“かささぎ”

2007年5月17日、HP(ヒューレット・パッカード)発祥の地であるガレージと住宅が、米国国立公園局により、史跡として登録されました。

 

「史跡」となるガレージ(1939年撮影)

画像出展:「ITmedia NEWS

 

画像出展:「NoeHill Travels in California

こちらはシリコンバレーの地図と景観です。

 

画像出展:「SEO’Brien

 

画像出展:「The Guardian

2007年5月というと、入社25年目ということで私が銀行のお客様を担当していた頃ということになります。そういえば、親しいお客様とそんな話をしていたことを思い出しました。

HPによって始まったシリコンバレーの熱気は広がり続け、今も世界を代表するIT企業がひしめいています。そんなシリコンバレーに対する誇りと憧れから、シリコンバレーの地図に企業のロゴがデザインされたカレンダーを飾って大切にしていたのですが、そのカレンダーは2017年のものであり、「古いカレンダーをいつまでも貼っているのは、さすがにマズイなぁ」とは感じていました。

 

ビフォー

何か探さねばと検索したところ、すぐにAllPostersという「世界最大級のポスター&絵画ショップ」を見つけました。

その種類も量も半端なく、まさに世界最大級ショップです。選ぶのは容易ではないと痛感しました。

そして、迷いましたが “絵画(印刷)” にしようと決めました。

土曜日の夜10時から、テレビ東京が放送している『美の巨人たち』は比較的よく観ています。日本人では、葛飾北斎、伊藤若冲、東山魁夷などが思い出されます。外国人では、ダビンチ、ゴッホなどが思い浮かびます。

一番印象に残った絵は何だっただろう?」と考えたときに、あたまに思い浮かんだ絵が一面雪の風景に一羽の黒い鳥が描かれたものでした。確か放送の中では雪の描き方、光の表現の仕方が凄いというようなことを言っていたように思います。ただ、作品名も作者も覚えていませんでした。

 

まぁ、ドイツ、イタリアという感じはしなかったので、とりあえず「フランス」で検索してみたところ、候補の一つと考えていたゴッホの “夜のカフェテリア” が1列目(1列に3つ)に登場しました。そして、私が探していた絵はあっけなく2列目にありました。その絵の作者はクロード・モネ、作品名は“かささぎ 1869年”でした。 

美の巨人たち 

今日の1枚は、美しい冬の油彩画、クロード・モネ作「かささぎ」。描かれているのは、夏の避暑地として名高いフランス北部の街エトルタ。多くの画家を魅了した地です。のちにモネにとっても重要な場所となりました。枯れた木々や降り積もる雪に覆われた、誰もいない白の世界。その中に存在感を放つ1羽の黒い鳥“かささぎ”が…。果たして“かささぎ”にはどんな秘密が隠されているのでしょうか。』

 

アフター

 

ちなみに、左端に黒く見える“かささぎ”は、羽を広げると特に美しい鳥であることが判明しました。なんとなく、”かささぎ”という題名にした理由が分かるような気がします。また、何故かこの絵を選んで良かったなと思いました。(届いた実物を見たら、黒と思っていた”鳥”のお腹は少し青がはいっていました)

 

画像出展:「BIRD FAN

「札幌発野鳥観察」さまのサイトにたいへん綺麗な素晴らしい写真が掲載されていました。是非ご覧ください。 ”2/8 苫小牧でカササギに出会いました

こちらがフランス北部、ノルマンディ地域圏の ”エトルタ” です。

画像出展:「ウィキペディア

モネはこの ”エトルタ” の風景も、14年後の1883年に描いていました。

画像出展:「WikiArt

【祝】百歳

先月、母親が100歳の誕生日をむかえました。

敬老会を主催された町内会の方からは「今回はこの町内に二人いました!」とのことで、あらためてすごい長寿国だと実感します。また、政府からは表彰状と銀杯を記念品として頂きました。

珍しいとはいえなくなった100歳ですが、そうはいっても凄いなぁと思います。思うに、母親の昔話を真剣に聞こうとしたこともなかったなぁと思います。そこで、全くのプライベートなことですが、100歳を理由にブログに書いてみることにしました。

これといってお伝えするようなことは何もないブログになると思っていましたが、結果的に二つの歴史的出来事に向き合うことになりました。それは、一つは“関東大震災”、もう一つは“東京大空襲”でした。

母親は大正七年(1918年)十月、六人兄弟の五番目として麻布で生まれました。残念ながら六人のうち四人は若くしてこの世を去りました。そして夫も三年足らずで亡くしました。

血を受け継いだ私同様、母親はかなりのマイペース型のためか結婚は遅く、三十後半、出産は四十でした。昭和33年(1958年)の女性の平均寿命は69.6歳だったので、2017年の平均寿命87.26歳と単純比較をすると、当時の40歳は今のおよそ50歳に相当します。「出産は危ないからやめた方がいい」という声も少なくなったようですが、母親はほとんど気にしていなかったようです。

楽しみは ”テレビ” と ”食べること” です。

今回、インタビューをするかのように根掘り葉掘り、しつこく聞きだそうとしたため、かなり怪しまれました。 

はすぴー倶楽部」さまの懐かしいサイトの中に“昭和33年はこんな年”という記事が出ていました。

1.関東大震災 大正十四年(1923年)九月一日 母親四歳

わずかな記憶のみ。「怖かった。自宅は無事だった」


関東大震災誌・東京編 

第一章 大震火災録 帝都壊滅の一瞬 

『大正十二年(1923年)九月一日午前十一時五十八分、源を伊豆大島付近の海中に発し、突如として起こった関東大震災は、東京湾、相模灘、房総沿岸一帯の地方、東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨の一府五県にわたる広大なる区域を一瞬にして揺り潰してしまった。しかも、津波と火災これに伴い、幾百万の建築物を倒し、幾十万の人命をそこない、さらに、幾百億の財宝を焼き、一朝にして通信、交通その他の文化機関を全滅した。まさに世界有史以来、未曾有の大惨害である。今、ここに筆をはげまして記録を後世に残そうとするのであるが、いかに最大級の文字をもってしても、この戦慄すべき惨禍をほうふつせしむることはできない。ただ、正確なる通信と報道とを採録し、それに見聞を加えて誤りなきを期するのみである。この日は、ちょうど二百十日の前日にあたっていた。前日は穏かに日暮れ、夜は空に星さへ見えていたのに、この朝早くやや強い風雨が人人の眠りを醒ましたのであった。しかし、やがて風雨も止み、午前十時頃からは空もからりと晴れ、再び平和な初秋の一日となった。そして、すべての市民は、今しばし労働の手を休めて健やかなる昼食の卓に向おうとした一瞬、突然何とも名状し難い地鳴りが聞えたと思う瞬間、上下動の激震がどしんと全市を揺り動かした。同時に塀崩れ、瓦が飛ぶ響きが、すさまじく轟き渡った。市民のすべてが、異常の大地震だ!と直覚し、色を失って立ち上がると、矢継ぎ早に二度、三度と襲ってきた揺り返しは、今度は横なぐりに人も物も地上に打倒した。と見る間に市内百三十余個所から火を発し、空は瞬く間にもうもうたる黒煙りにおおわれ、人人の悲鳴叫喚が大地を揺すって、五分間前の華の都は、たちまちにして阿鼻焦熱の地獄と化してしまった。さらに却火続くこと二日二夜、帝都東京は全市街の三分の二を烏有に帰し、ただ見る一望千里の焦土と変わり果てた。上野の山に立って、ありし日の都をふかんすれば、満目しょうじょうとして遮るものなく、遥かに房総の半島が秋天の下に横たわっているのである。誰か涙なくして立ち去り得たろう。』

大正12年 関東大震災 概要

防災情報のページ」さまのサイトに掲載されている関東大震災の情報です。

2.東京大空襲 昭和二十年(1945年)三月十日 母親二十六歳

木工職人だった父親(祖父)は職人が住み込みで働くための宿舎を用意するため、麻布から蒲田の西六郷に引っ越し、同じ敷地内に自宅も建てていた。

「空襲で自慢の家が全焼し非情に悲しかった。人生で最も失望し呆然とした」。とのこと。

六郷の土手に避難。命を守るだけで精一杯だった。歩いて上野公園に行った。もの凄い人だった。その後、何とか電車にのって埼玉(北葛飾郡庄和町神間)の父親の友人宅に行った。そこは大きな農家で二階に間借りした」 

 

六郷橋から川崎方第一京浜国道を見る

画像出展:「大森界隈あれこれ65年

 

空襲後の市中心部:六郷橋から川崎駅西口方向を見る

画像出展:「総務省|川崎市における戦災の状況

 

六郷土手(多摩川河口)付近:2010年5月2日撮影

画像出展:「自転車に乗ってドコまでも?

 

以下にご紹介する6点はこの写真集からの出展です。

編集:石川光陽、森田写真事務所

出版:岩波書店

発行:1992年3月10日

 

これは東京大空襲のおよそ1年半前、昭和18年8月16日、東京駅付近での帝都防空訓練の様子です。

左右の写真は上野ではありませんが、同じ台東区の浅草で、3月10日に撮影されたものです。


 

こちらは4月16日、東京大空襲の約1ヵ月後になりますが、蒲田警察署前通りの様子です。

西六郷の最寄り駅は蒲田駅。2枚の写真は昭和20年代の蒲田駅西口銀座です。

画像出展:「おおたWeb写真館


「電車に乗った」との話だったのですが、大空襲直後に本当に鉄道がうごいていたのか、ちょっと信じられない思いがあり、調べてみたところ、高見順先生の日記に大空襲後の上野駅の様子が描かれていることをネットで知り、その本を手に入れました。

三月十三日 曇り。寒し。

『母、三国に行く。切符は十日朝に買ったので(今は軍公務以外の者は買えない。)今日限りしか使えない。罹災民でごった返している汽車に、六十九歳の老母をのせるのは心配だった。母は平気だというが、もし混雑がひどかったら止めてもらうことにしてとにかく東京駅まで行ってみようと、妻と二人で附き添って北鎌倉へ行く。

-中略-

電車のなかから、行きは右側を見て、帰りは左側を見るということにした。そうして、妻と一緒に右側を見ていたが、東京都庁が十日の空襲でやられているのに初めて気付いた。東京駅で乗換え、上野行を買う。東京駅では今日はもう、昨日のような悲惨な罹災民の姿は見えなかった。車中でも、―罹災民らしい人々は乗っているが、そう惨めな姿は少なかった。ちらし髪の女がはだしでいたり、背負った子供の綿入れが焼けて、焼けた綿がはみ出ていたりしているといった、そう生々しい姿ではなかった。だが、―上野で降りて、猪俣君の切符のことでも駅で聞いて見ようと、汽車の乗り口の方へ行って、驚いた。あの広い駅前が罹災民でびっしりと埋められている。昨日よりその数が増えている。東京駅では、何か波が去った気がしていたのだが、ここへきて、横っ面をひっぱたかれた感じだった。

母をのせた大阪行はそう混んではいなかったのだが、避難民は目下の所安全と見られている東北を選んで殺到して、東海道線に乗るのはすくないせいか。この分では、まだ猪俣君は帰れない。駅前の広場に、東北本線、常磐線……と書いた大きな札が立ててあって、そこに罹災民が幾重もの列をなしている。改札口の前では整理、いや収容しきれないのであろう。万をもって数えられる密集だ。ここへ敵機が襲いかかったらどういうことになるだろう。駅や焼け残った壁に激励のビラが貼ってあった。夕闇が人々の頭上におりて来た。私は、ふと支那を思い出した。支那のこういう場合の民衆の騒々しさを ―。こんなに多数でなくても、支那では人が集まるとワイワイと大声でわめき立てて、大変な喧騒さだ。日本人のおとなしさ、けなげさ、我慢強さ、謙虚、沈着……。

大声が聞えてくる。役人の声だ。怒声に近かった。民衆は黙々と、おとなしく忠実に動いていた。焼けた茶碗、ぼろ切れなどを入れたこれまた焼けた洗面器をかかえて。焼けた蒲団を背負い、左右に小さな子供の手を取って……。すでに薄暗くなったなかに、命ぜられるままに、動いていた。力なくうごめいている、そんな風に見えた。

こちらは3月10日の昭和通り-浅草橋-両国警察署の緊迫した記録です。

3月10日 土曜日 晴 強風 風位北

『さきに房総半島沖をはるかに遁走した筈の敵機は、B29の約130機を主力にして、超低空で午前0時25分頃江東地区に襲いかかってきたのだ。探照灯の光芒は銀色の敵機を捕え、その周囲にいくつかの高射砲弾の炸裂するのがよく見える。来たなと思った瞬間、江東地区の夜空が真紅に染って大火災の発生を知らせた。

私は急いで屋上から防空本部室に入ると、正面の大管内図に青赤の豆ランプが本所、深川、江戸川、浅草地区に無数に光っていた。

原警務課長の前に行って、これから現場へ急行する旨を報告すると、課長は私の手をしっかり握って「そうか行くか。今夜の空襲は今までとは違っている。充分気をつけてな、死ぬなよ、元気で帰ってくるんだぞ」。課長は部下思いで常に部下の身を案じておられたが、こんなことを言われるとなにか異常なものを感じた。すぐ裏庭の車輛班にいき、何回も猛火の中を私とくぐり抜けてきた老朽のシボレーにエンジンをかけて出発した。オートバイの伝令も飛び出していった。

昭和通りをフルスピードで飛ばしていると、消防自動車や警視庁警備隊の輸送車が、警察官を乗せサイレンの音をひびかせて追い抜いて行った。

浅草橋の交差点までくると、前方は、淡々とした大火災が渦を巻いて凄絶そのもの、そして両国橋を渡って避難してくる人人人。それを整理、誘導する警察官の疳高い声、泣き叫ぶ婦女子や警防団員らの叫声などが聞えて、その混雑は筆舌につくせない有様だ。自動車はもう1歩も進めない。やむ得ず自動車を交番横に止めて、両国橋をこちらへ避難してくる人をかきわけ、まるで激流をさかのぼるような気持ちで、漸く両国警察署の玄関までたどりついた。

周囲は猛火の壁に囲まれ、熱風に煽られ、眼も開いておられない。空を仰げば醜敵B29は巨大な真白い胴体に、真紅の焰を反射させて、低空で乱舞している。そしてこれでもかといわぬばかりに焼夷弾の束は無数に落下してくるのだ。

署長室に飛び込んでみると、署内は電燈は消えているが周囲の猛火の光で明るい。窓を透してその猛火が渦を巻いて踊っているようにみえた。署長の許へ伝令が情況報告に入ってきた。その巡査の顔は真っ黒にくすぶり、制服もボロボロで眼ばかり光っている。ここへ来るまでの苦労をよく物がっている。署長の前に立って、情況報告をしているその巡査の顔の反面に窓外の猛火が映じて、その場の雰囲気を一層凄絶なものにしていた。

私は署長に挨拶して表に再び出た。猛烈な烈風と火と煙は容赦なく私に襲いかかり、撮影どころか、この身をかばうのに懸命だった。どこをむいても火ばかりだが、それでも少しでも風当たりの弱いところを探し求めて這うようにして進んでいった。 ~以下省略~ 』

以下は光人社より1994年12月に発行された本です。爆弾を落とした側の様子を知りたいと思い購入しました。

実は日本語版があることを知らず、2010年8月17日に“alibris”というネットショップに原書の注文をしていました。ちなみにアメリカの古書取り扱いで有名な海外通販サイトは、Abe Booksだそうです。

戦略 東京大空爆

ルメイは司令官としての孤独の中に漂っていた。この作戦の成功・不成功の責任はすべておのれの肩にかかっていた。この重荷は別にしても、空爆が終わるまで自分はどうしようもないということが、妙に気持ちを落ちつかないものにしていたのであった。司令官は通常、前線と連絡を取りあって作戦変更ができるのだが、ルメイの部隊は無線の沈黙の向こうにおり、一昨日の爆撃指令はもはや変更不可能で、敢行されるのをただ待つしかなかったのである。

一昨日の爆撃指令】とは(P143):この空爆に参加する男たちが爆撃群ごとに時刻をずらして、最終打ち合わせをする広い建物に集結した。指揮官が説明に入るまえに、舞台上に掲げられた地図のカバーがとりはずされた。乗組員たちはすぐに、幾人かが予想していたとおり、目標は東京であることをさとった。そして、まず単独飛行による夜間焼夷弾空爆であることが伝えられ、さらに、爆撃高度は五千から八千フィート(1525~2440メートル)の間であると告げられた瞬間、場内からは一斉にブーイングや口笛が沸きおこった。ほとんどの兵士たちが衝撃をうけ、また信じられないことだと考えた(ジェット気流の存在を知るまでは爆撃投下高度は8235~10065メートルとされていた[P85])。

さらに驚いたのは、鉄砲など戦闘火器すべてをとりはずして、敵地に侵空すると聞いたときだった。乗組員らがまさに脳天をうたれたようなその衝撃から立ち直らぬうちに、将校たちはそれぞれの担当情報をつぎつぎと伝えていった。情報担当将校は予測される敵側の抵抗や目標について、爆撃担当将校は爆弾積載量について、航法士担当将校は航行計画について、航空機関士担当将校は燃費効率について話し、さらに他の将校らによって気象予報や不時着時の対応法が説明された。)

その一方、ルメイは作戦の成功を確信していた。 

―もしこの空爆が敢行されれば、戦争はまもなく終結する。何しろ天皇が予想もできないことをはじめたのだ。天皇がこのような空爆に応報できるとは思えないし、東京が焼滅し地図上から消失するのを止めることはもはやできまい。P159 

 

写真はいずれもB29ですが、左は生産工場です。

 


未読のままの原書ですが、日本語版の上記青字が原書ではどのような文章、言葉だったのか知りたいと思い調べてみました。

・“If this raid(襲撃) works the way I think it will, we can shorten the war. We’ve figured out a punch he’s not expecting this time. I don’t think he’s got the right kind of flak(対空砲火) to combat this kind of raid, and I don’t think that he can keep his cities from being burned down―wiped right off the map.”P173

日本語版の「戦争はまもなく終結する」の元の英文は”we can shorten the war”、「天皇」は”he”となっていました。

当時の外交文書には「大日本帝国」という表現が使われていたようなので、”he”は「天皇」という解釈になるのだろうと思います。なお、原書は本のサイズもひと回り大きく、約300ページ。日本語版は約200ページとなっており、原書の一部を翻訳したものとなっていました。  

余談になりますが、フランスでは国名に関し“la(she)”、“le(he)”を使うそうです。調べてみる“he”に相当するのがアジアでは日本、ベトナム。“she”に相当するのが中国、韓国となっていました。日本語でも「母国」と漢字で書いたりもしますが、「国」に使う代名詞はふつうは “it” です。


 

司令官のルメイ(LeMay)は向かって右から2人目です。

3つの思い出

自分でいうのもおこがましいのですが、私は幼少の頃、ほとんど手の掛からない子供だったと思います。注射も歯医者も恐れず、乗り物の中も紳士でした。母親も同様のことを言っていたので間違いないと思います。

そんな”まるい”子供であった私が、思いっきり駄々をこね、母親を連れだしたのが開園まもない「よみうりランド」でした。これは隣に住んでいた同級生のS君が、このよみうりランドで約20メートルのクジラのはく製を見てきたという話が発端です。私の記憶ではそのクジラは「ヨナス」と命名された、多分、マッコウクジラ(??)だったのではないかと思います。残念ながらその雄姿の写真を発見することはできませんでした。

1963年の新宿駅です。駅の外には出なかったのですが、外の風景はこんな感じだったのだろうと思います。

なお、新宿の小田急線ホームは何かの工事をしていたという記憶があります。

画像出展:「東京WEB写真館 東京いま・むかし

新宿から乗車した電車は確か白っぽかったので、このタイプの車両かも知れません。

写真は世田谷代田-下北沢間、1965年2月 

画像出展:「地方私鉄1960年代の回想

 

読売ランド前駅南口改札口 1961年(昭和36年)

この頃は、「西生田駅」と呼ばれていたようです。今は「生田駅-読売ランド前駅-百合丘駅」の順に駅があります。ここから「よみうりランド」まではバスだったと思います。この写真より時期が少し後ろにずれるのですが、駅は小さくさびれた感じだったのでこの写真の頃と大きくは変わらないように思います。

なお、この日はかろうじて雨には降られませんでしたが雲が厚く、少し肌寒いという印象でした。

画像出展:「大東京ビフォー&ナウ|懐かしい昭和の写真と比較する小田急小田原線各駅の昔と今 

「よみうりランド」は1964年3月19日にOPENしました。 

画像出展:「よみうりランドW'aitブログ

 

画像出展:「レビュー研究室


この水中バレエ劇場はよみうりランドの目玉のアトラクションでした。オープンは1964年(昭和39年)10月5日とのことなので、私たちが行ったのはそれ以降ということになります。多分、その日は1965年春ではないかと思います。

母親に聞いてみると、よみうりランドに行ったことはしっかり覚えていました。強烈に駄々をこねたことも覚えているようでした。いずれにしても大正解でした。

江東区北砂の叔父の家には泊りで行くことは少なくなかったのですが、それ以外、母親と泊りでどこかに出かけたことは一度もありませんでした。「これは、まずいだろ~」という思いから、決行したのが「上高地」への小旅行でした。途中、数日前(?)に発生したがけ崩れのため、予想外の遠回りをすることになったのは誤算でしたが、良い時間を作れたと思います。こっちもよく覚えていて、「連れて行ってありがとう」と言っていました。ということで、これも大正解だったと思います。

写真の日付が1991年10月19日なので、母親の年齢は72歳だったということになります。


今回、インタビューもどきの質疑応答の中で、「できれば、もう一度、疎開していた岩手県平舘に行ってみたかった!」との発言がありました。あまりそのような事を言うタイプではないため、ちょっと意表を突かれました。

車に20分程乗っていると「まだか、まだか」とさかんにブーブー言いだすヒトなので、平舘小旅行はありえません。とはいうものの、百寿のために何か気の利いたことはできないだろうかと思い、ネットでゴチャゴチャやってました。

そして、発見したのが岩手県立図書館にあった三つの文集です。言い忘れましたが、母親は小学校の先生をしていました。

1.たいらだて : 創立百一年記念文集 1976年 

2.小学校創立百周年記念誌 1975年 

3.町立平舘小学校創立120周年記念誌 1995年

このうち、1と2については「貸出〇」となっており、さいたま市の最寄りの図書館に電話で問い合わせたところ、所蔵している岩手県立図書館から借用することはできるとの回答でした。

疎開先の岩手県西根町(現八幡平市)の関係者は、大変優しい人たちばかりだったようです。特に「退職するときに、全校生徒が見送ってくれたのが最高にうれしかった」。と声を大にして言っていました。

教員名簿の中に母親の旧姓を見つけました。何か不思議な感じです。また、疎開時だけの臨時教員でしたが、載せて頂けるのは光栄なことだと思いました。

 



 

こちらは母親が持っていたものです。いかにも古いなかなか素敵な写真です。

 

 

こちらは昭和十年代、戦前の大田区旧北蒲小学校時代の運動会の写真です。これもいい感じです。

 

付記:認知機能

夜のバラエティー番組の中で、 ”近視の人は認知機能が高い” という話がありました。いままで ”認知” といえば ”認知症” というイメージが強く、「そういえば、認知機能って何だっけ? 」とモヤモヤしはじめたので、ちょっと調べてみました。

まず、こちらが番組で話していた件と同じものと思われます。”認知機能が高い人は、眼鏡が必要となる遺伝子を持つことが明らかに

こちらで見つけた記事は”超高齢期の認知機能~百歳までと百歳から”というもので、『認知機能とは、外界から受け取る刺激や情報を認識、理解して、行動を遂行するための脳の働きを指す言葉です。認知機能には、記憶力や注意力、言語能力、判断力、遂行力などが含まれます。』となっていました。

こちらは百寿者の人数のグラフですが、女性の激増ぶりが顕著です。

先月、床屋さんで「浦和市時代に100歳のお祝いに100万円もらってた時がある」。という話を聞きびっくりしましたが、これを見ると昭和の頃は全国でもほとんど3桁の人数なので、「有りだな」と思いました。

なお、平成30年9月1日現在、さいたま市の百歳以上の高齢者は444人、最高齢は女性で109歳となっていました。ちなみに103歳だとTop100に入るようです。

「閃く経絡」(関連痛とは)

今回もこちらの本、付録3の “関連痛または放散痛” からです。

著者:ダニエル・キーオン

出版:医道の日本社

関連痛のメカニズムは明確になっていないものの、「脊髄に入ってきた痛みの信号の発生場所を(例えば皮膚からなのか内臓からなのかということを)脳が正しく把握できない」という説明が一般的です。”痛み”が生命を守るためのメッセージ、警告であるとすれば、旧皮質に新皮質が加わった人間の脳はもっと高性能なのではないかと、少し納得できないところがありました。

下記はその関連痛のメカニズムを分かりやすく説明したものです。

内臓痛を伝える感覚神経と皮膚の痛覚を支配する感覚神経が同じ高さの脊髄後角に入り、共通の脊髄視床路の神経に接続する。その結果、大脳皮質の体性感覚野が内臓痛を皮膚痛と誤認することを関連痛という。

 

 

画像出展:「看護roo!

「閃く経絡」では“関連痛または放散痛” と題して、これらの原因は「脳が混乱している」のではなく「ファッシアが伝達している」という新しいメカニズムを紹介しています。これはとても新鮮でたいへん興味深い内容です。ブログではその箇所をご紹介させて頂きます。

『我々を最も困惑させる疑問の1つは「なぜ心臓発作の痛みが、人によって異なる場所に、特に、頚部、顎、腕に放散するのか」である。

なぜ心臓の痛みが腕と頚部で感じられるかに関しては、ファッシアの通路に沿って心臓発作の痛みがいくという説明は、西洋医学の視点とは意見が衝突していることに注意されたい。簡単に言えば、西洋医学の視点は、脳が馬鹿すぎてお尻と肘の区別がつかないとする(この場合は心臓と肘)。しかし、これが全く正しくないことが研究によって示されている。脳はその違いをわかっているのだ。科学者は、臓器に関する脳の意識を説明するために新しい用語―“interception”(内受容感覚)―を作った。「関連痛」という西洋医学的な見方で説明すると、大体このような感じになる。神経はそれぞれ身体の異なる部分を支配するが、それらの神経が脊髄の同じ部分に接続されると、脳は同じ場所から来ている神経だと考える。2つの電気装置を同じ電力メーターに接続するようなもので、どちらが動いているのかわからない。

こちらはネット上にあった『内受容感覚と感情をつなぐ心理・神経メカニズム』という論文です。”外受容”と共に”内受容”が出ています。

心臓発作の場合、心臓の痛みは横隔膜を刺激する。そして心膜が痛み信号を記録して、伝達すると考えられる。痛み信号はこれらの部位から脊髄の第3~5の頚椎神経根に行く。これらの神経根が支配する皮膚は頚部、上腕、胸壁、腕であるため、脳はどこからの痛みかわからず、間違った場所や両方の場所を記録してしまう。

「脳が混乱している」という説の代わりに、「ファッシアが伝達している」という理論はどうだろう? 痛みがファッシアを移動するのだとすれば、電気が銅の導線や水に沿って拡がるのと同じように痛みも拡がるのだろう。我々は、ファッシアの間にある液体が電気を伝導することを知っている。神経はファッシアを神経支配し、また、神経はファッシアの中を走行することを選ぶため、両者の関係は強い。「脳が混乱している」と考えるのではなく、痛みが実際にファッシア面に沿って神経ネットワークを介して放散している、とは考えられないだろうか?

痛みが強くなるほど、また電気信号がより強力になるほど、放散は強くなる。これは研究によって示されていることと一致している。痛みのある部位での局所麻酔は関連痛の刺激を消すはずだ。これに関する研究はあまり行われていないが、これが正しいことを示した研究が少なくとも1つはある。

Local application of ketocaine for treatment of referred pain in primary dysmenorrhea.

※Local applicationとは局所適用、ketocaineとは局所麻酔薬、dysmenorrheaとは月経困難症。

関連痛には3つの種類がある。体性痛(または臓器の痛み)、神経根障害の痛み(または神経損傷による痛み)、筋性の関連痛である。

神経根障害の痛みは、神経が損傷した場所から、脳に異常なメッセージを送る。ここで、脳は本当にだまされる。身体の遠位の部位を支配する痛みの神経が、本来であれば痛みが起こるはずのない場所で刺激されるからである。この痛みは、すべり症や他の脊柱の問題でよく起こる。

神経はそれ自体のファッシアに囲まれ、氣が移動するのはこのファッシアに沿う。これと関連痛のファッシア理論は矛盾しない。神経根障害の痛みは特別な種類―傷ついた神経の痛みだからだ。

筋性の筋膜痛は筋肉の間に沿って動く。筋性の筋膜痛では、筋肉が硬くなるとき、筋肉を包む筋膜をもつれされる。身体は網であり、一部が動けば、網全体を再調整しなければならない。

これは「身体のテンセグリティー・システム(張力統合構造)」として知られている。身体を扱う人々(例えば医師)と違い、身体に触れて施術する人々(例えばマッサージ師、理学療法士)のほとんどにとって、これは自明だろう。どの筋肉が硬いかにより、身体の様々な面を再調整する。再調整はある線にそって行われるが、その線は高確率で予測可能である。これらの線は、中医学で鍼灸の経絡(特に陽経)であるとされてきた。

 

 

こちらが経絡の中の「陽経(手の三陽経と足の三陽経)」を示したものです。

画像出展:「経絡マップ」

最後に、体性放散痛である。体性は「身体」を意味するが、この場合は「内臓」を指す。

関連痛で最もよく知られた例は心臓である。「脳が混乱している」説の代わりに、これは顔と腕につながる主要動脈の通路に沿って痛みが放散していると見なせる。

食道の関連痛は喉まで上がり、胃まで下がる。これらは胃のファッシア面である。

虫垂の痛みは腹部の中央で始まる。これは虫垂を覆っているファッシアが引っ張られるときにしか起こらない。虫垂は腹部右下の隅にあるにもかかわらず、ファッシアのつながりは腸間膜を介して、へその高さの背部の正中線へと走行する。この場所は虫垂炎が痛み出す場所(10~15%の割合で)として昔からよく知られている。その後、虫垂炎が腹壁のファッシアを刺激すると、痛みはそちらに移っていく。

骨盤痛は多くの場合、腎経・閉鎖管―骨盤から脚への唯一の出口―を通じて内股で関連痛を生じる。

直腸痛は肛門のファッシアで関連痛を生じる。

膀胱痛は尿道ファッシアから陰茎の先端、または睾丸へのファッシアへと移動する。

アイスクリームの頭痛を引き起こすものが何かは誰にもわからないが、ある説によると脳に入る動脈の拡張に起因するという。とても冷たいものを食べると、鼻を通って脳に入る動脈が少し拡張する。そうなると、脳の「硬膜」にあるファッシアが引っ張られ、特徴的なズキズキする頭痛を引き起こす!

同様に、動脈の拡張を引き起こすものは頭痛となる。片頭痛は1つの例である。

膵臓の痛みは、そのつながりを反映して、背部に放散痛が生じる。

尿管の痛みは「中腎」に沿って睾丸まで到達するが、腎臓の痛みはその発生学的な起源に忠実で腰部にとどまる。

肺は放散痛を生じるとは考えられていない。これは、肺の放散痛は、喉頭へ拡がるので、喉頭自体の痛みとして関連付けて考えるためだ。

骨痛はその場所に忠実だが、骨のファッシアを突破すると、筋肉の筋膜面に沿って放散する。

血管の痛みは血管に沿って放散する。大動脈が避けるとき、患者は実際にそれを(大動脈が走行する)背部が引き裂かれるように感じると表現する。

顔の痛みは、顔の発生元である咽頭弓の面に沿って移動する。咽頭弓から顔は発達する。

胆嚢痛と腹腔内出血は「乳び層」から鎖骨下静脈、つまり肩先まで放散する痛みを生じさせる。

実際、痛みの放散のほとんどすべては「混乱した脳」理論の代わりにファッシアで説得力を持って説明できる。関連痛の「ファッシアの氣」理論は痛みの放散を予測できる。「混乱した、愚かな脳」理論に遡って説明する必要はない。

さらに言えば、脳の愚かさを想定する必要はない。脳は痛みを感じている場所を正確に示している。脳が感じる痛みは病理的電氣の形の痛みであり、電氣は移動する。病理的電氣はファッシア面、あるいは鍼灸の経絡を移動する。痛みはファッシア面に沿って移動する異常な電気的活動の形態であるからだ。痛みは移動すると、さらに痛みが生じる原因となる。

ファッシアは、臓器よりも痛みに対してずっと感受性が高い。

頭痛は脳の痛みが原因ではない。脳は痛覚受容器を持っておらず、患者の意識がはっきりしたまま脳を手術することもできる。むしろ、頭痛はファッシアの刺激が原因である。

消化管はほとんどファッシアが引っ張られるときのみ、痛みを伝える。そのため、腹痛の主訴は、腹部がひきつれる感じや膨満感のような漠然としたものとなる。

肝臓と脾臓は、ファッシアが関与しない限り痛みを感じない。

腎腫瘍はファッシアを越えて浸潤するまで、漠然とした疼痛(筋膜が引き伸ばされることが原因)しか生じない。

西洋医学は、心臓の痛みが筋肉でなく、ファッシア(心膜)で感じられることを認めている。

癌の激しい痛みはファッシアが関わるときにのみ始まる。その前の段階ではほぼ間違いなく無痛性である(これは早期に発見する上で問題となる)。

体性(臓器)の痛みを見るときに注目に値するのは、その痛みは現実には存在しないということである。実際、どの臓器も痛覚受容器を持っていない。このため、全く気づかないうちに、癌が進行したり、肝臓が毒されたり、肺気腫にかかることがありえる。

脳が臓器の痛みを混乱しているという考えは無意味である。というのは、これまで誰も肝臓の痛みを感じたことはないからだ。肝臓を包む膜(ファッシア)の痛みしかない。脳腫瘍が痛みを生じるのは硬膜(ファッシア)が引っ張られるときだけである。肺が非常に乾いて、肺胸膜(ファッシア)が滑らなくなる(胸膜炎)ときのみ、肺気腫は痛みを伴う。

痛みの放散痛に関する「ファッシアの氣」理論は、痛みの放散痛をすっきり説明するだけでなく、鍼灸の理論にも完璧に合致する。西洋医学は、このつながりを見落とすという、古今を通じて最大の医学的誤りを犯したのだろうか?

「ファッシアの氣」理論は、ファッシアにある電氣の流れを調整することでこの痛みに作用を与えられると想定する。そして、痛みの緩和は鍼灸における最大の成功である。三千年の医学は、この驚異的な特性の上に構築されてきた。

もし、この理論が受け入れられれば、「ダニエル・キーオンのファッシア・鍼灸・痛み理論」と呼ばれることを願う……。

……冗談冗談! 鍼灸は鍼灸だよね!』

ブログリンク:”筋連結

ブログを書き終えて数日後、以前アップした ”筋連結” のことを思い出しました。ファッシアが筋膜を超える幅広い存在であるということを前提に考えると、”筋連結” という考え方は、筋性の関連痛を後押しするものではないかと思われます。

「閃く経絡」(肝と機能性子宮出血)

非常にうまくいった施術の中に機能性子宮出血があり、ホームページの「適応疾患」⇒「内科・その他」のページに掲載しています(「機能性子宮出血」)。

この中で、なぜ出血が止まったのかという疑問に対し、肝臓がもつ血液凝固の働きが関係しているのではないかという推測をしていたのですが、今回の『閃く経絡』の中にそれを裏付けるような記述がありました。今回のブログはその箇所をお伝えするというものになります。

 

著者:ダニエル・キーオン

出版:医道の日本社

女性が月経の問題を抱えると、中医学は肝、特に肝血と呼ばれるものに着目する。肝臓は血液にとって非常に重要である。肝臓は血中に浮遊するタンパク質、脂肪、コレステロール、凝固因子を制御・生成するこれらすべてで共通することは、基本的に血液中の水分で溶けず、脂溶性で浮遊している。これは水と油を強く振ると、一緒に混ざって、クリーミーな混合物(懸濁液)になるのと似ている。

肝臓は血液中の脂肪成分を制御する。例えば、腎臓でほとんどの薬剤を除去しているが、脂溶性の場合、まず肝臓で代謝されなければならない。コレステロールが原因の身体の異常な「脂肪性」沈着物(アテローム性硬化)はスタチンで治療される。スタチンは、肝臓がこの「脂肪」を処理する方法を変える薬剤である。

中医学での肝血とは、血の脂溶性懸濁液成分を意味しており、これは肝によってコントロールされる。残りの血液は水分、イオン、赤血球、白血球で構成される。先述したように、これらすべては腎の管理下にある。

凝固因子は、肝血と月経の関連をとても明瞭に示す。凝固因子は肝臓で産生され、正常な凝固に重要である。凝固因子の障害で重い出血が引き起こされる。しかし、大量出血を呈する女性を検査しても、深刻な異常が見つかることは珍しい。医師が異常な月経を治療するとき、第1選択はいつも、凝固因子ではなく月経周期をコントロールするホルモンである。「ピル」で効かなければ、段階的により強いホルモンを用いていき、挙句の果てに人工閉経を誘発する。巨大ハンマーでナッツを砕くようなものだ。

医師が用いる別のアプローチとして、凝血塊の分野を抑える作用を持つ「トラネキサム酸」と呼ばれる薬剤がある。これはよく効くが、他で血塊を生じさせることがある。いずれにしろ、根底にある病理を本当に理解していない治療であるばかりか、そこから目を背けてしまっている。

医師として仕事をするなかで、痛みを伴う、重い生理を抱えた多くの女性を診てきた。私はいつも鍼灸を推奨している。「三陰交」(SP6)のツボを単純にマッサージするだけでも非常に効果的である。これが作用するプロセスの一部に「ヒスタミン」というホルモンがおそらく関わっている。 

クリックすると「三陰交」を確認できます。

肝臓と関係しているホルモンを1つ挙げるなら、それはヒスタミンである。肝臓はヒスタミンを分解する主な臓器である。ヒスタミンは肝疾患で上昇する。抗ヒスタミン薬は肝不全の症状の治療に役立つ。ヒスタミンはイライラさせる。アレルギー、発疹、じんま疹、虫刺されでかゆくなったり、ヒリヒリしたりするのは、すべてヒスタミンのせいである。中医学では、肝は怒りの限界線を適正に抑えて、「感情面」でも制御している。まさに肝は怒りの臓器である。ヒスタミンはイライラを感じさせるだけでなく、病原菌や寄生虫に対して過敏にする。ヒスタミンはあなた自身の身体と外界との境界線を定める。

そうなると、中医学を学ぶ者にとって、機能性子宮出血の女性でヒスタミン・レベルが上昇するのは、驚きではないはずだ。

ヒスタミンは、「肥満細胞」と呼ばれる特殊な細胞の中にある「顆粒」に含まれる。月経で、肥満細胞は「脱顆粒して」、ヒスタミンを放出する。(注意深い読者は、これがアナフィラキシーと同じプロセスだと気づくだろう)。読者の50%以上を怒らせるリスクを恐れずに言うと、これは一部の女性が……つまり……1カ月に1度、少しばかりイライラさせるだけでなく、子宮で赤血球と液体を漏れやすくさせる。女性の「血液」損失の約50%は血液ではない。実際に漏れるのは体液であり、ヒスタミンはこれを悪化させる。

クリックすると「脳科学辞典」が表示されます。

『中枢では、視床下部乳頭体にヒスタミンニューロンが集まっており、そこから脳内各部位に投射し、神経伝達物質として働いている。睡眠・覚醒、摂食調節などに関与している。』

また、「幸せホルモン」として有名なオキシトシンの分泌促進にも関わっているようです。

ヒスタミンは、肝臓と女性の月経の問題に関連し、月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)にも関連する。月経前症候群の一般的症状の多く、例えば、頭痛、不眠症、疲労、吐き気、腹痛、下痢などは、ヒスタミン不耐性とも関係している。さらに、喘息、蕁麻疹、湿疹、てんかんはすべて、PMSの間、悪化することが示されている。これらはヒスタミンと肥満細胞が核心にある病態である(てんかんは除く)。さらに、PMSを悪化させると女性が考える食物の多く(チョコレート、赤身の肉、アルコールなど)は、すべて高レベルのヒスタミン、またはその元になる「ヒスチジン」が含まれる。

月経が周期を持つということを無視してはいけない。この周期にはエストロゲンとプロゲステロンが関わる。PMSの症状の多くは、これら2つのホルモン(特にプロゲステロン)の不均衡に起因する(そうでないこともある)。しかし、ヒスタミンとこれらのホルモンが関連している。ヒスタミンはプロゲステロンのレベルを上昇させる。専門家によれば、肥満細胞はこれら2つのホルモンに反応して子宮で活性化し、数が増えると考えられている。

東西の医学を融合した立場でこれを説明すると、東洋医学のいう肝による月経の制御は、その一端がホルモンであるヒスタミンの代謝を通じて行われる、ということになる。

肥満細胞とヒスタミンが女性の毎月の問題の核心近くにあるとはいえ、抗ヒスタミン剤で治るというほど、治療は単純でないかもしれない。70年間にわたり、これと同じ病理がしばしば喘息の根底にもあることが知られてきた(中医学において、喘息は肝氣の滞りが肺に影響するとされる)。喘息治療がうまくいくと、ヒスタミンのレベルが下がるにもかかわらず、抗ヒスタミン薬自体は喘息にほとんど成果が上がらなかった。抗ヒスタミン薬(例えばMidol™)がPMSで用いられるが、(現在のところ)治療の大黒柱ではない。しかし、月経周期の始まりで抗ヒスタミン薬を投与する治験があるとすれば、興味深いものとなることだろう……。』P291

「閃く経絡」(心と腎)

心臓と腎臓には密な関係があるとされています。それは心腎連関と呼ばれ、5つのタイプに分類することができます。なお、下記の説明は冊子『糖尿病における心腎連関』の内容(右上の表)を一部加筆したものです。

 ”糖尿病における心腎連関” を[クリック]すると、ネット上にあるPDF資料がダウンロードされますが、これは「医学出版」さまのサイトにあるものです。

なお、Roncoとは、Dr. Claudio Ronacoという人のことで、[クリック]すると“critical care Canada”というサイトに移ります。

 

心腎連関に関するRonco分類

 1型:急性心疾患による急性腎障害(AKI)

急性心不全や急性冠症候群で心機能が低下することにより心拍出量が低下し、非代償性心不全に至ると急性腎障害(AKI)の状態となる。腎障害は腎血流の低下に伴う腎虚血およびGFR低下である。 

2型:慢性心疾患による慢性腎臓病(CKD) 

慢性心不全による左室リモデリングと機能低下、拡張不全、心筋症が原因となり慢性の腎虚血の状態となる。うっ血性心不全で入院する63%で心腎連関の状態を認めるという報告もある。 

3型:急性腎障害(AKI)に伴う急性心疾患 

AKI(急性腎障害)により急速に腎機能が低下することで、うっ血性急性心不全が起こる。腎機能の低下は水、ナトリウム貯留、高カリウム血症など電解質異常や尿毒素の蓄積をきたし、これらが急性冠症候群や不整脈などを引き起こす。 

4型:慢性腎臓病(CKD)に併発する慢性・急性の心疾患 

慢性的な腎機能低下は高血圧、動脈硬化、貧血、尿毒素の蓄積などをきたす。糖尿病、高血圧が慢性腎臓病(CKD)の原因である場合、血管の石灰化、左室肥大、左室拡張不全を合併しやすくなる。 

5型:全身性疾患により同時進行的に生じる心臓、腎臓の障害

心臓、腎臓には主たる原因はなく、血症などの全身状態悪化にともない、心機能低下と腎機能低下が同時に起こる状態をいう。

1型2型は心臓病を原因とする腎臓病。3型4型はその逆、腎臓病を原因とする心臓病。最後の5型は全身性疾患を原因とする心臓および腎臓の機能低下というのが大まかな分類です。

こちらは、NHKスペシャル“人体 神秘のネットワーク”の書籍版第1集から一部を使ってスライドショー(10枚)にしたものです。心臓と腎臓とのやりとりをイメージして頂けると思います。 

こちらのサイトは情報が満載です。 

心臓と腎臓の深い関係 ─ 心腎連関症候群 ─”に関する説明も掲載されています。 

一方、中医学においても心と腎の関係性を重視しており、それを“心腎相交・心腎不交”と呼んでいます。 

右の図はこちらの本の内容を基に作ったものです。


専門学校時代、「中医学は古くて新しい学問だ」と教わりました。そこであらためて中医学について調べてみると、ウキペディアには次のような説明が出ていました。

『中国地域に伝わる伝統医学は多様であるが、中華人民共和国の成立以降整理され、中医学の名で統一理論が確立された。そのため日本では、中華人民共和国で整理された医学体系を「中医学」とし、それ以前を「中国医学」として区別する場合もある。

心腎相交・心腎不交”という考え方は古い「中国医学」からあるものだと思いましたが、念のため、ネット検索してみると、“九峰の備忘録”という凄いブログに貴重な情報が出ていました。ここではその一部を引用させて頂きます。なお、※印は私の加筆です。

心腎不交-文献1目次・宋以前

『心腎不交および相交、そしてそれに類する表現の含まれる文献を集めた。水火不交、坎離不交、上下不交、水火既済(未済)などである。』

 《宋以前》※宋時代は960年~1279年

『霊枢』寒熱病(21) 

「陰蹻、陽蹻、陰陽相交、陽入陰、陰出陽、交于目鋭眦、陽気盛則瞋目、陰気盛則瞑目。」

※『霊枢』は中国最古の医書とされている『黄帝内経(コウテイダイケイ)』の一部、他に『素問』があります。『黄帝内経』は前漢時代末期(紀元前1世紀頃)に存在していたという説もありますが、詳しいことは明らかになっていません。「寒熱病(21)」とは『霊枢』の21番目の項目が「寒熱病」について記述してあるという意味です。なお、“霊枢原文(鍼経)”という本が出版されているのを知りました。 

 

出版:三和書籍

校正:淺野 周

心腎不交-文献2両宋・金

手元の文献 のなかで、一番古い心腎不交の表現は、厳用和『済生方』にある。宋以前の医書には今のところ見つからない。』

《両宋・金》

厳用和(南宋)※南宋は1127年~1279年

『済生方』1253年・・・(『厳用和医学全書』2006年 中医藥出版)

≪諸虚門≫

芡実丸

「治思慮傷心、疲労傷心、心腎不交、精元不固、面少顏色、驚悸健忘、夢寐不安、小便赤渋、遺精者白濁、足脛散痛、耳聾目昏、口干脚弱。(以下修治と薬量は省略)」

“心腎”という語を含むものが出てきたのは13世紀でした。このことから、“心腎相交・心腎不交”は「中国医学」の時から、間違いなく存在していたものであることが確認できました。

このように、心と腎、心臓と腎臓はそれぞれが非常に重要な臓器であり、かつその関係性も密であるという特別な存在です

なお、以降は閃く経絡』に書かれていた心・腎に関して、お伝えしたいと思った部分になります。 

心臓は大動脈を通じてすべての臓器につながるが、腎臓とも(中医学と西洋医学の両方で)非常に特別な関係がある。腎臓と大動脈は同じ空間(腹膜後腔)に位置する。ここは少陰経の合流点を表す。氣は最も大きな動脈に沿って心から移動し、上方へ向かい、腕と脳へと出る。下方で最初の大きな分岐は腎動脈である。腎動脈から2本の短くて太い腕と手指のような血管が出ている。これらの手指は、心から下がってきた氣を保持する腎の機能を表している。これらの腕の先に、2本の巨大な豆が位置する。それらは豆によく似ているので、「“キドニー”・ビーン」と呼ばれている。

ここで示すイラストは「かかし」のように描くことで、大動脈を解剖学的に驚くほど正しく描写している。』p185

●かかしの眼は横隔動脈(横隔膜の動脈)である。口ひげは腹腔動脈(胃の動脈)である。

口は上腸間膜動脈である。

乳頭は精巣動脈・卵巣動脈である。

腕は腎臓の動脈(腎動脈)で、先にある5本の手指(分岐)で豆を保持する。

おへそは下腸間膜動脈である。

●このかかしは男性であるため、陰茎―「仙骨動脈」を持つ。そして2本の脚は「腸管動脈」となる。

●その後ろ側では、かかしはロープ(腰動脈)で棒(脊柱)に括りつけられている。

『なぜ、私はこのイラストを見せたのか? 私がどれほど賢いかを示すためではない。「Clinical Anatomy Made Ridiculously」からアイデアを引用している。このイラストは非常に正確で、医学部の期末テストでも使うことができる……必要であればだが。このイラストはすべての位置が完璧であるだけでなく、血管の相対的サイズも正確なのだ。 -中略-

これを示したのは腎と心のつながりがどれほど強いか証明するためだ。ご覧の通り、腎動脈の動脈は2本の幅広い腕である。そして、これらの腕は幅広い必要がある。これらの2個の小さい豆は心臓から全血液の5分の1を取り入れているからだ!』p187

『腎は精を貯蔵し、心は神(または霊性)を宿す。腎水は心火を制御し、心火は腎陰に活力を与える。中国人は、腎臓がレニンと呼ばれるホルモンを産生することを知らなかったし、レニンが肺内部で作用して、別のホルモンを産生して、心臓にストレスをかけることも知らなかった。中国人はこれが副腎を介して腎臓にフィードバックされ、より多くの水分を保持するように伝えることも知らなかった。

代わりに、中国人は腎火について話した。それは上方へと燃え上がり、心臓に損傷を与える、そう命門のことである! この説明も西洋医学と同じように妥当である。違うのは、薬草や鍼灸を使用する場合、これらの用語をさらに正確に定義する必要がなかったということだ。薬草は腎を「調律」し、水で「うるおす」ように用いられた。

漢王朝の偉大な医師たちが現代医療に驚嘆することは疑いない。彼らが薬草や鍼と同様に、抗生物質やステロイド、外科手術や麻酔を使いこなしていたらどうだったであろうか。西洋医学が肺を介して腎火を心につなげる物質そのものを精密に同定したことに彼らはさらに驚くだろう。』p200

『腎臓はそのホルモンで心臓に大きく影響を及ぼすが、心臓も同じくらいの力で腎臓にフィードバックを返す。心臓は主にポンプの力を通してフィードバックするが、心臓が産生し、腎臓に影響するホルモンが少なくとも2つある。ANP(atrial natriuretic peptide、心房性ナトリウム利尿ペプチド)とBNP(brain natriuretic peptide、脳性ナトリウム利尿ペプチド)である。

大動脈が間に入ったこのつながりは特別である。血液を拍出する力は、他の臓器にはみられない形で、腎臓を刺激する。これらの2つの臓器の間で直接影響し合うホルモンは少なくとも7つある。それらはアルファベット順に、アドレナリン、アルドステロン、アンジオテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、脳性ナトリウム利尿ペプチド、ドーパミン、バゾプレシンである。鍼灸の理論は、動脈を介した腎と心の特別な関係こそが少陰経を形成することを教えている。』p201

腎筋膜は、腎臓を包み、後腹膜を通じて心まで行き、肝臓の無漿膜野にまで続き、骨盤内臓器のほうに流れ落ちる……これは中医学が教えている腎経の流れと同じである。どうしてわかるのか?腎臓、副腎、血管は、腎筋膜が覆う腎周囲腔に含まれるのだ。肝臓の無漿膜野へと至る上方のつながりは、腎と肝が中医学で特別なつながりを持つ理由の1つである。』p217

 

出版:医道の日本社

著者:蠣崎 要・池田政一

以下の絵は「腎経の流れ」になります。説明文の太字にした箇所が上記の著者の説明に合致する部分です。ただし、肺から先(「気管をめぐって舌根をはさんで終わる」)については「閃く経絡」の方には書かれていません。

足の少陰腎経は、足の太陽膀胱経の脈気を受けて足の第5指の下に起こり、斜めに足底

中央[湧泉]に向かい、舟状骨粗面の下に出て内果の後ろ[太渓]をめぐり、分かれて

踵に入る。下腿後内側、膝窩内側、大腿後内側を上り、体幹では腹部の前正中線外方5分、胸部では前正中線外方2寸を上り、本経と合流する。

大腿後内側で分かれた本経は、脊柱を貫いて、腎に属し、膀胱を絡う。

さらに、腎より上がって、肝、横隔膜を貫いて、肺に入り、気管をめぐって舌根をはさんで終わる。

胸部で分かれた支脈は心をつらなり、胸中で手の厥陰心包経につながる。

コメント

経絡の流れを琉注といいますが、琉注が体表のみならず体内の内臓にまでおよんでいるという、鍼灸(東洋医学)の説に、正直、少し疑問を持っていました。

ところが、今回の『閃く経絡』が説く、「ファッシアを経絡と考える」に順ずると、内臓につながるルートが確かなものとして納得できます。個人的には「ファッシア=経絡」ではなく「ファッシア≒経絡」であると捉えていますが、体表⇔内臓というつながりを実感できたことは最大の収穫でした。

「閃く経絡」(経絡と電氣)

この本の副題は「現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む!」というものでした。そして、著者のダニエル・キーオン氏は救急救命を専門とする医師でありながら、中医学と鍼治療の学位を取得され、著名な王居易医師に師事されたという経歴も持っていました。

つまり、この本は中医学および鍼治療を本格的に学ばれた医師が、現代医学の視点から経絡を分析したというものです。「これはすごい本だ」と思い、迷うことなく注文しました。

そして、腹に落ちたことは、『鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部である「電」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路(経絡≒ファッシア)を通じて乱れた状態を元に戻す』というものでした。

また、ブログ「がんと自然治癒力13(まとめ)」で学んだことをかけ合わせれば『元に戻す』とは、『自然治癒力(ストレス適応を高め、栄養代謝を改善すること)によって、元に戻す』ということと考えています。

出版:医道の日本社 

初版:2018年6月

こちらは原書です。

初版:2014年3月


この本の概要を知るには、最後の“監訳者あとがき”をご紹介するのが良いと思います。

監訳者はNHK「統合診療医ドクターG」の医事指導も担当されている、津田篤太郎先生です。

津田篤太郎:京都大学医学部を卒業。医学博士。聖路加国際病院リウマチ膠原病センター副医長、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員。

『本書は、英国の出版社Singing Dragonが2014年に出版した“The Spark in the Medicine:How the Science of Acupuncture Explains the Mysteries of Western Medicine”を翻訳したものである。著者のダニエル・キーオン(Daniel Keown)氏は、1998年にマンチェスター大学医学部を卒業した後、救急医療を専門とする医師として活躍するかたわら、2008年にキングストン大学統合医療カレッジで中医学を学び、2010年には北京の経絡医学研究センターで王居易医師に師事した。キーオン氏の東洋への関心は、80代の祖母から聞いた中国旅行の体験がもとになったという。原書を米国アマゾンのサイトで検索したところ、出版から数年を経ても(2018年4月現在)鍼灸・中医学分野の書籍で10位以内に入るベストセラーであり続けており、英米では東洋・西洋医学のギャップを埋めようとする著者の野心的な試みに、高い関心が寄せられていることがわかる。

本邦でも東洋・西洋医学を架橋する試みには江戸時代以来の長い歴史がある。劈頭(ヘキトウ[真っ先])となったのは杉田玄白(1733~1817)らの「解体新書」で知られる西洋の解剖学であり、日本人は西洋人の観察の緻密さに驚いた。しかし東洋医学の教える経絡のシステムを説明できるような構造物を見出すことができず、解剖学における位置づけは不明なままであった。幕末の名医、尾台榕堂(1799~1871)は著書「井観医言」のなかで、西洋医学・解剖学に関し「その論述する所は精細なりと雖も、亦た恐らくはかいせん無きを免れざらん」と評し、その理由として「死屍を解剖して、以って生人の機運を推す」からだと断じている。

生きた人間の「機運」、つまり機能と運動を科学的に解明するのは、意外と難しいことである。生きている、というのはうつろいやすい現象であり、科学が備えていなければならない客観性や再現性、整合性というものをすり抜けていく。この百年間ぐらいに、多くの研究者がさまざまな手法で経絡の正体に迫っていったが、どうやら経絡あるいは経絡で説明される現象が存在するようだ、という地点にとどまっていたように見える。例えば従来の電気生理学的手法では、定量性や客観性に優れるものの、「皮電点」「良導点」という名の通り、あくまで「点」のデータであり、経絡図のように生体の全体像に迫ることができない。また「ヘッド帯」「内臓体壁反射」など神経生理学的概念も、全体から迫るアプローチではあるものの、定量性・再現性にやや難があり、それですべての経絡現象が説明できるわけでもない。

しかし、その後も医療技術は進歩を続けた。私たちのわずか一世代前に開発されたCTやMRIといった画像診断法は、生きた人間を輪切りにして調べることができる革新的なモダリティーがある。そして、超音波診断(エコー)装置の精度の向上・小型化がここ10年ほどの間にすさまじい勢いで進んでいる。ついに、リアルタイムで生体の微細な構造までくっきりと見ることができる――現代の私たちは、だれもが古代の医聖、人体を透視することができたといわれる扁鵲(ヘンジャク)と同じ目で患者に接する時代を迎えたのである。

『扁鵲は、古代中国、とくに漢以前の中国における、伝説的な名医である。その行動、人格、診察、治療のありさまは「韓非子」や「史記」その他にさまざまな逸話を残す。』

画像出展:「ウィキペディア

 

これは画像装置を比較した表です。

エコー(右端)はダイナミックな筋肉等の軟部組織の画像処理に優れています。

運動器エコー(ブログ)」より

その最先端のエコーが、わが国の有訴者数ナンバーワンを競う腰痛・肩こりの治療で、大きな変化を引き起こしている。癒着を起こして動きの悪くなった筋肉の間に正確に針を挿入し、生理食塩水を注入する「エコーガイド下ハイドロリリース法」である。 

画像出展:「スポーツメディスン

ブログ参照:「運動器エコー」、「エコーガイド下fasciaリリース

画像出展:「スポーツメディスン


この治療手技は速効性があり、症状の緩解率が高いことから、ここ数年の間に燎原の火のごとく普及が進んでおり、共訳者である須田万勢医師も、第一人者である隠岐島前病院の白石吉彦院長に学び、当院で実践している。  

 

こちらが白石先生の著書です。

画像出展:「アマゾン

 

 

 白石先生の記事を見つけました。整形内科が診る腰痛、肩こり、五十肩

医師が「扁鵲の目」を持った途端、筋肉の間の筋膜=ファッシアに注目するというのは偶然ではないだろう。従来の西洋医学で見逃され、たどり着けなかった暗黒大陸、それがファッシアであったというわけだ。奇しくも、本書の翻訳原稿を校了する数週間前にScientific Report誌で「ヒト組織における知られざる間質の構造と分析Structure and Distribution of an Unrecognized Interstitium in Human Tissues」という論文が発表された。ニューヨーク大学などの研究チームは、共焦点レーザー顕微内視鏡という最先端の方法で胆管周囲の組織を調べたところ、コラーゲンなどの結合組織が網目状に規則正しく配列する構造を発見した。同様の組織は膀胱や皮膚、血管や気管の周囲、そして筋膜にも見出され、ネットのニュースなどで「人体における“最大の器官”が新たに発見された」と話題になった。


なぜこれまで発見されなかったのかというと、手術中に切り出された組織は、網目状の構造の中に存在する組織液が流出し、コラーゲンがただ単にしわくちゃに折り重なった状態で標本となり、検査されていたために、それが意味のある、研究に値する構造物であるとは誰も考えなかったのだ。ここでも、これまで見落とされてきた「生人の機運」が、最新の検査技術で初めて明らかにされつつあり、ミクロの扁鵲はやはり“筋膜”に出会うのである。

“筋膜=ファッシア”が長らく謎とされた経絡を解き明かす鍵概念だと断じた本書に、著者キーオン氏は「機械の閃光(The Spark in the Machine)」というタイトルを与えた。これはデカルト以来の「生命機械論」を下敷きにしているのだろう。しかし、鍼灸医学の経絡学説は「機械論」と対立する「生気論」の首魁(シュカイ[先駆け])ともいうべき存在であり、経絡学説が機械論、メカニズムで説明しつくすことができる、という著者の着想は大胆というよりほかない。しかも、目まぐるしく進歩を続ける医療技術は、著者の主張を日に日に補強するかの如くである。私たちは今まで見たこともないような形で経絡の正体が明らかにされるのを目撃するのであろうか、これからの展開に目が離せない。2018年4月16日 津田篤太郎』  

目次は次の通りです。

プロローグ なぜ人体は再生しないのか?

PartⅠ 鍼のサイエンス 神が医者に話し忘れたこと

1.発生の創世記

2.単細胞の世界

3.有名にして無形

4.三重らせん

5.生命のスパーク

6.氣とは何か?

7.クローン羊と氣

8.完璧な工場

9.臓腑の氣

10.どのように氣が身体を折りたたむのか

11.トリッキー・ディッキーと小さな刺し傷

12.ヒトのフラクタル

13.レオナルドたちと完璧な人間

14.超高速の進化

15.ソニック・ヘッジホッグのパンチ

16.ツボ(経穴)とは何か?

17.氣の流れ

PartⅡ 中医学の発生学

18.陰陽に関する簡単な紹介

19.道(タオ)

20.羊膜外胚葉

21.身体の卵黄

22.血

23.精

24.発生学のサーファー

PartⅢ 命門と6本の経絡

三陰経

25.少陰経

26.太陰経

27.厥陰系

三陽経

28.太陽経

29.陽明経

30.少陽経

エピローグ

付録

監訳者あとがき

参考文献

索引

ブログは4つに分けてアップしたいと思います。

今回の題名は“経絡と電です。これはPartⅠの「鍼のサイエンス」が対象です。他は、PartⅢの少陰経から“心と腎”、同じくPartⅢの厥陰経から“肝と機能性子宮出血”、そして付録3から“関連痛とは”という題名になります。

経絡と電” という題名を付けたのは、「がんと自然治癒力13(まとめ)」の最後、ブルース・リプトン先生の著書である “思考のすごい力” に書かれていた一文を意識してのことです。それは今まで一度も考えてみたこともない、とても印象的な視点で鍼灸・経絡を語られていました。

『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。』

一方、今回の「閃く経絡」の中にも(一般的な電気と区別するときに「電氣」という漢字が用いられています)について触れている部分は多く、経絡をという視点から考えまとめることは、ブルース・リプトン先生によって投げかけられた生体内システムの謎に近づけるのではないかと思いました。これが“経絡と電”というタイトルにした理由です。

経絡と電”に紐づくキーワードは6つです。ブログはこの6つについて書いています。

1.経絡

2.ファッシア

3.コラーゲン

4.氣

5.バイオフォトン

6.ツボ(経穴)

1.経絡

専門学校で学んだ『東洋医学概論(東洋療法学校協会編)』の「3.臓腑経絡論」を見ると、経絡について次のような説明をしています。

経絡について考える場合には、経絡現象と、それを基にして形成されてきた経絡説と区別して認識する所から出発しなければならない。

経絡現象は、特定の身体部位を指先で押したり、鋭利な石片(“砭石(ヘンセキ)”と呼ばれている)を刺したり、あるいは、刺して皮膚を傷つけて出血させたりする治療行為をする際に、おそらく発現していたのであろうと考えられる。日本で“針の響き現象”といわれている、針を刺したときに発生する特殊な感覚の伝達現象もその一つである。また、一定の部位に針を刺したときに、その部位の苦痛が緩解されるばかりでなく、遠隔部位にまで変化が波及することも含まれよう。

経絡説は、そのような経絡現象を基にして、その性質や現象の発現のルールを極めようとして考え出されてきたものである。したがって、経絡説は、それが形成されてきた時代の思考法や社会制度などに影響されざるをえない。』

続いて、「1)経絡概説」にて“経絡説の成立ち”、“経絡の構成”、“経絡の機能”、“十二経脈について”、“奇経八脈”、“そのほかの経絡系”の6つの説明が加えられていますが、ここでは冒頭部分と“経絡説の成立ち”のみご紹介させて頂きます。

経絡とは、気血の運行する通路のことであり、人体を縦方向に走る経脈と、経脈から分支して、身体各部に広く分布する絡脈を総称するものである。

経絡の考え方は、古代中国人が、長い臨床観察を通じて得た一つの思考体系であり、蔵象とならんで東洋医学の根幹をなすものである。特に鍼灸医学にあっては、診断と治療に深く係わっており、きわめて重要である。

注)蔵象に関する説明:『東洋医学では、内臓について、これを単なる体の構成部分ではなく、経脈とならぶ人体の生理的、病理的現象や、精神活動の中心となるものとしてとらえる。これを「蔵象」とよぶ。「蔵」とは、体内にしまわれている内臓をさし、「象」は、外に現れている生理的、病理的な現象をさしている。』

 “経絡説の成立ち”:『春秋時代(紀元前770年から、「晋」が三国に分裂した紀元前5世紀までのおよそ320年の期間)以前には、気の概念は広まっておらず、したがって、経脈(あるいは経絡)という考え方は存在しなかった。当時には、血脈という語があり、血の通路としてのすじ(今日でいう血管)を認識していたにすぎなかった(「史記」:扁鵲伝)。

戦国時代(「晋」が分裂した紀元前5世紀から「秦」が中国を統一する紀元前221年までの期間)から前漢時代(紀元前206年-紀元後8年)にかけては、体表部を三陰三陽に分けて走行する経脈を認識するに至った。これは後に完成する経絡説の原型となるものであり、気の通路を想定していたものといえる。しかし、この時代の経脈は、内に臓腑と結びつくという認識には至らなかった(「史記」:倉公伝、「馬王堆医経」』)。

前漢から後漢(25年-220年)にかけては、陰陽・五行説が、医学に十分浸透した時期であり、三陰三陽の十二経脈が、天の十二月や地の十二水との相応において認識され、また、各経脈が、体内の五臓(六臓)六腑と関連づけられるようになり、経絡系統なるものが確立した。この時代に完成した経絡説が、約二千年を経た今日まで受け継がれてきたのである(「素問」:離合真邪論篇、「霊枢」:経水篇、五乱篇)。

 下は経絡の流れである「琉注」の図です(画像出展:「経穴マップ」)。手と足の三陰経と三陽経の計十二の経脈と、奇経に分類されている体前面正中の任脈、後面正中の督脈の二つを加えた十四の経脈が出ています。このうち手足の三陰経、三陽経の琉注は、体表だけなく体内の臓腑につながるものであることが示されています。


一方、自律神経反射の一つ「体性-内臓反射」という反射があります。ネット上の『痛みと鎮痛の基礎知識』に書かれている説明は次のようなものです。

『体性-内臓反射(体性*交感神経反射):皮膚に侵害性刺激を加えると交感神経系の機能が亢進し、交感神経が緊張し、血圧の上昇、心拍数や呼吸数の増加などを引き起こす。』

この「体性-内臓反射」も体表と内臓を結びつけるルートといえますが、経絡の多様性と比較するとその差は大きく、経絡とは一線を画すあくまで自律神経反射の域を超えるものではないと思います。

その自律神経反射に比べると、ファッシアの「体表と内臓のつながり」、「固定的な点-線を越えた面という多様性のあるひろがり」の二つの特徴は経絡を連想させるものであり、「経絡≒ファッシア」について追及することは、ヒトのからだの理解を深め、施術の質を高めるうえで極めて価値あるものと思います。(ただし、生まれと育ちが異なる「東洋医学の経絡」と「西洋医学のファッシア」が≒の域を超え、=で結ばれることはないと考えます)

2.ファッシア

ファッシアという言葉は最近見かけるようになりましたが、ファッシアについては、テレビでもご活躍されている、首都大学東京の竹井仁先生が監訳された『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ』にその定義が出ていますので、そちらの内容をご紹介させて頂きます。

 

出版:医歯薬出版

初版:2015年6月

 

 

 

 

これはファッシアを密度と規則性から分類した図です。

画像出展:「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ

 

 

Fascia(膜・筋膜)は、身体全体にわたる張力ネットワークを形成し、すべての器官、あらゆる筋・神経・内臓などを覆って連結しています。筋膜に関する研究はここ30~40年ほどで大きく発展しました。それまでは、皮膚、浅筋膜、深筋膜などをいかにきれいに取り去り、筋外膜に覆われた筋を露出させるかに力が注がれてきました。また、どの筋が骨を介してどのような作用をするかに関しての研究が主流でした。

しかし、生体においては、筋群の最大限の力が骨格への腱を経て直接的に伝達することは少なく、筋群の作用は、むしろ筋膜シート上へと、収縮力あるいは張力の大部分を伝えることがわかってきました。また、これらのシートは、共同筋ならびに拮抗筋にこれらの力を伝達し、それぞれの関節だけでなく、離れたいくつかの関節にも影響をおよぼすことも明らかになってきたのです。さらに、筋膜の剛性と弾性が、人体の多くの動的運動において重要な役割を果たすことも示されてきました。これらの事実は、新しい画像診断や研究手法の開発によって飛躍的に明らかになってきました。

2007年10月にHarvard Medical Schoolで開催された第1回国際筋膜研究学術大会(The 1st International Fascia Research Congress)において、「Fascia」は、「固有の膜ともよばれている高密度平面組織シート(中隔、関節包、腱膜、臓器包、支帯)だけでなく、靭帯と腱の形でのこのネットワークの局所高密度化したものを含む。そのうえ、それは浅筋膜または筋内の最奥の筋内膜のようなより柔らかい膠原線維性結合組織を含む」と定義されました。』

この本は「科学的基盤」「臨床応用」「研究の方向性」の3部から構成されています。『閃く経絡』の内容に関係するような箇所も多数あり、補足するようなかたちでお伝えできると良いのですが、理解がまったく追いついていないため、ブログの最後にこの本の大項目、中項目の目次だけをご紹介させていただきます。

以下の二つは、『閃く経絡』からの抜粋です。

ファッシアは臓器の輪郭をはっきりと示し、内部に閉じ込める。そして、生物学的な物質がファッシアの向こう側へ通過することは難しいが、ファッシアに沿って通過することは比較的簡単であることはわかっている。これは、体液、ホルモン、血液、空気、そして電気にもあてはまる。外科医はこの事実を理解して毎日利用していることから、このことは正しいとわかる。癌の悪性度は、このルールを曲げてしまう度合いによって定義される。つまり、健康であれば、ファッシアを通り抜ける物は存在しない。』P57

『各臓器はファッシアの中に入っている。しかし、それらもまた別の臓器とつながっている。いつ成長を止めるかをどのように知るのだろう? なぜ互いに侵入したり、血液を横取りしたりしないのだろう? 臓器はともに成長するだけでなく、ともに生きるためにもコミュニケーションをとらなければならない。すべての折りたたみは基本的には単純である。しかし、「何」が折り重なるように身体に指示しているのだろうか?

臓器が他の細胞に影響を及ぼす物質を分泌することはわかっている。我々の身体は、常に、他の細胞や臓器にメッセージを伝える大量のホルモンでごった返している。アドレナリンやインスリンといったホルモンを産生する副腎や膵臓といった腺組織だけでなく、すべての免疫細胞は常に神経伝達物質を産生し、心臓の細胞は利尿ホルモン、腸はセロトニンなど、その他もろもろ作っている。これらのホルモンは血液によって伝達され、臓器が身体の残りの部分といっせいにコミュニケーションをとることができる。』P58


“臓器どうしのコミュニケーション”と聞いて思い出すのは、NHKスペシャル “人体 神秘の巨大ネットワーク” という番組です。このイラストは書籍版の第1集に出ていたものです。

『氣には通路が必要である。身体の中にファッシア以外にふさわしい通路があるだろうか? ファッシアの層の間に完全に独立した通路を維持しながら、すべての物をつなげて包んでいく。ファッシアの通路は解剖学者によって説明されているが、彼らが説明したのはファッシアではなく、ファッシアが包んでいる組織である。』P105

鍼治療を受けた患者が特に手足でよく訴える感覚の1つが、電気的な感覚である。いくつかのツボでは、特に手足末端でうずく感覚や、電気が伝播する感覚が引き起こされる。研究によると、鍼灸のツボは周囲の皮膚よりも電気伝導性に優れている。そして、鍼灸の経絡は、周囲の組織よりも電気伝導性に優れている。経絡もツボもファッシアに存在する。王居易医師との議論や私自身の診療経験から、私はツボがファッシアに存在することを完全に確信している。コラーゲンがファッシアの主成分であり、そしてコラーゲンには変わった導電特性があり、電気も生成する。最も重要なのは、ファッシア面の間にある液体は電気を非常によく伝導することだ。この液体にはいかなる物理的な障害もない……健康であればだが。』P106

『コンピュータが電気によって動いている現実を、我々は平気で受け入れている。コンピュータが生きているか死んでいるかの違いは、ソフトウェアか電気のどちらかが原因になることが多い。全く同じように、死(心臓死でも脳死でも)は、医学的に身体の「電気的特性」によって定義される。 

-中略- 

コンピュータもヒトもエネルギーの不具合を抱えることがあるにもかかわらず、問題なのは、西洋医学がほぼ完全にこの現実を無視していることだ。身体には、身体の各部を結ぶ目に見えないエネルギーの網が張り巡らされている。それは、成長し、機能するためになくてはならない。何か故障が起きたとき、神経系が我々に意識に上ると気づくことができるが、それは器質的な損傷に至る前のことかもしれない。痛みはメッセンジャーであり、それ自体が問題なのではない。医師は最も敏感な器具、つまり自分自身を使う代わりに、身体の器質的な損傷を測定する機械にますます頼るようになってきている。もし、あなたの身体がコンピュータだとしたら、風邪で医師に見てもらっても測定できないため、意味がないだろう。ウィルスが物理的に回路を壊し始めるまで待たなければならない。

しかし、この微妙なエネルギー障害こそが重要である。理由があるから症状が出る。それらは警告のサインなのだ! 痛みは危険信号であり、身体があなたの行動を変えさせようとしている。痛みをなくすことで問題解決になることはめったにない。それはただメッセンジャーを消滅させているだけである。

エネルギー障害がすべての病気の中心にある。そして、それらはすべての病気の前兆だと言える。あらゆる病気の中で明らかに最も「器質的」なものに属する外傷でさえ、実際のところ単に体内での過剰なエネルギーの消耗が問題なのである。』P106

3.コラーゲン

まずは本書の中に出ているコラーゲンを説明した箇所をいくつかご紹介します。

ファッシアの主な成分は、コラーゲンである。コラーゲンは身体の至る所にあり、ファッシアだけでなく、腱、靭帯、関節の軟骨などを形成している。また、動脈壁にも存在するほか、骨に伸長強度を与え、臓器内の結合組織も形作っている。さらに眼のレンズを形成して見ることを可能にしたり、瘢痕組織を作って傷を治したりもしている。コラーゲンは身体のタンパク質の約3分の1を占めている。』P23

『コラーゲンの構造は原子レベルで作られ、莫大な強さを与えられる。それは、同じ重さで言えば、鋼の強さにも匹敵する!コラーゲンは骨、動脈、筋、腱、筋膜のベースとなる素材であるため、この強靭さは生命に関わるほど重要になる。』P25

『西洋医学では完全に無視されているが、電気的特性を持っている。コラーゲンには圧電性の特性があるのだ。それは、物が変形するときにわずかな電流を発生させる。同じ原理で、小さな水晶の結晶を変形させることによって、ライターの火花は魔法のように発生する。つまり、我々の身体のありとあらゆる部分が動くたびに、いつも小さな電流が生じているのである。』p26

『骨におけるコラーゲンの役割は、強度を与えることよりも驚くべきことがある。コラーゲンは半結晶物質であり、この結晶の特性の1つが圧電性を持つということだ。ある論文の著者が言うように、骨にも圧電性がある。その論文にはこう書かれている。「骨を非コラーゲン化すると、ピエゾ効果(圧電効果)が失われることがわかった。つまり、骨の圧電気の主要な成因はコラーゲンである」』p27

『電気を発生させるという特性を持つのは、骨ではなくコラーゲンで、ファッシア内の他のコラーゲンも同じ種類である。ファッシアのコラーゲンは機械的ストレスの線に沿って存在し、伸ばされたり動いたりする度に小さな電気を発生させる。この電気を西洋医学の医師は完全に無視した。どの医師に尋ねてもおそらくぽかんとするだけだろう。それにしても、身体の組織を連結させ、全身を包み結合しているファッシアが実際のところ、相互接続している、生きた電気の網であることには全く驚かされる。これは、古代中国における経絡や氣の記述と非常によく似ている。』p29

『コラーゲンは電気を生むだけでなく、伝導の特性も持つ。つまり、半導体なのだ。言い換えるなら、完全に絶縁体・伝導体のようにふるまうわけではない。コンピュータに「知性」を与えるものと同じ特性と言える。』

このコラーゲンの電気的性質によって、身体のすべてのものが電気的になるということは実に面白い。すべての細胞表面には肺と同じくらい生命に不可欠となるポンプが存在する。このポンプは、2つのカリウムイオンを取り込むことと引き換えに、3つのナトリウムイオンを放出する。これによって細胞内は負の電荷を帯びる。結果として、細胞全体にわずかな電荷が生じる。この帯電なしでは、細胞は機能しない。ポンプが数分間止まっただけでこの電荷はなくなり、細胞は膨らみ、死んでしまう!電気は生命に必要不可欠である。』 

 

ナトリウム・カリウムポンプの立体構造の解明(プレスリリース)

画像出展:「Spring-8」

 

 

体内での電気の効果は、細胞を生存させる仕事だけではない。身体の神経は情報伝達に、筋肉は収縮する力に、脳は考えるために使用している。心臓のリズムは電気的なペースメーカーによって生じ、眼さえも光を調節するのに電気を使用している。』p30

『ベッカー(Robert O. Becker)がいうように、我々は本当に「電気の身体」であり、常に光速で身体中に広がる目に見えない静かなエネルギーを発散・吸収している。』p31 

あらゆる生理学的プロセス、すべての動き、すべての考えが、実体として2つの要素 ―物理的な実体とエネルギー的な実体― を持っているように思える。心臓が鼓動すれば、その物理的な動きを手で感じたり、超音波で確認したりできる。しかし、電気的な実体は、心電図(ECG)を用いれば、よりはっきりと見ることができる。このエネルギー的な実体が物理的な実体よりもリアルであり、より簡単に測定できることから、西洋医学ではこちらの検査を多用している。』P31

この電気的世界の中心にコラーゲンがあり、生体にあまねく存在し、生体のすべてを結合させている。コラーゲンは結合組織の主要な構成成分であり、その強さにより人体が支えられていることは西洋医学にも認められている。コラーゲンは身体において電気的半導体としても、またピエゾ電気の発電装置としても傑出した存在であり、その重要性は機械的に強いというコラーゲンの特徴を上回るかもしれない。いや、むしろ、コラーゲンは、あるときは半導体として働き、またあるときはピエゾ電気を発電する生体らせん物質であり、体内の電気を保持し、発電し、流れる方向を導くことさえできる「スーパー伝導物質」とみなされるべきなのだ。電気の力は、身体を編んでいる組織の中に保持されている。この科学は中医学や氣のような響きを帯び始めてくる。』P31

 

資生堂さまのサイトにあったイラストです。また、”MISSION:体内コラーゲンを探査せよ|資生堂”という素晴らしい動画がアップされていました。

 

 

4.氣

に関しても、ポイントと思われる個所を列挙します。

なお、経絡≒ファッシアを考えるときに、コラーゲンの電気特性と共にこの「」に関する内容が本書の中核ではないかと思っています。

『語源学の観点から、は空気と同じであると思われる……そして、古代の人がなぜ人体のような固体物質に対してのような言葉を用いたのかという疑問が生まれてくる。もちろん人体の中に空気は存在する。肺の中には空気が存在し、血液や体液中には空気が溶けている。この空気は主に酸素と二酸化炭素であり、微量ではあるが、窒素や他の気体も含まれている。二酸化炭素と酸素から成る空気は、我々の代謝の基礎中の基礎と言える。事実、これら2つの気体のみが、いかなる時代においても身体の「代謝」を解明する科学的研究に用いられている。

『楊俊敏博士は ”気功の理解(Understanding Qigong)” と題された一連のDVDで、非常に簡潔にこの文字の説明をしている。古代の中国人は、医学において最も単純な方程式の1つをただ描いたにすぎないのだ。

食物+空気=エネルギー

グルコース+酸素=水+二酸化炭素+エネルギー

C6H12O6+6O2=6H2O+6CO2+エネルギー

という文字の特徴は、空気が混ざることでエネルギーが作られることを表している……これが生物学的な意味でのである!』P34

は「代謝」? は「空気」? は「空間」? 一体どれが正しいのだろうか? 答えはすべて正解であり、かつそれ以上の存在でもある。代謝エネルギーは、ある意味では、空気によって定義される。生物に空気の供給を止めると、も代謝もなくなってしまう。しかし、は物質とするにはあまりにも幅が広い。はより観念的な存在である。そのため、西洋の科学がをどう位置づけるかに苦労する1つの理由になっている。は科学よりも哲学、発想や抽象概念に近い存在である。とはいえ、抽象概念は科学的論拠の核心部分を保っている。』

は身体を組織する力である。それは、知性を持った代謝、もしくは、よりよい表現を求めるのならば「生命力」と言える。はあなたが行うあらゆる動き、そして、肺の呼吸、ミトコンドリアの呼吸、あらゆる呼吸に存在する。がどのように身体を組織しているかを理解するために、我々はミトコンドリアから、細胞、組織、臓器へと考えてきた。我々は、40億年にもわたる細胞の協調に関して早送りして見てきた。それでも、がどう作用するかについて少ししかわからない。』P104

『モルフォゲン(細胞の発生運命を決定する物質)やホルモンは濃縮された氣の一形態にすぎない。身体のコントロールには他の要因が存在する。体内の知的な制御システムはモルフォゲンを確かに使用しているが、私はそれと同じくらい電場(空間内の任意の点に働く電気的な力)を重要なものとして考えている。受胎の瞬間、陰と陽、精子と卵子が出会うとき、細胞の生命を本格的に始動させるものが電気である。この電気には知性がある。それは情報を伝達し、を持っていて、馬鹿ではない……電なのだ。

生命はに始まり、生物の命ある限り持続する。は、発達のあらゆる段階で、そして研究されているすべての生物で見つかっている。分化のまさに最初の段階――8つの細胞だけのとき――細胞たちは「緻密化」を行い、お互いの間に細胞間結合が形成されることがわかっている。細胞たちは、電気、知的な電気、つまりで通信するために、これらの細胞間結合を使う。次に、細胞のボールは液体の内部コアを作りだす。この変化も電流(中心部方向へ動くナトリウムイオン)によって引き起こされる。

電流はものすごく小さく、電圧も1ミリあたりのミリボルト単位(mv/mm)ではあるが、研究されているすべての生物の発生において存在している。さらに電気は再生と治癒にも関わっている。この電気の流れを逆転させると、動物での胚の異常な発達および異常な再生を引き起こす。再び言うが、この電気は知性を持つ――なのである。例えばクローン作製などで、我々が電氣を模倣しようとするならば、正しく行うために正確な電圧、特定の電流を使用しなければならない。心臓に電気ショックを与えるとき、コンセントから直接ワイヤーを胸と接続する医師はいない。正確な電流を使用し、場合によっては心臓のリズムに電気を同期させる。つまり、我々は電気に「知性」を加える。これは、まるでコンピュータの中を忙しく動き回っている電子が情報を運ぶ方法として同じである。これが生物学的情報を取り扱う電気――である。

私たちの身体の電場は普遍的だが、それが成長へ与える影響に関する研究はまだ乏しい。西洋医学は、成長因子(微量で細胞の成長・増殖を促進する一群の物質)やモルフォゲンを分離することに血道を上げた。つまり、生物物理学ではなく生化学の方に。見ようとすれば、電は至る所で見出せるにもかかわらず、である。

中国人はその存在に気づいていた。なぜなら、電気的な生物としての感受性を高めて、訓練を積めば、我々はこのを感じ、とらえることができるからである。経絡はそれぞれ異なっているように感じられ、ツボには異なる質感がある。このことは別に驚くべきことではない。経絡は異なる電気的特性を持っており、我々は「電気の身体」であることがわかっているからだ。修行を積んだ鍼灸師や武道家は、このエネルギーに敏感になる。彼らはこの違いを感じとって、利用しているのだ。

イギリスで最も尊敬された鍼灸師の一人、ラナルド・マクドナルドは、これに関してこう記している。彼が鍼灸の教授の下、中国で勉強していた頃、学友で懐疑的な医師の女性が教授にこう尋ねた。

「でも、って本当にあるんですか?」

教授は何も答えず、代わりにその女性の手を握って、合谷(L14)のツボを押圧した。すると、女性は痛みのあまり身体を折り曲げた。

そして、教授は「どうだい、はあるだろう?」と言ったのである。

教授は証明した。を用いなければ、圧覚点の生理学的説明はうまくできない。その証明は、他の何にもまして主観によるものである。親指と人差し指の間の水かき部分を押すと、どんなに屈強な男性でも無力になる理由を見つけてほしい。そして、その力を好きなように呼べばいい。

もしが生物学的な電気の形として現れたなら、電気のような挙動を示すと予想できるだろう。現代社会では、電気は毎日使われているので、私たちは電気について多くのことを知っている。電気自体は水と似たような形でふるまう。

鍼灸の古典では、しばしばと水が比較される。だから、非常の多くのツボの名前に「水」という漢字が使われていたり、手足の五兪穴が、井(井戸)、滎(わき水)、兪(小川)、経(川)、合(海)と呼ばれていたりする。もし、古典が水ではなく電気の現象に頼れたなら、古典は電気を用いただろう。電気の方が五兪穴を表すのによりしっくりするからだ。水は莫大な量を使って力を生む傾向があるが、身体の中を動く何かはほとんど見えない。いずれにしても、水は電気と似た形で動く。

●高圧な場所から低圧の場所へと移動する――電圧

●流れの中で動く――電流

●動くことで力を生む――ワット数

●流れる水のように、分離(絶縁)することもできるが、常に経路を探して、最も抵抗の少ない通路を通ろうとする――電気回路

●迂回できる――短絡

電気や水(もしくはモルフォゲン)を有するあらゆるシステムでは、高圧および低圧の領域が存在する。限られた空間に競合する物質が多いところでは高圧となる。つまり、低圧な場所では、物質が空間内を自由に遊走することができる。

身体の外側には基本的に電がないので、身体の内側は外部より高い電を持つことになる。電は、この勾配に沿って内側から外側へと移動する。そして、最も抵抗の少ない通路を流れる。ファッシア面はまさしくこの通路を提供する――これは内視鏡手術や、解剖の背景にある原理である。ファッシアの抵抗は非常に低いのだ。ファッシア面にある液体は、イオンが豊富で優れた電気伝導体であることがわかっている。血液を除けば他に類を見ない特徴として、この液体は、健康な状態では何ものにも妨げられずに動いていく。』P109

5.バイオフォトン

 

画像出展:「生体極微弱発光 ーバイオフォトンー の世界へようこそ

東北工業大学 工学部 電気電子工学科 医工学・バイオ系 小林 研究室

 

 

 

バイオフォトンとは「生物の生命活動に伴って自発的に放射する可視化が困難な微弱な自然発光」です。本書の中で、氣との関係性についてはわからない点は多いという認識をもって書かれていますが、興味深い事象なので気になった箇所をお伝えします。

『機械でしか測定できないくらいぼんやりではあるが、ヒトは光を発している。不思議なことに、小説の中で語られる「邪気」のように、それは爪から最も強く発してるように見える。この光はバイオフォトンと呼ばれ、科学的に認められた事実である。生きとし生けるものすべてがこの光を発している。 -中略- ドイツ人科学者フリッツ・アルバート・ポップは、バイオフォトンこそが氣の発現であると考えており、互いに支えあう細胞の力であると述べている。』P40

『氣との類似点はまさしくそこにある。氣の通路は身体の末端である手足の爪を通っており、そこのバイオフォトンの放出が最も強い。ヒトが病気になったり歳をとったりするとバイオフォトンの量が増えることがわかっているが、同じようなことが脳卒中の麻痺側でも生じる。鍼灸治療で、脳卒中患者のバイオフォトンのバランスが補正されていることがわかっている。

Jung,H.H.,Woo,W.M.,Yang,J,M.,Choi,C.et al(2003)’Left-right asymmetry of biophoton emission from hemiparesis patients.』`P40

バイオフォトンが氣であるかどうかわからない。しかし、明らかになっていることは、その多くがミトコンドリアから現れるということだ。ミトコンドリアは細胞の発電所であり身体のエネルギーの源である。一部の研究者はバイオフォトンがフリーラジカル損傷の指標であると考えているが、まだわかっていない。』

『バイオフォトンが干渉性であることを示す研究もいくつか存在する。干渉(コーヒーレンス)とは、エネルギーがどのようにエネルギー自体と連絡するか、光が光自体と同期するか、を説明する量子用語である。知性もしくは記憶を持った光は、量子物理学者だけが興味を持ちそうだが、身体の中でこんなことが起こっているなんてすごいことだ!ただ、このことに関する研究はまだまだ少ないので、暗闇から抜け出さないでいる。問題は、バイオフォトンの測定には、可視光の強度の千分の一の光を測定しなければならない。これには、とても高価な設備と、すさまじくたくさんの時間をじっと待つことを喜んで引き受けてくれる人が必要になる。』P41

『バイオフォトンは氣の物理的な表れかもしれない。もしくは、細胞性反応の副産物であるかもしれない。もしくは、細胞性反応の副産物であるかもしれない。さらなる研究が必要であるが、それまでは、氣に関するどのエビデンスよりもバイオフォトンが最も興味を引くものである。バイオフォトンが示すものは、私たちの身体は電気のように光を作ることができ、この光が病気になると変化するということである。』P41

6.ツボ(経穴)

ツボ(経穴)については本書の内容と日本伝統医学研究センターで学んだこと、相澤良先生の師匠であった岡部素道先生のツボ(経穴)に対する考え方を比較したいと思います。

『経絡は氣の通路として存在している。鍼灸師ならば誰もが知っているこの経絡は、細胞内連絡として機能している。経絡上に存在するツボは、生理的にも病理的にもこの細胞内連絡が変化する場所である。優秀な鍼灸師であれば、この生理的変化がどこで起こるのか知っており、さらに重要なこととして、病気が生理的な反応を変化させることも知っている。したがって、病変の数が無限にあるように、ツボの数も無限にある。』P98 

東邦医学 “硬結の経絡的研究”より

経穴がどんな所にあるかを発見することが鍼灸治療家の最も至難な、しかも大切なことである。即ち経穴は、流、注、経、合、交会に外ならぬのであるが、原則として、硬結の発見を一つの手がかりとすべきであると想う。そして、それは経絡の変動と一致する。その経絡の変動を調節する事によって、疾病を治癒せしむるものである。換言すれば、疾病は、経絡の変動によって生ずるものである。経絡は一つの溝渠(給排水を目的として造られるみぞ)。この溝渠が内因外傷の客邪により、障碍が出来るのである。経絡を川に例えれば石その他の障碍物によって瀬が出来、流水の溜滞を来すとする。この瀬である障碍物が即ち硬結であり血氣の溜滞なのである。この硬結に治療を施し排除する事によって治癒効果があり、疾病が治るのである。』


医道の日本誌 “経絡治療座談会 病症論”より

『ツボとりは単に指先でちょっとさわるよりも、例えば、手の三里なら三里を取る場合に、手掌あるいは四指で軽く撫でてみる。そうして二、三回撫でてみますと、その中にある一点を見出す。その一点を今度はもっと強く押してみる。それが圧痛なり硬結が出てくる。これを一つのツボの本体として探り当てる。他と違った状態にツボは現れていると考えている。例えば、絡穴にしても、原穴にしても、よく触っていると、自分で触っても響くとか、あるいはキョロキョロのものが出てくる。あるいは陥下しているか、何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボだと思う。その意味でツボは生きているとみている。ツボは経絡の変動とみている。


両者を一つにまとめてみると、「ツボは生きている、硬結のような何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボである。最も至難で大切なツボ取りは鍼灸師に委ねられており、経絡上に存在するツボは、生理的にも病理的にも経絡(細胞内連絡)が変化する場所である。さらに重要なこととして、病気が生理的な反応を変化させる。したがって、病変の数が無限にあるように、ツボの数は無限にある。そして、ツボ取りを委ねらえた鍼灸師はその経絡の変動(変化する経絡)を経絡上のツボを使って調節する事によって、疾病を治癒に導く」。という感じになると思います。

ここで、うまく整理することができなかった部分は、『病気が生理的な反応を変化させる(”閃く経絡”)』という表現と、『疾病は、経絡の変動によって生ずる(”硬結の経絡的研究“)』という表現です。もし、これを次のように強引にまとめることが許されるならば、両者に大きな差はないと言えると思います。

“健康”⇒“未病[東洋医学]”⇒“経絡の変動[東洋医学]”⇒“病”⇒“生理的な反応の変化[西洋医学]”

これは、「東洋医学の”経絡の変動”とは”病”の前段階の”未病”でみられるものであり、西洋医学の”生理的な反応の変化”とは”病”の段階で認識され、血液や尿などの臨床検査や各種画像検査の結果により確認された生理的な反応による変化」。という理解になります。

まとめと感想

冒頭でお伝えしたものが今回の学習の「まとめ」と言えます。それは次の一文でした。

鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部、「電」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路(経絡≒ファッシア)を通じて、乱れた状態を自然治癒力(ストレス適応を高め、栄養代謝を改善すること)によって元に戻す」。

また、以下は「感想」の類に入ると思います。

「生きていくために重い臓器を体内に抱えながら、しかも重力とも闘いながら動き回ることは大きな労力(エネルギー)を要するものです。この動くということによって、酷使されダメージを受けやすい領域は可動部、関節領域だと思います。

そして、負荷の集中によって普通とは違った状態を示すものをツボとするならば、その負荷とは動的および静的な筋・筋膜、腱・腱膜などの緊張状態(止まっている状態でも重力に抵抗し常に緊張している筋もあります[抗重力筋])と深い関係にあり、全身を覆ったボディスーツが各関節の動きによってできるシワやハリのように、面から線、そして線から点となって、ツボがつくられるのかも知れません。

ボディスーツのシワやハリは動きの特徴、強弱、繰り返し、持続時間およびそのヒトの体形などによって、さまざまな模様を見せると思いますが、その模様は無秩序に現れるのではなく、各関節や骨格などの構造的、機能的特性などにより代表的なパターンはある程度絞られるだろうと思います。また、物理的な作用は表面のボディスーツだけでなく、内部の臓器を包む膜などにも少なからず影響を与えるだろうと思います。あるいは炎症などの臓器に起こったダメージなどによって、それが内臓の膜にシワやハリをつくり、そして体表に変化をもたらすのかも知れません。

経絡の “経” とは縦、 “絡” とは横を意味しています。つまり、縦+横は面になります。経絡がボディスーツのシワやハリであるという意見は暴言に近いと思いますが、関係性があったら面白いと思います」。

 

こちらが抗重力筋になります。

画像出展:「Therapist Circle

 

 

 

ご参考:『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ』の目次のご紹介

第1部 科学的基盤

パート1 筋膜体の解剖

1.1 筋膜の一般解剖

1.2 体幹の筋膜

1.3 浅筋膜

1.4 肩と腕の深筋膜

1.5 下肢の深筋膜

1.6 胸腰筋膜

1.7 頸部と体幹腹側の深筋膜

1.8 内臓筋膜

1.9 頭蓋内における膜性構造と髄腔内の空間

1.10 横隔膜の構造

パート2 コミュニケーション器官としての筋膜

2.1 伝達器官としての筋膜

2.2 固有受容(固有感覚)

2.3 内受容

2.4 侵害受容:感覚器としての胸腰筋膜

2.5 全身伝達システムとしての筋膜

パート3 筋膜の力伝達

3.1 力伝達と筋力学

3.2 筋膜の力伝達

3.3 筋膜連鎖

3.4 アナトミー・トレインと力伝達

3.5 バイオテンセグリティ―

3.6 皮下および腱上膜組織の多微小空胞滑走システムの作用

パート4 筋膜組織の生理学

4.1 膜・筋膜の生理学

4.2 膜・筋膜は生きている

4.3 細胞外マトリックス

4.4 筋膜の特性に関するpHと他の代謝因子の影響

4.5 筋膜組織における流体力学

 第2部 臨床応用

パート5 筋膜関連の障害

5.1 筋膜関連の障害:序論

5.2 デュピュイトラン病と他の線維収縮性疾患

5.3 “凍結肩(五十肩)”

5.4 痙性不全麻痺

5.5 糖尿病足

5.6 強皮症と関連症状

5.7 筋膜関連障害のトリガーポイント

5.8 筋膜関連の疾患:過可動性

5.9 足底筋膜の解剖学的構造

パート6 筋膜の弾性に関する診断方法

6.1 筋膜の弾性に関する診断方法

6.2 筋膜の触診

6.3 過可動性と過可動性症候群

パート7 筋膜指向性療法

7.1 包括基準と概要

7.2 トリガーポイント療法

7.3 ロルフィング構造的身体統合法

7.4 筋膜誘導アプローチ

7.5 オステオパシー徒手的治療法と筋膜

7.6 結合組織マニピュレーション

7.7 筋膜マニピュレーション

7.8 機能障害性瘢痕組織の管理

7.9 筋膜指向性療法としての鍼治療

7.10 刮痧(カッサ)

7.11 プロロセラピー(増殖療法)

7.12 ニューラルセラピー(神経療法)

7.13 動的筋膜リリース―徒手や道具を利用した振動療法

7.14 グラストンテクニック

7.15 筋膜歪曲モデル

7.16 特定周波数微弱電流

7.17 手術と瘢痕

7.18 筋膜の温熱効果

7.19 ニューロダイナミクス:神経因性疼痛に対する運動

7.20 ストレッチングと筋膜

7.21 ヨガ療法における筋膜

7.22 ピラティスと筋膜:“中で作用する(working in)”技法

7.23 筋骨格および関節疾患の炎症抑制を目的とした栄養モデル

7.24 筋膜の適応性

第3部 研究の方向性

パート8 筋膜研究:方法論的な挑戦と新しい方向性

8.1 筋膜:臨床的および基礎的な科学研究

8.2 画像診断

8.3 生体内での生体力学的組織運動分析のための先進的MRI技術

8.4 筋のサイズ適応における分子生物学的な筋膜の役割

8.5 数学的モデリング

認知症とリスペクト(純粋痴呆)

先月後半に放送されたニュース番組の中で、確か沖縄県で実施された調査だったように思うのですが、「認知症患者の症状の出方」に関しての話があり、認知症の症状が穏やかなのは、沖縄県の人が伝統的に高齢者に敬意をもって接しているからだということでした。

「どういうことなんだろう」、もう少し詳しく知りたいと思い真剣にネット検索したところ、おそらく、この件のことだろうという記事を見つけました。

それは「純粋痴呆」、幸せで穏やかな痴呆が生まれる背景について書かれていました。

あいわクリニック(国立沖縄病院名誉院長)源河圭一郎

85歳以上の四人に一人が罹患する「認知症」は、高齢者の増加とともに今後ますます身近な病気として、医療・介護の両面から適切な対応が求められている。診療の現場で高齢者が受診する機会が多く、認知症の早期発見・診断などを担う重要な存在である一般医師を対象にして、沖縄県でも平成19年度から「かかりつけ医認知症対応力向上研修会」を開催し、数少ない認知症サポート医が豊富な経験を生かして講師を務める研修が県内各地で行われている。

「認知症」の進行とともに家族や介護職員の負担が増大し、介護疲れや虐待から起こる悲劇がマスコミに取り上げられる事態は、世相の反映そのものである。「認知症」に必ずみられる症状として物忘れや判断力の低下などの中核症状と、環境や人間関係などに起因する抑うつ、妄想、幻覚、不穏、徘徊などの周辺症状がある。認知症患者本人や介護者を苦しめ、深刻な介護地獄をもたらすさまざまな問題行動は、周辺症状に含まれる。

認知症、とくに周辺症状は社会環境によってどのような影響を受けるであろうか。この問題についての示唆に富む研究があるので紹介したい。

その調査研究は琉球大学精神科(当時)の真喜屋浩先生が中心になり、日本復帰3年後の昭和50 年に沖縄の農村で行われた。対象となったのは佐敷村(現・南城市)在住の65歳以上の高齢者708名である。報告によると、明らかに「老人性痴呆」と診断された人の中で、うつ状態や幻覚・妄想状態などの周辺症状を示した人は皆無であったという驚くべき事実がある。同じ頃に東京で行われた調査では、「痴呆老人」の半数に周辺症状がみられたという。真喜屋先生は、「佐敷村のような敬老思想が強く保存され、実際に老人があたたかく看護され尊敬されている土地では、老人に精神的葛藤がなく、たとえ器質的な変化が脳に起こっても、この人達にうつ状態や幻覚・妄想状態は惹起されることなく、単純な痴呆だけにとどまるのではないか」と考察している。

周辺症状のない穏やかな痴呆状態を学術用語で「単純痴呆」と呼ぶが、臨床医としての立場から終末期医療に取り組んでいる大井玄東大名誉教授はこれを「純粋痴呆」と名付けて、真喜屋先生の報告を高く評価するとともに、「幸せで穏やかな痴呆」が生まれる背景に言及している。現在のような都市型の効率重視社会では 「純粋痴呆」の生まれる素地は無いと見るべきであろう。深刻な問題行動は、プライドを傷つけられ、ストレスに曝された高齢の認知症患者に起こりやすいと思われる。

30 年前の日本復帰前後の沖縄には、痴呆があっても社会生活を営むことが出来るゆったりとした時間が流れていたと推定される。人情に厚く、敬老精神に溢れ、痴呆老人が環境に順応し、人間関係から生じるストレスが最小に抑えられた結果、問題行動がほとんどみられない社会が沖縄の農村に実在したのである。しかしその後の本土との急速な一体化によって社会環境が激変した。

周辺症状を伴わず、問題行動と無縁な「純粋痴呆」を取り戻し、記銘力の喪失のみか、時間と場所の見当さえつかなくなった高齢者が尊厳ある生を全うできる共同社会が沖縄に再び到来する日を夢見ている。』

参考文献

1)真喜屋浩:沖縄の一農村における老人の精神疾患に関する疫学的研究、慶応医学55 : 503 - 512,1978

2)大井玄:痴呆の哲学、弘文堂2004 

3)大井玄:「痴呆老人」は何を見ているか(新潮新書)、 新潮社2008

今まで、ほとんど認知症について詳しく知ろうとしたことはありませんでした。今回、このような記事に関心が向いたということもあり少し調べてみました。他にも優れたサイトはあると思いますが、私が注目したサイトは「国立長寿医療研究センター」さまのページです。詳しく観たわけではありませんが、特にいいなと思ったページを4つご紹介します。

まずは、本丸である国立長寿医療研究センターさまのサイトです。右下に ”関連情報サイトのご案内” があり、その下にセンターの”ご紹介ムービーもあります。

こちらをクリック頂くと、”動画一覧” に移ります。

こちらも ”動画” ですが、「認知症はじめの一歩」という資料(PDF)もダウンロードできます。

. 認知症のことや 認知症の人との暮らしなど、250以上のQAが置かれています。

がんと自然治癒力13(まとめ)

7月に始めた「がんと自然治癒力1」のブログも、ついに「まとめ」にたどり着きました。もっと簡潔にできると思っていたのですが、予想以上に長くなってしまったため、目次を付けさせていただきます。

目次

1.「がん対策」の実態と課題

2.がんの治療と予防

 1)米国の統合医療に見られる補完代替医療

 2)がんとは何か

3.がんとタンパク質

 1)遺伝子をコントロールするタンパク質

 2)早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?

 3)細胞の早い老化の影響:肉体 ―インフラメイジング 

4.自然治癒力について

 1)代謝

 2)恒常性(ホメオスタシス)

 3)自然治癒力

 4)ホメオスタシスを提唱した“キャノン”は自然治癒力について何と言っているか

5.ストレスの第一の標的は“脳”

 1)チャレンジ反応を培う

6.がんと自然治癒力

7.鍼灸と自然治癒力

8.まとめ

 1)自然治癒力とは 

 2)がんと自然治癒力

 3)がんと鍼灸

“日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために”

追記:“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”

1.「がん対策」の実態と課題

日米における「がん対策」の成果の差は、まさに下記のグラフ(左:米国、右:日本)に表れていると思います。


米国では1971年にニクソン大統領が ”がん戦争宣言(“war on cancer”)” を発表しました。

 

画像出展:「THOMAS HEALTH BLOG

そして、1975年にはフォード大統領が立ち上げた「栄養問題特別委員会」を中心とした国家的な調査が大きな流れをつくり、上昇が続いていたがんによる死亡率は1990年頃から減少に転じ(男性:左上図青線)、今もその成果は続いています。

その主な成功要因は次の3つと考えます。(「がんと自然治癒力2」より)

①政治トップのリーダーシップ・コミットによる全米プロジェクト化

②適切な施策を導くための正確な情報を収集・蓄積・分析するためのシステム化

③病院単位でのがん医療に関する品質維持・改善のしくみの導入と継続

一方、日本のがんによる死亡率は残念ながら増え続けており、日本のがん対策は、数字の結果だけを評価するならば、全く成果は出ていないと言わざるを得ません。

国立がん研究センターの予防研究グループが発表した2015年時点における「がん罹患・死亡・有病数の長期予測」を見ると、男性は2024年、女性は2034年がピークです。また、罹患数においては男性2034年、女性2039年がピークとなっており、今後約20年間、がん罹患数は増え続けるという厳しい予想になっています。

これは、国民に対するがん予防の主な対策が「がん検診」中心となっており、基本的には国民任せという実態が関係していると思います。

『予防研究グループでは、地域住民、検診受診者、病院の患者さんなど人間集団を対象に、疫学研究の手法を用いて、発がん要因の究明(がん予防のために必要な科学的根拠を作る)がん予防法の開発(科学的根拠に基づいて具体的かつ有効ながん予防法を提示する)を目的とした研究を行っています。』 

 

画像出展:予防研究グループ

罹患数:一定期間に発生した疾病者の数。

有病数:ある一時点において、疾病を有している人の数。

「国民任せ」や現場主導のボトムアップ的手法だけではその実行力に限界があります。

がん患者さま、そしてその団体を中核とし、政治・行政・医師会という組織が三位一体となったバックアップ体制をつくって、増え続けるがん死亡者数という現実と真剣に向き合わないかぎり、この深刻な問題を解決するのは難しいと思います。

「では、どうすればいいだろうか?」

この疑問について、がんにより2007年に他界された、山本孝史元参議院議員が遺した ”日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために” という本の中にヒントともいうべきものがありました。

これについては、ブログの最後にご紹介したいと思います。

2.がんの治療と予防


これは「がんと自然治癒2」の中のスライドショーでご紹介した“米国の統合医療”を表したものです。

がんの三大治療」は2つの図ではともに青い部分になります。

米国では現代医療に、補完代替医療(緑色)を積極的に加えていこう(統合医療)という動きがあります。一方、日本では情報提供の範囲に留まります。ここに一つ、日本と米国の違いがあります。

2018年10月17日:NHKの”クローズアップ現代”で

世界が注目!アートの力  健康・長寿・社会が変わる』という番組が放送されました。これをみると「心」の重要さを痛感します。アートも補完代替医療に含まれるのではないかと思いました。

注)写真をクリックすると”Dailymotion”のサイトに移ります。

 

こちらの「統合医療情報発信サイト」には、“がんの補完代替医療 ガイドブック”だけでなく、多くの有用な資料が置いてあります。

 

国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがん予防」のページの右側にPDFの資料をダウンロードするボタンがあります。

 

1)米国の統合医療に見られる補完代替医療

下記も “米国の統合医療” のスライドの一部です。グラフは「PubMed」というサイトに掲載された論文数の推移となっており、これによると「サプリメント」、「ハーブ」、「TCM(伝統中国医学)」、「鍼灸」、「瞑想」、「ヨガ」の論文数が増えています。  


現時点において、「がん予防(再発防止を含む)」には補完代替医療の選択的活用が良い方法だと思います。

がん予防の原点は、一人ひとりが自らの生活習慣を見直すことだと思いますが、それに加え、補完代替医療(たとえば、体操、ヨガ、鍼灸など)を病院側がメニューのように用意し、スタッフによる指導だけでなく、その補完代替医療による病状への効果を把握し、患者さま一人ひとりに適切なアドバイスがされるようになると素晴らしいと思います。

一方、「がん治療」は三大治療が主役ですが日本においては、知識やノウハウ、チーム医療、報酬制度、そして何といっても、抗がん剤の認可の遅さ等、課題は山積です。

 

画像出展:「抗癌剤 知らずに亡くなる年間30万人」

この図は抗がん剤投与の ”知識やノウハウ” の大切さを知って頂くために添付しました。詳細は「がんと自然治癒力3」をご覧ください。

 

 

しかし、抗がん剤においては、分子生物学の進歩による分子標的治療薬(「がんと自然治癒力4」を参照ください)、そして新しい免疫療法では、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害剤のオプジーボ、CTLA-4阻害剤のヤーボイ等)などの研究も盛んに行われており、多くの人が最新医療の進化を切望しています。

※オプジーボ開発の起点となった研究で、本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞されました。そこで、少しネット検索したところ、2016年10月に“オプジーボ「高いのは日本だけ」”という日本経済新聞の記事がヒットしました。 

※免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ、ヤーボイ)については、制御性T細胞をテーマにした「がんと自然治癒力12」の中で少し触れています。

 

画像出展:「日本経済新聞」

オプジーボ 「高いのは日本だけ」

 

 

 

画像出展:「がん治療.com

 

下記のイラストは「がんと自然治癒10」でご紹介したものです。このイラストでお伝えしたいことは、三大治療はがんを治すための優れた武器ですが、からだに優しいものではないということです。

 

画像出展:「がん治療の最前線」

 

ここで、再度「がんとは何か」の復習をざっとさせて頂きます(「がんと自然治癒11」より)。

2)がんとは何か

がん細胞とは何か?

・がん細胞はアポトーシス(自然死)を免れるメカニズムをもっており、増殖しても死なないやっかいな細胞である。

がんは遺伝子の異常で生まれる

・細胞分裂の際、遺伝子情報のコピーに問題が発生し、元の細胞とは異なる遺伝子情報の細胞ができる。

がんの芽は毎日5000個生まれている

・体は24時間休みなく古い細胞を壊しては新しい細胞に置き換えるという「新陳代謝」を行なっている。その結果、毎日1兆個が死に、同じ1兆個が細胞分裂で新たに生まれている。日々生まれている1兆個の細胞のなかで、遺伝子の異変を持つものは5000個から6000個といわれている。これががん細胞の芽である。

がんの芽は9年かけてがんになる

がんとは、がん細胞が増殖して0.5~1cmの大きさになり、肉眼で見えるようになったもの。重さは1gほど。10億個ほど集まってこのサイズのがんになる。1個のがん細胞が10億個ほどに増えてがんになるまでは、平均9年かかる。

発がんのプロセス①―イニシエーション(引き金)

・がんの芽が生まれるのは遺伝子異常によるミスコピーであり、発がんの第1段階。これをイニシエーションといい、ミスコピーを起こす引き金物質を「イニシエーター」と呼ぶ。

発がんのプロセス②―プロモーション(促進)

・イニシエーションで生まれたがん細胞が増殖するのが、発がんプロセスの第2段階の「プロモーション」。プロモーションを起こす物質や要因を「プロモーター」と呼ぶ。

・イニシエーターによって遺伝情報が書き込まれたDNAは一部を損傷しただけではがんにならない。それはDNAには損傷した部分を修復する自然治癒力が備わっているからである。

DNAの一部の損傷、その傷ついた細胞が繰り返しプロモーターに晒されると、自然治癒力による修復が追いつかなくなる。細胞のアポトーシスの機構が働かなくなると、そこからはタガが外れたように、がん細胞が猛烈なスピードで増殖し、9年ほどかけて、目に見えるガンに成長する。

・プロモーターは、イニシエーターと重なるものが少なくない。プロモーターの筆頭に挙げられるのも、やはりタバコである。タバコの煙に含まれる各種の化学物質はガンの増殖を促進する。活性酸素も同様である。 

 

画像出展:「ガンにならない3つの習慣」

 

がん発見の研究が盛んに行われている現在において、かなり乱暴な言い方になりますが、「三大治療とは、がん細胞が0.5~1cm、重さ約1g、10億個ほどに増殖し、がん細胞の塊となって肉眼で見えるようになった時に始まる治療である」という見方も今はできるのではないでしょうか。 

3.がんとタンパク質

発がんプロセスのプロモーション(促進)について興味深いデータがあります。

これは「がんと自然治癒6」でご紹介しているものです。この“チャイナ・スタディー”の原書の初版は2006年のため今から12年前となり、掲載されている内容の評価には難しい点もあるようですが、動物性タンパク質の過度な摂取は注意が必要(壮年期、中年期)、と考えますので、再度ご紹介させて頂きます。なお、ご紹介するグラフは中国大調査以前の、きっかけとなった実験であり、データはマウスのものになります。 

 

出版:グスコー出版

 

 

このグラフは、発がん物質の投与量とタンパク質の摂取量による比較です。これを見ると発がん物質のアフラトキシンの投与量の大小よりも、高タンパクか低タンパクかという摂取タンパク質の違いの方が、がんの成長促進状況に与える影響ははるかに大きいことを示しています。 

 

画像出展:「チャイナ・スタディー」

 

 

 

このグラフを見ると、総摂取カロリーに対するタンパク質の摂取は、10%が適切な量であり、特に14%を超えると、がんの成長促進状況が一気に高まることが確認できます。

 

また、下記の円グラフを見ても、がんの原因として喫煙と並び食事が大きく関与しているのが分かります。

 

 

 

画像出展:「名古屋市立大学 津田特認教授研究室

『がんの発生原因をみると、喫煙習慣と食事(献立の内容)が70%近くを占め、残り30%に運動(不足)、職業、感染(ウィルス、細菌、原虫)、環境化学物質、放射線・紫外線等がある(Doll & Peto、国立がん研究センター等)。これらの原因のうち、喫煙と食事は各人が心がけることによって防止可能であり、感染症も予防でき得る。~以下省略』

タンパク質については、他にも気になる情報があります。その一つは「がんと自然治癒8」でご紹介したものです。 

 

出版:PHP研究所

発行:2009年1月

 

 

この本の中に次のような記述があります。

1)遺伝子をコントロールするタンパク質

・エピジェネティクスの研究者たちは染色体を構成するタンパク質を研究し、それらがDNAと同じくらい遺伝において重要な役割を果たしていることを見いだした。

染色体では、DNAがいわば芯となっていて、タンパク質はそれにカバーとしてかぶさっている。カバーがかかったままでは、遺伝子の情報を読みとることができない。たとえばあなたの腕がDNAで、青い眼をつくる遺伝子の役割をもつとしてみよう。核内では、染色体タンパク質がこのDNA領域に結合してカバーしている。シャツの袖がおろしてあったら、腕に書いてある情報が読みとれないのと同じことだ。

では、どうすればこのカバーを取りはずせるだろうか? 環境から、ある信号がやってくれば、「カバー」タンパク質は形を変えてDNAの二重らせんからはずれ、遺伝子が読みとれるようになる。DNAのカバーがはずれて露出すれば、その遺伝子部分のコピーがつくられる。結局、遺伝子の活動はカバーとなるタンパク質が存在するかしないかによって「コントロール」され、タンパク質の存在は環境からの信号によってコントロールされる。  


そして、もう一つは「がんと自然治癒9」でご紹介した内容です。 

 

出版:NHK出版

発行:2017年2月

 

 

 

テロメアは染色体を保護するもので、靴紐をまとめる先端にあるキャップのようなもの。寿命に関係しています。

 

そして、もうこの本の中に次のような記述があります。

2)「早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?」

・古い細胞のDNAが細胞のほかの部分とうまくやりとりできなくなると、細胞はきれいな状態を保てなくなる。古くなった細胞の内部には、うまく機能しなくなったタンパク質の塊や茶色いごみのようなリポフスチンという物質がたまってくる。リポフスチンは眼球に加齢黄斑変性を引き起こしたり、いくつかの神経性疾患の原因になったりする。さらに悪いことに ―なぜか、樽の中の腐ったリンゴと同じように― 老化した細胞は誤った危険信号を炎症誘発物質という形で、体のほかの場所にも送ってしまう。

3)「細胞の早い老化の影響:肉体 ―インフラメイジング」

・テロメアの短い人々は、慢性的な炎症にも悩まされている可能性がある。年齢とともに炎症が増え、それが加齢にともなう病気の一因になるという観察報告はたいへん重要だ。そのため、科学者は「インフラメイジング(炎症加齢、または加齢炎症)」という名前を考案した。インフラメイジングとは慢性的な軽微の炎症であり、加齢とともに増加する可能性がある。なぜそれが起こるかについては、タンパク質の損傷などさまざまな理由が挙げられている。ほかにしばしば挙げられる原因の一つが、テロメアの損傷だ。

発がんの成長(プロモーション)を左右するタンパク質、遺伝子の活性・不活性をコントロールするタンパク質、寿命に関わるテロメアと関係が深いタンパク質、以上のことから、発がんと栄養について考えるとき、発がん予防の働きをするファイトケミカルとともに、発がんの成長を促すとされるタンパク質は、功罪をあわせもつ極めて重要な栄養素であると思います。

※「ファイトケミカル」についてはブログ「がんと自然治癒力11」を参照ください。

4.自然治癒力について

医学の父、医学の祖ともいわれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、「自然は不調和を回復しようとする力を人体に与えており、これを自然治癒力という。これを助けるのが医術であり、治癒の根本方法である」との言葉を遺しています。 

 

画像出展:「世界の食習慣を調査した・マクガバン・レポート」

マクガバン・レポートについては、「がんと自然治癒力5」を参照ください。

生物科学入門”の著者である白木先生は「生物とは何か」という問いに対して、『「代謝」、「遺伝」、「恒常性」の三つに集約できる。この三つの概念で説明できるものが生物である』と回答されています。

1)代謝

代謝には2つの代謝系があります。

・異化:複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する。

・同化:エネルギーを消費してより複雑な化合物を合成する。

これらの化学反応を劇的に促進するのは酵素の働きによりますが、その酵素を働かせるには望ましい環境が必要です。

・充分な水(水に囲まれていること)

・適切な温度(35~40℃)

・適切はpH(pH10付近)

このように、「酵素が働ける体内環境はからだの恒常性が維持されていること」が前提になります。

2)恒常性(ホメオスタシス)

恒常性はホメオスタシスと訳されています。このホメオスタシスは、三角形で表される場合が一般的ですが、その場合の3つの頂点は「神経系(自律神経系)―内分泌系―免疫系」となります。

以下の図は、中央に「脳幹」を配置し、「脊髄・筋肉系」を追加した図になっています。脳幹は延髄・橋・中脳・間脳を指します(解剖学などでは間脳を含まない場合もあり)。脳幹は体幹の脊髄神経と大脳皮質をつなぐとともに、自律神経系、内分泌系、脳神経系、免疫系(顆粒球とリンパ球の比率は自律神経のバランスで決まる)をコントロールしています。また、筋肉からもマイオカイン(筋肉から分泌されるサイトカインという意味)が出ており、ホメオスタシスの図に「筋肉」を加えることについて違和感はありません。ホメオスタシスを四角形で表すことは、より適切だと思います。 

『ホメオスタシスとは、体の外部・内部の環境が変化しても体内環境を一定に保つ調整機能のこと。例えば四季によって気温や湿度が変化しても、一定の体温を保っていられるのはホメオスタシスのおかげです。ホメオスタシスには様々な機能があり、自律神経系、免疫系、内分泌系、脊髄・筋肉系の4つに分けられます。そしてこれら4つの関係を表したものが、ホメオスタシスの四角形(左図)。脳幹はこの四角形の中心となり、すべての機能に関係する司令塔の役割を担っています。脳幹が正常に機能すれば、ホメオスタシスもバランスよく機能して、自己治癒力も高まります。


3)自然治癒力

私は「自然治癒力」を次のように考えます。

「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)

からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと

4)ホメオスタシスを提唱した“キャノン”は自然治癒力について何と言っているか

ウィキペディアを拝見すると、次のような解説が見られます。『生活体が生命を維持するために自律系や内分泌系の働きを介して体内平衡状態を維持するというホメオスタシスの考えを提唱した。』 

 

画像出展:「ウキペディア

このウォルター・B・キャノンは著書である“からだの知恵 この不思議な働き(原書の題名は“Wisdom of the Body”)の “はじめに” の中で “自然治癒力” という見出しをつけて説明しています。

『生物が、自身のからだをつねに一定の状態に保つ能力は、長いあいだ生物学者たちに強い印象を与えてきた。病気が、からだに備わる自然の力、「自然治癒力」でなおるのだという考えは、すでにヒポクラテス[紀元前400-377。ギリシアの哲人。医学・生物学の祖とされる]が抱いていたものだが、この考えのなかには生物の正常の状態がかき乱されたときに、ただちに作用してそれをもとの状態に戻すたくさんの力があることが示されている。このような生物学の自動的な仕組みについては、最近の生理学者たちが書いた本のなかに詳しく述べられている。

~中略~

さて、まあこのようなぐあいで、驚くべき現象があるということなのだ。このうえもなく不安定で、変わりやすいという特徴を持つ材料で作られている生物は、なんとかその恒常性を保ち、当然生物に深刻な悪影響を及ぼすと思われる状況のなかで不変性を維持し、安定を保つ方法を習得している。

~中略~

簡単にいえば、充分な備えを持った生物のからだ―たとえば哺乳動物―は、外界の危険な状況や体内の同じように危険な可能性に直面して、しかも生きつづけ、比較的わずかの障害に止めてその機能を継続しているのである。 

※メモ:「自然治癒力は何故あるのか」ということについて、今まで、有ることが当たり前のように思い、特に考えることもなかったのですが、それは、”危険”と対峙するためだと知りました。

5.ストレスの第一の標的は“脳”

ストレスは自律神経系、内分泌系を乱します。自律神経系のバランスの乱れは、免疫系と筋肉系(筋緊張の定常化など)に影響を及ぼします。

下記は自律神経失調症を説明したイラストです。ストレスの第一の標的は脳であり、脳の疲労が各種の神経症の原因となります。そして、自律神経系の機能が低下していると脳の疲労が体の臓器に伝わり、自律神経失調症を発症させます。

(下記のイラストは「自律神経失調症を知ろう」からの出展です。見方は左上-右上-左下-右下です。詳細はブログ「自律神経失調症」をご覧ください)


がんに限らずストレスが心身に悪影響を及ぼすことは今や常識となっています。つまり、脳を守るということが非常に重要です。それは昔から言われている「病は気から(気の持ちよう)」ということにつながるように思います。

脳が重要であるという意味では、先にご紹介した「ホメオスタシスの四角形」の中心に脳幹が置かれていることは的を得ていると思います。

※メモ:精神的ストレスは特に感情に影響を及ぼします。その「感情の中枢を担う大脳辺縁系」は「生命の中枢を担う脳幹」には含まれませんが、脳の進化において脳幹の次にできた古い脳で、脳幹と同じように脳の内部に位置します。その意味では、理性の中枢を担い外側に位置する新しい大脳皮質よりも、進化の時期と場所という2つの点から、大脳辺縁系は脳幹に近い存在と言えるのではないでしょうか。

※「東洋経済オンライン」さまに、精神的ストレスと感情に関する記事が出ていました。 ”心が強い人は「無感情」を習慣にしている

脳とストレスについては、先にご紹介した本にも興味深いことが書かれています。

 

出版:NHK出版

発行:2017年2月

 


1)「チャレンジ反応を培う」 

チャレンジ反応は交感神経の活動を高めるので、かならずしもストレス感を減らしてはくれない。だがこれはポジティブな「落ち着きのなさ」であって、あなたをもっとパワフルで集中した状態に押し上げる原動力だ。ストレスをこんなふうにうまく転換して、イベントやパフォーマンスのときに良いエネルギーを得たければ、自分で自分に「ワクワクしているね!」「鼓動が速いしおなかはグルグルしてきたけど、大丈夫!これは、良いストレス反応が強く起きている証拠だ」と語りかけてみよう。もちろん、介護に従事する母親のようにストレスで心の減る思いをしている人には、軽すぎる言葉に聞こえるかもしれない。ならば、もっとやさしく自分に語りかけよう。「今の体の反応は、私を助けるために、そしてやるべきことに集中できるように、起きたことだ。そのサインは大事にしよう」。チャレンジ反応はけっして、まやかしの活力剤ではない。「ストレスの原因がこんなにたくさん起こるなんて、本当に幸せだ。」という過剰にポジティブな態度ともちがう。それは、たとえ今はつらくても、ストレスを自分の目的に合うように形づくれと理解することだ。

・リラックスできる能力は、ストレス管理の唯一の方法として過大に評価されてはいるが、やはり重要だ。あなたも何か、自分を深く回復させる活動を定期的に行ってみるといい。瞑想や詠唱、その他のマインドフルネスの技法がストレスを和らげ、テロメラーゼを刺激し、テロメアの伸長を助けるであろうことは、高い質の証拠から示されている。

6.がんと自然治癒力

繰り返しになりますが、自然治癒力を次のように考えます。

①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)。

②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと。

また、下記の図は「2.がんの治療と予防」でお見せした図、再登場です。


あえて、自然治癒力をその期待と重みで分けるとすれば、自然治癒力を重視しているのは上の図の緑色、代替医療の分野です。米国では代替医療を医療の一部と考え、日本では壁があり個人に委ねられている、というのが日米の違いです。

こうしてみると、代替医療には様々なものがありますが、共通している狙いは「その人が本来もっている自然治癒力を取り戻すこと」、いいかえれば、「ホメオスタシスの四角形」を整え、摂取した栄養を酵素の力で適切に代謝すること、といえるのではないでしょうか。

ディーン・オーニッシュ博士は代替医療(「心身の健康プログラム」)によって、前立腺がん患者の病状を改善させました。詳しくは「がんと自然治癒力10」を参照ください。 

 

画像出展:「がん治療の最前線」

 

日本では素問八王子クリニックの院長で、医師でもある真柄俊一先生が、自律神経免疫療法を柱とするがん治療に2003年より取り組んでおり、多くの成果を発表されています。

しかしながら、代替治療に対する期待の中心は「予防(再発を含む)」にあると思います。肉眼で見える「がん細胞の塊」と化した悪性腫瘍を取り除くという目的で行われる治療の主役は三大治療(+オプジーボやヤーボイなどの免疫療法)であり、最初から敬遠するようなことは決してすべきではないと思います。

7.鍼灸と自然治癒力

ここでは、日本鍼灸師協会が発行した“科学も認めるはりのチカラ”の内容をご紹介します。

なお、こちらの冊子は「東京都鍼灸師会」の「はり灸の効果」というページからダウンロードできます。

ページの最下部に「PDF版はこちらをクリックしてください」とあります。


鍼刺激で何ができるのか

1980年代に「はり麻酔」などで注目された鍼刺激は当時、「血行改善、筋緊張緩和、心地よい刺激(脳が感じる)」などが実験で明らかにされました。しかし、その作用メカニズムについては、まだ分からないことが多い時期でした。今では鍼刺激の研究も進み、今回、現役の医師である永田勝太郎先生、南和友先生、高橋徳先生には「鍼刺激がどのようなシステムで生体機能の変調を矯正し、保健及び疾病の予防または治療」に関与してるかについて、また、公的研究機関の堀田晴美先生には「鍼刺激と自律神経のメカニズム」についてそれぞれ解説していただきました。さらに「世界的に鍼刺激がどのような立場にあるか」について、織田聡先生に紹介していただきました。

~以下省略

このブログでは、30年におよぶ研究の成果から導かれた “向ホメオスタシス” についてまとめられた永田勝太郎先生のパートをご紹介させて頂きます。

鍼の効果の本質―向ホメオスタシス 千代田国際クリニック院長 永田 勝太郎先生

鍼灸師の先生方と鍼灸の臨床共同研究を始めてから、30年以上が経過しています。その間の各種実験(臨床研究)から明らかになったことは、鍼には、生体を最も望ましい状況に誘う力があるということです。これまでの臨床研究を俯瞰することで浮かび上がってくる、鍼の持つ向ホメオスタシス効果について概説してみたいと思います。

日本では腰痛や肩凝りなど鍼灸の対象は痛み(特に機能的な慢性疼痛)であることが多いのですが、欧米では積極的な健康づくりやアンチエイジングの方法として位置づけられています。今回お伝えする鍼の持つ向ホメオスタシス効果は、欧米での認識を裏付け、日本での認識を新たにするものです。

深部体温・血圧の正常化

代表的な経穴(ツボ)に刺鍼したときの深部体温の変化を、10年に及ぶ長期の研究で観てきました。その結果、高い体温は下がり、低い体温は上がることがわかりました(関野光男)。生体内部(臓器)の温度である深部体温は、低い人もいれば高い人もいます。鍼はそれを正常化させる働きを見せました。さらに、鍼が血圧にどのような影響を与えるかについて、被験者が5,000人を超える大規模な検証を行いました。(図1参照)。ここでも深部体温と同様に、代表的な経穴に刺激して前後の血圧を測定するとともに、その変化を測定しました。すると、高い血圧の被験者は下がり低い血圧の被験者は上昇、正常血圧の被験者は変化しないという結果が得られました(白畠庸)。同じような刺激を行っても、高血圧患者では鍼が降圧的に作用し、低血圧患者には昇圧的に作用しました。 

 

画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」

 

鍼が酸化ストレス防御系に与える影響

呼吸によって身体に入る酸素の5%は、活性酸素になってしまいます。それが細胞やDNAを傷つけ(酸化させ)、老化、病気を招くことで、死のリスクが高まります。これを避けるため、生体にはグルタチオンなど多くの抗酸化物質があり、また食事から抗酸化物質を摂取することで、酸化ストレス防御系のバランスをとっています。

こうした酸化ストレス防御系に鍼施行がどのような影響を与えるかについて検討した結果が、「鍼と酸化バランス防御系(図2参照)」です。代表的な経穴に刺鍼し、その前後の酸化ストレス(d-Romsテスト)、抗酸化力(BAPテスト)、潜在的抗酸化力(修正比)を評価したものになります。鍼施行後、酸化ストレスが低減しましたが、抗酸化力には有意な変化はなく、潜在的抗酸化力は上昇しました(広門靖正)。 

 

画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」

 

鍼とストレス防御系(コルチゾールとDHEA-S)

生体がストレスを受けると、下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されて副腎皮質を刺激します。これによって副腎からコルチゾールが分泌され、血糖値や血圧が上がり、ストレスに抵抗できるようになります。しかし、この状態が続くと、生体は摩耗、疲弊してしまいます。そこでACTHは、生体を修復させてバイタリティを与えるホルモンであるDHAS-S(dehydroepiandrosteron sulfate/デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)を同時に副腎から分泌します。近年、DHAS-Sが、皮膚や脳からも分泌されることがわかってきました。

皮膚を直接刺激する方法である鍼の効果を測定するため、刺激とDHAS-S(代謝産物である17-KS-Sを測定)、コルチゾール(代謝産物である17-OHCSを測定)を検討してみました。その結果、鍼施行後、DHAS-S、コルチゾールともに上昇することがわかり、刺鍼が刺激療法であることが明確になりました。しかし、刺鍼の翌朝には、測定値は両者ともに下降したものの、両者の比は有意に高値を示しました。これは修復機能が、摩耗に優れていた証明と考えられます(図3参照)(広門靖正)。

 

画像出展:「科学も認めるはりのチカラ」

注)「両者の比」とは右端(S/OH)を指しています。”翌朝“の青の棒グラフが1番高くいます。これは”施行前”、”施行後”、”翌朝”を比較した場合、ストレスホルモンのコルチゾールより、バイタリティを与えるとされるDHAS-Sの比率が多いという意味です。

 

 

画像出展:「思考のすごい力」

注)このイラストにはDHAS-Sは出ていませんが、ストレスに対する副腎の働き(ストレス防御系)を把握するという目的で添付しました。 

オムロンさまの「健康コラム」というサイトにDHEA及びDHAS-Sについて説明されている記事がありましたのでご紹介します。

“vol.169 若返りホルモンとも呼ばれるDHEAの秘密”

鍼の効果を明らかにする

同じ鍼刺激でも、生体の条件によっては、全く正反対の効果を生じる―西洋医学の世界ではあり得ないことですが、すべて事実です。東洋医学の深さがそこにはあって、数千年の歴史を生き残ってきた医療には、しかるべき理由があったと言えるのではないでしょうか。私たちは、その神秘のベールを科学の力で明確にしてゆく責務があると考えています。

鍼の効果について、もう一つ、ブログに残しておきたいのが、「がんと自然治癒力9」でご紹介していたものです。

分子レベルの回復メカニズム、運動と鍼は同じか?

画像出展:「テロメア・エフェクト」

筋肉痛は運動によって筋線維が傷つくことによって起きるものとされています。一方、鍼の太さは0.16mm(1番鍼)、刺しても多くはほぼ無痛です。しかしながら、分子レベルで考えればたいへんな衝撃です。この、鍼によって生じる筋線維のダメージも、運動によって生じる筋線維のダメージも、その後のダメージを回復させるメカニズムは基本的に同じではないかと思われます。

つまり、鍼治療は運動と同じように、オートファジーやアポトーシスという重要な機能を呼び起こし、結果的に体内を掃除して、もっと健康に、もっと丈夫にしているものと思います。 

 

8.まとめ

1)自然治癒力とは

「生きるための力」です。具体的には2つの働きがあります。

①「ホメオスタシスの四角形」が本来の働きをすること(からだの恒常性を維持すること)

②からだに栄養が補充され、酵素のパワーで代謝(異化・同化)を適切に行うこと

そして、一言でいうとすれば、「ストレス適応と栄養代謝」ということだと思います。

2)がんと自然治癒力

自然治癒力は「生きるための力」であり、発症前の段階からあらゆる局面で自然治癒力は関与しています。しかし、がん医療の中で自然治癒力が前面に出てくるのは、「がん予防(再発を含む)」だと思います。

3)がんと鍼灸

がん治療の中で鍼灸を考える場合、「代替医療」という位置づけで考えるのが良いと思います。期待できる鍼灸の効果については “7.鍼灸と自然治癒力” でご説明していますが、鍼灸ならではの特長としては、ピンポイントで問題個所をとらえ、作用(痛みの緩和や体調改善など)を及ぼすことができることだと思います。

そして、がんと闘うための働きとして、ストレス適応を高め、代謝を良くすること(酵素が働きやすい体にすること)がとても重要であると思います。

“日本のがん医療への提言 救える「いのち」のために” 

こちらは「がんと自然治癒力2」でもご紹介していた本です。

著者:山本孝史

出版:朝日新聞

発行:2011年12月30日 

 

ご紹介するのは2つです。1つは “厚労大臣と患者の協働” 、もう1つは “座談会「がん対策基本法」成立から5年” の中から、その冒頭部分と “次の5年間の課題は?” という最後の部分です。

厚労大臣と患者の協働

ガン患者(団体)が、未承認薬の早期承認などを求めて、街頭署名活動や国会への働きかけなどの表立った活動を始めたのは、2001年の初頭からです。しかし、活動を引っ張ったリーダー患者とともに、その受け手となった厚労大臣や国会議員の存在も大きかったと感じます。

特に坂口力厚生大臣(後に厚労大臣。公明党。2000年12月6日から2004年9月27日まで在任)と、後任の尾辻秀久厚労大臣(自民党。2004年9月28日から2005年10月31日まで在任)の二人とがん患者は(団体)は、「協働体制」にあったといっても過言ではないでしょう。

日本では大臣の在任期間が短く、がん対策の問題点を理解してがん患者(団体)が求める効果的な対応策を講じるまでに、たいていの厚労大臣は退任されます。ですから理解ある大臣の在任中に積極的に働きかけることが重要なポイントだと思います。

厚労大臣とともに、国会議員への働きかけも重要です。がん医療の向上は、国会議員の全員が賛意をあらわす政策課題ですが、がん患者の思いを汲んで熱心に動く議員が少ないのは当然です。それぞれの議員には、専門分野や受け持ち分野があるからです。

がん患者(団体)の側で、政治とは距離をおきたいと考えるのも理解できます。しかし、最初は身近な問題として取り組んだとしても、やがては政治や行政の動きがなければ解決されない局面を迎えることになるのです。

がん医療については、がん患者である仙石由人衆院議員と私(ともに民主党)の存在もありましたが、がん患者(団体)の働きかけに応じて、各党で「がん議連」や「プロジェクトチーム」などを立ち上げてくださった多くの国会議員がいます。超党派での「国会がん患者と家族の会」(代表世話人・尾辻秀久)も結成されました。この流れを大切にすることです。がん患者(団体)の側も、国会議員(政党)の側も、超党派で活動する良識が求められます。

座談会「がん対策基本法」成立から5年(実施2011年11月22日)

冒頭の「がん対策基本法」が成立した経緯、および最後の「次の5年間の課題は?」より  

 

 

画像出展:「 救えるいのちのために」

がん患者であることを本会議で公にした山本孝史議員らの尽力で「がん対策基本法」が成立し、5年が経とうとしています。基本法に基づいてつくられた「がん対策推進基本計画」は間もなく第一期目の5年間が終わろうとしており、次の5年に向けた見直し作業が行われている真っ最中です。そんな時期に、山本議員の著書の新版が出されることになりました。これを機に、山本議員と一緒に基本法の成立に尽力した尾辻議員と、基本法に基づいて日本のがん対策を議論するために設置されているがん対策推進協議会の門田会長、行政の立場からがん対策に取り組む厚生労働省がん対策推進室(2018年9月現在、厚生労働省健康局総務課がん対策推進室の鷲見室長、そして山本議員の意志を継ぐと同時に、がん患者団体とも連携した活動を展開している山本ゆきさんに、この5年間で何が変わったのかを振り返り、同時に、次の5年間の課題や、もう少し先の中長期的にみた日本のがん対策の課題について議論を深めて頂ければと思います。

まずは、がん対策基本法ができた当時の原点に戻り、基本法成立の背景を改めて確認したいと思います。

尾辻

日本は3人に1人ががんで亡くなる時代を迎えています。それに対して対策が十分に取られているかというと、「がん難民」という言葉もあるくらいです。がんにかかったのに、どの病院にかかったらいいかまったくわからず、がん患者さんがさまよい歩くという、そういう深刻な状況にあります。一方、国の対策はどうかと言えば、当時、厚生労働省は生活習慣病対策室ががん対策担当で、がん独自の対策室すらありませんでした。そういうお寒い状況だったので、何とかしなければならないと思う人は大勢いた。ただ、思うだけで、一向に具体的な対策にはつながりませんでした。

そんなところに、山本議員が参議院本会議で質問に立ちました。自分もがん患者だと公表し、がん対策基本法の早期成立を訴えました。あの衝撃的な質問は、いまだに忘れられません。山本議員の壮絶な質問をきっかけに、みんなが一つになり、山本さんの気持ちを大切にして、急いで基本法を成立させようと、超党派で意見を統一したのです。もともと、がん対策を何とかしなければいけない、という思いを持つ議員は大勢いた。そういった土壌のあるところに山本さんが登場し、一気に法案成立に向かって大きく動いたのです。

山本

夫にがんが見つかったのは2005年12月22日のことでした。翌2006年4月に、山本の所属する民主党は、がん対策基本法案を国会に提出しました。衆議院の話ではありますが、山本は、自分もがん患者の国会議員として、がん対策に取り組まなければならないと思うようになります。

そのころ、他の政党でもそれぞれ独自に、がん対策に関する法案をつくっておられたと思います。そういう時期に治らない胸腺がんになったという巡り合わせを考え、自分のがん患者としての生きる意義は「がん対策基本法」を成立させることではないか、それが自分の使命ではないか、と考えるようになり、その実現に向けて行動しました。

2006年はちょうど医療制度改革の議論の年で、5月22日に健康保険法の改正をめぐり、参議院で本会議が開催されることになりました。医療・年金・介護などの社会保障制度は、山本が議員として長年、取り組んできた課題です。自分自身の仕事の総仕上げという意味を込め、質問に立ちました。冒頭、自分はがん患者であることを告白し、質問演説の最後で、がん対策基本法の成立を訴えました。がんを患う自分にとって、これが最後の本会議質問、そういう悲愴感が漂っていました。

法案の成立には、タイミングの問題があります。あの時期を逃がすと、次の年は参議院選挙があるので、超党派での作業が難しくなるという読みがありました。しかも、山本が質問に立った日から会期末まで、25日しかありませんでした。自分ががんであることを告白して、議員の皆さんの気持ちが一つになれば、短期間での成立も可能だろう。そう考えてのがんの告白でした。

その後は、皆さんが党の垣根も、衆参の垣根も越えて一致団結、協力して、法案の成立に尽力して下さいました。

―各党の総意は、どんな点にあったのでしょうか?

尾辻

山本議員の本の題名にもなっているように、「救えるいのちを救おう」という思いで各党、結集しました。

―山本議員自身の原点もそこにあったんですね。

山本

標準治療で治る患者さんはもちろん治さなければいけないし、がん医療の均霑化も必要です。けれども、山本は、自分が難治性のがんだったということもあり、治らない患者さんにも、基本法でメッセージを送りたい、治らない患者さんも最期まで自分らしく生きられるような対策を基本にしたいと思っていました。

「日本のどこに住んでいても、同じ水準のがん治療が受けられるように、難治性のがん患者には、きめ細かな治療を可能にするように、日本の医療制度を改善していきたい。そして、一人でも多くの『いのち』を救いたいという気持ちが、どんどん膨らんでいきました」―この本の前書きからの引用ですが、ここが、山本のいちばんの思いでした。

次の5年間の課題は?

―この5年間で土台、枠組みができたということを踏まえ、次期5年間には、どういった点の強化が必要でしょうか?

山本

がん対策基本法が成立し、9カ月後に施行となりました。その後にできた、がん対策推進計画を見て、山本は「これでよかったのか」とずっと悩み続けました。というのは基本法の三つの理念はすばらしいのですが、基本計画の全体目標に、がん死亡者の20%減少と、緩和ケア、痛みの減少しか挙げられておらず、がん治療が重視されていなかったからです。死亡者の減少の中に、個別のいろいろな目標はあるのですが、治療は目立ちませんでした。その点を気にして、最後まで苦しんでいました。

今回、基本計画を読み直してみましたが、大変いいことが書いてあるんですね。「安心、納得できるがん医療を受けられるようにする」と。ここは、すばらしい目標だと思うんです。ところが、そのために、死亡率を20%減らす、と続く。そして、死亡率を20%減らすために、やりやすい予防、検診に重点がいってしまう。

いま、死亡率が下ってきていると言われていますが、山本は、「死亡率を下げるという目標だけでいいんだろうか」といっていました。余命宣告を受けた難治性のがん患者さんにとって、「死亡率減少」とか「5年生存率」という言葉を聞くのはつらいことです。治らないがん患者さんは納得して死んでいきたい、ということを、山本は言いたかったんだと思います。そういう思いも、ぜひ、次の計画には反映して頂きたいと思います。

数字で示す目標がなければいけないということで、死亡率20%減少と書かれたのだと思いますが、同じ数字を使うなら、たとえば、患者さんの納得度、満足度調査をやって頂きたい。先日、私たちの患者会で、大阪府指定のあるがん拠点病院を訪問しましたが、その病院では、たまたまその日に、年1回の外来患者さんの満足度調査をやっていました。入院患者さんの満足度調査も別の日に行なうそうです。各病院でこういった調査をすると同時に、前年と比較して、満足度が上がったり下がったりした項目について、なぜなのかを分析してもらい、それを全国的に集計して、情報提供するのも、一案ではないかと思います。

尾辻

山本さんもおっしゃったように、基本計画の最初の文章はよくできているなと思います。たとえば、国民の視点に立つ、というのは当たり前のことです。そういった前提に立った上で、どうするか、ということですね。

基本法をつくる段階から、ずいぶんと大議論をした問題の一つが、がん登録です。次期計画では思い切って、法制化も含めて掲げてほしい。そして、議論してほしいですね。個人情報保護法の特別委員会を務めたので、がん登録は、議論をはじめたら難しいだろうなと思う。ただ、今こそ議論を始める必要があるのではないかと思います。

門田

協議会では集中審した時には、法制化が必要だという意見が大勢を占めました。我々協議会としては、計画に法制化を掲げ、あとは国会で議論をお願いする、ということになりますね。

尾辻

そうですね。正面から掲げれば国会での議論も始まります。難しいだろうからと、いつまでも正面から掲げなければ、いつまでも議論は始まりません。

―難しいという意味では、たばこ対策も難しいですね。次期計画は、削減目標の数値を入れることができるでしょうか?

門田

第一期の基本計画の時には、成人の喫煙率半減について、協議会議員は全員、賛成したんですね。それでも、成人の喫煙対策は最終的に残らず、未成年の喫煙のみになってしまいました。がん対策を銘打っている基本計画ですから、今回は、やはりたばこ対策ははずせないですね。

―がん対策予算関連ではどんな課題がありますか?

尾辻

がん対策費が足りない足りない、と言っているので一生懸命つけていますが、半額が自治体の負担になっていて、それを自治体が出せないために、せっかくの予算が全額は執行されず残ってしまう、という現状があります。ここは何とか工夫してほしい。せっかくの予算を全額執行できるような方法を考えてほしいですね。

また、小児がん対策については、我々もみんなでがんばって、対策費を獲得したいと思っています。そんなに患者の数が多くないのに対し、病院の数が多く、すべての病院の患者数は年1~2例というのでは、経験を積んだ治療にならない。少数の拠点病院をつくり、そこでしっかり診るようにしてほしいと思います。

―山本議員をはじめ多くの方が尽力され、実現したがん対策基本法で、日本のがん対策基本法で、日本のがん対策が大きく動き始めました。基本計画の改定など、ちょうど節目に来ています。そんな時期にこのような座談会を持つことができ、時宣を得た議論をして頂けました。最後に、皆さんから、次のステップに向けての抱負、期待などを語って頂いて、座談会を締めくくりたいと思います。

山本

命を切り捨てない、安心して納得のいく治療という、基本法の基本理念がいかされるようにして頂きたいと思います。がん患者さんがどう生きるかを最後まで尊重してもらえるような、そういうがん対策を目指して頂けたらと思います。

門田

繰り返しになりますが、中長期的なビジョンを持って、目の前の問題、課題に当たる、という基本方針を続けていきたい。

また、我々、命に限りがあることをみんな知っている。そこまで到達すると、万人平等。そうすれば、難しい問題も解決できると思う。そこまで認識してもらうと、難しいことも解決可能だと信じてやりたいと思っています。

尾辻

これまでやってきたことは決して間違ってはいません。ただ、もう少しスピードを上げることが大切なので、そういう意味で、ギアを変えてやっていきたいと思います。

鷲見

基本法の理念に基づき、患者さんの意見をきちんと聴き、がん政策に反映させていきたいと考えています。また、国としてやるべきこと、国でしかできないことをきちんと判断し、進めたいと思っています。

 「朝日新聞DIGITAL」の「apital」にご紹介したい記事が載っていました。

”患者の思いに寄り添うがん医療を” 2017年5月23日

追記“量子物理学が生物学・医学を変える日は近い”

『右側の図は印刷ミスではない。原子は目に見えないエネルギーでできていて、実体のある物質ではないのだから!』

『一つの原子はさらに小さな粒子から構成されていることがわかった。これだけでも驚天動地の大発見だが、さらに、原子がX線や放射線など、さまざまな「奇妙なエネルギー」を放出していることが明らかになり、大騒ぎになった。 ~中略~

量子物理学者が発見したのはこういうことだ。原子は物質だが、原子自体は絶え間なく回転しながら振動するエネルギーの渦巻きだ。よろめきつつ回り続けるコマのようなもので、それがエネルギーを放射している。 

画像出展:「思考のすごい力」

上記は “思考のすごい力” の “第四章 量子物理学が生物学・医学を変える日は近い” に出ています。

また、次のようなことも指摘されています。

ニュートン力学では超常現象を解明できない

『医学は日々進歩していくが、生きている身体は頑固なまでに定量化を拒んでいる。ホルモンやサイトカイン、成長因子や腫瘍抑制因子など、シグナルとなる化学物質の働くメカニズムが次から次へと発見されている。

だがそういったメカニズムでは超常現象は説明できない。自然治癒、心霊現象、驚くほどの筋力や耐久性、灼熱の石炭の上を火傷一つ負わずに素足で渡る能力、“気”を移動させて痛みを消し去る鍼灸師の力など、そのほかさまざまな超常現象が、ニュートン的世界観に立脚した生物学では説明不能だ。

医学部にいたときには、もちろん、これらの現象については全然考えてもみなかった。わたしも他の教官たちも学生たちに鍼灸療法やカイロプラクティック、マッサージ療法、祈祷などで病気が治るという主張は無視するように教え込んでいた。いや、それ以上だ。医者を名乗るペテン師の口上だといって弾劾さえしたのだ。それほど古典的なニュートン物理学を信じ込み、他の考え方はできなくなっていた。

いま挙げた療法はいずれも、エネルギー場が人間の身体の生理機能や健康に影響を及ぼしているという信念に基づくものだ。

人間の生体内システムは重複的

『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。

私は「当院の治療」の4つの基本方針の2番目に『エネルギー素の気血津液を調えること』をあげていますが、「エネルギー素」とは私が勝手に作った言葉です。一方、全くの無縁だった「量子論」とはエネルギーを柱としたものであるということを知りました。また、ブルース・リプトン先生は ”思考のすごい力” の中で「エネルギー場」という言葉を使っていました。

直感的に「鍼灸(東洋医学)と量子論」をモヤッと比較してみたいと思い、3冊の本を手に入れました(※印は“思考のすごい力”で紹介されていた本)。今後の宿題、がんばろうと思います。

●量子の世界 ※

●分子生物学入門 ※

●13歳からの量子論のきほん

がんと自然治癒力12

今回は勉強モードとして最後のブログになります。内容は「制御性T細胞」に関するものです。

国立がん研究センターのホームページにも「がんと制御性T細胞」と題するページがあり、その中で『がん細胞に対する免疫応答のなかでも注目を集めているのが、制御性T細胞と呼ばれる免疫抑制細胞です』との記述があります。また、下記はそのページに出ている「がんにおけるT細胞」のイラストです。 


 

出版:講談社(ブルーバックス)

発行:初版2016年1月20日

大項目は次の通りです。

プロローグ

第1章 樹状細胞の物語

第2章 制御性T細胞の物語

第3章 成人性T細胞白血病との戦いの物語

第4章 免疫チェックポイントの物語

第5章 インターロイキン6の物語

エピローグ

ブログでは「プロローグ」の全文、「第2章 制御性T細胞の物語」および「エピローグ」のそれぞれ一部をご紹介させて頂きます。

なお、「第2章 制御性T細胞の物語」の中の内容は以下になります。青字になっているのがブログで取り上げた項目です。

第2章 制御性T細胞の物語

「撃ち方やめ」を周知徹底

●大学院をあっけなく中退

●愛知県がんセンターのユニークな報告

一世を風靡した抑制性T細胞

坂口の前に現れた抑制性T細胞

●「細胞はCD8ネガティブ」

●「これだけは譲れない」

●学会から急に消えた抑制性T細胞

●運に恵まれ奨学金を手に

●米国でマーカーにメド

●免疫抑制剤で自己免疫疾患が起きる?

●IL2抑制で制御T細胞が減少

●シェバックの宗旨替えで追い風

●筑波で医薬品企業に売り込み

医療応用の青写真

「CD25」論文執筆を決意

●英『ネイチャー』から門前払い

●シェバックが直ちに追認

●『セル』に制御性T細胞登場

●抗原提示の分子メカニズム

イス取りゲームで免疫を抑制

制御性T細胞が存在する証拠

●関節リウマチを発症するSKGマウス

●SKGマウスの効用

●ファントム坂口

●マスター遺伝子の発見

●Foxp3遺伝子で制御性T細胞に変身

●生きた動物でも証明

●医療応用を目指して

プロローグ

一度かかった病気には、次はかからない。二度目の「疫」病からは「免」れる。「免疫」という言葉には、そんな意味が込められている。

そうした免疫の働きを担う主役の一つを人類が突きとめたのは、いまから百年以上も前のことだった。日本の北里柴三郎が、破傷風菌の毒素を中和する抗毒素 ―現代の私たちが「抗体」と呼ぶ免疫分子― を、留学先のドイツで発見したのである。

北里は残念ながらノーベル賞を逃したが、彼の“弟子”は長い時を経て師の無念を晴らした。北里研究所で研究に励み、微生物から感染症の特効薬を探り当てた大村智(北里大学特別栄誉教授)が、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのだ。

抗体のたぐいまれな働きは、西アフリカでエボラ出血熱が猛威をふるったときにも世界を刮目させた。運よく生き残った人の血液から抗体を含む血清が取り出され、患者の治療に使われたのだ。北里が考案した血清療法である。

北里から始まる現代免疫学の歩みは、私たちに「抗体医薬」という良薬ももたらした。異物を捕まえる抗体の性質を利用して、関節リウマチなどの自己免疫疾患やがんを治療する医薬だ。

抗体だけではない。人の体の中ではさまざまな免疫細胞が、外部から侵入した病原体や、頻繁に発生するがん細胞と戦いつづけている。外の敵にも、内の敵に対しても、免疫はさまざまな手段を駆使して、人類という種を守ってきてくれたのだ。

免疫の舞台で主役級の活躍をするものの一つが「樹状細胞」と呼ばれる免疫細胞だ。体の中をパトロールして、侵入した病原体を長い腕で捕まえると、「こいつが敵だ」といって仲間の免疫細胞に“見せ”にいく細胞である。

樹状細胞のこうした営みは「抗原提示」と呼ばれる。「抗原」とは病原体が持つ印のこと。何はともあれ、わが身を襲撃してきた犯人の顔がわからなければ、免疫はことを起こせない。その点で樹状細胞は、免疫に欠くべからざる存在なのだ。

抗原提示の営みは、何によって、どのように行われているのか。こうした根源的な疑問と謎に魅了され、一生をかけて樹状細胞を隅々まで調べ尽くしたのは、京都大学の稲葉カヨとカナダのラルフ・スタインマンだった。

樹状細胞に勝るとも劣らず、生命科学の教科書を塗り替える働きを持つ免疫細胞も、日本人によって見つかった。敵を攻撃しようとする免疫の営みを抑制する「制御性T細胞」だ。大阪大学の坂口志文が、日米を転々としながら、約三十年もの歳月をかけて突きとめたユニークな細胞である。

せっかく病原体と戦っている免疫細胞の足を、わざわざ引っ張らくともよいではないかと思われるかもしれない。だが、その行動には合理的な理由がある。

びっくりされるかもしれないが、私たちの体の中には、わが身の臓器や組織を敵とみなして攻撃する恐ろしい自己反応性の免疫細胞が少なからずいる。そして、攻撃好きなそれらの免疫細胞は、骨や関節を破壊する関節リウマチなど、さまざまな自己免疫疾患を引き起こすこともわかってきた。

そこで、こうした“身内の凶悪犯”を封じるべく、免疫があらかじめ備え持っているのが制御性T細胞。自己反応性の免疫細胞が悪さをしはじめると、この細胞が現れ「攻撃中止」を命令するのだ。

ところが、話はこれだけでは終わらない。実は制御性T細胞は、あってはならない悪事の犯人でもあるからだ。専門家の間では、この細胞はがん細胞の“盾”となって、がん細胞を攻撃しようとする免疫細胞の邪魔をすることが知られている。

こんな不可解で奇妙な制御性T細胞のふるまいの謎は、現在では分子レベルで解明されている。制御性T細胞は「免疫チェックポイント分子」といって、自動車にブレーキをかけるように免疫細胞の攻撃を制止する特殊な分子を備え持っていたのだ。

免疫チェックポイント分子はいわばブレーキ・ボタン。制御性T細胞とは、生まれたときからずっと、このボタンを持つよう運命づけられた免疫細胞なのだ

この特異な分子は、他の免疫細胞の表面に一時的に現れることもある。たとえばキラーT細胞といって免疫細胞の中で殺し屋の異名を持つ細胞が、がん細胞と戦いはじめたとしよう。このとき、敵を退治したあとも攻撃を続け、正常な細胞を傷つけるなどの「やりすぎ」が起きては困る。そこで免疫は、頃合いみて「撃ち方やめ」のシグナルを出す免疫チェックポイント分子を、臨機応変にキラーT細胞の表面に現れるようにした。

ところが、がんの悪知恵もすごい。がん細胞は、キラーT細胞の攻撃を受けると自分の体の表面にチェックポイント分子と結合する分子を出現させ、キラーT細胞の攻撃をストップさせてしまうのだ。

狡猾ながんの戦術に気づいた免疫研究者や医者の関心は、免疫チェックポイント分子へと向かった。がんがそこまでやるのなら、我々はブレーキを悪用されないようにボタンをブロックする抗体医薬をつくろう。そうすれば、免疫細胞はノンストップでがんと戦ってくれる ―という作戦である。

いま、最も注目を集めている免疫チェックポイント分子は、日本の本庶佑が京大の教授時代に偶然、発見したPD-1という分子だ。そして、PD-1に注目してがん治療のための抗体医薬を開発したのもまた、日本の製薬企業だった。

がんとの戦いに比べると派手さはないかもしれないが、現代免疫学は、原因が不明で治療が難しかった難病にも堅実に迫りつつある。免疫細胞の過度な攻撃によって起こる自己免疫疾患性の難病も、次第に抗体医薬によって症状を改善できるようになってきたのだ。

これから語るのは、日本の研究者たちの不断の努力と活躍を縦糸に、最新の成果を横糸に織り込んで紡ぎ出した、現代免疫学の物語。読者ははるかな過去から私たちの生命と健康を守りつづけてきた免疫がいま、がんや難病の制圧に挑み、かつてない成果をあげはじめたことに息を呑まれるだろう。

第2章 制御性T細胞の物語

●「撃ち方やめ」を周知徹底

これから語るのは、大阪大学教授の坂口志文が発見した「制御性T細胞」の物語だ。独自の研究を積み重ね、免疫学の常識を覆した坂口の研究人生を縦糸に、制御性T細胞の不思議な営みを横糸にして、物語を紡いでいく。

最初に、制御性T細胞のおおよその働きをお伝えしておこう。坂口に言わせると、敵の襲撃から生命体を守る免疫のしくみは、西部劇の保安官そっくりだ。平和な町にやってきた“ならず者”の病原菌やウィルスを、保安官がきっちりやっつけてくれるからだ。

 

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

だが、私たちの体の中の保安官はときに、かなり粗雑な行動をとることもあるらしい。乱暴者を見つけて攻撃を始めたのはよいのだが、頭に血が上って冷静さを失い、過剰な発砲をやめられなくなってしまうのだ。

とばっちりを受けるのは近隣にいる町の住民で、保安官が乱暴者めがけて撃ったはずの銃弾を浴びてしまう。さらに恐ろしいことに、住民をならず者と見誤って痛めつけてしまうケースも少なからず起こっているらしい。

免疫細胞は誕生した直後に、胸腺という特殊な組織で身内の「顔」をしっかり記憶し、仲間を決して攻撃しないように教育されている、とかつての免疫学は教えてきた。

 

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

 

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

 

下記をクリック頂くと、NCBI(National Center for Biotechnology Information)に掲載されている論文のページが表示されます。

Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor alpha-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases.

だが、いささか楽観的すぎたようだ。最近の研究では、胸腺にも手抜かりや不手際が少なからずあり、教育不行き届きの免疫細胞を送り出していることがわかってきた。私たちの体にはわが身を敵とみなす恐ろしい自己反応性の免疫細胞がたくさんうろついていて、正常な臓器や組織を攻撃していたのだ。

おっかない保安官ならぬ免疫細胞たちがそうやって実際に引き起こす病気が、自己免疫疾患なのである。

骨が溶け、最後に関節まで破壊されてしまう関節リウマチ、膵臓のインスリン生産細胞が破壊されてしまう1型糖尿病、脳や脊髄の神経細胞を覆う膜が攻撃されて多発性の硬い病巣組織ができる多発性硬化症など枚挙にいとまがない。

しかし、免疫は自らの不完全さを意識していたのか、自らのしくみの中に、不思議な細胞を内在させていた。免疫の働きが過剰になったり、自己反応性の免疫細胞が悪さを始めたりしたときに、やりすぎを抑制して「撃ち方やめ」を周知徹底させる役割を担う細胞だ。それが、坂口が発見した制御性T細胞である。

もし制御性T細胞がなかったら、免疫細胞はブレーキをかけられない車のように暴走し、いまよりもはるかに多くの人が自己免疫疾患で苦しむことになっただろう。制御性T細胞の功績は実に大きい。

しかし、私たちの体はこのような安全弁のような細胞を持ったことで、その代償も支払わねばならなくなった。あろうことか、この細胞は体にできたがん細胞の“盾”となって、がん細胞を攻撃しようとする免疫細胞の邪魔をしてしまうのだ。まるでその様子は、悪者の用心棒。生き物の体の不思議さと理不尽さはここに極まれり、だ。

だからいま、研究者や製薬会社の関心は、制御性T細胞の悪さをいかに封じるかに向かう。前章で紹介したスタインマン(ラルフ・マーヴィン・スタインマン。カナダの免疫学者、細胞生物学者。2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞)の闘病を語った際に紹介した抗体医薬ヤーボイも、実はそうした働きを備えた新しいがん治療なのだ。

ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑先生が発見したのは免疫チェックポイント分子のPD-1。そして抗PD-1抗体の製品名が「オプジーボ」。

一方、製品名「ヤーボイ」は免疫チェックポイント分子、CTLA4をターゲットとした製品。

いずれも「免疫チェックポイント阻害薬」であり、仲間ということになります。

画像出展:「AnswersNews

坂口は京都大学の医学部を卒業した直後に制御性T細胞の研究にのめりこみ、日米を転々としながら四半世紀もの歳月をかけて、その存在を実証した不屈の研究者だ。読者はこれから始まる物語を読んで、坂口の歩んだ道のりの険しさと、制御性T細胞によって描き直された免疫の世界の不思議な営みに、きっと驚嘆されることだろう。

一世を風靡した抑制性T細胞

ここで、時計の針を十年ほど逆に回してみよう。なぜかというと、坂口の人生に重大な影響を及ぼすことになる免疫細胞が、その時期に発表されているからだ。それは制御性T細胞に先駆けて、免疫の営みを抑制する細胞として一世を風靡した「抑制性T細胞」(サプレッサーT細胞)である。

抑制性T細胞というアイデアを最初に唱えた研究者は、日本の多田富雄や米エール大学のリチャード・ガーションたちだった。

多田が抑制性T細胞を唱えるきっかけとなったのは、1968年に千葉大学で始めたある実験だった。

多田はこれに先立つ米国留学で、アレルギーを引き起こすIgE抗体を発見し世界に名をとどろかせた石坂公成に師事していた。そんな彼は日本に戻るや、IgE抗体と二つの免疫細胞(T細胞とB細胞)の関わりに焦点を当てた研究を開始した。

「このような研究はまだ誰もやっていない。先頭を走るのは自分だ」。多田は自信満々だった。

だが、IgE抗体の量を測定してみると、IgE抗体は一時的に増加するものの、すぐに減ってしまったのだ。

さらに多田たちをとまどわせる現象も起きた。IgE抗体の量を減らすためにX線を照射したり胸腺を摘出したりすると、逆にIgE抗体の数値が異常に高くなるというデータが現れたのだ。いったい何が起きているのか、多田は頭を抱えてしまった。

多田がのちに千葉大学で行った講演によると、そのアイデアは彼が朝風呂に入っているときにひらめいたのだという。「ひょっとしたら僕たちはX線照射や胸腺摘出によって、免疫の働きを抑制する細胞を減らしていたのではないか」と。

多田は自宅から研究室に駆けつけると、ただちに実験を開始した。胸腺を摘出されてIgE抗体の量が異常に増えたネズミに、正常なネズミの胸腺を移し入れる実験である。

結果は劇的だった。IgE抗体の数値は思ったとおり、大幅に下がってくれた。胸腺の移植によって出現した未知の免疫細胞が、B細胞が抗体をつくり出す営みにブレーキをかけたのだ、多田は確信した。

1971年に米国のワシントンで開催された第一回国際免疫学会において、多田は意気揚々と「免疫の働きを抑制する抑制性T細胞を発見した」と発表した。抑制性T細胞という新たな免疫細胞の出現に聴衆は驚き、1970年代は「サプレッサー・エイジ」と呼ばれるほど、研究者の間で抑制性T細胞の研究は大流行するにいたった。

実は、抑制性T細胞という言葉もサプレッサーT細胞という言葉も、現在では死後に近い。だが、「免疫の働きを抑制する細胞」という基本的な概念の創始者の一人はまぎれもなく多田だった。いまから40年以上も前に新しい概念を提唱した彼の卓越した先見性に敬意を表したい。

坂口の前に現れた抑制性T細胞

国際免疫学会で多田が喝采を浴びていた頃、坂口は医学部に入学したばかりの学生だった。この時期はまだ免疫への関心はあまりなく、抑制性T細胞という概念さえ知らない青二才だった。

その坂口が免疫に好奇心を持ったのは、IgE抗体を発見した石坂公成が京大の教授に就任するといった噂がキャンパスに流れた頃だっただろうか。折しも坂口は、妊婦の免疫が胎児を攻撃しない免疫寛容や、逆に免疫が自分の臓器や組織を攻撃する自己免疫疾患の話題を講義で聞き、次第に好奇心を持つようになっていた。

この時期、免疫学会のシンポジウムに顔を出してみると、流行のサプレッサーT細胞の話題で参加者はとても盛り上がっていたという。

1980年、坂口は愛知県がんセンターを去り、京大に戻ってきた。医学部の免疫研究施設に体をいったん落ち着け、ここで博士号を取得するための論文を執筆しようとしたのだった。

論文のテーマはもう決めていた。がんセンターでの研究成果をそのまま書こうというのだ。だが、これは坂口にとってただならぬ選択だった。なぜなら彼が見つけた制御性T細胞は、多田の唱える抑制性T細胞とは似て非なるものだったからだ。

このとき、すでに多田の抑制性T細胞は世界でメジャーな存在となっていた。坂口はこれから書く論文の中で、超大物の細胞と対峙しなければならなかった。

詳しく事情を説明しよう。細胞の表面には、その細胞が持つ特徴を表す細胞表面分子(CD:CDの「C」は「群れ、集団」を表すclusterの頭文字。「D」は「分化、差異、派生」といった意味を持つdifferentiationの頭文字)が顔を出している。これをマーカーとして使えば、免疫細胞も簡単に分類することができる。

坂口が愛知県がんセンターにいた時期は、T細胞のマーカーがある程度、判明しつつあった頃だった。たとえば免疫系の司令塔といわれるヘルパーT細胞のマーカーは「CD4」であることがわかってきた。また、ウィルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃するキラーT細胞は「CD8」を持っているとの報告も現れていただろうか。

マーカーに注目した呼び方をするなら、ヘルパーT細胞は「CD4・T細胞」であり、キラーT細胞は「CD8・T細胞」である、というわけだ。

ならば、坂口が突きとめた新種の免疫細胞(つまり制御性T細胞)の正体は何なのだろうか。私たちはつい先ほど、この新しい細胞は「CD4・T細胞」だと語ったばかりだ。坂口はこの細胞の表面にCD4を見つけていたのだ。ならば制御性T細胞は、同じく表面にCD4を持つヘルパーT細胞と同種の細胞なのだろうか。

いや違う。制御性T細胞の表面には確かにCD4はあるが、実はそれ以外に「CD25」という分子も存在していたのだ。つまり制御性T細胞はヘルパーT細胞とは異なる細胞であり、「CD4・CD25・T細胞」と呼ぶべき存在だったのだ。ちなみに、CD25は坂口が1995年に、制御性T細胞と他のT細胞を識別するための重要なマーカーとして発表する細胞表面分子である。

医療応用の青写真

制御性T細胞はどのような医療応用ができるのだろうか。当時、坂口の脳裡に浮かんだいくつかのアイデアを語ってみよう。

まず、制御性T細胞による過剰な免疫反応の抑制。私たちの体は免疫細胞が病原体を攻撃してくれるおかげで感染症から守られている。しかし免疫の営みが強いせいで起きる病気もある。花粉症などのアレルギーや関節リウマチのような自己免疫疾患だ。

だが制御性T細胞を活用して免疫の攻撃を抑制すれば、アレルギーも自己免疫疾患も治療できる可能性がある。体内の制御性T細胞を取り出して、体外で増やしてから体に戻すといった方法が確立すれば、治療は現実のものとなるだろう。

臓器移植への応用も視野に入る。臓器提供者(ドナー)の臓器を患者に移植すると、多かれ少なかれ拒絶反応が起こる。患者の体の免疫細胞が、移植された臓器を異物とみなし攻撃を始めるせいだ。

しかしこの反応も、制御性T細胞によって抑制することができるかもしれない。うまくいけば、近未来には免疫抑制剤を使わずに臓器移植ができるようになる可能性がある。

また、骨髄移植では、通常の拒絶反応とは異なり、移植された骨髄から生まれた免疫細胞が患者の体を異物とみなして攻撃する移植片対宿主病が起きる。だが、これも制御性T細胞によって抑制できるはずだ。

制御性T細胞の働きを弱めることでも、さまざまな応用が見えてくる。たとえば感染力や攻撃力がとても強い病原体がもたらす感染症の治療では、一時的に制御性T細胞の働きを弱めて、病原体と戦う免疫細胞の攻撃力を強めれば効果的かもしれない。

敵は体の外からやってくる病原体だけではない。体の内にはがん細胞という凶悪な敵がいる。しかも狡猾ながん細胞は、制御性T細胞をうまく手なずけて自分の味方にしてしまい、免疫細胞の攻撃から免れる術も体得している。

ならば、がんとの戦いで有効な方策は、がん細胞の味方に回った制御性T細胞の動きを阻害することだ。こうした働きを備えた新薬が、スタインマンが使ったヤーボイだった。

「CD25」論文執筆を決意

坂口がようやく雇用期限のない安定した地位を手に入れたのは、1995年のことだった。彼は東京都老人総合研究所で免疫病理部門長というポストを獲得した。彼が生まれて初めてボーナスをもらったのもこの研究所だった。坂口はここで、いよいよ長年の研究の集大成ともいうべき研究論文を書くことを決意する。

論文を発表してから16年後の2011年4月号で『米国免疫学会誌』が「免疫学で一時代を画した論文(Pillars Articles in Immunology)」と最大級の評価をした論文である。

その頃までに坂口が突きとめていた事実をひとまず、まとめておこう。

まず、制御性T細胞はCD4とCD25という二つの細胞表面分子を備えた免疫細胞だった。免疫の司令塔とされるヘルパーT細胞も、CD4を持っているし、刺激を受ければCD25が発現することもある。しかし、制御性T細胞は生まれつきCD25を備えている。これが二つの細胞の決定的な違いだ。

また、しばらく前に語ったようにCD25の正体は、IL2受容体のα鎖であることも判明していた。制御性T細胞が胸腺で常に生まれつづけていることもわかった。

CD25のマーカーとしての能力は卓越していた。坂口はこれまでの研究で制御性T細胞の選別に役立ちそうな分子をいくつか見つけていたが、CD25はそれらの候補を凌駕していた。

イス取りゲームで免疫を抑制

さて、そこで制御性T細胞と免疫チェックポイント分子のCTLA-4だ。この分子はいったいどうやって免疫の営みを抑制するというのだろうか。

イラストをご覧いただきたい。これは体内で病原体を発見した樹状細胞が、その断片を掲げて免疫の司令塔ヘルパーT細胞のもとに抗原提示をしようとやってきた場面である。

 

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

 

画像出展:「免疫が挑むがんと難病」

樹状細胞の右上にのっているのがヘルパーT細胞だ。先ほど語ったように、ヘルパーT細胞の表面からは副刺激分子のCD28が出ていて、樹状細胞の表面からは補助副刺激分子B7が出ている。抗原提示のプロセスが終わり、CD28とB7が結びついて補助シグナルが流れると、いよいよ戦闘開始だ。

やや専門の度が強いかもしれないが、実はこのとき、キラーT細胞もヘルパーT細胞と同様に樹状細胞とつながっていて、抗原提示を受けている。すると、ヘルパーT細胞は近くにいるキラーT細胞に向かって情報伝達分子を放出して増殖を促す。こうしてキラーT細胞は大部隊に膨れあがり、がんとの戦いに出動することとなる。

ところが、ここに制御性T細胞が現れると、ヘルパーT細胞やキラーT細胞にとって面倒な事態が生じる。上のイラストのように樹状細胞の上に制御性T細胞がのしかかって“合体”して、抗原提示の妨害をするからだ。

このとき制御性T細胞の“武器”が、CTLA-4分子。制御性T細胞はこの分子を使って、樹状細胞の表面に出ているB7分子と結びついてしまうのだ。これは、本来であればヘルパーT細胞やキラーT細胞が落ち着くべき場所を、制御性T細胞が“横取り”したことにほかならない。

制御性T細胞の数が少なければ、ヘルパーT細胞などの受ける影響は少なくてすむ。しかし、制御性T細胞が大挙してやってきたときは具合が悪い。しかも、樹状細胞との相性は、制御性T細胞のほうがヘルパーT細胞よりも優っている。そもそも制御性T細胞の表面にはCTLA-4分子が多く出ているうえに、接着分子といって、文字どおり樹状細胞と接着する分子も発現しているからだ。

こうして、制御性T細胞が樹状細胞の表面を覆いつくしたとしよう。そうなるともはや、ヘルパーT細胞などには樹状細胞と物理的に接触する余地がなくなってしまう。

つまり、制御性T細胞と他のT細胞の関係は、限られた席を争ってイス取りゲームをしているライバルどうし。制御性T細胞の群れが大きいと、その分、ヘルパーT細胞などのT細胞は樹状細胞と合体できなくなって、抗原提示が阻害され、免疫の営みが低下してしまうのだ。

制御性T細胞はイス取りゲームのイスをただ奪うだけでなく、イスの数そのものを減らすことで抗原提示を阻害していることもわかっている。

このプロセスでも暗躍するのはCTLA-4分子。この分子を介して制御性T細胞が樹状細胞とつながると、樹状細胞は表面に補助刺激分子のB7を発現しなくなってしまう。そうなるとヘルパーT細胞には補助シグナルが入らず、抗原提示を受けても戦闘開始の命令を出せなくなってしまうのだ。

制御性T細胞が存在する証拠

がんになった人の体では、キラーT細胞ががん細胞をやっつけようとしても、制御性T細胞に邪魔されてしまう。免疫細胞の過度の攻撃を防ぐのが自分の任務と心得た制御性T細胞が、がん細胞の“盾”のようにキラーT細胞の営みを抑制するからだ。

ヤーボイとは、そうした制御性T細胞の悪事を封じるための抗体医薬。制御性T細胞の表面にある免疫チェックポイント分子のCTLA-4分子をブロックするモノクローナル抗体をつくり、これをがん治療用の医薬としたものだ。

だが、ヤーボイは強い副作用を伴う医薬でもある。ヤーボイの働きによって制御性T細胞の営みが封じられると、免疫細胞が激しく腸管組織を攻撃する結果、お腹の調子が乱れてただならぬ下痢や腹痛が起きる。

実際、(ヤーボイを服用していた)スタインマンは激しい下痢に襲われ、あまりの副作用の強さに治療の継続を断念してしまったという。制御性T細胞が確かに存在することを示す生々しい証拠といえるだろう。

スタインマンがヤーボイの投与を受けたのは、闘病生活の後期の頃だったといわれる。体がもっと元気な頃であれば副作用を我慢することができ、がんとの戦いをもっと有利に展開できたかもしれない。

制御性T細胞が備えるCTLA-4分子は最近、がんの免疫療法への応用で急速に注目を集めている。免疫チェックポイント分子は他に仲間もいる。その一例はPD-1分子で、スタインマンは一時、この分子をブロックする抗体医薬の利用も検討した、と伝えらえる。PD-1は1990年代に京大の本庶佑らが発見した分子だ。がんの免疫療法とは切っても切れない制御性T細胞や免疫チェックポイント分子については、のちにあらためて、たっぷり語ることにしよう。

エピローグ

いつの頃か、生き物の中には体内に細菌を取り込み、共生関係を築くものが現れた。その関係は生命の進化が進んでも延々と受け継がれ、人という種もまた、天文学的な種類と数の細菌を腸内に棲まわせるようになった。そして他の組織や臓器では細菌を攻撃する免疫も、腸の中ではおとなしく襲撃を慎む大人の知恵を身につけた。

胎児への攻撃自制も、細菌との共生も、専門家が「免疫寛容」と呼ぶ不思議な営みである。

なぜ、免疫は自らにブレーキをかけるのか。この問いに対する概念的な「解」は比較的、早期に現れた。1970年代に提唱された抑制性T細胞である。免疫の攻撃を抑制する特殊な細胞を免疫の一員に加えれば、免疫寛容の現象はきちんと説明がつけられたのだ。

しかし、概念と実体にはことのほか距離があった。抑制性T細胞の探索は難航し、ついには実在の証拠とされたデータが幻とわかり、研究者の関心は急速に薄れていった。「免疫寛容の時代」の始まりである。

現代免疫学がようやく深い轍を乗り越え、確かな実体を捉えることに成功したのは少なからぬ時間が流れたあとのこと。かつての有力候補とは似て非なる制御性T細胞と、制御性T細胞などの表面に現れる免疫チェックポイント分子の存在とその働きが、相次ぎ確認されたのだ。

そして、その営みに注目した抗体医薬が医療現場で使われるに及ぶと、医師や研究者は、一度は否定された「免疫にブレーキをかける」細胞や分子が実在することを文句なしに信じざるをえなくなった。 

~中略~

これほどまでに存在感を高めた制御性T細胞とチェックポイント分子を前に、私たちはどのような心構えをしたらいいのだろう。一案は私たちがいま、免疫と病気をめぐる基本的なものの見方(パラダイム)が遷り変わるまっただ中にいる、と自覚することかもしれない。

免疫とはかつて、外部からやってくる病原体を攻撃し排除する防衛システムと考えられた。その防衛力を削ぎ落すブレーキの営みは、かつてなら免疫の対極に位置するものと捉えられた。

しかし、その認識のしかたはどうやら間違っていたらしい。免疫は、病原体やがんなどの敵と向き合い対峙する能力の内に、攻撃をほどほどに収めるしくみを重要な要素として含んでいたのだ。

免疫の攻撃力が強ければ、力をもてあました攻撃系の免疫細胞は身内の臓器や組織を攻撃し、深刻な自己免疫疾患を起こす。逆に攻撃力が弱くなれば、人は感染症やがんにかかりやすくなる。

私たちはこのように、免疫の両輪といえるアクセル(攻撃)とブレーキ(抑制)のバランスの中で、ある時は健康に生き、ある時は病気になったり死んだりしているのだ。

大切なのはアクセルとブレーキの平衡。両者のバランスがほどよくとれるなら私たちは、がんにかかることもなく、自己免疫疾患に悩まされることもなく天寿を全うできるだろう。

バランスが崩れてがんや自己免疫疾患になっても、私たちは徒手空拳でこれらの病気と対峙するわけではない。ブレーキを解除する新しい抗体医薬の登場によって、かつて効用が軽視されがちだったがんの免疫療法は、外科手術、放射線治療、抗がん剤と肩を並べるほどの治療成績をおさめつつあるからだ。

しばしば原因不明の難病扱いをされてきた自己免疫疾患のいくつかは、治療法がわかってきた。視神経脊髄炎や強皮症、大動脈炎症候群などの病気では、背後にインターロイキン6(IL6)という炎症性の情報伝達分子が暗躍していることが判明した。その結果、関節リウマチの治療に使う抗体医薬(アクテムラ)がこれらの病気の治療でも良好な成果を収めはじめたのだ。

バランスを欠いたアクセルとブレーキの関係を修復するための手がかりも見えてきた。私たちがお腹の中に棲まわせている腸内細菌は、ただ免疫細胞から攻撃を見合わせてもらっているだけの軟弱な存在ではなく、免疫にさまざまな刺激を与え影響を及ぼす重要な存在だった。

たとえばある種の腸内細菌がつくる酪酸は、免疫系に作用して、ブレーキ役の制御性T細胞を増やすことがわかっている。また、特定の細菌は自己免疫疾患を引き起こすヘルパーT細胞を誘導することも明らかとなった。

つまり腸内細菌は、時と場合によって免疫力の攻撃力を高めたり、逆に抑制力を強めたりしているのだ。

腸内細菌の研究が緒に就いたばかりだといって、あなどってはいけない。免疫学の畑ではないが、現代の研究者は腸内細菌の移植によって、太ったネズミと太らないネズミをつくり出しさえしている。

~以下省略~

がんと自然治癒力11

この本を選んだのは、一つは「ファイトケミカル」を詳しく勉強したかったことです。そして、もう一つは著者である高橋弘先生が、停滞する日本でのがん医療に疑問をもたれ、がん医療で成果を上げているアメリカ(ハーバード大学医学部)へ、がんと免疫学を研究するために留学されたという、その決断力と行動力の凄さに引きつけられたためです。ちなみに、サッカーでライバル関係にあった浦和4校の1校、浦和高校卒というのも小さな理由です。

なお、今回の主な目的はがんの基礎知識のおさらい具体的ながん対策(予防)を知るということになります。

 

出版:ソフトバンク新書 

初版発行:2011年8月25日

ファイトケミカルという植物の天然成分の活用の第一人者でもある高橋先生に、ご自身の医療のスタイルと特徴、現在の医療の問題、これからの医療のあり方について存分に語っていただいた。

信頼と安心の治療を…

こちらのページからは次の情報にもアクセスできます。

・ファイトケミカルのビデオを見る→動画ページへ

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・ガンにならない3つの食習慣のビデオを見る→動画ページへ

ブログは本に書かれた内容を元に、要点と感じた個所を短くまとめ、列挙したかたちになっており、本書の文章を忠実に書き写してはおりません。なお、大項目の8章は次の通りです。

第1章 なぜガンになるのか?

第2章 ファイトケミカルでガンを撃退!

第3章 ガンにならない食習慣①―ファイトケミカルを摂る

第4章 ガンにならない食習慣②―低GI値の食品を選ぶ

第5章 ガンにならない食習慣③―過剰な鉄分摂取を控える

第6章 ガンを予防する9つのポイント

第7章 免疫力を高めればガンは予防できる

第8章 野菜と果物でガンに打ち勝つ

このうち、4章と8章以外の6つを対象にしていますが、中項目の一部はとばしており全てをカバーしてはおりません。

ご参考までに対象外の4章と8章の詳細をご紹介します。

第4章 ガンにならない食習慣②―低GI値の食品を選ぶ

 2型糖尿病の人はガンになりやすい

 糖尿病とはどういう病気なのか

 2型糖尿病がガンを引き起こす

 インスリンがガンを成長させる

 糖尿病予備群もガンになりやすい

 低GI値の食品を選ぶ

 食べる順番にも気をつける

 そばの食べ方でファイトケミカの摂取量が変わる

 エンプティカロリーを避ける

 インスリンは肥満ホルモン

第8章 野菜と果物でガンに打ち勝つ

 病めるアメリカの苦闘

 現代病は“食源病”である!

 『マクガバン・レポート』の3つの影響

 デザイナーフーズ計画の登場

 デザイナーフーズ・リストから学ぶこと

 『マクガバン・レポート』と『デザイナーフーズ計画』の成果

第1章 なぜガンになるのか?

  ガン細胞とは何か?

●ガン細胞はアポトーシス(自然死)を免れるメカニズムをもっており、増殖しても死なないやっかいな細胞である。

 ガンは遺伝子の異常で生まれる

●細胞分裂の際、遺伝子情報のコピーに問題が発生し、元の細胞とは異なる遺伝子情報の細胞ができる。 

 ガンは遺伝しない

●一般的に「ガン体質」とか「ガン家系」といった言葉を耳にするが、親のガンがそのまま子どもに遺伝することはない。

 ガンの芽は毎日5000個生まれている

●体は60兆個ともいわれる細胞の集まりであり、24時間休みなく、古い細胞を壊しては新しい細胞に置き換えるという「新陳代謝」を行なっている。細胞の遺伝子をコピーして新しい細胞を生み出す代わりに、元になった古い細胞がアポトーシスを起こして自然死する。新陳代謝により、毎日1兆個が死に、同じ1兆個が細胞分裂で新たに生まれている。日々生まれている1兆個の細胞のなかで、遺伝子の異変を持つものは5000個から6000個といわれている。これがガン細胞の芽である。ガン細胞が生まれる確率はわずかに2億分の1である。 

 ガンの芽は9年かけてガンになる

●ガンとは、ガン細胞が増殖して0.5~1cmの大きさになり、肉眼で見えるようになったもの。重さは約1gほど。10億個ほど集まってこのサイズのガンになる。1個のガン細胞が10億個ほどに増えてガンになるまでは、平均9年かかる。 

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 発ガンのプロセス①―イニシエーション(引き金)

●ガンの芽が生まれるのは遺伝子異常によるミスコピーであり、発ガンの第1段階。これをイニシエーションといい、ミスコピーを起こす引き金物質を「イニシエーター」と呼ぶ

●タバコが原因で起こるガンは全体の30%とされている。喫煙すると数千種類もの化合物が生じるが、その中に数十種類のイニシエーターが含まれている。受動喫煙が問題視されるのは、タバコから立ち上る煙(副流煙)には、喫煙者が吸い込む煙(主流煙)より有害物質が多く含まれているため。 

 発ガンのプロセス②―プロモーション(促進)

●イニシエーションで生まれたガン細胞が増殖するのが、発ガンプロセスの第2段階の「プロモーション」。プロモーションを起こす物質や要因を「プロモーター」と呼ぶ。

●イニシエーターによって遺伝情報が書き込まれたDNAは一部を損傷しただけではガンにならない。それはDNAには損傷した部分を修復する自然治癒力が備わっているからである。

●DNAの一部の損傷、その傷ついた細胞が繰り返しプロモーターに晒されると、自然治癒力による修復が追いつかなくなる。細胞のアポトーシスの機構が働かなくなると、そこからはタガが外れたように、ガン細胞が猛烈なスピードで増殖し、9年ほどかけて、目に見えるガンに成長する。

●プロモーターは、イニシエーターと重なるものが少なくない。プロモーターの筆頭に挙げられるのも、やはりタバコである。タバコの煙に含まれる各種の化学物質はガンの増殖を促進する。活性酸素も同様である。  

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 発ガンと放射線

●放射線による発ガンは、その他の発ガンと同じく、活性酸素が関係することが最新の研究で明らかになった。放射線が人体の60%を占める水を電離分解し、活性酸素を産生。この活性酸素がDNAを傷つけて発ガンの原因になる。

●外部被ばくも怖いが、体の内部から被ばくする「内部被ばく」は、さらに危険である。放射能を帯びたチリやホコリ、あるいは水や食べ物が鼻や口から入ると、それらが体内で放射線を放出することで内部被ばくする。

 免疫力の低下がガンを生む

●免疫は疫病だけでなく、ガンのように体内で生じた異物を安全に処理する働きもある。ガンが発生する背景には、免疫が正しく働いていないという事実がある。

ガンの芽がガンになるには、①イニシエーション、②プロモーション、③免疫力の低下― という3つの条件がある。そして、この3大条件をすべてリセットしてくれるのが、野菜や果物のように日常的に摂取できる食べ物に含まれている「ファイトケミカル」である。

第2章 ファイトケミカルでガンを撃退!

 ファイトケミカルとは?

●「ファイトケミカル」は、ガンの芽がガンに成長するプロセスである、①イニシエーション、②プロモーション、③免疫力の低下という3つの悪条件をことごとくブロックしてくれる。

●この「ファイト(Phyto)」はギリシャ語で「植物」という意味であり、ファイトケミカルは日本語に訳すと「植物がつくる化学物質」となる。ファイトケミカルは、植物が自らを守るためにつくり出した天然成分である。

●植物は自由に動き回れる動物とは異なり、同じ場所で生き続けなければならず、外敵や紫外線から自らを守り、子孫を残すための種子を保護するために、ファイトケミカルをつくり出した。

●ファイトケミカルのおよそ9割は、野菜や果物など、現在見つかっているのは約1500種類だが、実際は1万以上あるとされている。

 ファイトケミカルの2つの特徴

●第1の特徴は、ファイトケミカルは植物のみがつくる成分で、ヒトをはじめとする動物はつくることができないということ。

●第2の特徴は、ファイトケミカルはこれまでの栄養学が定義する「栄養」ではないということ。

●現代の栄養学が定義する「栄養」とは、カラダを構成する素材をつくり、生きるために必要なエネルギー源を提供し、体内の代謝を調節してくれるもの。脂質、タンパク質、糖質の3大栄養素に、ビタミン、ミネラルを加えたものを5大栄養素と総称している。

 ファイトケミカルは“第7の栄養素”

「第6の栄養素」である食物繊維に続き、ファイトケミカルは「第7の栄養素」として世界中の医療関係者に注目されている。

 ファイトケミカルの抗ガン作用―抗酸化作用

●ファイトケミカルの抗ガン作用は、①抗酸化作用、②発ガン物資の抑制作用、③免疫増強作用―の3つである。

●活性酸素は呼吸によって取り入れる酸素の2%は活性酸素に変化する。

活性酸素は酸化力(毒性)によって細胞を攻撃し、さまざまな病気や加齢の原因となる。

●活性酸素は細胞の遺伝子変異を起こす。つまり、発ガンの第1段階でうごめくイニシエーターである。

●抗酸化作用は活性酸素を無毒化するが、加齢とともに作用が低下する。

活性酸素はストレス、紫外線、過剰な運動などにより発生量が増える。すると、抗酸化作用では処理が間に合わず、活性酸素(スーパーオキシド)が溜まり、「ペルオキシナイトライト」という毒性の強い活性酸素に変化する。特に過酸化水素から生じる「ヒドロキシラジカル」はスーパーオキシドの数十倍といわれ、しかも、分解するための酵素が存在しないという、非常に恐ろしいイニシエーターである。

 ビタミンの100倍の力!

●ファイトケミカルが持っているガンの芽を摘むための抗酸化作用の働きはビタミンを圧倒している。「プロアントシアニジン」(クランベリーなど)はビタミンEの約50倍、ビタミンCの約20倍。「リコピン」(トマト、スイカなど)はビタミンEの約100倍、「カテキン」(緑茶など)は約20倍である。

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 ポリフェノールが酸化を防ぐ

●問題とされているコレステロールは善玉(HDL)も悪玉(LDL)も中身は同じ、外側のカプセルが違うだけの話。問題はコレステロールが活性酸素によって酸化されること(酸化コレステロール)。酸化されたコレステロールは動脈硬化を促進してしまう。 

 ファイトケミカルの抗ガン作用―発ガン物質の抑制作用

●ブロッコリー、キャベツ、白菜などの苦味成分、ワサビ、カラシ、マスタードなどの辛味成分に含まれているグルコシノレートが酵素(ミロシナーゼ)により「イソチオシアネート」という物質に変わる。この「イソチオシアネート」がもつガンの抑制作用の一つが肝臓などにあり、解毒作用を担っている酵素を増やすこと。もう一つがガン細胞にアポトーシスを起こさせて、ガンが大きくならないようにすることである。

 淡色野菜にもファイトケミカルは多い

●白菜に含まれるファイトケミカル(「グルコブラシシン」)はガンにアポトーシスを起こされる作用が強い。ワサビはチューブ入りではなく、粉ワサビであれば水に溶いてよく混ぜて3分間ほど置くと、酵素(ミロシナーゼ)の働きで「アリルイソチオシアネート」が生じて香りが立ってくる。このように調理法や食べ方の工夫でファイトケミカルの効果は何倍にもなる。

 ファイトケミカルの抗ガン作用―免疫力増強作用

●免疫細胞に関するファイトケミカルの効果は次の3つ。

免疫細胞の数を増やす…キャベツの「イソチオシアネート」、バナナの「オイゲノール」

免疫細胞を活性酸素の攻撃から守る…タマネギやニンニクの「システインスルホキシド類」、「アントシアニン」などのポリフェノール

免疫細胞を活性化してその働きを高める…ニンジンの「β‐カロテン」、キノコの「β‐グルカン」、海藻の「フコダイン」など 

●白菜の「グルコブラシシン」のTNF(Tumor Necrosis Factor:ガン細胞をアポトーシスさせる腫瘍壊死因子)の産生を増やす力は、同様の効果を持つタマネギ、トマト、キャベツの10倍以上に達する。

 ユニークなキノコの免疫細胞活性作用

●キノコの50~70%「β‐グルカン」である。「β‐グルカン」が働きかける場所は、腸管免疫。腸管免疫とは、免疫細胞の一大基地である小腸の免疫作用である。キノコは異質な菌類のため、一度に大量に入ってくると小腸のパイエル板(絨毛が生えていないフラットな部分)が警報を発して腸管免疫を活性化させる。活性化された免疫細胞は全身をパトロールするので、そこでガンのイニシエーションとプロモーションを防いでくれる。

●「β‐グルカン」を多く含むキノコには、シイタケ、マイタケ、エリンギがある。

 ファイトケミカルの6大分類

●ファイトケミカルは大きく6つのカテゴリーに分けられる。

①ポリフェノール:植物の色素やアクの成分。抗酸化力が強い。

②含硫化合物(イオウ化合物):ニンニクやネギの香りのもと(システインスルホキシド類など)。

③脂質関連物質(カロテノイド類など):ニンジンのβ‐カロテン、トマトのリコピンなど。

④糖関連物質:キノコのβ‐グルカン、海藻類のフコダインなど。

⑤アミノ酸関連物質:アスパラガスのグルタチオンなど。

⑥香気成分:バナナのオイゲノール、柑橘類のリモネンなど。 

 

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第3章 ガンにならない食習慣①―ファイトケミカルを摂る

 ファイトケミカルは加熱して摂る

●野菜などのファイトケミカルの多くは、食物繊維でできた細胞膜や細胞のなかに入っているが、加熱によりその細胞膜や細胞が壊れ、中に含まれているファイトケミカルを吸収しやすくなる。なお、ファイトケミカルは安定的な物質が多く、加熱によって成分が壊れて効力を失うことはない。特にお勧めは、スープにすること。

茹で汁には生の搾り汁をはるかに上回る抗酸化力がある。 

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 “生野菜”信仰を捨てよう

●生のままの野菜ではファイトケミカルはカラダに取り込まれにくいうえに、カサが増えて大量には食べられない。

  ガンにならないファイトケミカルスープの作り方

●4種類の野菜(キャベツ、タマネギ、ニンジン、カボチャ、それぞれ100g)を食べやすい大きさに切り、野菜が隠れるくらいの水(およそ1ℓ)を注いで強火にかけ、お湯が沸騰したら中火にして、30分ほど煮込んだら完成。800mlほどのファイトケミカルスープができるので、これを1日200~600mlずつ摂取する。特に朝食や夕食前の空腹時に飲むと、体内にファイトケミカルが吸収しやすくなる。

●ポイントは4つ

①ニンジン、カボチャは汚れを除いたら、皮ごと使う。

②フタがしっかり閉まって蒸気が外に逃げず、長時間加熱しても焦げにくいホーロー鍋を使って調理する。

③食塩などの調味料を一切加えない。

④最後のポイントは、具材にはこだわらずスープを残さずいただくこと。

●ファイトケミカルは冷凍しても効力は変わらないので、一度にたくさん作って冷凍保存していくのもお勧め。冷凍保存は具材と一緒に保存容器に入れる。使うときは容器ごと電子レンジで解凍する。解答する際に野菜の細胞膜が壊れてファイトケミカルが溶け出すので栄養だけでなく甘味も増す。

  ファイトケミカルスープが含む有効成分

●有効成分

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

  果物は皮ごと食べる

●ポリフェノールの含有量が多い果物のトップ3

①キウイフルーツ

②バナナ

③グレープフルーツ

4位以下は、マンゴー、ブドウ、オレンジ、パパイヤ、パイナップル。

  ミカンは皮も白い部分も食べる

●ミカンを皮ごと食べるのが難しい場合は、果肉と一緒に果皮を刻んでマーマレードにすると良い。

●果皮の内側にある白い部分にも「ヘスペリジン」というファイトケミカルが含まれている。これもポリフェノールの仲間。抗アレルギー作用、抗ウィルス作用、血管強化作用、血流改善作用がある。

  特定の野菜や果物に期待しすぎない

●パンダは笹、コアラはユーカリだけを食べていれば健康を保てるが、ヒトは雑食性なのでいろいろな食べ物を組み合わせて食べて初めて健康を維持できる。また、ファイトケミカルは全部で1万種類以上もあり、その効果がすべて検証されているわけではない。以上のことから、ファイトケミカルスープを柱に、旬の野菜や果物を幅広く食べるのが良い。

ファイトケミカルは、成分によって化学的な反応が異なっている。水に溶けやすいものもあれば、油に溶けやすい成分もある。加熱に強いものも弱いものもある。従って、スープ、生野菜サラダ、蒸し野菜、焼き野菜など、バラエティ豊かに食べ方を試すと飽きることがなく長く続けられる。 

第5章 ガンにならない食習慣③―過剰な鉄分摂取を控える

  女性が男性よりも長生きの理由

●鉄分はカラダにとって必須のミネラルだが、近年、鉄分の過剰な摂取が、ガンや老化の一因となることが明らかになった。

●鉄分の過剰摂取が注目されるきっかけになったのは、世界的な女性の長寿傾向である。その理由として挙げられるのが、女性特有の「月経」である。これにより女性は閉経を迎えるまで、月経中に1日0.55mg前後の鉄分を失っている。摂りすぎた鉄分は、ガンの芽をつくるイニシエーターになる。これは過剰な鉄分は活性酸素を発生し、DNAを酸化するためである。鉄は空気にさらされると、酸素により錆びていく。これも酸化で鉄分が過剰だと体内で有害な酸化が起こってしまう。鉄分が関与すると活性酸素の毒性はより強くなる。 

  生き物にとって酸素は「諸刃の剣」

●生きていくには酸素が必要だが、酸素は生体にとって有害である。ネズミを酸素濃度100%のところに置いておくと、数日で50%が死に至る。ヒトも純度の高い酸素にさらされ続けると、胸痛、咳、肺水腫、無気肺などの肺の障害を引き起こす。

●光合成が始まって10億年ほどして、酸素のある環境に適応する生き物が現れる。それが好気性生物である。好気性生物は酸素に対する耐性を持つだけでなく、酸素をエネルギー源として利用する方法を編み出した。 

  鉄分は活性酸素を発生させる

●抗酸化システムの柱は、活性酸素を分解して無毒化する酵素である。しかしながら、この酵素がより毒性の強い活性酸素を生み出す。活性酸素のスーパーオキシドはSODという抗酸化酵素で過酸化水素に分解され、さらに過酸化水素はカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素で水と酸素などに分解される。ところがここに過剰な鉄分があると大きな問題が起きる。過酸化水素と鉄(鉄イオン)が反応すると、「ヒドロキシラジカル」というガンの芽のイニシエーターが生じる。このとき、鉄は触媒として働く。触媒とは物質を合成したり、代謝するときに、ほんの微量でその反応を大幅に促進する物質である。

●鉄イオンや銅イオンが触媒となり、過酸化水素からヒドロキシラジカルが生じる反応は、「フェントン反応」と呼ばれている。

ヒドロキシラジカルは同じ活性酸素のスーパーオキシドの数十倍の強い毒性(酸化力)を持っている。短命ではあるが、一瞬の間に細胞膜や遺伝子を傷つけて、ガンの芽をつくるイニシエーターになる。また、スーパーオキシドとは異なり、ヒドロキシラジカルを処理する抗酸化酵素は存在せず、一度生じたヒドロキシラジカルに対しては打つ手がない。以上のことから、フェントン反応を避けるため、過剰な鉄分を摂取しないことが非常に大切である。

  鉄分の多い食事を避ける

●鉄分が多く、避けたい食品は、レバー、アサリやハマグリの貝類、赤身の肉や魚介類。アサリやハマグリはシジミと同じように鉄分が含まれるのは身の部分なので、スープを飲むだけであれば問題はない。肉は赤身が強いほど鉄分が多い。魚の場合はブリやカツオなどの血合いの部分(黒ずんだ赤みを帯びた部分)に鉄が多く含まれている。   

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

 

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  玄米や野菜の鉄分は気にしなくてOK

●玄米は精白米の6倍となる鉄分を含んでいるが、玄米の鉄分は体内に吸収されない。

小松菜やホウレン草の鉄分はレバーなどの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」ではなく「非ヘム鉄」のため、吸収は5%程度(動物性食品の1/4から1/6程度)のため問題ではない。  

  活性酸素が遺伝子変異を起こす仕組み

長年にわたり、繰り返しDNAが傷つけられていると、修復作業が追いつかなくなり、DNAに傷が増えていく。この結果、がん抑制遺伝子に異常が起こったり、ガン遺伝子が活性化されたり、正常でない異常なタンパク質が生まれ、異常な細胞となる。かくして、ガンの芽となる細胞がカラダに生まれてしまうのである。

第6章 ガンを予防する9つのポイント

  水を意識的に飲む

●カラダから害のある物質を体外に出すことを「デトックス」というが、排便、排尿、発汗がスムーズであれば、発ガン物質も外に出やすくなる。そのために大事なのは、水分を意識的に補給することである。

●喉が渇いたと思ったときはカラダは脱水状態になっている。脱水状態になると、カラダは「水分を失わないようにしよう」とするため、排便、排尿、発汗が滞る。

●排便、排尿、発汗を進めるためには、1日1.5ℓを目安に飲み物を摂取する。ミネラルウォーターやカフェインの入っていない緑茶などが良い。(1日の飲水量の目安は[体重kg×30cc]という説もあります)

眠る前にコップ1杯の水分をあらかじめ補っておくと心筋梗塞や脳梗塞の予防になる。

  乳製品と適度な運動をプラスする

●排便には腸内細菌を整えることも大切。腸内環境が乱れて便秘になると、食事などに含まれている発ガン物質がそれだけ長く体内にとどまることになる。腸内細菌は「有益菌(善玉菌)」「有害菌(悪玉菌)」「日和見菌」の3タイプ。この中の有益菌が元気に活動していると、乳酸などの有機酸がつくられて腸内が弱酸性に傾く。すると酸性に弱い有害菌の活動が抑えられ、有機酸の刺激で大腸の運動(蠕動運動)が活発になり排便が促される。

●有益菌は排便で失われるため、毎日少しずつ摂ることがポイント。有益菌を豊富に含むヨーグルトや納豆、漬け物といった日本の伝統的な発酵食品を摂る。

●発汗を促す運動も重要である。運動は軽く汗ばむようなストレッチ、ウォーキング、ゆっくりとしたジョギングがおすすめ。汗は水分とともにミネラル分も排出するため、酸化を促す鉄分や塩分も排出でき、ガンの抑制にもプラスである。実際、定期的な運動は、ガンのリスクを下げることが知られている。

  塩分を控える

●日本人は1日平均10.7gの塩分を摂っている(『日本人の食事摂取基準2010年版』では男性9g未満、女性7.5g未満)。食塩の成分のナトリウムの1日の必要量はわずか600mgで、塩分に換算すると約1.5gである。

●塩分過多はガンのリスクになるが、特に関連性が高いのは胃ガンである。これは塩分が胃の粘膜のバリア機能を低下させ、ピロリ菌の攻撃に耐えられなくなり、ガンの芽を生じさせてしまう。

  減塩の工夫を忘れない

●和食に欠かせないしょう油には、大さじ1杯で約2.5gの食塩が含まれている。味噌汁1杯には2g、ラーメンやうどんなどの麺類はスープまで含むと6~7gの食塩が入っている。1日の摂取量(男性9g・女性7.5g)に制限することは簡単ではなく、日々減塩の工夫が必要である。

●食品の栄養成分表示には、ナトリウム量しか表示されていないことがあるが、その場合は2.54倍すると、塩分量を把握できる。ナトリウムはmg表示、食塩はg表示なので、「ナトリウム量×2.54÷1000=食塩量」となる。

  サプリメントを過剰摂取しない

●アメリカでは葉酸やビタミンB12のサプリメントが人気だが、これらのサプリメントはガンのリスクを高めると考えられている。葉酸もビタミンB12も水溶性なので、過剰に摂取しても尿などから排泄されるが、大量に摂ると体内濃度が一時的に過剰になり、人体にダメージを与える。 

  β‐カロテンは緑黄色野菜から摂る

サプリメントによるβ‐カロテン大量摂取(20~50mg)は「喫煙やアスベストなどにより肺ガンリスクが高い人々の肺ガンのリスクをおそらく確実に上昇させる」という報告がある。

●緑黄色野菜などから摂取するβ‐カロテンはガンに対する抑制効果がある。一方、ビタミンやミネラルのサプリが、ガンの予防や改善につながったというデータはない。

  化学物質を避ける

●ハムやソーセージなどの発色剤に使われる「亜硝酸ナトリウム」は、胃の中で肉や魚介類のタンパク質に含まれる「アミン」と結合すると「ニトロソアミン」という発ガン物質を生じる。

●加工食品や燻製食品、タバコの煙に含まれる「ベンゾ(α)ピレン」にも強い発ガン性がある。

●パーム油、バター、魚介乾燥品(干し魚)、魚介冷凍品などに酸化防止剤として使用が認められている「BHA(ブチルヒドロキシアニソール)」は名古屋大学のラットを使った実験で発ガン性が確かめられている。

●レモンなど、アメリカから輸入される柑橘類によく使われている防カビ剤「OPP(オルトフェニルフェノール)」にも発ガン性がある。

  カルシウムを摂取する目的で牛乳を飲まない

●牛乳を毎日のように飲んでいる人でコレステロール値が高い場合、牛乳を摂りすぎている恐れがある。

特に日本人は牛乳を飲んでもカルシウム不足の解消にはならない。これは牛乳のカルシウムは、リンと結合した「リン酸カルシウム」というかたちで含まれているが、日本の土壌にはリンが多く、牧草や飼料に含まれるリンによってカルシウムに結合するリンの数が多い。カルシウムが体内に吸収されるには水分に溶ける必要があるが、リンの数が多いとカルシウムは水に溶けにくく、吸収率が下がる。牛乳が骨粗鬆症の予防に有効だという説も、科学的に証明されていない。日本人よりはるかに多くの牛乳と乳製品を摂っているアメリカ人の骨粗鬆症患者の割合は日本人よりも多いという事実もある。

カルシウム摂取は牛乳よりも野菜がおすすめ。カルシウムの摂取に適した野菜としては、シュウ酸が比較的少ない小松菜や京菜、ダイコンの葉、カブの葉、ケールなどが挙げられる。

 

画像出展:「ガンにならない3つの食習慣」

  アブラは魚介類、オリーブオイルから摂る

●常温で固まる肉類の脂身やラード(豚脂)、ヘット(牛脂)は避ける。その多くは飽和脂肪酸。2003年のWHO/FAO合同専門家協議会による報告では、ラードやヘットに多く含まれる「パルミチン酸」は心臓病のリスク増加につながる確定的な証拠があるとしている。

●魚介類のアブラは常温では固まらない。イワシ、サバ、サンマといった青魚にはEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)といった不飽和脂肪酸が含まれており、細胞膜の原料となり、体内でかたちを変えてさまざまな機能を果たすことがわかっている。

●オリーブ油に多く含まれるオレイン酸(脂肪酸)には、悪玉コレステロールを減らす働きがある。 

 

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第7章 免疫力を高めればガンは予防できる

  免疫を担う免疫細胞とは?

●免疫とは?

 

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  ガンの芽を摘み取る免疫の主役「NK細胞」

●免疫を担う白血球のうち、日常的に発生しているガンの芽を摘み取るのは、リンパ球に属するNK細胞である。NKとは「Natural Killer(ナチュラル・キラー)」の頭文字。「自然の殺し屋」である。

NKは、たとえるならば“一匹狼の岡っ引き”のような存在である。24時間休みなくカラダ中を巡回し、ガンなどの異物を見つけると手当たり次第に攻撃する。特にイニシエーションの段階でガンを抑える重要な役割を果たしている。

●NKは細胞の表面に掲げられている「MHCクラスⅠ」というサインがあるかないかで攻撃の有無が判断される。また、NK細胞はガン細胞を殺す2つの強力な武器を持っている。1つ目は「Fasリガンド」。ガン細胞のアポトーシスを引き起こすシグナルを伝達し、ガン細胞を自然死に追い込む。もう1つは、「パーファリン」と「グランザイムB」という2種類の弾丸を込めたピストル。パーファリンはガン細胞の細胞膜に穴を開け、その穴からグランザイムBがガン細胞に入り、やはりアポトーシスを引き起こす。

NK細胞は非常に頼れる存在だが、年齢とともにNK細胞のガンを殺す力は衰えていく。また、ガン細胞の中には忍者のように身を隠して目印のMHCクラスタⅠのチェックをすり抜ける知恵者も出てきている。

●NK細胞の初期の摘発を免れたガン細胞が、イニシエーションからプロモーションへと進み、大きな固まりに成長してしまうと、NK細胞では太刀打ちできなくなる。

巨漢化したガンに対して、NK細胞に代わって立ち向かうのは、同じリンパ球系に属するB細胞とT細胞である。

  特異的免疫で特定のガンを攻撃

●顆粒球系の好中球、単球系のマクロファージは外敵を見つけると何でも見境なく攻撃する。しかし、このような非特異的免疫だけでは、天然痘やインフルエンザといった毒性の強いウィルスを完全に駆逐することはできない。非特異的免疫が体内にはじめから備わった武器によるレディメイドの免疫だとしたら、特異的免疫は外敵に応じてその都度オーダーメイドで武器をつくる仕掛けで、その威力は抜群である。

●一度罹った疫病に二度と罹らないのは、特異的免疫の働きによる。そこで中心となるのが、リンパ球系のB細胞とT細胞である。

  特異的免疫の低下がガンを成長させる

●ガンに立ち向かう特異的免疫には、たくさんのステップがある。樹状細胞がガン細胞を食べる「貪食能」、情報をヘルパーT細胞に伝える「遊走能」、情報を伝えられたヘルパーT細胞がインターロイキン2を分泌する能力、B細胞やT細胞が過去のガンに対する抗原抗体反応をメモリーする記憶力、それから細胞傷害性キラー細胞が持っている武器の切れ味……。そのどれか一つでも低下していると、ガン細胞に対する特異的免疫は低下して、ガンは成長してしまう。 

  なぜガンに特異的免疫が重要なのか

●特異的免疫はオーダーメイドゆえに威力が高いが、半面オーダーメイドであるがゆえに、少しでもタイプが異なると効果が発揮されないという弱点がある。ガン細胞とは、遺伝子の異常を持つ細胞である。カラダをつくっているのはタンパク質だが、遺伝子に異常があると正常なものとは違うタンパク質がつくられる。どこの遺伝子の配列に乱れがあるかにより、ガン細胞の顔つきは毎回変わる。したがって、インフルエンザウィルスが毎冬ごとに変化して昨シーズンのワクチンが効かなくなるように、異なるタイミング、異なる場所で生じた特異的免疫は、タイミングや場所が違うと効力を失う。

●昨年、脳で生じたガン細胞に対する武器(細胞傷害性キラーT細胞や抗体)は、今年胃で生じたガンには使えないし、胃で生じたガン細胞のためにつくられた武器は、肝臓に生じたガン細胞には使えない。特異的免疫がつくる武器は万能ではなく、決められた敵にのみ効果を発揮する特殊な武器である。 

  ガンの存在が免疫力を低下させる

●ガンはガン自体に免疫力を低下させる機能を保持しているが、これはガン細胞が「TNF‐β」や「VEGF」と呼ばれる物質を分泌するからである。TNF‐βは免疫細胞からも分泌される物質だが、ガン細胞もTNF‐βを免疫細胞に対して分泌し、アポトーシスを引き起こす。VEGFは「Vascular Endothelial Growth Factor」の略、日本語では「血管内皮細胞増殖因子」と訳す。ガンも1mm以上の大きさになると、酸素と栄養素を取るため血管(腫瘍血管)が必要になる。その血管の新生を促すのがVEGF。腫瘍血管ができると、がん細胞には絶え間く酸素と栄養がチャージされて元気を維持するため、免疫細胞に対する耐性が高まる。

●ガン細胞は、NK細胞の武器である「Fasリガンド」を分泌することもある。その鋭い刃で、細胞傷害性キラー細胞をアポトーシスさせる。

●このように免疫力を低下させて、ガンが生き延びようとすることを「免疫学的逃避」と呼ぶ。この逃避をどう抑えるかは、ガン治療の課題になっており、大腸ガンに対しては、腫瘍血管をつくるVEGFを標的にした医薬品を使い、転移を抑える治療が行われている。

  免疫力を高めてガンに打ち勝つ

●何らかの原因で免疫力が低下すると、イニシエーションにもプロモーションにもブレーキがかからなくなり、ガンになりやすくなる。

●免疫力は、体力などと同じように20~30代でピークを迎える。その後、40代から緩やかに低下していく。ガンの最大のリスクファクターは加齢といわれているが、それは年を取るごとにガンの芽を摘む非特異的免疫、大きく育ったガン細胞を殺す特異的免疫を作動させる能力のどちらも低下するからである。

●加齢による免疫力低下以外にも、肥満、メタボリックシンドローム、ストレス、運動不足、喫煙、食品などに含まれる化学化合物、紫外線、自動車の排気ガスといったものも免疫力の低下を招く。そして、ガンを発症するリスクを高めてしまう。

おわりに

 ●日本人の野菜摂取量は年々減っている。かつて「マクガバン・レポート」で理想の食事と絶賛された日本人の食事は、いまでは玄米菜食を中心とした伝統的なスタイルとは大きくかけ離れている。待ちのあちこちには、アメリカ人を瀕死の状態にまで追い込んだファストフード店が立ち並び、ハンバーガーやポテトフライを愛する多くの人びとでいつも混雑している。

『日本人の死因のトップはガンです。年間10万人以上がガンで命を落としています。身の回りで手軽に入る野菜や果物でファイトケミカルを摂りながら、低GI値の穀物を摂り、鉄分の過剰摂取を避ける。本書でお伝えしたこの基本の3つの食習慣を守るだけでも、ガンになるリスクは大幅に減らせます。

お金をかけず、誰でも今日から取り組める食習慣への変更で、ガンのリスクを下げて、これからの人生を存分に楽しんでほしいと私はあらためて思います。

みさなん、もっと野菜と果物を食べてガンにならない食生活を送りましょう。 2011年8月』

 ご参考(GI値とエネルギー)


がんと自然治癒力10

ブログ「がんと自然治癒力8」の中の「細胞は環境に合わせて形を変える」に次の一文があります。

『大多数のがん患者の悪性腫瘍は、環境によってエピジェネティックな変化が引き起こされたために生じたもので、遺伝子の欠陥によるものではない[Kling 2003; Jones 2001; Seppa 2000; Baylin 1997]。最近、著名な科学者・内科医であるディーン・オーニッシュが発表したところによれば、前立腺がんの患者たちが、90日間、食事と生活様式を変えただけで、500個以上の遺伝子の活性が切り替わったという。その遺伝子の変化の多くは、腫瘍の形成に不可欠な生物学的過程を阻害するものだった[Ornish, et al 2008]。』

このオーニッシュ博士の試みが、「がん治療の最前線」という本に紹介されていました。

 

著者:生田 哲

出版:ソフトバンク新書

初版発行:2015年3月25日

がんに打ち勝つオーニッシュ・プログラム

カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の教授で統合医療のパイオニアであるディーン・オーニッシュ博士は、2005年、ガン研究において前例のない研究結果を発表しました。(D.Ornish et al., J. of Urology174,1065,2005) 

NCBIは”The National Center for Biotechnology Information”の略称です。

英語になりますが、研究に関する情報がありました。

Intensive lifestyle changes may affect the progression of prostate cancer. 

対象となったのは、前立腺がんが早期発見された男性患者93人。彼らは、担当医の監視のもとで手術も放射線も抗がん剤治療も受けずに、がんの変化を見守るという治療法を選択しました。彼らはがんを放置して経過を観察することに決めたのです。

経過は、血中に存在するPSA(前立腺特異抗原)値を定期的に測定して観察しました。PSA値が高くなれば、がん細胞が増殖し、がんが大きくなっているということです。この実験が可能となったのは、彼らは手術も放射線も抗がん剤治療も受けたくないと意思を明確にしたからです。

まず、くじ引きで患者を2群に分けました。対照群(43人)は、ただ定期的にPSA検査を受けました。もう一方の群(41人)は、オーニッシュ博士の考案した「心身の健康プログラム」を実践しました。なお、対照群ともう一方の群の合計が93人に満たないのは、生活スタイルの完全な改変に同意しなかった患者がいるからです。

このプログラムは以下の通りです。


 

画像出展:「がん治療の最前線」

要するにこのプログラムは、食事、サプリメント、エクササイズ、ストレスマネジメントを取り入れ、生活スタイルをすっかり変えることにより、がん患者の健康増進をはかるというものです。

こんなことでがんに対する効果があるのか、という疑問の声が聞こえてきそうです。この治療法は、昔から「迷信だ」とか「奇妙だ」と批判されてきたものだからです。

しかし、12カ月後に疑問の余地のない明白な結果がでました。生活スタイルをまったく変えずに自分のがんの変化を見守った43人の対照群のうち6人は、がんが悪化し、前立腺の切除や抗がん剤、放射線による治療を強いられることになりました。一方、心身の健康プログラムに参加した41人のなかでそのような治療を強いられた人は1人もいませんでした。

対照群では、がんの進行状況を示すPSA値が平均6パーセント上昇していました。これは、がんがゆっくりではあるが、着実に進行していることを示します。一方、生活スタイルを変えた群(被験群)は、PSA値が平均4パーセント低下し、しかもがんは小さくなっていました。

さらに驚くべきは、生活スタイルを変えた群の体内で起こったことです。前立腺がんの細胞に対し、彼らの血液は、生活スタイルをまったく変えなかった群の血液にくらべ、がん細胞の成長を抑える免疫力が7倍も高かったのです。

がん増悪の停止と生活スタイルの改善は、密接に関連していることがわかります。現代のがんになりやすい食事とストレスの多い生活スタイルを続ければ、人が本来もっている病気への防衛力が壊れてしまい、がんにかかってしまうでしょう。

そうかと思えば、ほかの患者と同じように通常の治療を受けながらも、現在の食事をがんになりにくい食事に替え、エクササイズを取り入れてストレスを軽減し、体の防衛力を高め、ずっと長く生きたり、がんをなくしてしまう人もいるのです。

 

画像出展:「がん治療の最前線」

※[免疫力]の「7」は、「7倍」になったという意味です。

 

※PSA値の課題

PSA値はがんだけでなく、良性前立腺肥大や前立腺炎でも上昇し、さらに、かぜや飲酒などでも一時的に上昇するという問題があるようです。しかし、PSA値の上昇が悪いサインなのは確かです。また、一時的な高値も検査を複数行うことで間違った判断を回避できるものと思います。

順番が前後してしまいましたが、この本は4章からなっています。

第1章 がんは死の宣告ではない

第2章 がんとはどんな病気なのか?

第3章 がんの薬になる食べ物

第4章 がん患者の代謝を改善する

冒頭にご紹介させて頂いた『がんに打ち勝つオーニッシュ・プログラム』は第1章からのものです。

そして、ブログではもう一つ、第4章からご紹介させて頂きます。それは次のようなものです。

オルソ・モレキュラー・メディスン(分子整合医学)とは?

ライナス・ポーリング博士は、1954年度のノーベル化学賞と1962年度のノーベル平和賞を受賞されました。そのポーリング博士が60代になったとき、体内の生化学物質が本来の機能を発揮できないことが原因で発生する病気に焦点を当て、これを治療する「オルソモレキュラー・メディスン(分子整合医学)を提唱しました。

 

写真はライナス・ポーリング博士

画像出展:「日本オーソモレキュラー医学会

彼の主張のポイントはこうです。

病気は、体内のホルモンなどの物質のインバランスによって生じる。だから、病気を治すには、体内のホルモンなど、物質のバランスを回復すればよい。それを達成するのに、薬を用いるのではなく、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素、必須脂肪酸など体に存在する物質を利用する。

遺伝子は個人の体格や性格だけでなく、生化学にも違いをもたらします。がん、心臓病、糖尿病、うつは、生化学のインバランスによって生じます。食事、エクササイズ、ストレスマネジメント、心の訓練を組み合わせれば、体内物質のバランスが回復し、健康を獲得することができるでしょう。

ただしヒトが生物であるかぎり、健康の土台は食事にあります。遺伝子が異なること、それゆえに生化学的個体差があることを理解し、それに適応した栄養素を摂ることがあなたの健康を増進させ、がんと戦う力をつちかうのです。

 

画像出展:「がん治療の最前線」

 

がんの進行状態によっては、手術・放射線・抗がん剤の三大治療のいずれかは避けられないと思いますが、これらの治療が体に与えるダメージは決して小さくないという点は重要です。

画像出展:「がん治療の最前線」

以上、7月より始めた「がんと自然治癒力」で予定していた本は、追加したものを含め読み終わりました。本来であれば “まとめ” の作業に入るところですが、その前に新たな2冊で勉強モードを続けたいと思います。その2冊は以下のものです。

1.ガンにならない3つの食習慣 ファイトケミカルで健康になる! 初版発行:2011年8月25日

2.現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病 初版発行:2016年1月20日

がんと自然治癒力9

「生命の不思議 “テロメア” 健康寿命はのばせる!」というタイトルで、2017年5月、NHKがクローズアップ現代の中でテロメアを紹介していました。


『老化を防ぎ、若さを保ちたい。そんな願いをかなえると注目されている研究がある。ノーベル賞生物学者・ブラックバーン博士らによる「テロメア」研究だ。染色体の端にあり細胞分裂のたびに短くなるため、年とともに縮むと考えられていたテロメア。ところがテロメアを伸ばして細胞から若返る方法があり、がんを防げる可能性もあるというのだ。』

真柄俊一先生も指摘されていましたが、日本ではこのノーベル賞のニュースは積極的に取り上げられなかったようです。調べてみるとプレスリリースは2009年10月5日でした。

 

 こちらはシートに出ていた図の一部です。

 


出版:NHK出版

初版発行:2017年2月25日

 

原書の初版発行は2017年1月3日です。


最初に著者(お二人)と目次をご紹介させて頂き、その後青字にした目次の項目について取り上げていますが、全文ではなく一部を抜き出したかたちになっています。

なお、青太字に替えた個所著書)によるものです。黒太字にした箇所は私によるものです)

著者

エリザベス・ブラッバーン Elizabeth Blackburn

分子生物学者。2009年に、2人の共同研究者とともにノーベル生理学賞を受賞。受賞理由は、染色体の末端をキャップのように保護しているテロメアの分子的性質の発見、およびテロメアを維持する酵素、テロメラーゼの発見。ソーク研究所所長、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の名誉教授。過去には米国癌学会会長、米国細胞生物学会会長を歴任。アルバート・ラスカー基礎医学研究賞をはじめ、医学部分野の主要な賞をほぼすべて受賞している。『タイム』誌の「もっとも影響力の高い100人」の1人にも選ばれた。米国科学アカデミー、米国医学研究所、ロンドン王位協会のメンバー。公共科学政策にも助力し、大統領諮問委員会の一つである生命倫理委員会でも活躍している。

オーストラリアのタスマニアに生まれ、メルボルン大学で科学を学び、ケンブリッジ大学で分子生物学の博士号を取得。その後、イェール大学で博士研究員をつとめた。現在は夫とともにカリフォルニア州のラホーヤおよびサンフランシスコに暮らす。

エリッサ・エペル Elissa Epel

健康心理学の第一人者。ストレス、老化、肥満を研究する。カリフォルニア大学サンフランシスコ校精神医学科教授。同大学の老化・代謝・感情(AME)センターおよび肥満研究センター(COAST)の所長であり、健康共同体センターの副所長もつとめる。米国医学研究所のメンバーであり、米国国立衛生研究所の科学諮問委員会(行動変容科学のプログラムなど)のほか、心と生命研究所、欧州予防医学協会でも活躍。スタンフォード大学、行動医学協会、行動医学研究学会、米国心理学会などをはじめ、さまざまな機関から研究賞を受賞。

カルフォルニアのカーメルに生まれ、スタンフォード大学に学び、イェール大学で臨床心理学と健康心理学の博士号を取得。パロアルトの退役軍人管理局の健康管理組織において臨床実習を終了。カルフォルニア大学サンフランシスコ校で博士研究員をつとめた。現在、夫と息子とともにサンフランシスコに在住。

はじめに なぜ、この本を書いたのか

序章 二人のテロメアの物語

 なぜ年のとり方は、人によりちがうのか?

 健康な細胞の再生は、なぜ必要なのか

 テロメアは染色体のキャップ

 テロメアと行動の関係を考える

 行く手にあるもの

  幸せの聖杯?

 

第Ⅰ部 テロメア:より若く生きるための道

第1章 なぜ細胞の老化が早すぎると、見かけも気持ちも行動も老いるのか

 早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?

 細胞の早い老化の影響①:外観

  肌の老化

  骨量の現象

  白髪

  あなたの外観はあなたの健康について、何を物語るのか?

 細胞の早い老化の影響②:肉体

  インフラメイジング

  心臓病とテロメアの短縮

  肺の病気とテロメアの短縮

 細胞の早い老化の影響③:認知

  認知的低下とアルツハイマー病

  健康な“感覚年齢”とは

  二つの道

第2章 長いテロメアのパワー

 池の藻くずが送るメッセージ

 テロメア:染色体のプロテクター

 テロメア、疾患期間、死

 健康の考え方を変える

第3章 テロメアを補う酵素“テロメラーゼ”

 テロメラーゼはテロメア短縮への解決策

 テロメラーゼは不死の霊薬ではない

 テロメラーゼとがんのパラドックス

 あなたはテロメアとテロメラーゼに影響をおよぼせる

 

第Ⅱ部 テロメアはあなたの考えに耳を傾けている

 自己評価テスト1 あなたのストレス反応のスタイルを明らかにする

第4章 ストレスはあなたの細胞に入り込む

 ストレスは細胞を傷つける

 多すぎるストレスとは、どの程度のものか?

 テロメアを脅かさないストレス反応とは

  脅威反応

  チャレンジ反応

 なぜ人より、脅威の受けとめ方に差があるのか?

 チャレンジ反応を培う

 長い疾患期間への短い道のり:ストレス、免疫細胞の老化、炎症

  短いテロメアと弱い免疫系

  ストレスはどのように関与しているのか

  短いテロメアと炎症の多さ

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  「自我脅威」のストレスを軽減する

 距離を置く(ディスタンシング)

  言語的に自分と距離を置く

  時間で距離を置く

  視覚的に距離を置く

  どのように行うか

第5章 テロメアを思いやる:ネガティブは思考、打たれ強い思考

 冷笑的な敵対心

 悲観

 さまよう心

 ユニタスク

 反芻

 思考抑制

 打たれ強い考え方

  自分の考えを認識する:ネガティブな思考パターンを飼いならす

  マインドフルネスのトレーニング、人生の意味、健康なテロメア

  引退後の新しい目的

  痛みを自己への慈しみに変える

  喜びとともに目覚める

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  セルフ・コンパッション・ブレイクをとる

  自分の中のおせっかいな助言者をコントロールする

  何を墓碑に書く?

  ポジティブなストレスを求める

 自己評価テスト2 あなたの性格はストレス反応にどう影響するか

  あなたの思考スタイルは?

  高スコアと低スコアの線引きについて

  性格タイプと指標について、さらに知識を得よう

第6章 うつ病や不安はテロメアを短くするか

 不安障害、うつ病、テロメア

 ストレスからテロメアは回復するか

 うつ病や不安から自分を守るには

 重要なのは、関心をどこに向けるか

 テロメアの心得 

 リニューアル・ラボ

  三分間の呼吸休憩

  呼吸や鼓動に意識を集中した瞑想

 リニューアルのための情報1 ストレスを和らげ、テロメアを維持するテクニック

  瞑想リトリート

  マインドフルネスストレス低減法とは

  ヨガ的な瞑想とヨガ

  気功

  ライフスタイルを変革する

 

第Ⅲ部 細胞を守るためにできること

自己評価テスト3 あなたのテロメアの健康度は? 保護要因と危険要因

 テロメア予測クイズ

第7章 運動はテロメアを鍛える

 二つの薬

 テロメアにはどんな種類の運動が最適か?

  運動が細胞内部にもたらすメリット

 テロメアとフィットネス

 運動しすぎたら?

 運動で細胞をレジリエントにしよう

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  1.安定的な有酸素運動

  2.高強度インターバルトレーニング

  3.少し緩めのインターバルトレーニング

 小さな一歩を積み上げよう

第8章 テロメアの疲労と睡眠

 睡眠の回復力

 テロメアにはどれくらいの睡眠時間が必要?

 睡眠障害への救いの手:「認知のゆがみ」を正す

 よく眠るための戦略

 騒音、心拍数、睡眠

 睡眠はグループ・プロジェクトである

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  五つの入眠儀式

第9章 体重とテロメア:健康的なメタボリズム

 問題はBMIではなく、おなかの脂肪

 腹部の脂肪、インスリン抵抗性、糖尿病

 テロメアの短縮と炎症は、どのように糖尿病に影響するのか

 ダイエットは逆効果だ

 極端なカロリー制限はテロメアに良い?

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  砂糖渇望症との上手なつき合い方

  体の空腹と満腹のサインに波長を合わせる

第10章 食べ物とテロメア:細胞の健康のためには何を食べるべきか

 細胞の三つの敵

 健康的な食のパターン

  コーヒーと健康

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  テロメアにやさしいスナック

  悪い習慣を撲滅:モチベーションを見つける

リニューアルのための情報2 科学が教える! 変化を持続させるコツ

 新しい習慣の形成に役立つこと

 古い習慣を断ち切るコツ

 あなたの1日を改造しよう

 

第Ⅳ部 社会的環境は、あなたのテロメアを変える

第11章 テロメアを支える環境と人々

 ごみが多いか、緑が多いか?

 お金で長いテロメアを買えるか?

 テロメアにとって有害な化学物質

 化学物質、がん、長すぎるテロメア

 自衛する

 友人とパートナー

 人種差別とテロメア

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ 

  有害物質への暴露を減らす

  地域の健全性を高める:小さな変化を積む重ねよう

  親密な人間関係の強化

第12章 細胞の老化は子宮で始まる

 親の短縮したテロメアは、子どもに引き継がれる場合がある

 不利な社会的環境は、世代を超えて引き継がれていくか?

 妊娠時の栄養摂取:胎児のテロメアへの栄養供給

 胎児のテロメアは、母親のストレスに耳を傾けている

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ 

  子宮の緑化

第13章 子ども時代の重要性:人生の初期の出来事はテロメアにどのように影響をおよぼすのか

 テロメアは子ども時代の傷跡を記録している

 ママ、僕の足を踏まないで! 怪物のような母親に育てられた影響

 母親の不在

 テロメアが健康で、感情を調節できる子どもに育てる

 傷つきやすい子どもの育て方

 ストレスに敏感な子どものテロメア

 あなたの子どもは「蘭」だろうか?

 テロメアの健康な10代に育てる

 テロメアの心得

 リニューアル・ラボ

  大量散漫兵器

  子どもに波長を合わせる

  敏感なティーンエイジに過剰反応しない

  深い愛着の手本なる

 

まとめ 相互のつながりに気づく:私たちの細胞の遺産

 テロメアは警笛を鳴らしている

 あらゆるレベルでの相互のつながり

 生きたメッセージ

 テロメア・マニュフェスト

はじめに なぜ、この本を書いたのか

122歳のジャンヌ・カルマンは、世界でもっとも長生きした女性だった。彼女は85歳を過ぎてからフェンシングを始め、100歳になるまで自転車に乗っていた。100歳の誕生日には故郷のアルルの町をあちこち歩きまわっては、長寿を祝う人々に礼を返していた。人々がみな手に入れたいと願うものが、彼女の人生にはあった。その願いとは、人生を謳歌し、最後のときまで健康に過ごすことだ。老いや死は、どうしようもない人生の現実だ。だが、最後の日までどのように過ごすかは「どうしようもない」ことではない。それを決めるのは私たち自身だ。私たちは、もっと良く、もっと充実して生きることができる。今も、そしてもっと年をとってからも。


左上の写真は117歳の時のお祝いです。じゃらん」さまより拝借しました。

右の写真は「イチバン|あらゆる世界一を届けるメディア」さまより拝借しました。

●この本には、人間の「老い」についての新しい考え方が提示されている。科学の世界で現在主流の考え方によれば、人間の老化とは、細胞のDNAが徐々に損傷を受けた結果、細胞が不可逆的に老化し、機能を失うことで起きる。だが、損傷を受けるのは、どのDNAなのだろう? なぜ、損傷を受けるのだろう? 十分な答えはまだ出ていないが、複数の手がかりから、元凶の一つがテロメアであることが強く示唆されている。病とは体のさまざまな臓器や部位に起こるため、それぞれ別のものに見られがちだ。しかし、科学や臨床の場からもたらされた新しい発見により、病気の発生について新たな概念が生まれた。それは、加齢にともなう大半の疾患の原因は、加齢によるテロメアの短縮および、その背後にあるメカニズムに起因するのではないかという考えだ。細胞を複製する能力が次第に失われていくことを「複製老化」というが、どのようにそれが起きるのかはテロメアで説明できる。むろん複製老化以外でも、細胞は機能を失ったり早く死んだりするし、ほかの要因でも、老化は進行する。だが、テロメアの短縮が老化のプロセスに関与するのは明らかだ。さらに興味深いことに、テロメアの短縮は遅らせることもできれば、逆転すらできるのだ。

本書を書いたのには、もう一つ理由がある。それは、人々を危険から遠ざけるためだ。テロメアと老化への関心は今、急速に高まりつつある。そして、ちまたにあふれる情報には正しいものもあるが、誤解を招くものもある。たとえば、ある種のクリームやサプリメントがテロメアを伸ばし、寿命を延ばすとまことしやかに主張する人々がいる。こうした製品がもし本当に体の中で機能したら、がんにかかるリスクを増やしたり、そのほかの危険な作用をもたらす可能性がある。こうした深刻なリスクの潜在性を評価するための大規模で長期的な調査が今、必要になっている。細胞の寿命をノーリスクで延ばす方法は、すでにいくつか知られている。その中で最良のものをいくつか、この本におさめた。即効性はないかもしれない。けれど、研究にもとづいた具体的なアイディアはきっと見つかるはずだ。それらはあなたのこの先の人生を、より健康で長く、充実したものにする可能性を秘めている。いくつかのアイディアは読者にとってさして目新しいものではないかもしれないが、背景事情を深く理解すれば、日々どう見つめ、どう生きるかがきっと変わってくるはずだ。

序章 二人のテロメアの物語

 なぜ年のとり方は、人によりちがうのか?

●あなたはあなたに固有の遺伝子セットをもって生まれてくる。だが、どのように生きるかによって、遺伝子の発現に影響を与えることができる。場合によっては、生活にまつわる何らかの要因が、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりもする。肥満の研究者、ジョージ・ブレイはこう言っている。「遺伝子には銃が積まれている。そして環境が引き金を引く」。ブレイの言葉は体重増加についてだけでなく、健康に関するほぼすべての面に通じる。

私たちはこの本の中で、人間の健康について、これまでとはまったくちがう考え方を提示したい。健康というものを細胞レベルまでさかのぼって考え、細胞の早すぎる老化とはいかなるものか、それがあなたの体にどんな害をもたらすのか、どうすればそれを防げるか、そしてどうすれば逆転させられるかまで説明する。そのためにまず、細胞の奥深くにある染色体までもぐってみよう。そこにテロメアが見つかる。染色体の端に存在する非コードDNAの繰り返し配列が、テロメアだ(図2を参照)。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなる。それが細胞の老化の速度を決定し、さらにそれをもとに細胞の死期が決定される。だが私たちの研究や、世界各地のラボの研究からは、驚くべき発見がもたらされている。染色体の末端は伸びることもある―。その発見が示唆しているのは、老化とは早まったり遅くなったりする動的なプロセスであり、ある面においては逆転すら可能だということだ。老化とは長いあいだ考えられてきたように、病気や衰退へと一直線に滑り落ちる坂道ではない。人間はみな、年をとる。だが、どのように老いるかを大きく左右するのは細胞の健康状態なのだ。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

この本を書いている私たち二人のうち、一人は分子生物学者(エリザベス、以下リズ)、もう一人は健康心理学者(エリッサ)だ。リズは研究者としての全人生をテロメアの探究に捧げてきた。彼女の基礎研究によって、まったく新しい分野の科学的理解が始まった。いっぽうエリッサが研究してきたのは心理的ストレスや、ストレスが人間の行動や生理機能や健康に与える有害な作用、さらにその作用をどうすれば逆転させられるかという問題だ。私たち二人は15年前に一緒に研究を始めた。そして私たちの共同研究から、心身の関係を検証する新しい方法が生まれた。私たちを含む科学界の人間が驚いたのは、テロメアが遺伝子コードの命令をただ実行するだけではないことだ。あなたのテロメアは、あなたに耳を傾けている。あなたが出した指示を、あなたのテロメアは吸収する。あなたの生き方は、「細胞の老化を速めろ」とテロメアに指示を出してしまう危険もあるのだ。だが、逆のことも起こりうる。何を食べるか、精神的苦難にどう対応するか、どのくらい運動するか、子どものころストレスにさらされたか、隣人をどのくらい信頼し、どのくらい安心して暮らしているか―。テロメアにはこうしたもろもろの要因が影響を与えているらしい。そしてこうした要因が、細胞レベルの早すぎる老化を防いでくれる可能性もある。つまり、長い健康寿命の一つの鍵は、健康な細胞の再生に必要なことをあなたが行えるかどうかにあるのだ。 

 健康な細胞の再生は、なぜ必要なのか

●人間の健康な細胞の多くは、テロメアが(そして細胞を形成するタンパク質などの重要な部分が)機能しているかぎり、繰り返し分裂できる。だが、分裂を繰り返したあと、細胞は老化する。すばらしき幹細胞にさえ、最後は老化が訪れる。分裂の回数が有限であることは、70歳か80歳を超えれば健康寿命も徐々に終わりに近づく一つの理由と言える。しかし、もっと長く健康な生活を享受できる人もいる。健康的な長寿は、私たちが手を伸ばせば届くところにある。

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 テロメアは染色体のキャップ

●靴紐の両端に、プラスチックのキャップがあるのを思い出してほしい。キャップの役目は、靴紐がほつれるのを防ぐことにある。ここで、染色体を靴紐のようなものだと想像してほしい。染色体はあなたの細胞の内部にあり、あなたの遺伝的情報を運んでいる。テロメアは塩基対というDNAの長さの単位で計測され、ちょうど靴紐のプラスチックキャップのような働きをする。つまり、染色体の末端に小さなキャップを形成し、遺伝物質(DNA)がほどけるのを防いでいるのだ。いわば老化の防止キャップだが、このテロメアは時間とともに短くなるという傾向がある。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

●あなたの遺伝子は、あなたのテロメアに影響する。誕生時のテロメアの長さやテロメアが短縮していくスピードには、遺伝子が影響を与える。だが、私たちの、そして世界中の研究室からは驚くべき発見をもたらされている。それは、テロメアに人間が介入できるということ、テロメアの長さや強靭さにまで私たちがある程度影響をおよぼせるということだ。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

次のようなことがわかっている

・困難な状況にぶつかったとき、一部の人々は危機感を抱く。こうした反応のしかたとテロメア短縮にはつながりがある。だが、事態のとらえ方をもっと前向きに変えることは可能だ。

瞑想や気功などの心身のテクニックは、ストレス軽減効果に加え、テロメアを修復する酵素であるテロメラーゼを増やす効果もある。

・運動で心血管系の健康を高めれば、テロメアにも良い効果がある。テロメアの維持に効果があると証明されているシンプルな運動プログラムを本書ではいくつか紹介する。それらのプログラムは、さまざまな体力のレベルに適合させることができる。

テロメアは、ソーセージのような加工肉を嫌う。好ましいのは新鮮で健康的な食品だ。

・おたがいを知らず、信頼し合っていないなど、周囲の人々との社会的つながりが低いとテロメアには悪影響が出る。これは、個人の収入レベルには無関係だ。

・子どもの頃に複数の有害な事象にさらされると、テロメアは短くなる。だが、悪名高いルーマニアの孤児院のような劣悪な環境にいた子どもも、そこから引き離せば、テロメアに起きた損傷の一部は回復させることができる。

・両親の卵子や精子に含まれる染色体のテロメアは、そのまま子どもに伝えられる。その意味するところは重大だ。もしあなたの両親のテロメアがさまざまな困難によって短くなっていたら、それは子どもであるあなたに引き継がれている可能性がある。だが、もし「自分がまさにそうかもしれない」と思ったとしても、パニックになる必要はない。テロメアは短くもなる、長くもなる。あなたの行動次第でテロメアを保持することは可能だ。これはまた、自分の生き方次第で、次の世代に分子レベルの有益な遺産を贈れるということでもある。

 行く手にあるもの

  幸せの聖杯?

テロメアは、人間の生涯に影響を与えるさまざまな要素をまとめた指標のようなものだ。適切な運動や睡眠など、テロメアを回復させる良い効果をもつものと、有害なストレスや栄養不足や苦労などのマイナスの要素の双方が、そこに統合されている。鳥や魚やネズミにおいては、ストレスとテロメアに相関性が存在する。それゆえテロメアの長さは、動物が生涯を通じて経験してことを累積的に測る「幸せの聖杯」として使えるのではないかと示唆されてきた。人間の場合(そして動物の場合も)、経験の累積を示す生物学的指標は一つには絞れないだろうが、テロメアは現在私たちが理解しているうちでは、非常に有力な指標だといえる。

第Ⅰ部 テロメア:より若く生きるための道

第1章 なぜ細胞の老化が早すぎると、見かけも気持ちも行動も老いるのか

 早すぎる老化を迎えた細胞は、健康な細胞と何がちがうのか?

●細胞のテロメアが極端に短くなると、分裂のサイクルと自己複製を停止するよう合図が送られる。すると細胞分裂は止まる。細胞はそれ以上新しくなることができず、古くなり、老化していく。幹細胞なら永久引退の状態に入り、呼び出しがあっても心地よいニッチ(特別な微小環境)から出ていかなくなってしまう。幹細胞以外の場合は、するべき仕事が果たせなくなり、ただ無為に存在するだけになる。細胞内の発電所であるミトコンドリアがうまく働かなくなり、細胞内でエネルギー危機が引き起こされる。

左の絵は「ニッチ(特別な微小環境)」を表したものです。

詳しくは、東京大学さまの『細胞が冬眠する場所

 造血幹細胞の休止に神経細胞が関与することを発見』を参照ください。

 古い細胞のDNAが細胞のほかの部分とうまくやりとりできなくなると、細胞はきれいな状態を保てなくなる。古くなった細胞の内部には、うまく機能しなくなったタンパク質の塊や茶色いごみのようなリポフスチンという物質がたまってくる。リポフスチンは眼球に加齢黄斑変性を引き起こしたり、いくつかの神経性疾患の原因になったりする。さらに悪いことに ―なぜか、樽の中の腐ったリンゴと同じように― 老化した細胞は誤った危険信号を炎症誘発物質という形で、体のほかの場所にも送ってしまう。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 ●老化のプロセスは、体内のさまざまな種類の細胞で発生する。肝臓の細胞でも皮膚の細胞でも、毛包でも、血管をおおう細胞でも起こる。そして、体のどの部分のどんな細胞かによって、異なる現象が起きる。骨髄の細胞が老化すると、血液や免疫系統の幹細胞が正しく分裂しなくなったり、血液細胞の製造量のバランスが狂ったりする。膵臓の細胞が老化すると、ニューロン(神経細胞)を死なせる物質が分泌される危険がある。これまでに研究がなされている大半の細胞において、老化の根底にあるプロセスは似通っているが、細胞がそれをどう発現するかによって、肉体には異なる種類のダメージがもたらされるのだ。

 細胞の早い老化の影響②:肉体

  インフラメイジング

●テロメアの短い人々は、慢性的な炎症にも悩まされている可能性がある。年齢とともに炎症が増え、それが加齢にともなう病気の一因になるという観察報告はたいへん重要だ。そのため、科学者は「インフラメイジング(炎症加齢、または加齢炎症)」という名前を考案した。インフラメイジングとは慢性的な軽微の炎症であり、加齢とともに増加する可能性がある。なぜそれが起こるかについては、タンパク質の損傷などさまざまな理由が挙げられている。ほかにしばしば挙げられる原因の一つが、テロメアの損傷だ。

ご参考)インフラメージング(inflammaging)とは「inflammation(炎症)+aging(加齢)」。炎症による老化。炎症が老化や、老化に伴う疾患と密接な関係があることから生まれた造語。

細胞の遺伝子が損傷を受けたりテロメアが短くなりすぎると、細胞は、大切なDNAが危険にさらされていることを察知する。すると、細胞は自らの再生プログラム化[遺伝子であらかじめ決まった手順ではなく、後天的な修飾によって遺伝子の発現手順を調整すること]によって、助けを求めるシグナル分子をまわりの細胞に向けて放つ。この現象はまとめて細胞老化関連分泌現象(以下、SASP)と呼ばれる。傷を受けたせいで老化した細胞は、近くの免疫細胞や修復機能のある細胞にシグナルを送り、回復に手を貸してくれるよう呼びかけることができる。

過去数十年で科学者たちは、SASPやその他の原因で起こる慢性的な炎症が、多くの疾患の発生に重要な役割を果たすことを認識するようになった。短期的な激しい炎症は、傷ついた細胞を癒すのに役立つが、長期的な炎症は体の組織の通常機能を妨げる。たとえば、慢性的な炎症によって膵臓の細胞は誤作動を起こし、インスリンを正しく分泌できなくなる。これは糖尿病につながる一歩だ。慢性的な炎症のせいで、動脈壁に生じたプラーク(血管内にできる瘤)が破裂することもある。体の免疫反応のスイッチが狂い、自身の組織を攻撃するケースもある。これらは炎症の破壊力を示すほんの一例にすぎず、恐怖のリストはまだまだ続く。慢性的な炎症は心臓や脳の病気や、歯茎の病気やクローン病やセリアック病やリューマチ性関節炎や喘息や肝炎やがんや、その他さまざまな病気の一因にもなる。だからこそ今、インフラメイジングは科学界で話題になっている。これは、現実の話なのだ。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

インフラメイジングを遅らせたければ、そして可能なかぎり長く健康寿命にとどまりたければ、慢性的炎症を防ぐ必要がある。炎症をコントロールするうえで重要な役目を果たすのが、テロメアの保持だ。極端に短くなったテロメアは炎症のサインをたえず送り続ける。だから、テロメアを健康的な長さに保たなくてはならないのだ。 

第3章 テロメアを補う酵素“テロメラーゼ”

 テロメラーゼはテロメア短縮への解決策

●テロメアの奇妙なふるまいのことを私はずっと考え続けていた。なぜテロメアには、増幅する能力があるように見えるのだろう? そして私は、細胞の中に、テロメアにDNAを付加する酵素があるのではないだろうかと考えた。そうした酵素が存在すれば、塩基配列をいくつか失っても、そのあとでテロメアを元どおりにすることができるかもしれない。ここが正念場と、私は意を決して、テトラヒメナの細胞抽出液をつくる作業に励んだ。なぜテトラヒメナなのか? それはテトラヒメナが、テロメアを豊富にもつ絶好の素材だったからだ。もしテロメアを付加するそうした酵素が存在するなら、きっとテトラヒメナの中にその酵素はたくさん見つかるはずだ。私はそう推測した。

 1984年のクリスマスの日、キャロルは放射線写真と呼ばれるエックス線フィルムを現像した。フィルムの上にあらわれたパターンは、未知の酵素が働いていることを示す初めての明らかなしるしだった。家に帰ったキャロルは、興奮のあまり、居間で踊りだしたそうだ。次の日、私の反応を予測して、こみ上げる喜びに顔を輝かせながらキャロルはそのエックス線フィルムを見せた。私たちは目と目を合わせた。私もキャロルもそれが何かわかっていた。テロメアは、今まで発見されていなかったその酵素を引き寄せることで、DNAを補填できるのだ。私たちのラボでこの酵素は、テロメラーゼと名づけられた。テロメラーゼは新しいテロメアを、自身の生化学的な配列をもとに形成する。

テロメラーゼがどう働くか説明しよう。テロメラーゼはタンパク質とRNA(リボ核酸)を含んでいる。RNAはいわばDNAのコピーであり、このコピーの中にはテロメアのDNA配列の鋳型が含まれている。テロメラーゼはRNAの中にあるこの配列を生化学的なガイドとして使い、まっさらで正確なテロメアDNAの配列をつくる。この正しい配列が必要なのは、テロメアDNAの土台を完璧な形に整え、それをおおうテロメア保護タンパク質の鞘を引き寄せるためだ。テロメアDNAの新しい断片は、テロメラーゼによって染色体の末端に付け加えられる。このプロセスを導くのが、RNAの鋳型の配列と、DNA文字がそれぞれのパートナーと結びつく相補結合のシステムだ。これにより、テロメアDNAを構成する正しい配列がきちんと付加される。このようにしてテロメラーゼは染色体の端を再生し、すり減った分を回復させていたのだ。

こちらの図は、GDAYSさまの『前立腺がんと自転車の旅』私の把握しているゲルソン療法(2) から拝借しました。

左の写真は「がんと自然治癒力8」の中で、DNAに支配されている従来の「セントラルドグマ」に代わり、”環境” も生命に大きく関与しているということを表した新しい考え方を示すものです。

この写真をご紹介した理由は、テロメラーゼの働きも、『DNA⇄RNA⇄PROTEIN』という仕組みに基づいているということをお伝えしたかったからです。

 テロメラーゼとがんのパラドックス

●人工的にテロメラーゼを増やせば人間の寿命を延ばすことはできるのだろうか? そう考えるのは自然なことだ。インターネット上にあふれる「テロメラーゼを増加させるサプリメント」の広告は、それが可能だと謳っている。テロメラーゼとテロメアには、恐ろしい病を遠ざけたり、人がより若く感じられるように手助けするすばらしい特質がある。だが、それらは長寿の万能薬では決してない。テロメラーゼを使ったからといって、ごくふつうの寿命より長く生きられるわけではない。実際、人工的にテロメラーゼを増やすという方法で長生きしようとしたら、かえって命を危険にさらすことになる。それは、テロメラーゼに裏の面(ダークサイド)があるからだ。ジキルとハイドのことを思い浮かべてほしい。二人は同じ人間だ。だが、昼か夜かによって極端に異なる性格をもっている。人間は健康でいるためにはジキル博士を ―つまり良いテロメラーゼを必要とする。だが、まちがった細胞にまちがったタイミングで過剰なテロメラーゼを供給すれば、テロメラーゼにはハイド氏の個性があらわれ、細胞の無制御な増殖に加担することになる。細胞の無制御な増殖は、がんの特徴にほかならない。がんとは基本的には、細胞の増殖に歯止めがかからなくなる病気なのだ。だからしばしば、「錯乱した細胞増殖」と定義される。

人工のテロメラーゼは、細胞をがん化へと突き進ませる危険を秘めている。自分の細胞をそんなもので爆破したいと思う人がいるだろうか? テロメラーゼ・サプリメントの業界が、大規模かつ長期的な臨床試験によって安全性をきちんと証明しないかぎり、「あなたのテロメラーゼを増やします」と謳うピルやクリーム、注射には手を出さないのが賢明だ。もともと人はそれぞれ異なるタイプのがんへの“かかりやすさ”をもっているのに、わざわざもっとたくさんの種類のがん(黒色腫や脳腫瘍や肺がんなど)を発症するリスクを増やしたいものだろうか? それを理解していれば、私たちの細胞がテロメラーゼの量を低く抑えていることに納得いくはずだ。 

 

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本書で健康のために提唱したさまざまな手法に対して体は自然な生理学的反応をするが、それと、人工的な摂取とでは大きなちがいがある(たとえばサプリメントが植物由来の“自然”なものであっても、植物はそもそも自然界の激しい化学的闘争を経てきたことを忘れてはいけない。腹を空かせた動物や襲いかかる病原体をかわすために、植物は強力な化学的軍備を発達させてきたのだ)。この本で私たちが提唱した方法は、穏やかで自然なものばかりであり、テロメラーゼの分泌増加は安全な範囲を超えるものではない。だから、がんの発症リスクが高まることを心配する必要はない。危険な領域までテロメラーゼの量が増えることはけっしてない。

 あなたはテロメアとテロメラーゼに影響をおよぼせる

●『2004年のある日、分析結果が届いた。私(エリッサ)が事務所に座っているとき、プリンターから分析結果が何枚も吐き出されてきた。私はデータの散布図を見つめ、そして息をのんだ。データにはパターンがあった。私たちが「こうであるはずだ」と予測していたとおりの傾向が、ページの上にあらわれていた。ストレスにさらされるほどテロメアは短く、テロメラーゼの値は低くなることが、そこには示されていた。 

 

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第Ⅱ部 テロメアはあなたの考えに耳を傾けている

第4章 ストレスはあなたの細胞に入り込む

 多すぎるストレスとは、どの程度のものか?

●どんな種類のストレスがテロメアの短縮に関連するかについては、すでに証拠がある。テロメアの短縮につながりがあるのは、家庭の長期におよぶ介護や、仕事のストレスによる燃え尽き状態なのだ。そのほかに読者もご想像のとおり、現在のものであれ子ども時代のものであれ、非常に深刻なトラウマもテロメアの損傷に関連することがわかっている。レイプや虐待、家庭内暴力、長期にわたるいじめなどがそれにあたる。

境遇そのものがテロメアを短くするわけではない。問題は、そうした境遇に置かれたときに多くの人が感じるストレス反応であり、そしてここでも「用量」が重要な意味をもつ。一か月程度であればどんなにストレスの高い危機的状況に置かれても、テロメアへの影響を心配する必要はない。テロメアもそこまで府弱ではない。そうでなければ私たち人間はみな、あっというまにだめになってしまう(最近の研究から、短期的なストレスとテロメアの短縮にも関連があることが示された。ただしその関連性はごく小さく、個人に重要な影響をおよぼすとは考えにくい。そして短期的なストレスがテロメアを短縮させるとしても、その作用は一時的であり、失った塩基対をテロメアはすみやかに回復することができる)。だが、ストレスが継続し、生活の一部にまでなってしまうと、ストレスはゆっくり毒を発し始める。ストレスが長く続けば、テロメアは短くなる。長期にわたる心理的に有害な状況からは、できるかぎり抜け出すのが賢明だ。

自分ではどうにもならないストレスを抱えて暮らす現代人の多くにとって幸いなことに、話はこれで終わりではない。私たちの研究からは、慢性的なストレスがかならずしもテロメアの損傷にはつながらないことが示されている。被験者の何人かは、テロメアを短くせずに介護の重荷を乗り越えていたのだ。ストレスへの耐性が高いこれらの「外れ値」の存在からは、困難な状況から抜け出さなくてもテロメアを守れることがうかがえる。信じがたいかもしれないが、やり方さえわかれば、ストレスをポジティブな燃料に使うことも可能だ。そしてストレスを、テロメアを守る盾として使うこともできるのだ。

  テロメアを脅かさないストレス反応とは

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 

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 チャレンジ反応を培う 

●チャレンジ反応は交感神経の活動を高めるので、かならずしもストレス感を減らしてはくれない。だがこれはポジティブな「落ち着きのなさ」であって、あなたをもっとパワフルで集中した状態に押し上げる原動力だ。ストレスをこんなふうにうまく転換して、イベントやパフォーマンスのときに良いエネルギーを得たければ、自分で自分に「ワクワクしているね!」「鼓動が速いしおなかはグルグルしてきたけど、大丈夫!これは、良いストレス反応が強く起きている証拠だ」と語りかけてみよう。もちろん、介護に従事する母親のようにストレスで心の減る思いをしている人には、軽すぎる言葉に聞こえるかもしれない。ならば、もっとやさしく自分に語りかけよう。「今の体の反応は、私を助けるために、そしてやるべきことに集中できるように、起きたことだ。そのサインは大事にしよう」。チャレンジ反応はけっして、まやかしの活力剤ではない。「ストレスの原因がこんなにたくさん起こるなんて、本当に幸せだ。」という過剰にポジティブな態度ともちがう。それは、たとえ今はつらくても、ストレスを自分の目的に合うように形づくれと理解することだ。

リラックスできる能力は、ストレス管理の唯一の方法として過大に評価されてはいるが、やはり重要だ。あなたも何か、自分を深く回復させる活動を定期的に行ってみるといい。瞑想や詠唱、その他のマインドフルネスの技法がストレスを和らげ、テロメラーゼを刺激し、テロメアの伸長を助けるであろうことは、高い質の証拠から示されている。

第Ⅲ部 細胞を守るためにできること

第7章 運動はテロメアを鍛える

 テロメアにはどんな種類の運動が最適か?

●運動は、炎症や免疫老化を防ぐことによって、細胞を守る手助けをする。ここからは、運動が細胞にどんな利益をもたらすかについて、付加的な説明をしよう。運動にはテロメアの維持を助ける作用がある。1200組の一卵性双生児の研究からも、それが確認されている。一卵性双生児研究には、遺伝的な条件を同じくできるメリットがある。体をよく動かす双子の片割れは、あまり動かさない片割れと比べてテロメアが長いことが確認されている。年齢や、テロメアに影響するほかの要因の影響は統計的処理で調整し、それにより、運動とテロメアの純粋な関係を検証できるようにした。そこから明らかになったのは、運動の有益性だけでなく、「座りっぱなし」が代謝上の健康(メタボリック・ヘルス)に非常によろしくないという事実だ。現在では複数の研究から、座ってばかりいる人のテロメアが、少しでも運動をする人に比べて短いことが確認されている。

●いろいろな運動をとり合わせたほうが、効果は高い。数千人のアメリカ人を対象にしたある調査からは、たとえばウォーキングと自転車と筋力トレーニングなど、さまざまな分野の運動を行なう人ほど、テロメアは長いという結果が出ている。だから、筋トレも行うにこしたことはない。筋トレ自体には、テロメア伸長との顕著な関連性は認められていないが、骨密度を維持もしくは改善したり、筋肉量を増やしたり、平衡感覚や運動感覚を養ったりする効果がある。これらはどれも、良く老いるために欠かせない重要な要素だ。

●いろいろな運動をとり合わせたほうが、効果は高い。数千人のアメリカ人を対象にしたある調査からは、たとえばウォーキングと自転車と筋力トレーニングなど、さまざまな分野の運動を行なう人ほど、テロメアは長いという結果が出ている。だから、筋トレも行うにこしたことはない。筋トレ自体には、テロメア伸長との顕著な関連性は認められていないが、骨密度を維持もしくは改善したり、筋肉量を増やしたり、平衡感覚や運動感覚を養ったりする効果がある。これらはどれも、良く老いるために欠かせない重要な要素だ。

  運動が細胞内部にもたらすメリット

●運動は細胞の内部にさまざまな良い変化をもたらす。運動は短期的なストレス反応を起こすが、それが引き金になって、大きな回復反応が起きるからだ。運動によって体の分子は損傷を受け、損傷した分子は炎症を引き起こす可能性がある。だが、運動を始めてまもなく、オートファジーという現象が起き、細胞はまるでパックマンのように、細胞内の損傷した分子を食べてしまう。これにより、炎症を防ぐことができる。同じ実験をさらに続け、損傷した分子の数がオートファジーで追いつかないほど多くなると、細胞は速やかに死滅する。これは「アポトーシス」と呼ばれ、炎症や残骸を残すことのないきれいな死に方だ。運動にはまた、エネルギーを生産するミトコンドリアの数や質を向上させる働きもある。このようにして運動は、酸化ストレスを減少させている。運動を終えて体が回復しようとしているとき、体内ではまだ細胞の残骸の掃除が続いている。それによって細胞は、運動をする前よりもっと健康に、もっと丈夫になる。

第8章 テロメアの疲労と睡眠

●テロメアには睡眠が必要だ。すべての大人において、十分な睡眠がテロメアの健康に重要であることがわかっている。慢性的な不眠とテロメア短縮には相関性があるが、その傾向が特に顕著なのは70歳以上の人々だ。

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 睡眠の回復力

●ふつう、睡眠は活動とは考えられていない。だが、それはまちがいだ。じつは睡眠とは、人間の行うもっとも回復力の高い活動なのだ。体内の生物時計を調整し、食欲を正し、記憶を強めたり癒したり、気分をリフレッシュさせたりするには、睡眠という回復の時間が必要なのだ。

  テロメアにはどれくらいの睡眠時間が必要?

●7時間以上の睡眠をとることは、とりわけ高齢になったときには、テロメアの維持に関連してくる。 ~中略~ 一日に8時間か9時間眠らなければ元気になれない人は、無理に睡眠時間を7時間にする必要はまったくない。限界値を気にせずゆっくり睡眠をとろう。そして、「昼間に眠いのなら、もっと夜に睡眠が必要だ」というおおまかだが、個々の状況をふまえたアドバイスを覚えておこう。

睡眠の長さと質は重要だ。もう一つ、そこに加えたいのが、睡眠のリズムだ。就寝と目覚めの時間を規則正しくし、良いリズムを保つことは、細胞がテロメラーゼを調節するうえで非常に重要だ。ある調査で研究者が、マウスから「時計遺伝子」を取り去った。正常マウスは、朝はテロメラーゼの値が高く、夜には低くなるが、「時計遺伝子」を取り去ると、テロメラーゼの日々の変化にこうしたリズムはなくなり、テロメアは短くなった。同じ研究者は次にヒトに目を向け、勤務スタイル上、体内時計が大きく狂わされていそうな人々を被験者に選んだ。たとえば、救急医療室で夜のシフトを引き受けている医師らはやはり、テロメラーゼの自然な増減のリズムが失われていた。この調査は小規模ではあるが、睡眠と覚醒の正しいリズムがテロメラーゼの活性を保つうえで重要であることを、そしてテロメアを補充し続けるためにも大切であることを示している。

第9章 体重とテロメア:健康的なメタボリズム

 テロメアの短縮と炎症は、どのように糖尿病に影響するのか

●おなかに脂肪のついている人はなぜ、インスリン抵抗性が強く、糖尿病になりやすいのだろうか?貧弱な食生活、運動不足、ストレスはみな、腹部の脂肪や血糖値の高さに関連している。だが、腹部が肥満している人のテロメアは長年にわたって短縮する。それがインスリン抵抗性を悪化させている可能性はおおいにある。デンマークで338組の双子を対象に行われた研究によると、テロメア短縮は12年後のインスリン抵抗性の増加と相関性があった。テロメアが短い双子の一人はもう一人に比べて、インスリン抵抗性が概して高くなっていた。

次の実験からは、糖尿病が起きるメカニズムと、膵臓の中で起きている出来事をうかがい知ることができる。マリー・アーマニオスとその同僚がマウスで行った実験によれば、(遺伝的変異によって)体中のテロメアが短くなると、マウスの膵臓のβ細胞はインスリンを分泌できなくなる。すると膵臓の幹細胞も消耗する。テロメアが短くなり、ダメージを受けたβ細胞がこうして死ぬことで発症する可能性がある。もっと一般的な二型糖尿病の場合も、β細胞の一部が機能不全になっているケースがあり、それには膵臓のテロメアの短縮が何らかの関与をしている可能性がある。

●ほかの面では健康な人も、腹部に脂肪がついていると別の経路で糖尿病を発症することがある。その場合、糖尿病への誘導役を果たすのは、これまで何度も述べてきた慢性的炎症だ。腹部の脂肪、たとえば大腿の脂肪に比べて炎症を起こしやすい。脂肪細胞は炎症誘発物質を分泌し、それが免疫細胞にダメージを与え、免疫細胞を老化させ、テロメアを短くするのだ(老化細胞の特徴の一つは、自分が発した炎症誘発のサインを止められなることだ)。

第10章 食べ物とテロメア:細胞の健康のためには何を食べるべきか

 細胞の三つの敵

炎症、インスリン抵抗性、そして酸化ストレスの危険性については、これまでにさんざん述べた。これらはテロメアや細胞にとって有害な環境をつくりあげる。これらを、体内にひそむ三つの敵と名づけよう。あなたが口にする食べ物の中には、こうした悪漢に餌をやってしまうものがある。いっぽうで、悪漢と闘い、細胞の環境をテロメアの保持にいちばん適した状態にしてくれる食べ物も存在する。

 一番目の敵:炎症

●炎症とテロメアの短縮には、片方がもう片方を悪くするという破壊的な相互関係が存在する。これまで説明してきたように、細胞が老化してテロメアが短くなったり損傷したりすると(それに加えて、DNAの中に修復不可能なほかの損傷が起きたりすると)、そこからは炎症性のサインが発せられる。その結果、免疫系が自分自身に対して攻撃を加え、体中の組織がダメージを受けることになる。炎症はまた免疫細胞を分裂・増殖させる働きもあり、それによりテロメアの短縮はさらに進んでしまう。こうして悪循環がつくられる。

●炎症から身を守るための最善の方法の一つが、敵に餌をやるのをやめることだ。フライドポテトや精製された食品(白いパンや白米、パスタなど)やキャンディやソーダやジュースや大半の焼き菓子から吸収されたグルコースは、血液に急激に流入する。血糖値が上昇し、その結果、炎症を伝達するサイトカインが増加する。

アルコールもまた、炭水化物と同様の作用をする。アルコールの過剰摂取はC反応性タンパク質(CRP)を増やす働きもあるらしい。C反応性タンパクとは肝臓でつくられる物質で、体内で炎症が多発したときに増加する。アルコールはまた、DNAを損なう可能性のある化学物質(発がん性アセトアルデヒド)にも変質し、大量に摂取すればテロメアがダメージを受ける危険も生じる。少なくともラボで実験した細胞については、そうした結果が出ている。ヒトの場合は、そこまでの大量摂取が可能なのかはわからない。これまでにわかっているのは、慢性的な大量の飲酒がテロメアの短縮や、免疫老化のほかのサインと関連しているらしいということだ。だが、少量の飲酒とテロメアとのあいだには、一貫した関係は認められていない。たまにお酒を楽しむくらいなら何も問題ない。

ほかにも良い知らせがある。先ほどの、遺伝子操作によって慢性炎症を起こしたマウスを心配していた読者はどうぞ安心してほしい。抗炎症剤や抗酸化剤を与えることで、マウスのテロメアは機能を回復したのだ。テロメアはもとに戻り、老化した細胞の蓄積は止まった。おかげで細胞は分裂と再生を継続できるようになった。これが示唆しているのは、私たちがみな、自分のテロメアを炎症から守れる可能性があるということだ。もちろん薬を使わずにそれができれば、いちばん安全だし、いちばんスマートでもある。手始めに行なうべきなのは、甘みと香りのある植物性の食品は、選ぶのに困るほどたくさんある。赤や紫や青のベリー類、赤や紫のブドウ、リンゴ、ケール(ちりめんキャベツ)、ブロッコリ、黄タマネギ、瑞々しいトマト、グリーン・オニオン。どれもフラボノイドやカロテノイド、そして植物の色素のもとになっている多様な種類の化学物質を豊富に含んでいる。特に豊富なのはアントシアニンと、フラボノイドの一種であるフラボノールだ。これらは炎症性や酸化ストレスを低く抑えることに関連している。

その他の抗炎症性食品はたとえば、脂肪の多い魚やナッツ、亜麻の種子(亜麻仁)や亜麻仁油、そして葉物野菜などだ。これらの食品に共通するのは、オメガ3脂肪酸を豊富に含んでいることだ。炎症を抑え、テロメアの健康を保つために、体はオメガ3脂肪酸を必要としている。オメガ3にはまた、全身の細胞膜の形成を助け、細胞の構造を柔軟にし、安定させる働きがある。さらに、細胞はオメガ3脂肪酸を、炎症や血栓を調節するホルモンに変容させることもできる。動脈壁が硬くなるか・柔らかくなるかにもオメガ3が関与している。

オメガ3脂肪酸にかぎらず、栄養素が血中にどれだけ含まれるかは、食事から摂取したか、もしくはサプリメントから摂取したかどうかにはかならずしも直接的には関係しない。その数値には、あらゆる種類の複雑な、おおかたは不可知の要因が影響をおよぼしている。たとえば、それぞれの人がどれだけ栄養を吸収できるのか、吸収した栄養を細胞がどれだけ活用できるのか、どれだけ速くそれらを代謝し、失うか、などの要因だ(ダイエット食やサプリメントの宣伝文を読むときには、ぜひこうした情報を頭に入れておいてほしい)。一般的には、栄養は食べ物からとることを私たちはどんな人にも推奨しているが、どうしてもそれが難しいときは、サプリメントでもそこそこ代替にはなる。だが、まずはかかりつけの医師に相談してみよう。いちばん当たり障りがなさそうなサプリメントでさえ何かの副作用があったり、あなたがすでに使っている薬と飲みあわせが悪かったりする可能性はある。特定の健康状態にある人の場合、サプリメントの種類によっては服用できない場合もある。

テロメアの研究からは、オメガ3の摂取がきわめて重要だと示されているが、オメガ3とオメガ6のバランスにも目を配らなくてはならない。なぜなら、典型的な西洋型の食事にはオメガ3よりもオメガ6のほうが多く含まれる傾向があるからだ。両者のバランスをとるためには、ナッツや種子類など加工度の低い食品を食べるいっぽうで、揚げ物やパッケージされたクラッカー、クッキー、チップス、スナックなどの摂取を大きく減らすことが肝要だ。これらの食べ物には往々にしてオメガ6脂肪酸が大量に含まれるうえ、心血管系疾患のリスク要因である飽和脂肪酸も含まれているからだ。

 二番目の敵:酸化ストレス

●ヒトのテロメアは、TTAGGGというDNAの塩基配列の反復からできており、染色体の両端にこの配列が、通常は1000回以上繰り返されている。この貴重な連続体にダメージを与えるのが酸化ストレスだ。酸化ストレスは、細胞の中に大量のフリーラジカルがあるのに、抗酸化物質が足りないときに起こる危険な状況だ。フリーラジカルは、テロメアの塩基配列の中でも特に傷つきやすい「GGG」の部分を標的にする。GGGという列がフリーラジカルに壊されると、DNA鎖は切れ、テロメアの急速な短縮が始まる。そのようすはまるで、細胞の仇敵である酸化ストレスが「GGG」というごちそうを貪っているかのようだ。ラボでの細胞実験だと、酸化ストレスはテロメアに損傷を与えるだけでなく、テロメラーゼの活性をも減退させ、短くなったテロメアをテロメラーゼは復元できなくなってしまう。これは二重の打撃だ。だが、細胞をとりまく培地(ラボのフラスコの中で、細胞の生活を支えているリキッド・スープのようなもの)にビタミンCを加えると、テロメアはフリーラジカルから守られる。ビタミンCやその他の抗酸化物質(ビタミンEなど)は清掃動物のようにフリーラジカルを食べてくれるため、テロメアや細胞に害がおよばなくなるのだ。

 三番目の敵:インスリン抵抗性

●医者であるニッキは、毎日1リットルもマウンテンビューを飲むのが健康に良くないことはわかっている。だが、アメリカ人のおよそ半数と同じように、ニッキは何かしらのソーダ類を飲んでしまう。これらの人々は、インスリン抵抗性という第三の敵にストローを差し出しながら、こう言っているのも同然だ。「これをお飲みよ。そうすれば、望みどおりの巨大で恐ろしいやつになれるよ」

甘いソーダを、あるいは「液状のキャンディ」を飲み干したときに、体の中で何が起こるかを順に説明しよう。まず、ソーダを飲むとほぼ瞬時に、膵臓が多量のインスリンを分泌し、グルコース(砂糖の分解産物)が細胞に入り込むのに手を貸す。20分もすると血流の中にグルコースが蓄積し、高血糖の状態になる。今度は肝臓が、砂糖を脂肪に変える仕事を始め、およそ60分後、血糖値は下がる。するとあなたは「落ちた」気持ちをもう一度上げるため、さらに砂糖を口にしようと考え始める。これがあまりに頻繁に起こると、最後はインスリン抵抗性が強くなってしまう。ソーダは、新手のタバコのようなものなのだろうか?そう言っていいかもしれない。カルフォルニ大学サンフランシスコ校の栄養疫学者で私たちの共同研究者の一人でもあるシンディ・ルーンは、毎日20オンス(600㏄弱)の甘いジュースを飲む人は、テロメアの長さで換算すると4.6年分も生物学的には老化が進んでいることを発見した。これは驚いたことに、テロメアに対してタバコがおよぼすのとほぼ同規模の害だ。1日に8オンス(約240㏄)のジュースを飲んだ場合には、テロメアは2年間分、生物学的に老化していた。ジュースをよく飲む人は、そのほかに不健康な生活をしていて、それが結果に影響しているのではないかと、あなたはいぶかるかもしれない。そしてそれはたしかに大きな問題だ。この研究にはおよそ5000人の被験者が参加したが、私たちは交絡因子[調査対象とは別の要素]に対処するために最善を尽くした。食生活、喫煙習慣、BMI、腹囲(おなかの脂肪を計測するため)、収入、年齢など、テロメアと甘味飲料の相関性を打ち消す可能性のある材料を考えつくかぎり考慮した。それでも、両者の相関性は消えなかった。ジュース類とテロメアとの関係は、小さな子どもにも存在する。ジャネット・ウォイチツキーによれば、1週間に4本以上のジュースを飲んでいる三歳児には、テロメアの大幅な減少が認められたという。

●砂糖がテロメアに与える害を顕著にあらわしている。問題はその、「伝達プロセス」にある。繊維を含んでいないため、糖分はスピードを落とさず急速に体に回ってしまう。クッキーやキャンディやケーキやアイスクリームなど、デザートやおやつと考えられるものはほぼすべて、大量の砂糖を含んでいる。さらに、白いパンや白米やパスタなどの精製食品やフライドポテトは単純かつ迅速に吸収される炭水化物を多く含み、血糖値を大きく乱す危険性があるのだ。

●インスリンの急増は究極的にはインスリン抵抗性をもたらす危険がある。それを避けるためには、繊維を豊富に含む食品に注目することだ。全粒粉製のパンやパスタ、玄米、大麦、種子、野菜、果物などはみな、繊維をたくさん含んでいる(果物には単純糖質が含まれているが、繊維が含まれているのと、全体的な栄養上の価値ゆえ、健康的な食品といえる。繊維の部分を除いてしまった果物のジュースは、一般的に健康的な食品とはいえない)。これらの食品には食べごたえがあり、カロリーのとりすぎを防ぐ働きもある。おなかの脂肪を減らすのにも役立つ。おなかの脂肪は、インスリン抵抗性や代謝異常にも密に結びついている。

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

 健康的な食のパターン

  コーヒーと健康

●コーヒーが健康におよぼす作用は、数百もの研究で検証されてきた。朝の一杯をこよなく愛する人々は、どうぞ安心してほしい。結果はほぼ一貫して、「シロ」だ。いくつかのメタ分析からは、認知力低下や肝臓病やメラノーマ(黒色細胞腫)などの発病リスクがコーヒーで減るという結果も出ている。コーヒーとテロメア長の関連を調べた実験は今のところ一つしかないが、現在までの情報はおおむね前向きだ。実験では、慢性的な肝臓病患者40人を対象に、コーヒーが健康を改善するかどうかを検証した。被験者は、1日にカップ4杯のコーヒーを飲むグループと、飲まないグループ(対照群)とにランダムに分けられた。コーヒーを飲むグループの人々は1か月後、対照群と比べてテロメアが著しく長くなり、血中の酸化ストレスは低下していた。そのうえ、4000人以上の女性を対象にした調査によれば、カフェイン入りのコーヒーを飲んでいる女性にはテロメアの伸長が多く認められた(カフェイン抜きのコーヒーを飲んでいる女性には、そうした現象は認められなかった)。朝、薫り高いコーヒーを飲む理由がこれでまた一つ増えた。

第Ⅳ部 社会的環境は、あなたのテロメアを変える

第11章 テロメアを支える環境と人々

 化学物質、がん、長すぎるテロメア

●化学物質の中には、テロメアを長くする物質もある。聞こえは良いが、あまりに長いテロメアは、無制御な細胞増殖、いいかえれば、がんと関連がある場合もあることを忘れてはいけない。遺伝毒性をもつ化学物質が体内に入り込むと遺伝子変異が起こりやすくなり、がん細胞が生じやすくなる。そして、がん細胞は、テロメアが長ければ次々と分裂増殖を繰り返し、がん性腫瘍になりやすい。テロメアを長くするというサプリメントなどの製品が広く出回り、売買されていることが心配なのは、そのためだ。心配なのは、化学物質への暴露やテロメラーゼを活性化するサプリメントが細胞を損傷したり、体が経験したことのないほど激しく(あるいは不適切に)テロメラーゼを増加させたりテロメアを変化させたりする可能性だ。サプリメント等に頼らずとも、ストレス管理や運動、十分な栄養摂取や快眠などの健康的な習慣を実践すれば、テロメラーゼの働きはゆっくりと着実に、経年的に高まる。こうした自然なプロセスで、テロメアは守られ、維持される。場合によっては、ライフスタイルの変革によってテロメアがいくらか長くなることもある。そうしたやり方によるテロメアの伸長は、無制御な細胞増殖を引き起こさないはずだ。テロメアの伸長と相関性のある健康的な生活習慣が、ガンのリスクを高めるという研究結果は一例もない。ライフスタイルを変えることは、化学物質暴露やサプリメント摂取とはちがう安全な作用によってテロメアに影響をおよぼすのだ。

どんな化学物質が、テロメアの過度の伸長という不自然な作用を起こすのだろうか? ダイオキシンやフラン(さまざまな産業プロセスで放出される有害な副生成物で、動物性製品によく見られる)、ヒ素(飲料水やある種の食品に含まれる)、粒子状物質(PM)、ベンゼン(ガソリンなどの石油製品のみならず、タバコの煙を介しても暴露する)、ポリ塩化ビフェニル類(PCB。禁止化合物だが、今でも高脂肪の動物性製品に含まれている場合がある)への暴露はすべて、テロメアの長さと相関性がある。注目すべきは、これらの化学物質のいくつかが、がんのリスクにも関連があるとされてきたことだ。動物のがん発症率増加に関連する物質もあれば、細胞に大量注入すると発がんを促進する分子変化が起きた物質もある。これらの化学物質は、遺伝子変異やがん細胞が育つ絶好の下地をつくることもできるうえ、テロメラーゼを活性化したりテロメアを伸長したりもでき、がん細胞の増殖を促す危険が高い。テロメアはこのように人工的化学物質とがんをつなぐリンクなのではないかと推測される。以上、テロメアに有害な作用をする物質については表33を参照してほしい。

 

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まとめ 相互のつながりに気づく:私たちの細胞の遺産

 テロメア・マニュフェスト

●あなたの細胞の健康は、あなたの心と体の、そしてコミュニティの幸福に反映される。次に紹介するのは、テロメアを維持するための基本戦略だ。より健康的な世界のためには、これが最重要だと私たちは信じている。

― テロメアを気づかう ―

+自分を悩ませ続けている強力なストレスがどこから来ているのか見直そう。変革は可能だろうか?

+脅威をチャレンジの材料としてとらえ直す。

+自分を思いやれるようにする。それができれば他人をも思いやれるようになる。

+回復に効果のある活動をする。

+思考の認識や気づきなどの練習をする。幸福への扉が開く。

― テロメアを保つ ―

+体を動かす。

+回復効果の高い睡眠を長時間とるために、入眠儀式を行う。

+代謝改善と食欲のコントロールのために、マインドフル・イーティングを実践する。

+ホールフードやオメガ3など、テロメアに良い食べ物を積極的に食べ、ベーコンなどは避ける。

― 他者とつながる ―

+他者とつながる時間をつくる。デジタル画面から離れて過ごす時間を毎日確保する。

+数は少なくとも親密な人間関係を築く

+子どもにきちんと関心を向け、適量の「良いストレス」を与える。

+コミュニティで社会的な資本を育てる。他者を助ける。

+緑を求める。自然の中で時間を過ごす。

+他者とのつながりは「マインドフル」な関心を向けることで生まれる。他者への関心は、相手への贈り物だ。

― コミュニティと世界全体において、テロメアの健康を増進させる ―

+妊婦健康管理をきちんと行う。

+暴力やトラウマなど、テロメアを損なうような事態から子どもを守る。

+不平等を減らす。

+地域から、そして世界から毒物を放逐する。

+万人が新鮮で健康的な食べ物を適正な価格で入手できるように、食糧政策を改善する。

私たちの社会の未来の健康は、今このときに形づくられている。そして私たちは未来の一部を、テロメアの長さによって測ることができる。

追記分子レベルの回復メカニズム、運動と鍼は同じか?

 

左は7章で既にご紹介させて頂いた内容です。

鍼灸師の私にとってはこの内容が1番の発見でした。

筋肉痛は運動によって筋線維が傷つくことによって起きるものとされています。一方、鍼の太さは0.16mm(1番鍼)、刺しても多くはほぼ無痛です。しかしながら、分子レベルで考えればたいへんな衝撃です。この、鍼によって生じる筋線維のダメージも、運動によって生じる筋線維のダメージも、その後のダメージを回復させるメカニズムは基本的に同じではないかと思われます。

つまり、鍼治療は運動と同じように、オートファジーやアポトーシスという重要な機能を呼び起こし、結果的に体内を掃除して、もっと健康に、もっと丈夫にしているものと思います。 

 

画像出展:「テロメア・エフェクト」

ただし、『運動にはまた、ミトコンドリアの数や質の向上の働きもある』という、もう一つの効果については鍼治療は当てはまらないと思います。

(左下の絵をクリック頂くと「WIRED」さまのサイトに移動します)

体内のミトコンドリアを増やして元気になるための3つの方法

1.身体に寒さを感じさせること

2.運動によってエネルギーを消費すること

3.カロリー制限をすること

1番、3番は食事(栄養)がキーワードだと思います。

太田成男先生:日本医科大学教授。1951年生まれ。日本ミトコンドリア学会理事を務めるミトコンドリア研究の第一人者。

 

がんと自然治癒力8

真柄俊一先生は、『まさに私が知りたかった「遺伝子の謎」について書かれている本でした。この本によって私がそれまでやってきた自分の治療法の正しさを理論的に確認することができたのです。』とお話されています。※参照「がんと自然治癒力1

読み始めたときは少し違和感がありましたが、それはすぐに消し去り、ブルース・リプトン先生のパワーと説得力に圧倒されました。

ブログでは文末にある著者紹介、目次に続き、タンパク質の構造、量子物理学と生物学、心の力、防衛システム、にかかわる項目を選び出し、各項目の内容を一部または全部書き出しました。

リプトン先生もご指摘されているように、量子物理学と東洋医学には重なる部分があるようです。「気とは何か」という最大のテーマを考える上でも、量子物理学に触れることは何かのヒントを得られるかもしれません。

また、“エピジェネティクス”については、「エピジェネティクス―新しい生命像をえがく(仲野徹著、岩波新書)」という本の中で、『エピジェネティクスは、文字通りには遺伝子以外の要因が表現型に与える影響を研究する分野ですが、実際はもっと狭義でDNAやそれに会合するヒストンタンパク質の化学修飾を解析するのが主たる対象です。 ~中略~ 20世紀末にゲノムが解読されましたが、同時にDNA配列だけでは生物の全貌は知りえないことも分かりました。広義のエピジェネティクスは、間違いなく21世紀の生命科学を代表する分野の一つです。』と説明されています。

 思考のすごい力」に出てくる“エピジェネティクス”も、後者の、広義のエピジェネティクスについて語られています。そして、キーワードはタンパク質環境からの信号」ではないかと思います。

出版:PHP研究所

初版:2009年2月

原書の初版は2005年3月でした。


〈著者紹介〉:ブルース・リプトン(Bruce Lipton, Ph.D.)

ブルース・リプトン博士は、科学と魂(スピリット)の橋渡しをする第一人者として、国際的に認められている。テレビやラジオ番組へのゲスト出演は数十回に及び、また、複数の国際会議で基調講演を行なっている。

リプトン博士は、細胞生物学者として科学の世界に入った。ヴァージニア大学で学位を授与されたのち、1973年にウィスコンシン大学医学部の解剖学科に所属した。細胞のふるまいをコントロールする分子的なメカニズムに焦点を合わせ、筋ジストロフィーやヒト幹細胞クローンについて研究した。同僚のエド・シュルツ博士と共に開発した実験的な組織移植のテクニックは『サイエンス』誌に掲載され、のちに、ヒトの遺伝子工学の新方式として利用されるようになった。

1982年から量子力学の原理の吟味にとりかかり、細胞の情報処理システムに関する知識とその原理を統合するにはどうしたらよいのかを考察し始めた。そして、細胞膜について画期的な研究をなし遂げ、細胞の最外層をなす細胞膜がコンピュータのチップと同じ役割をすること、つまり、細胞膜が細胞の脳に当たることを示した。1987年から1992年までスタンフォード大学医学部で研究を行ない、細胞膜を介する作用により、環境が細胞のふるまいや生理的状態をコントロールし、遺伝子のスイッチを切り替えることを示した。生命が遺伝子によりコントロールされるという確立した科学的な見解に対抗するこの発見は、今日では科学において最重要分野の一つであるエピジェネティクスの先触れとなった。リプトン博士の研究結果をまとめた論文のうち主要な二本は、心と身体をつなぐ分子レベルの経路を明らかにするものだ。その後、他の研究者が発表した多くの論文により、博士の考えが正しいことが証明されている。

科学への新たな取り組み方は、リプトン博士の私生活も一変させた。細胞生物学の理解が深まることにより、心が身体の機能をコントロールするメカニズムの重要性を認識し、また不滅の魂(スピリット)の存在を暗に感じるようになった博士は、科学的研究で得た理解を生物としての自らの身体に適用した。その結果、健康状態が改善され、日常生活の質も大きく向上した。

リプトン博士は大学医学部で一般向けに表彰ものの講義を行なっている。また、現在、基調講演やワークショップの発表者としてひっぱりだこである。従来の医学や代替医学の専門家に向けて講義をし、また、一般聴衆向けには最先端科学を説明し、それが心身医学や霊的(スピリチュアル)な原理とぴったりと調和することを説いている。何百人もの聴衆から、博士の説明する原理を適用して身体的にも精神的にも健康状態が改善したという報告がなされている。リプトン博士は“新しい生物学”の主要な代弁者の一人と見なされている。 

 

画像出展:「Bruce Lipton

以下は目次になります。青字が取り上げた項目です。

イントロダクション 天国の島で生命の真実に目覚める

 「生命の秘密」を探究する研究者として

 細胞は独立した生き物

 信念が人生をコントロールする

 魂と科学を統合する「新しい生物学」

第一章 細胞は知性を持っている

 落ちこぼれ医学生たちとの出会い

 細胞は学習し、記憶する

 賢くなるために共同体をつくる細胞

 進化の方向を決めるのは環境

 限界はない。自分で“限界があると考えて”いるだけだ。

第二章 環境が遺伝子のふるまいを変える

 遺伝子は生物を「コントロール」しない

 人間の身体は“タンパク質の機械”

 タンパク質は歯車のように組み合わさって働く

 「DNAボス仮説」はなぜ生まれたか

 マウスと人間の遺伝子の数はほぼ同じ

 核は細胞の生殖腺

 遺伝子をコントロールするタンパク質

 細胞は環境に合わせて形を変える

第三章 細胞膜こそ細胞の脳である

 原核細胞はどこにあるのか

 細胞膜の構造と機能

 「内在性膜タンパク質」が遺伝子のスイッチ

 神経の役割を果たす細胞膜

 細胞膜は“コンピュータ・チップ”と同じ

第四章 量子物理学が生物学・医学を変える日は近い

 量子物理学と縁なく過ごしてきたわたし

 ニュートン力学では超常現象を解明できない

 物質はエネルギーでできている

 人間の生体内システムは重複的

 製薬会社の駒となっている医師たち

 電磁エネルギーが生体調整に深い影響を与える

 代替医療の研究が進まないわけ

 エネルギー波を治療に活用する

第五章 心が持っているすばらしい力

 不治の病が治った!

 否定的な考えを排除、肯定的に考える

 脳は体全体の細胞をコントロールする

 意識を正しく用いれば、病身を健康にできる

 心は身体に優先する

 プラシーボ(偽薬)に治療効果があるのはなぜか

 心は薬より力がある

第六章 恐怖を捨てよう。満ち足りた人生を創るために

 「成長・増殖」と「防衛」反応は同時に働かない

 身体を守るための二つの防衛システム

 大病のほとんどは慢性ストレスが原因

第七章 親は子どもの遺伝子が最高の可能性を発揮できる環境を整えよう

 「親の役目は重大」を最先端科学が証明

 潜在意識が持つ驚くべきパワー

 子どもは親が教える知恵を潜在意識のメモリーにダウンロードする

 意識(手動操縦)と潜在意識(自動操縦)は名コンビ

 潜在意識を変更するのは難しい

 知能指数決定に遺伝子が関係するのは34%

 胎児を意識的に育てて可能性を広げてやろう

 愛は生命の水

エピローグ 愛情深きものが生き残る世界へ

 科学と魂の世界がつなぐ細胞生物学者として

 地球は一つの生命体

 わたしたちは宇宙/神の一部の現れ

 人間は魂が形をとったもの

 いまは次の進化のサイクルに向う準備期

 人間は愛を必要とする存在

イントロダクション 天国の島で生命の真実に目覚める

細胞は独立した生き物

●「セントラル・ドグマ」は遺伝子をコントロールしているという科学的な仮定だが、一つ、大きな欠陥がある。遺伝子は自らのスイッチのオン・オフはできないのだ。専門用語を用いて言うならば、遺伝子は「自己創発」ができないのである。環境の中の何かが引き金にならなければ、遺伝子は活性化しない。

科学の先端では、当時すでにこれは事実として確立されていたが、保守的な科学者たちは遺伝子を中心とするドグマを信じ込むあまり、それが見えず、ひたすら無視していたのだった。セントラル・ドグマをあけすけに批判するものだから、わたしは科学界の異端者のような存在になった。破門志願者であるだけではなく、火あぶりの刑にも値するものだった。

スタンフォード大学で就職面接を受けた際に行なった講義で、気がついてみると、集まった教授連中(多くは国際的に認められた遺伝学者だった)に対して、「反証事実があるにもかかわらずセントラル・ドグマに執着するとは、宗教的原理主義者と変わるところはない」といって糾弾していた。

この冒瀆的な内容を耳にして、講義室には憤怒の叫び声がわき起こり、これで職はもうないなと思った。ところが、新しい生物学のメカニズムに関するわたしの洞察が刺激的だったためか、ポストを得られることになった。スタンフォード大学の傑出した研究者たち、とくに病理学科長のクラウス・ベンシュが支持してくださり、わたしのアイデアを人間のクローン細胞を用いた研究に応用し、さらに追及するように励まされた。

第一章 細胞は知性を持っている

細胞は学習し、記憶する

細胞たちは、積極的に生存に適した環境を探し求めながら、一方では毒のある有害な環境を避けようとする。これを同時にやってのける。単一の細胞も人間と同じように、周りの微細な環境から幾千もの刺激を受け、データを分析し、適切な行動をとり、生き延びる。

単一の細胞は、環境を通じた経験によって学習し、細胞記憶を保持することもできるが、これは細胞分裂によって次世代の細胞に受け継ぐことも可能だ。

たとえば、麻疹(はしか)ウィルスが子どもの体内に侵入した場合のことを考えてみよう。ウィルスに対抗して身体を守るには、タンパク質の一種である抗体をつくる必要がある。このため免疫細胞が呼び集められるが、この細胞たちは未分化だ。麻疹に対する抗体を製造するのには、設計図になる新しい遺伝子をつくりださなくてはならない。

麻疹抗体の遺伝子をつくりだす最初のステップは、未分化な免疫細胞内で起こる。未分化な細胞には、抗体に関係する多数のDNA断片があり、それぞれ異なる形のタンパク質に充当している。一つひとつの免疫細胞の中で、この断片がランダムに組み換えられ、組合されて再構成される。その結果、個々の細胞は特有の抗体遺伝子を一つ有することになるが、免疫細胞全体としては、膨大な種類の抗体遺伝子をもつことになる。

遺伝子をもとにして個々の細胞が生産する抗体は、それぞれ形態が異なる。未熟な免疫細胞がつくりだした抗体が、侵入してきた麻疹ウィルスと“ほとんど”相補的なものであれば、その細胞が活性化される。

活性化された細胞は驚くべきメカニズムを発動する。「親和性成熟」というプロセスを経て、免疫細胞は抗体タンパク質の形を“微調整”し、侵入者である麻疹ウィルスとぴったり結合できる抗体をつくりだせるようになる[Li, et al,2003; Adams, et al, 2003]。

活性化された免疫細胞は増殖を始め、抗体遺伝子のコピーが何百個とつくられるが、その過程で「体細胞超突然変異」が起き、できたコピーはもとの遺伝子と少しずつ異なるようになり、それぞれの遺伝子をもとに、少しずつ形の異なる抗体が多種類できる。その中からいちばんぴったりくる抗体をつくる遺伝子が選択され、この遺伝子がさらに体細胞超突然変異を起こし―という過程が何度も起こり、麻疹ウィルスに完璧に合う抗体が形成されるようになる[Wu, et al, 2003; Blanden and Steele 1998; Diaz and Casali 2002; Gearhart 2002]。

こうやって練り上げられた抗体がひとたびウィルスに結合したなら、侵入者は無力化され、破壊される。かくして、子どもは麻疹でつらい目に合わなくてもすむ。細胞はこの抗体を遺伝的に“記憶”しているので、将来再び麻疹ウィルスが侵入するようなことになれば、細胞は即座に反応して免疫系を発動し、身体を守ってくれる。

新しい抗体の遺伝子は、細胞が分裂すればそのたびに子孫に受け渡される。つまりこの過程で、細胞は麻疹ウィルスについて“学習”し“記憶”し、娘細胞に伝えられ、細胞分裂によってその記憶も増殖していく。これはもう遺伝子操作だと言ってもよいだろう。

この妙技は、細胞が長年進化させてきた「知性」のメカニズムを備えている事実を示している。これはたいへん大事なことだ[Steel, et al, 1998]。

賢くなるために共同体をつくる細胞

●化石の記録によれば、地球ができてから6億年後にはそういった生物が出現していたが、その後、27億5000万年間、地球には単細胞の生物、バクテリアや藻類、アメーバなどの原生動物しかいなかった。約7億5000万年前、こういった賢い細胞たちは、さらに賢くなる方法を見つけだした。多細胞生物(植物や動物)が誕生したのだ。

最初のうちは、多細胞といいてもゆるく結びついた共同体、いわば単細胞生物の「コロニー」のようなものだった。数十個から数百個ほどの集まりだったのだが、共同体をつくって生活するのは進化の上で有利だったので、すぐに数百万、数十億、何兆個もの細胞が集まって社会的な相互作用を行いながら生活するようになった。

個々の細胞は顕微鏡的なスケールだが、多細胞の共同体の大きさは、肉眼でやっと見えるものからモノリスのように巨大なものまで、さまざまだ。生物学者はこの組織化された共同体を人間の視点から見た構造をもとに分類する。

細胞の共同体を肉眼で見れば、たとえばマウスやイヌ、人間などといったふうにひとつの実態に見える。しかし、実際は、何百万個、何億個という細胞が高度に組織化された結社のようなものだ。

~中略~ 

高密度で生存していくために、細胞たちは環境を構造化していった。そういった高性能の共同体では、必要な仕事が分担される。大きな集団では組織内の関係は常に変化するが、変化に後れを取ることなく正確かつ効率的な分担が行なわれる。

個々の細胞が特殊化した仕事をするほうが共同体にとっては効率的だ。動物や植物では、胚が発生していく際、細胞は特殊化した機能を身につけていく。組織学的に分化が起こって細胞の集団ができ、身体のなかでそれぞれ特有の組織や器官をつくりあげていく。

進化の過程での「分化」というやり方、つまり共同体のメンバー間で仕事を分担するという方法が、共同体を構成する細胞一つひとつの遺伝子に埋め込まれていった。それが生命体が生きていく上で必要な効率性や能力を向上させたのだ。

大きな生命体では、たとえば環境からの刺激を読みとって反応するのに関係する細胞は、全体のほんの一部だけだが、これらは神経系の組織や器官を構成し、特殊化する作業を行っている。

つまり、神経系の役割は、環境状態を感知して、膨大な数の細胞からなる共同体全体の細胞の行動を統率することだ。共同体内で労働を分担するのは、生存する上で他にも有利な点がある。効率がよいので、より少ない資源でより多くの細胞が生活できるのだ。

※モノリス:建築や彫刻で使う大きな石や岩(動植物のことではないか)

第二章 環境が遺伝子のふるまいを変える

遺伝子は生物を「コントロール」しない

1967年、大学院で幹細胞クローン作製法を初めて教えられたとき、以後、決して忘れられないある知恵を授けられた。一見単純なこの知恵は、後年、わたしの仕事や人生にとってたいへん深い意味をもつようになる。だが、当時はそれには気がつかず、その深さを理解できたのは何十年も経ってからだった。

クローン作製を指導してくださったのはアーヴ・コーニグズバーグ教授。熟練した科学者で、幹細胞クローン作製をごく初期にマスターした細胞生物学者の一人だ。教授は、「もしも、培養中の細胞の調子が悪かったら、原因は細胞そのものではなく、その置かれた環境に求めるべきだ」と教えてくださった。

~中略~ 

言われた当座はぴんとこなかったが、このフレーズが生命の本質を理解する上で大事な洞察を与えてくれるものだと、次第にわかってきた。この知恵には一度ならず助けてもらった。よい環境においた細胞は元気だったし、環境が悪ければ勢いがなくなった。環境を整えてやれば、「病んでいる」ように見えた細胞も活力をとりもどした。

ところが、ほとんどの細胞生物学者は、組織培養技術に関するこの知恵をまったく知らずにいた。それどころか、ワトソン&クリックの発見に続いてDNAの遺伝暗号が明らかになってからというもの、科学者たちは、環境影響について考慮するのをやめてしまう。環境は軽視されがちなのだ。

あのチャールズ・ダーウィンでさえも、晩年になってから、進化論が環境の役割について正しく評価していなかった、と認めている。1876年、モリッツ・ワグナーに宛てた手紙にはこう書かれている。

「思うに、わたしの犯した誤謬の最たるものは、食物や気候など、環境の直接的な作用については十分に重要性を認めず、自然選択と関連性を持たないものとしてしまったところでしょう。……【種の起源】を書いたころは、その後しばらくの間もそうでしたが、環境の直接的な作用について証拠となるような事実を、ほとんど見つけられませんでした。ところがいまや証拠は山のようにあるのです」[Darwin, F 1888]。

しかし不幸なことに、ダーウィンがラマルクの「思想」に回帰したのを見て、ダーウィンの信望者たちは、彼も年老いたのだろう、頭が混乱してきたようだ、としか思わなかった。師がその考えを改めたのに、ダーウィン信望者たちはダーウィン自身よりももっとダーウィン流であろうとしたのだ! 

フランスの生物学者 ジャン・バティスト・ラマルク(1744年-1829年)

ダーウィンの理論は、二十世紀になって発達した分子遺伝学も組み込んで、「新ダーウィン説」として現代化された。エルンスト・マイヤーは率先して新ダーウィン説の構築を進めた生物学者だが、そのマイヤーでさえ、ラマルクを先駆者として認めている。1970年に出された名著進化と生命の多様性(Evolution and the Diversity of Life’ 未邦訳)で、エルンスト・マイヤーはこう書いている。「ラマルクは『進化論の創設者』として捉えたほうが良いと思われる。実際、フランスの歴史家の中にはそう認めている人も一人ならずいる。……ラマルクは著作の一冊をほぼ全部費やして、生物が進化してきたという理論を提唱しているが、そういう試みをしたのは彼が初めてである。彼こそが、動物全体を、進化の結果生まれてきたものとして示した、最初の人物なのである」[Mayr 1976, page 227]

現代社会で苦しめている糖尿病や心臓病、ガンなど、健康でしあわせな生活を断ち切ってしまう病はさまざまであるが、いずれも単一の遺伝子によって引き起こされるものではない。多数の遺伝子や種々の環境要因が相互に関係しあった結果、発症するのだ。

でも、新聞には、いろいろな病気の遺伝子が発見されたなんて大見出しがよく出ているじゃないか、と思う方もおられるだろう。だが、派手な見出しを鵜呑みにするのは禁物だ。記事をよく読めば、真実はもっと地味だとわかる。科学者たちは、数多くの遺伝子を数多くの病気や人間の数多くの性質と関係づけているだけだ。たった一つの遺伝子が、ある病気を引き起こすという事例が見つかるのは、たいへん稀なことなのだ。人間の疾患に関していえば、遺伝子の異常だけで発症するものは、人間がかかる病気全体のなかで、わずかに2%ほどしかない[Strohman 2003]。

メディアの報道では「関係する」と「引き起こす」という語を正確に用いていないことが多く、これがまた混乱を助長している。何かが、ある病気に関係するからといって、それが必ずしもその病気を引き起こす原因になるわけではない。

「引き起こす」というのはつまり命令を出し、コントロールするということだ。たとえば、いまわたしがキーを取り出して、「このキーが車をコントロールする」と言ったとしよう。そのキーがなければイグニッションをオンにできないのだから、「コントロール」といっても筋は通るかもしれない。だが、実際問題として、キーが車を「コントロール」するのだろうか? もしそうだとしたら、うっかり差しっぱなしにしたが最後、ちょっと目を離したすきに、キーが勝手に車をひとっ走りさせてしまう、なんてことになる。実際は、キーは車のコントロールに「関係する」だけであり、車をコントロールするのはキーを差し込んで回す人間だ。

これと同じように、遺伝子の中には生物の行動や性質に関係しているものがあるが、こういった遺伝子はほかの何かがスイッチを入れて、初めて働き始めるのだ。

では、いったい何が遺伝子のスイッチを入れるのだろう? 解答は、1990年にナイハウトが発表した「発生における遺伝子の隠喩と役割」という論文に説き明かされている[Nijhout 1990]。彼によれば、遺伝子が生物をコントロールしているという考え方は、真実ではなく仮説にすぎない。ところがこの考えが長きにわたって繰り返し唱えられてきたために、科学者たちはこれが単なる仮説だということを失念しまったのだ。この仮定はいまだかつて証明されていないどころか、近年この仮定を揺るがす研究成果が発表されているのだ。

ナイハウトは、遺伝子によるコントロールは現代社会という言葉の隠喩になっている、と論じている。つまり遺伝子工学技術を用いれば、数々の病気は魔法のように治療でき、さらには何人ものアインシュタインやモーツアルトをつくりだすのも自由自在である。わたしたちはそのように信じたいのだ。だが、隠喩は隠喩であって、科学的な真実とイコールではない。

では何がいったい真実なのか。ナイハウトは簡潔に要約している。「ある遺伝子の産物が必要になったとしても、その遺伝子発現のスイッチを入れるのは環境からの信号である。遺伝子が自分自身でスイッチを入れる資質を持っているわけではない」。つまり、遺伝子のコントロールについては「環境こそが問題なのだ」というフレーズがぴったりとあてはまる。

人間の身体は“タンパク質の機械”

●有機化学が明らかにしたところによれば、細胞を構成しているのは四種類の高分子―多糖類、脂質、核酸(DNAとRNA)、そしてタンパク質―だ。どれも細胞にとってなくてはならないものだが、なかでもタンパク質は生命体にとってきわめて大事な要素だ。わたしたちの細胞は、タンパク質がブロックのように積み重なって形づくられていると言ってよい。

おまけに、わたしたちの身体はどんな機械よりもずっと複雑だ。たとえば身体の中では、10万種類以上のタンパク質が働いている。これは一つとってみても、単純に機械だと言ってすますわけにはいかないのがわかるだろう。

さらに細胞内では10万個以上のタンパク質が働いている。では、このタンパク質はどんな構造をしているのか調べてみよう。それぞれのタンパク質は、アミノ酸が数珠つなぎになってできている。 ~中略~ 

アミノ酸がつながってできたタンパク質は、かなり融通がきくということにも注意していただきたい。おもちゃのネックレスは、きつく折り曲げると外れてしまうが、アミノ酸のつながりはそう簡単には外れない。たとえていうならヘビの背骨のようなものだ。ヘビの脊椎は、同じようなかたちをしたたくさんのパーツ(椎骨)がつながってできている。だからヘビは、まっすぐな状態から丸まったボール状まで、さまざまな形をとることができる。

タンパク質を構成するアミノ酸どうしはペプチド結合でつながっていて、ヘビの背骨と同じように、さまざまな形をとることができる。タンパク質の「背骨」にあたるのはアミノ酸の連なりで、アミノ酸は結合部で回転したり湾曲したりする。のたくったりくねったりする様は、まさにナノ(100万分の1ミリメートル)スケールのヘビと言ってもよいだろう。

タンパク質の背骨がどのような曲線を描くかは、二つの主な要因によって決定される(つまりこれらがタンパク質の形を決定することになる)。一つはアミノ酸の配列パターン。ポップビーズのように結合するアミノ酸は、種類によって形が異なるので、アミノ酸配列が異なれば、背骨の曲がり方も異なってくる。

もう一つは結合したアミノ酸どうしの電荷による相互作用。ほとんどのアミノ酸は正あるいは負の電荷を持っているが、これが磁石のように作用する。正と正、負と負の電荷は反発し合うが、正と負の電荷は引きつけ合う。

先に説明したように、アミノ酸どうしの結合部は回転したり曲がったりすることができるので、それぞれのアミノ酸がもつ正負の電荷にしたがって結合部が形を変え、その結果、タンパク質の背骨は自ずと特有の形をとることになる。

タンパク質の中には、多数のアミノ酸が結合してかなり長くなっているものもある。長い分子は「シャロペン」と呼ばれるタンパク質分子に助けてもらわないと、うまく折りたたみができない。正しく折りたたまれなければ、背骨に障害がある人と同じように、うまく機能できない。だがよくしたもので、異常な形のタンパク質は細胞内で分解される。背骨となるアミノ酸の鎖はばらばらにされ、また別のタンパク質を合成する材料として使い回される。

タンパク質は歯車のように組み合わさって働く

生命の本質を理解しようとするなら、まずは、タンパク質という一種の“機械”がどうやって動くのかを理解しなければならない。

タンパク質分子は最終的に、ある立体構造をとる(これは「コンフォメーション」と呼ぶ)。このとき、“背骨”を構成するアミノ酸の電荷や磁場は安定した状態になっている。もしタンパク質内の電荷が変化すると、新しい電荷に合わせて、タンパク質の“背骨”は自ずと大きく曲がって変形し、再び安定状態になる。

たとえば、“背骨”を構成するアミノ酸にホルモンなど他の分子が結合したり、酵素の働きで電荷をもつイオンが付加されたり、あるいは奪われたりすると、タンパク質分子内の電荷の状態は変化する。また、携帯電話など、外部から電磁場への干渉があった場合などにも電荷の状態には変化がみられる[Tsong 1989]。

このように、タンパク質は形を変えることができ、見事な工学的特徴をもつことになる。タンパク質にはそれぞれ特有の立体構造があり、立体的にぴったりと合う分子どうしは結合することが可能だ。

形態的かつエネルギー的に相補的な分子とタンパク質が出合うと、あたかも精密な歯車どうしが噛み合うように、両者はがっちりと結合する。 

 

画像出展:「思考のすごい力」

上の図をよく見ていただきたい。図には5個のタンパク質分子を示した。それぞれが異なる形をしている。これらはいずれも、実際に細胞内で働いている分子“歯車”だ。これらの生体「歯車」のエッジは、人工的な歯車ほどシャープではない。だが、それぞれ特有の立体構造をもっているので、形が合う分子があれば、がっちり結合しそうだと想像できる。 

左の三つの図では、ねじ巻き時計の部品を使っ