すことができるのか。傷跡もまったく残らないのはどういうことなのか。わからないことだらけです。確か、日本のマスコミは二十年以上前に、マジックであるという結論を出したはずです。しかし、今でも心霊治療を信じて、フィリピンまで行く人はたくさんいます。

サイババは有名なインドの聖者です。何もないところからダイヤモンドなどを出すなどたくさんの奇跡を見せてくれるということで話題になりました。世界中に信者がいるようですが、批判的に見ている人もたくさんいるようです。

私は、心霊手術を実際に見たことはありませんし、サイババにも会ったことはありません。ですから、本物なのかどうかは判断できませんが、イアンさんは、心霊手術を受け、サイババに会うことによって、彼の中でさまざまな“気づき”が起こったようです。自分ではコントロールできない大きな力があること、自分が生かされている存在であることを、心で感じ取ったのだろうと思います。

そういう流れがあって、彼の再発巣は消失しました。78(昭和53)年6月、彼は完治を宣言しました。再発してから二年八ヵ月目、あと二週間の命と言われてから二年三ヵ月目のことでした。

彼は、その後、ガン患者をサポートする組織を作り、たくさんのガンの患者さんの支えとなってきました。そんななかで、学識では考えられないような回復を見せた患者さんの多くに共通するものに、①瞑想、②食事の改善、③霊的な目覚めがあったといっています。

本当に感動的な体験ですが、イアンさんの物語は、ガンとどうかかわっていけばいいのか、とても重要なヒントがたくさん含まれています。西洋医学だ、代替療法だ、あるいは○○療法がいちばんだと、覇を競っても仕方ありません。必要なときに必要な治療を選択する。そのセンスが彼にあったのだと思います。

治療法に迷った方は、イアンさんの物語を何度も読み返してみてください。ガンを体験した方なら、彼の苦悩や喜びが、よくおわかりになると思います。私には書ききれなかった部分を、自分の体感と照らし合わせながら読み取ってください。そうすることで、何か重大なヒントが、直観として降りてくるかもしれません。』

画像出展:「Amazon

帯津先生がご紹介されている”イアンさんの物語”とはこの本で間違いないと思います。(帯津先生が監修されています) 

信頼できる外科医とは

●『イアンさんの物語には、西洋医学や代替療法の長所、短所について示唆するものがたくさん含まれています。イアンさんは、まずは手術を受けています。右足を切断するという大変な決断を要する手術です。十ヵ月後に再発することになるわけですから、何のための手術だったのかと悔しい気持ちになったことだと思いますが、それは結果論にすぎません。生命の危機から脱出するため、即効性、確実性のある手術を選択したのは間違ってなかったと、私は思います。ガン治療において、手術は第一の選択肢になっていますが、万能ではありません。外科医の時代に、いい手術ができたのに再発して病院に戻って来られる患者さんをたくさん見てきました。外科医としてこんなに悔しいことはありませんでした。

外科医の多くは再発には比較的冷淡で、再発は自分の責任ではないという顔をしています。目の前の手術に全力を尽くすのが外科医の役割という言い分もわかりますが、再発は関係ないという態度は考えものです。再発も含めて、患者さんを丸ごと面倒見るだけの気迫で手術にのぞむべきでしょう。そんな気迫のある執刀医でしたら、すべてをゆだねてもいいと思います。』

抗ガン剤の効果

●『抗ガン剤については、一般的には白血病、悪性リンパ腫、乳ガン、卵巣ガンなどにはよく効くとされています。胃ガンや大腸ガンなどの場合は、抗ガン剤の効果はあまり期待できません。しかし、全く効かないということではないので、そのときの状況によって取捨選択していくべきだと思います。

抗ガン剤については偏見が多く、患者さんは大いに迷ってしまいます。代替療法の立場にいる人は、抗ガン剤を不倶戴天の敵のように罵ります。逆に、抗ガン剤を患者さんが拒否すると、「抗ガン剤をやらないならここで治療する意味はありませんから、他の病院へ行ってください」と平気で言う医師もいます。

病院へ行けば「抗ガン剤をやりましょう」と言われ、代替療法の治療家を訪ねると、「抗ガン剤などやるな」と言われる。どうしていいかわからないと、私の病院へお越しになる患者さんもいます。どちらもどちらです。抗ガン剤の長所、短所をしっかりとわきまえて、用いるべきは用い、捨てるべきは捨てるということをすれば、有益な武器になるのにと思えてなりません。ただ、何も治療手段がないので、とりあえず抗ガン剤をやりましょうというのでは困ります。何らかの勝算があってこその治療です。当たったら儲けものという気持ちでギャンブルをやっても、ほとんど外れてしまいます。当たる確率が一定以上あるという勝算があってこその抗ガン剤治療であるべきです。

イアンさんは、二年間やるべき抗ガン剤を二ヵ月半でやめています。理由は、自分にとって本来の治療法ではないというあいまいなものでした。これは、とても重要な直観でした。私の患者さんにも、イアンさんと同じようなことを言う人がいます。抗ガン剤治療をしていると元気が出ないとか、惨めな気持ちになってくると訴えてくるのです。そういう気持ちになったら、止めたほうがいいと思います。いくらガンとはいえ、人は伸び伸びと生きることが先決です。これをしなければいけないと、萎縮した気持ちで生きていくのは辛いものです。

我慢して抗ガン剤治療を受けても、それで良くなる保証はありません。自分の感覚を大切にして、やるべきときはやり、止めるべきときは止めるというのが、もっとも正しい選択です。

代替療法にはとても難しいことが山積ですが、イアンさんは見事にそれを乗り越えています。一度目もそうですし、二度目はもっと顕著だったと思いますが、西洋医学的治療の選択肢がありながら、代替療法に賭けることをイアンさんは決断します。

一度目のとき、手術が無事にすんだあとで医師は抗ガン剤や放射線の治療をすすめたはずです。しかし、それを受けずに、食事療法と瞑想で対処しようとしました。普通なら大変な迷いが生じるはずです。抗ガン剤や放射線治療の効果には、ある程度の客観性や再現性があります。しかし、食事療法や瞑想には科学的な裏づけはほとんどありません。そこに賭けられるかどうかです。

抗ガン剤や放射線に科学的根拠があるとはいっても、それが治ることにはつながりません。しかし、人は「科学的」という言葉にとても弱いのです。西洋医学の治療を捨てて自然療法でという気持ちになれないものです。本人が「やる」と決めても、家族が反対します。家族ばかりでなく親戚中が反対して、自然療法を断念する人も少なくありません。

さらに二度目は、自然療法でうまくいかず、抗ガン剤で命拾いをしたという経緯があったにもかかわらず、「抗ガン剤をやめて食事療法と瞑想をやる」という決断です。ここにイアンさんの強い意志を感じます。抗ガン剤でこれだけの効果が出たのだから、そのまま続けようと、誰もが思うのではないでしょうか。まして自然療法では、うまくいかなかった前科もあるのです。

さらに、私がすごいと思うのは家族の方です。ガンを患って不安になるのは患者さんばかりではありません。家族の方は、患者さんと同じくらい、あるいはそれ以上に不安と心配で胸がいっぱいのはずです。本人の意思を尊重したいと頭で思っていても、抗ガン剤でここまで良くなったのにどうしてと思わないはずはありません。

主治医もすごい。自分ですすめた抗ガン剤で劇的に回復したわけです。にもかかわらず、抗ガン剤を途中で止めて自然療法にすると言われて、気持ちがいいはずがありません。「もう勝手にしろ!」とさじを投げても不思議ではない状況です。

私は、イアンさんと家族、主治医の間に、半端ではない信頼関係ができていたのだと、うらやましく感じます。最高の“場”の中に身を置きながら、闘病をすることができたのです。それが、奇跡ともいえる好結果を生んだのだと思います。

代替療法を受けるコツ

●『イアンさんは、一度目の自然療法ではうまくいかなかったけれども、二度目は大成功でした。その理由を探っていきましょう。

最初は、どうしても自然療法で治してやるという力みがあったのだと思います。ですから、厳格な食事療法を実行し、瞑想も一日に七時間もやったのでしょう。これでは、逆にストレスになってしまいます。食事療法や瞑想で得たプラス部分よりも、絶対に挫折してはいけないというプレッシャー、ストレスが生むマイナスのほうが大きくなってしまいます。

私の病院にも、さまざまな自然療法に取り組んでいる人がいます。厳格な玄米菜食をしている患者さんがいました。玄米菜食にもいろいろあります。特に、ガンを治療するための玄米菜食は、とても厳しいものになります。肉は一切れも口にしてはいけません。味噌汁のだし汁に煮干しを使うことも禁じています。玄米は一口食べるのに二百回嚙みます。いいことはわかりますが、ここまで徹底した食事療法では、なかなか続けることはできません。

毎朝、回診をしながら表情を観察します。この患者さんの表情は、すっかり暗くなっていました。もう、玄米を見るだけで吐き気がするような状態になっていたのです。命には代えられないと、我慢に我慢を重ねてきたのでしょう。玄米が体にいいことは間違いないと思います。しかし、こうなると逆効果です。

私は、患者さんに言いました。「今度の日曜日、川越に行ってうなぎかステーキでも食べてきたら」彼は、本当に嬉しそうな顔をしました。

日曜日、いそいそと出かけて行きました。何を食べたかは聞きませんでしたが、晴れやかな顔で病院に帰ってきました。厳しい玄米菜食では、うなぎやステーキは食べてはいけない最上位ランクにあります。しかし、一食だけうなぎやステーキにしたからといって駄目になってしまうような体では困るわけです。いくら体にいいものでも、見るだけで吐き気をもよおすようなものを食べているよりは、体に悪いものでも喜んで食べられるもののほうがはるかにいいと、私は思います。

その患者さんは、気分転換ができたのでしょう。翌日からまた、玄米菜食に一生懸命に取り組み始めました。とことんやれる人はいいと思います。でも、ちょっと無理があるなと思ったら、少しは息抜きをした方が長続きします。イアンさんも、息抜きを入れることで、食事療法や瞑想をより効果的なものにすることができました。

太極拳でも、なかなか上達しなくても、楽しみながら、気楽に長くやっている人のほうがいい結果が出るように感じます。真剣にやるときはやり、ときには息抜きもする。代替療法とは、そんなかかわり方がいいのではないでしょうか。』

霊的な目覚め

●『イアンさんの治癒の扉を最後に開けたのは、心霊治療とサイババでした。まわりの人も驚いたでしょう。どうしてそんないかがわしいものに手を出すのかと、眉をひそめる人もいたはずです。

フィリピンの心霊治療は、患者さんの腹部に手を当てて、何かを祈りながら撫でているうちに、おなかの中から汚い血液のかたまりのようなものを取り出して病気を治すというものです。外科医である私には、メスなしにどうして腹腔内から何かを取り出せるのか、とても信じがたいことです。マスコミも大騒ぎをして、それをマジックだと断定しました。

私の患者さんの中にも、この治療を受けた方がいます。マジックかもしれないという疑いをもちつつ、フィリピンまで行き心霊治療を受けたのですが、帰ってきたときには体調が良くなっていました。心霊手術だけに頼って、他の治療を受けないというのは困りますが、たくさんある戦術のひとつとして受けるなら、それはその人にとっての癒しとなります。

サイババも同じです。さまざまな奇跡を起こしていると聞いていますが、それを盲信するのではなく、ひとつの可能性として聖者に会ってくることに、私は反対しません。イアンさんの場合、心霊治療を体験し、サイババに会いに行くことで霊的な目覚めがあったといっています。私は、心霊手術でもサイババでも、手段は何でもいいですから、イアンさんの言う霊的な目覚めが起こることはとても重要だと思います。

ガンを患って奇跡的に回復した人が、「ガンになってよかった」「ガンに感謝している」とよく言います。こうした気持ちの変化も、大きな霊的目覚めだと思います。世の中で起こっていることに偶然はないといいます。ガンになったのも偶然ではありません。なるべくしてなっているのです。なる意味があると思います。その意味を見いだせたとき、そして、その意味をかみしめることで人生が大きく変化し、充実した毎日を送れるようになったとき、人はガンに感謝できるようになります。多分、そういう心境になったときに、自然治癒力は爆発的に高まるのではないでしょうか

ガンというのは、ミステリアスなものです。それを理屈がわかっていることだけでなんとかしようと思っても無理があります。不思議なこと、非科学的なことも使い方次第です。霊的な部分は、WHO(世界保健機関)でも健康の定義として取り入れようとしているほどで、これからの重要なテーマになってくると思います。』

クリック頂くと、日本WHO協会のサイトに移動します。

”霊的”に関しては「健康の定義」の箇所に以下のような説明があります(一部です)。

『1998年の第101回WHO執行理事会において、「spiritual(霊的)とdynamic(動的)」を加えた新しい健康の定義が検討されました。賛否両論があったのですが、第52回世界保健総会(WHO総会)の議案とすることが決定されました。そして、WHO総会で審議した結果、採択が見送られました。』 

気になったので、さらに調べてみると、「WHOの健康定義制定過程と健康概念の変遷について」という資料(PDF6枚)を見つけました。この3ページめの”Ⅲ 戦後の物質文明に対する反動から生じた健康定義改正議論”の中に経緯や判断などが書かれています。なお、この資料は「第51巻 日本公衛誌 第10号 平成16年10月15日」が発行元となっています。

なお、否決された改正案は次の通りです。"Health is dynamic state of complete physical,mental,spiritual and social well-being and not merely the absence of disease of infirmity"

付記1:日本ホリスティック医学協会

今回、会員となった私に日本ホリスティック医学協会から冊子等が送付されてきたのですが、その中に新鮮な発見がありましたので、ブログにアップさせて頂きます。

その冊子は“HOLISTIC MAGAZINE 2017 30周年記念号”です。彦根市立病院緩和ケア科部長で、日本ホリスティック医学協会副会長でもある、黒丸尊治先生が寄稿された「私のホリスティック医学観 その出会いと変遷」の中にありました。それは「心の治癒力」です。

『代替療法に対する患者さんの期待感や希望といった心の状態こそが、代替療法の直接的効果よりも自然治癒力に大きな影響を及ぼす。』というお考えです。

私の臨床における全体性の視点

『とにかくホリスティック医学をたくさんの人に知ってもらいたい、それを実践する医者が一人でも多く出てきて欲しい、そんな思いを持ちながら今日までやってきました。ただ私のホリスティック医学に対する理解は、当初から比べるとずいぶんと変わってきたように思います。最初の頃は全体的な視点を持ちながら代替療法で自然治癒力を高めるといった程度の理解でしたが、心療内科としての人とのつながりやコミュニケーションの重要性を実感するようになってからは、主に心の視点からホリスティック医学を見るようになりました。

例えば「自然治癒力」という言葉ですが、これは免疫系や自律神経系、内分泌系といった体の持っている治癒力や回復力のことを表現しており、あくまでも身体性に重きがおかれた言葉です。しかし実際には安心感や喜び、ときめきといった心の状態も自然治癒力に大きな影響を及ぼし、それが病気や症状の改善につながるという側面も持っています。つまり体と同様、心にも治癒力が存在しているということです。このポジティブな心の状態が持つ力を私は「心の治癒力」と呼ぶようにしました。

それまでは代替療法が自然治癒力を高めるという考え方でしたが、今は直接的な効果よりも、代替療法に対する患者さんの期待感や希望といった心の状態の方がはるかに大きいと考えています。ただし患者さんの心の状態に影響を及ぼすものは、期待感や希望だけではありません。治療者の雰囲気や態度、説明の仕方など治療者要因や、治療者に対する安心感や信頼感といった治療関係要因も深く関係しており、これらも自然治癒力に大きな影響を及ぼします。さらに付け加えるならば、帯津先生がよく言う「場のエネルギー」も深く関与しています。今いる自分の環境や周囲とのつながりにより、患者さんの「心の治癒力」は大きく左右されるからです。

そう考えるようになってからは、代替療法そのものも大切ですが、それに勝とも劣らず、それを行う治療者やセラピストの態度やコミュニケーションの良し悪し、患者さんを取り囲む環境といったものも健康や病気、治療や癒しを考える上ではとても重要であると思うようになりました。これが私の臨床における全体性の視点であり、以前のような患者さんの全体を診るといった、狭い意味での全体性の視点とは大きく変わってきました。医療においては、このような要因がすべて関わっており、その中核をなすものが患者とのコミュニケーションです。今後は、医療現場での多大な影響を与えるコミュニケーションの重要性についてもっと理解を深め、来るべき大ホリスティック時代に向かって、さらに邁進していきたいと思っています。』

付記2サティア・サイババ

“サイババ”と聞いて「懐かしい~」と思う反面、「胡散臭いなぁ」という印象が根強くあります。しかし、イアンさんの体験を知ってその見方は間違っているのかもしれないと思うようになりました。少なくともサイババとはどのようなヒトなのか、その真実を知りたいところです。

そこで、まずはネット検索してみました。以下はその時見つけたサイトです。 

サティヤ・サイババの社会貢献・偉業:『2000年以降、サティヤは無料の学校や病院を建てたり、水道設備を整えるなど積極的に社会奉仕活動を行いました。』 また、サイババの葬儀は国葬として執り行われたそうです。

画像出展:「文藝・学術出版 鳥影社

ウィキペディアには次のようなことも書かれていました。

サイ・ババの逝去に際し、インド首相(当時)マンモハン・シンが以下のとおり声明を発表している。

『「サティヤ・サイ・ババ氏ご逝去の知らせを聞き、深い心からの悲しみにある。サティヤ・サイ・ババ氏は霊的指導者として、人類を、それぞれの信じる宗教を守ったまま、正しく、また意義のある生き方へと導いてきた。氏の教えは真実、正しい行い、平和、愛、非暴力という、普遍の理念に基づくものだった。

サティヤ・サイ・ババ氏は50数年の間、人間の最高の価値(ヒューマン・バリューズ)を説いてきた。また(サイ・ババ氏が生まれ、また生涯を過ごしたプタパルティの)プラシャンティ・ニラヤムを本拠に、世界中に散らばる幾多の機関を通じ、平和主義的価値観、教育、そして公衆衛生を振興することで、人々の崇拝を受けてきた。

氏が信じてきたこと、それは、生活の維持のための基本的要件を誰もが享受できる社会を確保することは、人としての義務であるということだった。信奉する人々にとって、サイ・ババ氏は光となった。

サティヤ・サイ・ババ氏の逝去は、何にも代え難い喪失を意味し、インド国民全員が深い嘆きに包まれている。全ての信者、門弟、支持者に、心からのお悔やみを申し上げる。」』

こちらの本は、先にお伝えした鳥影社さまのサイトに紹介されていた“理性の衝撃”という本です。大変迷ったのですが思い切って購入しました。

著者:ビジェイ弘詩

出版:鳥影社

発行:2015年3月

今まで宗教に興味を持ったことがない私にとって、この本の内容の多くは受け入れ難いものでした。その中で「この指摘は鋭い!」というものがありました。サイババの奇跡とは何か”、これがそのタイトルです。 

なお、念のためですが、これはサイババ自身の言葉ではなく、著者であるヒジェイ弘詩氏のお話です。 

ヤハウェであり、天之御中主神であり、アッラーでもあるサイババは、インチキと言われている物質化現象でも有名ですが、ここではサイババの奇跡の本質を述べます。

サイババの心は太陽のごとく、どこまでも清く正しく美しい。しかしサイババの奇跡は、サイババの奇跡の本がウソであると思えるほど少ないのです。確かに病気でも仕事面でも事故の面でも奇跡はあるのですが、仮に病気を例に取ると、サイババに奇跡を求める信者の百人に一人も奇跡は起きていないのです。

実は、サイババ信者が大変に困っているのは、本当はこのことなのです。

人間は過去においても現在においても、「救世主が出現した。神が出現した」というニュースを聞くと、もう世界中からたくさんの人間がウァーッと集まります。しかし、サイババを見てブスが美人になったり、抜けた歯が生えたり、顔などのシミやシワが消えたり、三億円の宝くじが当たるとか、出世や事業が群を抜いて良くなるとか、その他にいろんな良いことが起こったという話を私は聞いたことがありません。

また、ガンなどの難病も、私の目には、サイババはほとんど治すことを考えないように見えます。確かに、サイババの本を読むと難病の人が治った話がたくさんありますが、現実は需要の半分も奇跡は起きていません。私は思うのですが、この現実が、サイババへの不信感を抱かせる最大のものだと考えます。

サイババが創造主であり救世主であるとするならば、何故に、イエス・キリストも驚くほどの奇跡を起こさないのでしょうか。

遺伝病や原爆症などを除くと、病気の大半の原因はストレスにあるのではないでしょうか。病は気からと言うように、数多くの慢性疾患は不摂生とストレスが原因と思います。自分より他人の肉体が良く見えたり、自分のものよりも他人のものが良く見えたり、自分の命よりも仕事の方が上に見えたり、自分のエゴや会社のエゴや社会や国家のエゴによって人間関係や社会の秩序が壊れるとき、個人ばかりでなく、社会も病魔に侵されてしまうのです。

では、もしも慢性疾患にかかったときにはどうすれば良いのでしょうか。人間の病気を治す唯一の道は、この苦難とトラブルの多い人生では、何よりも、自分の肉体と精神に価値を置くことです。つまり仕事より肉体が大切である。仕事より精神が大切である。人間の肉体価値は百億円以上である。大企業の社長になることよりも、東大に合格することよりも、天下の美女を愛人にすることよりも、自分が美人やハンサムに生まれることよりも、もっともっと大切なことは、自分の肉体や精神を非常に大切にすることです。自分の胃や、肺、肝臓、脳や心臓などの内臓を、世界一大切にする決意を持つことです。どんなにボロボロな肉体であっても、どんなにズタズタな精神であっても、本人にとっては唯一のかけがえのないものです。全力で大切にする決意を持つべきです。肉体は神であると思い、大切に労わりましょう。自分の精神を大切にして労り、ストレスから解放してあげましょう。そして、自分の魂を燃やして悪因縁を断ち切るために、ガヤトリー・マントラ[ヒンドゥー教における最高峰のマントラ。マントラは宗教的には讃歌、祭詞、呪文などのこと]を唱えましょう。そして、漢方薬や栄養のあるものを飲みながら、医者の治療を受けましょう。

以上のことで理解いただけると思いますが、人間は自分の意志力で、頭の中に充満しているストレスを追い出す決意を持ったとき、自分のことや他人のことをどんどん許さなくてはいけないことに気づくと思います。嫌いな自分や情けない自分を許したとき、嫌いな他人や憎むでき他人を許したとき、人は自分の精神と肉体を世界一大切にするべきものであったと気づくのです。そしてこのとき、病気はその人間を許すと思うのです。病気は消滅するのです。

人間はこのような正しい精神で病気に対応すべきだと思います。あとは、太陽のエネルギーを大量に注入するために、ガヤトリー・マントラを数多く唱えて悪因縁を燃やしましょう。

ストレスは細胞膜を収縮させ、血管を収縮させます。すると細胞内の代謝が悪くなり、また体内での血行が悪くなり慢性病やガンになるのです。ストレスを取る目的で、毎日笑う習慣を持ちましょう。』

付記1で黒丸先生は、ポジティブな心の状態がもつ力を『心の治癒力』と表現されましたが、これを前(改善)に進めるもの(ドライバー)とすれば、ビジェイ弘詩氏の『正しい精神』というご指摘は、前に進める原動力(エンジン)のようなものであり、『心の治癒力』を最大化するための基礎になるようなものだと感じました。

ガンとホリスティック医学3

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

目次は“ガンとホリスティック医学1”を参照ください。

 

【ホリスティック医学】

西洋式三大療法に代替医療を併用

●『三大療法を中心とした西洋医学の治療法は、肉体に働きかける治療法です。代替療法は、精神や魂といった“場”に働きかける治療法です。このあたりをしっかりと把握して、今の自分にはどの治療法が適切か、どんな組み合わせが効果的か、患者さん本人を中心にして、医師や治療家、ご家族で話し合っていける環境が整えば、ガン難民などという悲しい言葉もなくなるのではないでしょうか。』

気功など中国医学への着目

西洋医学の限界を感じ、今のやり方で有効なものを生かしつつ、違った角度からもアプローチする必要性を感じ、中国医学に可能性を求めた。

●最も興味をもったのは気功である。特に肺ガンを手術で切除したあとの再発を予防するために用いられていることが多いようだったが、この話を聞いて、目の覚めるような思いがした。それは、術後の再発予防こそ、ガン治療にとって非常に重要なものだと感じていたからである。当時、術後の再発予防はほとんど行われていないに等しい状態で、経口の抗ガン剤や免疫療法薬、消化薬を体力回復させる薬だとか肝機能をよくする薬だと言って処方していた程度だった。本気で再発を予防しようという意気込みなど感じられなかった。生活指導の面でも、食事だけでなく、呼吸、運動、ストレスのことなど、毎日のライフスタイルについてまったく無関心だった。

●『私は気功こそ中国医学のエースだと感じ取り、書店で20冊以上の気功関連の本を買って帰国しました。そして、買い求めた書物をむさぼるように読みました。中国語の本など読んだことはありませんから、辞書を引きながらの悪戦苦闘の毎日でした。それでも気功の輪郭は見えてきました。

気功にはおびただしい種類があります。2400種類という人もいれば、3000種類と話してくれた方もいました。多分、正確な数が把握できないほどたくさんあるのだろうと思います。そんな数多くの気功に共通する要素があります。それは、「調身」「調息」「調心」の三つです。この三要素がそろっていれば、すべて気功といっていいのです。

調身とは、姿勢を整えるということです。具体的には、「上虚下実」という言葉が適当かと思います。上半身は力が抜けていて、下半身は力がみなぎった状態です。

調息とは、呼吸を整えること。東洋の呼吸法というのは吐く息を重視します。意識的に吐き、吸うときは自然に入ってくるのに任せる。そうした呼吸が身体をリラックスさせ、自然治癒力を高めるのです。

調心は、心を整えることです。言い換えると、揺るぎない心をもつことです。

この三つがそろっていれば気功だと知って、私はこれまで自分が親しんできた八光流柔術も調和道丹田呼吸法も楊名時太極拳も、みんな気功だったのだと気づきました。新しいことを習わなくても、今までやってきたことから始めようと思ったのです。』

人間丸ごと扱う医学を

●帯津先生の病院(帯津三敬病院)では、中国医学だけでなく、食事療法、心理療法、各種民間療法など、現在ではさまざまな治療を行っている。

「東洋医学は“場”の医学」

西洋医学と代替療法をうまく使い分けるには、それぞれの特徴を知る必要がある。

●東洋医学とは

帯津先生:”エントロピーの医学

『世の中の現象は、手を加えないと秩序がだんだんと乱れてきます。それがエントロピー増大の法則です。例えば、家の中を片付けないでいると、どうなるでしょうか。洋服やら本やら新分野ら、ホコリ、ゴミなどが散乱して、収拾がつかなくなってしまいます。どんどんと秩序がなくなってしまいます。これをエントロピーが増大している状態といいます。ですから、定期的に掃除をします。エントロピーを減らして秩序を取り戻しているわけです。人間の体も同じで、放っておけば、老廃物がたまり、細胞は老化して、秩序がなくなり病気しやすくなります。エントロピーが増大していくのです。

西洋医学は、エネルギーを注入して悪い奴らをやっつけてしまおうという医学です。それに対して、東洋医学は、体内の秩序を取り戻そうとする医学です。気功によって病気が良くなるのも、気がウィルスやガン細胞をやっつけてしまうということではなさそうです。本来、体に備わっている治ろうとする力(自然治癒力)を、気功が高めているように感じられます。

自然治癒力を高めるには、無秩序化している体や心に秩序を取り戻させなければなりません。つまり、エントロピー増大とは反対の方向に進ませる作用が、「気」にはあるのではないでしょうか。そういう意味で、私は、西洋医学はエネルギーの医学、東洋医学はエントロピーの医学という言い方をしたのです。』

清水 博 先生:“の医学

『「“気”は“場”の情報を伝達するものではないかと思っています」。

清水先生とのやり取りは、私にとっては大きな分岐点になりました。人間の体には“場”があり、“場”と“場”をつなぐ役割をしているのが“気”だと考えることで、私のやろうとしていることがとても簡潔に語れるようになったからです。

“場”は、現代物理学ですでに実証されています。ある限られた空間に、電気や磁気などの物理的な量が連続して分布しているものを一般に“場”といいます。電気が連続して分布していれば「電場」、磁気なら「磁場」、両方なら「電磁場」となるわけです。

体内にも、“場”があってもおかしくありません。体の中にも電気や磁気がありますから、電場も磁場も電磁場も存在しているはずです。さらに、現代医学では解明されていない物理量もあるはずです。例えば、気です。気が連続して分布している場を、私は「気場」と呼びました。こうしたさまざまな場が、体内に共存しています。これを全部まとめて、「生命場」と総称することにしました。

つまり、人間の体は生命場からできており、そこにさまざまな臓器が浮かんでいるというイメージです。』

メモ「ブラウン管テレビをたたくと直るのは、鍼のメカニズムに似ている?」

以前、こんなことを思ったことがありました。

おそらく、テレビ内にホコリなどが蓄積し、それが接触不良を起こしテレビの映りに影響を及ぼすのだろうと思います。壊れない程度に、ややイライラしながらバン!バン!とテレビを叩くと映るようになることもありました。

画像出展:「テレビログ

 

これは、帯津先生のお話に当てはめると、時間とともにテレビ内のエントロピーが増大し、バンバン叩くという行為により、ホコリが下に落ちて部品周辺のエントロピーが減少し直った(映った)ということだと思います。

バンバン叩くという行為(刺激)と、体に鍼を刺すという行為(刺激)を同様な行為とみれば、鍼刺激により体内の増大したエントロピーが減少し、元気になったというメカニズムは、「テレビをバンバン叩いたら直った」と同じ種の話のように感じます。

また、『人間の体は生命場からできており、そこにさまざまな臓器が浮かんでいるというイメージです』という帯津先生のお考えを、これを無理やり、人間=テレビ(筐体内空間)、骨=筐体、内臓=部品に置き換えて考えると、生命場は筐体内空間に存在するものということになり、筐体内空間に“ホコリ”が蓄積されたり、各部品が発する“熱エネルギー”が年月とともに筐体内空間に影響を与えるという事象は、少しずつ積り汚された生命場がそれぞれの内臓に影響を与え、また、調子の悪い内臓がその周りに悪さの連鎖をつくり、最終的に人間の健康を損なうということに通じるのではないかと思います。 

いのちの場」を高めるコミュニケーション

●医療でもっとも大切なことは「いのちの場」を高めることである。「こうした治療法で難病が治った」ということが強調されがちだが、「治る・治らない」と二極化して捉えるものではない。あくまでも、いのちのエネルギーを高めていくことが医療である。

医師と患者さん、家族や友人の気持ちが絡み合ったときには、そこにいい場が生まれる。戦略会議を開いて患者さんとのコミュニケーションを図るのも、お互いの信頼関係を深めて、場を高めていきたいと考えているからである。

●『驚くような回復を見せる患者さんを観察してみると、皆さんいい場に身を置いていることがわかります。いい家庭、いい職場、いい医療の場にいて、付き合う人も生命場を高めようという志をもった人たち。そのような環境にいると、自分の場が高まり、いのちのエネルギーも蘇ってくるのだと思います。』

●『病院の場を高めていくことは、急を要する課題である。医師だけでなく、看護師、薬剤師、技師、栄養士、事務関係など、病院にかかわるすべてのスタッフが、高い志をもち、意識をひとつにして場を高めていこうとする病院であれば、その場に身を置いた患者さん自身の場も高まっていく。そして、患者さんの場が高まっていくことで、病院の場もスタッフの場も高まっていくのである。』

サイモントン療法(「大事な家族のサポート」から)

●『サイモントン療法というガンの心理療法があります。ガンが縮小していくのをイメージしながら瞑想をすると、本当にガンが小さくなるという心の作用を利用した治療法です。この方法は、放射線医だったサイモントン博士が30年以上も前に提唱したものです。当時は、「そんな馬鹿なことがあるはずがない」と相手にされなかったようですが、次第に心と体の関係が明らかになってきて、今ではガンの心理療法として確固たる地位を確保しています。

前述したようにサイモントン博士は、年に二度はセミナーのために日本に来られます。そのたびに私の病院に寄ってくださって、患者さんに1時間ほどの講演をしてくださいます。その後、ビールを飲みながらうなぎを食べるのが、私にとっても、博士にとってもすっかりお気に入りのコースとなりました。

サイモントン博士のお話でとても印象に残っていることをご紹介します。「病を克服するために、いちばん大切なことは、必ず良くなると自分の心に決めることです。良くなるための鍵は自分のなかにあるのだから、ふたを開けて、これを取り出すのも自分です。決して他人がしてくれるわけではないということ、それをわかっていただきたいと思います。

一方で、目的を達成するための妨げになるのは、結果に執着することです。「良くなる」という気持ちは大切ですが、良くなろう、良くなろうとだけ思いつめていると、それが執着になってしまい、かえって結果を悪くしてしまうのです。それでは、執着しないためにはどうしたらよいか。それは良くなりたいと強く思うと同時に、いつでも死ねるという心の準備を進めておくことが大事なのです。

概要:『サイモントン療法は、米国の放射線腫瘍医で心理社会腫瘍医であるカール・サイモントン博士 ( O. CARL SIMONTON, M.D.)により開発された、がん患者さんとご家族(または支援者) のための心理療法です。 近年では、がんのみならず、ストレスに起因するさまざまな病気に対してサイモントンのプログラムが提供されています。

米国にて、学会認定の放射線腫瘍医として、がん治療の第一線で活躍していたサイモントン博士は、臨床で患者さんの治療を重ねるにつれ、診断と治療が同じでも、成果が出て健康を取り戻す患者さんと、全く成果が出ずに死を迎える患者さんとに分かれるという矛盾に直面します。

ここで、患者さんの精神・心理状態、またそれにともなう生きる姿勢が、病気や治癒の過程に影響を与えることを認識します。希望をもって治療や日常生活に取り組む患者さんと、絶望感に苛まれながらそうする患者さんとのあいだに、大きな回復の差を見たのです。その後、がんと心の関係に関する研究を行い、そのことを実証しました。』 

気功の利用

●『そんなことやっていられないよと思えるようなことを、コツコツとつみ重ねることでガンを克服する方はたくさんいます。

気功がそうです。まだまだ怪しげなものという目で見る人もたくさんいますが、気功は健康法や病気治療としての市民権を得たといってもいいでしょう。10年ほど前までは、「気功でガンを治そう」などと言ったら、ほとんどの人がばかにした笑いを浮かべる時代でした。そんなことやってガンが治るものかと、誰もが思っていたのです。もちろん、気功で末期のガンがまたたく間に消えてしまったということはありません。そんなことは、どんな治療法でもありえないことです。

気功は、毎日毎日、コツコツとやることで、何かが変わってきます。気持ちの持ち方が変わってきたり、体調の変化も起こってきたりします。それが、ガンの増殖を抑えたり、再発の防止になったりしているのです。気功も、決してうまくやろうと思う必要はありません。いちばん大切なことはときめきです。義務でやるのではなくて、心をときめかせながら、何か好きな気功をひとつ、コツコツとやっていくことが大切です。

素直になると、小さなことに心がときめくようになります。朝、起きて家族が大きな声であいさつしてくれたこと、鳥たちがたくさん鳴いていたこと、散歩道で小さな花を見つけたこと。そんなことで心をときめかすことができたら、心はときめきでいっぱいになります。小さな爆発が常に起こっている状態です。それがやがては大爆発になって、逆転ホームランが飛び出すかもしれません。』

ガンとホリスティック医学2

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

目次は“ガンとホリスティック医学1”を参照ください。

 

【ガンといかに向き合うか】

ガンほどミステリアスなものはない

●『こんなにも長い間[47年間]ガンとかかわってきて、どれくらいガンのことがわかったでしょうか。「ガンとはいったい、何者なのか?」。そういう質問をされたら、私はなんと答えるのだろうと、自問してみました。なかなか適切な答えが浮かんできません。そんなとき、ふと思い出したことがあります。

98(平成10)年に、ロンドンにある王位ホメオパシー病院を訪ねたときのことです。アン・クローバー先生というベテランの女医さんとお会いして、いろいろとお話をしました。上品で温かな雰囲気をもった方でした。彼女は、私と同じようにホリスティック医学を志してきました。一ヵ月後には定年で退職すると言います。これからも、ホメオパシーやホリスティック医学のことを教えていただこうと思ったのにとても残念でした。

私は、彼女に質問しました。「半生をホリスティックなガン治療に捧げて、今、ここを去るにあたって、何か心に思うことがあるのではないですか?」

彼女はやさしい目をしていました。私の質問を聞いた彼女は、やさしい瞳の中に、寂寥感(サキリョウカン)をともなった安堵の光を見せました。その目を見て、私は、この人は十分に戦い抜いてきたのだと思いました。

彼女は一呼吸おいて、こう答えました。「そうですねえ……。ガンほどミステリアスなものはない、ということでしょうか」

この一言に、私は思わず身を乗り出してしまいました。なんと的を射た言葉なのでしょう。ガンほどミステリアスなものはない。まったく同感です。「これだ!」と飛び上がりたいほど嬉しくなりました。ガンという病気はあまりにも複雑怪奇で、こういうものだと、ひと括りにできるものではないのです。

彼女は続けました。「だから、何をやってもいいんですよ」どんな治療法を採用してもいいという意味です。

世の中には、オーソドックスな治療法以外にも、さまざまな治療法があります。西洋医学の教科書に載っていないという理由だけで、それらの治療法を排除することなどないのです。

ガン治療にはマニュアルは存在しません。最先端の高度な治療を受けても治らない人がいるかと思えば、怪しげだとされている民間療法で劇的に治る人もいます。また、何もしないのに、自然に治ったという人もいます。「ミステリアス」これこそ、ガンを語るのにはもっとも適した言葉だと思います。

●『クローバー先生や私ばかりでなく、「ミステリアス」という表現こそ最高のガンの形容詞だという感覚をわかってくださる医師は決して少なくないはずです。現実をしっかり見据えながら、誠実にガンの治療に取り組めば取り組むほど、ガンのことがわからなくなってくるのです。ガンの患者さんが百人いれば百通りのガンがあると思えてきます。それくらい、ガンには個性があって、それぞれが予期せぬ方向に動くのですから、マニュアルなどつくれるはずがないのです。

こちらが王位ホメオパシー病院です。ホメオパシーに関する興味深い内容も紹介されています。なお、これはホメオパシー統合医療専門校さまの記事になります。

『英国におけるホメオパシーは180年以上の歴史を持ち、古くは王室御用達の健康法として貴族階級の間に広がり、現代では英国王室庇護のもと多くの国民もその恩恵を得ています。 国立のホメオパシー病院は英国各地に4つ(ロンドン、ブリストル、リバプール、グラスゴー)ある他、数多くのホメオパス達が活躍しております。ロンドンの中心地にある王立ホメオパシック・ホスピタル(The ROYAL LONDON HOMOEOPATHIC HOSPITAL)は、近年「Royal London Hospital for Integrated Medicine (統合医療の為の王立ロンドンホスピタル)」に改名され、ホメオパシーだけでなく、鍼灸やマッサージなどの伝統医療での治療が続けられております。』 

あてにならない余命宣告

●『ガンという病気は、自分が主体になって闘うことがとても大切だからです。ご紹介した症例でも[”ガンとホリスティック医学4“でご紹介します]、患者さん本人が、自分の状態を知り、自分でどういう治療を受けるか選んでいく中で、ガンとの上手な付き合い方ができるようになっています。』

「死」と「心」の問題

●『クローバー先生は、ガンはミステリアスだから、何をやってもいいんだとおっしゃっていました。何をやってもいいというのは、手当たり次第に、次から次へと治療法を渡り歩けということではありません。そうなったときは、負け戦です。

ホームズもポアロもコロンボも、足で歩き、たくさんの証言を集め、自分の頭で推理して、ときには直観を働かせ(実は、これが一番重要な要素ですが)、犯人を絞っていきます。決して、場当たり的に動いてたまたま犯人に行き着いたというのではないのです。

ガンの付き合い方も同じです。どうやったら治るかというマニュアルはありませんが、ガンとのかかわり方を考える上で、どうしてもおさえておきたいとても重要なものがいくつかあります。その中でも、もっとも大切なのは、「死」と「心」の問題です。まずは、「死」に対して目をふさがないということです。ガンという病気は、どうしても死を意識させられます。死の不安、恐怖で押しつぶされそうになります。できれば、死については考えたくないというのが大方の人の思いでしょう。しかし、冷静に考えれば、ガンに限らなくても、人は必ず死にます。だれもが、その法則からは逃げられません。

西洋医学は、死を敗北だと考えています。ですから、治癒の見込みのある患者さんは一生懸命に治療しますが、見込みがなくなった途端に医師は冷たくなってしまいます。治療法がなくなると病室に足を運ばなくなる医師もいます。それでは本当の医療はできません。死をも含めて、患者さんを診るのが医師の役割だと思います。

ガンになって人生が大きく変わったという人をたくさん知っています。生き方が変わり、ガンになる前よりも充実した毎日を送っている方もたくさんいます。死を意識したからこそ、生が変わってくるのです。生き方や生活が変わると、ガンに対する見方も変化します。それが治癒の力につながっていきます。死を見ないように遠ざけている間は、生き方も生活も変わりません。まずは、ガンになったのをきっかけに、必ずいつかは訪れる死について考えてみるくらいの気持ちが大切だと思います。

次が「心」です。心が安定していないと、どんなにいい治療法をもってきても、なかなか効果が出ません。心の問題は、死を考えることとも連動しています。死を見据えることは、心を安定させるためにもっとも大切なことです。

私は、ガン治療の基礎に心の治療をもってきます。例えば、サイモントン療法[“ガンとホリスティック医学3”でご紹介します]という心理療法があります。創始者であるサイモントン博士は、年に二度ほど、私の病院に来られて、一時間ほど患者さんに話をしてくださいます。彼は三十年以上、ガンと心の問題を研究し、患者さんたちがさまざまな“気づき”を得るワークショップを行ってきました。ガンという病気を通して、死を真正面から捉え、死を含めてどう生きるかを考えるという内容ですから、私の思っている死や心の問題と一致します。こういう同志がいることを、とても心強く感じます。

サイモントン療法に限らず、イメージ療法や音楽療法、カウンセリング、リラクゼーション、気功などで、患者さんの心を安定させることをやらない限り、次の治療は始まりません。

死をしっかりと見据え、心を安定させる。これさえできれば、道は自ずと開けていくと思います。ただ、これを一人でやるのは大変です。家族や医師、看護師、友人が、患者さんを支えるという態勢が必要です。

死や心については、とても重要なことですから、次章以降でも詳しく述べていきます。ここでは、治療法を探し回る前に、死と心という基礎をしっかりすることから始めるのが、ガンというミステリーを解くもっとも近い道ではないだろうかということを意識に刻み込んでいただければと思います。

希望が人間を支える

●『ガン治療に長くかかわってきて、「あなたの余命は三ヵ月です」と言われた人が、何年も元気で生きたということはいくらでもあります。はっきりしないことを決まっているかのように断言して患者さんの希望を奪ってしまう権利は、どんな優秀な医師にもありません。人間が生きていくうえで、希望ほど大切なものはありません。それは、元気なときも、病気のときも、死の淵にいるときも同じです。人は、どんなときでも希望に支えられているといってもいいでしょう。「あと三ヵ月の命ですから、好きなことをして生きてください」といった余命告知をする言葉に希望が見いだせるでしょうか。なかには、その言葉に奮起して頑張る人もいるかもしれませんが、ほとんどの人は希望を失い、生きる意欲もなくしてしまいます。

余命三ヵ月と言われた人が、医師の言うとおりに三ヵ月後に亡くなるというのは、多分に希望や意欲をなくしてしまった結果とも考えられます。余命を宣告されなかったら、さまざまな方法にチャレンジし、生きがいを見つけ出し、一年、二年と生きることができたかもしれません。

第一章で書いたように、ガンはミステリアスです。医師の知識や統計で語れるものはありません。前例にないことはいくらでも起こってくるのです。全身にガンが広がって、常識的にはあと三ヵ月かもしれないと思われる人がいたとしても、何が起こるかわからないのが、ガンという病気のミステリアスなところなのです。その何が起こるかわからない部分こそ、希望の種となるのだと思います。

“戦略会議”の内容

20年以上前から入院患者さんと一緒に“戦略会議”を行っている。主な目的は、会議の中で希望のエネルギーを充電してもらいたいためである。原則は1日に一人である。だいたい、入院してから1週間ほどたってから行っている。

●自分でこういう治療を受けたいという希望をもって戦略会議に出てこられる人は増えており、とても頼もしい傾向である。基本的には、危険や費用の問題がないものであれば、患者さんの意思を尊重している。そして試してみて、効果が出ないようだったら修正するようにしている。

●戦略会議でとても大切なのは、心のもち方についての話である。入院して1週間では、普通は心の揺れや不安、恐怖が強い。心が不安定なままだと、どんなにいい治療も期待通りの効果はなかなか出ない。そのため、患者さんの心の状態を聞き、どうすれば少しでも安定するか、心理療法を受けることも含めていといろと話をする。何かひとつでもヒントをつかんで頂きたい。

●経過のいい人はあまり心配ないが、検査値が悪くなっていたり、症状が辛くなっているときこそ、心のあり方をしっかりと見つめる必要がある。「人間は本来、悲しいものなんだよ」という話をする。悲しさを基礎において生きていれば、人は揺らがない。変に明るく前向きに生きようとするから、ちょっと検査値が悪くなっただけで、がたっと気落ちしてしまうのである。

大事な家族のサポート

●『患者さんの場を高めるうえで、病院や医療者の役割はとても大きなものがあります。もうひとつ大事なのが、家族のサポートです。

ガンという病気は一般的には「死」とセットにして考えられます。ですから、ガンだとわかると、仕事でも閑職に回されたり、まわりから腫れ物に触るように接してこられたり、孤独感や隔絶感を感じてしまいます。「自分はガンで会社からも必要とされない。」と思ってしまうと、気力が低下して、場のエネルギーも急降下してしまいます。その無力感からひとりで立ち直るのはとても難しく、家族の支えがどうしても必要になってきます。

サポートとは、基本的にはガンを相手に戦う戦友のような立場を維持することだと、私は思っています。

しぶとい明るさを身につける

●『人間には悲しくて孤独な存在だからと言って、毎日暗い顔をしていろというのではありません。無理に明るく前向きに生きる必要はないだけの話で、自然に明るく前向きになれれば大いに笑い、喜び、楽しめばいいのです。

人は誰もが不安をもって生きています。私も、不安や心配事を山ほど抱えています。しかし、そうしたなかにも、希望や生きがいは必ずあります。たとえ重症で寝たきりの人でも希望や生きがいをもっていて、それを達成しようと努力しているのです。そして、それが達成されたとき、小さなことであっても、心がときめきます。このときめきがとても大切なのです。

心がときめいていると、自然に明るくなります。心のときめきからくる明るさは、「明るく前向きに生きましょう」とお題目のように唱えて、不安や悲しみ、寂しさに覆いをかぶせてしまっている明るさとは違います。非常にしぶといのです。

私の病院にも、二種類の「明るく前向き」が見られます。はじめから「ガンになんか負けるものか。ねじ伏せてやる」という明るく前向きな人。そういう人は先ほど言ったように、ちょっと具合が悪くなるとがたっと落ち込んでしまいます。入院してきた当初は、ほとんどの人がこのタイプです。しかし、何度か落ち込み体験し、私の「人間は悲しく孤独なもの」という話を聞き徐々に生きる悲しみを理解してくると、いつの間にかしぶとい明るさを身につけることができます。

少々悪くなっても、「まあ、仕方ないね。いいときもあれば悪いときもあるよ」とニコニコ笑っています。それは、決して自分をごまかしている明るさではなくて、本心から出ている明るさなので、悪くなったことを伝える側もとても元気をもらえます。一時的に落ち込むことはあっても、短期間で笑顔を取り戻せる人たちです。

あとがき

●『ガンは体だけでなく、心にも生命にも深くかかわる病気です。だから、主として体を対象とする西洋医学だけをもってしては手を焼くのは当然で、ここはどうしても体、心、生命が一体となった人間丸ごとをそっくりそのまま捉えるホリスティック医学をもってしなければならないのです。

どうです。実は簡単なことではないですか。このことに気がつく人が増えれば増えるだけ、ガンは治りやすい病気になっていくこと請け合いです。

ご家族の病気のことでわずか六ヵ月間、ガン治療の現場をさまよっただけなのに、さすがは作家です。田口ランディさんは、ガン治療の問題点を鋭く衝いてきます。そのひとつ。西洋医学と患者、代替療法と患者、そして、西洋医学と代替療法の間に全く繋がりというものがない。三者がそれぞれ孤立している。これでは治療効果が上がるわけがない、というのです。その通りです。体だけでなく、心や生命に深くかかわる病気を治していくためには、当事者同士の心と心、生命と生命が繋がらなくては駄目なのです。いや、繋がるだけでいいのです。

この繋がりを中心に、47年間の想いのあれこれを書いてみました。ガン治療の場のエネルギーを向上させるために役立つことができれば、これ以上の喜びはありません。』

ガンとホリスティック医学1

帯津良一先生のことは以前から存じてあげていました。今回、やっとというか、ついにというか、先生の多くの著書の中から、「ホリスティック医学入門」という本で先生のお考えを勉強させて頂くこととしました。

著者:帯津良一

出版:角川書店

発行:2009年3月

なお、本題に入る前にネットで見つけた、“日本ホリスティック医学協会”のホームページをご紹介しています。余談ですが、歴史もありとても興味深い魅力的な協会だったので、やや衝動的ですが“入会”してしまいました。

協会概要:『本会は1987年に誕生した団体で、人々の健康の増進とホリスティック医学と健康の概念の普及をはかることを目的としている非営利団体です。平成15年にNPO法人としての認可を受け、ホリスティック医学に関心を持たれるすべての方に開かれた組織作りを進めています。現在、医師、薬剤師、看護師などの医療従事者をはじめ、各種療法家、セラピスト、研究者から健康に関心のある一般の方々まで、幅広い層の方々が入会されています。( 2016.8月現在、会員数約1,700人)』 

ごあいさつ:『20世紀、西洋医学が人間の身体性(からだ)を対象に、大いなる達成を果たしたあと、新しい世紀の到来とともに、身体性を超えて精神性(こころ)と霊性(いのち)にも注目する医学を待望する声が内外に高まってきました。ホリスティック医学は病というステージだけにとどまらず、生老病死から死の世界まで、まるごとを対象にしているため、代替もなければ統合もありません。医学とはいっていますが、ホリスティック医学とは”生き方”そのものなのです。これからは医療の現場にいる医者ばかりでなく、患者さんも含めすべての人々がホリスティックな医療を推し進める時代です。当協会では、人々が、よりよく生きられる社会をつくるために、医療・生活・社会における様々な分野で、ホリスティックヘルスを普及し人類の健康を推進する努力を続けてまいります。皆様のご賛同とご参加を心から期待しております。』名誉会長 帯津良一(帯津三敬病院名誉院長)

最も印象に残ったお話は、“「死」と「心」の問題”と“しぶとい明るさを身につける”です。この二つは、思うに、“ガンといかに向き合うか”ともいうべき内容のように思います。

ブログは4つに分かれているのですが、以下のようにグループ分けをし、目次(黒太字が取り上げた項目)には、これらのグループ名(副題)を明記しました。また、要点をまとめる形式と引用(『』)が混在になっています。

■ガンとホリスティック医学1:[ガン治療の現状と課題

■ガンとホリスティック医学2:[ガンといかに向き合うか

■ガンとホリスティック医学3:[ホリスティック医学

■ガンとホリスティック医学4:[ガン治療の症例

目次

第一章 マニュアルが存在しないガン治療

外科手術の限界

ガンほどミステリアスなものはない(2:[ガンといかに向き合うか])

迷走する治療現場

ガン難民の行方(1:[ガン治療の現状と課題])

ガンと上手につき合う人々

主体的な治療選択を

なぜ人はガンになるのか

ガン健診の利用法

あてにならない余命宣告(2:[ガンといかに向き合うか])

セカンドオピニオンのすすめ

西洋式三大療法に代替医療を併用(3:[ホリスティック医学])

「死」と「心」の問題(2:[ガンといかに向き合うか])

第二章 西洋医学を否定しない代替療法を

手術後も再発する患者さんたち(1:[ガン治療の現状と課題])

気功など中国医学への着目(3:[ホリスティック医学])

病院内に道場を作る

人間丸ごと扱う医学を(3:[ホリスティック医学])

柔軟な治療デザイン(1:[ガン治療の現状と課題])

「東洋医学は“場”の医学」(3:[ホリスティック医学])

「生命場」に働きかける治療法(3:[ホリスティック医学])

再発した骨肉腫を食事療法と瞑想、抗ガン剤で克服(4:[ガン治療の症例])

西洋医学の全否定は誤り(4:[ガン治療の症例])

フィリピンの心霊手術とインドのサイババ(4:[ガン治療の症例])

信頼できる外科医とは(4:[ガン治療の症例])

抗ガン剤の効果(4:[ガン治療の症例])

代替療法を受けるコツ(4:[ガン治療の症例])

霊的な目覚め(4:[ガン治療の症例])

治療方法は星の数ほど残されている

治療選択ミスは次の糧に

白隠禅師に学ぶ

第三章 医師と患者さんの徹底した“戦略会議”を

中国のガン治療の中心人物・辛育令先生に学ぶ

患者さんのエネルギーを高める演出

希望が人間を支える(2:[ガンといかに向き合うか])

ガンが三ヵ月で消失!

“戦略会議”の内容(2:[ガンといかに向き合うか])

「いのちの場」を高めるコミュニケーション(3:[ホリスティック医学])

大事な家族のサポート(2:[ガンといかに向き合うか])

[サイモントン療法](3:[ホリスティック医学])

食事から大地の“気”を体内に入れる

食事療法に必要な工夫

適量のアルコールは治療効果が大

まずは気功の場に身を置く

代替療法に医学的根拠は必要か?

患者さんの人生を反映させる治療を

第四章 もしガンを告知されたとしても

人間は「明るく前向き」には生きられない

自分の中の恐怖心や不安を認める

しぶとい明るさを身につける(2:[ガンといかに向き合うか])

生命のエネルギーに小爆発を起こす

逆転ホームランのチャンスを待つ

医療者の役割

気功の利用(3:[ホリスティック医学])

日常生活のときめき

娘の花嫁姿を見て亡くなった患者さん

夏目漱石の生き方に学ぶ

「生命場」のエネルギーを高める方法

第五章 生老病死を統合する生き方を

死後の世界に飛び込む

「死は医学の埒外」か?

楊名時先生に学ぶ理想的な死に方

「よろんで朽ち果て、万有の中に崩壊してゆく」

自らの死と対峙した患者さん

死について語り合える場を

人は死では終わらない

死を受け入れることの意味

年をとる意味

生きがいで肺ガンを克服した女性

「生老病死」を丸ごと捉える

自分だけの死の最高のタイミング

あるがままに生きる

あとがき(2:[ガンといかに向き合うか])

【ガン治療の現状と課題】

ガン難民の行方

●病院で見放された患者さん、いわゆる「ガン難民」は約68万人といわれている。

●ガン難民は代替療法に希望を求める。

●『代替療法とは、簡単にいえば、大学の医学部で習わない医療のことです。西洋医学以外の治療法といってもいいでしょう。』

●『手術や抗ガン剤がまだ有効な状態であるにもかかわらず、それを否定してしまうのは得策ではありません。大きなガンが局所的にあるなら、これを手術や抗ガン剤で小さくしてから代替療法で対処していくという方法も有力な選択肢です。

●『迷路から脱する方法があるとすれば、西洋医学の医師にも、代替療法をすすめている医師や治療家にも、そして患者さんにも「ガンはミステリアス」というクローバー先生の言葉を胸に刻んでいただくことです。』この「ガンはミステリアス」は帯津先生の最大級のメッセージですが、詳細は次回の“ガンとホリスティック医学2”の冒頭でご紹介します]

本書の発行は2009年ですが、ここに記載されていた“ガン難民”の数は約68万人というものでした。「現在はどれ位なのか?」と思い、ネット検索してみました。この1、2年ということでは良い情報はなかったのですが、いくつか興味深い情報がありました。

こちらは、2014年時点ということですが、“約100万人”というお話です。『「がん難民」という言葉の定義は様々ありますが、日本医療政策機構による「がん患者調査報告」によれば、治療説明もしくは「治療方針決定時のいずれかの場面において、不満や不納得を感じたがん患者を「がん難民」と定義した場合、その数は全国で100万人に達すると言われています。※2014年時点』

こちらは“なぜ「がん難民」は生まれる? 医師が指摘する2つの理由”というAERAdot(記事はAERA2015年9月7日号)にあったものですが、この中に「日本医療政策機構」の調査(2006年)によれば、そうした「がん難民」は推計約68万人いるといいます。ということが書かれていました。68万という数字は、こちらの調査データのようです。

こちらの”2人に1人は“癌難民”‐医療政策機構が調査”は、上記でご紹介した日本医療政策機構さまの調査に関する記事です(2006年12月)。

こちらは日本医療政策機構さまのサイトです。「サイト内検索」で“がん難民”を検索しましたが、情報は2010年までのようです。

手術後も再発する患者さんたち

●『これほどにまで医療技術が進歩しているのに、どうしてガンが治らないのか。私は、ガン治療の根本的な部分にメスを入れないと、ガンという病気には対処できないのではと考えるようになりました。』

西洋医学のガン治療はガンの病巣だけを相手にしており、病巣のガン細胞を取り去る治療である。

●ガン治療の問題は原因が残っているため再発リスクが排除できない点である。

●『西洋医学のガン治療は、ガンの病巣だけを相手にしています。手術は文字通り、ガンを切って取ることに専念します。放射線治療では、ガン細胞に放射線を当てて焼き殺そうとします。そして、抗ガン剤は、どうしたら効率的にガン細胞を殺せるかといったところに焦点を当てて開発されます。

特定の原因や病巣をターゲットにするという方法は、感染症に対しては素晴らしい効果を発揮しました。結核や腸チフスであれば、その原因となる病原菌を殺してしまう抗生物質を投与することで、患者さんは、それまでの医学からみれば奇跡と思えるような回復ぶりを見せたのです。

ガンも同じような発想で対処しようとしました。しかし、ガンは感染症と違って、原因が特定できません。つまり、攻撃するターゲットがはっきりしないのです。そこで、原因ではなく結果を追いかけ、ガン細胞を取り去る治療が進められてきました。しかし、結果をいくらいじっても、原因が残っているわけですから、一時的には良くなったように思えても、再発して病院に戻ってくる患者さんが後を絶たないのです。

私の専門である食道ガンでいえば、ガンで食道が塞がってしまい食べ物が入っていかないときには、手術でガンを切除してしまうのが急を要する治療でしょう。しかし、それは単なる緊急避難でしかなくて、根本的な治療にはなっていません。やがては再発してガン細胞が大きくなり、今度は手術でも抗ガン剤でも放射線でも歯が立たなくなってしまいます。ここで西洋医学の治療は終了です。手の施しようがありません。医師の口から出るのは、「もうこれ以上の治療法はありません。あとは緩和ケアへ移っていただいたほうがいいですね。」という寂しい決まり文句です。

そして、「余命〇ヵ月」という冷たい宣告をして、患者さんとのかかわりは終わりになってしまいます。そうした態度をよしとするのか、他にもっと方法はないかと患者さんや家族の方と一緒に可能性を探すのか、医療者としてのあり方が問われているのが、ガン治療の現状だと思います。

ただ、もっと何か方法はないかと探すといっても、西洋医学という枠の中で見回してみても、なかなか見つかるものではありません。西洋医学の枠を超えたところを探してみる必要があります。そこには、医学部で習ったり、上司や先輩から教えられたりした方法ではない、西洋医学にどっぷりとつかっている医師には違和感を感じるような方法がたくさんあります。そうした方法を、医学的ではないと切り捨ててしまうか、それとも可能性を感じ取るか。医師にとっても、患者さんにとっても大きな別れ道となります。

柔軟な治療デザイン

●大多数の医師は代替療法について否定的である。これは多くの場合、代替療法に興味がなく、知識もないためである。

●感染症や救急医療は西洋医学の得意とするところだが、慢性疾患に対しては一時的に症状を抑えることはできても、根本的な治癒をもたらすことは難しい。

ガン治療では、あるところまでは三大療法で可能だが、ここからは代替療法でやっていこうという発想がほしい。あるいは、併用することもできるはずである。

クレメジン®(慢性腎臓病の薬)2

出版:フジメディカル出版

発行:2013年4月

特集 見逃されてきたウレミックトキシン[尿毒症毒素]を再考する

―ウレミックトキシンは、心腎症候群のリスクファクターか

1.“ウレミックトキシンとは” 名古屋大学大学院医学系研究科 尿毒症病態代謝学 丹羽利充

2.“インドキシル硫酸の動脈硬化に及ぼす影響” 東京医科歯科大学大学院 先進倫理医科学 伊藤俊輔、吉田雅幸

3.“インドキシル硫酸による酸素代謝異常への影響” 東京大学大学院医学系研究科 鵜沢 智、大瀬貴元、南学正臣

4.“球形吸着炭:クレメジン®は心血管疾患を制御できるか” 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 器官病態修復医学(循環器内科学) 山口浩司、佐田政隆

今回のブログは、慢性腎臓病に深く関わるインドキシル硫酸の理解を深めるために、上記の4つの寄稿の中から、ブログに残しておきたいと思う個所を抜き出すということをしました。

注)結果的に”2”は入っていません。

1.“ウレミックトキシンとは” 

インドキシル硫酸の代謝

経口的に摂取した蛋白質が大腸内で加水分解され生成したトリプトファンが、大腸菌などによりインドールに代謝される。インドールは腸管から吸収され肝臓で酸化、硫酸抱合されインドキシル硫酸となって血中に放出される。正常では血中のインドキシル硫酸は腎臓から尿中に排泄されるが、腎不全ではインドキシル硫酸のクリアランスが低下し血清インドキシル硫酸濃度は著明に増加する。血中では約95%がアルブミンと結合しており血液透析によって除去されにくく、血液透析による減少率は約30%と低い、経口球形吸着炭(AST-120;クレメジン®)はインドキシル硫酸の前駆体であるインドールを腸内で吸着することにより、血清インドキシル硫酸濃度を低下させる(図1)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

インドキシル硫酸によるCKD進行

腎不全ラットにインドキシル硫酸、インドールを投与すると腎不全がより進行することから、インドキシル硫酸は腎不全の進行を促進するウレミックトキシンである。インドキシル硫酸はトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β1、メタロプロテアーゼ組織インヒビター(TIMP)-1、プロα1(Ⅰ)コラーゲンの発現を増加させ腎臓の間質線維化や糸球体硬化をきたす。また、有機アニオントランスポーター(OAT1、OAT3)を介して近位尿細管細胞に蓄積し、活性酸素種(ROS)の産生と抗酸化系の障害により尿細管細胞障害をきたし、間質の線維化を促進する(図2)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

さらに近位尿細管細胞において、ROS[活性酸素種]の誘導、NF-kB[炎症反応急性期の調節因子]の活性化、p53[がん抑制遺伝子]の発現を介して細胞化と線維化の促進、細胞増殖の抑制をきたし腎不全の進展を促進する(図3)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

また、尿細管細胞の上皮‐間葉形質転換(EMT)をきたし腎線維化を促進し、尿細管細胞による単球走化誘導蛋白(MCP-1)発現を促進、近位尿細管細胞においてSTAT3[がん遺伝子]のリン酸化を介してMCP-1、TGF-β1、平滑筋アクチン(SMA)の発現、NF-kBの活性化、細胞老化を促進する。さらに腎臓におけるKlotho[抗老化遺伝子]の発現を減少させ、細胞老化を促進する。その機序としてインドキシル硫酸は、近位尿細管細胞においてROS産生とNF-kBの活性化によりKlothoの発現を低下させる。

3.“インドキシル硫酸による酸素代謝異常への影響”

低酸素が尿細管間質障害をもたらす

近年、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)へのfinal common pathwayは尿細管間質領域の低酸素であることが広く知られるようになっている。

尿細管間質領域の低酸素は酸素の供給不足と需要過多の二つの大きな要因による。まずこの領域は、糸球体輸出細動脈の下流の尿細管周囲毛細血管(peritubular capillary)から酸素供給を受けるが、毛細血管の前後に動静脈シャントが存在するために、健常状態でも酸素分圧が低い。加えて、腎臓では酸素需要がもともと非常に高いため、需要と供給のアンバランスが生じやすく、腎臓は低酸素にさらされやすい(図1)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

すると腎機能の低下により酸素供給が低下し、さらにアンバランスが進む。尿細管周囲毛細血管網の減少、間質線維化による酸素拡散障害[酸素が血液中に拡散する過程で何らかの障害が生じる状態]、糸球体硬化による血流低下、レニン・アンジオテンシン系活性化などがその原因として報告されている。

尿細管間質領域の低酸素は、尿細管細胞の脱分化[既に分化した細胞が未分化の状態に変化すること]や線維芽細胞の活性化を引き起こし、さらに線維化を進行させることが報告されている。こうして尿細管間質領域の低酸素と線維化はvicious cycle[悪循環]を形成し、腎機能は増悪する。

インドキシル硫酸は酸素代謝異常から尿細管間質障害をもたらす

尿毒素が尿細管間質障害をもたらすメカニズムには不明な点が多いが、その機序の一つとして尿細管細胞における酸素代謝[代謝とは化学反応の二つ側面。一つは体内での物質の変化。もう一つはエネルギー発生と呼吸]が注目されるようになってきている。

前述のように低酸素による酸素代謝異常は、酸素供給不足と酸素消費量の増大という原因に大別される。図2に示すように酸素供給不足の原因としてはエリスロポエチン(EPO)産生抑制、酸素需要を増大させるものとして酸化ストレス、酸素消費量増大などのメカニズムが報告されている。また、酸化ストレスからの小胞体ストレスの誘導も最近報告されている。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

■ご参考:“「腎臓が寿命を決める」とは”(過去ブログ)

ほぼ中段にある「EPOによる赤血球の増産」では、エリスロポエチン(EPO)の作用をスライドショーでご紹介しています。

1)インドキシル硫酸は酸化ストレスを介して尿細管の酸素消費量を増加させる

Palmらは、我々の研究室との共同研究により、インドキシル硫酸が酸素消費を増大させ尿細管間質障害を引き起こすことを示した。

ヒトおよびラットの尿細管細胞にインドキシル硫酸を投与すると、ベースラインと比べて有意に酸素消費量が増加したが、NADPHオキシダーゼ[活性酸素の産生に関わる酵素]を阻害すると酸素消費量は上昇せず、Na+-K+-ATPアーゼ[ナトリウム-カリウムポンプ]を阻害しても同様の結果であった。したがって、インドキシル硫酸は、Na+-K+-ATPアーゼおよびNADPHオキシダーゼによる酸化ストレスを介して尿細管細胞での酸素消費を増大させることが明らかとなった。

次に、5/6腎摘ラットを用いた実験では、偽手術群に比べ血清インドキシル硫酸濃度が有意に増加し球形吸着炭で改善していた。酸化ストレスマーカーのニトロチロシンの組織染色や低酸素マーカーのピモニダゾール染色もインドキシル硫酸濃度と同様の推移を示した(図3)。このことより、インドキシル硫酸はin vitroでもin vivoでも尿細管細胞で酸素消費量を増加させ、低酸素から尿細管間質障害をもたらしたと言えた。 

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

2)インドキシル硫酸はEPO産生を抑制し酸素供給を低下させる

我々の研究室のChiangらは、インドキシル硫酸がHIF(hypoxia-inducible transcription factor)[低酸素誘導因子:細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されてくるタンパク質]依存的にEPO産生を抑制することを示した。

ヒト肝細胞癌細胞であるHepG2に低酸素を誘導するとEPOのmRNA発現が上昇しHIF-αが細胞質内から核内に移行するが、インドキシル硫酸を加えると核内移行が有意に抑制され、転写活性も同様に抑制された。

ラットにHIFを安定させる塩化コバルトを投与するとEPOのmRNA発現、血清濃度が上昇するが、インドール投与により血清インドキシル硫酸濃度が上昇すると両者とも有意に低下した。

したがって、インドキシル硫酸はHIF-αの核内移行を抑制することでEPOの発現を抑制し、酸素の供給不足をもたらすことが示された。なお、末期腎不全患者の腎性貧血では硫酸が関与している可能性も示唆される。

3)インドキシル硫酸は酸化ストレスから小胞体ストレスを惹起する

我々の研究室のKawakamiらは、インドキシル硫酸が小胞体ストレスマーカーのCHOP(C/EBP homologous protein)の発現を上昇させることを示した。

ヒト尿細管上皮細胞であるHK-2にインドキシル硫酸を加えたところ、濃度依存的にCHOPの発現が上昇していた。5/6腎摘ラットを用いた実験では、偽手術群に比べ有意にCHOP発現が上昇し、5/6腎摘+球形吸着炭群では有意に発現が低下した(図4)。 

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

また、HK-2にインドキシル硫酸を加えるとCHOP発現が有意に上昇するが、そこにN-アセチルシステインを投与するとCHOP発現は有意に低下した。

したがって、インドキシル硫酸は酸化ストレス[酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用]を介して小胞体ストレス[変性タンパク質が蓄積することによって引き起こされる現象]を引き起こす。これは短期的には酸化ストレスに対する応答と考えられるが、長期的には細胞障害をもたらすと考えられている。

まとめ

インドキシル硫酸は、尿細管細胞において酸素消費を増大させること、EPO産生抑制から酸素供給を低下させること、酸化ストレスを介して小胞体ストレスを誘導することなどがわかってきており、インドキシル硫酸による酸素代謝異常が尿細管間質障害をもたらすメカニズムの一つとして重要であることが明らかになってきた。しかし、尿毒素が尿細管間質障害をもたらすメカニズムはまだ不明なことが多く、今後の研究の発展が期待される領域である。

4.“球形吸着炭:クレメジン®は心血管疾患を制御できるか”

はじめに

腎臓障害に伴う心臓障害の発生、いわゆる心腎連関が大きな関心を集めているなかで、慢性腎不全で蓄積する尿毒症毒素(uremic toxin)の存在が注目されている。血管内皮障害や酸化ストレスを介した臓器障害の原因と考えられているインドキシル硫酸(IS終末糖化産物(AGEs)[タンパク質と糖が加熱されてできた物質。強い毒性を持ち老化を進める]非対称ジメチルアルギニン(ADMA)[一酸化窒素生成酵素の内因性阻害物質]の存在が重要と考えられており、そのなかでも血中IS濃度を低下させる球形吸着炭(AST-120;クレメジン®)は、尿毒症症状の軽減や透析導入の遅延が期待できる治療薬として発売された。近年、心血管疾患の抑制にも有効であることを示唆するデータが報告され、腎臓だけでなく心血管に対する作用も注目されている。本稿ではuremic toxinと動脈硬化の関連性、球形吸着炭の作用および動脈硬化に対する球形吸着炭の効果について概説する。

■ご参考:“「閃く経絡」(心と腎)”(過去ブログ)

西洋医学の心臓と腎臓、東洋医学の心と腎について書いています。

クレメジン®(慢性腎臓病の薬)1

患者さまより、「クレメジン」という慢性腎臓病の薬があることを教えて頂きました。

「そんな薬があったんだ!!」という感じです。とても驚きました。

自宅に戻って、調べてみるとこの薬はクレハさまが開発、製造販売され、田辺三菱製薬さまが販売および医療機関への情報提供活動されていることが分かりました。

『クレメジン®は、クレハが開発した高純度の多孔質炭素からなる球形微粒状の経口吸着薬で、慢性腎不全における尿毒症毒素を消化管内で吸着し、生体内に吸収されずに便とともに排泄されることで、慢性腎不全保存期における尿毒症症状の改善や、透析導入に至るまでの期間を延長する世界で初めての慢性腎不全用剤です。』

画像出展:「田辺三菱製薬ニュースリリース

左の写真をクリック頂くと、田辺三菱製薬さまのサイトに移動します。上段メニューバーの左端は“患者さん・ご家族の皆さま”、そしてその右隣は“医療関係者の皆さま”となっています。ここでユーザが限定されてしまうため、全ての方が利用できるわけではないのですが、“医療関係者の皆さま”であれば、登録することで「Medical View Point(医療関係者向け情報)」に入り、色々なコンテンツにアクセスすることができます。

クレメジンについては、「クレメジンの特性・臨床成績などはこちら⇒」や「クレメジンチャンネル」(“クレメジン速崩錠開発物語”、“クイズで押さえる慢性腎不全治療”、“国内外のエキスパートによる座談会集”etc)などがあり、興味深い情報に接することができます。

“医療関係者の皆さま”というユーザ限定されたサイト内の情報をお知らせするのは適切ではないと思いますが、特に、聞きなれない「速崩錠」についてご紹介したいので、“総合製品情報概要”の中の“開発の経緯”についてのみ、触れさせて頂きたいと思います。なお、小文字で書かれた[ ]私が追記したものです。

『クレメジン®は、呉羽化学工業(株)(現株式会社クレハ)により開発された慢性腎不全用剤で、高純度の多孔質炭素からなる球形微粒状の経口吸着剤である。慢性腎不全時の尿毒症毒素(uremic toxins)の除去は、疾患の進行抑制や病態の改善に有効と考えられている。1964年以降いくつかのグループにより、粉末チャコールなど吸着剤の内服で、これらの毒素を消化管内で吸着除去しようとする考え方が提唱された。わが国でも薬用炭や酸化デンプン等吸着剤の投与が試みられたが、結果的には明確な効果が得られなかった。 呉羽化学工業(株)は、1975年より医療用途に適した経口吸着剤の開発を開始し、炭素吸着剤の体内吸収を必要とせずに消化管内に存在する有害物質を吸着して、便とともに排泄させるというメカニズムに着目した。そこで、1)従来の炭末で問題となった服用困難・便秘作用を軽減する 2)生体内毒素の成分と考えられ、炭末では吸着されにくいイオン性有機物に対する吸着力を高める 3)炭末で吸着されやすい消化酵 素に対する吸着力を低下させることなどを目的として、原料・製造方法を含めて検討を重ねた。その結果開発された「クレメジン ® カプセル」は、進行性の慢性腎不全患者の尿毒症症状の改善及び透析導入遅延効果が認められ、1991年10月に承認を得て発売を開始した。その後、1,865例の使用成績調査結果をうけて再審査を申請し、あらためて臨床的有用性が認められた(再審査終了:1998年3月)。 しかし、服用カプセル数が1日30カプセルと多いため、服用コンプライアンスが守られないことが多く、実際、使用成績調査において1日平均30カプセルを服用した症例は全体の約半数であった。このような事実から服用ボリュームの低減等に配慮した製剤開発を行い、2000年2月追加剤型としての散剤(細粒)「クレメジン ® 細粒」の承認を得た。 さらに、2017年8月、独自の製剤技術により服薬ボリュームを大きくすることなく、また、少量の水で速やかに崩壊し口腔内での拡散を抑える追加剤型「クレメジン® 速崩錠」の承認を得た。

続いて、クレメジンに関する本や専門雑誌を探してみました。

そこで見つけたのが、フジメディカル出版さまが発行されている、“腎・高血圧治療の今を伝える専門誌”とされる『腎・高血圧の最新治療』という専門誌です。“2013年4月10日発行”なので新しいとは言えないのですが、内容(“クレメジン®を取り巻く腎保護効果に関する最新エビデンス”)が魅力的であったのと、このような専門誌を見てみたいという思いがあり購入しました。

なお、ブログは思っていたより長くなってしまったため2つに分けました。

出版:フジメディカル出版

発行:2013年4月

クレメジンを取り巻く腎保護効果に関する最新のエビデンス

大阪大学大学院医学系研究科 腎疾患統合医療学寄附講座 椿原美治

はじめに

わが国における慢性腎臓病(CKD)患者数は1,330万人に達し、成人の8人に1人がCKDと考えられる。このうち、慢性透析療法に導入される患者数は年々増加し、2011年には約3.9万人に達し、維持透析患者数が初めて30万人を超え、医療経済的観点からも重要な課題となっている。

透析導入患者の主要原疾患としては、糖尿病性腎症(44%)、慢性糸球体腎炎(20%)、腎硬化症(12%)が挙げられる。またCKDは心・血管合併症(CVD)の大きなリスクファクターであり、ステージが進むほど高リスクとなることから、早期発見、早期治療によるCKD対策が重要な課題となっている。一方近年の様々なエビデンスから、CKDに対する生活習慣の改善や薬物療法による集学的治療の有効性が報告されている。

わが国では、経口剤であるAST-120(クレメジン®、球形吸着炭)は尿毒症症状の抑制、透析導入の遅延効果がランダム化対比試験で証明され、1991年に市販された、以降、腎保護のみならず、CVD抑制効果やその機序に関しても報告され、再注目を集めている。

本稿では、球形吸着炭の腎保護効果を中心に、最近のエビデンスについて概説する。

1.球形吸着炭の特性と作用機序

CKDの進展促進作用を示す尿毒症毒素の代表的な物質として、インドキシル硫酸(ISがある。経口摂取した蛋白質の中で、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンは大腸内で、主に大腸菌によるインドールに変換され、腸管で吸収された後、肝臓において硫酸抱合[薬物を異物とみなして排出しようとする薬物代謝の一つ、親水性の分子に付加される反応のこと]を受けISとなって尿中に排泄される。CKDの進行に伴って尿中排泄が減少し、CKDの早期から血中濃度が上昇し、ステージが高くなるほどISの血中濃度が指数関数的に上昇することが知られている。血中ではISの大半がアルブミンと結合しており、糸球体からは濾過されず、尿細管細胞に存在する有機酸トランスポーターによって能動的に尿細管腔に排泄される。ISが尿細管細胞を通過する際に尿細管細胞が傷害されると、TGF-βなどのサイトカインが活性化され、尿細管間質病変を進行させると考えられている。球形吸着炭は、球形微粒多孔質炭素からなる経口剤であり、腸管においてインドールを吸着し、糞便に排泄することで、ISの血中濃度および尿中排泄量を低下させることによって腎保護効果を発揮するとされる(図1)。

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

2.CKDの進展抑制以外の知見

我々が実施したCKDの進展機序およびその抑制に関する基礎・臨床研究において、ISが動脈硬化の進展に及ぼす作用メカニズムや球形吸着炭の臨床的有用性などに関する様々な知見が得られている。

IS投与前後の血管平滑筋細胞(VSMCs)の変化を検討した基礎研究では、ISは血小板由来増殖因子(PDGF)-β受容体を介してVSMCsの遊走・増殖を誘発し、この過程には活性酸素が主要な役割を果たしていることが示された。このようなプロセスを経て、ISは動脈硬化性に作用することが臨床的にも確認されており、球形吸着炭の動脈硬化に伴うCVD発症抑制、さらには急増している動脈硬化性腎硬化症による腎不全の進行抑制効果が期待される。

慢性腎不全病態では様々なアミノ酸代謝異常[アミノ酸代謝に関わる酵素の異常を原因として毒性物質の蓄積あるいは必要なアミノ酸の欠乏をひきおこすこと]が栄養障害の要因であることが知られている。特に血中トリプトファン(TRP)濃度が極めて低下しており、栄養障害の大きな要因と考えられている。我々は、ISが血漿アルブミンとTRPの結合を用量依存性に阻害することをin vitro[試験管内の]研究において示した。この結果を踏まえ、慢性腎不全患者に球形吸着炭を2カ月間投与した結果、投与後アルブミンとTRPとの結合能が改善し血中TRP濃度が有意に上昇することを報告した。球形吸着炭による栄養改善効果が認められているが、単に食欲の改善効果のみならず、必須アミノ酸であるTRP代謝の改善効果を介する機序が明らかとなった。

3.CKDの進展抑制に関する最近の知見

先述したISの尿細管細胞傷害の機序から考えると、ネフロン当たりのIS負荷量が重要である。一方、糸球体濾過量(GFR)とネフロン数は比例せず、片腎を摘出してもGFRが80%に維持されるがために生体腎移植が可能である。5/6腎摘ラットでもGFRは50%を維持されるが、ISのネフロン当たりの負荷量は6倍でありCKD患者ではステージ3ではすでにISの腎障害が加速されていると考えられる。このような事実から、球形吸着炭の臨床治験の対象となったCr値が5mg/dL以上のステージ5より早期に使用する効果の実証が必要である。そこで我々はGFRが20mL/分以上(20~70mL/分)の進行性CKD患者43例を対象に、従来治療に加えて球形吸着炭を併用した群(併用群)としない群(非併用群)に無作為に割り付けGFRの変化をみたところ、1年後における治療開始時からのGFRの低下は球形吸着炭併用時群では有意に遅延したのに対し、非併用群では有意な遅延は見られなかった。またImaiらは、3/4腎摘ラットという軽度の腎不全モデルを用い、球形吸着炭とACE阻害薬および蛋白制限食との併用は、ACE阻害薬と蛋白制限食のみよりも有意に腎保護作用を有することを報告し、従来より早期の使用がより長期の臨床効果をもたらすことが示唆される。

4.球形吸着炭の国内外の臨床エビデンス

球形吸着炭の臨床的有用性に関しては、国内外の臨床研究において数多く報告されている。国内41施設241例のCKD患者を球形吸着炭4.2gで開始し、2週後に6.0gに増量する群(球形吸着炭群、122例)とプラセボ群(119例)に無作為に割り付け、24週間追跡した二重盲検第Ⅲ相試験の結果では、全般改善度、有用度、1/Crの時間変化の改善度、症状改善度のいずれも、プラセボ群に比べ球形吸着炭群では有意な改善が認められた。また、副作用の発現、臨床検査値は両群に差を認めず、慢性腎不全の進展抑制および尿毒症症状の改善に有効で安全性も高く、有用な薬剤であることが示されている。

一方、国内75施設460例の血清クレアチニン(sCr)値5.0mg/dL未満の中等症~重症CKD患者を、低蛋白食+降圧薬投与(従来治療群)または従来治療+球形吸着炭併用(球形吸着炭併用群)の2群に無作為に割り付け、「sCrの倍化、sCr値≧6.0mg/dL、透析導入・腎移植の導入、死亡」の複合エンドポイントを1次評価項目として1年間追跡した結果では、エンドポイントに達する症例が予想以上に少なく、両群間に有意差は認められなかったが、球形吸着炭併用群のeGFRの低下速度は従来治療群に比べ有意に緩徐であり(図2)

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

早期腎不全患者での球形吸着炭の腎保護作用が証明された。

一方、米国29施設においてsCr値3.0~6.0mg/dLの中等症~重症CKD患者を対象に、球形吸着炭の用量別(2.7g、6.3g、9.0g/日)の腎保護効果を検討し多施設無作為割り付け二重盲検プラセボ比較第Ⅱ相試験の結果、球形吸着炭は用量依存性に血清IS値を抑制し(図3)

画像出展:「腎・高血圧の最新治療」

倦怠感を有意に改善するなどの有効性とともに、いずれの用量においても高い忍容性が示された。

2012年の米国腎臓学会で結果が発表され注目を集めるEPPIC1、2 study(a study of AST-120 for evaluating prevention of progression in chronic kidney disease)は、13カ国211施設において、中等症から重症のCKD患者2,035例を対象に球形吸着炭の有効性・安全性を検討したプラセボ対照無作為二重盲検比較試験である。1次評価項目は、「sCr倍化、透析導入、腎移植」の複合、2次評価項目は「1次評価項目+死亡」である。その結果、1次・2次評価項目に有意差は認められなかったが、post-hocサブグループ解析では、尿中蛋白/クレアチニン比≧1.0g/gCr、血尿陽性の進行性患者で、かつ服薬コンプライアンス率が80%以上の患者群では有効性が認められており、従来より軽症慢性腎不全の適応患者の選択やコンプライアンスの向上に工夫を要することが必要である。

まとめ

CKD患者において透析導入遅延、および尿毒症症状改善効果を有する球形吸着炭について、近年の基礎・臨床研究によってその機序が次第に明らかになりつつある。また、臨床成績においても球形吸着炭は、CKDの進行リスクの高い患者に、より高い有用性を発揮する可能性が示唆されており、このような患者群を対象とした今後の検討が期待される。

以上が、“クレメジンを取り巻く腎保護効果に関する最新のエビデンス”です。エビデンスの現状(2013年当時)についてはおおよそ理解できたのですが、消化不良の感が残りました。これは尿毒症毒素の代表的な物質であり、特に原因物質として主役となっているインドキシル硫酸(IS)についての知識がとても薄っぺらいものだからだと思います。

幸い、手に入れた専門誌は上記の“クレメジンを取り巻く腎保護効果に関する最新のエビデンス”以外に4つの寄稿があり、これらは全てインドキシル硫酸(IS)に関する内容を含んでいます。そこでこれらの寄稿を拾い読みし、ブログに残しておきたいと思った個所を抜き出すことにしました。

その内容は次回とさせて頂きますが、4つの寄稿の題名と寄稿された先生は下記のとおりです。

特集 見逃されてきたウレミックトキシン[尿毒症毒素]を再考する

―ウレミックトキシンは、心腎症候群のリスクファクターか

1.“ウレミックトキシンとは” 名古屋大学大学院医学系研究科 尿毒症病態代謝学 丹羽利充

2.“インドキシル硫酸の動脈硬化に及ぼす影響” 東京医科歯科大学大学院 先進倫理医科学 伊藤俊輔、吉田雅幸

3.“インドキシル硫酸による酸素代謝異常への影響” 東京大学大学院医学系研究科 鵜沢 智、大瀬貴元、南学正臣

4.“球形吸着炭:クレメジン®は心血管疾患を制御できるか” 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 器官病態修復医学(循環器内科学) 山口浩司、佐田政隆

腎疾患における活性酸素

ご来院頂いた腎臓病の患者さまの多くは、クレアチニン値が3点台~5点台です。成果は改善される患者さま、ほぼ現状維持の患者さま、数値の悪化が止まらない患者さまと個人差があります。まだまだ、分母(患者数)は多くありませんが、「鍼治療で改善される可能性があります」というのが当院の実績に基づく、実状です。

一方、腎臓病に限りませんが、生活習慣の改善が健康にとって重要であることは明らかです。鍼治療よる効果には個人差があるわけですが、すべての患者さまにとって「鍼治療と生活習慣の改善は両輪である」と考えています。

以下の表を参考にすると、生活習慣の中では、古典的危険因子の中の“喫煙”、“運動不足”と非古典的危険因子“睡眠障害”の3つが最も重要な改善点ということになります。

また、この表は2017年の日本内科学会雑誌 106巻7号に掲載されていた『医学と医療の最前線 酸化ストレス処理機構と腎障害』"1.腎機能が低下すると酸化ストレスが亢進する"の中で紹介されているものです。内容は非常に高度で理解困難なのですが、キーワードの“酸化ストレス”について書かれているため全文をご紹介します。

『腎機能障害はなぜCVDの危険因子なのだろうか。腎機能低下者ではCVD危険因子の保有状態が他のpopulationとは異なっているのではないか、と考えられている。一般に、CKD患者には従来から確立されている古典的危険因子(traditional risk factor)以外の危険因子(非古典的危険因子:nontraditional risk factor)が集積しているとのではないかと提唱されている(表)。Nontraditional risk factorの中でも酸化ストレスNO[一酸化窒素]産生異常は、CKDにおける高いCVD合併率を説明し得るprimary mediatorあるいはmissing linkと目されている。腎不全患者での酸化ストレス亢進、血管内皮機能障害については数多くの報告がある。中等度腎機能障害患者および透析患者において、前腕動脈の内皮依存性血管拡張反応の低下が示されている。腎機能が低下すると内因性NOS(nitric oxide synthase)阻害物質であるasymmetric dimethyl- arginine(ADMA)が増加することが報告されている。ADMAはarginineのメチル化により産生され,細胞内への取り込みやNOSの基質として l-arginineの競合的阻害物質として作用する。腎機能障害患者では血漿ADMA増加、l-arginine低下が報告されている。』

画像出典:「医学と医療の最前線 酸化ストレス処理機構と腎障害」

酸化ストレスに注目するのは、酸化ストレスを多量に発生させる要因に“ストレス”があり、腎臓病では一般的に問題ないとされている飲酒も、“暴飲暴食”の域に入ると多量の酸化ストレスが産生されるため、可能な限り避けて頂きたい行動だからです。 

こちらは、岐阜大学 科学研究基盤センター 共同研究講座 抗酸化研究部門さまのサイトにある“「酸化ストレス」とはどんなものか?”というページです。その中に次のような説明があります。

我々のまわりには、紫外線や喫煙、自動車の排気ガスなど、活性酸素の発生量を増やす因子があふれています。精神的、肉体的なストレスが高まっても、大量のアルコールを摂取しても、糖質を取り過ぎても、活性酸素は増えます。仕事が忙しくて睡眠時間が足りない、やけ酒を飲む、暴飲暴食・・・こうしたストレスが続くと、我々の体に備わった抗酸化システムの処理能力をオーバーしてしまいます。すると、活性酸素の悪い面が表に出てきて、体が酸化ストレスにさらされますこうした状態が続けば、老化を早めたり、さまざまな病気の因子を増やしたりと、あまりいいことはありません。酸化ストレスの影響をできるだけ減らす生活を心がけたいものです。』

そして、酸化ストレス・活性酸素と腎臓の関係を詳しく知りたいと思い、県内の図書館で見つけた本が次の『抗酸化の科学』になります。

編者:河野雅弘、小澤俊彦、大倉一郎

発行:2019年8月

出版:化学同人

目次は大項目と中項目のみのご紹介になります。

目次

Overview 抗酸化物質の歴史と概観

第Ⅰ部 活性酸素種の科学

第1章 活性酸素およびフリーラジカルによる酸化ストレス傷害のしくみ

第2章 酸化ストレス反応を引き起こす無機媒体の役割

第3章 活性酸素およびフリーラジカルを生成させる物理的・化学的な因子

第4章 生体内への酸素の取り込みと排出のしくみ

第5章 酸化ストレス反応を引き起こす活性窒素種の役割

第Ⅱ部 抗酸化反応の測定

第6章 活性酸素およびフリーラジカルの計測方法

第Ⅲ部 活性酸素種および活性窒素種の反応と制御

第7章 活性酸素種および活性窒素種の発生系

第8章 生体内で活性酸素および活性窒素の発生する酵素系

第9章 酸化ストレス傷害を制御する抗酸化酵素の性質と機能

第Ⅳ部 酵素活性種の制御と医療への応用

第10章 活性酸素およびフリーラジカル障害を抑制する医薬品

第11章 活性酸素および活性窒素で引き起こされる病気

第12章 予防医学:酸化ストレス傷害を予防する食事の摂取

第Ⅴ部 天然由来の抗酸化物質

第13章 酸化ストレス反応を抑制する抗酸化物質:必須ビタミンの役割

第14章 青果物のもつ抗酸化能についての考察:活性酸素消去活性

あとがき

ブログは、「第11章 活性酸素および活性窒素で引き起こされる病気」の中の「腎疾患における活性酸素」、そして「第13章 酸化ストレス反応を抑制する抗酸化物質:必須ビタミンの役割」の中の「ビタミンEと老化および疾患」の2つをご紹介したいと思います。

なお、以下の図は“活性酸素種”と“酸化ストレス”、“抗酸化物質”の位置づけを示すもので、例えは良くないのですが、活性酸素種は鉄砲、酸化ストレスは実弾、抗酸化物質は鉄砲を収める(抑制する)ケースというイメージです。 

画像出典:「日本老化制御研究所

こちらは厚生労働省が運営しているe‐ヘルスネットの“活性酸素と酸化ストレス”に関する記事です。『活性酸素とは:私たちが生命活動を営む上で酸素の利用は必須となります。呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部は、通常の状態よりも活性化された活性酸素となります。ヒトを含めた哺乳類では、取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化すると考えられています。活性酸素は、体内の代謝過程において様々な成分と反応し、過剰になると細胞傷害をもたらします。

腎疾患における活性酸素

『慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)は透析療法を必要とする末期腎不全への大きな危険因子であることは論を待たないが、それだけでなく全身性の心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の大きな危険因子でもある。実際、CKDはCVDの発症、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳血管障害、入院、CVDによる死亡の危険因子であることが明らかにされており、さらに原因を問わない全死亡のリスクをも高める。腎機能(糸球体ろ過能)の低下とともにタンパク質尿の存在もリスクを増加させる。CKDは人類の健康福祉に対する大きな脅威であると同時に、医療経済的にも大きな負担となることから、全世界的な対策が求められている。

CKDの特徴として、その進行が長期にわたり経過しかつ不可逆的であることがあげられる。この病態進行過程に酸化ストレスが大きく関与することから、酸化ストレス機構の解明と効果的な抗酸化介入はCKD進展抑制への期待は大きい。 

慢性腎臓病の進展と活性酸素および活性窒素

上述のようにCKDは長期経過を辿り、その各過程には酸化ストレスが強く関与する。その初期は糸球体や尿細管など腎局所のおける炎症が主体であるが、やがて腎全体での抗酸化能の低下、レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系(renin-angiotensin-aldosteron system;RAAS)の活性化、腎排泄能の蓄積による尿毒症性物質(uremic toxin)の蓄積、などの過程を経てCVDを中心とした全身性疾患に至る。

この図を見ると、最初に起こる問題は「糸球体・尿細管局所での炎症」となっています。

画像出典:「抗酸化の科学」

腎臓は多くの抗酸化物質を内因し、生体内でROSに対する消去還元能が最も高い臓器の一つである。CKDには糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎、腎硬化症などさまざまな原因があり、糸球体や尿細管などにおける炎症細胞浸潤やメサンギウム細胞からのROS産生などにより酸化ストレスが増大するが、初期ではこの豊富な抗酸化能に守られ、酸化ストレス傷害は腎局所に限定される。しかし一定以上のネフロンが傷害されると、CKDは不可逆的な共通過程により進行する。すなわち、一部のネフロンが傷害されると、残存ネフロンに過剰な糸球体ろ過負担による糸球体硬化が引き起こされ、傷害ネフロンが連鎖的に増加し糸球体ろ過能が低下していく(過剰ろ過理論、hyperfiltration theory)。

このような状況になると、糸球体ろ過能の低下と並行して、腎や全身での抗酸化物質の量が低下する。なかでもビタミンEは比較的早期から低下しCKDステージ3では赤血球中含有量は半減する。また、グルタチオンペルオキシダーゼやSODなども透析期では60~80%まで減少する。これらの腎内抗酸化物質の急激な減少は、腎排泄能低下による尿毒症性物質の蓄積とともに、腎局所から全身へ酸化ストレスを拡大させる。とくに心への進展による心血管障害は心腎症候群と称され、最も治療介入を要するCKD病態である。』

ビタミンEと老化および疾患

同様にヒトにおいてもビタミンE投与の研究がさまざま行われている。特に酸化ストレスが病態の発症や亢進に深く関与するとされているアルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの脳神経変性疾患に対する大規模臨床試験は、これまでも世界中で行われてきた。しかし、その結果はバラツキがある。その背景には各試験における投与条件の違い、被験者の背景など複雑であり、効果の真意を明確にするにはまだ時間が必要であろう。しかし、試験管や培養細胞、動物実験レベルでは、ビタミンE欠乏マウスで脳内にβアミロイド斑のような凝集タンパク質がみられること、またβアミロイドが活性酸素を放出すること、さらにビタミンEの過剰投与ではこれらの現象はみられないことなどから、ビタミンEが抗酸化的にアルツハイマー型認知症において効果を発揮する可能性は十分に考えられる。

これ以外にも非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)やがんといった炎症反応を伴い酸化ストレスが亢進しているであろう疾患に対してもビタミンEの投与が有効であるとの報告がある。ビタミンEの場合、過剰摂取による影響は少ないため、加齢に伴う生体内酸化の亢進を防ぐためには積極的な摂取が推奨される。』

こちらは江崎グリコさまのサイトです。ビタミンE摂取の注意点として以下のような説明が出ています。

『過剰症では出血傾向になるという害がみられるのでサプリメントや薬などからの過剰摂取には注意が必要です。日常の食生活ではとり過ぎになる心配はほとんどなく、積極的にとりたい栄養素のひとつです。』

鍼治療と酸化ストレスに関する論文等の情報を検索すると、特に新しいものほとんどありませんでした。その中で、ラットではありますが「埼玉医科大学雑誌 第41巻 第2号 平成27年3月」に書かれていた、”抗ストレス作用は抗酸化力や酸化ストレス度に影響する”という内容に興味を持ちました。 

鍼治療による抗ストレス・抗酸化作用の可能性”:『ラットに対するストレス負荷による影響を検討した結果、拘束ストレスにより血液流動性の低下、血小板凝集能の亢進、血中ATP濃度の増加を認めた。こうした拘束ストレス負荷を加えたラットに対して鍼刺激を行ったところ、先に述べた項目が抑制されたことから鍼刺激による抗ストレス作用が明らかになった。また、拘束ストレスにより抗酸化力の低下と酸化ストレス度の増加を認めたが鍼刺激はこれらの反応を改善させ、鍼刺激による抗酸化作用・赤血球や血小板の細胞膜保護作用がある可能性が示唆された。』

付記1:腎エイジングと個体加齢の悪循環

こちらは「医学と医療の最前線 老化と腎臓病」に掲載されていた図ですが、腎エイジングと個体加齢の悪循環にも酸化ストレスが関与しています。

タイトルの”喫煙と腎・泌尿器疾患”をクリック頂くと、6ページのPDF資料がダウンロードされます。

調べてみると上記の資料は高野先生のクリニックの”禁煙への思い”の中にありました。

脳とストレス8(まとめ)

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

最後に、まとめとして7つのブログを見直すことにしました。とは言っても、内容は個人的に特に重要と感じた個所を、多少言い回しを変えて、あらためて列挙したものであり、特に新鮮味はありません。

●ストレスは厳しい状況のもとで人間の体を守ってくれるが、慢性的に作動すると有害になり、病気を悪化させる。

●ストレス反応のしくみ

1.脳にある視床下部が腎臓の上にある副腎体に警鐘を鳴らす。

2.ストレスホルモンの第一陣、アドレナリンを分泌し緊急反応で対応する。

3.脳はエンドルフィンという鎮痛作用をもつ物質を出し、危機においても機能できるようにする。

4.脳は防衛機構の第二陣、視床下部‐下垂体‐副腎軸(略してHPA軸)という先鋭部隊を動員する。

・視床下部は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)という物質を放出し、CRFは下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌、ACTHが副腎を刺激すると、第二の主要ストレスホルモンであるコルチゾールが血液に放出される。

画像出典:「ストレスに負けない脳」

5.コルチゾールは適量であれば、アドレナリン放出によって使い果たされたエネルギーを補充し、私たちを活動的にさせる。免疫に関しても短期的には、コルチゾールは怪我や感染から体を守る白血球を、侵略された場所に送り込む。また、コルチゾールのチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)の機能が、免疫反応が活発になりすぎることによっておこる湿疹やアレルギー、および免疫が健康な細胞を攻撃する自己免疫疾患を防ぐ。そして免疫活動がもう十分だと知らせるのもコルチゾールの働きである。しかし、コルチゾールが長期にわたり適量を超えた量が分泌されると様々な弊害を生む。そして、これが慢性ストレスの問題につながる。

・ブドウ糖を取り込むインスリンの働きが抑えられてしまう

・脂肪が増え、とりわけ、健康に悪いとされる腹部にたまる。

・筋肉のタンパク質を減らして脂肪に変える働きを促し、その結果、骨のミネラルが減る。

・コルチゾールが多すぎると免疫機能を抑えるため、感染症にかかりやすくなる。

・ストレスホルモン(アドレナリン、コルチゾール)は血圧を上げる。

●アロスタティック負荷(ストレス反応が私たちの体に逆襲するような状態)は、体がアドレナリンやコルチゾールに長い間さらされることから起こるが、これは、ストレス自体が長く続くか、ストレスがなくなっても体が順応できないか、ストレス反応を解除するプロセスが機能しないかのいずれかの理由が考えられる。

●うつ病ではコルチゾールが慢性的に上昇していることが多い。

●コルチゾール過剰分泌説によれば、海馬にコルチゾールがあふれると海馬が疲労し消耗して、HPA軸が正常に機能しなくなり、認知機能も損なわれる。

●海馬はストレス反応の停止に関係している。要するに、海馬が損傷を受けると、ストレスがなくなったと認知する能力が衰え、ストレス反応を止められなくなり、その結果ストレスがさらに高まるという結果をもたらす。

●ストレス反応が不十分で、ストレスホルモン、とりわけコルチゾールの分泌が不足しても、体は疲労し消耗する(下部表参照)。 

画像出典:「ストレスに負けない脳」

●コルチゾールが不足していると、危害を与えないようなものに対しても体が過剰に反応してしまうことがある。アレルギーはこの過程から起こる現象のひとつである。

●高脂肪の食事は動脈硬化を加速し、コルチゾールの分泌を増やす。そしてコルチゾールが増加すると、体脂肪が蓄積しやすくなり、心血管病変や脳卒中、糖尿病の危険因子となる。

ストレスに見舞われたとき、散歩やスポーツクラブでの運動で発散すれば、ストレスにうち勝つ確率を高めることができる。運動は体脂肪の蓄積を防ぎ、心血管病変を未然に防ぎ、慢性的な痛みやうつ状態を軽減する。また、人と積極的につきあったり、他人の助けを借りることによっても自分を守ることができる。

●自律神経は原始的な脳である脳幹と、体のほかの部分を神経回路によってつないでいる。神経回路は目、唾液腺、喉頭、心臓、肺、胃、腸、腎臓、生殖器など、いろいろな器官にはりめぐらされている。

●自律神経は関連しあう三つの働きから成っている。まず、交感神経がいわば電源を入れる。外界からの刺激を受ける諸器官から脳につながる自律神経求心路のネットワークが、体中からメッセージを聞き取るマイクロホンのような役目をはたす。そして最後に副交感神経が、もとの状態に戻す働きをする。

●交感神経と副交感神経が交互に働くことにより、心臓は驚くほど臨機応変に対応する。心臓を落ち着かせるのは副交感神経、とりわけ迷走神経の働きであり、「迷走神経のブレーキ」とスティーブン・ポージスが呼んでいる制御のメカニズムがうまく作動しなくなると問題が生じる。

●睡眠不足は交感神経を興奮させ、迷走神経のブレーキをききにくくするため、血圧の上昇などストレスによる弊害を受けやすく、それが心筋梗塞の引き金となったりする。また睡眠をとれなかった翌日の晩、コルチゾールが高くなる傾向がある。これが進むと腹部の脂肪沈着や心疾患につながっていく。 

画像出典:「ストレスに負けない脳」

●急性ストレスの場合、免疫細胞が血液から出て、皮膚やリンパ節などの“監視”場所につくのをコルチゾールが促進する。感染の徴候がみつからなければ、免疫細胞は血流中に戻る。そして、ストレスが無くなったり、うまく処理されると、コルチゾールは危険が去ったことを免疫細胞に知らせる。そして最後にコルチゾールは、ストレスによってコルチゾールが過剰になった場合、視床下部に直接働きかけ、いわゆる負のフィードバックによって自らコルチゾールの生成を止めるのである。

●危険な出来事に関する記憶は瞬時に形成され、瞬時に思い出せる。それらは扁桃体というところで、記憶の砦の番人である海馬と密接に協力して形成される。こうした出来事が強烈な記憶として残るように、海馬には記憶形成を助けるストレスホルモン、コルチゾールのレセプターがたくさんある。しかしこのために、海馬はコルチゾールが過剰に分泌されたり慢性的に高いと損傷を受けやすく、その結果、記憶をはじめとする認識、つまり“思考のプロセス”が悪影響を受ける。

これといったストレスがなくても、不健康な生活を送っていれば視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)がうまく機能しなくなり、コルチゾール値が上昇する。そして危機が訪れたとき、どのような対処方法を選択するかによっては、慢性ストレスと同じくらい体に悪い影響を生物学的に与えうる。

実はアロスタシスがなるべく保護的に働くように効果的で簡単な方法がある。それは、運動、ヘルシーな食事、快眠、少量から適度のアルコール、禁酒などだ。どれも昔から体にいいと言われていたようなことばかりだ。最新の科学が、昔からの知恵の正しさを裏づけているのである。

●2002年のはじめ、米国国立衛生研究所(NIH)は糖尿病予防プログラムの結果を発表した。プログラムの一環として行った積極的な生活習慣の改善によって、3000人を越える被験者の糖尿病になるリスクが激減した。生活習慣の改善とは、要するに低脂肪の食事をとり、週150分の運動(30分ずつを5回)を行っただけである。大半の人が選んだ運動はウォーキングであった。

ただ歩くだけの運動が、心疾患を防ぐもっとも有効な方法のひとつであることを、多くの研究が裏づけている。22500人以上の高齢男性を対象に行った調査では、歩く距離に比例して心疾患の発症率が下がった。さらに72000人を越える中年女性を調べた大がかりな調査では、たとえ中年から始めたとしても、ウォーキングが心疾患になるリスクを著しく低下させることがわかった。どちらも長期間にわたる調査であったことが重要である。

●脅威やプレッシャーをしばらく感じていると、人間の体はエネルギーの不足だと思いこむ。そして、ストレス反応が自動的に作動する。つまり糖質コルチコイドが上昇し、ストレスによる症状が現われる前に、エネルギーをグリコーゲンや脂肪として長期貯蔵せよという信号を肝臓に送る。さらに糖質コルチコイドはエネルギーが切れないよう、脳に働いて食欲をもたらす。ストレスが私たちに空腹感を感じさせるのは、生物学の皮肉のひとつである。臀部、大腿部の肥満はさほど健康に悪くないが、腹部型肥満は糖尿病および心疾患の危険因子なので要注意である。腹部の肥満がよくない理由は、腹部の脂肪がすぐ脂肪酸になり、それがコルチゾールの放出を促し、体のインスリン抵抗性の原因となることだ。

●高脂肪食品はコルチゾールの生成を促し、それが体脂肪、とくに腹部における蓄積を促進する。これが動脈硬化やインスリン抵抗性につながり(このふたつは相互に危険因子である)心臓病や糖尿病になる危険性が高まる。

真の意味でのアロスタシスは、病気による攻撃をくい止める以上の働きをする。つまり、アロスタシスがうまく機能するよう、生活を変えること―運動や健全な食生活を心がけ、家族や友だちとの交流を大事にする―によって、病気になるのを防ぐことができる。それは積極的に体や脳に備わっている機能を強化し、体に栄養を与え、筋力を増強し、気分を落ち着かせ、そして体を守ることだ。このプロセスが今解明されつつある。専門的には同化促進作用と呼ばれるが、私はポジティブ・ヘルスと呼ぶことにする。

●ポジティブ・ヘルスとは、アロスタシスがアロスタティック負荷(ストレス反応が私たちの体に逆襲するような状態)になるのを防ぎ、一時的にアロスタティック負荷に陥ってもそれから回復させる、体本来の能力を発揮させるシステムや物質を指す。ポジティブ・ヘルスを担うものとしては、副交感神経の回復効果やコルチゾールのチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)の作用など、アロスタシスそのもののしくみもある。体にはそのほかに、アロスタティック負荷に陥った場合でも、持ち直す働きがあり、それらが、おもに脳の研究を通して明らかになりつつある。一部の神経ペプチドのなかに、ポジティブ・ヘルスの鍵があることが明らかになりつつある。その可能性がある物質のひとつがオキシトシンであり、もうひとつがプロラクチンである。

●エストロゲンは脳にさまざまな働きをする。働きの多くは互いに関連しており、たいていが脳のポジティブ・ヘルスに貢献するものである。エストロゲンは神経細胞を刺激して新しいシナプスの形成を促し、シナプスを刺激して新たな枝を生えさせる。さらに新しい神経細胞の成長を促進し、フリーラジカルの破壊的効果から細胞を守る。エストロゲンが脳に及ぼす好ましい影響のうち、とくに注目に値するのは記憶を保護する能力である。エストロゲンの研究といえば、生殖にかかわっている確率が高い視床下部と下垂体に集中していたが、記憶との関連性が浮上してからは、海馬や大脳皮質など、記憶にかかわる脳の多くの部位にエストロゲン・レセプターがみつかった。エストロゲンと関連ホルモンが脳のこれらの部位で、記憶にたずさわる複数の作用を行なっていることが現在わかっている。

●エストロゲンが心臓の平滑筋細胞を守ることはかなりわかっている(閉経後に女性の心筋梗塞が急増するのはこのためかもしれない)

●重いうつ病は、外的な要因に由来するのではなく、脳内化学物質の均衡が崩れたことによって発症し、高齢者ではとくにその均衡が崩れやすい。

病気を予防するためには、多くの病院が実践しているように、総合的な健康(ウィルネス)を目指し、ポジティブ・メンタルヘルスをおろそかにしないことが、長い目で見ればいちばんいい方法だろう。

多くの病院が実践している総合的な健康”とは、統合医療に近いものではないかと思います。これについては“がんと自然治癒力2”を参照ください。最後の付記に、”米国の統合医療”という簡単なスライドを付けています。

脳とストレス7

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

アロスタシスと予防医学

『医者が患者を診るときにアロスタティック負荷の前触れを見逃さないようにすること。

世の中には、いまだに感情が健康に及ぼしうる影響を軽視している医師が少なくない。アロスタシスとアロスタティック負荷の考えを受け入れるということは、精神状態が体に与える影響をはっきりと認めることである。そしてそれは、これまで心身症として片づけられることが多かったいろいろな症状を新しい視点で見ることを意味する。

ストレスによってあらわれる症状は心と体が一緒になってつくりだすという意味ではまさに心身症的だ。しかし体に現われた症状を心身症と呼ぶとき、そこには“病は気から”とか、さらには“立ち直れないはずがない。元気を出せ!”という意味合いが込められていることが多い。幸い、このような意味合いで心身症という言葉が使われることは最近減った。数年前に胃潰瘍から見つかった、ヘリコバクター・ピロリ菌は、心と体がともにかかわる好例で、病気をアロスタシスの観点からとらえることができることを示した。病気の生物学的原因にこだわっていた科学者たちは、ピロリ菌の発見が心と体を結びつけようとする動きに水をさすものだと喜んだ。しかし生物学的なメカニズムを見つけたからといって、胃潰瘍がストレスによるものであることを否定することにはならない。むしろ、ほとんどの人がピロリ菌をもっているのに、なぜ特定の人がこの細菌に反応したのかという疑問を提起する。もしピロリ菌が胃潰瘍の直接の原因なら、もっと多くの人が胃潰瘍にかかっているはずで、ピロリ菌が力を発揮して胃潰瘍を発症させるのは、アロスタシスがアロスタティック負荷に変わったときなのかもしれない。

どの人がアロスタティック負荷型の病気になりやすいかを判断するひとつの方法は、これまでにわかっている生理的な危険因子をチェックすることだ。アロスタティック負荷の目安としては、血圧や、ウェスト/ヒップ比、血中コレステロール値、数日間の糖代謝を示す糖化ヘモグロビン、一晩畜尿した尿中のコルチゾールやノルアドレナリン(ノルエピネフリン)などがある。マッカーサー財団の健康プログラムに携わっている研究者の協力を得て、ロックフェラー大学の研究グループがそのような尺度を使って調査した結果、アロスタティック負荷のスコアが高かった人に、二年半後に認知機能と記憶の衰えが見られ、調査開始時は心血管病変の症状が見られなかった人にそれが発現していることがわかった。各人に心臓病や糖尿病などの兆候がないか調べるより、これらの目安をチェックするほうが、病気を予防するには有効かもしれない。とくに現在症状が出ていない人や、家族にそれらの病気にかかった人がいない場合には有効だ。

しかし実際は、アロスタティック負荷の検査を多くの人に実施するのはむずかしい。まず、医師がどの患者に検査を勧めるかを判断しなければならない。検査によっては保険がきかないし、一人あたりの診察時間が非常に短い現況では、患者が最初に接した医師が検査の必要性を見極めるのは困難だ。

さらにむずかしいのは、アロスタティック負荷が高い患者にどのように説明するかだ。まさか「もっとリラックスした生活に切り替えないと脳に損傷を受けるかもしれませんよ」とは言えない。もちろん先に述べたような生活習慣の改善を勧めることはできる。睡眠とバランスのとれた食生活、日常的な運動などの重要性はすべての人が理解すべきだ。しかし、自分の生活を変える意思のある人は、もともと健全かつ現実的な見方ができる人で、自分の健康は自分でコントロールできると考えている人が多い。問題は、ストレスがかかるとスナックをやたらに食べたりお酒をたくさん飲んだり、暇がないという口実で運動をせず、生活を変えても大した効果はないとあきらめている人、つまりアロスタティック負荷の悪影響をもっとも受けやすい人たちをどうするかだ。今日の医療では、たとえ必要性があっても、医者が患者の生活を変えることはむずかしいストレス軽減プログラムや総合的(身体的、精神的、社会的)な健康を目指すウェルネス・プログラムを実施している病院などもある。これは好ましい第一歩で、身体および精神の健康に大いに役立つ可能性がある。

アロスタティック負荷に脅かされている人たちが、もっともその弊害に身をさらしている事実は変わらない。アメリカで蔓延している2型糖尿病がいい例だ。2型糖尿病の罹患者には、子どもや老人、社会経済的に低い層の人々、エスニック・マイノリティーが少なくない。これだけ多くの人がストレス性疾患にかかりやすい現状を思えば、アロスタティック負荷の問題は、いまや大きな公衆衛生の問題として取りくまなければならない。』

高齢者とストレス

『高齢者が、アロスタティック負荷から体を守る手だてがもっとも提供され、うつ病やアルコール依存症など、負荷を増大させる病気の治療をもっと受けられるようにすること。

アロスタティック負荷と加齢による脳の変化が密接につながっていることから、高齢者はとくにストレスに弱く、うつ病になりやすい。ストレスが直接うつ病につながるわけではないが、60歳を越える女性の脳を画像検査で調べると、過去に重度のうつ病になっていた人では、海馬委縮が多く見られた。やはり海馬を損傷させる慢性的なコルチゾール値(アロスタティック負荷の主要な指標のひとつ)も、必ずではないにせよ、うつ病患者に見られる。ロバート・サポルスキーが示したように、海馬の老化が、ストレス反応をうち切る海馬の機能を弱め、それがさらなるコルチゾールの生成とそれによる脳の損傷をもたらす。高齢者がとくにアロスタティック負荷になりやすいのはそのためだ。

アロスタティック負荷や海馬の疲労と消耗が原因かどうかは別として、うつ病は多くの高齢者が抱える問題である。米国国立精神保健研究所によれば、65歳以上の3400万人のアメリカ人のうち、200万人以上が何ららかの抑うつに悩まされているという。高齢者の自殺率もほかの年齢層に比べて高い。65歳以上の人口は全人口の13パーセントにすぎないが、自殺による死亡率はそのうちの20パーセントを占める。いちばん高いのは85歳以上の白人男性だ(1996年には10万人に1人で、これは全人口における比率の6倍だった)。

このように高齢者の自殺率が高い理由は、老いに対する社会の姿勢にもあるかもしれない。一般的にうつ病は過少報告されたり、診断されないことが多い。したがって高齢者のうつ病もこれまであまり問題にされてこなかった。若さを重んじる文化のなかにいると、65歳以上の人がうつになるのは当然と思われがちだが、それはけっして普通ではないのである。まず病的なうつ病と単なる失望感や落ち込みを区別する必要がある(病的なうつ病は高齢者でも治療できる)。たしかに高齢者は、孤立や健康問題、収入減、失業、活力の減退、コントロールの喪失など、“憂うつになる”状況と闘っていることが多い。しかしそうした状況に置かれた高齢者がすべてうつ病になるわけではない。重いうつ病は、外的な要因に由来するのではなく、脳内化学物質の均衡が崩れたことによって発症し、高齢者ではとくにその均衡が崩れやすいのである。

高齢に伴う諸問題が即、うつ病の原因になるわけではないし、同じ問題を抱えていても気分障害にならない人も少なくないが、それらの問題がうつ病と関係が深いことは確かであるから、解決に向けて取り組まなければならない。さらに、高齢者は、生化学的にも知覚的にもうつ病を悪化させるものの影響を受けやすい。アルコール依存症だったり薬を服用していたり、持病があったり、不安をはじめとする精神障害などを抱えていることが多いからである。これらの要因は複合的だが、アロスタシスの考え方を適用すれば、もっとわかりやすい。まず、生化学的に何が起きているのか見極める必要がある。アロスタティック負荷の中心にうつ病があるなら、それをまず治療すべきだ。次に、不利な状況に置かれているのだからうつ病になってもしかたがないと片づけるのではなく、生活を切り替えてアロスタシスの均衡を取り戻す機会としてとらえるべきだ。

高齢化が進み、多くの高齢者が介護施設に暮らし、しかも重い健康問題を抱え、自分の生活をコントロールできないという状況のなかで、果たしてそのような生活の切り替えが可能かどうかはわからない。いずれにせよ、高齢者のような特定のグループがアロスタティック負荷になりやすいのであれば、なおさら公衆衛生問題としてアロスタシスにとりくむ必要があるということだ。』

ポジティブ・メンタルヘルス

『身体の健康と同じように、心の健康も、単なる病気の不在だけではないと認識すること。

人との強い絆は、人生の試練から自分を守る非常に強力な防塞となる。ウィスコンシン州の長期研究の結果から、リフとシンガーは、“回復力の強かった”女性のグループを調査した。彼女たちの中には、親がアルコール依存症だったり、親が死んだりするなど、決して幸福とは言えない子ども時代を送った人もいた。しかし安定した結婚生活や教育、やりがいのある仕事、適応力のおかげで、ポジティブ・ヘルスをとりもどしていたのだ。このような回復過程を心理学的にも神経生物学的にももっと解明する必要がある。このような回復力こそ、メンタルヘルスそのものだ。

健全な精神的姿勢は回復力と対処能力にとってもっとも重要な因子のひとつである(いや、もっとも重要な因子かもしれない)。なぜなら体がどのようなアロスタティック反応で応じるかがそれにかかっているからだ。生活習慣を変える意志と行動力は精神的姿勢に左右される。したがって、なるべく多くの人が望ましいアロスタシスを維持できるようにするには、ポジティブ・メンタルヘルスをもっと理解しなければならない。そしてメンタルヘルスを、単に精神的な病気の不在ととらえるのではなく、身体的な健康とともにいちばん理想的な状態へと近付けるべきだ。

世界保健機構(WHO)は、早くも1948年には、メンタルヘルスを精神病(あるいは、さらに否定的なとらえ方をすれば“精神異常”)の不在以上のものだと提唱していた。しかしそれから50年以上経った今でも、あまり状況は進展していない。それどころか、“異常”な状態でさえ十分な治療ができていないのが現状だ。うつ病も不安もほとんど見逃されるか放っておかれている。たとえばある調査によれば、自殺した高齢者のうち20パーセントは自殺の日に、40パーセントが一週間以内に、70パーセントは一カ月以内に医師を訪れている。たとえば医師が問題を認めて治療しようとしても、薬の費用は保険でカバーされるが、心理療法士が勧めるような治療法(そのほうが長期的にはもっと効果がある場合がある)は保険がきかないため、なかなか勧められないことが多い。

病気に気づいた場合にのみ治療がなされるという現状のなかで、すべての人にポジティブ・メンタルヘルスを推進するようなシステムをつくるにはどうしたらいいのだろうか。アロスタシスの考えを役立てるには、まさにそのようなシステムが不可欠である。これは大きな問題で、簡単な解決法などない。将来、精神的、身体的に具合がよくないと自負したとき、最初に開業医や病院の内科で診てもらうのではなく、臨床心理士を訪れるようになるかもしれない。そのような日が近く訪れることはないだろうが、ポジティブ・メンタルヘルスを推進するためには、次のようなことが求められる。

まず、感情と健康の関係をもっと科学的に解明しなければならない。敵愾心などの“ネガティブ”な感情と高血圧症などの関係を探るのも第一歩となるだろう。しかし、病気を予防するためには、多くの病院が実践しているように、総合的な健康(ウィルネス)を目指し、ポジティブ・メンタルヘルスをおろそかにしないのが、長い目で見ればいちばんいい方法だろう。シンガーとリフは、ストレス下で被験者が発揮した回復力についての生物学的解明にとりくんでいるところだ。

さらにシンガーらは、ポジティブ・メンタルヘルスを示す人の性格的特徴もつきとめようとしている。カール・ユングやエイブラハム・マスロウなどいろいろな心理学者が書いたものをもとに、彼らはポジティブ・ヘルスに恵まれた人、つまりストレスや逆境や老化にうまく対処している人には、共通の特徴があるという結論に達した。これらの特徴には、自己受容能力、積極的な人間関係、自立性、または他人の意見や容認にふりまわされず、自分の規律で自分の生活を調整できる能力、幸せをもたらす環境を選んだりつくりだす能力、生きがいをもつこと、自分が着実に成長しているという実感などが含まれる。さまざまな哲学的、科学的な考えを参考にした結果、リフとシンガーは、健康的で好ましい生活について「目標をもち、自分の潜在的能力を活かすよう努力し、ほかの人との深い絆を大事にし、周囲からの要求や機会に上手に対処し、自己主導性を発揮し、自尊心をもつこと」だとしている。』

【ご参考】:”総合的(身体的、精神的、社会的)な健康を目指すウェルネス・プログラム”とは

下記の図と表は”がんと自然治癒力13(まとめ)”から持ってきたものです。上段左は日本の医療の現状です。皆保険制度という素晴らしい制度が提供されている一方で、西洋医学に限定した医療になっています。右は米国の状況ですが、代替医療を取り入れ統合医療としての医療サービスを目指しています。

中段左は増え続ける”日本におけるガンの死亡率”。右は減り続ける”米国におけるガンの死亡率”です。統合医療としての取り組みが死亡率の低下に関係しているのは可能性は極めて高いと思います(統計情報や米国の統合医療に関しては”がんと自然治癒力2”を参照ください)

下段は内閣府のホームページにあった”世界の高齢化率の推移”という折れ線グラフです。日本ほどではありませんが、米国でも高齢化は進んでいます。



内閣府のホームページにあった”世界の高齢化率の推移”の表です。2015年で見ると、日本は26.6%、米国は14.8%となっています。

脳とストレス6

著者:ブルース・マキューアン、エリザベス・ノートン・ラズリー

監修:星恵子

訳:桜内篤子

出版:早川書房

発行:2004年9月

目次については“脳とストレス1”を参照ください。

 

9 ポジティブ・ヘルスとは?

『アロスタシスの考え方が役に立つのは、人生のさまざまな問題に直面したとき、袋小路に追いつめられたような気分から自分を切り離せることだ。健康とは、医学的には単に病気の不在だと考える傾向がある。脳の指令によって体が適応し、活性化するしくみを認めている人でさえ、病気に対しては防衛的にとらえがちだ。真の意味でのアロスタシスは、病気による攻撃をくい止める以上の働きをする。つまり、アロスタシスがうまく機能するよう、生活を変えること―運動や健全な食生活を心がけ、家族や友だちとの交流を大事にする―によって、病気になるのを防ぐことができるのだ。それは積極的に体や脳に備わっている機能を強化し、体に栄養を与え、筋力を増強し、気分を落ち着かせ、そして体を守ることだ。このプロセスが今解明されつつある。専門的には同化促進作用と呼ばれるが、私はポジティブ・ヘルスと呼ぶことにする。

ポジティブ・ヘルスとは、アロスタシスがアロスタティック負荷になるのを防ぎ、一時的にアロスタティック負荷に陥ってもそれから回復させる、体本来の能力を発揮させるシステムや物質を指す。ポジティブ・ヘルスを担うものとしては、副交感神経の回復効果やコルチゾールのチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)の作用など、アロスタシスそのもののしくみもある。体にはそのほかに、アロスタティック負荷に陥った場合でも、持ち直す働きがあり、それらが、おもに脳の研究を通して明らかになりつつある。』