発達障害児へのマッサージを考える#2

発達障害児のマッサージを始めていますが、早速、通常のマッサージとの違いに直面しました。それは以下の3つです。個人個人により抱えている課題も異なり、程度も様々ですが、少なくともこの3点に対しては対応が必須と考えました。なお、内容については「障害者のための絵でわかる動作法 はじめの一歩」に順じています。

 

著者:長田 実、 渡辺 涼、 宮崎 昭

イラスト:田丸 秋穂

出版会社:福村出版

絵を見ながら実践できる解説書です。プログに載せている表、イラストもすべて本書のものです。

課題1マッサージを受けることに対して不安がある。
課題2発語(会話)、聴覚の問題を含め、痛み、こり、違和感を意思表示できないことが多い。
課題3仰向け、うつ伏せ、横向きの姿勢を数十秒もじっとしていられない児童もいる。

 

それぞれの課題に対して考えた対策をご説明します。

 

対策1
本の中に「訓練の進め方」が書かれています。本の対象は「動作法による訓練」なので、マッサージの施術とは同じではありませんが、たいへん参考になります。下記がマッサージ用に考えた手順とポイントになります。
準備状態を整える
 ・施術は自然な位置関係と無理のない姿勢が大切です。施術者自身の姿勢と気持ちを
安定

  させることも必要です。
 ・施術を始める前に、部位や方向、強さをわかりやすく伝えることが大切です。特に関節を

  動かす場合は、施術者自身が動かせて見せることも有効です。また、動かしていく時も戻

  す時も「ゆっくりそっと」が原則です
施術の開始を明確にする
 ・施術を始める時には「さぁ、やるよ」と声をかけます。なお、児童が落ち着かない場合は、

  あわてず、受け入れてくれるまで待って、気持ちを合わせて始めます
児童の抵抗や緊張を感じる
 ・施術者に伝わってくる児童の微妙な抵抗感に「気づく」ことが大切で、緊張があると
いう

  ことを察知します。この場合、急がないこと、施術者自身が緊張しないことが基本す。

  施術中は、日常よりもアイコンタクトしやすいので、なるべく心がけるようにしますが、

  じっと見るのではなく、短く軽いアイコンタクトを心がけます
動作の終わりを明確にする
 ・施術によりますが、関節の他動運動などでは回数を伝えることが必要です。また、気持ち

  良い感覚をもって施術を終えることができるように意識します

 

対策2a
児童自からが意思表示することが困難であるとすれば、まず必要なことは、児童の心身の特徴や
題をよく知ることだと思います。本には「フェイスシート」と呼ぶフォームが掲載されています。また、特に「からだ」の状態は「状態像をみる姿勢」として、イラストが示されています。
これらは現場で大いに役に立つと考え、パソコンでデータ入力をできるようにするため、ファイルを作成しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青字は本に書かれていた各項目の記述ポイントです。フォームの情報は高度な個人情報になりますので、パスワード管理をはじめ、必要な対策を取ります。

対策2b
児童の状態を把握するため4つの姿勢をとってもらい、不自然な箇所、緊張の強いところ、緊張の弱いところなどを確認します。ここで確認できた箇所は施術の重点ポイントと考え検討します。

すみません。薄くてほとんど読めませんが、下段の図に同じ内容を書き出しています。

対策3 
座ればじっとしていられる場合は座位にて施術を行いますが、マットの上、椅子、年少者であれば施術者の足の上に腰掛けさせるなど、安定した姿勢を取ります。

児童は床にあぐらで座ります。術者はその背後から頚、肩、頭にマッサージを行います。

児童の大腿部を固定し、躯幹を捻ります。これは体幹と股間をリラックスさせます。

足首の軟らかさは立位の安定に関係する重要な個所です。この図では椅子を使っています。

この図も足首を緩めています。年少者であれば施術者の足の上に座らせる方法もあります。

手や手指へのマッサージは脳を活性化します。向い合って行う際、短いアイコンタクトを心がけます。

施術は、「緊張から解放されリラックスできること、リラックスした心と体の状態を感じてもらうこと、そして共有すること」を一つの目標にしていきます。

浦和西高30年ぶりのインターハイ出場決定

1987年はハンディタイプの携帯電話やアサヒスーパードライが発売された年だった。そして、インターハイの開催地は北海道、冷夏がきつかったという。

 

今では考えられない、ハンディタイプとされた携帯電話。

画像出展:@DIME

現在の埼玉県の高校サッカーは関東大会を制した昌平、正月の全国高校選手権でベスト8に進んだ正智深谷、Jリーガを輩出している西武台、そして古豪となった武南、この4強と西高との差は小さくない。10回試合して3勝するのは難しいだろう。
しかし、公式戦のトーナメントは別物である。それは、敗北の瞬間に目標を失うというプレッシャーを背負って戦っているためである。すなわち、相手に先制点を許す展開は、それが後半であるなら、
なおさら、時間の経過とともに焦りが出始め、その混乱が自らの攻撃のリズムを崩してしまう。ここにトーナメントの怖さ、落とし穴が存在する。
24日の試合展開は西高にとってベストであった。西高が格上のチームに勝つ流れで試合は進んでいった。前半はスタートから西武台が攻め込む時間がながく、決定的とまではいかないが、シュートが正確であれば2点は失っていたと思う。
失点シーンを免れた西高のディフェンスは落ち着いて守備に集中できるようになり、相手の攻撃のリズムにも慣れてきた。我々が戦っていた約40年前の西高も、相手に攻撃させるのが西高ペースと開き直り、「点さえ取られなければいいんでしょ。そしたら、1点取れれば勝てるよ。」という、学生らしくない合理的な試合をしていた。その雰囲気が今日の西高には少しあった。

関東大会予選準決勝の昌平戦は、前半は0対0で持ちこたえたが、後半1分もたたずに失点してしまい、勝利のシナリオが崩壊してしまった。
今日は何としても、5分、10分は耐えなければならないと願っていたわけだが、選手も昌平戦の経験を活かしていた。慌てることが少なく、また、チームの意識が統一され、カバーリングなどチーム全体のディフェンスの連携もできていたと思う。
そして、意外にもこの時点帯に西高がPKを決めてリードする展開になった。西高は押されながらも時折、圧力をかけ果敢に攻めに出ていった。実は西武台とは今年の新人戦の準々決勝で戦っており、負けはしたがスコアは0対1であり、選手も「戦える」という気持ちで臨めていたと思う(少し前の西高は西武台とは0対5位のスコアで負けていた)。その気持ちが本気の反撃になっていた。
後半の最大のピンチはヘディングシュートだったが、ボールは右ポストのやや内側に当たり、運よくキーパーの手に収まった。その際、負傷したキーパーの治療のために5分近く中断したのだが、その予期せぬ休息タイムによって、西武台の選手の集中力がわずかに下がり、疲労が現れたような印象をもった。
そうして、ついに6分のロスタイムに投入、嫌な感じのセットプレーもしっかりディフェンスし、勝利は西高のものとなった。
明日の決勝は昌平である。結果、内容とも関東大会予選準決勝の時より良くなっていなければならない。インターハイに向けての初仕事という高いモチベーションを持って戦ってほしい。

(写真は試合前の挨拶とKickoffのホイッスル&西高ベンチ。後の建物は埼玉スタジアム2002)


筋紡錘

筋紡錘は、大辞林 第三版によると『骨格筋中にある紡錘形の微小な感覚器。筋肉の収縮を感知して手足の位置・運動・重量・抵抗の感覚を起こす。動物の姿勢保持や細かい運動に重要。』と解説されています。
つまり、姿勢の保持や運動のために必要なセンサー(受容器)です。大きさはおよそ2~7mm、筋線維の間に埋もれて存在おり、筋の長さと伸長速度(筋が引き伸ばされる速度)の変化に反応します。

 

赤色ⅠaⅠb感覚神経で、末梢から脳に向かうため求心性神経ともよばれます。

一方、緑色αγ運動神経で、脳から末梢に向かうため遠心性神経ともよばれます。

 

※神経=ニューロンです。運動神経のα、γは通常、α運動ニューロン、γ運動ニューロンと呼ばれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健康であれば膝の下を叩くと、ビクッと無意識に蹴り上げますが、これを膝蓋腱反射といいます。
膝下を叩くと、太もも前面の筋肉はわずかですが引き伸ばされます。すると筋肉の中に存在している筋紡錘がその変化(引き伸ばされたこと)をキャッチし、Ⅰa群線維を通って脊髄に伝えます。
膝蓋腱反射は脳で判断するのではなく、すばやく対応するために、脳と同じ中枢神経である脊髄が自動的に判断する仕組みで、筋紡錘がキャッチした変化の知らせは脊髄内でα運動ニューロンにパスされ、叩くことによって引き伸ばされた筋肉を即座に収縮させます。一方、膝を伸ばすためには太ももの前面の筋肉(屈筋)が収縮するだけでなく、拮抗する後面の筋肉は緩んで伸びる必要があるため、もう1つの命令が拮抗する筋肉(ハムストリングス)を緩めます。こうして膝関節が反射的に伸びる膝蓋腱反射が成立します。

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

今月9日のブログは「月刊スポーツメディスン2017年6月号」からのものでしたが、同じく6月号に、『「痛み」の理解と対応 -トリガーポイントへのアプローチと資格と手技について』というタイトルで、トリガーポイントに関する多くの著書を執筆されている伊藤和憲先生による寄稿もありました。その中の一文に次のような説明が書かれていました。
『筋肉の機能は大きく2つに分かれていて、姿勢を維持するために使われている抗重力筋と、動かすためだけに働く筋肉です。抗重力筋は筋紡錘の数が多いのが特徴です。筋紡錘には交感神経が分布しているので、筋紡錘が多いということはストレスに敏感なのです。したがって、抗重力筋に激しく鍼治療を施すと、逆に筋が収縮してしまって痛みを悪化させてしまうということがあります。
「筋紡錘には交感神経が分布している」従って、ストレスの影響を受けるため激しい鍼治療は不適切である。ということが分かりました。

では、「激しい鍼治療」とはどんなものか、「激しい」とはどの程度のものかという疑問が浮かび、本やネットを調べてみました。今回はその内容をブログにまとめたというものです。

 

最初に、私なりの結論からお伝えすると、「筋紡錘に影響を与える激しい鍼治療とは、痛みを強く伴う鍼、不快なひびきを伴う鍼など、患者さまがストレスを強く感じてしまう、乱暴ともいえる鍼治療である

刺入後に刺激を加える雀啄という手技や、鍼通電療法による電気的刺激は、それが患者さまにとって強い痛みや不快を感じるものでなければ、激しい鍼治療には該当しない」ということと考えました。

なお、今回調べた資料の中で特に参考とさせて頂いたのは以下の3つですが、興味深った内容の一部をご紹介します。
1.「はり師、きゅう師、あんま・指圧・マッサージ師のための 痛み学習テキスト (第1版)」 東洋療法研修試験財団 平成27年度鍼灸等研究課題
2.「スポーツ障害と鍼灸手技治療」 全日本鍼灸学会雑誌 38巻4号 1988年12月
3.「筋機能と運動」 理学療法科学 16(3):129-132、2001

 

1.「はり師、きゅう師、あんま・指圧・マッサージ師のための 痛み学習テキスト(第1版)」
自律神経と痛み
『痛みと関連する自律神経は交感神経である。何らかの痛みが身体に存在している際、その痛みがストレスとして認識されるなどの要因により視床下部が興奮すると交感神経活動が亢進する。その結果、交感神経末端からノルアドレナリンが放出され、侵害受容器の活動を亢進させるとともに、血管収縮や血中のマクロファージや肥満細胞を活性化させてTNFαを放出し、感覚神経の活動亢進も引き起こす。さらに副腎髄質からアドレナリンを分泌し同様に感覚神経の活動を亢進させることで痛みを増強したりさらなる痛みを引き起こしたりすると考えられている。』

 

交感神経は筋紡錘にも線維を伸ばしています

後述する「筋機能と運動」によると、筋紡錘は小さい筋の方が密度は高いとのことです。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「鍼灸は効くのか、なぜ効くのかの10講」(全日本鍼灸学会)

2.「スポーツ障害と鍼灸手技治療」
『発生原因の一つに疲労があると述べられている。この疲労の一現象として、 筋収縮のくり返しによる代謝産物の蓄積や、 筋の収縮残留が認められている。このことは末梢の筋収縮機構に対する異常と循環の不全、 特に虚血性代謝障害を発生し、 その状態のままで運動をくり返すことが障害の発生を引き起こすと推察される。
a) 筋紡錘求心性発射活動に対する影響
筋収縮の強さや一定の緊張状態は、 筋紡錘からの求心性発射活動で反射性に維持されている。従って筋紡錘からの求心性発射活動をマイクロニューログラフィーで観察すると筋の収縮機構の活動状態を知ることができる。下腿三頭筋支配の脛骨神経に含まれるヒラメ筋由来の筋紡錘のla求心性発射活動を膝窩部から導出し、 下腿のヒラメ筋上にある経穴の「承山」にステンレス製3番鍼を置鍼し、 筋紡錘からの求心性発射活動に対する鍼刺激の影響を5例の平均でシェーマした。鍼刺激開始直後に抑制が強く現れ、その後発射活動が変化しながら抑制され、 置鍼5分後には活動が消失した状態がしばらく持続し、抜鍼後徐々に活動が高まりその後回復している

 

横軸は時間です。この実験により、効果を出すには、目安5分以上の置鍼が必要であることが分かります

b) 筋交感神経活動に対する鍼刺激の影響
同様の手法で下腿三頭筋支配の血管収縮神経をメインとする筋交感神経活動を導出し記録した。この筋交感神経活動は、 情動の影響などを受けず、延髄にあたる血管運動中枢の活動を末梢で観察できる神経活動であることも認められている。また、この筋交感神経線維の一部が筋紡錘の中に入り込んでいることも、ラットなどで確認され、この神経活動が筋収縮機構に関与している可能性も示されている。この筋交感神経活動を導出し内果後方で後脛骨動脈拍動部の経穴「太渓」に置鍼し、 筋交感神経活動の変化を観察した結果、図12に示すような変化、つまり、22例中12例で鍼刺激による初期に活動充進と、刺激中の抑制が認められた
以上の結果を鍼刺激が骨格筋の筋トーヌスを低下させ、 かつ筋内循環を改善する論拠としているが、これ等の反射の中枢は、 脊髄レベル以上の中枢の関与を示すいくつかの研究報告もあり興味深い。』

 

こちらも横軸が時間です。この実験からも、同じく効果を出すには、目安5分以上の置鍼が必要であることが分かります

3.「筋機能と運動」
『大きな筋より、小さい筋の方が筋紡錘の密度が高い。従って大きい筋に平行している小さい筋には中枢神経系に重要な固有受容覚のフィードバックを行う役割があることを示唆している。
体幹のC5-6、T6-7、L4-5のレベルの左右の半棘筋、多裂筋、短回旋筋から採取し全ての場合で、短い筋であるたん回旋筋の方が長い筋である半棘筋、多裂筋と比べ、筋紡錘の割合は4.58~7.3倍も高く、両群では有意に差がみられた。特に胸椎レベルで差が著明であった。一方で、3~5椎体間につく多裂筋と6~8椎体間に付着する半棘筋の間には、筋紡錘の密度に大きな差はなかったと報告している。この結果からは、微妙な姿勢保持に関係した固有受容覚のフィードバックにおける小さい筋の果たす役割が推測される。』

オーストラリア戦に勝つ!

負傷者の多かったチーム状況は試合中にも発生した。そして、37度を超える暑さ、1200mの高地、深い芝生というアウェーの地イランは、相手のイラクにとっても同じ条件とはいえ、ストレスが重なる厳しい試合だった。

残り2試合となった現在、勝点で1の差をつけ、得失点では2位サウジアラビアとは2点差、3位オーストラリアとは3点差。決して悪くはない。引き分けが許されないホームでの次戦は、闘う気持ちを奮い立たせ、チームの結束を究極まで高めてくれる。勝利はワールドカップ出場決定であり、終了のホイッスルは歓喜の爆発、最高の瞬間を共有できる。
8月31日の決戦に向けて、今回のイラク戦で得たものは何か、また、検討すべきは何かを考えてみた。
得たものは昌子、遠藤、井手口の新戦力は十分に戦えたという点である。一方、検討すべきは、サイドからの切り崩しの圧力が弱かったことである。また、負傷による予期せぬ交代も、不運ではなく、選手のコンディショニングという視点で振り返ってほしい。

決戦まで75日、ベストメンバーはその時にならないと分からないが、アタックル(能動的で攻撃の始まりとなるチームディフェンス)とサイドアタックを重視した試合を観たい。そして、第一の目標をクリアして欲しい。  「さて、私にはチケットが当たるだろうか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PAS Stadium

画像出展:static.panoramio.com

ハムストリングス肉離れの予防

以前、「肉離れ予防に必要だったこと」というブログをアップさせて頂いていますが、今回の題材は「月刊スポーツメディスン」からになります。

 

月刊スポーツメディスン2017年6月号(通巻191号)

ブックハウス・エイチディ

参考にさせて頂いた寄稿は「運動を制限する要素の考え方① -“スポーツ場面”を題材に運動を制限する要素を組織レベルから考える」筆者は、一般社団法人日本オランダ徒手療法協会代表理事の土屋潤二氏です。現在、サッカーJ3に所属している「SC相模原」のトレーナーとして、フィジカルトレーニングの指導をされています。
寄稿内に登場する疾患、スポーツ傷害は「アキレス腱断裂」と「ハムストリングス肉離れ」の2つですが、ブログでは「ハムストリングス肉離れ」だけを取り上げています。

『独自の問診方法から多角的な視点より仮説を立案する。そして、組織レベルで原因を予想することで、治療テクニック・運動プログラムを選択計画していく。』

1.ハムストリングス肉離れの再発率
・再発率:30.6%
・復帰後1週目:12.6%
・復帰後2週目:8.1%
 →うち全体の約2/3が復帰後2週間以内に再発している。

 

2.ハムストリングスの肉離れのリスク要因と予防

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン2017年6月号」(ブックハウス・エイチディ)

 

表にも記載されていますが、〇は「筋力不足」は「柔軟性/可動域不足」△は「それ以外の原因」です。整理すると以下のようになります。また、これらは受傷後のリハビリの課題、そして復帰の指標となるものです。
A.筋力を強化すべき筋肉
 ・ハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋)
 ・大殿筋
B.筋力のバランスが重要な筋肉
 ・ハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋・半膜様筋)
C.柔軟性を求められる筋肉
 ・腸腰筋
 ・大腿直筋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

従来から指摘されてきた大腿四頭筋(前面)とハムストリングス(後面)の筋力比(H/Q比)は、最近の研究では関連していないという結果がでているようですが、土屋氏は「関係あり」という見解を持たれています。
また、「エキセントリックな筋力不足」という記載がありますが、「エキセントリック」については、石井直方先生の著書である「究極のトレーニング」から引用させて頂きます。

 

コンセントリックとエキセントリック
『筋の収縮形態には、筋が短縮しながら力を発揮する短縮性収縮(コンセントリック収縮)と、筋が伸張されながら力を発揮する伸張収縮(エキセントリック収縮)があります。バーベルを持ち上げるのはコンセントリック、ブレーキをかけながら下ろすのはエキセントリックとなります。(下図参照)

山を歩いて下ったり、スキーで滑り降りたりする場合は、全体としてみると筋をブレーキとして使うのでエキセントリックです。 山を下りることは、エネルギー的に見れば、山から一気に飛び降りるのと同じです。ただし、飛び降りた場合には、身体が山頂にいるときの位置エネルギーのすべてを着地の瞬間に吸収するため、粉々に壊れてしまいます。歩いて下りれば、このエネルギーを一歩一歩に分散して受け止められます。スキーも同じです。
筋をブレーキとして使うエキセントリック収縮には三つの特徴があります

まず、エネルギー消費が少ないこと。前述のように、エキセントリック収縮では、外界からエネルギーを与えられますので、筋としてのエネルギー消費もきわめて小さくなります。

この外界から与えられたエネルギーのうち、大部分は筋中の微細構造に吸収されます。そこで、筋の微小な損傷が生じ、その周辺に炎症が起こって遅発性筋痛、いわゆる「筋肉痛」になります。筋の微小損傷と遅発性筋痛を起こしやすい、これが2番目の特徴です。
3番目の特徴は、「速筋線維の優先的動員」です。コンセントリック収縮では通常、エネルギー効率のよい遅筋線維から優先的に使われ、負荷が大きくならないと速筋線維は使われません。一方、エキセントリック収縮では、負荷が小さくとも速筋線維から優先的に動員されることが、筋電図解析によって明らかにされています。確かに、筋をブレーキとして使うのであれば、収縮の速い速筋線維から使ったほうがより安全で確実でしょう。』


3.予防のためのトレーニングとストレッチ
 ・6週間を1サイクルとして、徐々に負荷を挙げながらシーズン中繰り返し行う。 
 ・受傷は加速局面の「ダッシュ」より中間疾走の「スプリント」で起こりやすい。
 A.スプリントトレーニング
 ・加速走の特徴は徐々にハムストリングスに張力がかかる走法。100%では走らない。
  ・1/2週目(サイクル1)
   ・30m加速走x6本
  ・7/8週目(サイクル2)
   ・30m加速走x6本
 

  ・3/4週目(サイクル1)
   ・15mインターバル走x10本x2セット
   (インターバル:30秒、セット間休息:2分)
  ・9/10週目(サイクル2)
   ・15mインターバル走x11本x2セット
   (インターバル:30秒、セット間休息:2分)

 

  ・5/6週目(サイクル1)
   ・5mダッシュx6本
   ・15mダッシュx4本
   ・25mダッシュx2本
  ・11/12週目(サイクル2)
   ・5mダッシュx7本
   ・15mダッシュx4本
   ・25mダッシュx2本

 

 B.レジスタンストレー二ング
  ・ハムストリングスのエキセントリックなトレーニング
   ・ヒールスライド(座位で足を伸ばし、片足ごとに踵を使って抵抗をかけながら膝を

    屈曲させていく)
   ・スクワット

 

 C.ストレッチ
  ・腸腰筋、大腿四頭筋、ハムストリングスの硬さをチェック 
  ・股関節屈曲/伸展に対して可動域制限がないようにストレッチを行う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腸腰筋のストレッチ例

大腿四頭筋(大腿直筋を含む)のストレッチ例

画像出展:「痛みが楽になる トリガーポイント ストレッチ&マッサージ」(緑書房)

パーキンソン病友の会医療講演会#2

5月28日(日)、「埼玉県パーキンソン病友の会」の定期総会に引き続き、国立精神・神経医療研究センター病院病院長 村田美穂先生による「ここまで良くなるパーキンソン病」を演題とする講演が開催されました。
ブログでは印象に残った4つを取り上げ、自分なりにまとめてみました。

 

なお、村田先生の国立精神・神経医療研究センター病院のホームページにはパーキンソン病に関して詳しく説明されているページがありますのでご覧ください。

 

 

 

『パーキンソン病、進行性核上性まひ、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症(特に線条体黒質変性症)を対象に運動症状のみならず、抑うつ、不安、睡眠障害や、腰曲がりなどの姿勢障害等にも対応している。』(2012年度 病院年報 第26号より)

1.パーキンソン病とパーキンソン症候群
休憩を挟んで行われた質疑応答は約1時間、患者さま及びご家族からの質問は事前に集められており、18件が1枚の資料にまとめられていました。
その中に、パーキンソン病と診断され、マドパー(「レボドパ」と「ベンセラジド」という2つが配合されている薬)を服用しているが、症状は全く変わらず進行しているという主旨の質問が含まれていました。
村田先生のお話では、パーキンソン病であれば、薬が全く効かないということは考えられないので、他の病気を考えなければならないとのご指摘でした。
少し補足させて頂くと、患者さまが服用されているマドパーには「L-ドパ」という成分が配合されており、この薬は「パーキンソン症候群」にも効果があるとされています。従って、この患者さまの場合、パーキンソン症候群以外の疑わしい疾患にも目を向ける必要があることになります。なお、「パーキンソン症候群」とは、パーキンソン病以外の変性疾患や薬物投与、精神疾患等によりパーキンソン様症状が見られる疾患のことをいいます。
パーキンソン症候群に関する詳細な説明は以下のサイトに書かれています。ご参照ください。

 

 

『MEDLEYは、567名の医師とともに医療事典を作成するプロジェクトです。病気の情報をはじめ、薬の解説、医療機関、学術誌による論文ニュースと、医療情報を網羅的に用意しています』

なお、薬剤性パーキンソン症候群の原因で最も多いとされている抗ドパミン薬のスルピリド(商品名ドグマチール、アビリットなど)が処方される主な疾患を調てみると、うつ病・うつ状態、統合失調症、胃・十二指腸潰瘍となっていました。これらの病気によって、スルピリド(商品名ドグマチール、アビリットなど)を服用されている患者さまは、その副作用に注意頂く必要があると思います。

 

2.薬の効果を100%引き出す!!!
「京都大iPS細胞研究所の高橋淳教授はパーキンソン病を治療する医師主導の臨床試験(治験)を2018年度に始めると明らかにした。」とのニュースが2017年2月3日に出ました。

 

 

 

『髙橋淳教授らの研究グループは、パーキンソン 病に対する iPS 細胞由来神経細胞移植による機能再生治療法の開発を目指した研究を進めております。』

1、2年後から治験が始まる予定の遺伝子治療を含め、将来的にパーキンソン病の治療が大きく前進するのは間違いないのですが、少なくとも5年~10年は、薬の効果を100%引き出すことが最も大切なことである。この事が今回の講演で1番印象に残ったことです。
下記は「やさしいパーキンソン病の自己管理」に掲載されている薬の一覧表です。そしてパーキンソン病の薬は毎年のように新しいものが出てきています。


異なる作用の薬がたくさんあり、処方には回数と量を最適化させる必要があり、また、薬の効果は個人差が大きいという現実もあります。

つまり、パーキンソン病の服薬は100%オーダーメイドです。そのためには、患者さまと主治医が二人三脚で、試行錯誤をしながら最良のパターンを見つけ出すという時間と努力が必要だと感じました。
患者さまの中には、日々の体調を日記などで管理されている方もおり、こうした取り組みは非常に有効な情報源になるだろうと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「やさしいパーキンソン病の自己管理」(医薬ジャーナル社)

※デュオドーパ
デュオドーパは2016年7月に保険適用になりました。ウェアリング・オフ現象やジスキネジア(頚、手足や肩などがくねるよう不随意運動)の問題を改善したいという患者さまが期待されている治療です。大前提としてL-ドパが効く患者さまでないと価値はありません。
仕組はデュオドーパという装置にL-ドパのゲル剤が入っており、チューブを十二指腸の先にある空腸(小腸の一部)に留置して持続的に薬を注入します。L-ドパの血中濃度が安定するのでジスキネジアにも効果が高いといわれています。    

こちらは順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経内科のホームページに掲載されている「デュオドーパ」です。詳細な説明がされています。

※ウェアリング・オフ現象(長期治療中の問題点)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「やさしいパーキンソン病の自己管理」(医薬ジャーナル社)

 

『薬の血中濃度の変動に伴い、パーキンソン症状が変化する現象をウェアリング・オフ現象と呼んでいます。薬の濃度が上昇すれば症状が改善し、濃度が下がれば症状が悪くなる現象です。L-ドパは、ドパミン受容体作動薬に比べて効果が高く、半減期(血液中で薬の濃度が上がってから半分の濃度になるまでの時間)が短いためにこのような現象が出現しやすいのです。ドパミン神経終末は一度使ったドパミンを取り込んで保存し、再利用することができますが、病気になって4~5年するとドパミン神経終末の数が減るために十分保存できなくなります。それに伴いL-ドパの血中濃度と症状の変動が一致し、1回服薬後の効果の持続時間が短くなり、ウェアリング・オフ現象が現われるようになります。
40歳以下でパーキンソン病になった方は、この現象がとても出現しやすいのですが、70歳以上でパーキンソン病になった方は出現しにくく、出現しても軽度ですので、あまり心配する必要はありません。
若い方でL-ドパ量が多すぎたり、食前服薬などでL-ドパ濃度のピークが高くなりすぎると出現しやすいので、L-ドパはなるべく食後に飲むようにしましょう。また、L-ドパとともに、ドパミン受容体作動薬やMAO-B阻害薬、COMT阻害薬、ゾニサミドなどを服薬することで、ウェリング・オフ現象を予防したり改善したりすることができます。また、患者さんによってはアポモルヒネの注射も使えます。』    

3.便秘対策
村田先生のお話の中で、パーキンソン病の患者さまは概して飲水量が少ないということを指摘されていました。そして、「1日2リットルの飲水および運動」を心がけることで、便秘が改善される方は少なくないとのことでした。

やはり運動は大切だろうと思い、ネット検索したところ、運動療法の事例を見つけましたので添付させて頂きました。

ダウンロード
šパーキンソン病患者へのパーキンソン体操の指導を試みて.pdf
PDFファイル 406.3 KB

4.腰が曲がる
18件の質問の中に腰や背中に関するものが3件ありました。下記は質問の抜粋です。
椅子に座ると前かがみと上半身が左側に曲がってしまう。
歩き出すと腹直筋の上部がこわばり、腰が曲がり歩けなくなります。
腰痛があり上半身が前傾、左側に曲がっています。

村田先生からは姿勢障害に対するリドカイン療法(特許取得済み)についてのご説明がありました。これは体幹の外腹斜筋などの拘縮を取り除くことなどにより、姿勢を改善していくという療法です。即効性という意味では画期的な治療法ですが、初期であったり、症状が軽い場合は、まずは筋力維持の運動療法にトライされるのが良いのではないかと思います。
下記は村田先生の「やさしいパーキンソン病の自己管理」に掲載されている「背筋・臀筋の運動」に関するものです。

“前傾姿勢”は“前進運動”の源!
これは吉岡紀夫先生が「変形/痛みの治療革命! 筋膜療法 Fa・ther」に書いているものです。「脚を上げれば前進できる」という原理ですが、ここには非常に重要な体の構造があります。

それが体の背部から前傾する体を手綱のように支持し、姿勢を保持している「抗重力筋」の存在です。緊張を作っている「抗重力筋」の筋力が落ちてしまうと姿勢は崩れ、歩行にも影響が出ると思います。また、腰痛にも関係してくると思います。
上半身であれば背筋(脊柱起立筋)を可能な範囲で毎日筋トレすることが、すぐできる有効な対策になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「変形/痛みの治療革命! 膜療法 Fa・ther」(たにぐち書店)

側弯症は治る

今回のブログは「側弯症は治る!」の内容に基づいています。

 

著書:大塚乙衛氏(大塚整体治療院院長)

監修:青木晴彦氏(青木整形外科院長)

出版:マキノ出版

本は図書館から借りて読んだのですが、「側弯エクササイズ」を理解し、活用したいと思ったため、中古本ですが購入しました。

ウサイン・ボルト選手は196cmの長身に加え、先天性側弯症のため背骨はS字状に曲がっており、アメリカ合衆国のようなスポーツ理論の発達している国であれば、短距離選手になることはなかったと言われています。
ジャマイカにおいては、常識に縛られない新しい発想で、背中、おなか、腰、お尻、そして足の抗重力筋を独自の方法で徹底的な筋力強化を行い、新しい走法を編み出し、100m・200m走で、オリンピック3連覇を達成しました。

 

画像出展:「側弯症は治る!」(マキノ出版)

特発性脊柱側弯症は治る
これは[「側弯症は治らない」という常識がくつがえった瞬間]の冒頭部分の引用です。
『側弯症(特発性脊柱側弯症)で曲がった背骨は、いったん進行すると、何をしても元には戻らない。医学書にはそう書いてあります。医師はもちろんのこと、多くの医療従事者たちも、みなそう信じています。
1997年8月27日。おそらく、私も側弯症の専門家だったら、そうした知識にしばられて、不安そうな面持ちで私の前に座っていたY子さんに何もしてあげられなかったでしょう。しかし、幸いなことに、私はそうした知識とは無縁の存在でした。治す方法がないとされている難病を前にして、素直に考えることができました。「背骨がねじれているのなら、そのねじ曲がっている背骨を真っすぐに伸ばせばいいじゃないか」と。

もちろん、この場合のねじれた背骨を伸ばすというのは、背骨を支えている背中やおなか、お尻の硬くなった筋肉のバランスをよく整えるという意味です。これが私の行っている整体の理屈だからです。背骨を乱暴に押したり、伸ばしたりということでは決してありません。』

 

これを拝見すると、大塚先生の施術は骨や関節に直接アプローチするのではなく、筋肉にはたらきかけるものであることが分かります。これは「手技のみ」と「道具(鍼・灸)を使う」の違いはありますが、本質的には現代鍼灸と同様です。ただし、後から出てきますが、大塚先生は施術に加え、患者自らが行う体操、「側弯エクササイズ」を真剣に取り組むことが重要であり、装具についても十分な配慮が必要であると指摘されています。


医療の現場の問題点
これは[側弯症は手術でしか治せないと思い込んでいる]からの引用です。
『M子さんの話は、決して特殊な例ではありません。状況は多少異なるでしょうが、進行性の側弯症であれば、ほとんど例外なくM子さんと同じコースをたどって、最後に手術を受けるか否かの決断を迫られるのです。実際、私の治療院へ全国から訪ねてくる患者さんの多くがこのパターンでした。
これらの経過を見ていくと、最終的にどこに問題があるのかが明瞭になっていきます。それは、側弯症の治療が「手術の好きな医師」の手にゆだねられていることです。側弯症の場合、整形外科の中でも、背骨の手術を専門としている脊椎外科が治療を担当しているのです。
たとえば、アトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどの病気は子供に多いので、小児科でも診てくれます。実際、小児科にはそれらの治療の得意な医師がたくさんいます。
ところが、側弯症は子供に発症するのが大部分ですが、小児科で治療されることはなく、主に大きな病院の整形外科のみが担当しています。もし、側弯症が整形外科に限られず、他の科の医師も診ることができたら、状況は大きく変わっていたのではないでしょうか。
整形外科では、保存療法を手術と同等の治療法とは見なしていません。保存とは現状維持のことであり、もともと体操や装具などの保存法は側弯症を治すための方法だとは考えられていないのです。側弯症を治せるのは手術だけというのが、日本の整形外科の基本的な考え方です。』


側弯症は一時的な「機能性側弯症」と不治とされている「構築性側弯症」に分かれています。この本で取り上げられている、「特発性側弯症」は「構築性側弯症」の中の原因不明の側弯症になります。しかしながら、この「特発性側弯症」こそが80~90%の圧倒的多数を占めています。
ところが、現在の医学では、原因が特定できる10~20%の「構築性側弯症」が主役であり、原因不明であるが故に脇役にされた80~90%の「構築性側弯症の中の特発性側弯症」は、十分な調査、研究がなされることなく、通例的に主役と同じ脊椎外科に任されているという印象を持ってしまいます。
従いまして、大塚先生がご指摘されているように、特発性側弯症については小児科でも治療をできるようにすることが有効な対策になると思います。また、特発性側弯症は小児だけでなく、小学校高学年や中学生にも多いとされるため、理想的には、「特発性側弯症専門外来」ができ、優れた保存療法や中長期に渡る装具計画を含めた、個別かつ総合的な治療とリハビリが提供されることがあるべき姿ではないかと思います。


側弯エクササイズの心得
「側弯エクササイズ」は「リラックス体操」と「ドリル体操」から構成されています。詳細は本をご購読頂きたいと思いますが、ここでは「七つの心得」の各項目をお伝えします。

 1.家族で行う
 2.手軽にできる体操ではないことを自覚する
 3.楽しくなるように導く
 4.時間を確保する
 5.体の伸びる力を育てる
 6.継続する
 7.身長を測る
繰り返しになりますが、特発性側弯症の治療において、側弯エクササイズは施術と同等以上に重要なものとされています。

 

そして、効果に関しては冒頭にある[体の「伸びる力」を育てる]をご紹介します。
『本章では、側弯症(特発性脊柱側弯症)治療のために私が考案した体操「側弯エクササイズ」をはじめとする方法が、高い成果をあげている理由を説明します。ただし、これまでの医学ではほとんど考察されていないことにあえて踏み込んで話を進めていきます。これは、すべて私が3500人を超える患者さんから教えていただいたもので、決して独断から生まれたものではありません。
まず、これまでのおさらいをしておきましょう。
私が行っている側弯症治療の目的は、若い人の場合では、ひとことでいえば「体をきれいにする」こと。ゆがんだ体形を改善して、薄着ができたり、水着になれたりするような美しい体に戻すことです。具体的には、肋骨隆起(背中の盛り上がり)や腰部隆起(腰部の盛り上がり)を改善することです。これらの隆起が改善すると、左右の肩の高さが同じになり、ウエストラインの非対称もなくなっていきます。これは多くの症例によって証明された事実です。
ただし、美しい体形に必ずしも背骨の弯曲の改善が伴うとは限りません。もちろん、若い患者さんでは背骨が真っすぐになることも多いのですが、背骨の変形の大きな改善がなくても、肋骨隆起や腰部隆起がなくなると、体形は美しくなります。
一方、中高年の場合、治療の目的は体の痛みから解放されること。その場合、肋骨隆起や腰部隆起などが目に見えて改善されることもありますが、そうならないこともあります。しかし、いずれにしても腰や背中の痛みは大幅に改善されます。また、中高年は背中に隆起があると、隆起のある部分が痛んで、あおむけになって寝ることができなくなります。ところが、側弯エクササイズを実施している人では、隆起のある部位が軟らかくなり、あおむけになって寝られるようになります。
では、これらの目的を達成するにはどうしたらよいのでしょうか。現代医療では、その手段を手術による背骨の矯正に求めています。つまり、背骨を鉄棒でつないで真っすぐにさせようとするわけです。
それに対して、私たちは背骨そのものを真っすぐさせようとはしていません。側弯エクササイズによって、体の伸びる力を育てているのです。背骨の弯曲の改善はその結果の一つだと考えています。
私たちの体を支えている体幹筋(腹直筋、腹横筋、広背筋、脊柱起立筋など)は、重力に抵抗して体を地面に立たせている抗重力筋です。これらの筋肉が伸びたり縮んだりしてバランスよく働くことで、私たちは重力に抵抗しながら、天に伸びるように真っすぐに立つことができるのです。
もちろん、背骨は体の支える支柱として大事な役割を果たしています。しかし、私たちの体を支えているのは背骨だけではありません。抗重力筋の働きも大きな力になっているのです。
ところが、抗重力筋のバランスがくずれ、筋肉が真っすぐに伸びることができず、さらにその働きが衰えると、本来真っすぐ伸びるはずの背骨がねじれてくると考えられます。加えて、脊柱起立筋や肩の僧帽筋が弱いと、頭部の重さを支えられず、弯曲はさらに大きくなります。成長期の子供の背骨がどんどん真っすぐ伸びようとしているのに、それが押さえられたら、軟らかい構造を持つ背骨はねじれて伸びるしかありません。』

 

鍼灸師として特発性側弯症にどう向き合うか
特発性側弯症が不治の病とされる「構築性側弯症」に含まれていることに違和感を感じます。切り離して考えるべきではないでしょうか。
従って、特発性側弯症は不治ではないと考えます。特発性とは原因不明ということですが、下出真法先生が「子どもの背骨の病気を治す 脊柱側彎症と子どもの病気」の中で原因の可能性として示唆された「身体の平衡機能」に注目します。そして、特発性側弯症が小児から思春期までの成長期にみられるという限定された時期に注目します。

つまり、心と体が発達する成長期に、或るきっかけが脳を混乱させ、その混乱が前庭感覚と深部感覚の精緻なコントロールに誤差を生み、真っすぐに伸びていくはずの脊柱に乱れを作るというイメージを頭に入れておきたいと思います。
一方、治療については、筋肉のバランスが非常に重要ですが、筋肉に加え、ボディスーツに例えられる筋膜に対しても適切な施術を行う必要があるのではないかと考えます。

そして、「側弯エクササイズ」をご紹介できるようにしたいと思います。

特発性側弯症と機能性側弯症

今回のブログで参考にさせて頂いた本は、「子どもの背骨の病気を治す 脊柱側彎症と子どもの病気」著者:下出真法氏(講談社)と専門学校時代の教科書「臨床医学各論」(医歯薬出版)です。
ネット検索してみると、日本側彎症学会からは、2013年4月に「側弯症治療の最前線―基礎編」が、2014年7月に「側弯症治療の最前線 手術編」が出版されていました。

 

著者:下出真法氏

出版:講談社

発行は2000年10月です。 

「脊柱側弯症」に対する正しい理解と治療の為に作られました。

側弯症とは 
側弯症は背骨が曲がったり、ねじれたりする状態をいいます。
コブ角が10°未満は正常範囲、10~19°は要定期的観察、20°以上は何らかの治療を要すると考えられています。

X線画像の患者さまのコブ角52°です。

測定は、水平面に対してもっとも傾いている頭側終椎の上縁(このケースでは、第7胸椎)と尾側終椎の下縁(同、第1腰椎)を結ぶ線のなす角度がコブ角になります。

側弯は裸になれば確認しやすいのですが、コブ角30°位でもシャツを着てしまうと見分けるのは困難です。トレーナーやセーターの上からではコブ角50~60°でもなかなか分かりません。また、同じ角度でも、曲がり方や曲がる部位によって目立つ場合とそうでない場合があります。

このようなことから、コブ角40~50°の側弯症になってはじめて気づくこともめずらしくはありません。

画像出展: 「子どもの背骨の病気を治す」(講談社)

側弯症はまず、機能性側弯と構築性側弯の2つに分けられます。そして構築性側弯は原因が特定できる側弯症(症候性側弯)と原因不明の側弯症(特発性側弯)の2つに区別されます。
この3つの側弯症のそれぞれの特徴は次の通りです。
Ⅰ.機能性側弯:一時的に生じた側弯、原因が取り除かれれば側弯はなくなります。
  ・姿勢不良による小児の側弯
  ・脚長差を解消するための代償性側弯
  ・坐骨神経痛などの痛みのための疼痛性側弯
  ・心因性のヒステリー性側弯
  ・筋炎や筋膜炎などによる炎症性側弯
Ⅱ.構築性側弯:弯曲、捻じれに加え、椎間板の変形を伴い元に戻ることはないとされています。
Ⅱa.特発性側弯:原因が分かっていない構築性側弯症  
  ・乳児期側弯症:男児に多く、3歳までに発症
  ・学童期側弯症:性差なく、4歳から9歳に発症
  ・思春期側弯症:10歳~成長期修了までに発症。ほとんどが女児
Ⅱb.症候性側弯:原因となる病気がわかっている構築性側弯症
  ・先天性側弯:半椎など椎体の奇形によるもの
  ・神経性側弯:脊髄空洞症、ポリオなどによるもの
  ・筋性側弯:筋ジストロフィーなど筋肉疾患によるもの
  ・神経線維腫症:フォン・レックリングハウンゼン病によるもの
  ・間葉性側弯:マルファン症候群などによるもの
  ・外傷性側弯:脊椎の脱臼骨折などによるもの
  ・リウマチ性:若年性関節リウマチなどによるもの

 

側弯症の原因疾患については、1987年の全国調査で、原因不明である特発性が79%、先天性が10%、ポリオ、脊髄空洞症など神経性が2%、神経線維腫症が2%、マルファン症候群が2%などとなっています。最も多くを占める特発性側弯では大半は思春期側弯症であり、女性が約80%を占めます。
また、2016年度東京都発行の予防医学年報には、2014年度のデータで、小中学校の生徒を対象に行った側弯度調査でコブ角15度以上の人数は、男子は29,561人中27人(0.09%)、女子は30,306人中335人(1.11%)でした。これによると男女差は10倍以上ということがわかります。
なお、この資料はとても良くできた資料でしたので添付させて頂きました。

ダウンロード
脊柱側弯症検診_東京都予防医学協会年報2016年版第45号.pdf
PDFファイル 6.6 MB

特発性側弯症の原因(「子どもの背骨の病気を治す 脊柱側彎症と子どもの病気」より引用)
特発性側弯症の原因の一つとして古くから身体の平衡機能の指摘がされています。平衡機能というのは身体のバランスを調整する神経機能のことで、脳幹という脳の部分でコントロールしています。この脳幹に異常がおこると側弯症がおこるのではないかといわれています。脳の異常といっても、脳の一部が欠損しているような異常ではなく、成長期にだけおこる平衡機能のわずかな異常が積みかさなって、背骨の成長に悪影響をおよぼし、その結果、背骨が曲がるのではないかと考えられているのです。
 ただ、このような考えも推論の域をでていません。脳幹の一部を破壊された動物の背骨が人間の特発性側弯症に似た曲がり方をしたというかつての動物実験の結果や、特発性側弯症の患者の一部に脳幹を調べる検査で異常を示すことがたまにあるという臨床経験から推論されているもので、脳幹のどの部分のどのような機能に異常がおこると成長期の骨が曲がってくるのかは、まったくわかっていません。今後、脳の機能、特に成長期の平衡機能の研究がすすみ、背骨との関係が明らかにされ、それを評価する新しい診断技術が開発されれば、特発性側彎症の本当の原因も、わかるようになるかもしれません。』

 

この本は2000年10月発行のため最新情報とは言えません。しかしながら、この文章を読んで、昨年12月のブログ「動作法について」の中で「大丈夫! すくすくのびたよ自閉っ子」(花風社)に書かれていた「脳が混乱している状態」ということを思い出しました。


『支援センターからいただいた個別支援計画を見ると、桃子の重点取り組み事項は、「前庭系・固有系をしっかり入れていく」となっている。何のことだかさっぱりわからない。
先生からのお話によると、桃子は、「感覚統合療法を必要とする子ども」なのだそうだ。感覚には、次の三つがあるらしい。
一つ目は、前庭覚である。これに何らかの問題があると、揺れ動く遊具や高いところを非常に怖がったり、誰かに動かされると恐れや不安、苦痛などを感じたりするようだ。いくら回転しても目が回らない、高いところや不安定なところを好む、などの特徴もあるらしい。公園の遊具なども三つ年下の妹は平気で登っているのに、桃子は怖がってできないものがある。桃子は怖がりだなあと思っていたが、原因は前庭覚なのか。また、桃子が椅子に持続して座っていられないのもこのためか。
二つ目は、固有覚である。これに問題があると、すぐ疲れてしまったり、力加減のコントロールが難しかったりするらしい。物をどのように操作してよいかわからず、衣服の着脱がうまくできないこともあるようだ。桃子が不器用なのは、この固有覚のせいなのか。
三つ目は、触覚である。べたべたした感覚が苦手だったり、手をつなぐ、抱きしめられたりするのが苦手だったり、裸足で園庭を歩けなかったりするらしい。散髪や爪きり、耳かきを極端に嫌がる子どももいるようである。以前、桃子はスライムが苦手で、触るのを嫌がっていたが、この触覚に問題があったせいか。そういえば、爪きりも苦手であった。
もし、感覚統合がうまく働かないと、感覚が洪水のように入ってきたり、逆に必要な情報が入ってこなくなったりして、脳が混乱している状態になるのです」と、先生はおっしゃった。』

 

 画像出展:「続 自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)

私が会った発達障害の児童数はまだまだ多くはありませんが、発達障害を持っていない児童に比べ、側弯症は多いように感じていました。
また、滋賀県立小児保健医療センター小児整形外科のホームページには、発達障害にも位置づけられているダウン症について、次のような記述がありました。
『欧米の教科書には側彎症は約50%の頻度とされています』ただし、こちらの病院では、『それほどの高い頻度ではない様に思います』との記述がされていました。50%という数値はともかく、ダウン症では側弯症が代表的症状のひとつであるということです。

こちらのセンターには「ダウン症外来」があります。

以上のことから、下出先生がご指摘になられた「脳幹の異常(平衡機能のわずかな異常の積みかさね)」は非常に重要ことに言及されているように思います。

 

 

機能性側弯症の鍼灸治療
機能性側弯症は一時的に生じた側弯とされており、こちらは症候性側弯症とは異なり、鍼灸治療の対象になります。
今までは、背中の脊柱起立筋を対象に面状や棒状、線状の硬結を触診で探し、刺鍼していましたが、今回のブログを書いていく中で、脊柱起立筋をもっと詳しく理解する必要があると感じました。そこで、手持ちの本を見直して重要と思ったものを列挙してみました。
なお、治療においては機能性側弯症の原因を考えることが第一です。また、脊柱起立筋以外では骨盤と脊柱や骨盤と大腿骨に関与する筋肉(腸腰筋、腰方形筋、殿筋群、梨状筋など)に関しても重要だと思います。

 

解剖
脊柱起立筋は中央より、棘筋、最長筋、腸肋筋に分かれますが、これらは1本の筋ではなく数本の筋が集まっています。ただし、「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)には次のような説明があります。『腸肋筋は、腰腸肋筋、胸腸肋筋および頚腸肋筋の3部から構成されるが、各々の境界は不明瞭である。また、最長筋も胸最長筋、頚最長筋および頭最長筋の3部から構成されているが、各々の境界は不明瞭である』このように、明確には区分けされていないようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「3D踊る肉単 」(エヌティーエス)

こちらは、脊柱の高さと筋肉の厚みを確認できる写真です。上位胸椎(下左写真のD:第7胸椎)から頭部に上がっていくと筋は薄い板状になります。


左は、「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)より。上からE、F、Gの右端に位置する筋肉が腰腸肋筋です。

右は、「肉単」(エヌティーエス)より。全体像をイメージできるように添付しました。

以上のことから背骨を弯曲させることを考えると脊柱の外側にあって、筋肉量の多い腰部にある筋肉が主役になると思います。
従って、腰腸肋筋の付着部とL1・L2の筋腹を中心に、丁寧な触診により硬結、圧痛点を探し、刺鍼ポイントを決めるというのが治療の基本と考えます。(胸最長筋も決して無視はできません!)

トリガーポイント
伊藤和憲先生の「はじめてのトリガーポイント鍼治療」(医道の日本社)では、脊柱起立筋の中で関連痛を起こしやすいのは腸肋筋であると書かれています。写真にマークされたポイントも腰腸肋筋になっています。この点からもこの筋肉の優先順位を高くすることは妥当であると思います。

 

画像出展:「はじめてのトリガーポイント鍼治療」(医道の日本社)

触察
この写真は「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)からのもので、体に直接書き込んでいるのでとても分かりやすくなっています。

これを見て感じることは、腰腸肋筋の外縁は考えているより外側にあるということです。今までは、硬結重視で触診していましたが、意識する筋肉の全体像をイメージした上で、硬結を探すという方法の重要性をあらためて認識しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)

付記
このブログの下書き完成後、数日して「側弯症は治る!」が入庫したとの連絡メールが図書館から届きました。こちらの本も興味深い内容ですので、次回のブログでご紹介させて頂きます。

心臓リハビリテーション

NHKの「ためしてがってん」で心臓リハビリテーションを紹介する放送がありました。
番組自体は観ることはできなかったのですが、「心臓リハビリテーション」というキーワードが気になり1冊の本を購入しました。私には新しかった「心臓リハビリテーション」も10年以上前から行われているものだということを知り、ちょっと意外でした。なお、ブログは「歩く、昇る、伸ばす からだ若返り法」という本の内容に基づいて書いています。

 

著者:木庭新治氏 

出版:角川MG

健康 STOP突然死!強い心臓をめざせSP
2017年4月19日(水)午後7時30分

2003年頃までは、心臓手術後は安静にするのが一般的でしたが、安静は極度の体力低下を生み、術後の回復を遅らせることが明らかになりました。そして今日では手術の翌日にはベッドの上でのリハビリが行われています。2012年2月に心臓バイパス手術を受けられた天皇陛下も手術の翌日にリハビリを開始されたそうです。

 

心臓リハビリテーションの効果
心臓リハビリテーションとは「軽い運動」を行うことです。木庭先生の評価では25~30%、死亡リスクを減らすことができるとのことです。
これは、心筋梗塞の患者さんが一般的に服用する、抗血小板薬(血液をサラサラにするタイプの薬)による死亡リスク低減が20%と言われていますので、「心臓リハビリテーション」の方がより優れているということになります。しかも、必要な道具さえそろえてしまえば、特にお金を掛けなくても実行可能です。
そして、心臓病だけでなく、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病にも効果があります。さらに体力アップ、免疫力アップにより、個々の健康力を高めることが可能です。

 

心臓リハビリテーションの方法
最初は始めることが何よりも大事だと思います。そして、本格参戦となれば木庭先生のガイドラインに従って挑戦頂くのが良いと思います。
期間:まずは、12週間。これは12週続けると血中脂質が改善されるというデータがあるためです。

頻度:休みは2日まで。3日以上空いてしまうと、前に行った効果がなくなってしまいます。
強度:目安1日15分以上。少し汗をかく程度。ハアハアしない。自分のペースで無理をしない。
運動:ウォーキング、スロージョギング、踏み台昇降など。

雨の日には室内で踏み台昇降を使うという手もあります。このような立派な「踏み台」でなくても良いですが。

画像出展:「歩く、昇る、伸ばす からだ若返り法」 (角川MG)

 

「運動」ができなくても、「生活活動」で体を動かせば同様の効果が期待できます。

METS(メッツ)とは安静時を1とした時に、活動が何倍のエネルギーを消費するかを示したものです。

老化のカギはミトコンドリア
老化とは突きつめれば、細胞の老化です。十分な解明がされていない細胞の老化ですが、最も有力な説はミトコンドリアが鍵を握っているだろうということです。細胞1億個の中に数百のミトコンドリアがあり、体で使われるエネルギーの元(ATP)を作っています。この役割は極めて重要です。

 

軽い運動がミトコンドリアを増やす
細胞内でエネルギー生産の仕事をしているのはミトコンドリアです。そして作られるエネルギーはATPと呼ばれています。

 

画像出展:「20代の大腸がん闘病記」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この図は心臓の筋肉、心筋です。外側の基底膜のすぐ内側に多くのミトコンドリア(紫色)が密集して配列しています。これらは生涯稼動し続ける心臓の収縮運動に必要なエネルギーを提供します。

画像出展:「細胞と組織の地図帳」講談社

ここに一つ問題があります。それは、ATPの製造工程で「活性酸素」が作られてしまうことです。
活性酸素とは「活性」という名前の通り、動きやすく反応しやすい酸素で、どんどん動いて周囲にとりつき、それを酸化させてしまいます。酸化とは、例えば鉄だったら「錆びる」こと。食べ物なら「腐る」ことです。そして、これらの悪事のことを「酸化ストレス」と言っています。
例えは良くないと思いますが、「泥棒」という人を活性酸素とするなら、「空き巣に入って金品を盗む」という悪事が酸化ストレスです。

しかしながら、元気なミトコンドリアは、活性酸素を取締る酵素(SOD)や抗酸化物質(UCP)の支援(中和という作用)により、酸化ストレスに対抗することができます。
ところが、警察官のような役割の酵素や抗酸化物質も加齢により支援パワーが低下するという問題があります。この支援パワーが低下した中で、ミトコンドリアが仕事をすると、活性酸素はこれはチャンスとばかりに、どんどん増え、ついにはミトコンドリア自身も活性酸素の悪事(酸化ストレス)によって、数が減っていきます。これは老化の原因となる事件です。


たばこはミトコンドリアの数を減らします。また、食べすぎ、飲みすぎも消化吸収や栄養素を代謝するために大量のエネルギー(ATP)が必要となり、結果的に大量の活性酸素を発生させます。強い運動も同様に、大量の活性酸素が発生するためミトコンドリアにとっては危険です。
一方、ミトコンドリアを増やすのが軽い運動、有酸素運動です。軽い運動は強い運動と異なり、大量の活性酸素を作り出すことなく、消費エネルギーを増やします。そして、この消費エネルギーは臓器の細胞にたまる異所性脂肪や慢性炎症の原因ともなる内臓脂肪という、深刻な問題につながる悪名高い脂肪を減らします。また、運動により取り込まれた酸素はATPを作る材料になるため、ミトコンドリアのATP生産能力は向上します。
こうして、豊富になったATPにより、今まで15分がいっぱいいっぱいだった人も、20分、25分と運動することが可能になります。この好循環が継続されていくと、ミトコンドリアは更に元気になり、やがてミトコンドリアの数が増えていきます。ミトコンドリアが元気に、活性化していくと、酵素や抗酸化物質の支援パワー(中和という作用)も増大するため、酸化ストレスを恐れる必要はありません。
さらに、運動は体を動かしているときは交感神経が主役ですが、運動を終えたときには必ず副交感神経が働くようになっています。つまり運動をしていると、副交感神経の働きを確実に得られるということになります。ストレス社会で交感神経に片寄りがちな生活習慣を整える意味でも、軽い運動は素晴らしい効果をもたらします。
他にも、善玉(HDL)コレステロールの増加、血圧低下、心拍数の低下、骨密度の上昇などの効果が期待できます。

PPS(ポストポリオ症候群)

ポリオによる運動麻痺をおもちの患者さまがおいでです。

 

ポリオ
ポリオは急性灰白髄炎ともよばれ,ポリオウイルスが中枢神経系に感染して引き起こされる急性ウイルス感染症です。ポリオウィルスには1型、2型、3型があり、感染のタイプは経口感染(飲食物など口から感染するもの)です。
感染者のうち中枢神経症状が出るのは0.5~1%。そして、麻痺型は約0.1%と考えられており、麻痺型には脊髄に問題を起こす「脊髄型」と延髄、橋、視床下部に問題を起こし、嚥下や呼吸などの症状を発生させる「球麻痺型」の2つがあります。多くは四肢や体幹に運動麻痺を発生させる「脊髄型」で、75%以上を占めています。
日本では1940年代の後半頃から1960年初頭に大流行しましたが、1961年に不活化ワクチン接種が開始され新規発生は激減しました。その後、不活化ワクチンの供給量の問題から、経口生ポリオワクチンが採用され、まれに麻痺性ポリオを発症するケースがあり、2012年9月よりポリオの定期接種は経口生ポリオワクチンから不活化ワクチンに切り替えられました。
現在、ポリオの常在国はパキスタン、アフガニスタンの2カ国のみとなり、世界レベルでのポリオ根絶に向けた努力が続いています。

 

PPS(ポストポリオ症候群)
数か月前、患者さまから「PPSになってないか? 気になっている」というお話がありました。

その時、私はPPSの認識・理解が全くなかったため、PPSではなく、PTS(Post Traumatic Stress:外傷後ストレス)のことをだと聞き間違えてしまいました。

患者さまの頑固な首こりは改善され、次なる施術テーマとして「今の状態が維持され、悪化することがないようにしたい」というご要望を頂きました。
大変お粗末な話ですが、この時の学習でポリオによる麻痺が末梢神経性の弛緩性麻痺であり、PPSとはポストポリオ症候群のことであったことを理解しました。

わが国の調査では、ポリオの有病率は人口10万人中、24.1人、ポリオ経験者のPPS発症率はおよそ75%とみられていますが、検診受診者は年々高齢化しPPSと診断される割合は増えています。ポリオ経験者で身体障害者手帳保持者(肢体不自由)が約5万人であることから予想すると、PPS患者は少なくとも約4万人はいると考えられています。

 

発症のメカニズムと治療方針
ポリオウィルスの攻撃で一部の運動ニューロンは死滅します。一方、生き残った運動ニューロンはウィルスに対抗するかのように、生存している軸索と機能を失った筋細胞に再接続し、機能を蘇らせます。そして、完全復活
とはいえませんが筋力は回復します。

安定期は通常15年、20年と続きますが、加齢やオーバーワークなどにより、再び軸索と運動ニューロンに危機が訪れ、ついにそれらが機能不全に陥る時、安定していた筋力は低下や萎縮という問題に直面します。そして、ポストポリオ症候群、PPSの症状が表れます。
例えば、代表的な症状である「普通でない疲労」は新たに起こった筋力低下の影響で、その近辺の末梢神経や筋・関節に余分な負担がかかるためと考えられています。
PPSは、例えると、10人でやってきた仕事を、5人で処理しなければならなくなり、残業の連続で何とか対応してきたが、年齢やストレスから5人の中に体調不良で休みがちになるメンバーが出て、生産性低下の問題が出てきた。という話に似ていると思います。治療方針は、この例でいえば、残され、奮闘努力してきたこの「5人の健康」、本題のポリオの話に戻れば、「死滅を免れた運動ニューロンと過重負担に耐えてきた筋肉」に着目し、必要な栄養などを十分に補給するとともに、オーバーワークを控え、無理のない運動療法によって補強を行なう。抽象的ですが、これがPPS治療の柱になると思います。

 

2016年7月16日の「ポリオの会」定例会で、九州労災病院門司メディカルセンター院長の蜂須賀研二先生が講演された「古くて新しい話題:ポリオ」の資料の中から、特に気になったものを列挙させて頂きます。

『ポリオの会は、ポリオ体験者やご家族、医療関係者、応援して下さる方々の集まりで、 体験者同士の情報交換を主な目的にしています。』


ポリオとは
 『ポリオ後症候群(PPS)の本態は末梢神経の先っぽが壊れて筋が萎縮するということ
疲労感の評価の仕方
・突然の膝折れ、立ち上がりの困難さ、階段昇降、散歩、水溜りを飛び越える動作などでも、

 過去との比較による情報は客観性が高い。
理学的診察
・感覚神経の障害(痺れや知覚鈍麻)はポリオには無いものなので、これがある場合はポリオ

 以外を考える必要がある。
臨床検査
・筋電図のF波:上下肢の神経の伝導速度を測り、F波に異常な波形が出ていないか確認する。

 ※F波とは、電気刺激が中枢側に伝って前角細胞にガツンと当たってまた降りてくる時の波。ポリオは

  前角細胞の障害なので、ここの障害によりF波に何らかの異常が出る。
ポリオ後症候群の治療
・筋力低下対策
 ・廃用予防は活動的な生活を行うこと(過用を避ける)
 ・徒手筋力テスト4(6段階。5が正常で100%、4は75%、0が最下位で0%。「4」は重力

  +ある程度の抵抗に対抗できる筋力)であれば筋トレは可能
 ・遠心性収縮は筋障害のリスクがあるので避ける(筋が縮みながら引き伸ばされる運動で、

  アスリートが瞬発力強化などに用いる手法、プライオメトリクスともいう)。例えば階

  段昇降、山登りなどは遠心性収縮。平地歩行については問題なし!
 ・自分のペース配分を守る
・薬物療法
 ・確立していない。
 ・使いすぎや酸化的ストレスによる悪化には、神経や酸化的ストレス防止として、ビタミ

  ンEやビタミンCが良い。
 ・神経再生促進には、ビタミンB12が良い。
・ライフスタイルの再構築
 ・頑張りすぎない。ただし、生きがいになっているような楽しいことは無理をしない範囲

  でやった方がよい。
 ・適度に休みをいれる(末梢神経障害で再生した筋肉は、筋疲労を生じやすい
 ・補装具を活用して肉体的な負荷を減らす

 

今回のブログは、ポリオとポストポリオ症候群(PPS)の特徴などを知るというものでした。

命題である、患者さまへの治療については、「ポリオの会」の会員になったこともあり、生きた情報を学び、鍼灸治療に反映させたいと考えています。

厚生労働省 統合医療情報発信サイト

統合医療について調べていたところ、この「統合医療情報発信サイト」を見つけました。
これは厚生労働省による運営サイトで、非常によくできていると思います。簡単に概要をご紹介させて頂きます。

「統合医療」情報発信サイトは、統合医療について信頼できる、正しい情報を紹介しているウェブサイトです。

情報発信が目的なので、事実に基づいた有益な内容であれば、海外発のレポートでも全く問題ないと思います。その海外情報の発信元は現在のところ、NCCIH:国立補完統合衛生センター[米国]、NCI:国立がん研究所[米国]、ODS:国立衛生研究所(NIH)内のダイエタリーサプリメント室[米国]となっています。

また、「統合医療エビデンス」の中の「コクランレビュー」にアクセスすると、臓器・疾患別に整理された[補完代替医療]のトピックスが充実しています。ただし、こちらは和訳されていないものもあります。

医学論文のシステマティック・レビューを行なう国際的団体のコクラン共同計画が作成されているものです。

ところで、「そもそも、厚生労働省の統合医療に対する取り組みの目標、目的などはどうなっているんだろう?」

と気になり、調べた結果は以下のようなものでした。
・平成22年2月:統合医療プロジェクトチームを厚生労働省内に設置。

 「統合医療」に関する現状の把握 と今後の取組方策について概括的に検討。
・「統合医療」に関する知見の創出を目的として、厚生労働科学研究が実施された。
 ・ 平成21年度  8課題(予算額:約8千万円)
 ・ 平成22年度 34課題(予算額:約10億円)
 ・ 平成23年度 36課題(予算額:約 8億4千万円)
 ・並行して「統合医療」に関する実態把握等を目的として、平成22年度の厚生

  労働科学特別研究において、以下について研究を実施。 (予算額;約1,200

  万円) 
  ・「統合医療」に関する科学的な評価法の検討
  ・国民による「統合医療」利用の調査   
  ・海外における情報発信に関する調査  等

・平成25年2月「これまでの議論の整理」が発表された。

 「おわりに」には次のことが書かれています。
  『本検討会では、今後の「統合医療」のあり方に関し、様々な議論が交わさ

  れた。 一例としては、これまで近代西洋医学が、国民の健康の向上に大き

  な成果を挙げてきた一方で、様々な病態が解明されていくに従い、医師等

  の専門性が臓器別等に細分化されていく中で、患者全体を診る全人的医療

  の重要性が話題に上った。また、医師をはじめとして各種の医療従事者等

  が連携して関わっていくチーム医療の重要性も改めて指摘された。 このよ

  うに、今回の検討においては、個別の療法の如何に関わらず、医療とはそ

  もそも誰のためのものであり、今後どうあるべきかといった根本論につい

  て思いを致す場面があった。 これらの議論は極めて本質的なものと言え、

  今「統合医療」に関する科学的知見が集積され、その詳細が明らかに

  されていく中でも、医療に関わる様々な立場の者にとって、引き続き意識

  されるべき命題と言える。』

 

そして、平成27年度に向けて以下のような要領が発表されました。これを見ると、 情報発信及び情報発信に伴う照会等、 国内外研究機関との連携、 「統合医療」サーベイランスが今後の取組の柱になるようです。

平成27年度 「統合医療」に係る情報発信等推進事業委託費 実施団体公募要領

高齢者の筋トレ(ダイナペニアという問題)

年齢に関係なく筋力はアップするということは知っていましたが、高齢者の中には筋肉は少なくないのに、歩行する能力が著しく低下していたり、体を動かしたり重いものを持ったり、あるいはビンのふたを開けたりする力が、明らかに衰えているのを目にする機会は多いように感じていました。
今月届いた「月刊トレーニングジャーナル5月号(No.451)」の「走れるだけでいいのか-高齢者と筋力」と題する、帝京大学医療技術学部の川田茂雄先生の記事には、その疑問に対する答えがありました。

 

「月刊トレーニング・ジャーナル2017年5月号(通巻451号)」

ブックハウス・エイチディ

ダイナペニア
この記事の中に出てくる「ダイナペニア」について調べてみたところ、次のようなものでした。 
2008年にダイナぺニア(dynapenia)という概念を提唱した、Brian C. ClarkとTodd M. Maniniは2012年の論文で、高齢者の筋の老化は、筋肉量よりも骨格筋の力を産生する能力、もしくは神経活動の障害に大きく関与すると示唆しています。
つまり、高齢者の筋力の低下は筋肉量の低下だけでは説明できないこと、何歳からという分類は簡単ではないと思いますが、少なくとも、若者とは明らかに異なる体のメカニズムが高齢者には存在することが分かりました。

 

以下はこの記事に掲載されていた興味深いグラフです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは70歳~79歳の男女の体重、筋肉量、筋力を5年間追跡調査したものです。左の「体重減少群」は、筋力(破線)、筋肉量(実線)ともに減少していますが、筋力の減少(破線)の方がより大きく低下しています。一方、右の「体重増加群」では筋肉量(実線)は増加しているにもかかわらず、筋力(破線)は低下しています。これらは、まさに高齢者の筋力低下が筋肉量以外の要因が大きいということを示しています。

高齢者の筋力低下

米国65歳以上の男女の10~18%程度は10ポンド(約4.5kg)の荷物を持ち上げられないとの報告があります。
さらに、高齢者における筋力低下は筋肉量の低下では十分に説明できないこと、50歳以上では1年あたりの筋肉量低下の割合が0.5~1.0%であるのに比べ、筋力低下の割合はその3倍も速く生じることなどの報告もされています。

健康維持などのためにウォーキングやジョギングに取り組む高齢者は少なくありません。このような有酸素運動が、筋肉量や筋力の維持・向上にどの程度期待できるのかに対する報告も出ています。

この調査は平均年齢59歳の男性と同じく57歳の女性を5年間にわたって追跡調査したものです。男女ともに普段からよく運動はしており、男性は週に5日、女性は週に5.4日の頻度で行っています。週あたりの走行距離の平均では、男性が50.9km、女性は48.4kmです。5年間の追跡期間の間に筋肉量は変化しませんでしたが、膝伸展筋力(膝を伸ばす筋力)は1年間あたり約5%、膝屈筋(膝を曲げる筋力)は1年間あたり約3.6%低下していました。このように、これほどの距離を定期的に走っていても、加齢による筋力低下を防ぐことは、有酸素運動だけでは困難です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このグラフは平均年齢90歳の高齢者を対象に8週間、高強度のレジスタンストレーニング(局所あるいは全身の筋群に負荷を与え、筋力・筋パワー・筋持久力といった骨格筋機能の向上に主眼をおくトレーニングの総称)を行った結果です。

左のグラフは膝伸展筋力と6m歩行タイムとの関係を示したもので、筋力と歩行能力は比例しています。この被験者はリハビリセンターに入居している高齢者ということもあり、初期の身体機能は極めて低い状態で、歩行能力では6m歩くのに平均で22.2秒かかっており、中には50秒近くかかっている者もいました。
トレーニングは個々の最大挙上重量80%の重さを負荷とし、膝伸展運動を8回・3セット、これを週3回の頻度で行いました。
右側のグラフはトレーニングの「介入前」と「介入後」の比較ですが、この結果から90歳という高齢であっても筋力はレジスタンストレーニングを行うことにより向上することが確認できます。
なお、被験者からの報告によれば、介入前は歩行の補助器具がなければ歩けなかった者が自力で歩行できるようになり、椅子から一人で立ち上がれなった者が立ち上がれるようになるなど、筋機能の面でも効果があったとのことです。

まとめ(高齢者の筋トレについて)

強い運動には、活性酸素が多く発生するという問題を伴いますが、自分の力で自由に歩ける、移動できるということは健康な日常生活をおくる上で非常に価値があることなので、高齢者のレジスタンストレーニングは専門家による指導の下、積極的に取り組むべきものであると感じました。

仙腸関節障害

「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」の特集は「アスリートの骨盤を守る」がテーマで、5つの寄稿は次のような内容でした。
1.仙腸関節機能障害の病態…坂本飛鳥氏 
2.3D-MRIに基づく骨盤の歪み(マルアライメント)…小椋浩徳氏
3.骨盤マルアライメントと原因因子の臨床評価…杉野伸治氏
4.骨盤マルアライメントの治療…蒲田和芳氏
5.“挫滅マッサージ”によって出現した副作用について…蒲田和芳氏

 

「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」

(ブックハウス・エイチディ)

小椋先生の寄稿の中には、『骨盤に由来する疼痛として知られる仙腸関節障害は腰臀部痛・下肢痛症状を有し、腰痛者の約10~30%程度が罹患していると言われます』とのことが書かれていました。

 

また、“仙腸関節スコア”という判断のための指針には、「座位での疼痛増悪」が指針の中の一つになっています。一方、現在行っている当院の治療では、患者さまから「座っているのがつらい」とのお話があった場合、筋肉へのアプローチとして、体幹伸筋群で深層にあり脊柱と骨盤にまたがる多裂筋を中心にした治療を行っています。多裂筋は以下のように位置的なものだけでなく、骨盤の高さでは厚みのある大きな筋肉であり、着目する筋肉としては間違ってはいません。ただし、骨盤の歪み(マルアライメント)という視点も重要で、考慮するべきではないかと感じていました。


画像出展:【左】「肉単」(エヌ・ティー・エス)    【右】「骨格筋の形と触察法」(大峰閣)

このような背景から今回のテーマとして取り上げたのですが、何をどうまとめるかについては、かなり難しく、悩んだ末に骨盤と仙腸関節に関する基本的な理解を高めることと、従来型腰痛と仙腸関節由来の腰痛との鑑別ができる知識をもつことを目的として進めることにしました。


仙腸関節由来の腰痛
・腰痛は1934年にWilliam Jason Mixterと Joseph Seaton Barrによる椎間板ヘルニアの報告以来、多くは椎間板が原因と考えられるようになりました。それ以前は、仙腸関節が原因というのが整形外科医の常識だったのですが、その発見以来、流れは大きく変わりました。
そして、現代の画像検査技術の進歩により、MRI画像の所見でヘルニアと腰痛との関係性が不確かであることが明らかになり、あらためて仙腸関節が注目されるようになりました。

 

骨盤
・骨盤は左右の寛骨と仙骨・尾骨とでつくられる「骨の器」です。前方は恥骨結合によって軟骨性の連結をしています。一方、後方は仙骨と寛骨とが仙腸関節をつくり、仙腸靱帯・仙棘靱帯・仙結節靱帯によって強く固定され、画像では確認が難しい3~5mmほど動くのみです(これを半関節といいます)。
これは骨盤が体の重さを1本の脊柱から2本の脚(下肢)に伝える支持骨格であると同時に、「骨の器」の中に膀胱・子宮・卵巣・直腸などの臓器を収める保護骨格でもあるため、高い安定性を求められたことにより作られた構造といえます。
そして、わずかに動く半関節であることは、骨盤にかかる力をうまく逃がすクッションの役割を担っています。



画像出展:【上段】「人体の正常構造と機能」(日本時事新報社)

     【下段左】「イラスト解剖学」(中外医学社)

     【下段右】「経絡マップ」(医歯薬出版)

仙腸関節
日本仙腸関節研究会の代表幹事である、村上栄一先生は仙腸関節をビルの免震構造に例え、『日常生活の動きに対応できるよう、根元から脊椎のバランスをとっている』とされ、さらに次のように説明されています。
『人類が四足から二足歩行になる過程で最も変化したのが骨盤構造である。上半身(体重の約2/3を占める)を支えつつ、地面からの衝撃を仙腸関節が数ミリの可動域で緩和している。 解剖学的に、荷重を受ける椎間板や股、膝、足関節の関節面は全て荷重線と直交し、衝撃緩和には不利な構造である。その中で、唯一荷重線と平行なのが仙腸関節である。これは衝撃緩和の主役が仙腸関節であることを示している
そして、仙腸関節の問題点について補足されています。『少ない可動域の関節に不意や過度の負荷が加わると、関節に微小な不適合(仙腸関節障害)を生じやすく、その痛みの多くが関節後方の靭帯に由来すると考えられる』


・下記は免震構造を紹介した図です。ビルの地下で地震による地盤の上下左右捻じれの動きをこの免震構造が吸収します。確かに脊柱をビルとすれば、免震構造に相当する骨盤が機能しないと、地面からの衝撃は脊柱を通じて上半身にある各臓器にまでおよび、健康への影響が懸念される事態が生じます。

一方、免震構造の力を吸収する、積層ゴム、空気ばね、スライダー(せん断力伝達装置)は骨盤でいえば、靱帯、筋・筋膜、結合組織などの軟部組織に相当します。従って、仙腸関節ではこれらの軟部組織がきわめて重要な役割をしており、過度な負荷は組織を傷つけ、炎症を起こしたり硬くなる等の原因となり機能低下を発生させます。

 

画像出展:「構造計画研究所」

“仙腸関節スコア”
仙腸関節障害と腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などとの鑑別をするためのもので、村上栄一先生、黒澤大輔先生が開発されました。
1.指さしテスト
患者に人差し指を使って、痛みがある場所を指してもらいます。指した場所がPSIS(上後腸骨棘)上か、PSISから2cm以内の場所であれば陽性と判断します。
2.鼠径部痛
鼠径部に疼痛があるかどうか尋ねます。ある場合は陽性と判断します。
3.座位での疼痛増悪 
背もたれなしの椅子座位にて、疼痛が増悪する場合を陽性と判断します。坐骨支持での座位姿勢では、仙腸関節が開くため、仙腸関節障害がある場合、疼痛が出現・増悪すると考えられています。
4.誘発テスト(ニュートンテスト変法)
腹臥位(うつ伏せ)をとり、検査者の手掌は患者の腸骨翼におき、仙腸関節をスライドさせるように押します。疼痛が出現したら陽性と判断します。
5.圧痛
触診する前に、閉眼にて、親指を使って4kgの圧で押す感覚を練習します。3回閉眼にて実施し、4kgで押す感覚を取得したら、実際にテストします。親指で4kgの圧で両側のPSIS(上後腸骨棘)と仙結節靱帯を圧迫し、疼痛の有無をみます。疼痛が出現したら、陽性と判断します。

 

画像出展:「月刊スポーツメディスン4月号 No.189」(ブックハウス・エイチディ)

 

コルト・ラリーアート

長らくお世話になったフォルクスワーゲンGolfはこの夏で17年目を迎える予定でした。
昨年あたりから、電気系統、センサーなどに不安定な状態が時々発生しており、後付けのカーナビもアンテナの不具合で使用不可となっていました。
というように、ほとんど待ったなしの状況に加え、週2日の「訪問鍼灸・マッサージ」の仕事が4月から業務委託契約となり、自分の車を使うことになっていよいよ追い詰められていました。
一方、車に期待するのは、俊敏性と瞬発力、コンパクトでキビキビ走る機能性です。サッカー選手でいえば、ペナルティエリアまで切り込んで決定的なラストパスを出すようなプレーです。
環境重視、燃費重視の昨今では、特にコンパクトカーの中では思い当たるものもなく、「ホンダで探そうか」とも考えるものの、実は1代目、2代目がホンダだったこともあり、「それもなぁ」という煮え切らない状態でした。
そんな事態が続く中、運転をしている時に、たまたまワインレッドのコンパクトカーが低音で力強いエンジン音をたてて私の前に現れました。
「むむっ、これはどこぞの車?」とよく見ると、リアの左端の方に「COLT」というプレートがありました。「三菱?」、三菱の車といえば、パジェロか走りのランサーターボという印象で、コルトは完全にノーマークでしたが、地元浦和レッズを応援しているモノとしては、「そういう選択肢もあるかな」と思い、その日の夜にどんな車か詳しく調べてみました。

すると。。。
COLT RALLIART Version-Rは、小型ハッチバックのコルトをベースとしたスポーツモデルで、スポット溶接の増し打ちなどによりボディ剛性が強化されており、エンジンはMIVEC-ターボ 直接4気筒 DOHC 1,468cc。最高出力154PS(マニュアルミッション車は163PS)。販売期間は2006年5月-2012年6月。生産は名古屋製作所岡崎工場で行われていた等々。という紹介がされていました。

このスペックは現Golfの1780cc、150psと比較しても遜色なく、シャキシャキ走ることは想像でき、排気量が少ない分、燃費も良いだろうと思いました。
こうして、埼玉、東京で適当な中古車が販売されていないか探してみたところ、価格的にも予算内におさまりそうなものがありました。
ちょっと迷いましたが、考える時間もあまり残っていなかったので、その週の週末には販売店に行き、実物を確認しその場で購入を決めました。

静寂さや乗り心地は期待していなかったので特に問題なく、瞬発力は予想通りで満足しています。ただし、ヒトで考えれば還暦を超えた年齢になると思うので、乱暴な運転は厳禁であり、安全第一が相棒の務めになるだろうと思います。


付記

そういえば、母方の叔父は身長160cmに満たない小柄なヒトでしたが、70歳までホンダCB750を乗り回していました。その後は、確か、125ccのスクーターで我慢していたように思います。私はスピード狂では決してありませんが、瞬発力にこだわるのは血が関係しているのかもしれません。

画像出展:「Tiend Boxer Clasicas

超回復(筋肉の治療間隔について)

鍼灸治療の間隔は治療効果を “筋肉” だけに絞って考えれば、個人差はありますが中2、3日が理想的とされています。この2、3日とは、「筋肉が回復するのにかかる時間」ということは認識していたのですが、それ以上のことは把握できていませんでした。
先日、ネットで調べものをしていた際、偶然 “超回復” ということを知り、「これだ」と思いました。トレーニングと鍼治療は全く別のもののように思われますが、いずれも筋肉に細胞レベルの損傷を発生させるという点では共通性があり、”超回復” の考え方を当てはめることは問題ないと考えます。
もっと、詳しく知りたいと思い見つけたものが、「Tarzan 2014 No.657」の ”超回復” に関する特集でした。今回のブログはその記事の中から、特に気になった4つの事柄を書き出しています。

なお、Tarzanに掲載されている記事は、立命館大学スポーツ健康科学部 後藤一成先生によって監修されています。

 

「Tarzan 2014No.657」(マガジンハウス)

1.超回復とは 
『超回復とは、カラダの機能が低下し、それが回復したときに、これまで以上の機能を発揮できるようになる状態を示す。筋肉が大きくなるというのは、そのなかのひとつにすぎない。トレーニングを行い、筋肉を疲弊させて機能を低下させる。そして、十分な休息と栄養を与えることで、肥大させる。
これが筋肉の超回復のひとつだ。他にもある。たとえば、持久系のトレーニングをすると少しずつ、速く、長く走れるようになることを我々は経験上知っている。これも超回復にほかならない。さらには、運動を行うと、一時的にカラダの免疫力が落ちることがわかっている。だが、こちらも休むことでこれまでより高い免疫力を得られる。これはヒト、いや動物が生きていくうえで獲得しないといけない能力だったのだろう。あるストレスに晒されたとき、今度はそのストレスにも耐えうるように肉体が変化していく。これらのことを総称して、超回復と呼ぶのである。』

 

2.筋力トレーニング後に筋肉で何が起こっているか 
『筋力トレーニングを行った後に、筋肉では何が起こっているのだろう。実は、アミノ酸を取り込んでタンパク質の再合成を始めるのである。

と、その前に。タンパク質はカラダの中に入ると、その最小単位であるアミノ酸へと分解される。そして、必要に応じて各組織に送られ、再び合成されるのだ。髪、爪、筋肉など多くの組織の材料となる。筋肉で取り込まれたアミノ酸はもちろん、筋肉組織の設計図に沿った合成がなされる。そして、合成が終わる。

つまり超回復が終了するまでには24~48時間かかる。この間はずっとアミノ酸の取り込みが続くのだ。時間に幅があるのは、運動強度が大きければ修復に時間がかかるし、同じトレーニングを行っても、個人によって筋疲労の度合いが違うので、その差もある。とにかく、24~48時間で修復が完了するから、2日~3日の休養を取ってトレーニングを再開すれば、筋肉は途切れることなく、アミノ酸を取り込み続けて大きくなる。

 

3.グリコーゲン・ローディング 
『グリコーゲン・ローディングをご存じだろうか。トライアスロンやマラソンでは普通に行われているエネルギー獲得の方法である。

大会の1週間前あたりから炭水化物の摂取量を減らし、一度、体内の糖質を枯渇させる。そして、3日前ぐらいから多めの炭水化物を取ることで、肝臓や筋肉でのグリコーゲンの貯蔵量を増やすのである。つまり、エネルギーの貯蔵量の超回復を狙った方法である。これで貯蔵量が2倍になったケースもあるというから驚きである。ただ、これは短い期間でエネルギーの貯蔵量を変化させる方法。長期的にエネルギーの貯蔵量を超回復させていく方法はないのであろうか。

実はある。たとえば、ランニングの上級者になると、毎日走っている人もいるだろう。そんな人に試してみてほしいのが、毎日走ることをやめて、1日おきにするのである。といっても、練習量は落とすわけではない。これまで2日でやっていたことを1日で行うのである。1時間走っているなら、まず走って、その後2~3時間休養を入れた後に再び1時間走るのだ。この間に炭水化物は補給しない。その代わり翌日のトレーニングはなし。休養日とする。すると毎日トレーニングするよりも体内に蓄えられるグリコーゲンの量がグッと増えるのだ。エネルギーが増えれば、それだけ長く走り続けることができるようになるのである。
実験では、糖質の貯蔵量が増えるほかに、ミトコンドリアの量が増えることもわかっている。ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギーを作り出す、いわば化学工場である。これが増えるということは、体内に無尽蔵ともいえるほどにある脂肪を上手に使い、エネルギーに変換しやすくなるということ。つまり、持久性の向上にほかならないのである。
こちらも、エネルギー獲得の超回復と呼べそうだ。痩身したい人にも、この方法はオススメできるかもしれない。ただし、低血糖になりすぎると倒れる可能性もあるので、自分のカラダの具合と相談してやりすぎないことが重要だ。

グリコーゲン貯蔵量は増やせる 毎日トレーニングを行った群と、1日2回行って1日を休養に充てた群を比較。トレーニング回数では2群に差はない。結果は1日2回の群で筋グリコーゲン量の有意な増加が確認された。 

画像:「Hansen et at.,2005より作図

このようなサイトもありました。

4.マッスルメモリー 
『筋力トレーニングを行って、超回復が起こり、逞しいカラダになった。ところが、とある事情があってトレーニングを中断しなくてはならなくなってしまう。
こんなとき、筋肉は正直というか、1年も経てばトレーニング前の状態に戻ってしまう。あら悲しや! ところが、である。これまで行ってきたトレーニングが無駄になってしまうかというと、そうではないのである。たとえば、筋力トレーニングをまったくやったことのない人が、カラダの変化を感じるまでには約3か月かかる。
だが、継続してトレーニングを続けてきた経験があれば、1か月ほどで、カラダは変化するし、数か月も経てば筋肉の量や筋力が戻ってくるのである。この現象をマッスルメモリーと呼ぶ。これも、筋肉の超回復のひとつであろう。ただ、どうしてこんなことが起こるのかはわかっていない。しかし、筋肉が大きくなるのは、神経系やホルモンなどの内分泌系などさまざまな要因が影響を及ぼす。それらが以前のトレーニング時と同じ働きをするのかもしれない。』

スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ

凄いカリスマなんだろうと思っていました。そして、凄いカリスマとはどういう事なんだろう、どういう人なんだろうと気になっていました。」
スティーブ・ジョブズが他界した2011年は日本では東日本大震災があった年です。おそれながら、私は退職後、国家試験に向けてスタートした年でした。スティーブ・ジョブズの伝記が出版されたのは知っており、是非とも読みたいと思っていましたが、その余裕はなく、今回やっとその機会を作ったというわけです。
Ⅰが445ページ、Ⅱが430ページ、全41章の力作で、内容は想像を超えていました。今後50年間、ビジネス界においてスティーブ・ジョブズを超えるカリスマ、変革者は現われないだろうと感じました。そして、自分のブログにスティーブ・ジョブズを記録しておきたいと思いました。
ジョブズ曰く「洗練を突きつめると簡潔になる」ということなのですが、ずいぶんと長い長いブログになってしまいました。そのため、目次を付けさせて頂くことにしました。ネットで調べた事などがわずかに含まれていますが、すべて「スティーブ・ジョブズⅠⅡ」(講談社)の本の内容に基づいています。特に『』内の文章は、完全な引用です。



目次

1.ジョブズの功績
2.「最後にもうひとつ……」
3.スティーブン・ポール・ジョブズ
4.アップルコンピュータ
5.新ロゴ
6.現実歪曲フィールド (Reality distortion field / RDF)
7.“1984年”マッキントッシュ
8.1985年9月17日 会長職辞任のレター
9.アートとテクノロジーの交差点 
10.アップルの苦闘とジョブズ復活
11.社内改革
12.ジョブズの集中原理
13.シンク・ディファレント
14.iCEO
15.iCEOからCEO
16.iPhone開発の舞台裏
17.2011年8月24日の取締役会
付記1.「時代は変わる(THE TIMES THEY ARE A-CHANGIN)」ボブ・ディラン 1963年
付記2.著者略歴:ウォルター・アイザックソン(Walter Isaacson)

1.ジョブズの功績
これは最終章である第41章「受け継がれてゆくもの 輝く創造の天空」のはじめに出てきます。ジョブズの功績をその強烈な性格に重ねて解説がされています。
集中力もシンプルさに対する愛も、「禅によるものだ」とジョブズは言っています。そして、それに対して著者は次のようなことを続けていますが、私はジョブズの真骨頂とは、これではないかと思います。


『残念ながら、禅の修行によっても、禅的な穏やかさは心の平穏をジョブズは得られなかったが、これもまた、ジョブズらしさの一面と言える。ジョブズはせっかちでいらついていることが多く、それを隠そうともしない。ふつうの人間は心と口のあいだに調整器があり、凶暴な感情やとげとげしい衝動を適度に和らげて外に出す。ジョブズは違う。いつも、残酷なほど正直なのだ。「オブラートにくるんだりせず、ガラクタはガラクタというのが僕の仕事だ」』


この章で紹介されている業績は以下の11になります。原文のままです。
●アップルⅡ―ウォズニアックの回路基板をベースに、マニア以外にも買えるはじめてのパーソナルコンピュータとした。
●マッキントッシュ―ホームコンピュータ革命を生み出し、グラフィカルユーザインターフェースを普及させた。
●「トイ・ストーリー」をはじめとするピクサーの人気映画―デジタル創作物という魔法を世界に広めた。
●アップルストア―ブランディングにおける店舗の役割を一新した。
●iPod―音楽の消費方法を変えた。
●iTunesストア―音楽業界を生まれ変わらせた。
●iPhone―携帯電話を音楽や写真、動画、電子メール、ウェブが楽しめる機器に変えた。
●アップストア―新しいコンテンツ製作産業を生み出した。
●iPad―タブレットコンピューティングを普及させ、デジタル版の新聞、雑誌、書籍、ビデオのプラットフォームを提供した。
●iCloud―コンピュータをコンテンツ管理の中心的存在から外し、あらゆる機器をシームレスに同期可能とした。
●アップル―クリエイティブな形で想像力がはぐくまれ、応用され、実現される場所であり、世界一の価値を持つ会社となった。ジョブズ自身も最高・最大の作品と考えている。

2.「最後にもうひとつ……」
これは、同じく最終章にあり、伝記の最後を飾っています。この中から特に印象に残ったものをご紹介します。

 

 

『いろいろな話をするなかで、自分はなにをしてきたのか、自分はなにを後世に残すのかについても、ジョブズは繰り返し語ってくれた。それを彼自身の言葉で紹介しよう。』


Ⅱ-p424:『僕は、いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈にがんばる会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん、利益を上げるのもすごいことだよ?利益があればこそ、すごい製品は作っていられるのだから。でも、原動力は製品であって利益じゃない。スカリーはこれをひっくり返して、金儲けを目的にしてしまった。ほとんど違わないというくらいの小さな違いだけど、これがすべてを変えてしまうんだ―誰を雇うのか、誰を昇進させるのか、会議でなにを話し合うのか、などをね。
「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、なにを望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。ヘンリー・フォードも似たようなことを言ったらしい。「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、“足が速い馬”と言われたはずだ」って。欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ。』

 

Ⅱ-p425:『文系と理系の交差点、人文科学と自然科学の交差点という話をポラロイド社のエドウィン・ランドがしているんだけど、この「交差点」が僕は好きだ。魔法のようなところがあるんだよね。イノーベーションを生み出す人ならたくさんいるし、それが僕の仕事人生を象徴するものでもない。アップルが世間の人たちと心を通わせられるのは、僕らのイノベーションはその底に人文科学が脈打っているからだ。すごいアーティストとすごいエンジニアはよく似ていると僕は思う。どちらも自分を表現したいという強い想いがある。たとえば初代マックを作った連中にも、詩人やミュージシャンとしても活動している人がいた。1970年代、そんな彼らが自分たちの創造性を表現する手段として選んだのが、コンピュータだったんだ。レオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロなどはすごいアーティストであると同時に科学にも優れていた。ミケランジェロは彫刻のやり方だけでなく、石を切り出す方法にもとても詳しかったからね。』

 

Ⅱ-p427:『スタートアップを興してどこに売るか株式を公開し、お金を儲けて次に行く―そんなことをしたいと考えている連中が自らを「アントレプレナー」と呼んでるのは、聞くだけで吐き気がする。連中は、本物の会社を作るために必要なことをしようとしないんだ。それがビジネスの世界で一番大変な仕事なのに。先人が遺してくれたものに本物をなにか追加するにはそうするしか方法はないんだ。1世代あるいは2世代あとであっても、意義のある会社を作るんだ。それこそウォルト・ディズニーがしたことだし、ヒューレットとパッカードがしたこと、インテルの人々がしたことだ。彼らは後世まで続く会社を作った。お金儲けじゃなくてね。
アップルもそうなってほしいと僕は思っている。』

 

Ⅱ-p428:『僕は自分を暴虐だとは思わない。お粗末なものはお粗末だと面と向かって言うだけだ。本当のことを包みかくさないのが僕の仕事だからね。自分でなにを言っているのかいつもわかっているし、結局、僕の言い分が正しかったってなることが多い。そういう文化を創りたいと思ったんだ。
僕らはお互い、残酷なほど正直で、お前は頭のてっぺんから足のつま先までくそったれだと誰でも僕に言えるし、僕も同じことを相手に言える。ギンギンの議論をしたよ。怒鳴り合ってね。あんないい瞬間は僕の人生にもそうそうないほどだ。僕は、「ロン、この店はまるでクソだね」ってみんなの前で言える。全然平気なんだ。「こいつのエンジニアリングは大失敗だったな」って、責任者を前にしても言うこともできる。超正直になれる―これが僕らの部屋に入る入場料なのさ。
もっといいやり方があるかもしれない―みんなネクタイをして上流階級の言葉を使い、遠回しに非難するような感じで話し合う紳士のクラブ、みたいにね。でもそんなやり方、僕の知っているなかにはない。カリファルニア中産階級の出だからね。』

 

Ⅱ-p428:『前に進もうとし続けなければイノベーションは生まれない。ディランはプロステストソングを歌い続けてもよかったし、おそらくはそれで十分に儲かったはずだ。でも、彼はそうしなかった。前に進むしかなくて、1965年にエレキを採用したんだけど、それで多くのファンが離れていった。
1966年のヨーロッパツアーが最高だ。アコースティックギターで何曲か演ってすごい拍手を受けるんだ。で、のちにザ・バンドとなる連中をステージに上げるとエレキで演奏をはじめて、会場からブーイングが出たりする。「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌おうとした瞬間には、会場から「裏切り者!」って声が上がってね。それにディランは「めいっぱいでかい音で演るぞ!」ってがんがんにいくんだ。ビートルズも同じだった。進化し、前に進み続けるんだ。そうでなければ、ディランが言うように、「生きるのに忙しくなければ死ぬのに忙しくなってしまう」からね。』

 

Ⅱ-p429:『なにが僕を駆り立てたのか。クリエイティブな人というのは、先人が遺してくれたものが使えることに感謝を表したいと思っているはずだ。僕が使っている言葉も数学も、僕は発明していない。自分の食べ物はごくわずかしか作っていないし、自分の服なんて作ったことさえない。
僕がいろいろできるのは、同じ人類のメンバーがいろいろしてくれているからであり、すべて、先人の肩に乗せてもらっているからなんだ。そして、僕らの大半は、人類全体になにかをお返ししたい、人類全体の流れになにかを加えたいと思っているんだ。それは、つまり、自分にやれる方法でなにかを表現するってことなんだ―だって、ボブ・ディランの歌やトム・ストッパードの戯曲なんて僕らには書けないからね。僕らは自分が持つ才能を使って心の奥底にある感情を表現しようとするんだ。僕らの先人が遺してくれたあらゆる成果に対する感謝を表現しようとするんだ。そして、その流れになにかを追加しようとするんだ。
そう思って、僕は歩いてきた。』

3.スティーブン・ポール・ジョブズ
スティーブ・ジョブスは養子として大切に育てられました。以下はそれに関するものです。
●実母ジョアンは親切な医師を頼ってサンフランシスコに行き、その医師により出産後の養子縁組をアレンジしてもらった。ジョブスは当初は弁護士の一家に引き取られることになっていたが、先方が女の子を希望していたため成立せず、代わりに、機械に情熱を傾ける高校中退の父・ポールと会計事務の仕事に就くまじめな母・クララの息子、スティーブン・ポール・ジョブズとなることになった。
●ジョブズは養子だった当時について次のように語っています。『養子だと知っていたから独立心が強くなったという面はあるかもしれない。でも、捨てられたと思ったことはないんだ。いつも、自分は特別な存在だと感じていた。両親が大事にしてくれたからだ』
●マウンテンビューの自宅で、父親から機械や車について手ほどきを受ける。「スティーブ、ここがおまえの作業台だよ」と言いながら、父親は、ガレージにあったテーブルの一部に印をつけてくれた。
50年後のいまも、マウンテンビューの実家には父親が作った柵が家を取り囲んでいる。ジョブスは、その柵を著者(ウォルター・アイザックソン)に見せながら、「戸棚や柵を作るときは、見えない裏側までしっかり作らなければならないと教えられた。きちんとする人が大好きな人だった。見えない部品にさえ、ちゃんと気を配っていたんだ」と話しています。

 

マウンテンビューです。

画像出展:「Aerialarchives.com

4.アップルコンピュータ
『ジョブスをウォズニアック(スティーブ・ウォズニアック:もう一人の創業者、ジョブズより5歳年上、彼の弟がジョブスと同じ水泳チームにいた。そして、エレクトロニクスについてはジョブズなど足元にもおよばないほど詳しかった。当時、HP社のエンジニアでもあった)が空港で出迎え、ロスアルトスまでの車中でいろいろな名前を検討したマトリクスなど、技術系らしい名前も検討した。エグゼクテックなどの造語も飛び出した。パーソナルコンピュータズなど、わかりやすいがつまらない名前も検討した。翌日には書類を用意したいとジョブスが考えていたため、時間はあまりなかった。そして、ジョブスが「アップルコンピュータ」を提案する。「僕は果食主義を実践していたし、リンゴ農園から帰ってきたところだったし。元気がよくて楽しそうな名前だし、怖い感じがしないのもよかった。アップルなら、コンピュータの語感が少し柔らかくなる。電話帳でアタリより前にくるのもよかった」翌日の昼までにもっといい名前を思いつかなければアップルにしようとジョブズが宣言し、結局アップルに落ちつく。』


そして、「素晴らしいデザインとシンプルな機能を高価ではない製品で実現する」これが、アップルがスタートした時のビジョンであり、目標は競争に打ち勝つことでもなければお金を儲けることでもない、可能な限りすごい製品を作ること、限界を超えてすごい製品を作ることでした。

5.新ロゴ
『新しいロゴの制作を任せられたのは、アートディレクターのロブ・ヤノフだ。「かわいいのはやめてくれよ」とジョブズに指示されたヤノフは、リンゴをモチーフとしたロゴ、2種類を提出。ひとつは完全なリンゴ、もうひとつは一口かじった形だった。かじられていないほうはサクランボに見えたりするからと、ジョブズはかじられたほうのリンゴを選んだ。色はアースカラーのグリーンと空のブルーをベースにサイケデリックな色を挟み、ストライプ状にした6色カラーだ(印刷コストがすごくかさむロゴである)。パンフレットの表紙上部に、レオナルド・ダ・ビンチのものとされる格言を置いた。その後、ジョブズのデザイン哲学を支えることなる一文だ-「洗練を突き詰めると簡潔になる」。』

6.現実歪曲フィールド (Reality distortion field / RDF)
第11章は、この「現実歪曲フィールド」が取り上げられています。その書き出しは次のようなものです。


『アンディ・ハーツフェルドはマックチームに参加したとき、「やらなければならない仕事が大量にある」と、もうひとりのソフトウェアデザイナー、バド・トリブルから教えられた。
ジョブズが設定した期限は1982年1月。1年もなかった。「それは無理だ。不可能だ」とハーツフェルドは抗議したが、ジョブズは反対意見に耳を貸さないのだとトリブルは言う。「この状況は“スタート・レック”の言葉が一番よく表現できると思う。スティーブには、現実歪曲フィールド(Reality distortion field / RDF)があるんだ」 「は?」「彼の周囲では現実が柔軟性を持つんだ。誰が相手でも、どんなことでも、彼は納得させてしまう。本人がいなくなるとその効果も消えるけど、でも、そんなわけで現実的なスケジュールなんて夢なのさ」
名付け親のトリブルによると、この言葉は、“スター・トレック”の「タロス星の幻怪人」という回から思いついたという。宇宙人が精神力だけで新しい世界を生み出すお話だ。』


この、「現実歪曲フィールド」はこの本の中で度々出てきます。スティーブ・ジョブズの「特別なもの」をうまく表現できるのだと思います。以下、「現実歪曲フィールド」を列挙します。
●「現実歪曲フィールド」は警告でもあり賛辞でもある。
●「現実歪曲フィールド」は、カリスマ的な物言い、不屈の意志、目的のためならどのような事実でもねじ曲げる熱意が複雑に絡みあったものである。
●「現実歪曲フィールド」から逃れる術はない。自然界にはそういう力も存在するのだと受け入れてしまう。ジョブスは自分自身さえだましてしまうようにみえる。そうして自ら信じ、血肉としているからこそ、他の人たちを自分のビジョンに引きずりこめる。
●「現実歪曲フィールド」の根底にあったのは、世間的なルールに自分は従う必要がないという確固たる信念。そして源は頑固で反抗的な彼の個性だろう。

7.“1984年”マッキントッシュ   
1983年春、ジョブズは製品と同じくらい革命的で驚くようなコマーシャル(CM)を欲しいと考えていました。“1984年”は小説家、ジョージ・ウォーエルの作品であり、パーソナルコンピュータは個人に力を与えるツールではないという見方にをつながるものでした。そして、提案されたCMは、その“1984年”を否定し、体制に立ち向かう戦士のようにマッキントッシュを位置づけました。 
このCMを担当したのはシャイアット・デイ社、アップル担当はその後30年にわたってジョブズと付き合うことになった、リー・クロウ。強行に主張するジョブズは撮影だけで75万ドルという前代未聞の予算を用意しました。しかしながら、完成したCMを見た取締役会はその破壊的インパクトを恐れ、承認せずCEOのジョン・スカリーは広告代理店のシャイアット・デイ社に30秒と60秒のCM枠の売却を指示しました。これにより1本、30秒枠は売却されましたが、60秒枠はシャイアット・デイ社の消極的反抗により残されており、そして、そのCMはついに放送されました。


『第18回スーパーボールはロサンゼルス・レイダースがワシントン・レッドスキンズを圧倒し、第3クウォータの前半にもタッチダウンを奪う。その直後、リプレイ映像が流れるはずの場面で米国中のテレビがブラックアウト。2秒後、おどろおどろしい音楽が流れ、行進する男たちのモノクロ映像が不気味にスクリーンを満たす。全米で9600万人以上が、それまで見たこともないタイプのCMに見入った。その最後は、蒸発するように消えていくビッグ・ブラザーを信じられないという顔で見ている男たちの映像に、静かなアナウンスが重なる-「1月24日、アップルコンピュータがマッキントッシュを発売します。今年、1984年が“1984年”のようにならない理由がおわかりでしょう」。
これはもう事件だった。その晩、全国ネットの3大テレビ局すべてと50の地方局がこの広告をニュースで取り上げた。ユーチューブ登場前の時代、これほどの拡散は信じられないレベルだった。評価も高く、TVガイド誌もアドバタイジングエイジ誌も、過去最高のCMだと絶賛したほどだ。』

海軍に入るより、海賊であれ(Why join the navy if you can be a pirate?)
1981年にMAC開発チームのスローガンになっていた言葉です。当時はテキサコ・タワーの屋上に掲げられてたそうです。

画像出展:「Blog!NOBON+

8.1985年9月17日 会長職辞任のレター
マッキントッシュ発売から2年目を迎える前に、ジョブズはアップル社から拒否されます。そして、会長職辞任のレターはアップル社が上場したときのCEOだったマイク・マークラ宛てに送られます。


『1985年9月17日 親愛なるマイク 朝刊に、会長の僕の罷免をアップルが検討しているという記事がありました。どこから出た記事なのかわかりませんが、いずれにせよ、これは誤解を招くとともに僕に対して不公平な記事です。
あなたも覚えているはずですが、木曜日の取締役会で、僕は新会社を作ろうとしていることを話し、会長を辞任したいと申し出ました。
あのとき、取締役会は僕の辞任を受け入れず、1週間待ってくれと言ったはずです。その提案に僕が同意したのは、新会社に取締役が好意的だったから、また、アップルが投資することもあるという話だったからです。金曜日、新会社に参加するメンバーをジョン・スカリーに伝えたときも、アップルと新会社が協力できる分野を検討する意思があると言ってくれました。
ところがその後、会社は態度を硬化させ、僕と新会社に敵対するようになりました。ことここにいたれば、僕としても、辞職願を速やかに受理するよう、アップルに要求せざるを得ません。
ご承知のように、先日行われた組織再編の結果、僕は仕事もなく、定例の経営報告さえも読めなくなりました。僕はまだ30歳。まだまだ、なし遂げたいことがあるのです。
ここまでいっしょにやってきたのですから、別れも友好と威厳に満ちたものにしようではありませんか。 敬具 スティーブン・P・ジョブス』

”新会社”のNeXTコンピュータ

画像出展:「TechCrunch

9.アートとテクノロジーの交差点 
1985年の夏、ジョブズがアップルで地歩を失いつつあった時期のことです。「スター・ウォーズ」の前半三部作を完成させたところだったジョージ・ルーカスは離婚問題から、自身が持つ映画スタジオのコンピュータ部門の売却を模索しており、コンピュータ部門を束ねていたエド・キャットムルに買い手を早く見つけるように指示をしていました。それがジョブズに伝わったのは、ゼロックスPARCから移籍してアップルフェローとなったアラン・ケイのはたらきかけによります。これは、ジョブズが創造性と技術が交わるところに興味を持っていたのを知っていたためです。ジョブズはルーカスのスカイウォーカー・ランチのはずれにある、キャットムルのコンピュータ部門を訪れ、次のようなことを語っています。


『圧倒されたよ。戻ったあと、買おうとスカリーを説得した。でも、アップルの経営陣は興味を示さなくて。僕をたたき出すのに忙しかったしね』


そして、この買収の意義についても語っています。


『「コンピュータグラフィックスに惚れ込んでいたので、どうしても自分で買いたかった。ルーカスフィルムコンピュータ部門の人々と会ったときわかったんだ。アートとテクノロジーを組み合わせるという面で、彼らはずっと先に行ってるって。僕がずっと興味を持っている領域で、ね」
もう数年したらコンピュータは100倍もパワフルになる、そうなればアニメーションやリアルな3Dグラフィックが大きく進む、ジョブズは考えた。
「ルーカスのところの連中が扱っていたのは、すさまじい処理能力を必要とする課題だった。だから、歴史が彼らに味方すると思った。ああいうベクトルは僕の好みだ」
ジョブズが提示した条件は、買い取り額として500万ドル、それに当該部門を独立の法人とする資金、500万ドルだった。ルーカスにとっては不満な条件だったがタイミングはいい。交渉がはじまった。ジョブズは態度が大きく挑発的だと思ったルーカスフィルムの最高財務責任者(CFO)は、序列をはっきりさせようと一計を案じる。まず、ジョブズを含む関係者を集め、その数分後にCFOが登場して、誰が会議の中心なのか示そうとしたのだ。しかし、うまくゆかなかったとキャットムルは証言する。
「おかしな具合になりまして……CFOなしでスティーブが会議をはじめてしまったんです。CFOが来たときには、もう、スティーブが全体を掌握していました。」』


ピクサーはイメージコンピュータとレンダリング(プログラムにより画像や音声を作る)さらに、アニメーション映画やグラフィックスというクールなコンテンツを組み込んだ、3つの要素をもっており、これらは芸術的創造性と技術系ギーク(geek:オタク)を組み合わせるというジョブズの方針と相性が良かったと考えられています。そして、ジョブズはピクサーを次のように評価していました。


『シリコンバレーの連中はクリエイティブなハリウッドの人間を尊敬しないし、ハリウッドの連中は連中で技術系の人間は雇うもので会う必要もないと考える。ピクサーは、両方の文化が尊重される珍しい場所だった』


ジョブズがピクサーにつぎ込んだ資金は、ネクストが赤字の中、アップルで得たお金の半分以上の5000万ドルに近い額とされています。そして、優れた芸術とデジタル技術を組み合わせれば従来のアニメーション映画を一変させられるという直感は、まさに先見の明と言えるものであり、1937年、ウォルト・ディズニーが「白雪姫」を生み出して以来、最大というほどの変化をアニメーション映画にもたらしました。

10.アップルの苦闘とジョブス復活
アップルは1990年代になり、経営環境は厳しさを増していくことになりました。


『アップルの市場シェアは、1980年代末の16パーセントをピークに下がり続け、1996年には4パーセントとなった。スカリーの後任として1993年にアップルのCEOとなったマイケル・スピンドラーは会社をサン、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)などに売ろうとしたがいずれも失敗。1996年2月にはギル・アメリオに交代する。ナショナルセミコンダクター社CEOの経験を持つリサーチエンジニアだ。そのアメリオがCEOとなった1年目、アップルは10億ドルの赤字に転落し、1991年に70ドルだった株価は14ドルと低迷した。このころはテクノロジーバブルで、ほかの会社の株価はどんどん上がっていたというのに、だ。』


このように、極めて苦しい状況が続く中、1994年、ついにジョブズが動くことになります。それは、アメリオがアップルの取締役に就任した直後にジョブズがアメリオにかけた1本の電話です。そして、二人はナショナルセミコンダクター社のオフィスで会うことになりました。


『にこやかなあいさつが2~3分もあったあと(ジョブズにしては異常に長い)、ジョブズが本題を切り出した。CEOに返り咲く手助けをしてほしいというのだ。
「アップルの連中をやる気にさせられる人間はひとりしかいない。あの会社を正せるのはひとりしかいないんだ」
マッキントッシュの時代は終わった、だから、同じくらい革新的ななにかを生み出さなければならない-そう、ジョブズは主張した。
「マックがダメなら、何が代わりになるんですか?」アメリオはそうたずねてみたが、かんばしい答えは返ってこなかったという。「あのとき、スティーブは明確なイメージは持っていなかったようです。ただ、パンチを効かせた売り文句がいろいろとあるだけで」
これがジョブズの現実歪曲フィールドなのかと思い、アメリオはその影響を受けない自分が誇らしかった。そして、ジョブズをぞんざいに追い払った。』


この出来事からおよそ2年後、1996年夏には、問題は想像以上に深刻であることが判明します。それは、アップルが開発中の「コープランド(Copland)」という新しいOS(オペレーティングシステム)が、ベーパーウェア (vaporware:概要が発表はされたものの構想段階や開発段階にあり、まだ完成・公開されるかどうかわからないソフトウェアもしくはハードウェアのこと)で、ネットワークやメモリ保護機能の強化というアップルの二―ズを満足するものではありませんでした。こうして、アップルは「コープランド」に替るオペレーティングシステムを提供してもらえるパートナーを探し、選択するという判断に迫られることになりました。
●ビー(Be)
ビーは元アップル社の社員だったジャン=ルイ・ガゼーが起こした会社です。1996年8月のビーとの交渉では、アップルに他の選択肢はないと踏んでいたガゼーが極めて強気な提案をしており、アップルにとって他の選択肢も検討せざるをえない状況となりました。
●サン(Sun Microsystems)
アップルの最高技術責任者であったエレン・ハンコックはユニックスベースのサンのソラリス(Solaris)を推しましたが、ユーザーインタフェースに課題があるとの評価がありました。
●マイクロソフト
アメリオは徐々にウィンドウズNTに傾いていき、遂にはビル・ゲイツから電話がくるようになります。後に断りの電話を入れることになったのですが、その時、ゲイツは冒頭の2~3分、相当憤慨していたようです。
●ネクスト

『「誰か、この件で電話できるくらいスティーブと親しい者はいないか?」アメリオ(CEO)はこうスタッフにたずねた。2年前のミーティングが険悪な雰囲気で終わったため自分からは電話をかけたくなかったのだ。だが、その必要はなかった。ネクスト側から接触の動きがあったからだ-ネクストで製品マーケティングを担当する中間管理職、ギャレット・ライスがジョブズに無断でエレン・ハンコックに電話をかけ、ネクストのソフトウェアを見てみないかと声をかけてきた。ハンコックは部下を派遣する。
1996年11月の感謝祭が来るころ、両社は実務者レベルで話し合うようになっていた。そして、ジョブズからアメリオに直接電話が来る。
「これから日本に行くけど1週間で戻る。戻ったらすぐに会いたいと思う。それまで、なにも決めないでほしい」
過去の経緯があったにもかかわらず、アメリオはこの電話に心を躍らせ、いっしょに仕事ができるかもしれないとうれしくなった。
「あの電話をスティーブから受けたときは、ビンテージのワインの香りをかいだような気がしました」
ジョブズと会うまでビーともほかのどことも、どのような取り決めもしないとアメリオは約束する。
ジョブズにとってビーとの対決はビジネスと私怨、ふたつの意味があった。ネクストは倒れかけており、アップルによる買収は喉から手が出るほど欲しい救命策だった。同時に、ジョブスには、かなり強い恨みを抱く複数の相手がおり、ガゼーはそのトップ近くに位置していた(スカリーよりも上かもしれない)』


『1996年12月2日、スティーブ・ジョブズは、追放から11年ぶりにアップルのクパチーノキャンパスに足を踏み入れ、役員用会議室でアメリオとハンコックを前にネクストの売り込みをおこなった。ホワイトボードにいろいろと書き殴りながら、

「ネクストを契機として、コンピュータシステムに4つの波が生まれた」

と語る。ビーOSは完全でもなければネクストほど優れてもいない。なんの敬意も感じていないふたりを相手にしているというのに、この日のジョブズは魅惑の術を全開にしていた。控えめなふりも最高だった。
「それはありえないと思うかもしれませんが、お望みの形で交渉に応じます。ソフトウェアをライセンスする、会社を売却する、あるいは別の形でも」
じつはすべてを売ってしまいたいとジョブスは考えており、売却をプッシュする。
「詳しく見れば、ソフトウェア以上のものが欲しいと思われるはずです。人材ごと、会社全体を買収したいと思うはずです」』


ネクストとビーの最終決戦は、1996年12月10日、パロアルトのガーデンコートホテルで行われました。先攻はネクスト、ジョブズは催眠術のような営業テクニックを披露しました。アメリオはその時の様子を次のように話しています。


『ネクストオペレーティングについてスティーブが展開したセールストークは目がくらむほどのものでした。マクベスを演じるローレンス・オリビエを描写しているかのように利点や強みを次々とたたえていったんです』


後攻のガぜーは、まるで契約は自分のものに決まっているかのようなふるまいで、新しいプレゼンテーションはなく、ごく短時間に終わりました。結果は明白でした。
ネクスト買収を発表する数日前、アメリオはジョブズに、アップルでオペレーティングシステムの開発を統括してほしいとの要請をしています。しかしジョブズはなかなか返答せず、発表当日になってもジョブズの待遇は決まっていませんでした。その発表当日、アメリオはジョブズをオフィスに呼んだもののジョブズははっきりした態度をとりません。発表を前に必死なアメリオに対し、ジョブズは最後の最後に「会長のアドバイザー」を要求し決着がつきました。
買収は、1996年12月20日の夜に発表され、ジョブズの役割は、本人の希望どおり、非常勤のアドバイザーとされました。ジョブズの復活はアップル社によるネクスト社買収というシナリオによって成されました。
翌日、ピクサーに出社したジョブズは、ジョン・ラセターのオフィスへ向い、アップルで仕事をすることの許しをえるために、次のような言葉を残しています。なお、ラセターはこの申し入れを気持ちよく受け入れています。


『このせいで家族との時間がどれだけ減るだろうか、また、僕のもうひとつの家族、ピクサーとの時間がどれだけ減るだろうかとずっと考えていた。でも、アップルがあったほうが世界は良くなる。そう信じるからやりたいと思うんだ』

ネクストとビーの最終決戦の舞台となった、パロアルトのガーデンコートホテル

画像出展:「Booking.com

 

11.社内改革
アメリオが解任となり、暫定CEOとなったフレッド・アンダーソンはジョブズが実権を握ることも理解していたと思います。ジョブズが認めた発表文書には、「90日間、アップルへの関与を増やし、新しいCEOが見つかるまでアップルを支援することに同意した」との内容が記述されていました。


『「みんな、ウチのなにが問題なのか、ちょっと教えてくれないかな」
ところどころからつぶやきがあがるが、ジョブズはそれをさえぎるように宣言する。
「製品だ!」
「じゃあ、製品のなにが問題なんだ?」
また、ところどころから答えようとする声があがる。それにかぶせ、ジョブズが正解を叫ぶ。
「製品がボロボロ! セクシーじゃなくなってしまった!」』


こうして、表向きは非常勤のアドバイザーであったジョブズは以下のような社内改革に着手しました。
製品のデザイン
切り捨てる事業の選定
サプライヤーとの交渉
広告代理店の再評価
ストックオプションの価格改定(株価の大幅下落でオプションは価値がなくなっていた。当時、このやり方は合法だったが、企業としてすべきではないと考えられていた。取締役会は最大2ヶ月の調査を提案したがジョブズは却下し、強引に承認を取り付けた)
続いてターゲットにされたのは、承認されるも敬意を持てない取締役会でした。


『「この形はやめよう。これじゃうまくいかない。会社がぐちゃぐちゃの状態なのに取締役会の乳母役までやっているヒマはないんだ。取締役は全員、辞めてくれ。そっちが辞めないなら僕が辞め、月曜日からは出社しない」

例外として残っていいのはエド・ウーラード(デュポンの元CEO、アップルの取締役会長でジョブズを推していた)だけというのだ。取締役のほとんどはあっけにとられた。ジョブズ自身は、フルタイムで復帰することも「アドバイザー」以上の役割を果たすことも約束しない。それなのに、全員に辞任を迫る力があると感じているわけだ。認めたくないが、実際、その力がジョブズにはあった。ジョブズに怒って出て行かれたらどうにもならないし、そもそもアップル取締役を続けていることに魅力もなくなっていた。
「もううんざりという状況だったし、辞められてほっとした人も多かったはずだ」

とウーラードも証言する。』


この後、ジョブズとウーラードは新しい取締役の選定を一任されます。アップル取締役会の再編はその後何年もかけて、新しい取締役を迎えてゆきます。
『人選のポイントは忠誠心で、極端といえるほどの忠誠心を求めることもあった。ジョブズが招いたのは高い地位にある人ばかりだが、いずれも、ジョブズに畏れや恐れを抱き、また、ジョブスにはいい気分でいてほしいと願っているように見えるメンバーばかりだった』
元証券取引委員長で、アップルコンピュータの熱烈なファンであった、アーサー・レビットはアップル取締役就任を一度は打診されたのですが、取締役会に独立した権限を与えるというコーポレートガバナンスに関するレビットのスピーチをジョブズは読み、就任要請は取り下げるためレビットに電話をいれます。
『アーサー、うちの取締役会は君にとって居心地がよくないだろう。取締役への就任は取り下げるのが一番だと思う。正直なところ、あなたの主張にはアップルの文化にそぐわないところがあるんだ。会社によっては正しい主張だと思うけどね」
レビットはのちにこう書いている。
「あのときは落ち込みました……アップル取締役会はCEOから独立した組織ではない―それは、私の目にはあきらかでした」』

12.ジョブズの集中原理  
『なにをしないのか決めるのは、なにをするのか決めるのと同じくらい大事だ。会社についてもそうだし、製品についてもそうだ』


ジョブズは、アップルに復帰すると同時にこの集中原理を適用していきます。製品レビューでは各部門の官僚主義と小売店の思いつきを満足させるため、どの製品もすさまじい種類が作られていました。マッキントッシュだけでも10種類あまりあり、1400から9600の数字で区別されるというわけのわからない状態でした。これを知った1~2週間後、ついにジョブズの堪忍袋の緒が切れます。


『「もういい!」

全社的な製品戦略のセッションだった。

「あまりにバカげている」
マーカーを手にするとホワイトボードのところへゆき、大きく「田」の字を描く。
「我々が必要とするのはこれだけだ」

そう言いながら、升目の上には “消費者” “プロ”、左側には “デスクトップ” “ポータブル” と書き込む。各分野ごとにひとつずつ、合計4種類のすごい製品を作れ、それが君たちの仕事だとジョブズは宣言した。
「皆、シーンとしてしまいました。」

とシラーは言う。ジョブズがこの件を報告した9月の取締役会もウーラード(取締役会長)によると、皆、あぜんとしたという。
「ギルは毎月のように、製品を増やす承認をしてくれと言ってきました。もっとたくさんの製品がいると言い続けたのです。なのにスティーブは減らせというのです。2マス×2マスの表を書いて、そこに集中すべきだと」
取締役からは反対意見が出た。それは大きなリスクだと。
「大丈夫。うまくやってみせる」
この新戦略の採決はおこなわれなかった。指揮官はジョブズであり、そのジョブズが先陣を切って走っていたからだ。
こうして、アップルのエンジニアとマネージャはわずか4分野に集中することになった。プロ用デスクトップはパワーマックG3、プロ用ポータブルはパワーブックG3.消費者用デスクトップはのちのiMac、消費者用ポータブルはのちのiBookだ。
言い換えれば、プリンターやサーバーなど、4分野以外の事業からは撤退である。』

13.シンク・ディファレント
1997年7月、広告史に残るマッキントッシュの「1984年」CMを作ったシャイアット・デイ社のクリエイティブディレクター、リー・クロウにジョブズが電話をしています。


『「やぁ、リーかい? スティーブだ。じつはね、アメリオが辞任したんだ。ちょっと来てもらえないかな?」
そのころジョブズは広告代理店の見直しを進めていたが、ぴんと来るところがなく、クロウとその会社(名前はTBWA/シャイアット/デイに変わっていた)にもコンペに参加してほしいと思ったのだ。
「アップルはまだ元気だ、いまも特別なんだと示さなきゃいけない」
ウチは営業しないとクロウは答える。
「我々のことはよくご存じなはずです」
そこをなんとか頼むとジョブズ。BBDOやアーノルドワールドワイドといった有名どころを含め、数多くの広告代理店が売込みに来ており、それを押しのけて「昔なじみ」に頼むのは難しいというのだ。では、なにかお見せできるものを持ってクパチーノにうかがいましょう、とクロウも承知した。
私にこの話をしてくれたとき、ジョブズは肩を震わせ、涙を浮かべた。』


そして、ジョブズはこの一件のことについて、次のように語っています。


『このときのことを思い出すと、涙が出るんだ。止まらなくまるほどに。リーはアップルを深く愛してくれているとよくわかった。広告界トップの男だ。営業など10年もしていない。その彼が心を込めたプレゼンをしてくれた。僕らと同じくらいアップルを愛しているからだ。彼らが持ってきたのは、「シンク・ディファレント」というすごいアイデアだ。ほかに比べて10倍はすごいものだった。リーの深い愛と「シンク・ディファレント」のすばらしさ―あのときも込み上げるものがあったし、いま、思い出しても涙が出てしまう。
ときどき「純粋なもの」に出会うことがある。精神や愛という純粋さに。そういうとき、僕はいつも泣いてしまうんだ。心に染みてね。あのときもそうだった。あれは忘れることができない。事務所で彼の話を聞いたときも泣いてしまったし、いま、思い出しても泣けてしまうんだ。』


ジョブズはこの広告は世間に対する広告であると同時に、アップル社内に向けた広告でもあったことを明かしています。


『アップルの人間も、アップルとはなにか、自分たちはどういう人間なのかがわからなくなっていた。それを思い出すきっかけには、誰が自分にとってヒーローなのかを考えてみるといい。あのキャンペーンはこうして生まれたんだ』


以下は完成した60秒のフルバージョンです。
『クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。彼らの言葉に心を打たれる人がいる。反対する人も、称賛する人もけなす人もいる。しかし、彼らを無視することは誰にもできない。なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。』


この中で「彼らは人間を前進させた」など、一部はジョブズ自身が書きました。また、ナレーションはジョブズ自身によるものと、リチャード・ドレイファス(映画俳優)のものと、2つのバージョンが完成していましたが、最後の最後に選択されたのは、ドレイファスのバージョンでした。

 

『僕の声を使った場合、それが僕だとわかった時点で僕の広告だと言われかねない。そうじゃなくて、あれはアップルの広告だから』というのが理由でした。


この広告はテレビだけでなく、ポスターでも展開されました。歴史に残る偶像となった人物の白黒ポートレートで、隅に小さくアップルのロゴと「シンク・ディファレント」という文字だけがあしらわれていました。アインシュタインやガンジー、ジョン・レノン、ボブ・ディラン、ピカソ、エジソン、チャップリン、キングなど、一目でわかる人々だけでなく、マーサ・グレアム、アンセル・アダムス、リチャード・ファインマン、マリア・カラス、フランク・ロイド・ライト、ジェームズ・ワトソン、アメリア・イアハートなど、すぐには判らない場人たちも含まれていました。
登場人物の大半はジョブズがヒーローと思う人々で、リスクを取り、失敗にめげず、人と異なる方法に自らのキャリアを賭けたクリエイティブな人たちです。写真マニアのジョブズは、完璧なポートレートを用意しようと獅子奮迅、妥協を許さず交渉を進めていきます。
ブランドを非常に大切にしたジョブズは、この「シンク・ディファレント」のキャンペーン以来、広告代理店やマーケティング、コミュニケーションのトップを集め、メッセージ戦略について自由な討論を3時間も続けるミーティングを毎週水曜日の午後に開いています。この会議には、もちろん、リー・クロウも出席しています。


『スティーブのようなやり方でマーケティングにかかわるCEOはほかにいません。毎週水曜日、新しいコマーシャルやポスター、ビルボード広告まで、一つひとつ、彼が自分でチェックし、承認するのです』

 

画像出展:「engadget.com」 

14.ICEO
アメリオを追放した10週間前から実質的なリーダーではありましたが、肩書きは単なる「アドバイザー」で、有名無実とはいえ暫定CEOにはフレッド・アンダーソンが就いていました。1997年9月16日、ジョブズはinterimCEO(暫定CEO)に就任すると発表されました(肩書きは、のちに、iCEOと省略される)。このあと数週間、ジョブズと取締役会は本命CEOを探します。コダックのジョージ・M・C・フィッシャー、IBMのサム・パルサミーノ、サン・マイクロシステムズのエド・ザンダーなど、さまざまな名前があげられましたが、ジョブズが取締役にとどまるならCEOにはなりたくないという回答が多く決まることはありませんでした。
12月に入ることには、iCEOという肩書きはinterim(暫定)からindefinite(無期限)へと変化していました。経営はジョブズが続けており、取締役会はCEOの探索をやめていました。
こうして、CEOとなったジョブズは2つの会社を経営することになったのですが、健康問題はこのころのハードワークが原因だろうと考えています。


『あのころはきつかった。本当にきつかった。僕の人生で最悪にきつい時期だった。小さな子どもがいて。ピクサーがあって。朝7時に出勤し、夜は9時に戻る。子どもたちはもう寝ている。口もきけなかった。疲れすぎて、文字どおり口も開けない状態だったんだ。ローリーンと話すこともできない。30分くらいテレビを見てぼーっとするくらいしかできなくて。死ぬかと思ったよ。毎日、黒いポルシェコンバーチブルでピクサーからアップルへと回るんだ。あと、腎臓結石もできちゃってね。病院に駆け込んで鎮痛剤のデメロールをケツに注射してもらったりしたけど、それもしばらくしたらやめてしまった。』


自身の健康を犠牲にしてまで2つのCEOを兼任し、特にアップル再興に心血を注いだ理由は次のようなものでした。


『ジョブズががんばった背景には、息の長い会社を作りたいという情熱があった。ヒューレット・パッカードでアルバイトをした13歳の夏休み、ジョブズは、きちんと経営された会社は個人とは比べものにならないほどイノベーションを生み出せると学んだのだ。「会社自体が最高のイノベーションになることもあるとわかったんだ。つまり、どういうふに会社を組織するのか、だよ。会社をどう作るかはとても興味深い問題だ。アップルに戻るチャンスを手にしたとき、この会社がなければ僕に価値はないとわかった。だから、とどまって再生しようと心に決めたんだ」』

 

スティーブ・ジョブズが興味をもったとされる、HP9100。

画像出展:「HP Computer Museum

アップルを救ったのは、ジョブズの「絞り込む力」でした。アップルに復帰した最初の年、ジョブズは3000人以上を解雇し、バランスシートの改善を図りました。ジョブズが暫定CEOとなった9月に終わった1997会計年度、アップルは10億4000万ドルの赤字でした。ジョブズによると、あと90日で倒産という、まさに瀬戸際だったとしています。
1998年のサンフランシスコ・マックワールドでは、印象的な髭にレザーのジャケットで新しい製品戦略を説明してゆきます。そして、のちにお約束となる一言をはじめて使い、プレゼンテーションを締めています。


『「ああそうだ、最後にもうひとつ……」
このときの「もうひとつ」は「シンク・プロフィット(利益を考えよう)だった。この一言に会場は拍手喝采となった。丸2年の赤字から、四半期で4500万ドルという黒字に転換したのだ。1998年会計年度通期では、3億900万ドルの黒字だった。
ジョブズが復活し、アップルも復活したのだ。』

15.ICEOからCEOへ
ジョブズは、アップル取締役会長のエド・ウーラードから、CEOという肩書きの前について暫定の文字をなくすよう、2年以上にわたって求められていました。しかしジョブズは本決まりのCEOになろうとしないばかりか、「年棒1ドル、ストックオプションなし」という条件でまわりを困らせていました。


『「50セントは出社分で、残りの50セントが成果の評価さ」
ジョブズお気に入りのジョークである。株価はジョブズが復帰した1997年7月の14ドル弱からインターネットバブルのピーク、2000年には102ドル以上になった。1997年当時、少なくともある程度の株は受け取ってほしいとウーラードに頼まれたが、ジョブズは
「アップルでいっしょに働く人たちに、金持ちになりたいから戻ったと思われたくないんだ」
と断っている。この株を受け取っていれば、4億ドル程度になったはずだ。しかしそのあいだ、ジョブズが稼いだ額はわずかに2.5ドルである。
復帰した当時、“暫定” にこだわったのは、アップルの将来がはっきりしなかったからだ。しかし2000年が近づいたころには、ジョブスの復帰でアップルが復活したことは誰の目にもあきらかだった。ジョブズは妻のローリーンと散歩しながら、大半の人にとって形式的な問題にすぎないが本人にとってはこだわりの問題についてじっくりと話し合った。暫定をなくせば、アップルはジョブズが思い描くことすべてのベースとなりうる。コンピュータ以外の分野に参入することもできる。ここにきてジョブズもようやく心を固めた。』

16.IPhone開発の舞台裏
2005年、iPodの販売が急増、前年の4倍、2000万台を出荷し、売り上げの45%を占め、さらにマックの販売にも貢献していました。その一方で、ジョブズは心配していました。


『「スティーブは、我々にとって大きな問題になりそうなことを常に気にしています」
と取締役のアート・レヴィンソンも言う。いろいろと考えてジョブズが達した結論は、

「徹底的にやられる可能性がある機器は携帯電話」

だった。デジタルカメラの市場はカメラ付き携帯電話の普及で食い荒らされていた。携帯に音楽プレイヤー機能が搭載されればiPodも同じようになりかねない―そう、取締役会へ説明した。
「携帯は誰もが持っているので、iPodが不要になってしまうかもしれない」』


最初の製品となった「ROKR(ロッカー)」は共同開発であり、モトローラ、アップル、そしてワイヤレス通信のシンギュラーの寄せ集めでした。

「こんな電話が未来なのか?」

とワイアード誌の2005年11月号の表紙で、ROKERは無残に切り捨てられてしまいます。この一件からジョブズは製品レビュー会議でiPodチームに怒りをぶちまけます。


『「自分たちでやろう」
売られている携帯電話はひどいものばかりで、かつてのポータブル音楽プレイヤーと似たような状況にあるとジョブズは考えた。
「携帯電話のあそこがイヤだ、ここがきらいだとそういう話をずいぶんした。とにかく複雑すぎるんだ。電話帳のように、こんなの使い方がわかる人なんているはずがないと思うような機能がたくさんある。わけわかんないよ」
弁護士のジョージ・ライリーによると、法的問題を検討するミーティングに飽きると、ジョブズはライリーの携帯電話を取り上げては、それがいかにボケナスか、問題点を次々にあげていたという。ジョブズらは、
「自分たちが使いたいと思う電話を作ろう」と盛り上がった。
「あれほどやる気が出る目的はちょっとないね」』


じつはそのころアップルでは、もうひとつのプロジェクトであるタブレットコンピュータの開発が秘密裏に行われていました。2005年、ふたつの話が交わり、タブレットのアイデアが電話プロジェクトに伝えられます。つまり、iPadのアイデアが先にあり、それをもとにiPhoneは生まれました。


マルチタッチ
この時、マイクロソフトもタブレットPCの開発を進めており、ジョブズと同じ年で友人でもあった、ビル・ゲイツはジョブズに接触していました。


『マイクロソフトはそのタブレットPCソフトウェアで世界を一変させ、ノートパソコンを一掃する、だから、アップルも彼(スティーブ・ジョブズ夫妻の友人と結婚したマイクロソフトのタブレットPCの開発をしているエンジニアのこと)が作ったソフトウェアのライセンスを受けるべきだと彼(ビル・ゲイツ)がしつこくてね。でもね、やり方からして根本的に間違ってたんだよ。スタイラスペンを使うっていうんだから。スタイラスペンという時点でおしまいだ。あの話をされたのはディナーパーティが10回目くらいのときだったかなぁ、あまりにいらついたんで、戻ったとき、

「こんちくしょう、タブレットとはどういうものか目に物見せてやる」って言ったんだ。
翌日出社すると、ジョブズはチームを集めて宣言する。
「タブレットを作りたい。キーボードもスタイラスペンもなしだ」
入力はスクリーンを直接指でタッチしておこなう。そのためには、複数の入力を同時に処理できるマルチタッチ機能を持つスクリーンが必要だ。
「だから、マルチタッチに対応できるタッチ機能付きディスプレイを作ってくれ」』


およそ6ヵ月後に用意されたプロトタイプは、会議室でジョブズひとりにデモされました。これはジョブズが一瞬で評価してしまうので、ジョブズひとりで他に誰もいなければ、何とか説得することもできるだろうと考えての、いわば保険でした。
しかし、ジョブズはこのアイデア(デモ)が気に入ります。


『「これが未来だな」
このアイデアを使えば携帯電話のインターフェースという問題も解決できるとジョブズは考えた。当時は携帯電話の優先順位が高かったので、電話サイズのスクリーンにマルチタッチインターフェースが搭載できるまでタブレットの開発は凍結とした。
「電話でうまくゆけば、タブレットにも使えるからね」
そう考えたジョブズはファデルとルビンシュタイン、シラーを呼び、デザインスタジオで秘密会議を開いてマルチタスクのデモを見せる。
「うわー!」
ファデルは思わず叫んでいた。全員、これはすごいと思った。問題は、これを携帯電話に搭載できるか否かだ。開発は両にらみで進めることにした。P1というコードネームでiPodのホイールを使った電話を、P2というコードネームでマルチタッチスクリーンを使った電話を開発する。
マルチタッチのトラックパッドは、フィンガーワークス社というデラウェア州にある小さな会社がすでに作っていた。デラウェア大学のジョン・エリアスとウェイン・ウェスターマンが創設した会社で、マルチタッチ機能を持つタブレットを開発し、ピンチやスワイプといった指の動きを有用な機能に変換する方法について特許を取得していた。

2005年のはじめごろ、アップルはこの会社と特許をすべて買い取り、創業者のふたりも雇い入れる。フィンガーワークスは製品の販売をやめ、新しい特許をアップルの名前で取りはじめた。ホイール型のP1とマルチタッチ型のP2、2種類の開発を6ヵ月おこなったあと、ジョブズは側近を集めて選定会議を開いた。

ホイール型の開発を担当したファデルは、いろいろとやってみたが電話がかけられるシンプルな方法が見つけられなかったと報告する。マルチタッチはエンジニアリング的に可能かどうかがはっきりせず、リスクが大きいが、そのほうがおもしろそうだし期待も持てる技術だった。
「やりたいのがこちらだというのは、一致した意見だと思う」
ジョブズはタッチスクリーンを指さす。
「動くようにしようじゃないか」
ハイリスク、ハイリターン。ジョブズが言う「会社を賭ける」ときだった。』


こうして、電話をかけたいときには数字のパッド、文字を入力したいときにはタイプライターのようなキーボード、あるいはまた、別のなにかをしたいときには必要となるボタンが表示される機能が生まれました。
この6ヶ月間、ジョブズは毎日必ずこのディスプレイの改良を手伝いました。ジョブズがチェックするポイントはシンプルにすること。チームメンバーは今までの電話を複雑にしている要素をシンプルにする方法を考え、それを何度も何度も繰り返しました。通話を保留したり電話会議にしたりする大きなバーを追加したり、電子メールを簡単に読めるようにしたり、アイコンを横方向にスクロールしてほかのアプリを表示できるようにしたりしました。こうして進められた改良はユーザーにとって、シンプルで使いやすいものとなっていきました。


ゴリラガラス
ジョブズは「材料」についても人並みはずれた関心と物凄いこだわりを持っていることがわかります。


『アップルに復帰してiMacを作り始めた1997年ごろは、半透明プラスチックや着色プラスチックでなにができるのかをいろいろと試した。次は金属。アイブ(ジョナサン[ジョニー] アイブ:豊かな感受性と情熱でアップルのデザインチームを率いる30歳[1997年当時]の英国人)とふたり、パワーブックG3の丸みを帯びたプラスチックケースをパワーブックG4ではチタンを使ったなめらかなものとした。その上、その2年後にはアルミニウムでデザインをやり直している。まるで、金属の種類を変えたらどうなるのか示したいというかのように。
iMacとiPodナノは陽極酸化処理を施したアルミニウムとした。酸化槽に入れて電気を流し、表面に酸化アルミニウムの保護膜を作る処理だ。必要な数量の処理ができないと言われたジョブズはわざわざ中国に工場を建設する。工場の立ち上げは、アイブが現地に出向いて指揮した。SARSが流行して大変なことになっていた時期のことだ。
「あのときは、3ヶ月間、寮に寝泊りしながら工場を立ち上げました。ルビーたちからは無理だと言われたのですが、スティーブも私も陽極酸化処理アルミニウムが一番だと思っていたので、どうしても実現したかったのです。」
その次はガラスだった。
「金属でいろいろやったあと、次はガラスをマスターしなきゃねとジョニー(アイブ)に言ったんだ」
そして実際に、アップルストアで大きな窓ガラス製の階段などを作る。iPhoneも、もともとはiPodと同じようにプラスチックのスクリーンにする計画だった。それをジョブズが、ガラスのほうがエレガントでしっかりした感じになると変えさせたのだ。傷がつきにくく強いガラスが必要だった。
ふつうに考えれば、探すべきなのは店舗用のガラスが大量に作られているアジアだろう。しかし、ニューヨーク州北部のコーニンググラス社で取締役をしている友人、ジョン・シーリー・ブラウンから、若くて精力的なコーニングのCEO、ウェンデル・ウィークスと話すべきだと提案された。ジョブズはコーニングの代表番号に電話をかけ、自分の名前を言ってウィークスにつないでくれと頼んだが、出たのはアシスタントで、自分がメッセージを伝えるという。
「スティーブ・ジョブズだ。直接話をさせろ」
この要求を拒まれ、ジョブズは、東海岸らしいひどい扱いを受けたとブラウンに愚痴る。この話を耳にしたウィークスがアップルの代表番号に電話をかけ、ジョブズと話がしたいと申し込むと、内容を書いてFAXで送れと言われる。この話を聞いたジョブズはいいやつらしいと感じ、ウィークスをクパチーノに招待した。
まず、iPhone用にどういうガラスが欲しいのかをジョブズが説明した。これに対しウィークスは、1960年代に化学交換法という製法を開発し、「ゴリラガラス」と呼ばれるガラスを作ったこと、信じられないほど強いが市場がなく、作るのをやめたことを話す。
そこまで強いガラスができるのは信じられないと、今度はジョブズがガラスの作り方について説明をはじめる。おもしろいとウィークスは思った。自分のほうがジョブズよりも詳しい分野だったからだ。
「しゃべるのをちょっとやめて、私に解説させてもらえませんか?」
ジョブズはびっくりしたように黙った。ウィークスはホワイトボードのところへ行き、イオン交換プロセスでガラス表面に密度の高い層を作る方法を化学的に説明した。納得したジョブスは、6ヵ月でできるだけたくさんのゴリラガラスを作ってくれと頼む。
「作れないんですよ。いま、そのガラスを作っている工場はないんです。」
「心配はいらない」
がジョブスの答えだった。これにはウィークスも驚いた。ユーモアと自信にあふれているが、ジョブズの現実歪曲フィールドには慣れていなかったからだ。根拠のない自信でエンジニアリング的な課題は解決できないと反論したが、その前提こそ、ジョブズが昔から繰り返し否定してきたものだった。ウィークスをじっと見つめる。
「できる。君ならできる。やる気を出してがんばれ。君ならできる」
この話を語ってくれながら、ウィークスは、信じられないという感じで首を振った。
「6ヵ月もかからずにやり遂げました。それまで作られたことのないガラスを作ったのです」
ケンタッキー州ハリスバーグにあるLCDディスプレイの工場を突貫工事で改造し、ゴリラガラスをフルタイムで生産できるようにしたのだ。
「トップクラスの研究員とエンジニアを投入し、むりやりできるようにしました」
ウィークスのオフィスはゆったりしているが、額に入った記念品はひとつしかない。iPhoneが完成した日、ジョブズからもらったメッセージだ―「君たちががんばってくれなければできなかったよ」。
ウィークスはジョニー・アイブとも仲良くなり、ニューヨーク北部の湖畔に建つ別荘にもときどきアイブを呼ぶようになる。
「同じようなガラスでも、ジョニーは感触で違う種類だとわかるのです。そのようなことができるのは、ウチでも研究部門のトップだけです。スティーブはなにかを見た瞬間に好きかきらいかに分かれますが、ジョニーはじっくりいじり、いろいろと敢闘して、微妙な違いと可能性を見つけるのです」』

 

すべてやり直し
「トイ・ストーリー」、アップルストアで起きた、完成直前での大きな変更という大事件は、iPhoneでも起きてしまいました。


『当初は、ガラスのスクリーンがアルミニウムのケースにはめ込まれたデザインとなっていた。とある月曜日の朝、ジョブズがアイブのところに来て言う。
「昨日は眠れなかった。こんなんじゃダメだと気づいたんだ」
初代マッキントッシュ以来という重要な製品なのに、どうにも良くないというのだ。アイブもすぐに問題点を理解し、愕然とした。
「そこに気づく仕事を彼にさせてしまったことをとても恥ずかしく感じました」
iPhoneはディスプレイ中心であるべきなのに、そのときのデザインは、ケースがディスプレイと競うような存在感が大きかったのだ。機器全体が、力一杯、効率的に仕事をこなすぞという感じになっていた。
ジョブズはアイブのチームを前に宣言する。
「みんな、ここ9ヵ月、このデザインで必死にやってきたわけだが、これを変えることにした。これから全員、夜も週末も働かなきゃいけなくなった。希望者には、我々を撃ち殺す銃を配付する」
文句を言う者はいなかった。
「あれは、アップルをとても誇りに思った瞬間だった」
新しいデザインはゴリラガラスのディスプレイが縁ぎりぎりまで広がるように、ステンレススチールの細い枠で支える形となった。スクリーンが中心であり、ほかの部分はすべて道を譲る。新しいルックスは妥協を許さないものでありながらあたたかみが感じられた。いつくしむ対象になりうる。デザインを変更すれば回路基板からアンテナ、プロセッサーの位置まで、内部をすべて作り直す必要があるが、それでもジョブズは変更すると決めた。アップルならではだ、とファデルは感じた。
「ほかの会社ならそのまま製品にしてしまったかもしれません。でも、我々はリセットボタンを押して一からやり直したのです」
このデザインには、ジョブズの完璧主義だけでなく、コントロールの欲求までもが如実に反映されている。しっかりシールされているのだ。バッテリーを交換したくてもケースは開けられない。1984年に発売した初代マッキントッシュと同じように、なかを勝手にいじられたくないとジョブズが思ったのだ。2011年にアップルと関係ない修理ショップがiPhoneのケースを開いていると判明したときには、ネジを、ふつうに売られているドライバーでは回せないペンタローブという特殊ないたずら防止用のものに交換したほどだ。バッテリー交換という機能をなくせばiPhoneをかなり薄くできるというメリットもあった。ジョブズにとって薄いことはいいことなのだとティム・クック(コンパック・コンピュータ調達とサプライチェーンのマネージャを務めていた上品な37歳[1998年当時]、クックは後に、業務のマネージャからアップルの経営を裏で支えるかけがけのないパートナーへと成長する)は証言する。
「薄いほうが美しいとスティーブは信じています。その影響はすべての製品に表れています。もっとも薄いノートブックももっとも薄いスマートフォンもアップル製品ですし、iPadなど、薄く作った上でさらに薄くしたぐらいですから」』

 

発表(2007年1月10日)
『2007年1月、サンフランシスコのマックワールドでiPhoneを発表した際、ジョブズは、iMacのときと同じように、アンディ・ハーツフェルドにビル・アトキンソン、スティーブ・ウォズニアック、そして1984年のマッキントッシュチームを招待した。ジョブズは製品プレゼンテーションがすばらしいことで有名だが、なかでもこのiPhoneの発表は絶品である。
「ときどき、あらゆるものを変えてしまう革命的な製品が登場する」
そう語りはじめると、過去の例をふたつ、紹介する。まず初代マッキントッシュで、これはコンピュータ業界全体を変えた。もうひとつが初代iPodで、これは音楽業界全体を変えた。そして、発表に向けて慎重に伏線を張ってゆく。
「今日は同じくらい革命的な製品を3つ、紹介する。まず最初は、タッチコントロール機能を持つワイドスクリーンのiPodだ。2番目は、革命的な携帯電話。そして3番目。インターネットコミュニケーション用の画期的な機器だ」
この3つを繰り返して強調したあと、会場に問いかける。
「わからないかい? 3つに分かれているわけじゃないんだ。じつはひとつ。iPhoneっていうんだ」
その5ヵ月後の2007年6月末、iPhoneが発売となった日、ジョブズは妻とふたり、その興奮を味わいにパロアルトのアップルストアへ出かけていった。』


iPhoneアプリ
これは、第37章「iPad ポストPCの時代に向けて」の中の「デジタル世界を根底から変えたアプリ」に書かれているものです。あえて、ここを追記させて頂いたのは、革新的で魅力いっぱいの製品に加え、iPhoneアプリのビジネスモデルがあったことが、もうひとつの成功要因だと考えたからです。そして、ジョブズはこのiPhoneアプリについては、当初、話をするのも嫌がるほど否定していました。これが肯定されたのは、ジョブズの柔軟性でもありますが、取締役のアート・レヴィソンをはじめとする、アップルを愛し、iPhoneを信じ、そして何より正直だった人たちの総意がジョブズを変えさせたのだろうと思ったからです。


『アプリはiPhoneで導入された。2007年の前半にスタートした当時、アップル以外のディベロッパーから買えるアプリはひとつもなかった。だいたい、そういうことを許すつもり自体、ジョブズにはなかった。せっかくのiPhoneをぐちゃぐちゃにしたりウィルスに感染させたり、あるいはその完全性に傷をつけるようなアプリケーションを社外の人間に作らせるなどもってのほかだと考えていた。
他社製のiPhoneアプリを推進したひとりに取締役のアート・レヴィンソンがいる。
「数回は電話して、アプリの可能性を訴えました」
アプリを許可しなければ、いや、推進しなければ、そのうちどこか別のスマートフォンメーカーがやりはじめて強みにしてしまう。マーケティングのチーフ、フィル・シラーも同じ意見だった。
「iPhoneほどパワフルなものを作っておきながらディベロッパーにたくさんのアプリを作らせないなんて、そんなことはありえません。ユーザが大歓迎するのはあきらかでした」
社外からも、ベンチャーキャピタリストのジョージ・ドーアのように、アプリを許せば、アントレプレナーが次々に登場し、新しいサービスを生むようになると勧める声があがる。
このような提案をジョブズは当初、すべて退けた。アプリを開発する社外ディベロッパーをチェックし、秩序を守らせるという複雑な作業ができる余裕は社内にはないと思ったことも却下の理由だった。集中すべきと考えたわけだ。
「そんなわけで、この件については話をするのも嫌がっていました」
とシラーは言う。しかし、iPhoneが発売になると話に耳を傾けるようになる。レヴィンソンによると、取締役会でも自由な討論が繰り返されたそうだ。
「話をするたび、少しずつ、スティーブもその気になってゆきました」
そうこうしているうちに、ジョブズは、両方のいいとこ取りができると気づく。アプリの作成は社外の人間に許すが、アップルが試験し、厳格な基準を満たしていると承認したものだけをiTunesストア経由でのみ販売する形にすればいいのだ。これなら、何千人もの開発者に開発の権利を与えつつ、iPhoneの完全性とシンプルな顧客体験を守れるだけの管理が可能になる。
「これはスイートスポットをヒットする魔法のようなやり方だといえます。エンドツーエンドのコントロールを手放すことなくオープン性のメリットが得られるのですから」
とレヴィンソンは高く評価する。
2008年7月、iPhone用のアップストアがiTunesに開発され、その9ヵ月後には累計ダウンロード回数が10億回を突破する。iPadが発売された2010年4月、iPhone用アプリは18万5000本に達していた。そのほとんどはiPadでも使えたし(スクリーンサイズが大きくなってもメリットはなかったが)、それから5ヵ月のうちに、iPadに合わせて作られたアプリが2万5000本も登録される。2011年6月現在、iPhoneとiPadで合計42万5000本のアプリがあり、累計ダウンロード回数は140億回を超えている。』

17.2011年8月24日の取締役会
『健康状態が夏を通じて少しずつ悪化してゆき、ジョブズは、いつか訪れるとわかっていた現実と向き合わなければならなくなった―CEOとしてアップルに戻る日はもう来ないという現実だ。辞任するときが来たのだ。この件については、妻と話し合い、ビル・キャンベルと話し合い、ジョニー・アイブと話し合い、ジョージ・ライリーと話し合い、何週間も悩み続けた。
「アップルのために、権力の正しい譲り方を示しておきたいと思うんだ」
そう言うと、アップル35年の歴史はいつも波乱の交代劇だったと軽口をたたく。
「いつもドラマチックでね。第三世界の国かなんかかって感じだ。アップルを世界最高の会社にすることも僕の目標だし、そのためには権力を整然と譲ることが必要なんだ」
悩んだ結果、交代に一番適したタイミングと場所は、8月24日の定例取締役会だとジョブズは決心する。交代は辞表を送ったり電話で出席するのではなく、自分自身がその場に出向いておこないたかった。だから、むりやり食べて力をつけようとする。前日、なんとか行けそうだと感じたが車椅子なしではさすがに無理だった。なるべく人に見られないように注意をしながらアップル本社まで車で移動し、車椅子で会議に入る準備が整えられる。
ジョブズが着いたのは、委員会報告などの定例議題がそろそろ終わろうとする11時少し前だった。これからなにがあるのか、ほぼ全員わかっていたが、ティム・クックと最高財務責任者のピーター・オッペンハイマーはそのまま四半期の実績と翌年度の予測へと議題を進めた。その話が終わったところで、ジョブズから、個人的なは話がしたいと提案が出される。自分たち幹部社員は退席したほうがよいのかとクックがたずねる。ジョブズはたっぷり30秒ほども考え、そうしてくれと頼む。6人の社外取締役だけが残った部屋で、ジョブズは、その前何週にもわたって口述筆記で修正をくり返したレターを読みあげた。
「アップルCEOの職務と期待を全うできない日が来た場合、その旨、私から皆さんにお伝えすると前々から申し上げてまいりました。残念ながら、その日が来てしまいました」
レターはわずか8センテンス。シンプルで明快だった。後任はクックを推薦すること、また、取締役会長になる用意があることも書かれていた。
「アップルの前には、いままで以上に明るく革新的な未来があると私は信じています。今後は新しい立場からその成功を見守り、また、貢献したいと考えてもいます」
ジョブズがレターを読み終えたあと、沈黙が続く。最初に口を開いたのはアル・ゴアだった。ジョブズがなし遂げてきたさまざまな成果を挙げていく。ジョブズがアップルを変革していく姿ほどすごいものをビジネスの世界で見たことがないとミッキー・ドレクスラーが続き、さらに、スムーズな移行を実現したジョブスの努力をアート・レヴィンソンがたたえた。キャンベルだけは黙ったままだったが、経営権の移行を正式に決議する彼の目には涙が浮かんでいた。
お昼になると、スコット・フォーストールとフィル・シラーが開発中の製品の実物大模型を持ってきた。ジョブズはさまざまな質問やアイデアを次々とぶつける。特に第4世代の携帯電話ネットワークではどういう機能が実現されるのか、また、未来の電話にはどのような機能が必要になるのかについて熱心に検討した。音声認識アプリのデモでは、フォーストールが怖れていたとおり、途中で電話を取り上げ、アプリを困らせてやろうと勝手なことをはじめる。
「パロアルトの天気は?」
とたずねるが、アプリは正しく答える。これならどうだと、
「君は男かい? 女かい?」
とたずねるが、アプリはロボット的な音声でこう答える。
「性別は設定されておりません」
ぱぁっと雰囲気が明るくなった。
話題がタブレットに移ると、iPadにはかなわないとHP社があきらめた、我々が勝ったと喜びの声があがった。ジョブズはまじめな顔になり、それは悲しむできことなのだと宣言する。
「ヒューレットとパッカードはすごい会社を作り、それを信頼できる人々に任せたと思ったんだ。それがいま、バラバラになろうとしている。これは哀しいことだよ。アップルがそうならないよう、もっとしっかりしたものを残せたのならいいんだけどな」
取締役が集まり、順番にハグして、ジョブズを見送った。
幹部チームにニュースを伝えたあと、ジョブズはジョージ・ライリーに送ってもらった。ふたりが家に着いたとき、パウエルはイブに手伝ってもらって裏庭で蜂蜜の収穫をしていた。ふたりは蜂よけのスクリーンを外すと、リードとエリンがいるキッチンに蜜壺を運ぶ。そして、潔い引退と経営権の委譲を皆で祝う。ジョブスもスプーンいっぱいの蜂蜜を口に入れ、すばらしく甘いねと笑った。
その夜、ジョブズは、健康状態が許すかぎり、今後も会社には積極的にかかわっていきたいと私に想いを訴えた。
「新製品やマーケティングやそのほかの僕が好きなことに打ち込もうと思う」
しかし、自分が作りあげた会社の経営権を手放したことをどう思うのか、正直なところを聞かせてほしいとたずねると声が沈み、過去形でこう語った。
「すごく幸運なキャリアだったし、すごく幸運な人生だったよ。やれることはやり尽くしたんだ」』

 

ジョブズは癌と診断されたあと、息子のリードが夏休みにスタンフォードの腫瘍学研究室で大腸がんの遺伝子マーカーを見つけようとDNAの配列特定実験や突然変異がどう遺伝するのかを追跡する実験などを熱心におこなう姿をみて次のような話を残しています。


『僕が病気になってある意味良かったと言えることは少ないけど、そのひとつが、リードが優れた医師とじっくりいろいろな研究をするようになったことだ。21世紀のイノベーションは、生物学とテクノロジーの交差点で生まれるんじゃないかと思う。僕が息子くらいのころデジタル時代がはじまったように、いま、新しい時代がはじまろうとしているんだ」』

付記1.「時代は変わる(THE TIMES THEY ARE A-CHANGIN)」ボブ・ディラン 1963年
ここかしこにちらばっているひとよ
あつまって
まわりの水かさが
増しているのをごらん
まもなく骨までずぶぬれになってしまうのが
おわかりだろう
あんたの時間が
貴重だとおもったら
およぎはじめたほうがよい
さもなくば 石のようにしずんでしまう
とにかく時代はかわりつつある

 

ペンでもって予言する
作家や批評家のみなさん
目を大きくあけなさい
チャンスは二度とこないのだから
そしてせっかちにきめつけないことだ
ルーレットはまだまわっているのだし
わかるはずもないだろう
だれのところでとまるのか
いまの敗者は
つぎの勝者だ
とにかく時代はかわりつつある

 

国会議員のみなさん
気をつけて
戸口に立ったり
入口をふさいだりしないでください
傷つくのは
じゃまする側だ
たたかいが そとで
あれくるっているから
まもなくお宅の窓もふるえ
壁もゆさぶられるだろう
とにかく時代はかわりつつある

 

国中の
おとうさん おかあさん
わからないことは
批評しなさんな
むすこや むすめたちは
あんたの手にはおえないんだ
むかしのやりかたは
急速に消えつつある
あたらしいものをじゃましないでほしい
たすけることができなくてもいい
とにかく時代はかわりつつある

 

線はひかれ
コースはきめられ
おそい者が
つぎには早くなる
いまが
過去になるように
秩序は
急速にうすれつつある
いまの第一位は
あとでびりっかすになる
とにかく時代はかわりつつある

 

※歌詞対訳:片桐ユズル

※レコードの吹込みは1963年8月6日から10月31日まで(「時代は変わる」は10月24日録音)、6回のセッションで吹き込まれている。場所はニューヨーク。ディランの歌、ギター、ハーモニカのほか一切伴奏はついていない。中村とうよう

付記2.著者略歴

ウォルター・アイザックソン(Walter Isaacson)
1952年生まれ。ハーバード大学で歴史と文学の学位を取得後、オックスフォード大学に進んで哲学、政治学、経済学の修士号を取得。英国「サンデータイムズ」紙、米国「TIME」誌編集長を経て、2001年NにCNNのCEOに就任。ジャーナリストであるとともに伝記作家でもある。2003年よりアスペン研究所理事長。著書に「ベンジャミン・フランクリン伝」「アインシュタイン伝」「キッシンジャー伝」などのベストセラーがある。

自律神経失調症

自律神経失調症のことは、それなりに知っているつもりでしたが、この本を読んで自分の理解が心もとないものだったことが分かりました。今回も、本の内容に則して概要をまとめたいと思います。なお、『』内は本文からの完全な引用です。

 

『「心臓は私達が意識していなくても適切に拍動を続け。全身に血液を送り続ける」、「胃は食べ物が降りて来たら、すぐ動き出して食べ物を砕き腸へ送る」。これら内臓の働きは自律神経が調節しているのです。当たり前のように私達は思っていますが、自律神経がもしヘソを曲げたら、内臓の営みは崩れてしまうのです。』

 

著者:渡辺正樹

出版社:南山堂

自律神経とは

循環、呼吸、消化、分泌、排泄、体温調節など、基本的な生命活動(自律機能)の維持に働いている神経系を自律神経系といいます。

 

自律神経系は内臓、心筋、平滑筋、腺など、ほぼ全身に分布します。

 

自律神経系は、生体の恒常性(ホメオスタシス)の維持に重要な役割を果たしています。

 

 

 

画像出展:「病気がみえる vol7 脳・神経」(メディックメディア)

自律神経には交感神経と副交感神経の2種類あり、互いに相反する役割を担っています。

交感神経は「エネルギーを消費する変化」を、副交感神経は「エネルギーを確保する変化」を担います。

画像出展:「病気がみえる vol7:脳・神経」(メディクメディア)

自律神経失調症とは
自律神経失調症は交感神経が強いか、副交感神経が弱くなるか、いずれかの状態で、それにより内臓が十分な休息をとれない事態になることです

その結果、動悸、立ちくらみ、ふらつき、発汗過多、血圧上昇(変動)、片頭痛、肩こり、手足の冷え、易疲労など多彩な症状が出現します。
原因不明、内臓に問題があり、しかも精神的なストレスが強いとなると、自律神経失調症と診断される症例は少なくありません。このことは、自律神経失調症が不定愁訴の受け皿になっているためと考えられます。

 

発症のメカニズム
1.ストレスが脳の疲労を生む
ストレスは身体的要因と精神的要因があります。前者のストレスは、身体への負担により、知らず知らずに蓄積されるものです。睡眠不足などの生活に関わるもの以外に、寒すぎる、暑すぎる、騒音がうるさいなど環境面によるストレスも含みます。一方、精神的なストレスは「イヤ」という感情によって生まれるもので、通常、ストレスはこの精神的なものを指している場合が多いと思います。
これらがまず脳にダメージを与え、脳の疲労が生まれます。身体は元気でも、脳(精神)は疲れ果てているということもあります。そして、脳の疲労はまず「不安」として現れます。全般性不安障害、強迫性障害、パニック障害、うつ状態などは、不安が脳の中に広がった状態であり神経症と呼ばれています。

注)以降に添付されている画像はすべて、「自律神経失調症を知ろう」からの出展です。


2.脳と内臓を結ぶ自律神経
脳の下方に位置する視床下部や脊髄から、自律神経が電線のように伸びて、体内の内臓が円滑に動くように指令が出されます。生命維持には末梢神経である自律神経の働きが不可欠です。脳に疲労が溜まっても、自律神経が正常なら疲労は身体へは伝わりません。
交感神経が副交感神経を圧倒した状態では、体内でエネルギーを蓄えることができず、身体は少しずつ消耗していきます。つまり、自律神経失調症が長く続くということは、身体のエネルギーがどんどん少なくなっていくということです。そして、その影響が最も出るのは脳です。脳は約1.5kgしかない臓器でありながら、体全体の20%もの酸素を使います。つまり、自律神経失調症は大食漢の脳にとって特に深刻であり、自律神経失調症の更なる長期化の原因にもなります。


 

 

 

 

 

 

 

 

左の2つの図は、脳の疲労だけであれば、疑われるのは「神経症」

これが体内の内臓に及んでしまうと「自律神経失調症」の可能性が高まります。

自律神経失調症と片頭痛
・首こり、肩こりが原因の筋緊張性頭痛と異なり、片頭痛は脳周辺の血管の異常な収縮と拡張のギャップで生じる拍動性の頭痛で、一般に月に1~2度の頭痛発作が襲ってくる傾向があるとされています。青少年期にみられる自律神経失調症によることが多いと考えられています

 

片頭痛の患者さんは、ストレスなどのために、日常的に血管は縮み気味です。

自律神経失調症と認知症
中高年の自律神経失調症では認知症との関連性に注目すべきです。アルツハイマー病は脳内にアミロイドというタンパク質の変性した物質が蓄積して、神経細胞を障害するために発症する疾患です。本来は溜まるべきでないアミロイドというゴミが脳に溜まるのは、副交感神経の働きである体外への排泄機能が低下するからとも考えられます。さらに交感神経が強くなると、脳内で活性酸素が産生されやすくなるため、神経細胞に与えるダメージが増幅されます。

 

 

「加齢」と「メタボ」はアミロイドを脳に蓄積させる原因になります。

自律神経失調症への対応
1.生活習慣からのアプローチ
仕事をしている人にとって、生活習慣を見直すということは容易なことではありませんが、心がけて欲しい4つの対策をお伝えします。
・自然食品を食べる
精神安定剤では自律神経は治せません。むしろ魚貝類などに多く含まれるビタミンB12の摂取が有効です。
・スローライフに戻る
スローライフとは時間に追われない生活スタイルです。歩く時間を増やす、朝型生活に変える、ゆっくり食事する、ゆったり入浴するなど、一つでも変えることができれば素晴らしいと思います。
我慢しないで吐き出す
副交感神経は体内の老廃物や分泌物などを吐き出す働きをする神経です。日頃あまり弱音を吐かず頑張っている人は副交感神経もおとなしいのではないかと思います。笑い、泣く、怒るという感情を抑えすぎないということが大切です。
休息を恐がらない
忙しい人にとっては難問で、工夫する必要がありますが、特に50歳を越え「疲れがたまって抜けないなぁ。」と感じることがあるとすれば、積極的に有給休暇を取ってリフレッシュすることを考えてください

2.「もくもく」と「ワクワク」
ストレスに強くなるための脳内物質セロトニンを増やすには、「もくもく」と作業を続けること
ストレスを力に変える脳内物質ドパミンを増やすには、積極的に楽しいことを行うこと
セロトニンは疲労した脳、特に古い脳である大脳辺縁系を直接癒し、ドパミンは大脳の前頭葉を元気にし、それにより大脳辺縁系を癒す効果があるとされています。


EMS運動法

メタボや美容への関心から、「脂肪を筋肉に変えるような器械(例えばSIXPAD)」はダイエットに有効なのか?」というご質問を頂くことがあります。私の場合、ダイエットという事ではなかったのですが、左膝の手術後、大腿四頭筋の一つである内側広筋の筋力が右足に比べ細く、筋力を付けることが難しい状態になっています。たまにサッカーをすることを考えると、怪我の予防のためにも筋を太く、筋力アップさせたいという気持ちはありましたので、この機会に調べてみることにしました。

電気刺激によって筋肉を鍛える器械のことを、一般的にEMS(Electrical Muscle Stimulation)、あるいは、EMS運動法と呼んでいます。これをキーワードにネットで調べたところ、2000年9月に発行された「何をやってもとれなかった体脂肪がとれる!! ~寝ながらできるEMS運動法~」という本を見つけました。
ネットショップで格安だったこともあり、迷わず購入しました。内容は筋肉が強く(太く)なる理由や、EMSのメカニズムなども説明されており、私が知りたい内容は十分に含まれていました。
今回のブログでは、EMS運動法は何に有効で、利用にあたりどんな事に注意する必要があるのか等についてご紹介したいと思います。

ご注意頂きたいのは、16年以上前の本のため内容は最新ではないという点です。

 

この本で紹介されている製品は、現在の製品機能とは違っていると思います。なおここで紹介されているのは、ツウィンバード社の製品です。

 

このブログに登場している画像は、「体脂肪がとれる‼」(健友館)からのものです。

EMS運動法とは
・外からの電流刺激で他動的に筋肉を動かし、脂肪を燃やし筋肉を強化する。
・医療機関での活用が最初。医療機関向けは大型で300万円以上していた。
・電流を流している筋肉に対してのみ、レジスタンストレーニング(筋の収縮と弛緩を繰り返す)

 がなされる。
歴史
・1960年代にヨーロッパで開発された手法
・1972年のミュンヘンオリンピックで、旧ソ連の選手が筋肉増強に効果を出して世界の注目を浴

 びた。
使い方 注)この本に出てくる器械はツウィンビート社のものです

・対象の筋肉に対して、1日1回30分前後の電気を流すことが基本。
・10種類のプログラムの中から選択する。


脳からの命令に代わる電気信号
・歩いたり、走ったり、あるいは筋トレするといった意識的に運動させる命令は、大脳がコントロ

 ールしていますが、その命令に電気信号はとって代わることができます。これにより、脳を他の

 ことに使ったり、あるいは休ませている状態で、筋肉に負荷を掛けることにより、鍛えること

 できます。

 

脳を介さないので、使用に際しては十分な注意が必要です。

 

 

普通の運動とEMS運動法との違い
自発的運動の利点
・1つの運動でたくさんの筋肉を動かすことができる。
EMS運動の利点
・特定の筋肉を早く強く大きくすることができる(脂肪を早く取る)。
・脳が関与する必要がないので、本人の意志に関係なく筋肉を運動させることができる。
・脳卒中などで運動神経を動かす司令が出せない状態でも、電気を流すことによって骨格筋を動

 かすことができる。これにより筋肉の衰えを防ぐためのリハビリをすることができる。
EMS運動法の特徴
・EMS運動では自発運動による筋力の約1.5倍の運動を引き出すことができます。これは脳が筋肉

 を痛めることがないように力を制限させているからです。
 これは車の速度制限をしている「リミッター」を外した状態と同じです。

 

※下の右のグラフは電圧と筋力の関係を表しています。脳がコントロールする最大筋力は約30Vになりま

 すが、EMS運動療法では軽くオーバーさせることができます。これは、いわゆる「火事場のバカ力」

 を自由に発揮させることができるということを意味しますので、すごい効果であると同時に筋肉を傷

 める恐れがあります


EMS運動法の注意点(個人的な意見、感想です)
・筋肉を保護するリミッターがなく、かつ厳しいトレーニングに負けない強い意志もいらず、筋肉

 を収縮させ、鍛え続けられるということは、強い負荷を長い時間行うことは絶対にやってはいけ

 ません。

・例えば、傷害によって周りの筋肉に比べ劣っている筋肉に対し、EMS運動療法を使ってリハビリ

 することは有効であると思いますが、健康な状態、それなりに筋肉のバランスが取れている状況

 で、一部の筋肉だけを強くしたときに、良くも悪くも筋肉群のバランスは崩れることになるため

 、何か不都合なことが起きる可能性はあるかもしれません。

・EMS運動療法は特定の筋肉を強くするのが目的で、結果的に脂肪が減るということだと思います

 。また、筋肉は代謝を高める効果がありますが、脂肪より重たいという面もあるため、体重が顕

 著に減っていくというのは難しいように思います。

 

筋が強くなる(太くなる)メカニズム
・筋肉に強い負荷をかけると、筋肉線維は損傷を受け炎症を起こします。この損傷が回復する時に

 、成長ホルモンとタンパク質によって、より強い、より太い筋肉が作られます。
 筋肉の炎症は、ひどい場合は痛みとなって現れます。激しい運動をした翌日、筋肉痛を起こすの

 は、この炎症の激しさを表しています。翌日筋肉痛を起こすぐらいの運動強度が回復期により強

 い筋肉を作ります。
 いずれにしても筋肉が強くなるのは、この回復期です。この回復期は、スポーツ選手を除いて、

 一般の人の場合、48時間(2日間)から72時間(3日間)といわれています。
 この48時間後あるいは72時間後の回復完了時に筋肉が強くなります。その回復完了時に間をあけ

 ずにすぐ次の運動をやることが大切です。つまり、2日に1度とか3日に1度という規則正しい運動

 が大切ということです。
・筋原線維のアクチンとミオシンというタンパク質は分解と合成を繰り返し、ほぼ一定数を保って

 いますが、年齢とともに合成能力より分解のスピードが早くなるため、筋原線維は徐々に細くな

 っていきます。これが老化現象です。
 タンパク質の合成を促進するものとして、成長ホルモンや男性ホルモンなどの成長因子も必要で

 すが、絶対条件ではありまん。絶対に必要なのは運動です。
・筋線維は増加することが明らかになりました。これは細胞分裂という方法ではなく、生まれなが

 らの筋細胞のうち、予備的な役割を果たすために残っている細胞がトレーニングによって目を覚

 まし、1本の筋線維として成長していくという形をとりますが、この予備的筋線維も運動しなけ

 れば成長はしません。

 

禁忌事項
1.急性(疼痛性)疾患
2.悪性腫瘍組織のある人
3.心臓に障害のある人
4.妊産婦
5.生理時の腹部
6.熱の高い人(38℃以上の人)
7.伝染性疾患の人
8.適用部位の皮膚に損傷・炎症、その他の異常のある人
9.心電計の装着医用電子機器を使用している人(体に金属片を入れている人も不可)
10.知覚障害のある人
11.紫斑症の方や内出血しやすい人
12.骨粗鬆症が著しく進み骨折しやすい人
13.その他医師の治療を受けている人や特に体に異常を感じている人

上記の「禁忌」のうち3と9について、最新の器械についても変わっていないか、ツウィンバード東レの2社に問い合わせてみましたが、両社の回答ともほぼ同じで、上記の内容通りでした。(実はこの2点がクリアできれば、試してみたいと思ったのですがあきらめました)

付記1:「レジスタンストレーニングは脂肪を減らすか?
これは筋肉の第一人者である石井直方先生の著書「究極のトレーニング」の中に書かれているものです。EMS運動療法はレジスタンストレーニングそのものですので、この内容は当てはまります。

『季節の節目になると必ず、私のところには雑誌やテレビ番組の取材がやってきます。話は決まって「ダイエット」。春には「夏に向けて今年こそダイエット!」、秋には「冬太りしないためのダイエット!」などなど。それが毎年繰り返されるのですが、「ダイエット」という見出しがつけば必ず売れるという方程式があるのだそうです。
2~3年前、取材におとずれた3社すべてが、「レジスタンストレーニングが脂肪を落とすのに効果的なのはなぜか?」という質問を用意してきました。この質問に完璧に答えるのはむずかしいのですが、近年、これに関連した興味深い研究が急展開しています。

 

筋と安静時代謝
脂肪をエネルギー源として代謝するためには、有酸素性代謝系によって酸化しなくてはなりません。これには酸素が必要ですので、運動で脂肪を落とそうとすると、必然的にエアロビック運動がよいということになります。
一方、私たちは一日中トレーニングをしているわけではありませんので、普通に生活しているときになるべく多くの脂肪を代謝し、多くのエネルギーを消費することもまた重要になります。これには基礎代謝や安静時代謝を高める必要があります。これらの代謝は主に、体温を維持するための熱生産によるエネルギー消費です。
身体の中の主な熱源は肝臓と筋ですので、筋量が多く、かつ熱の発散のよい人は、安静時での代謝量が多く、脂肪がつきにくいことになります。実際、安静時代謝が平均で5~10%ほど上昇します。したがって、体脂肪を減らすにはレジスタンストレーニングも必要といえます。

付記2:「脳卒中治療ガイドライン2015

「脳卒中ガイドライン2015」の中でTENS(経皮的電気刺激:transcutaneous electrical nerve stimulation)に関しては、記述されていることを知りました。ということは、EMSについても何か書かれているのではないかと考え、図書館から借りて中身を確認してみました。

EMSはありませんでしたが、FES(機能的電気刺激:functional electrical Stimulation)は出ていました。このFESと「筋肉に対する電気刺激」という内容を含んだ箇所が以下になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩行障害に対するリハビリテーション
・慢性期の脳卒中、下垂足がある患者に前脛骨筋へのFESを行うと歩行が改善する。
・急性期の患者でも通常の理学療法にFESを加えることで足背屈力や歩行の改善に効果があり自宅退院率

 が改善した。
上肢機能障害に対するリハビリテーション
・麻痺側手関節の自動伸展運動がみられる程度の中等度の麻痺例では、運動にトリガーされる電気刺激

 により、特に手関節伸展筋の筋力増強、上肢の運動障害の改善が見られる。
・随意運動介助型電気刺激と手関節装具を併用し1日8時間の日常生活での使用を促すことで長期、持続

 的に上肢機能障害が改善している。
痙縮に対するリハビリテーション
・随意運動介助型電気刺激と手関節装具を1日8時間装着し、3週間の麻痺肢の積極使用を促す治療

HANDS療法)では上肢機能とともに臨床的にも電気生理学的にも上肢痙縮の改善を認めたと報告され

 ている
・歩行パターンを模した30Hz、20~30mAでの下肢筋群の電気刺激は、下肢痙縮と歩行能力を改善する。

UAEとの勝点差は4へ

昔、ラグビーで「アタックル」という表現を使っていた監督がいました。これは攻撃の「アタック」と守備の「タックル」の造語で、攻撃的な守備、攻撃のための守備という意味だったと思います。

23日の日本vsUAE戦での日本のディフェンスは、まさに「アタックル」という感じでした。素早い攻守の切り替え、プレスのかかった相手選手への早い寄せ、チーム意識も統一され、各選手が手を抜くことなく全力で火消しに動いていたと思います。これが最大の勝因だと思います。

一方、「運」も日本を後押ししてくれました。特に1点をリードしてスタートした後半、左サイドからの速く正確なセンターリングを、相手FWがインステップのボレーでゴールに叩き入れようとして、空振りとなったシーンです。もし、右足インサイドを使って、ゴール右隅(GKの動きの逆をつく)に体ごと流し込むようなプレーを選択されていたら同点になっていたと思います。この後、まもなく大活躍だった今野選手の追加点が入りました。素晴らしいディフェンスだったとはいえ、1得点のままでは、後半最後まで0点で抑えられたかどうかは疑わしく、相手の空振りと今野選手の追加点が勝負を決めることになりました。

そして、「運」を呼び込んだのは、今野選手同様、久々の代表でのプレーとなった川島選手が前半、相手と1対1になった大ピンチを積極果敢なセービングで阻止したプレーと、最初のシュートチャンスを確実にものにした久保選手の冷静なプレーだったと思います。酒井宏樹選手のパスも絶妙でした。また、目立ったプレーはなかったものの、必死なディフェンスでチームに貢献していた香川選手も良かったと思います。

次のタイ戦は前回大勝、相手は最下位、そしてホーム埼玉スタジアムということで、もっとも油断しやすい状況であり、ある意味最も難しい試合だと思います。しかし、必ず勝点3を積み上げ、夏の中東アウェー戦に向かっていってほしいと願っています。

Hazza bin zayed stadium

画像出展:Construction Week Online.Com

頚筋症候群(頚筋性うつ)

不安や強いストレスがあると頚に痛みが出やすい患者さまがおいでです。また、心臓の関連痛ではないかと気にされていました。
一般的には心臓病の関連痛は左肩から左手(小指)に出るとされていますが、もし、心臓病による関連痛だとすると、鍼灸治療は適切ではないため、念のためネットで調べてみました。すると、例外的に頚に関連痛が出ることもあり、完全に否定することはできないようですが、通常では考えにくいということが確認できました。

では、頚に症状が出る疾患や病気は何かないかという視点で、あらためて調べてみると、
「パニック障害」、「不安神経症(全般性不安障害)」、そして「うつ病」、これらと頚のこりや痛みとの関連性について、「書き込み」や「情報提供」が数多くあるのを見つけました。
特に印象的だったのは、著書を数多く出版されている、松井病院および東京脳神経センターの理事長でもある、松井孝嘉先生の「頚筋症候群(頚筋性うつ)」というものでした。

東京、大阪、福岡、横浜、大宮などに「すっきりセンター」という提携治療院があるようです。

調べてみると『新型「うつ」原因は首にあった!』という、まさにこのタイトルの本が出版されていたため、購入して読んでみることにしました。『』内は本文からの100%引用です。

以下の内容は特に重要な部分と思います。

頚筋症候群の発見と治療法の確立
『首のこりが原因で起こるうつ症状「頚筋性うつ」について理解していただくために、ここでは「頚筋症候」を発見したきっかけと治療法の確立に至るまでの経緯、症状発生のメカニズム、首の構造、首のこりなどについて述べましょう。
私は、1968年からムチウチ症の研究をライフワークとして続けてきました。なぜなら、それまでの医学界の常識では「首の筋肉が原因で起こる病気はない」といわれており、そのなかで唯一、ムチウチ症だけが「首の軟部組織の異常から起こる病気なのではないか?」と疑われていたからです。
私は、30年間さかのぼって、世界のムチウチ症の研究発表を調べました。しかし、首の筋肉が原因でムチウチ症が起きたという発表も、首の筋肉を治療してムチウチ症が治ったという発表もありませんでした。
ムチウチ症は、首の痛み、頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気などの症状を引き起こします。うつ症状を伴うこともあり、患者さんはこれらの不定愁訴に悩まされながらも、根治する治療法を見つけられないまま病院を転々とし、症状を抑えるような一時しのぎの薬物療法を受けていました。症状が少し良くなったところで、あきらめざるを得ないというのが現状でした。
「これらの不快な症状を根本的に治療する方法を見つけたい」と研究に没頭しました。そして1978年、ムチウチ症でさまざまな不定愁訴が出ているのは、首の筋肉が異常を起こし、二次的に神経(主に自律神経)に異常が起きているのが原因であることを突き止めたのです。』


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うつ症状」の精神症状だけをとらえ治療を試みても、「頚筋症候群」から発生した自律神経の問題、数々の不定愁訴を起因とする「頚筋性うつ」の場合は、大きく治療内容が異なるため、いつまでも改善されないという事態に直面します。

画像出展:「新型[うつ]原因は首にあった!」(大和書房)

「首のこり→身体症状→精神症状」の順に症状は出る
頚筋症候群は、首のこりからくる頚筋の異常が自律神経を失調させ、さまざまな不定愁訴を引き起こす病気です。首の筋肉に異常があると、頭痛、めまいと自律神経の症状、つまり不定愁訴が出てきます。不定愁訴を全身に抱えた状態が長く続くと、そこから二次的にうつ症状である頚筋性うつが誘発されるのです。
ここで、頚筋症候群の主な症状、症状のメカニズムについて述べておきましょう。
交通事故や転倒などにより頭部に外傷や衝撃を受けたり、うつむき加減の姿勢を続けたりすると、首の筋肉へ過度な負担がかかり、疲労して過労状態となり、変性が生じて、さらに硬縮を起こします。それにより、頚筋症候群の三大症状である、頭痛、めまい、自律神経失調症が起こります。
自律神経失調の症状は、いわゆる不定愁訴と呼ばれるもの。症状には、静かにしているのに心臓がドキドキする心悸亢進、血圧の不安定、暖かいところに長くいられない体温調節障害、いつまでも続く原因不明の微熱、下痢や便秘、腹痛などの胃腸障害、涙の量が減って目が乾燥するドライアイなどがあります。
また、全身がだるくなる全身倦怠感、吐き気、異常に汗がダラダラと出る発汗異常、目が見えにくくなる視力障害、瞳孔が開きっぱなしで閉じない瞳孔拡大、天気が悪くなり始めると調子が悪くなる症状の天候依存、手足が冷えているのに、頭がのぼせて顔が熱くなる冷えのぼせ、胸が苦しく圧迫されているような感じのする胸部圧迫感もあります。
こうした不定愁訴が全身に出てくる状態が長く続くと、うつ症状、つまり頚筋性うつが出てきます。頚筋症候群では、比較的軽度の状態では不定愁訴がたくさん出て、重症になると、うつ症状が出てくるのです。同じように二次症状として、パニック障害、慢性疲労症候群も起こります。

 

頭の重さはスイカ1個分とのこと。そう考えると、確かに首への負担は想像以上です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「新型[うつ]原因は首にあった!」(大和書房)

交感神経です。いわゆる「闘争」や「逃走」など、戦うピリピリした時に活性化する神経です。そして、副交感神経です。こちらは「リラックス」した状態の時に活発になります。

交感神経の神経核は体の「胸部」、「腰部」の高さの脊髄から出ているため、胸腰系とも呼ばれます。一方、副交感神経は「脳」と「仙骨部」の高さの脊髄から出るため、頭仙系と呼ばれます。

頭と体の架け橋である頚が、過労やダメージ等により筋が硬くなった場合、特に副交感神経に影響を与えることは、この図からも想像できると思います。

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)

首の上半分は、脳の一部
『首の筋肉は、複雑に寄り合わさるようにして、頚椎を囲んでいます。
頚椎の中心の芯にあたる部分に脊髄があります。脊髄は脳から背骨の中を通って伸びている中枢神経です。脊髄から末梢神経や自律神経が出て、身体中のいろいろな部位にはり巡らされています。人間の身体を動かす脳のさまざまな指令は、脳からこの脊髄を通って全身に伝わります。脊髄の上部は脳とつながっているため、構造的には脊髄は脳が下に伸びた部分であり、人間の脳と体をつなぐ大切な役目を果たしています。この脊髄を首の位置で保護しているのが頚椎です。そして、頚椎の間から神経根と一緒に出て、末梢神経の一部となって消化管や心臓など体中に分布しています。
自律神経は、身体全体に神経ネットワークを巡らしていて、自分の意思とは関係なく、内臓や血管などの働きをコントロールし、消化や呼吸、発汗などを促し、運動神経や感覚神経以上に大切な神経です。自律神経は交感神経と副交感神経から成り立っていて、この二つの神経がバランスよく働くことで、身体を健康的に維持します。
首の筋肉が異常を起こすと、この自律神経に影響を及ぼします。首の筋肉の異常が、どのように自律神経に影響を及ぼすのかについては、まだ完全には解明されていませんが、私の臨床でのたくさんの患者さんが実際に実証してくれました。
首、とくに首の上半分の筋肉異常が自律神経失調を起こすことが私の臨床経験でわかってきました。そして、常に交感神経が強く、副交感神経が弱くなってアンバランスな状態になります。首は、人間の身体のなかで、脳と身体の各部位をつなぐ唯一の架け橋です。脳の指令を身体の各部位に伝える、脳の一部ともいえる大切な器官です。それだけに、複雑かつ繊細な構造になっていて、トラブルを起こしやすいともいえるのです。 私たちが、首のこりを器質的疾患として取り組む理由はここにあります。』


画像出展:「経絡マップ」(医歯薬出版)

誤診されやすい関連した病気
1.初老期のうつ
2.若年性アルツハイマー、認知症状
3.パニック障害
4.仮面うつ
5.更年期障害
6.男性更年期障害(燃え尽き症候群)
7.慢性疲労症候群
8.線維筋痛症

 

鍼灸師として
本文の中に「首こりを治す最新の物理療法」の解説が出ています。これを拝見すると概要は以下のようになります。
治療は東洋医学と西洋医学を併用させたものである。
・一人ひとりの症状に合わせたオーダーメイドの治療である。
・定期的に再診察を行い、症状の経過をみながら、首の治療ポイントを変えていく、ピンポ

 イント治療を行う。
・筋肉の深いところにも効果がでる特殊な【低周波治療器】(2種類)を用いる。
・低周波治療器の治療中に【遠赤外線】で首を温める。
・補助的に神経を調整する【ビタミンB】を点滴する。また、我慢できないほどの激しい痛

 みを伴う場合、対症療法として一時的に痛みを鎮静させる薬や注射を処方することもある。
・長年の研究から見つけ出した首のポイントに【(電気)】を打つ。このポイントは東洋医

 学の経絡のツボとは異なる。

 

本1冊を読んだだけでコメントすることは、適切ではないかもしれませんが、「首のこり」を取る、筋肉を緩めるという点に着目すれば、この4つ(【低周波治療器】【遠赤外線】【ビタミンBの点滴】【鍼】)の中で、【鍼】は重要な位置づけになるだろうと思います。どのポイントに鍼をするかが生命線ではありますが、鍼灸師は「頚筋症候群(頚筋性うつ)」の治療に大きく貢献できると思います。

ここから先は、特に鍼灸師の方向けに書いています。

医道の日本社が1986年4月に発行した「創刊500号記念特集-特集:圧痛点による診断と治療及び指頭感覚-」は鍼灸師にとって、目から鱗が落ちるような内容をたくさん含んだ、154名のベテラン鍼灸師や医師などによる寄稿で、A5サイズではありますが、763ページからなる力作となっています。その中には首/頚を取り上げているものもあり、今回はその中から、6つをご紹介させて頂きます。

 

時々、オークションに出品されています。

井垣博夫氏:「圧痛(反応)点の重要性と実際」
パーキンソン病の振戦麻痺患者のT1~T2左外方1㎝(大杼の脊柱寄り)に筋硬結部があり、これを緩解させたところ(単刺でまとわりつく感じが取れない場合は置鍼)、数日後に振戦が止った。これが意味するところ(理論的理解)を求め色々な資料に目を通していたところ、大村恵昭教授(Oリングテストで有名)の脳循環に関する記述を見つけた。これは「首および肩に異常があると80%以上のケースが脳循環に異常があると出ている(医道の日本469号)」と話され、Oリングテストでは椎骨動脈の診断点としてC6棘突起外方をあげている。今回経験した反応点はこの椎骨動脈の診断点よりかなり下であるが、振戦麻痺の原因が脳の特定部位の変性(黒質等)によるものであり、脳の血液循環は重要な意味をもっていると考えられる。従って、この刺鍼が何らかの機序をもって脳の血流異常を正常化する方向に働いたものと推測される。


角貝醸計氏:「後頭部に出現する硬結圧痛による診断と治療」
現代医学的に後頭部と脳の循環について…脳の循環は総頚動脈から分かれた内頚動脈(分岐部は頚動脈三角に当たる。頭蓋底で頚動脈管を通ったのち頭蓋腔に入る)と鎖骨下動脈の枝である左右の椎骨動脈の吻合してできた脳底動脈とが大脳動脈輪をつくる。そこから、前・中・後大脳動脈が出て脳に血液を供給する。つまり、脳に血液を供給する椎骨動脈は、天柱、風池、完骨の下側を通り脳底蓋より脳に入る。従って、この天柱、風池付近の硬結は脳に血液を送る大変重要な血管を圧迫し、虚血現象を起こす原因となる。
後頭部、天柱、風池、完骨付近に出現する硬結・圧痛の治療法…いずれも頚椎に向かって斜め45°の角度で刺入するとグリグリとした骨状の硬結に触れる時、ゴム粘土状の硬さの硬結に触れる時など、患者の病態によって所見に違いがあるが、多くは天柱の深部に硬結に触れる。寸3 1番鍼を目的の硬結付近まで鍼先を静かに進め、ゆっくり雀啄し、気持ちよい微かに重い響きを発生させる。これで抜鍼し、これを2、3回行うと硬結は消失する。慢性的に硬く全体が緊張している時は5~10分置鍼するとよい。この部位は血管、神経が数多く分布し、大変敏感な所なので細い鍼で丁寧を行うことが基本である。


城戸勝康氏:「圧痛点による診断と治療」
臨床家が時に見逃してるブラックホールともいうべき大穴…頚部は頭部と全身をつなぐ、文字通りネックとなる要所であって、組織解剖学的な見地からも神経系(体性神経や自律神経)、血管系(頚動脈や椎骨動脈など)、筋肉系という軟部組織の多重構造を持つ要部である。中でも胸鎖乳突筋の前後、筋腹中央、後縁の縦ラインは神経支配、血管分布、自律神経節という点から、最も重要なところであろう。この点については「霊枢」第二本論篇にも見られる通りである。すなわち、人迎、扶突、天窓、天容、天柱、風池などをピックアップすることができる。胸鎖乳突筋周辺のこれらの穴はよく反応を現すばかりでなく、刺鍼部位としても著効をもたらす要穴である。なお、主な適応例を上げると、頚肩腕症候群、自律神経失調症、高血圧・低血圧、歯・耳・喉等の疾患、頑固な肩こりなどである。


高島文一氏(医師):「圧痛点による診断と治療」
頚部、後頭部の天柱付近の圧痛を静かに圧を加えながら慎重に探る必要がある。この場合左右何れかに圧痛が著明であると、その半側の躯幹部の膀胱経に相当する部分に圧痛を認めることが多い。臀部の仙腸関節部から外下方にかけての圧痛は、同側の肓門、志室の圧痛、更には天柱の圧痛と連動することが多く、階段の昇降、山歩きなどの後にみられる。ところが一側の天柱、肝兪、肓門、志室に圧痛がありながら仙腸関節部から下肢の承扶、殷門、委中、飛揚、豊隆にかけて反対側の圧痛を認める事がよくある。比率は50%をこえるのではないかと思われるが、これらは躯幹と下肢の対称性を示すものと思われる。


橋本正博氏:「診断点治療点としての圧痛」
「霊枢」の本輪篇(第2)と根結篇(第5)に頚部周囲にあたる経穴として盛絡穴をとらえている記載がある。任脈を基準として、一次から七次の督脈に至るまでそれぞれの頚部穴を構成しており、面白いことは手足の陽脈の盛絡穴が比較的隣同士で仲よく並んでいることである-任脈…天突、足陽明(一次の脈)…人迎、手陽明(二次の脈)…扶突、手太陽(三次の脈)…天窓、足少陽(四次の脈)…天容、手少陽(五次の脈)…天牖、足太陽(六次の脈)…天柱、督脈(七次の脈)…風府-。おぼえやすく選穴しやすく、応用にはもってこいの経穴を構成している。この頚部の盛絡穴の主な筋肉系は胸鎖乳突筋と僧帽筋で直立生物たる人間が腰部と頚に負担のかかる最重要地点の一つにもなっている。また、人間の活動面での重力の場であり、疾病成立の主要部でもある。顔部の五器官の酷使と熱脳、それを支柱とする頚筋は注目すべき位置を占める。この盛絡穴の圧痛を診察することによって、証決定の有力な診断の一つになりえることであり、同時に、治療穴と直結する情報を我々に与えてくれるものがある。病症(主訴)と脈診は診断の決定権をもっているのであるが、証決定の思案にくれるとき、頚部の圧痛点、頚部の盛絡穴圧痛診察法は大きな助けとなりうるものである。


福島弘道氏:「反応点と指頭感覚」
この部は手足三陽経が、欠盆より胸腔腹腔内に入り、諸臓器に歴絡している。また、ここより分かれた枝は、頭部、頚部の臓器、即ち、眼・耳・鼻・口腔・咽頭等に絡っているので、言うならばこの部は経絡流注の重要点である。西洋医学的にも、深部に頚腕神経叢や自律神経の星状神経節があり、この影響下に現われる病症を頚肩腕症候群、或いは交感神経反射症候群などと称して、上肢や胸内、及び腹腔内の諸内臓に複雑な影響を及ぼす所となっている。また、星状神経の反回ニューロンは、広く頭部顔面部の眼・耳・鼻・咽頭等の諸器官に影響を及ぼしている。従って、鍼灸家に縁の深い肩凝り、頭重や上肢の疼痛・痺れ感、或いは動悸・めまい・むかつき・不眠・イライラ等の不定愁訴は、この部に入念な処置をすることによって特効を上げることができる。この他、肺・心等の胸部内臓の慢性症や、消化器、婦人科疾患等の難症痼疾は、この部の所見を的確に処理することによって好成績を上げることが出来るものである。その内、婦人科、肝胆疾患は右側に多くあらわれ、心臓疾患は左側に現われるが、その他総ての病症は現在苦痛を訴えている側、或いは両側に現われるものである。

悪玉タンパク質

ヒトの体は水分が最も多く、成人では50~70%と言われています。そして、次に多いのはタンパク質でおおよそ15~20%です。コラーゲンは総タンパク質の約1/3もあり、筋肉よりも多いとされています。申すまでもなく、タンパク質はなくてはならない物質です。
ところが、その不可欠なタンパク質が、時に原因不明の病の材料になってしまうことが多々あります。以下はその代表的な疾患です。

 

画像出展:「タンパク質の一生」(岩波新書)

何故こんなことになるのか? 何が起きているのか? どうしたら避けられるのか? 

ということを以前から疑問に思っていました。
先日、他の本を探していたときに、ふと「タンパク質」のこの疑問を思い出し、2008年と少し古い本ですが、「タンパク質の一生―生命活動の舞台裏」を買って読んでみることにしました。

 

著者は永田和宏氏です。

わかったこと
何故起こるか、何が起きているのかという疑問は、アミノ酸を1個の部品(例えば自動車のハンドル)とすれば、タンパク質は部品が集まったユニット、そしてユニットが集まった製品(自動車そのもの)であるため、時に、組立工程での間違い、前工程の設計段階で起きていた間違い、間違った部品が納品されていたなど、単体の部品ではない、部品の集合体の製品だから、問題が起きやすいということに気が付きました。
明確なルールはないようですが、一般的には50個以上のアミノ酸で構成されたものはタンパク質というようです。ちなみに血液に含まれるヘモグロビンはアミノ酸574個から出来ています。

 

画像出展:「国立研究開発法人産業技術総合研究所」

 

消化の話はここでは関係ないのですが、タンパク質という大きな分子が、様々な消化液によって、ポリペプチド→オリゴペプチド→ジペプチド→アミノ酸という小さな分子に分解されることを確認頂くために掲載しました。

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(医事新報社)

そして、最も気になっているタンパク質が原因物質とされている病は、「フォールディング異常病」とされています。つまり、タンパク質という製品を組み立てる際の組み立てミスということです。正確には、フォールディングとはアミノ酸を巧妙に折り畳んでタンパク質の構造を作っていくプロセスのことをいいます。

何故、このプロセスで問題が発生するのかは明らかになっていませんが、原因とされているのは、熱、細菌感染、炎症、活性酸素、紫外線、飢餓、低酸素状態などのストレスです。なお、フォールディングに失敗したタンパク質は凝集する傾向があり、凝集したタンパク質は細胞にとって非常に有害なものとなります。
下図の中に書かれた「分子シャペロン」は、タンパク質が正常な構造・機能を獲得するのを介添えするのですが、その対象は細胞内タンパク質では約30%といわれています。

また、HSP(Heat Shock Protein)は「ストレスタンパク質」と呼ばれ、その働きは「分子シャペロン」と同じ「介添え人」です。違うのは平常時に作られて機能しているものが「分子シャペロン」、ストレス条件下にさらされた際に機能するのが「ストレスタンパク質」ということになります。

 

画像出展:「国立研究開発法人産業技術総合研究所」

「フォールディング異常病」の原因とされるストレスを避けることができないとしたら、それらに強くなる耐性をつけることが求められます。1つの答えは免疫力を高めることだと思います。
また、それに関連して自律神経のバランスを整えることも同様に必要です。このように考えると、「過度なストレスと乱れた生活習慣を見直し、適切な睡眠・食事・運動を心がける」という対策に導かれてしまいます。

新しい治療法に向けて(本文からの引用です)
『こうした病態は、従来の遺伝病の概念からは理解できない新しい概念である。ある特定の遺伝子に変異が起こり、それによってそのタンパク質の担っていた機能が損なわれるために病気になるというのが、大きく考えれば従来の遺伝病の考え方であった。もちろんそれにはおさまりきれない病態は数多くあるわけだが、この最後の章でみてきた病気は、それらとは大きく様相が違っている。特定のタンパク質の機能が損なわれたのではなく、そのタンパク質の機能とは関係なく、そのタンパク質の不安定性のためにタンパク質の凝集体を作り、それが細胞に毒性を与えることによって神経細胞脱落などの症状を呈することになるというものであった。フォールディング異常病という命名は、そのような病因を端的に示している。
これらを見てみると、タンパク質の品質管理が生命体にとっていかに重要かということに改めて注目しないわけにはいかない。フォールディング異常病、そして遺伝病としてだけでなく、プリオン病のような、DNAを介さない新しい感染症の様態も見え始めてきた。
ファールディングや品質管理は、タンパク質が正しく働くために精緻に構成された細胞のシステムであるが、そのシステムは、当然のことながら、うまく働いているあいだは私たちの目に止まることは比較的少ないものの、いったんそれが破綻すると、あるいは品質管理機構がオーバーフローすると、目に見える病態として私たちの前に立ち塞がる。それは元々が私たちの身体の一部を構成しているタンパク質であるだけに、その治療が難しいのである。それは、ある意味ではがんの治療が難しいのに似ている。
がんも元をただせば、私たちの個体を構成していた細胞に何らかの変異が生じて、悪性化したものである。抑制が効かなくなってどんどん増殖してしまうという困った特質、またその細胞本来の機能を喪失しているという性質の他は、私たち自身の細胞と変わるところは少ない。だからこそ、他から侵入してきた細菌などを攻撃するようには、うまくがん細胞だけを殺すことができないのである。抗がん剤などによる化学療法では、正常細胞を殺す副作用と折り合いをつけながら治療しなくてはならなくなる。
フォールディング異常病の場合も、元々は体内にふんだんにあるタンパク質が「違法化」していくのであり、現段階では、それらに特異的な治療法をみつけることは困難な状況にあると言わざるをえない。その有効な治療法のためにも、フォールディングの特質をより深く知り、また品質管理の機構をより詳細に研究することは、将来におけるそれらの疾患の克服のためには避けて通ることのできない重要なステップなのである。』

Muse細胞と自然治癒力の関係を考える

数日前、夜のニュース番組だったと思いますが、「Muse細胞」という我々の体内にあって、組織などの修復のために働いてくれる細胞のことが放送されていました。
ノーベル賞を取ったIPS細胞、物議をかもしたSTAP細胞、そして今回のMuse細胞と、創薬や再生医療などの発展に期待できるものが新たに出てきたことは、とてもありがたいことです。
今回のMuse細胞がもっている治療効果は高いとされており、血液の中を移動し、傷害臓器で生着して、その組織に応じた細胞に自発的に分化するとのことです。そして、遺伝子導入などの高度な操作を必要としない庶民的なもののようです。
「天然」かつ「手軽」とは失礼な言い方かもしれませんが、こうなると、東洋医学でいう、自然治癒力との関係を考えてみたくなります。

 

そこで、ネット検索により3つの論文を見つけました。この中から東北大学大学院の出澤真理先生がご講演された、第50回日本人工臓器学会大会 特別講演 「ヒト生体に内在する新たな多能性幹細胞 Muse細胞:細胞治療、予後の判断、創薬、病態解析への展開の可能性」、2013年の「人工臓器42巻1号」から概要をご紹介し、その後、自分なりの考えを付け加えさせて頂きたいと思います。なお、ネットで見つけた論文はいずれも興味深いものなので添付させて頂きました。
Muse細胞は成人ヒトの皮膚、骨髄などの間葉系組織から採取可能である。生体の間葉系組

 織の場合、例えば骨髄液では、3,000個の骨髄単核球細胞のうち1細胞の割合で存在する。
・生体内でのMuse細胞の局在を組織学的に検討すると、真皮、脂肪組織や他の様々な臓器で

 は結合組織内に孤立性・散在性に存在し、特定の組織構造との関連はみられなかった。ま

 た、市販の間葉系の培養細胞では、多少の増減はあるものの大体1%ないし数%程度の割合

 で含まれている。
Muse細胞は生体に投与されると組織修復機能をもたらす:ヒト細胞を拒絶しない免疫欠損

 マウスを用いて劇症肝炎、筋変性、脊髄損傷、皮膚損傷などの様々なモデルを作製し、GFP

 で標識したヒトMuse細胞を尾静脈から投与すると(ただし皮膚損傷の場合は局所注入を行

 った)、移植4週後でMuse細胞は傷害部位に生着し、肝細胞、筋細胞、神経細胞、角化細胞

 にそれぞれ分化することが確認されている。
 このように、投与されたヒトMuse細胞は生体内で損傷部位を認識して生着し、機能的な細

 胞に分化すること、さらに三胚葉性の細胞に生体内でそれぞれ分化することが示された。
 一方Muse細胞を除いたヒト間葉系幹細胞、すなわち非Muse細胞群を同様の方法で生体に投

 与しても、Muse細胞で見られたような損傷組織への生着や各組織の細胞への分化は観察さ

 れない。従って、Muse細胞は損傷部位を認識し、組織を構成する細胞となりうる組織修復

 機能を持つが、Muse細胞以外の間葉系幹細胞にはこのような機能が備わっていない、すな

 わち間葉系幹細胞移植においてこれまで見られてきた組織再生、組織修復はMuse細胞が担

 っていると考えられる。

 

画像出展:「IPS Trend」(科学技術振興機構)

自然治癒力(現代医学的解釈)とMuse細胞
・東洋医学では自然治癒力を高めるとは、からだの気・血・津液のバランスを整えるというこ

 とですが、これをベースにすると、話を進めることができないため、現代医学的解釈をもっ

 て考えたいと思います。
 鍼による機械刺激は、細胞レベルのダメージを伴うため、血液流出の確認後、問題なければ

 直ちに損傷組織の復旧作業が開始され、修復材料の酸素と栄養素を運ぶ血液の流れを増大さ

 せます。一方、「闘争モード」は穏やかな「休息モード」に切り替えます。これは交感神経

 優位に偏っていた状態を副交感神経を高めるということです。自律神経の統合中枢である視

 床下部は、内分泌系(ホルモン)を総合的に調節する重要な中枢でもあるため、内分泌系に

 とっても好材料になります。
 さらに、副交感神経を優位な状態にすることができれば、免疫を担当しているリンパ球が増

 加することになり免疫力が向上します。
 話はそれますが、「口内炎」の付記のところで鍼治療効果、自然治癒力についてコメントして

 います。口内炎の修復が早まるということは、損傷部の粘膜細胞の再生がスピードアップする

 ことを意味していると思いますが、ここで、Muse細胞の「傷害組織に生着し分化する」とい

 う機能が発揮されていると考えることは不自然ではないように思います。鍼の機械刺激による

 細胞レベルに起きた損傷を、Muse細胞活性化のためのストレスであると考えれば、この点も

 辻褄は合います。
 いずれにしも、あくまで想像の世界で結論には至らないのですが、鍼灸師としては、鍼効果

 の一つにMuse細胞の活性化があるという事実を期待したいと思う次第です。

 

交感神経の緊張はリンパ球の減少に加え、顆粒球の増加をもたらし、その結果、無差別攻撃を行う活性酸素によって、問題のない組織の破壊を生みだしてしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「安保徹の病気にならない免疫のしくみ」(ナツメ社)

ダウンロード
ヒト生体に内在する新たな多能性幹細胞.pdf
PDFファイル 232.6 KB
ダウンロード
Muse細胞がもたらす医療革新.pdf
PDFファイル 851.1 KB
ダウンロード
再生医療の最先端.pdf
PDFファイル 1.3 MB

小児鍼

最近、小児鍼についてのお話を頂くことがあるため、代々木の日本伝統医学研修センターで学んだことに加え、専門学校時代の教科書や小児鍼について書かれた本も、一度読んでみようという気持ちになりました。

 

これは、懐かしい教科書です。

小児鍼は鍼灸の世界では「特殊鍼法」という分類に入っています。以下、教科書からの引用です。
『小児鍼とは、普通の毫鍼を刺入する刺鍼法と異なって、軽度の皮膚刺激を主とした鍼法である。対象は、生後20日から5、6歳ぐらいまでの乳幼児である。小児鍼は、術式から接触鍼法、摩擦鍼法、刺入鍼法に大別されている。刺激量は、施術部位が発赤や発汗する程度を基準として行う。』


接触鍼法
『一般に毫鍼が用いられるが、集毛鍼、振子鍼、バネ式小児鍼等も使用される。毫鍼によるものは、下の図のように鍼体を母指と示指でつまみ、鍼尖を少し出し、手首で加減しながら直角に皮膚にわずかに接触されるように行う。刺激の度合いは、鍼尖の「出し方」の長短、「当て方」の強弱等で調整する。この方法の大切なことは、手首を振るようにして、鍼尖が皮膚に触れたら、弾くようにリズミカルに移動させることである。鍼尖を皮膚に接したまま移動させると、皮膚に損傷を与えやすくなるので注意する。』

 

当院の鍼は1番(0.16mm)が大部分ですが、腰殿部では3番(0.20mm)や5番(0.25mm)も必要に応じて使います。

 

画像出展:「はりきゅう実技基礎編」(医道の日本社)

摩擦鍼法
『下図のような形の鍼を用いて、皮膚を軽い力で触れるように摩擦する方法である。施術時に、皮膚を軽く引っ張って皮膚を緊張させて行う方法もとられる。』


刺入鍼法
『きわめて細い毫鍼を浅く速刺速抜する方法で、刺入深度は1~3分(3~9mm)程度である。』

代々木での小児への治療は、特別な小児鍼は使わず、年齢に関係なく使用する鍉鍼(ていしん)という刺さない鍼を用い、「摩擦鍼法」を主に時にツボを軽く圧迫するような手技等を組み合わせて使っていました。

アトピーなども鍉鍼を使うと赤みが軽減されます。患者さまにも自宅で鍉鍼することをお勧めしていました。
素材はチタン。太さは筋の大きさで使い分けます。また、両端の大小は大は筋を押し、小はツボを押す時に使います。       

滑りが悪い場合は、日本手拭を置いてその上から行います。 

大師流小児鍼

小児鍼で全国展開している団体に「大師流小児鍼」があります。創案者は谷岡捨蔵という大阪の先生で、129年の歴史をもつ代表的な小児鍼です。
図書館の蔵書検索で、「わかりやすい小児鍼の実際」という本があったので、さっそく借りて読んでみました。その中で、特に重要であると思ったことをご紹介させて頂きます。

 

著者:谷岡賢徳氏

出版会社:源草社

『鍼治療の作用は、生体の持っている自然治癒力を助長することにあるわけであるから、小児鍼においてはほとんどの疾病にその効果が認められる。特に小児は生命力が旺盛であるから、ほんの微細な鍼刺激で驚くほどの効果が得られる。』
小児鍼は「気持ちよい」が第1条件である。気持ちがよければ、子供の方からすすんで来院してくれる。気持ちよい鍼をするには、子供の皮膚を読めなければならない。「柔らかい皮膚には弱刺激、硬い皮膚には強刺激」が原則である。硬い皮膚の子供は、年齢相応の刺激でも、くすぐったく感じたり、ものたりなかったりする。逆に柔らかい皮膚の子供は、年齢相応の刺激でも痛く感じてしまうものである。同じ年齢の子供でも、柔らかい皮膚には弱い鍼をし、硬い皮膚には強い鍼をする。』
『大人に気持ちよくても、子供にも気持ちがいいとはかぎらず、たいていの場合は子供は大人より十倍以上弱い刺激が適するものである。
治療効果の判定
・治療中に眠くなる。
・治療後にもっと治療してほしいという。
・治療後の帰宅途中に寝てしまう。
・治療後にお腹が空く。
・翌日の表情が明るい。

当院の小児鍼
小児鍼の対象
・基本は小学校就学前までです。(「おすわり」が可能となる生後8ヶ月位からを想定しています)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「ビジュアルノート」(医療情報科学研究所)

治療概要
・鍼は鍉鍼を用います。手技は「摩擦鍼法」が中心です。
・ツボはまだ曖昧なため、経絡の流れを整えることが治療の目的になります。実際には動いてしま

 うので難しい面はありますが、狙いは明確にします。
・経絡は腎経(足少陰)、脾経(足太陰)、肺経(手太陰)になります。腎経、脾経は足部から膝

 へ、肺経は肘から手首の部位に鍉鍼を行います。

お腹背中も重要な部位です。お腹は鍉鍼の重さを利用して、「の」の字を描くように、背中は

 上下両方向に鍉鍼を使います。

・特にストレスが強い場合は、頭部も加えます。手技は頭頂部と側頭部に対し、前(顔)から後頭に

 向かって行います。

※鍉鍼について詳しく説明された資料とサイトをご紹介します。

左をクリックすると「てい鍼の使い方マニュアル」が表示されますが、

これは 『手づくりてい鍼どっとこむ』というサイトを立ち上げられている、

小越建二先生の資料です。

YNSA(山元式新頭鍼療法)

患者さまのお家族が、月刊誌「壮快 2012.4(マキノ出版)」の記事の切り抜きを持ってこられ、「この、YNSAって知ってますか?」と聞かれました。
加藤直哉先生が書かれた「慢性疼痛・脳神経疾患からの回復 YNSA山元式新頭鍼療法入門」は持っており、ざっとですが一読したことがあったため、「本は持っているのですが、よく理解できていません。もし、ご興味あれば1ヵ月程お時間を頂ければ、熟読し治療に使うことを考えてみたいと思いますが。。」とお伝えしました。

 

著者の加藤直哉先生はYNSA学会の副会長です。

ところで、「壮快 2012.4」の記事に書かれていたことは以下の通りです。
特長
・古来のツボとは関係なく、山元氏が30年以上かけて発見し検証を重ねてきた治療点を使って全身

 の機能を調整する。
・高い確率で即効性が期待できる。
・効果は1日~1週間で減退するが治療を繰り返すことで、従来以上の回復が期待できる。
・十二脳神経、十二内臓点、脳点、三感覚点などがある。
何故、YNSAか
・中国式の頭針療法では納得できる効果が得られなかった。
・突破口は触診中、ツボに関係ない部位を触ったときに「左腕に何かを感じる」といい、わずかに

 マヒの左手が動いたのがきっかけ。その後、丁寧な触診と患者の反応によって見出していった。

一方、ネット検索で興味深いサイトを見つけました。

 

 

 

 

YNSAを解説したPDF資料がダウンロードできるのですが、そのダウンロード数は210ヵ国、計17,414で、その国別内訳のTop10は以下のようになっています。ご覧の通り米国が圧倒的に多く、約27.5%を占めています。
 1.アメリカ合衆国 4803
 2.インド 1036
 3.オーストラリア 529
 4.スペイン 429
 5.カナダ 413
 6.イスラエル 406
 7.ブラジル 393
 8.イタリア 367
 9.インドネシア 366
 10.イギリス 323
 ちなみに、中国は11位の287、日本は14位の212です

YNSA概要

YNSAは初級と中・上級の2段階があり、後者は首診をベースに診断と確認を行ないながら治療を進めるというもので、初級をマスターすることが中・上級に進む前提となっています。

下記の図は、その概要をまとめたものです。そして、その下の3つの図は【初級】で必須となる、「基本点」、「感覚点」、「脳点」になります。

 

「F」は耳の後ろにあるため見えません。


今回、頭鍼に対する理解不足を補うため、近所の図書館から以下の本を借りて、興味ある部分だけを拾い読みしました。個人的には、頭鍼・頭皮鍼が1970年に出てきた新しいもので、まだ50年も経っていないことを知り、意外に思いました。

 

著者は淺野周氏、出版会社は三和書籍です。

内容は高度なため、鍼灸師でないと難しいと思います。

『一般的に頭鍼は、脳卒中や脳障害者を治療する鍼法と思われている。日本では田中角栄が、最初に頭鍼治療を受けた有名人だからだ。しかし方氏は、最初から頭鍼を脳卒中治療には使ってはいなかった。頭鍼に限らず、中国には眼鍼、耳鍼、鼻鍼、口鍼など、さまざまな流派があり、韓国の高麗手指鍼も手を人体の縮図と考えるため、現在では全息療法と一まとめにされている。』


頭鍼は中国で1970年から徐々に使われ始め、その後、国家臨床医師が常用する治療方法になりました。上記に登場する方氏とは方雲鵬氏になります。そして方氏と並んで頭鍼の権威であるのが、焦順発氏になります。また、焦氏の頭鍼は西洋医学の脳機能局在に基づいた頭鍼のため、伝統的穴位とは関係がありません。そこで1984年の世界保健機構西太平洋地区-鍼灸穴名標準化会議にて、頭鍼穴名国際標準化方案が検討されることになりましたが、これは焦順発氏の頭鍼療法を伝統的中医理論に適合させるというものでした。こうして1989年11月、国際標準鍼灸穴名科学組会議で正式に承認され、国際標準頭穴が世界の鍼灸界に推薦されるに至りました。
 この3つの頭鍼以外にも、林学倹(上海)、湯頌延(上海)、朱明清(北京)などの頭鍼がありますが、いずれも焦氏と方氏の系統を引き継ぐものとされています。

今回は、3つのうち焦氏と国際標準の2つについて、その概要をご紹介します。

焦氏の頭鍼です。

国際標準の頭鍼です。

下記の図は、経絡治療の経穴(ツボ)です。このように頭部にも多くの経穴があるのが分かります。また、中国の古い文献には、「十二経脈、三百六十五絡、その血気はすべて顔に上がり、空竅へ走る(霊枢・邪気臓腑病形篇)」や「頭は諸陽の会であり、百脈の竅である(鍼灸大成)」など、人体の経気は経脈などによって頭面部に集中していることが指摘されており、頭鍼という治療法が生まれたことは不自然なことではないと思います。

注)「空竅」は頭の中という意味です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首から顎にかけての、天突、廉泉、承漿は「任脈」に含まれるものです。これに「督脈」、「膀胱経」、「小腸経」、「三焦経」、「胆経」、「大腸経」、「胃経」の計8つが頭にツボを持っています。

地に足を着ける

長い予約待ちだった本ですが、忘れたころに図書館から連絡が入りました。発達障害児へのマッサージについては、中締めも終わり、次は実践という感じだったため、「読む?」と迷ったのですが、
著者の栗本先生は整体や各種手技療法のプロで、この1、2ヶ月で読んだ本とは傾向が異なっていたため熟読させて頂きました。

 

本先生は「からだ指導室 あんじん」というホームページを立ち上げられています。

「整っている身体」とは睡眠や休息によって、疲れを回復できる身体

「いい姿勢」は一人一人違う、息が深くできるのがいい姿勢

 

 

 

 

左の図は中央に置かれた5感(触覚・視覚・聴覚・味覚・嗅覚)と2覚(前庭感覚・固有受容覚)が「感覚調整」と「運動行為」という2つの問題に関わっているという図で、感覚統合を理解するうえで、たいへん分かりやすいものであると思います。

 

 

 

 

 

画像出展:「もっと笑顔が見たいから」(花風社)

今回の本は上の図でいえば、右側の破線で囲まれたボックスに示された「姿勢」や「運動行為」に焦点を当てた内容になっています。

 その中からここでは、『4.腰は使えているか?』と『8.大事なのは「土台」』、からだの部位で言えば「」と「」について取り上げたいと思います。
「腰が使えている」とは「腰の力を入れたり抜いたりが自在にできること」という意味です。例えば、タオルを使って二人で綱引きすると、腰が使えていない人は腰がへっぴり腰になります。普通の人でも腰痛があると思うように力を入れることができず、へっぴり腰のようになるのではないでしょうか。

注)下記の図は、「固有受容覚」以外、すべて「自閉っ子の心身をラクにしよう!」(花風社)から引用させて頂いたものです。


腰が使えるようになるトレーニング

 

和式トイレを使うように腰を下ろして、両脚を交互に動かし、座ったままの状態で歩きます。

 

お尻を後ろに突き出さずに、まっすぐ下すようにします。下せるところまででOK]です。

土台がしっかりしていないと、本来入るべき所に力が入らず、逆にリラックスすべき所に力が入りっぱなし等ということがおきるため、疲れやすくなります。
土台をしっかりさせるということは、まさに「地に足を着ける」ことです。このことは「整った身体」を作るコツです。そして、情緒の安定や集中力の向上、意欲の増進につながります。
「地に足を着ける」には足首の柔軟性と調整力が必要です。足首が使えていないと、つま先立ちとなり、首が緊張し前傾しやすくなり、その結果、姿勢が悪くなります。

 

 

足首は蝶番関節といって、ドアのようにパタパタと上下させることができるのですが、うまく使えていないと、動く必要のない筋肉まで緊張して、全体が動くような感じになってしまいます。

また、つま先立ちになりがちなのも足首の問題です。これにより、首が前傾し姿勢が悪くなります。

自閉症は周りの刺激にずっと反応し続けるために、頭が休まらず疲れやすいという傾向もあります。また、多動といわれる症状は、落ち着きのなさだけでなく、不注意や衝動的なふるまいが見られるものです。
姿勢の悪さは不安を生み、それをカバーするために、からだを動かしているという指摘もあります。従って、地に足を着け、土台をつくり、姿勢が良くなればこのような問題は改善が期待できます。


地に足を着けるためのトレーニング
・足に触れたり、足関節や個々の足指の関節を動かしたりして、触覚と固有受容覚を刺激します。

・つま先立ちなど、足関節の緊張や硬さなどを軽減するため、収縮する筋肉のフクラハギ(腓腹筋・ヒラメ筋)と反対に伸びる、前側にある前脛骨筋へのマッサージを行います。また、太ももの裏側(ハムストリングス)などをストレッチしてあげるもの有効です。

 

 

 

「固有受容覚」とは関節の曲げ伸ばしや筋肉の動きを脳に伝える感覚です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「もっと笑顔が見たいから」(花風社)

 

腰から頭まで揺れが伝わるようにして、からだ全体の力みを取り、心地よい感覚を作ります。

術者も手だけではなく、腰を使って動かすイメージです。


 

これらは、仰向けで行うのでアイコタクトを意識すると、さらに良いと思います。

「ディトレーニングと脳」

今回のブログは、「月刊トレーニングジャーナル 2017 3 No.449」の「スポーツ医科学トッピクス」から「ディトレーニングと脳」を取り上げました。
このトッピクスの筆者は、川田茂雄先生(帝京大学医療技術学部講師、早稲田大学スポーツ科学未来研究所招聘研究員)です。

 

「パフォーマンス向上を支えるスポーツ医科学専門誌」

 

 

まず、ディトレーニングは英語ではde-trainingとなり、その意味はトレーニングを中断することです。つまり、鍛えた心身は練習を休むことによりどんな影響を受けるのかということです。
全身持久力や耐糖能(食事によって上昇した血糖値を正常に戻す代謝能力)は、筋力よりも影響を受けやすく、高強度の持久的トレーニングを少なくとも3年以上行っている平均年齢21歳の若者に、トレーニングを7~10日間休ませると、全身持久力に低下がみられます。
また、20日間の中断では最大酸素摂取量が28%低下するとの報告もあります。
近年では、骨格筋や心肺機能といった身体に関わるものだけでなく、トレーニングが脳に与える効果についても関心が高まっています。ではトレーニングの中断は脳にどのような影響を与えるのか、骨格筋や心肺機能と同じような傾向があるのかということが今回のテーマです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海馬(中央水色)とその周辺部位は、脳内のあらゆる情報が集まる位置にあり、記憶の形成に重要な役割を果たしています。「海馬」とは、ローマ神話に出てくるヒポカンパス(馬の上半身に魚の尾がついた想像上の動物)に似ていることから、海馬と名づけられたそうです。

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報)

ヒトでは持久的なフィットネスレベルと海馬の容積には、正の相関関係があることが知られています。例えば以下の図は59~81歳(平均年齢67歳)の男女の酸素摂取量と海馬の容積との関係を表したものです。この文献では、フィットネスレベルが高いほど、短期の記憶力もよいことが報告されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運動能力に関係する「酸素摂取量」と記憶を司る「海馬」の大きさ(体積)は比例しています。

文献:「Hippocampus 19:1030-1039,2009」

既に、運動が海馬の血流量を増やすということが知られています。そして、トレーニングの中断による影響を調査した結果が以下のグラフになります。
これは、少なくとも15年以上定期的に高強度な持久力トレーニングを行っている高齢者(平均年齢61歳)を対象に、強制的に10日間トレーニングを中断させ、海馬の血流量の変化を調査したものです。

 

「Pre」は10日間のトレーニング中断前、「Post」は中断後です。

上の図は左側の海馬、下は右側の海馬で、いずれの海馬も中断後の血流量(CBF:冠動脈血流量)が減少しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文献:「Frontiers Aging Neurosci 8:184,2016」

このように、海馬はトレーニングの中断により、血流量が有意に減少します。このデータで興味深いのは、運動中断による脳血流量の減少が脳全体に生じるわけではなく、局所で生じるということです。10日間のトレーニングの中断では記憶の減弱は生じませんでしたが、その短い期間内にも、脳では生理的な変化が生じていることになります。
運動中断による脳機能への影響に関してはまだまだ研究報告が少なく推測の域を出ませんが、骨格筋や心肺機能同様、運動によって獲得した脳機能の向上が、運動中断によって低下することは不自然なことではありません。
年齢やその人の健康状態に合った適切な運動は、骨格筋、心肺機能、脳のはたらきの維持にとって有効であり、運動の継続は健康維持にとって望ましいことであることは明らかです。

パーキンソン病の音楽療法と歩行の筋肉

パーキンソン病のマネジメントと最新リハビリテーション」というブログの中で、「パーキンソン病に効くCDブック」という本をご紹介していますが、今回はその件と、歩行における筋肉という2つを取り上げています。

 

左の写真より新しい本が、2012年6月発行の「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」 (ビタミン文庫) になります。

 

1.パーキンソン病の音楽療法
音楽療法の研究が開始されたのは1997年で、その後、国際シンポジウム「Science for music」など国内外で発表が行われ、2000年には英語の論文として報告されています。そして、2002年には「第2回パーキンソン病フォーラム」での講演で大きな反響があり、現在に至っています。

パーキンソン病は歩行障害を伴いますが、視覚や聴覚などの外部からの刺激により、歩数や速度、歩幅が改善されます。ここにはパーキンソン病がもつ脳内の歩行リズムの障害という問題が存在しています。
聴覚、音によるリズム刺激は、脳内の歩行リズムの正常化を狙っており、歩行訓練を行わなくても、音楽を聴くだけで歩行が改善されることを目指しています。
これは、1分間に120回のメトロノームが刻む一定のリズムに、クラシックや童謡の旋律にのせた音楽を聴いてもらうことにより、一定のリズムが脳を刺激し、その結果歩きやすくなり、さらに気分も明るくなるという効果を得ています。

 

格安の中古本でCDは付属していない商品でした。

約してしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「パーキンソン病に効くCDブック」(マキノ出版)

視覚刺激の例としては、例えばすくみ足の起こりやすい患者さまは、目の前に一定の間隔でを引いておけば、スムーズに歩くことが可能です。また、平地を歩くのが難しい患者さまでも階段は問題ない場合もあります。足がすくんでいるときは、会議などで使うレーザーポインターなどで足元に光線を照射し、それを目印にすると足が前に出てきます。
このような、階段光線などの視覚刺激に脳が反応し、それらを指標にすることで、歩行リズムが整ってくるというわけです。そして、リズムが整うと、外部からの刺激がなくてもある程度は歩けるようになります。
また、「1、2、1、2」と号令や手拍子など、一定のによるリズム刺激に合わせて歩くと、すくみ足が起こりにくく、歩行に調子もついて歩きやすくなります。つまり、脳は視覚だけでなく、聴覚の刺激にも反応し歩行リズムを整えることができます

 

次は、音楽療法の実験についてのご紹介です。
対象者は25名(男性10名、女性15名)、平均年齢70歳、ヤール重症度Ⅱ~Ⅲ度、病歴平均7年というパーキンソン病の患者さまに対して行われた調査結果です。

 

 

ヤール重症度を説明した表です。

パーキンソン病は厚生労働省が定める特定疾患の一つであり、ヤール重症度がⅢ以上の場合、医療費の補助が受けられます

 

 

 

画像出展:「パーキンソン病に効くCDブック」(マキノ出版)

歩行速度…音楽療法開始前は平均50.0m/分だったが、終了後は平均58.2mに、改善率は20.7%

      なお、5%以上改善は19人(75%)、10%以上は14人(56%)だった。
歩幅…音楽療法開始前は平均41.7cmだったが、終了後は平均47.2cmに、改善率は20%
1分間の歩数…音楽療法開始前は平均117歩だったが、終了後は平均120.8歩に、改善率は4.2%
また、実験結果の分析により、歩行状態が良くない人ほど、改善率が高いこと。前向きな気持ちになることが実証された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「パーキンソン病に効くCDブック」(マキノ出版)

2.歩行の筋肉
歩行では膝を上げる筋肉と骨盤を安定させる筋肉が重要な働きをしています。前者は股関節屈曲を担当するインナーマッスルとして有名な腸腰筋で、後者は中殿筋というおしりの筋肉(殿筋)の一つで、上層の大殿筋と下層の小殿筋にはさまれています。
また、この両筋は筋肉の酷使などで発生するしこり(トリガーポイント)により、腰部に関連痛を起こす原因筋にもなります。つまり、腰痛の治療においては、腰背部の筋肉だけでなくこの2筋への治療も見逃すことはできません。 そして、同じくとても大切な筋肉が大腿四頭筋と呼ばれる太ももの大きな筋肉です。
以下の表は、歩行を支える下肢の筋肉群について、それぞれの筋肉がどのような働きをしているかをまとめたものです。
大腿四頭筋は、上体を前方に移動させる際に膝折れを防ぎ、そしてまた、膝関節への衝撃を吸収するという非常に重要な働きをしています。大腿四頭筋はその名の通り、4つの筋で構成され、前面に大腿直筋、内側に内側広筋、外側に外側広筋、そして大腿直筋の下で大腿骨に付着している中間広筋となっています。
この4つの筋肉の中で、伸展モーメント(膝を伸展させる力)が最大なのは中間広筋で、40~50%をカバーしていると考えられています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリックして頂くと拡大されます。上段は「推進力の生成」、下段は「歩行時の衝撃の吸収」で、上から足関節、膝関節、股関節となっています。また、筋肉は表の左端から大腿四頭筋(中間広筋)、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋、股関節外転筋群となっており、最後がアキレス腱です。

表の図は大腿部の断面です。これを見ると表面の皮下脂肪と大腿直筋を合算した厚さはかなりあることが分かります。一般的には、大腿骨までの深さは男性では6cm程度とされており、その深さを参考に適した鍼を選択することが大切です。

パーキンソン病患者さまで、大腿部の硬さが著しく痛みも伴う場合は、この中間広筋への処置が非常に重要と考えており、この場合の置鍼時間は20~30分を目安にしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「アトラスとテキスト 人体の解剖」(南江堂)

ウォーミングアップに大切なこと

2月号の月刊トレーニングジャーナルの特集は「ウォーミングアップ」でした。寄稿されているのは以下の5つです。今回のブログでは、この5つの中から、「ケガの予防」「有効性」「汎用性」の3点に焦点を当て、共通した重要ポイントを洗い出すということをしてみました。
1.「身体と技術の両面から組み立てるウォーミングアップ」

   加藤裕氏 AC長野パルセイロフィジカルコーチ、日体協AT]、CSCS、修士(スポーツ医学)
2.「セルフコンディションチェックの一環としてのウォーミングアップ」

   山路達也氏 NSCA-CPT、長崎女子商業卓球部トレーニングコーチ
3.「伝統打破の勇気を要したウォーミングアップの改善とその効果」

   秋吉奏穂氏 慶應義塾大学體育會ホッケー部女子マネージャ兼トレーナー

   石橋秀幸氏 慶応義塾大学スポーツ医学研究センター、修士(健康マネジメント学)
4.「多様性を与えるウォーミングアップ」

   尾野伊織氏 柔道整復師、ストレッチ&コンディションめんてなスタッフ
5.「動作スピードに着目した動的ウォーミングアップ」

   千崎和真氏 大原学園選任教員、大阪府立大学大学院(博士前期課程在籍中)

 

月刊トレーニングジャーナル2月号です。

1.「身体と技術の両面から組み立てるウォーミングアップ」(サッカー)
 ・スポーツにおいてバランスを崩す局面の多くは片脚立位時であり、股関節外転筋が働くことに

  よりバランスの崩れを抑えることができる。
 ・特に股関節は球関節で高い可動性を持つことに加え、股関節周囲の筋は片脚立位姿勢の安定性

  に寄与するだけでなく、その筋力低下は膝のストレス増大や腰椎の代償動作を引き起こすなど

  様々な外傷・障害につながる可能性があるため、可動性と安定性の両面からアプローチする必

  要がある。逆にこれらが破綻し、上肢・体幹・下肢の可動性、安定性、協調性に問題が生じる

  と、不良なキック動作を呈し、グローペイン症候群と呼ばれる鼠径部周辺に自発痛が発生する

  サッカーの競技特異的な障害に至ると考えられている。
 ・シーズンを通して外傷・障害を予防して高いパフォーマンスを維持するために、計画的に筋力

  や可動性の向上、効率的な動作の習慣化などに取り組むことで、日々のウォーミングアップの

  時間を有効に活用している。
 ・ハムストリングスの肉離れは男子サッカーでは全外傷の13~17%を占める最も多い外傷であ

  る。予防には伸張性収縮を伴う筋力強化や膝関節と股関節を複合的に使うトレーニングが有効

  とされているが、選手の多くは練習や試合後にハムストリングスの疲労を訴えたり、日頃から

  張りを訴えることがあるため、単調な負荷量の漸増だけでなく、実施のタイミングも非常に重

  要である。

 

2.「セルフコンディションチェックの一環としてのウォーミングアップ」(卓球)
 ・ウォーミングアップの最後に5分間のフリータイムを設け、選手自身にどうするのが最もコン

  ディションが整うかを考え実行してもらうようにした。たとえば5分間休憩するのもよいし、

  ストレッチをしても、走ってもよい。どうすれば最もコンディションが整うかを考えて実行す

  る。フリータイムの間に選手が実施するのは、これまで行ってきたウォーミングアップやトレ

  ーニングの種目から選択したものである。また、自分で解決策がわからない場合には声をかけ

  てもらいアドバイスしているが、まずは選手の自立を促すことが重要である。
 ・スポーツに共通するアスレティックポジションの獲得を重視している。腰、膝だけでなく殿筋

  群やハムストリングスのストレッチ、大腿四頭筋や腸腰筋、そして体幹を鍛える必要がある。

 

3.「伝統打破の勇気を要したウォーミングアップの改善とその効果」(グラウンドホッケー)
 ・ケガの調査では殿部と下肢が74%(37件)と最も多く、股関節10%、腰背部8%、その他8%

  だった。殿部・下肢の内訳は殿部と大腿後面が7件、大腿前面10件、膝20件であった。膝は靭

  帯損傷15%、半月板損傷10%だった。膝のケガはアクシデントによるものが多い。大腿部、下

  腿部、足部のケガでは、特に肉離れと疲労骨折は痛みを我慢してプレーを継続することで結果

  的に競技復帰を遅らせる原因になっていることが多く、これらを含めた大腿部、下腿部、足部

  のケガを予防することがケガの発生頻度を大きく減らせるのではないかと考えた。
 ・フィジカル部分に着目して、選手個々の運動の背景や個人の柔軟性、コンディショニングが異

  なる中で全員一律でルーティンで実施するウォーミングアップはケガのリスクになっている可

  能性がある。
 ・ウォーミングアップの順番は、動的な種目で筋肉を温めた後に、静的ストレッチにより筋肉を

  冷やすことになるのは適切ではない。
 ・選手自身がコンディションに応じて種目を選択するようにしたことにより、ウォーミングアッ

  プを行う目的(どの筋肉を伸ばしているのか等)を考えるようになった。
 ・天候や気温によってウォーミングアップを日替わりにした。
 ・選手の意識を変えたことにより、約40%のケガによるテーピングが10%に減った。その10%も

  予期せぬケガが原因であり、慢性的なケガによるテーピングはほとんどなくなった。
 ・選手各自が自発的にコンディションチェックを行うことで、自分の身体に起こっている異常に

  敏感になり、ケガに対するリスク管理が高まった。
 ・ウォーミングアップ以外、シューズ、服装、食事、サプリメント、リフレッシュ方法なども考

  えるようになった。

 

4.「多様性を与えるウォーミングアップ」(野球)
 ・股関節はバッティングや走動作の際に十分な動きが必要である。バッティングも走動作も力を

  発揮して重心を移動させることであり、発揮した力によって足底から得られた地面反力を、ス

  ムーズな股関節の動きにより上半身へと無駄なく伝えることで力強いパワー発揮を可能にす

  る。このような理由からヒップローテーションや股割りでのスライド、四股、フロッグストレ

  ッチなどを行っている。順番としては、その場で実施するものから、移動しながら実施するも

  のへと移行し、漸増的に全身を連動させて動かしていけるように配慮している。
 ・ルーティーンで実施しているのは基本的にはダイナミックストレッチのみである。ルーティー

  ン動作では、これまでの自身の動きや身体の状態と照らし合わせて、その日の調子を感覚的に

  捉えるとともに、試合に向けての心身の状態を整える。
 ・ムーブメントドリルやアジリティドリルでは、ルーティンの中にイレギュラーなルーティーン

  外の動作を取り入れて、いつもとは違う動作を経験させ、多様な動作に対応できる下地をつく

  ろうと考えている。
 ・野球のケガには、投球の肩や肘の痛みやコンタクトによるものもあるが、それ以外にも想像し

  ていなかった動きに身体がついていけず発生するものもある。たとえばフライを追いかけてい

  て味方と接触しそうになったのを避けたときや、強いライナー性の打球が内野手に捕られたの

  を見て、走者が慌てて塁に戻ろうとするときなどである。
 ・競技とは離れた動き、子どもが遊びの中で行うような簡単な動きを多く取り入れている。これ

  は野球にとらわれない基礎的な身体操作能力を向上させる目的が強くある。
 ・目的の動作が60~70%獲得できたら新しい動作に変更していく。その場ではあえて動作を完成

  させないことで、その選手に伸びしろを与える。その後その選手が完成されていない動きに対

  して自分なりの解釈を加え、検証し、練習し、よりよいものへと変化させていく。このように

  することで選手に、自ら考えて練習する習慣をつけられる。

 

5.「動作スピードに着目した動的ウォーミングアップ」(バスケットボール)
 ・1990年代後半からパフォーマンスとストレッチングについての研究が深まるにつれ、静的ス

  トレッチチングの実施がパフォーマンス低下を引き起こすという研究結果が多数出てきた。こ

  の理由は、筋温とパフォーマンスに関係があり、静的ストレッチチングでは筋温はあまり上が

  らないためパフォーマンスを発揮しづらいのではないかというものであった。2000年頃にな

  ると、筋温を高めてパフォーマンス発揮に適しているのは、動的ストレッチングだとする研究

  が多数出てきた。現在は30秒未満の静的ストレッチングはパフォーマンスを低下させないとい

  う見解も出ているが、主流は動的ストレッチングといえる。
 ・動的ストレッチングを速く行った方が、ゆっくり行うよりも、その後に行うジャンプパフォー

  マンスが高く、その差は統計学的に有意であったというものがある。さらにこの研究で着目す

  べき点は、両者ともに同程度の筋温の上昇が見られたとのことである。つまり、筋温がパフォ

  ーマンスの向上につながるのではなく、それ以外の要素(おそらく神経系の何らかの要素)が

  パフォーマンスの向上につながるのではないかと推測されている。筆者は「動作の速度」に注

  目すべきと考えている。

 

まとめ
 ・ウォーミングアップの内容
  ・ルーティンで行われているウォーミングアップには、チーム全体の意識を高める目的と選

   手個々の集中力および体のコンディションを整える目的があるが、後者に関しては本当に

   効果が得られているか検証した方がよい。
  ・ウォーミングアップの大きな目的の一つに体を温めるということがある。時に温めた体を

   それに続く静的ストレッチングにより、体を冷やしてしまっていることがある。特に気候、

   天候を考慮しウォーミングアップの順番を考える。
  ・ケガの原因の多くは、オーバーユース(使いすぎ)とアクシデントに分けられると思うが、

   アクシデントの中には予期しない、突発的なことから起こる場合もある。これについては

   競技にはあまり出てこないようなイレギュラーな動作、たとえば子供が遊びの中で行う動

   作等を組みいれる。
 ・選手の意識
  ・選手自身がウォーミングアップの必要性を理解し、自分にとってコンディションを整える

   最良な方法を考え、そして最適なものにしていくための工夫を継続する。 
  ・ケガに対する正しい認識や筋肉などの基本知識を学び、ウォーミングアップに限らず、

   食事、睡眠、道具、リフレッシュ法など、自分のコンディション維持、改善のための意識

   を高め工夫する。
 ・筋・腱・靭帯・関節
  ・股関節は片脚立位姿勢の安定性に寄与し、筋力低下は膝や腰に影響を及ぼすため、可動性

   と安定性の両面からアプローチする。例えば、ヒップローテーションや股割りでのスライ

   ド、四股、フロッグストレッチなどが有効である。
 ・チーム側の管理
  ・個々の選手を尊重し、任せるという部分を取り入れる。
  ・肉離れや疲労骨折など初期段階では無理が利く傷害は、パフォーマンス低下だけでなく選

   手寿命にも関る問題であり、「体作りとコンディショニング」という課題に対し、最終的

   にはチーム方針として徹底することが望ましい。

パーキンソン病友の会医療講演会

今月7日、武蔵浦和コミュニティーセンターで行われた、埼玉県パーキンソン病友の会主催の「友の会医療講演会」に参加してきました。今回のブログは、その中から印象に残った3つの事柄について書いています。
なお、講演のテーマは以下の通りです。
「医療環境、医療連帯についてそれぞれのお立場から」
・北里大学メディカルセンター神経内科・・滝山容子先生
・埼玉県総合リハビリテーションセンター神経内科・・市川忠先生
・埼玉県総合リハビリテーションセンター脳神経外科・・大渕敏樹先生

 

1.脊髄歩行中枢(CPG)について
市川先生のお話のなかで出てきたキーワードです。脳の力を借りず、脳と同じ中枢神経の脊髄主導で歩行を行うという仕組みです。私自身、初めて聞いたものだったので、ネットで調べてみました。
参考にさせて頂いたサイトは「リハビリmemo」になります。
・ヒトは普通、歩くために意識して頭を働かせることはありません。例えば、「テレビのリモコンを取りに行こう」と脳が指令を発すると、リモコンがある場所を認識した後、勝手に歩行によって体を移動させています。
これは「歩行の自動化」といえます。ただし、無意識下で中枢神経がリーダーとなって何かの制御機構が発動していることは間違いありません。その制御機能がCPG(central pattern generator)というものですが(日本語訳はいろいろで、「脊髄歩行中枢」という名称はそのうちの一つです)、このCPG発見のきっかけは、脊髄を切断されたネコが脳からの入力なしに、脊髄の働きによって下肢の運動を行なったという実験結果でした。

そして、この脊髄主導の神経回路は腰仙部にあって、運動パターンを作り出すことが明らかになり、1985年にCPGと呼ばれるようになりました。
ヒトにもCPGの存在は予想されていましたが、ネコで行ったような実験をすることはできないため、確認することは難題となっていました。突破口となったのは、1998年に行われた脊髄損傷患者に対する腰髄への電気刺激の実験で、刺激の周波数を調整している時に、突然、麻痺した下肢が動き出すという事件が起こりました。
これにより、脊髄損傷患者を対象にした研究が行われ、筋電図も記録され、そこには電気刺激によって伸筋、屈筋が反応し膝関節の屈曲という運動が観察されました。そして、この研究によりヒトのCPGの存在が明らかとなりました。

なお、パーキンソン病治療ということでは、これからの分野ということだと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「リハビリmemo」

2.パーキンソン病に伴う痛みの問題について
滝山先生のお話です。パーキンソン病患者さまの多くが筋肉や関節などの痛み、特に腰痛に悩まされているケースが多いという実態から、その原因などについて説明されていました。
・姿勢反射障害が原因の一つに考えられる。
・筋肉のこわばりのため、関節を動かす際に必要以上の筋肉などに高い負荷がかかる。特に無理な姿勢はその影響が腰部に出やすく腰痛になっていることが多い。
ドパミン自体に疼痛抑制作用があり、ドパミンが減少することで疼痛抑制の働きが低下し、痛みが増幅される。
・姿勢の問題が脊柱の歪みとなって、それが痛みとなって発現する。
・整形外科の課題は、専門性が高くなっていること。一般的には、脊椎を専門とされている先生が中枢神経に関わる疾患に詳しいように思う。

 

3.患者さまのリハビリ事例
患者さまから、自らが実践されているリハビリの内容についての発表がありました。
・「自己流リハビリで活き活きと」(私が勝手につけたもの。発表者の様子を拝見して、このようなタイトルが思いつきました)
・行なっていること
 ・グランドゴルフ(動きの改善)
 ・カラオケ(嚥下障害を防ぐため)
・止めたこと
 ・太極拳(片足での動きは、自分にとって困難と判断されたため)
・発表を伺って気づいたこと
 ・自分自身の問題を前向きに、積極的に、真剣に考えられている。(けっして、他人任せにされ

  ていない)
 ・個人ではなく、複数のクラブ・サークルに入会されて、人とのかかわりを通じて楽しまれて

  いる。(あるテレビ番組で、「人とのつながり」を積極的に構築することは、認知症などの予

  防に非常に有益であるということが放送されていました)
 ・継続させることが重要。発表された患者さまは、グランドゴルフは毎日やっているとのことで

  した。
 ・自分に合わないこと、楽しくないことはやらない。という明確な意志と実行力をもたれている。

 

患者さまの「パーキンソン病なんかに負けないぞ!」という強い意志と覚悟が全身から満ちあふれていました。

市川先生より、特にダンスは良いとのお話がありました。

また、Wiiのゲームを利用したリハビリに関する論文が20種類ほど出ているとのことです。

ただし、「疲れるまで行うことは決して、してはいけない。」との注意がありました。

 

 

画像出展:「GATAG画像集」

※鍼灸師としての感想
・ドパミンへの影響については、動物実験の結果や、血液ドパミン値の改善データはあるものの、十分なエビデンスとは言い難く、現時点においてはまだ判断は難しいと思います。
・筋肉への影響については、こわばった筋肉を弛める効果は、経験から十分に期待できるものですが、効果の維持がどれ程あるかについては、個人差が大きいと思います。
・以前、受講した講演では、患者さまからの「鍼灸治療はどうですか?」という質問に対し、講演された先生(医師)は「試してみることは悪くないが、対価に見合う効果があるかどうかが重要でしょう。」とのご回答でした。

実験は全部で11件、ラットが10件、ヒトは1件です。ラットの測定は全て脳ですが、ヒト測定は血液(血中)になります。

ダウンロード
鍼灸の作用機序から神経内科領域の可能性を探る.pdf
PDFファイル 200.9 KB

慢性炎症について

脂肪は冷えである。という認識でいたのですが、「脂肪は慢性炎症の原因」という記事をネットで見つけて以来、「どっちだろう?」と疑問に思っていました。そして先日、同じくネットで以下の記事を目にしました。

左をクリックすると、『脂肪慢性炎症の引き金となる分子を同定』という記事が確認できます。

こうして、1冊の本を購入して勉強をスタートさせました。
拝読させて頂いたのは、生田 哲(いくた さとし)先生の『青魚を食べれば病気にならない 万病の元「慢性炎症」を防ぐ』です。その、まえがきとなる「万病の元 慢性炎症の発見」は、インパクトのある内容となっていますので、先生のプロフィールに続いて、その「まえがき」をご紹介させて頂きます。
ちなみに、冒頭の「脂肪は冷え」に関しての疑問ですが、【皮下脂肪】は冷え、慢性炎症に関係するのは【内臓脂肪】。ということになります。

なお、今回の内容は以下の通りです。

・まえがき
・炎症について(炎症の定義とプロセス)
・慢性炎症の原因と特徴

・炎症の局面「攻撃」と「治癒」
・慢性炎症と心筋梗塞
・慢性炎症と糖尿病
・慢性炎症とがん
・付記1:非ステロイド消炎鎮痛剤の問題点 
・付記2:東洋医学における「熱」

 

生田 哲:1955年 函館市生まれ。東京薬科大学卒業。

がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員を経て、イリノイ工科大学助教授(化学科)。

まえがき

『わたしたち日本人が苦しむ病気といえば、がん、心臓病、糖尿病、アルツハイマー病、アレルギー性疾患がその代表である。これらの病気の発生する原因は、個別に深く研究されてきた。研究者は、みずからの専門性の中だけで、すなわち、仲間うちで情報交換し、他の分野との交流はほとんどないに等しかった。
がん専門の研究、心臓病専門の研究、糖尿病専門の研究、アルツハイマー病専門の研究、アレルギー性疾患専門の研究…というふうに。
たとえば、がんの専門家は、がんは遺伝子のミススペリング(突然変異)で発生すると主張する。心臓発作は、血管の内部に蓄積したコレステロールでできたプラーク(塊)が大きくなり、血液の通りを悪くすることで発生すると理解されてきた。要するに、心臓病は「配管の問題」とされ、配管を詰まらせるとされたコレステロールを下げることが声高に叫ばれてきた。
糖尿病は、血糖が異常に高くなることで発生し、インスリンの効きが下がることが原因であることまではわかっていたが、この段階でとどまっていた。
アルツハイマー病は、脳の神経細胞が急速に死んでいくことで記憶を失うことがわかっていたが、神経細胞の死ぬ原因は諸説あって確定していなかった。
どの専門家も、彼らの専門性の範囲内で細分化された深い研究にいそしんできた。当然、論文が山のように発表されてきた。学問研究はミクロの世界で飛躍的に向上したが、人の健康の増進にはあまり役立たなかった。
しかし、1990年代半ばに心臓病の分野に画期的な発見があった。突破口を開いたのは、ハーバード大学のポール・リドカー教授である。彼は、それまで配管の問題とされてきた心臓発作は、じつは、血管の炎症によってプラークが破裂することで発生することを明らかにした。
これで、心臓発作の発症者の半数が正常なコレステロールレベルの人であるという矛盾も、プラークがそんなに大きくなくても心臓発作が起こるという不思議な現象も説明できる。血管の炎症によるプラークの破裂が問題であるからだ。
この発見を突破口に、各国の医学部でそれまでバラバラに研究を進めていた、心臓、慢性関節リウマチ、がん、アレルギー、神経を専門とする科学者たちは、はじめて互いに話し合うようになった。そして彼らは、自分たちが共通の原因を追跡していることを発見した。それが「炎症」だったのである
ケガをしたときや病原体に感染したときに発生する炎症は、傷を負った組織を修復した直後、あるいは、病原体をやっつけるとただちに止まる。しかしこれが止まらずに、知覚できない程度に低いレベルでいつまでもつづくのが、「慢性炎症」である。
慢性炎症は、健康な神経細胞や組織や血管に長期にわたって傷つける。脳の神経細胞を殺すとアルツハイマー病、血管の炎症が止まらないと心臓病を引き起こす。また、遺伝子にダメージを与えるとがん、インスリンの効きを悪くすると肥満や糖尿病が発生する
がんの152万人、糖尿病の237万人、虚血性心疾患の81万人、慢性関節リウマチの34万人、ぜんそくの89万人、高血圧の797万人、肥満の約2300万人、花粉症の約2000万人。これは、わたしたち日本人を苦しめる病気と患者数だ。そのうえ、慢性の病に苦しむ人は毎年のように増えつづけている。』

炎症について
炎症といえば、普通は急性炎症をさすと思います。「はれる」、「赤くなる」、「痛い」、「熱っぽい」などの特徴がありますが、「炎症の5主徴」として定義されています。

 

「医学の父」、「医聖」などと呼ばれるヒポクラテス(BC460〜BC377)は、炎症のことを「phelegmone(燃えるもの)」としました。

4主徴から「機能喪失」が加わり、5主徴となったのは、紀元後2世紀の頃です。

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「痛みと鎮痛の基礎知識」(技術評論社)

炎症は、「生体組織に何らかの有害な刺激を起こす物質(起炎物質)が作用したときに、生体が示す局所の反応であり、生体防御反応の一過程である。」となるのですが、重要なポイントは、炎症には「攻撃」と「治癒」の二つの局面があるというところです。
攻撃

免疫系が体に侵入してきた病原体と戦います。痛み、腫れ、発熱し、赤みが発生します。
治癒

病原体と免疫との戦いで受けた損傷を治癒させます。健康を維持する鍵となります。

 

3つの絵のうち、上段は外敵からの侵入を察知し、戦闘準備に入る様子。

中段は激しい戦い、下段は戦い後の様子で、きれいに掃除し元のように戻せれば健康を完全に取り戻すことができます。

家の中と同じで、後片付けがしっかりできていれば面倒な問題は発生しません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

ここで、炎症のプロセスを整理したいと思います。
病原体の侵入を防ぐ防衛網
病原体の侵入を防ぐ防衛網は1つではなく、何層にもわたって敷かれています。1層目は皮膚です。皮膚は抗菌性物質を放出してバクテリアの侵入を防ぎます。皮膚におおわれていない眼、口、鼻には粘膜が張りめぐらされ、バクテリアを捕らえて破壊し、血液の流れに入らないように阻止します。


侵略者をみつけ全身に知らせる監視部隊
病原体が第1線の防衛網をかいくぐり、血液の流れに入ったとすると、体の結合組織の中にあって敵の監視を担当する肥満細胞がヒスタミンを放出することで警報を鳴らし、侵略者の存在を全身に知らせます。さらに肥満細胞は多くの物質を全身に送り、侵略者との戦いのために援護を要請します。これに応えて免疫系は白血球を地上部隊として戦場に送り込みます。なお、ここでいう侵略者とはバクテリアやウィルスなどの病原体だけでなく、がん細胞など体内で発生した異物も対象となります


白血球が侵略者を僕滅する
地上部隊の白血球は、その役割ごとに主に4つの小隊に分かれています。
B細胞
 特殊なタンパク質から抗体とよばれる武器を使って、バクテリア、ウィルス、毒素を捕らえ悪行

 を阻止します。
好中球
 寿命が3日しかない好中球は短期決戦になります。武器は強力な活性酸素で、あたか

 もクラスター爆弾のように周囲に存在するすべてを抹殺します。
マクロファージ
 食細胞といわれるマクロファージは大蛇のように、侵略者に近づいて一気に飲みこみ、活性酸素

 や酵素を使って分解してしまいます。
T細胞
 血液中に逃亡したり、組織の中に潜む侵略者を追跡し、容赦なく破壊します。まるでSWATのよ

 うな働きですが、状況によっては、より適した白血球に援軍を要請することもあります。

慢性炎症の原因と特徴
・炎症をコントロールするエイコサノイドには、「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」
と「抗炎症性エイコサノイド(火消しのエイコ)」が存在し、この2つのバランスが健康維持には非常に重要です。慢性炎症は病原体を撃退した後や、傷が治癒した後に炎症という爆撃が完全に停止されず、くすぶり続け、健康な細胞、組織、血管へのダメージが終結せず続いている状態です。
・慢性炎症は穏やかであり、脳に痛みのシグナルを送る神経細胞の末端を刺激するほどの強さはあ
りませんが、最近の研究の積み重ねからさまざまな方法で体に深刻な障害を与えることが判明しています。長年にわたって深く進行し毒薬のように身体に忍び込み、細胞分裂、免疫系、心臓、脳などの主要な臓器に影響を与えます

「火消しのエイコ(抗炎症性エイコサノイド)」が過剰であれば、慢性炎症には罹りにくいものの、攻撃力が落ち、感染症を防いだり、回復させたりするパワーが低下し、そのリスクが高まります。

一方、「燃やしのエイコ(炎症性エイコサノイド)」が過剰になれば、慢性炎症が深く静かに進行に慢性の病気を招くことになります。

 

 

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

注)「エイコサノイド」は生理活性物質(動物体内で産生され微量で生理・薬理作用を示す物質)の、ホルモン・神経伝達物質・サイトカイン以外の総称である「オータコイド」の1つで、不飽和脂肪酸の代謝物の総称です。

生田氏は著書の中で、エイコサノイドを「ホルモン」とされていますが、調べた範囲ではホルモンと定義しているものはなく、ホルモンと同じく生理活性物質の中の「オータコイド」としているケースが多く見られました。

また、オータコイドはホルモンのように血液を介して全身に影響を及ぼすことはなく、局所的に作用するものです。半減期もホルモンが数分~数十分と長いのに比べ、オータコイドは数秒~数分と考えられています。ちなみにドパミンやアドレナリンなどの神経伝達物質の半減期は1秒以内です。

炎症の第一の局面「攻撃」
・病原体が体に侵入してときに最初に反応するのは、免疫細胞である白血球の好中球やマクロファ
ージで、病原体を飲み込み猛毒の活性酸素を使って分解します。

「燃やしのエイコ(炎症性エイコサノイド)」は炎症プロセスを促進するアクセルの働きをし、好中球やマクロファージを戦場に速く送り込めるように血管から外へ出やすくします。さらに、免疫系に関わる細胞に炎症性物質を放出させるので炎症は激しさを増します。戦場に到着した免疫細胞は、病原体や病原体の攻撃で被害にあった組織を破壊します。
主な炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ) 
 ・プロスタグランジン

  傷口のそばの血管を拡張することによって、血管中の白血球が戦場にすばやく辿りつけるよう

  にします。このとき、血管から漏れ出てくる血液によって、組織は腫れて赤くなり、痛みのシ

  グナルを脳に送信する神経細胞の末端を刺激し、痛みを生じさせます。痛みは不快なものです

  が、それ自体が体を守るための強力なメッセージになっています

  また、酸分泌を抑制したり、粘液の分泌を促して粘膜を保護するという働きもしています。消

  炎鎮痛剤の服用で胃腸症状が出てしまうのは、このプロスタグランジンに対して、一斉攻撃を

  加えているためです。
 ・ロイコトリエン

  その役割は、白血球を援助することです。まず、白血球を呼び寄せ、駆けつけた彼らに戦場の

  位置、出陣すべき兵隊の人数を伝えます。これは攻撃によって発生する戦場周辺の問題ない細

  胞や組織の破壊を最小にするようにコントロールするためです。これをロイコトリエンが担当

  しています。

  また、白血球に敵を攻撃するための活性酸素の使用を許可し、そのうえ、白血球の寿命を格段

  に伸ばすという役割もしています。

 

炎症の第二の局面「治癒」
「治癒」こそが本当の意味での「抗炎症」ということになります。「抗炎症エイコサノイド(火

 消しのエイコ)」はブレーキ役となり、第一の「攻撃」によってダメージを受けた組織などを

 元通りに戻します。
・治癒のプロセスはリコール、掃除、再生、修復という4段階から構成されています。
 ①リコールは、免疫系の戦いを止めることです。副腎皮質から抗炎症性物質であるコルチ
ゾール(ストロイド)が放出され、「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」による攻を止めます。

  ②掃除は、まだ戦場に散乱してる攻撃で使用した武器を取り除き、戦場をきれいにするこで、担当するのはマクロファージで、飲み込んだ病原体の残骸や傷ついた組織、戦場に漏出た赤血球などは、すべて活性酸素で分解されます。マクロファージの働きが不十分で、戦場に残骸が残ると弱いながらも炎症は続いてしまいます

  ③再生は、損傷を元に戻す作業です。血管壁が再びつくられ、できた血管の中を流れる血が酸素と栄養素を運び込み、ダメージを受けた組織の再生が始まります。
 ④修復は、新しい組織が生まれる、治癒の最終段階です。傷跡は組織が正しく配列されす
修復された場合に見られますが、これは「抗炎症エイコサノイド(火消しのエイコ)」が十分に機能しなかったために起こります。
主な抗炎症性エイコサノイド(火消しのエイコ)
 ・リポキシン

  「炎症性エイコサノイド(燃やしのエイコ)」を調整する(減らす)パワーは、コルチゾール

  よりもずっと強力です。

  また、コルチゾールとは異なり、「抗炎症エイコサノイド(火消しのエイコ)」を停止しな

  いという特筆すべき大きな利点を持っています。さらに、新しい組織を秩序立てて再構築する

  のに必要な成長ホルモンを放出させます。

ここからは、慢性炎症と「心臓病」、「糖尿病」、「がん」の関係を、本文からの完全引用にてご紹介させて頂きます。
慢性炎症と心臓病
『なぜ、心臓発作が起こるのか。多くの医師は、心臓発作を次のように理解してきた。年月がたつにつれて、脂肪が動脈の血管の内部にじわじわ蓄積していき、これが塊(プラーク)となって、血流を流れなくする心筋梗塞が起こり、その先の心筋の組織が壊死し、心臓発作が発生する、と。
プラークの大部分はコレステロールでできているから、血液中のコレステロールレベルが高くなれば、心臓病のリスクが高まるはずである。しかし、ここに問題がある。それは、すべての心臓発作の50%は、コレステロールが正常の人に発生すること、そして、心臓発作を防ぐことでは最高の薬であるアスピリンは、コレステロールレベルを少しも下げないことである。
さらに、最新の画像研究からわかったことは、心臓発作を発生させやすい、もっとも危険なプラークは、大きなものではなくて、破裂しやすいものである。これを「ソフトプラーク」と呼んでいる。そうなると、心臓発作にはコレステロール以外の別の因子がかかわっていることになる。それは、いったい何なのか。
今から150年以上も前の1848年、ドイツの著名な病理学者ルドルフ・ウィルショーは、心臓病で亡くなった患者の心臓を丹念に調べ、「心臓病は炎症である」と発表した。しかし、彼の鋭い洞察はまったく注目されることなく、埋もれてしまった。当時、炎症の有無や程度を測定する有効な手段が存在しなかったからである。
一方、血液中のコレステロールは、測定する方法があったので、たちまちのうちに心臓病の原因に祭りあげられた。
その後、炎症と心臓病を関連づける研究は、しばらくとだえていたが、1970年代に、ワシントン大学のラッセル・ロス教授が、心臓病は炎症が原因で起こると主張したことで、生物医学界で論争を呼んだ。しかし、このときすでに、高コレステロールが心臓病のおもな原因であると声高く叫ばれていたため、ロスの主張は聞き入れられなかった。このときもまた、炎症、とりわけ慢性炎症を測定する精密な手段がなかったため、コレステロール値の低下が心臓病を予防するための金科玉条とされたのである。
そしてついに1990年代になって、ハーバード大学のポール・リドカー教授は、CRPを慢性炎症の程度を測定する血液中の指標(これを血液マーカーと呼ぶ)として開発し、血液中のCRPが高まると心臓発作のリスクが4.5倍に跳ね上がる事を発見した。CRPは炎症のマーカーであるが、それと同時に炎症を発生させる炎症性物質でもある。そして、CRPは最強の炎症性物質であるIL-6(インターロイキン-IL6)から作られている。』

慢性炎症と糖尿病
『炎症、インスリン抵抗性、過剰な体脂肪の三者は切り離せない関係にある。
脂肪細胞は免疫細胞と同じように、炎症を強力に推進するIL-6とCRPを放出する。そして、放出されるIL-6とCRPは脂肪量に比例する。言い換えると、太れば太るほど、慢性炎症は激しさを増す。
細胞は、インスリンのはたらきによってブドウ糖をその内部に取り込んで利用することで生きている。しかしIL-6は、細胞がブドウ糖を取り込むのを妨げる。つまり、IL-6は、インスリンの効きめを弱めるのだ。これでは細胞は困る。この細胞のピンチを救うために、膵臓は、さらにインスリンをつくり、血液中に大量に放出する。こうしてインスリンが血液中に大量に存在するが、今ひとつ効きめが薄い状態となる。これがインスリン抵抗性で、長引くと、2型糖尿病が発生しやすくなる。
また、過剰のインスリンは、ブドウ糖を脂肪細胞に取り込ませ、体脂肪を増やす。上述したように、脂肪組織はIL-6やCRPを放出するから、炎症は悪化することになる。
では、炎症が先なのか、それとも増加したインスリンが先なのか。わたしは、炎症が原因であると信じている。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「青魚を食べれば病気にならない」(PHP新書)

慢性炎症とがん
『がんと炎症は密接に関係している。まさかと思われるだろう。第一線の科学者でさえこの事実をまだ理解していない人が多いくらいだから、無理もない。しかし、発がんの研究で著名なカリフォルニア大学のブルース・エームス教授は、約30%のがんが慢性炎症か慢性の感染症に関係していると語っている。
じつは130年くらい前から、がんは慢性炎症の起こっている箇所に多発することが知られている。そして多くの研究の積み重ねから、遺伝子の突然変異と慢性炎症が、がんの原因であることがわかってきている。
こういうことだ。感染や炎症によってマクロファージや好中球が活発化し、ロケット弾である活性酸素を敵めがけて発射する。しかし、この活性酸素が敵ばかりでなく、細胞の内部に存在するDNAにも損傷を与えてしまう。これは、戦場で味方の砲撃によって犠牲者が出てしまう“友軍放火”の生物版といえる
次に、DNAダメージが原因となってDNAの並びが変わってしまうミススペリング(突然変異)が起こり、成長と増殖に異常のみられる細胞、すなわち良性腫瘍となる。この良性腫瘍に炎症によって発生した成長因子というタンパク質が注がれることで、悪性腫瘍、すなわち、がん細胞ができる。
このようにがん細胞は、正常細胞が突然変異によって変身したものである。これで腸の慢性炎症から大腸がんが、肝臓の慢性炎症から肝臓がんが起こることが説明できる。
医学の分野で権威ある「実験医学雑誌」の編集者は、2001年3月号で、以下のように述べている。慢性炎症が起こることで、ヒトの肺、肝臓、大腸、膀胱、前立腺、胃粘膜、卵巣、皮膚にがんが発生しやすくなる。これまでの多くの研究から、アスピリンなどの抗炎症薬を服用することで、大腸がんのリスクを40~50%下げ、肺、食道、胃に発生するがんを予防できる可能性が高い、と。
それから、炎症がかかわるもう一つのがんに子宮頸がんがある。子宮頸がんは、ウィルスが子宮の入り口に感染することによって発生する。このがんでは、まず、子宮の入り口に炎症が発生することに注目したい。感染したウィルスを撃退しようと免疫系がはたらいて炎症が起こり、組織の損傷、DNAダメージ、ミススペリングとつづき、がんの引き金が引かれる。
正常細胞ががん細胞に変身するには、まず、遺伝子DNAにミススペリングが起こらねばならない。炎症の際の活性酸素がDNAにミススペリングを起こさせることは先に述べた。
DNAダメージは、通常、うまく修復されているから問題ないが、修復がうまくいかなくなると、ミススペリングが発生する。ミススペリングが細胞をコントロールする遺伝子に蓄積すると、最終的に、死ぬことなく分裂、成長をつづけるがん細胞に変身する。しかも燃やしのエイコは、がん細胞の発生を助長するだけでなく、できたがん細胞を他の箇所に移動させる転移能力も兼ね備えている。
研究者たちは、燃やしのエイコをつくるコックス2(サイクロキシゲナーゼ2)という酵素の性質を夢中になって調べている。この酵素は、炎症時や多くの癌が発生するときにも増える。だから、この酵素のはたらきを止めれば、炎症やがんの発生を抑えられるのでは、と期待されている。
いくつもの研究から、抗炎症薬のアスピリンを毎日飲んでいる人は、ポリープと呼ばれる前がん状態になりにくいことが確認されている。アスピリンは、コックス2のはたらきを阻害し、燃やしのエイコの生産を妨げるため、がんの発生を抑える。しかし、アスピリンには胃粘膜から出血を起こすという深刻な副作用がしばしば発生するため、理想のがん予防薬にはなりえないのである。』

付記1:非ステロイド消炎鎮痛剤の問題について
非ステロイド消炎鎮痛剤は一般的には鎮痛薬やNSAIDs(non-steroidal antiinflammatory drugs)と呼ばれ、アスピリン、インドメタシン、ボルタレン、フェルビナク、イブプロフェン、ロキソニンなど多くが製品化され市販されています。本の中にも、非ステロイド消炎鎮痛剤の問題点を詳細に指摘されてる個所がありましたので、引用させて頂きます。

 『すべての鎮痛薬が燃やしのエイコの生産を妨げるという共通のしくみによって、痛み止めの効果を発揮するからである。しかしこれらの薬には、火消しのエイコの生産をも妨げるという弱点がある。火消しのエイコは、免疫系と病原体の戦いの場で組織が受けた損傷を修復するだけでなく、筋肉運動をしたときに筋細胞に発生した傷の修復もしているから、健康の維持には欠かすことができない。つまり、非ステロイド系抗炎症薬は敵味方の区別なく無差別に殺傷する愚かな爆弾なのである。また、これらの抗炎症薬を長期間飲み続けると、胃潰瘍や消化管の内層が機能しない腸管浸漏症候群を起こしたり、心臓の不調から死にいたることさえある。アメリカでは30種類以上の非ステロイド系抗炎症薬が流通し、毎年、7000万件も処方され、300億個が薬局で大衆薬として販売されている。「ニューイングランド医学雑誌」によれば、抗炎症薬の処方によって毎年、出血性潰瘍が7,500件、入院が103,000件、死亡が16,500件、発生しているという。抗炎症薬の推奨された使用法と服用量を守っていながら、1年間に死亡するアメリカ人は、エイズによる年間の死者とほぼ同数の16,500人に達している。抗炎症薬の服用は、慢性炎症を抑えるための最適の手段でないことは明白である。』
  
付記2:東洋医学の「熱」について
・経絡治療の6.に「寒熱」について記した項目があります。「熱」については現代医学的な視点として、「代謝異常」の可能性を考えるようにしていますが、今回、新たに「慢性炎症」という病態も東洋医学の「熱」を考える際に外せないのではないかと思い、ネット検索で調べてみました。
 すると、以下のようなサイトを見つけることができました。ここにはまさに代謝異常と慢性炎症との関係性が書かれています。このことから、東洋医学の「熱」の病態を考える場合には、代謝異常と慢性炎症という2つの病態にも注目し、患者さまの病状把握の精度を高めたいと思います。

 

 

 

 

上記をクリックすると、「メタボリックシンドロームを引き起こす鍵因子を発見」という記事があり、この中に、『これまでの研究により肥満の際の脂肪組織では慢性炎症が生じており、そのことが糖尿病や全身の代謝異常などの原因となることが明らかになってきていますが、脂肪組織に慢性炎症が生じる機構については不明な点が多く残されていました。』との記述があります。

活性酸素と疲労

12月9日のブログ「乳酸と疲労」の中で疲労の原因は複数あり、活性酸素もその1つであるということを知りました。今回は、その理由と活性酸素はどのようなものかについてまとめたいと思います。
ヒトは呼吸で得た酸素を使って、食物を燃やしエネルギーを作ります。そしてその時に活性酸素は作られます。激しい運動は多くのエネルギーを必要とするため、大量の活性酸素を生みだします。そしてその結果、細胞を酸化させます。鉄でいえば錆びることです。

この細胞の酸化がダメージとなり疲労として現れるわけですが、直接的な原因は活性酸素が細胞を酸化させる時、疲労因子の「ファティーグ・ファクター(FF:Fatigue Factor)」というタンパク質の一種が発生し、脳へ「疲れた」という信号を送ると共に、筋肉や細胞の働きが低下して、実際の疲労が起きるという仕組みです
これは、風邪をひくと体がだるくなり、時に発熱して心身を休めるためのサインが発せられますが、今回の、疲労因子FFが起こしている仕組みも、体を強制的に休ませるための指令であり、本質的には同じもののように思います。
疲労因子FFが疲労の原因であることは理解できましたが、やはり、その大元になる活性酸素がどのようなものか理解する必要があることを再認識しました。
今回、勉強させて頂いたのは「活性酸素の話」という本ですが、初版が1996年と古いためネット検索で調べた内容もかなり含まれています。

 

度々お世話になっている、講談社さまのBLUE BACKSシリーズです。

連敗と疲労の関係を考える
話は横道にそれますが、活性酸素の話は長くなるので、疲労因子FFが出たところで、疲労と連敗について少し触れさせて頂きます。(いつも「何で連敗は止まらないんだ?」と思っているためです)
サッカーに限った話ではないと思いますが、下位に低迷するチームが最後のロスタイムで失点し、勝利を逃してその悪い流れから抜けられないという状況を目にすることが度々あります。
これに関し、「結局、蓄積する疲れなのでは?」と考えたことがあったのですが、今回のブログを参考にすれば、「連敗→降格」という精神的ストレスが原因で活性酸素が活発に作られ、それに伴い、本来必要のない分の疲労因子FFが放出されることにより、自分自身が感じている以上に心身の疲れが蓄積しているのではないかと思います。そして、体のきれや、試合終盤の5分、10分の集中力が落ちて、失点シーンにつながっているのではないでしょうか。
スポーツの世界でよく使われる、「ひらきなおる」という行為は、精神的ストレスを緩和することで、疲労因子FFの発生量を減らすことができます。

また、ややもすると連敗している時は練習量が増える傾向にあるように思います。これ自体が疲労因子FFを増やすことになりますが、精神的プレッシャーを背負っての激しい練習は、想定を大きく超えた負荷が心身を消耗させているように感じます

このような受身のハードワークは連敗脱出にはマイナスです。むしろ、完全休養、自主練習、更にチームの問題を共有し意識合わせをチーム全体で行うなど、心身をリフレッシュさせ、チームが同じ方向を向き、高いモチベーションのもと目の前の練習に100%集中することが、連敗脱出の可能性を高めるように思います

 

「ひらきなおる」イメージです。

画像出展:GATAGフリー画像集

地球の酸素
活性酸素はその名前の通り、酸素と深い関係にありますので、まずは酸素の歴史と特徴についてご説明したいと思います。
地球の誕生は46億年前とされています。当時の地球は炭酸ガスでおおわれ空気はありません。広大な海は10億年かかってでき、そして、35億年前、その海に最古の微生物、酸素不要の嫌気性微生物が登場しました。
藍藻(シアノバクテリア)や植物プランクトンによって光合成が始まり、ついに酸素が地球上に現れました。20億年前の大気酸素濃度は現在の1/100程度のレベルと考えられています。
現在の大気は約20%の酸素を含んでいますが、この容量に一気に到達したのは、6億年前の地球の全球凍結が原因と考えられています。全球凍結の時代は平均気温は-50℃、氷の厚さが1000mにもなり、1000万年以上続いたとされています。
その長い凍結状態は、活発な火山活動によって大気中に蓄積された大量の二酸化炭素が、高温な温室効果を生み出し、藍藻などの活発な光合成が数百万年に渡って大量の酸素を放出し続けたことによると考えられています。
十分な酸素で満たされた地球には4億年前にオゾン層ができました。オゾン層は有害な紫外線をカットしたため、安全な環境となった陸上に海中の植物や生物の一部は移り住むようになったわけですが、酸素が持つ巨大なエネルギーは進化にとって画期的な出来事となり、高等生物への歴史の幕開けとなりました

酸素毒とは何か
酸素が猛毒といわれる理由は、「強烈な酸化力」によるものです。例えばリンゴを摺ってそのまま置いておくとあっという間に茶色くなります。鉄でさえ年月はかかりますが、茶色く錆び最後はボロボロになります
この酸化力は物質がもつ電子の移動に関係するのですが、それを代謝という観点からご説明します。
生き物は外界から取り入れた食物を酵素を用いた酸化還元によって、必要な物質を合成したり不用なものを捨てたりする、いわゆる物質代謝を営んでいます。そして同時に、食物からエネルギーを獲得するエネルギー代謝も営んでいます。
ここでいう酸化還元は電子の移動のことです。下図はA、Bという2つの物質があって、AからBに電子が移動した場合、Aは酸化され、Bは還元されたといいます。このように酸化と還元は同時に起こるので、2つをまとめて酸化還元と呼びます。

 

酸素は電子(e⁻)を奪い取ってしまいます

奪い取る側、「強酸化力」と書かれた右側のBが「酸素」ということになります。

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素の話」(講談社)

さらに下図の上段はミトコンドリアがエネルギーであるATPを作る過程を表わしたもので、下段は電子の流れ(電子伝達)に伴いエネルギーが生まれていることを説明する図です。
細かい解説ができず申し訳ないのですが、お伝えしたいことはエネルギー代謝では、電子が伝達されるプロセスそのものがエネルギー生成になっているという事実です。
酸素がもつ酸化力は電子の移動に影響を与え、生命の営みを左右するだけの力を備えており、正しく作用しないと非常に危険であり、まさに「猛毒」ということになります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミトコンドリアのクリステの内膜内を電子が移動しエネルギー(ATP)が作られる様子です。

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本新報社)

 

電子の流れと自由エネルギーについて記述されたものです。

水力発電は水がダムの上から下へ落ちるエネルギーを利用し、電気を得ていますが、基本的にそれに近いものと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本新報社)

活性酸素の発生
酸素が生物の体内で変化したのが活性酸素です。活性酸素は呼吸によって必ず作られるものですが、体外から入ってくるものもあり発生要因は複数存在します
私たちは食物から栄養素を、空気から酸素を取り入れ、エネルギー生産工場ともいえるミトコンドリア内の電子伝達系(呼吸鎖)の流れにのって、エネルギー(ATP)と二酸化炭素、水を生みだしています。

 

「生き物」は下になります。ちなみに電池は化学エネルギーなので、どちらかと言えば、「生き物」の方にはいります。

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「活性酸素の話」(講談社)

この電子伝達系の流れの中で電子が受け渡されるときに活性酸素が生成されます。なお、活性酸素は呼吸で取り入れた酸素の1~3%と考えられています
 第1段階…スーパーオキシドアニオンラジカルと呼ばれています。
 第2段階…過酸化水素と呼ばれています。
 第3段階…ヒドロキシラジカルと呼ばれています。
過剰となり、害を及ぼすようになった活性酸素を消去あるいは無毒化するために、進化によってスーパーオキシドアニオンラジカルに対してはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、過酸化水素に対しては、カタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼという酵素が作られました。しかし、ヒドロキシラジカルには消去する酵素が無いだけでなく、スーパーオキシドアニオンラジカルの数十倍の活性をもっており、最も危険で問題となる活性酸素です


また、体内に細菌やウィルスなど異物が侵入した時、最初にしかも大量に発生するのが活性酸素のスーパーオキシドアニオンラジカルです。血液中の白血球などの食細胞がこれらの異物を食べ、食細胞の膜から活性酸素が出てきて溶かしてくれます。ただし、この外敵に対する攻撃の範囲を越え大量に発生すると、正常な細胞を傷つけ様々な障害を生じさせる事になります
外部から体内にもたらされる活性酸素には以下のものなどがあります。
 ・食品添加物 
 ・煙草のタール成分 
 ・排気ガス
 ・化学肥料 
 ・大気汚染物質
 ・紫外線
 ・放射線
仕事や人間関係などの強いストレスがあると活性酸素が活発に作られます。ストレスが原因で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症することが多いのは、過剰な活性酸素が組織を傷つけるためです。
また、激しい運動によって筋肉が一時的に虚血状態になり、その後血流が再開した時も大量の活性酸素が発生します。活性酸素を消去するSODなどの酵素が低下する40歳以降に激しいスポーツを行うことは健康にとって良いものではありません。

 

活性酸素と病気
活性酸素は200以上の病気と関係があると言われ、老化に関る病気とはほとんど関係があると言えます。特に関係性が注目されているのは癌ですが、脳神経系の病気ではアルツハイマー病、パーキンソン病、脳虚血、脳梗塞、てんかん、ダウン症候群などがあります。脳は特に多くの酸素を消費する臓器のため活性酸素の生成量も多くなり、問題を発生しやすい状態にあります。

発達障害児へのマッサージを考える

昨年12月16日のブログからスタートした、「小児障害・発達障害」に関する突貫工事も、中締め的に一度整理し、実践に向けて準備したいと思います。まとめ方は、サラリーマン時代に使っていた課題検討のやり方で、ちょっとマニアックな印象を持たれるかも知れません。

なお、新たに勉強した本は以下になります。

「続 自閉っ子、こういう風にできてます!―自立のための身体づくり 」も岩永先生の著書です。

Goal
1.個人としての自立、就職、そして将来に渡って生活していく基盤を獲得する。

Objective
1.施術により個人が抱えている問題が改善され、自立に向けて前進する。
Strategy
1.障害児の個性と現状を理解し、明確な目的を持ち最適な手技を選択する。
2.感覚統合療法を補完し、総合的な改善の促進を図る。
Action1(準備)
1.感覚統合療法を理解する

 

この図は「自閉症スペクトラム」を対象として描かれたものですが、左右の破線で囲まれたBoxにある「感覚調整の問題」および「運動行為の問題」に記載された各問題点は、他の病態にも適応可能な共通性の高いものと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「もっと笑顔が見たいから」(花風社)

 1)五感と二覚の中からマッサージでは「固有受容覚」と「触覚」をターゲットとする。
 2)「感覚調整の問題」7項目と「運動行為の問題」4項目を問診により把握する。
  A)計11項目のうち、該当した項目については施術効果の判断指標とする。
2.マッサージの対象を絞り込む
 1)社会性の発達障害…広汎用性発達障害(自閉症スペクトラム)
 2)注意力、行動コントロールの発達障害…注意欠陥性障害(ADHD)
 3)運動の発達障害…肢体不自由、動作不自由
3.筋緊張を確認する
 1)緊張、不安が強い
 2)低緊張
  A)低緊張の判断ポイント
   ・口元:よだれがよく出る
   ・姿勢:うつぶせの姿勢から手だけで体を起こそうとする。 
移動するときにおしりを床

       につけてずりばいする等。
4.健康の基本を確認する
 1)睡眠
 2)食欲
 3)便通
5.気になる部位等を確認する
 1)皮膚
 2)筋肉
 3)関節
 4)消化器
6.理解を深めるために知っておくこと
 1)生まれつきの障害であり、統合失調症などとは決定的に違う。つまりその世界に生きてい

   る者にとって、その世界は奇異でも何でもなく、ごくごく当たり前である。
 2)自閉症の精神病理の基本は、対話の際に雑多な情報の中から、目の前の人が発する情報に

   注意が集中できないこと、一度に処理できる情報が非常限られていることの二点であ

   る
 3)不安定で、怖い世界から自分を守るために、自閉症の幼児がとる戦略は、自分で、一定の

   安定した刺激を作り出して感覚遮断を行うという方策である。幼児期の自閉症でよく見ら

   れる自己刺激への没頭に他ならない。一定のリズムでぴょんぴょんしたり、目の前で手の

   ひらをひらひらさせたりして、彼らは押し寄せる情報へのバリアーを作り出しているので

   ある。
 4)大まかで曖昧な認知がとても苦手である
 5)一般的に4歳前後までの幼児期が最も大変で、5歳ごろにコミュニケーションが目覚しく伸

   びる時期がある。また、10歳~12歳の小学校高学年はさらによく伸びる時期である。
 6)何度も体験したからといって徐々に慣れてくるということが期待できないところがある。
 7)現在では脳科学の進展によって、注意欠陥性障害(ADHD)の症状の背後にはドーパミン

   系およびノルアドレナリン系神経機能の失調があることが明らかになっている。
 8)現在の感覚統合理論では、感覚統合障害は大きく二つの障害、すなわち「行為機能の障

   害」と「感覚調整障害」に分けられる。行為機能の障害は、触覚、固有受容感覚(筋肉に

   ある受容器で感じる身体の位置や動きの感覚)、前庭感覚(耳の奥の三半規管や耳石器な

   どで感じる回転やスピード、傾きの感覚)などの感覚情報の処理過程に問題があり、それ

   によって身体の位置や動きがわかりづらいなどの問題が生じ、不器用さや姿勢運動の問題

   など運動行為面に困難が出る。
 9)ボディイメージを育てるためには触覚と固有受容覚が特に重要になる。マッサージなどで

   他動的に触覚や固有受容覚を刺激することは効果的と思うが、ボディイメージを高めるた

   めには、能動的体験の中で触覚、固有受容覚を体験することが必要である

 

以前にもご紹介させて頂いたことのある図です。この絵のように関節を動かすことは、屈筋を収縮させ、拮抗する伸筋を弛緩させるので、固有受容覚に刺激を入れることができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「もっと笑顔が見たいから」(花風社)

Action2(施術)
1.マッサージのガイドライン
 1)働きかける神経
  A)知覚神経
   ・鎮痛、鎮静
  B)運動神経
   ・機能亢進(マヒ性疾患)、機能抑制(筋痙攣)
  C)自律神経
   ・交感神経と副交感神経のバランスを整える
   ・自律神経反射
    ・胃、腸管への刺激による血管運動や消化液の分泌調節
    ・内分泌系、特にストレスに関係する副腎皮質に働きかける
 2)部位に対する効果
  A)皮膚におよぼす作用(触覚)
   ・新陳代謝を活性化する
   ・皮脂腺、汗腺の働きが活発になり分泌が亢進する
  B)筋におよぼす作用(触覚、固有受容覚)
   ・血行を良くする
   ・筋疲労を早く取り除く
   ・筋萎縮の予防
   ・筋痙攣の抑制
  C)関節におよぼす作用(固有受容覚)
   ・関節内の血行を良くする
   ・可動域を広げる
   ・滑液の分泌を促す
   ・関節の拘縮を軽減する
  D)消化器におよぼす作用(触覚→神経反射)
   ・背部、胃部の施術で胃液の分泌亢進、消化機能亢進、食用増進
   ・腹部施術で腸の吸収力増加、蠕動運動の亢進と便通が良くなる
 3)手技による効果
  A)興奮作用:主に軽擦法
   ・興奮作用とは病的に機能が低下している神経、筋に対してその機能を回復させる作用。

    手技は弱い刺激で時間は短く行う。
    運動麻痺、知覚鈍麻、知覚脱失などに対して治療効果がある。
  B)鎮静作用:主に軽擦法、揉捏法、圧迫法、叩打法
   ・鎮静作用とは病的に機能が亢進している神経や筋に対してその機能亢進を抑え、鎮静さ

    せる作用。手技は強い刺激で時間も長く行う。しかし病的に機能亢進をきたしているよ

    うな場合には感受性がたかまっているため、実際的には強い刺激を与えずに、患者が強

    いと感じる刺激を選んで施術する必要がある。
    神経痛、筋痙攣、筋緊張、知覚過敏、筋肉痛などに対して治療効果がある。
  C)反射作用:主に軽擦法、圧迫法
   ・反射作用とは疾病部位から離れた部位に施術をして反射機転を介して、神経や筋、内臓

    などに刺激を与え調整を図る。生体は内臓に異常がある場合に、皮膚、結合組織、筋肉

    などの表在組織に反射されて異常が現われる。その部の過敏、圧痛、緊張、硬結などを

    取り除くことにより、内臓の状態は改善される。
 4)運動法による効果

  A)他動運動法
   ・術者が患者の関節を可動する範囲で動かす方法
   ・関節拘縮、変形の予防
   ・可動域の維持・改善
   ・筋短縮の予防
   ・固有感覚受容器への刺激
  B)自動運動法
   ・患者が自分で行う運動法
   ・筋力の維持・増強
   ・可動域の維持・増強
   ・関節・筋肉内循環の促進
  C)抵抗運動法
   ・患者に自動運動を行わせながら、術者がその運動に対して抵抗する方法
   ・筋力の増強
   ・筋持久力の増強
 5)効果を上げるためのコミュニケーション 
  A)安心感を与える手の当て方をする
   ・まず、子供は自分の体に触れられることに対して大きな不安を感じている。
   ・不安を感じない程度の力を使う。
   ・手のひら全体を使う感じ。
  B)体の感じを子供と共有する
   ・子供が感じているだろう感覚を、施術者も同じように感覚を感じるようにする。
  C)言葉かけを大切にする
   ・子供の気持ちをリラックスさせ、その気にさせる。
   ・施術者も言葉かけと施術を重ねることで良いリズムで楽しく取り組むことが大事。
  D)主体的な取り組みを大切にする   
   ・子供は気が散って、集中できないことが多い。特に自閉や多動の子供たちは、訓練を自

    分が主体的に行っているという実感を欠いている。したがって、子供が自分の体の感じ

    に気づき、自分で体を緩めたり動かしているという感じをつかめるようにする主体的な

    動きを行わせる必要がある。
   ・まず、優しく、ゆっくりと何をどうしようとしているのかを部位に軽く触れながら「こ

    ういう動きをするよ。」と説明する。
   ・どこがどう感じているかを聞きながらゆっくり進め、自分で緩む感じや動く感じを認知

    する。
   ・さらに、自分自身が主体的に動かす感じをつかめるように、動かしている方向、スピー

    ド、可動域などを細かく伝えながら、二人三脚で理解するという課題に取り組んでい

    く
  E)仰臥位の運動法の時にアイコンタクトを行うようにする

 

一般的にアイコンタクトを避ける障害児も、刺激が入っている時はアイコンタクトの回数が増えるようです(感覚統合療法で行われている工夫)。これはマッサージの施術中でも意識すれば可能なので実践します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「もっと笑顔が見たいから」(花風社)

「自閉症の脳を読み解く」

著者のテンプル・グランディン氏はコロラド州立大学の動物学博士であり、自閉症の当事者です。また、自閉症啓蒙活動において世界的に影響のある学者のひとりとされています。
『本書では、自閉症の脳をさぐる旅にみなさんをご案内しよう。私は、自閉症をもっているが、この2、30年に、つねに最先端の技術を使った脳スキャンを数多く受け、さまざまな知見を得てきた。そのため、この知見と自閉症の体験の両方について語ることができる特異な立場にある。1980年代の後半にMRIが実用化されてまもなく、生まれて初めて「自分の脳をさぐる旅」に出かけるチャンスに飛びついた。当時、MRIはまだめずらしく、自分の脳の構造を細かく見るのは、すばらしいことだった。それ以来、新型のスキャン装置が導入されるたびに、かならず、まっ先にためしている。私は子どものころに言葉の遅れがあり、パニックの発作を起こし、人の顔をおぼえるのに苦労したが、そうしたことが、脳画像の解析によりいくらか説明できるようになった。』
これは「自閉症の脳を読み解く(The Autistic Brain)」という本の「まえがき」の書き出しの文章です。

このブログでは、自閉症の脳の特徴感覚処理の問題について考えてみたいと思います。

NHK出版

自閉症の脳とは
・解剖学的には正常である。
自閉症の脳は壊れているのではなく、順調に発達しなかったというものである
・ユタ大学の研究では健常者との同質性は約95%であり、これは健常者同士に見られる同質性の

 比率と大差はない。
・自閉症の一部で見られる共通的な特徴は、大きい扁桃体と大きい頭である。
・大脳皮質の領域間の接続不足と接続過剰が見られる。(大脳内は白質と呼ばれる神経線維が高速

 道路のようにつながっており、このつながりに接続不足や接続過剰が見られるということです)

 

自閉症に多く見られる対人反応
自閉症の人の大脳皮質は、人の顔を見ても物を見たときほど活発に反応しない
自閉症の人は目を合わせない。これは視線を合わせるアイコンクトに対して正反対の反応をする

 のである。右脳の側頭頭頂接合部が、普通の人の脳では相手の凝視に対して活性化したのに対し

 て、高機能自閉症の被験者では相手が視線をそらしたときに活性化した。側頭頭頂接合部は、相

 手の心の状態を察するなどの対人関係の課題にかかわると考えられている。さらに、左脳の背外

 側前頭前野で正反対のパターンが見つかった。普通の人ではそらした視線に対して活性化が見ら

 れ、自閉症の人では相手の凝視に対して活性化が見られた。つまり、自閉症の人はアイコンタク

 トに反応しないのではなく、普通の人と反対の反応をするということになる。これは、普通の人

 が出す好意・嫌悪のサインと逆ということになる。(つまり、自閉症の人にとっては、無視や冷

 たい態度というものが、好ましい態度に感じられるということになります)

 

テンプル・グランディン氏の脳画像
小脳が標準より20%も小さい:『小脳は運動協調性をつかさどっているから、この異常のせい

 で、たぶん私はバランス感覚がお粗末なのだろう。』
脳をつなぐ連合線維に関して、下前頭後頭束と下縦束の接続が非常に多い:『「(以前)私

 の脳には視覚野につながるインターネットの基幹回線、直通の回線があるに違いない。だから記

 憶がいいのだ」。たとえのつもりだったが、この描写は、私の頭の中で実際に起こっていること

 をずばりと言い当てている。』
左側脳室が右側脳室より50%以上も長い(通常は15%以内) 『私の左側脳室はとても長く、

 頭頂葉にまで伸びている。頭頂葉は作業記憶(ワーキングメモリ)にかかわっている。なるほど

 、頭頂葉が妨害されているから、私はいくつかの指令に迅速に従って作業をこなすのが苦手なの

 だ。頭頂葉は、また、数学的能力にもかかわっているらしい-だから私は代数で苦労するのだろ

 う。』
頭蓋内容積、頭蓋骨の容量と脳の大きさが、どちらも15%ほど大きい:『これもまた、何らかの

 発達異常から生じたと考えられる。損傷した部分を補うために、神経細胞が速く成長したのかも

 しれない』
大脳左半球の白質がほぼ15%大きい:『またもや、この異常が生じたのは、左脳で発達初期に異

 常があったためと、脳が新しい接続を生みだすことによって補おうとしたためと考えられる。』
扁桃体がおよそ22%大きい:『扁桃体は恐怖などの情動を処理するときに重要な役割を果たす。

 扁桃体がこんなに大きいから、私は生まれてからずっと不安にさいなまれているのだろう。1970

 年代の大半で私に襲いかかってきたパニックは、新たな視点で考えてみると、つじつまが合う。

 私には何もかもが怖い、私の恐怖心自体も怖いのだと扁桃体が語っていたのだ。』
左右の嗅内野が左は12%、右は23%も厚い:『カリフォルニア大学ロサンゼルス校デヴィッド・

 ゲッフェン医科大学院のイツハク・フリード神経外科教授によると「嗅内野は脳の記憶装置本体

 に通じる黄金の門だ。』
『当然ながら、この結果はすばらしいと思った。私を私たらしめている奇妙なことが脳で起こっていて、その奇妙な点のいくつかを浮き彫りにしているからだ。』

 

 

 

 

 

 

 

下はテンプル・グランディン氏の画像。

連合線維に関して、下前頭後頭束と下縦束の接続が非常に多い。

右がテンプル・グランディン氏の画像。

左側脳室が右側脳室に比べ非常に長い。

 

左の絵は2つの神経細胞。左は運動ニューロンで右は感覚ニューロン。運動ニューロンは樹状突起をもつ細胞体から筋肉に向かって遠心性に伝わる。一方、感覚ニューロンは皮膚などにある受容器から求心性に伝わる。

ここでは水色の髄鞘の下に軸索(有髄神経線維)が見える。灰白質とは、神経細胞の細胞体が存在している部位であり、これに対し、有髄神経線維だけの部位を白質と呼ぶ。大脳半球の内側には、有髄線維の集合体となっている白質が存在し、交連線維、連合線維、投射線維に分類される。なお、テンプル・グランディン氏が指摘されている下前頭後頭束と下縦束は、同側の大脳半球の異なる領域を繋ぐ連合線維に含まれる。

 

 

 

 

 

 

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記は連合線維の表層と深層、交連線維の前頭断と水平断で表した絵である。

画像出展:「人体の正常構造と機能」(日本医事新報社)

自閉症の感覚処理問題を分類する方法(テンプル・グラディン氏は重視されていません)
1.感覚刺激を求めるタイプ…自閉症の中に感覚刺激を求める傾向があるのは、自分が求めている

  ほど感覚刺激が十分に得られないためである。その感覚刺激には音を求める人もいれば、筆者

  のようにじわじわと感じる圧力の刺激を求める人もおり様々である。また、自閉症の人が体を

  揺らしたり、ぐるぐる回ったり、手をひらひらさせたり、音をたてたりするのは自分で感覚を

  刺激しているのである
2.感覚刺激に対する反応が過剰なタイプ…このタイプは、感覚刺激に対して過剰に敏感である。

  何かの匂いが我慢できないとか、騒がしいレストレンで座っていられない、ある種の服を着る

  ことができない、ある種の食べ物が食べられないといった反応を見せる。
3.感覚刺激に対する反応が過少なタイプ…このタイプは、普通の刺激に対して反応が乏しかった

  り、まったく反応しなかったりする。例えば、聴覚に問題がなくても、名前を呼ばれて振り向

  かないことや、痛みに反応を示さないことがある。


2010年に発表された「自閉症の感覚処理のサブタイプ-適応的行動との関連」による分類。この分類は特に理学療法士にとって、特に重要とされています。

1.感覚刺激を求め、不注意あるいは過剰集中の行動を招く
2.運動敏感性と低い筋緊張をともなう(反応不足あるいは反応過剰による)感覚調整
3.極端な味覚・嗅覚敏感性をともなう(反応不足あるいは反応過剰による)感覚調整

 

筆者はいずれの分類法も妥当であるとしながらも、同じようなデータが二つの異なる方法で体系化できることに疑問をもち、問題なのは解釈ではなく、データ自体にあると考えました。そして、自己申告による情報の重要性に着目すると共に、軽度な高機能自閉症だけでなく意思表示が困難な重度な自閉症患者についても考えなければならないとしました。ティムとカーリーはその例として紹介されています。
 
ティト・ラジャルシ・ムコパディヤイ
『(ティトは)著書、「唇が動かないなら、どうやって話せばいいのか-自閉症の僕の心の中」で、閉じ込められた生活から解放された話をしている。解放は、お絵かきボードに数字と文字を書き込むことによって実現した。ボードは、1990年代初め、ティトが4歳になる前に母親が与え、ティトは母親の助けを借りて数字とつづりをおぼえた。やがて母親は、ティトの手にペンをしばりつけて、書くことでコミュニケーションをはかれるようにした。

ティトは、ここ数年のあいだに本を何冊か出版し、その中で、現実をどんなふうに体験するのか、「行動する自分」と「考える自分」の二つに分けて説明している。最近、本を読み返して、初めて会ったときのことを思い出した。あのときは気づかなかったが、行動するティトと考えるティトをたて続けに見ていたのだ。
ティトと会ったのは、サンフランシスコの医療センターの図書室。照明は薄暗かった。蛍光灯がそなえられていたが、私たちの訪問を考慮して消されていた。部屋は静かで、雰囲気は落ち着いていた-気をそらすものはない。話をしたのは、ティトと私とティトのキーボードだ。私は、馬に乗っている宇宙飛行士の絵を見せた。ティトが見たことのないはずの絵をことさら選んだ-近くの本棚にあった「サイエンティフィック・アメリカン」誌のバックナンバーで見つけたテクノロジー関連企業の広告。ティトが自分の考えを言葉でどんなふうに述べるのか知りたかったのだ。

ティトは絵をよく見て、キーボードに向かった。「馬に乗ったアポロ11号」とすばやくタイプを打った。それから、羽ばたくように腕を上下させながら図書館を走りまわる。ティトがキーボードにもどってくると、牛の写真を見せた。「インドでは食べない」とティトはタイプを打った。それから、羽ばたくように腕を上下させながら図書館を走りまわる。私はもう一つ質問したが、それがどんな質問だったのか、今では思い出せない。それでも、次に何が起こったのかは、おぼえている。ティトは答え、それから、羽ばたくように腕を上下させながら図書室を走りまわったのだ。対談はそれで終わり。ティトは1回の面会で書けるだけのことを書いていた。休む必要があった。三つの短い質問に答えるだけでも、かなりの労力が必要だったのだ。
ティトは著書の中で、行動する自分を「奇妙で、じつによく動きまわる」と説明する。自分自身を「手とか脚とか」のように一つひとつの部分と考えていて、ぐるぐるまわるのは、「ばらばらの部分を一つにまとめる」ためだという。~中略~ 行動する自分は、腕を翼のように上下させて図書室を走りまわる。考える自分は、そうやって走りまわる自分を観察する。』

 

カーリー・フライシュマン:著書「カーリーの声-自閉症を打ち破る」
『カーリーはきわめて低機能だった。テイトと同様に、行動する自分はつねに動きまわったり、座って体を揺らしたり、叫んだり、手あたりしだいに何でも壊そうとした。そしてテイトと同様に、考える自分は、だれもが考える以上に多くの情報を取り入れていた。心の働きは、ある面では驚くほどふつうだった。

十代になると、いかにも年ごろの女の子らしい関心をもった。シンガー・ソングライターのジャスティン・ティンバーレークと映画俳優のブラッド・ピットに熱を上げ、テレビ番組に出演したときには、イケメンのカメラマンに夢中になったのだ。けれども、べつの点では、心の働きは複雑で、理解できるのは自分だけだった。

「カーリーの声」でとりわけ衝撃的な場面がある。カーリーは、自分が喫茶店で会話をするところ想像してみようと読者に語りかける。たいていの人なら、だれかとテーブルをはさんで座っていて、だれかが自分に話しかけ、自分は真剣に耳を傾けているところを想像するだろう。

カーリーは違う。私の場合、まったくちがう。テーブルのそばを通った女の人が香水の強烈な匂いをまき散らして、私の注意はそっちに移る。それから、後ろのテーブルから左の肩越しに聞こえてくるおしゃべりが耳につきはじめる。左の袖口で織りの粗い布地が腕をこする。それが気になりはじめると、今度は、コーヒーメーカーの立てるシューシューという音が、まわりのほかの音に混ざって聞こえてくる。店の入り口の扉が開いたり閉じたりするのが目に入り、疲れきってしまう。おしゃべりについていけなくなり、目の前にいる人の話をほとんど聞きのがす。…奇妙な言葉が聞こえるだけだ。 おしゃべりを続けるのが絶望的になったこの時点で、二つの行動のうちの一つをとるとカーリーは言う。心を閉ざして反応を示さなくなるか、癇癪を起すかだ
これは興味深いと、この一節を読んだときに思った。カーリーの前に座っていて、行動を知覚の特徴から説明するとしよう。カーリーが心を閉ざしてしまったら-私が目の前に座って話しかけているのに、うわの空のように見えるなら-反応不足と分類するだろう。ところが、癇癪を起こしたなら-カーリーが言うように、これといった理由もなく笑いだしたり、泣きだしたり、怒りだしたりして、悲鳴まであげるなら-反応過剰と分類するだろう。
二つの異なる行動、感覚処理の二つの異なるサブタイプ-少なくともカーリーと向かい合わせに座って、外から眺めていたら、そんなふうに見えるだろう。ところが、自分がカーリーで、心の声を聞いていたら、二つの反応の原因は同じと考える。感覚刺激の過剰。情報過多だ。』

 

反応不足と反応過剰は別のものではなく、一つの状態から生じる二つの異なる反応である。このように考えるようになり、テンプル・グランディン氏は感覚処理問題を従来の分類で考えるのではなく、人間の五感から捉えるべきであるという考えに至りました。


以下は各問題について列挙された内容です。

感覚処理問題の傾向と対策
視覚処理問題
 <視覚処理問題がある人の行動と症状>
 ・目の近くで指をはじく
 ・読むときに首を傾ける。あるいは横目で見る。
 ・蛍光灯をいやがる(特に周波数が50Hzから60Hzの蛍光灯でよく生じる)
 ・エスカレータを怖がる。乗り降りするときの足の出し方がわからない。
 ・初めて訪れた家の階段をのぼるような、なじみのない状況を切り抜けるときに、やみくもに行

  動する。
 ・印刷物を読んでいるときに字が揺れて見える。
 ・夜間視力が劣る。夜間の運転をいやがる。
 ・速い動きを嫌う。スーパーマーケットの自動ドアなど、速く(あるいは、いきなり)動くもの

  を避ける。
 ・明暗の強いコントラストを嫌う。明るいコントラストの配色を避ける。
 ・多色のタイルの床や、格子状のものを嫌う。
 <視覚処理問題の対策>
 ・蛍光灯のあるところなら、つばつきの帽子をかぶるか、窓のそばに座る。あるいは、旧式の白

  熱電球の照明器具をもってきて、自分専用にする。
 ・アーレン症候群用のアーレン眼鏡を手に入れるか、さまざまな淡い色のサングラスをかけて

  みる。
 ・読むものは、ベージュ色や水色、グレー、薄緑などのパステルカラーの紙に印刷してコントラ

  ストを弱くするか、色つきの透明なカバーを使う。
 ・コンピュータは、画面がちらつく旧式のデスクトップではなく、ノートパソコンかタブレット

  にする。背景を色つきにしてみる。


聴覚処理問題
 <聴覚処理問題がある人の行動と症状>
 ・聴覚は正常か正常に近いのに、聞こえていないように見えることがある。
 ・まわりが騒がしいとよく聞こえない。
 ・無声子音がよく聞こえない。母音のほうが簡単に聞こえる。
 ・大きな音がすると耳をふさぐ。
 ・駅や競技場、音の大きい映画館など、騒がしい場所でたびたび癇癪を起こす。
 ・煙感知器や爆竹、風船の割れる音、火災報知機など、ある種の音を聞くと耳が痛くなる。
 ・とくに刺激が過剰な場所にいるときに、音がまったく聞こえなくなったり、聞こえる音量が

  変わったりする。騒音は接続不良の携帯電話のような音がするのかもしれない。
 ・音の発生源をうまく見つけられない。
 <聴覚処理問題の対策>
 ・騒がしい場所では耳栓をする(少なくとも1日の半分はずして、聴覚がますます敏感にならな

  いようにする)
 ・耳が痛くなる音を録音し、音量を下げて再生してみる。
 ・大きな音は、くつろいでいて疲れていないときのほうが我慢しやすい。
 ・大きな音は、自分で音を出せるときや、音が出るとわかっているときのほうが、我慢できる。


触覚敏感性
 <触覚敏感性がある人の行動と症状>
 ・親しい人からでも、ハグされると身を引く。
 ・服を全部脱ぐ。あるいは、特定の素材の服しか着ない(ウールなどちくちくする素材は、たいて

  いの問題の原因)
 ・特定の素材や感触が我慢できない。
 ・重い枕や絨毯の下にもぐりこんだり、体に毛布を巻きつけたり、せまい場所(例えば、ベッド

  とマットレスと台のあいだ)に入りこんだりして、じわじわと圧力を感じる刺激を求める。
 ・軽く触れられただけで、キレたり、癇癪を起こしたりする。
 <触覚敏感性問題の対策>
 ・じわじわと圧力をかけると触角が鈍くなることがある。マッサージは、思いやりを教える役に

  も立つ。自閉症の人のほとんどが、加重ベストを着たり、重いクッションの下にもぐりこんだ

  り、しっかりマッサージを受けたりして、触覚を鈍らせると、ハグされることに耐えられるよ

  うになる。
 ・ちくちく、ヒリヒリする衣類に対する感受性を鈍くするのは困難だが、新しい衣類はすべて、

  肌に触れる前に何回か洗濯する。タグは全部取り除く。下着を裏返しに着る(継ぎ目が肌に触

  れないように)。
 ・診察に対する敏感性は、ときには、診察で触れられる部分にじわじわと圧力をかけると、鈍く

  することができる。


嗅覚と味覚の敏感性
 <嗅覚の感受性が鋭い人の行動>
 ・特定の物質やにおいを避ける。
 ・特定の強烈なにおいに惹かれる。
 ・何らかのにおいをかぐと癇癪を起こす。
 <味覚の感受性が鋭い人の行動>
 ・特定の食べ物しか食べない。
 ・特定の舌触りの食べ物を避ける。
 <嗅覚・味覚の敏感性問題の対策>
 ・こんな笑い話がある。男が診察室に入ってきて、手を頭の上にあげて言った。「先生、こうす

  ると痛いんです」。すると医者は言った。「だったら、そんなことするな」この話は、嗅覚と

  味覚の問題について私が言いたいことをよく言い表している。いやだったら、やめよう。惹き

  つけられているにおいが、人のいやがるような、たとえば排泄物なんかのにおいだったら、

  心地よくて強いにおいを出すものに替えて試してみよう。ペパーミントなどアロマセラピーで

  使われるような香りがよい。

リアラインソックス(足首のサポータ)

ホームページ内の「適応疾患」の中で、「後脛骨筋腱機能不全症」という疾患を上げていますが、これは自分自身を治療した内容です。
ジョギングをしていると気になるのは、右足首よりも左膝という状況ではありますが、右足首に強い負荷をかけると少し痛みがあり、固いアスファルトを考慮し、やや頑丈なサポータを着用しています。また、年数回のサッカーの試合では、足首のぐらつき感もあって、必ずテーピングをしています。
このように良好とはいえない右足首のため、ネットで偶然見つけた「リアラインソックス」という商品に興味をもち、やや衝動買い的に購入してしまいました。
ホームページを確認したところ、私が購入した「リアライン・ソックス ソフトタイプ Mサイズ グレー」は廃版となっていましたが、他の色や「標準タイプ」は販売されています。なお、「ソフトタイプ」ではない、「標準タイプ」のリアライン・ソックスは、ソフトタイプに比べ締めつけ感がかなり強そうです。

 

 

 

 

 

 

 

左はソックスの裏面です。

下の写真の右側が、今までジョギングの時に使っていたゴワゴワ感のあるサポータです。


長い前置きになりましたが、今回のブログは「リアライン・ソックス ソフトタイプ」を使った感想です。あくまで、私個人の感想ですのでご注意ください。何かご参考になれば幸いです。


1.ジョギングで使う
サポートされている感じ、足にやや圧がかかったフィット感が良い感じです。「ソフトタイプ」のためか、履く手間も気になる程ではありません。今までのサポータは上の右側の写真ですが、靴の中でゴワゴワした感触があり、偏平足の土踏まず部分への圧迫が、特にジョギングの走りはじめに不快に感じていました。ということで、「リアライン・ソックス ソフトタイプ」の購入は正解だったと思います。


2.テーピングの代わりに使う
足首のぐらつき感が気になる私の場合は、少なくとも「ソフトタイプ」をテーピングの代用として使うのは無理があります。「標準タイプ」でどうかというところですが、これを履いて、更にサッカーのストッキングを履くとなると、足にフィットする小さめのサッカーシューズが好きな選手には問題がありそうです。

左をクリックすると、商品の特長や価格等の詳細を確認することができます。

緊張とリラックス(「リラクセーション」)

冒頭の「はしがき」から骨子ともいうべきものをご紹介します。

・『こころの問題といえばすぐさまストレスという言葉が思い浮かぶほど、ストレスは日常化して

 います。そのストレスはあたかも私たちのまわりに満ちあれているかのように思われています

 が、そんなものが客観的に存在して、私たちに外部から襲いかかってくるわけではありません。

 ストレスというものは、自分自身が主観的にこしらえている幻影にすぎないのです。』
・『このようなストレスの存在を前提として、それなりの緊張があった場合に、それになるべく早

 く気づき、その緊張を弛め、そんな緊張をしないですむような努力ができるようになれば、生活

 の仕方、人生の生き方までが大きく変化することになるでしょう。』
・『こういえばもはや明らかなように、本書のリラクセーションは、巷間おこなわれている筋の生

 理的な弛みを目的にするものではありません。自分のからだの「緊張を自分で弛める」という本

 人自身の心理的な努力活動を目指しているのです。』
以上のことから、今回は「緊張」と「リラックス」に焦点を当てます。

 

「姿勢のふしぎ」に続く、成田悟策先生の本です。

緊張の現われ方
準備緊張

 「いくぞ」、「やるぞ」と本気になってくると、脳波に加え筋電図にも変化が現れ、筋群の緊張

 が確認できます。また、はじめての動作や難しい作業、まだ自分のものになっていない課題など

 では、その動作のための緊張の程度がよくわからず、力が足りなかったり、逆に力を入れすぎた

 りしてしまいます。しかし、これらは特に意図するものではないため、意識下の活動です。ただ

 し、「準備緊張」も普段の生活上の動作においては、特に力むことはなく、必要な力だけを適度

 な緊張のもとに行っています。


恒常緊張

 難しかった動作や作業なども、熟達するにつれて緊張も適度なものになります。ところが、必要

 十分な力だけを入れ、済んだ後は不要な力を完全に抜くということは容易ではありません。これ

 は特に意識することなく、習慣的にやっているからです。つまり、緊張が多少残ったままになっ

 ているのが普通です。これらの残留した緊張は、からだのあちこちの部位や関節にだんだん蓄積

 され、習慣化し、ついには慢性化して動作を妨げたりする原因になります。このように影響を与

 える緊張を「恒常緊張」といいます。


場面緊張

 普段なら特に緊張することのないことでも、人前で発言するとか、試験や面接を受ける、競技に

 臨むなどという場面では、緊張が過剰になることがあります。ある動作をするとき、その人が置

 かれた状況によって左右される緊張を「場面緊張」と呼びます。このような緊張は現われる部

 位、現われ方、動作に及ぼす影響など人によって様々です。


イメージ緊張

 現実にはその場にいないのに、それを予期して頭のなかでその場面をイメージして緊張する場合

 もあります。このイメージの緊張は、現実の場面の緊張よりはるかに強烈であることも珍しく

 ありません。特に神経質な人、完全主義者あるいは鬱気分などに目立ちます。

 ストレスは外部からではなく、自分自身でつくり、それに悩んだり、脅かされたりするものな

 ので、「イメージ緊張」といえます。


不当な緊張

 不当な緊張は不安やこだわり、困難や悩みなど、当人自身の弱さや問題の表現であり、それがま

 た自らへの反省や警告でもあるという複雑な構造をもっています。それを確かめるには、自分自

 身をも見つめ、その由来や自分のあり方などにも気づいたり、明確化していくことであり簡単で

 はありません。しかし、落ち着いて自分のからだに注意を向け、自分のからだを弛めながら、実

 体にそってしっかり明確化してみようという気持ちになると、緊張や痛みは変化してきます

ストレスへの対処
人は精神的に疲れを感じた時や、体が緊張でこわばっている時などにリラックスしたいと思うので

はないでしょうか。
無理したり過剰緊張するのは、多くは個人の生活に由来しています。日常のストレス、不安定な気
持ちや悩み、無理や困難などに対して正面から受け止めて解決しようとせず、逃避することは自分自身の問題点を何事もなかったかのように、自分の体の中へゴミのように投棄することだと思います。
その結果、一時的に気持ちの安定は得られる一方で、過剰な緊張や偏った姿勢などによる問題が体に現われます。筋の突っ張りや凝り、痛みなどに悩むのはそのためです。
従って、まずは自分の体を犠牲にするようなやり方を改めなければなりません。それには、これまで省みることのなかった自分の体に注意を向けることから始めます
自分の体の様々な部位・局部など、隅々の体の感じ、気持ちによって変化するデリケートな筋の緊張状態、自分が体を動かし・動くプロセス全体の感覚、自体軸や姿勢などに気を配って立ったり歩いたりする感じなどを、まず体験し直すことが必要です
こうして自分の体に注意を向け、緊張や動きの感じが実感として体験できるようになるにつれて、それまで分からなかった自分の体の不当な緊張の状態や無理な動き、偏った姿勢などにも気づくようになってきます。さらに、日常生活における悩みや困難をそうした緊張や動きに無理矢理転化してきた状況も理解でき始めるようになります。

上記の「ストレスへの対処」の中で、過剰な緊張や偏った姿勢について言及されている箇所があります。一方、トリガーポイント(過度な緊張状態が続き、しこりのようになった硬結で離れた部位に関連痛を起こす原因になるもの)が姿勢に影響するという指摘があります。ここでは、本題から外れますが、3例程ご紹介したいと思います。

今回ご紹介する例は、こちらの本に掲載されている内容です。

1.腸腰筋のトリガーポイントと特徴的な姿勢

 インナーマッスルとして有名な腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)です。無意識にこの筋肉を伸張させるような

 姿勢を取ります。


2.脊柱起立筋のトリガーポイントと特徴的な姿勢

 無意識に背筋を伸ばすような姿勢をよく取ります。


2.中殿筋のトリガーポイントと特徴的な姿勢

 足を組むことにより、中殿筋を伸張させています。

 


リラックス・イメージ体験の方法
『本当はまだまったくリラックスしていないからだなのに、いきいなり自分のからだをリラックスしているとイメージしようとしても、なかなかそんなことはできないものです。そんな概念とか観念のようなものは、頭のなかで思うことはできても、リラックスする感じを伴うことのない空疎な言葉だけに終わってしまうでしょう。
ところが、しばらくその思いを繰り返したり、いくらか疲れたか飽きたりしてぼんやりしてきたり、課題実現はあきらめて楽な気分になったり、頑張りはやめて何も考えないでいたり、現実を忘れて豊かな雰囲気に包まれていたり、春風駘蕩の夢心地という状況に近づいてくると、自然にからだも緊張からかけ離れたものになってきます
緊張はしていないにしても、まだリラックスという感じではないという状況がしばらく続くと、緊張と弛緩の中間にあった気分は徐々に変化してくるものです。それをとくに自分のからだの弛緩した感じとしてからだに注意を向けてみると、なんだかそのとおりの感じがしてくるということになるかもしれません。さらに、それにこころを向けていると、この感じがいよいよはっきりしてきて、身も心もリラックスしたような感じになってくるものです。
このあたりから、リラックスのイメージと呼んでいいでしょうか。この感じはさらに続けていればだんだん明瞭になって、本当にからだがリラックスしてきたという実感的なものになってきます
こうしてあまりはっきりしないイメージから、現実にリラックスしているという実感が伴うようなものまで、イメージにはその体験の仕方にさまざまな程度の差があるのです。
しかも、ただ単にこころにそう思っただけのものを、その段階で止めてしまったら、からだには具体的にほとんどなんの変化も現われないでしょう。しかし、それなりにリラックスというイメージをこころにとどめたままでいると、少しずつそれがからだに影響を及ぼし始め、そのからだの感じがこころにリラックスの体験を明らかにし始めます。それがリラックスの感じやイメージをいっそう実感的にし、それがさらにからだの緊張を弛め、これがさらにリラックスの感じとイメージを明確化していくという、循環的な強化を生み出していくことになります。』

早稲田ア式女子インカレ2連覇!

ア式女子とは「ア式蹴球部女子部」のことで、早稲田大学の女子サッカー部のことです。創部は1991年、関東大学リーグ6回、インカレ4回の優勝実績をもつ強豪チームですが、今年のリーグ戦では優勝をかけた日体大との試合で0対3と敗れ、2位という結果に終わっていました。

15日の試合も日体大の25m弾が右すみに決まり、先制を許す厳しい試合となりましたが、セットプレーからのピンポイントなフリーキックが狙いすましたヘッディングシュートに結びつき、前半のうちに同点に追いついたことが非常に大きかったと思います。後半はそれぞれの特徴が出た一進一退の試合展開となり、膠着状態が続いた終盤戦もロスタイムに投入、延長線だなと思った残り1分をきったときに、前半の日体大のロングシュートに優るとも劣らない素晴らしいシュートが左すみに決まり、劇的な逆転で早稲田大学がインカレ2連覇を手中にしました。結果はもちろん、試合内容も素晴らしい、本当にうれしい1日となりました。

ロスタイム決勝ゴール後の早稲田イレブン。

 

画像提供:「早稲田スポーツ新聞会」

昨年後半を振り返ると、日本代表に関しては大一番となったサウジアラビア戦に競り勝ち、2位というワールドカップ出場を十分に狙える好位置につけましたが、それ以外の応援しているチームは、厳しい結果の連続となっていました。

浦和レッズは勝点で大きく引き離した鹿島アントラーズに、逆転負けで年間チャンピオンを逃しました。

早稲田大学ア式蹴球部男子部は、昨年優勝した関東大学リーグで、衝撃の2部降格という最悪の結果に終わりました。

また、埼玉県立浦和西高校は、長い低迷時期から監督、スタッフ、受け継がれた選手たちの頑張りで、初めてのS1(埼玉県高校サッカー1部リーグ)に昇格し、強豪の武南高校から勝点3を奪い、常に先行されてきた市立浦和高校より上位の成績を残すなど健闘は光りましたが、勝点1差で8位となり2部降格という悔しい結果になりました。

まさに悪夢のガッカリ3連発によりノックダウン状態だったので、ア式女子のインカレ2連覇は2017年スタートの素晴らしい吉報となりました。


ところで、浦和西校には女子サッカー部もあります。平成25年、26年には高校総合体育大会の埼玉県大会で2連覇した実績をもち、粘り強く全員で戦う好チームで常に県内ベスト4を狙っています。
これら、早稲田の男子・女子、浦西の男子・女子の全4チームは特に応援しているので、新しい1年、早稲田流に言うならば、「炎のような闘志と氷のような冷静さ」をもって、目標を達成されることを心から期待しているという次第です。

 

S1リーグ残り2試合となった浦和南高校との一戦、南高は高校選手権埼玉県大会決勝に進んだ3年生主体の強豪チーム。一方、西高は主将と2年生による新チーム。勝つのは難しい試合だったが、貴重な勝点1を上乗せし、残留の期待が高まったのだが。。。

試合終了後の挨拶(昌平高校にて)

追記

大変うれしい情報が入ってきたので、追記させて頂きます。

2016年度U-16埼玉県リーグ1部(1年生を中心としたチーム)で、6位となり残留が決まりました。

最終順位は以下の通りです。

1位:浦和レッズユース(勝ち点28)
2位:大宮アルディージャユース(勝ち点24)
3位:武南高(勝ち点19)
4位:浦和南高(勝ち点19)
5位:西武台高(勝ち点16)
6位:浦和西高(勝ち点14)
7位:正智深谷高(勝ち点12)
8位:浦和東高(勝ち点8)
9位:狭山ケ丘高(勝ち点8)
10位:ふじみ野高(勝ち点5)
11位:武蔵越生高(勝ち点5)

動作法(「姿勢のふしぎ」)

前回の「脳性麻痺 vs 脳性マヒ」に続き、今回は成瀬悟策先生の「姿勢のふしぎ」より、どのようにして動作法が生まれ、広がっていったのか、何故、動作法が心理療法なのか等についてお伝えします。
まずは、印象的な「まえがき」とそれに続く「世界初の成功例」に動作法の経緯や概要が語られています。

 

「姿勢のふしぎ」(講談社)

まえがき

脳性マヒで動かないはずの腕が、催眠中に挙がったという事実に直面したのがことの始まりで、それ以来30年を経て今もなお、人の「動作」というもののおもしろさに取りつかれっぱなしの状態です。
脳性マヒによるからだの強烈な緊張を、脳・神経系から筋・骨格系への生理過程によって弛めるという当初の考えは、現実には役に立ちませんでした。そのからだの持ち主の心理的な活動によって自らのからだを弛めることで、初めて治療効果が上がり始めたのです。自己弛緩さえできるようになればと努めるうちに10年ほどが過ぎました。そして、自己弛緩だけでは不充分で、自らの意図どおりにからだを動かす要領を身につけることが必要とわかり、そのための訓練を続けるうち、また10年がすぎていきました。
それからの後の10年でさらにわかったのは、重力にそってからだを大地上にタテに立てることが必要であることでした。それは、からだを立てるための心棒、すなわち体軸をまっすぐに立てて自然に無理のない姿勢がとれるということです。そしてその状態から体軸のどの部位でもそれを柔軟に屈げたり伸ばしたり、反らしたり捻ったりしながら、上体部、手腕、脚足を前後左右に使いこなせるようになることが課題となりました
こうして、脳性マヒで肢体が不自由な人のための動作訓練がいちおうまとまりかけた頃、同じ方法が自閉症や多動の子にも有効であることがわかり、この「動作法」が心理療法として大展開することになりました。精神分裂病を始め、さまざまな症状を示すクライエントの治療で予想外の効果を得られることが確かめられたのです。現在では「動作療法」として全国規模の学会まで開かれるようになりました。
肩や腰などに起こる強い緊張は、肢体の不自由な人特有のものではなく、一般の人にみられる猫背や側弯、腰痛や肩凝り、四十肩、五十肩、外反母趾などの原因でもあることがわかり、また新たな展開が始まりました。そうした悩みを解消する健康法として「動作法」がきわめて有効だからです。また、これといって特に悪いところもないのに立つのがつらい、歩けないなどと訴える高齢者にも、このうえない援助ができるようになりました。』

 

世界初の成功例

『今からちょうど34年前(1964年)のこと、埼玉県の身体障害者厚生指導所という施設に勤務していた小林茂さんからすばらしい報告が届きました。脳性マヒで動かなかった16歳の男の子の右腕が、催眠暗示による訓練で真上まで独りで挙げられるようになったというのです。これは脳性マヒの分野でも、催眠の分野でも共に有史以来初めての試みで、しかも世界初のすばらしい成功例になりました。
脳性マヒというのは出産時、ないしその前後の時期に発達中の脳に生じた病変のため、随意筋のコントロールが失われたり、肢体が不自由になったりするような、運動能力の永続的な障害とされています。出産前後というのは受胎から新生児期、すなわち生後4週までの間に生じた脳の病変が原因ですから遺伝によるものではありません。死滅した脳細胞が再び蘇ることはないので、この病変が元通りに治癒されることはありません。この病変はそのまま残りますが、それ以上に悪化しないため、非進行性といわれています。
この脳の病変のため、手足やからだの動きが自由にはできないことを肢体不自由といい、脳性マヒの人にみられる運動障害の代表的なものですその当時までは、脳の病変が治らないのだから、その結果からくるマヒも運動を司る神経系の障害からくる麻痺と同じように、もはやよくなることはないものとされていました
この子たちの処置は、これまでもっぱら整形外科で扱ってきました。脳性マヒの子は随意筋のコントロールが悪く、ことに関節を動かすため相拮抗して働く伸筋と屈筋がアンバランスで、伸筋が強すぎれば伸びて突っ張るし、屈筋が強ければ屈曲して伸ばせなくなるのです。この強すぎるほうの筋や腱を切ったり延長したりする手術が整形外科学での処置法です。手術直後はいくらか動きやすくなることもありますが、手術の傷が治ればまた元の突っ張りや屈曲に戻る傾向があります。
神経生理学では脳性マヒの不自由がそうした拮抗筋の障害ではなく、それを支配する脳・神経系からの命令が不適切なためだから、その命令の出し方を変えないかぎり、いくら筋や腱を手術しても元に戻るのは当然とみます。むしろ、中枢神経系内の原始反射運動の異常反射のパターンを抑制もしくは除去して、正常反射パターンを促進させ、さらに強化する神経活動のパターン・トレーニングが必要だというのが神経生理学的な機能訓練の考え方です。でも、反射運動の正常化だけで、日常生活における複雑な動作までできるようになるとするのは無理でしょう。』

 

肢体不自由
肢体不自由については次のような説明がされています。

『脳性マヒの子がからだを自由に動かせないのは、そのからだの持ち主である主体が、自分のからだを動かす心理活動をうまくできないためであることがこれまでにはっきりしてきました。彼らの直面している難しさは、握手しようと思い、それができるように懸命に頑張るにも関わらず、その結果として現実に現れてくるからだの動きは、どんなに頑張っても握手とは違った動きになってしまうことでした。例えば主体が「握手しよう」と思い、あるいはそうしたいと欲するとき、その動きについての「意図」が生じたといいます。その意図を実現できるように身体部位を特定し、実現しようと「努力」するのですが、どんなに努力しても、結果としての「身体運動」の現れ方、すなわち動きのパターンは、最初に意図し、心にイメージとして描いた握手という動きのパターンとはどうしても食い違ってしまいます。だからこそ「肢体不自由」ということになるのです。からだを動かすプロセスをこれまで脳性マヒの子でみてきましたが、プロセスそのものは彼らとふつうの私たちとの間にちがいがあるわけではありません。』

さらに、例を出し分かりやすく説明されています。

肢体不自由は自動車の運転になぞらえれば、車そのものはよく走るのに、運転手が未熟なので車が思ったように走れないのに似ていますこれは脳性マヒの子たちが、意図を実現しようとする努力の仕方がうまくないためで、彼らにその適切な努力の仕方をいかに身につけられるように援助できるかが私たちの課題になってきます。』

つまり、肢体不自由とは、「動く。けれども、思うように動かせない、コントロールできない」という状態であると理解しました。

 

心理療法
以下に4つの文章を引用しています。ここには、心理療法といえども、からだに起きている不調に目を向け、安直に心理面だけを取り上げたり、病名に頼るべきではないことが指摘されています。そして、多くの場合「緊張」が存在し、その「緊張」が心身両面に大きく関わっていること、そして自らが緊張している心身を取り除けるようになることが重要であると説明されています。

 

心理療法を求めてくるクライアントのほとんどが、自分の主たる問題として訴えてくるのがからだの不調のあれこれで、その多くは自分のからだの緊張や動きに関わるものです。からだが重たい、だるい、突っ張る、かたい、痛い、やる気がしない、動きが鈍くなった、動かせない、力が入らない、疲れやすい、足元が定まらない、からだが宙に浮いているようだ、自分のからだでないような感じ、自分がやっているという気がしない、操られている等々、動作とそれについての体験に問題のあることを訴えているのです。したがって、何はともあれそれらを、日常生活における主体の動作にかかわる努力と体験の問題として取り扱わなければならないはずなのに、実際にはそれを詳しく調べもせず、動作から目をそらそうとするのが普通のようです。その訴えを聞きながら、セラピストはそれ自体の重要性を無視して、それをそのまま直接の対象とせず、そうなった本当の問題はその背後にあるとし、別の問題にすり替えて解釈しようとしますそれには二通りあって、一つはそれらの訴えを生理的、病理的なものとして受け取り、身体疾患の症状探しに取り掛かり、それが原因であろうとなかろうと病気の治療に結びつけようとします他の一つは、その背景に何らかの心理的な問題があるものと受け取り、セラピスト各自のよって立つ治療理論や学派の教えに従って、無理矢理に心の古傷やいやな体験を探したり、親子関係や家庭環境、人間関係をその原因に仕立て上げようとします。その結果、治療者からの暗示や当人の思いすごしで本物の病気になってしまったり、いやおうでも過去のエピソードや家庭環境、社会関係を原因にさせられてしまいかねません。もちろん、からだの病気が原因のこともあれば、心理的な外傷体験が無視できないこともなくはないでしょう。しかし、あまりに型通りの安易なすり替えによって、ほんとうの問題がおそろかにされてはなりません。』


心理療法を求めてくる人は、そのほとんどがからだのどこかに習慣的ないし慢性的な緊張がみられます。心の不安、不調や悩み、無理や努力のしそこないなどが緊張となって現れているのです。それは肩や背中、腰など全体にわたるものから、肩だけ、腰だけというもの、指圧でツボといっているようなある小筋群だけに局部限定的にみられるものまで様々です。緊張はほとんど意識に上らない努力によるものですから、当人自身はそこが緊張しているとは気づいていません。意識的な体験としては、力が入らない、動かせない、きつい、凝る、重い、痛い、自分の身体でない、空洞のようだなどと感じています。そうした緊張を他者による物理的、化学的な処置で弛緩する方法は従来からたくさんありますが、大切なものはそうしたものでなく、自分で自分のからだを弛めるという自己弛緩です。それにはまず自分のからだの緊張に気づくこと、そこへ意識努力で力が入られること、入れた力を抜いていくこと、その部位が動かせること、力を抜いたり動かしたりする感じがわかること、それに伴って自体を弛めながら、弛んでいく感じ、弛めていく感じ、その弛緩の感じをじっくり味わいながら、局部からその周囲、他の緊張部位、さらには全身を弛緩させる感じ、全身がリラックスしている感じなどがわかるように進めていきます。』


不当な緊張が現れやすい部位:自体軸をタテ直へ立てようとする意識努力のしそこないとして生じやすい随伴緊張は、姿勢の歪みとしてさまざまな身体部位に現れますが、最も一般的に広くみられるのは肩と腰、およびその両者を連結する背中です。それらを含む躯幹部が中核となって、それの接続する頚、手腕、脚足などへと随伴緊張が波及します。そうした不当緊張の結果として、からだに現れる不調や悩みの中には肩凝り、腰痛、側弯、四十肩、五十肩、背中の痛み、頭痛、脚足痛、尖足、外反母趾などがよくみられます。これらの痛みや不調、悩みなどの主たる原因が特定部位の不当な随伴緊張であり、そこに居座る無意識努力による随伴緊張を意識努力に変換して、それらの部位の緊張を自分でリラックスできるようになり、あるいはそれまで思うように動かせなったその部位が自由に動かせるようになるにつれて、急速に減退し消滅するということは、私たちの経験から明確に証明されてきました。そうしたからだの痛みや不調が自分のからだを自分で弛め、自分で動かせるようになることで快癒するという事実から結論すれば、それらはこれまで生理的な不調として誤解されやすかったのですが、実はそれが無意識努力という主体の心理的なそれであることをあらためてここに強調しておかねばなりません。』


『「弛んだ筋群」よりも「弛めようとする自己活動」が重要:他者による弛緩は、そのとき限りの筋弛緩には役立つとしても、その刺激がなくなれば元に戻るだけでなく、その刺激に対する生体としての耐性が高まるので、繰り返しによって弛緩効果はだんだん低下してしまうのです。他者に頼っていては駄目で、結局自分で自分を弛める自己弛緩でなくてはならないことがわかってきたのです。自己弛緩は繰り返せば繰り返すほど自分の弛め方が上手になるからです。緊張が減少した後者では、自分で弛めていく感じ、そのための努力の仕方、それに伴うからだの感じ、それらをコントロールしていく自分自身の感じなど、自己弛緩の体験を中心に進めたのです。こうした経験からわかったのは、「弛んだ筋群」が重要なのではなく、「弛めようとする自己活動」が目的にならなければならないということでした。』

 

マッサージの価値と課題 (「小児障害マッサージ」にリンク:中段以降を参照ください)
・マッサージは主に局所における循環作用と、自律神経や脳脊髄神経の神経反射による作用があ

 り、緊張を和らげること、あるいは弛緩した筋に緊張を与えることが可能です。一方、動作法の

 目標が「自分で弛め、緊張を取る」ところにありますので、施術を行うだけでなく、動作法を理

 解した上で「セルフケア」という視点から、その対応を考える必要があると認識しました。


追記
動作法の具体的な方法については、ブルーバックスシリーズの「リラクセーション―緊張を自分で弛める法」にあるようで、それについても拝読しようと考えています。

脳細胞再生の研究

『兵庫医科大(兵庫県西宮市)のグループが、脳梗塞の組織の中に神経細胞を作る細胞があることを発見し、それを採取、培養して移植することで、脳梗塞で死んでしまった脳細胞を再生させる研究を始めた。』という神戸新聞のニュースを知りました。

患者さまの中には脳血管障害の後遺症の方もいるため、詳しい内容を知りたいと思い、ネット検索すると、

『兵庫医科大学は、多能性細胞「iSC細胞」を使って、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)や各製薬会社との研究を開始します。』というサイトを発見しました。

そして、このiSC細胞は図と共に、次のように説明されていました。
『虚血誘導性多能性幹細胞:iSCs(ischemia-induced multipotent stem cells)の略。脳梗塞などで脳の組織を養うために必要な血液が回らなくなると、脳機能が傷害され脳細胞は死に至ります。その際、失われた組織を修復し、再生させるために「iSC細胞」が生み出されることを、兵庫医科大学 先端医学研究所 神経再生研究部門 教授の松山知弘と准教授の中込隆之が中心になって平成27年に発見しました。』

左をクリックすると、「iSC細胞」による研究についてのページが表示されます。

極めて画期的な研究だと驚きましたが、添付されている図の中には「Neurovascular unit」と「ペリサイト」とあり、まずはこの2つを調べることにしました。
調べたのは、3つの論文と「人体の正常構造と機能」という本です。3つの論文は古いものから「脳ペリサイトの重要性と脳血管障害における役割」、「脳血管ペリサイトの生理的役割と脳虚血応答」、「脳梗塞病態における周皮細胞の挙動とその重要性」になります。なお、1番新しい論文はPDF資料として添付させて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「iSC細胞とは」(兵庫医科大学 最新情報)

ダウンロード
脳梗塞病態における周皮細胞の挙動とその重要性.pdf
PDFファイル 3.4 MB

神経細胞から神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)へ
・脳機能は神経細胞によるものであり、脳血管障害においても神経細胞に対する保護薬の開発が数

 多く試みられてきましたが、多くの薬剤の開発が失敗に終わっています。
 そこで、神経細胞だけに注目するのではなく、これを支える周囲の細胞、すなわち、アストロサ

 イト(星状膠細胞)、血管内皮細胞、ペリサイト(周皮細胞)を含めて一つの単位としてとらえ、

 これらを一体として保護・修復する方策をとる必要があるという考え方が出てきました。
 この一つの単位のことを、神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)と呼んでいます。
・これらの細胞は互いに密接かつ複雑に関わっており、血液脳関門や微小循環の調節など多彩な脳

 機能の維持を担っていますが、なかでもペリサイト(周皮細胞)は内皮細胞を被覆して血管を物

 理的に安定化させるだけでなく、内皮細胞と相互に作用し、微小血管の成熟、安定化、血液脳関

 門の維持などに重要な役割を果たしています

 

 

左上に神経細胞、下方に星状膠細胞(アストロサイト)、この図には記載されていませんが、毛細血管の構成要素として、内皮細胞、周皮細胞(ぺリサイト)があり、神経血管単位(NVU:Neurovascular unit)を含んだ図であると言えます。

画像出展:「人体の正常機能と構造」(日本医事新報社)

ペリサイト(周皮細胞)の特徴
・ペリサイトは間葉系の細胞であり,大~中サイズの動脈血管壁に存在する平滑筋細胞から移行

 し、全身の細小動脈→毛細血管→細小静脈レベルにおいて内皮細胞を覆うように存在する血管壁

 細胞です
・細小血管における内皮細胞に対するペリサイトの存在比率は臓器によって大きく異なっており、

 例えば骨格筋では内皮細胞100に対してペリサイト(周皮細胞)1程度しか存在しませんが、脳お

 よび網膜では内皮細胞1に対してペリサイト(周皮細胞)1の割合で存在しています。
・加齢、高血圧・糖尿病などの生活習慣病では、しばしばペリサイト機能が減弱化していると考え

 られています。
・ペリサイトはNVU(神経血管単位)の保護や修復過程において中心的な役割を果たしている可能

 性が考えられ、脳虚血や認知症など種々の中枢神経疾患に対する新たな治療標的として期待され

 ています。


周皮細胞となっているものがぺリサイトです。右は血液脳関門であり、星状膠細胞(アストロサイト)の突起で覆われています。また、基底膜の下がタイトジャンクションになっています。

画像出展:「人体の正常機能と構造」(日本医事新報社)

脳梗塞時における血液脳関門の維持と修復
・血液脳関門は脳の毛細血管ですが、内皮細胞の小孔(窓)が少なく、表面は星状膠細胞(アスト

 ロサイト)の突起で覆われています。また、内皮細胞間もタイトジャンクションを形成してお

 り、血液と脳の間の物質移動が制限されます。水、酸素、二酸化炭素は容易に通過できますが、

 ナトリウムイオンなどの電解質は通過しにくく、脳の重要なエネルギー源であるグルコースは、

 グルコース輸送体を介して通過します。このようにして、中枢神経系の神経細胞を取り巻く環境

 は、血液脳関門により一定に保たれます。また、生体内外からの様々な毒素から脳を守ることも

 しています
・脳梗塞発生時はいかに血液脳関門の破綻を最小限にとどめ、速やかに修復できるかが重要な課題

 となります。
・血液脳関門の破綻が長く続くと、血管内物質の漏出により組織障害が進行するため、脳梗塞は拡

 大悪化し、出血性変化も伴いやすくなります。
脳梗塞発生時にどの程度ペリサイトが健全な状態にあったか、そして、傷害発生後はいかに速や

 かにペリサイトを内皮細胞周囲に動員させ血液脳関門を維持・修復できるかが重要になります

 

まとめ
・急性脳虚血のみならず認知症を含む種々の中枢神経疾患において、血液脳関門・NVU(神経血管

 単位) の機能維持は極めて重要なものです。加齢や生活習慣病によりペリサイトの機能破綻から

 血液脳関門・NVU(神経血管単位)の機能破綻が生じることが明らかとなっています。

 また、近年は加齢・生活習慣病と認知機能低下の関連が力説されるようになってきましたが、

 これらを神経細胞ではなく、NVU(神経血管単位) の視点から捉えることが重要です。

・鍼灸治療の直接的効果を明らかにすることはできませんが、東洋療法学校協会のサイトに掲載さ

 れている「鍼灸は何故効くのですか?」の回答にあるように、鍼灸は循環系と神経系に作用する

 ものなので、ぺリサイトとNVU(神経血管単位)にとってプラス要因に働くものと思います。

左をクリックすると表示されます。

脳性麻痺 vs 脳性マヒ

12月30日の「動作法について」でご紹介した、心理学からのアプローチである動作法を理解するには、それを生みだした成瀬悟策先生の書物を読むことが第一だろうと思い、読みやすい本ということから、講談社ブルーバックスシリーズの中の「姿勢のふしぎ」を購入しました。
動作法はどのようにして生まれたのか、心理療法とはどのようなものか等については、次回にお伝えしたいと思います。これは、まず最初に「脳性麻痺」と「脳性マヒ」の違いを理解しなければならないと考えたためです。


初め、「脳性麻痺」ではなく「脳性マヒ」とカタカナが使われていることに、特に意味はないように思っていました。ところがそれは下記にある通り、誤りであることが分かりました。
『脳の病変によって肢体が不自由になる現象を、本書ではここまで「脳性麻痺」ではなく一貫して「脳性マヒ」と表記してきたのは、一般に「麻痺」ということばが「神経や筋の機能が停止する状態」(広辞苑)とされているためでした。これまで述べてきたように、この子たちのからだは病理学的に動かないのではなく、生理的には動く自分のからだを、その主体者が自分の思うように動かせないだけですから、「麻痺」ということばはそぐわないため用いません。』


そして、脳性マヒの特徴は次のようなものだということを理解しました。

「脳性マヒ」は変わらないが「脳性マヒの子」は変わる:脳性マヒというのは肢体不自由の原因になるような脳の病変があることをさし、生理的または病理的学的な診断名のことです。そんな病変を脳にもちながら生をうけ、今ここに生きて生活している子ども、ないしその人は、脳に病変があるため肢体にそれなりに不自由なところはありますが、あくまでもほかの一般的な人と何ら変わるところはありません。』


これを補足するものとして、次のような興味深い事実も書かれていました。

『研究室へやって来る脳性マヒの子たちが疲れないようにと昼寝の時間を設けていました。そこで観察していて驚いたことは、突っ張ったり、引きつったりするため、両手共にうまく動かせないはずのC君やDさんたちが、寝返りをするときにはけっこううまく両腕を動かして寝返っているのです。からだをあちこちへ移動するのに手足を使っているのです。その子たちに目が覚めてから「同じようにやってごらん」といってもできないのがふつうです。』


さらに、次の一文で疑問が大きくなり、調べなければという思いになりました。

『動くが動かせない:脳性マヒの子は脳の病変のため、からだが動かないものと思われやすいのが現状です。しっかりした医学を修めた医師の中にもそう思っている人が少なくありません。しかし実際によく調べてみると、ふつうの脳性マヒだけが原因で、手足がまったく動かないという例はないといってよいでしょう。』


そこで、まずは専門学校で使っていた教科書(「臨床医学各論 第2版」)、図が豊富で分かりやすい「病気がみえるシリーズ」、「病気がみえる」と同じ出版会社(医療情報科学研究所)で、「病気がみえる」の簡易版のような「ビジュアルノート」の3つについて、脳性マヒについてどのような説明がされているのかを調べてみました。

 

「臨床医学各論 第2版」(医歯薬出版)

「神経疾患」の中の「基底核変性疾患」の中に、パーキンソン病、ハンチントン病が出てきます。そして、3番目には「脳性小児麻痺」が載っています。

書かれている主な内容は『受胎から新生児(生後4週間以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく永続的な運動および姿勢の異常。運動障害は屈筋群と伸筋群の協調運動障害で、姿勢の異常、筋トーヌスの異常、反射の異常などの特徴がみられる。また、異常運動として、ジストニア、アテトーゼ様運動、舞踏様運動がみられる。生後6ヶ月以内に診断し、機能訓練をできるかぎり早く開始する。変形の矯正や拘縮の除去には整形外科的療法を要する。約500人の出生に1人の率で発生する。』

説明の中で「麻痺」という言葉は使われておらず、「運動障害」としての姿勢の異常、筋トーヌスの異常、反射の異常、そして異常運動についての説明となっていました。