臨床動作法7

今回は日本リハビリティション心理学会さまが発行されている『ふぇにっくす』が題材となります。なお、投稿者のご所属はそれぞれの『ふぇにっくす』発行時のものです。

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『ふぇにっくす』は昭和41年(1966年)に「心理リハビリティション・キャンプ」を初めて実施して以来、参加者間の親睦と交流を兼ねて自由な意見交換の場を持つために昭和46年(1971年)に創刊された冊子で、在庫が残っていれば購入することも可能です。今回は入手した数冊の『ふぇにっくす』の中から、特に印象に残った内容をご紹介します。

ふぇにっくす40号 

立位訓練  日本学術振興会特別研究員 古賀 精治

※書式は要点と思う箇所を箇条書きにしたものとなっており、内容は一部となっています。

1.トレーニーが一人でどこで踏みしめて立っているかをよく感じてみましょう

◆訓練を始めるにあたって把握すること

・トレーニーはどうやって立っているのか。

・どこにどういうふうに力を入れて、どういう姿勢で立っているのか。

・どの方向にどの程度重心を移せるのか。

・どういう時にバランスを取れなくなって、どういうふうに倒れるのか。

・立つことにどれくらいこわさや不安を感じているのか、等々。

・時に外から眺めるだけでなく、トレーニーのからだに触れて確かめる。

・重要なことはトレーニーが自分一人でどこまでできるかを明らかにすること。

◆トレーニーが一人でどこまでできるかを見極め、さらにほんの少しだけ難しい課題をみつけ、その課題をトレーニーが自分で解決するのに必要な手助けをするのがトレーナーの役割と言える。

◆立つということは、重力に対応しながら、自分のからだの部位を時々刻々と複雑に操作しなければならない大変な体験である。

◆トレーナーはトレーニーの身体各部位に注意しなければならないが、部分に目を奪われすぎると、姿勢の全体像が見えなくなってしまう。

◆細かく気を配りながらも、大局的に姿勢全体を捕らえて、トレーニーの立ち方を模倣し、どういう力の入れ方をしているのかを、トレーナーが自分のからだで感じられるようになることが、立位訓練では特に大切である。

◆トレーナーがどういう姿勢で立っているのかは、足の裏のどこで踏みしめているかに表れる。

◆タテ系の立位訓練とは、トレーニーが今までの力の入れ方のパターンを捨て、新しい力の入れ方を習得し足裏のいろいろな箇所で大地を踏みしめて、楽に安定して立てるようになるための訓練だと考えられる。

2.上手に立てないトレーニーとは?

◆図2-aと図2-bは、膝の内側にギュッと入れ、股関節を動かせず腰を引いて肩や首の後ろに過度に力を入れて立っているトレーニーである。腰を動かすことができず、バランスが崩れると膝をさらに内側に締め、首をすくめて、肩や胸まわりに凄い力を入れて、バランスを保とうとするが倒れてしまう。図2-aのトレーニー関しては、多くは足首が内反または外反している。 

画像出典:「ふぇにっくす40号」


◆図2-aと図2-bのトレーニーはタテに力を入れて立っているのではなく、脚を内側にギュッと閉じ込む力でやっと立っている感じであり、ちょっとでもバランスを崩すと倒れてしまう。また、これらのトレーニーは、多かれ少なかれ脚に左右差がみられる。

◆図2-aのトレーニーは足の指先に力を入れて立っている(図1の①)。一方、図2-bのトレーニーは踵で立っている場合が多い(図1の③)。

画像出典:「ふぇにっくす40号」

3.まず、足の裏(図1)の②で踏みしめるようになること

◆②で立つためには、身を堅くして脚を内側に閉じ込む力で立つ立ち方を変えなければならない。つまり、上体を腰の上にまっすぐに据え、膝を開き、太ももの前部とふくらはぎに力が入るようにすることである。

◆具体的な訓練

“自力で脚の力を一旦抜いて膝を開き、かつお尻を落とさずに立っている訓練”

・トレーニーは両足をまっすぐ平行に揃え、上体をまっすぐ腰の上に据え、足の裏の②で踏みしめやすいように、やや前傾気味に立つことが基本である。図3-aのように横から手助けするか、図3-bのように前から手助けするのが良い。

画像出典:「ふぇにっくす40号」

画像出典:「ふぇにっくす40号」

・トレーニーの膝頭の間に手または脚を差し入れる。トレーニーの方はそのトレーナーの手や脚に膝が当たらないように、内側にギュッと入れていた力を一旦抜いて膝を開き、お尻を下げないようにする。つまり、今までとは違う力の入れ方に取り組むということであり、求められるのはトレーニーの勇気である。脚を開ければ力が抜けてお尻が落ちそうになり、また、太ももやふくらはぎが大変疲れることになる。

“立位での腰と股関節の操作:股関節と膝とを連携させながらの脚の曲げ伸ばし”

・立位で腰や股関節を曲げたり伸ばしたりすることはとても難しい課題であり、通常は坐位や膝立ちの訓練が必要になる。なお、今回は「膝立ちでなら腰や股関節を操作できるが、立位ではできないトレーニー」の場合を想定したもの。

ふぇにっくす42号

子どもの状態と訓練 -側弯・緊張  九州大学教育学 堀江 幸治

緊張・かたさ

『肩や腕、指先などに不当な緊張があるのは、本来力が入らなくてはいけないところ(大抵の場合、腰です)に入っていないか、入り方が間違って身についているからだと思います。おそらく肩を弛めることを課題にしているということは、からだが全体的に丸まった感じのお子さんなのではないでしょうか?もしそうならば、もう一度からだをタテの力を入れさせる課題の方がいいと思います。坐位、膝立ち訓練で、腰にタテの力が入ってくると、とくに肩の弛めの訓練をしないのに弛んできます。肩が弛むと、腕や手指の緊張もとれてきます。肩の力が入っているまま腕や手指の緊張をとろうとしても(そのときは一旦とれたとしても)、また入ってきます。

ただ、肩の力が抜けさえすれば即、指先が使えるわけではないでしょうから、指先の使い方の練習、例えば手をパッと広げたり、ギュッと握ったり、といった課題は必要かもしれません。』 

ふぇにっくす74号

心理リハビリティションとしての見立て  静岡大学教育学領域 香野 毅

“見立てる”は“診断”、“アセスメント”といった用語を含む自由な定義とするとされています。

動作状況を見立てる

姿勢

『姿勢は静止体ではなく微調整を絶えず行う連続的な活動である。調整は、重力に対しての自体の調整(バランスや踏みしめ)と見ることやモノを操作するための外的世界との関係づけ(構えや操作)の調整として行われる。立位姿勢で自分のからだに注意を向けると前後左右に揺れていること、それに対応して足裏や膝などが動いていること、さらには肩や腰も使っていることに気付ける。また手を前に出したり、顔を横に向けたりすると多くの身体部位がその調整に動員されていることに気付くことができる。

動作法では姿勢を動きとして捉える。姿勢を作るとは、その姿勢(例えば腰と背中を立てる)になるための様々な身体部位の動きをまとめあげることと言いかえることができる。この立場から姿勢の歪みや保持の困難を見立てるならば、それはその姿勢になるための動きを思うとおりに作り出せないことを意味している。あるいは瞬間的にはその動きを出せても、持続的に力を入れ続けて保持したり、重心の動きに対応して必要な動きを出したり出さなかったりすることが難しいということになる。まずはここが見立てのポイントになると考える。姿勢を外形的な形ではなく、必要な動きの集合体としてみることで、どこの動きが苦手なのかということを中心に見立てていくことになる。

また、動き出せないことの原因としては、その部位の不当緊張が強くて(いわゆるかたくて)動かそうにも動かせないことと、そもそも動かし方が分からないということがある。前者のように緊張が強い場合には、必要な部位に対してリラクセイション課題を行うこととなる。ただ留意しておかなければならないことは、仮にリラクセイションした状態になれたからといって、イコール動かせることではないことである。そこに動き方、適切な力の入れ方の学習を促す課題が必要なことはいうまでもない。緊張の強さや部位、動きの学習状況などが見立てのポイントとなる。』

訓練(変容)可能性

『これはスーパーバイザーレベルの見立てといえるかもしれない。ある課題をトレーニーに実施した際に、その課題がもたらす成果や体験について推測的に見立てる必要がある。「できないからやる」「必要だから課題とする」ではなく「できそうだからやる」「必要な体験ができそうだから課題とする」と考えなくてはならない。 ~以下省略』

肢体不自由児・者への動作発達の見立て  広島大学大学院教育学研究科 船橋 篤彦

肢体不自由児者の動作発達の見立て

・姿勢や動作をダイナミックなものとして捉えること

肢体不自由者の座位、膝立ち、立位の姿勢を観察すると、人間の姿勢や動作の本質的な部位に気づかされます。それは、一生懸命に手を動かそうとしている時に顔や首に力を入れていることや、膝を伸ばそうとしている時に肩やお腹に力を入れている様子から感じることです。私たちは時として、動作が生じる<部位>に目を奪われて「動いたor動いていない」という判断をしてしまうことがあります。しかし、動きは全身の協調で成り立っているという前提で動作を観察してみると、目標となる動作の妨げとなっている要因が離れた身体部位に存在することがよく分かります。時計の針が小さな部品の連動によって生じているように姿勢や動作のダイナミズムを読み解くことも見立ての重要なポイントであると思います。さらに言えば、座位、膝立ち、立位の姿勢において、バランスが取れた状態とは「動きを抑制することで安定している静的状態」ではなく、正確には「小刻みに動くことで安定している動的状態」であると言えます。肢体不自由者の姿勢バランスを観察する際、<動きすぎて>バランスがとれない方もいれば、<動き方が分からなくて>バランスがとれない方もいます。本人の「困り方の違い」という点を考慮して、姿勢保持の訓練を進めていくもポイントになるかもしれない。』

付記:『障害者のための 絵でわかる動作法 はじめの一歩より

下記の一覧表は動作法の全体像をイメージしたいと思い作ったものです。

第1章 動作法概論

第2章 状態像をつかむ

第3章 訓練の進め方

 第1節 はじめの一歩

 第2節 核となる訓練

 第3節 発展訓練

臨床動作法6

今回は【肢体不自由動作法】の中から、歩行動作治療訓練法 をご紹介します。

なお、『臨床動作法の理論と治療』の目次は”臨床動作法2”をご覧ください。

編集:成瀬悟策

出版:至文堂

発行:1992年10月

 

肢体不自由動作法

歩行動作治療訓練法

はじめに

訓練者(以下、トレーナーという)が、訓練を受ける側(以下、トレーニーという)のからだの持ち主であり、からだの働きをコントロールしている「主体」(動作法ではこれを「自己」と呼ぶ)に、からだを通していかに働きかけるか、これが肢体不自由動作法におけるトレーナーに課せられている主要な課題である。

成瀬は「タテ系動作訓練法」という名称を用いてこの動作訓練法をより一層体系化されたものとした。そこで、ひとが生きていく上でからだを「タテ」にすることが重要であるという基本的な原理が述べられた上で、訓練課題は坐位、膝立ち、片膝立ち、立位、歩行の五つとされた。また、1989年春前後から、踏み締め」ということが強調されている。「踏み締め」とは、そのことばが使われ出した当初、「大地を踏み締めることが大事」という説明とともに使われたこともあって、立位訓練において、からだをまっすぐタテにして、脚および足で自分の体重を支えながら、大地を足でしっかりと踏み締めることであると筆者は理解した。しかし、ひとがタテになることによって変化する心理的メカニズムとして、成瀬は、二次元平面から三次元空間へ、そして四次元世界への対応ということを述べている。具体的には、前者では、平面生活から立体空間での生活へ、重力に初めて対面する、

物理的・力学的法則性を持つ外界環境に直面する、自分のからだの重みを認知し重心を操作するなどであり、後者では、外界の立体空間に対応する、自体軸(自己軸)を明確にし空間座標の原点(自己存在の原点)とする、自分自身の世界(自己世界)を形成する、世界内における現実存在の体験をするなどが述べられている。結局、ただ単にからだをタテにして重力に対応して大地の上に自分のからだを適切に位置づけるということだけではなく、むしろ、大地に接した足・脚・躯幹に踏ん張りの力を入れ、大地に対してからだを据える「踏み締め」の訓練が、これらの心理的メカニズムを変えていくキーポイントになると成瀬は考えたのである。

実際に、筆者も、からだをタテにすること、踏み締めるということに重点を置いた訓練をすることによって、かなりの効果がみられることが実感できた。しかも、この「踏み締め」の訓練は、立位や歩行の訓練ばかりでなく、坐位、膝立ちの訓練でも非常に重要な役割を果たすことが体験的につかめてきた。自閉的傾向をともなった肢体不自由児に対して膝立ちの膝立ちの訓練をしたときに、きちんと腰に力が入るようになってしばらく踏ん張っている間、目をカッと見開いていたり、焦点の合った目で周囲を見回したりということは、まさしく成瀬のいう四次元世界への対応を示していると思われる。本稿では、「踏み締め」ということに重点を置きながら、歩行動作治療訓練法について述べることにする。

足の置きかた

一般的な「気をつけ」の姿勢の場合には、両踵をつけて左右の爪先の部分を開いて立つが、この足の使いかたは立位の訓練には適切ではない。なぜかといえば、これでは足、脚、上体が安定し過ぎてしまい、自分で自分の体をコントロールしながら立っているという感じがつかみにくいのである。立位の訓練のためには、両足は図1のように少し間隔をあけて平行に床につける。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

実際にこうして立ってみると、足首、膝、腰、肩などで微妙に調節しながら立位姿勢を保っていることが非常によく感じられる。したがって、立つために自分自身がどのような変化をしなければならないかがよくわかりやすい状況をつくってやるということがこのような足の位置をとらせることであり、そのうえで訓練を行うことになる。 

足で大地を踏み締めて立つ

歩行動作治療訓練を行う場合、まず、ひとりで立っていられることが条件となる。このとき、ただ単にひとりで立っていられるだけでは不充分である。踵がしっかりと床についているか、足首、膝、股関節に、ひとりで立っていることを維持するのに必要な微妙なコントロールをするだけの動きがあるかどうか、脚の上にまっすぐ腰と上体がのっているかどうかが非常に重要である。ここで「動き」というのは、本当は正確なことばではなく、自分で「動かす」ことができるという意味である。この訓練法では、「動くか動かないか」ということではなく、自分で「動かせるか動かせないか」が重要な問題なのである。歩行動作のためのこの前提条件が整わない場合には、これらの訓練から始めることになる。立位姿勢をとったときに、膝が突っ張り、脚が自由に使えないということはよく観察されることである。一見、これは膝だけの問題としてとらえられがちであるが、実際には、足首、膝、股関節の使いかたに問題があるのである。立位姿勢の状態で、上体をまっすぐに立てたまま、膝をゆっくりと屈げたり伸ばしたりすることができるように訓練することにより、同時に足首、股関節の使いかたも覚え、足首、膝、股関節に余裕をもって立てるようになる。この訓練の具体的な方法は、徳永が詳しく述べている。

さて、上体がまっすぐ脚の上にのり、足首、膝、股関節がある程度動かせて、余裕をもって立位姿勢が保持できるようになったところで、または、これらの訓練をしながら、いよいよ「踏み締め」の立っているときに、トレーニーがおもに足の裏のどの位置で床を踏んでいるのかをトレーナーとしては理解しなければならない。極端な例をあげれば、足の指に力が入って屈がり、指先が白くなっているようなら、おもに指先のほうで床を踏んでいる証拠である。このときには、上体がやや前傾気味になっていることが多い。足の指が床にしっかりとついていなければ、おもに踵のほうで床を踏んでいることになる。この場合には、上体がやや後傾気味になっていることが多い。足の裏のどの位置で床を踏んでいるかということは、なにも爪先と踵の問題だけではない。おもに足裏の内側で踏んでいるのか、または外側で踏んでいるのかも大いに問題である。床についている状態の足を踵のほうから、または爪先のほうから見てみると、これもよくわかる。内旋している脚では、内側で踏んでいることが多く、この場合には土踏まずの形成も充分でないこともある。以上は目で見たうえでの観察のポイントであるが、実際の訓練では、見た目にばかり頼っていてはならない。トレーニーの腰に軽く手を当てたときに、トレーナーの手に伝わってくる感じでそれがわかるようになっていることが大切である。足の踏みかたは、肢体不自由の場合ほど顕著ではないが、健常者にもそれぞれの特徴がある。筆者と一緒に訓練に携わっている学生たちの多くが、左右の足の踏みかたが異なっており、よく見ると、左右の足の形は対称ではない。しかし、踏みかたを変えるように訓練していると、みるみるうちに足の形が変わっていくことがわかる。

さて、立位姿勢における踏み締めの訓練であるが、理想的には、必要に応じて足裏のさまざまな部分できちんと大地が踏み締めるようになればよい。しかし、一番大事な訓練課題は、図2に示す斜線の部分できちんと大地を踏み締めることである。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

この部分で最初から踏み締めることは難しいので、訓練の手順としては、まず、足裏で床を踏んでいるということをトレーニーに実感させることから始める。つまり、足裏で床をじっくりと味わうことから始めるのである。立位姿勢をとらせ、少しだけ前傾をさせて、おもに爪先で踏んでいることを体験させる。また、少しだけ後傾させて、おもに踵で踏んでいることを体験させる。このようにして、さまざまな方向にからだを少しだけ傾けてやり、足裏のいろいろな部分で床を踏む感じをつかませる。この過程で、前述の斜線の部分で踏むことももちろん加えておく。そして、この部分に脚、上体の全体重をかけて床を踏み締めることが、立位姿勢の中で一番安定していることを実感させるのである。その後、これまでトレーナーの他動的な援助で行ってきた、この斜線部分で踏み締めることを、トレーニー自身の努力でできるようにする足首、膝、股関節がある程度自分で動かせるようになっていないと、なかなかこの斜線部分で踏み締めることができず、腰で反動をつけたりすることがみられる。そうすると、かえって適切な位置での踏み締めが困難になってしまうので、このような場合には、もう一度、足首、膝、股関節が動かせるかどうかのチェックが必要となるであろう。立位での踏み締めについては、古賀が詳細に述べている。

歩行が可能な肢体不自由児でも、立位での踏み締め訓練は、長く続けると見ていてつらそうである。普段の生活での使いかたとは異なる足裏の使いかたを覚える過程で、足裏は真っ赤になっており、きいてみると、非常に痛いという。トレーナーはこの辺りについても注意を払っておく必要がある。 

片足で踏み締める

両足できちんと踏み締められるようになったら、今度は、片足で床をきちんと踏み締める訓練を行う。図3にしめすように、トレーナーはトレーニーの腰を軽く補助し、ゆっくりと重心を片方の脚に移動させていく。このときは、まだ両足ともに床につけたままである。重心を移したほうの脚にむやみに不必要な力が入らないように、特に、膝が反張にならないように気をつける。また、重心を移したほうの側に上体が傾かないように気を配る。上体は垂直のまま、もしくは、反対側に若干傾く程度が望ましい。横から見たときに、上体が反ったり屈がったり、また、尻が突き出したりしないようにする。この訓練の場合も、足裏のどの位置で床を踏み締めるかが問題である。両足で踏み締める場合とは少し異なり、重心を移したほうの足は、図2で示した斜線の部分の中央よりも外の部分で踏み締められるようになることが、この状態で一番安定できるようである。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

この踏み締めができるようになったら、今度は図4に示すように、反対側の足を床から完全に離して少しだけあげ、すぐに元の位置に降ろすという訓練を行う。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

このとき、足をあげ過ぎると全体のバランスが崩れやすいので、くれぐれも少しだけあげてすぐに降ろすということを徹底させる。また、足を後方にあげてくるトレーニーもいるが、そのときには膝を前に出しながら足をあげることをさせる。踏み締めているほうの足の側に上体が傾かないようにすることは、両足を床につけたまま片脚に重心を移したときと同様である。足がどうしてもあげられないトレーニーもいるが、足があげられないのではなく、片方の足でしっかりと踏み締めることができないことにより、他方の足をあげようにもあげられないということのほうが多いようである。しっかりと足で床を踏み締めて体重をのせているほうの脚を「のり脚」と呼んでいる。

踏み出し

片脚に重心を移し、足でしっかりと床を踏み締めて、反対側の足をあげることができるようになったら、今度は、あげた足をそのまま元の位置に戻すのではなく、前方に踏み出す訓練を行う。この前方に踏み出す脚を「出し脚」と呼んでいる。足をまっすぐ前に出すこと、また、大きく踏み出さないで、小さく踏み出すことを心がける。大きく踏み出すと全身のバランスを崩しやすく、また、重心を片方の脚から他方の脚に移しにくくなるからである。このとき、出し脚の側の腰が前方に極端に出ていたり、肩を引っ張りあげるようにして脚を出したりしないように気をつけてやることが必要である。出し脚が前方で床につくときには、爪先からではなく、踵から着地するようにする。

交互踏み出しを行うためには、出し脚が床についた時点で、今度はのり脚から出し脚に重心を移してこなければならない。のり脚が支えていた上体を出し脚の上にのせることが必要になってくる。このとき注意しないようにことは、出し脚の上に上体がきちんとのってくる前に、出し脚の膝を伸ばしてしまうことが往々にしてみられることである。そうなると、結果として出し脚のほうの側の腰が引けてしまうことになる。したがって、出し脚の側の腰を回すことなく、まっすぐに前方に出して出し脚の上にのせていく努力をさせなければならない。同時に、出し脚の側に上体が傾かないようにする

出し脚の上に重心が移り、しっかりと床を踏み締めたら、後方にあったのり脚は踵をあげながら爪先で床を蹴り、まっすぐ前方に出されなければならない。このとき、のり脚は出し脚となる。こうして交互踏み出しの訓練を行うが、あくまでも小幅踏み出しを励行させることが重要である。

歩行

交互踏み出しで歩数が増えてくると、それが連続的な行われたとき、歩行につながる。最初はまっすぐに、あくまでも小幅で行う。交互に連続的に踏み出しているときには、トレーニーのからだのあちこちの部分に不必要な緊張が生じてくることが多い。脚を踏み出すたびに生じるこれらの緊張をトレーニーは自分で常に弛めておく努力をしなければならない。

また、我々は日常生活の中で、常にまっすぐに歩いているわけではない。したがって、方向を転換しながら歩行をする訓練も必要となる。右回り、左回り、S次歩行などがスムーズに行えるようにすることも歩行訓練の課題となる。

歩行に至るここまでの訓練を、成瀬は歩行動作訓練票としてまとめた。それを110頁にしめしたが、この票はそれぞれの課題の評価ができると同時に、訓練の方法、順番もわかるようになっている。実際の訓練のさいに利用されたい。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

臨床動作法5

今回は【肢体不自由動作法】の中から、タテ系動作治療訓練法 をご紹介します。

なお、『臨床動作法の理論と治療』の目次は”臨床動作法2”をご覧ください。

編集:成瀬悟策

出版:至文堂

発行:1992年10月

 

肢体不自由動作法

タテ系動作治療訓練法

はじめに

不精者のたとえとして「横の物を縦にもしない」という言い方がある。ちょっと変な言い回しかもしれないが、そのたとえから言えば、動作法は不精者ではないということになるだろう。なぜなら、この数年、動作法はそれこそ「横の物(からだ)を縦にする」ことをしっかりと行なってきたからである。

そうした取り組みの中から生まれてきたものがタテ系動作治療訓練法(以下、タテ系訓練と記す)である。このタテ系訓練によって、動作法はその技法の面において大きく発展し、現在では、従来の弛緩中心の技法に代わって、タテ系訓練が動作法における最も基本的な訓練法として位置づけられるようになっている。 

タテ系訓練の考え方

(1)タテになることの意味

寝たきりの重度の子どもでも、坐位(あぐら坐)が独りでとれるようになると、まるで人が変わったかのように、表情や仕草が生き生きとしてくることがよくみられる。それまでぼんやりした目つきだったのが、目をしっかりと開けて周囲を見回し、自ら積極的に周りの人や物に働きかけるようになる。

坐るというのは、重力に対応して自分のからだをタテ方向に立てるということである。我々健常者と呼ばれている人間は、そうしたことを容易にやってのけているために、それがどんな意味をもっているのかなぞを考えることはほとんどない。

しかし、重度の子どもでみられる前述のような変化は、我々人間にとって、からだをタテにすることがいかに重大なことであるかを示している。つまり、それまでの寝たきりの二次元的な平面の世界では、受け身的な存在にしかすぎなかったのが、からだをタテにすることができるようになって、初めて能動的に環境に働きかける存在としての自分というものが生まれてくるらしいのである。そして、タテになることによって、左右や上下、遠近といった三次元的な空間の世界が展開し、さらにタテの姿勢を保持し続けるということから、時間という四次元的な世界をも取り込むことになり、自分を中心とした生活体験の世界がそれまでとは比べものにならないほど拡大していくことになる。

こうしたことから、重力に対応してからだを位置づけること―すなわち、からだをタテにする、ということは、人間の存在の基盤であるといっても過言ではないといえるだろう。

(2)弛緩中心の訓練の問題

タテ系訓練以前の技法は、子どもを寝かせた姿勢で身体各部位の弛緩を行うことが中心だった。それは、脳性まひ児の動作不自由をもたらす最大の原因が、彼らにみられる誤った過度の緊張であり、そのため、まずそのような不当緊張を適切に処理するための弛緩訓練が重要だと考えられていたからである。

不当緊張のある部位を弛緩できるようになると、それだけで立てなかったのが立てるようになることもみられ、こうしたやり方もそれなりの効果があったことは確かである。しかし、このような方法を長く続けているうちに、その問題点もいくつかみられるようになってきた。

その一つは、重度の子が多く訓練に参加するようになったことと関連して、弛緩訓練によって弛めることができるようになっても、それだけで終わってしまって、その後の新しい動きの獲得につながらないことが多くなったことである。つまり、弛めただけでは不十分で、どうしても動きそのものを教えることが必要なケースが増え、弛めるだけでなく、正しい力の入れ方を教えるということが訓練の重要な課題となってきたのである。

その他にも、弛緩中心の訓練では、どうしても動きそのものを教えることが必要なケースが増え、弛めるだけでなく、正しい力の入れ方を教えるということが訓練の重要な課題となってきたのである。

その他にも、弛緩中心の訓練では、どうしても訓練が局部的・部分的なものになりがちなため、一つ一つの部位の弛緩はある程度進んでも、それが動き全体の改善までつながらず、そのうちに弛んだところもまた元に戻ってしまうことがみられたり、とにかくまず弛めてなくてはならないということで、ともすれば訓練者が一方的に弛めてやるということになってしまうということもあった。

(3)タテ系訓練の展開

そうした弛緩中心の技法の問題を乗り越え、子どもに正しい力の入れ方を確実に覚えさせ、動き全体の改善をもたらす方法として開発されたのがタテ系訓練である。

先に述べたように、寝たきりの子どもでも、坐位の姿勢で頚や背、腰にうまく力を入れて、上体をタテにすることができるようになると、安定して坐っていることができるようになるだけでなく、行動全体が積極的・能動的なものとなってくる。そして、坐位だけでなく、膝立ちや立位といった姿勢がしっかりととれるようになると、子どもはいっそうからだの動きもよくなり、こころの活動も活発になってくることも分かってきた。

また、例えば、坐位がとれるようになると、それだけで肩や股の緊張が弛むというように、局部的な弛緩訓練を長くやっていてもなかなか弛まなかった頑固な慢性緊張が、からだをタテにすることができるようになると、直接にはその部位の弛緩訓練を行わなくても、弛めることができるようになってくることも明らかになってきた。

さらに、すでに立って歩いているような子どもでも、歩行が不安定であるとか、姿勢に歪みがあるとかいう場合に、それを改善するためには、坐位や膝立ちや立位の訓練を行うことが有用であることも確かめられた。

このようにして、重力に対応して自分のからだをタテにすることが、人間にとって非常に重大な意味をもっていることが明らかになると同時に、そのための働きかけは、弛緩を主とした従来のやり方とは比較にならないほど極めて有効な訓練法であることが確認されてきたことから、そうした訓練法をタテ系訓練と呼び、動作訓練の最も基本的な訓練法として位置づけられるようになったのである。

タテ系訓練の方法

(1)訓練課題

タテ系訓練では、以下の四つが訓練課題となる。

1.坐位

2.膝立ち(片膝立ち)

3.立位

4.歩行

各課題の対象となるのは、それぞれの課題の姿勢がとれない子どもはもちろんであるが、そればかりではなく、何とかその姿勢はとれても、どうも不安定であるとか、側彎や猫背、腰引けなどで姿勢に歪みがみられるような子どもも含まれる。例えば、立って歩くことができているような子どもでも、坐位をとらせると腰が引けて安定して坐ることができないようであれば、坐位訓練の対象となる。

(2)訓練手順の原理

どの課題においても訓練の進め方は共通しており、次のような原理に従って訓練が行われる。

1.形づくり

まず、それぞれの姿勢を子どもにとらせ、タテの姿勢の体験をさせる。その場合大切なのは、子どもがからだを屈げたり反らしたりするような力を入れることなく、トレーナーにからだを任せられるようになること(これを「おまかせ脱力」という)である。

2.主動化

形づくりでタテの姿勢がとれたといっても、それはトレーナーによってとらされたものであり、子ども自らがその姿勢をとったとは言い難い。そこで、次にトレーナーの援助を少しずつはずしていき、子どもが自分でその姿勢を保持する―つまり、タテに力を入れてくるようにさせる。受け身的なタテの姿勢から、主動的・能動的な本来の意味でのタテの姿勢への変換が図られるということから、この働きかけに対して「魂を入れる」という言い方がよくなされる。

3.分節づくり

自分でタテの姿勢が何とかとれるようになっても、それはまだ極めて自由度の小さい、非常に不安定なものでしかない。そのため、その姿勢の自由度を増し、安定性を高めるために、タテに力を入れたからだのある部分(ポイントとなるところがいくつかあり、「節」と呼ばれる)だけを弛めて動かせるようにすることが必要となってくる。つまり、一本の棒にすぎなかったものをいくつかの「節」ごとに分けて使えるようにするわけである。

4.バランスとり

最後に前後左右に重心を移動させ、そこでしっかりと踏みしめることを覚えさせながら、からだを動かしても倒れないようなバランスのとり方を教える。

(3)訓練の実際

それでは各訓練課題について、実際の訓練のやり方の大節を紹介しよう。ただし、歩行訓練については、別項に説明があるので、ここでは省略する。

1.坐位

坐位には、正坐やあぐら坐、横坐りなど色々なものがあるが、タテ系訓練ではあぐら坐を基本として訓練を行う。それは色々な坐り方の中でも、あぐら坐が最もタテの感じがつかみやすい姿勢だからである。

まず、子どもにあぐら坐をとらせ、トレーナーは子どもの後ろに坐り、両脚を子どもの大腿部に載せ、子どもの上体を前傾させ、そこから子どもの肩または頚を持って上体をゆっくりと起こしてやる(図1)。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

 

そして、子どもの頚のすわりの様子、背や腰の反り・屈がりのぐあい、側彎の有無、股関節のかたさ、などをチェックし、それに応じて、必要な箇所の弛緩を行う。例えば、背中や腰に屈の緊張が強くみられる子どもに対しては、図2のように、子どもの背中・腰にトレーナーの脛を当て、子どもの上体を起こして反らせるようにして弛めるようにする。こうした手続きを通して、トレーナーの補助があれば、大腿部ができるだけ床につき、上体が頭から尻まで一直線になるような状態ができるようにしておく。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

次に、図3のように、トレーナーは脚などを使って子どもの腰や背を軽く押し、どこに力を入れたらいいのかの手がかりを与え、様子をみながら、その補助を少しだけはずすようにして、子どもがそれらの部位に反りや屈ではないタテ方向の力を入れてくるように促してやる。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

そうすると、腰や背に当てた脚を離そうとしたときに、子どもがそれらの部位に力を入れてくることがみられる。初めは瞬間的でごく弱い力の入れ方にしかすぎないが、繰り返し行っていくうちに、しっかりした確実なものとなっている。そして、それに合わせて、子どもの肩や大腿部に与えていた補助をはずしていき、図4のように、そうした補助なしでも、子どもが上体をタテにすることができるようにする。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

それができるようになったら、タテになった上体の腰だけを弛めて祈るようにさせ、腰が余裕をもって使えるように、分節づくりの訓練を行う。そのとき、腰から上は反ったり屈がったりせずに、タテにまっすぐになっていることが肝要である。その後、前後左右に上体をわずかに倒し、バランスを崩しても、尻から大腿部で床をしっかり踏みつけて、上体をタテに保持できるようにする。

2.膝立ち

膝立ちがうまくできない子どもに膝立ちの姿勢をとらせようとすると、股がかたく屈になり、尻が後ろに引けてしまうことが多い。そのため、まず、図5のようにして、股を十分に伸ばす訓練を行う。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

そのとき、トレーナーが強引に股を伸ばしてやるのではなく、子どもが自分で力を抜いて股を伸ばしてくるのを待つこと、また、腰が反ってしまわないようにすること、に注意しなくてはならない。

股が伸びてきたら、トレーナーは図6のような補助の仕方によって、子どもの膝から上がまっすぐになるようにする。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

その際、子どもの両膝頭が離れないように、また、左右の足先が開かないようにしておく、そして、子どもの尻をブロックしているトレーナーの膝をほんの少しだけはずし、同時に子どものあごを少し引くようにしてやると、子どもが自分で腰に力を入れてくることがみられることがある。坐位のときと同様に、これも初め瞬間的なごく微妙な動きにしかすぎないが、何度も経験させていくうちに腰にしっかりと力が入るようになり、それに合わせて、トレーナーは補助を頚から肩、肩から腰へと徐々に下げ、最終的には上体の補助を全て離し、子どもが膝と腰で上体をしっかりと支えることができるようにする。

次に、図7のように、上体はまっすぐにしたまま、股だけを折り、股に余裕をもたせるようにする。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

最初はごくわずかだけ祈るようにし、次第に折る角度を深めてそこで止まり、また浅くして、前後の動きを引き出すようにしながら、腰と脚でしっかり踏んばれるようにしていく。そして、上体をまっすぐにしたまま、重心を前後左右に移動させ、そこで床を膝で踏みしめさせ、重心移動とバランスとりの訓練を行う。

3.立位

まず、図8のような補助で子どもに立位の姿勢をとらせる。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

そのとき、両脚は平行にそろえ、足幅は足と足の間がすこしあるくらいに狭くする。踵が床につき、膝が屈がらないように、腰から頭までがまっすぐになるよう、ブロックする。

トレーナーの補助によって立位の姿勢が一応とれるようになれば、子どもに膝を伸ばし、踵を踏みしめ、腰に力を入れて上体をまっすぐにするように促しながら、腰や膝のブロック補助をほんの少しだけはずしてやる。初めはすぐに膝が屈がり、腰が引けて、倒れそうになるが、そのときには直ちに元のようにしっかりとブロックして、決して倒さないようにする。腰に子どもが力を入れてきて上体が安定してきたら、腰の補助をはずし(図9)、膝にも力を入れて足から頭までがタテになるような力の入れ方ができてきたら、膝の補助もはずしてやる。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

こうして、立位でタテ方向へ力を入れることができるようになれば、その次に、図10のように、上体をまっすぐにしたままで膝を弛めて屈げさせ、カクンと力が抜けてしまう直前で止め、そこから膝をゆっくり伸ばさせ、膝でしっかり踏んばることができるようにする。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

その際、腰が引けたり反ったりしないこと、足の裏全体が床についていること、さらに図11の斜線の部分で床を踏みしめるようにすること、に注意する。

その後、上体が前後左右に傾かないようにしながら、重心を移動させ、図11の斜線部以外のどこででもしっかりと踏みしめができるようにして、立位のバランスがうまくとれるようにする。

画像出典:「臨床動作法の理論と治療」

 

(4)トレーナーの心構え

最後に、タテ系訓練を実施していく上で、トレーナーの心構えとして大事だと筆者が思うことをいくつか挙げてみよう。

1.子どもの主体性の尊重

このことはタテ系訓練になる以前から動作法の基本として常に言われてきた。しかし、従来の弛緩中心の訓練では、不当緊張のある部位をとにかくまず弛めなくてはいけないということで、ともすればトレーナーが一方的に弛めてやるというふうになりがちであった。それに対して、タテ系訓練では子どもの適切な入力ということが重視され、トレーナーがやってやるのではなくて子どもが自分でやるようになることの重要性がはっきりしたかたちで示されている。つまり、タテ系訓練になって、子どもの主体性・自発性の尊重ということがより一層クローズアップされてきたといえよう。

2.部分より全体

タテ系訓練でよく使われる言葉として「①-③の原理」というものがある。これは坐位で首がすわるためには、頚(①)だけを起こすのではなく、同時に胸(③)にも適切な力を入れてくることが必要だということである。さらに、頚と胸だけでなく、頚と背や頚と腰などにもうまく力が入れられるようになると、一層しっかり首がすわってくる。このように、首がすわるということはその部位だけの問題ではなく、胸や背、腰などの部位との関連の中で全体的に捉えていかなくてはいけない。このことは、子どもの抱える問題を局部的に処理するというより、タテという大きな枠組みの中で有機的に関連付けて対処していくことの必要性を示している。「①-③の原理」とはそのことを最も簡潔に表してる言葉だといえよう。タテ系訓練では、そうした部分的なものにとらわれずに全体のダイナミックスの中で問題を捉えていく見方がトレーナーに求められている。

3.形よりやりとり

坐位や膝立ちの訓練はそうした姿勢(形)をトレーナーがただ一方的にとらせるだけの訓練ではない。そこで大切なのは、そのような姿勢の中でトレーナーの働きかけに子どもが応え、それに対してまたトレーナーが応えていく、というやりとりを通して、子どもが適切なタテの力を獲得していくという過程である。しかしながら、とにかくタテにすればいいのだというように、ともすればからだをタテにするという形にのみ目が奪われて、やりとりということが二の次になってしまいかねない。タテ系訓練では、形にとらわれがちになる分、より一層子どもとのやりとりということをトレーナーは心に留めておくことが必要である。

4.✕より〇

弛緩中心の訓練では、不当緊張を弛めることから訓練が始まった。これは子どもの欠点を探し出して、それを矯正していく―つまり、子どもにとって✕になっているものをできるだけ取り除いていくという発想だったといえる。一方、タテ系訓練では、子ども自らの適切な入力ということが重視されている。こうしたやり方は、欠点の矯正というよりは長所を伸ばすということで、いわば子どもにとって〇になるものを少しでも引き出していくという発想だとみなすことができる。従来の方法からタテ系訓練への展開には、このできるだけ✕よりも〇を見いだしていこうという発想の転換があったともいえよう。「これができない」「まだあれもできない」と✕ばかりに目を向けるのではなく、「さっきより動きが出てきたな」というように、少しでも〇になるところを探し出していくことがトレーナーにとって大切になってきている。

そして、とりわけ、〇を探せと言われてもなかなか難しいことの多い、いわゆる重度の子どもについても、どうしたら○を見つけ出していけるかということを具体的に示したという点において、タテ系訓練は画期的な訓練であるといえるだろう。

付記タテ系動作訓練票

下記の票はこちらの本の中に掲載されていました。

画像出典:「動作訓練の理論」

画像出典:「動作訓練の理論」

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