パーキンソン病-進化する診断と治療【座談会】

現在、週2日の業務委託で行っている訪問鍼灸・マッサージの患者さまの中に、パーキンソン病の患者さまがいます。お一人は孤発性といわれる、いわゆる普通のパーキンソン病です。もう一人は全体の10%以下とされている家族性パーキンソン病です。
前者の孤発性パーキンソン病に比べ、後者の家族性パーキンソン病の解明に関しては、病因となる遺伝子の発見などが進んでいます。その家族性パーキンソン病である、もう一人の患者さまの鍼治療の目的は痛みの軽減です。8月後半に発生した右大腿部前面近位の強い痛みについては、中間広筋を中心にした大腿四頭筋への施術により、9月中旬には概ね痛みは取れましたが、現在の主訴である強い側弯を伴う右腰痛については苦戦しています。パーキンソン病で現れるドパミンの問題は、中枢神経からの痛みの抑制も関係しており(参考「ドーパミンの鎮痛作用」)、簡単な話でないのは間違いありませんが、少しでも軽減したいと試行錯誤しています。
一方、家族性パーキンソン病に対する理解不足は明らかだったため、何はともあれ「知ること」を目的に、『パーキンソン病 -進化する診断と治療』という専門誌に挑戦することにしました。
なお、その特集は【座談会】【基礎】【診断】【治療】の4つに分かれています。今回のブログはその中の【座談会】が対象になります。

【座談会】は3人の先生によって行われています。

高橋良輔先生:京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座 臨床神経学 教授(司会)
服部信孝先生:順天堂大学医学部 脳神経内科 教授
望月秀樹先生:大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授

出版:最新医学社


【座談会】は「何故、減るのか」に関して、研究テーマを3つに分けて紹介しています。ブログではこの3つを取り上げ、続いてDMT(disease modifying therapy:疾患修飾療法)、発症前診断・発症前治療の課題、弧発性パーキンソン病への展開の4つについて書いています。

内容は本文から抜き出したものを列挙するだけというものですが、それぞれに関連して見つけたサイト(記事)を添付させて頂きました。そして、最後に、分かったことをまとめ、あらたな宿題を明記しました。

1.αシヌクレインの凝集


上記の表と図は、『タンパク質の一生』という本から持ってきたものです。(参考「悪玉タンパク質」)

表内の原因タンパク質を見ると、アルツハイマー病のアミロイドβタンパク質、プリオン病(BSE)のプリオンが比較的有名だと思いますが、αシヌクレインは家族性パーキンソン病の原因タンパク質とされています。つまり、αシヌクレインは、アルツハイマー病でいえば、アミロイドβタンパク質と同じ位置づけということになります。

フォールディング異常(ミスフォールディング)とは、製品で考えれば製造ミスです。不活性とは不良品ということです。右上の図の右下の絵は[不活性]となっており、上方に描かれた元の形のようになっていません。これがミスフォールディングです。

ミスフォールディングによって不活性となったタンパク質は凝集する傾向があります。そして、凝集したタンパク質は細胞にとって非常に有害です。なお、フォールディング異常の原因とされているのは、熱、細菌感染、炎症活性酸素、紫外線、飢餓、低酸素状態などのストレスとされています。

αシヌクレインというタンパク質が異常化して、これが毒性を発揮するのではないか。
●αシヌクレイン(タンパク質凝集体であるレビー小体の主成分と考えられている)は細胞から細胞に伝播することが分かってきた。
●αシヌクレインによる線維形成と細胞毒性は3種類(フィブリル、オリゴマー、リボン)あると言われている。つまり、αシヌクレインが蓄積したときの構造によって毒性が違う可能性があり、毒性の少ないαシヌクレインに変化させるという治療戦略も考えられる。
●パーキンソン病で最初にαシヌクレインの病理が出てくる脳幹の下部にある迷走神経背側核(下図参照)は腸管をしており、その腸管を調べてみると腸管にもαシヌクレインの塊があることがわかってきた。したがって、最初に腸管にαシヌクレインの塊ができて、迷走神経の線維を伝って脳幹下部の迷走神経背側核に病理が出現するのではないか、すなわち、パーキンソン病は腸から始まるのではないかという面白い考え方が、最近提唱されている。

●Parkin変異の患者でαシヌクレインが蓄積しているのは、ほとんどが高齢者である。通常、20歳代でパーキンソン病を発症してしかるべきなのに、60歳代で発症しているケースがある。これはαシヌクレインがParkinのマイトファジーに保護的に働いている可能性があり、一方的にαシヌクレインを悪者扱いすることは正しくないかもしれない。しかしながら、αシヌクレイン遺伝子がduplicaton、triplicationになるとパーキンソン病を発症する。また、αシヌクレインの蓄積が細胞死に結びつくことは多くのエビデンスがあり、αシヌクレインをDMTのターゲットの第1候補になるだろう。


上記の2つの絵はいずれも「人体の正常構造と機能」からのものです。(クリックすると拡大されます)。

左は脳幹部に存在している脳神経核の絵ですが、迷走神経背側核は下部の延髄に、疑核(ピンク色)と舌下神経核(緑色)の間に存在しています。色は黄色なので、その働きは「一般内臓運動(GVE)」ということです。一方、右の絵では迷走神経背側核が関係している臓器が確認できます。核は右上にあり、多くの内臓の運動に関わっていることが分かります。

2.ミトコンドリアの品質管理障害

「エネルギープラント」とも言うべきミトコンドリアは、もともとは別のバクテリアで、およそ16億年前、酸素を使わない単細胞生物と共生を始めたと考えられています。そのミトコンドリアはエネルギー生産の過程で、危険な活性酸素を放出してしまう宿命を負ってしまいました。
活性酸素は反応性が強く、周囲の物質をボロボロにしてしまう危険性を孕んでいますが害ばかりではありません。

外部からの異物を殺菌するのに利用されたり、古くなったタンパク質を壊すのに使われたり、酸化力の強い刺激で細胞を元気にしたりする作用も持っています。このように、危険なはずの活性酸素が利用されているのは、私たちの体に活性酸素を無毒化する酵素が数多く備わっているからです。逆にいうと、進化の過程において活性酸素という強い毒物を無毒化できるようになったということです。

出版:新潮文庫

ミトコンドリアの品質管理の障害により、異常ミトコンドリアが毒性を発揮するのではないか。
●パーキンソン病の分子病態に関して、非常に注目されているのはミトコンドリアの品質管理障害。家族性パーキンソン病の病因遺伝子としてParkinとPINK1という分子があり、これらが欠損するとパーキンソン病になることが分かっている。そして、この2つのタンパク質は傷害を受けたミトコンドリアを処理するときにも非常に重要な役割を果たしていることが分かってきた。すなわち、ミトコンドリアが傷害を受けると、これら2つの分子の働きによってそのミトコンドリアオートファジーにより分解処理される。これをマイトファジーと言うが、それによって、傷害を受けて働けなくなったミトコンドリアが処理される。一方、PINK1、Parkinが変異を起こすパーキンソン病ではマイトファジーが機能しなくなり、傷害を受けたミトコンドリアが処理されずに残るため、活性酸素などを放出し細胞死を引き起こすという考え方がある。この知見は培養細胞を主とした実験ではあるが、かなり確かな事実として受け入れられてきている。
●新しいパーキンソン病遺伝子として、CHCHD2遺伝子がある。この分子によってミトコンドリア機能とパーキンソン病の新たな関係が明らかになるのではないかと注目されている。
●CHCHD2が電子伝達系の酸素活性に影響を与えることは、マウスやショウジョウバエの研究から多分間違いないという所まではきており、そのミトコンドリアが一次的に傷害を受けるとドパミン神経細胞死につながる可能性を考えている。
●CHCHD2はミトコンドリアの異常の問題とαシヌクレインによる問題とを結びつけるキーファクターになるかもしれない。
●PLA2G6(家族性パーキンソン病の原因遺伝子の1つ)の病理検討においてミトコンドリアの内膜にαシヌクレインがかなり増えていることを報告したが、神経細胞死は確認できなかった。
●PARK4のiPS細胞を使った研究でαシヌクレインの発現が高いという報告もある。
●ミトコンドリアの生合成を高めることによって細胞死を防げることも明らかにされている。

 

ミトコンドリアは船型の小器官で、内外2層の膜で包まれ内膜はクリスタに移行しています。クリスタの膜上には径9~10nmの基本粒子がぎっしり配列しており、ADPとリン酸からATPを合成します。

画像出展:「細胞と組織の地図帳」

3.オートファジー・リソソーム系の障害
タンパク質分解系、特にオートファジー・リソソーム系の障害が関っているのではないか。 
・オートファジー・リソソーム系の障害が注目されるようになったのは、ゴーシェ病というリソソーム蓄積病として有名な先天性代謝異常症の疾患遺伝子であるGBA変異遺伝子が、孤発性パーキンソン病の大きなリスク因子であることが示されたことによる。
・GBA遺伝子変異を持つ人は持たない人に比べ5倍以上パーキンソン病を発症しやすい。
リソソームの異常が孤発性パーキンソン病を引き起こすのではないかという強い遺伝的な証拠が出された。

【スライドショー】

下記はネット上にあった資料をお借りして、スライドショーにしました。スライドは11枚で8秒で次のスライドに切り替わります。また、停止させることも可能です。

題名:パーキンソン病の発症に関連する重要な遺伝的因子を発見・確立 ~大規模国際多施設共同研究により、人種によらないパーキンソン病の最も重要な遺伝的因子を発見・確立

下記の絵で見て頂きたいのは、リソソームです。左の絵をクリックし拡大して頂くと、先にご紹介したミトコンドリアの上方に[異物や老廃物の消化分解]としてリソソームが変化していく過程が出ています。


DMT(disease modifying therapy:疾患修飾療法)
αシヌクレインの凝集・ミトコンドリアの品質管理障害・オートファジー・リソソーム系の障害の3のことを踏まえて、我々は新たなDMTを開発しなければならない。
●現在、パーキンソン病の症状改善をもたらす対症療法は大変発達している。
●DMTはどのようなものが良いのかを考えると、最も直接的に考えられることはαシヌクレインの毒性を何とか消せないかということ。
●αシヌクレインを減らす治療薬として、αシヌクレイン抗体がある(大手製薬会社で開発中)。また、転写制御も治療薬の候補である。
●現在、αシヌクレインを減らすという方向で、核酸医薬(DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」を医薬品として利用するもの)が開発されている。
●スクリーニングで見つけた最適な核酸医薬をαシヌクレインのトランスジェニックマウスの脳室に投与し、運動機能の改善を認めている。現在は大型動物で有効性、安全性などの長期試験の検討が進められている。
トランスジェニックとは:外部から特定の遺伝子を受精卵に注入して発現させること。各種の疾患モデルマウスの作製等に応用されている。     
パーキンソン病にはいろいろなタイプがあるので、ターゲットをPARK4(αシヌクレインduplication:αシヌクレインの遺伝子重複がある家系)の患者として、希望があれば治験を進めている。 
●現在は、核酸医薬の他、抗体治療が世界的に行われている。
●発症したときには既にドパミン神経細胞が大分減ってしまっているので、発症してしまった患者にDMTができるのかという大きな課題がある。
●核酸医薬にしても、抗体医薬にしても、バイオマーカーを用いて効果の確認を取る必要がある。現在、この問題は難問となっているが、ミトコンドリアの代謝に関係するものが重要なマーカーになるのではないか。
●抗体医薬のバイオマーカーとしては、抗体医薬は全身に投与するので、例えば腸でバイオプシー(生検:試験切除)をして、そこでαシヌクレインが減っているかどうかを見るということも可能かもしれない。
バイオマーカーに関する話(引用):『アルツハイマー病のアミロイドβ(Aβ)タンパク質に対する抗体治療で、バイオジェン(神経疾患、神経変性疾患の治療法開発に重点を置く、世界屈指のバイオテクノロジー会社)の作ったaducanumabという抗体に効果があるという報告が2016年9月の「Nature」に出て、非常に大きなインパクトがありました。Aducanumabの場合は、蓄積したアミロイドを可視化するPETがすでに開発されていたので、治療を行うことによってアミロイドが減っていることが画像からも示されました。症状の変化もありますが、それにプラスして画像によって評価ができるということが、アルツハイマー病においては非常に強力な武器になっていると思います。』 

発症前診断・発症前治療の課題
海外ではアルツハイマー病の患者への対応と同様に、遺伝的な疾患の可能性のある患者さんを早期に診断する、いわゆる発症前診断や発症前治療をどんどん進めている。それは日本では倫理的な問題があり、非常に大事な点である。(これは、発症していないのに将来パーキンソン病になるとわかってしまうことが、非常に大きな問題になるということです)
●全家系について調べたデータでは、αシヌクレイン duplication(PARK4)の浸透率は約33%。これは遺伝子変異を持っているとパーキンソン病になる確率が33%という意味。発症する確率は家系によって違う。
●PARK4の家系は全世界で約60家系、日本では10家系位。発症しない人もおり、その人に治療するわけにいかない。
●現在、海外ではアルツハイマー病治療薬の治験で発症前診断が行われている。発症前治療の二重盲検試験(区別のつかない偽薬を用いて効果の差をみること)が海外では進んでいる。日本ではどうするのか。確かに難しい問題だが、それを乗り越えていかないとDMTは実現しないかもしれない。
●PARK4の患者は進行が早く、パーキンソン病の発症があればほぼ100%が認知症に移行する可能性高い。

弧発性パーキンソン病への展開
●PARK4を対象とした新しい治療が生まれたとして、これを弧発性パーキンソン病に広げていくためにはどうすればよいのか、理想的には前駆期パーキンソン病がきちんと診断できるようになれば、その時期から治療が可能になるのではないか。
●前駆期パーキンソン病の位置付けということに真剣に取り組まなければならない。
●RDB(REM睡眠行動障害)は前期パーキンソン病としてとらえていいのかどうかということもある。多くの疫学調査で、RBDの80%以上が数年以内、長いケースでも16年ぐらいでパーキンソン病になるということからすれば、RBDが良いターゲットになると思う。
●腸の連関現象がすごく重要。2016年、『Cell』にgerm freeとパーキンソン病由来のマイクロバイオータではパーキンソン病モデルの進展が大きく異なると発表された。専門家の間では賛否両論。もし、腸をターゲットにできれば高分子の治療薬も投与可能になる。

分かったこと
●遺伝的要因による家族性パーキンソン病は10%以下、ほとんどのパーキンソン病は弧発性パーキンソン病と呼ばれるものである。
●家族性パーキンソン病では、αシヌクレインという遺伝子が関わっている。
●家族性パーキンソン病では、ミトコンドリアの品質管理機能の破綻が関わっている。
●弧発性パーキンソン病では、GBAという遺伝子の変異が大きなリスク因子であり、特にリソソームの異常が関わっていると考えられている。


αシヌクレインの問題は、フォールディング異常によるものとされており、その原因は熱、細菌感染、炎症活性酸素、紫外線、飢餓、低酸素状態などのストレスと言われています。

炎症とはウィルスなどとの戦い、戦火に包まれた戦場です。(参考「慢性炎症」)

戦いの真っただ中」:白血球が侵略者を僕滅させます。

地上部隊の白血球は、その役割ごとに主に4つの小隊に分かれています。
B細胞:特殊なタンパク質から抗体とよばれる武器を使って、バクテリア、ウィルス、毒素を捕らえ悪行を阻止します。
好中球:寿命が3日しかない好中球は短期決戦になります。武器は強力な活性酸素で、あたかもクラスター爆弾のように周囲に存在するすべてを抹殺します。
マクロファージ:食細胞といわれるマクロファージは大蛇のように、侵略者に近づいて一気に飲みこみ、活性酸素や酵素を使って分解してしまいます。
T細胞:血液中に逃亡したり、組織の中に潜む侵略者を追跡し、容赦なく破壊します。まるでSWATのような働きですが、状況によってはより適した白血球に援軍を要請することもあります。

戦い終わってこれは治癒の段階です。病原体と免疫との戦いで体が受けた損傷を治癒させます。この局面が健康を維持する鍵となります。

活性酸素は強力な武器です。しかしながら、次のような大きな課題を持っています。

『感染や炎症によってマクロファージや好中球が活発化し、ロケット弾である活性酸素を敵めがけて発射する。しかし、この活性酸素が敵ばかりでなく、細胞の内部に存在するDNAにも損傷を与えてしまう。これは、戦場で味方の砲撃によって犠牲者が出てしまう“友軍放火”の生物版といえる。

熱、細菌感染、紫外線、飢餓、低酸素状態の各ストレスは一般的とは言いがたく、最も注目すべきは活性酸素(炎症を含む)ではないかと思います。

αシヌクレインの問題では、特に活性酸素が重要ではないかとお話しましたが、ミトコンドリアはエネルギー産生時に活性酸素を作ってしまうという問題点を抱えています。さらにリソソームも同様に活性酸素を産生するようです。万一、ミトコンドリアやリソソームが暴走し大量の活性酸素を産生するようなことが起きれば、それは由々しき問題につながります。

画像出展:「日本老化制御研究所


宿題

今回の勉強で最も気になったことは、パーキンソン病の主因の一つに活性酸素の問題があるということです。(何度も、太赤字でマークしてしまいました)

一方、鍼灸治療の効果は、「筋肉などの軟部組織を緩め、血液循環を良くすること。自律神経を調え、免疫力を高め、患者さま本来の自然治癒力を手に入れること。」と考えており、活性酸素については直接的というより間接的に働きかける何かがあると考えます。

それを見つけるには、活性酸素あるいは酸化ストレスについて学習する必要があるため、適したテキストを探し出そうと、しつこくネット検索を続けました。そして、下記のような非常に興味深い本を見つけることができました。

 

発行が2009年9月の専門雑誌ですが、頑張って勉強したいと思います。

出版:羊土社

 

追記(2018年1月21日)

患者さまの中で年始に転倒。お話を伺うといくつかパーキンソン病/パーキンソン病症候群が疑われる所見をお持ちだったため、診察内容などを説明した「親切で分かりやすいサイト」はないかと探していた時に見つけたものです。なお、このサイトは大日本住友製薬さまが運営されています。

神経リンパ反射療法(後編)

今回のブログは、「神経リンパ反射療法(前編)」に続くものです。目次全体も前編に記載されていますのでご参照ください。

 

第2部 神経リンパ反射点を用いた治療

6 神経リンパ反射点を用いた基本治療
・どの反射点に関しても、重要なのは、周辺組織を近づけることを通して陽性の神経リンパ反射点を解放させ、「ネスト(巣、あるいは休める所という意味があります)」を形成することである。そうしてリラックスさせ、副交感神経系または再生へのスイッチの切り替えを行う。
6.1 身体器官治療と反射点グループ
・個々の器官の治療のほかに、チャップマンとオーウェンスは急性疾患と複合機能的病像のためにも適応症に関連づけた反射点グループを導入した。これらは今日の臨床的見地からすぐに自然に納得できるものではないが、自然療法的視点からは、それは理解可能で有意義なものである。
7 ホルモン機能障害と自律神経失調症(ストレス)
7.1 概要
・自律神経系のストレス症状とホルモン機能障害は互いに似ていることが多く、相互が原因となっていることも珍しくない。「攻撃や防御」反応という意味における交感神経系のストレスが刺激されるので、特に運動器官と中枢神経系が活性化され、血液と栄養が優先して供給される。同時に再生と構築を担う代謝器官の栄養状態は悪化する。
8 感染症群と免疫刺激の可能性
8.1 概要
・オステオパシーの起源には、内臓疾患と感染症疾患において徒手によるテクニックで治療の助けを得ようとする目的が存在した。そのためチャップマンも神経リンパ反射点をまずは感染症に役立てようとした。そのため身体器官の接尾辞に「-itis」を付けて表現した。感染症群と主要な補足的反射点が経験によって発見され、実践でその効果が証明された。
9 胃腸群と消化器官
9.1 概要
・チャップマンとオーウェンスによる胃腸群の治療は、消化器官疾患とリンパへの負荷と感染症における基本的な治療を示す。直接的な器官の関係性は非常に理解しやすい。甲状腺を組み込むことは、規則正しい消化機能への自律神経系制限の意義を示すものである。
 チャップマンとオーウェンスは、重く局所的な器官疾患を研究の中心に置いていたが、ここではさらに機能的症候群、特に回盲弁の意義についても取り上げる。
10 泌尿生殖器エリア
10.1 概要
・泌尿生殖器エリアの反射点は、骨盤底とその上に位置する横隔膜の機能と密接に結びついている。ストレス下で不特定に活性化されることが多く、自律神経系の過負荷ではともに治療することが検討されなければならない。本テキストにおいて女性の生殖器官を強調しているが、男性における生殖器官も少なくとも女性と同様に活発であることを記しておく。ストレスによる負荷は男女に関わらず同様に該当する。
 恥骨ゾーンの周辺と骨盤底のエリアにおける治療の症状と位置に関しては、特に注意深い取り組みが必要である。なぜなら多くの人は性的器官に関してトラウマに感じてしまう可能性があるからである。「Woman's care」や「Man's care」といったテクニックとともに治療することは、緩和をもたらすことが多い。ただし、これらのテクニックは明白なセッティングで、できれば同性のセラピストによって行われるべきである。
11 感覚器官と中枢神経
11.1 概要
・感覚器官と中枢神経系のための反射点は、頭部の感覚器官の診断と治療において、眼、鼻、耳の感覚の質にそれほど関係があるわけではないことを留意すべきである。それらはより器官の栄養変化に関連する。そのため夜盲症や高齢者難聴より、結膜炎や騒音性難聴の方が、相応する神経リンパ反射点の反応が大きい。また、感覚器官の「極度に緊張した状態」もチャップマン反射点に反映されやすい。そのようにして、非正規の場合、視力が悪化している側に過敏な箇所を見つけることが多い。
 眼、鼻、耳、大脳、小脳のソーンはクラニオセイクラル・セラピーにおいても重要である。

クラニオセイクラル・セラピーの施術は、病気の症状にではなく、人というシステム全体に働きかけるもの。セラピーの概念としては、頭蓋仙骨系を直接的、間接的にリラックスさせることによって、頭蓋の骨と骨を関節のようにつなぐ頭蓋縫合が柔軟になって緩んでいき、その働きで、自調整力と自然治癒力が改善される効果を得るものである。
 このセラピーはリハビリテーションや看護や介護、末期医療など、さまざまな現場で利用できるため、理学療法士、マッサージセラピスト、代替療法家、助産師などのプロフェッショナルな方々にも、スキルを持つ人が増えている。

画像出展:「amazon」

12 代謝の活性化と変化:骨盤・甲状腺症候群、治療チャート
12.1 概要
・肥満、2型糖尿病、高血圧、閉塞性動脈硬化症、痛風、脂質代謝障害などの国民病は、いわゆるメタボリック症候群に数えられる。神経リンパ反射療法からの視点としては、線維筋痛症のようなリウマチの形態範囲における疾患もこれらのグループに属すると考えられる。自然療法では、ピッシンガーによる自律神経基礎システムと間葉の浄化を、これらの病像の理解を広め、治療への提案の理論的なきっかけになるように提示しており、臨床医学もゆっくりとこれらの考えに近づいている。

 

第3部 グッドハート反射点による筋治療
14 グッドハート反射点による筋治療
14.1 概要
・最初のチャップマン反射点ですでに運動器官の治療を示すゾーンについて言及した。上肢神経痛の反射点、硬直した頚部、坐骨神経痛である。神経リンパ反射点の治療の重点が内臓の治療にあることは変わりない。
 グッドハートが取り入れた神経リンパ反射点の筋への関係性の解釈によって、診断と治療の可能性が大きく拡大した。この章では、運動器官の治療のためのコンセプトについて、その意義と可能性をより深く紹介したい。その中では、我々の診療所で効果を実証した、いくつかの治療ゾーンの例と治療の関連性を取り上げる。
14.2 頚椎
・頚椎の運動制限に関連する三つの神経リンパ反射点の効果は常に驚くべきものである。治療を通して、多くの患者において回旋、伸展、屈曲運動可動性が改善している。そこでは副鼻腔、鼻、咽頭の反射点が重要である。
 肩甲帯に作用するすべてのゾーンは追加的に頚椎の可動性にも影響を与える。頚部・肩部位における反射点を取り上げる。
14.3 肩甲帯
・肩甲帯における不調の最も多い原因は、治療の基礎でも紹介した胸骨結合の負荷姿勢にある。小胸筋、前鋸筋、鎖骨下筋の短縮は肩甲骨と鎖骨を前面・下方に引く。小胸筋は上肢の内転と内旋を通してその姿勢を強化する。それを通して伸長した頚筋と肩の筋における代償的な筋の過緊張をもたらし、同時に上肢筋における機能的・反射的障害も生じさせる。肩・上肢部位における偽性根性誤感覚の広がりは、可動性制限と緊張疼痛と同様の結果である。僧帽筋による棘突起への動きは、局所的な背筋深部を通して該当する頚椎と胸椎の髄節における代償的な遮断をまねく。大胸筋は肩甲帯における対抗する緊張を強める。
14.4 上肢

内転筋連鎖
 驚くべき反射点のひとつが内転筋連鎖のためのゾーンである。それは肩のエリアの内転に効果的であるだけではなく、下肢の内転筋緊張と上肢の把持と保持の機能全体にも効果的である。
 グッドハートの反射点「内転筋群」には上腕二頭筋、円回内筋、長母指屈筋が属する。反射点は小胸筋と大胸筋のラインに位置する。小胸筋の烏口突起に向かうラインには腕橈骨筋のためのゾーンが存在する。烏口突起には小胸筋のほかに上腕二頭筋短頭と烏口腕筋が起始する。我々の検査によると、このゾーンは少なくとも回外筋と、母指と少指、そして薬指との対立を実現する手の筋にも影響を与える。


内転筋ゾーンは次に掲載した父親と娘の写真で観察することのできるすべての機能に影響を与えている。父親は上肢を内転し、肘を屈曲し、前腕を回内させ、娘を安全に保つために母指と他の手指で把持する。娘は回内させた手で手すりをしっかりつかむ。これらの姿勢パターンは日常生活によく生じるものである。

 

画像出展:「神経リンパ反射療法」

 

14.5 体幹
・腹斜筋と腹横筋
 薄筋は恥骨結合の外側縁に起始している。薄筋と内転筋は、筋膜の緊張システムにおいて、腹直筋と腹斜筋および腹横筋のために対抗する筋であり安定させる筋である。正中前面連鎖では、内転筋と薄筋から腹筋を通して胸筋に力の伝達が生じている。

 

画像出展:「神経リンパ反射療法」

・仙棘筋群
 仙棘筋群として脊柱傍の起立筋全体が挙げられる。
 背側はL2の肋骨突起の両側に仙棘筋群のための反射点が位置する。この反射点は同時に腸腰筋と腹壁にも作用する。
 L3は明確な可動性を有す最後の腰椎である。L4とL5は靭帯と筋膜を通して仙骨と腸骨に結びつき、わずかな弾性をもつ比較的硬直した機能ユニットを形成する。L3と場合によってはL2への筋の結びつきは仙棘筋群の可動部の下方終末部を意味する。ここには相応する高い受容器の層が存在すると考えられる。また、この高さには、L2とL3の棘突起に起始する胸棘筋がある。この筋の起始と停止の切り替えゾーンT11とT12の高さに存在する。興味深いことに、仙棘筋群のための二つ目の可能性のあるゾーンとして後頭部外側の正中傍の上方起始部が有効である。
14.6 骨盤と下肢
・大殿筋
 背側の大殿筋ゾーンは、大腸のための結合織マッサージゾーンをカバーする。グッドハートによって、上後腸骨棘とL5棘突起の間は大殿筋ゾーンだと明記された。筋膜メカニズムの観点からは、我々が挙げたゾーンは納得がいくもので、臨床でも実証された。
 立位における15°の屈曲角度までは、脊柱は特に脊柱起立筋によって支えられている。そこからは次第に腰部の筋膜が支える働きを担う。30°からは筋膜が背筋よりもより支える機能を担う。大腸疾患による反射阻害が生じている場合は、腰背腱膜はその弾力性の一部を失う。腸骨稜を通して緊張は大殿筋の起始に伝わり、それは反射的にトーン(緊張)を高めることで反応する。筋膜上で力は腸脛靭帯に伝わり、大腿において腸脛靭帯が中央に位置することから腹側外側広筋に伝わる。このルートが大腸のためのゾーンと大殿筋のためのゾーンの二重の意義を説明する。

 

第5部 他の療法とのコンビネーション
17 マッサージ
・概要
 神経リンパ反射点は基本的にマッサージテクニックでもあることから、チャップマン反射点も自然に他のいくつかの療法によって補完することができる。これらの療法は、バランスをとり刺激を与えるために、補完的に投入することができる。
 「マッサージ」という定義は多様なテクニックと適応症を含む。異なるマッサージテクニックは常に似たようなメカニズムを刺激する。組織のトーン(筋緊張)、栄養状態、敏感性などの変化は、局所的な障害を示し、反射弓における障害に対して髄節徴候と髄節を超えた徴候を示す。この変化はマッサージにおける診断の基盤となり、同時に必要な治療の質を決める。局所的な特定と独特な治療の質は、多くのマッサージの適応症において投薬治療より効果的である。
どちらかというと局所的な作用
 古典的なマッサージ、サイリャックスによるマッサージ、腸マッサージ、アイダ・ロルフによる筋膜マッサージ、マニュアル・リンパドレナージがある。
伝達性の作用を伴う反射マッサージ
 結合組織マッサージ、骨膜マッサージ、足部の反射ゾーン療法、チャップマンとグッドハートによる神経リンパ反射点マッサージ、、ラドロフによる指圧と鍼治療マッサージがある。

神経リンパ反射療法(前編)

チャップマン反射を詳しく知りたいと思い本を購入しました。ブログはその内容に基づくものですが、前編・後編(次週掲載)に分かれています。

前編は目次(4段階目を除く3段階まで)と第1部の「基礎」に関する内容です。後編は、第2部については「神経リンパ反射点を用いた治療」の「概要」だけを集めており、第3部の「グッドハート反射点による筋治療」に関しては、概要が伝わると思われる部分を抜き出しました。また、第5部「他の療法とのコンビネーション」では「マッサージ」に関してのみ触れています。

目次の順番通りに書いていますが、抜粋することが不適切と感じたものは除外しており、中身も「引用」しているものと、「ポイントをまとめた」ものがミックスされた状態です。以上のことから、神経リンパ反射療法を詳しく知りたい方には不十分な内容であり、雰囲気をつかむ程度のものとお考えください。

 

著者:クラウス・G・ウェーバー

   ラインハルト・バイヤーライン

日本語版編集協力:高垣俊介

出版:ガイヤブックス

 

※クラウス・G・ウェーバーは、総合診療、自然療法、ホメオパシーの専門医。医師会の監査人としても活躍。

※ラインハルト・バイヤーラインは、鍼治療、ホメオパシー、徒手による治療を専門とする療法士。自然療法のテーマに関する多くの専門書の著者。

第3版への序文(抜粋)
およそ100年前に、オステオパシー医師のフランク・チャップマンは、彼の名前を冠することになる内臓と体性器官システムの治療のための神経リンパ反射を発見した。およそ10年もの期間中、反射点は解剖学的・生理学的関連性が説明されないまま臨床で効果があると実証されてきたのである。その状況は、ジョージ・グッドハートが1980年代に筋のための神経リンパ反射点の意義を発見してから変化し始めた。
ここ数年間で神経リンパ療法に関する情報量は猛スピードで増加している。そのため、この第3版は実装に基づいて完全に見直し拡大したものとしてみさなんに届ける。この発展には下記の点が貢献している。
・ドイツオーソ・バイオノミー協会における独自の研究。とくにミヒャエラ・ヴィーゼによるグッドハートとチャップマン反射の機能的結びつきに関する研究。
・神経生理学的反射療法(NRT)のセミナーの発展にともなう、スザンネ・ザイデルとクリスタ・へゲレ=マックやその他我々の講師陣仲間による研究調査。
・ステファン・アンドレヒトによる最新の筋膜研究を参考にした研究内容の綿密な検証。
・多くの反射点のための論理的な解剖学的・生理学的説明モデルの発見。
・チュービンゲン市の理学療法アカデミーとロイトリンゲン大学の理学療法を専攻とする学生による最初の学士論文

 

チャップマンとグッドハートによる神経リンパ反射点は、我々の日常的な診断と治療においても正確で貴重なツールであることが証明されている。それは、器官や機能の不調を区別し解明することに大変適している。そして疾患の重度と、患者がどの程度調整可能なキャパシティーを有しているかというヒントを与えてくれる。

神経リンパ反射点の一覧表は、病像の症状の特性と他の身体機能との関連性をよく理解するのに役立つ。
・患者の内臓の負荷から生じる運動器官の不調は解消するか、または維持されたままか。
・内臓の不調はもしかすると筋筋膜連鎖の機能的過負荷によるものではないだろうか。
そのような場合に一覧表や参考書をチェックすることは、日常的に新たな関連性を発見する刺激となる。みなさんを、ヒトの器官の複雑な反射関係をテーマとした発見の旅にご招待しよう。そこでは神経リンパ反射点を通してこの関連性をより理解し、語義を把握する。
このようにして、個々の内臓、筋、筋連鎖による不調や疾患、また調整可能な機能連鎖と代謝全般に、神経リンパ反射点を用いてポジティブな影響を与えることができる。』

オステオパシー:オステオパシー医学では人間が自ら持っている自然治癒力を高めるために様々なストレスや刺激、変化によって起こる、筋肉・筋膜・骨格・頭蓋・内臓・神経系・リンパ・血管等の障害、歪みを解放する治療を施すことを目的とします。

目次(4段階めを除く3段階までを表記)
第1部 基礎
1 はじめに
 1.1 神経リンパ反射点の発見
 1.2 包括的な治療法である神経リンパ反射療法
 1.3 神経リンパ反射療法とオーソ・バイオノミー
 1.4 自己経験と発展
2 神経生理学的基礎
 2.1 髄節ネットワーク
 2.2 受容器
 2.3 髄節を超えたネットワーク
 2.4 局所的作用
 2.5 筋機能連鎖
 2.6 組み合わせたゾーン
 2.7 間質細胞組織内の病原性のある相互作用
 2.8 神経リンパ反射の交感性・副交感性作用
 2.9 他の反射点システムと神経リンパ反射・反射ゾーンの比較
3 治療の基礎
 3.1 神経リンパ反射の解剖学的位置と形態学
 3.2 治療方針
 3.3 刺激の程度
 3.4 治療に対する反応
 3.5 治療時間
 3.6 特殊なケース
4 適応症と禁忌症
 4.1 適応症
 4.2 禁忌症
5 神経リンパ反射の一覧表
 5.1 チャップマンによる内臓器官反射点
 5.2 グッドハートによる筋反射点

第2部 神経リンパ反射点を用いた治療

6 神経リンパ反射点を用いた基本治療
 6.1 身体器官治療と反射点グループ
 6.2 基本の治療
7 ホルモン機能障害と自律神経失調症(ストレス)
 7.1 概要
 7.2 内分泌群
 7.3 自律神経失調症(ストレス)における追加反射点
8 感染症群と免疫刺激の可能性
 8.1 概要
 8.2 感染症群
 8.3 免疫調整と気道の局所反射点
9 胃腸群と消化器官
 9.1 概要
 9.2 胃腸群
 9.3 その他腹腔内器官
 9.4 機能ユニットとしての消化器官
10 泌尿生殖器エリア
 10.1 概要
 10.2 器官
11 感覚器官と中枢神経
 11.1 概要
 11.2 器官
12 代謝の活性化と変化:骨盤・甲状腺症候群、治療チャート
 12.1 概要
 12.2 実践に適した治療のヒント
 12.3 骨盤・甲状腺症候群の反射点
13 身体立ち直り反射
 13.1 機能検査
 13.2 四肢の伸展・屈曲負荷の遠心性検査
 13.3 身体立ち直り反射点
 13.4 眼筋協調
 13.5 頚部立ち直り反射
 13.6 骨盤立ち直り反射

第3部 グッドハート反射点による筋治療

14 グッドハート反射点による筋治療
 14.1 概要
 14.2 頚椎
 14.3 肩甲帯
 14.4 上肢
 14.5 体幹
 14.6 骨盤と下肢

第4部 図表集

15 神経リンパ反射点の治療のための図表集

第5部 他の療法とのコンビネーション

16 神経リンパ療法とマニュアル・セラピー
17 マッサージ
18 足部の反射ゾーン療法
19 浄化・変化療法
20 反射・浄化テクニックと投薬を組み合わせた療法
21 ニューラル・セラピー

第6部 付録

目次に従っていますが、取り上げていない章については、見やすさを考慮し削除させて頂きました。
第1部 基礎
1 はじめに
1.1 神経リンパ反射点の発見
・リンパの阻害とともに現れる内臓の慢性疾患的変化は、その内臓に反応が結びつく身体表面のゾーンにリンパの腫れを同時にもたらす。そして我々はそのリンパの腫れを通して逆に内臓への治療を働きかけることができる。
1.2 包括的な治療法である神経リンパ反射療法
・筋、関節、内臓、筋膜、中枢神経系、内分泌代謝は、健康を保証するために、生体力学的および生化学的視点においても協調しなければならない。このレベルのひとつにでも機能障害が生じると、不調や疾患につながってしまう。
1.3 神経リンパ反射療法とオーソ・バイオノミー
・オーソ・バイオノミーはオステオパシーを発展させた療法として樹立された。これは、柔道整復と理学療法の要素とも結びついている。
2 神経生理学的基礎
2.1 髄節ネットワーク
・内臓の不調は、その内臓と結びつく筋、関節、骨膜、筋膜、皮下組織、皮膚の代謝と負荷能力に影響を与える。
 ・デルマトーム(皮膚部位)
 ・ミオトーム(筋部位)
 ・スクレロトーム(骨部位)
 ・アースロトーム(関節部位)
 ・ヴィセロトーム(内臓部位)
2.2 受容器
・受容器は機能に応じて外受容器、固有受容器、内受容器に分類される。外受容器は表皮・皮下組織、粘膜への外からの刺激に反応する。固有受容器は、深部感覚を伝え、筋、腱、関節に位置しており、空間における位置と運動の情報を与える。内受容器は内臓エリアの滑らかな筋の伸長や収縮、化学刺激、自律神経による刺激に反応する。ほとんど全ての身体部位に、薄く髄鞘のないC線維が存在し、それは機械刺激と温度刺激に反応する。
2.5 筋機能連鎖
チャップマン反射点の作用が脊髄反射(刺激に対し脳ではなく脊髄が中枢となって起こる反応)で説明可能であることに対し、筋へのグッドハート反射点の作用は説明できない。そのためには筋膜連鎖の説明モデルが最も納得できるように思える。

 

前壁筋膜連鎖

・小胸筋から腹直筋までの前壁筋群は、仙棘筋群や起立筋に拮抗して、体幹を直立させ安定させるために働く。前壁筋群の慢性的な短縮は、背側筋群の緊張を強めることを導く。

・腹直筋、小胸筋、胸鎖乳突筋両側の解放と拘縮を解くことによって、同時に身体直立に拮抗して作用していた背側筋群をも解放することになる。

 

画像出展:「神経リンパ反射療法」

2.8 神経リンパ反射の交感性・副交感性作用
・チャップマン反射点を活性化すると、自律神経系を通して反射点と連結する内臓に影響を与えることが可能である。反射点の治療を通して交感神経緊張の制御が切り替わり、関係する内臓の血流が良くなり代謝推移が素早く正常化する。
治療に重要なことは、敏感なチャップマン反射点を常に解放させることである。それを通して代謝が減少して「ブロックされた」組織において、血行を良くして反射点自身とそれに属する内臓の栄養状態を改善させるプロセスを刺激する。
3 治療の基礎
3.1 神経リンパ反射の解剖学的位置と形態学
・背側反射点:主に椎骨の横突起と棘突起の間、棘突起の間の溝、脊柱起立筋の筋・筋膜層の深くに小さな痛みを伴うしこりとして見つけることができる。位置は、小さな椎間関節のブロックされている疼痛ポイントにおよそ相応する。
・主要反射点と二次的反射点:治療すべき器官の主要な反射点の多くは腹側に、二次的な反射点は背側に存在する。脳、痔、坐骨神経のためのゾーンなど、いくつかの反射点は背側のみに存在し、そこで主要なものと二次的な反射点に分けられる。筋反射点においては、主要ゾーンはだいたい反対側に位置する筋に存在する。そのようにして、仙棘筋群の主要なゾーンは腹側の正中線に存在する。
3.2 治療方針
・まず患者が背側位となり検査を開始する。腹側のチャップマン反射点を診る。所見が不明の場合のみ背側または二次的な反応点も検査する。
・次に陽性反応を示す主要な反射点を治療する。強い陽性を示しているゾーンを全て治療することが重要である。これは不調の症状は、当初活発なゾーンと関係がないと思われても、治療後に改善することがよくある。
・補完的に二次的な反射点を治療する。この場合、もし患者が同時に脊柱部での不調を訴える場合、背側の反射点は多くの場合、小さな椎間関節上に位置することを考える。
・治療後に、最初に活発であったゾーンを全体的にもう一度確認する。多くの場合、この反射点の過敏性は弱まり、局所的な腫れもいくらか小さくなっている。
・運動器官に本質的な障害が見つけられない場合、内臓の重大な障害のサインの可能性があるとみなすことができる。その場合、これはアラーム症状といえる。臨床での精密検査が必要とされる。
3.3 刺激の程度
・学生までの若い患者については特に短い治療時間となるよう気を付ける。
・活発な反射点が非常に多く存在する場合は、最大値の反射点のみ扱うようにする。一般的な疼痛過敏性と陽性のチャップマン反射点の集中は、一般的に代謝負荷を導くものである。このような患者の場合は治療の後に激しい反応が生じることを前もって計算しておかなければならない。治療の後は十分な水分を摂取しなければならない。
一般的に治療の後、患者は1杯か2杯の水を飲むべきである。なぜなら、神経リンパ反射点の治療を通してリンパに必要な物質の多くが活性化されるからである。
3.4 治療に対する反応
・反射点を探すための触診は、できるだけ用心深く行う。セラピストと患者の両者が接触を明らかに感じられる程度の強さでしこり部分を触診する。多過ぎる反射点が力を込めて触診され、その上に治療を施されると、それはすぐに過剰な配分による反応を引き起こしてしまう。
3.5 治療時間
・チャップマン自身は、反射点治療の時間についての指示は明示しなかった。チャップマン反射を最初に公表したオーウェンスは、5年にわたる神経リンパ反射点治療の経験の後に、ひとつの反射点につき10秒から20秒の治療時間を推奨している。
・触診の際に始めに痛みが生じていたとしても、治療では疼痛を生じさせてはならない。疼痛を生じさせないように、セラピストは反射点上で数秒間、やわらかく、そして指先で「溶かすように」とどまり、リンパドレナージのように非常にソフトにマッサージすることができる。
・もう一度強調したいのは、触診で敏感だった反射点のみを治療するべきであるということである。敏感ではない反射点を治療することは、属する器官の自律神経系過剰刺激を導く。
4 適応症と禁忌症
4.2 禁忌症
・チャップマン反射による神経リンパ反射点の禁忌症と推奨できないケースは次の通りである。
 ・非常に体力を消耗する疾患
 ・長期間にわたる深刻で発熱を伴う疾患
 ・危険な心循環器疾患
 ・非常に疲労した状態
 ・いくつかの神経系疾患における刺激治療
 ・妊娠初期における刺激治療
 ・拮抗して作用する投薬治療中
 ・精神的疾患
 ・栄養失調状態
 ・患者による治療の拒否

5 神経リンパ反射の一覧表
5.1 チャップマンによる内臓器官反射点
・腹側のチャンプマン反射点(左図)
・背側のチャンプマン反射点(右図)

画像出展:「神経リンパ反射療法」(画像をクリックすると拡大されます)


5.2 グッドハートによる筋反射点
・筋反射点を通して、トーン(筋緊張)を正常化させ、骨格筋の機能を調節することができる。
・多くの反射点にはいくつかの筋が同時に関わっている。疑わしい筋の機能検査と触診は、陽性反射点のどの筋の負荷がそれぞれ相互作用しているということと合わせて既往歴との関連性において説明される。複数の筋が同時に該当するケースは珍しくないので、機能関連性に対する疑問が生じる。グッドハートによる神経リンパ反射点の筋関連性は、髄節による反射事象を示すというよりは、筋と筋膜連鎖の関連性を説明するものであることを強調したい。多くの反射点は拮抗筋、動かす方向への筋膜の伸長部、相応する筋の起始部、機能連鎖に存在する。反射点の場所特定と属性の内的関係性について、これからの数年間でさらに研究が進むことを祈念する。
・一覧において反射点を次のグループに分類した。
 ・胸郭筋前面
 ・肩・上肢筋
 ・背筋
 ・体幹筋
 ・骨盤部位の筋と下肢

※下記の画像はすべて、「神経リンパ反射療法」からの出展です。クリックすると拡大されます。

胸郭筋前面

肩・上肢筋(左は腹側、右は背側) 


背筋(左は腹側、右は背側) 


腹側と背側の体幹筋(左は腹側、右は背側)


骨盤部位と下肢の筋 (左は腹側、右は背側) 


エコーガイド下fasciaリリース

8月に「運動器エコー」というタイトルのブログをアップしました。これは「エコーガイド下筋膜リリース」に関するものでしたが、今回、その理解を深めるために「解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床 筋膜リリースからFasciaリリースへ」という本と、「運動器リハビリテーションのための超音波画像描出テクニック①②」というDVDを自己学習の教材にしました。

注)当院ではエコー(超音波診断装置)を利用した治療は行っておりません。

 

編集・執筆に関係された方は14名で、その内訳は医師9名、鍼灸師5名となっています。

編集主幹:木村裕明

出版:文光堂

イントロダクション

・正確な長軸画像を得るための基本技術
・きれいな画像を描出するための基本技術
に続いて、①②合わせて16の部位についての画像抽出テクニックが解説されています。

福島県立医科大学附属病院痛み緩和医療センター の小幡英章先生が書かれた「推薦のことば」が分かりやすいので、そのまま掲載させて頂きます。


『痛みの治療において革新的な方法が導入されつつあります。それがfasciaリリースであり、このたび、初めての成書が出版されることになりました。
fasciaとは筋膜、靭帯、支帯、腱膜、関節包、傍神経鞘などの線維性結合組織を包括する概念です。fasciaに異常があると痛みを感じたり、関節の可動域が制限されたりします。痛みの原因として推察される部位を超音波診断装置で観察すると、fasciaの重積像を認めることが多く、そこに生理食塩水を注入すると、症状が軽減します。神経障害性疼痛のような慢性痛にも、この治療法が著効することがあります。慢性痛の治療は基礎研究の発展に伴って中枢機序ばかり注目され、薬物療法が主体となっています。しかし、fasciaリリースの発展によって、末梢性の機序も依然として慢性痛に大きく関与していることが明らかになってきました。本書はエコーガイド下fasciaリリースを開発・発展させてきた医師らによって書かれたものであり、総論から各論まで多くの図表を用いて詳細にわかりやすく解説されています。この治療法が真に有効であることを客観的に示すには、もうしばらくの時間を要すると思われますが、新しい痛みの治療として認識され、多くの医療従事者に広まっていくことを期待します。』

 「痛み緩和医療センター」の概要が確認できます。

さまざまな組織間の癒着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば、凍結肩(四十肩・五十肩)は関節包周囲での癒着は可動域に制限をもたらしますが、それは上図のように筋膜どうし、筋膜と骨膜、筋膜と浅筋膜(皮下組織)、腱と骨膜など様々な組織間で癒着が生じる可能性があります。

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

筋膜リリースによる重積の剥離(僧帽筋・棘上筋間)

 

これは治療前の写真です。▼マークの白い線が筋膜の重積であり、肥厚して高輝度で写しだされています。

 

治療後です。筋膜リリースによって太くはっきりとしていた白線は数層に剥がされ肥厚は解消されています。

 

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

上記の写真は上層の僧帽筋と下層の棘上筋の筋膜をリリースしたというものですが、これらの癒着が改善されることによって問題となる痛みや可動域制限は改善されることになります。
なお、Fasciaの用語の定義はまだ確立されていないようですが、本書の中では次のように説明されています。
『いわゆる筋膜はfasciaの一形態に過ぎない。fasciaは線維性結合組織の総称であり。皮膚、皮下組織、筋膜、腱、靭帯、脂肪体、腹膜、髄膜、骨膜すべてが含まれる。』

fasciaリリース治療概論
異常なfasciaを含む結合組織の治療は、原因となっている癒着部位を直接的に剥離する直接法としてのfasciaリリースと、癒着部位周囲の結合組織の伸張性や柔軟性を改善させることで癒着部(発痛源)へのストレスを減らす間接法としての手技があります。
下記の図は可動域制限と癒着の強さという2つの病態を0~4の5つのグレードに分類し、それに対する適した治療法を当てはめたものです。

 

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

上記の図では、「鍼」は5段階の3番目(Grade2)の治療として位置付けられています。また、「鍼」について解説されていますので、その内容をご紹介します(引用)。
1.刺鍼時の痛み(切皮痛)が少ない、あるいは無痛
鍼管(鍼を入れる筒)を用いて刺鍼すると、鍼管の接触刺激と指先による皮膚の緊張増加により切皮痛をなくすことができる。チクっとしたいわゆる注射針の痛みがないため、患者はリラックスして施術を受けられる。
2.深部への直接的なアプローチが可能
鍼は体表からピンポイントに深部の病変部にアプローチできる。そのため、医師が深部病変の圧痛確認のために触診の代わりとして鍼を使用することもある。
3.鍼が細く鍼先が鈍のため組織侵襲性が注射針よりも小さい
注射針は鍼先がカットされた刃物構造であるが、鍼の先端は鈍なペンシル型の形状である。そのため、鍼は組織を切らずに、押し分けて深部へ進むことができるため組織侵襲性が低いと推察されている。また、細い鍼は、刺鍼しても動脈や神経を避けるという経験則が知られている。我々は、エコーガイド下刺鍼により検証を進めている。
4.局所血流改善
鍼という異物に対する局所反応(ヒスタミン遊離など)、軸索反射による影響が考察されている。
5.物理刺激によるfasciaの治療
エコーを用いると、鍼の物理的な刺激によってfasciaの重積した部分がリリースされる様子が観察される。
6.下行抑制系の賦活化
鍼刺激が下行抑制系などの内因性オピオイドに関与することが報告されている。

また、「医師が鍼を使う意義」というコラムがあり、4つの写真は左からabcdとなっています。
a 鍼で対象物を捕捉
b 鍼をガイドにして注射している様子
c エコーガイド下に鍼先端をを確認しながら注射している様子
d cの手技のエコー画像

『日本では、法律上、医師も鍼治療が実施可能である。鍼治療は置鍼などで長い治療時間を要するという先入観があり、臨床で鍼を利用している医師は少ない。利用している場合でも、経絡・経穴としての使用がほとんどである。fasciaを対象として鍼を利用する意義は、治療目的だけでなく、治療的診断・判断のための局所病変の評価にある。
深部病変の場合、触診では圧痛点を的確に探し当てるのは難しい。しかし鍼を用いると深部にある圧痛点(発痛源)も正確に探すことができる。鍼先を指先と考えることができる。さらに、その鍼先をガイドとして注射を行うこともできる。
鍼はその細さ・先端の形状などの特徴から、注射針に比べて侵襲性が低い。そのため、鍼先で病変部位を探る(抜き刺しする)行為でも組織内の出血などの損傷行為になりにくい。このように、鍼は、深部病変の検出のための診察の補完ツールとして有効活用できる。また、注射刺激に敏感な患者に対する軽刺激の治療としても有用である。』

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

治療部位検索
こちらは発痛源の検索方法の手順を示した図です。特に注目すべきは2番目の「動作分析・可動域評価」ではないかと思います。以下がその説明です。
『動作分析・可動域評価は煩雑で時間がかかるため圧痛で治療部位を探す治療者も多い。しかし、多くの圧痛点がある場合はどれを治療すべきかの判断が難しい。また、関連痛の場合にはそもそも痛みを訴える部位に圧痛がない可能性がある。このような場合でも動作分析と可動域検査により確実に発痛源を見つけることができる。』

 画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

腰方形筋付着部の「エコーガイド下fasciaリリース」
下の2つの写真は腰方形筋付着部への治療の様子です。画像が悪く見えずらいのですが、患者さまは横向きの姿勢です。医師は左手でプローブ(画像を取り込むセンサー)を操作し、見やすい画像でプローブの位置、角度を固定。その状態で右手を使って注射しています。
なお、腰方形筋は背中側からは上層の腸肋筋と下層の大腰筋の間に挟まれた所に位置しています。

最後に、トリガーポイントをどう位置付け、認識しているかという点についてご紹介させて頂きます。
『トリガーポイントはあくまで生理学的に定義された用語(過敏となった侵害受容器)であり、治療“部位”検索としての解剖学的な位置を示す用語としては適切ではない。トリガーポイントが存在する場所は基本的にfasciaであると想定しているため、治療部位検索の上でトリガーポイントという用語は本書では用いていない。さらに、fasciaの異常(例:炎症性、mechanically-insensitive afferentsによる機械的痛覚過敏、滑走性・伸張性障害)による症状を包括するための概念としてもトリガーポイントだけでは不十分である。』

発達障害児の言語獲得

ありがとう、ヘンリー」というブログは、発達障害児と介助犬の実話に基づくものですが、その本から「自信」、「自尊心」とともに言語に問題を抱えた子供にとって、「言語」が非常に重要であることを知りました。
言語といえば、言語聴覚士が専門とされている分野ですが、言語障害、特に言語獲得ということについては、ある程度の知識を持っていた方が良いと思い、主に実践的な内容が書かれた本を探すことにしました。

 

左が今回、勉強させて頂いた本です。

著者:石原幸子・佐久間 徹

出版:二瓶社

 

 

 

応用行動分析学について解説されています。

 

 

 

ABA専門用語の説明がされています。


まず、本書の趣旨を知っていただくのが良いと思いますので、著者のお一人である石原先生が書かれた「はじめに」を掲載させて頂きます。
『今から14年前、三歳直前のあいちゃん(仮名)は、さくま先生の指導する障害児の相談室に来ました。自閉症と診断された他の多くの子どもたち同様に、あいちゃんも重度の言語発達遅滞を示していて、お父さん、お母さんはとても心配されていました。さくま先生は、以前からずっと、応用行動分析を柱とするフリーオペラント法での指導を実践し、今も続けています。
フリーオペラント法は、ロバース[O. Ivar Lovaas]のオペラント条件づけの原理を応用した、自閉症児の言語獲得のための行動療法を出発点にしたものです。コスト面の改善、般化の貧弱さの改善、脳障害説へのこだわりからの脱却、などを目指して辿り着いたセラピーです。

さくま先生は、多くの論文、翻訳本などを出していますが、フリーオペラント法については、“広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)”(2013、二瓶社)がはじめてのものです。
「障害児に関する本は、読み手が誤解しても、書き手が誤解を生むような記述をしても、障害児がその愚かさの犠牲になる。それを考えると、本の執筆は、どうしても慎重になる。しかし、障害児からたくさんのことを教えてもらいながら、それをそのまま墓場まで持っていっては、子どもたちに申し訳ない。もっと勉強して、誤解されない記述が身に付いてから本にまとめるべきなのだが、すでに日本人男性の平均寿命を超える年齢になってしまった。折りに触れ、認知症のキザシを自覚するまでになっている。本を書くのはいまでしょう!」との思いで書いたものだそうです。

さくま先生は、この本がどのように読まれるか、とても心配していました。応用行動分析の行動変容力は結構強力なのです。今後さらに技術の改善が進むでしょう。それに引き替え、現在の私たちは、それを間違いなく正しく使う哲学を持ち合わせていない。本を読み、自分勝手に都合よくつまみ食いしたのでは、子どもたちは応用行動分析の犠牲者になってしまう。先生はいささか考えすぎと思われるほどの悩みようです。しかし私は、この本で一人でも多くの障害児に言語獲得してほしいと思っています。
相談室に来られたお父さん、お母さんに、さくま先生はことばの指導法だけでなく、子育ての知恵についてもいろいろなお話をします。たくさんの方に知ってもらえれば、障害児だけでなく、多くの子どもたちの子育てや成長に、きっと役立つはずです。さくま先生のたくさんのことばを、きちんとした形で残すことが、あいちゃんをはじめ、相談室に通ってくれた子どもたち、保護者の方々、これから子育てをされる世代への贈り物になると思います。

フリーオペラント法によるあいちゃんの言語獲得指導の要所要所で、さくま先生のお話を挿入しながら事例報告を書きました。本書は“広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)”の実践編でもあります。言語獲得指導に取り組んでおられる皆さまのお役に立つことを心から願っています。』

 

ブログでは、目次のご紹介に続き、「フリーオペラント法」の1、2。続いて、あいちゃんへの2回目と69回目のセッションの様子。さらに、「あいちゃんの指導のまとめ」と「現在のあいちゃん」の前半部をご紹介しています。
また、最後に復習のような感じで、印象に残った個所をつまみ食い的に列挙させて頂きました。

目次
第一章 あいちゃんの言語指導のはじまり
 上手に教えてもらうのではなく、自分の経験から学ぶ
 あなたの声を聞いているよ
 よくわからないけど、こうしたほうがよさそうだ(知恵)
 人と同じことをすれば楽しい
 ことばの発達が最優先
 がまんする子どもは親や指導者が楽なだけ
 成長日記をつける
 療育は化学か?
 遊んで育つ、後片付けは遊びにブレーキ
 発達に大きく影響するものを優先
 静かな抱っこ20分
 社会性は実体験から身に付く
 教えなくてもできること
 親は見ているだけの方がいい


第二章 ことばの出現/発声模倣の拡大/遊びの発達
 ことばの訂正は御法度
 皮膚感覚の成長
 「手で食べる」は指先の運動発達に効果大
 集中とこだわり
 「叩く」は楽しく遊びたい気持ちの表れ
 不安の緩和

 

第三章 ことばの増加/人との関わり/自発的遊び
 社会への適応
 人の気持ちを理解する
 がまんできたらえらい?
 不適応行動の大半は好奇心から
 五感のアンバランス
 自力で学ぶ力を育てる
 「オカアチャ」と呼びました
 語彙数は増加速度より変化率に注目
 お兄ちゃんと遊びたい
 活発な喃語が発話に続く
 「オハヨウ」と入室

 

第四章 自発後の増大/認知的遊び/人とのやりとりへの発展
 不適応行動への対処
 子どもは自分の気持ちを伝えたい
 集団行動への参加
 お口もぐもぐで自主トレ
 パニックへの対処
 「親ばか」はそんなに悪くない

 

第五章 安定したことばの使用 ― 現在のあいちゃん
 好きなことを増やしていく
 食べ物の変化
 多彩な反応
 就学について
 あいちゃんの指導のまとめ
 現在のあいちゃん

フリーオペラント法―その1 
『無言語の自閉症児に言語獲得の道を開いたのは、1970年頃のロバースです。カルフォルニア大学の教授で、当時、世界中から注目を浴びました。しかし、子どもは連日、ロバースのセラピールームに親子で通い、週に30時間も訓練を受けるものでした。
若い頃、ロバースの本を読んでいて、訓練時間の長さにびっくりし、指導の人件費の概算をしてさらに驚き、日本でこんな事はできないと思いました。それが、フリーオペラント法を思いつくきっかけになりました。そして、この訓練時間の長さには基礎理論の応用の仕方に欠陥があるはずだと考えました。どんなに障害が重症でも、自分の経験から学ぶということをするはずです。野生の動物はみな、指導者なしで、生きる術を学んでいます。そんなに長時間の指導は明らかに非能率的です。
家庭でも強化随伴性が維持され、模倣行動の自発性を高める操作を加えると、1週間に1時間の指導で、遜色のない成果を出し得ることがわかったのです。
セラピー関係では、能率について議論されることはほとんどないようですが、セラピーは趣味や道楽の類ではなく、仕事です。能率を考えるべきです。
学ぶ力の弱い動物に教えるには、コツや技術が必要です。私たちの指導の拠り所は、動物実験の成果である行動分析です。指導のポイントを動物から教えてもらったのです。そのために、初期の頃には、障害児を動物扱いしているとの批判がひどかった。しかし、ことばの発達指導が絶望的だった頃、ちゃんと言語を獲得させることと、獲得できないままにしているのと、どちらが人間的か、議論の余地はないはずです。』

 

画像出展:「Alchetron

 

フリーオペラント法―その2 

『フリーオペラント法の大きな特徴は、言語理解に関して完全手抜きで進めることです。
これまでの言語に関する基礎研究では、言語能力は言語理解と言語表出の二面からできているとされています。しかも、言語理解が先行し、その後追いで、言語表出が発達するといわれてきました。
しかし、言語発達遅滞児たちは、逆を示しています。言語理解はかなりいいのに言語表出がゼロ、あるいは、かなり悪い子が大勢いる。それに引き替え、言語表出が良好な子どもたちに言語理解が悪い子どもは一人もいない。言語表出レベルに相当する言語理解を持ち合わせている。
この目の前の事実に注目するならば、言語発達促進の指導は、言語表出の方に注目すべきであり、言語理解は手抜きでいいことになる。事実、30歳代半ば頃、フリーオペラント法で音声模倣を形成しただけで、家庭で自発的に単語が出だす子どもを幾人も経験し、以来、言語理解を完全手抜きでやっています。その方が経過がいいのです。
障害児指導に模倣行動を取り入れる研究が内外に少しずつ出はじめています。モデルを示し模倣を誘導して強化子を随伴させるという手続きです。
1970年代はじめに模倣を取り入れたわれわれとしては嬉しい限りですが、それよりも、ここで紹介しているように、子どもの発声、子どもの動作をセラピストが模倣して子どもの模倣行動の自発を待つ方が、手間はかかりますが、はるかに良好な自発的模倣行動が出てきます。
あいちゃんも、ことばの意味に関しては一切教えるということなしです。化粧品会社のホームページを見て漢字をお母さんにたくさん聞きましたが、誰も積極的に教えていません」』

 

あいちゃんへの2回目のセッション(あなたの声を聞いているよ)
『お正月が明けて、二週間ぶりにあいちゃんがやってきました。布をかじっています。汽車のおもちゃを動かし、汽笛のボタンを押しました。おもちゃに全く興味がないわけではありません。アンパンマンの電話を鳴らすと、受話器を持って、「アイ」と小さな声が聞こえました。はじめて聞いた声です。セラピストもすぐに「あい」と繰り返します。

次にあいちゃんは滑り台に向います。滑り台を滑ったときに、くすぐりますが、なかなか声は出ません。抱っこしてジャンプしてみます。目が合って、ニコッとしますが、発声はありません。お母さんが座っている椅子によじ登ろうとするので、セラピストが抱っこで乗せてあげると、次は手を広げて待っています。座っているあいちゃんから見えないように隠れ、「あいちゃん」と呼んで、いないいないばぁのように顔を出すと、「アハハ」とはじめて大きな声を出して笑いました。顔を出したときにくすぐることを何度も繰り返すと、自分から出てきて、顔を押し付けたり、体をねじったりします。この間、かじっていた布が落ちましたが、全く気にしません。セラピストはあいちゃんからの要求にすぐに応じます。

ー お父さんとお母さんはさくま先生とお話です。
「ことばについて、もう少し詳しくお話しします。ことばは自分の声に対して相手から反応が返ってくるから発達します。その時、子どもを理解しようとする気持ちがマイナスに働いてしまいます。つまり、子どもの顔を見たり、目の動きを見て、“嬉しいのかな”“これが欲しいのかな”と考えていると、子どもの発声を聞き逃してしまう。子どもにとっては、声が無視されていることになる。ことばに敏感になって、“あなたの声を聞いてるよ”ということを子どもに伝えるにはどうしたらいいでしょうか。子どもが「アアア」と言ったら、「あああ」と答えれば、自分の声が相手に伝わっていることが、子どもにわかる。これが、音声フィードバックです。音声模倣ともいいます。これをここだけでなく、生活の中でもしてもらえたらと思います。

理由はよくわからないのですが、子どもは自分の発声と同じ発声が相手から返ってくると、楽しい気分になります。軽い躁状態を示します。何度も繰り返すと、楽しくなるために、次に、自分の方から大人と同じ声を出すようになります。動作に関しても同じです。動作模倣と呼んでいます。

自発的に発声模倣をするようになると、ことばの発達がはじまります。これを絵カードなどで発声を強要すると、必要以上に力のいった声になることがあります。余分な力の入っていない声はコントロールしやすい声になり、発話獲得の重要条件です」

このお話の途中で、あいちゃんの笑い声が聞こえ、お父さんたちもあいちゃんの様子をじっと見ています。プレイルームには水場があります。水を出して、スポンジを絞ってみるとあいちゃんも触ります。セラピストもすぐに水を出します。この後ずっと、水を出す、スポンジを絞る、を繰り返しました。セラピストは一切指示を出しません。
さくま先生のお話が続きます。
「ここでは叱ることはほとんどありません。お家でもできるだけ叱らないで、好きなことをさせてください。叱らないとわがままな子になると思われていますが、わがままは、後でいくらでも修正できます。ことばの発達を最優先にしましょう
さくま先生のことばにお父さんとお母さんはうなずかれました。ただ、このことは思ったより大変です。それをお父さんとお母さんはこの後ずっと守って下さいました。』

 

あいちゃんへの69回目のセッション(多彩な反応)
『11月の下旬になりました。69セッション目になりました。走って、あいちゃんがやってきました。ニコニコして、机の上の洗面器を見て「コエ」「アッタ」と言いながら、手で中の水を混ぜます。すぐに「イタ、イタ」「イコカ」と言いながら、キティちゃんを持ち、お母さんの手を引きます。おもちゃのレンジを触るので、「冷蔵庫もあるよ」とセラピストが見せると「ウィ、キティチャン」「アコ」と言いながら、マットの上に置きました。

セラピストがベビーカーも持って来ると、あいちゃんがキティちゃんを乗せました。「キティちゃん、行ってきます」とセラピストが声をかけ、押しはじめると「バイバイ」と言ってくれました。

お母さんに掃除機を持たせ「スースー」と掃除をするように要求します。あいちゃんもベビーカーに乗り「バイバイ、バイバイ」と繰り返します。「バイバイやね」とセラピストはすぐに答えます。「アイチャン、キティチャン」と言っています。「あいちゃん、キティちゃん、乗ってます」と返事をします。

セラピストがキティちゃんのスティック糊を持ってくるとそれを持って「アーイ、アーイ」と机に向います。「キティちゃん、猫こか」とセラピストが言うと「アーイ」と返事をしてから、お母さんの手を引いて、机に来るよう要求します。お母さんの手を紙に持っていき、ペンも置き「キティチャン、コエ、コリキ」と発語します。黒ペンを持って、お母さんの手を持って「ハーイ」と言います。お母さんがキティちゃんの輪郭と目を描いてくれます。黄色のペンを持ち、お母さんの手を持って「ハーイ」と発語すると、お母さんがリボンや口を描いてくれました。「イーシャ」とニコニコします、「ヨイショ」と言いながら、平均台を持ってこようとするので、セラピストも「よいしょ、よいしょ」と手伝います。

あいちゃんは平均台に座って「デキタ、キティチャン」「カキカキ、ヤッテ」「ハーイ、カキヤッテ」と発語が続き、セラピストもすぐに模倣します。平均台に立つと「タカーイ、ハイーネ」「デキター」「オカアサンガコッチと言いながら、お母さんを呼びます。セラピストの顔も見て「アーイ、デキタ」と手をあげてくれます。

次の紙をお母さんに渡します。黄色のペンも渡します。「オーアイチャ、ハイ、オカーシャン」とずっと喋っています。セラピストがキティちゃんの輪郭に切った紙をあいちゃんに渡すと、あいちゃんが目と豚の鼻と口を描きました。「あいちゃん、ぶたさん、上手、上手」と褒めました。

もじもじするので、お母さんが着替えを出すと、おしっこをして、トランポリンに行きました。「ウアイヤー、ピョンピョン」と言っています。セラピストもあいちゃんと一緒に「ぴょん、ぴょん、うまい、うまい」と飛んでみます。着替えが途中だったので、お母さんがボタンに手をかけると、外して全部自分でやり直します。10分前でしたが、「バイバイ、バイバイ」とずっと言いながら、帰りました。
あいちゃんは、お家でも何でも自分でやりたがること、ことばをいろいろなリズムで言ったり、いろいろな声で言ったりして、楽しんでいるとお母さんからお話がありました。』

 

あいちゃんの指導のまとめ
あいちゃんが相談室に来所して、二年が経ちました。この間の発語は経過記録でお伝えしましたが、一度口から出たことばは完全に定着し、再三、遊びの場面、生活場面で使用されています。
第四章以降の相談室での指導と家庭での様子についてまとめると、あいちゃんの要求行動の増加に対し、セラピストは可能な限りそれに応じ、無意味発声に対しては無視、無反応で対応し、動作や行動の言語化、有意味語と思われる発声に対しては拡充模倣で応じました。
また、いわゆる声掛けなどの行動指示(先行刺激操作)を少しずつ増やしていきました。これはフリーオペラント技法の基本方針からずれるのですが、あいちゃんの行動変容(例えば、声掛けによく反応するようになっていた)に合わせたものでした。
発語頻度の増加に伴い、発語の反応トポグラフィーが正確でなくても、その場の文脈に適合していれば、強化操作を続けました。例えばあいちゃんの発語「ハーデー」(混ぜて)に対して、発音の修正、訂正は一切していません。発語頻度の方を重視したからです。発語が高頻度で続けば、構音の明瞭度は自動的に改善が進むためです。
さらに、ことばが社会的行動である以上、遊戯室だけでの発声では意味がありません。家族も来所当初から、発語を強化するメディエーターとしての役割を担えるように、遊戯室での指導者の指導を観察し、スーパーバイザーのさくま先生から、日常でのさまざまな助言を受けました。
あいちゃんは、遊戯室で感覚的な遊びからお母さんの家事行動そのままに、お料理、お掃除、お洗濯の遊びが続きました。ご両親はそれを可能な限り受容し、冷蔵庫はあいちゃんに全面解放の状態だったそうです。
指導場面での強化随伴性はそのまま家庭でも維持されました。つまり、人の応答が発語の強化子となるためには、日常場面でも強制・指示をできるだけ控えてもらう必要がありました。記録を拝見すると、実に忍耐強くやっていただいたことがうかがえます。』

 

現在のあいちゃん
『あいちゃんは、その後も継続して相談室に来ています。小学校、中学校といろいろな問題がありましたが、その都度さくま先生にご相談をされて対処しました。そして現在、特別支援学校の高等部に在籍し、隔週で相談室に来ています。それは、問題があるからではなく、あいちゃんが相談室に来るのを楽しみにしているからです。

出かける前には、お父さんの用意が遅いと「オトウサン、ネテイルバアイジャナイデショ」と言ったり、「オカアサン、ワスレモノナイノ?」と声をかけたりします。
あいちゃんの言語発達は、お母さんのことばをお借りすれば、「こんな口の悪い自閉症児は知りません」と言われるほどにおしゃべりになっています。ケンカになると「クソババー、アイチャンハ、イエヲデテイキマス」と言ったり、一般の中学生・高校生となんら変わらないレベルのやりとりをするほどになっています。

お母さんと一緒に買い物に行けば、一人で「〇〇ハドコデスカ?」と店員に聞く社会性もあり、欲しいものがあると、お母さんがレジに来るのを待っていて、直前にレジカゴにすっと商品を滑り込ませるのだそうです。「物を買ってもらう策略には困ります」とお母さんはおっしゃいます。
相談室では、持ってきたカレーせんべいを皆に配って一緒に食べたり、遊びの邪魔をする小さな子にもことばで注意します。実習の大学生やスタッフを相手のゲームでは、負けしらずです。ところが最近、彼女ばかり勝つと、三度に一度の割合でわざと負けるようになった、とスタッフの一人が言うのです。意識してのことかどうかを確認する方策を、スタッフ間で頭を悩ませているところです。ゲームが苦手な私には「右ボタン、赤押して」と厳しく(?)教えてくれながら、グループで勝ち負けを競い、「あなたは第三回スターアタック決定戦に優勝したことを表彰します」という自分で書いた表彰状を作りました。また勝負の結果。負けたチームに罰ゲームでものまねをさせ、それをビデオカメラに記録して自分で編集します。DVDや動画サイトを見たり、スマホでAKB48の新曲の検索もします。絵を描くのも好きで、女の子を沢山描いて、難しい漢字の名前(例えば愛羅)をつけ(漢字は自分で調べて覚えました)、人形の服を手縫いで縫って遊びます。
特別支援学校高等部では役員に立候補し、行事で挨拶ができるほどですが、欠席することも多いようです。現在、不登校が続いています。好きなことへの集中力は療育園の頃から変わらないため、学校で、とても細かい刺繍に集中している時など、「時間だよ。終わりにして」と言われると今でも嫌なようです。ただ、集団が全て嫌いなわけではなく、デイサービスには喜んで行き、好きなDVDに時間制限を加えられてもがまんできるようになりました。』

特に印象に残ったこと
第一章 
●子どもの声に敏感に反応する→子どもは声が相手を動かすものだとわかる。
●大人が子どもと同じ声を出す→「あなたの声を聞いているよ」ということを子どもに知らせる。
●ことばは自分の主張なので、わがまま、甘えが大事である。「しつけが大事」は順調に育つ強靭な力の健常児に対してである。
●障害児の難しさは、自分で何かをしようとする力や、何かをしたいと人に訴える力が弱いこと。
●ことばは自分の声に対して相手から反応が返ってくるから発達する。
●叱らない。わがままは後でいくらでも修正できるので、ことばの発達を最優先させる。
●物より人に興味をもつようになることが大事。気に入った物で遊んでいる状況に大人が加わると一人で遊ぶより面白くなる。それが繰り返されると好きな物よりも好きな人の方が重要になり、物よりも人を優先させることになる。
●社会性は、人と楽しく交わりたいというモチベーションが大切。
●社会性は年齢とともに変わる。従って、自分の社会的体験から自力で学べるようにしなければ問題の解決にならない。(相槌が1秒と0.5秒では意味は異なる。これは教えて身につくものではない)

第二章 

●人の様子を見てまねをする、それが蓄積されて社会性の発達につながる。
●子どもの発達の過程は依存と自立が揺れ動いている。自立は催促せず、邪魔せず、子どものペースでつきあうのがベスト。
●ことばの訂正は言語発達を妨げる。
●自立を促す必要はない。発達すれば必ず自立するものである。
●依存と自立は対立関係のものではなく、依存の延長線状に自立があるという認識をもつ
第三章 
●しつけは幼い方が楽なことは確かだが、ことばの発達は年齢が後になるほど困難、不可能になる
●適応性が未熟な障害児にとって、禁止と強制がいきすぎると、無気力状態にしてしまう。
重度の自閉症の子どもは、きょうだい、親にも無関心なことが多い。それが改善されてくると今度は一緒に遊びたい。けれど、遊び方がわかっていない。さしあたり、叩いてみる。それには憎しみや、嫌悪、憎悪などの感情は含まれない。重度の自閉症で人を叩いたというエピソードを聞くと、改善の徴候なので嬉しくなる。

第四章 

●子どもの話は、子どものことばのわかった部分を反唱しながら聴くのがコツ。お母さんにわかってもらえるように子どもが努力する。親に分かるように話せるまでゆっくり待ってあげる。

 

乾布摩擦について
私は発達障害児へのマッサージが仕事になりますので、「乾布摩擦」については特に関心がありますが、これは佐久間先生が考える、「感覚統合訓練法的な五感のバランス改善のための手段」いうことではないかと想像します。

『「遅れてことばが発達する子どもに共通して、感覚器官のダイナミズムに大きな変化があります。赤ちゃん時代からずっと口は飲む、食べるだけしかしていません。それ以外は泣き声だけで、自分の声を意識していません。少しことばが出はじめると、口の中の感覚が大きく変わりはじめます。同時に、聴覚や視覚にも変化が生じ、耳ふさぎや眼球擦りなどが生じることがあります。赤ちゃんはだれでも、五感の感受性にアンバランスがあり、たくさんの皮膚刺激で、五歳までにバランスがよくなります。

通常、聴覚優位なので、人の話を聞くだけでことばの学習が進みます。優位性がさらに過剰だと、耳ふさぎを示します。皮膚刺激の過敏、鈍感、味覚や嗅覚にこだわりや偏りを示す子もいます。

五感のバランスのために、乾布摩擦をして下さい。全身、朝、晩、服の着換えの時に、擦ってやってください。健康増進のためではなく、五感のバランスのための乾布摩擦なので子どもの顔を見ながら気持ちよさそうな表情を手がかりに、最適な擦り方を見つけてください。頭から足の裏まで、指の一本一本まで、嫌がる所はアンタッチャブルゾーンとして擦らないように、その境界線は特に丁寧に擦っていると、ゾーンは縮小していくはずです。消えるまで朝晩続けていると、ゆっくりと五感のバランスがよくなるはずです」』


付記
本の出版が2015年のため、本の中で紹介されている「キリスト教ミード会舘」に問い合わせたところ、現在は下記の「西宮たんぽぽ」にて行われているとのことでした。特に右の写真をクリックして頂くと詳しい内容が確認できます。


療育

『もしタイムマシンを使えたら、あなたは過去に戻ってみたいですか?未来に進んでみたいですか?
ある女の子は言いました「赤ちゃんからやり直したい」と。ある男の子は言いました「先生、時間を戻して!最初からやるから」と。二人とも小学校1年生でした。過去に戻りたいと願っていました。うまくいかない自分を抱えて、その理由もわからず、苦しんでいました。
私たちがその子たちにできることは、その子のありのままを慈しみ、発達を支えることなのです。「苦手があっても、かけがえのない存在」、そう子どもに感じてもらえる関わりを用意することなのです。子どもたちには、未来を見つめていてほしい。そう思います。自分のありのままを大切に、歩んでいってほしいと。』これは、著者である藤原先生の「あとがき」の前半部分です。

 

著者:藤原里美

出版:学研

そして、療育とは特別なスキルを要するものではないということを伝えています。

「療育」とは特別な場所や特別の人がするだけのものではなく、お母さん、お父さん、保育士さん、学校の先生など誰にもできる子供の発達と支援の方法論です。
例えば、よい行動をしたら褒めて子供のよい行動を増やすということや、集中できない場合は静かな環境の中で勉強させる、不安になったら好きなぬいぐるみに触れて落ち着かせるなど、その場に応じた適した方法を使って子供を指導することです。』

なお、この本は以下の6つのパートから構成されています。
漫画:発達障害のある子どもたちのエピソードを紹介する。
対応:エピソードで紹介した子どもの行動の理由や対応を紹介する。
子ども発達相談室:お母さんがよく抱えている子どもの悩みに対してアドバイスをする。
解説:発達特性についてより専門的に解説する。
大切なあなたへのメッセージ:子どもに読み聞かせして、子ども自身の特性を共通理解する。
コラム:子どもを理解し、よりよい療育のために知ってほしいことなど。

 

そして、目次は次の通りです。
第1章 完璧な子どもはいない
 どの子も発達の凸凹がある
 発達の凸凹をその子の特性と捉える
 その特性により生活に大きく支障をきたす場合、発達障害と診断される

第2章 多動と不注意
1.じっとしていられない
2.やるべきことを忘れる
3.先に考えずに行動する
4.忘れ物が多い
5.突然、怒りだす
6.イライラしやすい
7.小さな失敗で過度に落ち込む

第3章 こだわり・コミュニケーション・社会性
8.自分勝手にふるまう
9.相手の気持ちになれない
10.こだわりが強い その①
11.こだわりが強い その②
12.こだわりが強い その③
13.考えが極端にせまい
14.言葉の意味は一つだけ
15.二つのことが同時にできない
16.いじめられているのに気づかない

第4章 感覚と身体運動
17.自分の体はどこ?
18.力の入れ方がわからない
19.見えているけど正しく見えない

第5章 特性を生かす
20.ぼくはダメな子?
21.みんなと違っている
22.1番じゃなきゃやだ!

コラム
 診断は大切?
 立派な大人も小さいころは…
 理想の子ども
 子どもへ伝えるときのコツ
 お父さんも理解者になるために
 おじいちゃん・おばあちゃんを味方にするには

大切なあなたへのメッセージ
 失敗は成功のもと
 おなじということ
 いじめからあなたを守るために
 大人に伝えて相談しよう
 自分について

わたしのきょうだいへのメッセージ
 好きなところ・きらいなところ

 

私の発達障害児との関わりはマッサージと動作法になりますので、ブログでは子どもとの信頼関係づくりに関わる「コミュニケーション」と今までのブログで度々登場してきた「ボディイメージ」を、療育の視点から考えてみました。

コミュニケーション
1.シングルフォーカス(参照ページ:p42-p45)
シングルフォーカスとは興味あるものだけが頭を占領し、くぎ付けになってしまうことです。
本文では次のような「解説」が書かれています。
『子どもは少なからず、興味あるものを目の前にすると他が見えなくなる傾向があります。大人でも、恋愛すると「あなたしか見えない」などといいますが、シングルフォーカスを象徴した言い回しですね。
年齢や体験を重ねることで、やるべきことは意識して、順を追って行動できるようになります。いくつかのやるべきことが多画面のようになって、意識できるようになります。しかし、浩太くんのように、小学生になっても、興味のあることに出くわすとそのことが全画面表示になり、「今を生きる」状態にスイッチが入る子には、まだまだ大人のマネジメントが必要です。
まずは、自分のクセを理解させましょう。興味のあることに夢中になりやすいということを理解させます。そのうえで、複数の画面にする工夫をします。やるべき二つのスケジュールを同時に映像として提示するのです。ランドセルと学校、帰宅と手洗い・うがい、宿題というように。これも、習慣になると行動がつながるようになるでしょう。』

 

2.ストレスと怒り(参照ページ:p60-p63)
怒りとは、瞬間湯沸かし器のように急に怒りだすようにみえる場合でも、徐々にたまったストレスがコップからあふれ出す瞬間に起こるものとされています。また、怒りだすとなかなか止まらない、一度怒りが収まったと思ったらまた急にぶり返すなど、怒りのコント―ルができないところにも大きな問題があります。ストレスは個々の特性によって異なりますので、その子の傾向を知り、日常生活の中で注意深く観察して、生活の工夫を試みることが大切になります。
「解説」の内容は次のようなものです。
『私たちは誰でも「怒り」の感情をもちます。この感情はもってはいけないものではなく、もったうえでマネジメントするものと考えましょう。つまり、「アンガー(怒り)マネジメント(管理する)ということです。アンガーマネジメントでは、「怒り」は第二次感情といわれます。怒りの感情に至る前には第一次感情が影響しているのです。第一次感情とは負の感情で、不安や、ストレス、悲しみ、ねたみなどです。
私たちは日常生活の中で、さまざまな負の感情を抱きます。この感情が、コップの水のようにたまります。この水をじょうずに抜いていかないとコップの水はあふれ出します。このあふれ出した感情が、「怒り」として表現されます。
感覚の過敏さ、ネガティブな思考のクセ、こだわりを強くもつ、シングルフォーカスなどの発達特性をもつ場合、コップの水はたまりやすくなります。この水をためない、また、たまった水を抜くための工夫をしていくことが必要なのです。

 

3.言葉どおりにしか受け取らない(参照ページ:p106-p111)


「言葉どおりにしか受け取らない」ということは上記の漫画に出てくるような出来事です。
会話は前後の状況や場の雰囲気を理解して、言葉の裏の意味を直感的に解釈すること、「暗黙の了解」が求められますが、この抽象的な概念は発達障害児にとって非常に厄介なものです。「1を知って10を知る」は望ましいものとされていますが、発達障害児においては、まさに「1は1でしかない」というのが特性です。
これらは自然に身につくものではないので、まずは正確に伝えるという配慮が必要です。例えば、「お風呂見てきてね」→「お風呂にお湯がたまったかどうか見てきてね」。「お昼は何にする?」→「お昼ご飯は何を食べる?」という具合です。そして、その都度その言葉の背景を教えていくことが必要です。このフォローを地道に行うことにより、言葉の背景や暗黙の了解をつかむコツが分かってきます。

4.シングルタスク(参照ページ:p114-p118)
先生の話を聞きながらメモを取れない。テーブル上のお皿を持ち上げてテーブルを拭けない。このようなことは発達障害児の特性の一つです。お母さんからは「右手と左手がまるで別の生き物のように、協調して動かない。目と耳と口も同じです。一人の人間が操作していると思えない。そんな感じです。」といった思いを抱くことも多いようです。

これらは子どもたちの心の問題でも、意思の問題でもなく、脳の処理の問題です。子ども自身もそうしたくても、できないもどかしさを強く感じています。
私たちの脳は同時に複数のことができるものですが(マルチタスク)、1つのことしかできない(シングルタスク)という特性が発達障害児には見受けられます。この難しい問題に対し、著者の藤原先生は「解説」の中でこの問題に対しどのように向き合うのが良いのかについて語られています。
『私たちは、いくつかの作業を映像に描いて行動します。でも、その作業が1つしか描けない子どももいます。いくつかの作業を描いて行動できるには、作業を同時に処理していく能力が必要です。たとえば下の絵のように、朝のしたくでは「コップと、タオルとノートと……を入れて」というように進めます。

 

画像出展:「はじめての療育」

しかし、一つの作業しか浮かばないと、下の絵のような作業になります。

 

画像出展:「はじめての療育」

 

前者を「同時処理」、後者を「継次処理」といいます。
継次処理の方が効率が悪いのは否定できませんが、丁寧で着実であるという利点もあります。早くないけれど確実、そこがよさです。丁寧に一つずつこなしていけるようにします。こうした日ごろの支援が、一つから二つと同時にできる作業を増やすことにつながります。欲張らず、あせらず、子どもの情報処理の発達特性に合わせて、支援を考えましょう。』

 

5.「子どもへ伝えるときのコツ」(参照ページ:p170-p171)
こちらは「コラム」として掲載されているものです。発達障害の子どもと接するうえで、とても有効だと思いますのでそのまま掲載させて頂きます。
①脅かさない
『「〇〇しないと〇〇できない」、たとえば「勉強しないとおやつが食べられないよ」だと、おやつが食べられない状況のみが強調されて伝わります。否定的な言い回しの繰り返しではなく、肯定的にやるべきことを伝えましょう。「勉強したら、おやつです」と。』

②叱らずにアドバイスする
『「〇〇するとうまくいくよ」、たとえば「失敗は成功のもとと考えると、気持ちが楽になるよ」というようにしましょう。うまくいかないとき、イライラする場面なども「イライラしない」「もうあきらめなさい」などと叱らずに、「深呼吸してみよう」「楽しいことを考えて」など、肯定的に今やってほしい行動を伝えましょう。』

③よかったところを強調する
『「〇〇は失敗したけど、〇〇はよかったよ」のように言います。大人も子どももうまくいかなかったところに目を向けがちです。そんな考え方を切り替えるためにも、よかったところ、できたところを確認して伝えましょう。』

④共感する
『「なるほど、そういうふうに考えるんだ。おもしろいね。」「その感じ方は、苦しいよね。よくわかったよ」といったように、どんな考え方でも、たとえそれが間違っていると感じても、まずは共感しましょう。なぜなら、その考え方は本人にとって「大切な考え方」であるからです。そのうえで、ほかの意見を受け入れられるように導きましょう。』

⑤希望をもたせる
『「次はうまくいくと思うよ」、「きみを理解してくれる人にこれから出会えるよ」、「きみは成長しているよ」など。子どもが自分を信じて、頑張るためには将来に希望がもてなければなりません。今、つらい状況であっても、身近にいる大人が希望をもてるようなメッセージを伝え続けることが必要です。』

⑥味方だと伝える
『「いつでもあなたの味方だからね」「身近なサポーターだから忘れないでね」「きみのファンだよ」というように、一人じゃないということを感じられるようにします。心の支えになれるように、伝えたいですね。』

ボディイメージ
1.じっとしていられない(参照ページ:p32-p39)
「子ども発達相談室」の母と先生のやりとりは次のような内容で始まっています。
:うちの子は、とにかくじっとしていられません。
先生:そうですね。体の内側から動きたい欲求が出ているので、注意してもおさまらないですね。
:体の内側から……それはどういうことですか?
先生私たちは、体の中に感じる感覚を二つもっています。その一つが「固有覚」といって、筋肉や関節に感じる感覚です。鉄棒にぶら下がると手首が引っ張られる、物を持つときに重さを感じる…そんな感覚です。この感覚を頼りに、私たちは動作や運動をするときに適切な力の入れ方、自分の体の部位の動かし方を調整しています。この感覚をうまく受けとめないと力を入れすぎて、バナナやおにぎりを食べるときに握りつぶしてしまったり、体の動きがぎこちなく見えたりします。
また、「対応」では、子どもの欲求を満たす方法として、子どもの体に触れて筋肉や関節に感覚刺激を入れる関わりや遊びを取り入れることを推奨しています。
具体的には以下の事柄が紹介されています。
①座りながら感覚を満たす
手や腕など、ギュッギュッと握ってみよう
肩や背中、ひざなどトントンとたたいてみよう
頭を指でマッサージしてみよう
②運動遊びで感覚を満たす
・指相撲や腕相撲、鉄棒にぶら下がる、前回りをする、マットででんぐりがえし、木登り、ジャングルジム、うんてい
③道具を使った工夫
・バランスボールを座ってピョンピョン
・一人用のトランポリンで繰り返しジャンプ
・マッサージチェアで筋肉や関節をモミモミ
・回転いすに座ってくるくる回る
そして、「解説」では詳しい説明がされています。
『多動といわれる状態は、動きたいという身体の内側にある感覚的な欲求が働いていることが原因の一つといわれています。「お腹がすいてご飯を食べたい」という生理的な欲求と似ていて、「体の内側に入る感覚刺激が足りないから、感覚を入れたい」という行動です。私たちが、窮屈な乗り物に長い時間乗っていると動きたいという気持ちにかられますが、それに似ています。
体の内側に感じる感覚は「固有覚」(筋肉や関節に感じる感覚)と「前庭感覚」(体の傾きや動いているスピードを感じる感覚)があります。どちらも感じにくいと跳びたくなったり、走りたくなったり、回転したくなったりします。ですから、我慢させすぎることのないように、内的な感覚欲求を満たしてあげることを考えましょう。
外遊びで、跳びはねたり、回ったりするといった遊びが少ない現代、この内的な感覚が足りないことと、子どもたちの行動に落ち着きがないと感じることは関係が深いと考えられます。』

 

2.自分の体はどこ?(参照ページ:p128-p133)


「自分の体はどこ?」というものは、問題を持っていない人にとってはとても理解しずらいものです。本の中では「子ども発達相談室」の母と先生のやり取りがとても分かりやすいので、前半部分を引用させて頂きます。
:着替えはとにかく時間がかかります。そでにうまく腕が通せなかったり、かかとの位置を合わせられなかったりで、私の方がイライラしてつい怒る。本人はさらに体が動かなくなる……そんな繰り返しで。
先生:私たちはそでを通す時も、かかとの位置を合わす時も、最初はその部分を見ますが、その後は見ないで身体の感覚を使って着替えをします。見ないでできると、早いんですね。ところが、自分の体の位置や動かし方がわからないといちいち見ないといけない、そして見ても服のその部分に体を合わせるのに時間がかかるという二重苦です。自然に理解するのは難しいので、どうしてうまくいかないのか、お母さんがなんで怒っているのかもわからないということになります。
:見ないとできない? なるほど、私たちは見ないでそでを通したり、ボタンをはめたりしていますね。それができないのですね。
先生:ボディイメージを持てないということが大きいですね。自分の体の実感がうまくもてないということだと思います。体に意識が向きにくいのです。


そして、「解説」では支援の方法などについても言及されています。
『子どもは、3、4か月のころになると、自分の手を眺めながら動かすようになります。これは「ハンド・リガード」という行動で、自分の手を見つめることで自分に体があるということを知り、体が動く時の感覚をつかむのです。つまり「手を動かす」のを見ながら確認して、体の感覚と一致させ、その感覚を利用して、見ないでも体を動かせるようになっていきます。
しかし、この体の感覚、固有覚などの内的な感覚が育ちにくいと、見ないで体を動かすことが難しくなります。また、見えない部分を想像する力も弱いのでさらに動かすのは大変です。ですから、「ハンド・リガード」と同じ視点で、見て自分の体を知ることと、動く時の体の感覚をつかめるように、大人が支援します。その時は手取り足取りになることもありますが、繰り返すうちに体の感覚をつかめるようになります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乳児は「ハンドリガード」で身体感覚を学びます。そのプロセスは以下の通りです。
①脳が「指をしゃぶれ」という「動作信号」を発信する。
②指の動きが「体性感覚」として脳にフィードバックされる。

③指の動きを見たり、口に含んだり時の味覚などが「特殊感覚」として脳にフィードバックされる。
④動作信号・体性感覚・特殊感覚が脳の中で統合されて、身体感覚が学習される。

画像出展:「立命館大学映像学部

3.力の入れ方がわからない(参照ページ:p134-p139)


力の加減が分からないとどんな事が起きるのでしょうか。これについて、「対応」にいくつかの例や役立つ遊びが紹介されています。
ドアをバタンと閉める、物をドンッと置く、人を力強くたたく、どたどたと歩くなど、力を入れすぎる行動は、落ち着かない子、乱暴な子と誤解されやすく、本人も損をします。これは、力を緩める感覚をつかみにくいことが原因となっています。
力を緩める感覚を練習するための「紙風船」を使った遊びを紹介しましょう。「紙風船」を下からたたいて繰り返し飛ばします。力を入れてたたくとつぶれてしまうので、力のコントロールが必要です。いきなり「紙風船」が難しい場合は、「ゴム風船」でもよいです。なるべく数多くポンポンと手でついて繰り返せるようになるといいですね。
「風船」でのキャッチボールも楽しい遊びです。力強くキャッチすると、風船が弾んで逃げていくので、そっと捕るという感覚がわかります。
力を抜いて操作するのがわかったら、ドアを閉める時や物を置く時は「風船をつかむ力で」と伝えると、体験が生活にいきるようになりますね。』


また、「解説」でも、力を緩める感覚は言葉だけの説明では身につかないということが書かれています。
『力が入りすぎて、体の動かし方が不器用というのは、体の中に感じる固有覚の鈍感さがやはり原因だと思います。この感覚の中でも、物の重さや固さを感じる感覚がうまく働かないと無駄な力が入りすぎたり、逆に入らなかったりして、不器用な働きになります。
重さや固さが感じにくく、物をつかむ時や持つ時に指の関節や手首にどのくらい力を入れるのか、どれくらいの角度を保つのかがわかりません。また、筋肉の使い方の加減もうまく調整できません。「ゆっくり持つ」「そっと置く」など、言葉だけで説明するだけでは、いくら繰り返し練習してもできないということになります。
ですから、見て、感じて、具体的な力の入れ方を練習するということで、子どもが少しずつ変化していきます。ここでも、根気よくというのがキーワードになりますね。』

 

今回、「はじめての療育」を勉強させて頂き、特にボディイメージの理解(「じっとしていられない」、「自分のからだはどこ?」、「力の入れ方がわからない」)を深めることができたことは、とても良かったと思います。

鍼治療における神経損傷を考える

このテーマは巨人軍、澤村投手の鍼治療による長胸神経損傷の報道と、それに対する鍼灸業界からの質問状という一連の騒動がきっかけです。なお、本件は医道の日本11月号で特集が組まれました。そして回答は11月9日、巨人軍から提示され、一件落着となりそうな状況です。

写真は月刊誌の医道の日本と特集の表紙です。また、サンケイスポーツさまの記事を3つリンクさせて頂きました。

ブログでは、長胸神経に関係の深い筋肉である前鋸筋と、その前鋸筋上にあるとされている経穴(ツボ)の「淵腋(エンエキ)」と「輒筋(チョウキン)」についても少し調べてみました。


私が鍼灸の専門学校に在籍していたのは2011年4月からの3年間でしたが、施術で最も注意することは気胸(刺鍼により肺を損傷させること)でした。肺に次いで注意する臓器は腎臓であり、動脈などの太い血管も当然注意しなければならないものです。また、乱暴な手技も事故につながる行為です。

施術では解剖学の知識をベースに、患者さまの体格やその時の状態から、刺鍼ポイントの安全な方向と深さを判断したうえで鍼を刺入します。これを守って手技を行えば、刺鍼による事故を防ぐことができます。

一方、鍼通電療法という授業の中では、筋肉だけではなく「神経パルス」という、顔面神経や脛骨神経などに対する施術方法を習っていました。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記は教科書からの転載です。脛骨神経に対する施術目的(適応)を見ると、『腰部神経根症の放散痛、坐骨神経痛に対して治療対象となる』となっています。
上段右図の右上の★★マークは、3段階の2番目の難易度であるという意味ですので、脛骨神経への施術は中程度ということです。また、下段は膝下部の断面図です。腓腹筋(ふくらはぎ)と深部にある膝窩筋の間に脛骨神経がありますので、ある程度の深さに鍼を刺入する必要があります。

鍼通電療法で最も一般的なものは、「筑波大学式低周波鍼通電療法」です。Wikipediaで調べたところ、種類について、以下のような分類が出ていました。

・皮下パルス(皮下結合組織を対象とする)
・筋パルス(筋組織を対象とする)
神経パルス(末梢神経組織を対象とする)
・反応点パルス(対象を厳格には定めず経穴部、圧痛点などを対象とする)

問題となっている長胸神経は前鋸筋を走行している神経であり、筋肉に鍼を刺入する以上、絶対に神経に当たらないということは言えません。また、当たるとすれば、絶対に傷つけないということも言えないと思います。
「実態はどうなんだろう?」と思い、鍼治療による神経損傷(長胸神経以外を含む)の情報をつかむため、試しに、自由に投稿できる質問サイトを検索してみることにしました。具体的には
Yahoo知恵袋」で【】を検索ワードにして、過去3年間(2014年11月11日-2017年11月11日)について調べてみました。

「質問内容のタイプ」は「方法・やり方」と「理由・原因」で、それぞれ検索したところ、合計で1,041件が抽出されました(ただし、「方法・やり方」と「理由・原因」両方で抽出されたものがあるため、実際の数は1,041より少ない数です)。

そして、この総数に対し、ある条件で整理したところ、5件が浮かび上がりました。重複は1つあり、また注射による採血原因の神経損傷を除外した残りの数が5件ということです。
なお、「ある条件」とは、刺鍼における激痛もしくは電撃痛」、および施術後のしびれ」が含まれていることです。

 分かりずらい表なので文章にて補足させて頂きます。

5件のうち、治療目的は「不明」の1件を除き、全て腰痛を含んでいました。また、刺鍼時の痛み3件で、目立った刺鍼ポイントは膝の裏腰部でした。一方、施術後の問題4件で主に腰下肢になります。また、5件のうち電気バリ(鍼通電療法と思われる2件でした。
全体的な印象としては、腰神経叢から出て、大腿後面、膝裏を通り足に達する坐骨神経(膝よりやや高い位置で外側へ向かう総腓骨神経と内側に向かう脛骨神経に分岐)が、特に注意を要する末梢神経ということがわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは実際の解剖写真です。これを見ると坐骨神経は1本ではなく、2本になっていることが分かります。膝よりやや高い位置で、1本は外側へ向かう総腓骨神経に、もう1本は内側に向かう脛骨神経に分岐することになります。


次に病院で医師が行っている「筋肉注射」について調べてみました。
以下に書かれた手順は「臀部上方外側中臀筋部:片側臀部上外1/4の部位」であり、『看護技術wiki』さまから引用させて頂いたものです。

 

臀部上方外側中臀筋部:片側臀部上外1/4の部位の場合 
①患者さんに説明を行う
②うつ伏せになってもらいズボン・下着を下げる
③穿刺部位を消毒をする
④利き手で注射器を鉛筆を持つように持ち反対の手で穿刺部位が張るように引っ張る
※穿刺部位に到達後張っている手を離してもよい
⑤90度の角度で穿刺する
血管や神経に入っていないことを確認する
 ※患者さんの訴え(足のしびれ)+内筒を引いて血液の逆流がないか確認
  血管または神経損傷の疑いがあるときは一度抜きやりなおす
⑦薬液を注入する
⑧穿刺部位をもむ(薬剤によってもまないこともあり)
 ※自分でもむのは困難な部位であるため、看護師にてもむ
  理由 薬剤を早く吸収させる為・硬結を防ぐため・痛みを和らげるためにマッサージする

注射針と鍼灸の鍼は目的も特徴も全く異なりますので、その違いを明確にしなければなりません

下記の表は「注射針」と「鍼」を比較したものです。太く、硬く、切るための機能をもった注射針に比べ、鍼灸の鍼で神経を損傷させることは簡単なことではないと思います

前鋸筋について

 画像出展:「肉単」

淵腋(エンエキ)と輒筋(チョウキン)について

 

画像出展:「新版経絡経穴概論」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この2つの経穴(ツボ)をどんな時に使うのかは様々です。

現代鍼灸では上段の図(「肉単」)に説明されているように、前鋸筋の別名は「ボクサー筋」とのことなので、ボクシングあるいは野球、バレーボールの選手などでは、この前鋸筋の疲労をとって軟らかい筋肉にすることが求められると思います。

一方、東洋医学に基づく鍼灸治療の本をみると、胸脇苦満(肋骨の下部が膨満し、圧迫感があって苦しい状態)や肋間神経痛、呼吸器疾患(肋膜炎、肺炎、気管支炎)などが主治にあがっていました。

まとめ

鍼治療における神経損傷のリスクを回避するために行うことは次の3つだと思います

1.刺鍼ポイントの近辺に太い神経が走行している場合、その走行を把握する。

2.乱暴な手技は絶対に行わない。

3.万一、電撃痛あるいは激痛が起きた場合、神経損傷のリスクを考え刺入を止め、一度抜く。

「ありがとう、ヘンリー」

今回のきっかけもテレビの番組でした。それは、海外では自閉症を支援する介助犬が活躍しているという内容です。興味をもった私は、さっそくネットで調べましたが、検索の仕方が悪かったためか、その時はこれといったサイトを見つけることはできませんでした。
そのような状況で、何とか見つけたのが「ありがとう、ヘンリー 自閉症の息子とともに育った犬の物語」というスコットランドの母親が書いた実話でした。
以下はamazonの商品説明です。
『重度の自閉症にとらわれた息子デールをかかえ、途方にくれていた一家のもとに、1匹の子犬、ヘンリーがやってきた。それまで誰とのコミュニケーションも拒んでいるかのように見えたデールは、ヘンリーとだけは奇跡的に心を通わせはじめる。母親のヌアラは、その無邪気な子犬にすべての希望を託し、デールを世界へ導きだす試みに乗り出した―絶え間ない努力で自閉症に挑み続け、息子の成長を支えてきた母親が、その18年間を振り返って綴る感動のノンフィクション。』 

 

ヘンリーという犬にだけ心を通わせることができたのは何故か、何がヒトと違うのか、この事に強い関心をもった私はこの本が格安だったということもあり、躊躇なく購入することにしました。

 

者:ヌアラ・ガードナー

訳者:入江真佐子

出版:早川書房

※下段の4枚の写真は本からの転載です。


 

 

 

 

 

 

 

 

デールが描いたヘンリーの絵ですが、ヘンリーと出会う前は、模様やシミのような絵しか描いていなかったとのことです。

 

こちらは青年となったデールが描いたヘンリーの絵です。


 

こちらは原版です。

 

映画化されDVDも出ていました。Thomasとは、「機関車トーマス」のことだと思います。


デールは20歳のあるインタビューで次にように語っています。
『自分はまだ自閉症を抱えていることはわかっています。それからは決して逃れられないけれど、なんとか克服することはできると思います。』
つまり、自閉症はなくなるものではなく、受けいれ、共存するもの、コントロールするものなんだと思います。
下の図は自閉症にのみ込まれていたデールが、それを克服し、自分の一部として受け入れるために何が必要だったのかを考えてみたものです。以下にその説明を付けました。

①愛情と成長のための教育
この主役は母親のヌアラ父親のジェイミーです。デールは早産であり、逆子のため頭部に変形がありました。はじめての言葉は「木!(Tree)」で生後26ヵ月の時でした。
2歳4ヶ月の時には、聴力検査を受け正常と判定されましたが、自閉症ではないかというヌアラの懸念はデールの成長とともに強くなっていきました。
ヌアラの最初の苦闘は、医学的に「自閉症」の診断を勝ち取るというものでした。これは自閉症と診断されることによって、デールがその時に必要だったサポートや教育を受けることができるようになるという理由からでした。
その判定はデールが3歳11ヶ月(最初の診察から16ヵ月後)の時でした。13人の各専門家によるデールの最終診断は、典型的な自閉症であり、1番の問題はボディランゲージを含む全般的な種類の言語障害という結果でした。
物語の根底にあるのは、「自閉症に対する配慮、サポート、教育」のように思いますが、それは、時には自閉症児に対する特別な教育、支援を受けるものであり、時には健常者が通う学校の中に身を置き、学習すること、経験することでした。特にヌアラが卓越していたのは、「今」と「近い将来」において、デールが必要とするものは何かを見極める洞察力と、それを実現させる行動力だったと思います。ヌアラがデールに対して行ったことは、デールの成長のためであり、常に教育という開かれた、客観性、多様性を兼ね備えた場を求めていました。 
一方、父親のジェイミーはデールを理解し、ヌアラを支えることに迷いはなく、二人にとって素晴らしい父親でした。そのジェイミーの覚悟が一線を超えたのはデールが4歳の時の交通博物館の出来事だったように思います。それは次のような出来事でした。


『ある夜のこと、わたしたちはみんなでフィッシュ・アンド・チップスの夕食のテーブルを囲んでいた。デールはおとなしいモードに入っているようだった。ジェイミーはイースト・キルブライドの職場から帰ってきたばかりで、わたしたちは二人とも疲れていた。わたしがデールの食事を切り分けはじめると、彼が突然「蒸気機関車、蒸気機関車、蒸気機関車」と歌うようにいいはじめた。ジェイミーの心はがくんと沈んだ。彼にはこれが何を意味するかわかっていたからだ。交通博物館は閉まっていると彼は説明しようとしたが、デールは「蒸気機関車」とますますしつこく繰り返した。「この子には[閉まっている]という概念がわからないのよ」とわたしはやさしくジェイミーに思い出させた。

ジェイミーはこの問題を解決するためには何をしなければならないかをすぐに悟った。「これから2時間ほど、この子をグラスゴーまで車で連れていってもどってくるほうがよさそうだな。行かなかったらまたすごいかんしゃくと格闘しなきゃならないだろうからな」とジェイミーがいった。そんなわけで、彼はデールに往復100km近いドライブに行く準備をさせた。わたしは手を振って二人を見送り、「グッバイ、ダーリン」とデールにいった。彼はすぐにオウム返しに「グッバイ、ダーリン」といって、わたしのほうを一度も振り返らずに車のほうに歩いていった。

自分だけの時間が2時間あることに気づいて、わたしはバスルームに走った。今回だけは平和に静かに入浴を楽しめるのだ。

ジェイミーから後で聞いたところによると、デールはグラスゴーに行く途中はいつものように何もいわずおとなしかったが、ときどき無表情な顔のままジェイミーの手を握ったそうだ。いま思えば、これはジェイミーが自分のやりたいことをしてくれていることへの彼なりの感謝を示していたのだろう。

彼らが空っぽの駐車場に車を止めたときには、暗くなっていた。交通博物館への階段を登っていき、デールがドアを引っ張ったが、ドアは開かなかった。ジェイミーはデールの目の高さになるようにしゃがみこみ、こう説明した。「わかるだろ、デール、入れないんだよ。博物館は閉まってるんだ」デールがだまったままなので、ジェイミーは話しつづけた。「いまは暗くて、夜なんだよ、デール。だれもここにはいない」デールはそれでも黙っていたが、また博物館のドアを開けようとした。ジェイミーは、「博物館は閉まっているんだよ。蒸気機関車は休んでるんだ。また明日働くためにね」ジェイミーがデールを車のほうに向かせたとき、彼の説明に満足したのか、デールが「明日働く」と繰り返した。「そうなんだよ、デール。だからおうちに帰って、ぼくたちも休もう。汽車みたいにね」ジェイミーはこのままこの場をうまく切り抜けられるだろうかと思いながら、ぴりぴりしていった。デールがまたオウム返しにいった。「汽車みたいに」それから、二人がちょうど車までもどってきたとき、ジェイミーをほっと安心させる一言がデールから発せられた。「閉まってる」この言葉と共に、二人は帰途についたのだった。

二人が家に帰ってきたとき、わたしはバスローブに身を包み、お気に入りの赤ワインのグラス片手にくつろいでいた。「どうだった?」とわたしはきいた。「だいじょうぶだよ」とジェイミーは疲れきってはいるがうれしそうにいった。

「あの子はほんとうに意味がわかったと思うよ」うれしくなってわたしは彼を励ました。「こういうふうにやればできるのよ。これからもすごくたいへんだろうけど、でもやれるわよ―一緒にがんばりましょう」「そうだな、できるよね」とジェイミーは答えた。「でも、ぼくたちに他の生活はなくなるけど」もちろん彼のいうとおりだった。デールの世話をしていると他の何をする時間も残らなかった。それでも、ジェイミーがこんな突破口を開いてくれてわたしはすごくうれしかった。ジェイミーはほんとうに疲れていたし、この解決策には時間も距離も労力もかかった。だがこれ以来「閉まっている」という概念が定着したのだ。デールはこの言葉がきらいになったが、わたしたちは大好きだった。いつでも必要なときにはわたしたちに有利なようにこれを使うことができたからだ。

その夜、ジェイミーがソファに寝転がっていると、デールがジェイミーの胸の上に乗った。彼はときどきこういうことをする。ジェイミーはわたしのほうを見てこういった。「この子が新しい言葉を覚えたのはすごいことだよ。だけど、ぼくたちがこの子に名前をきいて、この子がちゃんと答えてくれたらすばらしいと思わないか?」

この説を証明するようにジェイミーはデールのほうに顔を向け、デールにこうたずねた。「きみの名前はなんていうの?」わたしたちの息子が生まれて初めて「デール」と答えたときの、ジェイミーの仰天した顔をわたしは決して忘れないだろう。それはまるで、彼らの交通博物館までの突拍子もないドライブを通じて、デールがすばらしい父親との特別の絆をつくったかのようだった。

 

②自閉症は脳幹部での各感覚信号が混線したような状態
・これはこの本に書かれているものではありません、ブログ「感覚統合の理論と実践」で学んだことで、それは次のようなものです。
『エアーズ(Anna Jean Ayres:アメリカの作業療法士)は感覚の中でも、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であるとし、そのためには脳幹レベルの統合が重要であり、脳幹を感覚統合の中枢として位置付けています。』
ここで、あえてこの事を引っ張り出してきた理由は、自閉症は脳を原発とする問題であり、脳の機能改善、混線した感覚の信号が整理整頓されるイメージを頭に入れておくことは大切ではないかと考えたためです。
添付した図は網様体の働きと脳の中の場所をお伝えするためのものです。

 

画像出展:「感覚統合の理論と実践」

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

③言葉の習熟
デールは、1番の問題はボディランゲージを含む全般的な種類の言語障害と診断されました。
言語障害はコミュニケーションや社会性の問題に関わるのは当然ですが、イライラなど情緒や健康面にも影響してくる最重要課題の一つであると思います。これは、私が訪問させて頂いている小さな障害児センターの言語障害をもつ子どもたちと接して感じるものでもあります。

物語では、デールがかんしゃくを爆発させたある日、父、ジェイミーの咄嗟な機転から、デールとの会話の間にヘンリーという存在を挟むことで、デールが抱える会話に対する恐れや緊張感などの高いハードルを下げる、不思議な三者方式の会話が展開されるようになりました。(一言でいうと話者がヘンリーになりすますという方法です)
たいへん長文にはなりますが、この説明だけではどんなものかをイメージするのは困難なため、その経緯や何が行われたのかについてご紹介させて頂きます。


『1995年の春ごろには、デールはヘンリーと同じようにわたしたちを彼の人生に立ち入らせてくれる気になるまでにはまだ何年もかかるだろう、とわたしたちも冷静に受け入れられるようになっていた。スピーチ・セラピー、学校での特別プログラム、わたしたちも家族の努力にもかかわらず、デールが社会にうまくなじんでやっていくまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。デールはまだ顔の表情と、言葉以外のコミュニケーション全般の解釈が大の苦手で、語調にも問題があった。まちがった調子で話したり、不適切なところで笑ったりするだけではなく、ある特定の言葉を耳にすると際立った苦痛を感じるのだった。わたしたちが「オーケー」とか「学校」のように彼が聞きたくない言葉を口にすると、突然激怒することがあった。
わたしたちは注意していたが、しょっちゅう使う言葉だったので、ときどきふと漏らしてしまうのはしかたのないことだった。わたしたちのうっかりミスでデールがかんしゃくを起こしてしまわないように、口にする言葉をいちいち気にしなければならないのは容易なことではなかった。だが、まさにこの問題ゆえに、デールとヘンリーと一緒のわたしたちの人生にとんでもないねじれが生じることになろうとは、とても予想できなかった。
ある一見ごくふつうの日のこと、デールがヘンリーを脇に従えてうれしそうにダイニング・ルームにいるあいだに、わたしは宿題に関してなにか先生からのお知らせがあるかどうかを見るために彼の通学かばんを調べていた。連絡帳を見つけ、彼の字がずいぶん上達したのに気づいたので、わたしはデールのところに行き、わたしが見てうれしかったページを見せた。
「デール、字がすごく上手になったわね。あなたのこと、すごく誇りに思うわ」とわたしは彼にいった。
とたんにデールがこの言葉にすごく腹を立てたので、「誇りに思う」という言葉が彼が聞くに堪えない言葉のひとつだったことを思い出したが、もう遅すぎた。彼は荒れて部屋を走り回り、「[誇りに思う]っていうな」と叫びながら、自分の頭をつかもうとした。
わたしは彼を安心させようとしてこういった。「あなたのことを誇りに思うっていうのは、いいことなのよ。オーケーなのよ」
こんなにあわてている時でなかったら、わたしも「オーケー」という言葉を避けたはずだった。だが、またしても気づくのが遅すぎたために、デールの苦悩はさらに大きくなった。
「[オーケー]っていうな!」と叫ぶと、デールが怒り狂って頭を壁に打ちつけはじめたので、彼が最大級のかんしゃくに突入したのがわかった。こうなると、過去にわたしがいつもしなければならなかった方法を使って、彼を抑制するしか他になかった。
わたしは彼の上に馬乗りになり、頭を保護して手で包みこみながら、彼を安心させようとした。ヘンリーはそのころにはこんなデールを見るのには慣れていて、ただ彼の横にねそべって見守っていた。デールの怒りはたいへんなものだったので、わたしはこうして40分以上もすわっていなければならなかった。その間にわたしはブラウスの袖をデールに引きちぎられた。仕事から帰ってきたジェイミーを待っていたのは、こういう光景だった。ジェイミーを見てほっとしたわたしは、まだ暴れ、泣き叫んでいる息子に向かってこういった。「デール、誰だか見てごらんなさい。パパよ」
同じように彼を安心させようとして、ジェイミーがいった。「デール、パパは庭を走ろうかなと思っていたんだけどな。走るかい?」だが、この言葉も役には立たず、デールは怒りで顔を真っ赤にし、目は飛び出さんばかりだった。
わたしはジェイミーにこうぼそぼそいったのを覚えている。「まったくひどいわ。犬でさえいまでは心配そうにしている」どういうわけか、この言葉がジェイミーの中に一瞬の霊感を生み出した。

彼は突然低い、気どった声で息子に話しかけた。

「デール、ヘンリーだよ。ぼく、きみが泣いているのはいやだよ。すごく心配だもの。お願いだから泣き止んでくれないかな?」(青字はヘンリーになりすましての会話)
これを聞くと、デールはすぐに落ち着きをとりもどし、犬に向かっていった。「わかったよ、ヘンリー、ごめんね」
ジェイミーとわたしはほっとしながらもわずかに戸惑ったように顔を見合わせた。やがてジェイミーがまた同じ低い声でいった。「じゃあ、デール、外に出て駆けっこするかい?」
この言葉に、息子は起き上がり、ほとんどわたしを押しどけるようにしてこういった。「いいよ、ヘンリー。行こう。」デールはヘンリーの首輪をひっぱって、庭に出て行った。
その夜になり、わたしたちは二人とも、さっき起こったことをよく考える間もないまま、来るべきベッドタイム・バトルにそなえて気持ちを引き締めていた。
ジェイミーが「デール、パジャマ。寝る時間だよ」と、先に用件を切り出した。ヘンリーは暖炉の前に寝そべって、気持ちよさそうに眠っていた。デールは自分の犬を見て、それからジェイミーのほうに行くと、顔を見ずに彼のジャンパーを揺すってこういった。「ちがうよ、パパ。ヘンリーみたいにしゃべって」
再び、ジェイミーとわたしは顔を見合わせた。それからわたしは犬のほうを向いてうなずき、デールがいうとおりにするべきだとジェイミーに身振りで示した。彼は了解し、これ以後ひじょうに馴染み深いものとなる声でいった。 「デール、ヘンリーだよ。お願いだからパジャマを持ってきて。もう寝る時間だよ。ぼく、疲れちゃったから、ぼくも自分のベッドに行くよ」
これを聞いて、デールは満足げに答えた。「わかったよ、ヘンリー」そして急いで自分の部屋に走っていった。
わたしたちは困惑してすわりながら、これからまだバトルが待ち構えていると考えていた。だが、デールは実際にパジャマに着替えてもどってきた。こんなことはそれまで一度もしたことはなかったのに。ボタンまで自分でかけようと努力していた。もっとも、ボタンはかわいらしくかけちがえてあったが。

彼(デール)は一瞬ヘンリーを見て、それから断固とした調子でいった。「ヘンリー、寝る時間だよ。ベッドへお行き」

ジェイミーとわたしは唖然としてそこにすわっていたが、やがてジェイミーがようやく声を―彼本来の声をとりもどしていった。「おやすみ、デール」またもや前代未聞のことが起こった。デールが「おやすみ、パパ」といって、ついにわたしたちの言葉に反応したのだ。
これがあまりにも耳に心地よかったので、わたしも思い切っていってみた。「おやすみ、デール」
その結果返ってきた「おやすみ、ママ」という言葉は、わたしがそれまで聞いた中で最高に甘い音楽だった。


ヘンリーがしゃべりはじめたあの記念すべき日から、その効き目はほとんど奇跡といってもいいほどのものになった。デールは彼の犬が「頼んだ」ことならほとんどなんでもやるようになった。
わたしたちがあの声を発見したまさに翌日の朝、わたしがその声を使ってもデールが反応してくれるかどうか不安を感じながらも、その機会をつかまえた。いつものように、デールはぐずぐずしていて、もうすぐスクール・タクシーがやってきそうだった。ふつうならわたしがあいだに入って急がせると、彼は腹を立ててしまう。だから、その朝はかわりにヘンリーがデールにこう頼んだ。

「デール、靴をはいて、コートを着て。タクシーがやってくる音が聞こえるよ」わたしはジェイミーが使った低くて気どった声をできるだけ真似しようとした。すると驚いたことに、デールはすぐに準備をして、タクシーがやってきて止まるまでに、もうヘンリーをつれて玄関ドアのところで待っていた。
デールが帰ってくると、わたしはいつものように学校日誌をチェックした。わたしがこうするのは、彼自身の口から何があったのかを話してくれるよう励まそうとしてのことだったが、たいていの場合、ひとことで片付けられるか、あるいはすごく腹を立てて「[学校]っていわないで!」と不機嫌に怒鳴られるかのどちらかだった。
だが、きょうは、デールがヘンリーをそばにおいて遊ぼうかと落ち着いたところで、わたしは手に日誌を持って用心深く近づいていき、ヘンリーの声できいた。「デール、きょうは学校で何をやったの?」
間髪をおかず、デールはきっぱりと答えた。「劇だよ、ヘンリー」
「デール、劇ってなに?」ヘンリーが気をよくしてつづけてきいた。「おもしろい?」
「うん、ヘンリー、すごくおもしろいよ。ボートに乗って島に行くんだ」
「デール、濡れなかった?」
「ううん、ばかだなあ、ヘンリー。ふりをしただけだよ。劇ではふりをしてお芝居するんだよ」
デールと話すときのいつものルール ―たとえば、ものごとを単純にする、など― に従っているかぎり、ヘンリーの助けを借りればこういうふうなごく初歩的な三者会話ができるということがわかった。こんなふうに会話ができることにわくわくしたが、これがデールとのコミュニケーションのやり方として適切なのかどうか心配になってきた。帰宅したジェイミーに、わたしはデールがあの声だとどれほどうまく反応するかを話したが、この方法を使い続ける前にアドバイスを得たほうがいいだろうということでわたしたちの意見は一致した。


さいわい、セント・アンソニー校でデールを担当しているクリスティン・カスバートというスピーチ・セラピストが家庭訪問に来ることになっていた。彼女は優秀なスピーチ・セラピストで、学校でオデッセイ・ドラマ・プログラムを実践しており、子どもたちに人気があった。彼女はまたソシアル・ユース・ランゲージ・プログラム(SULP)というスピーチ・セラピー・プログラムも使っていたが、これはとくに自閉症児向けにつくられたもので、社会言語のルールを説明するために音声と絵で描いたキャラクターが使われていた。リスニング・リジー、バッティング・イン・ベティ、ルッキング・ルークなどのキャラクター・ネームを使ったこのプログラムは、デールや他の子どもたちにほんとうによく役立ったが、皮肉なことにこのテクニックはわたしたちがずっと昔にトーマスの仲間たちを使って考案したのと同じようなものだった。
クリスティンが学校でデールと一緒にやっているすばらしい仕事にけちはつけたくなかったので、彼女が家に来てくれたときには、ヘンリーに関する状況を説明するだけにした。そして彼女のアドバイスを聞いてほっとした。

わたしがデールの自閉症にひじょうに理解を示していることを知っているので、彼女は「このテクニックを建設的に、かつ責任をもって使うかぎりは、このままやってだいじょうぶです」といってくれたのだ。わたしたちがやっとデールに心地よいコミュニケーションの手段をみつけだしたこと、やがて時間がたってデールが進歩したときには、もちろんヘンリーの声を使うのをやめることを目指していることを、クリスティンはわかってくれていた。当然それがわたしたちの最終的な目標だし、それまでの過程でもヘンリーの声をどのように使うかについては細心の注意を払うつもりだといって、わたしは彼女を安心させた。


この家庭訪問直後の1995年の夏に、ジェイミーとわたしはジム・テイラーが発表者の一人となっている自閉症に関する会議に出席した。なんとか彼と話す機会をつくって、わたしたちのこの珍しい発見をどう思うかときいてみると、「不思議なことではないですよ。第三者は面と向かった会話に伴う不安を軽減させますからね」といった。
ジムは犬がしゃべるという例には出会ったことはなかったが、ストルーアン・ハウス校で、不安感の強い男の子がジムに背を向けて電話をとりあげ、受話器に向かっているときにだけ何で困っているかをジムに話すことができた、ということがあった。彼らは二人とも同じ部屋にいたのだが、この間接的なコミュニケーション手段が、面と向かった会話のときにはどうしても現れてくる言葉以外のプレッシャーをまったく感じずに、自分を表現することを可能にしたのだった。
わたしたちにはジムがいわんとすることがよくわかった。ヘンリーがデールの電話になったのだった。ヘンリーの穏やかな顔と目は、人間だったら強要してしまうある種の社会的要求をデールに求めないのだった。ヘンリーはまた、人間の友達にはつきもののプレッシャーをまったく感じさせずに、デールにいかにすれば関係がうまくいくかを教えてくれ、デールの初めてのほんとうの友達になったのだった。
家に帰ると、いかにジムが正しいかがわかった。わたしたちがヘンリーの声を使うと、デールはヘンリーの顔を見るのだった。まっすぐ目をみつめ、ヘンリーのそばに寄っていった。わたしたちが普通の声でしゃべるときには、彼はわたしたちの顔を見るのを避けるか、前やったように、わたしたちの顔の間近まで顔を近づけてくるかのどっちかだったのに。
この声を使い始めた最初のころ、とっさに何かを伝えなければならないときから、三人での会話を続けるときまで、わたしはヘンリーの声を出しどおしで声がしゃがれてしまった。デールと一緒に宿題をやるときも、彼と遊ぶときも、夜寝る前に本を読んであげるときもそうだった。ヘンリーはまるで「自分の」声に興味津々とでもいうように首をかしげながら、その間ずっと注意を払っていた。わたしの側からすれば、ヘンリーがそんなふうに熱心に参加してくれるので、まるで彼がほんとうにわたしの二番目の子どものような気になってきた。デールはまだかんしゃくを起こしていたが、回数も少なくなり、一回の長さも短くなってきた。彼が動転しているときにヘンリーが話しかけると、わたしやジェイミーがやるよりずっと早く彼が安心するようになったからだ。

デールがもうすぐ七歳になるというころ、彼自身がヘンリーをどれほど大切に思っているかを痛切にわたしに語ってくれることがあった。「ぼく、あの柔らかくてかわいい犬が大好きだよ。ヘンリーはすばらしい。もし、ヘンリーがいなくなったら、ぼく、いつまでも泣いて悲しむと思う」と。
このころ、デールの絵にも励みになるような変化が起こった。以前からトーマスと仲間の機関車の絵ばかりを描いていたのだが、いまではそこに明らかにそれぞれちがう、楽しそうだったり、悲しそうだったりする顔の表情がつくようになった。さらにわたしたちを驚かせたのは、デールはまだわたしたちと目を合わせることに苦労していたのだが、機関車がお互いしっかりと目を見合っている絵を描くようになったことだ。それに続けて、デールは機関車だけでなく、おそらく彼とヘンリーだと思われる人や動物の姿も描くようになってきた。これは彼の想像力が進歩しはじめたことを示すものだろう。

 

この本の最後の章は「デール自身の言葉」として25の事柄について語られています。その冒頭に上記のデールとヌアラ・ジェイミーが取り組んできた特別な言語習得法について、ヌアラがデールの言葉を次のように紹介しています。

『子どもたちがコミュニケーションをとっていないとき、ついつい彼らは何もわかっていないと思ってしまいがちだ。だが、デールが10歳のとき、彼はわたしにこう話した。「もしぼくたちがヘンリーを通じて話していなかったら、ぼくはママたちとは絶対に話さないことを選んでいたよ」』

 

④手にしなければならないものは“自信・自尊心”
「言葉」は生きていくうえで必要な武器、手段といえると思いますが、デール自身が自閉症を乗り越え、コントロールしていくために最も重要だったものは、この自信と自尊心だったようです。それは本の中で度々出てくることで分かります。断片的に書き出すだけでは不十分なのは明らかですが、ご参考として列挙させて頂きます。
.p198:ヌアラ曰く、『「5分、5年反応」(5分間、ヘンリーをひとりで家にほっておくと、その後は5年ぶりに会ったようにお喜びすること)はデールの自信自尊心を高める上で驚異的な働きをした。』
.p350:ヌアラ曰く、『目前の困難を前に、あらゆる機会をとらえてはデールが自信を持てるように励まし、普通の子どもたちの中でやっていく経験をさせるようにした。』
.p351:ヌアラ曰く、『彼の自尊心を高めるこのようなこと(最優秀作品に選ばれたこと)がなかったら、デールはグーロック・ハイスクールでどうやっていけただろうかと思う。』
.p452:デール曰く、『プロスペクツの協力はなくてはならないものだった。彼らの協力がなかったら、カレッジに関して自分の目の前の問題すべてに対処できなかったはずだ。ワークショップや彼らがぼくと一緒にやってくれた個々の作業がすごく役立ち、おかげでリラックスでき、カレッジでの勉強にも自信が持てた。』

 

⑤助けてくれるのは“友”の存在
言うまでもなく、ひとつはヘンリーの存在です。ヘンリーについては「デール自身の言葉」の中で「ヘンリーが特別な理由」として次のように解説しています。(これが私の疑問の回答です)

『ヘンリーはとにかくやさしく、人なつっこく、社交的だった。かしこそうな顔をしているところが好きだったし、ぼくはいつも彼を信頼していた。だから、彼といるととても居心地がよかった。目を見ればすべてがわかる。かわいい目や顔の表情によって、彼の気持ちが理解できた。ヘンリーの表情は単純だったので、それもぼくにはわかりやすかった。それがぼくの自信につながり、彼といると安心できた。ヘンリーがいつもみんなの注目を求めたがっていたところがすごく好きだった。みんなが彼のことを褒めてくれて、ぼくにあれこれ話しかけてくるのは気分がよかった。』
また、下記はヘンリーがガードナー家に来た時のヌアラの感想です。
『1994年5歳8ヶ月ヘンリーが我が家にやってきた瞬間からデールにほんとうの変化が出てきたのを目にしていた。彼は迷子のひとりぼっちの子どもから幸せな少年にとつぜん変身してしまった。ついに彼に目的を与えてくれる友達ができたのだ。ヘンリーが我が家の敷居をまたぎ、彼の特別の魔法を発揮しはじめる前には考えられなかったほど我が家は活気づいてきた。ヘンリーが来て二日の終わりには、彼なしではやっていけないとみんなが感じていた。』


そして、もうひとつ非常に重要だったことは、ヘンリーだけでは十分でないと考えたことです。
『いまではデールも進歩をつづけ、わたしたちと会話ができるようになってきたが、ほんとうの友達がいないために生活に物足りないところがあるのは否定しようがなかった。もちろん彼には特別大切な犬の友達はいたが、それ以外には生活を分かち合う人がだれもいなかった。彼がずっとひとりぼっちなのだとしたら、どれだけ勉強しても、あまりに悲しく目的がないように思われた。』
この課題を解決してくれたのが、セント・アンソニー校の同じユニット入ってきて、デールが相談係となったライアンとテレビゲーム(ソニック・ザ・ヘッジホッグ)を通じて友になった健常者のロバートの二人でした。そして、これをきっかけにデールの社交性は徐々に広がっていくことになります。

 

画像出展:「SEGA

今回、あらためてネット検索したところ、いくつか興味深いサイトを見つけましたのでお伝えします。

付記

先月22日の日曜日は驚きの解散による総選挙の投票日でした。野党の突貫工事による成果は凸凹があり、既存政権の大勝という結果で終わりました。

ところで、同じ日、注目されていた村田諒太選手の世界タイトルマッチの再選が行われました。試合は村田選手の7回TKOにより、念願の世界チャンピオンベルトは村田選手の手に渡りました。
『自信とは努力と結果が結びついた時に生まれるもの』これは村田選手の言葉です。そして、「自信」とは安泰なものではなく、常に掴み取るものであると言っていました。

私は、何となく、「自信」は一つのゴールという認識をもっていたので、この言葉はとても新鮮でした。そして、「結果」とは「努力」による小さな変化であっても良いのではないかと思いました。

 

カザフスタンのゲンナジー・ゴロフキン選手が、ミドル級では世界最強といわれているチャンピオンです。今後、村田選手の目標となる選手のようです。

写真:USA TODAY Sports

マイオカイン(IL-6)

「月刊スポーツメディスン9・10月号 No.194」の特集は「運動、運動、運動! 誰にも運動が必要という事実と科学的根拠」がテーマです。一つめは、「安静は麻薬、運動は万能薬 -病気でも運動。誰でも運動が不可欠な理由」という、和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座教授 田島文博先生の寄稿でした。
そして、読み初めてまもなく出てきたキーワードは「マイオカイン」でした。これは数ヶ月前、健康番組かニュースで耳にしたもので、その時も調べようとネットにアクセスしたのですが、その時は
特に印象に残るような情報は見つかりませんでした。それ以来、ほとんど忘れた状態になっていたのですが、内容が「筋肉から健康に良い物質が分泌している」という大変興味深いものだったため、すぐに思い出しました。
ただし、今回のNo.194は2013年のNo.154の続編であり、特にマイオカインに関する詳細な内容は、そのバックナンバーに掲載されていることが分かりました。
一瞬「えっ」と思いましたが、あまり迷うことなく購入できるサイトにアクセスし発注しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月刊スポーツメディスン

出版:ブックハウス・エイチディ


バックナンバー154号の特集は、「筋肉解明! -新知見が運動・スポーツ・リハビリにもたらすもの」で、田島先生の寄稿のタイトルは、筋肉は内分泌器官である -「安静臥床は麻薬」「運動は万能薬」というものでした。
今回は「マイオカイン」を理解することが目的でしたが、3つのことが明らかになりました。

1つは、マイオカインはサイトカインの一種であること。

もう一つは、筋(myo-)で産生されるため、マイオカインと名付けられたこと。
そして3つめは、マイオカインの正体はインターロイキン-6(IL-6)が主であることです。
最初にやるべきことは、サイトカインとは何物かということですが、これについては「人体の正常構造と機能」から引用させて頂きます。(一部加筆)

 

サイトカインは細胞間情報伝達物質であり、造血・炎症・免疫・発生において活躍する
『サイトカインは、種々の細胞によって産生される分子量数百万以下の可溶性蛋白質の総称である。その多くは一過性に産生され、ごく微量で生理活性をもつ。
リンパ球が産生する生理活性物質(ホルモンも生理活性物質である)が最初に発見され、リホカインと命名された。次いで単球/マクロファージが産生する生理活性物質が見出され、モノカインと名付けられた。その後、線維芽細胞や内皮細胞、上皮細胞をはじめとして非血液細胞も同様の生理活性物質を産生することが知られ、現在ではこれらのすべてをまとめてサイトカインと呼んでいる。
サイトカインには多くの種類があり、さまざまな名前が付けられている。しかも、個々のサイトカインが多彩な作用を示す一方、複数のサイトカインが同じ作用を重複して持っている。さらに、サイトカインどうしは相乗的あるいは拮抗的に作用したり、他のサイトカインの産生を促進あるいは抑制することで、複雑なネットワークを形成している。そのため混乱しやすいが、作用によって大まかに分類すると次のようになる。
1)炎症や免疫応答の調節:IL、IFN、ケモカインなど
2)アポトーシス誘導:TNFなど

  ※アポトーシスとは、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節

   された細胞死
3)造血因子:GM-CSF、G-CSF、M-CSF、ILなど
4)成長因子:EGF、NGF、PDGF、TGFなど

インターロイキン(IL)は白血球間の情報伝達を行うサイトカインで、きわめて多彩な作用を示すが、多くの炎症や免疫応答の調節に関っている。また、一部のものは造血因子に属する。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

出版:日本医事新報社

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化学伝達物質による細胞間情報伝達の様式としては、

①化学伝達物質がそれを産生した細胞自身に作用する自己分泌オートクリン)、

②近傍の細胞に作用する傍分泌パラクリン)、

③血流に乗って遠隔の細胞に作用する内分泌エンドクリン)がある。

ホルモンの伝達様式は③である。これに対し、主として①と②の様式で伝達され、産生局所で効果を発揮する化学伝達物質をサイトカインと呼ぶ。

画像出展:「人体の正常構造と機能」 出版:日本医事新報社

整理すると、リホカイン、モノカインが生まれ、その後その範囲が広がり、総称してサイトカインと呼ばれるようになった。一方、新たに筋からも生理活性物質(サイトカイン)が発見されることになったが、これについては産生場所が異なることから、サイトカインではなくマイオカインとした。ということだと思います。

インターロイキン-6(IL-6)の貢献
田島先生は、「筋肉が内分泌器官である」ということはいつごろからお考えになられたのですか?

という質問に対し、次のように回答されています。


『研修医のころに遡ります。車いすマラソンに挑む重症障害者の方が見違えるようにアスリートになりますし、ベッドで弱っていた患者さんに訓練室で運動療法を行うと、どんどん元気になるのです。その理由を求めて、運動時の免疫応答の研究や、障害者スポーツの研究をしていると、骨格筋そのものが司令塔的な役割を果たしてような印象をもちました。運動している骨格筋からホルモンが出ると考えると、パズルのピースがカシャッとはまる感じがありました。しかし、何がそのホルモンの役割をしているのかわかりませんでした。われわれは、初めはプロスタグランジンがそのホルモンだという仮説をもっていましたが、実はIL-6でした(コペンハーゲン大学医学部 Dr. Bente Klarlund PedersenがIL-6が発見し、マイオカインと名付けた)。その後、われわれは障害者を対象としてその研究を進め、学会などで発表したりしました。あまりに反響があり、むしろ私の方が驚いています。』

これは、Pedersonが2000年に行った実験です。片脚で5時間運動させて、動脈血から運動している脚と運動していない脚の両方から静脈血を採血してIL-6の濃度差を比較すると、運動している方だけがIL-6が徐々に増えていきます。
筋肉に関しては運動後にIL-6のmRNA(メッセンジャーRNA)の発現が確認され、筋肉が直接IL-6を作っていることが証明されました。画像出展:「スポーツメディスンNo.154」

 

サイトカインの説明の中で、サイトカインは細胞自身に作用する自己分泌(オートクリン)、または、近傍の細胞に作用する傍分泌(パラクリン)であるとお伝えしていますが、Pedersonはマイオカインは、ホルモンと同様に「血流に入って遠隔臓器に作用する(エンドクリン)ものであると主張されています。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」

IL-6の炎症に関する作用は、炎症を引き起こす“bad guy”なのか、それとも炎症を抑える(抗炎症)“Good guy”なのかが議論となっていました。
それは、糖尿病やメタボではIL-6が増えているのが原因でした。これについてPedersonは、炎症性サイトカインの主たる原因はTNF-αであると説明しました。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」

不活動や脂質異常、高血糖、高血圧、インスリン抵抗性は全部TNF-αが上げてしまい、それを何とか収めようとしてIL-6が分泌される、いわば消防士のような役目と考えられています。
運動はTNF-αの炎症性物質を増やさないで、筋肉から直接IL-6だけを出すという意味で非常に重要です。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」
 

Pedersonが2000年に行った実験負荷は、片脚で5時間というハードなものでしたが、田島先生が行った健常者の上肢運動の実験では20分で増えるということが確認されています。

画像出展:「スポーツメディスンNo.154」
 


IL-6の効果について、田島先生は次のように説明されています。

『図19のように、運動すると糖尿病がよくなる、高脂血症がよくなる、高血圧症がよくなるというように、何かインチキ薬みたいですが、それを一元的に説明する何かがないと釈然としなかったのです。運動して筋肉が収縮する物理的な刺激でIL-6をつくるメッセンジャーで発現するのですが、この仕組みはだいぶわかってきています(図20)。それがたとえば脂肪細胞では、脂肪の分解を促進する。さらに肝臓に行くと糖代謝を促進するのです。さらに血管の内皮細胞も新生していくようです。』

田島先生の和歌山県立医科大学では、積極的な運動をリハビリに採用しています。それは「Intensive Exercise and Mobilization」と名づけ、「iE-Move」(アイ・イー・モブ)と呼ばれています(下段図23、24参照)。これは激しく運動し動かすという意味です。

和歌山県立医科大学のリハビリの取組にご関心があれば、左の図をクリックしてください。


付記

ハードな運動というと活性酸素が気になりますが、注意すべきは時間ではなく強度です。息が苦しくなるような無酸素運動は活性酸素を増やします。また、活性酸素は運動以上にストレス、紫外線、大食などが大敵といわれています。従って有酸素ベースのリハビリをストレスを感じることなく前向きな気持ちで取り組むことができれば、特に問題にはならないように思います。なお、これは私見です。

コレステロール情報

私は、昔から高脂血症というグループの入り口付近をウロウロしています。卵類は良くないということで制限していた時もありました。
一方、数年前くらいからコレステロールに対する別の見方が世間をにぎわすようになり、「一体全体何が正しいの?」という思いを持っていました。
先月、「ケトン体」と「代謝」を調べる目的で、光文社新書の「ケトン体が人類を救う(宗田哲男先生)」、「代謝がわかれば身体がわかる(大平万里先生)」という2冊の本を拝読したのですが、そのいずれの書にも、コレステロールに関する肯定的な内容の記述がありました。


一方、ネット検索では、コレステロールが重要な役割を担っているという情報が多く掲載されていることが分かりました。特に高脂血症の薬として有名なスタチンについても、少し古い記事ですが、衝撃的な内容の記事がありました。
2013年9月6‐7日 日本脂質栄養学会第22回大会「糖尿病者にスタチンは禁忌‐緊急提言

『医療現場では多くの場合、糖尿病者により厳しいコレステロールの管理を求め、多くの場合、スタチン(コレステロール低下剤)の使用を必須なものとしている。しかし糖尿病者に対しても、スタチンには心疾患予防効果は認められず、スタチン類はむしろ糖尿病を新規発症させることが確かとなった。またその生化学的基盤も明らかにされてきた。すなわち糖尿病者にスタチンは禁忌であり、医師の合理的な判断による特別なケースを除き、その使用を制限するよう提言する。』

ブログでは、この2つの書に出てくる内容をそのまま引用させて頂いています。また、厚生労働省による「コレステロールの食事での摂取制限を撤廃」など、コレステロールに関するニュースを付け加えています。

 

「ケトン体が人類を救う(p154~p157、p160~p163)」より 初版:2015年11月
コレステロールも「無実の罪」をきせられていた
『さて、ここまで見てきたような、「カロリー制限すべき」の考え方や「脂肪が糖尿病の原因」説など、間違った主張の根拠となっているのは、コレステロールが巨悪の根源と考える「コレステロール悪玉説」です。これは根強い支持を得ていて、今でもそれを信じている人が国民の大半を占めていると思います。ところが、ここへきて従来のコレステロール悪玉説が崩れつつあります。
コレステロールというのは、体内の主要成分であって、特に脳は、水分を除けば脂肪が40%を占め、さらにその30%がコレステロールでできています。
全身の3分の1のコレステロールが脳に存在しているそうですから、脳にとってどんなに重要な物質かがわかるでしょう(ですから、後述しますが、コレステロールを下げる薬を飲むと、脳の活動が低下して、認知症やうつ病などが引き起こされることもわかってきました)。
さて従来は、脳梗塞や心筋梗塞、動脈硬化などの疾患は「コレステロールが原因」とされていたのですが、最近になって、じつは梗塞の現場にコレステロールが見つかっただけで、コレステロールは犯人ではなく、血管損傷の修復係であることが明らかにされてきました。火事の現場で見つかったコレステロールは、放火犯ではなく消防士だったのです。』

 

食事でコレステロールは上がらない
『アメリカやイギリスなどでも、30年以上にわたって、総脂肪と、バターなど動物性脂肪の多い飽和脂肪酸の摂取量の制限を基本とした食事指導が行われていました。
しかし、イギリスの医学雑誌に今年(2015年)2月、「食事指導を実行してもしなくても心筋梗塞などによる死亡率は変わらない」とする研究結果が発表されたのです。健康な人と脂質異常症の患者らを対象にした複数の研究を分析した質の高い研究で、血中コレステロールを減らすことを目的におこなった従来の食事指導には根拠がないことを示した画期的な内容でした。
近年、日本の脂質栄養学会が明らかにしたデータによっても、コレステロールが低いほど死亡率が上がること、日本人に関しては、コレステロールが高いといっても、基準が欧米と比べて低すぎること、特に女性は99%が、薬でコレステロールを下げる必要のない水準であることがわかってきました。
そして、序章でも述べた通り、2015年4月1日に厚生労働省は、コレステロールの食事での摂取制限を撤廃しました。
体内のコレステロールは、食事で作られる割合が20%で、残り80%は肝臓で合成されていることは従来からわかっていたことでした。コレステロールをあまり摂取しなければ、体内合成分が増えますし、たくさん摂取すれば、合成分が減る、というバランスができているのです。
ですから、これを食事でとらないようにすることに意味がないことは、何年も前から言われてきたことでしたが、これまでの「コレステロール悪玉説」が、まさにさまざまなしがらみの中で、訂正できなくなっていたのでした。
今年2月になって、アメリカ政府の「食生活ガイドライン諮問委員会」が、食事でのコレステロールの摂取制限は必要ないと報告したことにより、なぜか急に日本もこれを踏襲して撤廃したのです。』

コレステロールの抑制は危険!

『先ほども書きましたように、脳はほとんどが脂肪であり、コレステロールの集積です。脳に必要なコレステロール値を下げてしまうとどうなるのか?
順天堂大学 奥村康特任教授は、ご本人のブログでこんな怖いことを書いています。
「医者に行くと、コレステロール220以上で異常だといってコレステロール降下薬を飲まされる。すると、まずいことに鬱になるんですね。非常に多弁だった人が無口になったりする。そういう人が電車に飛び込んだという話をしていたら、実際に帝京大学の精神科の先生とJR東日本が協力して、JR中央線で自殺した人を調べたんです。その結果、9割が55~60歳で、ほとんどが男だった。それが見事に全員、コレステロール降下薬を飲んでいたという」
また、こんな気になることも書いています。「コレステロール降下薬の年間売り上げは3,000~4,000億円ともいわれている。その7割は女性が飲まされている。女性は閉経後に必ずコレステロールが上がるからです。』

 

そもそも「コレステロール神話」はどうしてできたのか
『1913年、ロシアの病理学者ニコライ・アニチコワが、ウサギにコレステロールを与える実験をおこなったところ、大動脈にコレステロールが付着して動脈硬化が起こったことから、コレステロールが動脈硬化の原因であるとして発表しました。
しかし、その後の研究で、ウサギは草食動物であり、普段はコレステロールなどはまったく摂取しない動物であるため、コレステロールを投与した場合、それがそのまま血中コレステロールを急上昇させてしまうことがわかりました。
一方、人間はそもそも肉食だったと考えられ、普段から肉などを食べてコレステロールを摂取しており、摂取量に応じて体内で合成する量を調節し、コレステロール値を一定に保つ仕組みができているため、ウサギの実験がそのまま当てはまるわけではないことがわかっています。
100年前の低レベルな動物実験の結果を、検証することなくそのまま信用した最初の「コレステロール悪玉説」が間違いなのですが、じつは、間違いだとわかってからも、薬の販売や普及での利権とつながっていますから、修正が効かない状況に陥っていたのでした。
コレステロールのとりすぎが健康に悪いと言われ始めたのは1960年ごろから、それまで血管に血栓などを作ると考えらえていたコレステロールが、じつは損傷した血管を修復していることがわかり、コレステロールを「善玉」(HDLコレステロール)と「悪玉」(LDLコレステロール)の2種類に分けて評価するようになりました。
しかし、最近では、この「善玉」と「悪玉」の区別もおかしいと言われており、LDL(悪玉)が多くても死亡率に変化はなく、逆にLDLが低すぎると死亡率が上がる、ということもわかっています。
東海大学名誉教授の大櫛陽一先生によれば、細胞にコレステロールを運ぶのがLDLで、古くなった細胞からコレステロールを肝臓に戻す役割をしているのがHDLで、その両方が必要だとしています。
また、前にも述べましたが、コレステロールの8割は体内で合成されており、食事の種類を変えても体内のコレステロール量は変化がないことがわかっており、また、コレステロールが減るとがんや認知症の発病率が跳ね上がる可能性も示唆され、「コレステロールは悪」から「コレステロールは必須なもの」に変わってきているのです。
しかし、コレステロール降下薬の売り上げは3000億円とも言われ、莫大な利益を生む構造があるため、「コレステロール悪玉説」の否定は大きく遅れてしまったのでした。』

「代謝がわかれば身体がわかる(p218~p222、p228~p231)」より 初版:2017年8月
第2の脂質、コレステロール
『同じ人物でも、いる場所によって立ち位置が変わることがある。別に内弁慶とかそういうことでなく、当人は変わっているつもりがなくても、周囲の環境によって、その人の他者との相対的な関係が変わるのである。
たとえば、会社では非常に几帳面な仕事ぶりで通っているある人が、彼(彼女)の配偶者が超絶に潔癖症であるために、家庭では「相当にだらしない人」という烙印を押されてしまっているようなことはありえる。
コレステロールという誘導脂質(疎水性化合物。他に「脂肪酸」「ステロイド」など)もまた、「いる場所によって存在価値の変わる」存在である。いきなり「コレステロールの存在意義」とあるから、何をいっているのかと思ったかもしなない。ほとんどの人は、コレステロールといえば、健康診断で悪者扱いされているイメージかもしれない。
しかしハッキリいって、それは誤解である。相当に見当違いといってもよい。では、コレステロールとは何なのか。何のために身体にあるのか。』

 

コレステロールは細胞膜のコーディネーター
『ずばり、コレステロールは、「細胞膜の流動性を調節する脂質」である。他にも、脂質の消化吸収の補助やホルモンの合成材料となるなど、コレステロールには様々な役割があるが、量的に見ても、メインの機能はここにある。
細胞膜の流動性は、リン脂質を構成する脂肪酸の種類によって調節されている。つまり、合成する脂肪酸の組成を微調整しながら、細胞膜の安定性をある程度まで維持しているのである。
しかしながら、細胞は常に変化し続ける。大きさが変化して、急遽、細胞膜が大量に必要になる場合もあるだろうし、細胞が分裂して、新たな環境に置かれる場合だってあるだろう。
そのような変化の中で、リン脂質の構成だけで、細胞膜の安定性を維持するのは至難の技である。脂肪酸合成のあの手間を思い出してほしい。臨機応変に対応するのは大変そうだ。
そこで、コレステロールである。まず、コレステロールは、親水基が1つしかなく、水に溶けない。脂肪酸とは分子の構造がかなり違っている。脂肪酸がうどんのような「線」の構造なら、コレステロールは「みみ」で数枚つながったような南部せんべいのような「面」の構造なのだ

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

そして大きさも重要である。細胞膜を作る脂質二重層の厚み、つまりは細胞膜の疎水性の片側に、ほぼすっぽり隠れる程度の大きさである。小さすぎても、大きすぎても、細胞膜の疎水性の構造を不安定にし、下手をすると細胞膜の機能を大幅に変質させてしまう危険性がある。コレステロールは、その化学性的性質も、分子の構造も、細胞膜の流動性を制御するのによくできた化合物なのである。
では、実際にどのように流動性に関与するのか。たとえば、流動性があまりない細胞膜の場合、その状況を変えるには、きっちりと密に詰まった細胞膜に「くさび」を打ち込むように、コレステロールがハマってゆくことが有効である。

コレステロールは脂肪酸とは形が違うから、コレステロールがハマった部位は、細胞膜を形成するリポ脂質の配置が多少攪乱される。攪乱されるということは、流動性が増すということである。
逆に、流動性の高い細胞膜を構成する脂肪酸は、一般的にまとまりにくいから、リン脂質それぞれは、好き勝手にふらふらしている。それを引きとめる安定した存在が必要だ。
コレステロール、今度は、リン脂質のまとめ役となる。コレステロール自身は「面」の構造をしていて、かつ疎水性だから、お互いに自然と集まる特性を持っている。ふらふらしたリン脂質は、ぴちっと整列しないために余った空間があるので、コレステロールが集まって、安定した島のような構造を作ることになる。ふらふら移動していたリン脂質に、いわば「まとめ役」が登場し、細胞膜の流動性は低くなり、膜は安定する。

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

このように、コレステロールは、細胞膜のコーディネータのような存在であり、すべての細胞で必須の誘導脂質である。
また、コレステロールは、後述するが、脂質の消化吸収の補助をする胆汁酸の材料でもある。また、量的にはわずかだが、腎臓・副腎や生殖細胞においてはステロイドホルモン、皮膚ではビタミンDの合成の材料としてそれぞれ必要である。そして、脂肪酸と同じように、コレステロールは体内で合成することができる。』

 

悪玉コレステロールとは何者か?
『通常、成人病向けの医療情報などでは、「LDLは悪玉コレステロール、HDLは善玉コレステロール」という表現になっており、ここまで読んで「いったい何が本当の悪者なのか」と疑問を持った人もいることだろう。
LDLもHDLも、コレステロールや中性脂肪を輸送する媒体の名称であって、コレステロールそのものではない。そもそも、略称にどこにもコレステロール(Choresterol)のCがないではないか。
LDLやHDLなどをまとめてコレステロールと呼ぶのは、「帰省客を乗せた新幹線」や「観光客を乗せた寝台列車」などをすべてまとめて「人間」と呼んでいるような奇妙な言い回しだ。新幹線や寝台列車は人間ではない。それにさらに「悪玉」とか「善玉」とかの形容をつければ、あたかも「悪いコレステロール」「良いコレステロール」があるかのように錯覚してしまうだろう。というか、そう思っている人が大半だろうと想像する。
では何をもって、「悪玉」「善玉」と呼んでいるのか。それは、変性または変形して血管の内皮に付着して動脈硬化などを起こす可能性をもったLDLを「悪玉」、そうなる可能性が低く、むしろそういったLDLを回収する働きもあるHDLを「善玉」といっているにすぎない。
といっても、LDLが絶対的に悪い存在かといえばそんなことはない。あえていえば、場合によってはLDLが事故を起こす可能性があるということである。それは、「それは新幹線も事故を起こすかもしれない」と言っているようなものである。
安全運行が前提の新幹線に事故が起きるためには、相応の原因を想定しないといけない。たとえば、経済性のみを優先して少人数スタッフで超過密な運行スケジュールを強行したり、テロリストによる破壊工作がなされたりする場合などである。LDLも、その血中濃度や様々なきっかけによって、小型化して血管内皮に侵入してしまうことがある(脱線)。あるいは、血中に存在する活性酸素や余剰の糖と反応し、変質したLDLになり、その結果コレステロールを配達すべき細胞がわからなくなってしまって、血管内皮の常駐組になってしまう場合もある。いわば行先不明の暴走列車が線路脇で脱線しまっくている状況である。
そういった、血管内皮に定着してしまった変質LDLは、やがてマクロファージなどの免疫系の細胞にまとめて捕食され、輸送媒体そのものも崩壊する。その状況が慢性的に進行すれば、血管内皮が膨潤・糊化して、いわゆる動脈硬化となる。

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

動脈硬化の現場に行けば、乗客であったコレステロールが、本来の機能を果たせずに死屍累々である。
しかし、乗客に罪はない。たまたまその列車に乗っていたにすぎないのである。まだまだ研究途中の部分も多いので、一概にいえないが、LDLを暴走させるに至ったのは、余剰の糖質や活性酸素などの、LDL以外の外部要因の可能性が濃厚であり、本来の姿のLDL自体に大きな欠陥があるわけではないと考えられている。テロリストの工作によって、新幹線が暴走し大事故を起こしたからといって、新幹線そのもの、ましてや乗客を非難する人はいない。悪いのは新幹線に破壊工作を行ったテロリストに決まっている。
つまり、真の悪玉は、余剰の糖質や活性酸素である可能性が極めて高い。しかしながら、「悪玉コレステロール」という表現だと「テロ被害にあった乗客(新幹線)が悪い」と言っているようなことになってしまうのである。繰り返しになるが、コレステロールそのものは別に悪くない。』

代謝と恒常性(ホメオスタシス)

先月、「ケトン体エンジン」というブログをアップしていますが、その時、代謝のことをしっかり理解しなければ。という感想をもちました。そこで、挑戦した本は「代謝がわかれば身体がわかる」という今年の8月に出版された最新の新書でした。

 

著者:大平万里

出版:光文社

下の図はこの本の最後に出てくる「総まとめ代謝マップ」です。これを見ると登場する物質などが多く、詳細まで理解することは難しいと実感します。その一方で、代謝とは化学反応による変化の集積という印象をもちます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「代謝がわかれば身体がわかる」

それでは、「代謝」を簡潔に説明するとしたらどのような内容が良いのか、これは言い換えれば、「代謝」を説明する場合に、絶対に抜けてはいけないポイントは何かということになると思います。

 

そこでまず、重要と感じた内容、抜けてはいけないポイントを時系列的に洗い出してみました。

そして、キーワードとなるのは青字にした8つではないかと思います。

生命とは、生物が生物でありつづける根源とされる。 
生きているとき、身体は全体が変化しないように部分が変化し続けている 
変化にはエネルギーが必要であり、エネルギー産生には化学反応が利用されている。 
代謝には化学反応の2つの側面がある。1つは体内での物質の変化。もう1つはエネルギー発生と呼吸である。なお、物質の変化に着目した場合を「物質代謝」といい、エネルギーの流れがどうなっているのかという視点で代謝を見た場合を「エネルギー代謝」という。 
代謝には2つの代謝系がある。
 異化(複雑な物質を分解してエネルギー物質を合成する流れ)
 ②同化(エネルギーを消費してより複雑な化合物を合成する流れ)

・化学反応を劇的に促進するのは酵素の働きによるが、そのためには適切な環境が必要である。
  ①充分な水(水に囲まれていること
  ②適切な温度(35~40℃)
  ③適切はpH(pH10付近) 

中学で「代謝」を勉強したのかどうか全く記憶にないのですが、少なくとも高校の化学か生物に出てきたであろうことは確かです。この時は、どんな説明をされていたのだろうという疑問が浮かび、ネット検索しているうちに、「NHK高校講座|生物基礎」というサイトに遭遇しました。中を見ていくと、「代謝」に触れているのは、1学期 4回目でそのタイトルは「代謝を進める酵素」というものでした。これにより、代謝では酵素の働きを知ることが非常に大切であることが確認できました。今まで、理解がモヤッとしていたのは酵素という影の主役を見逃していたことも一因ではないかと思いました。

酵素は触媒の働きをします。触媒とは「化学反応において、それ自身は変化せず、化学反応の進み方を変える物質」と解説されていますが、大平先生が例をあげて、分かりやすく説明されています。


『修学旅行の班決めは難航するのが常である。ただし、これは担任触媒)がいない場合の話である。生徒どうしだと、得てして近視眼的にしか考えられないことも多いので、目先の人間関係に溺れて班決めに何日もかかることもあるわけだ。
ところが、修学旅行の班決めに担任がそれなりに深く介入すると、なんともあっさりと決まってしまうことも多いのである。結束の強い班をバラバラにするのも、新しいメンバーの組み合わせの班を作るのも、担任のちょっとした一言や、生徒が思いもしなかった条件提示などで、生徒の強い抵抗も消え、難なく決まってゆく。
もちろん、担任自身は班のメンバーにならない。つまり、第三者の視点で、生徒たちの班構成を眺めることができるからこそ、生徒が抱くであろう新しい班構成への抵抗や不安を担任は和らげてゆくことができるのだ。
担任触媒)の介入によってできた班は、当初の班とは違う構成になったから、各班の状態が変わる(反応熱)ことに変わりないが、担任が介入することで、そこに至るまでの労力(活性化エネルギー)が大幅に軽減するのである。つまり、担任触媒)がやったことといえば、班分けに介入して、班分けの作業時間を変えただけである。そして、担任は一人で充分である。』

 

一方、本書の中では、「体内環境とは、酵素が働ける職場環境にすること」という説明があり、これは「恒常性(ホメオスタシス)」との関係や位置づけを意識することも必要だと感じました。
そこで、ネットで参考となるようなものは何かないか検索したのですが、出てくる恒常性の構成要素は、「自律神経」「内分泌系」「免疫」の3つであり、「代謝」という言葉が出てくるものは、私が調べた範囲ではありませでした。

「本はどうだろう?」ということで、同様に調べたところ少し期待できる本を見つけました。また、さいたま市内の図書館に所蔵されていることも分かり、さっそく取り寄せることにしました。その本のタイトルは、「生物科学入門 -代謝・遺伝・恒常性-」というものでした。

 

著者:白木賢太郎

出版:東京化学同人

本書の中で白木先生は、“生物とは何か”という問いに対して、『代謝、遺伝、恒常性の三つに集約できる。この三つの概念で説明できるものが生物である』と説明されていました。

つまり、白木先生の説から考えると、「代謝」は「恒常性」の1つの構成要素ではなく、同列に位置づけられるもの。そして、酵素が働くための安定した環境は「恒常性」によって実現、提供維持される一方で、代謝によってつくられる物質やエネルギーが、恒常性を支えているという相互補完の関係ということだと認識しました。

なお、代謝と恒常性について、白木先生は次のようなお話をされています。

代謝

『私はじっとしているようで、分子や原子のレベルでは常に置き換わっている。1年前から現在までずっと自分を構成していた原子はほとんどない。骨でさえ7年ですべて入れ替わるといわれている。ラーメンを食べると、そのラーメンだった原子が自分をつくっていく。そして吐き出した息の中に含まれる二酸化炭素は、糖やタンパク質など、さっきまで自分の一部だったものである。このような生体内に起こる一連の化学反応が代謝である。』

恒常性
『赤ん坊として誕生し、やがて老人にいたる1世紀近い年月の中で、私たちの体を構成する細胞は数日から数十日で入れ替わる。原子レベルでみると、呼吸や食事をするたびに入れ替わっている。しかしそれらがつくりだしている状態、たとえば血液のpHやイオン濃度、体温などは、ほとんど変化しない。外部の情報をフィードバックし自己を一定に保つ、こうした生物現象を、恒常性(ホメオスタシス)という。恒常性は生物を特徴づける性質の一つである。』

 

恒常性(ホメオスタシス)はアメリカの生理学者であるキャノン(Walter Bradford Cannon)が提唱したものであり、1932年に出版された「Wisdom of the Body(からだの知恵)」の中で語られています。目次だけになりますがご紹介させて頂きます。ちなみに、文庫本で344ページです。

 

著者:W・B・キャノン

出版:講談社学術文庫

 

画像出展:「Harvard University Library

はじめに
 不安定な開放系としての生命
 自然治癒力
 からだにおける恒常性の維持(ホメオスタシス)
第一章:からだを満たしている
 生命の環境としての水
 血液とリンパ液
 心臓
 リンパ液の循環
 血液の循環
 からだの内的環境
第二章:血液やリンパ液を良好な状態に保つからだの自衛機構
 出血と血液の凝固
 血液の予備アルカリ分
 出血に伴う生理的変化
 出血と水
第三章:物質の供給する確保する手段としての渇きと飢え
 消費と貯蔵
 渇き
 空腹
第四章:血液に含まれる水の量の恒常性
 貴重な水
 水分の不足と過剰
 からだから出ていく水
 血液の水
 過剰の水と腎臓
 水の貯蔵
 血液からの水の移動
第五章:血液中に含まれている塩分の量の恒常性
 塩類の調節
 塩化ナトリウム
 塩分の貯蔵
 塩分の貯蔵場所
 塩分の恒常性維持
第六章:血液中の糖の恒常性
 ブドウ糖とインシュリン
 糖の貯蔵
 血糖の増加と生理的変化
 低血糖反応
 肝臓からの糖の放出
第七章:血液中のタンパク質の恒常性
 タンパク質とその貯蔵
 血漿中のタンパク質
 血漿中のタンパク質濃度の調節
 血漿中のタンパク質の恒常性
第八章:血液中の脂肪の恒常性
 脂肪とレシチン及びコレステロール
 脂肪の貯蔵
 貯蔵された脂肪の放出
第九章:血液中のカルシウムの恒常性
 カルシウム濃度
 骨とカルシウムの恒常性
第十章:充分な酸素の供給を維持すること
 酸素の供給
 酸素負債
 呼吸の調節
 血液循環の調節
 心臓の拍動
 血圧の調節
 ガスの交換
第十一章:血液がつねに中性に維持されていること
 血液の酸性とアルカリ性
 水素イオン濃度
 炭酸と乳酸
 血液の緩衝作用
第十二章:体温の恒常性
 「温血」と「冷血」
 熱量と代謝
 体温の調節
 寒冷に対する生理的反応
 熱負債と副腎
第十三章:生物に自然に備わる防衛手段
 からだの防衛手段としての反射
 からだの防衛手段としての適応
 感染と炎症
 怒りと恐れ
第十四章:からだの構造と機能の安全性の限界
 からだの安全係数
 循環機能の安全係数
 呼吸機能の安全係数
 スペアのある器官
 スペアのない器官の安全度
 安全性の保証
 近代医学と自然治癒力
第十五章:神経系の二つの大きな区分とその一般的な機能
 体外と体内
 感覚と「運動神経」
 反射
 「随意神経系」と「不随意神経系」
 自律神経系
 交感神経
 内臓の神経支配
 自律神経系の働き
第十六章:恒常性維持に占める交感神経‐副腎系の役割
 からだに加わる外部からの刺激
 からだの内部で起こる変化
 自律神経系の除去
 交感神経系除去の生理的影響
 交感神経系除去の長期的影響
 交感神経系除去と寒冷に対する反応
第十七章:からだの安定性の一般的な特徴
 「内的環境」の恒常性
 恒常性を維持する機構
 恒常性維持と貯蔵
 恒常性維持と「あふれ出し」
 反応速度による恒常性維持
 交感神経‐副腎系
 からだの恒常性維持に関する仮説
 恒常性維持と進化
 生物の活動の基盤としての内部環境
エピローグ:生物学的恒常性と社会的恒常性
 安定性維持の一般的な原理
 単細胞生物と多細胞生物
 からだ全体の統合
 社会活動の安全性
 社会的な動揺と反作用
 社会における流通機構
 からだの仕組みから見た社会的安定性の要因
 社会組織の進歩
 自由基盤としての恒常性維持
 

「おこだでませんように」

「発達ナビ」という発達障害について様々な情報提供をされている優れたサイトがあります。
その中に、「大人の一方的な注意は、子どもにどんな影響を与えるのだろう」というコラムを目にする機会がありました。下記『』はその一部です。

『クラスではいつも1人で過ごし、授業中に脱走しても放置され、校庭の片隅に座っているところを、よく見かけました。ボランティアの帰りに体育館を覗くと、「〇〇君は悪い子です」と名指しで先生から怒られているのを、見たこともありました。
娘は彼のことが好きだったそうです。「だって〇〇君は、私がいじめられているとき助けてくれた」「あの子はいい子だ」と、私に教えてくれました。
ある日の読み聞かせの時でした。読み始めたとき、最初はいつものように、落ち着きなさそうにゴソゴソし、顔もそっぽを向いていた彼。話が進むにつれ、いつの間にか食い入るような目をし、聞いていました。

なかなか関心を示さない子が、興味を持った絵本とはどんなものだろうか?という疑問がわき、この絵本を購入してみることにしました。
今回のブログでは作者である、くすのき しげのり先生の「あとがき」の全文をご紹介し、その後に石井聖岳先生の5枚の絵を掲載させて頂きます。

あとがき
おこだでませんように
『そう書かれた小さな短冊を見たとき、私は涙が出そうになりました。短冊を書いた男の子は、いつも怒られているのでしょう。この子が、楽しいと思ってしたことや、いいと思ってしたことも、やりすぎてしまったり、その場にそぐわなかったり、あるいは大人の都合に合わないからと、結果として怒られることになってしまうのかもしれません。
でも、この子は、だれよりもよくわかっているのです。自分は怒られてばかりいることを。そして、思っているのです。自分が怒られるようなことをしなければ、そこには、きっとお母さんの笑顔があり、ほめてくれる先生や、仲間に入れてくれる友だちがいるのだと。
そんな思いをもちながら、それをお母さんや先生や友だちに言うのではなく、七夕さまの短冊に、一文字一文字けんめいに書いた「おこだでませんように」。この子にとって、それは、まさに天に向けての祈りの言葉なのです。
子どもたちひとりひとりに、その時々でゆれうごく心があります。そして、どの子の心の中にも、このお話の「ぼく」のような思いがあるのです。どうか、私たち大人こそが、とらわれのない素直なまなざしをもち、子どもたちの心の中にある祈りのような思いに気づくことができますように。』   

くすのき しげのり

 

作:くすのき しげのり

絵:石井聖岳

出版:小学館

ページ数は32ページ、上の文章は抜粋です。

 

ぼくは いつも おこられる。

いえでも がっこうでも……。

 

 

きのうも おこられたし……。

きょうも おこられてる……。

きっと あしたも おこられるやろ……。

 

 

ぼくは どないしたら おこられへんのやろ。

ぼくは どないしたら ほめてもらえるのやろ。

ぼくは……「わるいこ」なんやろか……。

 

ぼくは、しょうがっこうに にゅうがくしてから おしえてもらった ひらがなで、 たなばたさまに おねがいをかいた ひらがなで ひとつずつ こころを こめて……。

くすのき先生からのメッセージであるとらわれのない素直なまなざしをもち、子どもたちの心の中にある祈りのような思いに気づくことができますように」 

このことを大切にしたいと思いました。

うつ病治療(TMS)

先月アップしたブログ「交流磁気治療器」の中で知ることになったTMS(経頭蓋磁気刺激法)について、どんなものなのか詳しく知りたいと思い、NHKスペシャルで放映された「ここまで来た!うつ病治療」の本を格安で購入しました。最初はTMSのことが分かればと思っていたのですが、そもそも「うつ病」も非常に重要であり、一方、うつ病に関する知識はあやふやなものだったため、「うつ病治療」としてまとめることにしました。
ブログは、うつ病と双極性障害(躁うつ病)に関する箇所以外は、すべて、「アメリカ発 薬に頼らない最新治療」と「脳科学が解明する“うつ病のメカニズム」からの引用(『』で囲んでいます)になりますが、それに関連して調べたことや見つけた情報などを加えています。

目次は次の通りです。

第1時限目:アメリカ発 薬に頼らない最新治療

第2時限目:脳科学が解明する“うつ病のメカニズム”
第3時限目:最新の検査で誤診を防ぐ
第4時限目:言葉の力でうつを治す、予防する
第5時限目:変わるか?日本のうつ病治療

 

出版:宝島

 

画像出展:Clinical TMS Society

画像出展:マイナビニュース ヘルスケア

 

こちらの機器を使用されているのは、新宿ストレスクリニックさまになります。

1.磁気刺激による回復のメカニズム
『それにしても、DLPFC(背外側前頭前野)に磁気刺激を与えるだけで、なぜうつ病の症状が改善するのだろうか。その理由を探るため、私たちは、アメリカ・ボストンにあるハーバード大学のベス・イスラエル病院を訪ねた。院内の脳刺激研究センターのアルバロ・パスカルレオーネ教授は、15年以上にわたり磁気刺激の研究を行ってきた脳神経学者だ。これまでにも数百人に対して磁気刺激の治療を行い、その効果を研究してきた第一人者である。さっそく、磁気刺激がうつ病にどう作用するのかを尋ねた。
「うつ病では認知問題、記憶問題、悲しみなどのいろいろな症状が出ますが、これらの症状は脳のさまざまな部分の機能障害によって起こります。磁気刺激で行うことは、うつ病で障害が出る「感情」と「認知」に関わる脳の特定の神経回路の活動を変更することです。磁気刺激では、抗うつ薬と違い、脳のほかの領域に影響を及ぼさないで、特定の神経回路を狙って治療を行うことができるのです
脳の中では、情報が神経細胞を通って伝わるが、そこは基本的に電気信号の世界だ。磁気刺激の信号も、脳の中で電気刺激となり、神経細胞に伝わっていく。磁気刺激は、そのなかでも、うつ病に関係する回路を活性化させることができるというのだ。
パスカルレオーネ教授は、磁気刺激の治療を行った患者の脳の血流の変化を表した画像を出し、「多少単純化しすぎですが……」と前置きしつつ、説明を続けた。
「うつ病の人では、この前頭前野のDLPFCの活動が落ちていることがわかっています。もし、うつ病特有の意欲や注意力の低下の向上、認知機能の障害を改善したかったら、DLPFCの活動を増大させればよいのです。脳の血流を調べて、その血流量が増大していれば、そうした意欲や認知などの症状が改善していると考えられます
うつ病患者の脳では、このDLPFCの働きが落ちていることが研究によって明らかになっているという。DLPFCは、脳の中で認知や意欲、判断などに関係する場所であるため、うつ病でこの機能が落ちると、ミッチェルさんのように、何にも興味を持てなくなったり、物事を考えたり判断したりすることができなくなってくるというのだ。つまり磁気刺激は、DLPFCの働きを回復させ、うつ病の症状を改善させる治療法ということになる。
しかし、それだけではないと、パシカルレオーネ教授は続けた。「磁気刺激は、脳の奥にある感情に関係する領域にも影響を及ぼします」
DLPFCを刺激することで、磁気刺激の信号は、より脳の奥深くまで伝わるという。その伝わる先のひとつに、「扁桃体」がある。扁桃体は、不安や悲しみを生み出す場所である。うつ病患者の脳では、何か嫌なことが起きた時に、この扁桃体が過剰に反応し続け、いわば暴走状態になると言われている。そのため、不安や焦燥感に襲われたり、ジョシュアさんのように、わけもわからず泣いてしまうという症状が起きるという。そして、この扁桃体の暴走にブレーキをかける役割は、DLPFCにあると考えられているというのだ。パスカルレオーネ教授は、「磁気刺激によってDLPFCの活動を強化すればするほど、うつ病の症状を改善する効果は高くなる」と考えている。
話が少しややこしくなったので、まとめておくと、うつ病患者の脳では、判断や意欲に関わるDLPFCの働きが落ちて、不安や悲しみを生む扁桃体が暴走している。そのため、思考や意欲に問題が出て、また不安な気持ちに襲われてしまう。磁気刺激は、DLPFCを活性化させ、その機能を回復するとともに、DLPFCが持っている扁桃体のブレーキ機能によって、扁桃体の暴走を抑えるということだ。
だから、ミッチェルさんのように、意欲が湧かないといった典型的なうつ病だけでなく、ティアラさんのような不安に苛まれるタイプにも効果があると、考えられているのである。』

パスカルレオーネ教授の講義のビデオがありました。

タイトルは ”Learning about Seeing from the Blind”

「盲目の人から見ることを学ぶ」という感じでしょうか。

 

出展:University of Wisconsin School of Medicine and Public Health

以下の2つの図は、健康な人とうつ病患者を比較したものです。キーワードは「血流」です。


画像出展:NHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」

2.うつ病の鍵を握る新たな“場所”の発見
『患者に劇的な変化をもたらす脳深部刺激だが、なぜ電極を埋め込み、刺激することでうつ病の症状が治まるのだろうか。いったいどこを刺激しているのだろうか。実はそれはDLPFCでも扁桃体でもないという。その説明はちょっと難しくなるが、ご容赦願いたい。
脳深部刺激で、メイバーグ教授がターゲットとしているのは、「25野」と呼ばれる脳の領域である。これは、帯状回膝下野と呼ばれるアーモンド粒程度の小さな場所だ。この25野、今ではうつ病に関わる重要な領域とされ、世界中で研究者の注目を集めているのだが、その機能がわかってきたのはごく最近のことだ。

 

画像出展:NHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」

メイバーグ教授が25野に注目するようになったのは、うつ病の症状に関わる脳の神経回路を調べていた時だったという。脳の血流量の変化を捉えて、その働きを見る装置であるfMRI(機能的磁気共鳴画像)などを使い、うつ症状が出ている状態から、回復するまでに患者の脳のどの場所にどんな変化が出ているかを調べる研究だった。
まず、うつ病患者の脳の様子を調べてみると、第1時限目で見たように、DLPFCを含めた前頭葉の働きが低下していたり、扁桃体の活動が異常になっていたりしたという。メイバーグ教授は、そこから抗うつ薬を使い、薬によって症状が回復した人たちと、プラセボ薬、つまり効果のない偽物の薬を与えて回復していない人たちとの間で、何が違うのか調べたのだ。すると、症状が回復した人では、予想通りDLPFCの働きが回復したのだが、もうひとつ、大きく変化した場所があった。それが25野だったのだ。逆に回復しなかった患者では、25野に変化は見られなかった。メイバーグ教授は、この発見を興奮気味に話してくれた。
「うつ病患者の25野に関する症例研究は見たことがありませんでした。私たちはうつ病患者の脳のまったく新しい領域への手がかりをつかみ始めたのです」
こうして25野に注目したメイバーグ教授は、その機能を調べ始めた。教授によれば、25野は、不安や悲しみを生み出す扁桃体ともつながっているという。実際、研究に参加した患者も、25野の活動が変化したことで、扁桃体の暴走は収まった。さらに、25野は睡眠や食欲、ストレス反応を制御する視床下部、そしてうつ病において重要な役割を持っているとされる神経伝達物質、セロトニンを産生する縫線核という場所ともつながりがあるそうだ。
メイバーグ教授はさらに、25野がうつ病のどんな症状に強く関係しているのかも調べた。「私たちは、うつ病の症状のなかでも、やっかいな気分の落ち込みや悲しみに焦点を当てて調べることにしました。扁桃体とつながっているのだから、25野への刺激でこうした症状が改善すると考えたのです」
こうして、うつ病独特の悲しみの感情と25野が関連しているのかを突き止めるための研究が始まった。まず健康な人に悲しかった出来事、たとえば「愛する人を失った」、「ペットが死んだ」といったことを思い出してもらい、その時の脳の様子をMRIで見た。実験で悲しい気分になり、涙を浮かべる被験者の脳画像を見て、メイバーグ教授は興奮を覚えたという。
「それは仮説を裏づける素晴らしい結果でした。彼らの心がニュートラルな状態から悲しみへと変化する間に、脳の領域のなかで25野が最も活発になっていたのです。さらに、25野の活動が上昇しただけでなく、25野とつながりのある領域も大きく変化したのです」
研究を続けたメイバーグ教授は、25野が、うつ病の症状を引き起こしている神経回路のなかでも重要な役割を果たしていると、確信するに至ったのだという。
うつ病の原因回路のハブ(基点)は、25野にあることがわかってきました。25野の活動を正常に戻すほど、DLPFCの活動は上がり、うつ病の症状も治まったのです。25野を標的にすれば、側坐核、扁桃体やDLPFCなど、つながっている領域を正常に戻すことができるのです。鍵は25野にあったのです」』

ブロードマンの脳地図(内側)

区切られた領域は、それぞれ大脳皮質を構成する細胞の構造の違いや特性によって区分されています。「25野」は中央やや左下方にあります。

 

画像出展:「病気がみえる vol.7 脳・神経」

 上の図と下の図は別々の本からもってきているため、比較が少し難しいのですが、日本生物学的精神医学会誌の「経頭蓋磁気刺激によるうつ病治療」では、膝下部帯状回と梁下野を同一としています。膝下部帯状回と帯状回膝下野が同一かどうかは未確認なのですが、同一と仮定してコメントさせて頂きます。

メイバーグ教授は「25野」を原因回路のハブと指摘されたわけですが、この図の梁下野にある「中隔核」は海馬、視床下部、扁桃体とのつながりを表しており、まさにハブのような姿となっています。この中隔核こそが、25野のまさに核なのではないかと思われます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

3.明らかになってきた磁気刺激と神経伝達物質との関係
『さて、脳深部刺激の話を読んで、みなさんはどう思われただろうか。25野への刺激でDLPFCを活性化することができるなら、磁気刺激によってDLPFCを刺激することで、25野も刺激されるのではないかと思った方もいるかもしれない。第1時限目で登場いただいたハーバード大学のパスカルレオーネ教授は、実際に磁気によるDLPFCへの刺激は、神経回路を伝わって25野にも届き、その活動に影響を与えることができると言っている。こうした、うつ病に関係する脳内の神経回路を調節することが治療につながるのだ。
では、磁気刺激で25野を直接狙えばいいのではないかというと、そう簡単にはいかない事情もある。磁気刺激は、頭蓋骨の表面から2cmほどの深さまでしか届かないため、脳の奥深くにある25野を直接刺激することができないのだ。
一方で、番組では割愛してしまったが、磁気刺激による作用は、ほかにもあるとパスカルレオーネ教授は言う。
「うつ病の人に磁気刺激を与えると、脳の奥深くでドーパミンが増えることが確認できるのです。」
ドーパミンは、第1時限目で紹介したセロトニンと同様、うつ症状に大きく関係するとされている物質である。報酬や快楽に関係する神経伝達物質であり、意欲に関係していると考えられている。神経細胞から出るこのドーパミンを増やし、神経細胞自体を活性化することも、磁気刺激がうつ病を回復させる理由として考えられるのだ。磁気刺激を受けた患者が、新たなことに挑戦したり、自分の喜びを見出し、「自分を取り戻した」と表現していたのは、こうしたメカニズムに関係しているかもしれない。
ドーパミンに関連して、日本でうつ病を脳科学の視点から研究している数少ない研究者の1人、広島大学の山脇成人教授が興味深い説を唱えている。抗うつ薬・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を飲んでもなかなか症状が回復しない患者は、ドーパミンの機能が低下していると考えられるというのだ。山脇教授によれば、SSRIが効きにくい患者の多くが、ドーパミンが関与するとされている意欲の低下や無気力といった症状を示している。セロトニンは、ドーパミンを調整して作用しているため、調整する相手であるドーパミン機能が低下している場合には、いくらSSRIを投与してセロトニンを増やしても意欲低下に効果がないということを示しているというのである。第1時限目で紹介したニューヨークのクリニックが、驚異的な患者の治癒率を誇っているのも、単に磁気刺激によってDLPFCを活性化させて、扁桃体の暴走を抑えるという効果以上に、薬の作用を補強していることとも関係しているのかもしれない。
せっかくなのでセロトニンについて、ついでにご紹介しておくと、山脇教授によれば、セロトニンは脳のなかでも、「長期報酬予測」、つまり目先のことにはあまり関係していないという。だからうつ病になり、セロトニンが少なくなると、長期的な視点で「未来のこと」を考えられなくなり、先々に希望が持てなくなる。そして、短期的な目先のことしかできなくなってしまうという。』

 

ネット上に、山脇先生の文献を見つけましたので、ご紹介します。

脳科学を応用したうつ病の 革新的診断法・治療法開発に向けて

4.うつ病発症のメカニズムに迫る
『こうした脳の機能ごとの変化は少しずつ明になり、うつ病の正体に迫りつつあるものの、その原因にたどり着くまでの道のりはまだ遠い。脳の血流の変化を見ても、それはあくまでも、うつ病の人の脳で起きていることであって、なぜそうした変化が起きているのかの説明がなされていないからだ。セロトニンが減っていること、あるいは薬によって増えることと、脳の機能のこうした変化との関わりも、はっきりとはわかっていない。

うつ病を発症し、何がこうした変化をもたらしたのか、一本の道筋で説明ができないかと、日米のさまざまな研究者に尋ねたが、一つひとつのことが仮説の段階なので、その確証を得る研究をしている最中であり、まだそれを結びつけて考える前の段階にあるようだった。取材のなかで私たちが唯一確認できたのは、SSRIは、扁桃体に直接作用し、それを鎮めるということくらいだ。
それでも、いくつかのヒントになりそうな事実はある。うつ病は、たいてい過剰なストレスに去らされることでなると考えられている。ストレスを受けると、人間の体は当然それに備えようとして反応を起こす。

ひとつは、交感神経を活発にして、戦闘態勢に入ること。もうひとつは、脳の視床下部が活動し、そこから最終的に腎臓のそばにある副腎から、コルチゾールというホルモンを出す。このホルモンは、炎症を止めたりして体をストレスにならしてくれるが、一方で出過ぎると神経細胞を壊したりと悪い影響も及ぼしてしまう。

そこで、コルチゾールが出た時に、出過ぎないように自ら視床下部に働きかけるのだが、その役割は、記憶に強く関係する海馬が担うことになる。しかし、重度のうつ病の人では、この海馬が萎縮しているというのだ。つまり、コルチゾールの過剰分泌を止められず、神経を壊してしまった可能性があるかもしれないということだ。
マウスの実験では、ストレスによってコルチゾールが過剰になると、皮質や海馬の神経が壊されるという。また、ストレスを与えられた結果、大脳皮質では樹状突起のとげ(スパイン)が減り、扁桃体では増えたという研究もある。とすれば、うつ病は、過剰なストレスによって、脳のDLPFCや海馬の神経細胞が壊され、逆に扁桃体が過剰になるというメカニズムなのだろうか。残念ながら、そこまで確たることはまだわからないが、少しずつうつ病発症のメカニズムの一端に触れられるようにはなってきている。
ストレスによってコルチゾールが過剰に分泌されることで影響を受ける、脳内の物質も発見されている。それは、神経細胞が萎縮したり、壊れてしまうことに関わる物質とされるBDNF(脳由来神経栄養因子)だ。このBDNFは、ストレスを受けると減り、逆に抗うつ薬を飲んだ人や磁気刺激治療を受けた人では増えているという。しかし、抗うつ薬以外の精神病薬では増えないため、セロトニンを介してBDNFが増やされていると考えられるようになった。
このことは、セロトニンが原因であるとすれば、なぜそれを増やす薬を飲んでも、2週間しないと効果が現われないのかという謎を説明してくれる。また動物実験の話で恐縮だが、マウスに抗うつ薬を飲ませると、セロトニン自体の量はすぐに増えるというのだ。つまり、効くまでに時間がかかるのは、セロトニンがBDNFを増やし、その結果、神経細胞が新生されたり、あるいは樹状突起が伸びるなど脳内の細胞に変化が起き、そのことがうつ病の症状の改善につながっているのではないかと考えられるというのだ。
そうだとすると、やはりセロトニンが主犯ではないように思える。さらに、神経が新生されるということが、不安や気分の落ち込みなどのうつの症状にどう関係しているのかは、謎のままだ。
それでも、こうした仮説を積み重ねるなかで、新たな検査も生まれつつある。最近では、血中のBDNFを調べる検査も出てきている。もちろん、末梢の血液と脳の状態では違うかもしれないので、現段階では参考程度に使っているということだったが、うつ病患者では、末梢の血液でもBDNFが少ないという。今後、さらに研究が進み、うつ病のメカニズムが明らかになって、効果的な治療へつながるようになるのではないかと思える取材であった。』

こちらのサイトにBDNFの詳細な情報が整理されていました。

5.うつ病と双極性障害(躁うつ病)
2009年のドイツの研究機関による調査では、初診で「うつ病」と診断された患者の41.4%の人が、実際は「双極性障害(躁うつ病)であることが判明したというデータがあります。
本書の中でも10年にわたり、しかも複数の医師が診察したにも関らず、双極性障害をうつ病と誤診された患者さまの例が出ています。双極性障害は「うつ状態」と「躁状態」が交互に訪れるので、見分けるのは難しくないように思うのですが、現実はそうではありませんでした。

その理由は双極性障害の患者さまが受診されるのは、気分の落ち込みが激しい、つらい「うつ状態」の時が圧倒的に多いためです。さらに双極性障害にはⅠ型とⅡ型があり、Ⅱ型の特徴は気分の高揚する躁状態が長く続かないタイプであり、特に「うつ病」との区別が非常に難しいという実状があります。患者の方も、まず「うつ病」を意識し、気分の高揚は抗うつ薬による効果であると考える傾向が強く、あるいは調子がいいと感じる時期を、あえて病気ではないかと疑うことはほとんどないというのが一般的です。

Ⅱ型の患者さまの中には、1ヵ月、2ヵ月通ってもらっても、躁の兆候を見ることができるのが1、2回というケースもあるようです。しかしながら、この2つはまったく違う病気で治療薬も異なります。
双極性障害の患者に、気分を押し上げる「抗うつ薬」を処方した場合、気分が極端に高揚することがあり、ときに自殺などの衝動的な行動に駆り立てられる危険があります。
また、本書の中に次のような一文がありました。『もっとも避けなければならないのは、気分安定薬と三環系の抗うつ薬を同時に服用することである。万一、こうした処方を行う医師がいれば基本的な技能を疑い、転院することをお勧めしたい。』
このような無視できない内容だったため、「三環系抗うつ薬」について調べてみました。
古い抗うつ薬。SSRIやSNRIに反応しない重症例や効果不十分例に使用される。セロトニン、ノルアドレナリン以外の神経伝達物質が受容体と結合する働きも阻害してしまうため、抗コリン作用による口の渇きや便秘、抗ヒスタミン作用による眠気などの副作用が強い。主な薬剤は、アモキサピン、アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン、ドレスピン、トリミプラミン、ノルトリプチリン、ロフェプラミン』
この情報を含め、うつ病および双極性障害については、以下の2つのサイトが非常に参考になります。


 

 

 

  磁気刺激治療(TMS)治療の特徴とメリット・デメリット【医師が教えるTMS治療】

こちらのサイトは豊富な情報を非常に分かりやすく、見やすくまとめられています。

感想

今回、最も印象的だったことは、「脳の血流を調べて、その血流量が増大していれば、そうした意欲や認知などの症状が改善していると考えられます」というとてもシンプルな一言でした。

脳も、筋肉や臓器と同様に、その健康は血液が運ぶ酸素と栄養素によって維持されているということがわかります。血液が滞ることは病気の入り口に近づくということです。清々と流れる血流こそ自然治癒力の本流のように思います。そして、それは現代医学、東洋医学に共通する健康のキーワードでもあると感じました。

自分自身のギックリ腰治療

9月16日土曜日、台風18号は沖縄から九州に向かっていました。既に秋雨前線は刺激され雨模様。乾燥器無し洗濯機の我が家は、コインランドリー頼みとなっています。
少なくとも2、3日は雨だろうと判断し、久々にコインランドリーに行くことにしました。想定は20分乾燥でしたが、ボーッとしているのはもったいないため、本と携帯型老眼鏡を持って行きました。ところが、なんとケースの中はカラ。中身の眼鏡が入っていません。ガーン。

10年程前に行ったレーシックの完全補正手術により、視力は小学校時代をしのぐ「2.0」、おそらく今も「1.5」は維持していると思います。これにより、眼鏡がないと本を読むのはかなり苦しいことになっているのですが、目を極力細め、全神経を眼に集中させることで、厳しいながらも読み始めました。

一方、背もたれのないイスは腰が痛くなりやすいので、普通であれば意識して、あるいは無意識に体を微妙に動かし、腰を固まらないようにしているようなのですが、この時は、少なくとも20分間ほぼ固定状態だったと思います。これが、おそらく「ギックリ腰」の原因だと思われます。

 

眼鏡が下のケースに入っていれば。。。

「うっ!?」

テーブルに両手をつき、思いっきり腕の力を使って、立ち上がりました。数歩あるくと痛みは緩和され、腰を曲げたり捻ったりしなければ生活はなんとか問題なさそうです。明日は、年1回の相澤良先生を囲む会が都内で行われるため、何とかせねばと思い、就寝前に鍼治療を試みました。

頚や肩のこり、口内炎、花粉症、風邪の初期、体調不良時、謎の足首痛など、自分への鍼治療はめずらしくないのですが、腰はうつ伏せの状態で行うことになります。腕を動かすと背中の筋肉は緊張し硬くなり、体を動かすと場合によっては筋力により鍼は曲がります。折れる心配はありませんが、筋肉のとっては好ましいものではないと思います。
受傷当日のギックリ腰の治療は、遠隔部への置鍼、原発部位への単刺(刺したら、すぐに抜く)が基本ですが、この日は様子見という意識もあり、骨盤上方の圧痛部5、6か所への単刺のみとしました。

翌朝、起床時の印象は良かったのですが、残念ながらほとんど変わらない状態でした。ただ、両手を頼りにすれば立ち上がることは可能で、「ズキッ」とくる動作時の鋭い痛みも一瞬なので、予定通り会には出席できました。座っていた時間は約3時間+アルコール摂取が良くなかったのか、その日の夜は悪化しました。この日を「10」とすると初日の昨日は「7」という感じです。

現在、業務委託による訪問の仕事も行なっているのですが、半分がマッサージです。そのため「何とかしないとまずい!」という状況に追い込まれることとなりました。


9月17日の夜は受傷後40時間位たっており、炎症はないと判断して全て置鍼としました。背中の上方、肩甲骨下部付近も、腕が届く範囲で圧痛を探し、両手をモゾモゾさせながら、何とか刺入しました。おそらく理想的な刺鍼ポイントからは1cm近くずれていたかもしれません。こうして、15本程刺鍼し、約15分間置きました。この結果、翌日の痛みは「7」に戻ったという感じでした。


18日も同様に行いましたが、この日は居眠りしてしまったこともあり、結果的に1時間近く置鍼することになりました。前日から既に筋肉の改善は進行していたと思いますが、おそらく、この長い置鍼時間もプラスに働いたものと思います。幸いにも翌日の痛みは「3」くらいまでに改善されていました。

手を使うことなく、立ち上がることもできるようになり、ほぼ自然に動けるレベルになりました。最もホッとしたのは、バックでの駐車です。特に右に捻る動作では激痛があり、痛みを我慢し、歯を食いしばって車を何とかとめていたのですが、この気になっていた、危険な事態も回避できました。

 

21日夜、残念ながら痛みはほぼ「3」で横ばい状態でした。しつこい痛みが骨盤直上、背骨近くの奥の方に感じます。最も疑われる筋肉は多裂筋です。一瞬の鋭い痛みはないのですが、イスから立ち上がり、背筋を伸ばすと2、3秒、ズーンとする嫌な鈍痛が後を引く感じです。

そこで3日ぶりに自己治療をすることにしました。今回の体勢は横向き、鍼は寸6・3番(長さ50mm・太さ0.2mm)という少し長く、少し太い鍼を使い、体勢的に刺鍼可能な範囲の圧痛ポイントを狙って単刺+雀啄(鳥がクチバシでつつくような刺激を加える手法)で施術しました。刺入の深さは場所によりますが、3~4cm程だと思います。この際、1ヵ所、トリガーポイント(関連痛を伴う硬結)をヒットした時にみられる「ビクッ」とする局所短収縮(LTR)がありました。また、鍼尖に粘りつくようなゲル状の感触がありました。こうして、この施術により奥にくすぶっていた硬いブツと緊張はだいぶぬけた印象があり、翌日は1.5」になっていました。

 

「脊柱(背骨)を支えるために強力で重要」といわれる多裂筋(今回は場所的に腰多裂筋)が、イスに腰掛け、やや前傾となっている上体を、地面から引っ張るように存在する重力に対抗し、緊張を維持したまま、約20分間必死に支え続けた結果の産物だったのだろうと思います。

 

画像出展:「肉単」

出版:エヌ・ティー・エス

今回の自己治療を通して、再確認できたことは、ギックリ腰の治療は遠隔治療および30分以上の長い置鍼と、単刺・雀啄で圧痛、硬結をピンポイントで狙うことが最重要であるということです。そして、良い睡眠(早寝+睡眠時間)も忘れてはいけない大切なポイントだと思いました

 

画像出展:GATAG

交流磁気治療器

数年前から、起床時にジクジクとした腹痛で、辛い思いをしている70歳代の患者さまがおいでです。この痛みは起床後、お昼までには消えていくとのことです。
病院での診察は過敏性腸症候群とのことなのですが、便通はやや便秘ぎみではあるものの特に困っている状況にはなく、年齢面、ストレスの状態など、過敏性腸症候群の代表的特徴と比べても疑問点が多いというのが率直な感想でした。
ウィキペディアの「過敏性腸症候群」に関するページには、診断について、『まずは炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)及び大腸癌ならびに虚血性大腸炎、感染性胃腸炎、大腸憩室症などの腸疾患、さらに婦人科系疾患、泌尿器系疾患、後腹膜疾患など器質的疾患などの可能性を除外した上で診断される』ということが書かれていました。
この中の「虚血性大腸炎」については素通りできず、さらに調べてみることにしました。

 

一方、患者さまからは「交流磁気治療器の購入を考えている。」とのお話がありましたが、私自身は交流磁気治療器に関する知識がなかったため、埼玉県内の市立図書館に所蔵されていた「磁気治療が好き!」(著者は日下史章先生と上村晋一先生、出版会社はコスモの本)という本を借りることにしました。また、なるべく客観的、中立的に評価をしたいと思い、ネット検索で色々な情報にアクセスしました。


1.厚生労働省(厚生省)による認可
以下は、株式会社ソーケンメディカルさまの会社概要に掲載されているものです。

・昭和47年頃:開発者石渡弘三が、家族の健康回復のため交流磁気治療器の開発に着手
・昭和49年:交流磁気治療器の臨床試験(いすゞ病院院長・中川恭一医学博士)を依頼
・昭和54年 2月:神奈川県総合リハビリテーションセンター(内科部長・和合健二医学博士)にて交流磁気治療器の臨床試験開始
・昭和54年 4月:通産省より交流磁気治療器の甲類電気用品形式承認を取得
・昭和55年 3月:中川恭一・和合健二両博士の臨床データを添えて、厚生省に交流磁気治療器の認可申請
昭和55年 11月:中央薬事審議会の審査を受け、厚生省の製造並びに販売の認可を取得する。認可申請の元になった論文は、中川恭一先生の「皮膚貼付用磁気治療具の治療効果について」であるという情報がありました。

なお、この中川先生の論文は「メディカルオンライン」というサイトで購入できます(648円)。資料は13ページですが、有料の資料のため、1ページ目上段の「はじめに」の部分のみ添付させて頂きます。

平成10年には「厚生省告示第118号」で家庭用電気磁気治療器基準を定めています。こちらは、「明治大学科学コミュニケーション研究所 疑似科学とされるものの科学性評定サイト」というサイトの中に見つけることができました。

なお、「効能又は効果」に関しては「装着部位のこり及び血行とする。」と明記されています。

2.否定的な情報
BRITISH MEDICAL JOURNAL(BMJ)」が、磁気について、血行促進、痛み、こりの緩和ともに効果なしとする報告がある。という情報がネット上のサイトにあったため、検索を試みましたが、私の英語力に問題もあり、見つけることができませんでした。

3.磁気は医療に有効なのか
「磁気」は本当に医療に役立つものなのか? 本では第2章 磁気治療の未来を変える「交流磁気」革命!の中で、「全米400カ所が実施するうつ病磁気治療」というタイトルに続き、次のような説明がされていました。

磁気治療の中でも現在、世界的に注目されているのが、パルス磁気で脳を直接刺激する経頭蓋磁気刺激(TMS)療法です。そもそも脳の異常を探る診断法として使われていた技術ですが、1995年、アメリカの国立保健研究所のマーク・ジョージらが「大脳皮質前頭葉を強いパルス磁気で刺激し、同部位の血流循環を高めて脳細胞の機能を活性化させることにより、うつ病治療に成功した」と発表。それをきっかけに、病気の治療にも活用されるようになったのです。』
日本では、うつ病ではありませんが、脳卒中後遺症に対する治療として、東京慈恵会医科大学など全国で11のTMS施行施設があります。

 

以上のことから、少なくとも「磁気」には血行を改善する働きがあると考えます。

現在のところ、TMS治療は各施設の倫理委員会が承認した臨床研究として位置付けられています。

4.メカニズム
第2章の中の「磁場の種類で効果も変わる」で説明されている内容をお伝えします。
『磁気治療は、磁石が作った磁場を体に作用させる治療です。磁場には磁力が常に一定の状態にある定常磁場と、時間とともに磁力の強さや方向が変化する変動磁力の二種類があります。このうち定常磁場は永久磁石によって作られます。磁気バンソウコウや磁気ネックレスが定常磁場治療器に相当しますが、作用の範囲は狭く、磁力も皮下の約1.5~2cm程度しか届きません。
もう一つの変動磁場は、電磁石に電流を流して人工的に作った磁場です。日本の磁気治療を支える交流磁気治療と、世界の磁気治療として本章の冒頭でご紹介したパルス磁気治療は、この人工的に作り出した変動磁場を利用しています。交流磁気治療に用いられるのは、電磁石に交流(一定時間ごとに交互に逆方向に流れる)電流を流し、N極とS極が交互に入れ替わることで発生する交番磁場です。N極とS極の入れ替わりに伴い、磁力の強さが変化する交番磁場は広範囲に磁場が発生し、全身に安定した強力な刺激を与えられるのが特長です。体の奥深くまで磁力線が届くので、格段に大きな治療効果が得られるのです。
一方、パルス磁場は、2~3秒間に1回、N極またはS極の方向に瞬間的に磁力線が走る磁場です。周波数を自在に変えることができ、小さなエネルギーで大きな効果を引き出すことができるため、ピンポイントの局所治療に使われます。』

 

5.磁気の安全性
平成10年の「厚生省告示第118号(家庭用電気磁気治療器基準)」では、最大磁束密度は35mT~180mTと定められています(「T」はテスラ。昔はガウスが使われていた)。一般的な交流磁気治療器は70mT前後です。一方、最新の高性能MRIは3.0Tになりますので、この3.0Tを1として、2つを比較すると磁気の強さは1:0.023ということになり、交流磁気治療器の数値が非常に小さいものであることが分かります。また、MRI検査は一般的には1ヶ月に何回受けても、身体への影響は無いとされているようです。(検査を受ける上での注意事項はあります)
これらを踏まえると、交流磁気治療器は使用上の注意点を守るという前提で、副作用はないと思われます。

 

 

左の写真は(株)ソーケンメディカル社の交流磁気治療器です。

6.交流磁気治療とともに歩んだ30年間 
・本の中には、多くの疾患の改善事例が掲載されておりますが、効果には個人差がありますので個別の症例ではなく、著者のお一人である上村晋一先生が先代から開院されている熊本県 阿蘇立野病院における30年におよぶ取組みをご紹介させて頂きます。


『今後、日本の医療が歩むべき道は、病気の急性期に鋭い切れ味を発揮する西洋医療と、体に負担をかけずに自然治癒力を引き出す代替医療とを併用する医療、すなわち「統合医療」であると思います。そして、その統合医療を最も必要としているのが、お年寄りたちがさまざまな不調を訴えて集まってくる、地域医療の現場なのです。
わが阿蘇立野病院も地域医療に携わる医療機関の一つです。昭和54年に立野病院として設立されて以来、同地区唯一の総合病院として一般診療から救急診療、さらには乳幼児健診、学校医、介護保険の認定審査にまで至る、あらゆる保健医療に関わりながら地域住民の健康を支えてきました。
しかし、そんな地方病院の一つでありながら、当院には、すでに30年近く統合医療を実践してきた歴史があります。その歴史は、実は交流磁気治療とともに始まりました。
南阿蘇は熊本でも屈指の高齢地域です。設立時にはすでに過疎化も進んでいましたが、前院長の上村順一は、まだ医学の中に代替医療や統合医療という言葉も発想もなかった時代から、保険点数のつかない交流磁気治療を導入し、地域医療の中に根づかせてきたのです。そんなわが父でもある前院長の先見の明に、私も頭が下がる思いです。
磁気ベッドは病院だけでなく自宅にも設置され、当時寮生活を送る学生だった私も、休暇で帰省するたびに利用していました。ベッドに寝ているだけで、体がポカポカと心地よく温まり、まったりと眠くなってくる……。初めて試したときは、その抜群のリラックス効果に驚きました。
ですから、父から院長職を引き継ぐ際にも、磁気治療を継続することに迷いはありませんでした。むしろ高齢化社会、ストレス社会において、磁気治療は非常に価値の高い医療であり、守り続けるべき医療の一つだと思っています。』

ケトン体エンジン

1ヵ月以上前だと思いますが、ニュース番組か健康番組の中で、「脳を栄養する物質はブドウ糖だけではなかった!」という放送を耳にしました。そして、その物質は「ケトン体」というものでした。
「え~!?」と思ったのは、専門学校の授業では、「脳の栄養はグルコース(ブドウ糖)のみ」と繰り返し教わっていたためです。
単糖類の小さなグルコース(ブドウ糖)はグルコース輸送体を使って、脳を守る血液脳関門を通過し、脳に到達して栄養します。一方、多糖類のグリコーゲンは大きく、血液脳関門を通ることはできません。このようにグリコーゲンが脳のエネルギーにはならないことを理解させるため、あえて「脳の栄養はグルコース(ブドウ糖)のみ!」と強調されていたのかもしれません。
ケトン体についてはほとんど知識はなく、ネガティブな印象を持っていましたが、ネット検索でいくつかのサイトに目を通してみると、どうやらそうではないことが分かってきました。そこで、『ケトン体が人類を救う』という本を読んでみることにしました。著者は宗田マタニティクリニックの宗田哲男先生です。

 

著者:宗田哲男

出版:光文社

 

血液脳関門は他の毛細血管に比べ、強固な構造になっており、通過させる物質を厳しく限定しています。これにより、中枢神経系の恒常性を高度に維持します。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

内容は次のようになっています。
序章 本書で伝えたいことのあらかじめのまとめ
第1章 私が糖尿病になったころ
第2章 妊婦の糖尿病に、はじめての糖質制限
第3章 ケトン体物語・前編―学会での非難から、新発見へ
(1)簡易ケトン体測定装置との出会い、そして江部先生からの手紙
(2)私たちのケトン体研究
(3)翌年の学会発表会は、まるで戦争だった!
(4)日本産婦人科学会での発表(2014年3月、東京)
第4章 ケトン体物語・中編―さらに勇気のある妊婦の登場!
第5章 ケトン体物語・後編―こんなにすごい「ケトン体エンジン」
第6章 栄養学の常識は、じつは間違っている!
(1)栄養指導は間違いだらけ
(2)コレステロール悪玉説の終焉
第7章 妊娠糖尿病とはいったい何か―妊娠期の人体が教えてくれること
(1)妊娠糖尿病とはどんな病気なのか?
(2)では、妊娠糖尿病とはなぜ起こるのでしょう?
第8章 さらば、白米幻想!
(1)ヒトは何を食べてきたのか?
(2)白米中毒から脱出せよ!
第9章 学会というおかしな世界―糖質制限批判を考える
(1)日本糖尿病学会誌からのなさけない告発状
(2)糖尿病治療の不思議―マッチポンプの医学
第10章 「たくましき妊婦たち」と「ケトン体」が日本を救う!《体験談》
最終章 ケトン体がつくる未来
(1)ケトン体が人類を救う!―認知症、がん、…etc.への効果
(2)ケトジェニックな医師たち、ケトジェニックの達人たち
(3)Facebookグループの活躍と発展、人気ブログやHPからの発信

ブログでは、主にエネルギーのエンジンとしてのケトン体について書いており、妊娠糖尿病糖尿病
あるいはケトン食など、栄養に関する件については特に触れておりません。そのため、お役に立つを思われるホームページをご紹介させて頂きます。クリックすると該当するサイトに移動します。


宗田哲男先生
宗田マタニティクリニック 
いい、お産したい 

 

江部康二先生
ドクター江部の糖尿病徒然日記  
人類史からひもとく糖質制限食(毎日新聞 医療プレミアムより)

 サッカーファンには、興味深い記事も載っていました。 
 ・長友選手が目指す「ケトン体体質」の利点

 

その他
中鎖脂肪酸サロン(日清オイリオ)

糖質とは
主に生命活動のエネルギーとして働きます
グリコーゲンとして貯蔵されます(グリコーゲンの貯蔵量は数百g。1日で枯渇)。
余った分は脂肪に合成されて貯蔵されます(中性脂肪は数kg。数週間生き延びられる)。
・糖質は3つに分類されます。単糖類は最小単位のグルコース(ブドウ糖)など。二糖類は単糖類が2個結合したもの。多糖類は単糖類が多数結合したもの、グリコーゲンなど。

 

グリコーゲン量算出
・少し脇道にそれますが、retu27.com というサイトに「体内貯蔵エネルギー(グリコーゲン貯蔵量)推測ツール」というものを見つけましたので、ここでグリコーゲンについて補足したいと思います。

体重56kg、体脂肪20%として、計算すると下記の数値が算出されました。
 筋肉量: 22.4kg
 グリコーゲン量: 436g
 グリコーゲン貯蔵エネルギー: 1744kcal
 マラソンに必要なエネルギー: 2363kcal
 [貯蔵エネルギー] - [必要エネルギー]: -619kcal
フルマラソンは42.195kmですので、手持ちのグリコーゲンでは足りず、途中の給水に加え、糖質の補給が必須であることが分かります。
レースでは、たまに35km過ぎあたりで、バテバテ状態となり完走が困難な選手を見かけることがありますが、あれはグリコーゲンが枯渇した状態だと思います。

左の写真は、JogNote(走るなら食べよう!)さんから拝借しました。こちらも素晴らしいサイトです。

栄養素の流れ
以下の図は糖質に脂質、蛋白質を加えた三大栄養素が消化・吸収を経て、どのようなものに変化するのかを説明したものです。
・摂取された栄養素は分解され、エネルギー(主にATP)になります。
・グリコーゲン、中性脂肪、蛋白質などに合成され、エネルギー源として貯蔵されるほか、細胞を構成する成分などになります。
・栄養素などの高分子化合物を単純な低分子に分解してエネルギーを産生することを異化(下図では左→右)、エネルギーを使って物質を合成することを同化(右→左)といい、異化と同化をあわせて代謝といいます。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

ここで大きな疑問が浮かんできます。
①「グリコーゲンは1日も持たないけれど、中性脂肪があれば安心ということ?? 中性脂肪は生活習慣病に関係している悪役だが問題だろう。」
・中性脂肪は運ばれる先によって「皮下脂肪型」と「内臓脂肪型」の2つの肥満タイプに分かれますが、問題となるのは内臓脂肪です。内臓脂肪では、動脈硬化や生活習慣病に結びつく「悪玉」の生理活性物質が分泌される一方、「善玉」のアディポネクチンの分泌は低下します。従って内臓につく中性脂肪は健康にとって明らかに望ましいものではありません。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

②「数百年前の粗食な庶民は、メタボに通ずる大量の中性脂肪など、体内に持ち合わせてはいないだろう!?」
・過剰に摂取した中性脂肪は、エネルギー消費が追いつかないと、脂肪細胞に貯蔵されます。現代では精製された白米やパン、お酒(日本酒やビール)、スイーツ、ソフトドリンクなどにより、糖質は過剰摂取されやすく、その一方で、交通網の整備やエレベータ、エスカレータ、歩く歩道などにより、エネルギーを消費する機会は減りました。
カロリーを燃焼する褐色脂肪細胞運動が活発で、太らないタイプの人も中にはいますが、多くの現代人は糖質過剰に加え、運動不足などの不摂生、過度なストレスなどにより中性脂肪が増加傾向にあり、メタボ予備軍が増えています。それに比べ、質素な食生活に自分の足で移動していた大昔の庶民にとっては、中性脂肪など無縁の話だと思います。


以上のことから、健康にとってマイナスな中性脂肪とは別に、持久力のある健康的な、正統派のエネルギー供給システムがあると考えた方が自然だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらの画像は、東京の新宿にある「ともながクリニック(糖尿病・生活習慣病センター)院長:朝長 修先生」より拝借しました。こちらのサイトも非常に充実したものになっています。

糖質、脂質、蛋白質の代謝
これは、上の「栄養素の流れ」に関し、主な物質と異化同化の流れを現わしたものです。
・図の下部右側にある「アセチルCoA」から「ケトン体」の表記が確認できます。
・左上部の脂肪酸から赤線が出ています。これは、「β酸化」とよばれ、アセチルCoAという物質を経てケトン体を産生します。なお、「β酸化」はミトコンドリアで分解され、回路が一巡するごとに脂肪酸から2個の炭素が除去され、アセチルCoAが1分子産生されるという仕組みです。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

「アセチルCoA」⇒「ケトン体」については、もう少し詳しい図がありました。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」

ケトン体とは
下記の内容は【脂肪が燃焼するとケトン体ができる】に基づいています。2つの図もお借りしました。なお、こちらを書かれたのは、銀座東京クリニックの福田一典先生です。

①肝細胞では、脂肪酸が分解されてできたアセチルCoAの一部はアセトアセチルCoAになり、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)を経てアセト酢酸が生成されます。そして、一部は脱炭酸によってアセトンとなり、一部は還元されてβヒドロキシ酪酸へと変換されます。このアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンの3つをケトン体と言います。なお、アセトンについてはエネルギー源にはならず呼気から排出されます(アセトン臭) 。

 

グルコース(ブドウ糖)が枯渇した状態で、脂肪酸が燃焼するとき肝臓ではケトン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸)ができます。ケトン体は水溶性で細胞膜や血液脳関門を容易に通過し、骨格筋や心臓や腎臓や脳など多くの臓器に運ばれます。これらの細胞内でケトン体は再びアセチル-CoAに戻され、ミトコンドリアのTCA回路と電子伝達系で使われ、エネルギーとなるATPを作り出します。特に脳にとって、ケトン体はグルコース(ブドウ糖)が枯渇したときの唯一のエネルギー源となります。


絶食時やインスリン欠乏による糖尿病などで、グルコースが利用できない場合、ケトン体が重要なエネルギー源となります。体重60kg、体脂肪率20%の場合、約12kgの脂肪があるので総カロリーは108,000kcalになります。仮に1日の消費カロリーを2,000kcalとすると50日以上生活できるという計算になります。


ケトン体は一部の脂肪酸だけでなく、アミノ酸からも産生されます。

この図は[細胞質]内を表したものです。

画像出展:「銀座東京クリニック

 

こちらの図は[ミトコンドリア]内を表したものです。

ケトン体の安全性
ケトン体のアセト酢酸とβヒドロキシ酪酸は酸性が強いため、ケトン体が血中に多くなると血液や体液のpHが酸性になります。このようにケトン体が増えて血液や体液が酸性になった状態をケトアシドーシスと言います。そして、最も問題となるのが糖尿病性ケトアシドーシスだと思います。
しかしながら、ここで注意すべきは、糖尿病性ケトアシドーシスの原因はケトン体ではなく、インスリン作用の欠乏にあります。断食や糖質制限に伴うケトン体産生の亢進の場合は、生理的なものであり、インスリン作用が正常であれば何の問題もないと言えます。
「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」には「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」に関して、次のような説明がされています。
高度なインスリン作用不足に、インスリン拮抗ホルモン上昇が加わって生じる代謝失調状態である。糖利用低下、脂肪分解亢進に起因して、高血糖と著しいケトン体の蓄積が生じる。これを受けて生じる脱水とアシドーシスが本態であり、意識障害(重症では昏睡)をきたす。1型糖尿病に多いが、2型糖尿病患者のソフトドリンク多飲によって生じることもある(ソフトドリンクケトーシス)』
そして、以下のような図を使って説明が加えられています。

 この図は、上部には原因となる問題が明記され、[糖はあるが末梢組織は全く取り込めない]という問題が発生。下部にその事態への緊急対応が示されています。

 

エネルギー欠乏に対応すべく動き出すのは肝臓です。シンプルな反応としてグリコーゲン分解が起こりグルコースを増やします。また、興味深いのは脂肪がFFA(遊離脂肪酸)に分解され、さらに「β酸化」とによりケトン体が産生されるルートです。

また、グリセロールも脂肪から分解されたものですが、こちらは「β酸化」ではなく「糖新生」という働きによりグルコースが産生されます。ただし、この緊急対応によって血液酸性化→ケトアシドーシス、および血症浸透圧上昇→脱水というトレードオフの問題点が発生します。

 

注目すべきは「ケトン体」と「グルコース」が並列に明記され、ともに緊急事態へのエネルギー供給で上昇している点です。

 

画像出展:「病気がみえるvol3 糖尿病・代謝・内分泌」

 

宗田先生は著書の中で次のような説明をされています。
『インスリンが不足してグルコース(ブドウ糖)をエネルギーにできない火事の現場で、ケトン体は自らがエネルギーとなって必死に体を助けていました。ケトン体は火事を消そうとしていた消防士だったにもかかわらず、その後もずっと犯人にされてしまったのでした。「糖尿病ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、インスリンを投与して高血糖を抑えればケトン体は消えるが、これは消防士が引き上げて正常任務に戻ったのであり、「ケトン体さんご苦労様でした」というべきところです。』
きれいな例ではないのですが、「便秘」と「胃腸のはたらき」の関係にも似ているように思います。溜まった便は原因ではありません。出るに出られない被害者とも言えます。最初に考えるべきは胃腸の状態です。


残暑の季節

マンション駐車場のうち、私が使っているのは1台だけのスペースなのですが、そこでセミの抜け殻を見つけました。下はコンクリートなので、上から地上に這い出して、このポジションを選択したと思われます。写真上部の土っぽい所が半円状に散らかっている辺りが怪しく、そこから登場したのかもしれません。7月~9月上旬は普通に見られるようなので、少々で遅れ気味ですが、この夏に何とか間に合ったということだと思います。

感覚統合法の理論と実践

今回は『新・感覚統合法の理論と実践』の再チャレンジです。前回(2016年11月)は「前庭系と筋緊張」というタイトルで、前庭系を説明する時に参考としましたが、この本に対する全体の理解は低く、明らかに消化不良状態でした。 全編の理解度を高めるため、そして発達障害児へのマッサージを行ううえでの基礎知識を増やすため、あらためて読み直しました。

 

著者:坂本龍生・花熊 暁
出版:学習研究社
 
※掲載されている図、イラストに関し、「画像出展」の明記がないものは、全て『新・感覚統合法の理論と実践』からの出展になります。

目次

1.子どもの発達と感覚運動 (第1章の概要です)
2.感覚統合法理解の基礎 (第2章、3章より感覚統合理論を支える神経生理学について。他の本からも図などをもってきました)
3.触覚のしくみとその働き (第4章~6章については、触覚と固有覚を取り上げました)

4.固有覚のしくみとその働き
5.神経生理学を意識したマッサージ 
(脳幹、固有覚、触覚、前庭覚の視点からマッサージをどのように行えばよいか考えました)

ちなみに、この本の見出しは次の通りです。
理論編 
第1章 子どもの発達と感覚運動の指導 
 感覚運動指導の意義

 障害児の感覚運動課題
 生物としてのヒトの発達
 ヒトの運動系の発達と感覚統合
 ヒトの認知系の発達と感覚統合
第2章 感覚統合法理解の基礎 
 感覚統合法の背景
 感覚統合とは何か
 感覚統合過程
 感覚統合障害
 感覚統合指導の原理と方法

第3章 神経系のしくみとその働き 
 神経系の概要
 感覚統合の中枢としての脳幹
 感覚統合理論を支える神経生理学
第4章 前庭系のしくみとその働き 
 前庭系のしくみ
 前庭系の働き
 前庭系の特徴と指導上の意義
 前庭機能の評価
 前庭刺激指導の留意点

第5章 触覚系のしくみとその働き 
 日常生活を支える触覚情報
 体性感覚系のしくみと働き
 触覚系の発達
 触覚の異常と評価
 触覚系の異常への指導
第6章 固有感覚系のしくみとその働き 
 固有感覚系の働き
 固有感覚系の神経学的理解
 固有感覚系の臨床観察
 固有感覚系の指導

 

実践編 
第7章 発達の遅れた子どもへのアプローチ 
 精神遅滞児の感覚運動の特徴
 症例別に見た指導の実際

第8章 体の不自由な子どもへのアプローチ 
 臨床観察のポイント
 臨床像の理解と指導プログラム
 症例別に見た指導の実際

第9章 自閉的な子どもへのアプローチ 
 感覚の調整の障害とその評価
 症例別に見た指導の実際
第10章 感覚運動指導における認知とコミュニケーション 
 遅れの重い子どもへの配慮点
 認知面への配慮
 コミュニケーション面への配慮
終章 感覚統合法の研究動向とこれからの課題 
 感覚統合法の動向
 米国での論争
    障害児教育における意義と課題

1.子どもの発達と感覚運動       
 子宮の中は羊水の中に漂う無重力の世界。単調な母体の心音、腸音などの音の世界も、ほの暗くぼんやりとした光の世界も、劇的に変化します。羊水の感触は、温覚や触覚など種々の皮膚感覚が刺激される世界へと変わります。

 赤ちゃんは当初は生まれつき持っている反射や反応が助けてくれますが、徐々に感覚運動体験を積み、この多様性に富む複雑な世界に対し、柔軟に行動できるよう、自らの反応を複雑化していきます。 赤ちゃんの学習は感覚刺激への反応に始まり、動きの形で反応し、母親やその他の人々も含めた広い意味での環境との相互作用で成長します。基盤となる感覚運動発達は、姿勢、手指の巧緻運動と各部位(首、肩、肘など)の固定、感覚-運動-感覚間の統合(話を聞きながらノートに正しく書き取る等の総合的動作)などです。

 脳の研究やリハビリテーション学の進歩により、視覚や聴覚に加え、基本的な感覚ともいうべき触覚、固有覚、前庭覚の働きと様々な感覚間の情報統合が、子どもたちの発達の基礎となることが分かってきました。     

 動物が運動する場合、運動に関連して常に二つの感覚が必要です。一つは環境と自分との関係、一つは自分の中心と体の他の各部分との関係を教える感覚です。前者が前庭覚、後者が固有覚であり、これにより空間の中での運動が可能になります。

 50cm幅の溝を跳び越すとき、大げさに身構えて、1mも2mも跳ぶということはしません。視覚は溝の幅と接地点の状況を教え、足底は今踏んでいる地面の硬さを教えます。私たちは前庭覚や固有覚などから得た記録に基づき運動の計画を立て実行します。もし、この溝が2mであれば、運動はもっと慎重に計画されます。接地したときに、倒れないのは重力空間に対する頭部の位置関係、その位置を支える足の頭部に対する位置と運動の関係が入力により絶えずコントロールされているからです。

 

2.感覚統合法理解の基礎       
感覚統合法の背景
 感覚統合理論を支える神経生理学 
エアーズ(Anna Jean Ayres)は感覚の中でも、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であり、そのためには脳幹レベルの統合が重要であるとして、脳幹を感覚統合の中枢と位置付けています。

 

脳幹は下位の中枢神経で延髄・橋・中脳を含んでいます。また、脳幹網様体は脳幹の背中側にあり、白質でも灰白質でもなく、神経細胞体と神経線維が入り 交じって網目状をなしています。

脳幹は感覚の情報を受け、運動系、意識状態、情緒、自律調節に関わる、生命維持に不可欠な機能に関わっています。     

 

この絵では、青線は脳幹網様体に入ってくる情報、赤線は主な働きを示しています。そして、●は「神経核」を表しています。

網様体に存在している神経核から発する指令のうち、下行する橋網様体脊髄路(内側網様体脊髄路)伸筋の活動を高めます。同じく、下行する、外側の延髄網様体脊髄路(背側網様体脊髄路)屈筋の活動を高めます。

これらの指令は、γ運動ニューロンに接続し、筋肉の活動を調節することで歩行リズムの調節などを含む随意運動を円滑にさせます。

画像出展:「人体の正常構造と機能」 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記3つの絵についてご説明します。

左上の図は、ブログ「前庭系と筋緊張」で使用したもので、『新・感覚統合法の理論と実践』の図を一部加筆したものです。また、他の2つは『人体の正常構造と機能』からの画像です。ここでは、前庭神経核についてご説明します。

この前庭神経核は脳幹の橋~延髄にまたがっており、対になっています。核は上核・下核・外側核・内側核と4つあり、内側核は頚髄から頚部の筋に、外側核は頚髄から腰髄の抗重力筋(脊柱起立筋など)に働きます。

耳にある前庭器官(半規管・耳石器)からの重力に関わる情報は、前庭神経核に伝わり、前庭脊髄路を興奮させ脊髄の反射回路を活性化させます。これにより、わずかな姿勢の崩れなどを認識し、抗重力筋に働きかけることで、姿勢を保持してくれています。

また、前庭神経核は眼球運動核(外転神経核・滑車神経核・動眼神経核)にもつながっています。これらの神経は眼を動かす筋肉、外眼筋(上斜筋・下斜筋・上直筋・下直筋・内側直筋・外側直筋)に作用します。

前庭覚・触覚・固有覚刺激の意義     
 前庭覚・触覚・固有覚の感覚系は、発達の初期段階で重要な役割を果たし、視覚と聴覚の発達や学習能力の発達の基礎を形成します。感覚統合法で問題とする脳幹の働きの改善にあたっては、これらの三つの感覚系からの入力は特に重要になります。
   
感覚統合指導      
 ヒトは、通常、運動したり遊んだりしているうちに刺激を感覚として入力しながら脳神経系が成熟していくので、そのための訓練を必要としているわけではありません。しかし、感覚と運動の不統合性が生じたときは、乳幼児であればあるほど適応反応がうまくいきませんし、発達が総じて遅れがちになります。したがって、そういう子どもたちの発達を支援するために、特別に構造化された環境を提供することが求められます。

     
感覚統合法の指導の中心原理     
 感覚統合の指導の基本的な原理は、感覚の入力、特に前庭覚や筋肉、関節などに存在する固有覚、あるいは触覚からの入力をできるだけ統合し、自発的な適応反応に高めるよう配慮し、それを制することを学ばせていくものです。指導していくための手掛かりとして、少なくとも次の6つの系列が重視されてきました。  
 ①触覚系と前庭系の健常化をはかること。    
 ②原始的姿勢反射(無意識に出る赤ちゃんの反応や姿勢)の統合を進めること。    
 ③平衡反応を発達させること。    
 ④視運動を正常化すること。    
 ⑤身体両側の感覚運動機能の協調性を高めること。    
 ⑥視覚的形態と空間知覚を発達させること。    
 感覚統合の指導は、ともすると遊戯療法と間違えられますし、学校では体育の授業ではないかという批判をよく受けます。しかし、感覚統合の指導は、活動のしかたや運動の技術を教えようとするものではありませんし、いわゆる教科的にいう体育でもありません。その根幹は、感覚入力のよりよい統合をはかるという目的的な治療行為であり、そのための観察、診断、指導プログラムが確立されています。

3.触覚系のしくみとその働き
日常生活を支える触覚情報                  
 私たちは周りの環境を知るためだけではなく、姿勢、情緒、覚醒状態などを調節するためにも、日常生活の中で触刺激をむしろ積極的に使っています。触覚は人が社会生活を維持するための基礎として働き、日常生活全般に影響を及ぼしています。

            

感覚の種類と感覚器                 
 「体性感覚」は、皮膚の表面で感じられる表在感覚と、もう少し深いところで感じる深部感覚を含めたものです。一方、「痛み」は痛みという刺激があるのではなく、圧迫や熱さなどの刺激が皮膚や深部の組織を損傷し、その時に出る発痛物質が痛みの感覚器に作用して痛みとして感じられます。

主な内因性発痛物質には、カリウムイオン、ブラジキニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどがあります。カプサイシンは外因性発痛物質、PG(プロスタグランジン)は発痛増強物質となり、内因性発痛物質とは異なる物質です。

 

この表は、「触覚線維」と2つの「痛覚線維」を説明したものです。

触覚線維の特徴は、痛覚線維に比べ太くて(有髄Aβ線維)、速いというものです。

痛覚を伝える線維には鋭い痛みの一次痛を伝える高速タイプ(有髄Aα線維)と、鈍い痛みの二次痛を伝える低速タイプ(無髄C線維)の2種類があります。

これらの痛覚線維は、触覚線維と異なり、興奮性または抑制性に作用する神経伝達物質を伴います。表で紹介されている、Glu、SP、CGRPの3つはいずれも興奮性神経伝達物質です。抑制性伝達物質には、GABAやグリシンなどがあります。なかには受容体が興奮性か抑制性かを決める神経伝達物質もあり、これにはセロトニンやノルアドレナリンなどが該当します。

画像出展:「痛みと鎮痛の基礎知識[上]基礎編」

深部感覚に関係する筋肉からの情報は意識されにくく、圧迫、振動、運動覚、位置覚などは、筋肉の伸張状態を感知する筋紡錘や関節の感覚器(固有受容器)からの情報と皮膚の感覚の複合産物といえます。この他、触るだけでなく、指先を動かすことによって初めてわかる手触りや、物の形の弁別なども、指先の皮膚と指が動くときの筋肉および関節からの情報が、脳で統合されたことにより生じた感覚です。  

              
体性感覚の経路
意識できる体性感覚の経路-脊髄視床路と後索毛帯路                
意識できない体性感覚の経路                
原始感覚系と識別感覚系   

             
触覚系の発達

 胎生期の神経発達                 
 神経系の形成と組織化                
 受精後、四肢の出現に先立って、数週で神経系が形成され始め、3カ月目で口腔周辺への触刺激に対して、頭や体を後ろにのけ反らせる回避反射が出現します。反射は最も単純な感覚の処理のされ方ですが、この反射の出現は感覚入力と運動が結びつく回路ができていることを指しています。

回避反射はやがて吸啜・嚥下反射に変化し、生後の哺乳行動を準備します。この反射の防衛的なパターンから適応的なものへの変化は、神経系のフィードバック機構にその説明を求めることができます。刺激の入力によって引き起こされた運動反応は、最初の刺激に加え、筋肉からの新たな刺激を加えます。この繰り返しが神経線維の樹状突起の数を増やし、神経線維の髄鞘化を促進し、近隣のニューロンとの結びつきを密にします。その結果、反射の内容が変化していきます。    

 触覚と固有受容覚との統合                
 胎児は子宮内で、羊水、脂肪の膜などで何重にも保護されています。生後、これらの保護は突然取り外され、新生児にとって過剰な重力と刺激の溢れる世界で活動することになります。

して、まず体の内外の境界となる皮膚に保護機制が強く働くことになりますが、保護機制だけではうまく環境に適応していけません。反射の中には環境に積極的にかかわっていく運動パターンもいくつか身につけています。モロー反射や非対称性緊張性頚反射、緊張性迷路反射は屈曲優位な新生児期の姿勢を是正していくのに役立つと言われています。      

 触覚と運動企画                 
 新生児にも四肢の動きはありますが、頭や体全体の動きに影響されて、意図した動きになっていません。固有覚は触覚と統合されることによって身体感覚を明確にします。このようにして自分の体の全体のイメージ(ボディイメージ)とそれぞれの部分の位置関係の理解を生み、その効率的な動かし方の基礎を作りあげます。                
 触覚と情緒の発達                 
 多くの動物の子育ての研究は、出生直後の子なめ行動が免疫機能をはじめとする生体の生命維持活動を高めることを報告しています。そして、人間の長い分娩時間中に受ける多量の触圧刺激が子なめに相当するものではないかと類推されています。

人間は誕生の瞬間だけでなく、その後の発達においても成人とは比べようもないほど、多くの触圧刺激を受けます。子宮内で多くの保護のもとにいた胎児がその保護を突然解かれるならば、生後もそれに替わりうる保護が必要だからです。乳幼児の自我や情緒の発達の研究家たちは、こぞってそれに相当するものを養育者との肌の接触を通した情緒的交流であるとしています。身体の境界に子宮環境を想起させる心地よい刺激を感じることは、子ども自身に安心をもたらし、この安心感が自・他を同時に感じさせ、自我を育てるとともに、人に向う愛着を育てるといわれています。      

          
触覚系の異常への指導 
 抑制的効果

 口腔周辺への触圧刺激、腹部への触圧刺激、手掌、足底への持続的圧刺激、背中への軽擦(少し圧を加えながらこする)、35℃から37℃の温度

 促通(興奮)的効果

 口腔周辺への動きのある触刺激、皮膚知覚体節T10への動きのある触刺激、ブラッシング、氷

 

 

「皮膚知覚体節T10」とは左図、体の中央、お臍付近の高さの周りになります。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

 

 刺激する体の部位 
 触覚に対する過敏さが目立つ子どもに対しては、比較的弱い刺激を耐えやすい背中、手足の外側部などに加え、それが耐えられるようになったら刺激を強くし、その後、徐々に敏感な部分に移行していくのが良い方法です。こする方向は遠心性(毛に逆らわない)の方が刺激が弱いものになります。                
 遊びの中への触刺激の導入                 
 筋緊張の低下(低緊張)には促通的な刺激が、多動に対しては抑制的な刺激が必要になります。しかし、低緊張で多動を示す子どもも少なからずいます。このように刺激の与え方は機械的には決定できません。あくまで刺激を与えた結果をみながら、与えるべき刺激を調整する必要があります。
人は最も大きな刺激源であり、人に対する感情によって、刺激の感じ方もずいぶん違ってきます。子どもとの信頼関係ができあがっていない段階では、抱いたり、近づいたりすることが子どもの不安を高めかねません。他人への不安は触覚への過敏性の結果であると同時に、その原因ともなります。

 重症心身障害児など触刺激に低反応を示す子どもには、筋肉や関節からの刺激を同時に入れて、より識別的な触覚を発達させる必要があります。そのためには、手足を他動的に動かすだけではなく、体を起こし、首、体幹、手に支持性をつけていくことも大切な点です。

4.固有感覚系のしくみとその働き                   
固有感覚系の働き                  
 私たちが運動するとき、固有感覚と呼ばれる筋肉や腱、関節からの情報が、絶えず脳に流れ込んでいます。私たちが目をつむっていても、体位はどうなっているのか、自分の体がどのように動いているのかが分かるのは、この感覚の働きのおかげです。

 固有感覚系は、体の動きに関する情報を脳に送り、脳はその情報に基づいて体の動きを軌道修正します。私たちがなめらかに、そして意識的努力なしに、あるいは、動きのプロセスを考えたり一つひとつの動きを学習したりすることなしに、一連の運動を繰り返すことができるのは、固有感覚系の働きがあるからです。さらに、この感覚系の働きは、視空間認知や身体像(ボディイメージ)の発達にとっても必要不可欠です。

 固有感覚は、運動感覚(意識的な感覚)と呼ばれることもありますが、この二つを区別せずに用いることが多くなっています。この感覚系からの情報は、ふつう無意識的に処理されますが、新しい運動をするときや大きな努力を必要とする運動の場合は、意識に上ります。この感覚を刺激する活動は、一般的に体幹部の筋肉活動で、少なくとも体重の移動を伴うようなものです。

 固有感覚情報をうまく処理し、関節の安定と姿勢の安定をはかるためには、骨格筋の「同時収縮(屈筋群と伸筋群の同期的収縮)」の発達が重要です。同時収縮とは関節の周囲の屈筋群と伸筋群を同時に収縮させ、関節を一定の位置で固定する働きをさします。同時収縮は協調運動のような巧緻動作の発達にも深い関係をもっています。筋の同時収縮が発達するためには、その前段階として、屈曲と伸展の繰り返し運動である「相反性運動(屈曲と伸展の繰り返し)」が発達する必要があります。

 屈曲のパターンは人生の早期に発達するもので、腹側の筋肉の機能と考えられています。たとえば、仰向けにした状態から起き上がるときに使うパターンなどです。屈曲は姿勢の安定の発達の土台であり、運動スキルが発達するうえでも重要です。このパターンを育てるには、ボルスターやフレクサースイングなどにしっかりとしがみついて乗る活動がよく使われます。こうした屈曲活動には、たいてい触覚活動が先行しており、活動から得られる触覚や固有感覚の刺激は、適切な運動の協調的活動の基礎となります。

 屈曲と同様に伸展パターンも、人生早期に発達する背中側にある筋肉の機能です。子どもは、ジャンプのように興奮したときの動きに伸展パターンをよく使います。この伸展パターンは、姿勢の安定のもう一つの土台です。伸展パターンによる活動には、他の感覚刺激、特に前庭刺激が先行します。伸展パターンを引き出す活動として非常によく用いられるのは、スクターボードやハンモックに腹ばいで乗る活動です。


 同時収縮は、自発的な関節の伸展を伴う運動の際に最も強力に現われます。トランポリンの上での意図的なジャンプ、腹ばいでスクーターボードに乗って壁をけって進んだり、両手で床をこいで進んだりする遊び、スクーターボードに乗って手に持ったリングを引っ張ってもらう遊びなどは、いずれも同時収縮する活動です。



 同時収縮の発達には一定の順序があり、首や腰など体幹の関節からまず発達します。体幹の筋の同時収縮の発達は、四肢の関節の同時収縮の土台となりますので、指導もこの順序で行います。

 また、固有感覚系は触覚系と深い関係を持っています。固有感覚と触覚は組み合わさって、体の空間内での動きについてより正確な情報をもたらします。たとえば、空間理解のよくない子どもに対しては、触覚的な手がかりを与えると、よりうまく行動できます。新しい不慣れな運動課題の計画と遂行の能力(運動企画能力)がうまく発揮されない場合には、運動感覚に加えて触覚を経験させるといった、身体意識を増大させる働きかけが有効です。寝返り、ジャンプ、歩行、ボール遊び、スクーターボード遊びなどは、難易度の調節が簡単で、たいへん利用しやすい活動といえます。  

               
固有感覚系の神経学的理解                  
 固有感覚入力は姿勢調節と関連して、視覚、前庭覚とともに中枢神経系の小脳に伝達され、脳幹(延髄、橋、中脳)からさらに大脳の感覚野に伝えられます。小脳に伝達される固有感覚入力が意識に上がることなく処理されるのに対して、大脳皮質に伝えられる情報は意識化されて四肢や姿勢の認知にかかわり、意図的行動と深く関係しています。大脳に伝えられた固有感覚情報は、錐体路という運動神経路を通して四肢躯幹を自発的に動かしたり、動きを微妙に修正したりします。これは、子どもの具体的遊び活動そのものです。

 大脳からの指令による自発的・目的的な遊び活動が自動的に円滑に、また正確に行われるためには、一定の筋緊張が必要とされます。これには網様体-脊髄系と呼ばれる運動経路が重要な役割を果たしています。この経路が働くためには、大脳、小脳、脳幹が互いに関連し合って情報を統合することが必要です。この情報の統合がうまくいかないと、姿勢調節、バランス、ボディイメージ(主に身体の自発的動きによって作られる)の形成に問題が生じます。

 

固有感覚系の臨床観察

 筋緊張と目的的運動の遂行 

 固有感覚の処理が最も関係しているのは運動の遂行です。触覚と関連して現われる体性感覚の統合の障害は、体性感覚性障害として著しい不器用さをもたらします。この障害では、運動の背景となる適切な筋緊張の障害と、それに伴うボディイメージの形成の問題がみられます。運動企画能力(運動概念の形成と相互に作用する)の障害は、このボディイメージの障害に起因しています。感覚運動指導では、目的的運動の遂行を強調した遊び活動を通して指導を行いますが、筋緊張、ボディイメージ、運動企画の三つは、子どもの行動を理解するためのキーワードです。

固有感覚系の指導

 運動活動を通して経験される固有感覚は、触覚とも関連しながら、子どもの筋緊張を適正にするとともに、興奮を鎮め、触覚の敏感性を低減します。したがって、固有感覚刺激は、覚醒水準が高く多動性を示す子どもに対しても、反対に注意機能が低下して寡動な子どもに対しても、必須な感覚刺激といえます。

 発達障害児では、感覚の基本的な調節作用がうまく働いていないことが多く、感覚入力に非常に敏感であったり、逆に鈍感であったりします。その結果、覚醒水準の障害や注意の障害、あるいは多動や寡動などの動きの問題が目立ちます。

 ※上記は熊谷高幸先生説(自閉症スペクトラムには感覚過敏が関与している)に通じるものであり、「心理的問題以前の、外からの刺激という接点の問題を考えるべき」という事につながると思います。

 固有感覚(および触覚)の抑制的な使用法は、ゆっくりとしたリズミカルな動きと、全体に均一の深い圧刺激です。一方、促通的な使用法は、速い不規則な動きと、断続的な軽い触刺激です。原則として、前者は子どもの状態が多動で転導性(注意があっちにこっちに次々に移る様子)の強い場合、後者は寡動(動きが少ない)で覚醒水準の低い場合に用います。

 下記の表(固有感覚を取り入れた遊び活動の内容)は、発達障害児に適切と思われる固有感覚を主とした遊び活動についてまとめたものです。どんな遊び活動にも固有感覚経験が含まれていますが、四つの活動(動かす、押す、引っ張る、持ち上げる)パターンは、とりわけ同時収縮を必要とします。したがって、活動の対象は「重さ」のあるものを利用することが多くなります。また、抵抗を用いるのも、これと同じ考えです。また、この表の主たる目標は、固有感覚の処理の改善です。具体的には、伸筋緊張の改善や体幹の安定、姿勢の発達と、それに伴う身体像の形成や身体の動きの改善などです。さらに、視空間認知や動作・行動の改善、四肢の協調運動の改善も目標となります。これらの目標を達成する過程で、ことばによる指示の理解の高まりや、自分の動作を言語化する能力の発達もみられます。活動を行う中で、子どもの活動状態から固有感覚の処理過程を評価しますが、感覚の処理に無理な努力を必要とするほど、子どもから不平や疲労の訴えが出てきます。反対に感覚の統合がうまく行われていると、子どもは活動に興味を持ち、積極的に参加するようすがみられます。 

5.神経生理学を意識したマッサージ
 感覚統合理論を世に発表したエアーズ(Anna Jean Ayres)は、前庭覚、固有覚、触覚の三つが子どもの運動、情緒、認知、および言語発達の上で最も重要な初期の刺激であるとし、そのためには脳幹レベルの統合が必要であると考えました。
発達障害児へのマッサージにおいても、この3つの感覚と脳幹という下位中枢神経に働きかけることが施術の柱になります。

施術を行う前提として発達障害者への理解が第一ですが、基礎知識が欠けていては目的意識を持つことは難しく、漠然とした施術になりがちです。次の3つはまさに基礎知識です。
①前庭覚に対する反応
②触覚防衛反応
③筋緊張(高い筋緊張と低い筋緊張)

 

前庭覚に対する反応                 
 前庭刺激を怖がる子ども                
すべり台で手をブレーキにスピードを落としたり、不安定な姿勢ではすべれません。ブランコも地面に足をつけて止めてしまうなど、リズミカルなゆれ刺激を楽しめません。ただし、これらの背景には運動経験が少ないということも関係していると思われます。

 

  重力不安を示す子ども

前庭刺激を怖がる状態がさらに強くなると、情緒的な拒否反応が現われてきます。ラージボールやスクーターボードのように両足が地面から離れることを嫌がります。重力不安の子どもは、バランスが崩れそうになったり、普段とは違った姿勢をとらなくてはならない場面ではパニックになることもあります。

 

重力不安により、頭の位置を維持するために、首、肩、体幹の筋肉は緊張し、つねに硬くなった状態。(強い緊張とも関係している)

 強い前庭刺激を求める子ども                

より強い前庭刺激を求める児童もいます。この場合、トランポリンで遊ぶと平気で30分くらい跳んでいます。ハンモックに乗せて勢いよく回転させ、急に止めたあとでも目が回りません。普段の傾向は活動量が多く、じっとしていないタイプに多く、前庭刺激が十分入力されていないのではないかと思われます。前庭刺激が不足し抑制された状態で過ごしていると、自分の身体のイメージがまとまりにくくなると考えられています。

 

触覚防衛反応
「触覚防衛反応」とは特定の触覚を嫌い、避けようとする行動です。 触覚は発達の早期には母子関係を形成する主要な感覚だといわれています。 また、運動を行ううえでガイドとなる働きあります。                
 触覚防衛反応を示す子どもは、触角刺激に対して敏感なタイプの子どもだといえます。このような反応が幼稚園や保育所の年長組から学校に入っても強く見られる場合、生活面や学習面、運動面、対人関係の面にさまざまな問題を残すことが考えられます。一方、
触刺激に鈍感な場合、自分が触られた場所を指せないというケースもあります。触知覚が混乱していると、身体のイメージがばらばらになり、運動するうえで制約が出てきます。

筋緊張(高い筋緊張と低い筋緊張)

 目覚めているとき、骨格筋は適切な姿勢を保ち、いつでも運動ができるように、一定の緊張状態を保っています。これを筋緊張といいます。また、屈筋と伸筋を同時に緊張させて関節を固定する働きを同時収縮と呼びます。筋緊張の異常や同時収縮に問題があると次のような問題が生じます。

 

 静的な姿勢での全身の筋緊張

 筋緊張が高い子どもは関節の可動域が狭く、各関節をゆっくり牽引、屈曲、伸展したときに強い抵抗が感じられます。反対に緊張の低い子どもは関節の可動域が普通以上に大きく、抵抗が少なくて、ぐにゃぐにゃした感じがします。また、筋緊張に異常があると、体性感覚の処理がうまくできず、適応反応の獲得が妨げられやすくなります。

 

 動作時の筋緊張                
 筋緊張が高いと動作に柔軟性がなく、過緊張が見られます。一方、緊張が低いと頭がついてこなかったり、頭を無理に起こそうとして全身に過度の緊張が生じます。寝返り動作では、筋緊張の高い子どもは、全身を1本の丸太のように動かしたり、過度に体を反らせて反りを利用した回転をしようとしますが、緊張の低い子どもの場合は、体を過度に反らせたり、反対に屈曲させたりして寝返ろうと試みます。

 

 筋の同時収縮                
 両肘を軽く曲げた状態を子どもにとらせ、大人の母指を両手で握らせて、軽く押したり、引っ張たりしてみると同時収縮が上手にできる子どもは首や肘がしっかり固定されて、頭がぐらついたり、肘が動いたりしません。筋緊張が低い場合は首や肘の固定ができず、筋緊張が高い場合は動きに柔軟性がなく、関節の拘縮が見られることも少なくありません。筋の同時収縮がうまくできないと、適切な固有覚情報が得られず、誤った運動パターンを学習してしまったり、運動企画性の発達が妨げられます。

 

 緊張が高い場合の主な問題点

1.一人で座れなかったり移動できなかったりする。
2.手を使って探索したり、首を回して外界を認知できない場合、重い精神発達の遅れにつながりやすい。
3.筋肉の柔軟性の欠如は運動の固定化を生み、さらに、固定から逃れようとして代償的な運動パターンを引き起こし、それが反復活動によって習慣化されると異常な姿勢筋の緊張を作り出す。

 

 緊張が低い場合の主な問題点
1.椅子からずり落ちてしまったり、手で床を支えていないと上体を起こしていられない子もいる(体を支える補助に使われると手の機能の発達が遅れる原因になる)。
2.腹筋、背筋が弱いとまっすぐな立位の姿勢が難しい。(腹筋、背筋の筋トレは大切)
3.姿勢を維持するために常に力を入れているため、とても疲れやすくなる。長時間学習に集中することができない。
4.筋緊張が低い子どもは、表出反応が鈍くなり、覚醒レベルも低いことが多く、「意欲がない、やる気がない、不真面目だ」と誤解されることがよくある。
5.各関節の可動域が過度であったり、逆に拘縮の進行、骨のもろさ、筋肉全体の異常な柔らかさなどがみられる。

さらに、姿勢や目の動きの状態についても確認する必要があります。
姿勢と運動

 どのような姿勢が取れるか、どの運動ができるかだけでなく、どのように姿勢を取っているか、どのように体を動かしているかをよく観察することが大事です。

 寝返り

 両側になめらかに寝返ることができるか。まっすぐに回転できるか。体幹の過伸展、屈曲を利用して回転していないか。

 腹ばい

 頭を持ち上げて保持できるか 。手で上体を支えられるか。支えられる場合、手のひらで支えているか、それとも肘で支えているか。

 四つばい

 四つばいの姿勢が保持できるか。四つばいの姿勢で前後左右に体重移動ができるか。背中の過伸展や背中を丸めた円背はないか。なめらかな四つばい移動ができるか。

 座位

 骨盤を起こして座位がとれるか。手をつかずに座っていられるか。股関節の外転、外旋方向への柔軟性はあるか。椅子に座って両足をつき、股関節が中間位で保持できるか。               

 ひざ立ち                
 両膝で床を踏みしめることができるか。首から下肢にかけて抗重力反応があるか。股関節の屈曲、背中の過伸展などは見られないか。

 立位                
 両足で床を踏みしめることができるか。体のゆれぐあいぐあいはどうか。首から下肢にかけて抗重力反応があるか。               
 姿勢背景運動                
 体のゆれが見られないか。一方の手が動くと、使っていない反対側の手も同じように動く連合反応が見られないか。   

            
眼球運動                 
 姿勢や運動の機能に問題があったり、前庭系や固有覚系の情報処理がうまくできないと、眼球運動の問題が起こりやすくなります。

マッサージは、皮膚、筋膜などの結合組織、筋肉に対して、指や手などを使って、触る、さする(軽擦)、圧迫する、叩くという手技と、関節の可動域確保や筋力維持などを目的に、関節を動かす手技が基本です。関節に対する施術では、関節の力を抜いた状態で行う運動を「他動運動」、自分自身で動かすことを「自動運動」、施術者が動かす筋肉に抵抗を加えることを「抵抗運動」といいます。

ここでは「新・感覚統合の理論と実践」に出てくる「触圧の刺激」という言葉に焦点を当て、そこに記載された内容をご紹介し、その上で感覚統合法を補完するマッサージについて考えたいと思います。

 

感覚調整の障害
 『新・感覚統合法の理論と実践』の中では触覚防衛反応は、自閉的な子どもたちが持っている感覚調整の障害によって発生するものと考えられています。そして、感覚調整の障害について、神経生理学的および感覚統合法の立場から次のような説明がされています。

 自閉的な子どもたちは、対人関係や言語、認知の発達の遅れに加えて、こだわりやパニック、多動性、自己刺激行動など、さまざまな行動上の問題を示します。感覚統合理論では、このような特徴を示す自閉性障害の原因について、脳幹部や大脳辺縁系、小脳などを含む広汎な中枢神経系の機能不全によるものと考えています。特に、皮質下の脳幹や間脳における感覚の調整の障害は、外界からのいろいろな感覚情報の処理の偏りやひずみの原因となります。それはさらに、皮質を中心とした高次神経系での情報処理に影響を与え、その結果として、前述した様々な問題が現われてくると考えられています。

 感覚統合法の立場から自閉症を解釈すると、自閉症とは、感覚情報の登録や調整機能の障害のために、人や物を含む周囲の環境との相互交渉に問題を生じている子どもといえます。したがって、自閉症児に対する感覚統合法の指導では、まず、感覚刺激に対する反応の様相を評価し、個々の子どもの感覚調整の障害に対応していきます。なお、評価は感覚歴、臨床観察、そして心理検査の結果が求められます。

 過反応タイプの子ども(触覚防衛反応)                 
 触覚防衛反応を示す自閉症児は、ふつう私たちが心地よく感じる感触に過敏に反応し、その刺激を嫌って逃避したり、興奮したりします。身体部位では、首筋、顔面、口周辺、そして手のひらなどへの触覚刺激に対して過敏症を示しやすいようです。触覚防衛は、覚醒レベル、情緒的な不安定性、対人関係の問題、音やにおいに対する過敏性、多動性、固執性、注意転導性などにも関連しているため、自閉症児の発達を援助するうえで、早期からの改善の取り組みが必要です。   

 低反応タイプの子ども(前庭-固有系の感覚登録障害)                 

 私たちが知覚できる刺激をわずかしか感じることができないため、結果として多くの強い刺激を求めることになります。そのため、トランポリンやぶらんこ、グローブジャングルなどの遊びに夢中になります。一方、いったんそれらに入り込むと、今度は特定の感覚刺激や遊びに固執しがちになります。

 

 感覚歴

 感覚調整の障害は、触覚系と前庭-固有覚系に生じやすく、過反応(過剰反応)や低反応(過少反応)といった両極端な反応となって現われます。前者には、触覚防衛や重力不安などの状態があります。また、後者は、感覚刺激の登録が低下しているために、刺激に反応しにくい状態です。                
感覚調整機能に関する質問では、現在の様子だけでなく、過去(通常は幼児期)も確認します。これは現在改善されている場合でも、ストレスが生じる過剰な刺激状況に出会ったとき、一時的にせよ再び感覚調整の問題が現れて、不適応行動を生じる可能性があるからです。

 臨床観察                 
観察項目                
1.神経学的徴症状:原始反射の統合状態や筋緊張など                
2.粗大運動と微細運動:姿勢や歩行状態の特徴、運動企画力、手指機能など                
3.対人関係:アイコンタクト、やりとり行動、指示行動、模倣、象徴遊びなど                
4.言語:ことばの理解と発話(反響言語、トーン、構音、会話)のようす                
5.行動の偏り:固執性、パニック、自己刺激行動、注意転動性、多動(寡動)性など                
 以上の観察項目のうち、対人関係、言語、行動の偏りについては、特別な検査場面や指導場面における周囲の人や物とのかかわりの中で把握するようにします。

 

 心理検査

 自閉症児の場合、その場の状況や課題によって観察結果が変動しやため、1回で判定するのではなく、色々な場面で観察を繰り返し、総合的に評価するようにします。

 

  筋緊張の強い子ども(1)-重度の運動機能障害の場合                 
 触圧の刺激などによって緊張部位のリラクセーションをはかり、屈筋群と伸筋群の拮抗をバランスよく保ち、柔軟な筋肉の活動を促します。

 ねらい
 軽い触圧の刺激を持続的に入れることで、反り返りを抑制したり、動かしにくい筋群の活性化をはかります。

 活動の展開と留意点
 重度の子どもたちへの「抑制的な触覚刺激」は、中枢あるいは末梢神経障害に起因する皮膚の過敏症、長期にわたる異常な筋緊張から柔軟性の欠如を改善するために利用されます。また、「促通的な触覚刺激」は、原始反射は統合されているが平衡反応が十分に発達していないので、それを強化する場合や、触覚刺激への反応が弱い場合に利用します。

 抑制的な触覚刺激

 反り返りが強く自力で頚部を動かせない子どもに対しては、以下のような方法が考えられます。

 頚部を左または右に回旋し、後弓反射(脊柱の伸展、肩甲帯の後退、下肢内転筋の痙性、過度の伸展)の強い子どもに対しては、前斜角筋中央部に軽く指を当て、軽い触圧の刺激(ソフトタッチ)を入れます。そして、中斜角筋、後斜角筋、後頚筋、上僧帽筋、胸鎖乳突筋あたりへの軽い触圧の刺激(ソフトタッチ)をくり返すことで過敏性をとります。

自分で体を動かせない、触覚刺激への反応が弱い子どもへの部分的な技法には、促通的な触覚刺激として下右図のようなものがあります。                                      


筋緊張の強い子ども(2)-異常な運動パターンを示す場合                 
 子どもたちの異常な運動パターンは、異常な姿勢筋の緊張と姿勢反射の統合不全によって生じた姿勢変換の誤学習が蓄積したものといえます。最初は正常からわずかに偏位したものだったのが、そのわずかな偏りの上に学習を積み重ね、ますます偏りが強化されてしまったということです。こうした障害が形成されていく過程は、筋肉の柔軟性のなさからくる運動の固定化に始まります。さらに、固定から逃れようとして代償的な運動パターンを引き起こし、それが反復活動によって習慣化されます。触圧の刺激によって緊張部位のリラクセーションをはかったり、ボディイメージを育てたりして、柔軟な筋肉の活動を促します。

 ねらい

 軽い触圧の刺激を持続的に入れることで、緊張部位のリラクセーションをはかったり、ボディーイメージを育てたりして、柔軟な筋活動を促します。

 活動の展開と留意点

 ボディーイメージが育っていなかったり、異常な運動パターンを示す子どもたちにとって、持続的な触圧の刺激は、身体部位の無視を軽減させたり、触覚の閾値を正常化したりするのに有効です。また、ブラッシングによって筋紡錘を刺激し、筋活動全体の活性化をはかります。

 軽い圧の刺激

 身体各部への持続的な圧刺激は、異常な運動パターンを鎮静する効果があります。

 腹部中央へ手を当て、軽い圧を加えます。これは、全体の異常緊張を抑制し、全身のリラクセーションをもたらします。

 横隔膜に沿って両手を当て、呼吸パターンに合わせて軽い圧を加えます。これは、呼吸のリズムを整え、大胸筋から頚部のリラクセーションに役立ちます。

 あぐら位をとらせ、後から脊柱のゆがみを観察し、動きの悪い筋肉の上に手を当て、子どもの動きに合わせて軽い圧を加えます。これは脊柱起立筋や腰方形筋の活性化をうながし、縦方向への緊張の手助けとなります。

 手を中心としたマッサージをし、末梢を意識させます。

筋緊張の低い子ども-重度の運動機能障害の場合

 全身の筋緊張が低く、首が座っていなかったり、同じ姿勢を維持できなかったり、姿勢変換ができない子どもは、一定の緊張が維持できないため、各関節の可動域が過度であったり、逆に拘縮の進行、骨のもろさ、筋肉全体の異常な柔らかさなどがみられます。このような子どもたちは、自分で身体を動かしたり探索したりできないために、情報をうまく受けとめることができず、表出反応も鈍くなり、覚醒レベルも低いことが多いようです。こうした状態は、特に脳性まひの低緊張タイプや先天性筋ジストロフィー症、難治性てんかんなどによくみられます。

 促通活動を中心とした触圧の刺激などによって屈筋群の活性化をはかり、柔軟な筋肉の活動を促します。

 基本姿勢パターンと触圧刺激

 ねらい

 固有感覚系に適切な感覚を入力することで、基本姿勢パターンの改善をはかります。同時に触圧刺激を利用して、覚醒レベルを高めたり、弁別機能を高めたりします。

 活動の展開と留意点

 伸長、牽引、タッピング、抵抗などを固有感覚の入力として行ったり、温度刺激や触覚刺激を促通的に使うことで、姿勢パターンの改善をはかったり、ボディーイメージを高めたりして、覚醒レベルを上げるようにします。

 うつぶせ

 子どもを肘たて位にし、頚周囲筋群を同時収縮させ、肘を90度屈曲位に保ち、肩の真上から垂直圧を加えます。ゆっくりと10数え、肩から手が離れないようにゆっくり力を抜きます。

 椅坐位

 頭を正中位に置き、肩の真上から力を加え、関節圧縮を利用して躯幹筋群の縦方向への促通をうながします。

 座位

 あぐら座位をとらせ、脊柱のゆがみを観察しながら、両手を凸側の起立筋および広背筋に当て、まっすぐ下に負荷をかけ、ゆっくり手を離します。

 三角座りからそんきょの姿勢をとらせ、両足の踵から前方に体重移動させます。これらの持続的緊張が加えられると、足関節周囲の同時収縮が促通されます。             

 四つばい

 四つばい位をとらせ、肩から真下に負荷をかけます。股関節に対しても同様に負荷をかけます。前後左右、対角線方向に体重移動を行い、各関節に圧迫を加えます。

マッサージのポイント  
1.人は最も大きな刺激源であり、人に対する感情によって、刺激の感じ方もずいぶん違ってくると言われています。従って、子どもとの信頼関係を築くことが最初の課題です。  
2.触覚防衛反応などの感覚調整の障害については、「感覚調整機能評価表」を利用し、触覚系と前庭-固有覚系の過反応と低反応の実態を把握します。
3.筋緊張の強い子には、抑制的な触圧の刺激などにより、緊張部位のリラクセーションをはかり、屈筋群と伸筋群の拮抗をバランスよく保ち、筋肉の柔軟性を高めます。
4.筋緊張の低い子には、促通的な触圧の刺激などにより、屈筋群の活性化をはかります。また、関節への抵抗運動により筋緊張を高めるとともに拘縮を予防します。              
5.ボディイメージが弱い子には、関節の抵抗運動により、それぞれの筋肉の動かし方を繰り返し学習します。 
             
全体のまとめ
1.マッサージは感覚統合法を補完します。
2.マッサージは筋緊張、感覚調整、ボディイメージの状況を改善します。
3.マッサージを行うにあたり、子どもとの信頼関係を築くことが大前提になります。 

付記

左は、奈良県立教育研究所内の特別支援教育ガイドのページです。クリックすると「感覚運動指導の実際」というスライド154ページ(PDF 1.3M)の資料をダウンロードできます。

なお、この資料は中尾繁樹先生が作られたものです。

 

こちらは、コラムで「音楽療法」の有効性などを紹介されています。

その中で、次のようなコメントがありました。

 

『何よりも大切なのは、音楽を通して、セラピストと子どもがコミュニケーションを取ることです。これこそが、音楽療法のなかで一番大切な部分であると言っても過言ではありません。

音楽療法士のピアノに合わせて楽器を鳴らす、音楽療法士と順番に楽器を鳴らす、出来たら音楽療法士とハイタッチをする…子どもたちは、このように音楽を通してコミュニケーションを学び、社会性を獲得していくのです。』

子どもと施術者とのコミュニケーションは、マッサージにおいても、同様に重要なものであると思います。

日本サッカー、ロシアへ

唯一悔やまれることは、チケットが当たらず自宅でのテレビ観戦に甘んじたことです。嫌な予感の方はしっかり当たりました。
家でゆっくり観るのも悪くないと納得し、早々と夕食を済ませ、後片付けもサッサと済ませ、お風呂もクリアし、国歌斉唱の時には準備完了。なお、ビールは集中力を低下させるため却下しました。
理想のシナリオは、『前半35分に先制、前半は1対0のまま後半へ、そして後半15分に追加点。残り30分を1失点以内に抑えて勝利!』というものを期待していたのですが、うれしくも、ほぼその通りとなりました。ただし、スタメンには疑問があり、不安を感じてのキックオフでした。
期待していた戦い方は、アウェーのUAE戦で見せた徹底した攻撃的チームディフェンスと、イラク戦の反省点でもあった相手を圧倒するサイド攻撃でした。
浅野選手も乾選手も相手の脅威になる武器を持った危険なサイドアタッカーであり、オーストラリアにとっても想定外の名前に混乱する可能性もあります。コンディションも良いようなので素晴らしい選択なのですが、それでも、スタメンよりも試合の流れを変える交代メンバーの方が良いのではないかと思っていました。あるいは、この試合のスタメンは5日後のサウジアラビア戦も考慮したうえでのメンバー選考だったのかもしれないと思いました。
しかし、幸いにも不安は現実のものとはならず、最高の結果を手に入れることができました。そして、新しい選手、若い選手の台頭により、チームの可能性が広がったことは来年のロシアに向けて大きな収穫にもなりました。
今回、試合全体を振りかえって2つの事に気付きました。一つは、海外での実績は選手にメンタルの強さと誇りをもたらせており、共通した成功要因に日本人の勤勉さと創意工夫の力があるように感じたことです。そして、もう一つは、ホームのアドバンテージについてです。これが意味していることは、応援してもらえるという受動的なものではなく、サポーターに勝利をプレゼントして共に喜びを分かちたいという、使命感に近い強い意志力をチームとして結集、発揮させる力をもっているということでした。
それにしても嬉しい日になりました。来年のロシアが楽しみです! 
ちなみに日程は2018年6月14日~7月15日のようです。 

 

こちらのスタジアムは開幕戦と決勝戦が行われる、モスクワにあるルジニキ・スタジアムです。

 

画像出展:「MKRU」

自己炎症性疾患

自己炎症性疾患は1999年に発見提唱され、わが国でも近年研究が始まった新しい概念の疾患です。
特徴的な臨床所見の中には、「幼少時に不明熱などの前兆がある」とされています。そのためか、2009年11月に開催された第41回日本小児感染症学会シンポジウムで取り上げらていました。タイトルは「自己炎症性疾患の診断と治療」であり、産業医科大学の楠原浩一先生の執筆によるものです。
以下はその文献の中にあった表です。


また、最後の「むすび」として、次のようなご指摘がありました。
『自己炎症性疾患は、わが国ではまだ広く認識されるには至っていないが、common diseases のなかに紛れている可能性がある疾患群である。特に周期性発熱症候群は、日常臨床のなかでよく経験する原因不明の発熱と炎症反応上昇のエピソードを繰り返す患者において、感染症、自己免疫疾患と鑑別すべき重要な疾患の一つであると考えられる。』
自己炎症性疾患が新しいもので、感染症や自己免疫疾患との鑑別が難しいということから、小児障害を考える場合、その存在を知っておくことは重要であると思います。

なお、今回のブログは以下の2つのサイトの内容に基づいています。

「自己炎症疾患友の会」家族性地中海熱・TRAPS・PFAPAを中心とした患者と家族の会

サイト運営組織 : 京都大学大学院医学研究科発達小児科学

自己炎症性疾患の概要と問題点
自己炎症性疾患は自然免疫の異常によって、自己免疫や感染症の直接的な関与なしに全身性の炎症が起こる疾患です。「自分で勝手に炎症のスイッチが入ってしまう疾患」なので「自己炎症性疾患」と呼ばれています。
炎症発作のきっかけは運動・日光・外傷・疲労・月経・ストレスなどがあるとされています。「勝手に炎症を起こし、自然寛解する」という病態が周囲の人には理解されにくく、急な炎症発作のために社会的信用を失う原因にもなります。なお、寛解とは病状が落ち着いており、臨床的に問題がない程度にまで治ったことを意味します。
また新しい概念の疾患である為に医療の現場では自己炎症性疾患を経験している医療関係者もまだまだ少なく、以下のような問題点を抱えています。
「診断までに長い時間がかかり治療が遅れた」
「自己免疫疾患として診断され治療を受けていた」
「詐病・心気症と診断されていた」
「診断確定後の治療・経過が上手くいかない」
「ガイドライン通りの経過ではないのでこれ以上診れないと言われた」
等、

診断が確定した後も治療や診察の場において苦労しているという話は後を絶ちません。
各疾患のガイドラインでは炎症継続の平均的な日数や症状が報告されていますが個人差が大きく、全てガイドライン通りの典型的な症状を示すわけではありません。炎症発作期間、症状の経過は個人差が大きいため長期による経過観察と各自のパターンの把握が重要となります。

 

自己炎症性疾患の特徴的な臨床所見
1. 血液の炎症反応が高値になり39度以上の発熱を繰り返す
2. 発熱期間や症状が毎回似ている
3. 薬を飲まなくても解熱したり症状が改善する
4. 発熱発作のない時には症状がなく健常者と変わりない
5. 自己免疫疾患が否定される(ただし合併することはある)
6. 抗生物質が効かない
7. 家族や血縁者に同病者がいる
8. 幼少時に不明熱などの前兆がある
9. 外傷、疲労、運動、月経、飲酒、日光、ストレスなどがきっかけになる

 

自己炎症性疾患の診断
各疾患は発熱期間、周期、発熱に随伴する症状、家族歴、薬への反応、検査結果、遺伝子検査によって総合的に診断されます。各疾患により原因遺伝子が異なる為、臨床診断では確定できない場合遺伝子検査が確定診断に用いられます。しかし各疾患特有の症状があるのに遺伝子変異が検出されないという症例もある事から現在では臨床診断を元に総合的に診断されます。

 

広義の自己炎症性疾患
自己炎症性疾患と類似の病態が考えられる病気には、以下のようなものがあります。全身型若年性特発性関節炎、成人スティル病、ベーチェット病は現時点では自己免疫疾患に分類されていますが、自己抗体や自己反応性T細胞が認められないため、自己炎症疾患に近い病気である可能性が考えられています。
・全身型若年性特発性関節炎(sJIA)
・成人スティル病
・ベーチェット病
・クローン病
・遺伝性血管性浮腫
・ゴーシェ病
・痛風
・偽痛風

 

遺伝子診断の有効性と注意点
生まれつきある遺伝子に病気の原因となるような構造がある場合、臨床的遺伝子診断が有効となります。また臨床診断がはっきりついていない場合は、遺伝子検査が診断確定への補助となります。
遺伝子解析の結果は患者・家族・血縁者に大きな影響を与えうる為、事前の説明に当たっては患者本人が検査の特殊性を十分に理解し、同意・承諾した上で行われることが重要となってきます。

 

京都大学大学院医学研究科発達小児科学さまの取りくみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『平成24年度から、「自己炎症疾患およびその類縁疾患に対する診療基盤の確立」がスタートしました(25年度終了)。その成果の1つとして、自己炎症性疾患の診療フローチャートが作成されました。同診療フローチャートは、小児リウマチ学会に承認され、たくさんの専門家の意見を反映した日常診療における指針と考えております。』

運動器エコー

「月刊スポーツメディスン8月号 No.193」の特集は「運動器超音波がもたらす新しい診療」でした。また、副題は「エコーガイド下の治療、エコーでスタッフ連携」となっています。
そして寄稿は次の4つです。
1.第2世代の幕開け!進化続ける運動器エコー:ソニックジャパン株式会社 代表取締役 松崎正史氏 
2.日本から世界へ!進化続ける運動器エコー:帝京大学スポーツ医科学センター 同大学医学部整形外科講座、医療技術スポーツ医療学科 笹原潤先生
3.超音波診“断”から超音波診“療”の時代へ:横浜私立大学運動器病態学教室、同大学付属病院整形外科 宮武和馬先生
4.スポーツ医学の本場Stanford大学での挑戦:PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation) Orthopaedic Surgery, Stanford University 福島八枝子先生

 

「月刊スポーツメディスン8月号 No.193」

出版:ブックハウス・エイチディ

運動器エコーについて、「月刊スポーツメディスン」では、既に2008年から次のようなタイトルで特集が組まれていました。10年近く前から始まっていたということを知り、たいへん驚きました。
・2008年…「スポーツに役立てる超音波診断装置」
・2011年131号…「超音波 診断から診療へ-整形外科領域で進むエコー革命」
・2012年141号…「運動器超音波解剖-コメディカルが動画で診る時代」

今回のブログは、8月号 No193、4つの寄稿より「運動器エコーとはどんなものか」を知ることを目的にまとめてみました。

 

1.整形外科で使われる主な画像診断装置
 ・主にネットで調べた情報を元に、レントゲン(X線)、CT、MRI、超音波の特徴を表にし

  ました。右端の「超音波」は手軽にしかも静的、動的と機能性高く軟部組織をみることが

  できる優れた装置であることがわかります。

2.整形外科の問題点
・『私が今、整形外科とスポーツ整形について思っている問題点は、たとえば首が痛いとか、膝の裏が痛いとか、そういう訴えについて、とくにレントゲンなど画像上も問題がなければ、病態もわからないまま“筋肉の痛み”と決めつけ、「痛み止め、湿布、リハビリで」という治療が一般的になっているということです。(宮武和馬先生)』
・『今後は、おそらく内服、外用、リハビリオーダーは、人工知能(AI)でできるようになる可能性が高いです。当面、我々整形外科医が取り組むべき課題は、やはり手術あるいは注射ということになると思います。では手術だけでいいのかというと、整形外科と名乗る以上は、関節外にも注目すべきだと思っています。海外では整形外科のみでなく、PM&R(Physical Medicine and Rehabilitation)という分野ができています。そこでは、エコーガイド下で、注射をしたり、手術を行ったりしています。つまり、関節外に対してアプローチする専門家がいます。日本には、「リハビリテーション科」があり、多くのリハビリ科医は主に脳卒中などのリハビリを行い、運動器のリハビリは、まだそこまで注目されていないところがあります。その意味で、わが国でもPM&Rの概念をもう少し整形外科やリハビリ科が取り入れてもよいのではないかと思っています。(宮武和馬先生)

 

3.Fascia (ファシア)とは
・Fasciaの定義については、「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ」の監訳者であり、首都大学東京の竹井仁先生の序文を引用させて頂きます。


Fascia(膜・筋膜)は、身体全体にわたる張力ネットワークを形成し、すべての器官、あらゆる筋・神経・内臓などを覆って連結しています。筋膜に関する研究はここ30~40年ほどで大きく発展しました。それまでは、皮膚、浅筋膜、深筋膜などをいかにきれいに取り去り、筋外膜に覆われた筋を露出させるかに力が注がれてきました。また、どの筋が骨を介してどのような作用をするかに関しての研究が主流でした。
しかし、生体においては、筋群の最大限の力が骨格への腱を経て直接的に伝達することは少なく、筋群の作用は、むしろ筋膜シート上へと、収縮力あるいは張力の大部分を伝えることがわかってきました。また、これらのシートは、共同筋ならびに拮抗筋にこれらの力を伝達し、それぞれの関節だけでなく、離れたいくつかの関節にも影響をおよぼすことも明らかになってきたのです。さらに、筋膜の剛性と弾性が、人体の多くの動的運動において重要な役割を果たすことも示されてきました。これらの事実は、新しい画像診断や研究手法の開発によって飛躍的に明らかになってきました。
2007年10月にHarvard Medical Schoolで開催された第1回国際筋膜研究学術大会(The 1st International Fascia Research Congress)において、「Fascia」は、「固有の膜ともよばれている高密度平面組織シート(中隔、関節包、腱膜、臓器包、支帯)だけでなく、靭帯と腱の形でのこのネットワークの局所高密度化したものを含む。そのうえ、それは浅筋膜または筋内の最奥の筋内膜のようなより柔らかい膠原線維性結合組織を含む」と定義されました。

 

「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ」

出版:医歯薬出版

 

下の図は上の写真をイラストにしたもので、

外側から[皮膚]ー[浅筋膜]-[深筋膜]になります。

 

「アトラスとテキスト 人体の解剖 」

出版:南江堂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「感覚神経は筋肉を包むfasciaに多く存在している」という論文が2011年に出ています。要は筋肉内ではなく、それを包むfasciaに感覚神経がたくさんあるから効くのだという理論です。』

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

4.「エコーガイド下の治療」について
・はじめに
 ・「エコーガイド下の治療」ということに焦点を当て、寄稿の中から特に重要と感じ
たもの

  を取り上げました。

 ・「エコーガイド下の治療」に焦点を当てた1番の理由は、見ることができなかった筋肉や

  Fasciaを静的だけでなく動的にも見ることができ、確認しながら治療ができる。この進歩

  は革命的であると考えたためです。

・使いこなすには 
 ・エコーはゼリーを塗って、プローブを患部に当てれば見えます。操作はとても簡単ですが

  、課題は何が見えているのか分かること。これはエコーの問題ではなく解剖の知識の問題

  です。つまり、勉強により解剖の知識を高めることが必須になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この写真は、腰部多裂筋をターゲットとして、エコーガイド下の注射を行っているところです。(写真の下方が頭です。エコーで筋肉や筋膜などの状態を確認しながら、背骨の際に注射しています)

画像出展:解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床―筋膜リリースからFasciaリリースへ 」

出版:文光堂

・ハイドロリリース
 ・「ハイドロリリース」はエコーガイド下での注射によるfasciaリリースを提唱している

  川洋至先生が産み出した用語です。この概念は海外でもハイドロダイセクション

  (hydrodissection)という用語で通じますが、海外での利用はほとんどが絞扼性神経障

  害に使われています。

  一方、日本では生理食塩水を使い、どこのfasciaでも、例えば寝違え肩こりだったら肩甲

  挙筋と僧帽筋の間だったり、肩が挙上できない、外旋できないだったら、烏口上腕靭帯に

  というふうに行われています。
 ・理想は体液に更に近い組成のリンゲル液です。ビカネイトという点滴に使われる液体だと

  全く痛くない注射ができます。(生食の場合、少し痛い)
 ・現在、広く流布している「筋膜リリース」と区別するために超音波で見えている現象を言

  葉にして定義されました。(2017年3月頃)
 ・『現在、自分が思っている理論は、筋肉と筋肉の間のfasciaに対して、たとえば動きが悪

  くなっているところに対して、生食を打ってあげる。癒着という大それたものではなく、

  イメージになってしまいますが、私はadhesion(接着)と呼んでいます。

  (宮武和馬先生)』

 

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

 ・利点
  ・薬液はキシロカインやメピバカインなどの麻酔薬やステロイドである必要はなく、副作

   用のない生理食塩水(生食)が使える。

  ・今まで見えなかった軟部組織が把握できる。深層筋の状態もわかる。 
  ・動かしながら見ることができる。
  ・診察室のベッドサイド使える。ポケットエコーを使えば外出先でも使える。

  ・診断的治療ができる。(数mm単位で注射できるので効果の有無で病態の弁別が可能)
   ・精度の高い診断によりPT(理学療法士)との連携が良くなる。
   ・エコーガイド下での注射は、痛い組織をエコーで見て、そこで針を持っていくこと

    ができる。(従来型を「ブラインド注射」という)

 

日本では薬事法により医療機器は安全が担保されていなければならず専用機が必要です。

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

・活用例
・トレーナーも使っていて、医師不在のときはトレーナーからエコー画像をメールで送ってもらっている。
『たとえば、これはアキレス腱断裂に対し保存治療を行っていた選手です。受傷1週で外固定をスプリントから装具に変更し、エコーで見ながら可動域訓練を開始するといった積極的な保存治療を行っています。この選手については、受傷1週の時点は自分がエコーで診たのですが、翌日からアメリカへ出張しなければならず、それから2週間は自分が直接診察できないといった状況でした。普通でしたら、その間どうしようとなるのですが、当センターではその間もトレーナーがエコー画像を動画で送ってくれるのです。静止画ではわからない断裂部の接着状況を、アメリカにいながら送ってもらった動画で確認することができました。(笹原潤先生) 』

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

・アメリカの運動器エコー事情は進んでいる。
『先日、アメリカの運動器エコー事情を視察するため、松崎さん(ソニックジャパン株式会社 代表取締役)とピッツバーグに行ってきました。ピッツバーグの大西賢太郎先生(PM&R科)のもとを訪れ、クリニックでの外来診療の様子やレジデントへの教育などを見学してきました。膝前十字靭帯損傷や半月板損傷の診断をエコーで行っていたり、エコーガイド下手術の専用機器があったりと、日本との違いに驚くこともありましたが、その一方で、日本の技術力の高さ(プローブの性能など)にも改めて気づかされました。(笹原潤先生)』 


・診断と治療~動的診断への挑戦~
『では、どう診断、治療するかというと非常に難しい。やはりまだ診断する力が足りていないと感じるのが現状ですが、やはりここだろうと思っているところと、圧痛や身体所見を使って診ていきます。私の今の見方は、簡単な身体所見をとって、ある程度どこの筋肉が悪いかを診ていきます。「ここが痛い」と本人が言うのはあまり当てにならないので、そこを目安に圧痛を診ていきます。圧痛が非常に大事で、痛いところが全然違うところに隠れていることもあり、それをある程度予想して圧痛部位を探っていき、それに対してエコーを当てて、そこに何があるか組織を確認します。筋肉だけと思いきや、そこの下に神経があったりということが多くあります。つまり、身体所見と圧痛、それを静的にエコーで確認して、何の組織があるかを見ていく。さらに最近は動的診断、動かして診ていく。これがやはりエコーの一番の武器なので、動かして診断しエコーガイド下でハイドロリリースを行う。身体所見、圧痛、エコーを組み合わせないとこういう注射は実現できません。(宮武和馬先生)』


5.アメリカのエコーガイド下治療 (福島八枝子先生)
・『日本とアメリカの最も大きな違いは、整形外科surgical科とPM&R科(整形外科のnon‐surgical科;運動器保存療法)(PM&R:Physical Medicine and Rehabilitation)が明確に分かれていることです。整形外科surgical科とPM&R科間の診療連携は非常に密ですが、医師自体はまったく異なった臨床研修プログラムを経ており、PM&R治療概念は日本国内の一般的な整形外科保存療法の延長ではありません。まったく異なった診療科として存在しているという背景です。PM&R科が提供する治療の1つに超音波ガイド下注射と超音波ガイド下最小侵襲手術があるのみです。注射では、日本国内ではあまり馴染みがありませんが、こちらでは圧倒的に再生注射です。PRP(Plate rich plasma)やstem cell注射が主流です。ぼろぼろになって摩耗した関節軟骨や靭帯を再生させたいと医療者も患者も大いに期待を寄せています。また、慢性・難治性腱障害などには超音波ガイド下最小侵襲手術による治癒促進や不良瘢痕組織の除去が必要となります。手術デバイスの開発が進んでいます。』

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン8月号」

自閉症と感覚過敏

「自閉症と感覚過敏」の著者である熊谷高幸先生は、著書の「はじめに」の中で、障害の発生源には「感覚過敏」があるとのことを指摘されています。
マッサージは、主に直接的な触感覚・固有感覚と間接的な聴覚・視覚、そして1対1のコミュニケーションの中で、これらの感覚が刺激されます。「感覚過敏」が熊谷先生のお考えの通り、障害の発生源であるとすれば、4つの感覚を接点とするマッサージは活躍の場を広げる可能性があると思います。そして、「感覚過敏」に対するマッサージで心がけるべきは何なのか。この難題を考えるために「自閉症と感覚過敏」を拝読させて頂きました。

 

出版:新曜社

『はじめに』の中で説明されている自閉症に関する実状
・自閉症が報告(1943年)されてから70年以上たつが、障害の定義や、原因や、該当する人々の範囲についての考えは次々に変わってきている。

・自閉症と見なされる人の数が年々増えている。40年ほど前には2,000人に1人ほどといわれていたのが、今では100人に1人とまでいわれるようになった。

・自閉症は、それに当てはまる人々の数についても、それが含む症状の範囲についても、さらには関連する障害についても、大きな広がりを見せるようになっている。

・自閉症は、その原因と結果を1対1に対応できない障害である。脳の特性によって生じるところまではわかっているが、より深い所では原因をひとつに絞ることができない。だから、症状の集まりとして診断されている障害である。つまり、社会性が乏しい、こだわりがある、ことばが遅れる場合がある、パニックになりやすい、記憶力がよい場合が多い、感覚過敏が現われやすい、などの症状の集まりとして理解されている。だが、これらの症状のあいだにどのような関係があるのか、また、それらはどのような経路をたどって現われるか、についてはほとんど答えが出されていない。
感覚過敏とは、最近になって自閉症に一般に認められるものとなった症状である。感覚が非常に敏感になっている状態で、刺激を恐れる場合と求める場合がある。たとえば、嫌な音を恐れて耳をふさいだり、音のする部屋に入らなかったりする。また、水路を見つめ小石を落とす行為をいつまでも続けたり、ビデオの同じ箇所を何度も見続けたりする。感覚過敏は視覚や聴覚など、あらゆる感覚に現れ、また、敏感性としてだけでなく鈍感性としても現れる、非常に多様な側面をもつ症状である。

 

自閉症スペクトラム
『自閉症スペクトラム障害は、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の「DSM-5」(「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版)において、これまでアスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症など様々な診断カテゴリーで記述されていたものを、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」の診断名のもとに統合されました。「DSM-5」以前の診断カテゴリーである自閉症やアスペルガー症候群などは、それぞれの症状に違いがあるとされ、それに伴って診断基準も異なるため、独立した障害として考えられてきました。』

上記は「発達障害ポータルサイト」のコラムからの引用です。詳しくはこちらをご覧ください。

スペクトラムとは、分光器によって分けられた様々な波長の色の連続体を示すことばで、共通性の中に、多様性を示す自閉症という障害を表すために用いられました。「自閉症スペクトラム」という捉え方では、自閉症の人と通常の人の境目も以前のように明確なものではなくなっています。一方、自閉症の人々の感覚や行動の特性は通常とはかなり異なるように見えますが、通常の人々に全く現れないものではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

自閉症スペクトラムは、自閉症(言葉の遅れがある自閉症)、アスペルガー症候群(言葉の遅れのない自閉症)、高機能自閉症(発達初期には言葉の遅れがあったが、その後、急速に知能が発達した自閉症)を包含したものとして位置づけています。また、ADHD(注意欠陥・多動性障害)とLD(学習障害)は自閉症スペクトラムとは異なる障害ですが、それぞれが重なり合うことが認められており、熊谷先生は、その重なりには感覚過敏が含まれていると考えられていますなお、ADHDは5%の子どもに、LDは3%の子どもに現れるといわれています。 

感覚過敏が自閉症の発生源とされる理由
・感覚過敏があると、刺激に対する反応が大きくなり、好きな物は非常に好んで求め、嫌いな物は恐れて避けるようになります。そのため、外界の捉え方が通常とは異なり、行動の仕方も通常と異なってくると考えらえます。このため、人々と共に生活することや学ぶことが難しくなってきます。ことばを学び、人々とコミュニケーションができないと、社会に参加することができなくなります。このように、感覚過敏は発達全体に影響を及ぼす可能性をもっています。
・自閉症の人が自らのことを語ったのは、テンプル・グランディンが発表した「我、自閉症に生まれて」(原著“Emergence:Labeled Autistic”1986)と、ドナ・ウィリアムズが発表した「自閉症だったわたしへ(原著“Nobody Nowhere”1992)でした。日本人でも2007年に東田直樹さんが14歳のときに「自閉症の僕が跳びはねる理由」を世に出しました。その後もニキ・リンコさんなど自閉症の当事者たちによる自伝が次々に出版され、いまでは自閉症に関する出版物の半数ほどを占めるまでになっています。そして注目すべきことは、これらの著書のほとんどすべての中で感覚過敏の経験が語られているという点です。


例えば、下記は東田直樹さんが11歳のときに書いた「誰もいなくなった」という詩の冒頭です。
みんながいる所は 嫌い
音が大きい所は 嫌い
物が多い所は 嫌い
どこに行ってもうるさくて
僕はいつでもがまん出来ない

 

また、ニキ・リンコさんと藤家寛子さんの対談本「自閉っ子、こういう風にできてます!」では、
+雨が痛い。
+扇風機の風が痛い。
+カメラのフラッシュのあと何も見えなくなる。
+コタツに入ると脚が消える。(視覚と身体感覚が両立しにくく、一方が優勢になると他方はほとんど無視されてしまうことを意味しています)


などの経験が語られています。そして、この対談の司会者であり、この本の発行人でもある浅見淳子さんは同書の中で次のように述べています。
『ひと口に自閉所スペクトラムの方と言っても、性格は皆さんそれぞれです。定型発達の人と同じようにバラエティに富んでいます。でも一人残らず、身体機能の不具合を抱えていました。自閉症というと心の内側、つまりその心理がまず問題にされやすい。しかし、その前に外部との接点のところにもっと注意を向けなければならないことがわかってきたといえるだろう。』

 

自閉所者は外部からの刺激をいちどに大量に取り入れてしまうという特性をもっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自閉症者の場合、ある刺激が入り込むと、感覚の枠いっぱいに広がり、そのまま停留します。すると後続の刺激は、感覚の枠に入り込めない状態で通過し、見落とされてしまいます。この見落としのために時間や空間の関係を捉えることが難しく、コマ送りのような映像は動画にはならず、全体像を理解しずらいという事態に直面します。つまり、外部からの刺激の取り込みという行動初期から、自閉症者はコミュニケーションを阻害する困難さに立ち向かわなければなりません。

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

自閉症者の心と体のかみ合いにくさの特性
・自閉症者は時間、空間など外部の世界を統合するのが難しいだけでなく、自分自身の身体各部も統合しにくいという問題が起こります。例えば、書くこと(指)に集中すると、体が傾いているのに気づかず、椅子から落ちてしまう等です。
・身体各部が統合しにくい理由として、触覚や筋肉感覚(体性感覚)は目や鼻(特殊感覚)と違って、特別の受容器をもたず、集中管理もしていません。また、受容器は全身に分布し脳の中の別々の皮膚領域で受容されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視覚は「目」、聴覚は「耳」という特殊な受容器がそれぞれ2つずつ顔に存在しており、必ずそこからの情報であると限定してくれますが、体性感覚の受容器は全身に分布しており、分かりずらさの原因になります。

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

運動を起こす時は、身体各部の筋肉に対応した脳部位の指令の下で動きが生じます。人の脳は、それらの動きを前頭前野で統一する働きをもっていますが、感覚過敏があると前頭前野での接続がむずかしくなると考えられます。つまり、身体や運動の感覚は視覚や聴覚よりも一般化しにくい特性をもっており、一方、自閉症者のように感覚過敏があり、身体の特定部位からの感覚に強い影響を受けやすい状態であると、さらに全体的な統一感は保ちにくく、自分のものとして感じにくくなります。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

自閉症者が苦手とする代表的なものが縄跳びです。縄跳びは全身を一体化させ、一定のリズムで跳躍しなければならないうえに、更に縄の回転の動きに合わせなければならないためです。

自閉症者が跳びはねる理由は、一つは飛んでいるときは足を感じ、手を叩けば手を感じる。つまり、バラバラになっている感覚の一体感を取り戻すためにやっていると考えられています。もう一つの理由は、意識が外部のわずらわしい刺激から解放されて自分自身に向き、自分を取り戻すことができるからです。(ドナ・ウィリアムスは自宅にブランコがあり、ブランコの規則正しいリズムに自分を溶け込ませて気持ちを和らげるために使ってとのことです)。

アンケート結果にみる感覚過敏の実態
自閉症者は自分の状態を細かく語れない人の方が多いため、熊谷先生は、より多くの自閉症者を対象に感覚過敏との関連性を調べるため、自閉症児の親へのアンケートを実施されました。
アンケートは特別支援学校に通う30名の自閉症児、男児25名、女児5名で、年齢は10歳から18歳までです。言語をもたない自閉症児は4名でした。ただし、「会話が可能」の中には一語文レベルにとどまる者が7名いました。
なお、以下の表は30名の言語状況を示す一覧表です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「自閉症と感覚過敏」

下記の表は掲載されていた表を1枚のシートにまとめたものです。

「人に触れられるのを嫌がる」という質問に、「よくある」と回答したのは5名です。これは全体の約16.6%になります。

まとめ

「マッサージは、主に直接的な触感覚・固有感覚と間接的な聴覚・視覚、そして1対1のコミュニケーションの中で、これらの感覚が刺激されます。」と紹介させて頂きましたが、実際に発達障害児へのマッサージを行おうとすると、落ち着いて横になっていない児童も少なくというのが現実です。このため、マッサージの効果を実感することは困難な道のように感じていますが、児童への理解を柱に、実践に知識をプラスし、その理解・知識・実践を1サイクルとして、それを回しながら前進していくことがあるべき姿に近づける方法だろうと思っています。

付記:ADHD(注意欠陥・多動性障害)と感覚過敏についての記事

タイトル:「ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療法・療育法は?治療薬は効果的なの?」 

この記事の中に、次のような説明がありました。

『ADHDの原因は、現在の医学ではまだはっきりと分かっていません。一番有力なのは、脳の前頭前野部分の機能異常だと言われています。前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり、論理的に考えたりする働きをします。ADHDの人はこの部分の働きに何らかの偏りや異常があり、思考よりも五感からの刺激を敏感に感じ取ってしまいます。そのため論理的に考えたり集中するのが苦手となるのです。 』

これは、熊谷先生の説を後押しするような記事だと思います。

超音波を使って筋肉の硬さを測る

今回のブログは、「月刊トレーニングジャーナル 2017 8 No.454」の特集「ケガや不調を防ぐヒントとアドバイス」から「骨格筋の硬さ情報をケガの予防に活かすための基礎研究 -超音波を使って硬さがわかる」を取り上げました。この寄稿の筆者は、稲見崇孝先生(慶応義塾大学体育研究所)です。他の2つのテーマは「不測の事態を予防する取り組み」と「トレーニング分野との協業で傷害予防を」となっています。

 

月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

発行:ブックハウス・エイチディ

サブタイトルの「超音波を使って硬さがわかる」とあるように、主役は筋肉と超音波診断装置のお話です。整形外科で最も利用されているX線検査では筋肉は写りません。

一方、MRIは大掛かりな装置であり、ダイナミックな筋肉を対象とする画像診断装置としては、重厚長大な感じは否めません。
その点、超音波診断装置は機能性に優れ、リアルタイムで筋肉を診断できる素晴らしい画像診断装置です。また、表面筋電図では難しい深さの情報にも対応できる点も魅力です。
話はそれますが、私はMPS研究会(MPSとは筋膜性疼痛症候群)という会の会員になっています。この会は木村裕明先生(木村ペインクリニック)が会長をされており、整形外科や麻酔科、ペインクリニックの先生を中心に筋膜性疼痛症候群(MPS)に対し、超音波診断装置の活用に積極的に取り組まれています。

 

こちらは2017年3月に出版されたものですが、木村裕明先生は編集主幹をされています。

Fasciaとは筋膜、靭帯、支帯、関節包、傍神経鞘などの線維性結合組織を包括する概念です。

(吉岡紀夫先生の「筋膜療法 Fa・ther」を熟読するという宿題があり、まだ読めていません)

 

発行:文光堂 

寄稿のなかでは、組織の硬さをリアルタイムで画像化する超音波エラストグラフィ(Ultra Sound Elastography:超音波組織弾性映像法)という新しい装置が登場しています。

 

ネット検索で見つけたエラストグラフィに関する2つのサイトをご紹介します。
1.JRA日本中央競馬会 競走馬総合研究所 (下左図)

・なんと!ヒトではなく馬の画像です。従来(白黒)の画像とエラストグラフィ(カラー)の画像の比較が分かりやすかったため載せました。 
2.がんなび (下右図) 
・複数のメーカーが製品化していると思いますが、この記事では日立メディコが筑波大学との共同研究で実用化し、2003年末から販売されているとのことでした。なお、このエラストグラフィの装置は、日立製の超音波装置に追加できるユニットになっているそうです。


 

こちらは過去に大腿直筋を損傷した選手が筋収縮しているときの画像です。左大腿部は筋の形が変形しており、見ためは左右差が顕著ですが筋力には差がないとのことです。

 

画像出展:月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

稲見先生は、この状態に対し疑問を提示されています。

『たとえば膝関節の伸展筋力は大腿直筋、外側広筋など4つの筋で構成された大腿四頭筋の力です。大腿直筋の肉ばなれを起こした選手がいたとして、大腿四頭筋全体の筋力の回復をもって現場に復帰したり、左右差なしと言うだけで本当によいのかどうか。個々の筋の状態をそもそもダイナミックに評価できないのかという思いがありました。パラリンピックに出場する選手の中には普段鍛えにくい筋が非常に肥大している場合があることを考えると、ある部位の損傷によって損傷していない他の協同筋が適応もしくは代償した可能性もあるわけです。それで最終的に左右で同じ値になったとしても、中身は違うのではないか。外からみた動きが本当に正しいのか、と思います。
必要となるのは、個々の筋を細かく評価するツールですが、超音波エラストグラフィはそれを可能にする診断装置です。たとえば、予防トレーニングでは左右差も1つの評価項目ですが、関節角度が左右同じであっても(同じように筋収縮していても)、貢献する筋の硬さ情報が違うといったことが観察できます。予防トレーニングを実践する選手にとっても、見やすく色づけされた動画であることは納得しやすいと思います。』

 

画像出展:月刊トレーニング・ジャーナル 2017年8月号(通巻454号)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは腓腹筋の硬さを縦軸、収縮強度を横軸に取ったグラフです。このグラフについて、稲見先生は次のように解説されています。
『最大筋力を100%としたとき、少しずつ収縮強度を上げていくとどうなるか。健常側では直線的に上がっていくグラフとなっており、これは先行研究の通りです。一方、肉ばなれ後の脚は低強度から一気に硬くなってしまいます。15%強度の硬さが、健常例の45%強度に相当しています。筋の硬さは筋活動と正相関の関係にあるため、これだけ硬いということは、同じ出力で筋力に左右差はないのに過活動しているということになります。また、活動量が多いことも硬さを上げる要因であるため、中枢からの指令も違っているはずです。中枢についてはまだ詳細に測れていないのですが、部位を局所的に見ると瘢痕化していて実際に筋が正常な収縮をできる状況にありません。よって少なくともこのような事例では局所的に起こっている潜在的な問題があると考えています。
つまり本来はいくつかの協同筋と一緒に活動しないといけないのに、ある特定の筋だけが頑張っているということが起こり得るので、これをトレーニングやリハビリテーションとして改善・予防していくために必要な取り組みがあるのではないかと思います。』

先にご紹介した大腿直筋を損傷した選手の話に戻りますが、何故、詳細な評価を受けたのか、その理由が説明されていました。

リハビリして現場に戻ったのち、左右差がないのはわかっているが、過去にケガをしたほうの太ももの付け根(大腿直筋近位)にのみ疲れがたまるという「なぜ」がありました。陸上短距離の国際大会に出場する選手なのですが、その部位だけ疲れてしまって動けなくなる、脚があがらなくなる、反対の脚では起こらないということでした。MRIでは瘢痕が確認できました。エラストグラフィで硬さを測定すると、受傷側は安静時でも健常側より硬く、さらに筋電図で大腿部の上部から下部まで細かくみてみると活動の序列が崩れていて、訴えのあった疲れる箇所の過活動が確認されました。
これから、再度損傷しないように予防していくために、柔軟性トレーニングと並行して股関節屈曲トレーニングより膝関節の伸展トレーニングを増やすなどのトレーニング時期を設けました。なお、この選手の受傷機転は運動会での競争中、走り始め3歩目くらいでぶちっと筋がきれる音がしたとのことだったのですが、片づけが終わるまでアイシングなどの処置ができなかったことにも問題がありました。テーピングをして2週間後の大会に出場していることから、一般的によく起こりうるレベルの肉ばなれかと思いますが、軽視・放置してはならない事例だと言えます。』


まとめ

腓腹筋の肉ばなれ後の硬さの問題や、陸上短距離選手の事例を拝見すると、気になる筋肉ごとの硬さをダイナミックに測定できることは、選手に起きている症状の分析を容易にし、リハビリや予防トレーニングのメニューを正しい情報に基づき最適化できるということなので、超音波エラストグラフィは筋肉の最新状況を分かりやすく見せてくれる頼もしい診断装置であると思います。

浦和西高、高校総体初戦突破!

会場はひとめぼれスタジアム宮城でした。
日韓ワールドカップ決勝トーナメント初戦のトルコ戦は、2002年6月18日観衆45,666人を集めてこのスタジアム(当時は「宮城スタジアム」)で行なわれました。雨が印象的だったこの試合は、内容もどんよりとした覇気の感じられないスッキリしない試合でした。

 

画像出展:「毎日新聞」

大事な初戦は2017年7月29日(土)、雨でした。

 

オーバー50のベテランOBの10名は、仙台駅でレンターカー2台に便乗してスタジアムに無事到着。

 

来た来た!」という感じです。

雨となった浦和西高と東北学院高校との一戦は、それぞれ30年ぶりと17年ぶり、そして両校とも第2代表という実力伯仲のお互いにとってやりやすい対戦相手だったと思います。
立ち上がりから東北学院高校が優勢に試合を進め、特に前半の比較的早い時間帯に、ゴール前で西高GKと1対1になってのシュートがバーを越えていったことが、勝敗を分けた1番のプレーだったと思います。
攻められながらも、あたふたした様子は特に見られず、西高らしい守りのリズムはできていたように思います。また、時折見せるパスワークによる攻撃も、普段の西高らしいプレーが出せていたと思います。その意味では、前半を0対0で折り返せば十分に勝機を望める展開でした。そして、実際に0対0で後半を迎えることになりました。
西高の先制点は、プロでもはじき出すことはできないだろうという、ゴール左隅に流し込んだ鮮やかなヘディングシュートでした。2点目は焦りと疲れがみえはじめた時間帯であり、この得点で勝利を確信しましたが、気迫のこもった東北学院のヘディングシュートが数分後に決まり、一気に試合の行方は怪しくなってしまいました。しかしながら、守り切る意識の高さを最後までみせた西高が、何とか東北学院の猛攻を凌ぎきり、待望の全国大会1勝を手にすることができました。
明日は、全国大会常連の強豪、京都橘戦。自分を信じ、仲間を信じ、炎のような闘志と氷のような冷静さをもって試合に臨んでほしいと思います。One for all, All for one!


「残念ながら帰らねば。」 仙台駅の七夕は美しく、壮観でした。

発達障害児へのマッサージを考える#5

前回は中尾繁樹先生のDVDに関する内容でしたが、中尾先生の本も1冊は読んでおきたいと考え、『みんなの「自立活動」特別支援学校編』を拝読させて頂きました。

 

出版:明治図書

そして、以下の3つの章の中から自分にとって特に重要と思うポイントを洗い出してみました。
第3章 「コミュニケーション」と「人間関係の形成」 

第4章 「環境の把握」と「身体の動き」 

第5章 「身体の動き」と「人間関係の形成」「コミュニケーション」と「環境の認知」 

 

第3章 「コミュニケーション」と「人間関係の形成」

 様々な補助的手段の活用とコミュニケーション指導
1.自立の第一歩は自己決定すること
 ・欧米は障害のある子どもが自立していくための第一歩は、自己決定することであるとい

  う考え方で、何を選ぶ・どれに決めるといった自己決定する力を向上させることが重要

  です。
 ・自己決定する力に加え、決定したことを相手に伝える力が必要であり、コミュニケーシ

  ョンにとっても大切なことです。

 

2.障害があっても〇〇デキルという視点
 ・自己決定するためには、自分で決めたいという意欲が必要です。子どもの意欲を育てて

  いくには、外界(人や物、状況など)に対して自ら能動的にかかわり、その活動の中で

  成就感や満足感を味わうことが重要だと考えられています。
 ・「障害があっても〇〇デキルという視点」は「何でも良いからできることを探してみよう

  「部分的にでもデキルことからやっていこう」という考え方です。


3.コミュニケーションを阻害する学習性無力感
 ・いつも感謝・依頼する立場が、感謝・依頼される立場に逆転したとき、その子の心の中に

  は喜び以上の心の躍動が芽生えます。


4.学習性無力感を獲得させないために
 ・人は、ほめられる・認められる・感謝される・依頼されると、誰しも「次もがんばるぞ」

  といった意欲が湧いてくるものです。どんなに重要な障害があっても、能動的にオモチャ

  にかかわって遊んだり、毎日責任をもって役割を担えたりすることは素晴らしいことです

  し、彼らの意欲を育てる上でたいへん重要なことです。


5.コミュニケーションの力を育てる
 ・Beukelman&Mirenda(David Beukelman and Pat Mirenda)は、どんなに障害が重度

  な子どもでも三つのサインを発信しており、それぞれのサインに対して支援者が適切に

  応答することが重要であると紹介しています。

  三つのサインのうちの一つ目は、注意探索と呼ばれるサインで、赤ん坊が泣いてお母さ

  んの注意を引く行動のように、他者に何かを訴えたいときに使われるものです。

  二つ目は、受容のサインで、オモチャが動くことや大人からの働きかけといった外界の変

  化に対して、「満足だ、嬉しい」等の表現として、笑う・声を出すといった行動で示され

  ます。

  三つ目は、拒否のサインであり、生理的に不快な状況や大人からの不適切な働きかけなど

  に対して、「イヤだ、不快だ」等の表現として、顔をしかめる・泣く・体をよじらせる等

  の行動で示されます。発信したサインに対して必ず応答があることを子どもに気づかせ、

  理解させるための練習が必要となります。
 ・Beukelman&Mirenda(David Beukelman and Pat Mirenda)は、日常生活の様々な場面

  の中に、次のようなルールでコミュニケーションしていくという指導方法を紹介していま

  す。
  ①何らかの活動をする際に、必ず子どもの同意を求めるための働きかけまたは問いかけを

  する。その際、言語的な働きかけだけでなく、子どもが受容できる感覚器すべて(触覚的

  、視覚的あるいは聴覚的など)に働きかけるようにする。
  ②働きかけまたは問いかけに対する子どもの発信サインを待つ・観察する。
  ③子どもが発信したサインに応じて適切な応答行動をフィードバックする。
 ・能動的な活動を通して子どもの意欲を育てていくことと並行して、自分の意志を外に向け

  て発信する力を育てていくことはコミュニケーションの第一歩であり、大変重要なことで

  す。
 ・子どもが受容のサインを発信しやすいのは、楽しかったり喜びが大きかったりする活動、

  すなわち遊びの場面だと思います。そこで、子どもの知的発達の段階に応じた様々な遊び

  を準備しておいて子どもたちと遊ぶようにすると良いと思います。
 ・選択による自己決定力を育てる
  ・返事を待ちましょう(最低でも10秒程度)。
  ・子どもを信頼し、子どもの自己決定を尊重しましょう。
  ・選択できる情報をすべて提示し(子どもによっては多く提示できない場合もあり)、

   その後で選択を求めていきましょう。
  ・何に対してもYesの反応をする子どももいます。一見、自己決定できているように見

   えますが、必ずしもそうではないこともあります。Yesの答えが得られる質問だけでな

   く、Noの答えを求めるような尋ね方も必要となります。
 ・音声を使ったコミュニケーション
  ・知的障害のある子どもの中にはことばを使う意味が理解できていない子どもに対し、私

   たちはことばや文字を身に付けさせようと一生懸命になりがちです。そのこと自体はと

   ても大切なことなのですが、ことばは教え込まれて身に付けるものではありません。赤

   ん坊はいつの間にかことばを覚えて、いつの間にか使うようになっていませんか?その

   際、親は四六時中「さあ、このことばを覚えなさい。覚えるまで遊ばせませんよ」と言

   っていないはずです。したがって、ことばを使う意味が理解できていない場合には、ま

   ず、音声を使う楽しさや便利さを経験させる必要があります。例えば、命令語を録音し

   ておいてやりとり遊びをしたり、じゃんけんことばを録音しておいてじゃんけん遊びを

   したり、との応用はいくつでも考えられると思います。


6.自立と社会参加を進めるために    
事例

ミネソタ州で出会ったKさん(41歳)は、脳性まひによる運動障害があり、頭を動かすこと以外は随意的に動かせる部位はありませんでした。そのために、食事や排泄、更衣、入力といった日常の生活に必要な行為すべてに全面的な介護を必要としており、州政府から24時間体制で派遣されるヘルパーにその介護を委ねています。また、発語はなく、質問されたことに対して、[頭をたてに振る=うなずき]-[頭を横に振る=いやいや]の動作によってYES/NOを相手に伝えるというコミュニケーションの状況です。

ところが、Kさんは安定した収入を得ることのできる仕事に就き、コンサートに出かけて音楽を楽しむことを趣味とし、自分で購入した家で一人暮らしをしているのです。彼女の仕事は、パソコンとインターネット技術を利用した電話オペレーターで、自宅にいながらその仕事をこなしていました。

写真は、姿勢を保持する機能をもった電動車椅子に乗ったKさんが自宅で友人と談笑している様子です。Kさんの頭に注目してください。彼女は支援機器を操作するために、ヘッドスティックとよばれる棒付きの帽子をかぶっています。話すことのできない彼女は、電動車椅子のテーブルに取り付けられたコミュニケーションエイドのキーをヘッドスティックで押しながら、友人と会話をします。このコミュニケーションエイドは、あらかじめ録音してあることばを出力する機能をもっているだけでなく、テレビやエアコンなどのリモコン機能と併せて、パソコン用のキーボードとしての機能の付加されている機器なのです。このコミュニケーションエイドとパソコンを利用して、彼女は電話オペレーターの仕事に携わっているのです。
彼女は生まれて間もない頃に重度・重複障害と診断され、10年以上もの長い期間にわたって入院を余儀なくされたそうです。その上、「無能力者(本人段)」と評価され教育からも見放されていたそうです。

そんな彼女のもとに、一人の大学生がボランティアとして本の読み聞かせをしにくるようになりました。何か月もベッドの横で読み聞かせをしているうちに、その大学生はKさんの表情の違いやほんの少し頭を動かす能力があることに気づきました。そこで、大学生は頭で押せるスイッチとブザーを作り、KさんにYES/NOで返事をしてもらう練習をはじめたそうです。すると、それまで「何もわからないし、何もできない」と評価されていたKさんが、実は簡単なことばを理解しており、頭を動かすことで返事ができるということがわかったのです。その後、彼女は病院を退院して家庭教師に勉強を教えてもらいながら様々な知識を身に付けていったそうです。

今では、電動車椅子やコミュニケーションエイドといった支援技術を駆使して収入を得ながら自立した生活を送っています。ボランティア学生が「Kさんはデキルんじゃないだろうか」と信じて、彼女の生活環境を工夫しなければ今の彼女はなかったと言っても過言はないでしょう。
Kさんの自立生活は支援技術の効果とともに、周囲の人々が「この人はデキルんだ」と評価したからこそ現実のものになったと思います。重複障害のある人への支援を考えるとき、「障害があっても〇〇デキル」という視点が今後ますます重要になってくるのではないかと思います。
 

 

画像出展:みんなの「自立活動」特別支援学校編

 

 

AAC(Augmentative and Alternative Communication;拡大代替コミュニケーション)

・話すこと・聞くこと・読むこと・書くことなどのコミュニケーションに障害のある人が、残存能力

(言語・非言語問わず)とテクノロジーの活用によって、自分の意思を相手に伝える技法のことです。

 AACの技法の種類には、大きく分けてノンテク、ローテク、ハイテクの3つがあります。
・機能訓練だけでなく、コミュニケーション能力の向上も考慮してします。
・コミュニケーションには、コミュニケーションしようとする者同士の間に、共通して理解し合える

 手掛かりやルールの存在が必要です。

 

 

2017年は9月27日(水)~9月29日(金)、会場は東京ビッグサイト東展示ホールで開催されます。 


上記の2つのサイトは、発達障害児向けの商品やアプリを扱っています。

 

これは、お母さんが息子さんのために、文房具や学用品を使いやすいように改造したお話です。すばらしいです。

第4章 「環境の把握」と「身体の動き」 

 知的障害のための感覚運動遊びを中心とした自立活動の実際
1.知的障害のある子どもたちの感覚運動の特徴
 ・子どもたちは自分なりに一生懸命取り組むのですが、なかなか思うようにできません。記

  憶したり、理解したり、理解したり、問題解決をする、考える、自分の意見を述べるとい

  ったことが苦手であるために意欲が高まらない原因となっていることがよくあります。こ

  れらの原因と同じように感覚運動面の問題が課題を行ううえで大きな影響を与えているこ

  とがあります。感覚運動学習とは、身体に入ってくるたくさんの感覚を適切に処理したり

  、姿勢・運動をコントロールすることです。感覚運動は遊びや学習に必要なレディネスで

  あると言えます。ここでは、知的障害がある子どもたちが苦手な動きをまとめてみました。
  ・力を入れる運動、リズミカルな運動、巧緻運動、道具を使った動作、空間での運動
  ・低緊張では腕や脚で自分の体を支える筋力の動きづくりにポイントをおいた運動も大切。


第5章 「身体の動き」と「人間関係の形成」「コミュニケーション」と「環境の認知」 

 発達障害の子どもの運動や人間関係を高める自立活動の実際
1.発達障害について
 ・自閉症の乳幼児は、触覚・聴覚・視覚などの過敏傾向が強く、抱っこをしようとしても、

  体をのけぞらせて嫌がったりすることがよくあります。そのため、抱っこから育っていく

  愛着行動の形成に大きな遅れが起こってきます。
 ・反復的な自己刺激行動(手をひらひらさせる・クルクル回る・ピョンピョン跳ぶ等)は自

  閉症特有の「情報の中の雑音を除去できない」という特性も影響しています。そして、自

  閉症の幼児はやむを得ず「自分で一定した刺激を作り出して感覚の遮断を行い、情報の洪

  水に対するバリアをはる」という戦略をとります。
 ・「情報の洪水」の中にいた自閉症の幼児も、徐々にですが認知の焦点を合わせることがで

  きるようになります。しかし、それは一般の子どものような「自然、広く開かれた柔軟な

  認知」ではなく、彼ら特有の「意識的な焦点の絞込み」だと思われます。その結果、強い

  「過剰選択性・興味の限局(認識しやすい特定のマークや蛇口、窓などにこだわる)」を

  抱えやすくなります。

 

画像出展:みんなの「自立活動」特別支援学校編

(上下の絵も同様)

2.広汎性発達障害への対応例
 ・同時に複数の情報を出さない。つまり、刺激を整理し、落ち着いて認知対象に集中できる

  環境を設定する。(構造化)
 ・ゆっくりと短いことばで話しかける。
 ・結論を先、理由を後にするとわかりやすい。
 ・具体的なことばで伝える。抽象的なことばは、ジェスチャーやカードなどの視覚的情報

  併用して伝える。
 ・スケジュールカードなどによって、活動の流れや終わりを視覚的に伝え、予測可能な生活

  環境を整える。
 ・予定の変更については慎重に行う。変更する際には、子どもが認識できるように、必ず予

  告を行う。


3.注意欠陥多動性障害(ADHD)への対応例
 ・常にひと呼吸おいて、焦らないで対応する(互いの感情のコントロールが大切)
 ・気が散りやすいので、学習のときは刺激を少なくして、集中しやすい環境を整える。
 ・「部屋を片付けて!」ではなく、「オモチャは箱にしまおう!」「脱いだ服はハンガーに

  かけてね!」など、より具体的な伝え方を工夫する。
 ・スモールステップで、少しずつ課題に取り組めるように工夫する。
 ・スケジュールやこれからやることを、見通しがもてるように工夫して伝える。
 ・「〇〇なときは、〇〇しようね!」など、事前に想定される混乱を避ける配慮をする。
 ・ことばだけで伝わりにくいときは、視覚に訴える支援を行う。


4.コミュニケーション・人間関係の形成について
 ・コミュニケーションとは「伝え手と受け手の間で、ある観念や思考が共有されている」

  という意味合いがあり、全体として見ると「伝達のコミュニケーション」の背後には常に

  「共有のコミュニケーション」が存在しています。そして、「共有のコミュニケーション

  」は「感情の発達・分化」「他者理解力」「ともにありたいという欲求」などの力に支え

  られています。


 ・「他者理解」には子ども実態に合わせて表情をデフォルメしてあげる方法があります

  (例えば、怒った表情を顕わにしたり、少し大袈裟に喜んだり)。また、目の見えない

  人や車椅子の人を介助する体験が役に立ちます。


 ・豊かで多様な感情を育むには「いろいろな人との密度の濃い交流」や「水や木、川や山や

  海、木や草や虫や動物、暑さや寒さ、息苦しさやにおい、眩しさや暗闇、土や風、といっ

  た自然との五感や身体に手ごたえのある触れ合いやかかわり」が重要で、様々な「からだ

  体験(においや手ごたえ、肌触りなどの身体全体で感じる体験)」に挑戦することが大切

  です。

宮市選手の怪我について(足関節捻挫)

先月(ドイツ時間6月28日)、宮市選手が所属しているドイツ・ブンデスリーガ2部のザンクト・パウリは、宮市選手が紅白戦で右膝前十字靭帯断裂の大怪我を負ったことを発表しました。
圧倒的なスピードを武器に、高校卒業後ヨーロッパサッカーに挑戦。大きな魅力と可能性をもった宮市選手の負傷は大変残念なニュースでした。
私も「慢性怪我病」に悩まされたサッカー人として、どういうことになっているのか、今までの経緯などを知りたくなり、ネット検索で宮市選手の怪我の履歴を調べてみました。

 

2011年11月 左足首捻挫
2012年4月 右肩負傷
2012年11月 右足首靭帯損傷
2013年3月 右足首靭帯損傷
2014年3月 左ハムストリング損傷
2015年7月 アキレス腱痛
2015年7月 左膝前十字靭帯断裂
2016年9月 右脚肉離れ
2017年6月 右膝前十字靭帯断裂

 

大雑把に言うと、「足首捻挫→肉離れ→膝の靭帯」という経緯ですが、私の場合も同じようなパターンでした。もっとも、ボールを蹴るスポーツであるサッカーにおいて、擦り傷や打撲を除くと足首の捻挫が多いのは十分に予想されるものです。一つ気になるのは、多くのサッカー選手は足首捻挫を楽観的に捉えてはいないだろうかという懸念です。

高校生の私は、「捻挫なんてたいした怪我ではない」とまじめに考えず、酷いときは全く伸縮性のない幅広のガムテープを持ち出し、足首をガチガチに固定して試合に出たこともありました。自分の体を大切にしない愚かな行為で体は悲鳴をあげていたと思います。

このように足首の捻挫は無理すればプレーできてしまうところに大きな問題点があります。
宮市選手などの一流アスリートの中にも、厳しい競争に直面している状況などから、受傷後の適切なケアが十分ではない選手も多いのではないかと想像します。
そこで、「適切のケア」とはどういうものなのか、今更ですが、謙虚な気持ちで「足関節捻挫」を理解し、どのような対応を取るのが良いのか調べてみました。
今回、勉強の材料とさせて頂いたのは「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」という本です。ブログは主に第2章(足関節捻挫)の「足関節内反捻挫の病態と予後」から、そして、サッカーに関する内容を中心に取り上げています。

 

監修:福林徹、蒲田和芳

出版社:ナップ 

この本は文献を調査分析した内容となっています。文献検索はPubMedを用い、「epidemiology(疫学)」「ankle(足首)」「sprain(捻挫)」などの用語と各種スポーツ名を組み合わせて検索した結果、1,831件が抽出され、29文献が第2章で選択、参考とされました。

その、第2章の概要説明は次のような書き出しになっています。
『足関節捻挫はスポーツ外傷のなかでも発生頻度が高い疾患である。しかしながら治療が十分でなかったり、機能低下を残したままスポーツ活動に復帰する例が多く、再受傷の頻度が高い。この理由としては、ある程度の期間休んでいると疼痛が軽減することや代償的な動きにより日常生活やスポーツ活動ができてしまうことなどから、機能改善のためのリハビリテーションが十分に行われないことがあげられる。そして機能低下が残存した状態で競技復帰した選手は後遺症に悩まされる可能性が高い。』

これは、40年前とほぼいっしょ。やはり、選手側の実状は変わっていませんでした。


上の2枚の絵は、捻挫の受傷例を紹介しています。

いずれも、「足関節捻挫予防プログラム」からの出展です。

 

 

左は「外反」と「内反」を紹介した写真です。

足首の捻挫としては圧倒的に内反の捻挫が多くなっています。

画像出展:「人体の正常構造と機能」

出版会社:日本医事新報社

 

足関節捻挫の疫学
1.サッカーに見られる特徴
・文献では、足関節外傷の発生率は11~31%であり、そのうち足関節捻挫は60~70%です。他のスポーツと比べると外反捻挫(三角靭帯、前脛骨腓靭帯)の発生率の高さが特徴です(17.7%=14.3+3.4)。これはインサイドキックをやシュートブロックの際にボールが足尖付近に当たることでの受傷やボールを蹴る際、軸足に対して外側からのタックルなどでの受傷が多いためと考えられます。

 

画像出展:「足関節捻挫予防プログラム」

出版会社:ナップ

 

 

 

 

 

 

前距腓靭帯は、下の左図(外側面)、三角靭帯は、右図(内側面)に出ています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 画像出展:「人体の正常構造と機能」

・文献の中に内側縦アーチの高さと捻挫の発生率の関係を報告したものがありました。
自分自身の話になりますが、私は偏平足です。ということは代表的な「ローアーチ」に分類されます。下段のグラフは「イスラエルにおける女性国境警察学校の訓練期間における足関節捻挫」の調査でサッカーとは無関係ですが、この調査データを見ると、初回捻挫でも「正常」の倍以上の発生率となっており、「再発捻挫」は数倍の発生率になっています。つまり、ローアーチでは慢性捻挫への移行リスクが非常に高いということがわかります。
つまり、偏平足の選手は正常の足の選手に比べ、例えば、予防のためのテーピングや、練習後のケアなどに時間をかけ、人一倍、足関節捻挫、特に再発捻挫に注意しなければならないということが分かります。


上左図は、内側縦アーチ(土踏まず側で衝撃吸収)・外側縦アーチ(バランス保持)と横アーチの図です。出展は「人体の正常構造と機能」からです。 

 

 

左図は「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」からの出展です。ローアーチの受傷が圧倒的に多くなっています。

・下のグラフはサッカーの試合時間と足関節捻挫の発生率のグラフです。勝敗を左右する前後半の終盤の攻防、特に後半は負けているチームは、疲れたディフェンス陣を切り裂くような俊敏なフォワードを投入してきます。こうなると、疲労のピークの中で体を張ったぎりぎりのプレーが求められますので、捻挫に限りませんが怪我の確率は高まります。
対策は鍛えることです。120分走りきる走力や止まれる体をつくることです。そして、怪我への意識を高め、必要十分なケアを日々心がけることだと思います。

 

画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

2.損傷部位
・急性足関節内反捻挫の調査では、損傷部位が多岐に渡っていることが明らかになっています。
 ・足関節・足部の骨折
 ・骨軟骨損傷
 ・靭帯損傷
 ・腱損傷
 ・神経損傷

 画像出展:「足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎」

・MRIによる急性内反捻挫の損傷部位の調査では、次のように報告がありました。
 ・外側の軟部組織
  ・96%…前距腓靭帯
  ・80%…踵腓靭帯
  ・27%…短腓骨筋
  ・13%…長腓骨筋
 ・内側の軟部組織
  ・53%後脛骨筋 
  ・13%…長母指屈筋
  ・ 7%…長指屈筋
  ・ 6%…三角靭帯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」