脳性まひ児の発達支援2

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

 

全体の目次を確認されたい場合は ”脳性まひ児の発達支援1”をクリックしてください。

こちらは第3部の全体像です。

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第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

第1節 低緊張への対応

●肢体不自由特別支援学校に筋緊張の低い脳性まひ児が在籍していることは珍しくない。

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1.伸張反射の利用

(1)伸張反射とは

●筋が急速に引き伸ばされたときに筋が一定の長さを保とうとして収縮する。これを伸張反射といい、抗重力筋や顎の筋肉によく発達している。

●伸張反射の反射中枢は脊髄レベルにあるが、同時に脳の上位中枢から抑制を受けて、適当な強さに反射がコントロールされている。そのため錐体路が障害されると抑制がとれコントロールが難しくなって反射が過剰に強く出現するようになる。

伸張反射とクローヌス(間代)は脳性まひでは痙直型にみられる特徴である。

●伸張反射が亢進しているとクローヌス(間代)がみられる。クローヌスはすべての関節で起こり得るが、臨床的には足関節(足間代)と膝関節(膝間代)でみられやすい。 

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(2)伸張反射を利用して筋緊張を高める

伸張反射を利用して伸筋の収縮を促通することができる。

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2.関節圧縮の利用

●関節圧縮は固有覚を利用するものである。

体重あるいは関節を圧縮する身体部位に日常的にかかっている以上の負荷をかける。この方法は圧縮された関節付近の筋群の同時収縮を促通して筋緊張を高める効果がある。これを肩、腰、頭などに用いると関節の近位部の固定性を高める。 

●肘位での関節圧縮:両肩から上腕の部分を支持者が保持して両肘を床に向かって垂直に押し込んで肘位を保持する。肘位でこの関節圧縮を行うと、肘と肩の関節の周辺の筋肉が同時収縮して緊張感が高まり、結果的に肢位を安定させると同時に、肩の近位部である首の固定性を高めると考えられる。

●腹臥位で頭の挙上が困難なときに肘位での関節圧縮を利用すると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、首を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。

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3.キーポイント・オブ・コントロールの利用

●人間の身体は、屈曲や伸展により筋緊張がさまざまに変化する。屈曲や伸展によってある身体のポイントをコントロールすることにより筋緊張を高めたり、低めたりすることができる。このキーポイント・オブ・コントロールはボバース(1980)によって提唱されたものである。

全身の筋緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢が都合がよい。長座は股関節伸展・膝関節伸展であって下肢の筋緊張が高くなりやすい。

●あぐら座位は股関節と膝関節が屈曲しているので筋緊張を低くする効果がある。 

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4.前庭刺激の利用

前庭刺激によって、頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。

「突然、急速、非リズミカル」に入力すると興奮性、つまり筋の収縮を促進する。逆にリズミカルな入力は抑制性、つまり筋を弛緩させる。

●前庭刺激の興奮性入力の具体的な方法を例示すると、腹臥位や座位で上下に揺らす前庭刺激を用いて伸筋収縮の促通を行うやり方が考えられる。(促通とは、ここでは神経や筋などへ刺激を与えて筋の収縮をうながす意味で用いている) 

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第2節 過剰に高い筋緊張への対応

1.関節圧縮の利用

●体重またはそれ以下の力での関節圧縮を使用すると筋緊張を低減する効果がある。これは筋緊張が亢進している関節周囲筋を抑制し、その関節周囲の筋緊張を一時的に低下させる。

2.キーポイント・オブ・コントロールの利用

肩と肩甲帯を屈曲させるとその付近の筋緊張を低める効果がある。

ウェストラインの屈曲は背中・腰付近の伸筋緊張を低める効果がある。

股関節及び膝関節を屈曲させた姿勢が全身の筋緊張を低める。あぐら座位は股関節屈曲・膝関節屈曲であるので下肢の筋緊張は低くなりやすい。

3.前庭刺激の利用

リズミカルな入力は抑制性として働き筋を弛緩させる。つまり筋緊張を低減させる効果がある。

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

第1節 寝返りの意義

●重度の肢体不自由児では、寝たきりの状態で身体の変形や拘縮や痛みのある子どもが多く見られる。

第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

1.仰向けとうつ伏せの比較

●仰向けは身体を支える面積が狭く、重みが一部に集中するため身体を変形させやすい。そのため仰向けからうつ伏せへ姿勢変換させ、過度の負担を低減する必要がある。

2.仰向けとうつ伏せの間の姿勢変換:寝返り

●自発的寝返りのためには、足を持ち上げて全身をやや屈曲させることが必要である。運動の発達は頭から足の先へと発達していくために、姿勢と運動の発達に遅れがある肢体不自由児では、この足を持ち上げる動きに困難があることが多い。 

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第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

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第4節 寝返りの支援の実際

●回転の動きを強くあるいは速く行うと、子ども顔が強く床にぶつかるので、ゆっくりとそっと動かす。 

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●うつ伏せから仰向けへは、腰の骨盤部分を上方に持ち上げるようにして体重を体幹と下肢に分散して回転すると容易に行うことができる。

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第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

1.頚座の意義

●頚座は姿勢コントロールの第一歩であり、姿勢と運動発達に困難のみられる子どもの姿勢と運動発達支援の第一歩でもある。

2.頚座と姿勢発達の基本姿勢としての腹臥位の意義

●腹臥位は仰臥位とは異なり、伸展がとりやすい。伸展がとりやすい姿勢が重要なのは、肘位・手位・座位・四つ這い位・立位はすべて伸展を特徴とする姿勢だからである。

第2節 頚座の定義と要素

●頚座(首の座り)の定義は諸家によって異なっている。

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第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

1.ハイガード姿勢

●ハイガード姿勢は、幼児の立位や歩行時にみられる両手を高く上げてバランスをとる姿勢であり、この姿勢は頚筋・背筋を収縮させて伸展姿勢を強化し、抗重力姿勢をとりやすくする。 

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2.肘位と関節圧縮

●腹臥位で頭の挙上をはかるときに、肘位をとらせると、両肩、両肘、腰を結ぶ三角形の姿勢となり、頚を支える体幹・上肢の姿勢が安定して、頭の挙上が容易になる。 

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3.上肢の伸展と外旋

●腹臥位で上肢を前・上方に開きぎみに伸展し外旋させると肩・頚あたりの筋が収縮して挙上を促通する。なお、この技法はキーポイント・オブ・コントロールの1つである。 

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4.頚・背・腰部の伸張による伸張反射

●腰・背・頚あたりの伸筋を急速に引き伸ばすと伸張反射により伸筋の収縮が促通されて、その結果として頭の前方からの挙上が起こりやすくなる。

伸張反射は肘位とともにかなり効果的な技法であり、肘位とあわせて用いると効果が増す。 

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5.デロテーション反応

●デロテーション反応とは仰臥位の状態で屈曲した左足をクランクとして骨盤を回旋させる。すると体幹が回転して頭が持ち上がった姿勢になる。この反応が現われれば、次に自発的寝返りが出現する。  

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6.触覚や振動覚

軽くすばやい触覚は筋の収縮をうながす。筋腹への振動覚も同様であり、前庭覚と違い、収縮させたい筋だけを刺激できるので頚筋や背筋へ直接刺激する。

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

第1節 座位の意義

●座位がとれれば健康の保持と学習面の両方でさまざま効用がある。さらに、人間関係やコミュニケーションといった社会適応や環境適応に関しても有用である。 

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第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

1.座位の傾斜反応とパラシュート反応

(1)座位の傾斜反応

●座っている床がゆっくりと傾斜したときにバランスを保とうとして、頭・体幹が傾斜方向と反対方向へ立ち直る反応である。 

●座位の傾斜反応には3つの特徴がある。

・脊柱がカーブする。

・傾斜と反対側の下肢が挙上。

・傾斜と反対側に頭が傾斜する。

●学校や家庭でできる簡単な支援法

 

・支援者があぐら座位をとって子どもの腰辺りを両手で支えてだっこした状態(向きは自由)をとる。その状態で左右や前後にゆっくりと小さく傾けてみる。体幹のカーブもしくは頭の立ち直り反応が出ている場合は、このやり方でゆっくりと小さく傾けることをくり返す。目標は体幹のカーブであり、辛抱強く継続することが大事である。

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(2)パラシュート反応

●座位で大きくあるいは急速に傾いたときに、傾斜反応では対応しきれない場合にパラシュート反応がみられる。

●発達支援の順序として傾斜反応の支援の次に行うとよい。  

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2.座位の傾斜反応の基礎としての腹臥位の傾斜反応

●腹臥位の傾斜反応を誘発することが間接的に座位の傾斜反応を引き出すことにもなる。

●傾斜反応の特徴の1つである体幹のカーブは腹臥位でも座位でも同様である。したがって、ラージボールや傾斜台やその他の多様な教具・遊具を利用して、座位だけでなく腹臥位や他の姿勢での支援の工夫を考えることが大事である。   

●ラージボールがない場合は、大きめで硬めのクッションを重ねて使う。

 

●傾斜反応は頭と重力の方向の感覚によって誘発されることを留意して、頭をいろいろな方向に向けることができる動きや姿勢を工夫してみることが大事である。また、「バランス遊び」として楽しく行うことも大切である。

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第3節 座位を支援するためのポイント

●座位保持に必要な筋緊張のコントロールには、適切なポイントへの介助が必要になる。

座位の支援のポイントは用い方によって緊張を高めたり、あるいは緊張を低めたりするので、一人ひとりの緊張状態と支援の目標をあわせて使い分ける必要がある。全身の緊張を高めるには股関節及び膝関節を伸展させた姿勢、たとえば長座がよい。一方、あぐら座位は筋緊張を低くする効果がある。あぐら座位は全身の伸展緊張が高い場合に有用な姿勢である。

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第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

●座位の次は立位の獲得だが、立位をとるためには座位から立位への姿勢変換が必要である。

●子どもの立ち上がる力や自発的に立ち上がる意欲を大事にした支援が求められる。

前から子どもの両手を持って支援するやり方が望ましい。

●前から子どもの両手を持って支援するやり方では、子どもの手の持ち方に注意が必要である。図11-7の持ち方がよい。 

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 ・前から両手を持って引き上げていく(膝の角度が90度以上まで)。

 ・下肢の伸展が楽になり立位に移行する。

 ・下肢の伸展とともに上肢の屈曲を意識すると立ち上がりやすい。

これは子どもが支援者の親指を握る形になっている。握るという行為は子どもの自発的参加を促す。また、握る力や握る意志が少ない場合でも、このやり方であれば介助者がそれを補助することにより安全に支援することができる。 

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第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

第1節 立位の特徴

●立位は全身が伸展しているという特徴がある。

●肢体不自由児では屈曲姿勢が多く、立位の支援においては伸展姿勢の保持が重要な課題となることが多い。

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第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

●立位の獲得には立位の傾斜反応を引き出す支援が重要となる。

立位の傾斜反応は前方と後方では足関節の働きが中心になり、側方では膝関節の働きが中心になる。 

●小型トランポリンは子どもが立っている位置を変えないで前後左右の傾斜反応を誘発できるので非常に使いやすく便利な教具である。 

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画像は“mom-ma”さまより拝借しました。

第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

伸展姿勢には全身の伸筋を収縮させる必要がある。背筋、臀部の筋、大腿四頭筋、下腿の筋など

1.立位保持の支援で大事な身体のキーポイント

●尖足の場合、股関節屈曲、膝関節屈曲で円背になりやすいため、補装靴の使用を検討する。 

①胸をはる

②背中を伸ばす

③腰と尻をやや前に出す

④膝を伸ばす

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2.立位獲得支援の経過に沿ったキーポイント

●立位獲得のための支援における介助は腰介助から肩介助へという方向が大事である。 

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第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

●歩行は移動することと立位を保つことの2つを同時に行うという複雑な協調を必要とする運動である。

●連続的にバランスを前方に崩していきながら、なおかつバランスを崩さないという2つの矛盾を解決しなければならない。 

この姿勢を30秒程度行った後で要介助歩行を行なうと、上体のふらつきがやや減ってしかも足が出やすくなることが多い。

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第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

第1節 歩行の完成

●歩行は中枢神経系の成熟レベル(延髄、橋、中脳、大脳)に依存しており、姿勢反射・反応の成熟過程、つまり原始反射の抑制、立ち直り反応の獲得、平衡反応の獲得が歩行獲得の基礎にある

第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。このホッピング反応は自動的な歩行を可能にするという意味で、姿勢と運動の発達支援では重要な反応である。 

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1.歩行とホッピング反応の関係

●ホッピング反応の有無は歩行を予測するための指標として有用である。ホッピング反応がみられない場合には、つかまり歩行も杖歩行もできないと考えられている。

2.歩行支援におけるホッピング反応誘発の実際

●ホッピング反応は側方ホッピング反応からスタートすべき。

●ホッピングの誘発は肩介助が原則なので、肩介助で立位をとれることが前提になる。

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第3節 歩行支援のポイント

●支援は後方腰介助→後方肩介助→前方介助→側方介助の順に支援を進めていくことがよい。

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第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

1.突進様に歩いたり、ふらふらと静止できない場合

●歩行そのものを練習するのではなく、立位で安定して静止できることを目指す。

●最初に立位の姿勢アライメントを整えることが大事である。次に少しずつ前傾させ前方傾斜反応を誘発し全身の伸展が生起され「抗重力身体伸展姿勢」が保ちやすくなる。この状態で抗重力伸展立位姿勢の獲得と立位の静止状態でのバランスの向上をはかることができる。

2.体軸内回旋を活用した歩行

(1)体軸内回旋とは

立ち直り反応の影響を受けて発達する。

具体的な支援の工夫としては、たとえば座位をとった子どもの前に大好きなおもちゃをいくつか置いて、体軸を回旋させてそのおもちゃをとって遊ぶなどの活動が考えられる。

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(2)体軸内回旋を用いての歩行介助

●足が出ない場合、体軸内回旋を用いて足を一歩出させて歩行させることができる。 

図の右端の絵の状態で、介助者が右手を前方へ軽く引っ張ると、前方ホッピング反応としての右足の移動が出現しやすい。

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脳性まひ児の発達支援1

小児障害児へのマッサージに関わるようになり、『感覚統合法の理論と実践』という本で基礎ともいえる部分を勉強しました。そして、“動作法”という優れた支援方法があるのを知りました。さらに脳の可塑性に着目した“アナット・バニエル・メソッド(本は『限界を超える子どもたち 脳・身体・障害 への新たなアプローチ』)という画期的なアプローチに感銘を受け、患者さまの脳と施術者である自分の脳がつながるイメージ(B2B)をもって、メソッドである”9つの大事なこと”(ブログ中央の”目次”を参照ください)の実践を意識しています。

しかしながら、大きな壁にぶつかりました。それは、今まで担当していた患者さまの多くは、座位もとれない重度の障害をもっていたのに対し、新しい患者さまは座位あるいは四つ這い位は取れるが、安定した立位が取れないといった動くことができる患者さまだからです。

大きな何かが欠けているという実感はありましたが、モヤがかかったような状況でした。そのモヤが晴れたのは仲間の仕事ぶりを見学させてもらったこと、また、別の仲間が勧めてくれた数冊の本のお陰でした。今回のブログはその中の1冊です。

そして、“モヤ”とは、”発達段階における運動特性とリハビリテーション”というような類のものでした。これはOT(作業療法士)やPT(理学療法士)の先生が取り組むべき分野だと思いますが、この分野に踏み込まないと患者さまの現状を把握することはできません。

小児障害マッサージとしての支援内容は、過緊張あるいは低緊張の課題に取り組むことになると思いますが、発達段階に応じたリハビリテーションがどんなものか、日常生活ではどのような特徴として表れるのか、どんな問題をもっているのか、それをどのように改善していくのか。あるいは鍼という手段は使えるのか、頭鍼・頭皮鍼は有効か、脳の可塑性(アナット・バニエル・メソッド)に働きかけるにはどんな工夫をすればよいかなどについて考えていく必要があると感じました。

過去ブログ“ボイタ法・ボバース法”の中で、私は偉そうに次のようなことを言っていました。

『まず図書館から借りてきたのは「ボイタ法の治療原理 反射性移動運動と運動発達における筋活動」という本です。こちらの本の魅力は何といってもボイタ(Vaclav Vojta)自身が書いたものであるという点です。読んでみると、運動学(キネマティクス)とリハビリテーション学についての知識が不足している私には、理解するのは難しいということが分かりし、早々に断念することにしました。』

抜けていたのはまさにこの部分、避けていた部分でした。結局、ブーメランのように私自身に舞い戻ったという感じです。 

著者:木舩憲幸

出版:北大路書房

発行:2011年8月

ブログは第2部と第3部が対象です。また完全に勉強モードのブログです。そのため個人的に重要であると感じた部分の要点を列挙する形式となっており、つまみ食い状態のため、不親切な書き方になっていると思います。なお、長文のため2つに分けており、今回は“1”ということになります。

目次

第1部:肢体不自由教育と発達支援

第1章 肢体不自由とは

第2章 肢体不自由教育と発達支援

第3章 肢体不自由教育と障害の重複化

 

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

 第1節 姿勢の発達段階

 第2節 姿勢の分類

 第3節 上肢を姿勢保持に用いる姿勢と操作に用いることができる姿勢

 第4節 体幹が直立した姿勢

 第5節 運動発達の2つの方向

 第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

 第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

第5章 姿勢と運動を支える感覚

 第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

 第2節 固有覚とその機能

 第3節 前庭覚とその機能

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

 第1節 中枢神経系、姿勢反射・反射と姿勢と運動発達の関係

 第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

 第3節 姿勢反射・反応各論

 第4節 脳の成熟に伴う原始反射の抑制

 第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

第7章 脳性まひの筋緊張障害

 第1節 脳性まひの定義と類型

 第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

 第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

 第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

 

第3部:発達支援の実際1(姿勢と運動の支援)

第8章 姿勢と運動発達支援の実際1:筋緊張障害への対応

 第1節 低緊張への対応

 第2節 過剰に高い筋緊張への対応

第9章 姿勢と運動発達支援の実際2:臥位と寝返り

 第1節 寝返りの意義

 第2節 仰向け、うつ伏せと寝返り

 第3節 寝返りに関係ある姿勢反応

 第4節 寝返りの支援の実際

第10章 姿勢と運動発達支援の実際3:頸座の支援

 第1節 姿勢と運動発達における頸座の意義

 第2節 頸座の定義と要素

 第3節 脳性まひ児の頸座獲得のための支援の実際

第11章 姿勢と運動発達支援の実際4:座位の支援

 第1節 座位の意義

 第2節 座位と関係する姿勢反射・反応

 第3節 座位を支援するためのポイント

 第4節 座位から立位への姿勢変換の支援

第12章 姿勢と運動発達支援の実際5:立位の支援

 第1節 立位の特徴

 第2節 立位と関係する姿勢反射・反応:傾斜反応

 第3節 立位保持と獲得の支援のポイント

 第4節 立位での重心移動

 第5節 歩行の獲得には立位の安定が大事

第13章 姿勢と運動発達支援の実際6:歩行の支援

 第1節 歩行の完成

 第2節 歩行と関係する姿勢反応:ホッピング反応

 第3節 歩行支援のポイント

 第4節 さまざまな歩行のようすと支援の実際

 第5節 前方支持歩行器と後方支持歩行器

 

第4部:発達支援の実際2(学習、環境・社会適応、摂食・嚥下の支援)

第14章 学習活動の支援

 第1節 学習する姿勢としての座位の意義

 第2節 上肢の操作と知的発達

 第3節 学習活動を促進する機能的座位姿勢

 第4節 上肢を使用した学習活動のための配慮事項

第15章 環境・社会適応の支援

 第1節 自立活動における環境の把握、人間関係及びコミュニケーション

 第2節 環境の把握と姿勢と運動

 第3節 人間関係の形成と姿勢と運動

 第4節 コミュニケーションと姿勢と運動

 第5節 環境の把握、人間関係、コミュニケーションと姿勢と運動との相互関連を踏まえた支援の重要性

第16章 摂食・嚥下の支援

 第1節 自立活動における健康の保持と肢体不自由

 第2節 摂食・嚥下の支援における留意事項

 第3節 摂食・嚥下しやすい姿勢のポイント

第2部:発達支援のための基礎知識

第4章 姿勢と運動の発達

第1節 姿勢の発達段階

1.姿勢の発達段階とそれに対応した運動の発達

腹臥位→肘位→手位→座位→四つ這い位→立位となっており、この発達段階に対応して運動が発達していく。 

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2.抗重力姿勢という考え方

●通常の生活において、人間は重力を意識することは殆どないが、常に重力の影響を受けている。この重力に抵抗して姿勢を保つための重要な特徴として頭を重力方向に向けるということがあげられる。

抗重力姿勢とは適当な筋緊張が保たれて、関節が適度に固定されて重力に負けずに一定の適応的な姿勢が保たれている状態をいう。 

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第5節 運動発達の2つの方向

1.上から下への発達

首が座り、体幹がしっかりしてきて座位が可能となり、下肢の機能が高まり立位が可能となる。

●肢体不自由児にとって、頭と首や上肢に比較して下肢や下半身の動きは困難であることが多い。寝返り(姿勢変換)においても肩などの上半身から回旋しようとする。

●上から下へと発達していくという観点は、姿勢と運動の発達支援に関する長期的な目標設定とその目標設定へいたる短期的目標の設定において非常に重要なポイントである。

座位獲得の支援を行っているときから下肢、具体的には、足首・膝関節の状態に注意する。これは膝の伸展が不十分になると不安定な立位になってしまうためである。したがって、膝が屈曲した状態になるあぐら座位では、意識的に膝関節をストレッチするといった配慮が必要である。  

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2.中央から左右への発達

上肢の運動は「肩-肘-手首-指」の順番に巧緻性や分化が進んでいく。中央から末端へという発達の流れに沿った支援が重要。この順序を守らないと課題の押しつけになる。

●幼児は絵を描くとき肩を中心として大きく腕全体を動かしている。幼児が肩を大きく動かしてなぐり描きをする時期に、「線からはみ出さないように、ていねいに塗りましょう」という指導を行った場合、指を細かく動かして目と指の協応運動をする必要があり、子どもには難しく、子どもに不全感や意欲の低下をもたらすことになりやすい。  

第6節 姿勢と運動発達の支援における4つの目標

1.4つの目標と生活・学習場面との関係  

●肢体不自由とは姿勢と運動の困難であることから、姿勢と運動に関するこれらの4つの分類が姿勢と運動の発達支援における目標となる。

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2.4つの目標それぞれの内容

(1)姿勢保持

●座位、四つ這い位、立位など。自らの力で姿勢を保持できるようになることが目標である。

(2)上肢の操作

●持つ、書く、物へ手を伸ばす、食べるなど。これらは座位が保持できるようになることが前提になる。

(3)移動運動

●移動運動の獲得により子どもの活動空間は飛躍的に広がる。臥位では寝返りによる移動、肘位では這うことによる運動、四つ這い位では四つ這い移動、立位では歩行などである。

(4)姿勢変換

●あぐら座位から四つ這い位への変換では、体幹を左へ回旋させて左手を床につく。次に腰を持ち上げながら右手を床につく。こうして両手を床について腰を持ち上げた四つ這い位へと変換する。この姿勢変換では、体幹の回旋、左右の手を床につく、腰を持ち上げるという複数の運動が順序よく行われることが大事である。

3.4つの目標と自立活動の身体の動きとの関係

●自立活動の身体の動きの内容は、すべて4つの目標「姿勢保持、上肢操作、移動運動、姿勢変換」が含まれている。自立活動の身体の動きの指導にあたっては、4つの目標の観点から指導内容を選定して、総合的な課題として指導していくことが大事である。

第7節 姿勢と運動発達の支援と並行して行うこと:筋緊張障害への対応

●座位姿勢の保持には背中の抗重力作用筋の適度な緊張が必要である。

●脳の障害などにより筋緊張が低い場合には適度な緊張は難しい。このことは学習行為などに大きな影響を与える。

●過緊張に関しても運動の困難が発生する。姿勢のとり方や適切な感覚入力などの支援によって、適度な筋緊張を保つことができるようになる対応が必要である。 

第5章 姿勢と運動を支える感覚

第1節 姿勢と運動を支える固有覚と前庭覚

●固有覚と前庭覚は姿勢と運動の制御に重要な役割を果たしている。

●固有覚は筋・腱・関節の緊張に関する感覚ということができる。

●前庭覚は頭の動きと頭に対する重力の方向に関する感覚である。

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第2節 固有覚とその機能

1.固有覚とその関連用語

●身体の全体の位置、身体各部の位置、身体の動き、身体の傾きなどの位置の感覚、運動の感覚、抵抗の感覚、重さの感覚などの総合的な感覚である。

●固有覚と関連の深いことばとして、体性感覚がある。体性感覚には表在感覚(皮膚感覚)と深部感覚の2つが含まれる。表在感覚には触覚、温冷覚、痛覚があり、深部感覚には運動覚(関節の角度など)、圧覚、振動覚がある。このような感覚情報に基づいて、姿勢の保持や姿勢変換、運動が適切に行われる。

2.固有覚が姿勢と運動に果たす役割

●姿勢と運動を支える重要な感覚。

姿勢の保持や姿勢変換、あるいは各種の運動の遂行によって生じる筋肉・腱・関節の緊張に関する情報をとらえてフィードバックすることによって、適切な姿勢と運動の遂行を可能にしている。

子どもはさまざまな姿勢をとり、さまざまな運動をすることによって、自分自身の身体の各部分と全体との関係などについて学習していく。これはボディーイメージを育てることと言い換えることもできる。

第3節 前庭覚とその機能

1.「前庭」ということば及び2つの前庭覚について

●前庭覚には2つの感覚がある。1つは頭が動いている感覚、もう1つが頭に対する重力の方向の感覚。前者は内耳の蝸牛及び卵形嚢や球形嚢で受け取られ、後者は三半規管でとらえられる。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.前庭覚には5つの機能がある

●卵形嚢と球形嚢や三半規管が発生した信号は、前庭神経を通じて延髄内の前庭覚に伝えられ、ここには脳内を上行する経路が4つと、脊髄へ下行する経路が1つある。そしてこれらの経路に対応して5つの機能がある。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.前庭-眼球運動系

●内耳の三半規管でとらえられた頭の動きは、延髄の前庭神経核から眼球運動中枢である延髄の外転神経核、中脳の動眼神経覚と滑車神経核に伝えられる。これらの3つの核が外眼筋をコントロールして眼球を動かす。 

4.前庭-網様体系

前庭感覚や固有覚は脳幹の網様体へ集められて、脳を活性化するエネルギーに変換されて、脳の各部位へ送られる。その結果として脳の覚醒レベルを高める。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.前庭-視床下部系

前庭-視床下部系は自律神経系に影響する。

6.前庭-視床下部-辺縁系

●前庭-網様体系と共同して、情動を刺激して外界への関心と反応の準備状態をつくる。

7.前庭-脊髄系

内耳の迷路から脳幹の前庭神経核に入った前庭刺激は、前庭脊髄路を下降して頚筋を含む全身の伸筋の収縮を促す。

前庭刺激によって、立ち直り反応や平衡反応に必要な頚・背・腰部の伸筋収縮を促通することができる。 

●前庭・脊髄系のしくみは、パラシュート反応・ホッピング反応などの前庭刺激によって誘発される姿勢反射・反応を支える大切な経路でもある。

運動の発達支援、特に自立活動の身体の動きの指導にあたっては、前庭・脊髄系の働きを基礎知識として理解しておくことが大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

こちらは「人体の正常構造と機能」という本から持ってきた図で、”前庭覚の伝導路”というタイトルがついています。これをご紹介した理由は、重要とされる前庭-脊髄系を理解するうえで良い図ではないかと思ったためです。

第6章 姿勢と運動を支える姿勢反射・反応

●姿勢反射・反応には、それらを誘発する刺激があり、これらを適切に活用することが重要である。

第1節 中枢神経系、姿勢反射・反応と姿勢と運動発達の関係

●姿勢と運動は、随意的な姿勢と運動と姿勢反射・反応の2つから構成されており、姿勢反射・反応の成熟は、中枢神経系の成熟及び姿勢と運動の発達と密接な関係がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第2節 原始反射、立ち直り反応、平衡反応

1.原始反射とは

●新生児の運動はほとんどが脳幹・脊髄レベルの反射で成立している。

2.立ち直り反応

立ち直り反応はさまざまな姿勢の保持やバランスを自動的に保つ反応であり、姿勢と運動発達支援において重要な基礎となる反応である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.平衡反応

●平衡反応は立ち直り反応と同様に、さまざまな姿勢の保持や運動を自動的に可能にする反応である。

第3節 姿勢反射・反応各論

2.立ち直り反応

(1)抗重力性頭の立ち直り反応

●身体を左右や前後に傾けたときに頭が重力線上に保たれる反応。

●誘発刺激は、頭の重力の方向に対する感覚(前庭覚)と視覚がある。

●この反応は身体が傾いてバランスが崩れた際に、傾いた側と反対方向へ頭を立ち直らせて姿勢を保つ働きを担っている。

●座位を保持するための重要な反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、ゆっくりと小さく左に傾ける。傾けることによって視覚や前庭覚が刺激されて、頭の立ち直り反応が誘発されやすくなる。その際に頭の立ち直りが少しでも出てくるかどうかに注意しながら傾けていく。頭の立ち直りがみられなかったり、少ない場合には決して大きく傾けないで元に戻すことが大事である。少しずつ何回か傾けて刺激を加えながら、辛抱強く頭の立ち直りが出てくることを待つ姿勢が大事である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)デロテーション反応(巻き戻し反応)

●デロテーション反応は仰向け(背臥位)からうつ伏せ(腹臥位)への寝返りのことである。通常、生後6か月ごろからみられる。誘発刺激は、下半身をひねった際に起こる体幹のねじれの感覚(固有覚)である。 

●寝返りは下肢を動かすことが起動となり、寝返り後は頭が無意識に挙上されている。側弯の逆方向やいつも頭を向けている側と逆側へのデロテーション反応は身体の非対称性の矯正に有効である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.パラシュート反応

●パラシュート反応は「保護伸展反応」と記載されることも多い。

●座位で前方、側方、後方に倒れそうになったとき、手を伸ばして(伸展)、倒れて頭を打つのを防ぐ(頭を保護する)反応である。

あぐら座位の子どもの脇の下や肩を保持して、急速に大きく傾けることによって誘発されやすくなる。頭の立ち直り反応同様、何回か傾けて刺激を加えながら辛抱強く待つ姿勢が大事である。

●パラシュート反応は、前方、側方、後方の順番で出現する。

パラシュート反応は自動的な四つ這い移動を可能にする。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.平衡反応

(1)傾斜反応

●傾斜反応は座位や立位のバランスを保ち、姿勢を保持する働きを担っている。

傾斜反応は、臥位・肘位・手位・座位・四つ這い位・立位等のすべてでみられる反応である。

●身体に部分的な反応である抗重力性頭の立ち直り反応と異なり、傾斜反応は頭・体幹・下肢を含む全身の協調反応である。

●誘発刺激は抗重力性頭の立ち直り反応と同じように、視覚と前庭覚(頭の重力方向に対する感覚)の2つである。 

1人で立位が取れるようになるための発達支援において傾斜反応は最も重要な反応である。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)ホッピング反応

●ホッピング反応は立位で重心が移動した際に、足を重心の移動方向へ踏み出す反応である。側方・前方・後方のホッピング反応があり、この順序で出現する。

ホッピング反応は自動的な歩行を可能にする働きを担っている。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 姿勢反射・反応と姿勢と運動の抑制・促通関係

●姿勢と運動の発達支援では、姿勢と運動を促通する反射・反応と抑制する反射・反応がある。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第7章 脳性まひの筋緊張障害

第1節 脳性まひの定義と類型

1.脳性まひとは:定義

●厚生省脳性麻痺研究班(1968)によれば、脳性まひとは「受胎から新生児(4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化し得る運動及び姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や、一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する」と定義されている。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.脳性まひの類型

●脳性まひはその類型によって神経生理学的症状等の特徴は全くといってよいほど異なっている。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.脳性まひと重複障害

●脳性まひ児には姿勢と運動の障害以外に多くの随伴症状がみられる。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.脳性まひの神経生理学的症状

●神経生理学的には、脳性まひの症状は3つに分類される。筋緊張障害、相反神経支配の障害及び姿勢反射の障害。

第2節 脳性まひにみられる2つの筋緊張障害:除皮質緊張と除脳緊張

●除皮質緊張、除脳緊張という言葉は、動物実験で動物の脳の皮質を取り去ったり(除皮質)、皮質に加えて脳内の基底核とよばれる高さ付近で脳の線維を切断したり(除脳)して、脳の働きを研究したことに基づく言葉である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第3節 脳性まひ痙直型の除皮質緊張と対応の原則

1.除皮質緊張とは

●除皮質緊張とは、上肢屈曲・下肢伸展を最大の特徴とする筋緊張障害である。

脳性まひでは痙直型(大脳皮質や錐体路に問題)にみられる筋緊張障害である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

2.除皮質緊張による身体の過剰な伸展と身体の変形など

除皮質緊張は下肢伸展・内転・内旋の状態のため、股関節の亜脱臼や脱臼などの障害が生じることが多い。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.除皮質緊張が姿勢と運動に及ぼす影響

●痙直型脳性まひ児は生活及び学習に多くの困難に直面している。したがって、除皮質緊張の影響を減少させ、これらの困難を克服する支援が重要である。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

4.除皮質緊張への対応

(1)除皮質緊張への対応の原則

除皮質緊張と反対の動かし方や姿勢をすることが原則である。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

(2)一か所の関節を緩めると他の関節の緊張も落ちる

一か所の関節を緩めることで、たとえば足指を背屈させることで、他の関節の屈曲・外旋・屈曲・外転も同時に起こる。それによって、下肢全体の緊張も同時に低下する。この一か所の関節を動かすことで他の関節も連動して動く作用を「共同運動」とよぶ。 

共同運動は、脳障害によって上位中枢の抑制機能が低下・消失したときに起こる。脳障害による陽性徴候の中でも重要なもので、脊髄レベルの原始的な運動が、上位中枢からの抑制が弱まったために顕在化したものである。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

5.除皮質緊張への対応におけるあぐら座の効用

あぐら座位除皮質緊張による過剰な伸展と過緊張を減少させるための効果的な姿勢であり、仰臥位の後に下肢を屈曲・外転・外旋した状態であぐら座位へ姿勢変換するとよい。  

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

6.学校や家庭であぐら座位をどれくらいの時間とればよいか

「がんばらないことが大事」「楽しく座れることを心がける」と答えている。1回の持続時間は短くてもよい。結果的に1日に数十分のあぐら座位をとっていたということが望ましい。

数か月で「股関節の開きがよくなってきた」「立位や歩行のときに下肢の交叉が軽くなってきた」などの効果が期待できる。

7.床上でのあぐら座位と座位保持いすの比較

座位保持いすはあぐら座位ほどではないが効用があるが、長時間の場合、除皮質緊張に悪影響を起こす恐れがある。特に、下肢内転による股関節の可動域低下や関節拘縮に気をつけなければならない。床でのあぐら座位やまたがることができるいすでの座位など、多様な座位を活用することが大事である。

第4節 痙直型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.痙直型の筋緊張

●痙直型の筋緊張は高い緊張(過緊張)で一定していることが特徴である。

2.痙直型の過緊張がもたらすこと

●静止した状態や姿勢が固定された状態で続きやすく、身体の変形や関節拘縮が進行しやすい。 

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

3.支援の原則:動くことの重視

姿勢と運動の支援は、自分で動くことあるいは他動的に動かすことが原則となる。(下記の表7-12に書かれた内容がとても重要だと思います)

なお、相反神経支配とは主動筋(例えば、大腿四頭筋)が収縮しているときには、反対側の拮抗筋(ハムストリングス)は弛緩するように神経が調整するというものです。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

相反神経支配と痙直型脳性まひの相反神経支配の障害左下の四角で囲んだ部分)

腕を伸ばすには上腕二頭筋が弛緩(脱力)する必要があります。そのための指示は脳から出される収縮抑制命令というものですが、その命令が不十分(抑制不全)だと、腕を伸ばすことはできません。

画像出展:「脳性まひ児の発達支援」

第5節 アテトーゼ型の筋緊張の特性と支援センターの原則

1.アテトーゼ型という用語について

●アテトーゼとは筋緊張障害の一種であり、錐体外路障害の中でも基底核障害によって起こる不随意運動を意味している。

●錐体路障害である痙直型、錐体外路障害の中でも小脳障害に起因する失調型とともに慣習的に用いられている。

●筋緊張の変動とは筋緊張が一気に高くなったり一気に低くなったりと急激に変化すること。

こちらのページのほぼ中断に、痙直型とアテトーゼ型の比較表が出ています。

スタジアムの神と悪魔

日本サッカー界で今最も注目されている選手は、レアル・マドリードと5年契約を結んだ18歳の久保建英選手です。18歳で抜擢された初めての日本代表の試合で、のびのびと自分の力を発揮するそのプレーは別格でした。最近のプレシーズンマッチでも十分に存在感を示しています。

その久保選手が持っていたのが『スタジアムの神と悪魔』という“ラテンアメリカで生まれた極上のサッカー・エッセイ”という本でした。これを知ったのは、多分スポーツニュースだったと思います。

「これは読みたい!」と思い、すかさず検索しましたが、中古本も見つかりませんでした。

「では、図書館には?」と埼玉県内で横断検索したところ、12の図書館に所蔵されていることがわかり、地元のさいたま市の図書館から借りることにしました。

(念のため8月2日に再度検索してみたところ、amazonに19,800円~39,000円で3冊出品されていました)

著者:エドゥアルド・ガレアーノ

発行:みすず書房

発行:1998年4月

タイトルは全部で150あります。どれにしようかと迷いましたが、『1970年のワールドカップ』を取り上げることにしました。これは、この1970年のメキシコ大会は私が野球からサッカーに乗り換えるきっかけとなったものであり、また、ワールドカップの初代トロフィー、“ジュール・リメ杯”の最後の大会ということが心に引っかかったからです。ちなみにアジア代表は今では考えにくいイスラエルでした。

1970年のワールドカップ

『プラハでマリオネット映画の巨匠イジ・トルンカが死に、一世紀になんなんとする生涯を最後まで現役で生き抜いたバートランド・ラッセルがロンドンで歿した。マナグアでは、ソモサ独裁政権の大部隊を相手にたったひとり闘い続けた詩人ルガマが弱冠20歳にして斃れた。世界は時代の音楽を失った――成功を大量に食らいすぎてビートルズは解散し、ドラッグを食らいすぎてギタリストのジミ・ヘンドリクスと歌手のジャニス・ジョプリンがわれわれを置いて行ってしまった。

サイクロンがパキスタンを薙ぎ倒し、地震がペルー・アンデスの15の町を地図から消し去った。ワシントンではもう誰もヴェトナム戦争のことなど信用していなかったが、戦争は続き、ペンタゴンによれば死者は総数百万人に上っていた。その間にも米軍の偉いさんたちは前線へ逃亡し、つまりカンボジアに侵攻し始めていた。過去三度の敗退にもめげず、アジェンデはチリ大統領の座を目指して選挙運動に乗り出し、すべての子供たちにミルクを与え、銅山を国有化すると公約した。マイアミの消息筋は、フィデル・カストロは明日にも打倒される、もはやそれは時間の問題だと報じていた。ローマではヴァチカンの歴史始まって以来最初のストライキが起こり、父なる主の下僕たちが仕事を放棄し腕組みを決め込んだ。そのころメキシコで16ヵ国の選手が脚を動かし、第9回サッカー・ワールドカップが開幕した。 

画像出展:「サッカーマガジン 1971年12月増刊号 ワールドカップのプレーと戦術」

 

ヨーロッパから9ヵ国、アメリカから5ヵ国、それにイスラエルとモロッコというのが参加国の顔ぶれ。開幕試合で、審判は初めてイエローカードを掲げた。警告のイエローカードに退場のレッドカード。ただしメキシコ大会の新顔はそれだけではない。一試合につき選手を2名まで入れ替えることが規則で認められた。それ以前はゴールキーパーに限り、しかも負傷の場合に交代できる定めとなっていた。ということは、相手チームのメンバーを足蹴にして戦力を殺いでしまうことがそう難しくはなかったのである。

70年大会を彩る図。腕を包帯で吊ったまま最後の1分まで戦うベッケンバウアーの勇姿。片目を手術したばかりなのに全試合にしっかり耐え抜いたトスタンの熱意。最後のワールドカップ出場となったペレの舞い。「二人いっしょに跳ぶだろ」、ペレのマークをしていたイタリアのディフェンダー、ブルグニッチは語る。「ところが俺が着地してペレを見ると、彼はまだずっと高いところに留まっているんだからね」 

この写真がブルグニッチが語ったペレのヘディングシュートです。

画像出展:「サッカーマガジン 1971年12月増刊号 ワールドカップのプレーと戦術」

 

かつて王座をきわめたことのある4チーム、ブラジル、イタリア、西ドイツ、ウルグアイが準決勝で激突した。ドイツが3位、ウルグアイが4位になった。決勝戦、ブラジルは4対1でイタリアをうちのめした。英国の新聞は「かくも美しいサッカーは禁じられるべきだ」と評した。とどめのゴールの様子はありありと思い出される。ボールはブラジル・チーム全体へめぐり、11人が11人ともボールに触れたのち、最後にペレがボールに目を落とすこともなくこれをお盆に乗せ、つむじ風のように走りこんできたカルロス・アルベルトに差し出し、ゴールを任せた。 

右からつむじ風のように現れたカルロス・アルベルトの突き刺さるような4点目です。

画像出展:「サッカーマガジン 1971年12月増刊号 ワールドカップのプレーと戦術」

 

ドイツの「魚雷」ミュラーが10得点をあげて得点王になった。これにブラジルのジャイルジニュが7点で続いた。

3度目の優勝を果たした無敵の王者ブラジルは、ジュール・リメ杯を所有してよいことになった。だが、1983年の暮れ、このカップが盗まれ売り払われたときには、およそ2キロの金塊になり果てていた。ガラスケースの中には、代わりのレプリカが飾られている。』 

こちらは決勝戦の両チーム。

画像出展:「ベースボールマガジン社

 

画像出展:「サッカーマガジン 1971年12月増刊号 ワールドカップのプレーと戦術」

 

画像出展:「サッカーマガジン 1971年12月増刊号 ワールドカップのプレーと戦術」

 

写真中央、主将のカルロス・アルベルトがジュール・リメ杯を掲げています。

画像出展:「サッカーマガジン 1971年12月増刊号 ワールドカップのプレーと戦術」

 

こちらがジュール・リメ杯です。

画像は「BETTING TOP10」さまより拝借しました。

サンパウロのベカンブー・スタジアムのロッカー

画像出展:「イレブン 1972年7月号増刊 ペレとサントスF.C.」


今回、本棚から引っ張り出してきたサッカーマガジンはこちらです。


サントスF.C.として来日したペレの特集も出てきました。




歴代のワールドカップボールが紹介されたページです。偶然見つけました。なお、“The New York Times”をクリック頂き、表示されるページ上段のThis is an archived pageのとなり、Original screenshotをクリック頂くと表示されます。

 

耳鳴り

耳鳴り保有者となって約7年です。いつもジージーいっているのですが、寝る前に「今日もけっこう鳴ってんなぁ~」などと思う程度で放置状態が続いています。鍼灸師なので、たまに思いついたように頭や耳周辺に刺鍼してみるのですが、“気”が入っていないためか、「無理じゃない?」などとネガティブに思っているためか、効く気がしません。

耳鳴りの患者さまがいないのもノンビリ構えている理由です。しかしながら、耳鳴りの患者さまが来るかも知れず、私自身のジージー・シャーシャー・キーンも無くなることに越したことはありません。

そこで、「何はともあれ、耳鳴りが何者か知ろう」ということで1冊の本を購入しました。ブログは目次をご紹介した後、耳鳴り患者の私が自分のために重要と感じた項目を7つ取り上げ、要点と思われる箇所を箇条書きにし、さらにその項目ごとに付いている分かりやすい図を貼り付けました。また、いくつか調べたことなども付け足しました。

そして、この本を拝読した結果、考えられる私の耳鳴りの原因は、①ストレス(特に長期にわたる睡眠の質の低下)、②騒音(テレビのボリュームを37にしていることが多い)、③老化 の3つではないかと考えました。

著者:渡辺繁

出版:幻冬舎

初版発行:2017年12月

 

はじめに

第1章 脳腫瘍、高血圧症……耳鳴りを放置すると命にかかわることもある

 日本人の約2割が耳鳴りに悩ませている

 「本当は怖い耳鳴り」と怖くない耳鳴り

 「持病だから」と放置していると危険

 耳鳴りはめまいと一緒に生じることが多い

 市販の薬で症状は根治しない

 舌がもつれたり二重に見えたりしたら注意

 【コラム】耳鳴りの危険度について

第2章 耳鳴りが発症するメカニズム

 聴覚系に障害が起こると症状が起きる

 片側の耳に突然起こる「突発性難聴」

 大音量が原因の「騒音性難聴・音響外傷」

 高齢者の耳鳴りの多くは「難聴」が原因

 女性に多いのは「メニエール病」

 耳垢が外耳道を塞ぐことによって起きる耳鳴り

 痛みがなく放置しがちな「滲出性中耳炎」

 外リンパ液が中耳に漏れ出す「外リンパ瘻」

 脳が「過敏」になることで症状が誘発される

 意外と多い「片頭痛」による聴覚過敏

 死の危険も…「脳梗塞」「脳出血」「脳腫瘍」

 耳鳴りが原因で「うつ病」になることも

 【コラム】耳と脳とのあいまいな境界

第3章 薬物療法、音響療法、心理的アプローチ……原因によって異なる「耳鳴り治療」

 耳鼻科で行われる耳鳴りの検査

 種類や音の大きさだけでは重症度を決められない

 総合病院の医師は耳鳴りに無関心なことが多い

 生活困難度を測るアンケート「THI」が重要

 問診では耳鳴り以外の症状を伝えることが大事

 耳鳴りが原因で「不眠」に悩まされる人が多い

 「消える」耳鳴りと「治る」耳鳴りがある

 消える耳鳴りは「伝音系」の障害によるもの

 「感音系」の障害は耳鳴りそのものを治す必要がある

 耳鳴りのかげには難聴が隠れていることが多い

 心身のつらい症状を軽減する薬物療法

 耳鳴りを気にならなくする音響方法

 カウンセリングと補聴器による「TRT療法」

 心因性の障害を軽減するカウンセリング

 音圧を聴く「中耳加圧療法」で鼓膜マッサージ

 光と電気の「キセノン温熱療法」で血行を促す

【コラム】心の問題とどう向き合うか

第4章 専門医の治療と組み合わせて早期の症状改善を目指す自宅でできる耳鳴り改善のための生活習慣

 1日7000歩のウォーキングで動脈硬化を予防

 こまめに水を飲んで内耳の水はけをよくする

 生活リズムの乱れは耳鳴りの原因になる!

 「週末に寝だめ」はNG。規則正しい睡眠を!

 眠れないときは静かな音楽をかけるとよい

 自分の生き方に向き合ってストレスをコントロール

 リラックス効果の高い入浴法で心身を癒す

 音楽のある生活が耳鳴りを軽減するという事実

 「考え方」を変えるだけでも耳鳴りはよくなる

 食べすぎを避け「腹八分目」の食生活を守る

 カフェインを含む飲み物や香辛料は控えめに

 ビタミンB12の多いレバーや貝類などの食品を摂る

 お酒はほどほどにし、タバコはきっぱりやめる

 難聴が原因の耳鳴りの人は補聴器を使うと快適に

 【コラム】耳鳴りと生活習慣予防

第5章 耳鳴りの原因・治療法を正しく理解し、症状に悩まされない日々を手に入れる

 私たちの「脳」は一部の音だけを選んで聞いている

 耳鳴りは「脳」が信号の変化に戸惑っている状態

 「苦痛を感じる脳」がさまざまな症状を生み出す

 3つのアプローチで「脳の悪循環」を断ち切る

 過敏になった「脳」が慣れてくれれば耳鳴りは治る

 【コラム】もっと補聴器に親しみを

大音量が原因の「騒音性難聴・音響外傷」

●耳鳴りには騒音のある場所で長期間をすごし、徐々に進んでいく両側性の「騒音性難聴」がある。

●爆発のような大音響によって起こる「音響外傷」による耳鳴りは両側性と片側性がある。

画像出展:「耳鳴りの原因と治療法」

 

高齢者の耳鳴りの多くは「難聴」が原因

●50歳代を過ぎて、「キーン」という高音の耳鳴りは老化現象による難聴の可能性がある。

●「老人性難聴」は音を電気信号に変える内耳の機能が、低下してくることが原因である。

「老人性難聴」に伴う耳鳴りの完治は非常に難しい。耳鳴りに慣れることが求められる。

画像出展:「耳鳴りの原因と治療法」

 

耳鼻科で行われる耳鳴りの検査

●ティンパノメトリー(ティンパノグラム)

ティンパノメトリーは、鼓膜がうまく振動しているかどうかを調べる検査。

●オーディオグラム(純音聴力検査)

オーディオグラムは「気導聴力」と「骨導聴力」を測定し、2つの検査結果から難聴の種類を判定する検査。

●固定周波数ピッチマッチ検査

ピッチマッチ検査とは、患者さんが感じている耳鳴りの音の高さを調べる検査。

●連続周波数ピッチマッチ検査

さらに詳しく耳鳴りの高さを調べるのが連続周波数ピッチマッチ検査。

●ラウドネスバランス検査

耳鳴りの音の大きさを調べるのがラウドネスバランス検査。

画像出展:「耳鳴りの原因と治療法」

 

ここで、ためしに“固定周波数ピッチマッチ検査・さいたま市・耳鼻科”で検索してみたところ、「耳鳴り外来」というものがあるのを知りました。 

こちらは、「耳鳴り外来」がある兵庫県西宮市の星野耳鼻咽喉科さまのサイトです。耳鳴りに関する情報が満載です。

そこで、次に“耳鳴り外来”で検索してみました。するとデンマークの補聴器メーカーであるワイデックスさまのサイトに「耳鳴りの専門的外来を実施している医療機関」という病院を紹介されているページがありました。なお、このページは”2018年9月6日現在”となっています。

このページには、ブログ“めまい”にも登場された、さいたま市のとくまる耳鼻咽喉科さまが掲載されていました。念のため、どのような検査を行っているのか調べてみると、“THI(質問票)”で現状を把握し、“標準純音聴力検査”と“ティンパノメトリー”を用いて検査を行っているようです。

なお、上記の星野耳鼻咽喉科さまも、「耳鳴りの専門的外来を実施している医療機関」の中にありました。

「消える」耳鳴りと「治る」耳鳴りがある

●耳鳴りには病気の治療とともに消失するものと、消失はしないけれど気にならなくなるものがある。

音の振動を伝える伝音系の器官(外耳や中耳)に原因がある耳鳴りは消える場合が多い。

音の振動を電気信号に変えて伝える感音系(内耳から脳神経にかけて)に原因がある耳鳴りは消えにくい。

原因不明の耳鳴りや加齢に伴う耳鳴りは、消えるということはあまり期待できない。

なお、「治る耳鳴り」とは、耳鳴りに慣れ気にならなくすることを目指すものです。

画像出展:「耳鳴りの原因と治療法」

 

消える耳鳴りは「伝音系」の障害によるものある

●伝音系の障害には、外耳道をふさぐ耳垢栓塞や鼓膜の動きを悪くする中耳炎、耳管狭窄症などがある。

画像出展:「耳鳴りの原因と治療法」

 

「感音系」の障害は耳鳴りそのものを治す必要がある

●感音系の障害は加齢による機能低下や、騒音ダメージなどなんらかの原因で「有毛細胞」の働きが低下したためと考えられる(有毛細胞:内耳に存在している蝸牛管の壁にあるコルチ器の中の感覚細胞)。

●感音系の耳鳴りは、蝸牛で生じた電気信号を伝える「聴神経」や、信号を受け取る脳の「聴覚中枢」の機能が低下しても起こる。

画像出展:「耳鳴りの原因と治療法」

 

こまめに水を飲んで内耳の水はけをよくする

内耳の水分代謝は脱水状態のときなどに悪くなりがちであり、そのために耳鳴りが起こる場合もある。水分摂取はこまめに飲むことがポイント。

●メニエール病では、北里大学医学部の長沼英明教授が推奨している「水分摂取療法」は大きな効果を上げている。

股関節捻挫?

大学時代のサッカー仲間から電話がありました。試合中に思わず放ってしまったスライディングタックルにより左股関節を痛め、病院での診察(X線検査)の結果“股関節捻挫”と診断されたとのことでした。

最初に思ったことは「股関節捻挫って何だろう?」ということです。これは足首の捻挫であれば外側の靭帯(前距腓靱帯)、膝の捻挫であれば側副靭帯や十字靭帯など、まず思い浮かぶのは“靭帯”だったため股関節捻挫と聞いて「股関節の靭帯ってどこ?」ということを考えてしまいました。なお、この“捻挫”に対する認識自体が正しくなかったということは後になって分かりました。

本題からは少し外れますが、ご参考までに股関節の靭帯をご紹介します。

靭帯の癒合分のうち、前側の腸骨大靭帯と恥骨大腿靭帯の癒合部は脆弱部とされています。

画像出展:「からだの構造と機能Ⅱ」

画像出展:「からだの構造と機能Ⅱ」

そして、捻挫の定義については、「日本整形外科学会」に書かれているものをご紹介します。

『関節に力が加わっておこるケガのうち、骨折や脱臼を除いたもの、つまりX線(レントゲン)で異常がない関節のケガは捻挫という診断になります。したがって捻挫とはX線でうつらない部分のケガ、ということになります。具体的には靭帯や腱というような軟部組織といわれるものや、軟骨(骨の表面を覆う関節軟骨、間隙にはさまっているクッションである半月板や関節唇といわれる部分)のケガです。』

施術について

1.有効性

股関節捻挫とはいえ、損傷した股関節周辺の筋肉(内転筋など)に緊張や硬結が発生し、それによる筋肉由来の痛みも含まれているだろうと考え、鍼治療は痛みの軽減に有効であると判断しました。

2.施術理由(患者さま)

病院での診断後、約2週間経っても痛みの改善がほとんどみられず、歩くのもつらい。

3.施術内容(標治)

恥骨筋を中心に内転筋群への集中刺鍼。

4.施術経過

3月に2回、4月に1回。4月に来院されたときは、「ジョギングはできるようになった」とのことでした。そして、約1か月半後の5月後半の来院時には、少し気になるもののサッカーの試合には出ているという状況でした。

5.新たな痛み

ほぼ完治となったものの、新たな痛みが出ていました。それは仰向けの姿勢から上体を起こそうとすると(股関節屈曲)、患部付近に強く鋭い痛みが発生するというものでした。

「これは何だろう?」と不思議に思い、できる限りの手段を使って調べた結果、2つの可能性にたどり着きました。

①腸腰筋インピンジメント

股関節の関節包の前方にある腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)に肥厚や炎症があると、引っかかり感や詰まる感じがするというものです。計4回の施術では、初回に上前腸骨棘近位の腸骨筋への刺鍼は行ったものの、鼠径部を通過する大腰筋への刺鍼は行っていなかったため、この可能性はあると思いました。 

脊柱から起始しているのが大腰筋、腸骨から起始しているのが腸骨筋、2つの筋肉はいずれも大腿骨の小転子という箇所に停止(付着)しています。図の中央付近を見ると、大腿神経がこの両筋の間を走行し鼠径靭帯の下を通過しています。痛みの発生という点ではこの付近の構造は気になるポイントです。なお、2つの筋肉を合わせて腸腰筋とよばれています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

こちらの図は大腿を前面から見た筋群です。右側(内側)が内転筋群になります。この筋群の中で鼠径靭帯の下を通過しているのは恥骨筋です。また、上の図でご説明した腸骨筋、大腰筋の筋名は書かれていませんが、鼠径靭帯の下を通り、大腿神経を挟んでいる筋肉が大腰筋(内側)と腸骨筋(外側)で間違いありません。なお、恥骨筋の外側の青で書かれた管が大腿静脈、その外側に隣接している赤の管が大腿動脈で、大腰筋は腸恥筋膜弓を挟んで大腿動脈に隣接して走行しています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

②股関節唇損傷

先ほどご紹介した日本整形外科学会の定義でいえば、関節唇は軟部組織なので股関節唇損傷は股関節捻挫といっても問題ないと思います。 

聖路加国際病院さま

『股関節唇は、骨盤側の寛骨臼の辺縁を取り巻く柔らかい線維軟骨組織で、リング状のゴムパッキンのように大腿骨頭を包み込んでいる部分です。大腿骨頭を安定化させ、衝撃吸収の役割を担っています。 関節唇には神経が存在し、損傷を受けると痛みを生じることがあります。 関節唇損傷を生じると骨頭が安定しなくなり、次第に軟骨が破壊され、変形性股関節症へ移行すると考えられています。』 

画像出展:「聖路加国際病院」

ここで、これらについてもっと詳しく知りたいと思い、“股関節捻挫”で検索してみたのですが、特に病院、医師が用いているものはほとんどなく、最初に見つかったのは32年前の論文の中に書かれているものでした。

股関節痛を主訴とする若年者の股関節鏡所見”(PDF5枚)

これは小倉記念病院整形外科さまによる、1987年の「整形外科と災害外科」に掲載された論文です。

『X線像で異常を認めない若年者の原因不明の股関節痛はしばしば認められる。その多くは股関節捻挫などとして保存的に治療され軽快治癒し、疼痛の原因が不明のままに終わ っている。今回、われわれは原因不明の股関節痛を主訴とする若年者9例に対して股関節鏡を施行し、6例において関節唇 の断裂を認めた。また1例において粟粒大の多数の軟骨様遊離体を認め、synovial chondromatosisの診断を得た。このように、原因不明の股関節痛に対して股関節鏡は有力な診断手段であると思われるので報告する。』

一方、この検索中に股関節の痛みを特集した興味深い2冊の雑誌を見つけました。これらはいずれも『月刊スポーツメディスン』のバックナンバーで、嬉しいことにクリアランスセールのおかげで半額となっていました。

2012年2・3月合併号

特集 股関節の痛み 鼠径部周辺部痛、FAI、関節唇損傷、その他の痛みへのアプローチ

1 股関節唇損傷の鑑別診断

2 股関節鏡手術――FAIと関節唇損傷

3 股関節疾患のリハビリテーション――股関節唇損傷の股関節鏡手術のリハビリとともに

4 スポーツ選手の鼠径周辺部痛(Groin pain)へのアプローチ

5 股関節へのアプローチ――スピードスケートの場合

6 股関節のレッスン――フェルデンクライスメソッドのアプローチ

バックナンバー(発行元)

 

2014年1月号

特集 鼠径部痛症候群 その概念とリハビリテーション・予防

1 鼠径部痛症候群:治療の変遷と展望を語る

2 鼠径部痛症候群のリハビリテーションの有効性 

バックナンバー(発行元)

 

ブログでは2冊の中から、“鼠径部痛症候群”と“関節唇損傷”に関わるもので、図や写真を使って説明されている箇所の一部をご紹介したいと思います。

2012年2・3月合併号

股関節唇損傷の鑑別診断

橋本祐介・大阪市立大学大学院医学研究科整形外科学教室 講師

広義と狭義の鼠径部痛症候群

橋本:われわれはスポーツ選手を多数診ていますが、スポーツにおける股関節痛について、鼠径部の周りが痛い場合、「広義の鼠径部痛症候群(Groin  pain syndrome)」と呼びます。そこで何が痛いのかを鑑別する必要があります。これに対して、図1に示したように、たとえば骨折があるとか、ヘルニアがあるというような器質的疾患はなく、原因ははっきりしないが鼠径部痛があるものを「狭義の鼠径部痛症候群」と呼んでいます。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

つまり股関節痛については、関節内か関節外か、関節外であれば筋肉か腱か骨か、腰ヘルニアか、あるいは内臓系(尿路感染症、スポーツヘルニアなど)かなど、何が原因で痛いのかを鑑別する必要があります。これを一覧にしたのが図2です。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

整形外科的には疲労骨折もありますし、弾発股、あるいは恥骨結合炎、軟骨損傷、筋損傷などもあり、内科系では尿路系疾患、悪性腫瘍などの場合もあります。こうしたものが鑑別の対象となります。

実際にはレントゲン写真やMRIを撮影したり、関節造影を行うなどさまざまな検査が行われますが、それらの検査でも原因がわからないものが狭義の鼠径部痛症候群ということになります。

股関節鏡手術 ―FAIと関節唇損傷

内田宗志・産業医科大学若松病院整形外科

股関節鏡との出会い 

―そもそも股関節にはいつから?

内田:もともとは、膝、肩、肘の関節鏡下手術が専門だったのですが、患者さんで股関節疾患で困っている人も受診されますし、1990年代半ばからサッカー選手でgroin pain syndromeが問題になり、保存療法のほうがよいと、仁賀定雄先生はじめいろいろな先生がトレーニング方法とともに発表されていました。そういう患者さんのなかで、groin painとはちょっと違って、引っかかるというような訴えをする人がいたのです。それで困っていらっしゃるのに、これという方法がなかったのです。まだその当時は股関節鏡が発展していませんでした。当時股関節の痛みを訴えていた剣道をしている女の子に出会いました。臼蓋形成不全、そして今から思えば股関節唇損傷があった。剣道を続けたいということで、遠方から私の外来を受診されたのですが、当時私には今の技術がなく、何もできなかった。すると、目の前で泣かれてしまったのです。それがトラウマになっていました。それから一時臨床から離れてカナダに研究に行きました。カナダから帰国して再び臨床を始めました。ちょうどそのころアメリカで股関節鏡が非常に発達してきていたので、アメリカに研修に行くことにしました。Steadman Hawkins Clinicというところで、そこでは股関節鏡手術を盛んに行っていて、関節唇をしっかり温存して、FAI(femoroacetabular impingement、股関節インピンジメント、図1)といって大腿骨頭が寛骨臼に衝突して関節唇が損傷する病態なのですが、それに対してきれいに骨を削って関節唇を縫合するのを関節鏡で行っていました。当時日本では関節鏡ではなくオープンで行っていた手術です。その関節鏡手術をみて、これは筋肉も傷めないし、侵襲が少なく患者さんにはよい治療法だと思い、私も取り組み始めました。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

日本は臼蓋形成不全が多い、FAIは少ない? 

―ということは、アメリカではFAIが多い?

内田:そうです。当時、2008年は、FAIはアメリカでは多いのに対し、日本ではほとんどないと考えられていました。今でも、FAI、つまり股関節インピンジメントはあまりなく、臼蓋形成不全の人がほとんどだと言われています。臼蓋形成不全の人に対しては従来行われているのは、筋肉をはがして、回転骨切りをして荷重面を上げるという手術がなされています。しかし、それでは侵襲が大きくスポーツに復帰できないことが多い。

―臼蓋形成不全は日本に多く、FAIは少ない?

内田:そう考えられています。しかし、私が2009年から2011年まで股関節鏡の手術を230例施行しましたが、そのうち臼蓋形成不全は60例くらいですが、FAIは151例でした。FAIは日本でもこれまで考えられていたよりは多いと考えています(図2)。ちなみに臼蓋形成不全は欧米に比べて圧倒的に多いです。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

FAIが疑われる症状

―FAIが疑われる症状は?

内田股関節の前面から横にかけての痛みです。股関節唇損傷の80~90%の患者さんは股関節前面に痛みを訴えます。どこが痛いですかと聞くと、「Cサイン」といって、手で「C」の形にして「この辺が痛い」と言います(図3)。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

つまり、股関節前面と横を同時に押さえるわけです。Groin pain syndromeと異なるのは、リハビリで筋スパズムを取っても明らかな可動域制限が残ります。また可動域終末で疼痛が誘発されます。

―可動域制限は屈曲で?

内田:屈曲、外旋、内旋、外転、内転で優位差があります。

―伸展は?

内田:伸展についてはあまり言われていません。FAIでは、anterior impingement test(図4)とposterior impingement testで痛みと引っかかり感を訴えます。FAIの90%以上が陽性になります。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2012年2・3月合併号」

 

何が“前(anterior)”で何が“後(posterior)”なのかピンときませんが、右側のイラストがposterior impingement testだと思います。

画像出展:「Plastic Surgery Key

 

―股関節の前が詰まるという訴えをする選手がけっこういますが、それは直接関係しない?

内田:そういう例も含まれていることがあります。ただ、股関節の中だと思っていても、股関節の関節包の前方に腸腰筋がありますが、そこに肥厚や炎症があると、同じようなclickがあり、詰まる感じがします。それとは鑑別する必要があります。

―筋に由来しているものは筋にアプローチすると改善する。

内田:しっかりリハビリすると反応はいいですね。

―それで効果が得られないと、FAIも考えなくてはならない。

内田:そうです。最初股関節痛があって、関節の中かなと思っていても、腸腰筋のインピンジメントという可能性もあるので、最低1カ月半くらいは保存療法でリハビリをやりつつ様子をみて、それで3カ月以上みて反応しない症例については、手術を視野に入れて検査を進めていきます。 

2014年1月号

鼠径部痛症候群:治療の変遷と展望を語る

仁賀定雄・JIN 整形外科スポーツクリニック院長

鼠径部痛症候群の定義

『2001年以降は、明らかな器質的疾患が見出せない鼠径周辺部痛については、鼠径部痛症候群と診断し、保存的に治療しています。恥骨結合炎という考え方もスポーツヘルニアという考え方もしていません。超音波検査もヘルニア造影検査もしていません。検証した結果痛みの原因であるという証拠は示されなかったからです。

鼠径部痛症候群の定義は「股関節周辺の痛みの原因となる器質的疾患がなく、体幹~下肢の可動性・安定性・協調性に問題を生じた結果、骨盤周辺の機能不全に陥り、運動時に鼠径部周辺に痛みを起こす疾患」です。つまり剥離骨折、疲労骨折、肉離れ、真正鼠径ヘルニアなどの器質的疾患がない場合の多くは、機能的問題を見出すことができる機能的障害と考えています。たとえば、野球の投手が足関節や膝をケガして、もし下半身を使わないで投げたら、肩や肘に痛みが生じます。それは肩・肘は結果的に痛みが出たりケガしているかもしれないけれど、肩・肘に原因があるのではなく、肩・肘だけを診ても治らない。原因となっている足関節や膝などを治さなければいけない。上半身と下半身の連動性ということです。

私が病院(川口工業総合病院)勤務していたときに受診された鼠径周辺部痛症例(1994~2008)では、図8に示したとおり、サッカーが多く70%で、うちプロサッカー選手が98例でした。 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

鼠径周辺部痛の鑑別診断は、徐々に器質的疾患の診断率が高くなってきています。図9右側2003~2011年のデータですが、とくに股関節インピンジメント(FAIまたは関節唇損傷)の概念が示されてからその診断が増えています。現在は、股関節インピンジメントの概念を含めても器質的疾患が発見される確率は約5割です。現在でも器質的疾患が見出されない鼠径周辺部痛はほぼ5割あります。将来はもっと器質的疾患の診断率が向上するかもしれません。』 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

器質的疾患が認められない例をどうするか

『図15は、先ほど図8で挙げた鼠径周辺部痛(groin pain)614例中診断のつかない鼠径周辺部痛症例511例の自発部位を示したものです。

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

下腹部、大腿直筋近位部、坐骨、鼠径部などさまざまな部位に痛みを訴えていました。では、右と左ではどうかというと、右のみが36%、左のみが27%、両側例が37%でした。しかし、両側を同時に3分の1の例が何かケガをしたかというと、それは考えにくい。これは、私が機能的問題であると考える根拠のひとつです。

私が考えている鼠径部痛症候群は、器質的疾患がなく、機能不全に陥っているものです。機能不全を具体的に言うと、体幹から下肢の「可動性・安定性・協調性」、可動性というのはたとえば柔軟性、安定性は筋力、協調性は連動性ともいうことができます。これのどこかに狂いが生じて痛みが生じる。先ほどの野球の投手のように、膝を傷めて肩が痛くなるということがあります。肩の先生はかならず下肢も診ます。同様に、鼠径部痛症候群では、股関節だけでなく体幹から下肢の機能不全を評価して改善する。その手段がアスレティックリハビリテーションです。』

画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

 

『この図16はサッカーのキックですが、良好なキックを行うためには、体幹の軸がしっかりしていて、そのためには軸足側の股関節外転筋力が十分あり、キックする足と反対側の肩甲帯とキックする下肢が体幹、骨盤を介して連動している必要があります。この連動性のどこかが崩れてプレーしていると、鼠径部周辺に痛みを生じることになります。横からみると、骨盤が垂直に回転する。手でリードして、骨盤が回ります。この手のリードがなくなるだけでも、鼠径部痛症候群が発生する可能性があります。上から見ると、両肩を結んだ線と骨盤の線とはクロスして回転します。この一連の連動した動きのなかでキックが行われています。もし、この連動性を妨げるなんらかの要因があると、その動作を繰り返すことで破綻をきたし、機能不全になります。機能不全を生じてプレーしていてもすぐに痛みは出ません。しばらくプレーをしていて後で痛みが出るようになります。したがって、機能不全を起こす誘因が起こり、そのままプレーしていると機能不全を生じ、さらにプレーしていると痛みを発生します。野球選手なら肩・肘、サッカー選手なら股関節の付け根に痛みが生じる。これは私の仮説です。』

付記:JIN 整形外科スポーツクリニック

こちらが「月刊スポーツメディスン2014年1月号」の “話題の最前線:アスリートから高齢者まで、高度な診断・治療を可能にする環境を実現” で紹介されていた写真です。「まるで倉庫のようで全然病院らしくないなぁ?」と思ったところ、その理由は次の写真で納得しました。

なんと、フットサルコートを兼ね備えていました。よく見ると、高齢者のウォーキングにも利用されているとのことです。

  画像出展:「月刊スポーツメディスン2014年1月号」

ホームページはこちらです。

官能的感触と成長 

今回のブログは、“スキンシップケア(C触覚線維)”という以前アップしたブログに関係する内容であるため、そのブログに「追記」としてご紹介することを考えていたのですが、あらためて読み返してみると、同じく過去ブログの“医療マッサージ研究”にも載せたいし、そもそもこの本の存在を教えてくれた“アナット・ダニエル・メソッド”にも追記したいという気持ちが強くなりました。そして、それであればとの思いから、短い内容ですが新しいブログとしてアップすることにしました。

なお、“アナット・ダニエル・メソッド”とは、脳の可塑性に着目した小児障害へのアプローチが有名です。私は小児障害児と向き合うときに、このメソッドを意識するようにしています。

ブログは『脳の中の身体地図』の「10章 心と身体が交わる場所」にコラムとして掲載されていた「官能的感触の大切さ」から抜き出しています。 

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

痒み、くすぐったさ、痛み、温度……官能的感触? 官能的感触は、この感覚のリストの中では浮いているように思える。情動面から見て重要な触覚と言えば、総じて一種の軽い触覚で、覚えておられると思うが、これは固有感覚情報や高分解能の触覚情報と同様に、脊髄にあるはるかに新しいほうの経路を介して脳に伝達される。ところが、官能的感触は、痛みや痒み、くすぐったさ、温度のように、いにしえから存在する経路を経て脳に流れ込む。官能的感触はそんな仲間に入って、いったい何をしているのだろう?

愛情のこもった触れ合いやじゃれ合いは、ほ乳類の身体意識と脳の発達の中核をなす。成獣になると群れを作らずに単独で行動するようになるほ乳類でさえ、母親や兄弟姉妹との親密で愛情深い接触の中で生のスタートを切る。ほ乳類は授乳し、親密な絆を深めるために舐め合い、鼻をすり寄せ合い、生きていく上で何が起きても困らないようにボディ・マップに磨きをかけるために、手加減したけんかごっこに興じる動物である。要するに、ほ乳類の正常で健全な脳の発達には、幼少期に官能的感触に頻繁に触れることが不可欠なのだ。数億年前、ほ乳類時代以前、は虫類時代以降のほ乳類の祖先にも、きっと同じことが言えたはずだ。そこ頃、ほ乳類は恐竜の影に怯えながら、結束の強い家族という生存様式を発達させつつあった。つまり、この官能的感触という特徴は、ほ乳類誕生の頃までさかのぼることができるのだ。新しい感覚経路を使わず、古い感覚経路に留まっている理由もそこにある。 

画像出展:「GAHAG

ネズミの母親は子どもたちを舐めて落ち着かせる。母親に舐めてもらうという官能的感触を頻繁に味わうことがなかった赤ちゃんネズミは、せっせと舐めてもらったネズミよりも不安が強く、神経質なネズミに育つ。しかも、この循環は自然に増強していく。情動面に障害が残ったネズミが成長して母親になると、普通のネズミほど子どもを舐めようとしない。こうして情動的な問題が次世代へと受け継がれていく。モントリオールにあるマギル大学で行動・遺伝子・環境研究プログラムの責任者の任にあるマイケル・ミーニーが数年前に実施した画期的な研究で、この子育てパターンの背後に潜んでいる正確な神経・遺伝メカニズムが解明されている。

官能的感触は霊長類と人類にとってはとりわけ、決定的に重要な意味を持つ。これは、スキンシップに飢えた子どもたちが大人になってから情動面の問題を抱えるようになるということだけのことではない。それも非常に重大な問題だが、もっと深い、身体の成長や健康、恒常性のレベルにまで影響が及ぶのだ。霊長類の赤ん坊にとって官能的感触がどんな役に立つか、考えてみよう。頻繁にやさしく撫でさすられると、最低限の世話しかしてもらえなかった場合に比べて、体重が倍の速度で増加する。呼吸や心拍も健康的になるし、敏捷になり、気むずかしさがなくなり、よく眠るようになる。授乳期を過ぎてよちよち歩きを始めるまで、こうしたよい影響が続くのである。

愛情のこもった触れ合いは、栄養を摂取したり、音楽を聴いたり、おもちゃで遊んだりするのとは異質に思えるかもしれないが、確かに同じ類のことなのだ。』

画像出展:「GAHAG

まとめ

1.やさしく撫でられると情動面だけでなく、身体の成長や健康、恒常性のレベルにまで影響を及ぼす。

2.官能的感触とは食事や睡眠に匹敵するくらい大切な行為である。

共感とミラーニューロン

心の問題が疑われる“うつ症状”と異なり、“うつ病”と診断される深刻な病態は、心の問題ではなく偏桃体の暴走や神経伝達物質のセロトニンが関与する脳の問題とされています。※ご参考:“うつ病治療(TMS)”。

一方、“共感”も性格や心が関係しているものと考えがちです。しかしながら、この“共感”にも脳が関係している場合があります。それは“ミラーニューロン”に起因するものです。このミラーニューロンは大脳皮質の奥深く折りたたまれた領域に多く存在しているそうです。

共感が心の問題とは限らないということは知っておいた方が良いと思い、ブログのテーマに取り上げました。

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

他人の身になる能力 

『1926年の映画「ドクター・ノー」で、ジェームス・ボンドが目を覚ますと、タランチュラが一緒にベッド・インしていた。彼の腕をゆっくりゆっくりと這い上がって行くクモに目をくぎ付けにしながら、あなたがその毛に覆われた細長い脚を我が身に感じることができたのは、ミラーニューロンが一生懸命働いていたからである。

情動の読み取りと共感にかかわるミラーニューロンは、皮質の奥深くに折りたたまれたふたつの領域、島皮質前帯状皮質に存在している。

島皮質

『Johann Christian Reilは、1796年に Exercitationum anatomicarum fasciculus primus de structura nervorumを発表、その中で第5の葉の存在を指摘した。これが島に関する初の学術的な記述である。しかし記述は本文のみにとどめられ、図示されなかった。Reilの発見した島は、現在も重版中のGray解剖学書で初めて図示され、「Reilの島」という呼称を不朽のものとした。』

画像出展:「脳科学辞典

前帯状皮質(ACC)

『前帯状皮質は、大脳半球内側面の前方部に存在する、帯状溝周辺および帯状回の領域であり、ブロードマン24野、ブロードマン25野、およびブロードマン32野に相当する。ACCは特にヒトにおいて、担う機能の違いから、行動モニタリングおよび行動調節に関わる領域、社会的認知に関わる領域、および情動に関わる領域に大きく分かれる。』

画像出展:「脳科学辞典


他人の顔に嫌悪の表情を見て取ると、あなたの島皮質のミラーニューロンがあなた自身の身体に嫌悪感を生じさせる。嬉しそうな顔を見れば、あなたも嬉しくなる。悲しい顔を見ると、悲しくなる。痛そうな顔を見れば、自分まで痛くなる。他人の二の腕に注射針が突き立てられるのを見ると、あなたの腕の同じ筋肉が緊張して、息づかいまで速くなる。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者タニア・シンガーは、恋人同士のカップルを募集し、その片方(女性)を脳スキャナにかけて、痛みを伴う電気刺激を与えた。どの女性もみな、自分が刺激を受けたときだけでなく、恋人が刺激を受けるのを見たときにも前帯状皮質の反応を示した。しかも、共感に関する質問票のスコアが高かった女性ほど、この脳領域の活動は活発だった。これは、あなたが赤の他人も含めた自分以外の人の痛みに共感すると、ある程度の痛みを実際に感じることを意味している。ちょうど前頭葉と頭頂葉のミラーニューロンが行為の観察と実施を両方とも表象するのである(女性のほうが男性よりもミラーニューロンの反応が活発で、共感も強い傾向にあるが、その理由はいまだに解明されていない。男性においてはテストステロン濃度が高いことが、何らかの共感を抑えているのかもしれない。一般的には、女性は他人の心理状態に注目して適切な感情表現により対処しようとする傾向が強いエンファサイザー=emphasizerで、男性は物事を系統だてて考えようとする傾向が強いシステマタイザー=systematizerである)。

左側が前面(顔)、右側が後面(後頭)になります。

画像出展:「脳の中の身体地図」

誰かがあくびをすると、あなたもあくびをする。これはミラーニューロンが活動しているせいだ。誰かがあごを掻いているのを見ると、自分のあごもムズムズしてくる。誰かが怖がっているのに気付くと、理屈抜きに不安が心をよぎる。この感覚が闘争・逃走反応の運動準備を身体にさせることもある。危険が潜んでいると、群衆の間に不安が広がる。誰もが情動を高ぶらせて、逃げ腰になる。

自分が触れられても、他人が触れられるのを見ても、同じ神経回路が活性化する。たとえば、ケイゼルス博士は被験者を脳スキャナにかけて、むき出しにした脚を筆で刺激し、どのボディ・マップが“明るくなる”か調べた。予想どおり、一次触覚野と、それに加えて特に二次触覚マップが活性化した。次に、ほかの人が同じ場所に触れられているビデオ・クリップを見せたところ、やはり二次触覚マップが活性化した。そこで、人の脚の代わりにペーパー・タオルのロールに触っているビデオ・クリップを見せると、この回路の活動は弱くなった。筆を脚に近づけるだけで触れない場合には、触覚野は賦活しなかった。ケイゼルスによると、触覚は他の人々が生きていることを確認するための、人間社会において特権を認められた感覚だそうだ。

自閉症とミラーニューロン

自閉症の犯人捜しで今、第一容疑者と目されているのがミラーニューロンである。先天性脳障害である自閉症の主要特徴は共感、模倣、言語スキル、そして、他人の心的状態の内的モデルを形成する能力の欠如だ。言い換えるなら、ミラーニューロンが専門にしている機能がそっくり欠如しているのである。先頃、自閉症児のミラーニューロン系は脆弱ないし欠如していることをV・S・ラマチャンドランが確認した(しかも、皮質のボディ・マップがごちゃ混ぜになっていた。これが重大な意味を持つか否かはいまだ解明されていないが、何らかの形でミラーニューロン系の欠損と関係している可能性がある。自閉症児は触れられていることに過敏でもある)。彼らの精神的孤児、遊びの欠如、乏しいアイ・コンタクト、生物界に対する無関心はすべて、ミラーニューロン系の機能不全と一致している。自閉症児が顔の表情をまねしようとしても、その感情や意味は理解していない。悲しい、腹が立つ、嫌だ、びっくりした……という感情がどういうものか、周囲の人々の気持ちと結びつけることをしない。顔や身体が情動を表すのに重要であることを感じていないらしい。見て、行うことによって学ぶことができないのである。

まとめ

1.大脳皮質の奥深くに折りたたまれた島皮質と前帯状皮質には、情動の読み取りや共感に関わるミラーニューロンが存在している。

2.心の問題とされやすい情動や共感に関しては、脳のミラーニューロンが関与している可能性があり、特に自閉症児などとコミュニケーションするときは、この点を頭に入れておく必要がある。

脳卒中のリハビリテーション

業務委託による訪問の仕事では、脳梗塞や脳血管障害による後遺症のため、日常生活に大きな支障を抱えている患者さまやベッドから起き上がることができない患者さまに、マッサージや関節拘縮予防のための他動運動(施術者が可動域確保のため適切な強度で各関節を動かす)、歩行支援などを行っています。

もっと効果的な施術はないだろうかという思いから、『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命』という本を読んだことがありましたが、この本は2011年9月4日放送の“NHKスペシャル”の書籍版になります。

『約280万人にのぼる脳卒中患者、医療の発達で命を落とすケースは減ったものの、マヒの問題は深刻で、介護が必要になる原因の第一位だ。解決にはリハビリが重要だが、発症後6ヶ月を超えたあたりから効果が落ちるとされてきた。しかし最近、脳科学の急速な発達により、傷ついた脳が再生するメカニズムが次第に明らかになり、時間を経過した患者でも、マヒを改善する手法が発見されている。リハビリの効果を上げる誰でも出来る意外な方法や、脳波とマシンを連動させる最新科学まで、脳卒中リハビリの最前線で起きている急激な変化を取材、人間の脳に秘められた驚きのパワーに迫る。』

著者:市川衛

出版:主婦と生活社

発行:2011年9月

 

右下に→の説明書きがありますが、下2つの矢印(「目標」の神経細胞の発火・意図した運動の実現)の色は本来、赤→になっているべきものだと思われます。

以下の4つのイラストは脳卒中になった時に起こるからだの変化です。3つめのスライド(下段左)には脳卒中になると通行止めが外れ、脇道を通れるようにとの解説がついているのですが、そのようなメカニズムが備わっているとは驚きであり、大きな発見でした。

画像出展:「脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命

 



そして、今回読んでいる『脳の中の身体地図』の中にも脳卒中の麻痺について書かれた箇所がありました。ここに書かれている内容は脳のリハビリテーションへの理解を深めるうえで価値があると思います。 

著者:サンドラ・ブレクスリー、マシュー・ブレクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

 

脳卒中による麻痺の回復 

『スコット・フライには人生をかけた使命がある。多発性硬化症を患いながらも女手ひとつで育ててくれた母親が、麻痺が首から下まで進んだために人生の最後の14年を車椅子で過ごす姿を、彼は目の当たりにしてきた。「神経科学者の卵である僕が付いていながら、何ひとつできなかった」とフライは言う。

しかし、今はもう違う。実験心理学者としてのキャリアのギアを入れ直したフライは、2004年、ダートマス大学からオレゴン州立大学に移り、現在はリハビリテーション神経科学センターの設立に全力を注いでいる。要するに、脳の働きに関する最新知識を活かして、脳卒中や脊髄損傷、四肢切断後の人々を起き上がらせ、動かそう、大勢の人々を車椅子の生活から解放しようとしているのだ。彼の目標は、“朝が待ち遠しくなるようなことにする”ことだそうだ。

フライがまず目を向けたのは脳卒中患者である。脳卒中は、動脈内の血栓や動脈瘤破裂が原因で、脳の一部への血液供給が断たれた場合に起こる。問題の動脈が栄養を運んでいた脳領域は、酸素の供給を受けられなくなるため、崩壊ないしは損傷の道をたどる以外にない。標準的な治療法は“経過観察”だ。数日あるいは数週間後に、脳の損傷の程度を調べるわけである。損傷を負った脳の領域によって、麻痺や失明、言葉を話せない、理解できない、道具を使ったり見分けたりできない、身体の周りの空間を認識できないといった障害が現れる。損なわれた、あるいは失われたボディ・マップとかかわりのある特異な欠損症状がいくらでも出てくる可能性があるのだ。

もちろん、もうおわかりのように、大人の脳にも可塑性がある。新規な事物や練習、損傷に応じて、それに適応するように自らを再構築することができるのだ。先ほど紹介したのとは別の、マーゼニック[マイケル・マーゼニック(脳科学者)]の初期の実験のひとつが、そのことを証明している。この実験では、サルの脳にある別の腕のマップを傷つけたが、それに対応する腕は無傷のままにしておいた。すると、サルが腕を使い続けるうちに、マップが元の状態に戻ったのだ。大勢の脳卒中患者が、すべてとは言わないまでも、ある程度は運動機能を取り戻せる理由がここにある。時間が経てば、脳の損傷したマップは再構築される可能性があるということだ。

脳卒中患者は普通、脳固有の可塑性が本来の仕事をするのを容易にし、促進するための理学療法と作業療法に一か月を費やす。これは、何かの動作―たとえば、ドアノブに手を伸ばす、カップを持ち上げる、ボールを握るといった―を幾度も繰り返しているうちに、既に学習していることを補強する新しい神経接続が育ってくるという発想だ。理学療法の目的は、神経可塑性のメカニズムを後押しして、機能マップを回復させることにある。この再マッピングのプロセスを改善するために、ありとあらゆる新技術や手法が開発されている。“悪いほうの腕”を使わざるを得なくするために、“良いほうの腕”をストラップで固定してしまう方法、麻痺した腕や脚の存在を脳に“実感”させるために、腕や脚に電気刺激を与える方法、繰り返し運動を続けてもけっして疲れることのないロボット装置に使い物にならなくなった腕や脚をストラップで固定する方法などなどだ。

しかし、半年が過ぎると、部分的であれ完全であれ、回復しない患者はほぼ例外なく、あきらめて自分の限界を受け入れるほうがよいとアドバイスされる。もう良くなる見込みはないと言われる。それが現実だ。ただし、フライを知らなければの話である。脳卒中後の麻痺を回復に向かわせるか改善するには運動イメージが役立つと、フライは考えている。一次運動マップ―脊髄を下って身体を動かす指令を発するマップ―は、運動イメージを行っている間は一時的にオフラインになることを思い出していただきたい。ところが、高次の運動マップは、その間もフル回転で働き続け、あなたがイメージしている動作をきちんとエミュレート(訳注:ある機能を本来とは異なる手段で再現すること)している。

脳卒中患者のこうした高次運動野のマップが損なわれておらず、健全であるかどうかを確認するための手段として、フライは一連の暗示的な運動イメージ課題を考案した。暗示的というのは、被験者たちはイメージを思い浮かべることを特に要求されているとは思わないままに、課題を行うことになるからだ。まず、三次元方向から表示したハンドルバーのような物体の図を被験者たちに見せる。そして、どの方向からが一番握りやすいと思うか尋ねるわけだ。あなたなら上から握る? それとも下から? 親指はどこにかける? 残りの指の位置は?

予備試験には、腕を動かせなくなって1~5年が経過している患者三人を採用した。そのうちの一人は76歳の男性である。彼には、自宅の大画面テレビでさまざまな物体を眺めて、メンタル・イメージによって物体の握り方を練習するという課題を与えた。彼はこれを1日1時間、週5日、9週間にわたって続けた。

「彼に運動機能が戻らないことはわかっていた」とフライは言う。「でも、脳の編成に何か違いが出てくるとしたら?」

違いはあった。事実、三人の被験者全員が、心の中では正常な手の生体メカニズムに則った腕の運動を正確にシミュレートすることができたのだ。彼らは実際にするのとまったく同じに、ひとつひとつの物体をつかむところをイメージした。しかも、そのイメージの最中に彼らの脳をスキャンしたところ、運動の模倣と計画にかかわる高次領域、つまり人間の“腕を伸ばすための回路(リーチ回路)”が賦活したのだ。

さて、ここで思い出していただきたいのだが、脳卒中後には、一次運動マップそのものが損なわれることもあれば、より大きな回路の一部としての一次運動マップに支障をきたすこともあるということだ。すると、脳は四肢に指令を伝えないし、四肢も脳にフィードバックしようとしない。そこでフライは考えた。運動イメージを利用して、損なわれた一次運動マップに可塑的変化を起こさせ、促進したらどうだろう? イメージは、首尾良い運動シーケンスをコード化する機会を、脳に与えることができないだろうか? 麻痺状態から抜け出した自分をイメージすることはできないか?

答えは“ひょっとすると”である。フライによれば、予備的証拠は有望だが、そうした治療法の可能性を検証するための研究は始まったばかりだ。 

ボディ・マップが混乱する前に

『フライは、腕や脚を一本以上失ってイラクとアフガニスタンから帰還した兵士たちの苦悩もよく理解している。こうした兵士たちの数は2007年初頭で500人を数え、まだ増え続けているのだ。技術者たちがより軽量でより付け心地の良い材料を求めて懸命の努力を続けており、アメリカ国防総省も生体の腕の特性をほぼすべて備えた義肢の研究に資金を提供しているのだが、人口の腕、脚、手は未だにずっしりと重い枷になっている。収縮する胸筋にセンサを取り付けて義腕を操作するというような独創的な工学的解決策もいくつかあるが、その動きはまだぎこちない。

最近の退役軍人は除隊になるとき、三本の腕を支給される。実物そっくりだが機能面ではほとんど何も期待できない装飾用の義腕が一本、マイクロプロセッサで残っている筋肉からの電気信号を拾い上げて増幅し、電動モーターを作動させて腕の運動機能を生み出す筋電義腕が一本、そして、背中に渡したケーブルなどで身体の動きによって操作する、機械的な義腕が一本である。退役軍人は弓矢を使う狩猟など、特殊用途の義腕をオーダーすることもできる。

それにもかかわらず、フライによると、義腕を付けた患者の半数は、一年以内に義腕をクローゼットに放り込んでしまうそうだ。義腕はコントロールするのが難しいし、たいていのことは切断した腕の残った部分と良い側の腕を使うほうが楽に片付けられると、切断患者たちは口を揃える。義腕は15,000ドルもするうえに、保有率があまりにも悪いため、保険会社も義腕のための給付を遅らせている。

もっと良い方法があるはずだ。山積している問題は機械的要因によるものなのに、技術者たちは身体を機械と接続するうえで最も重要な面を見落としている、とフライは言う。脳である。四肢を失った後は、脳の大幅な再編が起こる。患者に義肢を装着させる際は、その事実を中心に考えなければならない。神経可塑性のプロセスがその場しのぎの新しいボディ・マップを手探りしながら試行錯誤するのに任せて、無駄に費やす時間が長くなるほど、マッピングはうまくいかず、義肢との統合が難しくなる。

運動機能不全につながる再マッピングを最小限に抑えるために運動イメージを使えないものか? フライはそう考えている。たった今も、新しい腕の使い方のトレーニングを受けている患者はほとんどいないとフライは訴える。彼らは家に帰って、自分で何とかしなければならない。しかし、運動イメージを利用して高次運動マップを刺激してやれば、義肢への適応に役立つ可能性がある。「運動学習に関する知識を総動員すれば、リハビリにつなげることができる」とフライは言う。「異常をきたした可塑性にボディ・マップを混乱させるすきまを与えないように切断後すぐ、患者に義肢を装着させるというのは、すごい名案じゃないですかね。イメージ回路を使って運動を練習すれば、高次マップを義肢のコントロールに使えるようになるのですから」

フライは今、上肢切断患者30人を対象として、イメージにより運動をシミュレートする能力をどこまで保持できるかという研究をしている。脳卒中患者とは違って、切断患者は運動をイメージするときに本物の腕を見ることができない。そこで、彼らにはミラー・ボックスを自宅に持ち帰らせている。良いほうの手を箱に入れて振りながら、鏡に映っているのは、実際にはもう無い手だと想像してくださいという指導付きだ。彼の研究チームは、そうした鮮明なイメージに反応してどんな変化が起きるか、切断患者たちの運動マップを長期にわたって追い続けるつもりでいる。』

「12年近く経った今(原書の発行は2007年9月)、退役軍人の義肢の問題どうなっているのだろう?」という疑問から、“アメリカ 軍人 義肢”で検索したところ次の記事が現れました。

 CNET Japanさまの2013年10月24日の記事です。

思考で制御できるバイオニック義足--急速に進化する義肢技術

『SF作品に出てくるような話に聞こえるかもしれない。実際の手足のように動いたり、曲がったり、感じたりするだけでなく、人間の思考に直接的に反応し、さらに感覚フィードバック(足下の草の感触や手足が空中に浮かんでいる感覚)を脳に直接返すことさえできる義肢が開発されている。

負傷した退役軍人の生活向上に取り組んでいる米軍が、資金面で積極的に支援しているため、そうした義肢はもはや現実離れした夢物語ではなくなった。映画「ブレードランナー」並みの補綴術というのは今でも遠い未来の空想だが、シカゴリハビリテーション研究所(Rehabilitation Institute of Chicago:RIC)と米国防高等研究計画局(DARPA)、そして成長分野である次世代義肢を開発する企業セクターの先駆的な研究により、見事な性能を備えた思考制御型バイオニック義肢が現代の現実となっている。

RICは9月、同研究所のバイオニック研究によって初の思考制御型ロボット義足を生み出したことを発表した。RICの研究はこれまでも、その価値にふさわしい報道をされており、何度も記事の見出しを飾っている(1つの人工装具で103段の階段を上ったという事例もある)。しかし、Levi Hargrove博士が率いるチームは、決定的な研究成果をThe New England Journal of Medicineに発表するのを待っていた。8年以上前に開発が始まったそのバイオニックハードウェアは、標的化筋肉再神経分布(Targeted Muscle Reinervation:TMR)手術という画期的なアプローチと統合された。TMR手術は、神経を健康な筋肉へ再分布することによって、脳がバイオニック義肢のさまざまな部分を動かせるようにするものだ。

以下は、標的化筋肉再神経分布(Targeted Muscle Reinervation:TMR)で検索して出てきたものです。

標的化筋肉再神経分布により高機能人工腕をリアルタイムに制御可能 2009年2月24日

思考で動かす新型義手、米科学会議で実演 2011年2月21日

ここで頭に浮かんだのが、以前、テレビで見たことがあった ”HAL” です。

調べてみると、このHALを開発したのは筑波大学の山海嘉之先生であることが分かりました。また、『サイバニクスが拓く未来』という著書が出ており、幸いにも市内の図書館に所蔵されていたため、借りてみることにしました。

著者:山海嘉之

出版:筑波大学出版会

発行:2018年3月

下左の写真はHALを使っての治療の様子です。また、下右のイラストはHALの原理です。HALの最も凄いところは、HALを使うと脳・神経が回復しているという画期的なリハビリテーション効果です。

 


この本は「PART1 講和 未来開拓への挑戦」と「PART2 質疑応答 中高生と大いに語る」に分かれています。PART1は更に5つ分かれていますが、4つめに「神経難病分野での医療用HAL」があり、4つの事例が紹介されています(“ポリオ”、”脳卒中”、”脳性小児麻痺”、”脊髄性筋萎縮症”)。ここでは脳卒中の事例と、機能改善と脳機能との関係について書かれた箇所をお伝えします。

『脳卒中を2回も発症されて、お医者さんのカルテでは、もう歩行は厳しいと言われていた患者さんです。HALを使っていくうちに、HALをはずしても1ヶ月後には歩きはじめ、さらに続けてHALを使っていくと、2ヶ月後にはHALなしで廊下をジョギングできるようになりました。その後退院して、今ではジャンプもしています。すごいですね。大切なことは、HALをはずしても動くことです。機能が改善して、これで退院できるようになります。このとき脳がどのように動いていたかということが重要で、病気が発症した早い段階できちんとHALを使うと、脳が最初の状態から変わっていくこともわかりました。とにかく、驚くことが多く、感動の日々です。』

こうして機能が改善していくことと、脳機能はどう関係しているでしょうか。実は、こうして脚を動かして徐々に歩けるようになってくると、脳の状態も変わってくることがわかりました。fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)という高価な装置で脳活動を調べていくと、身体が動かない状態では、脳は動かない身体を動かそうと頑張りすぎて、次第に脳はいろいろなところが活発化していきます。これは「過活動」といって、本来活動すべき箇所とは異なるところも活動しはじめてしまうという状態です。あまり良いことではありません。つまり、頑張りすぎは良くないということですね。身体を思うように動かせなかったこのような状態にある患者さんでも、HALを使うと、脳の中の適切なところが興奮した時だけ、HALは脳から筋肉への指令信号をキャッチするので、意思に従って動きはじめ、脳神経系のつながり(シナプス結合)を強化・調整するための機能改善・機能再生ループが、人とHALの間で構成されます。こうして、どんどん脳や神経系の機能改善が進み、本来の適切な部分の脳活動と連動して脳神経系と身体系の機能が改善いていくのです。これらの事例は、脳の中で何が起きているかを示す貴重なデータとなっているのです。実に興味深いですね。別の言い方をすれば、HALは、コネクトーム(脳の機能マップ)の再構築を促進する革新技術だとも言えるでしょう。

今、進行性の神経筋難病という現代医学では治療方法が見つかっていない病気に対して、治験を行っていますが、この治験の結果、薬でも病気の進行を抑制することができなかった難病に、医療用HALが保険治療として適用できると期待しています[参考:2016年9月から保険適用による治療が始まっている]。この治療が終われば、さらにほかの分野にも適用が広がるだろうと思っています。喜んでくれる人が待っていてくれる限り、私たちの挑戦は続くのです。

HALによる治験が行われているのも確認できました。 

脳卒中(脳出血・脳梗塞)に対する治験

公開日:2018年4月13日

対象となる疾患:脳卒中(脳出血・脳梗塞)

注)治験は2019年10月くらいまで募集予定とのことです。(2019年5月20日 筑波大学附属病院に確認)

大和ハウス工業さまに「HALを見学できるところはありますか?」と問い合わせたところ、茨城県つくば市にある『サイバーダイン スタジオ』という素晴らしい施設を教えて頂きました。 

ミラー・ボックスによる運動機能の改善

 『ウィリアム・アンド・メアリー大学の認知科学者、ジェニファー・スティーヴンスによると、脳卒中後は、まるで自分の腕のマップを一部しか利用できなくなったように、運動の協調性を失ってしまう人が多い。ミラー・ボックスや運動イメージを使って運動をシミュレートすることにより、運動を取り戻すうえで必要なものの例を脳に示してやる。手を物理的に延長できなければ、脳は運動を練習するチャンスをけっしてものにできない。イメージによるシミュレーションは、この問題を解決するための手段なのだ。

あなたが脳卒中を患ったとしよう。良いほうの腕を箱に差し入れ、麻痺した腕は鏡の裏に隠す。切断した腕の場合同様、良いほうの腕が鏡に映って、腕が二本あるように見える。良いほうの腕をバタバタと動かしてみると、すごいことが起こる。麻痺した腕が突然動き出したように見えるのだ。無傷で損傷も麻痺もないように見える。身体の曼荼羅を下って、休眠中の腕と手のマップに固有感覚を引き起こすほど説得力のある視覚フィードバックが生じているのだ。

パイロット実験で、スティーヴンスは慢性脳卒中患者五人を研究室に呼んでコンピュータの前に座らせ、目の前の机に、手のひらを下にして両手を載せさせた。そして、ひねる運動をしている手首の運動を見せてから、自分の悪いほうの手首で同じ運動をしたらどのような感じがするかイメージし、見てはイメージしを繰り返した。ミラー・ボックスを使った手首の運動の練習も、一時間のセッションとして週三回、四週間行わせた。良いほうの腕を箱に入れて、手首滑らかに動かすことで脳をだまし、悪いほうの腕でも同じことができると信じ込ませたわけである。それと並行して、同じレベルの麻痺がある別の五人の患者には、従来の作業療法に取り組ませた。

どちらの被験者群にも、軽い物を棚に載せられるようになるほどの、同じ程度の改善がみられた。しかし、スティーヴンスに言わせれば、これは実に驚くべきことだ。こう考えてみるとよい。イメージ法を行ったグループは、障害のある腕を実際には少しも動かそうとしなかったのに、改善したのだ。標準作業療法では、麻痺した手でカップをつかんでは離すという練習を何時間もぶっ続けで行う。イメージ法の被験者群も同じことをしたわけだが、筋肉は一切動かさなかった。損傷したニューロンがちょうど再接続する場所を探しているところなので、イメージと鏡でそれを可能にしてやるのだとスティーヴンスは言う。

彼女はこの種の治療法を、自宅療法にうってつけと言う。退院直後の脳卒中患者の中から選んだ人々にミラー・ボックスを提供しているのはそのためだ。既に自宅療法プログラムを終了した患者四人を見る限りでは、自己流のイメージ・プロトコル(手順)でも運動能力は改善するらしい。だとしたら、試さない手はないのでは? 駄目でもともと、どちらに転んでも損はない。

ほかに、バーチャル・リアリティを活用している科学者たちもいる。これは、コンピュータでシミュレーションした環境と情報のやりとりを行うことにより、脳卒中患者の脳が再マッピングできるようにする技術である。患者はバーチャルな世界に浸ったまま、運動機能の回復の呼び水となるような形で正常な運動をイメージする。麻痺した腕や脚に取り付けた装置を介してフィードバックが行われれば、脳がその運動を再学習できることもあるという。』

最新情報はないだろうかと思いネット検索してみると、『運動機能回復を目的とした脳卒中リハビリテーションの脳科学を根拠とする理論とその実際』という論文を見つけました。

運動機能回復を目的とした脳卒中リハビリテーションの脳科学を根拠とする理論とその実際(PDF11枚)

 しかし、これも2010年なので新しいものではありませんでした。そこで、発行元の“相澤病院”と著者の“井上勲”というキーワードから検索をかけたところ、下記の“福岡青州会病院”というサイトが出てきました。調べてみると2010年当時相澤病院のリハビリテーションン科医長だった井上先生はこちらの病院に勤務されていることが分かりました。また、脳卒中などのリハビリテーションに非常に積極的な病院であることも分かりました。 

福岡青洲会病院では、地域の皆様に継続的に科学的根拠に基づいた質の高い リハビリテーションの提供を可能とするため、「先進リハビリテーション実践センター“HOPE”」を設立いたしました。先進リハビリテーション実践センターでは、下記に示すチーム毎に組織横断的に多職種でのチームを組織し、研究も含め患者さんに質の高いリハビリテーションの提供を目指します。

画像出展:「福岡青洲会病院

ミラーセラピーに関しては、大阪府和泉市にある生長会 府中病院さまのサイトに詳しい紹介が出ていました。

画像出展:「生長会 府中病院

まとめ

1.人には「脳卒中になると通行止めが外れ、脇道を通れるように」という仕組みが備わっている。

2.大人の脳にも可塑性があり、損傷に応じてそれに適応するように再構築することが可能である。

3.理学療法の目的は神経可塑性のメカニズムを後押しして、機能マップを回復させることにある。

4.脳卒中後の麻痺を改善するには運動イメージが役立つ。

5.運動イメージを利用して高次運動マップを刺激してやれば、義肢への適応に役立つ。

運動イメージ法

アルヴァロ・パスカル・レオーネ先生は2017年10月にアップした“うつ病治療(TMS)”に登場していました。そのパスカル・レオーネ先生は、自称“狂”の字がつくほどのサッカー・プレイヤーとのことです。

著者:サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

今回のテーマはイメージトレーニングに関するものですが、イメージトレーニングは40年以上前からありました。筑波大学の大学院に進学された先輩からの依頼で、下級生だけだったように記憶していますが、多くのサッカー部員がデータ収集のために協力し、指示された方法で置かれたボールを蹴る(プレースキック)という行為を繰り返し行ったということがありました。

当時、積極的に取り入れることのなかったイメージトレーニングですが、今回の本を読んで非常に有効なものであることが分かり、少し後悔するとともにブログにアップしたいという気持ちになりました。

熟練の技と脳 

アルヴァロ・パスカル・レオーネはハーバード大学医学部神経学教授で、ボストンにあるハーバード大学の教育病院、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの非侵襲的脳刺激センター所長の任もある。スペインはバレンシア生まれで、母国ドイツとアメリカで教育を受けた後、1997年にハーバード大学の教授陣に加わった。強力な電磁石を使って脳を調べることが目的だった。

彼が使用している検査技法は経頭蓋磁気刺激法、略してTMSという。一端に数字の8の字形のコイルが付いた重いスキャナを、彼は巧みに操作する。このスキャナをボランティアの頭皮にあてると磁場が生じて、それが皮質自体の2、3センチ下に微弱な電流を発生させる。脳を遠隔操作で探り、スキャンできる魔法の電極のようなものだ。ワイルダー・ペンフィールドがこれをみたら、どれほどうらやましがることか。

TMS磁石を使って、たとえばボランティアの一次運動マップにある足首の領域を刺激したら、どうなると思う? 高出力では、ちょうどペンフィールドが彼の患者たちについて報告したように、足首に単収縮を誘発する。低出力では単収縮はみられないこともあるが、それでも影響は及ぼす。出力を下げても、ホムンクルスは、TMSコイルが“ピッ”と刺激を出すたびに、足首の筋肉に信号を送り続けているからだ。この信号は完全な単収縮を誘発する閾値には届かないのだが、筋肉はほんのわずかに緊張して反応を示す。この緊張を、皮膚にテープで留めた電極で測定するわけだ。パスカル・レオーネはこうしてボランティアたちの一次運動マップ周辺を調べて、ホムンクルスの足首の領域、肘の領域、首の領域など、ありとあらゆる領域を見つけ出しているのである。

ワイルダー・ペンフィールドが作った“ホムンクルス”

画像出展:「脳の中の身体地図」

パスカル・レオーネがとりわけ関心を抱いているのは、TMSを使って、脳が新しいスキルを学習したときの一次運動マップの変化を調べることだ。「何をしても、何かを考えただけでも脳は変化する」と彼は言う。新しいことを学習するたび、つまり、脳が長期間記憶する価値のある経験だと判断するたびに、細胞間に新たな接続が出現し、既存の接続が強化される。このプロセスを可塑性という。

自称“狂”の字がつくほどのサッカー・プレイヤーで、“熱心”なテニス・プレイヤーでもあるパスカル・レオーネは、身体的練習による脳の変化を調べることにした。具体的に言うなら、スポーツや楽器のスキルが向上すると、運動マップに何が起きるのだろう?

1994年、彼はそれを突き止めるための実験に乗り出した。ボランティアのスクリーニングを行って、楽器を演奏したこともなければ、タッチタイプを習得してもいない、右利きのボランティアだけを被検者として採用した。このスクリーニングを経てアメリカ国立衛生研究所の運動制御研究部門を訪れた被験者を対象に、パスカル・レオーネは連続五日間の実験を実施したのである。被験者には、コンピュータに接続されたピアノの鍵盤で五指のエクササイズを行うように指示した。こんな具合だ。親指、人差し指、中指、薬指、小指、薬指、中指、人差し指、親指、人差し指……繰り返し。ひとつひとつのキーを押す間隔と長さが一定になるように特に注意しながら、この指の運動を滑らかに、しかも、ミスタッチなくできるようにしろというわけである。それも、メトロノームが刻むリズムに合わせてかなり速いテンポで弾くことを要求した。

トレーニング開始前に、彼はTMSを使って、被験者の左半球(右手を統御する)にある指のマップの大きさを測定した。それから毎日、二時間ずつ練習させて、五指のエクササイズを20回、間違わずに繰り返せるか試験した。被検者たちはみな、日を追って上達していった。

皮質の指のマップを毎日測定し直したところ、驚くなかれ、一本一本の指の筋肉群のマップが著しく増大していた。身体的練習はピアノの演奏という新しいスキルの習得にかかわる脳のマップを、間違いなく拡大させたのだ。こうした可塑的再マッピングは、ギターの演奏であれ、ゴルフやテニス、野球、ダンスであれ、新しいフィジカル・スキルを学習したり向上させたりするときに必ず起こるものである。

ここまでが実験の第一段階。翌週は、被験者を二群に分けた。一群には毎日の練習をさらに四週間続けさせたが、もう一群はここで練習終了とした。すると、練習を中止した群では、指のマップが一週間で練習前の大きさに戻ってしまった。しかも、練習を続けた群でも、演奏は上達し続けている一方で、マップが小さくなった。なんとも奇妙な要領を得ない結果ではないか。マップは練習しないと収縮する。しかし、練習しても収縮するのだ。これをどう解釈したらよいのだろう?

パスカル・レオーネによると、どんなスキルにかかわるマップ―筋肉に動作の指令を送るマップ―も、身体的練習によって再編成される。練習を始めたばかりの初期の段階では、まだ初心者なので、能力を最大限まで高められる接続パターンを探して強化しようと、神経の再配線が活発に行われる。そのせいで、指のマップが拡大するのだ。そこで練習をやめると、指のマップは適応する気をなくして、元の大きさに戻ってしまう。ところが、長い期間、練習を続けると、マップが長期的な構造変化の新たな段階に入る。すると、早い段階で形成した神経接続は不要になる。それで整理統合が起きるのだ。マップの基本回路にスキルがうまく組み込まれて、プロセス全体の効率がアップし、自動化が進むのである。

こうしたことすべてに、もう一段上のレベルがある。そこまで行けば、真の熟練の技、名人芸だ。複雑な運動スキルを、絶えず完璧を求めつつ、長年にわたって来る日も来る日も練習していると、運動マップが再び拡大し始める。たとえば、ゲイリー・グラフマンのようなプロのピアニストは紛れもなく、手と指のマップが拡大している。彼のマップが平均より大きいのは、研ぎ澄まされた神経配線がぎっしり詰まっているからだ。それが彼の十指すべてのタイミングと力と運指の精緻な(それも苦労して手に入れた)コントロールの源となっている。イツァーク・パールマンのようなバイオリニストも大きくなった手のマップを持っているはずだ。ただし、片手分だけ。彼の弦を押さえる手をコントロールする手のマップは、確かにピアニストのそれのようである。しかし、弓をもつホムンクルスの手は、少なくとも肉眼で見る限りは、音楽家ではない人々のそれと大差ない。そう、彼の弓を持つ手はもちろん器用だ。しかし、協調運動のレベルでは弦を押さえる手にはとうてい及ばず、マップも普通以上には増強されていないのである。

熟練の技に関しては、もうひとつ興味深い事実がある。複雑なスキルを徐々にマスターするにつれて、そのスキルに必要な“運動プログラム”が前頭皮質の高次領域から低次領域へ、皮質下の構造へと次第に降りてくるのである。社交ダンス教室に入門したての男性を想像してみよう。初心者の例に漏れず、彼も初めは下手くそだ。レッスンを始めてから最初の数回は、ダンスに関連した運動の組み合わせを、補足運動野などの高次運動野で処理している。この補足運動野はあらゆる複雑きわまりない。絶えず神経を張り詰めていなければならないのだが、それでも何がなんだかわからなくなってしまうことが多い。

しかし、音を上げずに数か月がんばっていると、動きがずいぶんと滑らかになってくる。この頃になると、ダンスを踊るのに補足運動野はあまり使わなくなっている。今では、彼が使っている運動指令のシーケンス(組み合わせ)の多くが、皮質の階層を下って、主に運動前野に降りてきている。彼は優秀なダンサーになりつつあるのだ。フレッド・アステアとはいかないものの、ダンスの基本にばかり気をとられずに済むようになった。失敗もずっと減った。運動シーケンスをいくらでも即興で延長できるようにもなった。

何か月も、さらには何年も頻繁に練習を重ねるうちに、ついには、運動前野がダンス関連の数々のシーケンスを一次運動野に委ねるときがくる。今なら掛け値なしに上手なダンサーと言える。ダンスが彼の基本運動マップの運動プリミティブ(訳注:最小の運動基礎単位である原始的な運動パターン)と密接に結びついたからだ。ダンスが本当に、彼という存在の一部になったわけである。』

運動イメージ法だけがマップを変える

『ウィークエンド・アスリートであるパスカル・レオーネは、メンタル・プラクティスとスポーツの関係に興味心身だったそうだ。「スポーツ観戦が好きな人なら誰でも、アスリートたちがさあこれからというときに、メンタル・リハーサルをしているらしい様子を目にする機会があるはず」と彼は言う。「バスケでフリー・スローを決めようとしているときや、スキーの回転競技で今しもスロープに飛び出そうと身構えているときがそれ。行けるぞという気になるまで、心の準備をしている」のだそうだ。

大勢の有名音楽家たちも同じことをする。ウラディミール・ホロヴィッツはコンサート前に、運動スキルが損なわれないよう、メンタル・プラクティスを行った。愛用のスタインウェイ以外のピアノからのフィードバックが、彼にとっては苛立ちの元だったからだ。遊び人で大の練習嫌いだったアルトゥール・ルービンシュタインは、ピアノの前に座っている時間を最低限で済ませようと、メンタル・リハーサルを活用していた。七年を獄中で過ごしながら、毎日頭の中で練習を続けたあるバイオリニストは、出所したその夜に非の打ち所のない演奏をしてみせた。けがをしたバレリーナがスキルを維持するために、床に寝そべって、バレエのステップを指でさらうのは周知のとおりである。

そこで、パスカル・レオーネも、例の五指のエクササイズの実験を、ある特殊な形のメンタル・プラクティス、つまり運動イメージの内部形成と併用して、再度行うことにした。

イメージはさまざまな形をとるので、まずはそれを区別しておくことが大切だ。物体をイメージするのがどんなものかは、ご存知のとおりである。目を閉じて、カバを思い描いてみよう。次はベリー・ダンサー。これが視覚イメージだ。あなたは今、傍観者の立場にある。視覚イメージは視覚認知を司る脳領域を働かせて、目で見たことのあるものの画像的記憶を呼び覚ますのだ。

運動感覚記憶ともいう運動記憶は、運動をイメージするプロセスである。自分が黒板の字を消しているところ、名前を書いているところ、あるいは皿洗いをしているところを思い浮かべてみよう。今のあなたは行為者である。事実上、頭の中で運動を行っている。心の中の目ではなく、むしろ、心の中の身体を使っている。運動イメージは身体の曼荼羅の一部、たとえば運動計画や固有感覚にかかわるマップを使用する。心の中の行為をしているという感情を刺激するのである。

パスカル・レオーネの新しい被験者たちは、前の実験と同じ設定で、一日二時間、週五日を、五本の指でピアノのキーをたたいているところをイメージして過ごした。実際に演奏しているように、それぞれの指の運動を心の中で反復するように指示された。指を鍵盤の上で休めるのは構わないが、鍵盤から離すのは厳禁という条件も付いた。

その成果には驚かされた。一週間の運動イメージ練習で、身体的練習とほぼ同じレベルのボディ・マップ再編成に至ったからである。運動皮質にとっては、実際に行った運動もイメージした運動もほとんど変わりがなかったのだ。

この“ほとんど”というところがミソだ。運動のメンタル・リハーサルを行うと、実際には運動していないのに、運動を制御する脳領域が、ひとつを除いてすべて活性化される。ダーツを投げているところをイメージしても、身体は動かない。ピアノを弾いているところイメージしても、筋肉は静止している。つまり、運動イメージは、運動がリアルタイムで行われているかのように脳の運動機構が展開している、オフライン作業と言える。寝室に行くところをイメージするには、実際に寝室まで歩いていくほどの時間がかかる。重い箱を抱えていると想像すれば、その分、もっと時間がかかる。走っている自分をイメージすると、呼吸が速くなって脈拍も上がる。一日十分、小指の運動をイメージすれば、四週間後には、小指は最大五倍の強度を持つことになる。

スキルのレベルがどうあれ、コーチとアスリートなら、これを無視する手はない。さまざまなメンタル・プラクティスが有用であることに疑問の余地はないが、身体的練習と同じようにボディ・マップを変えられる方法は運動イメージ法ただひとつだ。視覚イメージ法(傍観者の観点からのイメージ)、リラクゼーション、催眠療法、アファメーション(訳注:潜在意識を利用したメンタル・トレーニングで、自分はこうありたいというイメージを既に実現しているものとして肯定することにより能力向上を図る方法)、祈りなどのメンタル・プラクティスはそれぞれにいろいろな形で役立ってくれるが、運動マップを変化させはしない。ストラウブのダーツの実験で、最も成績が向上したのは運動イメージを行った学生だったことをお忘れなく。』

まとめ

1.脳の細胞間に新たな接続を出現させ、既存の接続を強化するには、脳が長期間記憶する価値のある経験だと判断することが必要である。(漠然と行うのではなく、目的と意志をもつことが大切)

2.運動イメージ法を目的と意志をもって継続していくと、運動マップの整理統合が進み、難しかった動作がスムーズな動作に変わる。これを追及し続けるとやがて“熟練の技”の域に達する。

3.視覚イメージ法、リラクゼーション、催眠療法など、さまざまなメンタル・プラクティスがあるが、身体的練習と同じようにボディ・マップを変えられる方法は運動イメージ法だけである。

戯言

もし、今、サッカー選手だったら、運動イメージ法を利用し、ディフェンダーを混乱させるような“熟練の技”を身につけたい。まず、いくつかのシュートパターン(ポジション、相手の位置、パスコース、キックの種類など)を絵と言葉でシートに起こし、空いた時間に運動イメージ法に取り組む。そして、グランドでのシュート練習やゲーム形式の練習の時に、最も近いシュートパターンを脳に語りかけ、リアルとバーチャルのハイブリッドで自分のプレーをレビューする(何が良くて、何が悪かったか)、そして、“継続は力なり”の原則を守り、運動イメージ法の質とリアルのプレーの精度を合わせ技で高めていく。

画像出展:「GAHAG

脳の可塑性とボディ・マップ

限界を超える子どもたち』は2019年2月にアップした“アナット・バニエル・メソッド”の原本です。この本のインパクトは凄まじく、私は小児障害児へのマッサージの基礎に、このメソッドを据え置こうとしています。

本書には「9つの大事なこと」というのがあるのですが、今回のブログのきっかけとなったミラー・ニューロンは5つめの「内なる熱狂」の中に出ていました。

喜びを深める力

たとえ言葉にしなくても、あなたが心の内で熱狂すると、子どもはそれを感じとります。親子のあいだで交わされるそのような無言のやりとりを、私は何千と見てきました。心強いことに、近年、科学もこれを立証するようになりました。

1996年、イタリア・パルマ大学の神経科学者ジャコモ・リツォラッティがサルの脳のミラー・ニューロンの活動をつきとめました。彼はのちに「ミラー・ニューロンは、私たちが推論によってだけでなくシミュレーションをすることによって、考えることではなく感じることによって、他者の心をつかみとることを可能にする」と述べています。科学ライターのサンドラ・ブレイクスリーは「人間の脳には他者の行為だけでなく、その意図、また、態度や感情がもつ社会的意味を読みとるミラー・ニューロンのシステムが複数ある」と記しています。

科学研究から読みとれるのは、あなたが心を熱くすることが子どもの脳におおいに影響するということです。あなたが喜びを深め、それを熱狂にまで高めることが、子どもが自分の変化(違い)に気づき、それを感じとることを助けます。そのとき子どもがあなたから感じる前向きの感情が、その子の脳に、「この変化は大切なので刻みこむべきだ」と伝えます。子どもはあなたの熱狂―喜びや満足感、希望的な気持ち―を感じとります。その一方で忘れてはならないのは、子どもの脳は周囲の人々の落胆や失望、無力感、無関心といった感情も鏡のように写しとるということです。』

人間の脳には他者の行為だけでなく、その意図、また、態度や感情がもつ社会的意味を読みとるミラー・ニューロンのシステムが複数ある」と説いたサンドラ・ブレイクスリーの著書は、ワシントンポスト紙の2007年度ベストブック(科学・医学部門)に選ばれた『脳の中の身体地図』でした。副題には「ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」となっています。 

著者・サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー

出版:インターシフト

発行:2009年4月

こちらは原書ですが、発行は2007年9月なので約1年半前ということになります

この本から今回の“脳の可塑性とボディ・マップ”を含め、以下の5つに分けてブログにアップしたいと思います。

1.“脳の可塑性とボディ・マップ

2.“運動イメージ法

3.“脳卒中のリハビリテーション

4.“共感とミラー・ニューロン

5.“官能的感触と成長

知能は身体を必要とする

『脳のマップは身体のみならず身体周囲の空間も図示する、拡大、収縮して日常生活の中に存在する事物を取り込む、しかも、自分の育った文化によって形作られるという考え方は、科学にとっては極めて斬新だ。今では研究により、脳がボディ・マップだらけであることがわかっている。体表のマップ、筋系のマップ、意図のマップ、行動する能力のマップ、まわりの人々の行動と意図を自動的に追跡して列挙するマップさえある。

これらの身体中心のマップは実に可塑性に富んでいて、損傷や経験、訓練に応じて大幅な再編成を見せる。形成されるのは幼少期なのだが、経験を積むにつれて成熟し、速度こそ衰えてくるものの、生涯変化し続ける。ただし、いくら、こうしたボディ・マップが自分という存在の中心だと言っても、この我が身の化身はたいてい、意識の端をちらりとかすめる程度で終わっている。まして、そのパラメータ(変数)が年々刻々と絶えず変化し、適応しているとは思いもしない。意識の舞台裏で続けられている膨大な作業を、あなたはまるで理解していないだろう。だからこそ、身体化が実に自然に感じられるのだ。ボディ・マップの持続的な活動は、あまりに継ぎ目なく、自動的で、流れるようにしっくりなじんでいるので、それが起きているとは気づかないし、人間性や健康、学習、これまでの進化の過程、サイバネティックス[人工頭脳学]によって広がる未来に対する興味深い洞察を生み出しているとは、なおさら思うまい。

身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではない。両者の関係は完璧なまでに互恵的だ。身体と脳はお互いのために存在している。動かすことも止めることも自在で、触れるのも躱すのも可能、やけどもすれば温まりもする、凍えたり冷えたりする、緊張することもあれば休めることもできる、飢えればむさぼり食って栄養を付ける。そんな身体は感覚のレーゾン・デートル、存在理由だ。そして、皮膚と身体から感じる感覚―触覚、温覚、痛覚など、本書で取り上げるほんの数種の感じる感覚が、あなたの心の基盤となる。他の感覚はみな、相対的な利便性のために追加されたものに過ぎない。せんじ詰めて言えば、人間は視覚や聴覚が無くても、元気いっぱいに暮らしていける。両方の感覚に恵まれなかったヘレン・ケラーのような人々さえ、心身両面で力強く成長できるのだ。生まれながら耳の不自由な人々の脳は聴覚マップを構築しないし、先天的に目が不自由な人々の脳が視覚マップを形成することはないけれども、視聴覚障害がある人々もボディ・マップを持っている。それにひきかえ、景色や音を伝えるべき身体のない視覚と聴覚は、物理的に空っぽな情報パターン以外のなにものでもない。意味は動作主性(行動し選択する能力)に根差し、動作主性は身体化によって左右される。実を言うと、これこそ人工知能学会が数十年にわたってフラストレーションを味わった末に、苦労してようやく得た教訓である。真に知的なものは、身体のないメインフレームでは発達しようとしない。現実の世界には、肉体を持たない意識など存在しないのだ。

柔軟に形を変える無数のボディ・マップが全部合わさって、“私らしさ(me-ness)”という立体感のある主観的感覚と、周囲の世界を把握してうまく渡っていく能力を生み出す。ボディ・マップは、全体の模様が感情のある身体化された自己を創出する曼荼羅だと考えればよい。身体化された自己の創出には不要なその他の心的能力、つまり視力、聴力、言語、記憶はどれも、ちょうど骨格にぶら下がっているさまざまな器官のように、この身体の曼荼羅マトリックスに支えられている。発達という観点から言えば、これらのボディ・マップなしには、自己認識を持った思考する人になることはできないのである。 

『脳にある、巨大でありながらもしっかりと統合されたボディ・マップのネットワークについて説明するには、曼荼羅こそ魅力的なメタファー[隠喩]であると同時に、おあつらえ向きの縮小版だ。ボディ・マップ網を曼荼羅に例えると、周りの諸尊は皮質にある大小多数のボディ・マップで、すべて相互・複雑に関係している。中央の尊像はそれらの複合産物、つまり、全体としての不可分な身体化された自己である。』

画像出展:「ウキメディア

それは少し大げさではないかという向きには、こう考えていただきたい。たとえば子猫などの幼いほ乳類を、脳の初期発達が進む重要な時期を通して抱いて歩き、環境中のあらゆる事象を目に触れさせる一方で、自分ではけっして動き回らないでおくと、この哀れな生き物は事実上、生きるということを理解できない猫に育ってしまう。ある程度の光や色や影は知覚できるから、視覚系の最も基本的な生来の能力は備わっているわけだが、奥行き知覚力と物体認識は惨憺たる有り様になる。眼と視神経は非の打ち所なく正常で無傷でも、高次視覚系はほとんど役に立たない状態だからだ。

どうしてこんなことになってしまうのか? 動物が目で見るという行為をしながら成長すれば、脳にある視覚マップのネットワークも正常な方向に発達するはずではないか? 形状や濃淡、運動、色、視差、大きさ、距離に関する視覚情報に満遍なく触れていれば、自己可動性の欠如を十分補えるだろうに? 意外だが、答えはノーだ。別の要素が要る。世界の隅々まで探索するために自分の身体を自由に駆使する能力である。成長期にあるほ乳類の幼獣が歩き回ると、自分自身の身体運動からフィードバックがあり、それが目にしたものの意味を教えてくれるのだ。一歩ずつ歩を進め、途中で休憩し、歩くペースを上げるたびに、重要な感覚情報がボディ・マップのネットワークを介して上位の脳神経系へ伝達される。すると、目から流れ込んでくる、本来なら無意味な染みや色、影の意味を幼獣が理解するために必要な情報が、このネットワークから幼獣の発達途上の視覚系に送られてくる。ハイレベルな視覚情報に触れていても、傍観者の域を出なければ、そうした視覚情報が本当は何を意味するものなのか、脳はけっして学習しない。

ここまで言えば、視覚が実は曼荼羅の居候で、腰の低い共生者だと、うすうすわかってきたはずだ。すべての“特殊”感覚[視覚、聴覚、味覚、嗅覚、前庭感覚(平衡感覚)]に同じことが言える。身体の曼荼羅はそうした感覚の中心にある統合者であり、心の究極の基準系であり、知覚の基礎をなす単位系である。感覚は身体化された自己に照らし合わせなければ意味はなさないのだ。

さて、身体の曼荼羅の全体像をなんとなく理解していただきたいところで、そろそろ的を絞って、本題に移ることにしよう。身体の曼荼羅のほかの要素を土台のように支えている一次感覚マップと運動マップである。』

自分に身体のあることがわからない 

『触覚をベースにしたペンフィールド式ボディ・マップについては、もうご理解いただけたことと思う。 

ペンフィールドのホルムンクスとは

左が一次体性感覚野、つまり、触覚とかかわる感覚に基づいたボディ・マップ。右が一次運動野に存在する、随意運動の基本ボディ・マップ。図は、脳の右半球。左半球にもほぼ同じマップが対になって存在している。

ワイルダー・ペンフィールドは1930年代、モントリオール神経学研究所の脳外科医であった。てんかんの病変部の切除を目的とした本番手術の準備として、痛覚受容器を持たない脳に電極をあてて原因と思われる腫瘍などの異常組織を何時間も探し続けた。

ペンフィールドが尋ねる。「今、どんな感じがしますか?」メアリー(仮名)は左手がチクチクしている感じがすると答える。ペンフィールドはそのスポットにナンバーを振った小さな付箋を貼り付ける。結果は、手術室の外に座っているガラス越しに覗いている秘書にも書き取らせていく。

その後20年にわたり、ペンフィールドは脳組織の同じ帯状領域を調べて、大勢の患者から同様の反応を得た。こうして粘り強く収集したすべてのデータをもとに、ペンフィールドが作成したのが身体表面の完全な脳マップである。彼は遊び心でこのマップに中世哲学の用語で“小人”を意味するラテン語の“ホムンクルス”というニックネームを付けた。

画像は『脳の世界』さまから拝借しました。

“ロンドンの自然史博物館にあったホムンクルスの模型。赤が体性感覚野、青は運動野”

あなたの身体の表面には至るところに、優しい愛撫や圧力、疼痛、熱さ、冷たさを担当するセンサがある。ところが、身体のフェルト・センス(フェルトはfeelの過去分詞形。たとえば、“胸がしめつけられる”など、なんとなく感じられる感覚)、つまりボディ・スキーマにはさらにふたつ、ほぼ完全に意識外で機能する構成要素がある。科学者たちはこれらの感覚チャネルの存在を何十年も前から承知していたのだが、今ようやく、その源である特定の脳領域にたどり着こうとしている。ひとつは身体の内部からの信号を読み取る領域、もうひとつは内耳からの信号を読み取って、平衡感覚を生む領域である。

ここで少し時間を割いて、自分の身体を構成している筋肉、骨、関節、腱を思い浮かべてみよう。これらの組織には、筋線維の単収縮、骨にかかる機械的ストレス、関節の角変位、腱の伸展など、小さな運動を検出するための特殊化した受容器がある。こうしたセンサは変化を感知するたびに脳に情報を送り、あなたの空間内の位置や体位に関する感覚を更新する。この情報を伝える信号は、まず、一次触覚マップにマッピングされた後、分岐してフィルタをかけられ、身体の曼荼羅にある他の高次マップへと上がっていく。その高次マップが身体の運動とその運動に関する予測を誘導するわけだ。

これらのセンサは体重と姿勢を計算して、固有感覚なるものを生み出す。これは、“自分自身を認識する知覚”という意味だ。飲酒検査に引っかかったとしたら―つまり、直線上をまっすぐ歩けなかったり、自分の指で自分の鼻に触れられなかったりしたら―、それは自分が空間内のどこに位置していて、四肢をどう動かしているかを認識する感覚が正常に機能していないからである。成長スパート、つまり、成長が加速する時期には、一時的にこの身体感覚を失って、足や脚があるべきところにないように感じる小児やティーンエイジャーもいる。新しい技能やスポーツを身につけるときは、練習によってこの身体感覚を磨き直さねばならない。

ボディ・スキーマの情報源には、“マッスル(筋肉)・メモリー”という記憶の図書館もある。よく使われる用語だが、少々不正確だ。これらの記憶は、“マッスル・メモリー”、つまり筋肉の記憶という名が示すとおりに筋肉にあるのではなく、実は脳の運動マップに存在しているからである。マッスル・メモリーがあるから、自分の身体がどう動くのか、何ができるのかと直感的に悟ることができる。この暗黙の知識の例としては、身体をどこまで曲げられるか、背中のどの辺なら手が届くか、食卓に並んでいるもので、身を乗り出さなくても取れるのはどれかといったことが挙げられる。このような理解と判断の大半は無意識に行われる。身体の曼荼羅が絶えず計算し、それに基づいてボディ・スキーマを最新の状態に保っているからである(区別を明確にしておくと、身体の曼荼羅は脳にあるボディ・マップの物理的ネットワークで、ボディ・スキーマはそれらのマップによって構築された、身体が感じ取った経験である)。』

まとめ

1.ボディ・マップの形成は幼少期だが、速度こそ衰えてくるものの生涯変化し続ける。

2.身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではなく、両者の関係は互恵的であり身体と脳はお互いのために存在している。

3.皮膚と身体から感じる感覚―触覚、温覚、痛覚などの感覚が心の基盤をつくる。

4.発達という観点から言えば、ボディ・マップなしに自己認識を持った思考する人になることはできない。 

5.体を動かすことによって得られた感覚情報が脳へフィードバックされ、目から流れ込んでくる情報と統合することによって、脳は目にしたものの意味を理解する。

6.筋肉、骨、関節、腱に存在するセンサ(受容器)から脳に送られた情報が、空間内の位置や体位に関する感覚を生みだす。これは自分自身を認識する知覚であり、固有感覚と呼ばれている。

めまい

4月末、業務委託の方の仕事でめまいの患者さまに施術を行いました。発症後3日目、まだ回転性めまいが止まらないということでした。耳鼻咽喉科、総合病院の内科を受診され、めまい止めと吐き気止めの薬を処方されたものの、めまいは改善されず、明確な病名も明らかになっていない状況でした。

気になる所見は2つです。1つは両眼の焦点が合わないということが3回程あったこと。もう1つは、めまい後に左肩と右肩甲骨付近に鈍痛が発生した。ということでした。

私の勉強不足によるのですが、「もしや耳ではなく、目が原因ということはないだろうか?」という疑問から、時々お世話になっているAskDoctoresという有償サイトに質問をしてみました。その結果、目が原因でめまいを起こすことはないということを確認できました。また、ご回答頂いた先生の中に(内科医)、「めまい外来を検討されると良いと思います」というご指摘がありました。

そこで、早速、さいたま市で検索してみると、岩槻区に目白大学耳科学研究所クリニックがあることを知りました。

『当院ではめまい診療のエキスパートが、チームを組んで診療にあたっております。最新のバランス機能検査機器や高度な診断技術により、めまいやふらつきの原因を的確に調べ、長引くめまいやふらつきの根本的な治療や緩和、予防に取り組んでいます。』

こちらのサイトでは、問診票がダウンロードできるのですが、その質問の中には、「焦点が合わない」、「首や肩の痛みがあった」という質問もありました。この問診票を見て、こちらのクリニックの存在を患者さまに情報提供できていればという思いが残りました。

なお、肝心の治療は30分ということもあり、後頚部と腰部(特に仙骨部)、そして耳周辺の“翳風”というツボに約20分間の置鍼をしましたが、残念ながら、その場で回転性めまいを止めることはできませんでした。その後、この患者さまから連絡が入ることはなかったため、改善されたのかどうかは分かっていません。

そして、今回の知識不足、情報不足を反省し、見つけたのが『めまいは自分で治せる』という本でした。この本は4章に分かれています。ブログで取り上げたのは「第1章 なぜ、めまいがリハビリで治せるのか?」と「第3章 病気別リハビリ&めまいを克服した体験手記」です。ポイントと思った箇所を要約し箇条書きにしています。

めまいで辛い思いをされている方には、「第2章 めまいのリハビリ実践編」と「第4章 めまいを起こさない生活術」、さらに第4章の後ろにある「めまい なんでもQ&A」に関心があるものと思いますが、ブログでは触れておりません。

著者:新井基洋

出版:マキノ出版

初版発行:2012年4月

目次は次の通りです。

はじめに

第1章 なぜ、めまいがリハビリで治せるのか?

「グルグル回る」「フワフワする」「体が揺れる」「立っていられない」

めまいが起こったときの対処法

めまいを治す医師の見きわめ方

めまいの検査は何をする?

めまいはなぜ起こるのか?

小脳はバランスをつかさどる「パイロット」

苦手なリハビリこそ積極的に行う

一時的にめまいが悪化しても大丈夫

第2章 めまいのリハビリ実践編

リハビリで8000人のめまいが改善した

効果的なリハビリのコツ

リハビリを行う際の注意点

【めまいに効く8つのリハビリ】

①「速い横」

②「ゆっくり横」

③「振り返る」

④「上下」

⑤「足踏み」

⑥「片足立ち」

⑦「ハーフターン」

⑧「寝返り」

症状別リハビリ索引

第3章 病気別リハビリ&めまいを克服した体験手記

めまいの原因がわかるフローチャート

良性発作性頭位めまい症

前庭神経炎

メニエール病

めまいを伴う突発性難聴

片頭痛性めまい

持続性平衡障害・加齢性平衡障害

ハント症候群

慢性中耳炎が原因のめまい

椎骨・脳底動脈循環不全症

脳梗塞・脳出血の治療後に残るめまい

心因性めまい・めまいをともなう「うつ」状態

第4章 めまいを起こさない生活

めまいを起こしにくい体をつくる

①睡眠

②アルコール

③タバコ

④コーヒー

⑤食事

⑥自動車の運転

⑦外出

⑧入浴

⑨家事

⑩運動

⑪女性ホルモンの変化

コラム① めまいと骨密度の関係

「前兆」を知ってめまいを未然に防ぐ

①カゼなどの体調不良

②低気圧の接近

③過労・多忙

④精神的なダメージ

⑤その他の前兆

コラム② 「地震酔い」は気のせい?

めまい なんでもQ&A

おわりに

参考文献

新井先生が勤務されている病院のめまい平衡神経科のページをご紹介します。

わたくしの所属する横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科には、北海道から沖縄まで、全国津々浦々のめまい患者さんが治療を受けにこられます。しかしさまざまな事情から、当院を受診されることが困難な患者さんも沢山いらっしゃいます。実際、わたくしの下にも、拙著をお読みになったり、当院のめまい体操を紹介するテレビ番組をご覧になったりして、日本中から連日多くのお問い合わせをいただきます。出来ることならば、すべてのみなさんに通院・入院加療を経験していただきたいのですが、それはなかなか難しいことです。そこで、通院・入院したいけれど出来ない患者さんたちのために、いくつかの拙著(めまいは寝てては治らない:中外医学社他)を書くことで、当院で行っているめまい体操を多くの患者さんに知っていただきたいのです。

はじめに

薬物治療

●脳や内耳の血流を増やしてめまいを改善する薬。

●吐き気や嘔吐を抑える薬。

●内耳のむくみを軽減する薬。

第1章 なぜ、めまいがリハビリで治せるのか?

「グルグル回る」「フワフワする」「体が揺れる」「立っていられない」

●横浜市立みなと赤十字病院の救急外来の統計によると、交通事故やヤケドなどの外傷を除く15,563例のうち、約6%がめまいによるもので、2年間で884名だった。

●めまいの起こり方は、「回転性めまい」「浮動性めまい」「動揺性めまい」「立ちくらみ」の4つに分けられる。

●回転性めまい

・三半規管の障害で起こるのがほとんど。

・症状は数分間から数時間

●浮動性めまい

・体がフワフワするなど。

・症状は回転性ほど激しくないが症状が長引く傾向がある。

・回転性めまいの慢性期、加齢、耳石の障害などが原因。

●動揺性めまい

・頭や体がグラグラ揺れている感じでまっすぐに歩けない。

・原因不明とされることが多いが、加齢、三半規管の機能低下、小脳の障害でみられる。

●立ちくらみ

・耳や脳の障害、低血圧、睡眠不足、疲労などが原因。

めまいが起こったときの対処法

●座れる場所、横になれる場所を移動し、ゆっくり深呼吸をして呼吸を整える(過呼吸[過換気症候群]にならないように注意する)。

●嘔吐の可能性を考え横向きが良い。

●原因が内耳の障害の場合は悪いほうの耳を上にする。

●同行者がいれば、「乗り物酔いの薬」を買ってきてもらい、それを飲んで様子をみる。

●嘔吐がひどくて薬が飲めないときは我慢せずに救急車を呼ぶ。

めまいを治す医師の見きわめ方

●めまいは疲労の蓄積、睡眠不足、カゼなどで体調をくずした時にも現れる。

●症状が長引いたり、悪化したり、くり返し起こる場合は専門医に相談する。

●基本は耳鼻咽喉科だが、最近は「めまい外来」「神経耳科」などもあり、より的確な治療が受けられる。

●めまい専門医の研究会である「日本めまい平衡学会」では、学会が認定した専門会員と、めまい相談医をホームページに掲載している。 

【めまい相談医一覧】を調べたところ、さいたま市で相談医が在籍している病院は、岩槻区の「目白大学耳科学研究所クリニック」、西区の「おくクリニック」、南区の「たかまつ耳鼻咽喉科」の3つでした。

 

めまいの検査は何をする?

●必ず行う目の検査。眼球が無意識で動く「眼振」があればめまいを起こしていることがわかる。

●耳が原因の「末梢性めまい」か、脳による「中枢性めまい」かは、眼球の動きで診断する。

●末梢性めまいでは水平方向の眼振か、回旋が混合した眼振が見られる。

●中枢性めまいの垂直方向の眼振は脳の異常によるもので、CTなどの検査を行う必要がある。

●眼振の検査では「フレンツェル眼鏡」という特殊な眼鏡を使うのが一般的であるが、より精度の高い「赤外線CCDカメラ」を使った検査も徐々に普及してきている。 

フレンツェル眼鏡

画像出展:「病院検査の基礎知識

 

赤外線CCDカメラ

こちらの病院はさいたま市南区にあります。

画像出展:「とくまる耳鼻咽喉科

 

めまいはなぜ起こるのか?

●体のバランス(平衡機能)は、視覚(目)、深部感覚刺激(足の裏)、前庭器(耳)という3カ所から集まる「バランスに関する情報」を小脳が集約し、それを全身の中枢である大脳が統括することによって保たれている。

視覚は周囲の景色や動きを見ることで、体の位置や動きなどを感じ取り、深部感覚刺激は足の皮膚からの情報が脊髄を経て脳へ伝わり、同じく体の位置や動きなどを感じ取っている。これに加えて、なくてはならないのが前庭器の働きである。耳の奥の内耳にある前庭器では平衡機能を維持するために、最も重要な情報を感知している。 

画像出展:「めまいは自分で治せる」

 

●内耳は聴覚をつかさどる「蝸牛」、平衡機能をつかさどる「三半規管」、「耳石器」の3つの器官から成り立っている。そして、三半規管と耳石器を合わせた部分が「前庭器」である。三半規管の中は内リンパ液(非常に粘性が高い特殊な細胞外液)で満たされており、頭が動くとリンパ液も動く。そのリンパ液の流れや速度、方向などを感覚細胞は認識し情報が電気刺激として前庭神経を伝わって脳へと送られていく。三半規管が頭や体の「動き・回転加速度」を感知するのに対し、耳石器は「傾き具合、直線加速度」を感知する。耳石器は2つあり、1つは水平方向、もう1つは上下(垂直)方向の動きや傾きを認識する。 

画像出展:「めまいは自分で治せる」

 

●耳石器はわらび餅のような粘着性のある耳石膜に、小さな粒状の耳石が多数ついた状態になっている。頭を傾けると、耳石膜の上に耳石が働く。その刺激を耳石膜の下の感覚細胞が情報として脳に伝える。 

画像出展:「めまいは自分で治せる」

 

なにかの原因でどちらかの耳に障害が起こると、平衡機能が低下しバランスがくずれる。特に三半規管の機能に左右差が起こったときに、めまいが発現する。この左右差は薬や注射では根本的に治すことはできない。めまいにともなう諸症状の改善には薬物療法は必要だが、この左右差を改善しないとめまいは残る。この左右差を改善する方法は、リハビリにより小脳の働きを高めることである。 

小脳はバランスをつかさどる「パイロット」

●めまいが徐々に軽減されていくのは体にもともと備わっている「中枢代償」という小脳の働きによる。これは小脳が左右差を軽減し、平衡機能を補おうとする作用である。

●体のバランスは耳だけでなく、目(視覚)や足の裏(深部感覚刺激)からの情報によっても大きな影響を受ける。これは耳の障害があっても情報取集部位の目と足の裏を鍛えることで、耳の障害をカバーすることができるということを意味する。

苦手なリハビリこそ積極的に行う

●フィギュアスケートの素晴らしい回転の演技は、練習によって獲得したもので、回転後の眼振を抑制できているからである。これは「RD(response decline)現象」といい、医学的には小脳が目の動きを止める指令を出し、眼振を抑制しているためと考えられている。これも「小脳の中枢代償」である。

「めまいのリハビリ」とは、目と足の裏、そして耳(前庭器)を鍛えることで、「小脳の中枢代償作用」を最大限に生かし、めまいの改善と再発予防を目指すものであり、弱っている平衡機能を鍛えて高めるものである。

リハビリは必ず医師の診断と治療を受け、急性期のめまいが治まってから開始する。

第3章はフローチャートに続き、めまいの原因となる各病気の説明が続きます。「体験談」自体は省略していますが、体験談の後に出てくる「新井先生のコメント」については一部ご紹介しています。

第3章 病気別リハビリ&めまいを克服した体験手記

めまいの原因がわかるフローチャート


1.良性発作性頭位めまい症

●めまいは「自発性」と「誘発性」に分けられる。前者のめまいは、椅子に座っているときや寝ているときなど、自分が動いていないときに生じるタイプである。後者は、寝返りを打ったり、急に起き上がったりしたときなど「ある動きに誘発されて」現れる。この自発性か誘発性かはめまいの原因となっている病気を確定するのに重要であり、受診時に医師に伝えるべきものである。

●誘発性のめまいの代表格が「良性発作性頭位めまい症」である。頭や体の位置を変えたり、ある特定の体勢を取ったときに激しいめまいが起こったり、めまいの程度が悪化したりする。めまいの発作は数十秒~数分で治まるのが普通。吐き気や嘔吐をともなうこともある。

●めまい発作とともに耳鳴りや難聴が現れたり、以前からあった耳鳴りや難聴が増悪したりすることはない。

良性発作性頭位めまい症は、耳の奥にある耳石器にくっついている耳石がはがれて、三半規管の中に入り込むことで起こる。三半規管のリンパ液の中を本来なら存在しないはがれ落ちた耳石が移動することで、脳に異常な情報を伝えてしまうことでめまいが起きる。

耳石がはがれる原因は、寝たきり、頭部打撲、交通事故、慢性中耳炎などの耳の病気、加齢などがかかわっているとされている。

●頭を動かすリハビリは、耳石が三半規管から出て、耳石器に戻って耳石膜に再びくっつくことを目的としている。一時的にめまいやふらつきが増悪するケースも多く見られ、1回のリハビリで元に戻すことは難しいが、軽いぶり返し程度であれば続ける。山を乗り越えることでめまいから解放される。

●【体験談1】に対する「新井先生のコメント」:『めまい発作が起こったときは、血圧が上がります。血糖値も上がります。体に異常が起こると、脳へ酸素や栄養を運ぶための血流を保とうとして、血圧や血糖値が上がるようになっているのです。つまり、菅原さんの場合も、急に血圧が上がったためめまいを起こしたのではなく、めまいが起こったことで血圧が上がったのです。原因と結果が正反対なので、降圧剤を飲んでもめまいは改善しません。』

●【体験談2】に対する「新井先生のコメント」:『本田さんの場合、耳石がはがれやすく、重い発作をくり返していました。通常、耳石がはがれるのは左右どちらかの場合が多いのですが、くり返すめまい発作の経過途中で、本田さんは両耳で耳石がはがれていることがわかりました。このように両耳の障害が原因でめまいをくり返す重篤な症状のかたは非常にまれで、良性発作性頭位めまい症の患者さんのうち、0.1%以下です。』

2.前庭神経炎

前庭神経炎は、内耳から脳に情報を伝える前庭神経になんらかの原因で障害が起こり、突然、激しいめまいが現れる病気であり、激しい回転性のめまいが1週間くらい続く。この間、立ったり歩いたりすることはできず、「目を開けることもできない」という人もいる。吐き気や嘔吐も伴うため脳の病気と考え、救急搬送されるケースも多い。

耳鳴りや難聴は発現せず、これがメニエール病との違いである。

●約1週間の激しいめまいの後、体を動かすとめまいやふらつきを感じる後遺症が残り、放置するとそれが数か月から数年間も続くケースも多い。

炎症を示す「炎」という文字がついているが、前庭神経が炎症を起こしているわけではなく、「炎症のように激しい症状」ということで、この病名がつけられている。

●聴力検査、眼振検査などを行い、他の病気の疑いが消えたら、耳に水を注入して三半規管の機能を診る「カロリック検査」を行う。

カロリック検査

カロリックテスト(温度刺激検査)という検査で、耳に刺激をあたえてめまいを起こし、どちら側の耳に異常があるかを調べます。』

画像出展:「めまいナビ」

 

めまい・ふらつき・吐き気・頭痛・耳鳴り等の症状の情報サイト』

●【体験談】に対する「新井先生のコメント」:『前庭神経炎の症状は非常に強く、「大地震のようなめまい」と表現されるほどです。黒田さんが若いころくり返していた軽いめまいと、今回のめまいは、明らかに違います。前庭神経炎の場合は、立ったり歩いたりはもちろん、目を開けることもできなくなります。めまいを起こす病気の中でもきわめて症状が重いので、診察室に入ってきた患者さんは最初、私の顔を見て話すこともできません。』 

画像出展:「めまいは自分で治せる」

 

3.メニエール病

●メニエール病は決して多い病気ではない。

内耳に内リンパ液(非常に粘性の高い特殊な細胞外液)が異常に増え、「水ぶくれ(水腫)」の状態になって内耳の感覚器官に障害を起こす。これにより平衡機能と感覚に異常をきたす。

特徴は耳鳴り、難聴、回転性の激しいめまい。生命に関わるようなことはないが内臓や血管を調整する自律神経の機能が乱れるので、吐き気、嘔吐、顔面蒼白、冷や汗、頭重感など多くの症状が現れる。

●めまいの発作は数十分から数時間で治まるが、めまいと難聴の発作を何度もくり返すのが特徴である。発作をくり返すことで、聴力も平衡機能も低下しめまいやふらつきを起こしやすくなる。

初回の発作から再発までの期間も数時間から数日後、数カ月後から数年後と、人によって大きく異なる。

●原因は不明。過剰なストレス、季節の変わり目や天候、気圧の変化にともなって発症することがある。また、寒冷前線が通過するときに、症状が悪化するというケースも多い。

飲水が治療法の1つになっているのは、水をたくさん飲むと脳が「外から水がたくさん入ってきたから、ため込まなくても大丈夫」と判断し、抗利尿ホルモンの分泌が抑制され内耳の水腫が軽減されるためである。

●【体験談】に対する「新井先生のコメント」:『メニエール病の一般的な治療法としては、利尿薬の服用と、水を多めに飲むこと、そして生活習慣の改善です。働きすぎや睡眠不足、心身への過重なストレスが、メニエール病を誘発すると考えられるからです。そのため、投薬によって一時的に症状が改善しても、再発することがあります。

メニエール病のかたは、自分の生活を振り返って、働き方や生き方、考え方を少し緩やかにするといいでしょう。具体的には、仕事量や就労時間をへらし、睡眠時間や休日、休憩時間をしっかり取る、といったことです。働きざかりのかたには難しいかもしれませんが、自分の体を守るためです。ぜひ心がけてください。』

4.めまいを伴う突発性難聴

●突発性難聴はある日突然、片側の耳が聞こえにくくなる病気である。

●多くの場合、難聴だけでなく耳鳴りや耳が詰まった感じをともない、回転性のめまいが生じる。メニエール病の初期と症状が似ているが、突発性難聴は普通1回しか起こらない。ただし、めまいやふらつきの後遺症が残るケースは多く見られる。

2/3の人に難聴が残るとされており、「耳の聞こえが突然悪くなった」というときは、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診すべきである。特に発病後3~4週放置すると聴力は戻らないまま固定されてしまう。

原因は不明だが、ウィルス感染や内耳に血液を送る動脈の血流障害が考えられている。 

画像出展:「めまいは自分で治せる」

 

5.片頭痛性めまい

●一般に片頭痛は、ストレスや性ホルモンの変動、セロトニンの欠乏、遺伝などが原因で起こることが多い病気である。

片頭痛にめまいが伴うことは多くはない。また、片頭痛とめまいの関係は研究中の段階であるが、因果関係がある場合と、ない場合があるとされている。

●片頭痛性めまいは薬で改善するのは約6割、約4割は「片頭痛は改善したが、めまいは消えない」という状態が続く。このため薬だけでなく、めまいのリハビリにより平衡機能を鍛えることが重要になる。 

6.持続性平衡障害・加齢性平衡障害

この症状は診断が難しく、「年のせい」「気のせい」と言われてしまうことが多い。患者数は相当数にのぼり、原因がわからず家で寝たきりになっている人も少なくない。寝たきりになると、平衡機能を担う「耳」「目」「足の裏」が使われないため、どんどん弱っていく。これがめまいは寝ていても治らない理由である。

●【体験談】に対する「新井先生のコメント」:『五十嵐さんの場合、おそらく最初は、三半規管の障害によるめまいだったのだと考えられます。症状が長引き、安静にする時間も長くなったため平衡機能が衰えて、私が診察したときには、「持続性平衡障害」になっていました。

目と耳と足の裏からの有効な刺激で、小脳を鍛えるのが、めまいのリハビリです。弱っている部分を鍛えるのですから、最初はやはりつらいと思います。しかし、五十嵐さんの例を見えてもわかるように、めまいのリハビリは、短期間で効果を実感できる場合が少なくありません。ただし、入院中に平衡機能が回復してめまいが消えても、退院後にリハビリをやめてしまっては元の木阿弥です。五十嵐さんの場合、娘さんがいっしょにリハビリをやってくれているそうです。このように家族が協力することで、めまいの再発を防ぐことができます。』

7.ハント症候群

●正式には「ラムゼイ・ハント症候群」という。子どものころに水ぼうそう(水痘)にかかり、顔面神経に潜伏していた水痘ウィルスが再活性化し、顔面神経とその横に並ぶ内耳神経(聴覚と平衡の神経)にダメージを与えることで、めまい、耳鳴なり、難聴、顔面神経麻痺などが現れる病気である。

8.慢性中耳炎が原因のめまい

●慢性中耳炎に伴うめまいは、軽いものから激しい回転性めまいをくり返すものまで様々である。ただし、めまいによって耳鳴りや難聴が増悪することは多くない。めまいの原因は内耳の前庭器の働きに左右差が生じることで起こるのでリハビリは有効だが、まずは慢性中耳炎の治療を優先し原因を解決してからリハビリを行うようにする。

9.椎骨・脳底動脈循環不全

●首の後面を走る「椎骨動脈」とそれにつながる「脳底動脈」は小脳に血液を送っている。椎骨・脳底動脈循環不全とはこれらの動脈の血流が一時的に悪くなる病気で、めまいを起こすことがある。血流障害が起こる原因としては、動脈硬化や頸椎の変形などが挙げられる。

めまいとともに、手足のしびれ、嘔吐や吐き気、ときには物が二重に見えたり霧がかかったように見えたりする視覚障害をともなうことがある。めまいと同時にこうした症状が起こった場合、神経内科か脳神経外科、耳鼻咽喉科を受診するようにする。 

10.脳梗塞・脳出血の治療後に残るめまい

●小脳は体のバランスを取る中枢のため、小脳で梗塞や出血が起こると急激なめまいや平衡機能の失調が生じる。また、脳出血や脳梗塞の治療後にめまいの後遺症で悩んでいる患者さまは多い。めまいのリハビリは有効だが、必ず主治医に確認しなければならない。

11.心因性めまい・めまいをともなう「うつ」状態

●精神的なことがきっかけで、めまいが起こることがまれにあるが、その多くはストレスが内耳の血流を障害してめまいを引き起こしている可能性がある。また、不安やうつ状態から家に引きこもり、運動量が減ることで平衡機能が低下して、ふらつきが起こることも考えられる。このように内耳の障害や平衡機能の低下が見られず、精神的なことだけが原因でめまいを発症する、真の心因性めまいは極めて少ない。(新井先生は『2人しか診ていません』と本に書いています)

以上が第3章で紹介されていた全ての病気ですが、ここにないもので気になるものがあります。それは「頸性めまい」です。“日経メディカルOnline”には『繰り返す難治性めまいでは「首」を疑え』という記事が掲載されています。

こちらの記事の閲覧には会員登録(無料)が必要となるため、冒頭に書かれている内容と表のみをご紹介します。

『頸部脊柱管狭窄症や頸椎ヘルニアなどの頸部疾患を持つ患者が長時間同じ姿勢を保持することで発症する「頸性めまい」をご存じだろうか。日常診療で遭遇するなかなか改善しないめまいの中に、「頸性めまい」が潜んでいる可能性がある。診断できれば頸部に負担を掛けない生活を心掛けたり、筋弛緩薬を投与したりすることで、めまい症状を改善できる。

「何度も再発する難治性めまいでは、首の疾患を疑った方がよい。頸部疾患を背景に発症する頸性めまいの可能性が高いからだ」――。こう指摘するのはたかはし脳外科皮フ科医院(新潟県新発田市)の高橋祥氏だ。頸性めまいとは、頸部以外にめまいの原因となる脳疾患や全身性疾患が認められない患者において、肩や頸部に負荷が掛かることで起こるめまいのことを指す。 

画像出展:「日経メディカルOnline

 

新井先生が紹介されているめまいを伴う病気の6番目に「持続性平衡障害・加齢性平衡障害」があり、この病気の症状は診断が難しく、「年のせい」「気のせい」と言われてしまうことが多いとされています。また、9番目の「椎骨・脳底動脈循環不全」ではその原因として頸椎の変形が含まれています。これらの病気の中には頸の筋肉の問題が関係しているものもあるのではないかと思います。

新井先生は耳鼻咽喉科の先生なので筋肉との関係性に触れることはないのですが、鍼灸師としてめまいの施術を考える場合は、頸筋の状態に注目し痛みや硬結がある場合は、積極的に施術に入れるべきと思います。

首の筋肉

後頚部の筋肉は層になっており、多くの筋膜も存在しています。また、側頚部にある大きな胸鎖乳突筋の下には頚動脈と内頚静脈が走行しています。

画像出展:「トリガーポイントマニュアル」

 

ご参考

●”頚性めまいの重要性” 高橋 渉 日農医師65巻1号 2016.5 PDF10枚

●”頸性めまい” 田浦晶子、Cervical vertigo Equilibrium Res Vol.77(2) 2018 PDF資料11枚

●ブログ“頚筋症候群(頚筋性うつ)

めまいの鍼治療

ポイントは以下の3つと考えます。

1.自律神経を調える。

2.耳周辺の血流を改善する。

3.深部感覚刺激(足底)が脳に届くように滞りがないようにする。

1.自律神経を調える

●後頚部の硬い部位に置鍼:百労、天元など

●仙骨部の硬い部位に置鍼:上髎、次髎、腰兪など

●後頭部―骨盤部の広い範囲を対象に置鍼:脊中、L2-L5など脊柱両側の硬い部位

※詳細はブログ“中高年女性の腰痛3”をご覧ください。

2.耳周辺の血流を改善する

ツボとり(取穴)の基本は触診で硬い部位などを見つけることですが、ここでは目安とする経穴を選択したいと思います。以下の2枚はいずれも『経絡マップ』から持ってきたものです。上は“経穴と動脈”、下は“経穴と静脈”です。これらの動静脈耳の位置の両面から検討すると、“翳風”、“聴会”または“聴宮”、“完骨”が刺鍼したい候補にあげられます。 

動脈

椎骨動脈:翳風(手少陽三焦経)

総頚動脈:聴会(手少陽三焦経)・聴宮(手太陽小腸経)、完骨(足少陽胆経)

補足:経脈で考えると“少陽経”でまとめることができます。また、骨盤部、腰背部とのつながりを考えると、これらの部位は足太陽膀胱経に属する経穴なので、耳の経穴を同じ“太陽経”の聴宮に取るという選択肢もあると思います。

 画像出展:「経絡マップ」

 

静脈

椎骨静脈/内頚静脈:翳風(手少陽三焦経)

外頚静脈:聴会(手少陽三焦経)・聴宮(手太陽小腸経)

 画像出展:「経絡マップ」

 

3.深部感覚刺激(足底)が脳に届くように滞りがないようにする

滞りが気になる箇所は、骨盤部と膝関節部です。骨盤部にある梨状筋という筋肉には“梨状筋症候群”という病名がついた疾患があります。また、15%は坐骨神経が梨状筋の下ではなく貫通しているという報告もあります(『トリガーポイントマニュアル 第7章 大殿筋』より) 

『股関節の動きのなかで特に複雑で、かつ微力なものに回旋(内外旋)運動があります。股関節を内旋すると痛む場合は外旋筋群が硬くなっており、その下にある坐骨神経が圧迫されている可能性があります。このような疾患を梨状筋症候群といいます。』

画像出展:「ZAMST

 

このイラストと文章は「Therapist Circle」さまより拝借しました。

『背側の筋肉が主要姿勢筋と呼ばれる理由は、正常立位での重心線が身体のやや前方を通っているため、背側にある筋肉は全て持続的な筋緊張を保たなければならないからです。対して腹側にある筋肉は、持続的な緊張を必要とせず動揺する身体を調節する際に、断続的に収縮すれば立位を保つことができます。』

 

膝関節は立位では体重を支えると同時に頻繁に活動している部位です。背部の抗重力筋は特に主要姿勢筋とされ、姿勢保持の働きを担っています。

中央紫色の脛骨神経は近位では坐骨神経となり、遠位では足裏の内側足底神経と外側足底神経という運動を司る筋枝に加え、足底の触覚や痛覚などを司る皮枝にまで及びます。一方、脛骨神経の走行は下腿(ふくらはぎ)ではヒラメ筋の更に下、後脛骨筋に挟まれた深層に位置し、膝関節の背面でも腓腹筋と膝窩筋に挟まれています。これらの膝関節周辺の筋群は疲労し硬くなりやすく、血管や神経を圧迫する原因になる可能性があります。従いまして、これらの膝関節の筋肉も考慮すべき刺鍼ポイントと考えます。

 

 

以上のことから、骨盤部の梨状筋と膝関節部のヒラメ筋、後脛骨筋、腓腹筋、膝窩筋は押さえておきたい筋肉だと思います。

首のマッサージ

訪問の仕事(業務委託)はマッサージ中心です。首は重要部位なのでほぼすべての患者さまに施術を行っています。

今回の本は探し物をしていて偶然見つけました。松井先生の本は2年程前に『新型「うつ」原因は首にあった!』という本を拝読していたこともあり[ブログ“頚筋症候群(頚筋性うつ)”]、先生のこの本のタイトルが気になりました。もっとも、副題として“首は脳の一部、強くもむと不調を引き起こす”とあるため、十分に想像はついたのですが、どんな内容か確認したいと思い購入することにしました。

著者:松井孝嘉

出版:講談社

発行:2015年7月

目次は次の通りです。

はじめに

第1章 間違いだらけの「首こり」の常識

首の筋肉は、体の中で最もこりやすい

 首は体の急所

 首の筋肉は疲労しやすいのに、疲労を解消しにくい

首をもんではいけない

 首こりは全身に不定愁訴を出す

 首の後ろには自律神経のセンターがある

首をストレッチしてはいけない

 首の筋肉はいつも重労働を強いられている

 伸びている筋肉はゆるめることが大事

首を冷やしてはいけない

 筋肉にも神経にも冷えは大敵

 筋肉は温めてゆるめるのがポイント

首を固定してはいけない

 異常が起きた筋肉だけでなく、正常な筋肉にまで異常が及ぶ

 頸椎カラーやサポーターはだめ

首を牽引してはいけない

 間違った診断で、牽引している!?

 牽引+マッサージは悪化の原因

こんな生活習慣が危ない

 パソコンやスマホのうつむき姿勢は危険

 首の健康を守るために

 首の筋肉の3大鉄則

第2章 9割の人の首に問題あり

首は脳と体の大事な架け橋

長時間のうつむき姿勢が首に負担をかける

首の筋肉の異常が全身の不調を引き起こす

ストレートネックの人は要注意!

首に問題ない人はたったの1割!?

あなたの「首こり度」チェックテスト

「首こり度」セルフ診断

首こりを侮ってはいけない

第3章 「首」があらゆる不調を引き起こす

体のあちこちに不調があったら、首を疑え

交感神経と副交感神経のバランスが大事

自律神経の異常を起こす首の筋肉は、後方と側方。

首こりの治療で治る17の疾患

 頭痛

 めまい

 自律神経失調症

 パニック障害

 新型うつ(自律神経性うつ)

 慢性疲労症候群

 更年期障害(難治)

 血圧不安定症

 むち打ち症

 ドライアイ

 不眠症

 多汗症

 機能性胃腸症

 過敏性腸症候群

 機能性食道嚥下障害

 VDT症候群

 ドライマウス

第4章 不調スッキリ! 首こりケア実践編

首をいたわる生活習慣が大事

PART1 首こりケア3つのポイント

1 うつむき姿勢や前傾姿勢の時間を減らす

2 「ネックリラクゼーション」で首をリセット

 ネックリラクゼーションの行い方

3 「松井式555体操」で首の筋肉をゆるめる

 松井式555体操の行い方

 「松井式555体操」行い方のポイント

PART2 首が健康になる生活習慣

首を温めて冷えを予防する

ホットタオルで首の緊張をゆるめる

ホットタオルのつくり方

一生、風邪をひかない方法

首元を冷えからガードする

全身浴で体も心もリラックス

 首までしっかり湯船につかることが大事

 シャンプー中もお風呂上りも油断禁物、首を守るコツ

睡眠中は首をしっかり休ませよう

 理想の睡眠時間は8時間

 枕は、朝スッキリ目覚められるものを選ぶ

健康と美は「首」でつくられる

 首を健康に保てば、肌も美しくなる

 全身健康になれば、見た目も若返る

 首こりの治療を行っている病院

  東京脳神経センター 

  松井病院(香川県)

  ネッククリニック神戸

  ネッククリニック名古屋

  ネッククリニック福岡

副題の「首は脳の一部」という点はとても重要ですが、目次を見るとそれに加え、「首の後ろには自律神経のセンターがある」ということも同様に重要であり、これらが強い刺激を与えてはいけない理由になっていると思います。 

画像出展:「首は絶対にもんではいけない!」

そして、心がけるべきことは第1章の最後にある「首の筋肉の3大鉄則」になりますが、この3大鉄則に含まれていない「首を冷やさない、首を温める」ということもとても重要です。

患者さまに「首は冷やさない方がいいですね」とよく話しているのですが、“カイロポケット付のネックウォーマー”があるらしいということを今回知り、検索してみると送料無料でワンコイン+で買える商品があったため、衝動買いしてしまいました。

首の筋肉の3大鉄則

『首こり解消と首こり予防のためには、首の筋肉をいたわることが肝心です。そこで、私は首の筋肉のために3つの鉄則を掲げています。本書の中では具体的なアドバイスもしています。大事なことなので、日常生活の中でも意識してみましょう。』

鉄則1】首の筋肉は適度な伸び縮みが必要

 ⇒伸び縮みすると筋肉の疲労が取れる。松井式555体操で首の筋肉をゆるめる。

鉄則2首の筋肉はゆるめることが大事

 ⇒ゆるめることによって筋肉のこりは解消する。ネックリラクゼーションで首をリセット。

鉄則3首の筋肉は休ませないとだめになる

 ⇒休ませて使えば、筋肉は半永久的に使える。うつむき姿勢や前傾姿勢の時間を減らす。

 ⇒首を15分ごとに休めたり、ネックリラクゼーションを行う。

このイラストは”ネックリラクゼーション”ですが、7項目ある”松井555体操”の3番目でもあります。

画像出展:「首は絶対にもんではいけない!」

一方、強すぎる刺激とはどれ程のものかを明らかにする必要がありますが、私は次のように考えます。

1.患者さまにとって、施術の強度は“痛気持ちいい”を超えない。

2.施術者の手技は基本的には軽擦(さする)と圧迫(押す[指圧])とする。

3.セルフケアで道具を使用される場合は、指とはことなり想像以上に強い刺激が得られやすいので十分に注意して頂く。

また、第4章の最後に「首こりの治療を行っている病院」が5つ紹介されています。関東圏では“東京脳神経センター”だけになりますが、こちらのセンターは2年前のブログの時に確認しており、その時には鍼治療も治療のひとつになっていました。今回、ひさしぶりにアクセスしたところ、求人のところに“鍼灸師”が出ていましたので、現在も引き続き鍼治療は行われています。 

診療対象の不定愁訴

頭痛・めまい・自律神経失調症・うつ・パニック障害・ムチウチ・更年期障害(難治)・慢性疲労・血圧不安定・機能性食道嚥下障害・機能性胃腸症・過敏性腸症候群・便秘症・多汗症・不眠症・ドライマウス・ドライアイ・VDT症候群・起立性調節障害


更にネット検索し、体験談を探したところ詳しく書かれていたブログがありましたので、こちらもご紹介します。この中でも松井先生が首のケアにおいて鍼治療を行っていることが確認できました。

付記1:リンパマッサージ

おそらく5年くらい前になりますが、“サトウ式リンパケア”の講習会に参加したことがあります。この時の目的は「筋肉をゆるめる方法」を勉強することでした。そして学んだことは「もんだり、押したり、ひっぱったりしないで、優しくさする」ということでした。

講習会後、もう少し詳しいメカニズムを知りたいと思い購入したのが『リンパケア革命』という本です。以下の2枚のイラストがポイントです。

画像出展:「リンパケア革命」

そういえば、血管の柔軟性をアップさせる物質、“NO(一酸化窒素)”が健康番組の主役になっていました。

画像出展:「リンパケア革命」

付記2:東工大ニュース

リンパマッサージということではないのですが、弱い力で擦る”マッサージローラ”を使った方法での研究結果が東工大から発表されていました。

"顔のマッサージにより皮膚血流量が増加”

 

●5分間の頬マッサージで、頬の皮膚血流量が10分間以上にわたって増加

●5週間、毎日5分以上の頬マッサージで、血流増加反応が変容

●マッサージを用いた皮膚血流や血管機能の改善手段の開発につながる成果

中高年女性の腰痛3

下記は前々回“中高年女性の腰痛1”のまとめです。

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年10月

●女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

●女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

●首は約6kgの頭を支えている。

●骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

●子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

●体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

●ストレスは自律神経系を乱す大きな原因の一つである。

続いて、以下は前回“中高年女性の腰痛2”のまとめです。

●更年期における自律神経の乱れは、個人差があるものの母性に関わるもので避けられない。

●自律神経にとってもからだを休めることは大切である。

●自律神経を乱す大きな要因にストレスがあり、“生活習慣の見直し”や“受け止め方を変える工夫(ネガティブ⇒ポジティブ等)”が改善につながる。

●自律神経の乱れは全身の筋肉の血流を悪化させるため、腰痛に限定せず“頭痛-肩こり-腰痛”と範囲を広げて施術を考えることが必要である。

●鍼灸治療は“自律神経”と“筋肉”の両面からアプローチすることが有効であると思う。

以上の12項目をベースに施術を考えていきます。なお、“経穴”とは教科書的かつ固定的なもの、“ツボ”とは実践的かつ流動的なものというイメージで使い分けをしています(引用箇所はすべて“経穴”になっています)。

1.前提

目的は「標治の引き出し」を増やすこと。

●「混ぜるな危険」の原則に従い、本治(陰経:肝経・腎経・脾経・肺経・心経/心包経)に手を加えることはしない。

●標治に加える対象は陽経のツボとする。

●「自律神経」と「筋肉」の両面から検討する。

●ターゲットを「更年期障害」として検討する。

2.現在行っている「更年期障害」の本治と標治

典型的な脈:上焦(心・肺)・中焦(肝・脾)は浮大の熱型で、下焦(腎・心包)は沈細軟の冷え型。

典型的な病態:上実下虚[上熱下寒]…冷え・のぼせ、発汗、イライラ等。

こちらの画像は『あるスーフィー巡礼者の日記 A diary of a sufi』から拝借しました。

左は健康に良い「頭寒足熱」、右はその逆、健康に良くない「頭熱足寒」です。上実下虚は右側の状態といえます。

 

本治:肝は水穴(曲泉)・金穴(中封)、腎は土穴(太渓)・金穴(復溜)、および腹部の中脘・天枢・関元。背部兪穴の腎兪・肝兪。さらに本治を補完する全身調節穴(天柱・風池・完骨、委中・飛揚・崑崙、攅竹)。

標治:上焦の熱を取る(頚、肩および脊柱両側のストレスラインの硬結)

3.自律神経に対して

以前、ブログ(“長野式‐結合組織活性化処置法”)でご紹介した「長野式」には自律神経をターゲットとした施術パターンが数多くあります。これらの中から、対象を「全身的交感神経緊張抑制処置」と「全身的副交感神経促進処置」の2つに絞り(「局所性処置」および「交感神経機能促進処置」は除外)、各処置法を吟味したいと思います。

著者:長野潔

出版:医学の日本社

発行:1993年12月

 

全身的交感神経緊張抑制処置

副腎処置:自律神経処置の基本と位置付けられる最も重要な処置法です。代表的なツボは「照海・兪府(15~20分の置鍼)」となっていますが、「復溜・兪府」「太渓・兪府」「築賓・兪府」と使い分けても良いとされています。これらはすべて腎経のツボになりますので、陰経のツボということで対象外になります。ただし、現在行っている更年期障害の患者さまの本治が腎経・肝経ということから、腎経を使っている「副腎処置」ついて違和感はありません。

補足)中医学では腎(精)と肝(血)は相互滋養ということから“肝腎同源(精血同源)”ともいわれており、近い関係にあります。

足少陰腎経の経穴です。

太渓:KI3

照海:KI6

復溜:KI7

築賓:KI9

兪府:KI27

画像出展:「経絡マップ」

 

外ネーブル4点:血圧を下げる働きがあるとされています。ネーブルとはお臍で、その外側に4カ所刺鍼するというものです。その4カ所は、中脘(胃経の募穴)、天枢(大腸経の募穴)、関元(小腸経の募穴)に相当します。

この腹部の4穴は現在行っている本治の基本穴なので、既に使っているということになります。今後は、更年期障害など自律神経を調えたい患者さまに対しては、自律神経の働きかけを意識したいと思います。

募穴とは:「募穴の文献的考察」には『募穴は体外よりは見えないが、中に各経の力源→臓腑がある、したがって各臓腑のある部位の穴の意となる。』とされています。クリックされるとPDFの資料がダウンロードされます。

任脈の経穴の中に中脘(CV12)と関元(CV4)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

胃経の経穴の中に天枢(ST25)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

イ・ヒ・コン(「椎骨脳底動脈血流促進処置」):椎骨脳底動脈の充血を解消し、内分泌の中枢である視床下部の循環を促して興奮を抑制します。“イ・ヒ・コン”とは、膀胱経(陽経)の“委中・飛揚・崑崙”の3穴のことです。特徴は委中、飛揚は補鍼ですが、崑崙は雀啄瀉鍼となっています。

現在、本治を補完する目的で「全身調整穴」というツボを適宜選択しているのですが、この“委中・飛揚・崑崙”の3穴はその「全身調整穴」に含まれており、ほぼ必ず刺鍼しています。ただし、崑崙も補鍼であり雀啄瀉鍼ではありません。『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』で内容を確認したところ『膀胱経火穴の崑崙に雀啄瀉鍼しその部の圧痛を除去する』とのことでした。顕著な圧痛があった場合は雀啄瀉鍼をしてみるということは有りかもしれませんが、曖昧になるので、“イ・ヒ・コン”としては使わないものとします。

足太陽膀胱経の経穴です。

委中:BL40

飛揚:BL58

崑崙:BL60

『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』の59ページに「椎骨脳底動脈血流促進処置」として出ています。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

脊柱起立筋緊張緩和処置:これはブログでご紹介した処置法の一つで、必要に応じて標治として使うものと位置付けています。内容は『この処置は脊柱起立筋及び広背筋、腰方形筋等の過緊張を緩解させ、交感神経緊張を抑制し、副交感神経を賦活させる』となっています。つまり筋肉の緊張を緩めることで、自律神経のバランスを改善するという狙いです。この主旨で使うツボは、屈伸穴(L5下の上仙の外方4~5横指、硬い所)と内会陽穴(通常の会陽穴、上仙方向へ水平刺)となっていますが、屈伸穴に関しては既に使っています。

次にご紹介する3穴は、『鍼灸臨床 わが三十年の軌跡』の中で“交感神経緊張抑制処置法の重要な経穴”という見出しがついて解説されています。この中で攅竹は先にお伝えした「全身調整穴」の一つになっており、特に自律神経を調えたいと思った時に使っています。

攅竹は膀胱経、脊中、腰兪は督脈でいずれも陽経なので、自ら定めた活用ルール上は問題ありません。なお、本書には各経穴について詳しい説明が出ていますので、その内容を確認したいと思います。

攅竹:『「攅竹」に刺鍼、微刺鍼を与えることによって、心窩部の痛みや、腹部膨満感が消失するのは、第三の自律神経系と言われる散在性腸壁神経系(これは交感、副交感神経の影響を受ける)の活性化と、第三脳室周囲灰白質、中脳中心灰白質と共に下行性疼痛抑制物質、即ちメチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン、β-エンドルフィン等が副腎髄質や腸壁からも産生されているので、それ等の物質の分泌が促進されて鎮痛作用が起こるのではないだろうかと考えている。』

膀胱経の経穴の中に攅竹(BL2)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

 

脊中:『督脈の「脊中」、即ち胸椎第11椎と第12椎の間にあるこの部は、形態的に中年以降になるとその間隔が緊迫し、時に骨棘形成までみられることがある。ここは膵臓における島のソマトスタチンの分泌を活性化し、インシュリン、及びグルカゴン分泌の調整をはかるのではないかと思われる。例えば鍼灸刺激などによる血糖値の正常化は、臨床的に筋、腱等の緻密結合組織の硬化を改善すると共に、粘膜性炎症の消失に重要な意義を持っているものと考える。従って、高齢者の体性系のこわばりや中年者以後の筋筋膜性腰痛、及びアレルギー性の粘膜炎症の処置法の一環として、臨床的に重要な意義を持つと推論される。なお、持続的効果をもたらすために、0.5ミリ皮内鍼の保定も有効であることを附記する。』

督脈の経穴の中に脊中(GV6)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

腰兪:『「腰兪」は脊髄の終末端の馬尾が脊柱管を出るところにあり、部位は正中仙骨陵の下端、即ち仙骨裂孔の陥凹部である。この部位に対する刺鍼(寸三・二番鍼、刺入角度は上向き45度、刺鍼深度20~15ミリ、雀琢補鍼)は、脊髄神経を介して第三脳室周囲灰白質や、中脳中心灰白質から分泌される疼痛抑制物質の増強をはかるのではないかと推論される。この刺鍼によってアレルギー性鼻炎、アレルギー性眼瞼炎、偏頭痛、喉頭痛、血の道等の頭頂部の痛み、目のかすみ等に著効することが多く、交感神経緊張抑制に必須な経穴である。その他腰部疾患は勿論、下肢の痺れ、冷え、痔疾、利尿不全、不眠等に有効である。また、副腎髄質から分泌されるノルエピネフリン[ノルアドレナリン]、エピネフリン[アドレナリン]の分泌亢進が抑制されるのではないかと推論される。』

督脈の経穴の中に腰兪(GV2)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

全身的副交感神経促進処置

八髎穴:『「八髎穴」(ここは深く刺入すると、骨盤内臓器の循環促進、即ち内側大腿内旋動脈の血流を促進する)の過敏反応点に寸三・二番鍼を垂直に2~3センチ刺鍼、或いは施灸を行ってもよい。』

また、長野先生の『新治療法の探求』には、次のような記述も紹介されています。

『「上髎」、「次髎」、「中髎」、「下髎」という、いわゆる「八髎穴」は、骨盤部内臓の虚血状態の時に非常によく効く経穴であり、骨盤内臓部の循環代謝が悪い、冷え性、不妊症、生理痛、腰痛症等の時には、ここに鍼または灸頭鍼や施灸することは大変効果がある。』

膀胱経の経穴の中に八髎穴(BL31~BL34)があります。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

4.首と骨盤について

中高年女性の腰痛を考えるときに、自律神経とともに注目すべきは首と骨盤です。

●女性の筋量(筋力)の少なさは関節への負担を高めます。特に約6kgの頭部を支える首と、体と両足の土台となる骨盤(仙腸関節)は重要です。 

画像出展:「新型「うつ」原因は首にあった!」

なお、本書については”頚筋性症候群(頚筋性うつ)”というブログをアップしています。

 

 

色の付いた部分が頚を守る筋群です。断面からは小さな筋肉が、頚椎の上に筋膜を伴って重なるように存在しているのが分かります。いかにもコリや筋膜の癒着が起きやすいように感じます。

画像出展:「トリガーポイント・マニュアル」

 

 

仙腸関節は仙骨と腸骨を結ぶ関節です。

画像出展:「リアライン

相対筋力の男女差(女性とレジスタンストレーニングより)』に関するPDFの資料がありました。なお、男女の筋力差は筋肉量に依存するようです。

仙腸関節については”仙腸関節障害”というブログがあります。

 

 

●女性は骨盤内部に子宮、卵巣などの内性器を保持しており、骨盤内部のうっ血や虚血をまねく可能性が男性より高いと考えられます。

中央が子宮などの内性器です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

●“胸腰系”の交感神経系に対し、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれています。これは副交感神経系が頭部と仙骨部から出ているためです。つまり、副交感神経系にとってこれらは聖地といえます。

右の青線副交感神経系です。延髄)と仙髄S2-S4)から出ています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

 横から見た図です。副交感神経は灰色です。八髎穴や腰兪が重要なのが理解できます。

画像出展:「経絡マップ」

 

 

5.中高年女性の腰痛に対する施術と生活習慣の改善(まとめ)

1)本治

●従来通り

2)標治

上焦の熱を取る(頚、肩、上背の硬結に雀啄瀉鍼)

後頚部の硬い部位に置鍼:百労、天元など

不思議なことに重要な後頚部には教科書的な経穴はありません。下方の写真は木下晴都先生の『 最新鍼灸治療学 上巻』に出ているものです。今後はこれを参考にしたいと思います。

仙骨部の硬い部位に置鍼:上髎、次髎、腰兪など

後頭部―骨盤部の広い範囲を対象に置鍼:脊中、L2-L5など脊柱両側の硬い部位

3)生活習慣の改善

●ストレス低減の工夫:なるべくポジティブに考えるように努める。

●からだを休める工夫と温める工夫:早寝早起き、入浴、運動など。

 伸展時に痛みなどがある場合は、頚椎内方45度で刺鍼します。

画像出展:「最新鍼灸治療学 上巻」

 

 

 回旋時に痛みなどがある場合は、頚椎外方30度で刺鍼します。

画像出展:「最新鍼灸治療学 上巻」

 

 

殿部の筋の中では、腸骨と大転子をつなぐ中・小殿筋と仙骨と大転子をつなぐ梨状筋が特に重要です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 

こちらは各筋肉の起始・停止を表した図です。左(前面)は脊柱から出ているのが大腰筋、腸骨前面の筋が腸骨筋で、合わせて腸腰筋とよばれている重要な筋肉です。

画像出展:「人体の正常構造と機能

 

 

中・小殿筋は上殿神経支配、梨状筋は第1-2仙骨神経支配となっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能

 

 

こちらは運動神経、感覚神経の”脊髄神経”と経穴の図です。脊中はT11-T12間にあります。

筋肉は脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)、多裂筋、腰方形筋などが腰背部の主な筋肉になります。

画像出展:「経絡マップ

 

 

下の2つのイラストはこちらの本に出ているものです。詳しくはブログ ”がんと自然治癒力9” を参照ください。


付記:頭頚移行部(2019年6月4日)

調べ事をしていて、とても興味深いことを発見しました。

医師である博田節夫先生が考案されたAKAでは、腰痛治療において第1頚椎・第2頚椎(C1・C2)を弛めることを大切にしているとのことでした。頚への刺鍼では、このポイントも考慮していきたいと思います。

クリック頂くとAKAのサイトに移動します。

『関節運動学的アプローチ、AKA(Arthrokinematic Approach)とは関節運動学に基づき、関節の遊び、関節面の滑り、回転、回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法である。』

C1(Ⅰ)は環椎、C2(Ⅱ)は軸椎とも呼ばれています。

画像出展:「weblio辞書

 

 

中高年女性の腰痛2

下記は前回の“中高年女性の腰痛1”のまとめです。

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年10月

1.女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

2.女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

3.首は約6kgの頭を支えている。

4.骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

5.子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

6.体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

7.ストレスは自律神経系を乱す大きな原因の一つである。

この7項目を元に中高年女性の腰痛に対する施術を考えたいと思いますが、今回はこの中で最も厄介な自律神経に関わる問題をどのように施術に反映させていくかということを考えます。 

自律神経は環境や心の変化に応じて、内臓の働きを2方向から綱引きのように調整しています。一つが交感神経でもう一つが副交感神経です。

画像出展:「安保徹の病気にならない免疫のしくみ (図解雑学) 」

ものを考えたり、熱い物に触れ反射的に手をひっこめたりする判断は、神経細胞の塊である脳などの「中枢神経」が担っています。(中枢神経の神経細胞の総数は千数百億個とのことです)

手足を動かす“運動神経”や痛みなどを脳・脊髄(中枢神経)に伝える“感覚神経”は「末梢神経」とよばれ、枝のように体内に張りめぐらされています。この遠心性(脳→末梢)の“運動神経”と求心性(末梢→脳)の“感覚神経”を合わせて“脊髄神経”といいます。

画像出展:「経絡マップ」

“自律神経”も“脊髄神経”と同じ「末梢神経」の仲間ですが、心臓や血管、消化器などに作用し、生命維持のために働きます。また、自律神経は闘争・逃走に代表される交感神経系と休息・消化に代表される副交感神経系に分かれます。

画像出展:「経絡マップ」

闘争・逃走では筋交感神経活動によって収縮した末梢の血管が血圧を高めて、生命を守るべく緊張状態に入ります(活勤している筋では、筋収縮に伴って分泌される代謝性の血管拡張物質によって血管収縮を減弱させ、活動している筋への血液供給を維持します)。

一方、“休息・消化ではからだを休め、獲得した食物を維持活動に必要な物質やエネルギーに変え、生命を守るべくからだを整えていきます

以上のことから交感神経系は“エネルギーを使う行為”に働き、副交感神経系は“エネルギーを作る行為”に働くともいえます。従って、自律神経のバランスが乱れ、交感神経系に偏った状態が長期間続くと肉体は消耗し、やがて病的なからだになってしまいます。

自律神経と腰痛との関係を考えるならば、亢進した交感神経系が体内の血管を収縮させるというメカニズムは非常に重要です。

以下の2つのイラストはブログ”毛細血管と循環調節”から持ってきました。血管の収縮は交感神経と血管平滑筋によってもたらされます。


筋交感神経」に関する記述が載っている”運動と交感神経活動”という資料がダウンロードできます。

自律神経失調症とは

自律神経失調症の特徴は下記の通りです(ブログ“自律神経失調症”より)。

重要なことは症状が全身に広がるということと、元凶である“ストレス自体の大きさが変わる”か“ストレスの受け止め方を変える”か、いずれかの変化が起きない限り改善は難しいということです。

イラストは『自律神経失調症を知ろう』から。



渡辺正樹先生のお考えでは「自律神経は“脳と内臓を結ぶ電線”であり脳を攻撃するストレスが脳の中に限定されていれば“神経症”だが、それが自律神経を通じて全身に広がると“自律神経失調症”になる」ということです。

また、具体的な説明は以下になります。

『自律神経失調症は交感神経が強いか、副交感神経が弱くなるか、いずれかの状態で、それにより内臓が十分な休息をとれない事態になることです。その結果、動悸、立ちくらみ、ふらつき、発汗過多、血圧上昇(変動)、片頭痛、肩こり、手足の冷え、易疲労など多彩な症状が出現します

原因不明、内臓に問題があり、しかも精神的なストレスが強いとなると、自律神経失調症と診断される症例は少なくありません。このことは、自律神経失調症が不定愁訴の受け皿になっているためと考えられます。』

更年期障害とは

以下の説明、イラストともすべて大塚製薬さまの『更年期ラボ』の内容になります。

更年期とは閉経前後5年の期間(一般的に45〜55歳頃)といわれています。

『更年期には卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少していきます。その結果、ホルモンのバランスが崩れ、月経周期の乱れやエストロゲンの欠乏により心身にさまざまな不調があらわれます。症状の種類や強さは個人差がありますが、更年期のさまざまな不調を「更年期症状」といい、仕事や家事など日常生活に支障をきたしてしまうほどの重いものを「更年期障害」といいます。』

ホットフラッシュ

“のぼせ”と“ほてり”を合わせて“ホットフラッシュ”とよび、前者は異常な熱感が頭や顔に起こったもの、後者は顔、頭に加えて体にも起こったものです。なお原因は、『エストロゲンの減少によって、血管の収縮や拡張をコントロールしている自律神経が乱れることによって起こります。』

視床下部は内分泌や自律神経(自律機能)の調節を行う統合中枢といわれています。自動車でいえば、“内分泌(ホルモン)”が前輪であるとすると、“自律神経”は後輪ということになります。つまり、内分泌の乱れは自律神経に、自律神経の乱れは内分泌にそれぞれ影響を及ぼす関係になります。

従って、更年期にみられる女性ホルモン(エストロゲン)の急激な現象は、同じ統合中枢である自律神経を乱します。

更年期の身体の変化

『女性ホルモンは、脳の視床下部からの司令により卵巣から分泌されます。視床下部はさまざまなホルモンの分泌をコントロールするとともに、体温調節や呼吸、消化機能の調節、精神活動などを司る自律神経のコントロールセンター。ところが、卵巣の機能が衰えると、脳がいくら「ホルモンを出せ」と指令を出しても分泌されません。すると、脳がパニックを起こして通常の何倍もの指令を出すために、異常な発汗、イライラ、めまいなどの症状があらわれるのです。』

トップ5に入っている“肩こり”、“頭痛”、“腰痛”の原因には先にご紹介した、亢進した交感神経系が体内の血管を収縮させる」というメカニズムによって、後頚部‐頚肩部‐背部‐腰部‐臀部に渡る多くの筋や筋膜を虚血状態にするものと考えられます。

 

以下の本は、”母性・自律神経”で検索して見つけた本です。図書館から借りてきました。いくつか興味深い資料がありましたのでご紹介したいと思います。

日本産婦人科学会の”更年期障害”の定義は次の通りです。

『更年期障害とは更年期に現れる多種多様な症候群で、器質的変化の相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群をいう』というものです。

更年期女性の心の特性

『岡本は、現代社会において家庭と職業を両立している中年期の女性が体験しやすい臨床問題を中年期危機の構造として四つの次元で表している。』

以下の2つのグラフは更年期における男女差を表すもので、左が男性右が女性です。

男性の加齢による生理的変化にはばらつきが見られますが、女性の変化は年齢とともに顕著に表れます。これが更年期障害が女性の症候群と思われている原因だと思います。


こちらは診断に用いられている質問で、”簡略更年期指数(SMI)”といわれているものです。

まとめ

1.更年期における自律神経の乱れは、個人差があるものの母性に関わるもので避けられない。

2.自律神経にとってもからだを休めることは大切である。

3.自律神経を乱す大きな要因にストレスがあり、“生活習慣の見直し”や“受け止め方を変える工夫(ネガティブ⇒ポジティブ等)”が改善につながる。

4.自律神経の乱れは全身の筋肉の血流を悪化させるため、腰痛に限定せず“頭痛-肩こり-腰痛”と施術の対象範囲を広げて考えることが必要である。

5.鍼灸治療は“自律神経”と“筋肉”の両面からアプローチすることが有効であると思う。

次回が最後になりますが、具体的な施術についてまとめたいと思います。

中高年女性の腰痛1

今回は、前々回の“経筋療法”の中で知った、『中高年女性におくる腰痛の治し方』という富田先生の本が題材です。富田先生のご指摘通り、「中高年女性の腰痛は症状が広範囲にわたり治りにくい」という印象がありました。男女差という視点も多少は持っていましたが、論理的に練られたものではありませんでした。今回の目的は中高年女性の腰痛の特徴を把握し、確信をもって合理的な施術を行えるようにすることです。

著者:富田満夫

出版:創風社

発行:1999年9月

本書の中で使われている図や表はいずれも新しいものではありません。これはこの本自体の出版が1999年9月であるためです。

 

目次は次の通りです。

目次

第1章 腰痛はなぜおこる

問1 腰痛は女性に多い?

問2 なぜ多い女性の腰痛?

問3 「腰痛症」ってどんな病気?

問4 婦人科の病気でなぜ腰痛が?

問5 更年期からふえる女性の腰痛

問6 腰痛をおこす婦人科の病気は?

問7 腰痛も「病は気から」?

問8 お産のあとに多い腰痛

第2章 いたみが違う女性の腰痛

問9 深刻な離婚話も(セックスと腰痛)

問10 男性と女性の腰痛の違い

問11 腰痛がひどくなる動作は?

問12 軽作業がかえってつらい!(労働と腰痛)

第3章 診察するとこんな症状が

問13 いたくて反れない女性の腰痛

問14 足で「4の字」書けますか?

問15 あぶない足の神経症状

問16 骨盤のまわりに多い圧痛点

第4章 誰にでもある骨の老化(シワ)

問17 検査の異常は他の病気

問18 骨の老化がいたみの原因?

問19 骨盤のズレもいたみの原因?

第5章 1分間でいたみがかわる

問20 物療だけでは治せない

問21 治療の基本はリラックス

問22 効いていますか? いたみ止め

問23 安全でとてもよく効く膣内塗布法

問24 ハリ灸、漢方は本当に効くのか?

問25 いきいき熟女の毎日を

問26 みんなで考え、かえよう職場

問1は「腰痛は女性に多い?」です。今回のテーマともいえる内容がグラフや図を使って説明されており、概要に接することができます。ここでは文書の一部をそのままご紹介します。

また、問2以降は“自律神経”と“痛み”に注目し、それらに関して書かれた“問”を取り上げ、一部を除き箇条書き形式としました。

問1 腰痛は女性に多い?

こちらは、 厚生省『国民生活基礎調査』1995のグラフです。45歳以降女性が男性を大きく上回っています。 

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

以下は本文からの引用です。

『腰痛の原因について、はっきりいって先に述べた病気[骨粗しょう症のこと]が原因とはわたしくしにはとうてい思えません。なぜならば骨の変化はずっと前からあるのにいたみは最近おこったとか、骨の変化はもとにもどることがないのにいたみは軽くなったなど、いたみと骨の変化が一致することが少ないからです。

しかし見方をかえて、わたくしたちの目的である「いたみをとる」ということができるなら、その方法で原因もはっきりすると思っています。わたしくしは年と関係なく「いたみをとる」ことができると確信しているのです。

この本を退屈でも最後まで読んでいただければ理解していただけると思います。

一方腰痛と関係が深い足(下肢)の症状についてみてみましょう。

「坐骨神経痛」で病院にかかっている人は中高年女性がいちばん多く、同じ年代の男性と比べて5割も高いのです(図3・1)!

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

中高年女性では足(下肢)にいろいろな症状(痛い、じびれる、だるい、冷える、つる、力が入らない、よくつまずくなど)が出ています。診察すると足に力が入らない、固くなっているなどの症状が見られるのです。

そのほか中高年女性の腰痛は首や肩、背中がこったり、疲れやすい、頭が痛いなどの症状がある人がとても多いのです。このように男性とくらべたときに症状のあらわれかたにちがいがあります。

このため骨の変化よりも中高年女性では何か全身に男性と違った変化が出ているのではないかと思われます。

ぜひ注目していただきたいと思います。

ところで「腰が痛い」というと「婦人科が悪いのでは?」といわれたりしたことはありませんか?このように原因となる病気があるところから離れたところが痛むのを「関連痛」といいます(図5)。

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

お腹の病気で腰が痛くなるのは胃や肝臓の病気、腎臓の病気、婦人科の病気などいろいろあります。

しかし、女性では年をとるにつれてお腹のいたみは減っていき、男性とくらべても少なくなります。また、年をとるにつれて「更年期障害」を除いて婦人科にかかる人も少なくなっています(図3・3、図3・4、図3・5)。 

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

したがってお腹の病気で腰がいたくなることは年をとるとともに減っていくので、中高年女性では少ないとみていいでしょう。

もちろん「子宮ガン」などがすすんで腰をいためることもありますので、そのための注意はいります。しかし全体としてみるときわめて少ないということです。ほかに年をとると男性よりも腰がいたくなるような病気は見あたりません。

更年期にはホルモンのバランスがくずれて、全身を調整している自律神経のはたらきがうまくいかなくなる「自律神経失調症」がおこりやすくなります。「更年期障害」というのはこのバランスをくずしておこす症状のことをいいます。

そして腰痛は肩こり、頭痛、疲れやすい、のぼせるなどの症状とともに「更年期障害」でいちばん多い症状の一つなのです(図6) 

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

すなわち自律神経のはたらきがうまくいかないと腰痛をおこすのです。しかも「自律神経失調症」の患者さんは生理が止まってもふえつづけ、65歳前後がいちばん多く、男性よりもはるかに多くなります(図3・5)。 

問2 なぜ多い女性の腰痛?

●女性の骨盤は横に広く、お腹の赤ちゃんを守り、お産もしやすくできている。そのため骨盤の中に血管、特に静脈が多く、地球の引力によって骨盤の中はうっ血しやすい。

月経、妊娠、お産、閉経などの変化は、自律神経やホルモンの影響うけており、骨盤の中ではうっ血が起こりやすくなる。さらに更年期になるとホルモンのバランスが乱れやすくなる。

ミニスカートやコルセットは冷えや骨盤の中のうっ血を起こし、ハイヒールは背骨を反らせて痛みに原因になる。また、家事や育児など中腰の仕事が多い。

●母性としての働きが自律神経と極めて深い関係にあり、これが腰痛を起こしやすくしていると考える。

問3 「腰痛症」ってどんな病気?

ストレスによって自律神経のバランスがくずれると腰痛を発症させやすいと考えている。なお、「腰痛症」とは原因不明の腰痛一般のこと。

問4 婦人科の病気でなぜ腰痛が?

『子宮、卵巣、膣などの女性の性器はからだを調整する「自律神経」といたみや運動と関係する「脊髄神経」の両方から影響を受けていますが、骨盤の中にある子宮、卵巣などは自律神経だけの影響を受けています。

すなわち、卵巣、卵管(外2分の1)などのいたみの刺激は脳に行くために、おへそからふともの(大腿)の高さの脊髄に入ります(交感神経系)。一方、卵管(内2分の1)、子宮、膣(上3分の2)からのいたみの刺激も脳に向かいます。こちらは肛門の周囲、内股から足指にかけての高さの知覚と関係する脊髄(副交感神経系)に入ります。』

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

女性の性器を調整している自律神経に関係する痛みの高さはお臍から足先まで及ぶ。例えば、「月経困難症」で腰や足まで痛んだり、女性特有の背中や骨盤、股の付け根などの痛みも「関連痛」によるものと考えられる。

●自律神経は首や肩に多いため、こりや痛みが出やすい。

●婦人科の病気は年を取るとともに減っていくが、「更年期障害」や「自律神経失調症」は年と取るとともに増える。従って、年を取るとともに増える腰痛の原因は婦人科の病気より自律神経失調症によることが多い。図3・5

 

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問5 更年期からふえる女性の腰痛

●「更年期障害」は更年期に出てくる自律神経症状といえる。また、更年期女性の20-60%の人に症状が出るといわれている。その主な症状は「肩がこる」「腰が痛い」「頭が痛い」「体がだるい」などである。図6

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

●更年期障害では、自律神経やホルモンと関係の深い間脳―下垂体―卵巣などに変化がおこり、冷え、のぼせ、多汗、睡眠障害などの症状がみられる。

問10 男性と女性の腰痛のちがい

●中高年女性の腰痛は骨盤中央(仙骨部)お尻(多くは片方)、足(下肢:しびれ、だるさ、冷え、下肢がつる、力が抜ける、つまずきやすい)、首など広い範囲にわたってみられるのが特徴。下腹の痛みや股の付け根の痛みも女性では腰痛と関係を考慮する。図8、図9

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

●中高年女性の腰痛の調査では3人に1人は骨折や捻挫をしており、腰痛そのものが非常に治りにくく、高齢による転倒、骨折で「寝たきり」の原因にまでつながっている。 

●女性では股、膝の関節の痛みは腰痛との関係が深い。調査では3割以上が腰痛に加え膝痛をもっている。

●常に方側だけに痛みが出る人、痛みやしびれが左右に移動したり動いてまわる人、痛む側の反対側に所見が出る人など様々である。

問11 腰痛がひどくなる動作は?

中腰:男女差はほとんどないが、女性では「顔や髪を洗う」「台所で前かがみで調理をする」「掃除機をかける」「庭を掃除する」「重いものをもつ」などの動作が非常に辛いものになっている。

腰を反らす:この痛みは女性に顕著にみられる。

長く立つなど:仰向けに寝ていると痛みが強くなる。「膝を伸ばして寝ると腰が痛い」「朝方に腰が痛くなる(寝腰)」「長く立っていると痛い」「しゃがんで草取りすると痛い」などじっとしている方が痛い。これはじっとしているために血のめぐりが悪くなり、骨盤の中でうっ血を起こすためと思われる。

その他:「歩く」「坐る」「しゃがむ」は女性によくみられる症状だが、これは家事などの影響が考えられる。また、「痛みで夜目をさます」、いわゆる夜間痛は3倍以上になっている。

図10

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問13 いたくて反れない女性の腰痛

●痛くて反れないタイプは、首や肩に痛みが出ている場合が多く、症状が広く出やすいことが女性の腰痛の特徴になっている。特に首を後ろに反らして上を向く動作が痛い人は、からだ全体のコリが強く出ていると考えられる。

問14 足で「4の字」書けますか?

富田先生は、この「4の字テスト」[理学検査では「パトリックテスト」と呼んでいるテスト]について次のように説明されています。『女性の腰痛の要ともいうべき一番重要な症状です。ぜひ試してください!この症状がとれてくると腰痛や全身の症状も軽くなっていき、足の力も出てきます。

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

なお、「パトリックテスト」は、股関節や仙腸関節[骨盤中央]由来の腰痛かどうかを把握するために行われる検査です。 

こちらの画像は『Infinity』さまの、“理学検査⑤〜パトリックテスト〜”より拝借しました。

問16 骨盤の周りに多い圧痛点

中高年の腰痛は骨盤周辺に加え、お腹側にも圧痛点がみられる。図22

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問18 骨の老化がいたみの原因?

ここでは“変性脊椎すべり症”について書かれた部分をそのままご紹介したいと思います。

『次に[1番目は“骨粗しょう症”です]中高年の女性に男性より多いレントゲン上の変化は腰の骨がずれる「変性脊椎すべり症」があります。この変化は中年女性にはじまり、約10-15%に見られるとされています。しかし、いたみとあまり関係がないとされ、ひどいスベリがあってもどうもない人もいますし、運動や治療で良くなっている人多いのです。

こうなるとレントゲン写真にあらわれる骨の変化はあまり中高年の女性の腰痛には関係がないといえるでしょう。最近はCTやとくにMRIの変化が腰痛の原因とされる人もふえています。

これらの検査は費用もかかり、家庭の主婦が多い中高年女性の腰痛ではその負担も重くのしかかってきます。レントゲン写真と同じように症状のない人にも変化があるので、とくに手術などの診断には慎重にありたいものです。まず適切な治療が優先されるべきです。そのあとでじっくり考えてきめても手遅れになることはほとんどありません。このことを強調しておきたいのです。』

問19 骨盤のズレもいたみの原因?

この問19も本文の一部をそのままご紹介します。

『お産のあとも骨盤のゆるみがいつまでも残っている人がいるのは事実です。若い人に多く老人には少ないといわれますが、わたくしたちの中高年女性の調査では3割以上にみられ、意外と多いものです。おっしゃるように骨盤がゆるんでいるために女性は腰がいたいのだという説があります(骨盤輪不安定症)。しかし、症状が出る前からゆるみがあったり、治っているのにゆるみだけが残っている人もいます。

また、このゆるみは年をとるとともにむしろ減っていくとされ、ふえていく中高年女性の腰痛の原因としては少ないと考えています。』 

問21 治療の基本はリラックス

首の重要性を指摘されています。

 『首や腰は前後に同じ方向にのびたり曲がったりすると同時に、手足も伸び縮みします(対称性緊張性頸反射)。このような反射が魚からヒトへと進化する中ででき上っていったのです。「あくび」をする時のような自然に出る動きですから、うまく利用するといたみのために動きにくくなっている全身を無理なく動かすことができるのです。』

画像出展:「中高年女性におくる腰痛の治し方」

問22 効いていますか? いたみ止め

“いたみ止め”には色々なタイプの薬がありますが、最も一般的なのは非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)と呼ばれているものです。特に腎臓病の患者さまにとっては、非ステロイド消炎鎮痛薬は使ってはいけない薬です。これは痛みの原因となっている“プロスタグランジン(発痛物質)”には、常時胃腸や腎臓の血流を良くしてくれる作があるためです。つまり、“いたみ止め(非ステロイド消炎鎮痛薬)”を服用すると、胃腸だけでなく腎臓の血流にも悪影響を及ぼします。

腎臓病に限らず、患者さまには「痛み止めは、なるべく辛いときだけにしてください。ほとんど痛みがないのに、習慣的に飲み続けるのは止めた方がいいです。」とお伝えしているのですが、本書の中にも同様な解説が書かれていますので、その箇所をご紹介します。

腎臓に関する記述(発痛物質”プロスタグランディン”の作用と腎臓への影響)は、『整形外科やましな医院』さまの“痛みどめの薬について”で確認させて頂きました。

『「いたみ止め」の薬はいたみをおさえるだけで、病気の原因を治すものではありません。ほかの方法で治る病気ですから、できるだけ使用しない方がいいと思います。

ただいたみのため眠れない人には、眠れないことが症状をひどくしますので、ときどき使って治療法を覚えてもらって、早く薬を止めるようにしています。

また、スジがこわばっているため「ギックリ腰」をおこしやすく、このように急にきたいたみにはしばらく使うことがあります。

いたみ止めは「効くのはそのときだけ」で根本的な治療にはならないこと、恐ろしい副作用があることをいつも気をつけておいてください。

まとめ

以上のことから、中高年女性の難治性腰痛に対する鍼治療を考える場合、次の視点が重要であると考えます。

1.女性は男性に比べ、筋量が少なく筋力も弱い。

2.女性の腰痛は、背中、お尻、脚、肩、首と広範囲に及ぶ。

3.首は約6kgの頭を支えている。

4.骨盤は体幹と2本の脚を支える土台であり、常に重力と動作による力を受けている。

5.子宮、卵巣等を内部に抱えた骨盤の構造は男性とは大きく異なる。

6.体を休め、臓器の働きを良くする副交感神経系は首と骨盤(仙髄)から出ている(交感神経系は“胸腰系”、副交感神経系は“頭仙系”と呼ばれる)

7.ストレスは自律神経系を乱す大きな原因の一つである。

なお、上記のポイントを踏まえ、どのような施術をするかについては、次回以降の宿題とさせて頂きます。

ブロックチェーン

ビットコインなる仮想通貨には全く興味はなかったのですが、そのビットコインの仕組みに使われている“ブロックチェーン”というテクノロジーは、画期的なものらしいということ知りました。「インターネット以来の最大の発明だ」という人までいるようです。

約29年勤めていた会社はHP(ヒューレット・パッカード)というIT企業です。もっぱら営業担当だったため、技術そのものにはほとんど興味はありませんが、IT業界の動向については今も関心がありますは、これにはIT企業の株式を少々保有しているという裏事情もあります)。

そこで、このような新しいビジネスチャンスに対し、明確な戦略メッセージを周知徹底されるIBM社のホームページをのぞいてみることにしました。そして、この“ブロックチェーン”が極めて有望なものであるということを理解しました。これは“中抜き”によるコストと時間と多様性に対するビジネスチャンスということだと思います。

知りたいことは、「ブロックチェーンの何が優れているのか」と「どんなビジネス機会が想定されるのか(実現可能性)」の2つです。

思っていたとおり、数多くの本が出版されていたのですが、この本は著者の中島先生が中央銀行である日本銀行に長く勤務され、特に「決済システム」にも関わっていたという点に惹かれました。発行が2017年10月と他の本に比べるとそれ程新しくないためか、中古本価格が安かったのも助かりました。

著者:中島真志

出版:新潮社

発行:2017年10月

大きな目次は以下の通りです。

序章 生き残る次世代通貨は何か

第1章 謎だらけの仮想通貨

第2章 仮想通貨に未来はあるのか

第3章 ブロックチェーンこそ次世代のコア技術

第4章 通貨の電子化は歴史の必然

第5章 中央銀行がデジタル通貨を発行する日

第6章 ブロックチェーンによる国際送金革命

第7章 有望視される証券決済へのブロックチェーンの応用

「はじめに」の後半に、著書である中島先生の経歴のお話が出ていますので、最初にそれをご紹介します。

『著者は、長らく日本銀行に勤務し、リサーチ関連の仕事を多く経験しました。その中で「決済システム」に出会い、大学教授への転身後もライフワークとして調査研究を続けてきています。日本銀行時代には、金融研究所で「電子現金」の研究に携わり(詳しくは本論でどうぞ)、国際決済銀行(BIS)に出向の際は、決済に関するグローバルなルール作りに携わりました。この間、資金決済、証券決済、外為決済、SWIFTなどについての著書を刊行し、いずれも金融関係者に広く読んで頂いています。こういった経歴から、わが国における決済分野の有識者の一人として、金融庁の審議会や全銀ネットの有識者会合などにも数多く参加してきました。』

ブログは「第3章 ブロックチェーンこそ次世代のコア技術」からになりますが、その第3章の中にある、“③ブロックチェーンが主役の世界へ” の説明に使われている図を見て、今後の目指す方向性が見えました。

画像出展:「アフター・ビットコイン」

以下は図の説明です。

『ビットコインなどの仮想通貨が、従来の金融の本流から少し離れた、いわば周辺部分におけるイノベーションであるのに対して、ブロックチェーンは、金融の中核を成すメインストリームの業務のあり方を大きく変えようとしているのです。

ここに来て金融業界では、「ブロックチェーンが主役になる」という認識が共有されつつあり、この技術をどの分野に応用していくかが中心的な課題となっているのです。ビットコインは、あくまでもブロックチェーンの最初の実用例であって、また特殊な適用例の一つにすぎないとの見方に変わってきています。すなわち、「ビットコイン中心の世界」から、「ブロックチェーンが主役の世界」へ移行してきており、当初のビットコインの導入段階からは、主客が完全に逆転しているのです。

ブロックチェーンの応用分野は、幅広い分野が想定されており、このうち、①仮想通貨に応用する場合を「ブロックチェーン1.0」②金融分野(仮想通貨以外)に応用する場合を「ブロックチェーン2.0」③土地登記、資産管理、商流管理、医療情報、選挙の投票管理などの非金属分野に応用する場合を「ブロックチェーン3.0」として分類するようになっています(図表3-1)。』

次も第3章からになります。ポイントと感じた部分を書き出しました。

1.ブロックチェーンとは

●ビットコインを支える中核技術として開発され、“オリジナル・ブロックチェーン”と呼ばれている。

●新たな進化系のブロックチェーンを総称して“ブロックチェーン技術”と呼んでいる。

データベースを保管するデータベースの技術である。

●“ブロック”と呼ばれる取引データの固まり一定時間ごとに生成し、時系列的に鎖のようにつなげていく。

過去の取引データを改ざんするためには、過去から最新のブロックまでをすべて改ざんする必要があり、二重使用や偽造などの不正取引を防止できる。 

画像出展:「経済産業省」※一部を切り取りました。クリックするとサイトに移動します。

2.分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Techonology)とは

“分散型台帳技術(DLT)に関して、中島先生は次のように補足されています。

『IT技術者以外の一般の方にとっては、そこまで[ブロックチェーンとDLTを]厳密に区別する必要は必ずしもなく、ブロックチェーンと分散型台帳管理(DLT)とはほぼ同義のものと捉えておけばよいでしょう。ブロックチェーンとDLTとは、「同じ技術を別の側面から呼んだもの」と考えておけばよいものと思います。』

●「ブロックを鎖状につなげて管理する」という技術面より「所有権データを分散型で管理する」というユーザ側の視点の方が金融業界では親しみやすく、その結果、金融業界では“分散型台帳技術(DLT)”という用語が前に出てきている。

画像出展:「アフター・ビットコイン」

3.ブロックチェーン/分散型台帳技術の特性

1)改ざん耐性(改ざんが困難であること)

●改ざんするためには、現在までのすべてのブロックを作り直す必要があり、かつその作り直しを正規のチェーンよりも早く成立させなければならない。これは事実上不可能である。(この重要なメカニズムは“ハッシュ値”というものに因る)

2)高可用性(低障害であること)

●ネットワーク上のコンピュータが同じデータを持ち合い、分散してデータを管理している。

●ネットワーク上のコンピュータが1台でも稼働していれば全体としてのシステムを維持できる。

右側のP2P(Point to Point)型がブロックチェーンの一般的なシステム構成になります。左側はサーバーが故障すると、システム全体が止まります。

画像出展:「アフター・ビットコイン」

3)低コスト(劇的なコスト削減ができること)

●取引や顧客に関する膨大なデータベースの維持、管理などに関わるコストを大幅に削減ができる。

●各金融機関どうしの帳簿の残高照合作業が不要になる。

●ユーザ側においても仲介者が不要になるため、迅速かつ低コストでの取引が可能になる。

4.ブロックチェーンの種類

●ブロックチェーンには誰でも参加できる「オープン型」と特定の参加者のみの「クローズド型」がある。

●「オープン型」は「パブリック型」とも呼ばれている。ビットコインは「オープン型」である。

●「クローズド型」は「プライベート型」や「許可型」とも呼ばれている。

●「クローズド型」は参加を許可する段階で、参加者の身元は明らかになっている(匿名性なし)。

●「クローズド型」には全体を管理・運営する中央の管理主体が存在する。

画像出展:「アフター・ビットコイン」

5.コンセンサス・アルゴリズム

●「コンセンサス・アルゴリズム」とは「合意形成の手法」と言われており、分散したデータベース上に多数存在する台帳情報を、ネットワーク上の全員で共有するための手法である。

●「コンセンサス・アルゴリズム」の方法は、オープン型とクローズ型で異なるが、これはオープン型が「悪意の参加者」の存在を前提にする必要があるのに対し、クローズド型では「許可された参加者」だけが対象になるからである。

●主なコンセンサス・アルゴリズム

表の上から3つ(プルーフ オブ ワーク[PoW]、プルーフ オブ ステーク[PoS]、プルーフ オブ インポータンス[PoI])は悪意のある参加者がいることを前提に、厳格な方式で不正を排除している仕組みになっています。

画像出展:「アフター・ビットコイン」

6.代表的なブロックチェーン

1)リナックスが進める「ハイパーレッジャー・ファブリック」

●「ハイパーレッジャー・ファブリック」は“リナックス・ファウンデーション”が開発しているブロックチェーンであり、金融業界向けのブロックチェーンとしての標準化を志向している。

●独自のコンセンサス・アルゴリズム(PBFT系)やメンバーシップ管理の仕組みを含んでいる。

●金融以外にも、製造、保険、不動産契約、IoT、ライセンス管理、エネルギー取引などでの応用を志向している。

●オープンソース(無償で一般公開)のため、誰でもそのソフトウエアの利用、改良ができる。

こちらは“リナックス・ファウンデーション”のサイトにあるものです。

Forbes Blockchain 50”の半数がHyperledgerを使っているということが書かれたページです。

こちらはForbesのサイトです。アルファベット順に50社が紹介されています。

 

こちらは“ブロックチェーンオンライン”さまのハイパーレッジャーに関するご説明です。

『Hyperledgerは、ブロックチェーンの技術を仮想通貨に限らず最大限に利用することを目的として生まれたブロックチェーン技術の推進コミュニティーです。プロジェクトの立ち上げにあたってLinuxOSの普及をサポートする非営利の共同事業体であるLinux Foundationが中心となり、オープンソースの理念から世界中のIT企業が協力して、ブロックチェーン技術の確立を目指しています。』

2)R3コンソーシアムが進める「コルダ」

●R3は米国の技術系企業である。

●金融業界向けに特化した分散型台帳管理技術を開発する。

こちらはコルダのサイトですが、参加企業のロゴが全て掲載されています。数えてみたら178社でした。(2019年5月3日時点)

7.金融分野におけるブロックチェーンの実証実験

1)国際送金における応用

『国際送金は、これまで相手先への着金までに時間がかかることや、手数料が高いといった問題点があったため、ブロックチェーンの技術を使ってこれらを克服し、国際送金を「早く、安く」行おうとする動きがみられます。』

国際送金システム「SWIFT」がブロックチェーン企業R3と提携 XRP対応の決済アプリ「Corda Settler」統合へ”という2019年1月31日付けのBD by BITDAYSさまの記事です。

なお、SWIFTとは Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略で、国際銀行間通信協会になります。 

私自身の話になりますが、HPの営業時代に銀行さまを担当していたことがあり、このSWIFTという用語は国際決済の代名詞のように使われていました。「思い出します。懐かしい」。(日本語サイトです)

2)証券決済における応用

『国際送金と並び、証券決済の分野もブロックチェーンの応用として脚光が当たっています。株式や債券といった証券の決済は、現状では、多くの当事者が関係する複雑なプロセスになっていますが、ブロックチェーンを利用することによって、こうしたプロセスを大幅に合理化し、コストを削減できるのではないかとの機運が盛り上がっています。』

有価証券の決済にブロックチェーンを活用する、カナダ銀行の試み(Bloomberg)

こちらはNTTデータさまの「イマ旬2.0」に掲載されていた2019年2月28日公開の記事です。

ブロックチェーンが証券決済能力を有することを証明|独中央銀行

こちらは「Oh My Crypto News」に掲載されていた2018年10月29日公開の記事です。

付記1:総務省 自治体ポイントに関する検討会 2018年4月11日 資料3

クリック頂くと、PDFの資料がダウンロードされます。こちらの資料、”ブロックチェーンの将来性と応用分野” は中島先生によるものです。今回ご紹介した『アフター・ビットコイン』がベースになっていますが、書式がスライドタイプなので見やすいと思います。ご参考にして頂ければと思います。

付記2:HPE opens new headquarters in north San Jose

日本では『平成』最後の日となった2019年4月30日に、HPE(旧HPから分社した会社で主に企業むけのシステムやサービスを提供。辞めていなければHPではなく、こちらのHPE側にいたというところです)の新しい本社がオープンしたそうです。グッドタイミングだったので貼りました。

すいません。英語のままです。

Hewlett Packard Enterprise employees gather next to the new HPE headquarters at 6280 America Center in San Jose. Hewlett Packard Enterprise on Tuesday unveiled a gleaming new office building in north San Jose, bringing a world-class tech company's headquarters into the Bay Area's largest city.

画像出展:「mercurynews

左から2番目がCEOのAntonio Neriです。

Hewlett Packard Enterprises CEO Antonio Neri (L), San Jose City Councilman Lan Diep (C) and San Jose Mayor Sam Liccardo (R), take a selfie with Hewlett Packard Enterprises employees during the grand opening of the new HPE headquarters in north San Jose. Hewlett Packard Enterprises on Tuesday unveiled a gleaming new office building in north San Jose, marking a new tech headquarters for the Bay Area's largest city.

経筋療法

この本は多分専門学校時代に購入したものだと思います。ちょっと思っていた内容と違っていたこともあり、放置状態となっていました。 

出版:創風社

初版発行:2003年12月

著者:富田満夫

1960年長崎大学医学部卒。整形外科専攻、国公立病院、岡山協立病院を経て、1972年大浦診療所勤務。医学博士、労働衛生コンサルタント

当院の施術は古典と言われる「経絡治療」であり、“本治・標治”という二本立てになっています。簡単にご説明すれば、“本治”とは患者さまの病状に即した基本穴を用い、自然治癒力を高めることを目的とします。一方の“標治”とは患者さまが抱える痛みや凝りなど困っている症状に着目します。

現在行っている標治の基本は、触診で硬結などの普通でない箇所、生きたツボ(ツボは本来、体調不良のときに出るものと考えています)を探し、鍼をすることです。腱や靭帯、関節包など軟部組織全体が対象ですが、刺鍼ポイントは筋腱移行部を含めた筋肉および筋膜が大多数になります。

筋肉に鍼を刺すと細胞レベルの修復作業である、副交感神経が優位になり血行が改善されるという効果が期待されます。これは鍼を刺すという物理刺激による直接的な効果といえます。この効果に着目するならば、特に“筋肉”の働きや特徴を知ることが重要になってきます。これについては解剖学からのアプローチが一般的ですが、“関連痛”を考えるならば筋肉にできたトリガーポイント(重要な硬結)に対する理解も有効です。整理すると、現在行っている標治のキーワードは“筋肉/筋膜/トリガーポイントに対する物理的刺激”ということになります。

今回のテーマである“経筋”もやはり“筋”が主役です。しかしながら、これは東洋医学(経絡治療)に含まれるものです。つまり、経絡治療においても筋肉を特別な存在として眺めているということになります。

標治には”阿是穴”(「あー、そこそこ」というツボ)もありです。効果が期待できるものは積極的に取り入れます。このように経筋を学び、必要に応じ施術に取り入れることは、“標治の引き出しを増やす”という価値があると思います。 

なお、ブログは施術頻度の高い腰下肢に絞っており、上肢については触れておりません。