「閃く経絡」(関連痛とは)

今回もこちらの本、付録3の “関連痛または放散痛” からです。

著者:ダニエル・キーオン

出版:医道の日本社

関連痛のメカニズムは明確になっていないものの、「脊髄に入ってきた痛みの信号の発生場所を(例えば皮膚からなのか内臓からなのかということを)脳が正しく把握できない」という説明が一般的です。”痛み”が生命を守るためのメッセージ、警告であるとすれば、旧皮質に新皮質が加わった人間の脳はもっと高性能なのではないかと、少し納得できないところがありました。

下記はその関連痛のメカニズムを分かりやすく説明したものです。

内臓痛を伝える感覚神経と皮膚の痛覚を支配する感覚神経が同じ高さの脊髄後角に入り、共通の脊髄視床路の神経に接続する。その結果、大脳皮質の体性感覚野が内臓痛を皮膚痛と誤認することを関連痛という。

 

 

画像出展:「看護roo!

「閃く経絡」では“関連痛または放散痛” と題して、これらの原因は「脳が混乱している」のではなく「ファッシアが伝達している」という新しいメカニズムを紹介しています。これはとても新鮮でたいへん興味深い内容です。ブログではその箇所をご紹介させて頂きます。

『我々を最も困惑させる疑問の1つは「なぜ心臓発作の痛みが、人によって異なる場所に、特に、頚部、顎、腕に放散するのか」である。

なぜ心臓の痛みが腕と頚部で感じられるかに関しては、ファッシアの通路に沿って心臓発作の痛みがいくという説明は、西洋医学の視点とは意見が衝突していることに注意されたい。簡単に言えば、西洋医学の視点は、脳が馬鹿すぎてお尻と肘の区別がつかないとする(この場合は心臓と肘)。しかし、これが全く正しくないことが研究によって示されている。脳はその違いをわかっているのだ。科学者は、臓器に関する脳の意識を説明するために新しい用語―“interception”(内受容感覚)―を作った。「関連痛」という西洋医学的な見方で説明すると、大体このような感じになる。神経はそれぞれ身体の異なる部分を支配するが、それらの神経が脊髄の同じ部分に接続されると、脳は同じ場所から来ている神経だと考える。2つの電気装置を同じ電力メーターに接続するようなもので、どちらが動いているのかわからない。

こちらはネット上にあった『内受容感覚と感情をつなぐ心理・神経メカニズム』という論文です。”外受容”と共に”内受容”が出ています。

心臓発作の場合、心臓の痛みは横隔膜を刺激する。そして心膜が痛み信号を記録して、伝達すると考えられる。痛み信号はこれらの部位から脊髄の第3~5の頚椎神経根に行く。これらの神経根が支配する皮膚は頚部、上腕、胸壁、腕であるため、脳はどこからの痛みかわからず、間違った場所や両方の場所を記録してしまう。

「脳が混乱している」という説の代わりに、「ファッシアが伝達している」という理論はどうだろう? 痛みがファッシアを移動するのだとすれば、電気が銅の導線や水に沿って拡がるのと同じように痛みも拡がるのだろう。我々は、ファッシアの間にある液体が電気を伝導することを知っている。神経はファッシアを神経支配し、また、神経はファッシアの中を走行することを選ぶため、両者の関係は強い。「脳が混乱している」と考えるのではなく、痛みが実際にファッシア面に沿って神経ネットワークを介して放散している、とは考えられないだろうか?

痛みが強くなるほど、また電気信号がより強力になるほど、放散は強くなる。これは研究によって示されていることと一致している。痛みのある部位での局所麻酔は関連痛の刺激を消すはずだ。これに関する研究はあまり行われていないが、これが正しいことを示した研究が少なくとも1つはある。

Local application of ketocaine for treatment of referred pain in primary dysmenorrhea.

※Local applicationとは局所適用、ketocaineとは局所麻酔薬、dysmenorrheaとは月経困難症。

関連痛には3つの種類がある。体性痛(または臓器の痛み)、神経根障害の痛み(または神経損傷による痛み)、筋性の関連痛である。

神経根障害の痛みは、神経が損傷した場所から、脳に異常なメッセージを送る。ここで、脳は本当にだまされる。身体の遠位の部位を支配する痛みの神経が、本来であれば痛みが起こるはずのない場所で刺激されるからである。この痛みは、すべり症や他の脊柱の問題でよく起こる。

神経はそれ自体のファッシアに囲まれ、氣が移動するのはこのファッシアに沿う。これと関連痛のファッシア理論は矛盾しない。神経根障害の痛みは特別な種類―傷ついた神経の痛みだからだ。

筋性の筋膜痛は筋肉の間に沿って動く。筋性の筋膜痛では、筋肉が硬くなるとき、筋肉を包む筋膜をもつれされる。身体は網であり、一部が動けば、網全体を再調整しなければならない。

これは「身体のテンセグリティー・システム(張力統合構造)」として知られている。身体を扱う人々(例えば医師)と違い、身体に触れて施術する人々(例えばマッサージ師、理学療法士)のほとんどにとって、これは自明だろう。どの筋肉が硬いかにより、身体の様々な面を再調整する。再調整はある線にそって行われるが、その線は高確率で予測可能である。これらの線は、中医学で鍼灸の経絡(特に陽経)であるとされてきた。

 

 

こちらが経絡の中の「陽経(手の三陽経と足の三陽経)」を示したものです。

画像出展:「経絡マップ」

最後に、体性放散痛である。体性は「身体」を意味するが、この場合は「内臓」を指す。

関連痛で最もよく知られた例は心臓である。「脳が混乱している」説の代わりに、これは顔と腕につながる主要動脈の通路に沿って痛みが放散していると見なせる。

食道の関連痛は喉まで上がり、胃まで下がる。これらは胃のファッシア面である。

虫垂の痛みは腹部の中央で始まる。これは虫垂を覆っているファッシアが引っ張られるときにしか起こらない。虫垂は腹部右下の隅にあるにもかかわらず、ファッシアのつながりは腸間膜を介して、へその高さの背部の正中線へと走行する。この場所は虫垂炎が痛み出す場所(10~15%の割合で)として昔からよく知られている。その後、虫垂炎が腹壁のファッシアを刺激すると、痛みはそちらに移っていく。

骨盤痛は多くの場合、腎経・閉鎖管―骨盤から脚への唯一の出口―を通じて内股で関連痛を生じる。

直腸痛は肛門のファッシアで関連痛を生じる。

膀胱痛は尿道ファッシアから陰茎の先端、または睾丸へのファッシアへと移動する。

アイスクリームの頭痛を引き起こすものが何かは誰にもわからないが、ある説によると脳に入る動脈の拡張に起因するという。とても冷たいものを食べると、鼻を通って脳に入る動脈が少し拡張する。そうなると、脳の「硬膜」にあるファッシアが引っ張られ、特徴的なズキズキする頭痛を引き起こす!

同様に、動脈の拡張を引き起こすものは頭痛となる。片頭痛は1つの例である。

膵臓の痛みは、そのつながりを反映して、背部に放散痛が生じる。

尿管の痛みは「中腎」に沿って睾丸まで到達するが、腎臓の痛みはその発生学的な起源に忠実で腰部にとどまる。

肺は放散痛を生じるとは考えられていない。これは、肺の放散痛は、喉頭へ拡がるので、喉頭自体の痛みとして関連付けて考えるためだ。

骨痛はその場所に忠実だが、骨のファッシアを突破すると、筋肉の筋膜面に沿って放散する。

血管の痛みは血管に沿って放散する。大動脈が避けるとき、患者は実際にそれを(大動脈が走行する)背部が引き裂かれるように感じると表現する。

顔の痛みは、顔の発生元である咽頭弓の面に沿って移動する。咽頭弓から顔は発達する。

胆嚢痛と腹腔内出血は「乳び層」から鎖骨下静脈、つまり肩先まで放散する痛みを生じさせる。

実際、痛みの放散のほとんどすべては「混乱した脳」理論の代わりにファッシアで説得力を持って説明できる。関連痛の「ファッシアの氣」理論は痛みの放散を予測できる。「混乱した、愚かな脳」理論に遡って説明する必要はない。

さらに言えば、脳の愚かさを想定する必要はない。脳は痛みを感じている場所を正確に示している。脳が感じる痛みは病理的電氣の形の痛みであり、電氣は移動する。病理的電氣はファッシア面、あるいは鍼灸の経絡を移動する。痛みはファッシア面に沿って移動する異常な電気的活動の形態であるからだ。痛みは移動すると、さらに痛みが生じる原因となる。

ファッシアは、臓器よりも痛みに対してずっと感受性が高い。

頭痛は脳の痛みが原因ではない。脳は痛覚受容器を持っておらず、患者の意識がはっきりしたまま脳を手術することもできる。むしろ、頭痛はファッシアの刺激が原因である。

消化管はほとんどファッシアが引っ張られるときのみ、痛みを伝える。そのため、腹痛の主訴は、腹部がひきつれる感じや膨満感のような漠然としたものとなる。

肝臓と脾臓は、ファッシアが関与しない限り痛みを感じない。

腎腫瘍はファッシアを越えて浸潤するまで、漠然とした疼痛(筋膜が引き伸ばされることが原因)しか生じない。

西洋医学は、心臓の痛みが筋肉でなく、ファッシア(心膜)で感じられることを認めている。

癌の激しい痛みはファッシアが関わるときにのみ始まる。その前の段階ではほぼ間違いなく無痛性である(これは早期に発見する上で問題となる)。

体性(臓器)の痛みを見るときに注目に値するのは、その痛みは現実には存在しないということである。実際、どの臓器も痛覚受容器を持っていない。このため、全く気づかないうちに、癌が進行したり、肝臓が毒されたり、肺気腫にかかることがありえる。

脳が臓器の痛みを混乱しているという考えは無意味である。というのは、これまで誰も肝臓の痛みを感じたことはないからだ。肝臓を包む膜(ファッシア)の痛みしかない。脳腫瘍が痛みを生じるのは硬膜(ファッシア)が引っ張られるときだけである。肺が非常に乾いて、肺胸膜(ファッシア)が滑らなくなる(胸膜炎)ときのみ、肺気腫は痛みを伴う。

痛みの放散痛に関する「ファッシアの氣」理論は、痛みの放散痛をすっきり説明するだけでなく、鍼灸の理論にも完璧に合致する。西洋医学は、このつながりを見落とすという、古今を通じて最大の医学的誤りを犯したのだろうか?

「ファッシアの氣」理論は、ファッシアにある電氣の流れを調整することでこの痛みに作用を与えられると想定する。そして、痛みの緩和は鍼灸における最大の成功である。三千年の医学は、この驚異的な特性の上に構築されてきた。

もし、この理論が受け入れられれば、「ダニエル・キーオンのファッシア・鍼灸・痛み理論」と呼ばれることを願う……。

……冗談冗談! 鍼灸は鍼灸だよね!』

ブログリンク:”筋連結

ブログを書き終えて数日後、以前アップした ”筋連結” のことを思い出しました。ファッシアが筋膜を超える幅広い存在であるということを前提に考えると、”筋連結” という考え方は、筋性の関連痛を後押しするものではないかと思われます。

「閃く経絡」(肝と機能性子宮出血)

非常にうまくいった施術の中に機能性子宮出血があり、ホームページの「適応疾患」⇒「内科・その他」のページに掲載しています(「機能性子宮出血」)。

この中で、なぜ出血が止まったのかという疑問に対し、肝臓がもつ血液凝固の働きが関係しているのではないかという推測をしていたのですが、今回の『閃く経絡』の中にそれを裏付けるような記述がありました。今回のブログはその箇所をお伝えするというものになります。

 

著者:ダニエル・キーオン

出版:医道の日本社

女性が月経の問題を抱えると、中医学は肝、特に肝血と呼ばれるものに着目する。肝臓は血液にとって非常に重要である。肝臓は血中に浮遊するタンパク質、脂肪、コレステロール、凝固因子を制御・生成するこれらすべてで共通することは、基本的に血液中の水分で溶けず、脂溶性で浮遊している。これは水と油を強く振ると、一緒に混ざって、クリーミーな混合物(懸濁液)になるのと似ている。

肝臓は血液中の脂肪成分を制御する。例えば、腎臓でほとんどの薬剤を除去しているが、脂溶性の場合、まず肝臓で代謝されなければならない。コレステロールが原因の身体の異常な「脂肪性」沈着物(アテローム性硬化)はスタチンで治療される。スタチンは、肝臓がこの「脂肪」を処理する方法を変える薬剤である。

中医学での肝血とは、血の脂溶性懸濁液成分を意味しており、これは肝によってコントロールされる。残りの血液は水分、イオン、赤血球、白血球で構成される。先述したように、これらすべては腎の管理下にある。

凝固因子は、肝血と月経の関連をとても明瞭に示す。凝固因子は肝臓で産生され、正常な凝固に重要である。凝固因子の障害で重い出血が引き起こされる。しかし、大量出血を呈する女性を検査しても、深刻な異常が見つかることは珍しい。医師が異常な月経を治療するとき、第1選択はいつも、凝固因子ではなく月経周期をコントロールするホルモンである。「ピル」で効かなければ、段階的により強いホルモンを用いていき、挙句の果てに人工閉経を誘発する。巨大ハンマーでナッツを砕くようなものだ。

医師が用いる別のアプローチとして、凝血塊の分野を抑える作用を持つ「トラネキサム酸」と呼ばれる薬剤がある。これはよく効くが、他で血塊を生じさせることがある。いずれにしろ、根底にある病理を本当に理解していない治療であるばかりか、そこから目を背けてしまっている。

医師として仕事をするなかで、痛みを伴う、重い生理を抱えた多くの女性を診てきた。私はいつも鍼灸を推奨している。「三陰交」(SP6)のツボを単純にマッサージするだけでも非常に効果的である。これが作用するプロセスの一部に「ヒスタミン」というホルモンがおそらく関わっている。 

クリックすると「三陰交」を確認できます。

肝臓と関係しているホルモンを1つ挙げるなら、それはヒスタミンである。肝臓はヒスタミンを分解する主な臓器である。ヒスタミンは肝疾患で上昇する。抗ヒスタミン薬は肝不全の症状の治療に役立つ。ヒスタミンはイライラさせる。アレルギー、発疹、じんま疹、虫刺されでかゆくなったり、ヒリヒリしたりするのは、すべてヒスタミンのせいである。中医学では、肝は怒りの限界線を適正に抑えて、「感情面」でも制御している。まさに肝は怒りの臓器である。ヒスタミンはイライラを感じさせるだけでなく、病原菌や寄生虫に対して過敏にする。ヒスタミンはあなた自身の身体と外界との境界線を定める。

そうなると、中医学を学ぶ者にとって、機能性子宮出血の女性でヒスタミン・レベルが上昇するのは、驚きではないはずだ。

ヒスタミンは、「肥満細胞」と呼ばれる特殊な細胞の中にある「顆粒」に含まれる。月経で、肥満細胞は「脱顆粒して」、ヒスタミンを放出する。(注意深い読者は、これがアナフィラキシーと同じプロセスだと気づくだろう)。読者の50%以上を怒らせるリスクを恐れずに言うと、これは一部の女性が……つまり……1カ月に1度、少しばかりイライラさせるだけでなく、子宮で赤血球と液体を漏れやすくさせる。女性の「血液」損失の約50%は血液ではない。実際に漏れるのは体液であり、ヒスタミンはこれを悪化させる。

クリックすると「脳科学辞典」が表示されます。

『中枢では、視床下部乳頭体にヒスタミンニューロンが集まっており、そこから脳内各部位に投射し、神経伝達物質として働いている。睡眠・覚醒、摂食調節などに関与している。』

また、「幸せホルモン」として有名なオキシトシンの分泌促進にも関わっているようです。

ヒスタミンは、肝臓と女性の月経の問題に関連し、月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)にも関連する。月経前症候群の一般的症状の多く、例えば、頭痛、不眠症、疲労、吐き気、腹痛、下痢などは、ヒスタミン不耐性とも関係している。さらに、喘息、蕁麻疹、湿疹、てんかんはすべて、PMSの間、悪化することが示されている。これらはヒスタミンと肥満細胞が核心にある病態である(てんかんは除く)。さらに、PMSを悪化させると女性が考える食物の多く(チョコレート、赤身の肉、アルコールなど)は、すべて高レベルのヒスタミン、またはその元になる「ヒスチジン」が含まれる。

月経が周期を持つということを無視してはいけない。この周期にはエストロゲンとプロゲステロンが関わる。PMSの症状の多くは、これら2つのホルモン(特にプロゲステロン)の不均衡に起因する(そうでないこともある)。しかし、ヒスタミンとこれらのホルモンが関連している。ヒスタミンはプロゲステロンのレベルを上昇させる。専門家によれば、肥満細胞はこれら2つのホルモンに反応して子宮で活性化し、数が増えると考えられている。

東西の医学を融合した立場でこれを説明すると、東洋医学のいう肝による月経の制御は、その一端がホルモンであるヒスタミンの代謝を通じて行われる、ということになる。

肥満細胞とヒスタミンが女性の毎月の問題の核心近くにあるとはいえ、抗ヒスタミン剤で治るというほど、治療は単純でないかもしれない。70年間にわたり、これと同じ病理がしばしば喘息の根底にもあることが知られてきた(中医学において、喘息は肝氣の滞りが肺に影響するとされる)。喘息治療がうまくいくと、ヒスタミンのレベルが下がるにもかかわらず、抗ヒスタミン薬自体は喘息にほとんど成果が上がらなかった。抗ヒスタミン薬(例えばMidol™)がPMSで用いられるが、(現在のところ)治療の大黒柱ではない。しかし、月経周期の始まりで抗ヒスタミン薬を投与する治験があるとすれば、興味深いものとなることだろう……。』P291

「閃く経絡」(心と腎)

心臓と腎臓には密な関係があるとされています。それは心腎連関と呼ばれ、5つのタイプに分類することができます。なお、下記の説明は冊子『糖尿病における心腎連関』の内容(右上の表)を一部加筆したものです。

 ”糖尿病における心腎連関” を[クリック]すると、ネット上にあるPDF資料がダウンロードされますが、これは「医学出版」さまのサイトにあるものです。

なお、Roncoとは、Dr. Claudio Ronacoという人のことで、[クリック]すると“critical care Canada”というサイトに移ります。

 

心腎連関に関するRonco分類

 1型:急性心疾患による急性腎障害(AKI)

急性心不全や急性冠症候群で心機能が低下することにより心拍出量が低下し、非代償性心不全に至ると急性腎障害(AKI)の状態となる。腎障害は腎血流の低下に伴う腎虚血およびGFR低下である。 

2型:慢性心疾患による慢性腎臓病(CKD) 

慢性心不全による左室リモデリングと機能低下、拡張不全、心筋症が原因となり慢性の腎虚血の状態となる。うっ血性心不全で入院する63%で心腎連関の状態を認めるという報告もある。 

3型:急性腎障害(AKI)に伴う急性心疾患 

AKI(急性腎障害)により急速に腎機能が低下することで、うっ血性急性心不全が起こる。腎機能の低下は水、ナトリウム貯留、高カリウム血症など電解質異常や尿毒素の蓄積をきたし、これらが急性冠症候群や不整脈などを引き起こす。 

4型:慢性腎臓病(CKD)に併発する慢性・急性の心疾患 

慢性的な腎機能低下は高血圧、動脈硬化、貧血、尿毒素の蓄積などをきたす。糖尿病、高血圧が慢性腎臓病(CKD)の原因である場合、血管の石灰化、左室肥大、左室拡張不全を合併しやすくなる。 

5型:全身性疾患により同時進行的に生じる心臓、腎臓の障害

心臓、腎臓には主たる原因はなく、血症などの全身状態悪化にともない、心機能低下と腎機能低下が同時に起こる状態をいう。

1型2型は心臓病を原因とする腎臓病。3型4型はその逆、腎臓病を原因とする心臓病。最後の5型は全身性疾患を原因とする心臓および腎臓の機能低下というのが大まかな分類です。

こちらは、NHKスペシャル“人体 神秘のネットワーク”の書籍版第1集から一部を使ってスライドショー(10枚)にしたものです。心臓と腎臓とのやりとりをイメージして頂けると思います。 

こちらのサイトは情報が満載です。 

心臓と腎臓の深い関係 ─ 心腎連関症候群 ─”に関する説明も掲載されています。 

一方、中医学においても心と腎の関係性を重視しており、それを“心腎相交・心腎不交”と呼んでいます。 

右の図はこちらの本の内容を基に作ったものです。


専門学校時代、「中医学は古くて新しい学問だ」と教わりました。そこであらためて中医学について調べてみると、ウキペディアには次のような説明が出ていました。

『中国地域に伝わる伝統医学は多様であるが、中華人民共和国の成立以降整理され、中医学の名で統一理論が確立された。そのため日本では、中華人民共和国で整理された医学体系を「中医学」とし、それ以前を「中国医学」として区別する場合もある。

心腎相交・心腎不交”という考え方は古い「中国医学」からあるものだと思いましたが、念のため、ネット検索してみると、“九峰の備忘録”という凄いブログに貴重な情報が出ていました。ここではその一部を引用させて頂きます。なお、※印は私の加筆です。

心腎不交-文献1目次・宋以前

『心腎不交および相交、そしてそれに類する表現の含まれる文献を集めた。水火不交、坎離不交、上下不交、水火既済(未済)などである。』

 《宋以前》※宋時代は960年~1279年

『霊枢』寒熱病(21) 

「陰蹻、陽蹻、陰陽相交、陽入陰、陰出陽、交于目鋭眦、陽気盛則瞋目、陰気盛則瞑目。」

※『霊枢』は中国最古の医書とされている『黄帝内経(コウテイダイケイ)』の一部、他に『素問』があります。『黄帝内経』は前漢時代末期(紀元前1世紀頃)に存在していたという説もありますが、詳しいことは明らかになっていません。「寒熱病(21)」とは『霊枢』の21番目の項目が「寒熱病」について記述してあるという意味です。なお、“霊枢原文(鍼経)”という本が出版されているのを知りました。 

 

出版:三和書籍

校正:淺野 周

心腎不交-文献2両宋・金

手元の文献 のなかで、一番古い心腎不交の表現は、厳用和『済生方』にある。宋以前の医書には今のところ見つからない。』

《両宋・金》

厳用和(南宋)※南宋は1127年~1279年

『済生方』1253年・・・(『厳用和医学全書』2006年 中医藥出版)

≪諸虚門≫

芡実丸

「治思慮傷心、疲労傷心、心腎不交、精元不固、面少顏色、驚悸健忘、夢寐不安、小便赤渋、遺精者白濁、足脛散痛、耳聾目昏、口干脚弱。(以下修治と薬量は省略)」

“心腎”という語を含むものが出てきたのは13世紀でした。このことから、“心腎相交・心腎不交”は「中国医学」の時から、間違いなく存在していたものであることが確認できました。

このように、心と腎、心臓と腎臓はそれぞれが非常に重要な臓器であり、かつその関係性も密であるという特別な存在です

なお、以降は閃く経絡』に書かれていた心・腎に関して、お伝えしたいと思った部分になります。 

心臓は大動脈を通じてすべての臓器につながるが、腎臓とも(中医学と西洋医学の両方で)非常に特別な関係がある。腎臓と大動脈は同じ空間(腹膜後腔)に位置する。ここは少陰経の合流点を表す。氣は最も大きな動脈に沿って心から移動し、上方へ向かい、腕と脳へと出る。下方で最初の大きな分岐は腎動脈である。腎動脈から2本の短くて太い腕と手指のような血管が出ている。これらの手指は、心から下がってきた氣を保持する腎の機能を表している。これらの腕の先に、2本の巨大な豆が位置する。それらは豆によく似ているので、「“キドニー”・ビーン」と呼ばれている。

ここで示すイラストは「かかし」のように描くことで、大動脈を解剖学的に驚くほど正しく描写している。』p185

●かかしの眼は横隔動脈(横隔膜の動脈)である。口ひげは腹腔動脈(胃の動脈)である。

口は上腸間膜動脈である。

乳頭は精巣動脈・卵巣動脈である。

腕は腎臓の動脈(腎動脈)で、先にある5本の手指(分岐)で豆を保持する。

おへそは下腸間膜動脈である。

●このかかしは男性であるため、陰茎―「仙骨動脈」を持つ。そして2本の脚は「腸管動脈」となる。

●その後ろ側では、かかしはロープ(腰動脈)で棒(脊柱)に括りつけられている。

『なぜ、私はこのイラストを見せたのか? 私がどれほど賢いかを示すためではない。「Clinical Anatomy Made Ridiculously」からアイデアを引用している。このイラストは非常に正確で、医学部の期末テストでも使うことができる……必要であればだが。このイラストはすべての位置が完璧であるだけでなく、血管の相対的サイズも正確なのだ。 -中略-

これを示したのは腎と心のつながりがどれほど強いか証明するためだ。ご覧の通り、腎動脈の動脈は2本の幅広い腕である。そして、これらの腕は幅広い必要がある。これらの2個の小さい豆は心臓から全血液の5分の1を取り入れているからだ!』p187

『腎は精を貯蔵し、心は神(または霊性)を宿す。腎水は心火を制御し、心火は腎陰に活力を与える。中国人は、腎臓がレニンと呼ばれるホルモンを産生することを知らなかったし、レニンが肺内部で作用して、別のホルモンを産生して、心臓にストレスをかけることも知らなかった。中国人はこれが副腎を介して腎臓にフィードバックされ、より多くの水分を保持するように伝えることも知らなかった。

代わりに、中国人は腎火について話した。それは上方へと燃え上がり、心臓に損傷を与える、そう命門のことである! この説明も西洋医学と同じように妥当である。違うのは、薬草や鍼灸を使用する場合、これらの用語をさらに正確に定義する必要がなかったということだ。薬草は腎を「調律」し、水で「うるおす」ように用いられた。

漢王朝の偉大な医師たちが現代医療に驚嘆することは疑いない。彼らが薬草や鍼と同様に、抗生物質やステロイド、外科手術や麻酔を使いこなしていたらどうだったであろうか。西洋医学が肺を介して腎火を心につなげる物質そのものを精密に同定したことに彼らはさらに驚くだろう。』p200

『腎臓はそのホルモンで心臓に大きく影響を及ぼすが、心臓も同じくらいの力で腎臓にフィードバックを返す。心臓は主にポンプの力を通してフィードバックするが、心臓が産生し、腎臓に影響するホルモンが少なくとも2つある。ANP(atrial natriuretic peptide、心房性ナトリウム利尿ペプチド)とBNP(brain natriuretic peptide、脳性ナトリウム利尿ペプチド)である。

大動脈が間に入ったこのつながりは特別である。血液を拍出する力は、他の臓器にはみられない形で、腎臓を刺激する。これらの2つの臓器の間で直接影響し合うホルモンは少なくとも7つある。それらはアルファベット順に、アドレナリン、アルドステロン、アンジオテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、脳性ナトリウム利尿ペプチド、ドーパミン、バゾプレシンである。鍼灸の理論は、動脈を介した腎と心の特別な関係こそが少陰経を形成することを教えている。』p201

腎筋膜は、腎臓を包み、後腹膜を通じて心まで行き、肝臓の無漿膜野にまで続き、骨盤内臓器のほうに流れ落ちる……これは中医学が教えている腎経の流れと同じである。どうしてわかるのか?腎臓、副腎、血管は、腎筋膜が覆う腎周囲腔に含まれるのだ。肝臓の無漿膜野へと至る上方のつながりは、腎と肝が中医学で特別なつながりを持つ理由の1つである。』p217

 

出版:医道の日本社

著者:蠣崎 要・池田政一

以下の絵は「腎経の流れ」になります。説明文の太字にした箇所が上記の著者の説明に合致する部分です。ただし、肺から先(「気管をめぐって舌根をはさんで終わる」)については「閃く経絡」の方には書かれていません。

足の少陰腎経は、足の太陽膀胱経の脈気を受けて足の第5指の下に起こり、斜めに足底

中央[湧泉]に向かい、舟状骨粗面の下に出て内果の後ろ[太渓]をめぐり、分かれて

踵に入る。下腿後内側、膝窩内側、大腿後内側を上り、体幹では腹部の前正中線外方5分、胸部では前正中線外方2寸を上り、本経と合流する。

大腿後内側で分かれた本経は、脊柱を貫いて、腎に属し、膀胱を絡う。

さらに、腎より上がって、肝、横隔膜を貫いて、肺に入り、気管をめぐって舌根をはさんで終わる。

胸部で分かれた支脈は心をつらなり、胸中で手の厥陰心包経につながる。

コメント

経絡の流れを琉注といいますが、琉注が体表のみならず体内の内臓にまでおよんでいるという、鍼灸(東洋医学)の説に、正直、少し疑問を持っていました。

ところが、今回の『閃く経絡』が説く、「ファッシアを経絡と考える」に順ずると、内臓につながるルートが確かなものとして納得できます。個人的には「ファッシア=経絡」ではなく「ファッシア≒経絡」であると捉えていますが、体表⇔内臓というつながりを実感できたことは最大の収穫でした。

「閃く経絡」(経絡と電氣)

この本の副題は「現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む!」というものでした。そして、著者のダニエル・キーオン氏は救急救命を専門とする医師でありながら、中医学と鍼治療の学位を取得され、著名な王居易医師に師事されたという経歴も持っていました。

つまり、この本は中医学および鍼治療を本格的に学ばれた医師が、現代医学の視点から経絡を分析したというものです。「これはすごい本だ」と思い、迷うことなく注文しました。

そして、腹に落ちたことは、『鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部である「電」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路(経絡≒ファッシア)を通じて乱れた状態を元に戻す』というものでした。

また、ブログ「がんと自然治癒力13(まとめ)」で学んだことをかけ合わせれば『元に戻す』とは、『自然治癒力(ストレス適応を高め、栄養代謝を改善すること)によって、元に戻す』ということと考えています。

出版:医道の日本社 

初版:2018年6月

こちらは原書です。

初版:2014年3月


この本の概要を知るには、最後の“監訳者あとがき”をご紹介するのが良いと思います。

監訳者はNHK「統合診療医ドクターG」の医事指導も担当されている、津田篤太郎先生です。

津田篤太郎:京都大学医学部を卒業。医学博士。聖路加国際病院リウマチ膠原病センター副医長、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員。

『本書は、英国の出版社Singing Dragonが2014年に出版した“The Spark in the Medicine:How the Science of Acupuncture Explains the Mysteries of Western Medicine”を翻訳したものである。著者のダニエル・キーオン(Daniel Keown)氏は、1998年にマンチェスター大学医学部を卒業した後、救急医療を専門とする医師として活躍するかたわら、2008年にキングストン大学統合医療カレッジで中医学を学び、2010年には北京の経絡医学研究センターで王居易医師に師事した。キーオン氏の東洋への関心は、80代の祖母から聞いた中国旅行の体験がもとになったという。原書を米国アマゾンのサイトで検索したところ、出版から数年を経ても(2018年4月現在)鍼灸・中医学分野の書籍で10位以内に入るベストセラーであり続けており、英米では東洋・西洋医学のギャップを埋めようとする著者の野心的な試みに、高い関心が寄せられていることがわかる。

本邦でも東洋・西洋医学を架橋する試みには江戸時代以来の長い歴史がある。劈頭(ヘキトウ[真っ先])となったのは杉田玄白(1733~1817)らの「解体新書」で知られる西洋の解剖学であり、日本人は西洋人の観察の緻密さに驚いた。しかし東洋医学の教える経絡のシステムを説明できるような構造物を見出すことができず、解剖学における位置づけは不明なままであった。幕末の名医、尾台榕堂(1799~1871)は著書「井観医言」のなかで、西洋医学・解剖学に関し「その論述する所は精細なりと雖も、亦た恐らくはかいせん無きを免れざらん」と評し、その理由として「死屍を解剖して、以って生人の機運を推す」からだと断じている。

生きた人間の「機運」、つまり機能と運動を科学的に解明するのは、意外と難しいことである。生きている、というのはうつろいやすい現象であり、科学が備えていなければならない客観性や再現性、整合性というものをすり抜けていく。この百年間ぐらいに、多くの研究者がさまざまな手法で経絡の正体に迫っていったが、どうやら経絡あるいは経絡で説明される現象が存在するようだ、という地点にとどまっていたように見える。例えば従来の電気生理学的手法では、定量性や客観性に優れるものの、「皮電点」「良導点」という名の通り、あくまで「点」のデータであり、経絡図のように生体の全体像に迫ることができない。また「ヘッド帯」「内臓体壁反射」など神経生理学的概念も、全体から迫るアプローチではあるものの、定量性・再現性にやや難があり、それですべての経絡現象が説明できるわけでもない。

しかし、その後も医療技術は進歩を続けた。私たちのわずか一世代前に開発されたCTやMRIといった画像診断法は、生きた人間を輪切りにして調べることができる革新的なモダリティーがある。そして、超音波診断(エコー)装置の精度の向上・小型化がここ10年ほどの間にすさまじい勢いで進んでいる。ついに、リアルタイムで生体の微細な構造までくっきりと見ることができる――現代の私たちは、だれもが古代の医聖、人体を透視することができたといわれる扁鵲(ヘンジャク)と同じ目で患者に接する時代を迎えたのである。

『扁鵲は、古代中国、とくに漢以前の中国における、伝説的な名医である。その行動、人格、診察、治療のありさまは「韓非子」や「史記」その他にさまざまな逸話を残す。』

画像出展:「ウィキペディア

 

これは画像装置を比較した表です。

エコー(右端)はダイナミックな筋肉等の軟部組織の画像処理に優れています。

運動器エコー(ブログ)」より

その最先端のエコーが、わが国の有訴者数ナンバーワンを競う腰痛・肩こりの治療で、大きな変化を引き起こしている。癒着を起こして動きの悪くなった筋肉の間に正確に針を挿入し、生理食塩水を注入する「エコーガイド下ハイドロリリース法」である。 

画像出展:「スポーツメディスン

ブログ参照:「運動器エコー」、「エコーガイド下fasciaリリース

画像出展:「スポーツメディスン


この治療手技は速効性があり、症状の緩解率が高いことから、ここ数年の間に燎原の火のごとく普及が進んでおり、共訳者である須田万勢医師も、第一人者である隠岐島前病院の白石吉彦院長に学び、当院で実践している。  

 

こちらが白石先生の著書です。

画像出展:「アマゾン

 

 

 白石先生の記事を見つけました。整形内科が診る腰痛、肩こり、五十肩

医師が「扁鵲の目」を持った途端、筋肉の間の筋膜=ファッシアに注目するというのは偶然ではないだろう。従来の西洋医学で見逃され、たどり着けなかった暗黒大陸、それがファッシアであったというわけだ。奇しくも、本書の翻訳原稿を校了する数週間前にScientific Report誌で「ヒト組織における知られざる間質の構造と分析Structure and Distribution of an Unrecognized Interstitium in Human Tissues」という論文が発表された。ニューヨーク大学などの研究チームは、共焦点レーザー顕微内視鏡という最先端の方法で胆管周囲の組織を調べたところ、コラーゲンなどの結合組織が網目状に規則正しく配列する構造を発見した。同様の組織は膀胱や皮膚、血管や気管の周囲、そして筋膜にも見出され、ネットのニュースなどで「人体における“最大の器官”が新たに発見された」と話題になった。


なぜこれまで発見されなかったのかというと、手術中に切り出された組織は、網目状の構造の中に存在する組織液が流出し、コラーゲンがただ単にしわくちゃに折り重なった状態で標本となり、検査されていたために、それが意味のある、研究に値する構造物であるとは誰も考えなかったのだ。ここでも、これまで見落とされてきた「生人の機運」が、最新の検査技術で初めて明らかにされつつあり、ミクロの扁鵲はやはり“筋膜”に出会うのである。

“筋膜=ファッシア”が長らく謎とされた経絡を解き明かす鍵概念だと断じた本書に、著者キーオン氏は「機械の閃光(The Spark in the Machine)」というタイトルを与えた。これはデカルト以来の「生命機械論」を下敷きにしているのだろう。しかし、鍼灸医学の経絡学説は「機械論」と対立する「生気論」の首魁(シュカイ[先駆け])ともいうべき存在であり、経絡学説が機械論、メカニズムで説明しつくすことができる、という著者の着想は大胆というよりほかない。しかも、目まぐるしく進歩を続ける医療技術は、著者の主張を日に日に補強するかの如くである。私たちは今まで見たこともないような形で経絡の正体が明らかにされるのを目撃するのであろうか、これからの展開に目が離せない。2018年4月16日 津田篤太郎』  

目次は次の通りです。

プロローグ なぜ人体は再生しないのか?

PartⅠ 鍼のサイエンス 神が医者に話し忘れたこと

1.発生の創世記

2.単細胞の世界

3.有名にして無形

4.三重らせん

5.生命のスパーク

6.氣とは何か?

7.クローン羊と氣

8.完璧な工場

9.臓腑の氣

10.どのように氣が身体を折りたたむのか

11.トリッキー・ディッキーと小さな刺し傷

12.ヒトのフラクタル

13.レオナルドたちと完璧な人間

14.超高速の進化

15.ソニック・ヘッジホッグのパンチ

16.ツボ(経穴)とは何か?

17.氣の流れ

PartⅡ 中医学の発生学

18.陰陽に関する簡単な紹介

19.道(タオ)

20.羊膜外胚葉

21.身体の卵黄

22.血

23.精

24.発生学のサーファー

PartⅢ 命門と6本の経絡

三陰経

25.少陰経

26.太陰経

27.厥陰系

三陽経

28.太陽経

29.陽明経

30.少陽経

エピローグ

付録

監訳者あとがき

参考文献

索引

ブログは4つに分けてアップしたいと思います。

今回の題名は“経絡と電です。これはPartⅠの「鍼のサイエンス」が対象です。他は、PartⅢの少陰経から“心と腎”、同じくPartⅢの厥陰経から“肝と機能性子宮出血”、そして付録3から“関連痛とは”という題名になります。

経絡と電” という題名を付けたのは、「がんと自然治癒力13(まとめ)」の最後、ブルース・リプトン先生の著書である “思考のすごい力” に書かれていた一文を意識してのことです。それは今まで一度も考えてみたこともない、とても印象的な視点で鍼灸・経絡を語られていました。

『東洋医学では、身体はエネルギーの経路(経絡)が複雑に列をなしたものと定義される。中国の鍼灸療法で用いられる人体の経絡図には、電気配線図にも似たエネルギーのネットワークが描かれている。中国医学の医師は、鍼などを用いて患者のエネルギー回路をテストするわけだが、これはまさに電気技師がプリント基板を「トラブルシュート」して電気的な「病変」を発見しようとするのと同じやり方だ。』

一方、今回の「閃く経絡」の中にも(一般的な電気と区別するときに「電氣」という漢字が用いられています)について触れている部分は多く、経絡をという視点から考えまとめることは、ブルース・リプトン先生によって投げかけられた生体内システムの謎に近づけるのではないかと思いました。これが“経絡と電”というタイトルにした理由です。

経絡と電”に紐づくキーワードは6つです。ブログはこの6つについて書いています。

1.経絡

2.ファッシア

3.コラーゲン

4.氣

5.バイオフォトン

6.ツボ(経穴)

1.経絡

専門学校で学んだ『東洋医学概論(東洋療法学校協会編)』の「3.臓腑経絡論」を見ると、経絡について次のような説明をしています。

経絡について考える場合には、経絡現象と、それを基にして形成されてきた経絡説と区別して認識する所から出発しなければならない。

経絡現象は、特定の身体部位を指先で押したり、鋭利な石片(“砭石(ヘンセキ)”と呼ばれている)を刺したり、あるいは、刺して皮膚を傷つけて出血させたりする治療行為をする際に、おそらく発現していたのであろうと考えられる。日本で“針の響き現象”といわれている、針を刺したときに発生する特殊な感覚の伝達現象もその一つである。また、一定の部位に針を刺したときに、その部位の苦痛が緩解されるばかりでなく、遠隔部位にまで変化が波及することも含まれよう。

経絡説は、そのような経絡現象を基にして、その性質や現象の発現のルールを極めようとして考え出されてきたものである。したがって、経絡説は、それが形成されてきた時代の思考法や社会制度などに影響されざるをえない。』

続いて、「1)経絡概説」にて“経絡説の成立ち”、“経絡の構成”、“経絡の機能”、“十二経脈について”、“奇経八脈”、“そのほかの経絡系”の6つの説明が加えられていますが、ここでは冒頭部分と“経絡説の成立ち”のみご紹介させて頂きます。

経絡とは、気血の運行する通路のことであり、人体を縦方向に走る経脈と、経脈から分支して、身体各部に広く分布する絡脈を総称するものである。

経絡の考え方は、古代中国人が、長い臨床観察を通じて得た一つの思考体系であり、蔵象とならんで東洋医学の根幹をなすものである。特に鍼灸医学にあっては、診断と治療に深く係わっており、きわめて重要である。

注)蔵象に関する説明:『東洋医学では、内臓について、これを単なる体の構成部分ではなく、経脈とならぶ人体の生理的、病理的現象や、精神活動の中心となるものとしてとらえる。これを「蔵象」とよぶ。「蔵」とは、体内にしまわれている内臓をさし、「象」は、外に現れている生理的、病理的な現象をさしている。』

 “経絡説の成立ち”:『春秋時代(紀元前770年から、「晋」が三国に分裂した紀元前5世紀までのおよそ320年の期間)以前には、気の概念は広まっておらず、したがって、経脈(あるいは経絡)という考え方は存在しなかった。当時には、血脈という語があり、血の通路としてのすじ(今日でいう血管)を認識していたにすぎなかった(「史記」:扁鵲伝)。

戦国時代(「晋」が分裂した紀元前5世紀から「秦」が中国を統一する紀元前221年までの期間)から前漢時代(紀元前206年-紀元後8年)にかけては、体表部を三陰三陽に分けて走行する経脈を認識するに至った。これは後に完成する経絡説の原型となるものであり、気の通路を想定していたものといえる。しかし、この時代の経脈は、内に臓腑と結びつくという認識には至らなかった(「史記」:倉公伝、「馬王堆医経」』)。

前漢から後漢(25年-220年)にかけては、陰陽・五行説が、医学に十分浸透した時期であり、三陰三陽の十二経脈が、天の十二月や地の十二水との相応において認識され、また、各経脈が、体内の五臓(六臓)六腑と関連づけられるようになり、経絡系統なるものが確立した。この時代に完成した経絡説が、約二千年を経た今日まで受け継がれてきたのである(「素問」:離合真邪論篇、「霊枢」:経水篇、五乱篇)。

 下は経絡の流れである「琉注」の図です(画像出展:「経穴マップ」)。手と足の三陰経と三陽経の計十二の経脈と、奇経に分類されている体前面正中の任脈、後面正中の督脈の二つを加えた十四の経脈が出ています。このうち手足の三陰経、三陽経の琉注は、体表だけなく体内の臓腑につながるものであることが示されています。


一方、自律神経反射の一つ「体性-内臓反射」という反射があります。ネット上の『痛みと鎮痛の基礎知識』に書かれている説明は次のようなものです。

『体性-内臓反射(体性*交感神経反射):皮膚に侵害性刺激を加えると交感神経系の機能が亢進し、交感神経が緊張し、血圧の上昇、心拍数や呼吸数の増加などを引き起こす。』

この「体性-内臓反射」も体表と内臓を結びつけるルートといえますが、経絡の多様性と比較するとその差は大きく、経絡とは一線を画すあくまで自律神経反射の域を超えるものではないと思います。

その自律神経反射に比べると、ファッシアの「体表と内臓のつながり」、「固定的な点-線を越えた面という多様性のあるひろがり」の二つの特徴は経絡を連想させるものであり、「経絡≒ファッシア」について追及することは、ヒトのからだの理解を深め、施術の質を高めるうえで極めて価値あるものと思います。(ただし、生まれと育ちが異なる「東洋医学の経絡」と「西洋医学のファッシア」が≒の域を超え、=で結ばれることはないと考えます)

2.ファッシア

ファッシアという言葉は最近見かけるようになりましたが、ファッシアについては、テレビでもご活躍されている、首都大学東京の竹井仁先生が監訳された『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ』にその定義が出ていますので、そちらの内容をご紹介させて頂きます。

 

出版:医歯薬出版

初版:2015年6月

 

 

 

 

これはファッシアを密度と規則性から分類した図です。

画像出展:「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ

 

 

Fascia(膜・筋膜)は、身体全体にわたる張力ネットワークを形成し、すべての器官、あらゆる筋・神経・内臓などを覆って連結しています。筋膜に関する研究はここ30~40年ほどで大きく発展しました。それまでは、皮膚、浅筋膜、深筋膜などをいかにきれいに取り去り、筋外膜に覆われた筋を露出させるかに力が注がれてきました。また、どの筋が骨を介してどのような作用をするかに関しての研究が主流でした。

しかし、生体においては、筋群の最大限の力が骨格への腱を経て直接的に伝達することは少なく、筋群の作用は、むしろ筋膜シート上へと、収縮力あるいは張力の大部分を伝えることがわかってきました。また、これらのシートは、共同筋ならびに拮抗筋にこれらの力を伝達し、それぞれの関節だけでなく、離れたいくつかの関節にも影響をおよぼすことも明らかになってきたのです。さらに、筋膜の剛性と弾性が、人体の多くの動的運動において重要な役割を果たすことも示されてきました。これらの事実は、新しい画像診断や研究手法の開発によって飛躍的に明らかになってきました。

2007年10月にHarvard Medical Schoolで開催された第1回国際筋膜研究学術大会(The 1st International Fascia Research Congress)において、「Fascia」は、「固有の膜ともよばれている高密度平面組織シート(中隔、関節包、腱膜、臓器包、支帯)だけでなく、靭帯と腱の形でのこのネットワークの局所高密度化したものを含む。そのうえ、それは浅筋膜または筋内の最奥の筋内膜のようなより柔らかい膠原線維性結合組織を含む」と定義されました。』

この本は「科学的基盤」「臨床応用」「研究の方向性」の3部から構成されています。『閃く経絡』の内容に関係するような箇所も多数あり、補足するようなかたちでお伝えできると良いのですが、理解がまったく追いついていないため、ブログの最後にこの本の大項目、中項目の目次だけをご紹介させていただきます。

以下の二つは、『閃く経絡』からの抜粋です。

ファッシアは臓器の輪郭をはっきりと示し、内部に閉じ込める。そして、生物学的な物質がファッシアの向こう側へ通過することは難しいが、ファッシアに沿って通過することは比較的簡単であることはわかっている。これは、体液、ホルモン、血液、空気、そして電気にもあてはまる。外科医はこの事実を理解して毎日利用していることから、このことは正しいとわかる。癌の悪性度は、このルールを曲げてしまう度合いによって定義される。つまり、健康であれば、ファッシアを通り抜ける物は存在しない。』P57

『各臓器はファッシアの中に入っている。しかし、それらもまた別の臓器とつながっている。いつ成長を止めるかをどのように知るのだろう? なぜ互いに侵入したり、血液を横取りしたりしないのだろう? 臓器はともに成長するだけでなく、ともに生きるためにもコミュニケーションをとらなければならない。すべての折りたたみは基本的には単純である。しかし、「何」が折り重なるように身体に指示しているのだろうか?

臓器が他の細胞に影響を及ぼす物質を分泌することはわかっている。我々の身体は、常に、他の細胞や臓器にメッセージを伝える大量のホルモンでごった返している。アドレナリンやインスリンといったホルモンを産生する副腎や膵臓といった腺組織だけでなく、すべての免疫細胞は常に神経伝達物質を産生し、心臓の細胞は利尿ホルモン、腸はセロトニンなど、その他もろもろ作っている。これらのホルモンは血液によって伝達され、臓器が身体の残りの部分といっせいにコミュニケーションをとることができる。』P58


“臓器どうしのコミュニケーション”と聞いて思い出すのは、NHKスペシャル “人体 神秘の巨大ネットワーク” という番組です。このイラストは書籍版の第1集に出ていたものです。

『氣には通路が必要である。身体の中にファッシア以外にふさわしい通路があるだろうか? ファッシアの層の間に完全に独立した通路を維持しながら、すべての物をつなげて包んでいく。ファッシアの通路は解剖学者によって説明されているが、彼らが説明したのはファッシアではなく、ファッシアが包んでいる組織である。』P105

鍼治療を受けた患者が特に手足でよく訴える感覚の1つが、電気的な感覚である。いくつかのツボでは、特に手足末端でうずく感覚や、電気が伝播する感覚が引き起こされる。研究によると、鍼灸のツボは周囲の皮膚よりも電気伝導性に優れている。そして、鍼灸の経絡は、周囲の組織よりも電気伝導性に優れている。経絡もツボもファッシアに存在する。王居易医師との議論や私自身の診療経験から、私はツボがファッシアに存在することを完全に確信している。コラーゲンがファッシアの主成分であり、そしてコラーゲンには変わった導電特性があり、電気も生成する。最も重要なのは、ファッシア面の間にある液体は電気を非常によく伝導することだ。この液体にはいかなる物理的な障害もない……健康であればだが。』P106

『コンピュータが電気によって動いている現実を、我々は平気で受け入れている。コンピュータが生きているか死んでいるかの違いは、ソフトウェアか電気のどちらかが原因になることが多い。全く同じように、死(心臓死でも脳死でも)は、医学的に身体の「電気的特性」によって定義される。 

-中略- 

コンピュータもヒトもエネルギーの不具合を抱えることがあるにもかかわらず、問題なのは、西洋医学がほぼ完全にこの現実を無視していることだ。身体には、身体の各部を結ぶ目に見えないエネルギーの網が張り巡らされている。それは、成長し、機能するためになくてはならない。何か故障が起きたとき、神経系が我々に意識に上ると気づくことができるが、それは器質的な損傷に至る前のことかもしれない。痛みはメッセンジャーであり、それ自体が問題なのではない。医師は最も敏感な器具、つまり自分自身を使う代わりに、身体の器質的な損傷を測定する機械にますます頼るようになってきている。もし、あなたの身体がコンピュータだとしたら、風邪で医師に見てもらっても測定できないため、意味がないだろう。ウィルスが物理的に回路を壊し始めるまで待たなければならない。

しかし、この微妙なエネルギー障害こそが重要である。理由があるから症状が出る。それらは警告のサインなのだ! 痛みは危険信号であり、身体があなたの行動を変えさせようとしている。痛みをなくすことで問題解決になることはめったにない。それはただメッセンジャーを消滅させているだけである。

エネルギー障害がすべての病気の中心にある。そして、それらはすべての病気の前兆だと言える。あらゆる病気の中で明らかに最も「器質的」なものに属する外傷でさえ、実際のところ単に体内での過剰なエネルギーの消耗が問題なのである。』P106

3.コラーゲン

まずは本書の中に出ているコラーゲンを説明した箇所をいくつかご紹介します。

ファッシアの主な成分は、コラーゲンである。コラーゲンは身体の至る所にあり、ファッシアだけでなく、腱、靭帯、関節の軟骨などを形成している。また、動脈壁にも存在するほか、骨に伸長強度を与え、臓器内の結合組織も形作っている。さらに眼のレンズを形成して見ることを可能にしたり、瘢痕組織を作って傷を治したりもしている。コラーゲンは身体のタンパク質の約3分の1を占めている。』P23

『コラーゲンの構造は原子レベルで作られ、莫大な強さを与えられる。それは、同じ重さで言えば、鋼の強さにも匹敵する!コラーゲンは骨、動脈、筋、腱、筋膜のベースとなる素材であるため、この強靭さは生命に関わるほど重要になる。』P25

『西洋医学では完全に無視されているが、電気的特性を持っている。コラーゲンには圧電性の特性があるのだ。それは、物が変形するときにわずかな電流を発生させる。同じ原理で、小さな水晶の結晶を変形させることによって、ライターの火花は魔法のように発生する。つまり、我々の身体のありとあらゆる部分が動くたびに、いつも小さな電流が生じているのである。』p26

『骨におけるコラーゲンの役割は、強度を与えることよりも驚くべきことがある。コラーゲンは半結晶物質であり、この結晶の特性の1つが圧電性を持つということだ。ある論文の著者が言うように、骨にも圧電性がある。その論文にはこう書かれている。「骨を非コラーゲン化すると、ピエゾ効果(圧電効果)が失われることがわかった。つまり、骨の圧電気の主要な成因はコラーゲンである」』p27

『電気を発生させるという特性を持つのは、骨ではなくコラーゲンで、ファッシア内の他のコラーゲンも同じ種類である。ファッシアのコラーゲンは機械的ストレスの線に沿って存在し、伸ばされたり動いたりする度に小さな電気を発生させる。この電気を西洋医学の医師は完全に無視した。どの医師に尋ねてもおそらくぽかんとするだけだろう。それにしても、身体の組織を連結させ、全身を包み結合しているファッシアが実際のところ、相互接続している、生きた電気の網であることには全く驚かされる。これは、古代中国における経絡や氣の記述と非常によく似ている。』p29

『コラーゲンは電気を生むだけでなく、伝導の特性も持つ。つまり、半導体なのだ。言い換えるなら、完全に絶縁体・伝導体のようにふるまうわけではない。コンピュータに「知性」を与えるものと同じ特性と言える。』

このコラーゲンの電気的性質によって、身体のすべてのものが電気的になるということは実に面白い。すべての細胞表面には肺と同じくらい生命に不可欠となるポンプが存在する。このポンプは、2つのカリウムイオンを取り込むことと引き換えに、3つのナトリウムイオンを放出する。これによって細胞内は負の電荷を帯びる。結果として、細胞全体にわずかな電荷が生じる。この帯電なしでは、細胞は機能しない。ポンプが数分間止まっただけでこの電荷はなくなり、細胞は膨らみ、死んでしまう!電気は生命に必要不可欠である。』 

 

ナトリウム・カリウムポンプの立体構造の解明(プレスリリース)

画像出展:「Spring-8」

 

 

体内での電気の効果は、細胞を生存させる仕事だけではない。身体の神経は情報伝達に、筋肉は収縮する力に、脳は考えるために使用している。心臓のリズムは電気的なペースメーカーによって生じ、眼さえも光を調節するのに電気を使用している。』p30

『ベッカー(Robert O. Becker)がいうように、我々は本当に「電気の身体」であり、常に光速で身体中に広がる目に見えない静かなエネルギーを発散・吸収している。』p31 

あらゆる生理学的プロセス、すべての動き、すべての考えが、実体として2つの要素 ―物理的な実体とエネルギー的な実体― を持っているように思える。心臓が鼓動すれば、その物理的な動きを手で感じたり、超音波で確認したりできる。しかし、電気的な実体は、心電図(ECG)を用いれば、よりはっきりと見ることができる。このエネルギー的な実体が物理的な実体よりもリアルであり、より簡単に測定できることから、西洋医学ではこちらの検査を多用している。』P31

この電気的世界の中心にコラーゲンがあり、生体にあまねく存在し、生体のすべてを結合させている。コラーゲンは結合組織の主要な構成成分であり、その強さにより人体が支えられていることは西洋医学にも認められている。コラーゲンは身体において電気的半導体としても、またピエゾ電気の発電装置としても傑出した存在であり、その重要性は機械的に強いというコラーゲンの特徴を上回るかもしれない。いや、むしろ、コラーゲンは、あるときは半導体として働き、またあるときはピエゾ電気を発電する生体らせん物質であり、体内の電気を保持し、発電し、流れる方向を導くことさえできる「スーパー伝導物質」とみなされるべきなのだ。電気の力は、身体を編んでいる組織の中に保持されている。この科学は中医学や氣のような響きを帯び始めてくる。』P31

 

資生堂さまのサイトにあったイラストです。また、”MISSION:体内コラーゲンを探査せよ|資生堂”という素晴らしい動画がアップされていました。

 

 

4.氣

に関しても、ポイントと思われる個所を列挙します。

なお、経絡≒ファッシアを考えるときに、コラーゲンの電気特性と共にこの「」に関する内容が本書の中核ではないかと思っています。

『語源学の観点から、は空気と同じであると思われる……そして、古代の人がなぜ人体のような固体物質に対してのような言葉を用いたのかという疑問が生まれてくる。もちろん人体の中に空気は存在する。肺の中には空気が存在し、血液や体液中には空気が溶けている。この空気は主に酸素と二酸化炭素であり、微量ではあるが、窒素や他の気体も含まれている。二酸化炭素と酸素から成る空気は、我々の代謝の基礎中の基礎と言える。事実、これら2つの気体のみが、いかなる時代においても身体の「代謝」を解明する科学的研究に用いられている。

『楊俊敏博士は ”気功の理解(Understanding Qigong)” と題された一連のDVDで、非常に簡潔にこの文字の説明をしている。古代の中国人は、医学において最も単純な方程式の1つをただ描いたにすぎないのだ。

食物+空気=エネルギー

グルコース+酸素=水+二酸化炭素+エネルギー

C6H12O6+6O2=6H2O+6CO2+エネルギー

という文字の特徴は、空気が混ざることでエネルギーが作られることを表している……これが生物学的な意味でのである!』P34

は「代謝」? は「空気」? は「空間」? 一体どれが正しいのだろうか? 答えはすべて正解であり、かつそれ以上の存在でもある。代謝エネルギーは、ある意味では、空気によって定義される。生物に空気の供給を止めると、も代謝もなくなってしまう。しかし、は物質とするにはあまりにも幅が広い。はより観念的な存在である。そのため、西洋の科学がをどう位置づけるかに苦労する1つの理由になっている。は科学よりも哲学、発想や抽象概念に近い存在である。とはいえ、抽象概念は科学的論拠の核心部分を保っている。』

は身体を組織する力である。それは、知性を持った代謝、もしくは、よりよい表現を求めるのならば「生命力」と言える。はあなたが行うあらゆる動き、そして、肺の呼吸、ミトコンドリアの呼吸、あらゆる呼吸に存在する。がどのように身体を組織しているかを理解するために、我々はミトコンドリアから、細胞、組織、臓器へと考えてきた。我々は、40億年にもわたる細胞の協調に関して早送りして見てきた。それでも、がどう作用するかについて少ししかわからない。』P104

『モルフォゲン(細胞の発生運命を決定する物質)やホルモンは濃縮された氣の一形態にすぎない。身体のコントロールには他の要因が存在する。体内の知的な制御システムはモルフォゲンを確かに使用しているが、私はそれと同じくらい電場(空間内の任意の点に働く電気的な力)を重要なものとして考えている。受胎の瞬間、陰と陽、精子と卵子が出会うとき、細胞の生命を本格的に始動させるものが電気である。この電気には知性がある。それは情報を伝達し、を持っていて、馬鹿ではない……電なのだ。

生命はに始まり、生物の命ある限り持続する。は、発達のあらゆる段階で、そして研究されているすべての生物で見つかっている。分化のまさに最初の段階――8つの細胞だけのとき――細胞たちは「緻密化」を行い、お互いの間に細胞間結合が形成されることがわかっている。細胞たちは、電気、知的な電気、つまりで通信するために、これらの細胞間結合を使う。次に、細胞のボールは液体の内部コアを作りだす。この変化も電流(中心部方向へ動くナトリウムイオン)によって引き起こされる。

電流はものすごく小さく、電圧も1ミリあたりのミリボルト単位(mv/mm)ではあるが、研究されているすべての生物の発生において存在している。さらに電気は再生と治癒にも関わっている。この電気の流れを逆転させると、動物での胚の異常な発達および異常な再生を引き起こす。再び言うが、この電気は知性を持つ――なのである。例えばクローン作製などで、我々が電氣を模倣しようとするならば、正しく行うために正確な電圧、特定の電流を使用しなければならない。心臓に電気ショックを与えるとき、コンセントから直接ワイヤーを胸と接続する医師はいない。正確な電流を使用し、場合によっては心臓のリズムに電気を同期させる。つまり、我々は電気に「知性」を加える。これは、まるでコンピュータの中を忙しく動き回っている電子が情報を運ぶ方法として同じである。これが生物学的情報を取り扱う電気――である。

私たちの身体の電場は普遍的だが、それが成長へ与える影響に関する研究はまだ乏しい。西洋医学は、成長因子(微量で細胞の成長・増殖を促進する一群の物質)やモルフォゲンを分離することに血道を上げた。つまり、生物物理学ではなく生化学の方に。見ようとすれば、電は至る所で見出せるにもかかわらず、である。

中国人はその存在に気づいていた。なぜなら、電気的な生物としての感受性を高めて、訓練を積めば、我々はこのを感じ、とらえることができるからである。経絡はそれぞれ異なっているように感じられ、ツボには異なる質感がある。このことは別に驚くべきことではない。経絡は異なる電気的特性を持っており、我々は「電気の身体」であることがわかっているからだ。修行を積んだ鍼灸師や武道家は、このエネルギーに敏感になる。彼らはこの違いを感じとって、利用しているのだ。

イギリスで最も尊敬された鍼灸師の一人、ラナルド・マクドナルドは、これに関してこう記している。彼が鍼灸の教授の下、中国で勉強していた頃、学友で懐疑的な医師の女性が教授にこう尋ねた。

「でも、って本当にあるんですか?」

教授は何も答えず、代わりにその女性の手を握って、合谷(L14)のツボを押圧した。すると、女性は痛みのあまり身体を折り曲げた。

そして、教授は「どうだい、はあるだろう?」と言ったのである。

教授は証明した。を用いなければ、圧覚点の生理学的説明はうまくできない。その証明は、他の何にもまして主観によるものである。親指と人差し指の間の水かき部分を押すと、どんなに屈強な男性でも無力になる理由を見つけてほしい。そして、その力を好きなように呼べばいい。

もしが生物学的な電気の形として現れたなら、電気のような挙動を示すと予想できるだろう。現代社会では、電気は毎日使われているので、私たちは電気について多くのことを知っている。電気自体は水と似たような形でふるまう。

鍼灸の古典では、しばしばと水が比較される。だから、非常の多くのツボの名前に「水」という漢字が使われていたり、手足の五兪穴が、井(井戸)、滎(わき水)、兪(小川)、経(川)、合(海)と呼ばれていたりする。もし、古典が水ではなく電気の現象に頼れたなら、古典は電気を用いただろう。電気の方が五兪穴を表すのによりしっくりするからだ。水は莫大な量を使って力を生む傾向があるが、身体の中を動く何かはほとんど見えない。いずれにしても、水は電気と似た形で動く。

●高圧な場所から低圧の場所へと移動する――電圧

●流れの中で動く――電流

●動くことで力を生む――ワット数

●流れる水のように、分離(絶縁)することもできるが、常に経路を探して、最も抵抗の少ない通路を通ろうとする――電気回路

●迂回できる――短絡

電気や水(もしくはモルフォゲン)を有するあらゆるシステムでは、高圧および低圧の領域が存在する。限られた空間に競合する物質が多いところでは高圧となる。つまり、低圧な場所では、物質が空間内を自由に遊走することができる。

身体の外側には基本的に電がないので、身体の内側は外部より高い電を持つことになる。電は、この勾配に沿って内側から外側へと移動する。そして、最も抵抗の少ない通路を流れる。ファッシア面はまさしくこの通路を提供する――これは内視鏡手術や、解剖の背景にある原理である。ファッシアの抵抗は非常に低いのだ。ファッシア面にある液体は、イオンが豊富で優れた電気伝導体であることがわかっている。血液を除けば他に類を見ない特徴として、この液体は、健康な状態では何ものにも妨げられずに動いていく。』P109

5.バイオフォトン

 

画像出展:「生体極微弱発光 ーバイオフォトンー の世界へようこそ

東北工業大学 工学部 電気電子工学科 医工学・バイオ系 小林 研究室

 

 

 

バイオフォトンとは「生物の生命活動に伴って自発的に放射する可視化が困難な微弱な自然発光」です。本書の中で、氣との関係性についてはわからない点は多いという認識をもって書かれていますが、興味深い事象なので気になった箇所をお伝えします。

『機械でしか測定できないくらいぼんやりではあるが、ヒトは光を発している。不思議なことに、小説の中で語られる「邪気」のように、それは爪から最も強く発してるように見える。この光はバイオフォトンと呼ばれ、科学的に認められた事実である。生きとし生けるものすべてがこの光を発している。 -中略- ドイツ人科学者フリッツ・アルバート・ポップは、バイオフォトンこそが氣の発現であると考えており、互いに支えあう細胞の力であると述べている。』P40

『氣との類似点はまさしくそこにある。氣の通路は身体の末端である手足の爪を通っており、そこのバイオフォトンの放出が最も強い。ヒトが病気になったり歳をとったりするとバイオフォトンの量が増えることがわかっているが、同じようなことが脳卒中の麻痺側でも生じる。鍼灸治療で、脳卒中患者のバイオフォトンのバランスが補正されていることがわかっている。

Jung,H.H.,Woo,W.M.,Yang,J,M.,Choi,C.et al(2003)’Left-right asymmetry of biophoton emission from hemiparesis patients.』`P40

バイオフォトンが氣であるかどうかわからない。しかし、明らかになっていることは、その多くがミトコンドリアから現れるということだ。ミトコンドリアは細胞の発電所であり身体のエネルギーの源である。一部の研究者はバイオフォトンがフリーラジカル損傷の指標であると考えているが、まだわかっていない。』

『バイオフォトンが干渉性であることを示す研究もいくつか存在する。干渉(コーヒーレンス)とは、エネルギーがどのようにエネルギー自体と連絡するか、光が光自体と同期するか、を説明する量子用語である。知性もしくは記憶を持った光は、量子物理学者だけが興味を持ちそうだが、身体の中でこんなことが起こっているなんてすごいことだ!ただ、このことに関する研究はまだまだ少ないので、暗闇から抜け出さないでいる。問題は、バイオフォトンの測定には、可視光の強度の千分の一の光を測定しなければならない。これには、とても高価な設備と、すさまじくたくさんの時間をじっと待つことを喜んで引き受けてくれる人が必要になる。』P41

『バイオフォトンは氣の物理的な表れかもしれない。もしくは、細胞性反応の副産物であるかもしれない。もしくは、細胞性反応の副産物であるかもしれない。さらなる研究が必要であるが、それまでは、氣に関するどのエビデンスよりもバイオフォトンが最も興味を引くものである。バイオフォトンが示すものは、私たちの身体は電気のように光を作ることができ、この光が病気になると変化するということである。』P41

6.ツボ(経穴)

ツボ(経穴)については本書の内容と日本伝統医学研究センターで学んだこと、相澤良先生の師匠であった岡部素道先生のツボ(経穴)に対する考え方を比較したいと思います。

『経絡は氣の通路として存在している。鍼灸師ならば誰もが知っているこの経絡は、細胞内連絡として機能している。経絡上に存在するツボは、生理的にも病理的にもこの細胞内連絡が変化する場所である。優秀な鍼灸師であれば、この生理的変化がどこで起こるのか知っており、さらに重要なこととして、病気が生理的な反応を変化させることも知っている。したがって、病変の数が無限にあるように、ツボの数も無限にある。』P98 

東邦医学 “硬結の経絡的研究”より

経穴がどんな所にあるかを発見することが鍼灸治療家の最も至難な、しかも大切なことである。即ち経穴は、流、注、経、合、交会に外ならぬのであるが、原則として、硬結の発見を一つの手がかりとすべきであると想う。そして、それは経絡の変動と一致する。その経絡の変動を調節する事によって、疾病を治癒せしむるものである。換言すれば、疾病は、経絡の変動によって生ずるものである。経絡は一つの溝渠(給排水を目的として造られるみぞ)。この溝渠が内因外傷の客邪により、障碍が出来るのである。経絡を川に例えれば石その他の障碍物によって瀬が出来、流水の溜滞を来すとする。この瀬である障碍物が即ち硬結であり血氣の溜滞なのである。この硬結に治療を施し排除する事によって治癒効果があり、疾病が治るのである。』


医道の日本誌 “経絡治療座談会 病症論”より

『ツボとりは単に指先でちょっとさわるよりも、例えば、手の三里なら三里を取る場合に、手掌あるいは四指で軽く撫でてみる。そうして二、三回撫でてみますと、その中にある一点を見出す。その一点を今度はもっと強く押してみる。それが圧痛なり硬結が出てくる。これを一つのツボの本体として探り当てる。他と違った状態にツボは現れていると考えている。例えば、絡穴にしても、原穴にしても、よく触っていると、自分で触っても響くとか、あるいはキョロキョロのものが出てくる。あるいは陥下しているか、何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボだと思う。その意味でツボは生きているとみている。ツボは経絡の変動とみている。


両者を一つにまとめてみると、「ツボは生きている、硬結のような何か普通のところよりも違った感覚として指先に感じられるものがツボである。最も至難で大切なツボ取りは鍼灸師に委ねられており、経絡上に存在するツボは、生理的にも病理的にも経絡(細胞内連絡)が変化する場所である。さらに重要なこととして、病気が生理的な反応を変化させる。したがって、病変の数が無限にあるように、ツボの数は無限にある。そして、ツボ取りを委ねらえた鍼灸師はその経絡の変動(変化する経絡)を経絡上のツボを使って調節する事によって、疾病を治癒に導く」。という感じになると思います。

ここで、うまく整理することができなかった部分は、『病気が生理的な反応を変化させる(”閃く経絡”)』という表現と、『疾病は、経絡の変動によって生ずる(”硬結の経絡的研究“)』という表現です。もし、これを次のように強引にまとめることが許されるならば、両者に大きな差はないと言えると思います。

“健康”⇒“未病[東洋医学]”⇒“経絡の変動[東洋医学]”⇒“病”⇒“生理的な反応の変化[西洋医学]”

これは、「東洋医学の”経絡の変動”とは”病”の前段階の”未病”でみられるものであり、西洋医学の”生理的な反応の変化”とは”病”の段階で認識され、血液や尿などの臨床検査や各種画像検査の結果により確認された生理的な反応による変化」。という理解になります。

まとめと感想

冒頭でお伝えしたものが今回の学習の「まとめ」と言えます。それは次の一文でした。

鍼治療とは、刺鍼ポイントのツボ(経穴)への刺激が、概念である氣の一部、「電」の知性に働きかけ、体表と内臓を結ぶ経路(経絡≒ファッシア)を通じて、乱れた状態を自然治癒力(ストレス適応を高め、栄養代謝を改善すること)によって元に戻す」。

また、以下は「感想」の類に入ると思います。

「生きていくために重い臓器を体内に抱えながら、しかも重力とも闘いながら動き回ることは大きな労力(エネルギー)を要するものです。この動くということによって、酷使されダメージを受けやすい領域は可動部、関節領域だと思います。

そして、負荷の集中によって普通とは違った状態を示すものをツボとするならば、その負荷とは動的および静的な筋・筋膜、腱・腱膜などの緊張状態(止まっている状態でも重力に抵抗し常に緊張している筋もあります[抗重力筋])と深い関係にあり、全身を覆ったボディスーツが各関節の動きによってできるシワやハリのように、面から線、そして線から点となって、ツボがつくられるのかも知れません。

ボディスーツのシワやハリは動きの特徴、強弱、繰り返し、持続時間およびそのヒトの体形などによって、さまざまな模様を見せると思いますが、その模様は無秩序に現れるのではなく、各関節や骨格などの構造的、機能的特性などにより代表的なパターンはある程度絞られるだろうと思います。また、物理的な作用は表面のボディスーツだけでなく、内部の臓器を包む膜などにも少なからず影響を与えるだろうと思います。あるいは炎症などの臓器に起こったダメージなどによって、それが内臓の膜にシワやハリをつくり、そして体表に変化をもたらすのかも知れません。

経絡の “経” とは縦、 “絡” とは横を意味しています。つまり、縦+横は面になります。経絡がボディスーツのシワやハリであるという意見は暴言に近いと思いますが、関係性があったら面白いと思います」。

 

こちらが抗重力筋になります。

画像出展:「Therapist Circle

 

 

 

ご参考:『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 最新知見と治療アプローチ』の目次のご紹介

第1部 科学的基盤

パート1 筋膜体の解剖

1.1 筋膜の一般解剖

1.2 体幹の筋膜

1.3 浅筋膜

1.4 肩と腕の深筋膜

1.5 下肢の深筋膜

1.6 胸腰筋膜

1.7 頸部と体幹腹側の深筋膜

1.8 内臓筋膜

1.9 頭蓋内における膜性構造と髄腔内の空間

1.10 横隔膜の構造

パート2 コミュニケーション器官としての筋膜

2.1 伝達器官としての筋膜

2.2 固有受容(固有感覚)

2.3 内受容

2.4 侵害受容:感覚器としての胸腰筋膜

2.5 全身伝達システムとしての筋膜

パート3 筋膜の力伝達

3.1 力伝達と筋力学

3.2 筋膜の力伝達

3.3 筋膜連鎖

3.4 アナトミー・トレインと力伝達

3.5 バイオテンセグリティ―

3.6 皮下および腱上膜組織の多微小空胞滑走システムの作用

パート4 筋膜組織の生理学

4.1 膜・筋膜の生理学

4.2 膜・筋膜は生きている

4.3 細胞外マトリックス

4.4 筋膜の特性に関するpHと他の代謝因子の影響

4.5 筋膜組織における流体力学

 第2部 臨床応用

パート5 筋膜関連の障害

5.1 筋膜関連の障害:序論

5.2 デュピュイトラン病と他の線維収縮性疾患

5.3 “凍結肩(五十肩)”

5.4 痙性不全麻痺

5.5 糖尿病足

5.6 強皮症と関連症状

5.7 筋膜関連障害のトリガーポイント

5.8 筋膜関連の疾患:過可動性

5.9 足底筋膜の解剖学的構造

パート6 筋膜の弾性に関する診断方法

6.1 筋膜の弾性に関する診断方法

6.2 筋膜の触診

6.3 過可動性と過可動性症候群

パート7 筋膜指向性療法

7.1 包括基準と概要

7.2 トリガーポイント療法

7.3 ロルフィング構造的身体統合法

7.4 筋膜誘導アプローチ

7.5 オステオパシー徒手的治療法と筋膜

7.6 結合組織マニピュレーション

7.7 筋膜マニピュレーション

7.8 機能障害性瘢痕組織の管理

7.9 筋膜指向性療法としての鍼治療

7.10 刮痧(カッサ)

7.11 プロロセラピー(増殖療法)

7.12 ニューラルセラピー(神経療法)

7.13 動的筋膜リリース―徒手や道具を利用した振動療法

7.14 グラストンテクニック

7.15 筋膜歪曲モデル

7.16 特定周波数微弱電流

7.17 手術と瘢痕

7.18 筋膜の温熱効果

7.19 ニューロダイナミクス:神経因性疼痛に対する運動

7.20 ストレッチングと筋膜

7.21 ヨガ療法における筋膜

7.22 ピラティスと筋膜:“中で作用する(working in)”技法

7.23 筋骨格および関節疾患の炎症抑制を目的とした栄養モデル

7.24 筋膜の適応性

第3部 研究の方向性

パート8 筋膜研究:方法論的な挑戦と新しい方向性

8.1 筋膜:臨床的および基礎的な科学研究

8.2 画像診断

8.3 生体内での生体力学的組織運動分析のための先進的MRI技術

8.4 筋のサイズ適応における分子生物学的な筋膜の役割

8.5 数学的モデリング

長野式-結合組織活性化処置法

今回のブログは、標治に長野式の「結合組織活性化処置法」を取り入れるため、あらためて勉強したというものです。なお、それぞれの講習会で入手した資料を勝手に使うことは不適切であり、一方、まだ熟読していない本を使って学びたいという気持ちから、長野先生の本を使って進めています。そして、最後に「自序」、「あとがき」、「著者略歴」をご紹介しています。

 

初版は平成5年12月です。

長野先生には、この本とは別に「鍼灸臨床 新治療法の探求 -心に残る診療カルテから-」という著書もありますが、こちらは長野先生曰く「本書は、私がこの道に入って二十五年目から三十五年目まで、十年間に書き留めた断片的な臨床論文である」とのことです。

出版:医道の日本社

長野式とは長野潔先生が確立された鍼灸治療で、鍼灸師の間では「知る人ぞ知る」評価の高い治療方法です。

私は八丁堀の専門学校に通っていた3年間のうち、2年目に「長野式臨床研究会」の基礎セミナーを、3年目に「長野式研究会」の基礎講座を受講させて頂きました。長野式を研修できる現場を求めて、栃木県まで足を運んだこともありましたが、現実のものにすることはできませんでした。このような経緯を経て、卒業後、代々木の日本伝統医学研修センターで知識と臨床力を付けるという道を選びました。

しかしながら、頭をリフレッシュさせる目的で、長野式だったらどのような選択をするのかといったことを考えてみることは有意義だと思っています。
【混ぜるな危険】とは、「色々な治療法を明確な狙いもなく、苦しまぎれにミックスしてしまうこと」ということだと思います。私はこの【混ぜるな危険】を守りながら、長野式の可能性を「標治」の幅を広げる目的で活用したいと考えました。これは、筋肉や結合組織に対するトリガーポイントと同じような位置づけであり、新たな武器を身につけるという狙いです。
日本伝統医学の経絡治療には「本治」と「標治」という考え方があります。本治は治療法の根幹であり、まさに【混ぜるな危険】を守るべき領域です。
一方、標治は患者さまが抱える問題、痛みや凝りなどに対して即効性を優先した治療であり、一般的には筋肉などの軟部組織に刺鍼して改善を図ろうとするアプローチです。そして、標治の基本は徹底した触診により、硬結やスジ、突っ張りや緊張といった変化部位を発見し、そこに鍼を当てにいくというものです。例えば、経絡治療には「阿是穴(あぜけつ)」という、触診で見つける「あっ、それ!」というツボも定義されています。これなども標治の幅を広げるためと考えられます。
以上のことから、「標治」に関しては施術の質を高めるために、トリガーポイントと同様に長野式を有効な武器として加えることは問題ないと判断します。
ただし、長野式の根幹は次のように10個(運動器疾患処置法は4個)の処置法に分かれており、この中で標治に加えて何も問題ないと思うのは「結合組織活性化処置法」です。

1.気流促進処理法
2.水分代謝促進処理法
3.血流促進処理法
4.粘膜消炎処置法
5.自律神経・内分泌系調整処置法
6.免疫機能強化処置法
7.運動器疾患処置法
 1)結合組織活性化処置法
 2)筋緊張緩和処置法
 3)血糖値調整処置法
 4)血管運動神経活性化処置法

「結合組織活性化処置法」は、本の中では126~137ページに説明がされています。今回は現場で使えるものにしたいと思い、表形式にまとめました。なお、項目になっている[刺入(鍼)]の中で、鍼の長さ・太さと刺入の深さについては色をグレーに変えています。これらは個々の体格等を優先して判断すべきものだと考え、明記された数値を参考値という位置づけにしたためです。

表の内容を直感的に把握する目的で、「絵」を載せていますが、ふられている数字は上記の表、左端に出ている連番を指しています。ただし、すべてを網羅できていません。

9・16

17


19

20


21

24


表の中には経穴(ツボ)によって、部位を説明しているものもあります。これに関しては、「イトリズム事典」で、該当する経穴(ツボ)を確認できるようにしました。

イアトリズム事典は、「日本東洋医学協会」監修のもと、人体に数百とある経穴(ツボ)に関する詳しい情報を画像とともに分かりやすく掲載しています。

なお、利用についてはホームページ開設時に使用許可を頂いています。

9  尺沢(シャクタク)
12 風池(フウチ)
12 完骨(カンコツ)
12 天牖(テンユウ)
14 中府(チュウフ)
14 雲門(ウンモン)
15 少海(ショウカイ)
17 四瀆(シトク)
18 承扶(ショウフ)
19 委陽(イヨウ)
20 陰陵泉(インリョウセン)
20 曲泉(キョクセン)
20 陰谷(インコク)
23 風市(フウシ)
24 足三里(アシサンリ)

自序
『私にとって青年時代よりの中心課題は、東西両医学融合体系構築が目標であり、これらのエッセーは、それへのアプローチであった。
その目標に向かって、デカルトによる、身体と心は別々であると云う二元論の理性的・合理主義を基盤とする西洋医学と、人間も自然の一部とする一元論的存在論とする東洋医学を融合させることは、無謀なことと知りながら可能な限りの融合点を見い出し、近代医学で見放された患者を治癒せしめた事実が少なからずある。
この事実を集積することにより、東西両医学の体系構築への確信を持つようになった。この確信なくして私の文章は一行も書き得なかったであろう。
臨床家にとって本を書くということは、至難の技である。先づ、臨床の状況を詳細にカルテに記録しなければならない。数多いカルテの中から特記すべき症例を拾い上げ、症例別に分類を行いまとめてゆくのであるが、一日の診療を終え極度の疲労に達した状態での作業は、身体に大きな支障を来たすものである。
しかし、それを克服しなければ、これまでの治療行為が遠い記憶となり、やがて虚しく消えてしまうものである。従って、余程の診療体制の確立と自分自身の体力の充実という条件がなければ書けるものではない。
過去30年間、そのような恵まれた時間は決して多くはなかった。そのような状況の中で、この本を書かしめたものは、私にとって両医学の融合の成果を、鍼灸臨床に携わる方々に何らかの参考にしてもらえばという思いと、一人でも多くの病人を救うという使命感にも似たようなものであった。
印度仏典を中国語に900巻も翻訳した鳩摩羅什(クマラジュウ)(344-409)の業績や、印度仏教における思弁哲学体系を構築した天台智顗(チギ)(538-597)の偉大な業績を思う時、私の著作は誠に細やかなものであるが、治癒事実の記録という実証主義的エッセイは、私が確信を持って書いたものであり、永遠の過去と、永遠の未来の接点である現在、即ち、今の事実は残すに値するものであるという自負を持っている。
当初本を書き始める頃は、東西両医学融合の治療体系構築のアプローチへの一片の資料になればと夢を持っていたが、振り返ってみれば、私ごとき一介の鍼灸師が個人レベルでは、大それた意図であるということがしみじみと解ってきた。しかし、その夢を忘れることはできなく、私の可能な限りの処置法を構築したいという思いで書き始めた。
臨床においては学理的解明よりも、治癒事実の方が優先されなければならない。いかに学理的解明がなされても、生命が終わってしまえば、もうそれは医療ではない。今日、このような状況が現実として我々の身辺に起こっているということは、近代医学にとって、また、人類にとって大きな不幸ではないだろうか。全身的な、全人格的な回復ということは、何よりも優先されなければならないのである。
局所の病的細胞の修復と改造を目標とする近代医学と、全身的気血の和合を目的とする東洋医学は、基本的に病理概念や或は生命感が違うのであるが、人間の生命が全体と局所、局所と全体が有機的且つ合目的的に、また包括的に生かされているということは、大自然の調和ということと同一のものではなかろうか。
鍼灸臨床拾遺は、ある時期の二年間の臨床の中で特記すべきもののうち、500治験症例をまとめたものであるが、この統計を作りあげるのには並々ならぬ労力を要した。これは鍼や灸の治療対象がどこまで可能か、またどこまでが限界なのかを探求したという気持があってまとめたものである。
治験症例報告は、日常のありふれた一般的な症例(例えばギックリ腰や変形性膝関節症等)は割愛した。しかし、日常的に多く出合う疾病で、西洋医学的方法では難治でも、鍼灸治療では治ったという症例(前立腺肥大や慢性膀胱炎等)、又特殊な経穴を組み合わせて、特殊な疾病を治す事に成功した症例も取り挙げて報告することにした。
私は、私なりに外来臨床に携わっている。西洋医学と東洋医学を複眼として、西洋医学的な一つの暗示を受けて東洋医学的治療法を行い有効であったことが多い。例えば慢性膵炎による痛みは、X線による間接照射、副腎皮質ホルモンでしか痛みが取れないということに対して、足の腎経の「照海」と同じく「兪府」に鍼をすることによって痛みを消失させることができた。
このように両医学の視点から考え、治療を試みて成功したのであるが、何故痛みが消失したかという作用機序の理論的解明は、推論の域を脱し得ないのが残念である。臨床家は病人を治すということが目標であるので、理論的解明は二次的にならざるを得ないのは、止むを得ない事である。
今後、鍼灸医学の進歩発展のためには、公的な東西医学の共有する場を持ち、共通する学術用語とその意味づけが早急に検討・統合されることが必要な時機に来ているものと考える。なおこのエッセーは未完不備なものであり、独断と偏見に満ちているかも知れないが、少なくとも私の臨床経験というフィルターを通してのものであり、決して虚構と偽証のものではないことだけは明記しておきたい。
また、このエッセーが、鍼灸家の臨床研究の資料として、いささかのお役に立ち、高齢者人口の増加する今日的状況の中で、近代医学的治療の補足補完的な真価を発揮し、慢性的に苦しみ迷う患者層の、道しるべの布石のひとつともなれば望外の幸である。』

あとがき
本書は一口に言って私の45年にわたる鍼灸臨床生活の総集編とまではいかないが、その要諦であり大半である。
1980年迄の10年間、医道の日本誌に「更年期障害の臨床」「心に残る診療カルテから」「鍼灸臨床備忘録」「鍼灸治療室」など10年間にわたって寄稿させて頂いた。
それから文字を書けないまでに視力を喪失してペンを置く事7年、1988年、幸いにも有能なアシスタントとの出会いを得て私の最終的な目標である東西医学融合大系構築へのアプローチとしての成果を書こうと決心したのである。
1988年10月から今日迄、即ち1992年12月まで、4年間に亘って脳裡にたたみこんで来た「処置法」の大系を口述筆記で24万字にわたって書き綴ったのが本書である。
文字が書けなく分文脈がなかなかおもうにまかせず、前後したり、重複したり、或いは書き落としたり、書き足りなかったり、様々な困難に遭遇してきたものの、なんとか鍼灸臨床体験を通して貯えて来た治療大系を私なりに構築し得たと思っている。もちろんこれは広汎な医療のジャンルでその一部にすぎないのであるが、私にとっては全生命を絞りきった思いである。

振り返って1955年、杉靖三郎教授の「ストレス学説」の講義を拝聴し、それが何故か私の心奥にとどまり、加えて藤田六朗博士の「筋主因性流体波動通路膜系理論」等を習得した。
1974年、耳鼻咽喉科院長の岩下博士との出会いや、札幌医科大学耳鼻咽喉学科の形浦昭克教授の「扁桃とその臨床」という著作に出逢い、扁桃の機構とそのもつ機能と中国の「気」の医学説とが私の中で渾然となり、東西両医学構築大系への夢を現実的なものへと芽生えさせてくれた。
とかく「気」を本質とした経絡学説は、形而上学的思想そのものや或いは思弁哲学的思想そのものと誤認されたりして来たが、これは決してその様な思想そのものではなく、思想化されやすい傾向をもっているにすぎないものであって普遍的に誰もが感得しうる実在的、具象的なものである。
「気」の実在は主客の相対的次元を超えた万人誰もがもつ生命そのものの本質である。
二千数百年の歴史をもつ「気」を中心にした存在論をもつ中国医学は、連綿と伝承されてきたそして多大な成果を挙げたという歴史は私をも含めて厳然たる真実である。
東西両医学の融合という事は近代医学と東洋医学は、ホリスティック医学のカテゴリーの中に包括的に位置づけられこれからの医療にたずさわるものの常識的なものとなってゆくであろう。
東西両医学の融合はただ単に我が国だけのものではなく、世界に共通する医療として志向されなければならないと思う。』

著者略歴
1925年 大分県大分市鶴崎に生まれる。
1948~1952年 大分県立病院理学療法室勤務
1952~1957年 東京教育大学に学び後、大分県立盲学校理療専攻科にて教鞭をとる。
1957年 鍼灸院を開院。大分県鍼灸師会学術部長。同鍼灸・柔整等試験委員・同審議委員等を歴任。
1979年 日本赤十字社金色有効賞受賞。
1982年 大分市より優良技能賞受賞。
1988年 ㈳大分県鍼灸師会会長を3期6年間務む。
1988年 厚生大臣賞受賞
1989年 日本赤十字社社長賞受賞
2001年6月 死去

エコーガイド下fasciaリリース

8月に「運動器エコー」というタイトルのブログをアップしました。これは「エコーガイド下筋膜リリース」に関するものでしたが、今回、その理解を深めるために「解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床 筋膜リリースからFasciaリリースへ」という本と、「運動器リハビリテーションのための超音波画像描出テクニック①②」というDVDを自己学習の教材にしました。

注)当院ではエコー(超音波診断装置)を利用した治療は行っておりません。

 

編集・執筆に関係された方は14名で、その内訳は医師9名、鍼灸師5名となっています。

編集主幹:木村裕明

出版:文光堂

イントロダクション

・正確な長軸画像を得るための基本技術
・きれいな画像を描出するための基本技術
に続いて、①②合わせて16の部位についての画像抽出テクニックが解説されています。

福島県立医科大学附属病院痛み緩和医療センター の小幡英章先生が書かれた「推薦のことば」が分かりやすいので、そのまま掲載させて頂きます。


『痛みの治療において革新的な方法が導入されつつあります。それがfasciaリリースであり、このたび、初めての成書が出版されることになりました。
fasciaとは筋膜、靭帯、支帯、腱膜、関節包、傍神経鞘などの線維性結合組織を包括する概念です。fasciaに異常があると痛みを感じたり、関節の可動域が制限されたりします。痛みの原因として推察される部位を超音波診断装置で観察すると、fasciaの重積像を認めることが多く、そこに生理食塩水を注入すると、症状が軽減します。神経障害性疼痛のような慢性痛にも、この治療法が著効することがあります。慢性痛の治療は基礎研究の発展に伴って中枢機序ばかり注目され、薬物療法が主体となっています。しかし、fasciaリリースの発展によって、末梢性の機序も依然として慢性痛に大きく関与していることが明らかになってきました。本書はエコーガイド下fasciaリリースを開発・発展させてきた医師らによって書かれたものであり、総論から各論まで多くの図表を用いて詳細にわかりやすく解説されています。この治療法が真に有効であることを客観的に示すには、もうしばらくの時間を要すると思われますが、新しい痛みの治療として認識され、多くの医療従事者に広まっていくことを期待します。』

 「痛み緩和医療センター」の概要が確認できます。

さまざまな組織間の癒着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば、凍結肩(四十肩・五十肩)は関節包周囲での癒着は可動域に制限をもたらしますが、それは上図のように筋膜どうし、筋膜と骨膜、筋膜と浅筋膜(皮下組織)、腱と骨膜など様々な組織間で癒着が生じる可能性があります。

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

筋膜リリースによる重積の剥離(僧帽筋・棘上筋間)

 

これは治療前の写真です。▼マークの白い線が筋膜の重積であり、肥厚して高輝度で写しだされています。

 

治療後です。筋膜リリースによって太くはっきりとしていた白線は数層に剥がされ肥厚は解消されています。

 

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

上記の写真は上層の僧帽筋と下層の棘上筋の筋膜をリリースしたというものですが、これらの癒着が改善されることによって問題となる痛みや可動域制限は改善されることになります。
なお、Fasciaの用語の定義はまだ確立されていないようですが、本書の中では次のように説明されています。
『いわゆる筋膜はfasciaの一形態に過ぎない。fasciaは線維性結合組織の総称であり。皮膚、皮下組織、筋膜、腱、靭帯、脂肪体、腹膜、髄膜、骨膜すべてが含まれる。』

fasciaリリース治療概論
異常なfasciaを含む結合組織の治療は、原因となっている癒着部位を直接的に剥離する直接法としてのfasciaリリースと、癒着部位周囲の結合組織の伸張性や柔軟性を改善させることで癒着部(発痛源)へのストレスを減らす間接法としての手技があります。
下記の図は可動域制限と癒着の強さという2つの病態を0~4の5つのグレードに分類し、それに対する適した治療法を当てはめたものです。

 

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

上記の図では、「鍼」は5段階の3番目(Grade2)の治療として位置付けられています。また、「鍼」について解説されていますので、その内容をご紹介します(引用)。
1.刺鍼時の痛み(切皮痛)が少ない、あるいは無痛
鍼管(鍼を入れる筒)を用いて刺鍼すると、鍼管の接触刺激と指先による皮膚の緊張増加により切皮痛をなくすことができる。チクっとしたいわゆる注射針の痛みがないため、患者はリラックスして施術を受けられる。
2.深部への直接的なアプローチが可能
鍼は体表からピンポイントに深部の病変部にアプローチできる。そのため、医師が深部病変の圧痛確認のために触診の代わりとして鍼を使用することもある。
3.鍼が細く鍼先が鈍のため組織侵襲性が注射針よりも小さい
注射針は鍼先がカットされた刃物構造であるが、鍼の先端は鈍なペンシル型の形状である。そのため、鍼は組織を切らずに、押し分けて深部へ進むことができるため組織侵襲性が低いと推察されている。また、細い鍼は、刺鍼しても動脈や神経を避けるという経験則が知られている。我々は、エコーガイド下刺鍼により検証を進めている。
4.局所血流改善
鍼という異物に対する局所反応(ヒスタミン遊離など)、軸索反射による影響が考察されている。
5.物理刺激によるfasciaの治療
エコーを用いると、鍼の物理的な刺激によってfasciaの重積した部分がリリースされる様子が観察される。
6.下行抑制系の賦活化
鍼刺激が下行抑制系などの内因性オピオイドに関与することが報告されている。

また、「医師が鍼を使う意義」というコラムがあり、4つの写真は左からabcdとなっています。
a 鍼で対象物を捕捉
b 鍼をガイドにして注射している様子
c エコーガイド下に鍼先端をを確認しながら注射している様子
d cの手技のエコー画像

『日本では、法律上、医師も鍼治療が実施可能である。鍼治療は置鍼などで長い治療時間を要するという先入観があり、臨床で鍼を利用している医師は少ない。利用している場合でも、経絡・経穴としての使用がほとんどである。fasciaを対象として鍼を利用する意義は、治療目的だけでなく、治療的診断・判断のための局所病変の評価にある。
深部病変の場合、触診では圧痛点を的確に探し当てるのは難しい。しかし鍼を用いると深部にある圧痛点(発痛源)も正確に探すことができる。鍼先を指先と考えることができる。さらに、その鍼先をガイドとして注射を行うこともできる。
鍼はその細さ・先端の形状などの特徴から、注射針に比べて侵襲性が低い。そのため、鍼先で病変部位を探る(抜き刺しする)行為でも組織内の出血などの損傷行為になりにくい。このように、鍼は、深部病変の検出のための診察の補完ツールとして有効活用できる。また、注射刺激に敏感な患者に対する軽刺激の治療としても有用である。』

画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

治療部位検索
こちらは発痛源の検索方法の手順を示した図です。特に注目すべきは2番目の「動作分析・可動域評価」ではないかと思います。以下がその説明です。
『動作分析・可動域評価は煩雑で時間がかかるため圧痛で治療部位を探す治療者も多い。しかし、多くの圧痛点がある場合はどれを治療すべきかの判断が難しい。また、関連痛の場合にはそもそも痛みを訴える部位に圧痛がない可能性がある。このような場合でも動作分析と可動域検査により確実に発痛源を見つけることができる。』

 画像出展:「Fasciaリリースの基本と臨床」

腰方形筋付着部の「エコーガイド下fasciaリリース」
下の2つの写真は腰方形筋付着部への治療の様子です。画像が悪く見えずらいのですが、患者さまは横向きの姿勢です。医師は左手でプローブ(画像を取り込むセンサー)を操作し、見やすい画像でプローブの位置、角度を固定。その状態で右手を使って注射しています。
なお、腰方形筋は背中側からは上層の腸肋筋と下層の大腰筋の間に挟まれた所に位置しています。

最後に、トリガーポイントをどう位置付け、認識しているかという点についてご紹介させて頂きます。
『トリガーポイントはあくまで生理学的に定義された用語(過敏となった侵害受容器)であり、治療“部位”検索としての解剖学的な位置を示す用語としては適切ではない。トリガーポイントが存在する場所は基本的にfasciaであると想定しているため、治療部位検索の上でトリガーポイントという用語は本書では用いていない。さらに、fasciaの異常(例:炎症性、mechanically-insensitive afferentsによる機械的痛覚過敏、滑走性・伸張性障害)による症状を包括するための概念としてもトリガーポイントだけでは不十分である。』

鍼治療における神経損傷を考える

このテーマは巨人軍、澤村投手の鍼治療による長胸神経損傷の報道と、それに対する鍼灸業界からの質問状という一連の騒動がきっかけです。なお、本件は医道の日本11月号で特集が組まれました。そして回答は11月9日、巨人軍から提示され、一件落着となりそうな状況です。

写真は月刊誌の医道の日本と特集の表紙です。また、サンケイスポーツさまの記事を3つリンクさせて頂きました。

ブログでは、長胸神経に関係の深い筋肉である前鋸筋と、その前鋸筋上にあるとされている経穴(ツボ)の「淵腋(エンエキ)」と「輒筋(チョウキン)」についても少し調べてみました。


私が鍼灸の専門学校に在籍していたのは2011年4月からの3年間でしたが、施術で最も注意することは気胸(刺鍼により肺を損傷させること)でした。肺に次いで注意する臓器は腎臓であり、動脈などの太い血管も当然注意しなければならないものです。また、乱暴な手技も事故につながる行為です。

施術では解剖学の知識をベースに、患者さまの体格やその時の状態から、刺鍼ポイントの安全な方向と深さを判断したうえで鍼を刺入します。これを守って手技を行えば、刺鍼による事故を防ぐことができます。

一方、鍼通電療法という授業の中では、筋肉だけではなく「神経パルス」という、顔面神経や脛骨神経などに対する施術方法を習っていました。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記は教科書からの転載です。脛骨神経に対する施術目的(適応)を見ると、『腰部神経根症の放散痛、坐骨神経痛に対して治療対象となる』となっています。
上段右図の右上の★★マークは、3段階の2番目の難易度であるという意味ですので、脛骨神経への施術は中程度ということです。また、下段は膝下部の断面図です。腓腹筋(ふくらはぎ)と深部にある膝窩筋の間に脛骨神経がありますので、ある程度の深さに鍼を刺入する必要があります。

鍼通電療法で最も一般的なものは、「筑波大学式低周波鍼通電療法」です。Wikipediaで調べたところ、種類について、以下のような分類が出ていました。

・皮下パルス(皮下結合組織を対象とする)
・筋パルス(筋組織を対象とする)
神経パルス(末梢神経組織を対象とする)
・反応点パルス(対象を厳格には定めず経穴部、圧痛点などを対象とする)

問題となっている長胸神経は前鋸筋を走行している神経であり、筋肉に鍼を刺入する以上、絶対に神経に当たらないということは言えません。また、当たるとすれば、絶対に傷つけないということも言えないと思います。
「実態はどうなんだろう?」と思い、鍼治療による神経損傷(長胸神経以外を含む)の情報をつかむため、試しに、自由に投稿できる質問サイトを検索してみることにしました。具体的には
Yahoo知恵袋」で【】を検索ワードにして、過去3年間(2014年11月11日-2017年11月11日)について調べてみました。

「質問内容のタイプ」は「方法・やり方」と「理由・原因」で、それぞれ検索したところ、合計で1,041件が抽出されました(ただし、「方法・やり方」と「理由・原因」両方で抽出されたものがあるため、実際の数は1,041より少ない数です)。

そして、この総数に対し、ある条件で整理したところ、5件が浮かび上がりました。重複は1つあり、また注射による採血原因の神経損傷を除外した残りの数が5件ということです。
なお、「ある条件」とは、刺鍼における激痛もしくは電撃痛」、および施術後のしびれ」が含まれていることです。

 分かりずらい表なので文章にて補足させて頂きます。

5件のうち、治療目的は「不明」の1件を除き、全て腰痛を含んでいました。また、刺鍼時の痛み3件で、目立った刺鍼ポイントは膝の裏腰部でした。一方、施術後の問題4件で主に腰下肢になります。また、5件のうち電気バリ(鍼通電療法と思われる2件でした。
全体的な印象としては、腰神経叢から出て、大腿後面、膝裏を通り足に達する坐骨神経(膝よりやや高い位置で外側へ向かう総腓骨神経と内側に向かう脛骨神経に分岐)が、特に注意を要する末梢神経ということがわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは実際の解剖写真です。これを見ると坐骨神経は1本ではなく、2本になっていることが分かります。膝よりやや高い位置で、1本は外側へ向かう総腓骨神経に、もう1本は内側に向かう脛骨神経に分岐することになります。


次に病院で医師が行っている「筋肉注射」について調べてみました。
以下に書かれた手順は「臀部上方外側中臀筋部:片側臀部上外1/4の部位」であり、『看護技術wiki』さまから引用させて頂いたものです。

 

臀部上方外側中臀筋部:片側臀部上外1/4の部位の場合 
①患者さんに説明を行う
②うつ伏せになってもらいズボン・下着を下げる
③穿刺部位を消毒をする
④利き手で注射器を鉛筆を持つように持ち反対の手で穿刺部位が張るように引っ張る
※穿刺部位に到達後張っている手を離してもよい
⑤90度の角度で穿刺する
血管や神経に入っていないことを確認する
 ※患者さんの訴え(足のしびれ)+内筒を引いて血液の逆流がないか確認
  血管または神経損傷の疑いがあるときは一度抜きやりなおす
⑦薬液を注入する
⑧穿刺部位をもむ(薬剤によってもまないこともあり)
 ※自分でもむのは困難な部位であるため、看護師にてもむ
  理由 薬剤を早く吸収させる為・硬結を防ぐため・痛みを和らげるためにマッサージする

注射針と鍼灸の鍼は目的も特徴も全く異なりますので、その違いを明確にしなければなりません

下記の表は「注射針」と「鍼」を比較したものです。太く、硬く、切るための機能をもった注射針に比べ、鍼灸の鍼で神経を損傷させることは簡単なことではないと思います

前鋸筋について

 画像出展:「肉単」

淵腋(エンエキ)と輒筋(チョウキン)について

 

画像出展:「新版経絡経穴概論」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この2つの経穴(ツボ)をどんな時に使うのかは様々です。

現代鍼灸では上段の図(「肉単」)に説明されているように、前鋸筋の別名は「ボクサー筋」とのことなので、ボクシングあるいは野球、バレーボールの選手などでは、この前鋸筋の疲労をとって軟らかい筋肉にすることが求められると思います。

一方、東洋医学に基づく鍼灸治療の本をみると、胸脇苦満(肋骨の下部が膨満し、圧迫感があって苦しい状態)や肋間神経痛、呼吸器疾患(肋膜炎、肺炎、気管支炎)などが主治にあがっていました。

まとめ

鍼治療における神経損傷のリスクを回避するために行うことは次の3つだと思います

1.刺鍼ポイントの近辺に太い神経が走行している場合、その走行を把握する。

2.乱暴な手技は絶対に行わない。

3.万一、電撃痛あるいは激痛が起きた場合、神経損傷のリスクを考え刺入を止め、一度抜く。

小児鍼

最近、小児鍼についてのお話を頂くことがあるため、代々木の日本伝統医学研修センターで学んだことに加え、専門学校時代の教科書や小児鍼について書かれた本も、一度読んでみようという気持ちになりました。

 

これは、懐かしい教科書です。

小児鍼は鍼灸の世界では「特殊鍼法」という分類に入っています。以下、教科書からの引用です。
『小児鍼とは、普通の毫鍼を刺入する刺鍼法と異なって、軽度の皮膚刺激を主とした鍼法である。対象は、生後20日から5、6歳ぐらいまでの乳幼児である。小児鍼は、術式から接触鍼法、摩擦鍼法、刺入鍼法に大別されている。刺激量は、施術部位が発赤や発汗する程度を基準として行う。』


接触鍼法
『一般に毫鍼が用いられるが、集毛鍼、振子鍼、バネ式小児鍼等も使用される。毫鍼によるものは、下の図のように鍼体を母指と示指でつまみ、鍼尖を少し出し、手首で加減しながら直角に皮膚にわずかに接触されるように行う。刺激の度合いは、鍼尖の「出し方」の長短、「当て方」の強弱等で調整する。この方法の大切なことは、手首を振るようにして、鍼尖が皮膚に触れたら、弾くようにリズミカルに移動させることである。鍼尖を皮膚に接したまま移動させると、皮膚に損傷を与えやすくなるので注意する。』

 

当院の鍼は1番(0.16mm)が大部分ですが、腰殿部では3番(0.20mm)や5番(0.25mm)も必要に応じて使います。

 

画像出展:「はりきゅう実技基礎編」(医道の日本社)

摩擦鍼法
『下図のような形の鍼を用いて、皮膚を軽い力で触れるように摩擦する方法である。施術時に、皮膚を軽く引っ張って皮膚を緊張させて行う方法もとられる。』


刺入鍼法
『きわめて細い毫鍼を浅く速刺速抜する方法で、刺入深度は1~3分(3~9mm)程度である。』

代々木での小児への治療は、特別な小児鍼は使わず、年齢に関係なく使用する鍉鍼(ていしん)という刺さない鍼を用い、「摩擦鍼法」を主に時にツボを軽く圧迫するような手技等を組み合わせて使っていました。

アトピーなども鍉鍼を使うと赤みが軽減されます。患者さまにも自宅で鍉鍼することをお勧めしていました。
素材はチタン。太さは筋の大きさで使い分けます。また、両端の大小は大は筋を押し、小はツボを押す時に使います。       

滑りが悪い場合は、日本手拭を置いてその上から行います。 

大師流小児鍼

小児鍼で全国展開している団体に「大師流小児鍼」があります。創案者は谷岡捨蔵という大阪の先生で、129年の歴史をもつ代表的な小児鍼です。
図書館の蔵書検索で、「わかりやすい小児鍼の実際」という本があったので、さっそく借りて読んでみました。その中で、特に重要であると思ったことをご紹介させて頂きます。

 

著者:谷岡賢徳氏

出版会社:源草社

『鍼治療の作用は、生体の持っている自然治癒力を助長することにあるわけであるから、小児鍼においてはほとんどの疾病にその効果が認められる。特に小児は生命力が旺盛であるから、ほんの微細な鍼刺激で驚くほどの効果が得られる。』
小児鍼は「気持ちよい」が第1条件である。気持ちがよければ、子供の方からすすんで来院してくれる。気持ちよい鍼をするには、子供の皮膚を読めなければならない。「柔らかい皮膚には弱刺激、硬い皮膚には強刺激」が原則である。硬い皮膚の子供は、年齢相応の刺激でも、くすぐったく感じたり、ものたりなかったりする。逆に柔らかい皮膚の子供は、年齢相応の刺激でも痛く感じてしまうものである。同じ年齢の子供でも、柔らかい皮膚には弱い鍼をし、硬い皮膚には強い鍼をする。』
『大人に気持ちよくても、子供にも気持ちがいいとはかぎらず、たいていの場合は子供は大人より十倍以上弱い刺激が適するものである。
治療効果の判定
・治療中に眠くなる。
・治療後にもっと治療してほしいという。
・治療後の帰宅途中に寝てしまう。
・治療後にお腹が空く。
・翌日の表情が明るい。

当院の小児鍼
小児鍼の対象
・基本は小学校就学前までです。(「おすわり」が可能となる生後8ヶ月位からを想定しています)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「ビジュアルノート」(医療情報科学研究所)

治療概要
・鍼は鍉鍼を用います。手技は「摩擦鍼法」が中心です。
・ツボはまだ曖昧なため、経絡の流れを整えることが治療の目的になります。実際には動いてしま

 うので難しい面はありますが、狙いは明確にします。
・経絡は腎経(足少陰)、脾経(足太陰)、肺経(手太陰)になります。腎経、脾経は足部から膝

 へ、肺経は肘から手首の部位に鍉鍼を行います。

お腹背中も重要な部位です。お腹は鍉鍼の重さを利用して、「の」の字を描くように、背中は

 上下両方向に鍉鍼を使います。

・特にストレスが強い場合は、頭部も加えます。手技は頭頂部と側頭部に対し、前(顔)から後頭に

 向かって行います。

※鍉鍼について詳しく説明された資料とサイトをご紹介します。

左をクリックすると「てい鍼の使い方マニュアル」が表示されますが、

これは 『手づくりてい鍼どっとこむ』というサイトを立ち上げられている、

小越建二先生の資料です。

YNSA(山元式新頭鍼療法)

患者さまのお家族が、月刊誌「壮快 2012.4(マキノ出版)」の記事の切り抜きを持ってこられ、「この、YNSAって知ってますか?」と聞かれました。
加藤直哉先生が書かれた「慢性疼痛・脳神経疾患からの回復 YNSA山元式新頭鍼療法入門」は持っており、ざっとですが一読したことがあったため、「本は持っているのですが、よく理解できていません。もし、ご興味あれば1ヵ月程お時間を頂ければ、熟読し治療に使うことを考えてみたいと思いますが。。」とお伝えしました。

 

著者の加藤直哉先生はYNSA学会の副会長です。

ところで、「壮快 2012.4」の記事に書かれていたことは以下の通りです。
特長
・古来のツボとは関係なく、山元氏が30年以上かけて発見し検証を重ねてきた治療点を使って全身

 の機能を調整する。
・高い確率で即効性が期待できる。
・効果は1日~1週間で減退するが治療を繰り返すことで、従来以上の回復が期待できる。
・十二脳神経、十二内臓点、脳点、三感覚点などがある。
何故、YNSAか
・中国式の頭針療法では納得できる効果が得られなかった。
・突破口は触診中、ツボに関係ない部位を触ったときに「左腕に何かを感じる」といい、わずかに

 マヒの左手が動いたのがきっかけ。その後、丁寧な触診と患者の反応によって見出していった。

一方、ネット検索で興味深いサイトを見つけました。

 

 

 

 

YNSAを解説したPDF資料がダウンロードできるのですが、そのダウンロード数は210ヵ国、計17,414で、その国別内訳のTop10は以下のようになっています。ご覧の通り米国が圧倒的に多く、約27.5%を占めています。
 1.アメリカ合衆国 4803
 2.インド 1036
 3.オーストラリア 529
 4.スペイン 429
 5.カナダ 413
 6.イスラエル 406
 7.ブラジル 393
 8.イタリア 367
 9.インドネシア 366
 10.イギリス 323
 ちなみに、中国は11位の287、日本は14位の212です

YNSA概要

YNSAは初級と中・上級の2段階があり、後者は首診をベースに診断と確認を行ないながら治療を進めるというもので、初級をマスターすることが中・上級に進む前提となっています。

下記の図は、その概要をまとめたものです。そして、その下の3つの図は【初級】で必須となる、「基本点」、「感覚点」、「脳点」になります。

 

「F」は耳の後ろにあるため見えません。


今回、頭鍼に対する理解不足を補うため、近所の図書館から以下の本を借りて、興味ある部分だけを拾い読みしました。個人的には、頭鍼・頭皮鍼が1970年に出てきた新しいもので、まだ50年も経っていないことを知り、意外に思いました。

 

著者は淺野周氏、出版会社は三和書籍です。

内容は高度なため、鍼灸師でないと難しいと思います。

『一般的に頭鍼は、脳卒中や脳障害者を治療する鍼法と思われている。日本では田中角栄が、最初に頭鍼治療を受けた有名人だからだ。しかし方氏は、最初から頭鍼を脳卒中治療には使ってはいなかった。頭鍼に限らず、中国には眼鍼、耳鍼、鼻鍼、口鍼など、さまざまな流派があり、韓国の高麗手指鍼も手を人体の縮図と考えるため、現在では全息療法と一まとめにされている。』


頭鍼は中国で1970年から徐々に使われ始め、その後、国家臨床医師が常用する治療方法になりました。上記に登場する方氏とは方雲鵬氏になります。そして方氏と並んで頭鍼の権威であるのが、焦順発氏になります。また、焦氏の頭鍼は西洋医学の脳機能局在に基づいた頭鍼のため、伝統的穴位とは関係がありません。そこで1984年の世界保健機構西太平洋地区-鍼灸穴名標準化会議にて、頭鍼穴名国際標準化方案が検討されることになりましたが、これは焦順発氏の頭鍼療法を伝統的中医理論に適合させるというものでした。こうして1989年11月、国際標準鍼灸穴名科学組会議で正式に承認され、国際標準頭穴が世界の鍼灸界に推薦されるに至りました。
 この3つの頭鍼以外にも、林学倹(上海)、湯頌延(上海)、朱明清(北京)などの頭鍼がありますが、いずれも焦氏と方氏の系統を引き継ぐものとされています。

今回は、3つのうち焦氏と国際標準の2つについて、その概要をご紹介します。

焦氏の頭鍼です。

国際標準の頭鍼です。

下記の図は、経絡治療の経穴(ツボ)です。このように頭部にも多くの経穴があるのが分かります。また、中国の古い文献には、「十二経脈、三百六十五絡、その血気はすべて顔に上がり、空竅へ走る(霊枢・邪気臓腑病形篇)」や「頭は諸陽の会であり、百脈の竅である(鍼灸大成)」など、人体の経気は経脈などによって頭面部に集中していることが指摘されており、頭鍼という治療法が生まれたことは不自然なことではないと思います。

注)「空竅」は頭の中という意味です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首から顎にかけての、天突、廉泉、承漿は「任脈」に含まれるものです。これに「督脈」、「膀胱経」、「小腸経」、「三焦経」、「胆経」、「大腸経」、「胃経」の計8つが頭にツボを持っています。

前庭系と筋緊張

このテーマを取り上げた理由は2つあります。

1つは前庭系には頚部と背部などの抗重力筋(姿勢維持に関与している筋群)を緊張させるメカニズムがあることです。これは筋肉の硬結に対して施術を行なう鍼灸治療にとって非常に重要です。
そして、もう1つは前庭系が触覚系や体性系とともに小児の脳性麻痺に大きく関わっているためです。後者については、週2日勤務で現場に入っている「訪問鍼灸・マッサージ」のプラナ治療院が小児障害児マッサージのサービスを提供することになり、そのための講習を受けているという背景があります。

左をクリックすると、「日本小児障がいマッサージ普及協会」に移動します。

なお、ブログは前庭系を理解するために自己学習した内容のご紹介という感じで、ほとんどは「新・感覚統合法の理論と実践」と「人体の正常構造と機能」に基づいています。


前庭系の最大の仕事は、頭の位置や動きに合わせて抗重力筋の緊張を調節し、適切な姿勢とバランスを維持することですが、ほとんど無意識で行われるため、回転動作や激しい加速を受けるような状況以外は意識に上がるようなことはありません。以下、添付された図の番号に沿ってご説明します。

     「新・感覚統合法の理論と実践」の図を一部加筆させて頂きました。

①前庭神経核
前庭神経核は外側核、内側核、上核、下核に区分けされていますが、前庭器の種類と明確に対応しているわけではありません。内側核と上核は主に半規管からの入力が強く眼球運動核へ出力を送ります。また、内側核は更に頚髄に出力しています。外側核と下核は半規管と耳石器からの入力を受け、主に脊髄へ出力を送ります。


②抗重力筋の緊張の調節
前庭系の第一の働きは、頭の位置や動きに合わせて抗重力筋の緊張を調節し、適切な姿勢とバランスを維持する土台を作ることです。この働きには、前庭神経核から脊髄に下行する前庭脊髄路が関与しています。これには外側と内側の二つの経路があり、外側前庭脊髄路は主に伸筋(抗重力筋)を収縮させ、屈筋を弛緩させるように作用します。一方、内側前庭脊髄路は頚の筋肉のコントロールに関係しています。

筋緊張の調節は自動的に行われ、前庭脊髄反射と呼ばれています。また、前庭系は全身の筋に一定の緊張を与えるように作用しています。


③姿勢・平衡・運動の自動調節
我々は日常生活において、特に意識することなく体のバランスをとり、思ったように運動を行っています。これは大脳皮質の運動野から出発し、意図的な運動を指令する「錐体路系」と、錐体路系以外の領域で、それぞれが関係性をもち、意図的運動をスムーズに行うために細かな調節を行う「錐体外路系」があります。前庭系も小脳を介して関係性をもっており、姿勢と平衡、運動の自動的な調節に寄与しています。なお、錐体外路系は解剖学的に特定の部位を指すものではなく、近年では「錐体外路系」という呼び方に疑問が投げかけられています。


④眼球の動きの自動調節
前庭系の第三の働きは、頭の傾きや動きに合わせて、目の動きを自動的にコントロールすることです。歩きながらビデオ撮影すると画面がブレてしまいますが、我々が歩いたり、頭を回したりしても景色がブレたり流れたりすることはありません。これは、前庭受容器と首の固有受容器からの情報が視運動系に送られ、頭の動きに応じて目の動きを補正しているからです。前庭系は、いわばビデオカメラの手ブレ防止装置のような役割を果たしているといえます。


⑤覚醒への影響
大脳皮質の覚醒をコントロールする脳幹網様体には、あらゆる感覚情報が流れ込んでいます。流入する感覚刺激の質と量によって網様体の活動は変化し、その変化は大脳皮質に伝えられて意識水準が調整されます。前庭感覚の情報は興奮性にも、抑制性にも強く働き覚醒に影響を与えます。前者の興奮性は遊園地の回転性の乗り物であり、後者の抑制性は暖かく気持ちの良い日に電車の座席で揺られているような場合です。


⑥自律神経系への影響
前庭神経核から網様体を経由して自律神経核群にも情報を送っています。前庭系と自律神経系の密接な関連は、乗り物酔いからも明らかです。前庭受容器からの刺激は心拍数の増加、冷汗、吐き気、嘔吐などの自律神経症状をもたらします。これらは前庭自律神経反射と呼ばれています。

 

鍼灸治療における局所治療のポイント

抗重力筋を収縮させ、頚の筋肉をコントロールし、全身の筋に一定の緊張を与えるということは、前庭系に起こった異常は不必要な筋緊張の原因になると考えられます。また、前庭神経核は自律神経系にも影響を及ぼしており、非常に重要な治療ポイントです。ツボは翳風(えいふう)を第一選択と考えます。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ中央、耳たぶの下にあるのが翳風(えいふう)になります。

画像出展:「経絡マップ」医歯薬出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらも中央付近のツボが翳風です。近くに副交感性の迷走神経、舌咽神経が通っています。

画像出展:「経絡マップ」医歯薬出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像出展:「経絡マップ」医歯薬出版

 

上記の表は左から「神経の名称」ー「支配の領域」-「相関の経穴」になっており、中段下方に「内耳神経」があります。(知)とは知覚性をさしています。内耳神経は前庭神経と蝸牛神経から構成されています。そしてピンク色にマーカーされているのが、前庭神経と「相関の経穴」欄にある5つの翳風ですが、この5つの中で顔面神経、舌咽神経、迷走神経は、(混)混合神経であり、知覚性・運動性・自律神経の副交感性をもった神経です。このように翳風というツボは、自律神経の副交感神経に対しても広く効果を及ぼすことが可能であり、自律神経を意識した施術を行う場合に特に重要なツボとなります。

人工知能と鍼灸

野村総合研究所が2015年12月に発表された、「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業」には柔道整復師とともにはり師・きゅう師が含まれています。

https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx

ロボットであれ、機器であれハードウェアが必要となれば、大規模な投資が必要となりますので、開発コストと回収できる規模のマーケットが必要になります。これらはいずれもすごい難問です。

それでも挑戦するとすれば、まずは鍼灸の効果が科学的に広く認められる必要があると思います。

下記の2つのグラフはいずれも学術論文の数を示すもので、急激に多くなっているのは中国発の論文が増えているためです。
ヒトの基礎研究においては「脳の機能画像解析に関する研究」(右図)が急増しています。また、下段の図は鍼刺激による脳の反応部位を示しています。棒グラフは淡いピンクが活性化、グレーが不活性化で、これを見ると体性感覚や運動領域では活性化が多く、情動に関する辺縁系や大脳基底核では不活性化の方が優位になっています。

このように、画像検査の著しい進歩により、今まで不明確だった事象が科学的に説明できるようになる可能性があります。


上記の3つのグラフは「鍼灸臨床最新科学」からの引用です。

しかしながら、臨床現場ではその成果は鍼灸師の実力(現状と問題を把握する力、最適な治療方針を立てる力、プランに従って最適な手技を選択し実践する力など)に左右されますので、このような現実を加えると、21世紀中には鍼灸治療を行うペッパー君のようなロボットはもちろん、治療まで行う装置が現れることはないと思います。

 

ただし、少し見方を変えて、鍼灸治療を問診-触診(脈診を含む)-検討(治療方針など)-施術の4つの段階に分けて考えるならば「問診」と「検討」において、鍼灸師を支援するAIアプリケーションが出てくることは考えられます。

理由はハードウエアをPCやスマホと考え、 GooglのTensorFlowのようなオープンソースで開発すれば、人件費以外は費用を抑えられるためです。こう考えると、ソフトウェア開発に精通した優秀な鍼灸師であれば開発は難しくないように思いますが、大元の臨床データの質と量が適切かつ十分でないと、そのアプリケーションがデモバージョンの域を超え、商用になることは容易ではないと思います。ただし、実使用に関しては利用する鍼灸師が便利かつ有効と判断し、その鍼灸師が患者さまから十分に信頼されていれば、利用するうえで大きな問題はないように思います。

余談になりますが、AI(人工知能)とは厳密には「人間の知能そのものを持つ機械(ハードウェア)」であり、 GooglのTensorFlowやIBMのWatsonはAIではなく、 ディープラーニング(機械学習)というもので、人と同じように成長するコンピュータソフトだそうです。

鍼通電療法を検討する(後編)

鎮痛効果のメカニズム
添付した図は「鍼通電療法テクニック 運動器系疾患へのアプローチ」のp29図4-1(鍼の鎮痛メカニズム)に一部加筆したものです。①~⑦まで番号をつけていますので、この番号に沿ってご説明をします。なお、この鎮痛メカニズムは通常の通電を用いない鍼治療についても同様です。

①ポリモーダル受容器
受容器とは外部からの刺激を受け、その感覚を脳に伝える受付係のような役割をもったものです。
マッサージでは皮膚を撫でたり、押したりします。怪我した時などは氷で冷やします。また、足が冷たくて寝つかれない時は湯たんぽなどで温めます。
このように外部からの刺激には色々な種類があり、それに反応する受容器の多くは皮膚や筋肉内にあります。そして、刺激によってタイプの異なる受容器が存在しています。
図に出ている「ポリモーダル受容器」の特徴は皮膚、筋はもちろんですが、それ以外に腱、靭帯、骨膜などにも存在しています。また、刺すような刺激(機械刺激といいます)の他、熱の刺激にも反応する受容器で、機能的にも非常に汎用性の高い受容器です。つまり、鍼の機械刺激にも灸の熱刺激にも反応するため、鍼灸にとって最も重要であると言われています。


②感覚神経から脊髄へ
刺激を受けた受容器は刺激を電気信号に変換します。そして、脳へと繋がる道である感覚神経に渡されます。この後、電気信号は脊柱(背骨)の中で手厚く守られている脊髄に渡されるのですが、そこまでの道である感覚神経は末梢神経の仲間です。なお、脳から筋肉などに向う運動神経や血圧調整など人が意識することなく機能している自律神経も末梢神経に含まれます。


③脊髄から脳へ
電気信号は脊髄の後根を入口とし脊髄内部に入っていきます。脊髄は脳と同じ仲間の中枢神経ですが、脳の作りとは異なり、内部に灰白質と呼ばれる神経細胞群があり、周りを白質と呼ばれる神経線維が存在しています。そして、周りの神経線維群は電気信号を伝えるための道になっています。「鍼刺激」が変換された電気信号は、前側索エリアを通る脊髄網様体路の中を通って脳に向います。


④脳で起きていること
脳側の入口は脳幹です。脳幹は延髄・橋・中脳を含んでいますが、上方には大脳があり背側には小脳があります。脳幹には生命の維持に重要な呼吸、循環、排尿などの自律神経を調節する自律神経中枢が存在しています。また体性神経(感覚神経+運動神経)および内臓からの求心性情報がインプットされ、さらに大脳からの下行性情報もインプットされます。そして、脳幹の自律神経中枢はこれらの情報を統合し、様々な器官の機能に影響を及ぼします。
脳幹は間脳と共にホメオスタシス(生体の恒常性維持)調節の中核といえます。体表に現われた不調や問題個所を鍼灸で刺激することは、脳幹・間脳のホメオスタシス調節に働きかけます。そして身体を偏りのない健康状態に整えます。このことは鍼灸治療の狙いである「自然治癒力を本来のあるべき姿に戻す」ということに通じるものではないかと思います。


⑤下行性痛覚抑制系
中脳中心灰白質は第3脳室と第4脳室を結ぶ中脳水道(脳脊髄液の通路)を取り囲む神経細胞の集まりで、延髄の大縫線核や傍巨大細胞網様核とともに下行性疼痛抑制系の起始部です。また、体性神経や自律神経系、視床下部などの上位中枢と機能的に密接な連絡をしています。


⑥視床下部
視床と視床下部を合わせて間脳といいます。間脳は中脳の前方に続く部分で左右の大脳半球に挟まれた形になっています。機能的には体温・血糖・体内水分・下垂体ホルモン分泌調整の他、本能および情動行動の中枢が存在します。視床下部-下垂体系はβ-エンドルフィンによる鎮痛作用に関与しますが、内分泌系の中枢でもあるため、鎮痛だけでなく副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の分泌促進にも関係していると考えられています。


⑦脊髄後角(遠心路)
鍼刺激による情報は、脳内での情報処理を経て様々な器官に向けて発信されます。神経の終末には化学伝達物質と呼ばれる化学物質が蓄えられており、これらの物質が放出されることで情報が伝達されます。例えば、⑤の下行性痛覚抑制系でセロトニン神経とノルアドレナリン神経は鎮痛系の遠心路であり、脊髄後角に投射し痛覚の伝達を抑制します。

 

麻痺した筋肉への治療効果
今回の1番の検討目的は、片麻痺患者さまの麻痺足の浮腫みを改善する手段として低周波鍼通電療法はどうか。というものでした。鍼通電療法では電気刺激を筋肉へ誘導するものとして鍼が存在しており、刺激量を電流、周波数、時間の3点から客観的、持続的、安定的に刺激を供給できることは大きな利点です。
また、筑波大学の理療科教員養成施設が展開している「筑波大学式低周波鍼通電療法」に関する紹介文章には、筋肉のこわばり(脳卒中後遺症、脳性麻痺)とあり、鍼通電療法の有効性を公に示すものとなっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

筑波大学理療科教員養成施設(筑波大学大塚キャンパスは東京都文京区大塚にあります)

注)2017年11月14日:ホームページのアドレスが変更になっていることを知り、新しいものに変更しましたが、ご紹介したかった【「筑波大学式低周波鍼通電療法」に関する文書】を見つけることができませんでした。一方、J-Stageにて以下の論文がありましたのでアップさせて頂きます。 

ダウンロード
鍼麻酔から低周波鍼通電療法まで.pdf
PDFファイル 2.2 MB

結語
繰り返しになりますが、低周波鍼通電療法の利点は「刺激量を電流、周波数、時間の3点から客観的、持続的、安定的に供給できること」と考えます。
これは従来の手法である置鍼、単刺、雀啄などと異なるものではなく、特に短い時間で筋肉を緩める手段として有効な手法だと考えますので、注意点、特にペースメーカーの有無の確認を忘れず、状態、状況に応じて利用することを考えたいと思います。

鍼通電療法を検討する(前編)

経緯
現在、私は自宅近くにある訪問鍼灸・マッサージのプラナ治療院で週2回、仕事をしています。
患者は高齢者がほとんどですが、中には脳卒中後遺症による麻痺の患者さまやパーキンソン病などの中枢神経系の障害をもった患者さまもいます。
30分という治療時間を考慮し、標治に重きをおいています。また、硬くなった筋肉を緩めるには、置鍼時間を長くとったり、雀啄などの鍼の手技を加えたりするのが一般的なのですが、麻痺により動かないという状態の筋肉でも効果をだすため、さらに良い方法を探していました。
そこで、候補に上がったのが「低周波鍼通電療法」です。専門学校時代にこの手法の授業を受講しており、復習の目的で学校で使っていたものと同じ装置も購入していました。また、プラナ治療院には携帯できる小型の通電装置を使っている仲間もおり、その評判も聞いていました。
しかしながら、専門学校卒業後は経絡治療という東洋医学に基づく手技だけに取り組んでおり、鍼通電療法からは完全に離れていたため、まずは学校で使っていた「鍼通電療法テクニック 運動器系疾患へのアプローチ」を復習することから始めることとしました。


電気刺激法の起源
電気を使った痛みの治療の起源は古代エジプト(紀元前3000年)といわれています。これは墓石に電気ナマズの彫刻が残されたことが由来となっています。また、古代ギリシャの哲学者のアリストテレスも電気エイが痛みを和らげることを伝えています。
興味深いのは、電気エイの電圧は40~50Vで現在の低周波装置に近いということです。なお、電気魚の活用はヨーロッパでは18世紀まで続きます。
1744年には約100年前に発明された静電気装置をベースに人工的な電気が医学に応用されました。そして19世紀になると、アメリカで歯痛に電気刺激が有効であることが知られ、多数の臨床試験が行なわれました。こうして1858年にはアメリカの外科医によって最初の電気刺激装置の特許が取得され、その技術はヨーロッパへ伝えられました。


鍼通電療法の起源
初めて鍼に電気を通して治療を行ったのは、1825年にフランスの医師が日本や中国から貿易によってもたらされた鍼に通電を行ったのが最初であるといわれています。


鍼通電療法の始まり
1965年に東京教育大学附属理療科教員養成施設(1978年から筑波大学理療科教員養成施設)の芹澤氏らがパルスジェネレーターを開発し、運動機能に及ぼす影響について報告しています。
また、1966年にはペインクリニックにおいて安全な鎮痛方法として直流による鍼通電療法が既に紹介されています。
一方、鍼麻酔ではある程度強い刺激を20分間程加える必要があり、そのための手段として電気を使って鍼刺激を継続的、安定的に行う装置が開発されました。
1972年にはアメリカのニクソン大統領が訪中した際に、中国の鍼麻酔が「ニューヨークタイムズ」に報じられ、大統領の専属医師により鍼麻酔の驚くべきエピソードが欧米に衝撃を与えました。
報道の直後から、「サイエンス」などの世界の科学雑誌には、多数の鍼麻酔の効果に関する報告が掲載され、効果の是非に関する議論が巻き起こりました。そして、その議論の決着に大きな指針を与えたのが、1973年のオピオイド受容体の発見であったといえます。
オピオイド受容体は中枢神経に存在し、麻薬様物質と特異的に結合するもので、研究者たちは鍼刺激で痛みが和らぐ仕組みも、この受容体を通して生じるのではないかと考え研究を進めていましたが、ついにその仮説は科学的に証明されるに至りました。
この科学的発見は、その後、鍼治療を世界的に普及させることに大いに貢献しました。
1980年代になると鍼通電刺激は外科手術で使われる鍼麻酔としてよりも、むしろ運動器系や循環系、神経系、婦人科系、泌尿器系、精神領域などの様々な症状に効果があることが知られ、その結果広い分野で鍼通電刺激が利用されるようになっていきました。
筑波大学理療科教員養成施設では1980年代に入って多くの患者に対して鍼通電療法を行い、多数の臨床例を発表しています(「医道の日本」49巻12号~54巻6号に掲載)。

 

メリットとデメリット
従来の鍼治療は、手技操作によって行われるため、客観的に刺激量を測ることは困難でしたが、鍼通電療法は時間、周波数、電流量を変えることで定量的に刺激量を変化させることができます。
刺鍼ポイントや深さ、刺鍼方向については、鍼灸師のスキルに依存しますが、鍼による刺激については客観的に把握できるため、治療法の平準化やエビデンスの作成という点においてメリットがあります。
また、雀啄のように鍼に刺激を加えながら、置鍼のように長い時間持続させることができるため、筋肉への刺激という意味では、安定的、効率的に行えるという点もメリットです。
鍼通電療法では鍼は筋肉まで電気を誘導する役割をはたしています。「まるで小人がハンマーでコツコツ叩いているようだ」と表現された人がいるようですが、従来の鍼治療にはない心地よい感覚を得ることができるのも特徴です。
なお、筋肉の刺激による効果は、一般の鍼治療も同様ですが、筋肉の血行を改善し硬くなった筋肉を軟らかくします。また、筋肉を刺激することで筋肉を支配している神経に含まれている求心性神経を興奮させ、中枢神経に信号を送りますが、この信号は鎮痛系を活発化させたり、反射によってホルモンの分泌や自律神経を調節したりします。

一方、デメリットとしては装置が必要であるということです。また、下記の「安全確保のために理解しておく事」に書かれた内容ですが、ペースメーカーを使っている患者さまには使えないなどの、鍼通電療法ゆえの守るべき注意事項があるということです。

 

安全確保のために理解しておく事
鍼通電療法は電気を用いるため、電気による過誤の可能性を考慮して安全管理を行わなければなりません。
ペースメーカー
ペースメーカーを付けられている患者さまは、鍼通電療法は絶対禁忌であり、仮に依頼されたとしても絶対に行ってはなりません。それは、ペースメーカーを使用している場合、鍼通電療法を行うとペースメーカーの動作に影響が現われることが報告されているためです。
漏れ電流
漏れ電流とは、電子機器から通常の電源ラインを通らずに外部に漏れ出す電流です。この漏れた電流が人体を通過するとショックを起こす原因になります。
漏れ電流が発生する可能性は、他の電子機器と組み合わせて使う場合が考えられるので、心電図などの電子機器がつながっている状態では鍼通電療法は避けなければなりません。
しかしながら、どうしても電子機器と一緒に使用しなければならない場合は、乾電池式の装置の方が安全性が高まります。これは装置から生体への電流の流れを独立させることができるため、電流の漏れを少なくすることができるためです。