脳性まひの治療アイデア2

今回のブログは“痙直型両まひの治療 Ⅰ.痙直型両まひ児の臨床像”について書かれた箇所のご紹介です。“症例検討”では3つのうち、最初の“症例1”のみをお伝えしています。

なお、前回の“1”と同様に箇条書きにしたものと、そのまま忠実に抜き出したものが混在しています。

著者:Jung Sun Hong 監訳:紀伊克昌 訳:金子断行

出版:三輪書店

初版発行:2010年4月

第2版発行:2014年10月

目次は“脳性まひの治療アイデア1”を参照ください。

 

C 痙直型両まひの治療

Ⅰ.痙直型両まひ児の臨床像

治療では頸部と中枢部の安定性を考えることが最も重要である。この2つは頭部のコントロール、上肢の支持や運動、下肢の運動といったヒトの発達の基本となる。

●多くの両まひ児は歩けるが、関節拘縮や変形、筋の変性といった下肢のアライメントと運動パターンに大きな問題を抱えている。

とりわけ両まひ児の足部運動は考慮する必要があり、硬くて動かないために「凍りついた足部」と呼ばれ、立位・歩行では下肢の選択的な運動を困難にする。

●正常発達では足部の背屈は立位・歩行の選択的な運動を可能にする。

●健常児は全身の全体パターンを使って立ち始める時、股関節は強く内転・伸展し、また足部は底屈となり、選択的な骨盤と下肢の運動はまだ獲得できていない。しかし、足部が立位で自由に運動できるようになると、つま先のダイナミックな動きや足関節の背屈を伴った骨盤と下肢の選択的な運動が出現してくる。したがって、立位で両まひ児の足部の運動性がない場合、常に下肢は強い内転・内旋・伸展位となる。

●すべての両まひ児は、骨盤の非対称、下肢のアライメント不良、強い股関節内旋の問題を抱え、股関節内転・足部底屈を強めていく。このような下肢の過緊張パターンと弱い運動性を変えるため、セラピストは中枢部の動的安定性を伴った足部の運動性を引き出さなければならない。足関節の角度としては、少なくとも0°以上は必要である。

●セラピストは、はじめに子どもの不適切な動きとアライメントを評価して、機能的活動に必要な要素の何が欠落しているかを捉えて、その要素を埋め合わせる治療をしなければならない。

1.症例検討

1)症例1

一人で座れる痙直型両まひ児

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

(1)臨床像

(a)座位で頭部は不安定で頸部過伸展を示す。これは頸部の動的安定性が不十分であることを示している。また、頸部は体幹と同軸上で動くことができない。そのため、頸部の動的安定性が乏しく、上方視と単眼視で本やおもちゃをみる。

(b)体幹は低緊張・低活動であり、動的安定性が乏しい。

(c)下肢の過緊張と中枢部の動的安定性の不足のために仙骨座りとなる。

(d)左側より右側の過緊張が優位なため、両股関節は内転・内旋するも右側が強く、骨盤も右側後方に引けている。

(e)股関節周囲筋群の拘縮や硬さにより、骨盤は岩のように固く運動性がない

(f)底屈・内反した足部は「凍りついた足部」であり、とりわけ動きがない。

(2)治療のアイデア

目的頸部と中枢部の動的安定性の活性化を図る。これは体幹と下肢の運動発達を促す。

(a)頭部と体幹の連結。これは頸部の動的安定性を活性化させる(正しい姿勢コントロールのための頸部のダイナミックな軸の安定)

(b)下肢と体幹の運動連結のための四肢近位部の動的安定性を活性化させる。

(c)上肢を空間で使用するための頸部と中枢部の動的安定性を活性化させる。

(d)姿勢コントロールに影響を与える良好な頸部の軸を発達させるため、良好な眼球運動と正しい視知覚認知機能を獲得させる。

(e)骨盤に対して下肢を正常な角度に改善させ、ダイナミックな支持基底面を獲得させる。

(f)足関節とつま先の運動を活性化させる(つま先から頭部を連結させるため足部背屈の促通)

(g)主要な治療戦略頸周囲筋群と身体近位筋群、すなわちコア筋を育成する。重要な筋群であるコア筋が促通されると、身体近位部の安定性と遠位部の運動性が保障される。つまり、頸部と身体近位部を自動的に活動させるため、筋線維と受容器の数が増大するように発育させる。なお、筋線維と受容器は、末梢の情報を中枢へ伝える役割を果たす。

(3)治療の準備

(a)脊柱と骨盤の運動性改善。

(b)上肢の動きのための肩甲帯の運動性改善。

(c)下肢のアライメントを整えるための股関節の運動性改善。

(d)骨盤と股関節の運動性改善。

(e)足関節とつま先の運動性改善。

2.治療アイデアの紹介

●セラピストは個々の子どもが抱える問題点を解決するために過緊張を緩和させ、正常運動を促通して身体各部位の運動を変えていく。

●最も重要な点は何を治療で優先するかを決めて、子どもに最高のパフォーマンスを発揮させることである。

●良好な上肢支持を達成させるには、肩甲骨のセッティングと頸部の動的安定性が不可欠である。

●セラピストは座位および立位において四肢近位部の動的安定性を得るために股関節・骨盤・脊柱の十分な運動性を引き出しておく。

1)骨盤の運動性

内転筋群を緩める

セラピストは、子どもを側臥位で下側下肢を伸展位にして、セラピストの膝を子どもの大腿にあて安定させる。上側下肢は屈曲させ、セラピストの大腿の上にのせ、骨盤とともに安定させる。セラピストは下側下肢内側、および恥骨と坐骨近くの内転筋群を把持する。内転筋群は硬く、特に腱部の過緊張を触診できる。そして、セラピストは肘をしっかり伸ばし、上側下肢に内旋・外旋の運動をさせ、下側下肢を尾側方向に牽引しつつ内転筋群を緩めていく(図C-4)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

 内転筋群の過緊張の緩和を何度も確認する。次に、他方の手で骨盤の運動性を上側下肢から引き出していく。この時、セラピストは下側下肢と足部のアライメントを中間位に整えておく。一連の過程で骨盤の運動性が得られなければ、さらに両下肢を分離させるために上側の大腿を前方に牽引し、上側骨盤を前方突出させていく(図C-5)。 

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

●一般的に痙直型両まひでは、股関節脱臼や亜脱臼が生じやすい。これは大腿骨頭が臼蓋に深く嵌入できないことが原因と考えられる。

●子どもたちは大腿骨頭を臼蓋に深く位置させて、いろいろな方向へ股関節を動かした経験がない。つまり、すべての臼蓋表面上を大腿骨頭がすべるように動いた経験がない。

セラピストは、新しい感覚情報を股関節に与えるため、大腿骨頭を臼蓋にしっかりと接触できるように、上側下肢を骨盤方向に圧迫する。さらに上側の大腿を前方や後方など、いろいろな方向に動きを与えながら股関節の関節包内運動を促通する。特に外旋を加える(図C-6)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

●セラピストは内側のハムストリングスにも着目する。内側ハムストリングスは内転筋群や内旋筋群とともに過緊張パターンになり短縮しやすい。そのため、セラピストは背臥位で大腿を把握し、上方に牽引しながら外旋させ、内側ハムストリングスの長さをつくる。これは下肢に対する骨盤の動きの準備となり、座位で股関節に体重負荷された時に、それまでとは異なる正しい感覚を入力することができる(図C-7)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

(1)背臥位

●背臥位では腰椎前弯が増強される特徴的な姿勢を示す。体幹部の動的安定性がなく、骨盤を安定させるために強い体幹伸展で代償しているためである。さらに骨盤周囲と下肢の強い緊張が、骨盤を後方に引いて骨盤を前傾位にさせてしまう図C-8)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

このイラストは「セルフドクターネット」さまより拝借しました。上が“前傾した骨盤”です。

 

 

●過緊張に左右差があるため骨盤をどちらか一方に後退させ「風にふかれた股関節」となる(図C-9)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

●骨盤が後退した側の下肢は外転・外旋し、これに引っ張られ反対側の下肢は内転・内旋となる。すなわち、2本の下肢が開かず接触するようなアライメントの不良を起こす(図C-10)。 

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

●大腿骨と脛骨のアライメントでみると、膝関節の最終伸展20°で脛骨が回旋できないと膝関節を上手に固定することができない。

●セラピストは、治療を開始する前に以下を評価し、身体のアライメントを整える。

a)背臥位で脊柱のカーブを評価する。セラピストの手を腰椎下にもぐり込ませる。腰椎前弯が強いと床と腰椎の間を手が簡単に通り抜けてしまう。正常なカーブでは床と腰椎は接触している(図C-11)。 

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

b)骨盤と下肢の正しいアライメントの見方は、セラピストが子どもの両下肢を中間位にしながら持ち上がて、重力を除いた状態で骨盤を中間位に修正し、動きを評価する(図C-12)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

さらに同じ目的で行った別の方法として、セラピストは子どもの両下肢を曲げて膝を立たせる。そこで膝の高さが左右異なれば、一側の骨盤が後退していることがわかる(図C-13)。 

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

そして、左右の骨盤をそれぞれ後傾方向に動かし、膝の高さをそろえていく(図C-14)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

2)脊柱の運動性

●骨盤の運動性を引き出した後、セラピストは脊柱の運動性に着目する。

●痙直型両まひや四肢まひでは、体幹が低緊張のため脊柱の後弯をたびたび示す。

●座位や立位では、骨盤の動的安定性の欠如や肩甲骨の不安定のため、上肢の動きが阻害される。

●脊柱の協調性のある伸展を引き出すには、肩甲骨セッティングと可動性のある脊柱が必要とされる。

(1)側臥位

a)セラピストは、子どもの右側頸部を伸展させた頭部を枕の上で安定させ、上側の頭部から体側の長さを引き出し、良好で安定性のあるアライメントに整える(図C-15)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

b)セラピストは骨盤を安定させ、尾側方向へ上肢をていねいに牽引しながら肩関節を外旋させて上肢を伸展させる(図C-16)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

c)枕で頸部を安定させ、肩関節を下制させながら、ゆっくりと肩関節を外旋させ、上肢を後方に動かす。上肢が後方へ動くと、上肢は伸展しやすくなる(図C-17)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

d)上肢を尾側方向に牽引したまま保持し、肩甲骨を内転させながら肩関節を下制・外旋させる。これにより上肢の伸展は、さらに得やすくなる(図C-18)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

e)仮に肩甲骨が動かなければ、セラピストは肩甲骨下角を持ち、前方に傾けながら肩甲骨の内転と下方回旋を導く(図C-19)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

f)セラピストは上肢を体側で保持し、胸椎から腰椎に回旋運動を加える。この時、脊柱の伸展も意識する。脊柱を動かした後、セラピストは脊柱を子ども自身でも伸ばすように求める(図C-20)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

 

(2)横座り

横座りは、肩甲骨内転を伴う体幹伸展をつくる際によい姿勢である。また、一側の骨盤に体重移動ができ、分節的な脊柱の回旋と伸展を促すことができる。さらに一側の体幹も伸張でき、体側の筋群も発達させることができる。

a)一側の骨盤に体重をのせ、セラピストはおもちゃの方向へ体幹を正しく回旋させる(図C-21)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

b)体幹の伸展を促通するためには、3つのキーポイントがある。1つ目のキーポイントは肩甲骨である。体重を負荷している側の肩甲骨を内転させ、反対側の肩甲骨を外転し、脊柱の体軸内回旋と伸展を促通する(図C-22)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

2つ目のキーポイントは、体重を負荷していない側の骨盤である。その骨盤を引き上げながら回旋させ、前方に送ることで体軸内回旋と伸展を促通する(図C-23)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

3つ目のキーポイントは、腰椎もしくは体幹伸展筋群である。両者のどちらかを操作し、体重が負荷されていない側の体幹伸展筋群を活性化させ、骨盤回旋を伴う脊柱回旋を促通する(図C-24)。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

 

(3)足関節とつま先の運動性

●痙直型両まひ児の足関節の強い底屈は、足部とつま先の運動を制限し、座位での連結や、立位および歩行での選択的な下肢の運動を難しくする。

●座位での非連結は、またコア筋の不安定にも影響されている。これらの子どものたちは体幹の伸展が難しい。体幹の伸展が得られない原因は、頸部と四肢近位部の動的安定性の欠如および非対称、骨盤の不動、骨盤のサイズの小ささ、下肢の運動の乏しさである。

“凍りついた足”は座位における運動連鎖を阻害する。さらに立位では、股関節内旋筋群・内転筋群、足関節底屈筋が常に同時に活動してしまう。

●健常児が立ち始める時、全体パターンを使う。そのため、抗重力活動を得るために強い股関節内旋・内転、足部は底屈となる。しかし足部の背屈ができると、強い股関節内転と内旋は減弱する。なお、足部の背屈は大殿筋、大腿四頭筋、ハムストリングスを活性化させる。

●セラピストは両まひ児の座位、立位、歩行を改善させるために足部とつま先の働きを活性化させ、少なくとも足関節0°以上の可動性を獲得させなければならない。

3.体幹近位部の筋群の育成

●体幹近位部の筋群の活動は身体運動の基礎となる。骨盤・上肢・下肢を連結させ、呼吸・嚥下などの生命維持機能にも関与する。

上肢と下肢が動く時、体幹は常に効率的・自動的に活動する。これを「姿勢コントロール」と呼ぶ。適切な姿勢コントロールには適度なパワーとスピードがある筋群の生成が必要とされる。

●両まひ児の頸部・体幹・四肢近位部の動的安定性の弱さは、運動発達を停滞させる。これらの弱化は筋群の未発達が原因である。

治療では身体各部位を強く連結させるとともに体幹と四肢近位部の筋群の育成も図る。

●セラピストは、未成熟で生まれた両まひ児に対して体幹近位部の安定性を発達させることを強く心にとどめておく。これらの筋群の育成は、安定性と運動性にとても重要な役割をもっている。

●筋群の発達はたくさんの感覚受容器を活性化させ、中枢神経系に身体運動・身体図式の発達に有益な情報を送る。

身体図式:『身体が今どのような姿勢にあるのか、身体各部位がどのような位置関係にあるのか、ある動作を取るには身体の各部位をどこからどこへどのくらい動かせばよいのか、といったことを直感的に知るための潜在的な基準である。』

上記は、ネット上にあった、バイオメカニズム学会誌,Vol. 37,No.4(2013) ”運動学習におけるコツと身体図式の機能”から引用させて頂きました。クリック頂くと6枚のPDF資料がロードされます。

脳性まひの治療アイデア1

“動くことができる患者さま”に適切な施術を行うため、まずは正しく知る必要があることを痛感し、ここまで3冊の本で学んできました。

脳性まひ児の発達支援」は2011年発行ですが、「小児の理学療法」は2002年、「脳性麻痺と機能訓練」も2002年(初版は1995年)とやや古い本であることが気になっていました。そこで、もう少し新しい本はないかと思い、見つけた本が今回のものです。初版は2010年ですが第2版は2014年です。最新とはいえませんが、本のタイトルが気に入り購入しました。

著者:Jung Sun Hong 監訳:紀伊克昌 訳:金子断行

出版:三輪書店

初版発行:2010年4月

第2版発行:2014年10月

ブログは4つに分けています。今回の“1”は目次の黒太字の部分をご紹介しています。また、黒細字は“2”、“3”、”4”でご紹介する項目であり、それ以外の灰色はブログ対象外ということになります。

目次

A 姿勢コントロール

Ⅰ.定義

1.ヒトの動き

2.コア筋と頚部筋群

3.全体パターン

1)子宮内の屈曲姿勢

2)ランドー反応

3)高這い歩きとハイ・ガード歩行(両上肢を挙上させた歩行)

4.足部の動き

B 正常発達

Ⅰ.胎児期のステージ

1.子宮内での屈曲姿勢

2.屈曲姿勢の発達

1)全体パターン

2)頭部と体幹の連結

3)屈曲方向の動き

4)口腔運動、眼球運動、呼吸パターンの発達

5)伸展活動との釣り合い

6)情緒の安定・心理的安定

7)自己鎮静

Ⅱ.第1ステージ

1.生理的屈曲

2.子宮内と出生後の環境の相違

1)重力

2)子宮内と異なる感覚入力

3)身体図式

4)支持基底面の獲得

5)中枢神経システムの発達

6)食事

7)昼と夜

8)未成熟で反射的な動き

(1)探索反射

(2)嘔吐反射

(3)吸啜・嚥下反射

(4)咬反射

(5)頚部の立ち直り

(6)モロー反射

(7)初期起立、初期歩行

3.視覚の発達

1)単眼視

2)両眼視

4.感覚受容器の発達

Ⅲ.第2ステージ

1.対称的運動の発達

1)背臥位

2)腹臥位

3)体重移動

4)飛行機姿勢とずり這い

5)上肢支持による座位

2.伸展と内転の発達(ランドー反応)

1)背臥位

2)腹臥位

3)四つ這い位

4)寝返り

5)座位

Ⅳ.第3ステージ

1)背臥位

2)腹臥位

3)ピボット

4)四つ這い

5)両膝立ちと片膝立ち

Ⅴ.第4ステージ

1)座位

2)長座位

3)階段昇り

4)高這い、高這い歩行

5)スクワット

6)立位

7)よちよち歩き

8)歩行

C 痙直型両まひの治療

Ⅰ.痙直型両まひ児の臨床像

1.症例検討

1)症例1

(1)臨床像

(2)治療のアイデア

(3)治療の準備

2)症例2

(1)臨床像

(2)治療のアイデア

(3)治療の準備

3)症例3

(1)臨床像

(2)治療のアイデア

(3)治療の準備

2.治療アイデアの紹介

1)骨盤の運動性

(1)背臥位

2)脊柱の運動性

(1)側臥位

(2)横座り

(3)足関節とつま先の運動性

3.体幹近位部の筋群の育成

Ⅱ.治療の考え方

1.早期治療

1)胎児と母親の関係

2)屈曲姿勢

3)NICUでの治療

4)タオルを使った早期治療

2.頭部コントロールと上肢の治療

1)頸部の動的安定性の治療

(1)背臥位での治療

(2)側臥位での治療

2)上肢の治療

3)頭部と体幹の連結に対する治療

(1)側臥位での治療

(2)座位での治療

3.良好な座位への促通

4.座位での体幹活動

1)体重移動による体幹筋群の活性化

2)体幹回旋と体幹筋の活動

3)体幹屈曲と体幹筋の活動

5.足部の活性化

6.体幹近位部の動的安定性の活性化

1)下肢の伸展と脊柱の下部体幹の治療

2)下肢を交差させた膝立て背臥位

3)側臥位での治療

4)一側下肢からの寝返りの促通

7.座位からの立ち上がり

1)正常運動の考え方

2)治療のアイデア

8.痙直型両まひ児の立位と歩行

1)一人で立位がとれない痙直型両まひ児

(1)臨床像

(2)治療アイデア

2)立位や歩行ができる痙直型両まひ児

(1)臨床像

(2)治療アイデア

9.下肢の選択的な運動

D 痙直型四肢まひの治療

1.覚醒レベルの明瞭化

2.前庭動眼反射

3.運動パターン

4.呼吸パターンの改善

E アテトーゼの治療

1.知的レベルの高いアテトーゼ児

2.知的レベルの低いアテトーゼ児

F 付録

運動の質の評価

まずは、著者が書かれた“第2版の序文”を全文ご紹介させて頂きます。なお、それ以降は箇条書きに短縮したものと、文章をそのまま抜き出したものが混在しています。

第2版の序文

『脳性まひの治療で最も大切にしたいことは、正常運動と正常発達を基礎においた個々の治療プログラムを立案するためのバラエティーに富んだ運動の評価である。

脳性まひの子どもたちの運動は変化していくため、われわれは正常な感覚・認知・認識と関連している正常運動を理解しなければならない。

1970~1980年代には、脳性まひの子どもたちは、頭から足まで強い過緊張を呈し、緊張パターンの中で動いていた。そして、彼らは空間で動くことが難しく、同じパターンを繰り返しながら動くため、拘縮や変形を強めていった。その時代、セラピストは運動パターンを変化させ、過緊張を緩和させるために頭部をコントロールすることに専念していた。また、生存機能である呼吸、摂食、睡眠にも焦点をあてていた。

現在、脳性まひ児の約50~60%は未成熟で生まれ、過去の脳性まひ児とは異なった臨床像を呈している。過去の子どもたちの臨床像と比較すると、現在の子どもたちの中には、頭部コントロールの能力を有し、話ができ、食べることができ、一人で歩け、呼吸などに多くの問題を持ち合わせていない子どももいる。しかし彼らの多くは、まだ頭部のコントロールが不十分なため、姿勢コントロールの軸ができず、上肢の随意運動が上手ではない。

また、彼らは近位部の動的安定性の欠如、両下肢の過緊張により、下肢の活動が難しい。頸部と体幹の動的安定性の欠如は、特に筋の未発達が原因で起こり、座位や歩行時に姿勢が動揺する。筋の未発達は姿勢コントロールの問題を引き起こしてしまう。

主要な問題は全身の連結不足と不良なアライメントである。これはオリエンテーション、筋のアライメント、関節を変化させ、二次的に拘縮や変形にいたらしめる。

このような不適切で重大な問題、つまり筋の未成熟と感覚運動能力の乏しさは、明らかに脳の損傷がすべての原因ではない。つまり、母親の子宮内での在胎週数が短いことが、屈曲運動の機会を少なくし、このような問題を助長させる。

未成熟児は、下肢の過緊張はそれほど強くはないか、もしくはまだ過緊張が現れてきていない。そして、全身の連結不足、筋の未発達の問題も同時に存在する。この理由は、子宮内での運動感覚の発達が十分になされていないためである。しかも、側脳室周囲の損傷は、感覚、認知、さらに下肢の過緊張の問題を引き起こす。これらの問題は、未成熟児の発達を停滞させてしまう要因である。

最後に、未成熟児の治療においてセラピストは、どこが正常とは違うのかを評価し、愛護的に治療を進めなければならない。そして新しい経験をつくり、発達上の差を埋めていく、セラピストが新しい機能的運動を創造し、運動に変化を与えれば、緊張は減弱し、それに比例して正常な動きを獲得していくであろう。

2011年1月 Jung Sun Hong,PT,MPH

A 姿勢コントロール

Ⅰ.定義

1.ヒトの動き

●抗重力活動には筋骨格システムの発達、および良好な正中軸を伴った頭部から足先までの連結が必要とされる。

●中枢神経系は、目的動作のために目的を遂行する身体部位だけに信号を送るのではなく、同時にその他の身体各部にも信号を送り自動的に働かせる。

2.コア筋と頚部筋群

●頸部筋群とコア筋と呼ばれる体幹筋群は正中軸をつくる重要な要素である。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

コア筋は、常に共同し協調して活動する。これにより、身体が動くための基盤となる脊柱と股関節の安定的な構造がつくられる。

コア筋には、骨盤底筋群、腹横筋、多裂筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、脊柱起立筋(特に胸最長筋)、横隔膜、広背筋、大殿筋、僧帽筋といった筋肉が含まれる。特に腹壁を四方向から覆う、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋の4つの筋肉は、胸郭と骨盤の間に安定性を与える最も重要な筋群であり、体幹の屈曲・側屈・回旋時に骨盤を安定させる。

3.全体パターン

●姿勢コントロールは神経ネットワークシステムの構築と、全身の筋群の連結により発達する。

神経ネットワークシステムは、感覚情報を集約して運動のパターンと出力を調整し、姿勢と動作を環境に適応させる。

運動の反復は、神経ネットワークシステムの結合を強くする。全体パターンの反復は身体各部位の連結を強くし、結果的に運動のコントロールを円滑にする。

1)子宮内の屈曲姿勢

●子宮内での生理的屈曲により、全体パターンでの屈曲の要素が発達し、特に頭部と体幹の連結が発達する。

2)ランドー反応

●生後5~6カ月では床の上での腹臥位で全身の強い伸展パターンがみられる。この運動は、中枢部の発達と頸部から足先までの連結に必要不可欠である。この強い伸展パターンは、抗重力姿勢のための筋群の協調性を向上させ、立位や歩行にとって重要な準備となる。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

3)高這い歩きとハイ・ガード歩行(両上肢を挙上させた歩行)

●高這い歩きとハイ・ガード歩行は、正しい立位と歩行を獲得するための強い抗重力運動である。これらの運動は全身を連結させる全体パターンであり、水平面から垂直方向へと運動が質的に変化し、広く安定した支持基底面から狭くて不安定な支持基底面へと変化する過程である。

画像出典:「正常発達 脳性まひの治療アイデア」

●不十分な姿勢コントロール、運動軸の未獲得、頸部と足先までの連結不足、中枢部の不安定があっても、両まひ児は動くことができるが、体幹と下肢の過緊張は増強するため、骨盤と下肢を正中線上で動かすことは難しく、体幹の動揺を強めてしまう。

4.足部の動き

●足部は立位や歩行のために、強固な支持基底面を安定的に提供しなくてはならない。同時に質量中心を中央に維持させるため、ダイナミックに、重心の変化に対応しなくてはならない。

足部の背屈は、下肢の動きの中でも非常に重要な役割をもち、下肢筋群の選択的運動の発達に寄与する。特にブリッジにおいて、足部を背屈して殿部を床から持ち上げると、股関節内転筋に影響されることなく、殿筋群、大腿四頭筋、ハムストリングスが協調的に働く。ところが、足関節の底屈位で床を蹴ると、下肢の伸展筋や内転筋の活動が優位になる。 

画像出典:「Tarzan:“衰えやすい背面の筋肉を強化! 自宅で出来るブリッジトレーニング”

 『弱体化しやすいカラダの背面を鍛えるときに効果的なのが、「ブリッジ」。後ろ側の筋肉を連動させて、機能的なカラダになるだけでなく、姿勢がよくなり見栄えの面でも恩恵を受けることができる。6つのレベルのブリッジを実践して、鍛えづらいお尻、背中、太ももの後ろ側を自宅でトレーニングしよう!』

●乳児の立ち始めは、下肢のすべての筋群を同時活動(特に内転筋)させて下肢の伸展を強める。しかし、ダイナミックで安定性のある足部の背屈位で立てるようになると、下肢筋群は選択的に働くようになり、股関節内転筋の過剰活動は弱められる。

●足部とつま先のダイナミックな動きは、立位バランスを維持させる。さらに、歩く時には下肢の選択的な振り出しに寄与する。

両まひ児の治療において足部のダイナミックな運動は、全身が連結する動きを引き出し、また立位や歩行において下肢の選択的な伸展を促通する。そのため、セラピストは足部の活性化を常に考えなければならない。

脳性麻痺と機能訓練8

今回は、第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 5.立位・歩行機能訓練 になります。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

5.立位・歩行機能訓練

●立位を保持するうえで、必要な条件は以下の4つである。

①股関節の伸展

②膝関節の伸展

③足底荷重

④バランス機能

●筋力学的には、股関節は大殿筋の発達・活性化によって伸展し、膝関節は内側・外側広筋の発達と活性化によって伸展する。

抗重力的足底支持は、ヒラメ筋の発達と活性化によって可能となる。

●立位訓練は、膝立ち、つかまり立ち、椅坐位獲得までを1つのレベルとし、つかまり立位から四点歩行は、次のレベルと分けて考える。

a.つかまり立ちまで

1)膝立ちからのつかまり立位訓練

つかまり両膝立ち

坐位が安定し、四つ這いができるようになると、膝立ち訓練が取り入れられる。正坐出発肢位から(図45-B参照)。両手をテーブルなどで支え、徐々に股関節を伸展位に、さらに膝も90°まで伸展してくる。四つ這い肢位からも、手をテーブルにかけ、つかまり膝立ち肢位になる(図45-A,C参照)。

両膝立ち

つかまり膝立ちが安定すると、徐々に両手は支持として働かず両下肢だけの支持となり、両手支えなしでの膝立ちへ移る(図45-D参照)。

つかまり立ち

膝立ちが安定してくるとテーブルや横バーにつかまり、体重を足底にのせ両下肢起立へ進む(図45-E参照)。両股、両膝を伸展位に伸ばし、両足への支持を増やす。手掌支持立位が望ましい。肩のレトラクション、肘屈曲による引きを起こさないよう、抑制をはかり、つかまり立ちを育てていく。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

2)つかまり立ちから椅坐位へ(立位回旋訓練)

つかまり立ちからの椅子坐り(車椅子、便器)は、ADL上、最重要なテーマである。この動きでは、相対した椅子に体を180°近く回旋して坐るために、下位体幹から股関節にかけての回旋が必要となる。

患児の前に台を置き、この台を両手でつき、つかまり立ちする。上肢で体を浮かせつつ下部体幹を回旋させ、回旋方向の股関節と膝関節を屈曲させ、殿部を台にのせる。術者は骨盤部を持って下部体幹の回旋を誘導する。台の高さは、低いものから始め、だんだん高くする。四つ這いから横坐りの訓練と基本的には同じである。

ADL訓練では、床から車椅子への移動で訓練することも多い(図46参照)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

3)椅坐位からのつかまり起立訓練

つかまり起立訓練

椅坐位をとり(図47-A参照)、前方にテーブルを置く、両上肢をテーブルに置き、体重をかけつつ、股、膝を伸ばし、股関節の内転・内旋を防ぎつつ、坐骨を空中に浮かす(図47-B,C参照)。

平行棒内起立訓練

平行棒内で椅坐位をとり、両手を平行棒に置き、体全体を浮かせつつ、平行棒内起立訓練を行う。車椅子からの平行棒内起立訓練を行う。車椅子からの平行棒移動などの形でしばしば行われる。

歩行器への起立訓練

歩行器を椅子の前に置き、椅坐位から歩行器への起立訓練を行う。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b.つかまり立位から杖歩行まで

つかまり立ちレベルになると、次は両ロフストランド杖、松葉杖歩行の獲得を目標とする。

対称性二点歩行と交叉性四点歩行の2つに分かれる。

1)対称性歩行(大振歩行、小振歩行)

両手を同時に前に出し、体を支え(図48-A参照)、両下肢を同時に振り出す移動である(図48-B,C参照)。平行棒内移動、歩行器移動、両松葉杖(ロフストランド杖)移動などで急ぐ時にみられる。両下肢の交互移動性がなく、一段レベルが低く、訓練上勧められない。

2)四点歩行

まず、平行棒内で四点歩行を覚え、PCW型歩行器を使った四点歩行に進み、次にロフストランド杖での四点歩行を覚える。

3)立位・歩行訓練の実際

立位訓練

つかまり立ちが可能になった段階で、歩行の準備としての立位訓練に入る。この時点では、上肢の引込み支持と前傾姿勢をとる傾向があり、独歩または杖歩行への準備としての立位に多くの問題をもっている。股関節の十分な抗重力伸展や全足底接地など、骨盤からのコントロールによりアライメントを整えていく。壁での寄りかかり立位、壁などに向きあっての上肢の平面支持立位などは、後方への不安定のためむずかしく、かがみ肢位を強めるので勧められない。上肢の挙上による体幹・股関節の伸展、上肢の外転・外旋による下肢の外転・外旋肢位の賦活をはかりながら、体幹、股関節の伸展、上肢の十分な伸展を教えていき、後方への不安定性を取り除き、全足底接地位での完全な荷重を経験させていく。

下肢の支持性の低下や筋緊張により、SLB(短下肢装具)、LLB(長下肢装具)、P-LLB(骨盤帯付き長下肢装具)、などを装着させることもあるが、これはあくまでも下肢筋の緊張のコントロールの補助として用いる。装具を立位手段として使用してはいけない。

立位姿勢が整ったら、側方、前後への重心移動と、それに伴う体幹の立ち直り、骨盤内および足底内での体重移動、膝のコントロールなどを教えていく。SLBで1分以上の一人立ちが可能となった段階で、歩行訓練へと移行していく。 

PCW歩行図49-A,B参照

立位が可能になっても、最初から独歩は難しく、一側への重心移動の際、股関節の伸展保持が難しく、体幹は前傾し、アライメントが崩れやすい。後方への安定性をもたらすPCW(postural control walker)を使用して歩行訓練を行う。上肢と体幹の十分な伸展を行いながら、股関節伸展を保持させたうえで、重心移動を伴った一側下肢での支持を骨盤のコントロールにより行い、反張膝や膝折れに注意しながら、踵接地、蹴り出しなどを教えていく。上肢支持をなるべく少なくし、ゆっくりと歩行させる(平行棒は、上肢の引き込み支持が強くなる可能性があるので注意する)

ロフストランド杖歩行図49-C参照

PCWでの歩行が安定したらロフストランド杖に移行する。PCWに比べ、上肢支持の安定性が減少するため、後方への重心移動にたいする立ち直りが必要となる。それが困難な時は前傾姿勢を強め、杖の支持面が広くなり、それに伴い下肢の内転・内旋、足部の前・内側支持が著明となる。これを防ぐため、体幹、股関節の伸展位の保持と、上肢の外転・伸展を促しながら、一歩一歩重心移動を確実に行い、歩行させる。小幅に出した杖の位置まで、下肢を振り出せることが望ましく、その振り出した下肢の足から膝へ、膝から股に、十分に荷重したことを確認したうえで反対側を振り出す。四点歩行が安定したら二点歩行に移行する。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c.かがみ肢位歩行

かがみ肢位の矯正と、立位・歩行の獲得には、ここで述べた訓練とともに、各種装具、整形外科手術を合わせた実践が必要となる。

d.直立二脚歩行

患児の前方あるいは後方より、交叉歩行を一部介助し、体重が踵から足底外側支持、さらに足底母趾側に移るパターンを教えていく。荷重時(制動期)に、股関節軽度屈曲、膝関節軽度屈曲、足関節直覚位の肢位が望ましい。

付.矯正したい不良肢位

1)反張膝歩行

膝の伸展緊張が強いか、あるいは尖足と膝の伸展が合併すると、反張膝、股屈曲、尖足位になりやすい。腰椎前弯、股関節屈曲、尖足あるいは外反尖足が一体化した変形であり、どこに主な問題があるいかを観察し、問題の強い部分を治療する。尖足に対しては、装具を用い、直覚位とし、反張を抑制する。尖足矯正術も併用する。股関節屈曲はストレッチで伸ばし、屈筋群解離で直す。大腿直筋の過緊張による反張に対しては、大腿直筋の筋間腱切腱ののち、膝の屈曲位の中で歩行訓練を行う。

2)屈曲肢位歩行

両股、両膝がともに屈曲し、尖足、外反扁平足を合併する肢位である。屈曲膝に対しては、ストレッチとともにダイアルロックを使用した長下肢装具で徐々に伸展する。強引な伸展は関節軟骨を傷つけるので、股関節、膝関節とも屈筋群解離術を併用する。尖足に対しては、幼若期には時間を決めたSLB装用で保存的な矯正をはかる。固定化したものには、腓腹筋解離手術を行ったうえで荷重訓練に入る。

3)外反扁平足

足底アーチサポートで中骨部のアーチを強化し、足底屈筋群の活性化をはかる。立位、歩行の獲得についても、段階を追った取組みで自発性の高いダイナミックな取組みが可能になっている。

付記:整形外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS)

矯正したい不良肢位の“反張膝歩行”および“屈曲肢位歩行”の説明の中には、整形外科手術となる解離手術などが出てきています。個人的には手術の判断は難しいものと想像しますが、そのような選択肢があることは画期的だと思います。詳しく知りたいと思い見つけたのが熊本セントラル病院さまのサイトになります。 

『OSSCSは、Orthopaedic Selective Spasticity-control Surgeryの略で、「整形外科的選択的痙性コントロール手術」という手術です。「筋解離術」と言われる手術法の中に分類されます。筋解離というのは、筋肉を切ったり伸ばしたりして緩めることを意味します。』

脳性麻痺と機能訓練7

今回は、第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 4.四つ這い機能訓練 になります。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

Ⅳ.ダイナミック訓練の実際

4.四つ這い機能訓練

●四つ這い機能は、這い機能の1つであるが、体幹を空間に保持して移動させるという高次の抗重力性をもつ。

●どのように、この高い抗重力機能をもった交叉移動を獲得させるかが課題となる。

a.四つ這い肢位訓練

●四つ這い移動が可能となるのには、その前に両手掌と両膝つきでの四つ這い肢位の保持能力を獲得する必要がある。

割り坐位が実用化してくると、次に両手掌への体重をかける訓練に入り、骨盤を浮かし、膝、足に体重をかける段階になる。

1)割り坐からの賦活

割り坐の中から上肢支持が、もっとも実用的である。両上肢を床につけ、両手で割り坐位をとる。骨盤を持ち上げつつ(図41-A参照)、上肢に体重をかけ、骨盤を浮かせ下肢を少しずつ伸展させ、下肢屈曲位で四つ這い肢位をとる(図41-B参照)。体重を前方に移動しつつ、股、膝を90~100°屈曲とし、両上肢の支持力を高める(図41-C参照)。股関節は90°以上屈曲位に保持し、下肢に十分の荷重をかけると、手掌の支持力が弱い上肢でも四つ這い肢位がとれる。股や膝に伸展緊張があると、体重が下肢にかからず、上肢にかかるので体重を支えきれず、四つ這い移動に移れない。下肢の屈曲位中間肢位での支持能力を育てる必要がある図36-C参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b.対称性四つ這い訓練(バニーホッピング)

●四つ這い肢位が安定してくると、四肢を使って移動訓練を開始する。

●両上肢に体重をかけ、下肢を屈曲し前に移動させ屈曲した下肢で体を支え、手つき割り坐をとる。さらに両上肢をこのまま前方に伸ばし、四つ這い位になり、次に下肢を前方へ移動させる。四つ這い肢位と手つき割り坐位を使いながら、対称的な上肢、下肢の動きを利用して前進する。

1)上肢からの賦活(上肢の力が弱い場合)

四つ這い肢位をとり、術者は患児の前に相対して坐る。両上肢を前方に伸ばさせ、肘を伸展位に術者の手で保ち、手掌を床につけ、荷重をかける(図42-A参照)。肘を伸展位に保持しつつ、肩を伸展させ体幹を前方(頭の方)にゆっくり引く(図42-B参照)。全体重が両上肢にかかり、下肢が屈曲し、前方に振り出されて手つき割り坐位になる(図42-C参照)。下肢に体重をかけ、手を前に伸ばさせる(図42-D参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

2)下肢からの賦活(下肢が伸展パターンをとりやすい時)

術者は患児の足の方に位置する。初発肢位の四つ這い肢位をとる(図43-A参照)。四つ這い肢位が安定してくると、次は両上肢に体重を少しずつのせつつ骨盤を少し持ち上げ、両上肢の支持力をさらに強化する。さらに、両上肢と術者の手で体を支えさせながら股関節を屈曲させ(図43-B参照)、下肢を前方に移動させる。屈曲した両下肢に体重をかけ、割り坐または膝立ち位にし、両下肢に体重をかける(図43-C参照)。両上肢を前方に移動させ(図43-D参照)、両手掌を床につける。続いて上肢に体重をかけ、初発肢位に帰る。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

c.交叉四つ這い訓練

●手掌支え、膝支えの力がついてきて、対称性四つ這いができると、交叉移動パターンを用いた四つ這いに入る。

四つ這いの特徴は3肢で体重を支持し、1肢を前進させるという点にある。

●手技的には腹這い交叉に用いられた一側上肢、他側下肢交叉推進(一側性交叉推進)のパターンを活用し、交叉移動を活性化する。

1)下肢からの訓練

下肢の分離の悪い子どもに使われることが多い。ます、初発四つ這い肢位をとる。術者は患児の後ろに四つ這いとなり、両手で両下肢、大腿部を持つ、両上肢は分離していることが多い。まず、左上肢を前に出させ(屈曲)、続いて右下肢、股、膝を前方に屈曲させる(図44-B参照)。屈曲した左上肢、右上肢にゆっくり体重をかけながら体を前方に移動させ、右上肢、続いて左下肢を前方に屈曲させる(図44-C参照)。屈曲した右上肢、左下肢に体重をのせつつ、体を前方に移動させる。右上肢屈曲・左下肢屈曲、左上肢屈曲・右下肢屈曲というパターンを患者とともに覚え、訓練を進める。一歩一歩の前進のさいに下肢の伸展緊張を抑えつつ、下肢の前方屈曲を容易にするだけでよい。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

d.交叉四つ這いと横坐り(正坐、あぐら坐り、長坐り)訓練

交叉四つ這い移動では、大殿筋の股関節伸展、外旋力が育てられ、体幹と両股関節の可動域が増し、内外旋のうごきが拡がる。

●両膝つき肢位で、股関節を中心に体は右に左に回旋が可能になる。

①まず、四つ這い中間位をとる(図39-A参照)。

②一側下肢を深く屈曲させる。

③屈曲させた下肢側の方に、股関節を屈曲させ、骨盤を降ろしていく(図39-B参照)。

④殿部が下腿の外側に付き、横坐りになる。一側は内旋位、他側は外旋位となる

⑤外旋側に十分体をかけ、支持訓練をする。

⑥体幹と股関節の回旋能力をさらに伸ばし、内旋側下肢を浮かし外旋させ、あぐら坐を促す。

⑦さらに、ハムストリングの緊張をゆるめ、長坐りへと誘導する(図39-C参照)。

股関節の回旋は、つかまり立ちから大きく体を回旋させて椅坐位または車椅子に移る時に重要な動きであり、このレベルでの横坐り訓練で十分訓練の必要がある。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

e.四つ這い移動を阻害する典型的脳性麻痺パターンとその抑制

1)手掌支え不能状態

片麻痺児では、四つ這いが困難で、正常移動パターンができない。肩のレトラクション、肘の固縮、手関節変形の3つが手掌支えを困難にしている。四肢麻痺でも、両上肢にこれらの問題が存在する。レトラクションを抑え、肘を伸ばし、手掌支えの訓練を行う。肩、肘、手関節のストレッチにより緊張をゆるめたのちに自発訓練を行う。

2)痙直型両麻痺四肢麻痺の下肢伸展変形

両麻痺児では、股関節伸展緊張と膝関節伸展緊張の2つが問題となり、四つ這い肢位がとれにくい。四つ這い訓練を行い、伸展パターンが支障となる場合、受動的伸張訓練、伸筋群解離術で痙縮を除去し、股関節と膝関節の90°屈曲位保持をはかる(図36-B,C参照)。

四つ這い機能獲得の留意点は、次の2点である。

股関節が90°まで自分で曲げられるかどうか。

左右の下肢の交互性が出ているか。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 療育メモ15】“四つ這いの獲得は科学的知識を結集して

『四つ這いは抗重力性の高い移動形態である。したがって、寝返り、腹這いのレベルから一気に四つ這い状態までもってくることはむずかしい。寝返り機能を育て、対称性腹這い、腹這い交叉移動を育て、さらに割り坐位機能を高め、下肢の支持性が十分高まった時点で、四つ這い支持に入る。さらに対称性四つ這いを獲得し、そして、次に対称性緊張を弱め、下肢の交互性を出し、さらに、一側上肢、他側下肢同時屈伸の交叉推進パターンを習得させ、初めて四つ這い交叉移動が可能になる。上肢の支持を得るための上肢の条件づくりも必要である。肩のレトラクション、肘の屈曲緊張、手関節の変形もコントロールしなくてはならない。また、力の弱い上肢に無用の負担がかかっては、四つ這いはできない。下肢のほうに十分体重がかかるように、屈曲位が得られる条件もつくらなければならない。また、交叉推進パターンの学習も重要である。

四つ這い移動はこれらの問題を1つひとつ根気よく解いていって、初めて獲得できるもので、一気にしよとするには無理がある。

 付記:“這い這い動作の再考”

這い這いができるようになることが当面の課題である患者さまと向き合っています。何か有益な情報がないか探していたところ、長崎大学さまの卒業論文集に関する資料が検索されました。タイトルをクリック頂くとPDF7枚の資料がダウンロードされます。

這い這い動作の再考 ~這い這いはどう変化するのか~

要旨

『乳幼児の這い這い動作のみについての先行研究は、個人差が大きいなどの理由から非常に少な く、その内容も這い這い時の姿勢や重心などに着目した研究が多くを占めている。そこで本研究では這い這い動作を理解するため、這い這い動作(crawling:ずり這い、creeping:四つ這い)の動きのバリ エーション数に着目して調査を行った。対象は協力を得られた乳幼児19 名(月齢 5~18 ヶ月)とした。複数の床条件において乳幼児の這い這い動作をビデオカメラで撮影し、動作のバリエーション数をカ ウントした。その結果、這い這い歴に従ってバリエーション数は増加し、その後減少した。また、調査の結果と先行研究から、乳幼児の這い這い動作においても、運動学習の過程で無作為な動作から合理的な動作を獲得するという、バリエーション数の増減を繰り返していると仮説を立てるに至った。』

脳性麻痺と機能訓練6

今回は、第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 3.自立坐位獲得機能訓練 になります。なお、最後に番外編として、Ⅴ. 抗重力肢位訓練 にある”坐位訓練”に関してもご紹介しています。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

Ⅳ.ダイナミック訓練の実際

3.自立坐位獲得機能訓練

●坐位は哺乳動物以降にみられる抗重力機能であり、視線の位置を高め、上肢の使用を可能にする。人の生活に不可欠な食事、着脱、排泄が行われやすく、坐位機能の獲得は訓練上の大きなテーマとなり、作業療法、ADL機能訓練の出発点でもある(表5参照)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

この表から”割り坐が動作獲得の重要な基点になっていることが分かります。

 a.坐位と立ち直り機能

●坐位は体幹を垂直に保持する働きを必要とするが、この抗重力機能も立ち直り機能という。

坐位の獲得は垂直位保持機能の活性化であるが、運動学的には次の2つによって保持される。

①頚椎から骨盤にかけての体幹垂直位保持能力(体幹内立ち直り能力)

②下肢による体幹の垂直位保持能力(股関節での垂直位保持能力)

1)体幹の垂直位保持能力(体幹内立ち直り能力)

体幹内の起立位保持は、短回旋筋、長回旋筋、多裂筋など抗重力伸筋と、内腹斜筋、腹横筋の抗重力屈筋の活動で得られる(図12参照)。

2)下肢による体幹の垂直位保持能力(股関節での垂直位保持能力)

大殿筋、大内転筋、腸骨筋、短内転筋、長内転筋など抗重力筋の活動で、下肢が体幹を安定位に支える。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b.坐位を阻害する筋の過緊張と麻痺

●最長筋、腸肋筋、棘筋などの多関節性伸筋群の過緊張が体幹内の垂直位保持を妨げる。

●半棘筋、多裂筋、長回旋筋、短回旋筋、および内腹斜筋、腹横筋など抗重力筋の麻痺によって体幹内の垂直位保持が困難になる。

●半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋などの多関節性伸筋群の過緊張および大腰筋、大腿直筋などの多関節屈筋群の過緊張が股関節での体幹支持を阻害する図38-B参照)。

また、大殿筋、中小殿筋、長・短内転筋、腸骨筋など、抗重力筋の麻痺によって下肢での体幹の支え能力がなくなり、坐位が困難となる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

メモ麻痺と肢体不自由

ここまでブログを進めてきて、坐位、特に”割り坐の機能訓練”が極めて重要であるということが分かりました。また、坐位を阻害している元凶は多関節筋群の”過緊張”と”麻痺”ということも分かりました。そして、その機能訓練を真剣に実践していこうとすると、あらためて「麻痺とは何か?」ということを明確にしないといけないと感じました。

そこで、8月30日にアップさせて頂いた”小児の理学療法2”のメモの一部を再度ご紹介したいと思います。

脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。

脳性まひ児にみられる”麻痺”は、脳血管障害に伴う血液の滞りによる組織の機能不全のような”麻痺”とは異なり、母体や乳幼児の時に体を思うように動かせなかったため、脳が学習する機会を十分に得られず、その結果、脳が適切にからだを認識し、合理的に動かす方法を十分に身につけることができなかった状態、いわゆる”肢体不自由”ととらえることが適切だと思います。そして、重要なことは”麻痺”によって直面する心身の困難さに比べ、”肢体不自由”が持つ改善の可能性、その領域は広く、動作法(心理リハビリテーション)や、脳の可塑性へのアプローチによって大きな変化が期待できる領域であると考えます。

c.自立坐位獲得訓練の実際

訓練は次の3つに分けられるが、ここでは自立坐位獲得訓練を検討する。

①介助坐位訓練

②自立坐位獲得訓練

③椅坐位獲得訓練

まず、割り坐を育て、さらに四つ這い訓練に進み、四つ這いから正坐、横坐、あぐら坐、長坐へ導入する。きわめてダイナミックな坐位獲得である。

1)割り坐訓練

●割り坐は両大腿内側、両下腿内側、両足および坐骨部での支持による坐位で、坐面が広く安定性が高い。

割り坐はハムストリングの緊張がもっとも少なく、大内転筋群など抗重力筋の活性化に好都合である。

●上着などの着脱、食事などの上肢使用も可能である。

●割り坐の欠点は一側に体重が移動できず、ズボンの着脱など、高次のADL改善に結び付かない点である。

割り坐の股関節屈曲・内旋・外転位は股関節の求心位保持に最善の肢位であり、脱臼の予防肢位である。

●割り坐肢位は体幹の垂直保持訓練にももっとも適切な肢位である。

a)割り坐を育てる手技

もっとも重要な手技であり、腹這い肢位を出発肢位とする。交叉肢位がとれ、肘つき、腹這いの能力が育っていることが望ましいが、必ずしもそこまで育ってなくてもよい。次の2つの方法がある。

1)外転拘縮弛緩タイプ

①まず両上肢・両肩屈曲位(頭の方に伸ばす)、両肘屈曲位、下肢伸展位をとる。

②一側下肢を120~140°以上屈曲させ、他側下肢も骨盤を少し持ち上げつつ120~140°屈曲させる。

③両下肢を少しずつ内転させ骨盤を浮かすよう呼びかけつつ、骨盤の持ち上げを助ける。

④骨盤が持ち上がると、さらに股関節を屈曲させ、殿部を床に降ろすように呼びかけ手助けする。

⑤殿部が下がり、脊椎が伸び、手つき割り坐が得られる。

2)両下肢交叉伸展肢位

①両上肢は両上肢・両肩屈曲位(頭の方に伸ばす)、両肘屈曲位、下肢は伸展位である(図35-A、36-A参照)。

②両前腕に十分の体重をかけ、腹部に術者の手を入れ、両下肢を屈曲させて骨盤帯を空間に持ち上げる(図35-B、36-B-a参照

③腰の持ち上げを手伝うと、自力で腰を持ち上げようとする動きが出る。

④骨盤が十分持ち上げられると、次に両上肢を伸展させ体重を徐々に後方に移動し、両下肢を屈曲させる(図35-C、36-B-b参照

⑤徐々に体重が後方に移動し、手つき割り坐が得られる。この時、膝の曲がりが悪い児は膝に痛みを訴える。また、股の内旋できない児や足が背屈している児は、痛みを訴える。急に行わず徐々に膝の曲がりや股の回旋の動きをよくし、足の可動域をよくしていく。最初痛い時は、坐骨と坐骨の間にタオルとか正坐した術者の大腿部を入れて、四つ這い肢位に近く保持し、徐々に膝を曲げ、割り坐肢位とする。手つき割り坐で、徐々に背中を伸ばすよう呼びかけ、体重を坐骨から下肢までに移すと、体幹が徐々に伸びてくる。手を離し、割り坐へと移行する(図35-D、36-B参照)。

手つき割り坐では、大腰筋が緊張し、体幹が垂直を取りにくいことも多い。腹部から手で体を起こし、大腰筋の緊張を抑制し、大殿筋の伸展力を育てつつ、体幹の垂直位獲得をはかる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

b)割り坐を阻害する因子

股関節伸展内転緊張

股関節伸展、内転緊張が強いと、腹臥位での股関節屈曲ができない(図35-A参照)。

腹這いでの伸展筋群の伸張(ストレッチ)訓練を家庭訓練を含めて、あらゆる機会を利用して行う。股関節をやや外転した割り坐が望ましい。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

下肢屈曲緊張

股関節の屈曲緊張が極度に強いと、手つき割り坐をとり、次に股関節を伸ばし、脊椎を伸展させる段階で体幹は起き上がってこない(図37-A,B、図38-A参照)。

他動的に起こすと、大腿部も一塊となって持ち上がり、体を支える状態がつくれない(図37-B、38-B参照)。

訓練上は手つき割り坐をとらせ、体を徐々に伸ばし、屈曲緊張をゆるめつつ、股伸展筋の発達を待つ手つき割り坐訓練が重要である図37-C参照)。

腹臥位ストレッチ訓練により、股関節屈筋群の緊張の抑制をはかる図20参照)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

上肢のレトラクション

手つき割り坐に入る時、まず腹臥位から骨盤が浮き上がり、次に両下肢が曲がる。上肢が肘関節で伸びながら体を後方に移動させ、殿部が下がってくる。肩のレトラクションがあると、この上肢の前方での伸びが妨げられる。レトラクションを徐々に除き、能動的割り坐肢位訓練によって肩、肘の支配能力を育てる(図35-C参照

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

2)正坐訓練

股関節の外旋力が付くと、正坐が可能になる。重心が高く支持面が狭くなり、よりレベルが高い坐位である。一側だけでの支持が容易になり、体重が左右に移動できる。割り坐からいったん両手をつき殿部を浮かし、四つ這い肢位をとり、それから下肢を内外旋中間位に保持させつつ殿部を降ろし、正坐位をとると訓練がきわめて容易となる。自発運動を尊重したダイナミックな正坐獲得訓練が、四つ這い肢位を活用することによって可能となる。

横坐り訓練

一側外旋、他側内旋の横坐りでは、外旋した方の下肢に体重を乗せることが可能になり、日常生活動作もさらに高次なものが可能となる。また、外旋位保持によって大殿筋など股関節外旋筋の活性化がもたらされる。自力で椅坐位をとるための股関節の回旋の動きを育てる訓練の第一歩にあたる。車椅子の乗り、便器への移動などでの股関節の回旋能力の獲得のためには、このような横坐り能力から育てていく必要がある。また、四つ這い移動からの横坐り屈筋は自発性が高い(図39参照)。

あぐら坐り訓練

両側股関節が外旋した坐位である。痙直型両麻痺の子どもたちには、この坐位は難しい。体重の左右移動が容易となり、遊脚側での着脱が容易となる。手技としては、四つ這い肢位訓練、横坐り訓練が基本となる。両側の横坐りが安定すると外旋側に体重を移し、次に内旋下肢を外旋させ、両股外旋位をとる(図39参照)。

長坐り訓練

ADL、上下着や靴下の着脱などが可能なレベルの高い坐位である。横坐りができ、さらにハムストリングの伸展緊張がゆるんだ段階で初めて可能となる。脳性麻痺ではハムストリングの緊張が強く、この肢位を自発的にとることは難しい。まず四つ這い移動を獲得し、四つ這い肢位からの股関節の回旋によって長坐に移る図39参照)。ハムストリングがゆるんだケースでは、側臥位、肘つき側臥位、手つき側臥位をとり、股関節および体幹の回旋で長坐位に移りえる図40参照)。

このように坐位については、まず割り坐の獲得がもっとも大事であり、それができたら四つ這い肢位の獲得に向かい、次にこの四つ這い肢位から横坐り、長坐など、自立坐位訓練を進める。

付.坐位の獲得方法

坐位獲得は、側臥位から片手をついて起き上がり、投げ出し坐りとなる方法と(図40参照)、四つ這いから一側下肢を内転外旋させて横坐り、そして投げ出し坐りになる方法図39参照の2つの方法がある。第1の方法は、訓練上到達レベルが一気に高くなるために、自発性を出すことが困難で、とくに股関節伸展緊張のある例には困難なことが多い。第2の方法は、まず四つ這いを獲得してからの方法であり、四つ這い獲得が先決である。この四つ這い獲得のためには、割り坐からの訓練が必要となる。割り坐獲得、四つ這い位獲得、そして長坐獲得と3段階に分け自発性を出す。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

3)椅坐位訓練

自立椅坐位は四つ這いと立位の間に位置するレベルの高い坐位ととらえる。

d.基本運動レベルの中での自立坐位獲得機能の位置づけ

●これまでの坐位訓練は、椅坐位での静的訓練を重要視し、床上坐位でのダイナミック訓練は、あまり用いていないようにみえる。

●著者らは割り坐のような重心の低い安定性のある坐位も価値のあるものと考え、自由に坐位獲得の動きを出そうとしている。

●割り坐は内旋変形をもたらすと考えられ、嫌われる傾向にあるが、著者らは症状の重いケースに自発的な坐位獲得の動きを出すことが重要と考え、割り坐を訓練上不可欠のものととらえる。内旋は割り坐獲得ののち、横坐り訓練などで矯正する。

●床坐位は重心が低くバランス能力は少なくてすみ、自発的なダイナミック訓練が行われやすい。レベル的には、腹這いと四つ這いの間に位置すると考えられる。

椅坐位は重心が高く、より高次のバランスが求められる。レベルの低いケースにこの坐位を用いると、多くの支えを必要としダイナミズムに欠ける。椅坐位はレベル的には四つ這いと立位の間に位置すると考えられる。

e.自立坐位獲得訓練・四つ這い訓練と異常姿勢反射の抑制

●坐位の獲得、四つ這いには、両手掌・両上肢の伸ばしによる体幹の支えが不可欠であり、異常姿勢反射の一局所であるレトラクションが、この機能獲得を阻害する。このレトラクションを制御しつつ、手を体の前に伸ばす訓練が重要となる。

●下肢による体幹の支えも、坐位獲得、四つ這い移動には欠かせない。

●異常姿勢反射の一局所症状である下肢の伸展緊張、屈曲緊張は、この機能の獲得を阻害する。

●異常姿勢反射の一局所所見である体のそりも、体幹の垂直位獲得の障害になる。

●下肢の過度な伸展緊張、屈曲緊張、体のそりを抑制することによって、下肢での体の支えが可能になり坐位が安定し、四つ這い機能が得られることになる。

療育メモ14“割り坐への起き上がり(これこそが訓練の核ではないか?)"

『すでに、“寝返り”の項で腹這いを運動の基本ととらえ、そこに起き上がってくる寝返りを抗重力運動の第一歩ととらえたが、もう1つ大事な抗重力運動に割り坐への起き上がりがある。すでに、あちこちで割り坐の重要性については述べたが、何回述べても言い足りることはないぐらい、割り坐は腹這いから四つ這いのレベルに立ち上がってくるためのステップとして大事といえる。

どうしてこのようなことに気づいたかは、著者らの股関節手術のあり方と大きく関連するので少し触れてみる。股関節解離手術は、世界でもっとも普及している整形外科手術であるが、一般的に行われる手術は、

①腸腰筋切離

②内転筋切離+閉鎖神経切離

③内側ハムストリングの末梢腱延長

になる。

ところが著者自身この手術を1980年頃に行っていた時に、理学療法士らから、“手術をすると股関節の力が弱くなるからさせたくない”と言われることが多かった。この手術では、立つ時の安定性が悪くなると同時に、腹這いからお尻を持ち上げて割り坐になる時に、股関節を曲げる力が極端に弱くなるのである。

そこで、腸腰筋のうちの大腰筋だけを切り、腸骨筋を残す手術を行うことにした。これは、その後、アメリカでもよくいろいろな書籍に取り上げられ効果のある手術とされたが、それでも理学療法士らからは、なお筋力が落ちると言われ続け、これを改善するために長内転筋を残し、代わりに内側ハムストリングである半膜様筋の中枢腱を切る手術を考え出すことになった。

1987年(昭和62年)のことである。A君が、歩けるようになりたいとやってきた。筋力は弱く、痙性は強く、そう簡単には歩けそうにない。でもなんとか歩かせたいとのご両親の思いをかなえるべく、手術に踏み切ることにした。

しかし、確かに歩行器では歩けるようになったが、以前は床から割り坐へ、お尻を持ち上げ自分で坐れていたのに、手術のあと、このお坐りができなくなってしまった。腸骨筋、長内転筋の大半は残し、股関節の屈筋を温存すべく注意したにもかかわらず、お尻が上がらない。筋力が弱かったのである。もっともっと注意深く、長内転筋を触らないほど用心して手術をしないといけなかったのである。股関節を曲げやすくする足の手術、膝の手術をして、祖父母の方々も総動員で訓練したが、自分でお尻を上げるようになりえなかった。自力で坐れるようにならなかったのである。

この時を機に、著者の目が変わった。腹這いの姿勢からお尻を持ち上げて割り坐になり、手をつきながらお坐りに起き上がっていく機能がどれほど大事なものか思い知らされたのである。訓練上も、この機能が大事ということに気づいたのである。

同じ頃、やっと自分でお尻を上げて、お坐りができる子どもがやってきた。両方の股関節が強く脱臼していた。筋肉の力は弱そうである。脱臼を治すために、筋肉を解離する手術、関節を整復する手術が行われた。脱臼はまずまずよくなったが、手術のあと自分で坐れなくなってしまった。このように、脳性麻痺をもった患児の中には、自分でやっとなんとかお坐りができるようなレベルの人がいるのである。この患児に、不用意に手術をすると、著者らみたいに伸展側の解離をやっていても、ちょっと屈筋をゆるめるだけで股関節が曲がらなくなってしまう。一段レベルの低い腹這いの生活に逆戻りしてしまう。ご両親からは、この子どもが手術後坐れなくなったと不信感を持たれ、その後、脊椎が曲がってきたにもかかわらず、手術をされる気配はみられなかった。医師としては、“股関節脱臼がある程度治ったのだから”という気持ちはもったとしても、“自分でお坐りに上がっていく機能を破壊しては駄目なんだ”と肝に命じ、それ以来お坐りが逆にできやすくなる手術を目指し、一例もお坐りができなくなるような手術はしていない。

この経験をもとに、著者らは、床からお尻を上げて足をお腹のほうに引き寄せ、割り坐の形で坐り上がっていく自立坐り獲得がいかに大事なことであるかを認識し、このお坐り上りが患者にとって、立体的な四つ這い姿勢、移動を開始する基点であることを知ることになった。さらに、この姿勢は今まで割り坐として嫌われていたけれども、実態は訓練上ももっとも大事な、これがなければ訓練自体が成り立たないような大事な訓練であることも認識することになった。

ここで振り返ってみよう。脳性麻痺の訓練は割り坐肢位が悪いと決めつけると、どうしてよいかわからないような奇妙なむずかしさの中に投げ込まれたような気になる。腹這いからどうやって四つ這いにもっていったらよいのかわかりにくい、自分でためしてみていただきたい。寝返りや腹這いの訓練など、腹這いから四つ這いへの訓練に比べれば簡単なものにみえる。

でも、腹這いから四つ這いの間に割り坐をおいて、まず腹這いから割り坐へ、割り坐から四つ這いへと、訓練を2段階に分ければ、きわめてわかりやすくなるのに気づかされる。

割り坐については、これまで内旋歩行がもたらされやすいとか、あまり好まれなかったが、整形外科的に冷静に考えれば脱臼防止肢位であり、脊椎に無理がいかず、側弯症変形防止肢位でもある。あぐら肢位のほうが脊椎の肢位には悪いし、長坐肢位のほうが脱臼促進肢位なのである。

人の基本運動は大きく分けて、

①背這い(寝返り不可)レベル

②寝返りと腹這いの平面的活動レベル

③坐位立ち上がりと四つ這いレベル

④立ち上がりと二脚歩行レベル

に分けられるが、訓練や整形外科の場面で、まだ腹這いレベル以下の子どもに無理矢理、立位の訓練をしているところが多い。この立位訓練は、脱臼や脊椎の側弯症をもたらし、なんの良いところもない。

四つ這いの生活という大事な世界を忘れていないか、その入口である割り坐の重要性に気づかず、その難点を言う古い発想にとらわれ、四つ這いという大事な世界に脳性麻痺の子どもたちをいざなうことができずにいるのではないか、是非、リハビリテーション関係者は学んでほしい。整形外科の分野では、割り坐は大事な肢位であるとの認識が生まれている。また、この発想に理解を示す、療法士、養護学校の教師、保育士、看護師らはすでにこの考えを取り入れ、豊かな訓練を展開している。是非、腹這いから四つ這いにもっていく訓練肢位として、割り坐肢位を考えてみて欲しい。』

注)本書には【療育メモ】が全部で17あります。 

番外編:抗重力肢位訓練-坐位訓練

“第3章 理学療法の実際”の5つめは、“Ⅴ 抗重力肢位訓練”となっています。この中で坐位訓練に関しては詳しい説明がされていますので、冒頭部分とそれらの坐位訓練のみをここでご紹介したいと思います。

Ⅴ. 抗重力肢位訓練

抗重力訓練の特徴は、一定の肢位を他動的に保持しつつ、体を抗重力肢位に支える筋力を付けるとともに、平衡バランス機能を活性化することである。また、見過ごされやすいが、意味が大きいのは重心移動を利用したダイナミックな平衡機能の活性化である。一定方向に集中させ、寝返り、腹這い、四つ這い、歩行といった推進運動へ移る準備する。側臥位では、上腕支持部で体重を前後に移し、バランス獲得、支持能を高め、腹臥位への回旋運動の前準備をする。腹這いでは、重心を一側上・下肢に十分移し、対側下肢の屈曲の動きを誘発する。四つ這い肢位でも、体重を一側上肢と下肢に十分に移しつつ、対側下肢の前方移動の動きを待つ。両杖立位、二脚立位の訓練もまったく同じである。

訓練の手技には多様なものがあり、もろもろの器具、支持具、おもちゃを使って、無数の取組がある。手技については、既存の訓練法を参照するとよい。

4.坐位訓練

a.床坐位訓練

1)割り坐訓練

内側ハムストリング、大腰筋、大腿直筋の緊張の少ない肢位であり、抗重力筋の活動のための訓練がなされやすい。大内転筋、殿筋群、腸骨筋、長・短内転筋の活動によって体が支えられる。割り坐のできないケースで後ろから支えたり、前に机を置いたりし、安定性を育てる。日常生活のほか、おもちゃを前に置いた場面などで、割り坐を阻害する拘縮をゆっくり除いていく。

2)正坐訓練

他動的に正坐位をとる。重心は高くなり、面も狭くなり、より股関節周辺の安定度が必要となる。本坐位は、体重への左右移動が可能であり、体幹を部分的に支えつつ一側支持訓練を行う。

3)横坐訓練

大殿筋、中殿筋が活性化されると、下肢も外旋位をとることが可能になる。割り坐が安定すると、四つ這い肢位から、この肢位をとらせる。全体重を、外旋側一側に支持するための抗重力的な支持訓練になる。

4)あぐら坐位

下肢を外旋して坐るあぐら坐位訓練である。この肢位は、内転筋・内側ハムストリングの緊張を抑え、大殿筋、中殿筋の活性化をはかるものとして愛用される。体重を左右に移動することができて、ある程度発達した患者では、他側が遊脚となり、遊脚側での日常生活が可能となる。重要な肢位訓練である。しかし、一方では、内側ハムストリングの緊張がある重度児では、この内転緊張も抑制しなければならない。また、骨盤が後傾しやすく脊椎が後弯し、重度児訓練には適切でない。脊椎伸展をはかるのがむずかしいなど、抑制ばかりが強くなり、自発性が低く、悪い訓練となる。患者の後ろから、術者が両下肢を患者の下肢の上に乗せ、股を開き、脊椎を無理に伸展しているような訓練をみかけるが、自発性のほとんど育たない不毛の訓練といってよい。

5)長坐訓練

この訓練も、しばしば愛用されている。しかし、この肢位はもっとも脱臼を起こしやすい危険な肢位である。レベルの低い例では、脱臼を起こしやすく、濫用を避けたい。ハムストリングの緊張で骨盤が後傾しやすく、脊椎も後弯し、脊椎伸展訓練には適さない。まず、脊椎の伸展は割り坐ではかり、股関節の内転緊張は股関節で除いていく、というように訓練の過程を2つ分けることによって、自発性を出すという発想が求められる。

b.椅子坐位訓練

術者は、患児の後ろに患児を抱くようにして坐る。患児の体幹、骨盤を前後左右から平衡能力に応じて支えつつ、足底をつけ、抗重力訓練を行う。テーブルを前に置き、両上肢で支持させ、安定をはかることもある。背もたれ椅子、肘もたれなどを用いて不安定性を防止するなど、最初は支持を多くし、徐々に支持を少なくし、手を離しても倒れない坐位を目指す。体幹の直立位支持力の付いた患者に用いるべき訓練であり、重い麻痺をもつ児への濫用は慎みたい。

脳性麻痺と機能訓練5

今回は、第3章 理学療法の実際 Ⅲ.自発運動誘発訓練 になります。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月(初版は1995年6月)

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

第3章 理学療法の実際

Ⅲ.自発運動誘発訓練

1.ダイナミック訓練の中心

●人の基本運動機能は大きく、次の5つに分けられる。

①寝返り機能

②這い機能(腹這い)

③坐位機能

④四つ這い機能

⑤立ち、歩き機能

このうちのどこが障害されているかを評価し、その部分を集中的に訓練し、機能を上げる必要がある。

●寝返り訓練と腹這い訓練は、ダイナミズムを伴う動的訓練であり、リハビリテーション医学の真髄ともいえるが、その手技は簡単なようで難しく、誰でも使える賦活手技が要約として示されにくい。

寝返り訓練と腹這い訓練は、訓練時間内の訓練だけでは効果は少なく、たえず保護者の協力の中で育てていかなければならない。

●寝返り訓練と腹這い訓練は、分かりやすく楽しい遊びとして、日々の生活に取り入れられることを、医師や療法士は保護者に指導する必要がある。

●坐位機能は他動的に坐位をとらせると、静的な抗重力機能ととらえられ、訓練は比較的容易であるが、自分で坐位をとろうとする自発訓練は、患者自ら坐位獲得のための能動的な動きを必要とし、ダイナミズムを伴う訓練となる。

●坐位訓練は、割り坐、正坐、横坐、長坐といったいろいろな坐位を育てる中で、上肢も体の支えから解放され、巧緻性獲得の出発点となる。

●割り坐位は、四つ這い移動への出発点であり、また立位肢位への出発点でもある。したがって、寝返り、腹這いから、次のレベルの機能獲得への起点となる。

割り坐位で脊柱の伸展能力を育てつつ、さらに割り坐から四つ這い移動を獲得し、股外旋筋の発達を待ちながら、四つ這いから、横坐、あぐら坐、成熟した長坐へと、より安定した坐位へ進む。このように割り坐位からの自立坐位の獲得訓練および四つ這い獲得訓練は、ダイナミズムを伴う動的訓練の3本目の柱である。

●立ち、歩き機能は、直立二脚歩行を行う人類だけがもつ特徴的かつ精緻な機能であり、足部構造を中心に極めて精巧なメカニズムを育てている。

●立ち、歩き機能を獲得するためには、四つ這いまでの知識のうえに、さらに多くの知見が必要であり、それらの蓄積と応用のうえで、初めて歩行は可能となる。

2.正常発達児と脳性麻痺児の運動発達の差

腹這い移動から、直接、四つ這い肢位に移るのが正常児の発達であるが、これを脳性麻痺児に行おうとすると、レベルが違いすぎて一気に行えない。

●腹這い肢位から側臥位に体を回旋させ、肘つき、手つきで体を起こし、長坐位に到達させることも脳性麻痺児には難しい。

脳性麻痺児は、腹這いの次に割り坐を発達させ、そこから四つ這い肢位、四つ這い移動に進む。

3.脳性麻痺児特有の運動発達とその評価

a.頭の回旋と持ち上げ

1)側臥位回旋負荷

緊張性頚反射など、頚部筋の緊張・麻痺のため、頚の回旋が不可能である。

2)頭部回旋

頚部筋に随意性が出現し、仰臥位および腹臥位で、頭は床に付いたまま左右に回旋する。

3)頭部の持ち上げと回旋

仰臥位および腹臥位で頭を空間に持ち上げ、保持回旋する。

b.寝返りの発達

1)寝返り不可図21-A参照 

緊張性迷路反射などの緊張のため、頭の回旋、肩や股関節の内転・外転、体幹の回旋が得られず、寝返りが不可能である。下肢では伸展緊張が強く、回旋に必要な股関節内転・外転の動きが出にくい。

2)寝返り、横向き図21-B参照

肩や股関節の内転による横向きまでの寝返りが可能である。上肢・下肢に内転・外転力がつき、体幹を横向きに保ちうる。

3)寝返り、腹這い肢位まで図21-C参照

体幹がさらに回旋し、腹臥位になるレベルであり、体幹を前腕で支えることが可能になる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

上からA、B、C となっています。

c.腹這いの発達

1)腹這い上肢対称性前進図22-A参照

原始的な腹這いであり、両上肢を同時に屈曲、さらに同時に伸展して前進する。対称性緊張性頚反射が内在する対称的な移動である。下肢は伸展位で動かないことが多い。両肩のレトラクションがなお強かったり、上肢の支持、推進力が弱く、一側上肢屈伸での推進ができない。両下肢も伸展緊張が強く、屈伸の動きは少なく左右の分離性もない。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図22-Aは上段です。

※対称性緊張性頚反射(STNR)について

画像出典:「トコちゃんベルトの青葉

『対称性緊張性頸反射(STNR)が残存すると、頸伸展時、肘関節・手関節は伸展し、股関節・膝関節は屈曲する。また頸屈曲時は肘関節・手関節が屈曲し、股関節・膝関節が伸展してしまう』

  


画像および文章は、”【横浜・白楽】脳とからだセラピストのたわごと” さまより拝借しました。

左の絵は、赤ちゃんが重力に抗って頭を持ち上げた時の状態で、腕が伸びて足が曲がっています。

右の絵は、頭を下げた時に腕が曲がり、お尻が上がった状態です。

これらの動きはハイハイをする前の段階になり、この反射が出ている間はハイハイができない。

●STNRは生後6~9ヶ月から現れ、9~11ヶ月後には統合されるので、この反射の出現から統合される期間は、他の原始反射に比べるとても短い。

この反射により、ハイハイや立ち上がりに必要な筋肉の発達を促す。

●頭を上げて遠くを見るようになることから、視覚的な遠近感を獲得できるようになる。

STNRが残存している場合の影響

・ハイハイを十分にできなかったため、両手や両足の協調した動きが苦手

・片側だけの動きになりがち(手書きのとき、反対側の手で紙を押さえないなど)

・頭を前に下げたときに、腕も曲がってしまうため、字を書くときはさらに頭が前に下がる

・イスに座るときはいつも前のめりになる。または足を投げ出すように浅めに座る。

歩くときは片足、または両足が内側を向く

・頭と目、目と手の協調運動が苦手(マット運動の前方回転、水泳、球技など)

・集中力に欠ける

首と肩の筋肉が緊張しやすく、首や肩のコリ、偏頭痛になることもある

2)一側性交叉腹這い図22-B参照

対称性緊張性頚反射が弱まり、上肢に力がつくと、一側上肢の屈曲、伸展による前進が可能になる。同時に、屈曲した上肢の対側下肢が屈曲する交叉状態もみられるようになる。しかし、まだ体幹の上部・下部を分離させる回旋の動きはなく、一側上肢屈曲、他側下肢屈曲の繰り返し移動で前進する(図33-A参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図22-Bは中段です。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図33-Aは左側です。

3)四肢(両側性)交叉腹這い図22-C参照

下肢の緊張が弱まり体幹の回旋の動きが出ると伸展側に体重が移動し、両側性に、一側上肢、他側下肢が屈曲・伸展する四肢交叉移動ができるようになる。個々の下肢の屈曲・伸展が容易になり、骨盤の持ち上げが可能となり、自立坐位獲得への準備ができてくる。両上肢に力がつき、肘つき位で交互に動かし、下肢も交叉性に動く、交叉肢位移動が完成する(図34-B参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図22-Cは下段です。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図34-Bは右側です。

d.坐位の発達

1)手つき割り坐位肢位図23-B参照

肘つき腹這い位で、骨盤が持ち上げられるようになると、骨盤を上げつつ股関節を屈曲させ、次に肘を伸ばし、体重を後方に移動させつつ手つき割り坐位肢位をとる。交叉腹這いから、四つ這いレベルへ移るステップである。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図23-Bは中央です。

2)割り坐図23-C参照

上肢の支えがいらなくなり、下肢に全体重がかかるようになると、割り坐が可能になる。いろいろな坐位への出発肢位である。下肢と体幹だけの自立坐位であり、腹這いから次の四つ這いへのステップでもある。大腿直筋、内側・外側ハムストリングの緊張がもっともゆるみ、抗重力的な体幹筋、股周囲筋が活動しやすい。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図23-Cは下段です。

e.四つ這いの発達

1)四つ這い肢位図24-A参照

割り坐から上肢を前に伸ばし、床につけ、これに体重をのせ、股関節と膝関節を伸ばしていくと、四つ這い肢位になる。四つ這いへの出発肢位である。機能的には、両上肢での手掌支持、両下肢での膝蓋-脛骨粗面部支持が可能になり、体が空間に保持された状態である。両手指、両手関節の支持力を育てる重要な肢位であり、この支持力をもとに両手は巧緻性を獲得する

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図24-Aは上段です。

2)対称性四つ這い(バニーホッピング)図24-B参照

四つ這いの肢位で、頭と両上肢を伸ばし、体重をかけ、同時に下部体幹と下肢を屈曲させ、振り出し前進する。振り出しの終わりで股関節を伸展させつつ、膝・下腿に体重をかけ、割り坐位に戻る。次に頭と上肢を屈曲させて手を前の方につき、さらに前進する。対称性緊張性頚反射が残存する対称性移動である。バニーホッピングともいわれる。股関節の緊張が残り、両下肢の交互性が悪い。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図24-Bは中央です。

3)交叉四つ這い図24-C参照

1つひとつの肢が分離し、十分な荷重性、抗重力性を獲得してくると、三肢支持で一肢だけを動かす四つ這い交叉移動が完成する。四つ這い移動からは、横坐り、長坐り訓練が容易となる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図24-Cは下段です。

f.立位・歩行の獲得

1)両膝立ち図25-A参照

両膝、下腿を使っての二脚立位の原始型である。大腰筋、大腿直筋など、股屈曲の痙性がとれて両膝支えが可能になる。つかまり膝立ちから徐々に手の支えが不用になり、下肢に体重がかかり、膝立ちとなる。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図25-Aは1番左です。

2)つかまり両足立ち図25-B参照

つかまり立ちで、両股、両膝屈曲位のことが多い。変則四肢支持である。足底接地の条件が整い、股関節、膝関節の抗重力伸筋が働きはじめて、つかまり立位が可能になる。立位で股・膝・足部の痙性が現われやすく、不安定である。尖足、外反扁平足などが残り、足部の抗重力機構が十分に育たず、立位保持ができない。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図25-Bは中央です。

3)つかまり交叉移動図25-C参照

変則四点交叉移動である。両下肢に十分体重がかかり足底支持ができるようになると、両杖でバランスをとり、歩行を開始する。足底支持が容易となって、初めて杖による四点移動が可能になる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図25-Cは右端です。

4.直立二脚歩行

二脚立位で、しばしば初期的には、両尖足、両股、両膝屈曲位をとることが多い(かがみ肢位)。大殿筋、大腿四頭筋、ヒラメ筋が活性化してくるとともに、下肢が伸展し、直立位となる。足底がつき、足底外側縁で体重を支えるようになると、二脚歩行が可能となる。

脳性麻痺と機能訓練4

今回は、第3章 理学療法の実際 Ⅱ.ストレッチ訓練 になります。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月(初版は1995年6月)

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

第3章 理学療法の実際

Ⅱ.ストレッチ訓練

●痙縮・固縮のコントロール手技としては、訓練ではストレッチ訓練、装具によるコントロール、薬物使用ではアルコール、フェノール、ボツリヌス毒の筋肉注射、脳神経外科では選択的後根切除術、整形外科的には、キャスト固定、選択的筋解離術がある。このうち、ストレッチ訓練は一定時間行えば一過性ではあるが、過緊張、痙性を抑制することが、これまでの臨床的経験では示されており、訓練の場でも実感されている。

●脳性麻痺の寝返り、腹這い、四つ這い、立位歩行などの機能をあげるには、肩のレトラクション(肩甲骨の内転)、肘の屈曲緊張、手関節掌屈曲緊張、体幹緊張、股・膝・足の緊張など、それぞれの部位での痙縮あるいは固縮を弱めることがより効果的であり、むしろ痙縮・固縮を除かなくては機能向上を望めない。

ストレッチ訓練は伸張反射を一過性であれ抑制する唯一の手技であり、ストレッチ訓練手技を自発訓練手技の導入部分として活用することができる。

●機能解剖学的には痙性筋の数は限られており、患児との感覚的接触、訓練導入の手段として、特定の筋のストレッチを容易に行いうる。

1.体内の痙性筋

●痙性筋は大まかに、表3のとおりである。いずれも屈曲・伸展の動きをもつ多関節筋である

これらの痙性筋によってもたらされる変形、および不良肢位、ならびに痙性筋そのものに対し評価し、ストレッチ訓練が行われる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」 

ご参考:下記は屈曲、伸展などの動きを絵で紹介しているものです。クリック頂くと拡大されます。


画像出展:「改訂版 ボディ・ナビゲーション」


2.ストレッチ手技の実際

a.仰臥位ストレッチ訓練

●伸張ストレッチ訓練はスポーツの世界で広く利用され、体の緊張をゆるめるのに効果がある。訓練においても伸張訓練の重要性は変わらず、大きく3つの伸張訓練に分けられる。

①上位体幹、上位の屈伸

・頸椎、胸椎の屈曲

・肩の屈曲、肘の伸展(仰臥位上肢伸展)(図18-A 

②下位胸椎、腰椎、下肢の屈伸

・腰椎、骨盤、下肢の屈曲と伸展(図18-B

③胸椎、腰椎の回旋(図18-C

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」 

図18は、左からA、B、C となっています。

1)頭最長筋、頚最長筋のストレッチ

●仰臥位で頭を後ろから支え、ゆっくり垂直方向に起こし、左右に目と目の線を水平に回旋させる。右に回旋させると左側の頭最長筋頚最長筋がストレッチされ、右前頚筋群が活性化される。左に回旋させると右側の頭最長筋頚最長筋がストレッチされ、左前頚筋群が活性化される。

術者が正坐し、やや両股外転位をとり、その間に患者の頭と上位体幹を入れるような形で、頚部、体幹を屈曲させ頚部、体幹伸筋のストレッチをはかるのも1つの方法である。術者と患児の接触を楽しむ程度の感覚でよい。

2)上肢帯のストレッチ(上肢伸ばし訓練)

広背筋、上腕三頭筋、上腕二頭筋のストレッチ

肘を伸ばし、肩を頭の方に上げ、この3つの筋をストレッチし、三角筋の活性を高める。肩を上げて、広背筋と後下方関節包をストレッチし、さらに肘を曲げて上腕三頭筋をストレッチする。肘を伸ばして、肘の前方関節包と上腕二頭筋のストレッチをする(図18-A-b参照)。この時、前腕は回外保持が望ましい。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図18-A-bは左側・中段です。 

僧帽筋のストレッチ

一側上腕で肩を内転し、他側の前腕でこの内転した上腕を抑え、僧帽筋をストレッチする。大胸筋の活性が高まる。

3)下肢帯のストレッチ

伸展ストレッチ

仰臥位ではとくに必要としない。

屈曲ストレッチ

術者は患者の下肢側に坐る。両下腿中間を持ち、両股、両膝を屈曲させ、大腿が腹壁につくまで曲げ、骨盤、胸椎下部を十分に屈曲させる。ハムストリング大内転筋腸肋筋最長筋がストレッチされる。腸肋筋内腹斜筋腹横筋が活性化され、寝返り自発訓練の準備が整う。(図18-B-b参照

両股を痛みのこない範囲で十分に屈曲し、大腿を胸壁に近づける。骨盤および胸椎下部も屈曲し、背部伸筋群をストレッチさせる。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図18-B-bは中央・下段です。  

4)体幹のストレッチ

伸筋ストレッチ

側臥位をとる。側弯がある時は凹側を上にする。体幹の下にタオルを入れ、側弯を矯正する。術者は背側に坐る。術者の一側の手で腸骨部を持ち骨盤帯を後方に回旋させ、他側の手で胸郭部は前方に押し回旋させる(図18-C-a参照)。 腸肋筋最長筋がストレッチされ、対側の腹横筋内腹斜筋が活性化する。寝返りでの体幹回旋を容易にする。反対側も同様に行う。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図18-C-aは右側・上段です。  

屈筋ストレッチ

側臥位をとる。骨盤帯を前方に回旋し、胸郭を後方に回旋する。腹直筋外腹斜筋がストレッチされる(図18-C-b)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図18-C-bは右側・下段です。 

b.腹臥位ストレッチ訓練

●上位体幹、下位体幹、上肢、下肢の順に受動的伸張を行う。

1)頚椎、上位胸椎の伸展図19-A参照

●肩のレトラクションを抑え、手を前に伸ばす。両上肢を頭の方に伸展させ、上腕を頭の方へ伸ばすと鎖骨が上に上がり、胸鎖乳突筋がゆるみこの筋の緊張で動きを抑えられていた頚の抗重力伸筋が活動し、頭が上がってくる。顎の下に術者の指を置き、頭をゆっくり垂直に起こし、目の線を水平に保ちつつ左右に回旋させる。頭の重みを除くという柔らかい持ち上げ方がよい。右回旋で右胸鎖乳突筋がストレッチされ、左後頭下筋左多裂筋が活性され頭が上がる。左回旋はその逆である。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図19-Aは左側・中段です。 

2)上肢の頭方向への伸展

●両上肢を頭の方に伸ばす。広背筋上腕三頭筋が肩でストレッチされ、上腕二頭筋が肘でストレッチされる。前腕は回外位を保つ。

3)両下肢の屈伸

●術者は患児の足側に位置する。まず一側から訓練を始める。患児は両上肢を曲げた姿勢で両下肢を中間外旋、やや屈曲位をとる。

一側下肢屈曲(開排肢位)

一側下肢の股関節を120~140°まで屈曲させる(対側は伸展位でよい)。膝関節も90°前後屈曲させる(図20-A,B参照)。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図20-A,Bは左側の2つです。 

この肢位で股関節を術者の手でゆっくり床に押しつけ開排位をとる。1~2分以上した方が効果的である(右股は術者の右手で、左股は術者の左手で)。次にこの下肢を伸展させ、20~30°外転させ、内旋位をとり、股関節を術者の手でゆっくり床方向に押し、股関節を伸展させる(図20-C,D参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図20-C,Dは右側の2つです。

屈曲肢位訓練では、ハムストリング、関節包内下方(大腿恥骨靭帯)が引き伸ばされ、求心位をとりやすい(図17-D参照)。また内下側臼蓋辰、横靭帯が広げられ、臼蓋内に骨頭がおさまりやすくなる(図17-D参照。伸展位訓練では関節包内上方(大腿恥骨靭帯)が伸ばされ、大腰筋大腿直筋がストレッチされる(図17-E参照)。対側も同様の訓練を行う。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図17-Dは下段左、図17-Eは下段右です。

 

両下肢屈曲

両下肢訓練では両上肢を同時に屈曲し、両股関節、両膝関節の伸展緊張をゆるめる。股関節は140°以上屈曲させ、大転子部を上から床面に向けてゆっくり圧迫し、外転させる(図19-B参照)。両上下肢は曲げている方が楽であるが、頭の方向に伸ばしてもよい。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図19-Bは右側です。

 

股関節を90°屈曲位でこの訓練をすると、長内転筋が過緊張し、骨頭への急激な圧迫で痛みが出て患児の信頼を失うことになる。必ず140°以上の十分な屈曲角をとり、痛みのない外転・外旋位の伸張訓練を行う。下肢屈曲位は、股関節脱臼予防肢位として非常に重要な肢位であり、自発的な動きを呼びかけ、楽しいスポーツ感覚で進めたい。

c.前腕、手のストレッチ

1)前腕回内変形に対するストレッチ

●前腕回内変形では3つの段階のストレッチがある。回内の3つの要素、骨間膜・靭帯短縮、円回内筋緊張、橈側手根屈筋緊張が段階的にゆるめられる。

①肘を曲げ、手関節を掌屈のまま、前腕を回外する。骨間膜が伸び、橈骨小頭が輪状靭帯の中に安定整復される。

②肘を伸ばし、前腕を回外する。円回内筋がストレッチされる。

③手関節を背屈し、肘も伸展のまま前腕を回外する。橈側手根屈筋がストレッチされる。

2)手関節掌屈に対するストレッチ

①(指は曲げ)肘を屈曲し、手関節を背屈する。掌側関節包がストレッチされる。

②肘を伸ばし、手関節を背屈する。橈側手根屈筋・尺側手根屈筋がストレッチされる。

3)手指、母指屈曲に対するストレッチ

①手関節を背屈し、手指、母指を伸張する。

②ストレッチ手技のあと、母指対立装具や手関節装具を使うことがある。

d.下肢帯(足部)のストレッチ

①膝関節で足関節、中足部を持ち、足関節を背屈する。ヒラメ筋後頚骨筋長腓骨筋、および後方関節包がストレッチされる。

②中足部を背屈し、短趾屈筋など足趾底屈筋と足底筋膜をストレッチする。凹足変形を予防するストレッチ訓練として重要である。

③第1、第2、第3、第4、第5趾を伸展、背屈させ、長趾屈筋短趾屈筋骨間筋長母趾屈筋短母趾屈筋足趾内転筋の緊張をゆるめる。

④膝伸展で足部を持ち、足関節を背屈させ、腓腹筋の過緊張をゆるめる。

3.ストレッチ訓練の原則

ストレッチ訓練の原則は愛護的であり、あくまで訓練の導入的な意味をもつ。

手技は無理をせず、患児との接触の中で信頼感を深め、緊張を寛解させる。

手技は気持ちの良い範囲で行い、患児の能力や状態に応じて手技を考える。

時間を決め、ダイナミック訓練に必要なストレッチ訓練だけを気持ちよく行う。

麻痺や脱臼を起こす危険性のあるストレッチ

①強引な頚のねじりと屈伸はしてはならない-

“頚をさわる訓練の時は、泣かせてはならない。麻痺を起こす危険が共存している”

②体幹のねじり、訓練に股関節以下は使わない

体幹のねじり訓練にはいろいろな方法があるが、ねじりを出すためには下肢をともにねじる方が容易であるが、これはきわめて危険である。寝返り誘発手技として下肢を屈曲させ、これを内転させて回旋させる訓練があるが手技的に簡単であればあるほど、脱臼を起こさせる手技として疑問視される。

③前腕回内位での肘伸展訓練はしてはならない

前腕回内位では橈骨小頭を取り巻く輪状靭帯はゆるみ、これに肘の伸展が加わると、輪状靭帯は前方関節包とともに中枢に引き上げられ、橈骨小頭は脱臼しやすい。

④膝関節伸展位での股関節屈曲訓練(長坐位訓練)

この訓練はハムストリングの緊張を除くために安易に行われているが、股関節脱臼を誘発させる危険性の高い訓練法である。ハムストリングの緊張は、膝関節屈曲位での股関節の屈曲ストレッチでゆるめたい(図19-B、図20-B参照

⑤股90°ぐらいでの外転ストレッチはしてはならない

長内転筋をゆるめるための股90°屈曲位での外転ストレッチは、内転筋群の損傷のリスクを伴う。この手技を行う場合は過屈曲で外転を行う。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図19-Bは右側です。

 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図20-Bは左から2つめです。

脳性麻痺と機能訓練3

今回は、第2章 機能訓練概論 Ⅱ.訓練の基本的考え方 になります。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月(初版は1995年6月)

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください。

 

第2章 機能訓練概論

Ⅱ.訓練の基本的考え方

1.緊張の抑制と随意性・抗重力性の賦活

“選択的緊張抑制理論”の本質は、筋の過緊張を選択的に抑え、過緊張の下に隠されている随意的かつ抗重力的な筋の働きを、自発的な動きの中で出していこうというものである。

●(“選択的緊張抑制理論”は)自発性を尊重しつつ緊張を抑え、より随意性、抗重力性の高い動きを獲得しようとする。合理的な運動機能学的知識を積み重ね、駆使することによって初めて、より少ない抑制の中で随意性、抗重力性の活性化がはかりうる。

機能解剖学的に正しく緊張の原因を理解することが必要である。

基本的発想は多関節筋の過活動を徒手的に抑制し、単関節筋の抗重力活動を活性化するという考えである。

基本的発想を訓練で応用化するには、さらに発達支援レベルを細かく分けたり、割り坐を活用したり、効果的なストレッチ手技を取り入れたり、動きの出やすい誘発手技を考案したりと、いろいろな運動学的知見を必要とする。

●抑制を加えると良い動きが抑えられるという懸念は、過去のものとなった。緊張を抑制する手技は、そのまま体の持ち上げ運動、巧緻運動の活性化につながるのである。

●運動学的ダイナミック訓練は対称性腹這い、対称性四つ這い、対称性坐位(割り座)を容認し、これまでの訓練法よりも自発性が高くなっている。

●過緊張はストレッチ、ダイナミック訓練、装具、キャスト、手術といった手段で、いつでも除きえるという視点をもっている。  

2.抵抗は加えない(抵抗を排除し動きやすく)

●脳性麻痺では、痙性・固縮があり、これが重力と合わせ抗重力筋群に強い圧迫を加えている。

●脳性麻痺をもった子どもたちは、過緊張と重力という二つの重い圧迫にあって苦しんでいる。過緊張による圧迫をできるだけ少なくし、重力に打ち勝つ抗重力筋を育てるという原点からの訓練を考えるべきである。

3.発達に即した訓練を

●人の筋、骨格系、神経系は、系統発生学的に層状に発達してきている。

●運動系神経系をマクロ的視野でとらえ、その発達に応じた訓練を一歩一歩追っていくのが合理的であるが、運動発達の段階を細かく区分けして、その各々のランクでの訓練の具体的な手技を示す必要がある(表5参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

4.割り坐位の採用(割り坐を訓練の中心に)

●本論(“選択的緊張抑制理論”)のもっとも特徴的な部分は、まず麻痺の中にいろいろな随意性が隠されているととらえ、それを合理的に訓練(運動学的ダイナミック訓練など)によって引き出す、というものである。

●“割り坐は悪い肢位(分離性の悪い対称性肢位)であり、この肢位をできるだけ避けて訓練するほうが望ましい”とするこれまでの考え方を、自発的訓練をはばむ考え方として排除する。

割り坐を1つの到達点として、訓練の中に取り入れていく時、腹這い移動から四つ這い移動へのきわめて整理された訓練体系が見えてくる。

訓練では困難と諦めかけている股関節脱臼の予防も可能となる。

将来起こりうる内旋歩行については、まず割り坐を育ててから次のステップの訓練として考慮すればよく、その訓練手技も、まず割り坐を獲得してから横坐訓練を中心に確立していきたい。

5.3つの自発的坐位獲得訓練

●従来、坐位については、横坐り、あぐら坐り、長坐り、椅坐位といった比較的レベルの高い坐位が訓練肢位として良いとされてきた。とくに、椅坐位は訓練の中心として重要視されている。

●著者らはこのような固定化した発想から離れ、坐位にもいろいろのレベルがあり、運動発達のレベルに応じて坐位訓練も変えるという発想をしている。

自発的坐位獲得訓練は坐位を次の3つの段階に分け、発達に応じた坐位訓練を行っている。

①割り坐:腹這いと四つ這いの中間レベル

②横坐、あぐら坐、長座:四つ這いレベル

③椅坐:つかまり立ちレベル

6.交叉推進機能の活性化

脳性麻痺治療のむずかしさの1つに、四肢交叉推進をどのようにして引き出していくかという問題がある。

●ボイタは反射性腹這いが存在するという考え方をもとに、四肢交叉推進の動きを出そうとしたが、閉塞感を強く伴ううえに手技が極めて難しい。

交叉性を出すために、寝返りレベル、腹這いレベル、坐位レベル、四つ這いレベルの各々のレベルにおいて、交叉性を出しやすい手技が開発された。

●もっとも難しいのは腹這い位の中での交叉推進機能の賦活であるが、これは一側性交叉推進と四肢(両側性)交叉推進の動きが脳性麻痺児の動きの中にみられることをもとに、一側性交叉推進訓練の考え方を導入し、比較的容易に交叉推進訓練が可能になった。

7.ストレッチ訓練の活用

●ストレッチ訓練はこれまでは受動的とされ、その重要性はあまり強調されていない。

●訓練では正常な可動域を保つことが望ましく、そのためには自発的訓練の中でも、抗重力訓練の中でも、そしてリーチ訓練の中でも伸長訓練を十分に取り入れ、さらにストレッチ訓練で関節拘縮を予防するのである。

●先天性股関節脱臼や麻痺性股関節脱臼の治療で得られた新しい整形外科的知見を取り入れ、痛みのこない、股関節脱臼予防のためのストレッチ訓練を取り入れる。

●代表的な拘縮・変形としては、股関節脱臼、股関節屈曲拘縮、膝関節屈曲拘縮、尖足変形、肩関節脱臼、橈骨小頭脱臼、前腕回内変形、肘屈曲変形、手関節掌屈変形、側弯変形などがある。いずれもストレッチ訓練で軽減・予防をはかることができる。

●緊張・寛解のメカニズムは明らかにされていないが、局所伸張反射が一定時間以上のストレッチやキャストにより、一過性であるにしても低下することは、臨床のあらゆる場で認められおり、各種訓練に入る前の伸長訓練の重要性には、なんら疑問の余地もない。

8.感覚刺激としての触覚と平衡感覚

●感覚刺激として重要であり、運動の中でもっとも育てたいのは、正しい抗重力感覚と正しい分離推進感覚である。いずれも、地面に触れる感覚とその中から得られる体の位置感覚を重視するため、寝返り、腹這いといった訓練を重視している。

ストレッチ訓練など、訓練の中で患児と術者との皮膚と皮膚、心と心のつながりといった接触感、さらには情感といったものを通わせる取組みを訓練の基本としている。

※メモ1:度々ご紹介させて頂いている、心理リハビリテーションの ”動作法” や、脳の可塑性に着目した ”アナット・バニエル・メソッド” ですが、これらに共通していた患児と術者の「心と心のつながり」などのメンタル面の重要性は、松尾先生が取り組まれていた ”機能訓練(理学療法)” においても重要視されているのだと強く思いました。

9.脳の可塑性は合理的訓練の中で

近年、麻痺の回復のために、残存した脳の可塑性に働きかけるという訓練法があるといわれている。また、脳の可塑性に関する基礎的研究も大きく発達し、脳の一定の細胞系に可塑性があると証明される段階にもきている。

※メモ2:本書の初版は1995年ですが、図書館から借りてきて確認したところ、”脳の可塑性”に関する文章は、この24年前に発行された初版から同じ内容で掲載されていました。これは驚きでした。

脳性麻痺と機能訓練2

今回は、第1章 概論 Ⅴ.脳性麻痺筋緊張の特性 3.運動学的なとらえ方(一部)になります。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月(初版は1995年6月)

目次は“脳性麻痺と機能訓練1”を参照ください

第1章 概論

Ⅰ.求められる機能訓練とは

Ⅴ.脳性麻痺筋緊張の特性

3.運動学的なとらえ方

●異常筋緊張は脳性麻痺の本質的な運動障害である。

●神経学的には異常筋緊張の大半を反射亢進や姿勢反射ととらえるが、運動学的にはこれらの反射を含め、すべての異常筋緊張を局所あるいは全身の筋の過緊張として細かく分析する。

●異常緊張には機能解剖学的にみて一定の規則性があり、異常筋緊張の抑制を考える。

a.人の筋機能の分布

1)単関節筋と多関節筋の機能的差異

●人の筋群は機能解剖学的には多関節筋群と単関節筋群から成り、それぞれが混じり合っている(図1参照)。

多関節筋は体を推進させる推進筋であり、単関節筋は体の空間持ち上げをする抗重力性の高い抗重力筋である。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

左の腓腹筋は膝関節+足関節=2関節→多関節筋。右のヒラメ筋は足関節のみ=1関節→単関節筋

こちらは、STROKE LAB(ニューロリハビリ研究所)さまの ”脳卒中×触診【下腿三頭筋 腓腹筋―ヒラメ筋の起始停止:歩行の関係性】” という記事の中で使われていたイラストです。

 

●下腿三頭筋では、多関節筋である腓腹筋は、体の推進筋で足を底屈させ、その蹴る(底屈)力で体を推進させる。一方、単関節筋のヒラメ筋は同じ底屈筋でも、立脚中期に足をふんばって体を支える筋である。腓腹筋を推進底屈筋、ヒラメ筋を抗重力筋底屈筋という(図3参照)。

●股関節の腸腰筋も、多関節筋の大腰筋と単関節筋の腸骨筋に分けられる。大腰筋は体の前方推進を準備するために水平面で股関節を屈曲させる推進性屈筋であり、一方、腸骨筋は四つ這いなどで、体を抗重力的に空間に持ち上げるために、垂直方向に屈曲させる抗重力筋である。人の筋機能はこのように多関節筋群の推進性と単関節筋群の抗重力性が混じり合って、効率の高い運動を可能にする。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

立脚中期”をご説明するための図です。①~⑤が立脚期(足が地面に着く)で中期はその真ん中のの状態です。なお、⑥⑦は遊脚期と呼ばれています。

この画像は、脳卒中の後遺症からの復帰に光をあてることを目的とされている「few against many」さまから拝借しました。

2)多関節筋の運動学的特徴

①水平面方向のみでの活動しかできない:多関節筋の特徴は、多関節にわたるための筋全体が長く力は大きいが、筋の長さに比し、筋腹は細く起始部も付着部もきわめて細い、したがって、関節を一定の肢位に保持する力に弱く、体を持ち上げるような抗重力的な力は働かせにくい。単なる粗大な推進力源としての屈伸運動しかできない。多関節筋のみでは水中や地上での屈伸などしかできず、四つ這いや立位など、体を地上に浮かすような動きはできない。

②分離運動ができない2つ以上の関節にまたがった筋であるために、1つの関節だけの分離性のある動きができない。股関節を屈曲させるともに、膝関節は伸展させるなど、2つの関節にまたがった動きしかできない。

③粗大運動しかできない:多関節にわたる長い筋であり、大きな動きしかできず、しかも一定のパターン移動しかできない。水平面での推進をはかる粗大推進筋ととらえられうる。

3)単関節筋の運動学的特徴

①垂直方向の動きができる:単関節筋は筋の長さに比し、筋起始部の面積が広く、特定の関節を一定の肢位に保持することが可能であり、拮抗筋と協同しつつ、四肢体幹を垂直方向に持ち上げることが可能である。

②分離運動が可能である:1つの関節に属する筋であるために、1つの関節だけを他の関節と分離して動かすことができる。筋の長さも短く、その関節の細かい動きが可能である。また、初期的な抗重力筋は、四肢の動きを別々に分離させ、四肢交叉移動を可能にしている。

③筋腹が短い:単関節筋は、発達とともにさらに短い筋を分化させ、より抗重力性の高い動きを可能にしていった。しかし、筋腹が短くなればなるほど関節を小さく、より安定的に取り囲み、反面粗大な動きはできなくなる。したがって、抗重力・巧緻筋ととらえることができる図5参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

b.脳性麻痺における多関節筋の過緊張

1.変形と多関節筋過緊張

脳性麻痺では多関節筋が過活動し、痙縮や固縮、局所の変形、そして全身性の緊張性姿勢異常を引き起こす。

尖足腓腹筋の過緊張で引き起こされる。

股関節屈曲変形多関節筋である大腰筋、大腿直筋の過緊張で引き起こされ、かがみ肢位がもたらされる。

股関節伸展緊張多関節筋である半腱様筋、大腿二頭筋の過緊張で引き起こされ、腹這い、四つ這いでの股関節屈曲が妨げられる。

肩のレトラクション変形は多関節筋である広背筋、上腕三頭筋の過緊張で引き起こされる図10-A参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図10-Aは上です。

 

2.反射と多関節筋過緊張

●反射も多関節筋の過緊張によって亢進する。

●膝蓋腱反射は大腿直筋の過緊張によって亢進する。

●アキレス腱反射は腓腹筋の過緊張によって亢進する。

3.伸張反射と変形

伸張反射が亢進することにより変形がもたらされると考えられる。

●膝蓋腱反射亢進で伸展膝、反張膝がもたらされる。

●アキレス腱反射亢進で尖足変形がもたらさせる。

●手指、足趾の把握反射亢進で手指の屈曲と足趾の屈曲変形がもたらされる。

●上腕二頭筋反射亢進で肘屈曲変形がもたらされる。

●上腕三頭筋反射亢進で肘伸展変形がもたらされる。

c.脳性麻痺における推進性障害と固縮

1.屈筋、伸筋の同時緊張と推進性障害

●脳性麻痺の特徴的な病像に関節の固縮がある。運動学的には固縮は屈曲多関節筋と伸展多関節筋の同時過緊張によって引き起こされると分析される。

人の関節の柔らかさと相反神経支配(相反神経支配の運動学的意義)

相反神経支配という神経学の言葉がある。これは運動学的には、“屈筋が働く時は、伸筋がゆるみ、伸筋が働く時は、屈筋がゆるむこと”という単純な現象である。人の関節の動きは、このような筋活動(神経学的には、相反神経支配という)によって柔らかく保たれる。このように、相反神経支配によって、全身の関節では屈曲・伸展両方向への素早い動きの転換が可能となり、効果的推進がはかりうる。

関節を保護するための伸張反射(何のために伸長反射はあるか)

この動きは運動学的には、一側の筋が過度伸長された時に拮抗側の筋が瞬時に収縮し、過度伸長を防止する関節防御機構である。伸張反射は、運動学的には重要な生体側の防御機構ととらえられる。

脳性麻痺における過剰な伸張反射と相反神経支配の破壊

伸張反射は脳性麻痺では屈伸両側で過剰に働き、関節の動きにくさがもたらされ、推進性の交互の動きが制限される。例えば、膝関節の屈筋が働こうとする時、拮抗筋の伸展も過剰に反応し、屈伸両側の筋が同時に緊張すると固縮がもたらされ、前方への動きが阻害される(図8参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

d.脳性麻痺における単関節筋の麻痺

1.単関節筋の麻痺と抗重力機能の低下

●人が発達の過程で分化させた単関節筋群は、中枢神経の損傷とともに麻痺し、抗重力機能が低下する。股関節では大殿筋、中・小殿筋が不全になり股関節の十分な伸展ができず、立位保持が困難になる。

膝関節内側広筋、外側広筋、中間広筋(大腿四頭筋の中で大腿直筋は多関節筋になります)の機能不全で膝の伸展力が低下し、効果的な立位保持ができず屈曲肢位になり、かがみ肢位(図6-A参照)、四つ這い肢位をとることになる。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

足部骨間筋、ヒラメ筋の麻痺がきて、外反扁平足がもたらされ、支える力が弱く立位困難となる。

上肢は上肢の挙上筋である三角筋や肘の伸筋である上腕三頭筋内・外側頭が麻痺し、持ち上げ機能が弱くなり、上肢の空間保持、四つ這い肢位保持などが困難となる。

2.多関節筋過活動による単関節筋活動の抑制

多関節筋の過活動によって単関節筋の抗重力活動が抑えられる。

股関節の単関節性伸筋である大殿筋は、拮抗する多関節性屈筋である大腰筋や大腿直筋の過緊張により活動が抑えられ、伸展パターンがもたらされ、効果的な四つ這い・立位移動ができなくなる。

e.多関節筋、単関節筋の概念と訓練への応用

1.緊張抑制と抗重力性活性化への応用

多関節筋の緊張が拮抗する単関節筋の活動を抑えるという発想をすると、訓練上に有力な手掛かりが得られる。

●股関節の伸展緊張について、腹這いを考えてみる。ハムストリングの緊張を抑えて股関節を屈曲する(図10参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

単関節筋である腸骨筋が活性化されて股関節が曲がり、次の前進に備える。抑制が前進の妨げにならない(図43、44参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

こうして体内の筋を多関節筋と単関節筋に整理すると、これまで疑問視されていた抑制と賦活(促通)という発想が息を吹き返してくる。“多関節筋の過活動を抑え、抗重力単関節筋の働きを促進する”ということである。

2.多関節筋と単関節筋の走行の差(目線を水平にするという発想へ)

多関節筋のV字状走行

多関節筋(最長筋)は、体の中心線(棘突起)から中枢方向へ体の外側に走行し肋骨や横突起に付着し、V字形の形をとる。したがって、この筋群が働くと体が横に傾きやすい(図11参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

頚では多関節筋の頭最長筋が働くと、頭が左右に振られ両方の目を結ぶ線が水平を保ちにくい。胸鎖乳突筋もV字形で頭が左右に振られやすく、目と目を結ぶ線が水平を保ちにくい。体幹も同じで胸最長筋と腸肋筋はV字形をとり、この筋群が働くと体が側方に振られやすい。屈筋側では、外腹斜筋はV字形をとり、この筋が働くと体が横に振られる。いずれも体の安定に働かない。

単関節筋の走行

単関節筋は末梢寄りの体の外側(横突起)から、中枢へ体の中心線(棘突起)の方向に走り、逆V字形を示す。この筋群は少々活動しても頭や体幹は倒れにくく、両側性に働くと頭や体幹を垂直位に起こし、一側性に働くと体を回旋させる。これらの筋活動では、目と目を結ぶ線、あるいは肩と肩を結ぶ線がたえず水平に保立たれる。頚では、後頭下筋、短回旋筋、長回旋筋、多裂筋は筋が短く、逆V字形をとり、単関節筋的に働く重要な抗重力筋であるととらえられる(図12参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

 

目と目の線を水平に訓練

頭の持ち上げや寝返りでの抗重力的な姿勢とは、回旋によって目と目あるいは肩と肩を結ぶ線が、たえず水平に保たれるような姿勢であることが教えられる。逆に、目と目の線が垂直方向に傾けば、それは多関節筋の過活動による過緊張肢位ということになる。このことから目と目あるいは肩と肩を結ぶ線を、水平に保つ訓練が緊張を抑えるのにもっともよい重要な訓練であることがわかる。このような知見から、訓練はたえず目と目の線を水平にするような方向で行われるのが望ましいことがわかる。

脳性麻痺と機能訓練1

前回のブログ“小児の理学療法3”の付記に感想を書いていますが、脳性まひに対するリハビリテーションは筋骨格系に着目した理学療法と、心や脳に着目した新しい療法が両輪となって進んでいくことが求められているように思います。これはコンピューターで例えればハードウェアとソフトウェア、車でいえば自動車と運転手のような関係です。

今回の本は「小児の理学療法」と同じように「脳性まひ児の発達支援」の参考文献として紹介されていたものですが、筋骨格系に働きかける理学療法を理解するうえで、非常に優れた本ではないかと思います。そこで、長くなりますがブログを8つに分け、細かく勉強していきたいと思います。内容はすべて引用ですが、文章を短くするために箇条書きにしているもの、あるいは言い回しなどを変えているものなどが混在しています。

著者:松尾隆

出版:南江堂

発行:2002年10月(初版は1995年6月)

●脳性麻痺と機能訓練1:第1章 概論 Ⅰ.求められる機能訓練とは

●脳性麻痺と機能訓練2:第1章 概論 Ⅴ.脳性麻痺筋緊張の特性 3.運動学的なとらえ方(一部)

●脳性麻痺と機能訓練3:第2章 機能訓練概論 Ⅱ.訓練の基本的考え方

●脳性麻痺と機能訓練4:第3章 理学療法の実際 Ⅱ.ストレッチ訓練

●脳性麻痺と機能訓練5:第3章 理学療法の実際 Ⅲ.自発運動誘発訓練

●脳性麻痺と機能訓練6:第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 3.自立坐位獲得機能訓練

●脳性麻痺と機能訓練7:第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 4.四つ這い機能訓練

●脳性麻痺と機能訓練8:第3章 理学療法の実際 Ⅳ.ダイナミック訓練の実際 5.立位・歩行機能訓練

目次は以下の通りですが、8つのブログで取り上げた箇所を青字にしています。

第1章 概論

Ⅰ.求められる機能訓練とは

1.自発運動を中心とするダイナミックな訓練であること

2.愛護的訓練の重要性

3.訓練の本質を簡潔に要約する必要性

4.再現性が高い訓練であること

5.年長児では整形外科との補完の中で

Ⅱ.脳性麻痺の病像

Ⅲ.筋の痙縮(緊張)とは

1.一般的常識

2.実態は

Ⅳ.運動障害の本質

1.人の運動機能

 a.推進機能

 b.抗重力機能の発達

2.脳性麻痺における運動機能の破壊

Ⅴ.脳性麻痺筋緊張の特性

1.痙縮と反射の関係

 a.局所の反射

 b.反射肢位

2.神経学的なとらえ方

 a.異常な反応(各種の反射亢進、姿勢反射)

 b.正しい反応

 c.その他の誘発反応

3.運動学的なとらえ方

 a.人の筋機能の分布

 b.脳性麻痺における多関節筋の過緊張

 c.脳性麻痺における推進性障害と固縮

 d.脳性麻痺における単関節筋の麻痺

 e.多関節筋、単関節筋の概念と訓練への応用

 f.全身性緊張(緊張性反射)の運動学的特性

 g.全身性緊張と訓練

 h.その他の異常姿勢

Ⅵ.麻痺(抗重力障害)

Ⅶ.推進機能障害

1.人が内蔵する推進機能

2.脳性麻痺の推進機能障害

3.交叉推進機能の活性化

第2章 機能訓練概論

Ⅰ.各種訓練法の特徴

1.ルード(Rood)理論

2.ドーマン(Doman)法

3.ボイタ(Vojta)法

4.ボバース(Bobath)アプローチ

5.上田法

Ⅱ.訓練の基本的考え方

1.緊張の抑制と随意性・抗重力性の賦活

2.抵抗は加えない(抵抗を排除し動きやすく)

3.発達に即した訓練を

4.割り座位の採用(割り座を訓練の中心に)

5.3つの自発的坐位獲得訓練

6.交叉推進機能の活性化

7.ストレッチ訓練の活用

8.感覚刺激としての触覚と平衡感覚

9.脳の可塑性は合理的訓練の中で

第3章 理学療法の実際

Ⅰ.理学療法とは

Ⅱ.ストレッチ訓練

1.体内の痙性筋

2.ストレッチ手技の実際

 a.仰臥位ストレッチ訓練

 b.腹臥位ストレッチ訓練

 c.前腕、手のストレッチ

 d.下肢帯(足部)のストレッチ

3.ストレッチ訓練の原則

Ⅲ.自発運動誘発訓練

1.ダイナミック訓練の中心

2.正常発達児と脳性麻痺児の運動発達の差

3.脳性麻痺児特有の運動発達とその評価

 a.頭の回旋と持ち上げ

 b.寝返りの発達

 c.腹這いの発達

 d.坐位の発達

 e.四つ這いの発達

 f.立位・歩行の獲得

Ⅳ.ダイナミック訓練の実際

1.寝返り機能訓練

 a.仰臥位伸長訓練

 b.自発的寝返り機能活性化の実際

 c.寝返り訓練による異常姿勢反射の抑制と立ち直り機能の活性化

2.腹這い機能訓練

 a.対称性腹這い訓練

 b.交叉性腹這い訓練

 c.腹這い訓練による異常姿勢反射の抑制

3.自立坐位獲得機能訓練

 a.坐位と立ち直り機能

 b.坐位を阻害する筋の過緊張と麻痺

 c.自立坐位獲得訓練の実際

 d.基本運動レベルの中での自立坐位獲得機能の位置づけ

 e.自立坐位獲得訓練・四つ這い訓練と異常姿勢反射の抑制

4.四つ這い機能訓練

 a.四つ這い肢位訓練

 b.対称性四つ這い訓練(バニーホッピング)

 c.交叉四つ這い訓練

 d.交叉四つ這いと横坐り(正坐、あぐら坐り、長坐り)訓練

 e.四つ這い移動を阻害する典型的脳性麻痺パターンとその抑制

5.立位・歩行機能訓練

 a.つかまり立ちまで

 b.つかまり立位から杖歩行まで

 c.かがみ肢位歩行

 d.直立二脚歩行

 付.矯正したい不良肢位

Ⅴ.抗重力肢位訓練

1.側臥位保持訓練

2.腹臥位保持訓練

 a.上腕支持訓練

 b.肘つき支持訓練

3.四つ這い肢位訓練

4.坐位訓練

 a.床坐位訓練

 b.椅子坐位訓練

5.立位訓練

 付.立位補助具

第4章 作業療法の実際

Ⅰ.作業療法とは

 a.脊椎動物の機能(摂食と移動)

 b.人における作業機能の発達

 c.作業、上肢作業、その基本として生活能力の活性化を考える作業療法

Ⅱ.脳性麻痺の作業療法での要約的課題

 a.摂食機能の獲得・改善

 b.自力床坐位獲得訓練

 c.車椅子生活自立獲得

Ⅲ.坐位

1.重度児の椅子

 a.坐面

2.自分で漕げる車椅子

3.車椅子乗り降りの自立

Ⅳ.リーチ訓練と巧緻機能訓練

1.リーチ機能とは

2.リーチ機能障害の特徴

 a.上肢過緊張

 b.抗重力筋麻痺

3.リーチ機能の賦活

a.過緊張抑制

b.抗重力性関節周囲筋の賦活

c.手技の実際

4.上肢巧緻機能

 a.ひっかき肢位

 b.手つき支持レベル

 c.つまみ・つかみ機能

 d.離し機能

 e.巧緻機能の活性化

Ⅴ.ADL訓練

1.食事訓練

 a.口腔機能訓練

 b.姿勢保持訓練

 c.上肢機能訓練

2.衣服着脱訓練

 a.姿勢保持訓練

 b.上肢機能訓練

3.トイレット訓練

 a.便器の工夫

 b.トイレット訓練の方法

 c.トイレット・トレーニングの実際

4.車椅子の自立をはかる

第5章 運動機能の活性化と整形外科

1.寝返り機能の活性化

2.腹這い機能の活性化

3.坐位獲得機能の活性化

4.四つ這い機能の活性化

5.立位・歩行機能の活性化

第6章 機能訓練―科学に基づく医学

(再録)脳性麻痺の機能訓練―基本運動訓練の実際と整形外科手術の位置づけ―

第1章 概論

Ⅰ.求められる機能訓練とは

1.自発運動を中心とするダイナミックな訓練であること

●機能訓練として最も求められる点は、自ら参加できるダイナミックな訓練であるという点である。

●坐位を獲得するためにどう緊張を抑えて訓練するか、四つ這い獲得のためにはどう緊張を抑え、分離性の高い動きを出したら良いかなどを分かりやすく示すことが求められる。

ダイナミックな訓練とは、脳性麻痺児が持っている体内の“緊張を抑制し”、緊張のもとに隠されている“随意性が高く、かつ分離性の高い抗重力的な動きを活性化する”ことである。

体の色々な部位にある過緊張を、動きを促す際に抑制し、寝返り、腹這い、坐位獲得、四つ這いといった分離性の高い抗重力的な動きを引き出すという考え方である。このことを具現化するには、体内に散らばって存在する過緊張についてよく知る必要があるし、それを抑えるにはどのような肢位を取ったら良いかについても、十分に知る必要がある。その意味で、筋異常緊張についての勉強が求められる。

●発達レベルに応じた細かいランク付け。

●自発性を尊重した訓練をしようとすれば、まず脳性麻痺児を寝返りできないレベルから正常歩行まで多くの段階に分け、その各々のレベルでの訓練を考える必要がある(表4参照)。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

表4:”正常発達児と脳性麻痺児の運動発達の差”、P76より

 

患児がこの段階のどこに位置するかを評価し、1つあるいは2つ上のレベルを目標とした訓練を実施することによって患児が参加した自発性の高い訓練が可能になる。これらすべてのレベルで、1つ1つ具体的な訓練を考えなければならない。

例えば、腹這いの段階から四つ這いの段階までの間の訓練として、坐位、とくに割り座を入れ、割り座を訓練の中心におく(割り座が悪いという発想を改める)。そして、腹這いから割り座までの訓練を主要なものとして導入する。さらに、割り座から四つ這い肢位への訓練を展開する。

ダイナミックな訓練には、運動学的、筋機能解剖学的に合理的な訓練が求められる。脳性麻痺では、筋、特に抗重力性の高い分離運動に参加する筋の力が弱い、これらの筋が働きやすい肢位を運動学的に見つけ、気持ちよく四肢を抗重力的に動かせるように援助することが重要である。

●神経学的症状・反射はすべて運動学的・解剖学的に分析し、運動学的訓練の理論的根拠を明らかにしている。

①寝返りを阻害する3つの緊張とそれを抑制する具体的手技

②対称性推進の考え方

③交叉腹這い訓練を容易にする一側性交叉推進の考え方

④四つ這いに移るための割り座肢位の活用

⑤坐位を3つの段階に分けるという考え方

⑥四つ這い肢位からよりレベルの高い坐位の獲得

⑦動きの中での緊張性肢位の局所的とらえ方

など。

ダイナミックな訓練の基本は、あくまで患児みずからの力で誘導することであり、訓練する側は患児の力の足りないところを補うだけである。つまり、必要最小限の援助で、自発的な動きを最大限に発揮させることが大切である。訓練士は基本的手技を簡潔にまとめ、楽しい訓練を心掛けることが求められる。

2.愛護的訓練の重要性

機能訓練は徹底して愛護的に進められるべきである。これは泣くことによって起こる動きは、早い動きの緊張状態であり、訓練の効果を否定するものだからである。随意的かつ抗重力的な動きとは、泣くといった不快な状態では引き起こすことはできない、柔らかいゆっくりした動き(単関節)であり、快適な状態で初めて活性化できるものである。

●過緊張を1つの関節で抑えると、随意的な動きがその関節を中心に出やすくなるため、患児は心地よく動きはじめ、楽しみをもって訓練に参画する。

●人は誰でもスポーツをしたい、体を動かしたいという欲求をもっている。麻痺の子どもでも、少しは動く力が残されている。しかし、重力と異常な過緊張によって動くことができない。この子どもらにとっては、周囲の人がこの筋緊張の大半を抑えてくれることにより、残りの力で体を動かすことができるのである。そして、それが何よりの喜びとなるのである。

●訓練は、あくまで機能の改善を期待して行うものである。しかし、たとえ改善がなくても、スポーツとして運動をさせることの意義は大きい。

3.訓練の本質を簡潔に要約する必要性

脳性麻痺の病像は多様であり、一人ひとりの個性をもった患者を治療するため、訓練のあり方も、遊びを中心とした穏やかなものから、積極的な訓練色の強いものまである。また、当然手技そのものも多様なものが準備されている。これまで報告された治療手技も、PNF、ルード(Rood)、ボバース(Bobath)、ドーマン(Domain)、ボイタ(Vojta)、上田など、各種の方法がある。訓練士、看護師、保育士、教師、保護者は、それぞれの置かれた立場によって、色々な運動面のアプローチをすることとなるし、そのことを大事にしなくてはならない。

●訓練が科学として本質的に求められているのは、この混沌の中で何を基本的に観察し、どのように無理な力を入れない穏やかな、しかもダイナミズムにあふれた訓練を育てるかといった訓練の基本的な考え方をまとめ、公開の場で明らかにすることである。

注)“この混沌”とは次のようなことです。

『訓練の世界はまだその知見が整理させず、不用な知見と有用な知見が氾濫しており、どの理論も正しいことをいっているとしても、不用不急な知見の羅列も多い。本質的に、どのレベルではどこをどのように訓練したらよいのかが、まだわかりやすく要約されていない。このため、保育士、保護者、教師など、誰もがどこでもできる訓練の方法が示されず、特定の療法士間だけの閉鎖的な空間の中で訓練が語られるという事態がみられたりする。科学的であるための必要条件としての再現性に欠けるのである。このため、より合理的な訓練のあり方が公の場で語られることなく、訓練で患児が泣き叫ぶといった事態が発生したりする。』

●訓練の基本を知ることによって、遊び方、訓練の方法はより効果的かつ愛護的になりうるし、他の訓練法との比較のうえで、より合理的な部分を選択することも可能になる。このことによって、初めて保育士や保護者や教師といった患児に接触する人たちが、子どもたちの訓練に参画できることになる。

●本書では訓練の本質を“選択的緊張抑制と随意性、抗重力性の賦活”と要約し、多様な運動障害への応用をはかろうとしている。また、他の訓練法が合理的である限り、両立が可能である。

4.再現性が高い訓練であること

●科学としての訓練はどこで行っても効果があるはずである。家で行う、学校で行う、保育の中で行う、といったもので、訓練室だけのものであってはいけない。日々の生活の中の楽しい運動誘発の取組でなければ、科学として認知されにくい。

●最も本質的なこととして、同じ訓練手技が、生まれてしばらくした乳児でも、幼稚園児でも、学童児でも、学校を卒業した成人でも、高齢者でもまったく同様に行えるということがあげられる。同じ訓練が、どんな症状の軽い人にも、また症状の重い人にも、基本的には同様な考え方で行われえるのかどうか、という問いつめが求められよう。“この訓練は学童期や成人には効果がなく、子どもだけにしか効果がない”というのでは、科学にはならない。学校の教師らが養護学校での訓練にさいし、理学療法、作業療法による訓練を諦め、心理リハビリテーションによる養護訓練に走ったのは、医療サイドが、乳幼児にも学童児にも同じように行われえる訓練を追求し、またそのような訓練を学校の教師に指導する努力を怠ったことに、その原因の一端があることは否定できないであろう。

注)心理リハビリテーションとは

『心理リハビリテーションとは、成瀬(九州大学名誉教授)と彼の共同研究者たちが開発した、動作課題を通じて動作不自由の改善と心身の活性化を目的とした、わが国独自に開発された心理臨床の一連の技法と理論をいう(成瀬、1995)』

沖縄県における心理リハビリテーションの展開”より引用。クリック頂くとPDF22枚の資料がダウンロードされます。

5.年長児では整形外科との補完の中で

●訓練を通じて、徐々に、段階的に機能を伸ばしていくことが最善である。

●股関節脱臼の予防訓練、側弯矯正と呼吸訓練、ADL(activities of daily living,日常生活動作)訓練に必要な回旋訓練など、これまでの整形外科や機能訓練の知見をもとに体系化し、乳児期に必要な多彩な訓練体系を実現することが大切である。

●脳性麻痺にみられる過緊張は、本質的には保存的治療である機能訓練ではどんなテクニックを用いても除かれえず、加齢とともに関節や筋・腱の変形性や老齢化を早めることになる。いたずらに過緊張を訓練で抑えるという発想を年長児の治療に持ち込むことなく、整形外科領域の知見で過緊張を除き、機能訓練で随意性、抗重力性をより容易に引き出すという考え方(図8参照)が、もっとも今日的かつ合理的な治療といえるであろう。

注)一つ注意したいと思うのは、改定第2版の発行は2002年、約17年前です(初版は1995年)。そのため、手術の位置づけなども変わってきているかも知れません。

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

図8:”脳性麻痺における過剰な伸張反射と相反神経支配の破壊”、P31より

●ダイナミズムをもった能動的訓練は、脳性麻痺の特性や人の運動の特徴を十分に理解したうえで初めて可能になる。

注)「整形外科領域の知見で過緊張を除き」とは

本書のⅡ脳性麻痺の病像、の中にある表1は以下の通りです。 

画像出典:「脳性麻痺と機能訓練」

表1:”脳性麻痺の病像”、p11より

この表の“整形外科”の項目には“選択的緊張筋解離術”という記載があります。「これは何だろう?」と思い検索したところ、『東京都 南多摩保健医療圏 地域リハビリテーション支援センター』というサイトに、著者である松尾隆先生の南多摩整形外科病院(2017年12月より「まちだ丘の上病院」と病院名が変更、松尾先生は2017年11月に退任されていました)の理学療法士の方達の資料を見つけました。

痙性麻痺患者における選択的筋解離術の効果と展望 ~痙性治療に特化した病院の役割と地域の連携~”(PDF1枚)

小児の理学療法3

前回の “小児の理学療法2”で注目したのは“脳性麻痺”を詳しく知ることでした。これは良い施術を提供するための大前提と考えるためです。そして最後となる今回は第6章の運動療法を取り上げました。

著者:河村光俊

出版:医歯薬出版

初版発行:2002年6月

目次は”小児の理学療法1”を参照ください。

運動療法を学ぶうえで、我々に求められる具体的な施術(マッサージや鍼治療[刺さない鍼や円皮鍼を含む])がどのようなものになるのか、できる限り事前に想定しておいた方が望ましいと思い、あらためて第5章の脳性麻痺に戻って、洗い出した内容を整理整頓し見直すことにしました。

内容はブログ“小児の理学療法2”を書き写したものです。

細字と太字の区別がほとんどつきませんね。

狙いは脳性麻痺の種類別に整理したという点です。黒字には問題点青字には対策課題赤字には脱臼の原因が書かれています。太字は重要と思った部分であり、さらに“痙性”と“分離運動”を斜め文字にしたのは、これらが施術の柱になるのではないかと考えるためです。

続いて、この表のそれぞれの太字を全体的視点で眺め、抽出したポイントが以下になります。このポイントを頭に入れて第6章に進みます。

いずれも難題ばかりですが、何とか全体的なイメージにまとめることができました。

上の図の中で補足したいのは、ほぼ中央に書かれた”大腿筋膜張筋”です。

これは第5章 脳性麻痺ー2.痙直型両麻痺ー16)股関節脱臼 に書かれていたもので文章は次の通りです。

股関節の内転・内旋変形は同時に起きる。この変形の責任筋は大腿筋膜張筋と考えられている。』なお、これに次の文章が続いています。『また内転では長内転筋と薄筋の痙性が要因と考えられている。

大腿筋膜張筋に血液がしっかり流れ込み、筋肉が良い状態(軟らかい)になり、細い筋線維が適切なトレーニング等で太く、力強く成長させることができれば股関節脱臼のリスクは減らせるのかも知れません。

ところで、私は今まであまり大腿筋膜張筋を注目したことがありませんでした。そこで今回、その大腿筋膜張筋に焦点を当てたいと思います。

左のページは『運動療法のための 機能解剖学 触診技術』のものですが、特に注目したい3点は以下の通りです。

 

大腿筋膜張筋は腸脛靭帯の緊張度を調節し、間接的に膝関節の安定化に関与する。

●大腿筋膜張筋は中殿筋、小殿筋とともに、片脚起立時の骨盤の安定化に関与している。

●思春期脊髄分離症を発症する9割以上のケースに、腸腰筋、大腿筋膜張筋をはじめとする股関節屈筋群の拘縮が認められる。

 


次に大腿筋膜張筋と周辺の筋肉とのつながりについて確認してみます。以下の二つの画像はいずれも『改訂版第2版 骨格筋と触察法』から拝借しました。右側の図では左端中央付近に大腿筋膜張筋が出ています。これを拝見すると大腿筋膜張筋+腸脛靭帯の重要性が理解できます。


左の図は『病気がみえる vol.11 運動器・整形外科』から拝借したものです。

大腿筋膜張筋は中殿筋とともに、下肢の外転に大きく関与していることが分かります。

なお、『小児の理学療法』の中には次のような記述があります。「痙性分布には必ず左右差がある。体幹深部筋の痙性分布の非対称性により、肩甲帯と骨盤帯の位置異常が発生しやすくなる。また、体幹の表在筋、とくに内転筋と内旋筋の痙性分布により、四肢の外転運動が制限されてしまう。

第6章の目次は以下の通りです。今回はすべて網羅しています。

第6章 運動療法

1.頭のコントロールのための運動療法

1)背臥位での頭の回旋

2)腹臥位での頭の回旋

3)腹臥位での頭の挙上

4)背臥位からの頭の屈曲

5)頭の固定性を高める準備としての圧迫手技

2.上肢の挙上運動とリーチの準備

3.上肢の支持性

4.脊柱の側屈可動性の準備

5.脊柱の伸展可動性の準備

6.パラシュー反応の誘発

1)パラシュート反応誘発のための準備

2)パラシュート反応の誘発

7.減捻性立ち直り反応を応用した運動の誘発

1)体に働く頸の立ち直り反応

2)体に働く体の立ち直り反応

3)抗重力方向への体に働く体の立ち直り反応

第6章 運動療法

1.頭のコントロールのための運動療法

●未熟者の頭は前後径が長く横径が狭いため、どちらか一方を向いており頭の回旋がうまくできない。

画像出典:「小児の理学療法」

また、水頭症の子どもでは体の大きさに比較して頭部が大きいため、頭を動かすことが困難となる。脳性麻痺児も同様に中枢神経系障害のため、頭部をコントロールすることが困難である。頭のコントロールの獲得はこれからの運動発達の出発点でもあり、非常に重要な役割をもっている。そのため、頭のコントロールを促すように運動療法を計画しなければならない。ここでは基本的な頭のコントロールの刺激の方法を示す。

1)背臥位での頭の回旋

●頭の回旋を刺激する方法として、視覚、聴覚、触角を刺激し、できるだけ自発的な運動を引き出す。

●視覚刺激では明るい赤や黄色などの原色の玩具を乳児の目の位置から20~30cmの位置でまず見せるようにする。乳児が玩具を見ていると確信できた段階でゆっくりと玩具を動かし、乳児が目を動かしてくるかどうか確認しながら頭の回旋を刺激する。

 

画像出典:「小児の理学療法」

●聴覚刺激は耳の高さを中心に直径15cmの円内で行う。乳児が驚くようであれば音を優しいものに変えていく。

●触覚刺激で代表的なものは探索反応で、この反応は乳児が空腹のときに出現しやすく、満腹時には出にくくなる。なお、探索反応を誘発刺激として使用できるのは、未熟児、乳児に限定される。

体幹を側屈させることで頭の回旋を促す方法は、自発的な頭の回旋をなかなか見せてくれない乳児や脳性麻痺児に適している。セラピストは骨盤を持ち頭が回旋している側に骨盤を挙上し、ゆっくりと体幹を側屈させていく。

画像出典:「小児の理学療法」

●背臥位で後頭側の肩を床の方向に押し下げる。同時に後頭側の上肢を外転位にし、腕を引き出して刺激する。この方法は注意しないと自発的な頭の回旋ではなく、刺激の反動で頭を他動的に回してしまうだけになるため、最初はゆっくりと刺激を加え、子どもの反応をみながら段階的に刺激を強めていくことが大切である。

画像出典:「小児の理学療法」

2)腹臥位での頭の回旋

●子どもを腹臥位に置き、顔面側の上肢を屈曲し体側に沿わせ、手が乳児の口の周辺に位置するようにする。後頭側の上肢は伸展させ、体側に沿わせる。次に後頭側の肩を床から持ち上げ、顔面側の上肢の前腕に体重が移るように操作する。このとき、子どもの鼻が床に押しつけられるような位置になるが、そのまま子どもが反応するのを待つ。これは体に加えられた非対称的な圧分布が頭を正しく立ち直らせる「頭に働く体の立ち直り反応」を刺激している。

画像出典:「小児の理学療法」

3)腹臥位での頭の挙上

●子どもを腹臥位に置き、肘付き腹臥位をとらせる。続いて、両肩を広げるように下から上に向かって肩を押す。そして、ほぼ同時に広げるように下から上に向かって肩の固定性を高める目的で肘の方向に押しつける。この一連の動作を素早く繰り返し、頭の挙上を促す。子どもが頭を持ち上げてきたら刺激の間隔を広げていく。

画像出典:「小児の理学療法」

●子どもを腹臥位に置き、まず両腕を子どもの顎をすくうようにセットする。次に、子どもの頭を上方に押し上げるように両腕を動かす。このとき、頭の挙上だけではなく、脊柱の抗重力伸展も同時に促す。

画像出典:「小児の理学療法」

●子どもを腹臥位に置き、まず両上肢をまず挙上する。次に、上肢の中枢部を持ち、肩を外旋させながら、床から持ち上げ脊柱の伸展を促す。同様のことを肘や手から操作して頭の挙上を促す。脊柱の抗重力伸展が適切に促されると両下肢の外転が生じる。

画像出典:「小児の理学療法」

4)背臥位からの頭の屈曲

●子どもを背臥位に置き、両腕の前で肩を内転させる。次に、子どもを下肢の方向に両腕を内転・内旋させながら引き起こしていく。逆に子どもを座位にセットした後、徐々に背臥位へ近づけていき、頭の屈曲を保たせる。

画像出典:「小児の理学療法」

5)頭の固定性を高める準備としての圧迫手技

●子どもを腹臥位に置き、頭と骨盤を両腕で挟み込む。そして、両手で同時に体を圧縮するように軽く繰り返す。この手法は子どもの全身が低緊張のときに使えることがある。

画像出典:「小児の理学療法」

2.上肢の挙上運動とリーチの準備

●上肢の自発運動が少なかったり、運動がみられない場合、自発的な上肢の運動を誘発する必要がある。このような場合、台乗せ反応を利用することができる。とくに固有感覚性の台乗せを刺激することで上肢の運動を引き出すことができる。子どもの上肢を体側に沿わせ、手背を床に向ける。次に、手掌部から床方向に圧迫を加え、手背に固有感覚刺激を入れていく。このとき、子どもは刺激に応じて上肢を体側から上方に挙上しようとして肩を床から持ち上げ、挙上運動を開始する。この挙上運動にセラピストはついていき、挙上に伴い、手関節が背屈するまで待つ。

画像出典:「小児の理学療法」

3.上肢の支持性

●上肢の支持性が未熟な子どもをただ腹臥位に置くだけでは、上肢の支持性は改善してこない。このような場合には、子どもが頭を挙上しやすくするために、胸の下にバスタオルなどを丸めたものを入れてやり、胸部を床から離すようにする。このような姿勢を5分から20分間保てるようにする。子どもの手元に好きな玩具を置いたり、好きなテレビ番組をこの姿勢で見せるのも良い。

画像出典:「小児の理学療法」

●on elbowsはとれるがon handsまでの姿勢になれない子どもには、上肢伸展支持を促す刺激をつかう。子どもの両肩を保持し、斜め後方へ体を引き上げる。子どもが反応しない場合は保持しているセラピストの手で体を上下させて、子どもの上肢伸展を促す。子どもが反応を示したら、セラピストの介助を減らす。

画像出典:「小児の理学療法」

4.脊柱の側屈可動性の準備

●重症な脳障害をもつ乳児は早い段階から体幹の可動性の乏しさを示す。乳児の体幹は硬く、体幹の側屈、伸展、屈曲に強い抵抗を示すことがある。このような場合、他動的ではあるが乳児の体幹に側屈の可動性を体重移動と組み合わせて行うことで、体幹の柔軟性を得ることができる。

5.脊柱の伸展可動性の準備

●上肢の支持性には脊柱の重力に抗した伸展が不可欠である。しかし、痙直型両麻痺、片麻痺、四肢麻痺の体幹部の痙性により十分な伸展活動が行えない症例が存在する。そのような症例に対して、事前に脊柱の伸展の可動性を引き出しておく必要がある。

①子どもをバルーン上に背臥位でのせる。セラピストの両手を子どもの脊柱の両側に位置させる。次に、上部脊柱から順に骨盤に向かってバルーンを振動させ、脊柱全体にわたって伸展可動性を高める。十分に脊柱が伸展し、体幹に分布する屈筋痙性が減少してくると、子どもの上肢がリラックスして重力方向に挙上位をとるようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

②子どもが年少の場合にはセラピストの膝の上でバルーンと同様に脊柱の伸展を引き出すことができる。セラピストは両手で子どもの骨盤をしっかり保持し、両膝を脊柱の両側に位置させる。次に膝を軽く上下させ脊柱に振動を与える。そして、少しずつ子どもを下降させていき、脊柱全体にわたって伸展性を引き出していく。

画像出典:「小児の理学療法」

③子どもを腹臥位に置き、顔面側の肩を床から持ち上げ、反対側から脊柱を軽く圧迫する。肩を床から持ち上げ、脊柱を固定すると、体幹の回旋と伸展が引き出される。脊柱の固定点を徐々に骨盤に向かって移動させ、脊柱全体にわたる伸展と回旋の可動性を引き出す。

画像出典:「小児の理学療法」

子どもをセラピストの両大腿部にまたがらせる。次に、両脇で上半身を抱え込み、一方の手は骨盤に当てる。そして子どもの体幹を伸展し回旋させる。このとき、骨盤に当てた手で股関節を十分に伸展させる。この手技で股関節外転制限の緩和をはかることが同時にできる。

画像出典:「小児の理学療法」

6.パラシュー反応の誘発

●上肢にある程度支持性がつき、そして、保護伸展反応に不可欠な脊柱の抗重力伸展もある程度準備できたら上肢の保護伸展反応であるパラシュート反応を誘発していく。

1)パラシュート反応誘発のための準備

①子どもを膝立ち位に置き、子どもの両手をセラピストの手で受ける。次にゆっくりと前方にセラピストの手を引き下ろしていく。ある時点で子どもの体重がセラピストの手に重くかかり始めるポイントがある。そのポイントで少しの範囲で素早く引き下ろし、そしてただちに押し返す。これを繰り返していくと子どもは上肢をしっかりと伸展・支持してくるようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

2)パラシュート反応の誘発

●子どもをバルーン上に腹臥位で乗せて、前方にいろいろなスピードで押し出す。うまく手を出して支えることができるようになってきたら、できるだけ遠くに接地する。注意深く行い、頭部を叩打しそうな場合には素早く引き戻す。同様の方法で大きめのローラーを使ってパラシュート反応を誘発することもできる。

画像出典:「小児の理学療法」

●子どもを端座位にし、セラピストは子どもの両下肢を外転させて、子どもの前に位置する。次に子どもの両手を交差させて保持し、次にセラピストの左手を離し、右手で子どもを側方に素早く誘導する。セラピストの離した左手はすぐに子どもの腹部を支持するようにする。子どもの手の着く位置を側方から徐々に後ろへと変化させていく。後方になればなるほど、子どもに体軸内回旋が要求される。

画像出典:「小児の理学療法」

7.減捻性立ち直り反応を応用した運動の誘発

●人間の体の分節は3つあり、その一部に捻じれが加えられた場合には、その他の分節を使って元の正しい位置関係(アライメント)に戻そうとする減捻性の立ち直り反応が存在する。脳障害による発達障害児ではこの減捻性の立ち直り反応は潜在的にもっていても、自発的な首の運動が他の分節の捻じれをつくりだし、他の分節の反応が出現するまでに時間がかかる。このように反応の出現するまでに時間がかかるような現象を潜時が長いと表現する。同一の刺激部位で時間をかけて刺激することを時間加重とよび、複数の刺激部位を同時に刺激することを空間加重とよぶことがある。

1)体に働く頸の立ち直り反応

後頭部を保持する。そして一方に頸部をゆっくり回旋していく。回旋していくとある点でゆるやかな抵抗を触診することができる。そのポイントからさらに回旋を続けると、これ以上回旋できない所に到達する。その最終ポイントで頸部を保持して頭部以外の分節が出現するまで待つ。減捻性の反応が出現し胸郭、骨盤の回旋が出現し始めたら、それに合わせて頸部の回旋を続けていく。その結果、児は腹臥位にまで姿勢を変換していく。

画像出典:「小児の理学療法」

 

2)体に働く体の立ち直り反応

●胸郭部と骨盤部の捻じれを骨盤部からつくり、胸郭部が捻じれを打ち消すように骨盤部と同じ方向に回転を起こす。胸郭部の回転が頭部の回旋を誘導し、迷路性立ち直り反応や視性立ち直り反応、頭に働く体の立ち直り反応が動員されて頭を床から持ち上げてくる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

体に働く体の立ち直り反応は体幹の一部に加わる捻じれを元に戻そうとする反応で、体幹を対称的な位置に保つように働く。減捻性反射ともよばれ、生後4カ月から出現すると考えらええている。動作の連続性の面から乳児の観察をすると、背臥位から立位に至るまで、動作中に多くの体に働く体の立ち直り反応が観察される。

画像出典:「小児の理学療法」

 3)抗重力方向への体に働く体の立ち直り反応

●体に働く体の立ち直り反応単独で起き上がりが可能になるわけではなく、視性立ち直り反応、迷路性立ち直り反応、手指の把握機能などが協調してはじめて可能となる動作である。起き上がり動作中に出現する体幹の減捻性の回旋運動は発達とともに減少していくが、初期の段階では大きな回旋運動を伴う。この回旋運動の反応速度は運動発達と密接に関係しており、反応速度は運動発達の変化を強く反映している。

 付記:下肢の痙性・分離運動

“脳性麻痺”を表形式で整理整頓し、続いて運動療法を勉強していったのですが、下肢の痙性や分離運動という問題に対し、これらに特化した運動療法はないらしいということが分かりました。

硬くなった筋肉をマッサージや鍼で緩めることは可能ですが、根本対策は別にあるように思います。そのヒントは過去ブログの“動作法(姿勢の不思議)”と“アナット・バニエル・メソッド2(症例)”の中に隠れていそうです。注目すべきキーワードは“自己弛緩”と“脳の可塑性”です。

以下に過去ブログの内容の一部をご紹介します。そして、その詳細検討は今後の宿題とさせて頂きます。

著者:成瀬悟策

発行:講談社

発行:1998年7月

まえがき

『脳性マヒで動かないはずの腕が、催眠中に挙がったという事実に直面したのがことの始まりで、それ以来30年を経て今もなお、人の「動作」というもののおもしろさに取りつかれっぱなしの状態です。

脳性マヒによるからだの強烈な緊張を、脳・神経系から筋・骨格系への生理過程によって弛めるという当初の考えは、現実には役に立ちませんでした。そのからだの持ち主の心理的な活動によって自らのからだを弛めることで、初めて治療効果が上がり始めたのです。自己弛緩さえできるようになればと努めるうちに10年ほどが過ぎました。そして、自己弛緩だけでは不充分で、自らの意図どおりにからだを動かす要領を身につけることが必要とわかり、そのための訓練を続けるうち、また10年がすぎていきました。

それからの後の10年でさらにわかったのは、重力にそってからだを大地上にタテに立てることが必要であることでした。それは、からだを立てるための心棒、すなわち体軸をまっすぐに立てて自然に無理のない姿勢がとれるということです。そしてその状態から体軸のどの部位でもそれを柔軟に屈げたり伸ばしたり、反らしたり捻ったりしながら、上体部、手腕、脚足を前後左右に使いこなせるようになることが課題となりました。

著者:アナット・バニエル

発行:太郎次郎社エディタス

発行:2018年8月

ボールのように硬く丸まってしまうリリー

『リリーと初めて会ったのは、彼女が三歳のときです。たいへん未熟な状態で生まれ、重度の脳性まひを負っていたリリーは身体が小さく、一歳といっても通用するほどでした。彼女が母親や妹とやりとりする様子は乳児のようで、のちに母親から聞いたところでは、生後五か月ていどの発達段階だと判定されたということでした。

リリーは筋肉の緊張が激しく、つねに肘をきつく折り曲げ、握りこぶしをつくっていました。両脚は膝が少し曲がった状態で交差しています。腹筋がつねに収縮しているために背が曲がり、自分の体重を支えることができません。自発的な動きがなく、寝返りを打つことも、うつぶせでいることもできません。うつぶせにすると身体を丸め、苦しそうにします。座らせるとたいへんな力を出してなんとか座るものの、背中はすっかり丸まり、数秒すると転がってしまいます。腕や手を使うことはできません。声は小さく不明瞭で、何を言っているか理解するのは困難でした。

しかし、そのような状態でも、私にはリリーがしっかり目覚めて神経を研ぎ澄ましていることがわかりました。大きな茶色の目で、興味深そうに周囲の様子を追っていたからです。

リリーを仰向けにレッスン台に寝かせましたが、その姿勢でも筋肉は収縮したままで、両脚は曲がり、台からやや浮いています。肘は折れ曲がってぴったり身体に引き寄せられ、腹筋も硬いままです。脳が、どのように力をぬけばよいのかをわからないのです。

左脚をやさしく持ち上げ、できる限り小さく動かそうとした瞬間、収縮していた筋肉がさらに強く縮み、リリーはボールのように丸まりました。私は手を止め、彼女が落ち着くのを待ちました。つぎに骨盤を、やはりできるかぎり小さく、とてもゆっくり動かそうとしましたが、今度も強く筋肉が縮みました。速度を思いきり落として、安心できるように話しかけながら、とても小さく、わずかに動かしてみても、筋肉は硬くなりました。私が動かそうとするたびに、彼女の脳は、身体をボールのように丸めるという未分化で強力な初期の動きのパターンに乗っとられるかのようでした。

十分ほどそのようにしていると、ある考えがひらめきました。ボールのように身体を丸めるのは脳性まひの影響だけでなく、学習したパターンだからではないか、と思ったのです。リリーはどう見ても動きたがっていました。彼女は彼女なりの方法で動こうとしているのに違いはありません。

リリーは二年近く、うつぶせにされ、座らされるという訓練を受けていました。訓練では握りこぶしを開かせようとしたり、立たせようとすることさえあったそうです。そのようなとき唯一リリーの脳にできたことは、強く収縮することで、そのため身体は丸まりました。自分から動こうとするとき、また、自分を動かそうとするあらゆる働きかけに対し、彼女の脳は、収縮するというパターンを結びつけることを学習したはずです。

小児の理学療法2

前回の “小児の理学療法1”で注目したのは、“セラピスト(理学療法士)に求められていることを知る”、そして“小児障害児の運動特性と関節・筋肉”の二つでした。今回は第5章の脳性麻痺を取り上げましたが、これは脳性麻痺を詳しく知ることが良い施術の大前提と考えるためです。

覚えておきたいことが多く、太字青字がやたら多くなってしまいました。太字は主に問題点、青字は主に対策や課題、なお、赤字が4箇所ありますが、これは脱臼の原因について書かれた部分になります。

※メモ:2017年1月にアップしたブログに“脳性麻痺 vs 脳性マヒ”があります。以降、“麻痺”という漢字は使わないようにしています。しかし、優先すべきは引用させて頂いた本の表記になりますので、今回のブログの中でも“麻痺”という漢字を使っています。なお、なぜ漢字ではなく“マヒ(まひ)”を使った方が良いのかについては、臨床動作法を創始された成瀬悟策先生の書『姿勢のふしぎ』の中の一文にあります。

『脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。

著者:河村光俊

出版:医歯薬出版

初版発行:2002年6月

全ての目次については、”小児の理学療法1”を参照ください。

第5章の目次は以下の通りですが、うすいグレーの項目については触れていません。

第5章 脳性麻痺

1.痙直型四肢麻痺

1)痙性の分布

2)関節への体重負荷、自発運動の意義

2.痙直型両麻痺

1)臨床像

2)痙直型両麻痺の病因

3)両麻痺の痙性分布

4)両麻痺の発達の特徴

5)両麻痺の頭のコントロール

6)両麻痺のキッキング

7)両麻痺の寝返り

8)両麻痺のハイハイ

9)両麻痺の起き上がり動作

10)痙直型両麻痺の割り座に対するアプローチ

11)両麻痺の移動

12)両麻痺のつかまり立ち

13)両麻痺の立位姿勢

14)両麻痺の認知障害

15)つま先歩きをする子どもたち

16)股関節脱臼

3.痙直型片麻痺

1)初期症状

2)片麻痺の発達の特徴

(1)片麻痺の正中位指向の特徴

(2)片麻痺の寝返りの特徴

(3)片麻痺のハイハイの特徴

(4)片麻痺の四つ這い

(5)片麻痺の座位

(6)片麻痺のずり這い

(7)片麻痺の起立

(8)片麻痺の歩行

(9)片麻痺の健側手

(10)患側の手の活動と代償運動

(11)片麻痺の尖足

(12)片麻痺の連合反応

(13)正常な連合運動

3)アテトーゼ型片麻痺

4)後天性片麻痺

5)片麻痺の問題行動

6)片麻痺の治療

4.アテトーゼ型脳性麻痺

1)アテトーゼ型脳性麻痺に共有する特徴

2)アテトーゼ型脳性麻痺の分類

3)アテトーゼ型脳性麻痺の治療

5.弛緩型麻痺

1)脳性麻痺の初期症状としての弛緩

2)姿勢および反応

3)アテトーゼへの移行(移行期のサイン)

4)弛緩児の治療

第5章 脳性麻痺

1.痙直型四肢麻痺

●四肢麻痺の多くは重度で、いくつかの障害を重複していることが多い。

1)痙性の分布

四肢のみならず、中枢部である体幹に硬さをもっている。

●変形や拘縮が多く発生するタイプである。

四肢麻痺の多くが他動的な体幹の側屈や屈伸、回旋運動に対して強い抵抗を示すことが多い。

●四肢麻痺に限らず、他のタイプにもいえることであるが、他動的な操作に対して抵抗を示す部位は児の自発運動が極端に低下している部位でもある。

●頸のコントロールも獲得していない児も多く、彼らは背臥位でどちらか優位に一方へ頭を回旋させている。そのため、頭部の非対称性に由来する体幹、四肢の非対称的な筋緊張分布を呈する。

頸筋には多くの固有感覚受容器である筋紡錘が分布しており、頭部の動きが全身の運動性を引き出すことを考えれば、彼らの頭部の運動性の低下は全身の運動性の低下に強く関連している。

●体幹において過剰な表在筋の痙性とは反対に深部の中枢筋の活動低下を腹臥位においたときに明らかに区別することができる。

深部筋の活動低下は3つの分節である頭部と胸郭部と骨盤部が機能的な連結を完成させていないことを示している。

頭部、胸郭部、骨盤部を連結する姿勢反応は3つある。①頭に働く身体の立ち直り反応、②身体に働く頸の立ち直り反応、③身体に働く身体の立ち直り反応(胸郭部から骨盤部へ、骨盤部から胸郭部への相互方向)。これらの基本的性質は外的に生体へ捻れが加えられたときに、捻れをつくりだすことによって捻れを打ち消し中間位へ戻るものである(減捻性立ち直り反応)。

減捻性立ち直り反応を治療に応用し、重症児の姿勢アライメントを改善することが可能であり、また、自発的な運動による姿勢アライメントの修正であるため、効果を持続することが可能となる。

※左は「頸の立ち直り反応」、右は「体の立ち直り反応」、いずれも減捻性立ち直り反応になります。


脊柱起立筋と腹筋は胸郭部と骨盤部を連結する役割をもっており、正常では身体に働く身体の立ち直り反応の成熟に伴い、寝返り運動を可能にし、さらに重力に抗して体幹を垂直位へと起こし、座位への起き上がり、起立を可能にしていく。

●正常な人は背臥位では抗重力活動により頭をまっすぐに正中位で保持できる。一方、重症児では頭は球形で転がりやすいため、頭は必ず一方に回旋する。この状態が続くと下肢の一側のより外旋、反対側の内旋、上肢の一側のより外旋と反対側の内旋が生じている。

2)関節への体重負荷、自発運動の意義

●体重負荷をしないで、さらに自発運動が制限された関節では、結合組織の基本成分である蛋白多糖類が減少することが知られている。結合組織の強化には自発運動、体重負荷刺激を行う。

2.痙直型両麻痺

1)臨床像

●軽度痙直型両麻痺では、起立直後に静止することが困難で、すぐに前方へ突進するように歩く、体幹は前傾し、股関節が屈曲・内旋し、膝関節は屈曲し踵を接地できず尖足位で歩行する。このような症例ではいかに体幹を直立位にし、股関節、膝関節の伸展を獲得するかが課題となる。

2)痙直型両麻痺の病因

●痙直型両麻痺の主要な原因は脳室周囲白質軟化症(PVL)である。軽度であれば両麻痺だが、PVLの領域が拡大して上肢や顔を支配する錐体路まで障害されてしまうと四肢麻痺になる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

3)両麻痺の痙性分布

●両麻痺では痙性が主に骨盤帯と下肢に分布するが、体幹および上肢にも軽度の痙性分布を示す。そのため、上肢機能にも問題を持つことが多い。

画像出典:「小児の理学療法」

●痙性分布には必ず左右差がある。体幹深部筋の痙性分布の非対称性により、肩甲帯と骨盤帯の位置(アライメント)異常が発生しやすくなる。また、体幹の表在筋、とくに内転筋と内旋筋の痙性分布により、四肢の外転運動が制限されてしまう。

4)両麻痺の発達の特徴

●新生児では両麻痺の症状は目立たない。しかし、よく観察すると下肢の運動が少なく、また下肢の分離運動がほとんど見られなかったり、膝窩角が拡大することがある。

下肢の分離運動を確認する方法は、両麻痺の場合、膝を伸展位に保持すると足部の背屈運動がしにくくなる。

6)両麻痺のキッキング

●両麻痺の下肢のキッキングは一般的に少なく、新生児期では外転・外旋位をとり、不活発である。しかし、頭のコントロールや上肢の活動が増加してくる生後3~5カ月にかけて、連合反応により下肢の潜在的な痙性が出現してくる。この時期に母親は赤ちゃんのおむつ交換のときに、自分の子どもの下肢が開きにくくなっていることに気がつく。ひと昔前ではこのような症状に気がついて受診しても股関節脱臼を疑われ、X線写真の結果異常がないと、様子をみましょうといわれることが多かった時期がある。しかし、今では新生児期にすでに脳室内出血やPVLを発見されることが多く、赤ちゃんの下肢に問題が現れることを事前に伝えられるようになってきた。

下肢の運動が少ないと股関節が刺激を受けず、臼蓋形成不全が生じる。さらに股関節で体重負荷を経験しないと股関節形成不全が強まる。その結果、大腿骨頭の受け皿でもある臼蓋が浅くなり、下肢の痙性による内転・内旋で股関節は亜脱臼となり、さらに脱臼へと徐々に進行していく結果となる。

両麻痺のキッキングの特徴は定型的な伸展パターンと屈曲パターンを繰り返すことである。つまり下肢を屈曲するときには必ず股関節屈曲・外転・外旋/膝関節屈曲/足関節背屈をし、下肢を伸展するときは必ず股関節伸展・内転・内旋/膝関節伸展/足関節底屈をしてくる。

画像出典:「小児の理学療法」

また、左右差が必ず存在し、より軽度な下肢のキッキングが多くなる。その結果、より患側の下肢は健側の下肢のキッキングによって股関節の内転・内旋を強めてくる。その結果、より健側のキッキングは患側の股関節の亜脱臼や脱臼を生じる要因となる。

画像出典:「小児の理学療法」

7)両麻痺の寝返り

背臥位から側臥位になろうとするときは、頸部を強く屈曲し、上肢を前方屈曲し、体幹の屈曲を強めながら姿勢を変えようとする。それと同時に連合反応により両下肢は内転・内旋を強める。

腹臥位から背臥位には頸部の過剰な伸展と回旋により姿勢を変えようとする。

8)両麻痺のハイハイ

正常児と異なり、ハイハイを始める前にみられるピボット運動は通常みられない。これはピボット運動に必要な体幹の伸展と回旋を発達させていないためである。また、ピボットに必要な下肢の外転運動も痙性により阻止されてしまう。

正常児でみられるハイハイの上下肢の交互性も一般的にはみられない。

9)両麻痺の起き上がり動作

両麻痺では体軸内回旋を伴った床からの起き上がりができず、対称的な動作で割り座になる。

●割り座は両麻痺が両手を自由に使用できる唯一の座り方である。一度、割り座を覚えてしまうと、他の座り方を自分からはしなくなる。他の座位姿勢に置くと両手を床から離すことができず、両手活動ができなくなる。

画像出典:「小児の理学療法」

両麻痺を長座位に置くと、骨盤は後傾し、仙骨部で体重を受け、脊柱を伸展することができない。

長座位ではハムストリングスが痙性のため短縮し、骨盤を後傾させてしまう。その結果、脊柱を伸展することが困難となる。さらに膝関節を屈曲し、自分では膝伸展することはできない

画像出典:「小児の理学療法」

内側ハムストリングスの痙性がより強いため、股関節を内旋する要因となる。 

●軽度な両麻痺児で両手を離すことができる場合を除いて、この姿勢を自分からとることはない。

10)痙直型両麻痺の割り座に対するアプローチ

●割り座で足部を観察するとどちらか一方が外返し位をとり反対側が内返し位となり、非対称的な足部を示すことが多い。これは股関節の内旋の強さに影響されて生じる。痙直型両麻痺児は座位をとるまでの運動発達のなかで、骨盤の運動性を伴った腹筋の収縮や下肢の分離動作、体幹の伸展と回旋要素を獲得していない。そのため、子どもの自発性が高まってくるにつれて、下肢の機能の不十分さを上体で代償することを学習してしまう。その結果、下肢の痙性は徐々に強まり、下肢の分離動作がさらに困難になってくる。そして、下肢の全体的な屈曲パターンを利用した座り方。すなわち割り座のみが可能となる。

両麻痺児を長座位に置くと骨盤は後傾し、仙骨部で体重を受けてしまう。両側のハムストリングスは短縮し、両股関節は内転、内旋位をとる。また両膝も屈曲し、足関節は底屈位をとる。長座位姿勢を保つためには、後方に転倒しないように体幹の屈曲を強め、上体を前方に運ばねばならない。

割り座しかできない両麻痺児に対して長座位を経験させることは全身を分離することにつながる。全身の分離とは長座位のように体幹の伸展と股関節の屈曲、そして膝関節の伸展のように異なる要素が姿勢のなかに存在することを意味している。

11)両麻痺の移動

両麻痺児の体幹では伸展と回旋が不足している。また、正しい四つ這い姿勢がとれないため、割り座の姿勢から殿部を少し持ち上げ上肢に体重移動をすることを繰り返しウサギ跳びをする。また、このウサギ跳びが長期化する傾向をもっている。

画像出典:「小児の理学療法」

下肢の交互運動は少なく、両下肢を屈曲位のまま前進するため、将来の歩行に必要な下肢の交互運動を経験することが極端に少なくなる。

ウサギ跳びによる移動方法が長期化すると、立位に必要な股関節や膝関節の伸展が発達しない。そのため、早期に立位を治療に取り入れる必要がある。

●中等度~軽度両麻痺では四つ這いができることがあるが、骨盤が左右に動揺し、体重を適切に股関節で受けることができない。この動揺性は中殿筋が働かないトレンデレンブルグ歩行でみられる体幹の動揺性と類似している。また、下肢が過剰な伸展パターンに入り込むため、股関節の内転・内旋が強まる。

画像出典:「小児の理学療法」

12)両麻痺のつかまり立ち

正常児のように両下肢を分離して動かすことが困難なため、膝立ちから片膝立ちへ移ることが困難である。そのため、両腕の力で立位へと自分の体を引き上げ、両下肢はほぼ同時に突っ張り立ち上がろうとする。しかし、足部の背屈が困難なため、前足部で体重を受け尖足位で立位をとる。

画像出典:「小児の理学療法」

●正常児でも、つかまり立ちの初期の段階では両麻痺児のように直線的な起立パターンをとる。しかし、両麻痺と違って決して股関節内旋はみられない。正常児がこのような直線的な起立パターンを初期の段階でとるのは一側下肢での体重負荷の筋力が未発達のためと考えられる。また、立位での平衡反応が成熟していないため、動作を両側同時に行うことで安定を保っているともいえる。

13)両麻痺の立位姿勢

●両麻痺児の立位姿勢は大きく二分される。その1つが屈曲型とよばれる姿勢で、体幹の屈筋群の過緊張により脊柱の重力に逆らった伸展が発達していないため、脊柱は屈曲し骨盤は後傾する。

画像出典:「小児の理学療法」

●屈曲型では独歩は困難で、歩行器やクラッチに頼らなければ歩行が困難になる。また、松葉杖は体幹の屈曲を強めてしまうため、杖はロフストランド杖が好ましい。歩行器はPCW(postural control walker)を使い、脊柱の伸展を日常的に促すことが試みされている。

画像出典:整形外科疾患の病態やリハビリテーションに関する理解を深めるブログ

なお、こちらのサイトではロフストランド杖の特徴や適応などについて詳しく説明されています。」

画像出典:徳島県立 板野支援学校

この写真は、自立活動トピックスの“自立活動 P.C.Wでの歩行学習”という記事に使われていたもので、P.C.Wに関する説明も出ています。

●もう1つのタイプ伸展型である。伸展型では体幹の同時収縮は屈曲型に比べて軽度となる。体幹は股関節屈曲を代償するため、代表的伸展をする。骨盤は前傾しており、膝は屈曲位を取るため下腿の振り出しが困難となる。

画像出典:「小児の理学療法」

●歩き方は前方に突進するように歩き、ゆっくりとは歩けない。そして、体幹を左右に揺すりながら体重移動を行う。

14)両麻痺の認知障害

両麻痺児は行動の切り替えが遅く、新たな局面に向かえない特徴をもっている。このような両麻痺児に対しては目標を言語化してあげることが大切である。例えば、「これからこれとこれをやろうね」などと行う行動を事前に認識させるような働きかけが必要とされている。

15)つま先歩きをする子どもたち

尖足歩行(つま先歩き)の原因

・前庭機能の異常

・足底接触から起こる防御反応(刺激に過敏)

・先天的なアキレス腱短縮

・歩行器の使い過ぎ

16)股関節脱臼

骨盤の捻転は一側股関節の内転・内旋パターンが増強することによって生じる。この骨盤の捻転は股関節脱臼や股関節屈曲拘縮に結びついてくる。

股関節の内転・内旋変形は同時に起きる。この変形の責任筋は大腿筋膜張筋と考えられている。また、内転筋では長内転筋と薄筋の痙性が要因と考えられている。

主な股関節脱臼の原因は股関節の形成不全が背景に存在している。この形成不全は幼児期の初期において下肢運動が不足し、支持性の発達欠如により股関節形成が阻害される。この形成不全に加えて内転・内旋が脱臼を強めてしまう。

3.痙直型片麻痺

1)初期症状

●口腔周辺に現れることがあり、泣いたり、笑ったりするときに舌の非対称性や口唇の非対称性が生じることがある。

●生後2~3カ月では明らかな痙性は認められないが、上下肢の自発運動は低下している。

●片麻痺は早期から左右差をもっているため、比較的早期診断がつきやすいが、周産期医療(妊娠22週から出生後7日未満までの期間)の進歩により減少している。

●新生児期では手指の動きは少なく、下肢は未熟なパターンをとっていることが多く、下肢の障害は初期には目立たない。そのため上肢だけの障害とされて単麻痺として診断されることがある。しかし、脳性麻痺で単麻痺は非常にまれで、下肢を注意して観察すると、左右差を確認することができる。

●初期には下肢の痙性が目立たなくても、ハイハイ、起立、歩行へと下肢の活動性が高まるにつれて痙性が強くなる。

●痙性が軽度な場合、初期には上肢の自発的な運動がみられるが、治療せずに放置すると、上肢機能は未熟なリーチと把握にとどまるか、連合反応の結果、さらに悪化する危険性をもっている。

通常、母親は3カ月ごろ、患側の手の動きの少ないことに気づく、また、手を握っていることが多いことに気づく。すなわち、このころから上肢に痙性を認めるようになる。これは健側の手の自発活動が増加してくるにつれて、患側の屈筋痙性が発現してくるためである。

2)片麻痺の発達の特徴

生後1年以内は利き手は確立しないので、その時期に左もしくは右を明らかに優位に使用するとしたら片麻痺を疑うべきである。

(3)片麻痺のハイハイの特徴

健側上肢でたぐり寄せるように推進する。そのため、連合反応の影響により患側上肢の屈曲、肩後退が強まり、同時に手指の屈曲も強まる。

画像出典:「小児の理学療法」

ハイハイの際、患側の骨盤は後方へ引かれ、患側の体幹の短縮が生じてしまう。また、患側下肢の股関節内転、膝関節の伸展、足関節の底屈、足趾の鷲指が起こる。

(4)片麻痺の四つ這い

比較的上肢の障害の軽い場合に四つ這いをすることがあるが、通常、上肢を体重支持に用いることができないため四つ這いを経験しないことが多い。そのため、初期の移動は寝返りやハイハイが主体となる傾向をもっている。

(5)片麻痺の座位

正常児では四つ這い位から体軸内回旋により、座位に移行していくが、片麻痺の場合には腹臥位から四つ這い位を経由せずに起き上がってくる。

(6)片麻痺のずり這い

片麻痺児では座位を獲得すると、ずり這いを覚える可能性が高くなる。座位で体重を健側の骨盤に移動し、健側上肢を使い身体を揺すりながら移動する。子どもによっては上肢を使わずに骨盤と体幹の前後の動きでずり這うことがある。

(7)片麻痺の起立

片麻痺児は健側上肢で物につかまり、腕の力で身体を引き上げるようにして立ち上がる。そのときさらに患側上下肢の痙性は強まり、肩甲帯の後退を伴った屈曲、手指の屈曲、患側体幹の短縮、骨盤の後退が今まで以上に強まってくる。

(8)片麻痺の歩行

起立することにより、前足底部に圧刺激が加わるため病的陽性支持反応の影響により下肢の伸展パターンが強まる。しかし、股関節に屈曲が残る。その理由として次のことが考えられる。

①伸展パターンといえども体重を支持するには不十分なため。

②今までに正常な股関節の伸展が発達していないため。

③体幹の抗重力伸展の不足により、患側下肢に対して体幹を垂直に保つことができないため。

④内転筋のもつ作用として、股関節内転以外に股関節の軽度屈曲作用をもっており、股関節内転筋の痙性が強いと股関節を十分に伸展できなくなるため。

(9)片麻痺の健側手

片麻痺児は片手で持てる小さな玩具を好む。そのため、健側の手のみを使用する傾向が強まる。また、両手を使用することが困難であるため、健側手を粗大な活動に用い、より巧緻的な活動には使用しない傾向がある。

画像出典:「小児の理学療法」

(10)患側の手の活動と代償運動

患側手にある程度の随意性をもっている場合に、患側の手の動きづらさを代償する頸部、体幹の代償運動が出現する。特に患側上肢の前腕を回外するように指示すると、体幹と頸部は患側に側屈し、身体全体を使って回外運動を助けようとする。

画像出典:「小児の理学療法」

(11)片麻痺の尖足

尖足を示す場合、膝関節を伸展位で足関節背屈制限がみられ、膝関節を屈曲位にして背屈したときに正常可動域まで背屈する場合は腓腹筋の短縮が考えられる。また、膝関節を屈曲しても足関節の背屈制限がみられる場合にはヒラメ筋も短縮していることが考えらえる。児はこの尖足位の踵を接地させるために骨盤を後退させ、膝を過伸展する。そのため反張膝が徐々に強まる。

(12)片麻痺の連合反応

連合反応は健側が存在するため患側に出現する。連合反応は健側の強い随意的な努力に伴う異常な患側の定型的な運動パターンである。つまり、連合反応は痙性パターンのなかで筋緊張が高まる現象で、それはあたかも運動のようにみえるが、これは正常な動きではなく解放された緊張性反射活動のため筋緊張が変化することによる。

重度な痙性が分布していると、動きとしては現れないため、筋緊張の変化を触診することで確認することができる。

(13)正常な連合運動

連合運動は正常な運動で、両側に対称的な運動や類似した運動を引き起こす。連合運動は正常でありおよそ12歳までには自己抑制が可能となる。また、正常ではより動き強めるときに生じる。立ち直り反応、平衡反応の未熟な段階では種々の連合運動が正常発達の過程のなかでみられるが、多くは学齢前までに抑制機能を獲得していく。

6)片麻痺の治療

(1)母親の教育

片麻痺児の多くが歩行を獲得していく。そのため、粗大な運動面では一応のことができるようになるため、母親は運動に関して楽観的になりやすい傾向をもっている。しかし、将来的に両手を使用することの重要性と必要性や、片手で可能な職業の少なさを早くから知ってもらう必要がある。

(2)知覚改善

患側の手を使用できるようにするためには多くの感覚刺激が患側に加えられなければならない。そのため、多くの固有感覚刺激や表在感覚刺激を入れていき、複合感覚の改善を目指していく。とくに、片麻痺児は患側に触れられることを嫌がる。これは健側での代償の結果、患側に入る感覚刺激が減少したためである。そのため、早期から感覚刺激を入れ、のちの体重負荷の準備をしていく。

また、血管運動障害のために患側肢の循環障害を起こしやすく、寒い季節には手指の運動性が低下する。

(3)両側の協調性の改善

過剰に患側を使用させようとする必要はない。とくに早期の段階では両側活動を中心に治療を進めていく必要がある。

(4)患側の異常発達を阻止

健側での代償運動を学習する以前に治療を開始することが必要である。特に上肢の自発運動を引き出し、多様な粗大運動が可能となるように台にのせ反応などを応用した治療が必要である。

(5)連合反応の抑制

患側肢の自律的、随意的運動性を引き出すことが、結果的に連合反応を減弱していくことにつながる。そのため、他動的な操作による痙性の減弱に固執してはならない。

(6)てんかんに対する配慮

治療にはクールダウンを準備しておく。痙攣発作が頻回に起こると、獲得していたことができなくなることがある。そのため過度の疲労を避ける必要がある。また、規則正しい生活が行われているか注意を払う必要がある。

(7)年齢による特性 

3~10カ月は異常発達が進行していないため、比較的治療がしやすい時期である。この時期に両側の相互活動を多く学習できる可能性がある。

10カ月~4歳ごろまではなかなか治療に応じてくれない。そのため、たくさんの遊びと探索活動とそして成功できる課題を多く治療に導入しなければならない。

4~8歳では拒否する態度が減少してくるため治療が容易になってくる。

8~12歳では自分の障害を認めるようになり、治療の必要性を否定しようとする傾向がみられる。

12~16歳では仲間と意味のある関係を形成することに関心が強くなり、治療にも関心を持つようになる。この時期では自己抑制を学習することや現実的な状況で治療を進めることが大切となる。

付記:脳性麻痺の出現比率

本書では脳性麻痺は、両麻痺、四肢麻痺、片麻痺、アテトーゼ型脳性まひ、弛緩型麻痺に分類されています。「これらの発生比率に関するデータはないのだろうか?」と思い、ネット検索したところ、次のような情報を見つけました。これを見ると痙直型が全体の84%であり、その中では両麻痺が1番多いことが確認できます。

『ヨーロッパの研究では片麻痺 27%両麻痺 36%三肢/四肢麻痺 21%であり,失調型 CP 児が 4%,ジスキネジア/ ジストニック型脳性麻痺が 12%となっている。』

脳性麻痺 理学療法マニュアル”をクリック頂くと163枚のPDF資料がダウンロードできます。残念ながら上記の比率に関する文章はないのですが、“用語”の解説の1番目に下記の記述があります。

surveillance of cerebral palsy in Europe(SCPE)

『1998年に設立された,欧州8か国14センターからなる脳性麻痺の登録,調査に関する共同研究ネットワークであり,出生体重の傾向をモニターするためのCP児のデータベースの開発とサービス計画についての情報提供,共同研究の枠組みを提供することを目的としている*。』

そして、“surveillance of cerebral palsy in Europe”で検索して出てきたサイトが以下になります。きっとこの中に情報ソースが存在していると思うのですがそれを探すことはすぐに諦めました。

小児の理学療法1

前回、前々回は『脳性まひ児の発達支援』という本を題材にした勉強モードのブログでしたが、今回も同じく勉強モードとなっています。勉強の目的は“動くことのできる小児障害児への施術(マッサージ・鍼)を考え、一人ひとりに適した施術を提供できるようになる”ということです。

なお、ブログの内容は本をつまみ食いした項目で構成されていますが、“小児の理学療法1”で注目したのは2つです。一つは“セラピスト(理学療法士)に求められていることを知る”というものであり、もう一つは“小児障害児の運動特性と関節・筋肉”に関するものです。これらは、障害児が持つ過緊張・低緊張という問題に正面から取り組む上で重要であると考えます。

著者:河村光俊

出版:医歯薬出版

初版発行:2002年6月

『脳性まひ児の発達支援』の参考文献として紹介されていた本です。

すべての目次の中で黒色は今回の“小児の理学療法1”、その中で太字がつまみ食いした項目です。一方、うすい灰色は次回以降、“小児の理学療法2”、“小児の理学療法3”で検討する部分になります。

目次

第1章 歴史的にみた脳性麻痺

第2章 発達障害児の治療のための評価

1.事前に行うべきこと

1)両親への説明

2)評価環境

3)両親(母親)の観察

2.評価の基本

1)基本的評価の流れ

2)観察のポイント

3)仮説を立てる

4)正常運動発達要素の欠落

3.姿勢反応の評価(立ち直り反応群)

1)体に働く頸の立ち直り反応

2)頭に働く頸の立ち直り反応

3)体に働く体の立ち直り反応

4)視性立ち直り反応

5)迷路性立ち直り反応

6)平衡反応

4.姿勢緊張の評価

1)小児神経学で使われている筋緊張の検査

2)正常姿勢緊張

3)プレーシング・ホールディング

5.連合反応の評価

6.発達のギャップ

7.乳児期に問題となる姿勢と運動パターン

8.知的発達の評価

第3章 姿勢と運動の発達

1.腹臥位姿勢と運動の発達

1)新生児の腹臥位姿勢と運動

2)1カ月の腹臥位姿勢と運動

3)2カ月の腹臥位姿勢と運動

4)3カ月の腹臥位姿勢と運動

5)4~5カ月の腹臥位姿勢と運動

6)6カ月の腹臥位姿勢と運動

7)7カ月の腹臥位姿勢と運動

8)9~10カ月の腹臥位姿勢と運動

9)12~13カ月の腹臥位姿勢と運動

2.背臥位姿勢と運動発達

1)新生児の姿勢と運動

2)1カ月児の背臥位姿勢と運動

3)3カ月の背腹臥位姿勢と運動

4)4~6カ月の背臥位姿勢と運動

5)8カ月の背臥位姿勢と運動

3.座位の発達

1)第1段階~第2段階(新生児期から生後5カ月)

2)第2段階

3)第3段階

4.立位と歩行の発達

1)新生児期

2)失立・失歩行期

3)下肢への加重の始まり

4)jumping Stage

5)bilateral weight bearing

6)sequence to standing

7)1歳6カ月以降の立位・歩行の発達

5.手指機能の発達

1)hand orientation

2)hand orientationとgrope

3)hand orientation,grope,grasp

4)reach pattern

5)物の持ちかえ

6)pincer grasp

7)releaseの発達

6.移動の発達

1)移動における皮膚の役割 

2)初期の移動と視覚とリーチ

3)移動にみられる退行現象

4)移動と三点支持面

7.乳幼児のプレスピーチの発達

第4章 新生児集中治療室における理学療法

1.新生児の分類

1)出生体重による分類

2)在胎週数による分類

3)胎児発育曲線による分類

4)臨床所見による分類

2.未熟児にみられる主要な疾患

1)子宮内発育不全児

2)新生児仮死

3)未熟児無呼吸発作

4)呼吸窮迫症候群

5)未熟児の慢性肺障害

6)核黄疸

7)動脈管開存症

8)新生児低血糖症

9)新生児頭蓋内出血

10)嚢胞形成性脳室周囲性白質軟化

11)未熟児網膜症

3.未熟児の姿勢と運動の評価

1)モロー反射

2)把握反射

3)非対称性緊張性頚反射

4)足趾把握反射

5)交叉性伸展反射

6)恥骨上反射

7)ガラント反射

4.新生児神経行動学的評価

1)慣れ現象

2)運動と緊張

3)反射

4)神経行動学的指標

5)立ち直り反応

5.未熟児の運動療法

第5章 脳性麻痺

1.痙直型四肢麻痺

1)痙性の分布

2)関節への体重負荷、自発運動の意義

2.痙直型両麻痺

1)臨床像

2)痙直型両麻痺の病因

3)両麻痺の痙性分布

4)両麻痺の発達の特徴

5)両麻痺の頭のコントロール

6)両麻痺のキッキング

7)両麻痺の寝返り

8)両麻痺のハイハイ

9)両麻痺の起き上がり動作

10)痙直型両麻痺の割り座に対するアプローチ

11)両麻痺の移動

12)両麻痺のつかまり立ち

13)両麻痺の立位姿勢

14)両麻痺の認知障害

15)つま先歩きをする子どもたち

16)股関節脱臼

3.痙直型片麻痺

1)初期症状

2)片麻痺の発達の特徴

3)アテトーゼ型片麻痺

4)後天性片麻痺

5)片麻痺の問題行動

6)片麻痺の治療

4.アテトーゼ型脳性麻痺

1)アテトーゼ型脳性麻痺に共有する特徴

2)アテトーゼ型脳性麻痺の分類

3)アテトーゼ型脳性麻痺の治療

5.弛緩型麻痺

1)脳性麻痺の初期症状としての弛緩

2)姿勢および反応

3)アテトーゼへの移行(移行期のサイン)

4)弛緩児の治療

第6章 運動療法

1.頭のコントロールのための運動療法

1)背臥位での頭の回旋

2)腹臥位での頭の回旋

3)腹臥位での頭の挙上

4)背臥位からの頭の屈曲

5)頭の固定性を高める準備としての圧迫手技

2.上肢の挙上運動とリーチの準備

3.上肢の支持性

4.脊柱の側屈可動性の準備

5.脊柱の伸展可動性の準備

6.パラシュー反応の誘発

1)パラシュート反応誘発のための準備

2)パラシュート反応の誘発

7.減捻性立ち直り反応を応用した運動の誘発

1)体に働く頸の立ち直り反応

2)体に働く体の立ち直り反応

3)抗重力方向への体に働く体の立ち直り反応

第2章 発達障害児の治療のための評価

1.事前に行うべきこと

●家庭ではどのような姿勢、運動が多いかを質問し、習慣的に形成されていく異常姿勢や運動に対抗する手段を講じていかなければならない。

●家庭で使用している機器(座位保持椅子、車椅子、歩行器、立位保持用具など)を知る。

●子どもの生活リズムを知っておく。特に年少の場合、午睡、就寝、起床時間、夜中にどのくらい覚醒するか。

●どのような薬を服用しているか。

2.評価の基本

●総合評価する場合、一人ひとりの動作を観察分析することから始まる。

セラピストは運動学的に異常な動作の原因の仮説をたて、その仮説に基づき運動療法を試行し、発達障害児に触れ、観察で得られた情報と実際に触って感じる情報の違いなどを整理していく。

●治療を行いながら刺激(スピード、幅、刺激部位、刺激の強さ)を変え、適切な刺激を選択する。

1)基本的評価の流れ

発達過程にある発達障害児の異常性の出現、正常要素の欠如と異常な発達、発達の停止もしくは遅れ(発達のゆがみ)を見つけることがセラピストの課題となる。

なぜ首が座っていないのか? なぜ座れないのか? なぜ寝返りできないのか? なぜ手をうまく使えないのか? なぜつかまり立ちができないのか? なぜ歩けないのか? など獲得して欲しい機能を阻害している要因は何なのか、セラピストは自問自答する必要がある。

2)観察のポイント

観察は末梢の手足ではなく、体幹の状態をよく観察する。

●体幹の観察では胸郭の左右差や肋骨下部の突出、陥没呼吸のためにロート状になっていないかみる。

●観察だけでなく動作を真似してみることも重要。

3)仮説を立てる

できること、できないことを整理する、そしてできないことの原因の仮説を立てる。ここで考えなければならない原因とは、中枢神経系の障害部位ではなく、からだに分布する異常な筋緊張分布や獲得していない基本的な運動機能などを考えることである。

●姿勢(背臥位、腹臥位、座位、立位)と運動(寝返り、ハイハイ、四つ這い、起き上がり、つかまり歩き、歩行)のなかにみられる共通した問題点を見つけだす。

●異常と感じた姿勢や動作を文章にしてみることが必要である。

●年長になるにつれ、非対称性が徐々に変形や拘縮に発展していく。

4)正常運動発達要素の欠落

正常運動発達には順序性があり、頭のコントロールから寝返り、ハイハイ、四つ這い、つかまり立ち、つかまり歩き、独歩と続くが、この順序性に固執するのは適切ではない。寝返りができる6カ月では立位をとらせると下肢に体重を受け始める。座位をとらせると両手を前について少しのあいだ姿勢を保とうとする。このようにお互いが影響しながら同時に発達している。

●セラピストは子どもの発達経過のなかで重要な正常運動発達の要素を欠落させていないかどうか見つける必要がある。

・正中位での頭の保持

・手と足の接触

・体軸内回旋機能

・下肢の交互運動

・上肢の支持性

・手指の把握機能

・凝視・追視機能

・咀嚼・嚥下機能

・基本的な立ち直り反応

・上肢の保護反応

・下肢の保護反応

・平衡反応

運動麻痺についてご紹介します。

画像出典:「日本脳神経財団

運動麻痺とは手足や顔を動かす筋肉が随意的に動かせなくなることです。具体的には脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷などで手足や体幹、顔面の随意的な運動ができなくなる状態です。

運動麻痺はその病気が身体のどこに起こるかで4つのタイプに分けられます。

①片麻痺(半身麻痺):顔面を含んで一側半身の麻痺が現れるものです。

②単麻痺:一側の手、または足が単独で麻痺するものです。

③対麻痺:両側の下肢の運動麻痺のことです。

④四肢麻痺:両側の上肢、下肢が全て麻痺してしまうものです。

4.姿勢緊張の評価

姿勢緊張テストの目的は子どもの姿勢変化に伴う筋の緊張の変化を調べることである。つまり発達障害児では姿勢によって筋緊張が高まったり、低下したりする。また、中枢神経系に障害を持っている場合には異常な筋緊張が全身に分布しており、治療計画を立てる場合に異常筋緊張分布の状態を把握する必要がある。セラピストは子どもの四肢を他動的に操作し、その時セラピストの手に感じる筋の筋緊張を評価する。

●筋緊張の評価として次の大まかな基準が参考になる。

①正常(normal):四肢の他動操作に対して素早く反応し、ただちに筋緊張を他動操作に合わせるように変化する。その結果、セラピストは四肢を非常に軽く感じる。

②痙性(spasticity):四肢の他動的操作に対して過度な抵抗を示す。抵抗は操作開始域で強く、突然抵抗が弱まることがある。これをジャックナイフ現象とよぶことがある。一般的には上肢では屈筋と内転筋の緊張が高く、下肢では伸筋と内転筋の緊張が高いのが特徴である。

③アテトーゼ(athetosis):四肢の操作に対して筋緊張が動揺し、過度な抵抗を示したり、抵抗が消失したり絶えず変化を示す。その筋緊張の変化を予測することが一般的には困難である。

④弛緩(flaccidity):四肢の操作に対してほとんど抵抗を示さず、セラピストは操作している四肢の重さを手に感じる。 

筋緊張の種類についてご紹介します。

画像出典:「LITALICO発達ナビ

このイラストを見ると、痙直型=大脳、アテトーゼ型=大脳基底核、失調型(弛緩)=小脳 ということがシンプルに分かります。なお、約80%は痙直型であるとされています。

また、こちらのサイトには貴重な情報が盛りだくさんなのですが、特に重要と思う部分をご紹介します。

◇症状と脳性麻痺の原因

1.核黄疸・ビリルビン脳症

2.低酸素性虚血性脳症

3.脳室内出血・脳室周囲白質軟化症

◇上記3つ以外の原因

1.妊娠中の脳性麻痺になる原因

・脳の中枢神経系の奇形

・遺伝子や染色体の異常

・感染症(風疹、サイトメガロウィルス、トキソプラズマなど)

2.出産時の脳性麻痺の原因

・新生児の呼吸障害やけいれん

3.出産後の脳性麻痺の原因(脳の損傷)

・中枢神経感染症

・頭蓋内出血

・頭部外傷

・呼吸障害

・心停止

・てんかんなど

おもに周産期と妊娠期間中に脳性麻痺が起きやすいことも分かっており、周産期に発生する場合が40~66%、出生前の妊娠中に起きてしまう割合が13~35%。

1)小児神経学で使われている筋緊張の検査

●筋緊張(筋トーヌス)の内容として伸張性、被動性、筋の硬さの3つがある。

(1)伸張性

伸張性とは関節をゆっくりと他動的に操作して動かしたときにどのくらいの伸びを示すかによって判定する

①window sign

手関節を掌屈する。成人では90°だが新生児ではさらに掌屈する。6カ月ではほぼ成人の可動域になるが、6カ月以降も過度な掌屈がみられる場合には低緊張であり、ダウン症などの疾患が疑われる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

②股関節の開排角度

新生児の開排角は平均76~77°で、その後急速に角度は減少し、生後3カ月で平均71°まで減少する。その後は徐々に増加し生後2歳で再び76~77°になる。さらに歩行速度の増加と走行能力の発達に伴い股関節の固定性が増大するため内転筋の伸張性は低下する。そのため生後では74~75°になる。 

画像出典:「小児の理学療法」

 

ご参考

画像出典:「岡山の医療健康ガイド MEDICA

 

③足の背屈

成熟新生児の背屈角度は大きく、生後3カ月以降は減少していく。成人では20°。

④膝窩角

膝窩角は新生児期では約90°だが、徐々にその角度は拡大していく。しかし、中枢神経系障害のある子どもではその角度が過剰に拡大したり、狭小化したり、左右差を示す。 

画像出典:「小児の理学療法」

 

ご参考(最下部に掲載されています)

画像出典:「MUSCULOSKELETAL MEDICINE

 

⑤スカーフ兆候

上肢をスカーフのように首に巻きつけるように回して検査する。成熟新生児では手関節が肩峰の所で止まるが、未熟児では手関節が肩峰を越えてしまう。  

ご参考(ほぼ中央に掲載されています)

画像出典:「OBGYNKEY

※写真左は成熟新生児、右は未熟児です。

注)本ページには衝撃的な写真も含まれております。 

 (2)振れの度

一般的に手関節と足関節で検査する。子どもの手首もしくは足首を持ち、手先もしくは足先を振る。このとき、低緊張であれば大きく振れ、過緊張であれば振れが小さくなる。

(3)筋の硬さ

筋肉の硬さを指で圧迫して硬さを判定する。筋の硬さの判定はかなり主観的になるため、多くの症例を経験する必要がある。評価基準は-3~+3までの7段階。

2)正常姿勢緊張

正常な姿勢緊張には幅があり、日常の生活の中で状況に応じて変化している。しかし、覚醒している状態では即座に動作を起こすことができる筋緊張は保っている。

3)プレーシング・ホールディング

正常であれば支えのない空間に置かれた肢は補助する手を離しても、肢を空間に短時間保持することができる。一方、中枢神経系障害のある子どもは保持することが難しい。

 5.連合反応の評価

●痙直型両麻痺の子どもが寝返りをしようとすると、いつも上半身を過剰に使って寝返ろうとする。その結果、両下肢は伸展して内転、内旋し特徴的なはさみ状肢位をとってしまう。

痙直型片麻痺では健側を使用することで患側の上肢の屈筋痙性が高まり、上肢が典型的な肘屈曲、回内、手指屈曲の姿勢をとってしまう。

画像出典:「小児の理学療法」

 

子どもがより健側を使用するたびに、患側の緊張が高まり変形・拘縮の原因となる。この連合反応が最も子どもの発達を阻害する要因になる。

●子どもにとって何が困難か、また、連合反応が出現しない許容度と、最も著明に出現する動作を把握しておく必要がある。

第3章 姿勢と運動の発達

4.立位と歩行の発達

3)下肢への加重の始まり

●生後4~5カ月になると膝窩で支えると少しの間、体重負荷を始めてくるが、全体重を支えることはできない。

足趾は屈曲しがちで片足を持ち上げることがある。

立位姿勢では股関節と膝関節の軽度屈曲がまだみられる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

4)jumping Stage

●生後6~7カ月になると起立位に保持をすると下肢を伸展し、十分体重を負荷するようになる。

●この時期は活発に飛び跳ねるため、jumping stageと呼ばれる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

5)bilateral weight bearing

●生後8~9カ月では飛び跳ねることはしなくなり、両手で物をつかんで立位を保つようになる。

一人ではしゃがむことはできないのは、体重の負荷がかかる状態で、股関節、膝関節を自由に動かすことができないためである。

画像出典:「小児の理学療法」

 

6)sequence to standing

(1)pull-up sequence

生後9~10カ月になると物につかまり直線的に起立するようになる。まだ片足での体重負荷機能が十分発達していないため、両足同時に使って起立しようとする。

画像出典:「小児の理学療法」

 

また、この時期でも膝の機能が十分ではないため、つかまり立ちはできてもしゃがむことはできない。

画像出典:「小児の理学療法」

 

(2)cruising(つかまり歩き)

生後11~12カ月になると、物につかまり横へつたい歩きができるようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

つかまり立ちからつかまり歩きへ乳児を促すのは、上肢のリーチ機能である。これは手を物にリーチすることにより下肢では体重移動が生じ、より一側に体重が移ると他側の下肢のステップ反応が生じ、最初の一歩となる。

乳児は初め連続した物でつかまり歩きをするが、脊柱の重力に抗した伸展機能が高まるにつれて、脊柱の伸展と回旋を組み合わせることができるようになる。この離れた物へのつかまり歩きをしているときに、偶然に両手が離れて一人立ちが出現する。離れた物へつかまり歩きができるようになると、片手を支えられれば歩くことができるようになる。それ以前では、支えられた手を支点にして身体が回転してしまうことがある。

画像出典:「小児の理学療法」

 

(3)walking(一人歩き)

生後12~13カ月ごろ一人で床から起立し、数歩あるくことができるようになる。一人歩き初期では脊柱の抗重力伸展をさらに強めるために上肢を伸展し、肩甲骨を固定しようとする。また、両下肢を広く外転して立位の基底面を広くとり安定した姿勢を確保しようとする。

画像出典:「小児の理学療法」

 

一人歩き初期では、立位から最初のステップを前に振り出すとき、他側の下肢で全体重を受けなければならないため、乳児は下肢の伸展と脊柱の伸展を高めなければ崩れてしまう。そのため上肢を挙上し、下肢の伸展を全身を使って強める。

画像出典:「小児の理学療法」

 

歩行初期には上肢を挙上した姿勢で、両下肢を外転して基底面を広くとった歩行をする。この姿勢をhigh guard postureとよぶ、次第に上肢は下がっていき、middle guardへ、そして最後にlow guardとなっていく。上肢の位置がlow guardになるのは生後18カ月である。また、low guardになると歩行中の上肢の交互の振りが出現してくる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

床からの起立パターンでは初期には完全な回旋を背臥位から起こし、腹臥位になってから四つ這い位、高這い位をとりバランスをとりながら起立していく。

画像出典:「小児の理学療法」

 

しだいに起立パターンは変化していき、完全に腹臥位まで回旋することなく、背臥位から半回旋し、座位に起き上がり、そこから起立するが、まだいったん高這い位の姿勢をとる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

生後2歳ごろでは起立するまで高這い位を経由しなくなり、座位から片膝を立てて起立するようになる。

画像出典:「小児の理学療法」

 

脳性まひ児の発達支援2

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

 

全体の目次を確認されたい場合は ”脳性まひ児の発達支援1”をクリックしてください。

こちらは第3部の全体像です。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

第1節 低緊張への対応

●肢体不自由特別支援学校に筋緊張の低い脳性まひ児が在籍していることは珍しくない。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

1.伸張反射の利用

(1)伸張反射とは

●筋が急速に引き伸ばされたときに筋が一定の長さを保とうとして収縮する。これを伸張反射といい、抗重力筋や顎の筋肉によく発達している。

●伸張反射の反射中枢は脊髄レベルにあるが、同時に脳の上位中枢から抑制を受けて、適当な強さに反射がコントロールされている。そのため錐体路が障害されると抑制がとれコントロールが難しくなって反射が過剰に強く出現するようになる。

伸張反射とクローヌス(間代)は脳性まひでは痙直型にみられる特徴である。

●伸張反射が亢進しているとクローヌス(間代)がみられる。クローヌスはすべての関節で起こり得るが、臨床的には足関節(足間代)と膝関節(膝間代)でみられやすい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)伸張反射を利用して筋緊張を高める

伸張反射を利用して伸筋の収縮を促通することができる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.関節圧縮の利用

●関節圧縮は固有覚を利用するものである。

体重あるいは関節を圧縮する身体部位に日常的にかかっている以上の負荷をかける。この方法は圧縮された関節付近の筋群の同時収縮を促通して筋緊張を高める効果がある。これを肩、腰、頭などに用いると関節の近位部の固定性を高める。 

●肘位での関節圧縮:両肩から上腕の部分を支持者が保持して両肘を床に向かって垂直に押し込んで肘位を保持する。肘位でこの関節圧縮を行うと、肘と肩の関節の周辺の筋肉が同時収縮して緊張感が高まり、結果的に肢位を安定させると同時に、肩の近位部である首の固定性を高めると考えられる。

●腹臥位で頭の挙上が困難なときに肘位での関節圧縮を利用すると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、首を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.キーポイント・オブ・コントロールの利用

●人間の身体は、屈曲や伸展により筋緊張がさまざまに変化する。屈曲や伸展によってある身体のポイントをコントロールすることにより筋緊張を高めたり、低めたりすることができる。このキーポイント・オブ・コントロールはボバース(1980)によって提唱されたものである。

全身の筋緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢が都合がよい。長座は股関節伸展・膝関節伸展であって下肢の筋緊張が高くなりやすい。

●あぐら座位は股関節と膝関節が屈曲しているので筋緊張を低くする効果がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.前庭刺激の利用

前庭刺激によって、頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。

「突然、急速、非リズミカル」に入力すると興奮性、つまり筋の収縮を促進する。逆にリズミカルな入力は抑制性、つまり筋を弛緩させる。

●前庭刺激の興奮性入力の具体的な方法を例示すると、腹臥位や座位で上下に揺らす前庭刺激を用いて伸筋収縮の促通を行うやり方が考えられる。(促通とは、ここでは神経や筋などへ刺激を与えて筋の収縮をうながす意味で用いている) 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 過剰に高い筋緊張への対応

1.関節圧縮の利用

●体重またはそれ以下の力での関節圧縮を使用すると筋緊張を低減する効果がある。これは筋緊張が亢進している関節周囲筋を抑制し、その関節周囲の筋緊張を一時的に低下させる。

2.キーポイント・オブ・コントロールの利用

肩と肩甲帯を屈曲させるとその付近の筋緊張を低める効果がある。

ウェストラインの屈曲は背中・腰付近の伸筋緊張を低める効果がある。

股関節及び膝関節を屈曲させた姿勢が全身の筋緊張を低める。あぐら座位は股関節屈曲・膝関節屈曲であるので下肢の筋緊張は低くなりやすい。

3.前庭刺激の利用

リズミカルな入力は抑制性として働き筋を弛緩させる。つまり筋緊張を低減させる効果がある。

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

第1節 寝返りの意義

●重度の肢体不自由児では、寝たきりの状態で身体の変形や拘縮や痛みのある子どもが多く見られる。

第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

1.仰向けとうつ伏せの比較

●仰向けは身体を支える面積が狭く、重みが一部に集中するため身体を変形させやすい。そのため仰向けからうつ伏せへ姿勢変換させ、過度の負担を低減する必要がある。

2.仰向けとうつ伏せの間の姿勢変換:寝返り

●自発的寝返りのためには、足を持ち上げて全身をやや屈曲させることが必要である。運動の発達は頭から足の先へと発達していくために、姿勢と運動の発達に遅れがある肢体不自由児では、この足を持ち上げる動きに困難があることが多い。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第4節 寝返りの支援の実際

●回転の動きを強くあるいは速く行うと、子ども顔が強く床にぶつかるので、ゆっくりとそっと動かす。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

●うつ伏せから仰向けへは、腰の骨盤部分を上方に持ち上げるようにして体重を体幹と下肢に分散して回転すると容易に行うことができる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

1.頚座の意義

●頚座は姿勢コントロールの第一歩であり、姿勢と運動発達に困難のみられる子どもの姿勢と運動発達支援の第一歩でもある。

2.頚座と姿勢発達の基本姿勢としての腹臥位の意義

●腹臥位は仰臥位とは異なり、伸展がとりやすい。伸展がとりやすい姿勢が重要なのは、肘位・手位・座位・四つ這い位・立位はすべて伸展を特徴とする姿勢だからである。

第2節 頚座の定義と要素

●頚座(首の座り)の定義は諸家によって異なっている。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

1.ハイガード姿勢

●ハイガード姿勢は、幼児の立位や歩行時にみられる両手を高く上げてバランスをとる姿勢であり、この姿勢は頚筋・背筋を収縮させて伸展姿勢を強化し、抗重力姿勢をとりやすくする。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.肘位と関節圧縮

●腹臥位で頭の挙上をはかるときに、肘位をとらせると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、頚を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.上肢の伸展と外旋

●腹臥位で上肢を前・上方に開きぎみに伸展し外旋させると肩・頚あたりの筋が収縮して挙上を促通する。なお、この技法はキーポイント・オブ・コントロールの1つである。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.頚・背・腰部の伸張による伸張反射

●腰・背・頚あたりの伸筋を急速に引き伸ばすと伸張反射により伸筋の収縮が促通されて、その結果として頭の前方からの挙上が起こりやすくなる。

伸張反射は肘位とともにかなり効果的な技法であり、肘位とあわせて用いると効果が増す。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.デロテーション反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.触覚や振動覚

軽くすばやい触覚は筋の収縮をうながす。筋腹への振動覚も同様であり、前庭覚と違い、収縮させたい筋だけを刺激できるので頚筋や背筋へ直接刺激する。

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

第1節 座位の意義

●座位がとれれば健康の保持と学習面の両方でさまざま効用がある。さらに、人間関係やコミュニケーションといった社会適応や環境適応に関しても有用である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

1.座位の傾斜反応とパラシュート反応

(1)座位の傾斜反応

●座っている床がゆっくりと傾斜したときにバランスを保とうとして、頭・体幹が傾斜方向と反対方向へ立ち直る反応である。 

●座位の傾斜反応には3つの特徴がある。

・脊柱がカーブする。

・傾斜と反対側の下肢が挙上。

・傾斜と反対側に頭が傾斜する。

●学校や家庭でできる簡単な支援法

 

・支援者があぐら座位をとって子どもの腰辺りを両手で支えてだっこした状態(向きは自由)をとる。その状態で左右や前後にゆっくりと小さく傾けてみる。体幹のカーブもしくは頭の立ち直り反応が出ている場合は、このやり方でゆっくりと小さく傾けることをくり返す。目標は体幹のカーブであり、辛抱強く継続することが大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

 

(2)パラシュート反応

●座位で大きくあるいは急速に傾いたときに、傾斜反応では対応しきれない場合にパラシュート反応がみられる。

●発達支援の順序として傾斜反応の支援の次に行うとよい。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.座位の傾斜反応の基礎としての腹臥位の傾斜反応

●腹臥位の傾斜反応を誘発することが間接的に座位の傾斜反応を引き出すことにもなる。

●傾斜反応の特徴の1つである体幹のカーブは腹臥位でも座位でも同様である。したがって、ラージボールや傾斜台やその他の多様な教具・遊具を利用して、座位だけでなく腹臥位や他の姿勢での支援の工夫を考えることが大事である。   

●ラージボールがない場合は、大きめで硬めのクッションを重ねて使う。

 

●傾斜反応は頭と重力の方向の感覚によって誘発されることを留意して、頭をいろいろな方向に向けることができる動きや姿勢を工夫してみることが大事である。また、「バランス遊び」として楽しく行うことも大切である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 座位を支援するためのポイント

●座位保持に必要な筋緊張のコントロールには、適切なポイントへの介助が必要になる。

座位の支援のポイントは用い方によって緊張を高めたり、あるいは緊張を低めたりするので、一人ひとりの緊張状態と支援の目標をあわせて使い分ける必要がある。全身の緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢、たとえば長座がよい。一方、あぐら座位は筋緊張を低くする効果がある。あぐら座位は全身の伸展緊張が高い場合に有用な姿勢である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

●座位の次は立位の獲得だが、立位をとるためには座位から立位への姿勢変換が必要である。

●子どもの立ち上がる力や自発的に立ち上がる意欲を大事にした支援が求められる。

前から子どもの両手を持って支援するやり方が望ましい。

●前から子どもの両手を持って支援するやり方では、子どもの手の持ち方に注意が必要である。図11-7の持ち方がよい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

 ・前から両手を持って引き上げていく(膝の角度が90度以上まで)。

 ・下肢の伸展が楽になり立位に移行する。

 ・下肢の伸展とともに上肢の屈曲を意識すると立ち上がりやすい。

これは子どもが支援者の親指を握る形になっている。握るという行為は子どもの自発的参加を促す。また、握る力や握る意志が少ない場合でも、このやり方であれば介助者がそれを補助することにより安全に支援することができる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

第1節 立位の特徴

●立位は全身が伸展しているという特徴がある。

●肢体不自由児では屈曲姿勢が多く、立位の支援においては伸展姿勢の保持が重要な課題となることが多い。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

●立位の獲得には立位の傾斜反応を引き出す支援が重要となる。

立位の傾斜反応は前方と後方では足関節の働きが中心になり、側方では膝関節の働きが中心になる。 

●小型トランポリンは子どもが立っている位置を変えないで前後左右の傾斜反応を誘発できるので非常に使いやすく便利な教具である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像は“mom-ma”さまより拝借しました。

第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

伸展姿勢には全身の伸筋を収縮させる必要がある。背筋、臀部の筋、大腿四頭筋、下腿の筋など

1.立位保持の支援で大事な身体のキーポイント

●尖足の場合、股関節屈曲、膝関節屈曲で円背になりやすいため、補装靴の使用を検討する。 

①胸をはる

②背中を伸ばす

③腰と尻をやや前に出す

④膝を伸ばす

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.立位獲得支援の経過に沿ったキーポイント

●立位獲得のための支援における介助は腰介助から肩介助へという方向が大事である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

●歩行は移動することと立位を保つことの2つを同時に行うという複雑な協調を必要とする運動である。

●連続的にバランスを前方に崩していきながら、なおかつバランスを崩さないという2つの矛盾を解決しなければならない。 

この姿勢を30秒程度行った後で要介助歩行を行なうと、上体のふらつきがやや減ってしかも足が出やすくなることが多い。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

第1節 歩行の完成

●歩行は中枢神経系の成熟レベル(延髄、橋、中脳、大脳)に依存しており、姿勢反射・反応の成熟過程、つまり原始反射の抑制、立ち直り反応の獲得、平衡反応の獲得が歩行獲得の基礎にある

第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。このホッピング反応は自動的な歩行を可能にするという意味で、姿勢と運動の発達支援では重要な反応である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

1.歩行とホッピング反応の関係

●ホッピング反応の有無は歩行を予測するための指標として有用である。ホッピング反応がみられない場合には、つかまり歩行も杖歩行もできないと考えられている。

2.歩行支援におけるホッピング反応誘発の実際

●ホッピング反応は側方ホッピング反応からスタートすべき。

●ホッピングの誘発は肩介助が原則なので、肩介助で立位をとれることが前提になる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 歩行支援のポイント

●支援は後方腰介助→後方肩介助→前方介助→側方介助の順に支援を進めていくことがよい。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

1.突進様に歩いたり、ふらふらと静止できない場合

●歩行そのものを練習するのではなく、立位で安定して静止できることを目指す。

●最初に立位の姿勢アライメントを整えることが大事である。次に少しずつ前傾させ前方傾斜反応を誘発し全身の伸展が生起され「抗重力身体伸展姿勢」が保ちやすくなる。この状態で抗重力伸展立位姿勢の獲得と立位の静止状態でのバランスの向上をはかることができる。

2.体軸内回旋を活用した歩行

(1)体軸内回旋とは

立ち直り反応の影響を受けて発達する。

具体的な支援の工夫としては、たとえば座位をとった子どもの前に大好きなおもちゃをいくつか置いて、体軸を回旋させてそのおもちゃをとって遊ぶなどの活動が考えられる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)体軸内回旋を用いての歩行介助

●足が出ない場合、体軸内回旋を用いて足を一歩出させて歩行させることができる。 

図の右端の絵の状態で、介助者が右手を前方へ軽く引っ張ると、前方ホッピング反応としての右足の移動が出現しやすい。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

脳性まひ児の発達支援1

小児障害児へのマッサージに関わるようになり、『感覚統合法の理論と実践』という本で基礎ともいえる部分を勉強しました。そして、“動作法”という優れた支援方法があるのを知りました。さらに脳の可塑性に着目した“アナット・バニエル・メソッド(本は『限界を超える子どもたち 脳・身体・障害 への新たなアプローチ』)という画期的なアプローチに感銘を受け、患者さまの脳と施術者である自分の脳がつながるイメージ(B2B)をもって、メソッドである”9つの大事なこと”(ブログ中央の”目次”を参照ください)の実践を意識しています。

しかしながら、大きな壁にぶつかりました。それは、今まで担当していた患者さまの多くは、座位もとれない重度の障害をもっていたのに対し、新しい患者さまは座位あるいは四つ這い位は取れるが、安定した立位が取れないといった動くことができる患者さまだからです。

大きな何かが欠けているという実感はありましたが、モヤがかかったような状況でした。そのモヤが晴れたのは仲間の仕事ぶりを見学させてもらったこと、また、別の仲間が勧めてくれた数冊の本のお陰でした。今回のブログはその中の1冊です。

そして、“モヤ”とは、”発達段階における運動特性とリハビリテーション”というような類のものでした。これはOT(作業療法士)やPT(理学療法士)の先生が取り組むべき分野だと思いますが、この分野に踏み込まないと患者さまの現状を把握することはできません。

小児障害マッサージとしての支援内容は、過緊張あるいは低緊張の課題に取り組むことになると思いますが、発達段階に応じたリハビリテーションがどんなものか、日常生活ではどのような特徴として表れるのか、どんな問題をもっているのか、それをどのように改善していくのか。あるいは鍼という手段は使えるのか、頭鍼・頭皮鍼は有効か、脳の可塑性(アナット・バニエル・メソッド)に働きかけるにはどんな工夫をすればよいかなどについて考えていく必要があると感じました。

過去ブログ“ボイタ法・ボバース法”の中で、私は偉そうに次のようなことを言っていました。

『まず図書館から借りてきたのは「ボイタ法の治療原理 反射性移動運動と運動発達における筋活動」という本です。こちらの本の魅力は何といってもボイタ(Vaclav Vojta)自身が書いたものであるという点です。読んでみると、運動学(キネマティクス)とリハビリテーション学についての知識が不足している私には、理解するのは難しいということが分かりし、早々に断念することにしました。』

抜けていたのはまさにこの部分、避けていた部分でした。結局、ブーメランのように私自身に舞い戻ったという感じです。 

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

ブログは第2部と第3部が対象です。また完全に勉強モードのブログです。そのため個人的に重要であると感じた部分の要点を列挙する形式となっており、つまみ食い状態のため、不親切な書き方になっていると思います。なお、長文のため2つに分けており、今回は“1”ということになります。

目次

第1部:肢体不自由教育と発達支援

第1章 肢体不自由とは

第2章 肢体不自由教育と発達支援

第3章 肢体不自由教育と障害の重複化

 

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

 第1節 姿勢の発達段階

 第2節 姿勢の分類

 第3節 上肢を姿勢保持に用いる姿勢と操作に用いることができる姿勢

 第4節 体幹が直立した姿勢

 第5節 運動発達の2つの方向

 第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

 第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

第5章 姿勢と運動を支える感覚

 第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

 第2節 固有覚とその機能

 第3節 前庭覚とその機能

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

 第1節 中枢神経系、姿勢反射・反射と姿勢と運動発達の関係

 第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

 第3節 姿勢反射・反応各論

 第4節 脳の成熟に伴う原始反射の抑制

 第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

第7章 脳性まひの筋緊張障害

 第1節 脳性まひの定義と類型

 第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

 第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

 第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 

第3部:発達支援の実際1(姿勢と運動の支援)

第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

 第1節 低緊張への対応

 第2節 過剰に高い筋緊張への対応

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

 第1節 寝返りの意義

 第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

 第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

 第4節 寝返りの支援の実際

第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

 第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

 第2節 頸座の定義と要素

 第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

 第1節 座位の意義

 第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

 第3節 座位を支援するためのポイント

 第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

 第1節 立位の特徴

 第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

 第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

 第4節 立位での重心移動

 第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

 第1節 歩行の完成

 第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

 第3節 歩行支援のポイント

 第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

 第5節 前方支持歩行器と後方支持歩行器

 

第4部:発達支援の実際2(学習、環境・社会適応、摂食・嚥下の支援)

第14章 学習活動の支援

 第1節 学習する姿勢としての座位の意義

 第2節 上肢の操作と知的発達

 第3節 学習活動を促進する機能的座位姿勢

 第4節 上肢を使用した学習活動のための配慮事項

第15章 環境・社会適応の支援

 第1節 自立活動における環境の把握、人間関係及びコミュニケーション

 第2節 環境の把握と姿勢と運動

 第3節 人間関係の形成と姿勢と運動

 第4節 コミュニケーションと姿勢と運動

 第5節 環境の把握、人間関係、コミュニケーションと姿勢と運動との相互関連を踏まえた支援の重要性

第16章 摂食・嚥下の支援

 第1節 自立活動における健康の保持と肢体不自由

 第2節 摂食・嚥下の支援における留意事項

 第3節 摂食・嚥下しやすい姿勢のポイント

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

第1節 姿勢の発達段階

1.姿勢の発達段階とそれに対応した運動の発達

腹臥位→肘位→手位→座位→四つ這い位→立位となっており、この発達段階に対応して運動が発達していく。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.抗重力姿勢という考え方

●通常の生活において、人間は重力を意識することは殆どないが、常に重力の影響を受けている。この重力に抵抗して姿勢を保つための重要な特徴として頭を重力方向に向けるということがあげられる。

抗重力姿勢とは適当な筋緊張が保たれて、関節が適度に固定されて重力に負けずに一定の適応的な姿勢が保たれている状態をいう。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 運動発達の2つの方向

1.上から下への発達

首が座り、体幹がしっかりしてきて座位が可能となり、下肢の機能が高まり立位が可能となる。

●肢体不自由児にとって、頭と首や上肢に比較して下肢や下半身の動きは困難であることが多い。寝返り(姿勢変換)においても肩などの上半身から回旋しようとする。

●上から下へと発達していくという観点は、姿勢と運動の発達支援に関する長期的な目標設定とその目標設定へいたる短期的目標の設定において非常に重要なポイントである。

座位獲得の支援を行っているときから下肢、具体的には、足首・膝関節の状態に注意する。これは膝の伸展が不十分になると不安定な立位になってしまうためである。したがって、膝が屈曲した状態になるあぐら座位では、意識的に膝関節をストレッチするといった配慮が必要である。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.中央から左右への発達

上肢の運動は「肩-肘-手首-指」の順番に巧緻性や分化が進んでいく。中央から末端へという発達の流れに沿った支援が重要。この順序を守らないと課題の押しつけになる。

●幼児は絵を描くとき肩を中心として大きく腕全体を動かしている。幼児が肩を大きく動かしてなぐり描きをする時期に、「線からはみ出さないように、ていねいに塗りましょう」という指導を行った場合、指を細かく動かして目と指の協応運動をする必要があり、子どもには難しく、子どもに不全感や意欲の低下をもたらすことになりやすい。  

第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

1.4つの目標と生活・学習場面との関係  

●肢体不自由とは姿勢と運動の困難であることから、姿勢と運動に関するこれらの4つの分類が姿勢と運動の発達支援における目標となる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.4つの目標それぞれの内容

(1)姿勢保持

●座位、四つ這い位、立位など。自らの力で姿勢を保持できるようになることが目標である。

(2)上肢の操作

●持つ、書く、物へ手を伸ばす、食べるなど。これらは座位が保持できるようになることが前提になる。

(3)移動運動

●移動運動の獲得により子どもの活動空間は飛躍的に広がる。臥位では寝返りによる移動、肘位では這うことによる運動、四つ這い位では四つ這い移動、立位では歩行などである。

(4)姿勢変換

●あぐら座位から四つ這い位への変換では、体幹を左へ回旋させて左手を床につく。次に腰を持ち上げながら右手を床につく。こうして両手を床について腰を持ち上げた四つ這い位へと変換する。この姿勢変換では、体幹の回旋、左右の手を床につく、腰を持ち上げるという複数の運動が順序よく行われることが大事である。

3.4つの目標と自立活動の身体の動きとの関係

●自立活動の身体の動きの内容は、すべて4つの目標「姿勢保持、上肢操作、移動運動、姿勢変換」が含まれている。自立活動の身体の動きの指導にあたっては、4つの目標の観点から指導内容を選定して、総合的な課題として指導していくことが大事である。

第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

●座位姿勢の保持には背中の抗重力作用筋の適度な緊張が必要である。

●脳の障害などにより筋緊張が低い場合には適度な緊張は難しい。このことは学習行為などに大きな影響を与える。

●過緊張に関しても運動の困難が発生する。姿勢のとり方や適切な感覚入力などの支援によって、適度な筋緊張を保つことができるようになる対応が必要である。 

第5章 姿勢と運動を支える感覚

第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

●固有覚と前庭覚は姿勢と運動の制御に重要な役割を果たしている。

●固有覚は筋・腱・関節の緊張に関する感覚ということができる。

●前庭覚は頭の動きと頭に対する重力の方向に関する感覚である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 固有覚とその機能

1.固有覚とその関連用語

●身体の全体の位置、身体各部の位置、身体の動き、身体の傾きなどの位置の感覚、運動の感覚、抵抗の感覚、重さの感覚などの総合的な感覚である。

●固有覚と関連の深いことばとして、体性感覚がある。体性感覚には表在感覚(皮膚感覚)と深部感覚の2つが含まれる。表在感覚には触覚、温冷覚、痛覚があり、深部感覚には運動覚(関節の角度など)、圧覚、振動覚がある。このような感覚情報に基づいて、姿勢の保持や姿勢変換、運動が適切に行われる。

2.固有覚が姿勢と運動に果たす役割

●姿勢と運動を支える重要な感覚。

姿勢の保持や姿勢変換、あるいは各種の運動の遂行によって生じる筋肉・腱・関節の緊張に関する情報をとらえてフィードバックすることによって、適切な姿勢と運動の遂行を可能にしている。

子どもはさまざまな姿勢をとり、さまざまな運動をすることによって、自分自身の身体の各部分と全体との関係などについて学習していく。これはボディーイメージを育てることと言い換えることもできる。

第3節 前庭覚とその機能

1.「前庭」ということば及び2つの前庭覚について

●前庭覚には2つの感覚がある。1つは頭が動いている感覚、もう1つが頭に対する重力の方向の感覚。前者は内耳の蝸牛及び卵形嚢や球形嚢で受け取られ、後者は三半規管でとらえられる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.前庭覚には5つの機能がある

●卵形嚢と球形嚢や三半規管が発生した信号は、前庭神経を通じて延髄内の前庭覚に伝えられ、ここには脳内を上行する経路が4つと、脊髄へ下行する経路が1つある。そしてこれらの経路に対応して5つの機能がある。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.前庭-眼球運動系

●内耳の三半規管でとらえられた頭の動きは、延髄の前庭神経核から眼球運動中枢である延髄の外転神経核、中脳の動眼神経覚と滑車神経核に伝えられる。これらの3つの核が外眼筋をコントロールして眼球を動かす。 

4.前庭-網様体系

前庭感覚や固有覚は脳幹の網様体へ集められて、脳を活性化するエネルギーに変換されて、脳の各部位へ送られる。その結果として脳の覚醒レベルを高める。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.前庭-視床下部系

前庭-視床下部系は自律神経系に影響する。

6.前庭-視床下部-辺縁系

●前庭-網様体系と共同して、情動を刺激して外界への関心と反応の準備状態をつくる。

7.前庭-脊髄系

内耳の迷路から脳幹の前庭神経核に入った前庭刺激は、前庭脊髄路を下降して頚筋を含む全身の伸筋の収縮を促す。

前庭刺激によって、立ち直り反応や平衡反応に必要な頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。 

●前庭・脊髄系のしくみは、パラシュート反応・ホッピング反応などの前庭刺激によって誘発される姿勢反射・反応を支える大切な経路でもある。

運動の発達支援、特に自立活動の身体の動きの指導にあたっては、前庭・脊髄系の働きを基礎知識として理解しておくことが大事である。

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こちらは「人体の正常構造と機能」という本から持ってきた図で、”前庭覚の伝導路”というタイトルがついています。これをご紹介した理由は、重要とされる前庭-脊髄系を理解するうえで良い図ではないかと思ったためです。

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

●姿勢反射・反応には、それらを誘発する刺激があり、これらを適切に活用することが重要である。

第1節 中枢神経系、姿勢反射・反応と姿勢と運動発達の関係

●姿勢と運動は、随意的な姿勢と運動と姿勢反射・反応の2つから構成されており、姿勢反射・反応の成熟は、中枢神経系の成熟及び姿勢と運動の発達と密接な関係がある。 

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第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

1.原始反射とは

●新生児の運動はほとんどが脳幹・脊髄レベルの反射で成立している。

2.立ち直り反応

立ち直り反応はさまざまな姿勢の保持やバランスを自動的に保つ反応であり、姿勢と運動発達支援において重要な基礎となる反応である。 

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3.平衡反応

●平衡反応は立ち直り反応と同様に、さまざまな姿勢の保持や運動を自動的に可能にする反応である。

第3節 姿勢反射・反応各論

2.立ち直り反応

(1)抗重力性頭の立ち直り反応

●身体を左右や前後に傾けたときに頭が重力線上に保たれる反応。

●誘発刺激は、頭の重力の方向に対する感覚(前庭覚)と視覚がある。

●この反応は身体が傾いてバランスが崩れた際に、傾いた側と反対方向へ頭を立ち直らせて姿勢を保つ働きを担っている。

●座位を保持するための重要な反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、ゆっくりと小さく左に傾ける。傾けることによって視覚や前庭覚が刺激されて、頭の立ち直り反応が誘発されやすくなる。その際に頭の立ち直りが少しでも出てくるかどうかに注意しながら傾けていく。頭の立ち直りがみられなかったり、少ない場合には決して大きく傾けないで元に戻すことが大事である。少しずつ何回か傾けて刺激を加えながら、辛抱強く頭の立ち直りが出てくることを待つ姿勢が大事である。

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(2)デロテーション反応(巻き戻し反応)

●デロテーション反応は仰向け(背臥位)からうつ伏せ(腹臥位)への寝返りのことである。通常、生後6か月ごろからみられる。誘発刺激は、下半身をひねった際に起こる体幹のねじれの感覚(固有覚)である。 

●寝返りは下肢を動かすことが起動となり、寝返り後は頭が無意識に挙上されている。側弯の逆方向やいつも頭を向けている側と逆側へのデロテーション反応は身体の非対称性の矯正に有効である。

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3.パラシュート反応

●パラシュート反応は「保護伸展反応」と記載されることも多い。

●座位で前方、側方、後方に倒れそうになったとき、手を伸ばして(伸展)、倒れて頭を打つのを防ぐ(頭を保護する)反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、急速に大きく傾けることによって誘発されやすくなる。頭の立ち直り反応同様、何回か傾けて刺激を加えながら辛抱強く待つ姿勢が大事である。

●パラシュート反応は、前方、側方、後方の順番で出現する。

パラシュート反応は自動的な四つ這い移動を可能にする。

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4.平衡反応

(1)傾斜反応

●傾斜反応は座位や立位のバランスを保ち、姿勢を保持する働きを担っている。

傾斜反応は、臥位・肘位・手位・座位・四つ這い位・立位等のすべてでみられる反応である。

●身体に部分的な反応である抗重力性頭の立ち直り反応と異なり、傾斜反応は頭・体幹・下肢を含む全身の協調反応である。

●誘発刺激は抗重力性頭の立ち直り反応と同じように、視覚と前庭覚(頭の重力方向に対する感覚)の2つである。 

1人で立位が取れるようになるための発達支援において傾斜反応は最も重要な反応である。

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(2)ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。側方・前方・後方のホッピング反応があり、この順序で出現する。

ホッピング反応は自動的な歩行を可能にする働きを担っている。

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第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

●姿勢と運動の発達支援では、姿勢と運動を促通する反射・反応と抑制する反射・反応がある。 

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第7章 脳性まひの筋緊張障害

第1節 脳性まひの定義と類型

1.脳性まひとは:定義

●厚生省脳性麻痺研究班(1968)によれば、脳性まひとは「受胎から新生児(4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化し得る運動及び姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や、一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」と定義されている。 

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4.脳性まひの類型

●脳性まひはその類型によって神経生理学的症状等の特徴は全くといってよいほど異なっている。 

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5.脳性まひと重複障害

●脳性まひ児には姿勢と運動の障害以外に多くの随伴症状がみられる。

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6.脳性まひの神経生理学的症状

●神経生理学的には、脳性まひの症状は3つに分類される。筋緊張障害、相反神経支配の障害及び姿勢反射の障害。

第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

●除皮質緊張、除脳緊張という言葉は、動物実験で動物の脳の皮質を取り去ったり(除皮質)、皮質に加えて脳内の基底核とよばれる高さ付近で脳の線維を切断したり(除脳)して、脳の働きを研究したことに基づく言葉である。 

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第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

1.除皮質緊張とは

●除皮質緊張とは、上肢屈曲・下肢伸展を最大の特徴とする筋緊張障害である。

脳性まひでは痙直型(大脳皮質や錐体路に問題)にみられる筋緊張障害である。 

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2.除皮質緊張による身体の過剰な伸展と身体の変形など

除皮質緊張は下肢伸展・内転・内旋の状態のため、股関節の亜脱臼や脱臼などの障害が生じることが多い。 

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3.除皮質緊張が姿勢と運動に及ぼす影響

●痙直型脳性まひ児は生活及び学習に多くの困難に直面している。したがって、除皮質緊張の影響を減少させ、これらの困難を克服する支援が重要である。  

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4.除皮質緊張への対応

(1)除皮質緊張への対応の原則

除皮質緊張と反対の動かし方や姿勢をすることが原則である。 

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(2)一か所の関節を緩めると他の関節の緊張も落ちる

一か所の関節を緩めることで、たとえば足指を背屈させることで、他の関節の屈曲・外旋・屈曲・外転も同時に起こる。それによって、下肢全体の緊張も同時に低下する。この一か所の関節を動かすことで他の関節も連動して動く作用を「共同運動」とよぶ。 

共同運動は、脳障害によって上位中枢の抑制機能が低下・消失したときに起こる。脳障害による陽性徴候の中でも重要なもので、脊髄レベルの原始的な運動が、上位中枢からの抑制が弱まったために顕在化したものである。

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5.除皮質緊張への対応におけるあぐら座の効用

あぐら座位除皮質緊張による過剰な伸展と過緊張を減少させるための効果的な姿勢であり、仰臥位の後に下肢を屈曲・外転・外旋した状態であぐら座位へ姿勢変換するとよい。  

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6.学校や家庭であぐら座位をどれくらいの時間とればよいか

「がんばらないことが大事」「楽しく座れることを心がける」と答えている。1回の持続時間は短くてもよい。結果的に1日に数十分のあぐら座位をとっていたということが望ましい。

数か月で「股関節の開きがよくなってきた」「立位や歩行のときに下肢の交叉が軽くなってきた」などの効果が期待できる。

7.床上でのあぐら座位と座位保持いすの比較

座位保持いすはあぐら座位ほどではないが効用があるが、長時間の場合、除皮質緊張に悪影響を起こす恐れがある。特に、下肢内転による股関節の可動域低下や関節拘縮に気をつけなければならない。床でのあぐら座位やまたがることができるいすでの座位など、多様な座位を活用することが大事である。

第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.痙直型の筋緊張

●痙直型の筋緊張は高い緊張(過緊張)で一定していることが特徴である。

2.痙直型の過緊張がもたらすこと

●静止した状態や姿勢が固定された状態で続きやすく、身体の変形や関節拘縮が進行しやすい。 

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3.支援の原則:動くことの重視

姿勢と運動の支援は、自分で動くことあるいは他動的に動かすことが原則となる。(下記の表7-12に書かれた内容がとても重要だと思います)

なお、相反神経支配とは主動筋(例えば、大腿四頭筋)が収縮しているときには、反対側の拮抗筋(ハムストリングス)は弛緩するように神経が調整するというものです。

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相反神経支配と痙直型脳性まひの相反神経支配の障害左下の四角で囲んだ部分)

腕を伸ばすには上腕二頭筋が弛緩(脱力)する必要があります。そのための指示は脳から出される収縮抑制命令というものですが、その命令が不十分(抑制不全)だと、腕を伸ばすことはできません。

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第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.アテトーゼ型という用語について

●アテトーゼとは筋緊張障害の一種であり、錐体外路障害の中でも基底核障害によって起こる不随意運動を意味している。

●錐体路障害である痙直型、錐体外路障害の中でも小脳障害に起因する失調型とともに慣習的に用いられている。

●筋緊張の変動とは筋緊張が一気に高くなったり一気に低くなったりと急激に変化すること。

こちらのページのほぼ中断に、痙直型とアテトーゼ型の比較表が出ています。